説明

堆積膜形成方法

【課題】 反応容器の中の不純物量の変動に影響されずに、休止後の再稼動時であっても、生産性を低下させない堆積膜形成方法を提供することにある。更に、特性バラツキを低減した堆積膜形成方法を提供することにある。
【解決手段】 減圧可能な真空処理容器を用いて堆積膜を形成する堆積膜形成方法において、前記堆積膜の形成を休止し(S521)、前記真空処理容器の中の不純物の量がほぼ飽和するまで前記真空処理容器を大気開放する(S522)。その後、ほぼ飽和した不純物の量に対応して予め定めた堆積膜形成条件(通常とは異なる堆積膜形成条件)を、再稼働時の堆積膜形成条件とする(S532)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧可能な反応容器を用いて実施される堆積膜形成方法に関し、特に、反応容器の中を大気開放した後、堆積膜を形成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、堆積膜形成方法の1種として、原料ガスをRFグロー放電などの方法によって分解し、基体の上に蒸着させて堆積膜を形成する方法が知られている。この堆積膜形成方法を、以下「真空蒸着方法」ともいう。真空蒸着方法は、例えば、アルミニウム製の基体(導電性基体)の上にアモルファスシリコン(以下、「a−Si」とも記す。)堆積膜を形成してなる電子写真感光体の製造に利用されている。
【0003】
また、真空蒸着方法では、特性向上や制御の観点から放電空間内の真空度をより高真空とすることでコンタミネーションが少ない堆積膜を得る手法が一般的に行われている。コンタミネーションとは、意図しない有機物や無機物の不純物(以下「不純物」という)が堆積膜の中へ混入することである。
コンタミネーションをより少なくするには、反応容器の中において、原料ガス以外のコンタミネーションの原因となる不純物を低減する必要がある。そのため、反応容器の中の不純物管理が非常に重要となる。
【0004】
例えば、堆積膜形成装置の装置メンテナンスにより反応容器の中を大気開放した時には、反応容器を構成する部材に水分が吸着してしまい、反応容器の中の不純物量が多くなってしまう。そのため、装置メンテナンスをした後の再稼動時には、反応容器の中を長時間真空排気する以外に不純物を低減する対策が行われている。
例えば、反応容器の中の不純物を低減する目的で、特許文献1には、反応容器の中の水分除去を高速化するために還元性ガスと水分除去ガスを反応容器の中に導入する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、装置メンテナンスをした後、反応容器の中の不純物による影響が無くなるまで通常と異なる堆積膜形成条件で成膜を行うことで、その後に通常の安定した成膜が可能となる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−261518号公報
【特許文献2】特開2005−171271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した従来技術によれば、反応容器の中の不純物による影響を低減することが可能となり、装置メンテナンスをした後の再稼動時に1ロット目から良好な堆積膜特性を有する製品を得ることが可能となる。
しかしながら、従来技術では不純物の影響を低減するために不純物除去処理や余分な堆積膜の形成を行うような新たな工程が必要となってしまい、生産性が低下してしまう。
特に、コストダウンという観点からは、生産タクト短縮のため生産工程を少しでも減らしたいのが現状である。
【0008】
また生産性のみならず堆積膜形成方法で作製した製品の性能に対する市場の要求レベルは日々高まっている。
特に、市場への製品供給に対して、特性バラツキが抑制された高品質な製品を安定して供給可能な生産手法の開発が求められるようになっている。
具体的には、真空を保った状態で繰り返し処理生産を行う製品に対して、装置メンテナンスをした後や装置が休止状態にあった後の再稼動時の製品は特性のバラツキが生じやすく、この特性バラツキをいかに低減していくかという課題が残されている。
【0009】
本発明の目的は、反応容器の中の不純物に影響されずに、装置メンテナンスや休止をした後の再稼動時であっても、生産性を低下させない堆積膜形成方法を提供することにある。更に、製品の特性バラツキが低減可能な堆積膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、減圧可能な真空処理容器を用いて堆積膜を形成する堆積膜形成方法において、前記真空処理容器の中を所定の時間大気開放した後、少なくとも最初の処理を通常と異なる堆積膜形成条件とすることを特徴とする堆積膜形成方法である。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、装置メンテナンスや休止をした後の再稼動時に生産性を低下させず、製品の特性バラツキが低減可能な堆積膜形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係わる電子写真感光体の層構成を模式的に示した図である。
【図2】本発明に係わる電子写真感光体の生産装置の概略断面図。
【図3】本発明に係わる電子写真感光体用堆積膜装置の概略断面図。
【図4】継続して生産する際の電子写真感光体の生産工程サイクルを示したフローチャートである。
【図5】生産を休止し再稼働する際の本発明に係わる電子写真感光体の生産工程サイクルを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、装置メンテナンスや休止後の再稼動時に生産性が低下せずに特性バラツキが低減した製品を得るためには、反応容器の中を大気開放させた後、反応容器の中の不純物レベルに対応する堆積膜形成条件で作製することが重要であることを見出した。
具体的には、反応容器の中を大気開放することで不純物量を一定レベルに飽和させ、一連の処理を施した後の反応容器の中の不純物量に対応する堆積膜形成条件とすることで、再稼動時の最初に処理した製品も目的とした特性の製品を得ることが可能となる。
また、不純物量の影響を無くすために新たな工程を導入する必要がなくなり、生産性の低下を抑制可能となることを見出し、本発明に至った。
【0014】
以下に、図面に基づいて本発明の効果について説明する。
従来から一般的に行われているアモルファスシリコン電子写真感光体の生産は、図2および図4に示すように減圧可能な搬送装置2500を介して真空状態にある反応容器2302の中に円筒状基体2508が導入され、堆積膜の形成が行われる。その後、搬送装置2500を介して反応容器2302から円筒状基体2508が取り出され、反応容器2302の中をクリーニングすることで1ロットの処理工程が終了する。そして、次のロットの円筒状基体2508が再び搬送装置2500を介して反応容器2302の中へ導入される。
【0015】
これら一連の工程は、反応容器2302の中を真空に保った状態で円筒状基体2508の出し入れおよび堆積膜形成が繰り返し行われる。これにより、堆積膜形成中の反応容器2302の中の不純物量の変動が低減され、堆積膜の中へ取り込まれるコンタミネーションも低減される。その結果、ロット毎の特性バラツキが低減され製品の品質向上が達成される。
しかし、真空を保った状態で繰り返し処理生産を行うサイクルが装置の休止等により止まった場合、様々な原因で反応容器の中の不純物量が多くなってしまい所望の特性が得られない場合がある。
例えば、反応容器の中にガスを流さずに排気手段により真空排気状態を5日間以上続けたような休止の場合、排気手段から油が逆拡散することで反応容器の中の不純物量が多くなってしまう場合がある。
【0016】
また、排気バルブを閉じることにより反応容器の中を真空封止状態や不活性ガスによる置換状態で休止させた場合、内部リークや外部リークの影響により反応容器の中の不純物量が多くなってしまう場合がある。
そのため、休止後の復帰時に、繰り返し処理生産の時と同じ堆積膜形成条件で、1ロット目の堆積膜の形成を実施した場合には、反応容器の中の不純物量増加の影響を受けて所望の堆積膜特性を有する製品が得られなくなってしまう。
【0017】
例えば、アモルファスシリコン堆積膜形成では、膜特性向上の観点から帯電極性に対応したドーパント原子を微量添加する手法が行われているが、堆積膜の中へのコンタミネーションが多い場合、ドーパントの効きが悪くなり特性のズレが発生してしまう。
しかし、堆積膜の中に取り込まれたコンタミネーションによる特性ズレは、ドーパント原子を増やすことで特性を制御可能である。これは、堆積膜の中へのコンタミネーションにより膜中に欠陥が増加しキヤリアの移動度が低下するのに対し、ドーパント原子を増やすことでキヤリアの移動度の低下を補償できるものと考えている。
【0018】
これにより、堆積膜の中へのコンタミネーションとドーパント原子の添加量との対応関係が非常に重要となる。そのため、コンタミネーションの原因となる反応容器の中の不純物量とドーパント原子の添加量との対応関係を実験的にあらかじめ明確にしていれば、反応容器の中の不純物量が変化しても不純物量に対応した堆積膜形成条件で所望の膜特性の製品を作製することが可能となる。
【0019】
そこで、本発明では、堆積膜の形成を休止し、真空処理容器の中の不純物の量がほぼ飽和するまで真空処理容器を大気開放した後、ほぼ飽和した不純物の量に対応して予め定めた堆積膜形成条件を、再稼働時の堆積膜形成条件とする。このようにすることで、特性ズレをなくすことが可能となる。
不純物の量を飽和させるとは、反応容器の中を一旦大気開放させ、反応容器の中の部材表面に吸着する水分量を飽和させることである。
【0020】
大気開放は、例えば真空状態の反応容器の中に大気圧になるまで不活性ガスを導入した後に、反応容器の蓋を開けて反応容器の内部を大気に曝した状態にすることである。
大気開放に要する時間は、反応容器の内部の部材や環境に大きく影響されるが、一般に真空処理容器で使用されるアルミニウムやステンレスが室温、低湿度環境でも水分吸着が飽和する時間が望ましく、具体的には3時間以上放置すれば十分である。
【0021】
水分吸着の促進という観点では、高湿度環境での放置や反応容器の中へのエアーフローが好ましい例として挙げられる。
また、装置メンテナンス等により反応容器の中の部材を溶剤により清掃を行うこともより好ましい。
本発明の通常と異なる堆積膜形成条件とは、少なくともドーパント原子供給用のガス流量を増やすことである。
具体的には、正帯電用のアモルファスシリコン電子写真感光体には、光導電層堆積膜形成に周期表第13族原子を微量添加させており、この周期表第13族原子の添加量を増やすことが、通常と異なる堆積膜形成条件として使用される。
【0022】
また、負帯電用のアモルファスシリコン電子写真感光体には、光導電層堆積膜形成に周期表第15族原子を微量添加させており、この周期表第15族原子の添加量を増やすことが、通常と異なる堆積膜形成条件として使用される。
本発明の通常と異なる堆積膜形成条件は、休止後の再稼動時1ロット目に実施される必要があるが、2ロット目でも不純物の影響が残る場合にはドーパント量を1ロット目よりも少なくした堆積膜形成条件で処理しても構わない。
次に、本発明の実施の一例であるアモルファスシリコン感光体の生産に関して説明する。
【0023】
(本発明に係わる電子写真感光体の生産装置)
図2は電子写真感光体を繰り返し処理により生産する装置の一例を示す模式的な構成図である。図2に示す生産装置の構成は以下の通りである。この装置は大別すると、投入装置2100、加熱装置2200、堆積膜形成装置2300、冷却及び排出装置2400、これらの装置間で移動可能な搬送装置2500から構成されている。
各装置の加熱容器2202、反応容器2302、冷却及び排出容器2402、搬送容器2502には容器の中を真空に排気する為の排気ポンプ2205、2305、2405、2505、排気バルブ2203、2303、2403、2503、2509が設置される。各容器には接続可能な開閉ゲート2101、2201、2301、2401、2501が設置されている。
【0024】
反応容器2302は、反応ガス流出バルブ2304、2306、高周波マッチングボックス及び高周波電源(図示せず)が接続されている。
こうした生産装置は、例えば以下のように使用される。
作業者が投入容器2102の中に円筒状基体2508を設置した後に、開閉ゲート2101と開閉ゲート2501とを接続し、チャッキング部材2507により投入容器2102の中の円筒状基体2508を搬送容器2502の中へ移送する。
【0025】
その後、搬送容器2502の中が所定の真空度になるまで排気し、一方、排気バルブ2203及び排気ポンプ2205により加熱容器2202の中も所定の真空度になるまで排気する。そして、開閉ゲート2201と開閉ゲート2501とを接続し、チャッキング部材2507により搬送容器2502の中の円筒状基体2508を予め真空保持した加熱容器2202の中へ移送する。円筒状基体2508は加熱容器2202の中で所定の温度に加熱される。
次に、開閉ゲート2201と開閉ゲート2501とを接続し、チャッキング部材2507により加熱容器2202の中の所定の温度に加熱された円筒状基体2508を搬送容器2502の中へ移送する。
次に、開閉ゲート2301と開閉ゲート2501とを接続し、排気バルブ2303及び排気ポンプ2305により予め真空保持された反応容器2302の中へ円筒状基体2508を移送する。
【0026】
次に、反応容器2302の中で所定の手段により円筒状基体2508の上に堆積膜を形成する。
その後、堆積膜が形成された円筒状基体2508は、排気バルブ2403及び排気ポンプ2405により予め真空保持された冷却及び排出容器2402の中に移送され、所定の温度になるまで冷却される。
その後、リークバルブ2404からリーク用ガスを大気圧になるまで流し排出する。
また、堆積膜の形成が終了し、円筒状基体2508を反応容器2302から搬送容器2502へ移動した後、反応容器2302の内部は、ClFガス等によりクリーニング処理される。
【0027】
加熱容器2202と搬送容器2502との間での円筒状基体2508の受け渡しは、まず、搬送装置2500が、加熱容器2202の上に移動し、開閉ゲート2501を、開閉ゲート2201に接続させる。
その後、排気ポンプ2505、排気バルブ2509にて開閉ゲート間を真空にする。尚、搬送容器2502の内部が所定の真空度で無い場合は、排気バルブ2503にて排気を行う。
【0028】
開閉ゲート間が所定の真空度に到達した段階で、双方の開閉ゲートを開き、円筒状基体2508の受け渡しを行う。受け渡し終了後、双方の開閉ゲートは閉じられ、開閉ゲート間リークバルブ2504からリーク用ガスを流し、ゲート間を大気圧にする。その後、搬送容器2502の開閉ゲート2501は切り離され、搬送装置2500は次工程へ移動する。
反応容器2302と搬送容器2502との間、冷却及び排出容器2402と搬送容器2502との間での円筒状基体2508の受け渡しも、同様に行う。
【0029】
(本発明に係わる電子写真感光体用堆積膜形成装置)
堆積膜の形成方法について図3に示す堆積膜形成装置の模式的な構成図を用いて説明する。この装置は大別すると、反応容器3100、原料ガスの供給装置3200、反応容器3100の中を排気する為の排気手段(図示せず)から構成されている。反応容器3100は開閉ゲート3110及び底板3126から絶縁部材3121によって絶縁された高周波電極3111で構成される。反応容器3100の中にはアースに接続された円筒状基体3112、円筒状基体の加熱用ヒーター3113、原料ガス導入管3114が設置され、更に高周波マッチングボックス3115を介して高周波電源3120が接続されている。
【0030】
まず、不図示の排気手段により真空に排気された反応容器3100の中に所定の温度に加熱された円筒状基体3112を搬送容器(図示せず)により開閉ゲート3110を介して設置する。
続いて加熱用ヒーター3113により円筒状基体3112の温度を200℃〜500℃の所望の温度に制御する。円筒状基体3112が所望の温度になったところで、所望の原料ガスをガス導入管3114を介して反応容器3100の中に導入する。次に、反応容器3100の内圧が安定したところで、高周波電源3120を所望の電力に設定して例えば、13.56MHzの高周波電力を高周波マッチングボックス3115を介して高周波電極3111に供給し高周波グロー放電を生起させる。この放電エネルギーによって反応容器3100の中に導入させた各原料ガスが分解され、円筒状基体3112の上に所望のシリコン原子を主成分とする電荷注入阻止層、光導電層、表面層を堆積させる。
【0031】
堆積膜の形成が終了した後、反応容器3100から円筒状基体3112を取り出し、クリーニング用の基体を設置し反応容器3100の中に残存する堆積膜やポリシランをクリーニングする。
クリーニングは、例えば三フッ化塩素(ClF)ガスと不活性ガスの混合からなるクリーニングガスをガス導入管3114を介して反応容器3100の中に導入する。次に、反応容器3100の内圧が安定したところで、高周波電源3120を所望の電力に設定して例えば、13.56MHzの高周波電力を高周波マッチングボックス3115を介して高周波電極3111に供給し高周波グロー放電を生起させる。この放電エネルギーによって反応容器3100の中に導入させたクリーニングガスが分解され、反応容器3100の中や排気配管に残存する堆積膜やポリシランがクリーニングされる。
【0032】
(本発明に係わるアモルファスシリコン感光体)
以下、図面を用いて本発明の電子写真感光体の構成について詳細に説明する。
図1(A)に示す例では、例えばアルミニウム等の円筒状で導電性の基体101と、基体の表面に順次積層された下部電荷注入阻止層102、光導電層103、表面層105とからなる正帯電用電子写真感光体を形成している。
また、図1(B)に示す例では、例えばアルミニウム等の円筒状で導電性の基体101と、基体の表面に順次積層された下部電荷注入阻止層102、光導電層103、上部電荷注入阻止層104、表面層105とからなる負帯電用電子写真感光体を形成している。
【0033】
本発明に係わる光導電層103は、ドーパント原子を有したa−Si(H,X)で構成され、下部電荷注入阻止層102の上に積層される。
本発明において、光導電層103には電子写真感光体の帯電極性に応じて伝導性を制御する原子いわゆるドーパント原子を含有させる。
これは、正帯電用電子写真感光体の場合、光導電層内のキャリアの内でホールの走行性を向上させることにより感度や光メモリー特性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0034】
また、負帯電用電子写真感光体の場合、光導電層内のキャリアの内で電子の走行性を向上させることにより感度や光メモリー特性を飛躍的に向上させることが可能となる。
ドーパント原子は、光導電層の中に万偏なく均一に分布した状態で含有されていてもよいし、また、層厚方向には不均一な分布状態で含有されている部分があってもよい。
ドーパント原子としては、半導体分野における、いわゆる不純物を挙げることができる。すなわち、p型伝導性を与える周期表第13族に属する原子またはn型伝導性を与える周期表第15族に属する原子を用いることができる。
【0035】
周期表第13族に属する原子としては、具体的には、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)等があり、特にホウ素(B)が好適である。ホウ素(B)供給用ガスとしては、ジボラン(B)ガスが好ましい。
周期表第15族に属する原子としては、具体的にはリン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等があり、特にリン(P)が好適である。リン(P)供給用ガスとしては、ホスフィン(PH)ガスが好ましい。
【0036】
ドーパント原子の含有量としては、主な構成原子であるケイ素原子に対して好ましくは1×10−2〜1×10原子ppm、より好ましくは5×10−2〜5×10原子ppm、最適には1×10−1〜1×10原子ppmとされるのが望ましい。光導電層の形成方法は、前述の規定値を満足する堆積層を形成できるものであれば何れのものであっても差し支えなく、たとえばプラズマCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の方法を採用することが可能である。しかしながら原料供給の容易さなどからプラズマCVD法が最も好ましい方法として採用できる。
【0037】
光導電層のケイ素供給用ガスとしては、シラン(SiH)、ジシラン(Si)等のシラン類が好適に使用できる。
光導電層の基体の温度は、200℃〜450℃、より好ましくは250℃〜350℃の温度に保つことが特性上好ましい。
光導電層の反応容器内圧力は、1×10−2〜1×10Pa、好ましくは5×10−2〜5×10Pa、より好ましくは1×10−1〜1×10Paとする。
【0038】
光導電層を形成する際のプラズマCVD法に用いる放電周波数としては特に制限されないが、1MHz〜30MHzのRF帯が好適に使用できる。
また、光導電層としてa−Si堆積膜を用いる場合は、a−Si堆積膜の中の未結合手を補償するため、水素原子(H)に加えて、ハロゲン原子を含有させることができる。
水素原子とハロゲン原子の含有量の合計は、ケイ素原子と水素原子とハロゲン原子の含有量の合計に対して10原子%以上30原子%以下であることが好ましく、15原子%以上25原子%以下であることがより好ましい。
【0039】
光導電層103の層厚は、所望の電子写真特性が得られること、経済的効果等の点から適宜決定されるが、15μm以上60μm以下が好ましく、20μm以上50μm以下がより好ましく、20μm以上40μm以下がさらに好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例に限定されない。
【実施例】
【0040】
〔実施例1〕
図2の生産システム、図3の堆積膜形成装置を用いたアモルファスシリコン感光体の生産(アモルファスシリコン堆積膜の形成)に関して、生産サイクルを休止した後の再稼動を下記方法で実施した。
まず、真空搬送機を介して反応容器の中へ基体を導入し(図5、S511)、通常の繰り返し処理による生産は、表1に示した堆積膜形成条件で作製される(S512)。
作製した電子写真感光体は、直径84mm、長さ381mmからなるアルミニウム製の導電性基体の上にドーパント原子としてホウ素(B)が光導電層に含有された正帯電用電子写真感光体である。
【0041】
堆積膜を形成した後、真空搬送機を用いて反応容器の中から基体を取り出し(S513)、反応容器の中のクリーニング処理を行う(S514)。本実施例における休止は、表2で示した条件で反応容器の中をクリーニング処理した後、排気手段によりガスを流さずに真空排気状態としたもので、休止期間は7日間とした(S521)。
休止期間が満了した後、反応容器の蓋を開け大気開放するが、大気開放は温度25℃、相対湿度55%の雰囲気下で4時間行った(S522)。
大気開放した後、真空搬送機を介して反応容器の中へ基体を導入し(S531)、再稼動時の1ロット目の堆積膜形成条件は、通常の繰り返し処理時とは異なる堆積膜形成条件で電子写真感光体を作製した(S532)。通常の繰り返し処理時とは異なる堆積膜形成条件は、大気開放によってほぼ飽和した処理容器の中の不純物の量に応じて予め定めておいた条件である。堆積膜を形成した後、真空搬送機を用いて反応容器の中から基体を取り出し(S533)、反応容器の中のクリーニング処理を行う(S534)。
【0042】
ここで、繰り返し処理時と異なる堆積膜形成条件は、表1の条件に対して光導電層のジボラン(B)ガス流量を0.7ppm(対シラン(SiH)ガス流量)から1.2ppm(対シラン(SiH)ガス流量)に増やした以外は全て同じ条件である。光導電層のジボラン(B)ガス流量の増加量は、あらかじめ実験で得られた値を採用している。
また、本実施例では、休止期間が満了した後の再稼動から3ロット目までの電子写真感光体の生産を行い、合計3本作製した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
〔比較例1〕
本比較例では、休止期間が満了した後の大気開放までは実施例1と同様の条件とした。
その後、1ロット目の堆積膜を形成する前に、表3に示す条件で炉内水分量除去処理を6時間行った。
そして、1ロット目の堆積膜形成条件は、繰り返し処理時と同じ表1の堆積膜形成条件で電子写真感光体を作製した。
なお、本比較例では、休止期間が満了した後の再稼動から3ロット目までの電子写真感光体生産を行い、合計3本作製した。
【0046】
【表3】

【0047】
〔比較例2〕
本比較例では、休止期間が満了した後の大気開放までは実施例1と同様の条件とした。
そして、1ロット目の堆積膜形成条件は、繰り返し処理時と同じ表1の堆積膜形成条件として電子写真感光体を作製した。
なお、本比較例では、休止期間が満了した後の再稼動から3ロット目までの電子写真感光体生産を行い、合計3本作製した。
【0048】
〔比較例3〕
本比較例では、休止期間が満了するまでは実施例1と同様の条件とした。
そして、休止期間が満了した後に反応容器の大気開放を行わずに生産装置を再稼動させた。
1ロット目の堆積膜形成条件は、繰り返し処理時と同じ表1の堆積膜形成条件として電子写真感光体を作製した。
なお、本比較例では、再稼動から3ロット目までの電子写真感光体生産を行い、合計3本作製した。
【0049】
〔比較例4〕
本比較例では、休止期間が満了するまでは実施例1と同様の条件とした。
そして、休止期間が満了した後に反応容器の大気開放を行わずに生産装置を再稼動させた。
1ロット目の堆積膜形成条件は繰り返し処理時と異なる形成条件とした。この条件では表1の条件に対して光導電層のジボラン(B)ガス流量を0.7ppm(対シラン(SiH)ガス流量)から0.9ppm(対シラン(SiH)ガス流量)に増やした。光導電層のジボラン(B)ガス流量の増加量は、あらかじめ実験で得られた値を採用した。
また、本比較例では、再稼動から3ロット目までの電子写真感光体生産を行い、合計3本作製した。
以上、実施例1および比較例1〜4で作製した正帯電用電子写真感光体について、以下の方法で特性評価を行った。その評価結果を表5に示す。
【0050】
(感度再現性)
電子写真装置(キヤノン製、iR C6800(商品名))に電子写真感光体を設置し、黒現像位置において、感光体の軸方向での中心位置の暗部電位が450Vになるように帯電させる。
次いで、黒現像器位置において、感光体の軸方向での中心位置の明部電位が100Vになるように像露光光源の光量を調整した。
この時の露光量を感度とするが、数値が小さいほど感度が良好であり、電子写真感光体特性に優れる。
【0051】
次に、実施例1及び比較例1〜4にて作製したそれぞれ3本の電子写真感光体について、それぞれの感度の平均値を求める。求めた感度の平均値のそれぞれについて平均値よりも−5%を下限、+5%を上限とした規格を設定し、その規格から感度の値がはずれた感光体の本数の割合を算出し、これを感度再現性の評価値とする。
比較例2の評価値と比較することによって以下に示す判断基準によってランク判定した。
なお、この評価では、規格からはずれた感光体の本数の割合が少ない方が良好な結果であると判断している。
A:比較例2に比べて規格外の本数の割合が70%未満で良好レベル
B:比較例2に比べて規格外の本数の割合が70%以上130%未満で同等レベル
【0052】
(生産性)
再稼動から1ロット目の堆積膜を形成する前に水分除去処理等の追加の処理の有無を評価した。
A:新たな処理無しで生産性の低下なし
B:新たな処理を実施し、生産性の低下が認められる
(総合評価)
上記評価結果において、以下のように総合判定を行った。
A…全てがAのもの(より優れている)
B…1つでもBがあるもの
【0053】
〔実施例2〕
本実施例では、休止期間を10時間、10日間、30日間に変化させる以外は実施例1と同様の条件とし、3本の正帯電用電子写真感光体を作製した。
そして、実施例1と同様の手法で評価を行い、その結果を表5に示す。
【0054】
〔実施例3〕
本実施例では、休止期間を10時間とし、大気開放時間を3時間とした以外は実施例1と同様の条件とし、3本の正帯電用電子写真感光体を作製した。つまり、大気開放時の温度および相対湿度は実施例1と同じとした。
そして、実施例1と同様の手法で評価を行い、その結果を表5に示す。
【0055】
〔実施例4〕
本実施例では、大気開放を伴う休止期間中に、反応容器の中の部材に対してアルコール拭き処理を行うという装置メンテナンスを行った。
装置メンテナンスを行った以外は実施例1と同様の条件とし、3本の正帯電用電子写真感光体を作製した。
そして、実施例1と同様の手法で評価を行った。その結果を表5に示す。
【0056】
〔実施例5〕
本実施例では、繰り返し処理時の堆積膜形成条件を表4に示す負帯電用電子写真感光体の作製条件とし、再稼動から1ロット目の堆積膜形成条件を表4の条件に対して変化させた。
具体的には、光導電層に周期表第15族原子のホスフィン(PH)ガス流量を0.5ppm(対シラン(SiH)ガス流量)から1ppm(対シラン(SiH)ガス流量)に増やした。光導電層のホスフィン(PH)ガス流量の増加量は、あらかじめ実験で得られた値を採用した。
このようにして作製した3本の負帯電用電子写真感光体を実施例1と同様の手法で評価を行った。その結果を表5に示す。
【0057】
(感度再現性)
負帯電用に改造した電子写真装置(キヤノン製、iR C6800(商品名))に電子写真感光体を設置し、黒現像位置において、感光体の軸方向での中心位置の暗部電位が−450Vになるように帯電させる。
次いで、黒現像器位置において、感光体の軸方向での中心位置の明部電位が−100Vになるように像露光光源の光量を調整した。
この時の露光量を感度とするが、数値が小さいほど感度が良好であり、電子写真感光体特性に優れる。
【0058】
次に、実施例5にて作製した3本の電子写真感光体について、それぞれの感度の平均値を求める。求めた感度の平均値のそれぞれについて平均値よりも−5%下限、+5%を上限とした規格を設定し、その規格から感度の値がはずれた感光体の本数の割合を算出し、これを感度再現性の評価値とする。
比較例2の評価値と比較することによって以下に示す判断基準によってランク判定した。
なお、この評価では、規格からはずれた感光体の本数の割合が少ない方が良好な結果であると判断している。
A:比較例2に比べて規格外の本数の割合が70%未満で良好レベル
B:比較例2に比べて規格外の本数の割合が70%以上130%未満で同等レベル
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
表5から、以下のことが明らかとなった。
比較例1は、反応容器の中を大気開放後、水分除去工程により不純物量が低減可能となることから感度再現性は良好である。しかし、水分除去工程を行う必要があるため生産性がどうしても低下してしまう。実施例1では水分除去工程を行わないため生産性の低下が発生しない。
【0062】
比較例2は、反応容器の中を大気開放後、再稼動時の1ロット目の堆積膜形成条件が繰り返し処理時の堆積膜形成条件と同じ条件であるため、反応容器の中の水分吸着の影響を受けて感度再現性が悪化してしまう。しかし、実施例1では再稼動時の1ロット目の堆積膜形成条件を繰り返し処理時の堆積膜形成条件と異なる条件にすることで、感度再現性が良好となり特性バラツキの低減が可能となる。
【0063】
比較例3は、休止後大気開放を行わずに再稼動時の1ロット目の堆積膜形成条件を繰り返し処理時の堆積膜形成条件と同じ条件にしたために、休止時に排気手段から逆拡散による油の影響を受けて実施例1に比べて感度再現性が悪化してしまう。
比較例4は、休止後大気開放を行わずに再稼動時の1ロット目の堆積膜形成条件を繰り返し処理時の堆積膜形成条件と異なる条件した。しかし、休止時に排気手段から逆拡散による油量が10回とも異なり、堆積膜形成条件を異なる条件にしても感度再現性が実施例1に比べて悪化してしまった。
【0064】
以上、比較例1〜4と実施例1から、本発明を用いることで生産性を低下させずに感度再現性が良好となり製品の特性バラツキの低減が可能となることがわかる。
また、実施例2より、休止期間を10時間、10日間、30日間と変化することで反応容器の中の不純物量が変化しても、本発明により生産性を低下させずに感度再現性が良好となり製品の特性バラツキの低減が可能となることがわかる。
【0065】
また、実施例3より、休止期間を10時間にした後、反応容器の中の大気開放時間が3時間でも本発明により生産性を低下させずに感度再現性が良好となり製品の特性バラツキの低減が可能となることがわかる。
実施例4より、装置メンテナンスによる大気開放の場合でも本発明により生産性を低下させずに感度再現性が良好となり製品の特性バラツキの低減が可能となることがわかる。
実施例5より、負帯電用電子写真感光体についてドーパント原子のリンを増やした堆積膜系条件で本発明により生産性を低下させずに感度再現性が良好となり製品の特性バラツキの低減が可能となることがわかる。
【符号の説明】
【0066】
2100 投入装置
2200 加熱装置
2300 反応装置
2400 冷却及び排出装置
2202 加熱容器
2302 反応容器
2402 冷却及び排出容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧可能な真空処理容器を用いて堆積膜を形成する堆積膜形成方法において、前記堆積膜の形成を休止し、前記真空処理容器の中の不純物の量がほぼ飽和するまで前記真空処理容器を大気開放した後、ほぼ飽和した不純物の量に対応して予め定めた堆積膜形成条件を、再稼働時の堆積膜形成条件とすることを特徴とする堆積膜形成方法。
【請求項2】
前記堆積膜の形成は、真空を保った状態で繰り返し行う処理であることを特徴とする請求項1に記載の堆積膜形成方法。
【請求項3】
前記堆積膜形成は基体の上にドーパント原子を有するアモルファスシリコン堆積膜を形成する堆積膜形成方法であって、前記ほぼ飽和した不純物の量に対応して、少なくともドーパント原子供給用のガス流量を増やすことを特徴とする請求項1または2に記載の堆積膜形成方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−17510(P2012−17510A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157200(P2010−157200)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】