説明

変速機

【課題】減速機構及び増速機構の占有スペースを低減することができ、自動車の変速機として採用できる変速機を提供する。
【解決手段】2組の歯車要素対と、入力軸と出力軸と2組の歯車要素対を解除可能に連結する2組のクラッチと、1組の非円形歯車要素対と、入力軸と出力軸との間に非円形歯車要素対を解除可能に連結する非円形歯車要素対用クラッチと、歯車要素対の一方の歯車要素が配置される入力軸の第1部分と非円形歯車要素対の一方の非円形歯車要素が配置される入力軸の第2部分との間を回転伝達可能に結合する減速機構と、歯車要素対の他方の歯車要素が配置される出力軸の第1部分と非円形歯車要素対の他方の非円形歯車要素が配置される出力軸の第2部分との間を回転伝達可能に結合する増速機構と、を備えた変速機において、減速機構及び増速機構はそれぞれ複数の歯車軸有し、減速機構の歯車軸及び増速機構の歯車軸が共通の軸線上に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在では、例えば自動車のオートマチックトランスミッションなど、減速比を多段に変えることが可能な変速機は既に数多く開発され、確立された機械となりつつある。この自動車の変速機では、減速比を変える際に動力を効率よく伝達することが課題となっている。
【0003】
通常、減速比の異なる歯車対を同時に噛み合わせて回転させることはできないため、回転を止めることなく負荷を支持しつつ、減速比を変えることはできない。また、通常の自動車などの変速機では、減速比を変える前には、これから締結する歯車と軸の回転速度が異なるため、摩擦を利用してこれらを一致させていることから、歯車と軸の間には大きな滑りが生じ、正確な回転角度の伝達は困難であり、動力の伝達効率も悪い。
【0004】
そこで、非円形歯車要素対とクラッチを使用することにより回転を止めることなく負荷を支持しつつ減速比を変えることができ、正確に回転角度を伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができるようにした変速機が提案されている(特許文献1)。図6はこの変速機の一例を模式的に示す機構図である。
【0005】
図6に示すように、変速機10は、回転可能に支持された入力軸12と出力軸14との間にそれぞれ配置された、少なくとも2組の歯車要素対である第1の歯車要素対16及び第2の歯車要素対17と、前記入力軸12と前記出力軸14との間に、少なくとも2組の前記歯車要素対16,17をそれぞれ解除可能に連結する少なくとも2組のクラッチである第1のクラッチ40及び第2のクラッチ42と、前記入力軸12と前記出力軸14との間に配置された少なくとも1組の非円形歯車要素対18と、前記入力軸12と前記出力軸14との間に少なくとも1組の前記非円形歯車要素対18を解除可能に連結する少なくとも1組の非円形歯車要素対用クラッチ44と、前記歯車要素対16,17の一方の歯車要素20、22が配置される前記入力軸12の第1部分12sと前記非円形歯車要素対18の一方の非円形歯車要素24が配置される前記入力軸12の第2部分12tとの間を回転伝達可能に結合する減速機構60と、前記歯車要素対16,17の他方の歯車要素30,32が配置される前記出力軸14の第1部分14sと前記非円形歯車要素対18の他方の非円形歯車要素34が配置される前記出力軸14の第2部分14tとの間を回転伝達可能に結合する増速機構70と、を備えている。
【0006】
上記構成によれば、非円形歯車要素対を用いることにより、入力軸と出力軸との間に常に歯車要素対が連結されている状態にすることができるので、入力軸と出力軸との間の減速比を変える際に、回転を止めることなく負荷を支持しつつ減速比を変えることができ、正確に回転角度を伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。また、入力軸と出力軸とが高速回転であっても、減速機構及び増速機構により非円形歯車要素対の回転を遅くすることで、クラッチの切り換え動作をすべき時間を長くすることができるので、容易に減速比を変えることができる。
【0007】
ところで、前記減速機構60及び増速機構70は、例えば3段減速・増速の場合、図7ないし図8に示すような配置構成となる。図7は図6における増速機構及び減速機構の部分を展開して模式的に示す機構図である。図8は図6の変速機における通常の考え方に基づく歯車或いは歯車軸の配置例を示す図で、(a)は歯車軸の軸方向から見た正面図、(b)は(a)のB−B矢視図、(c)は(b)のC−C矢視図である。なお、図8の(b)、(c)においては、見やすくするために、手前側を実線で表示し、奥側を破線で表示してある。
【0008】
図7に示すように減速機構60は、入力側の第1歯車対61、第2歯車対62及び第3歯車対63からなり、第1歯車対61は入力軸12の第1部分12sに設けられた歯車64と第1歯車軸80に設けられた歯車65とからなり、第2歯車対62は第1歯車軸80に設けられた歯車66と第2歯車軸81に設けられた歯車67とからなり、第3歯車対63は第2歯車軸81に設けられた歯車68と入力軸12の第2部分12tに設けられた歯車69とからなる。
【0009】
また、増速機構70は、出力側の第1歯車対71、第2歯車対72及び第3歯車対73からなり、第1歯車対71は出力軸14の第1部分14sに設けられた歯車74と第1歯車軸90に設けられた歯車75とからなり、第2歯車対72は第1歯車軸90に設けられた歯車76と第2歯車軸91に設けられた歯車77とからなり、第3歯車対73は第2歯車軸91に設けられた歯車78と出力軸14の第2部分14tに設けられた歯車79とからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第WO2008/062718A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記変速機においては、図8(a)に示すように入力軸(第1部分を含む)12及びその第2部分12tと、出力軸(第1部分を含む)14及びその第2部分14tと、減速機構60の第1歯車軸80及び第2歯車軸81と、増速機構70の第1歯車軸90及び第2歯車軸91との計8つの歯車軸を有し、通常の考え方に基づく歯車ないし歯車軸の配置では計8つの歯車軸が干渉しないような配置になることから、減速機構70及び増速機構80の占有スペースが増大するという問題がある。このため、例えば、自動車の変速機として採用することがスペース上難しい。
【0012】
本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであり、減速機構及び増速機構の占有スペースを低減することができ、例えば自動車の変速機として採用することができる変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、回転可能に支持された入力軸と出力軸との間にそれぞれ配置された、少なくとも2組の歯車要素対と、前記入力軸と前記出力軸との間に、少なくとも2組の前記歯車要素対をそれぞれ解除可能に連結する少なくとも2組のクラッチと、前記入力軸と前記出力軸との間に配置された少なくとも1組の非円形歯車要素対と、前記入力軸と前記出力軸との間に少なくとも1組の前記非円形歯車要素対を解除可能に連結する少なくとも1組の非円形歯車要素対用クラッチと、前記歯車要素対の一方の歯車要素が配置される前記入力軸の第1部分と前記非円形歯車要素対の一方の非円形歯車要素が配置される前記入力軸の第2部分との間を回転伝達可能に結合する減速機構と、前記歯車要素対の他方の歯車要素が配置される前記出力軸の第1部分と前記非円形歯車要素対の他方の非円形歯車要素が配置される前記出力軸の第2部分との間を回転伝達可能に結合する増速機構と、を備えた変速機において、前記減速機構及び前記増速機構はそれぞれ複数の歯車軸を有し、前記減速機構の歯車軸及び前記増速機構の歯車軸が共通の軸線上に配置されていることを特徴とする。
【0014】
前記減速機構の歯車軸及び前記増速機構の歯車軸が、前記入力軸の第2部分の軸線上及び前記出力軸の第2部分の軸線上に交互に配置されていることが好ましい。
【0015】
前記非円形歯車要素対は、第1の減速比となる第1の噛み合い区間と、第2の減速比となる第2の噛み合い区間とを含み、前記非円形歯車要素対の前記第1の減速比と前記減速機構の減速比と前記増速機構の増速比との積が、前記入力軸と前記出力軸との間に前記第1の歯車要素対が連結されたときの前記第1の歯車要素対の少なくとも一部の噛み合い区間における減速比と等しく、前記非円形歯車要素対の前記第2の減速比と前記減速機構の減速比と前記増速機構の増速比との積が、前記入力軸と前記出力軸との間に前記第2の歯車要素対が連結されたときの前記第2の歯車要素対の少なくとも一部の噛み合い区間における減速比と等しい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、減速機構及び増速機構の占有スペースを低減することができ、例えば自動車の変速機として採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る変速機の一実施形態を模式的に示す機構図である。
【図2】非円形歯車対のピッチ円或いはピッチ曲線を模式的に示す図である。
【図3】(a)は非円形歯車対の減速比の変化を模式的に示すグラフ、(b)はクラッチのONとOFFを示す表である。
【図4】(a)は非円形歯車対の減速比の変化を模式的に示すグラフ、(b)はクラッチのONとOFFを示す表である。
【図5】図1の変速機における歯車或いは歯車軸の好適な配置例を概略的に示す図で、(a)は歯車軸の軸方向から見た正面図、(b)は(a)のB−B矢視図、(c)は(b)のC−C矢視図である。
【図6】従来の変速機の一例を模式的に示す機構図である。
【図7】図1における増速機構及び減速機構の部分を展開して模式的に示す機構図である。
【図8】図6の変速機における通常の考え方に基づく歯車或いは歯車軸の配置例を示す図で、(a)は歯車軸の軸方向から見た正面図、(b)は(a)のB−B矢視図、(c)は(b)のC−C矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0019】
先ず、変速機の基本的な構成を図1〜図5を参照しながら説明する。
【0020】
図1の機構図に模式的に示すように、変速機10は、回転可能に支持されている入力軸12及び出力軸14と、第1の歯車対16と、第2の歯車対17と、非円形歯車対18と、クラッチ40,42,44とを備えている。
【0021】
各歯車対16,17,18は、それぞれ、一対の歯車20,30;22,32;24,34が噛み合い、回転角度の遅れがない。すなわち、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達する。
【0022】
入力軸12には、各歯車対16,17,18の一方の歯車(入力側歯車)20,22,24が固定され、これらの歯車20,22,24は入力軸12と一体となって回転する。
【0023】
出力軸14には、各歯車対16,17,18の他方の歯車(出力側歯車)30,32,34が、相対回転可能な状態に支持されている。出力側歯車30,32,34は、クラッチ40,42,44により、選択的に出力軸14に結合される。すなわち、クラッチ40,42,44がつながっているONのときには、対応する出力側歯車30,32,34は出力軸14に対して結合され、結合された出力側歯車30,32,34と出力軸14とは一体となって回転する。クラッチ40,42,44が切れているOFFのときには、出力側歯車30,32,34は、出力軸14の軸方向の移動が拘束されながら、出力軸14に対して相対回転可能となる。
【0024】
クラッチ40,42,44がONのとき、クラッチ40,42,44での滑り等がなければ、クラッチ40,42,44がONとなっている出力側歯車30,32,34から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0025】
クラッチ40,42,44には、ドグクラッチ等の噛み合いクラッチを用いることが好ましい。円板クラッチなどの摩擦クラッチでは滑りが発生する可能性があるのに対して、噛み合いクラッチでは、駆動側と被動側に形成された突起や穴等の機械的構造が噛み合い、摩擦クラッチのような滑りが発生しないので、噛み合いクラッチを用いると、回転角度を極めて正確に伝達し、かつ動力を極めて効率的に伝達することができるからである。図示しないが、クラッチ40,42,44はアクチュエータによって駆動され、アクチュエータの動作は、制御装置によって制御される。また、非円形歯車対18の位相は、図示しないセンサにより検出され、検出信号は制御装置に入力される。制御装置は、回転を止めることなく減速比を切り替え、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができるように、クラッチ40,42,44のON/OFFを制御する。
【0026】
各歯車対16,17,18は、クラッチ40,42,44のONによって、入力軸12と出力軸14との間に選択的に連結される。クラッチ40のONにより、第1の歯車対16が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、相対的に大きい一定の減速比RHとなる。クラッチ42のONにより第2の歯車対17が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、相対的に小さい一定の減速比RLとなる。クラッチ44のONにより非円形歯車対18が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、少なくとも減速RHとRLとを含む範囲内で変化する。
【0027】
例えば図2に示すように各歯車対16,17,18の歯車を噛み合いピッチ円(以下、単に「ピッチ円」という。)或いは噛み合いピッチ曲線(以下、単に「ピッチ曲線」という。)で表し、歯面の図示を省略すると、第1及び第2の歯車対16,17は、対をなす歯車20,30;22,32のピッチ円20p,30p;22p,32pが互いに接する円形歯車である。
【0028】
非円形歯車対18の対をなす歯車24,34は非円形歯車であり、非円形歯車対18の対をなす歯車24,34のピッチ曲線は、減速比RHの第1の歯車対16のピッチ円20p,30pの円弧と等しい第1の区間25,35と、減速比RLの第2の歯車対のピッチ円22p,32pの円弧と等しい第3の区間27,37と、減速比がRHとRLとの間で変化する第2及び第4の区間26,36;28,38とを有する。非円形歯車対18の対をなす歯車24,34は、図2において矢印で示す方向に回転する時、歯車24,34のピッチ曲線の各区間25,35;26,36;27,37;28,38同士が噛み合う。
【0029】
非円形歯車対18が入力軸12と出力軸14との間に連結されている状況において、非円形歯車対18が、図2(a)に示すように、第3の区間27,37で噛み合う場合は、入力軸12と出力軸14との間の減速比はRLとなり、図2(b)で示すように、第1の区間25,35で噛み合う場合は、入力軸12と出力軸14との間の減速比はRHとなる。第2の区間26,36、第4の区間28,38で噛み合う場合は、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、RLとRHの間で変化する。
【0030】
次に、変速機10の動作について、図3及び図4を参照しながら説明する。図3(a)及び図4(a)は、非円形歯車対18の減速比のグラフである。横軸は入力軸12の回転角度、縦軸は入力側歯車24と出力側歯車34との間の減速比である。図3(b)及び図4(b)の表では、クラッチ40,42,44のONの状態を○印で示し、クラッチ40,42,44のOFFの状態は空欄としている。図3(b)及び図4(b)において、減速比RHの第1の歯車対16のクラッチ40を「クラッチ(RH)」、減速比RLの第2の歯車対17のクラッチ42を「クラッチ(RL)」、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44を「クラッチ(変速)」と表している。
【0031】
減速比RHの第1の歯車対16のクラッチ40がON、クラッチ42,44がOFFの時には、入力軸12と出力軸14との間は、一定の減速比RHとなる。減速比RLの第2の歯車対17のクラッチ42がON、クラッチ40,44がOFFの時には、入力軸12と出力軸14との間は、一定の減速比RLとなる。非円形歯車対18の減速比は、図3(a)及び図4(a)に示すように、入力軸12の回転に伴って減速比RHとRLとを含む所定範囲内で変化する。なお、図3(a)及び図4(a)において、非円形歯車対18の減速比が変化する時の曲線は模式的に図示されている。
【0032】
入力軸12と出力軸14との間の減速比をRHからRLに変える場合には、以下のようにクラッチ40,42,44を作動させる。
【0033】
図3(a)に示すように、減速比がRHの第1の歯車対16のクラッチ40がONの状態で、非円形歯車対18の減速比がRLからRHに変化する区間301を通過し、一定の減速比RHとなる区間302に入ったら、図3(b)に示すように、減速比RHの第1の歯車対16のクラッチ40に加え、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44をONにする。そして、区間302において非円形歯車対18のクラッチ44がONになった後、かつ、非円形歯車対18の減速比がRHからRLに変化する区間303に入る前に、減速比RHの第1の歯車対16のクラッチ40をOFFにする。
【0034】
そして、非円形歯車対18の減速比がRHからRLに変化する区間303では、非円形歯車対18のクラッチ44のみがONである。区間303では、入力軸12と出力軸14との間に非円形歯車対18が連結されているので、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、RHからRLに変化する。この間、クラッチ44の滑りがなければ、非円形歯車対18の噛み合いによって、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0035】
非円形歯車対18の減速比がRHからRLに変化する区間303を通過して、一定の減速比RLとなる区間304に入ったら、図3(b)に示すように、減速比RLの第2の歯車対17のクラッチ42をONする。そして、区間304において第2の歯車対17のクラッチ42がONになった後、かつ、非円形歯車対18の減速比がRLからRHに変化する区間305に入る前に、非円形歯車対18のクラッチ44をOFFにする。このようにして、入力軸12と出力軸14との間に第2の歯車対17のみが連結された後は、入力軸12と出力軸14との間の減速比はRL一定となり、第2の歯車対17の噛み合いによって、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0036】
クラッチ40,42,44は、駆動側と被動側とが同じ速度のときにON/OFFの切り替えを行うので、クラッチ40,42,44に、ドグクラッチ等の噛み合いクラッチを用いることができる。
【0037】
入力軸12と出力軸14との間の減速比をRLからRHに変える場合も、上記と同様である。すなわち、図4(a)に示すように、非円形歯車対18の減速比がRHからRLに変化する区間401を通過し、一定の減速比RLとなる区間402に入ったら、図4(b)に示すように、第2の歯車対17のクラッチ42に加え、非円形歯車対18のクラッチ44をONにする。そして、区間402において非円形歯車対18のクラッチ44がONになった後、かつ、非円形歯車対18の減速比がRLからRHに変化する区間403に入る前に、減速比RLの第2の歯車対17のクラッチ42をOFFにする。
【0038】
そして、非円形歯車対18の減速比がRLからRHに変化する区間403では、非円形歯車対18のクラッチ44のみがONである。区間403では、入力軸12と出力軸14との間に非円形歯車対18のみが連結されているので、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、RLからRHに変化する。この間、クラッチ44の滑りがなければ、非円形歯車対18の噛み合いによって、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0039】
非円形歯車対18の減速比がRLからRHに変化する区間403を通過して、一定の減速比RHとなる区間404に入ったら、図4(b)に示すように、減速比RHの第1の歯車対16のクラッチ40をONにする。そして、区間404において第1の歯車対16のクラッチ40がONになった後、かつ、非円形歯車対18の減速比がRHからRLに変化する区間405に入る前に、非円形歯車対18のクラッチ44をOFFにする。このようにして、入力軸12と出力軸14との間に第1の歯車対16のみが連結された後は、入力軸12と出力軸14との間は一定の減速比RHとなり、第1の歯車対16の噛み合いによって、入力軸12から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0040】
入力軸12と出力軸14とが高速回転であっても、非円形歯車要素対18の回転を遅くすることで、クラッチの切り換え動作をすべき時間を長くすることができて容易に減速比を変えることができるようにするために、図1に示すように前記変速機10は、前記歯車要素対16,17の一方の歯車要素20,22が配置される前記入力軸12の第1部分12sと前記非円形歯車要素対18の一方の非円形歯車要素24が配置される前記入力軸12の第2部分12tとの間を回転伝達可能に結合する減速機構60と、前記歯車要素対16,17の他方の歯車要素30,32が配置される前記出力軸14の第1部分14sと前記非円形歯車要素対18の他方の非円形歯車要素34が配置される前記出力軸14の第2部分14tとの間を回転伝達可能に結合する増速機構70と、を備えている。
【0041】
前記減速機構60及び前記増速機構70は、図5ないし図7に示すようにそれぞれ複数の歯車軸80,81;90,91を有している。そして、前記変速機10における前記減速機構60及び前記増速機構70の占有スペースを低減するために、前記減速機構60の歯車軸80,81及び前記増速機構70の歯車軸90,91が共通の軸線上に配置されている。前記減速機構60の歯車軸80,81及び前記増速機構70の歯車軸90,91が、前記入力軸12の第2部分12tの軸線上及び前記出力軸14の第2部分14tの軸線上に交互にそれぞれ配置されている。すなわち、変速機10の減速機構60及び増速機構70の歯車軸80,81,90,91が2つの軸位置(12t、14t)に集約されており、図5(a)に示すように正面から見た歯車軸数が計4つに収まっている。
【0042】
減速機構60の減速比を入力軸12の第1部分12sの回転速度Ni1と入力軸12の第2部分12tの回転速度Ni2とを用いてNi1/Ni2と定義する。増速機構70の増速比を出力軸14の第2部分14tの回転速度No2と出力軸14の第1部分14sの回転速度No1とを用いてNo2/No1と定義する。増速機構70の増速比の定義は、No1/No2ではないことを留意する必要がある。
【0043】
減速機構60及び増速機構70により、非円形歯車対18側の回転速度を遅くすることができる。すなわち、入力軸12の第1部分12sと第2部分12tの間に設けられた減速装置60の減速比をR0とし、入力軸12の第1部分12sの回転速度に対して、入力軸12の第2部分12tの回転速度を遅くすると共に、出力軸14の第2部分14tと第1部分14sとの間に設けられた増速機構70の増速比を1/R0とし、出力軸14の第1部分14sの回転速度に対して、出力軸14の第2部分14tの回転速度を遅くすることで、非円形歯車対18の回転速度を遅くする。これによって、入力軸12の第1部分12sの回転が高速であっても、非円形歯車対18側の噛み合いによって減速比を変化させながら回転を伝達することができる。
【0044】
変速機10の減速比は、減速機構60と増速機構70と非円形歯車対18によって全体として切り換えれば良いので、減速機構60の減速比Rinと増速機構70の増速比RoutとがRin×Rout=1とならなくても構わない。
【0045】
例えば、第1の歯車対15の減速比がR1、第2の歯車対16の減速比がR2,非円形歯車対18のある区間の減速比がR1’、他の区間の減速比がR2’とすると、変速機10の減速比をR1からR2、又はR2からR1に切り換えることができるためには、次の2つの式を満たせばよい。
【0046】
R1=Rin×R1’×Rout
R2=Rin×R2’×Rout
前記変速機10は、入力が高速回転であっても、適宜な減速比の減速機構60及び適宜な増速比の増速機構70により非円形歯車対18の回転を遅くすることで、クラッチの切り換え動作をすべき時間を長くすることができるので、容易に減速比を変えることができる。また、減速比の急激な変化を緩和して、衝撃を低減することができる。
【0047】
以上の構成からなる変速機10によれば、前記減速機構60の歯車軸80,81及び増速機構70の歯車軸90,91が共通の軸線上である2つの軸位置に集約されて配置されているため、減速機構60及び増速機構70の占有スペースを低減することができ、トラックやバスの変速機として採用することができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態ないし実施例を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態ないし実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 変速機
12 入力軸
14 出力軸
16 歯車対(歯車要素対)
17 歯車対(歯車要素対)
18 非円形歯車対(非円形歯車要素対)
40 クラッチ(第1のクラッチ)
42 クラッチ(第2のクラッチ)
44 クラッチ(非円形歯車要素対用クラッチ)
12s 入力軸の第1部分
12t 入力軸の第2部分
14s 出力軸の第1部分
14t 出力軸の第2部分
60 減速機構
70 増速機構
80,81,90,91 歯車軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に支持された入力軸と出力軸との間にそれぞれ配置された、少なくとも2組の歯車要素対と、
前記入力軸と前記出力軸との間に、少なくとも2組の前記歯車要素対をそれぞれ解除可能に連結する少なくとも2組のクラッチと、
前記入力軸と前記出力軸との間に配置された少なくとも1組の非円形歯車要素対と、
前記入力軸と前記出力軸との間に少なくとも1組の前記非円形歯車要素対を解除可能に連結する少なくとも1組の非円形歯車要素対用クラッチと、
前記歯車要素対の一方の歯車要素が配置される前記入力軸の第1部分と前記非円形歯車要素対の一方の非円形歯車要素が配置される前記入力軸の第2部分との間を回転伝達可能に結合する減速機構と、
前記歯車要素対の他方の歯車要素が配置される前記出力軸の第1部分と前記非円形歯車要素対の他方の非円形歯車要素が配置される前記出力軸の第2部分との間を回転伝達可能に結合する増速機構と、を備えた変速機において、
前記減速機構及び前記増速機構はそれぞれ複数の歯車軸を有し、前記減速機構の歯車軸及び前記増速機構の歯車軸が共通の軸線上に配置されていることを特徴とする変速機。
【請求項2】
前記減速機構の歯車軸及び前記増速機構の歯車軸が、前記入力軸の第2部分の軸線上及び前記出力軸の第2部分の軸線上に交互に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−181004(P2010−181004A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27240(P2009−27240)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】