外来DNAを挿入しない酢酸菌の遺伝子欠損法
【課題】酢酸菌のゲノムDNAに外来DNAを挿入することなしに作製された遺伝子欠損酢酸菌株を、より高効率で取得できる遺伝子欠損酢酸菌株作製法を提供すること。
【解決手段】酢酸菌ゲノム中の標的遺伝子を欠損させるために、該標的遺伝子又はその一部を挟む2領域の相同配列を、タンデムに連結した配列を含むDNA断片を調製する工程(a);前記DNA断片を、薬剤耐性遺伝子及びマーカー遺伝子を有し、且つ酢酸菌の複製起点を有さないベクターに導入し、環状化DNAを調製する工程(b);前記環状化DNAを、前記標的遺伝子を有する酢酸菌に導入する工程(c);前記環状化DNAを導入した酢酸菌のうち、相同組換えにより環状化DNA全長が酢酸菌ゲノムに組み込まれた酢酸菌を、前記薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤が含まれる培地で培養することにより選択する工程(d);工程(d)で選択された薬剤耐性が付与された酢酸菌を、前記薬剤を含まない培地で培養する工程(e)を備える。
【解決手段】酢酸菌ゲノム中の標的遺伝子を欠損させるために、該標的遺伝子又はその一部を挟む2領域の相同配列を、タンデムに連結した配列を含むDNA断片を調製する工程(a);前記DNA断片を、薬剤耐性遺伝子及びマーカー遺伝子を有し、且つ酢酸菌の複製起点を有さないベクターに導入し、環状化DNAを調製する工程(b);前記環状化DNAを、前記標的遺伝子を有する酢酸菌に導入する工程(c);前記環状化DNAを導入した酢酸菌のうち、相同組換えにより環状化DNA全長が酢酸菌ゲノムに組み込まれた酢酸菌を、前記薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤が含まれる培地で培養することにより選択する工程(d);工程(d)で選択された薬剤耐性が付与された酢酸菌を、前記薬剤を含まない培地で培養する工程(e)を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外来DNAがゲノムに挿入されていない遺伝子欠損酢酸菌株の作製方法、詳しくは、標的遺伝子を欠損させるために選択された任意の2領域の相同配列をタンデムに連結した配列、薬剤耐性遺伝子、及びマーカー遺伝子を有する環状化DNAを酢酸菌に導入し、相同組換えを生じさせることにより、外来DNAを挿入しない酢酸菌の遺伝子欠損株及び多重遺伝子欠損株を、高効率で取得することを目的とした外来DNAがゲノムに挿入されていない遺伝子欠損酢酸菌株の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸菌は、食酢製造に広く利用されている微生物であり、特にアセトバクター属及びグルコンアセトバクター属に属する酢酸菌が工業的な食酢製造に用いられている。また、グルコノバクター属に属する酢酸菌は、食酢製造だけでなく、ビタミンCの製造、D−アラビトールからのD−キシルロース及びキシリトールの製造等、食品製造に広く用いられている、産業上有用な微生物である。
【0003】
酢酸菌からさらに優良な菌株の育種を行うためには、特定の遺伝子を欠損させることが一つの有効な手段である。例えば、特開2008−206413号公報には、酢酸菌において、クォーラムセンシンングに関わる遺伝子としてアシルホモセリンラクトン合成酵素遺伝子を見い出し、該遺伝子に薬剤耐性遺伝子を挿入することで遺伝子を欠損或いは機能低下させ、高酢酸濃度の食酢を効率良く製造できる酢酸菌を作製したことが開示されている。
【0004】
また、酢酸菌の遺伝子欠損法としては、薬剤耐性遺伝子及びマーカー遺伝子を保持したベクターを酢酸菌に導入し、相同組換えにより薬剤耐性遺伝子を標的遺伝子中に導入することで標的遺伝子を破壊する手法が広く用いられている。この手法は、前記薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を含む培地で酢酸菌を培養することで、遺伝子欠損株を効率良く取得できる。一方で、この手法では、外来DNAが酢酸菌のゲノムDNA中に挿入されるため、得られた遺伝子欠損株は遺伝子組換え体に該当し、食品製造への利用が制限されるという問題点がある。
【0005】
前記問題点を解決するため、特開2010−57406号公報には、外来遺伝子を導入しない遺伝子欠損細菌株の作製方法が開示されている。しかしながら、前記手法は、遺伝子欠損細菌株の選抜方法が、個々のコロニーに対するNested-PCR法のみであり、選抜の効率が非常に悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−206413号公報
【特許文献2】特開2010−57406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
背景技術で述べた通り、従来の酢酸菌遺伝子欠損法には、(i)外来遺伝子が酢酸菌のゲノムDNA中に挿入されるため、遺伝子組換え体として判断されること;及び、(ii)外来遺伝子を挿入しない遺伝子欠損細菌株の作製方法においては、遺伝子欠損株の簡便な選抜方法が存在しないこと、という問題点が存在する。本発明の課題は、酢酸菌のゲノムDNAに外来DNAを挿入することなしに作製された遺伝子欠損酢酸菌株を、より高効率で取得できる遺伝子欠損酢酸菌株作製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、酢酸菌DNA中の、標的遺伝子を欠損させるために選択された任意の2点の相同配列をタンデムに連結した配列を有するDNA断片を、薬剤耐性遺伝子、マーカー遺伝子を含み、酢酸菌の菌体内では複製されないベクターに挿入することにより、環状化DNAを作製した。前記環状化DNAを酢酸菌に導入し、前記薬剤耐性遺伝子に対応した薬剤を含む培地で培養することにより、酢酸菌のゲノムDNAと環状化DNAとの間で相同組換えが起こり、環状化DNA全長が酢酸菌のゲノムDNAに挿入された酢酸菌株が得られる。さらに、前記環状化DNA全長が酢酸菌のゲノムDNAに挿入された酢酸菌株を、前記薬剤を含まない平板培地で培養した。本発明者らは、環状化DNAに由来する配列を含む酢酸菌DNA内で、再度相同組換えが起こった結果、標的遺伝子が環状化DNAと共に脱落した酢酸菌株を、前記平板培養で生じたコロニーのうち、マーカー遺伝子を欠損した酢酸菌株を選択することで高効率に選抜できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は(1)以下のステップ(a)〜(f)を備えたことを特徴とする外来DNAがゲノムに挿入されていない遺伝子欠損酢酸菌株の作製方法に関する。
(a)酢酸菌ゲノム中の標的遺伝子を欠損させるために、該標的遺伝子又はその一部を挟む2領域の相同配列を、タンデムに連結した配列を含むDNA断片を調製するステップ;
(b)前記DNA断片を、薬剤耐性遺伝子及びマーカー遺伝子を有し、且つ酢酸菌の複製起点を有さないベクターに導入し、環状化DNAを調製するステップ;
(c)前記環状化DNAを、前記標的遺伝子を有する酢酸菌に導入するステップ;
(d)前記環状化DNAを導入した酢酸菌のうち、相同組換えにより環状化DNA全長が酢酸菌ゲノムに組み込まれた酢酸菌を、前記薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤が含まれる培地で培養することにより選択するステップ;
(e)工程(d)で選択された薬剤耐性が付与された酢酸菌を、前記薬剤を含まない培地で培養するステップ;
(f)前記薬剤を含まない培地で得られたコロニーのうち、マーカー遺伝子が脱落したものを選択するステップ;
【0010】
また、本発明は、(2)工程(f)の後に、さらに以下の工程(g)を備えたことを特徴とする上記(1)に記載の作製方法に関する。
(g)PCRによって標的遺伝子欠損を確認するステップ;
【0011】
さらに、本発明は、(3)酢酸菌が、グルコノバクター属又はアセトバクター属に属することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の作製方法や、(4)マーカー遺伝子が、β−グルクロニダーゼ遺伝子であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の作製方法や、(5)薬剤耐性遺伝子が、カナマイシン耐性遺伝子であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の作製方法や、(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法を、異なる標的遺伝子について複数回繰り返すことにより、2以上の遺伝子を欠損させることを特徴とする酢酸菌多重遺伝子欠損株の作製方法や、(7)上記(6)に記載の方法によって作製されることを特徴とする多重遺伝子欠損酢酸菌株に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遺伝子欠損酢酸菌株作製法によると、高効率で、外来DNAを挿入することなしに遺伝子欠損酢酸菌株を取得できる。本発明を用いて作製された遺伝子欠損酢酸菌株は、遺伝子組換え体に該当しないため、前記菌株は非遺伝子組換え体として、高付加価値の食品製造に用いることができる。
【0013】
また、従来技術に基づく、外来DNAが挿入されない遺伝子欠損細菌株作製法(特開2010−57406号公報)は、遺伝子欠損株の選抜効率が極度に低いため、複数の遺伝子を欠損させるのは困難であるのに対し、本発明は、複数の遺伝子を欠損させる際に優れた手法である。すなわち、従来の外来DNAを標的遺伝子に挿入する方法では、異なる選択方法を有するマーカー遺伝子を、欠損させたい遺伝子数と同数必要としたのに対し、本発明では外来DNAは酢酸菌のゲノムDNA中には残らないため、単一のマーカー遺伝子により複数の遺伝子を欠損させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】pSU18_ΔmotB1_up、pJ200、及びpΔmotB1の作製手順を示した図である。
【図1B】pΔmotB1を制限酵素EcoRIとXbaIで消化し、アガロースゲル電気泳動に供した図である。2.1kbのバンドが生じたプラスミドをpΔmotB1とした。
【図2】酢酸菌の一次組換えの様子を示した図である。
【図3】酢酸菌の二次組換えの様子を示した図である。
【図4】PCRによる酢酸菌の二次組換え体の確認方法を示した図である。
【図5A】pSU18_ΔmotB2_up、pSU18_ΔmotB2_down、及びpΔmotB2の作製手順を示した図である。
【図5B】pΔmotB2を制限酵素HindIIIとXbaIで消化し、アガロースゲル電気泳動に供した図である。2.3kbのバンドが生じたプラスミドをpΔmotB2とした。
【図6】PCRによる酢酸菌の二次組換え体の確認方法を示した図である。
【図7A】pTK1、pTK2、及びpTK8の作製手順を示した図である。
【図7B】pTK8を制限酵素HindIIIとBamHI、又は、EcoRI単独で消化し、アガロースゲル電気泳動に供した図である。HindIIIとBamHIで消化したときに2.2kb、EcoRIで消化したときに1.1kbのバンドが生じたプラスミドをpTK8とした。
【図8】PCRによる酢酸菌の二次組換え体の確認方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の外来DNAがゲノムに挿入されていない遺伝子欠損酢酸菌株の作製方法としては、酢酸菌ゲノム中の標的遺伝子を欠損させるために、該標的遺伝子又はその一部を挟む2領域の相同配列を、タンデムに連結した配列を含むDNA断片を調製する工程(a);前記DNA断片を、薬剤耐性遺伝子及びマーカー遺伝子を有し、且つ酢酸菌の複製起点を有さないベクターに導入し、環状化DNAを調製する工程(b);前記環状化DNAを、前記標的遺伝子を有する酢酸菌に導入する工程(c);前記環状化DNAを導入した酢酸菌のうち、相同組換えにより環状化DNA全長が酢酸菌ゲノムに組み込まれた酢酸菌を、前記薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤が含まれる培地で培養することにより選択する工程(d);工程(d)で選択された薬剤耐性が付与された酢酸菌を、前記薬剤を含まない培地で培養する工程(e);前記薬剤を含まない培地で得られたコロニーのうち、マーカー遺伝子が脱落したものを選択する工程(f);を備えていれば特に制限されない。また、工程(f)の後に、さらにPCRによって標的遺伝子欠損を確認する工程(g)を含んでいても良い。
【0016】
本発明で用いられる酢酸菌としては、エタノールを酸化して酢酸を生産する細菌であれば特に制限されないが、具体的にはアセトバクター属、アシディフィリウム属、アシディスフェラ属、アシドセラ属、アシドモナス属、アサイア属、クラウロコッカス属、グルコンアセトバクター属、グルコノバクター属、コザキア属、ムリコッカス属、パラクラウロコッカス属、ロドピラ属、ロゼオコッカス属、ルブリテピダ属、ステラ属、テイココッカス属、ザヴァルジニア属等に属する酢酸菌を挙げることができ、好ましくはアセトバクター属及びグルコノバクター属に属する酢酸菌、さらに好ましくはアセトバクター・パスチュリアヌスSKU1108株及びグルコノバクター・オキシダンスATCC621H株を例示することができる。
【0017】
本発明において外来DNAとは、ある生物には本来含まれないDNA配列を有するDNA断片をいい、外部から導入されるDNAであっても、前記生物に含まれる配列を有するDNAであれば、外来DNAとはしない。したがって、本発明によって作製された外来DNAがゲノムに挿入されていない遺伝子欠損酢酸菌株は、遺伝子組換え体には該当しない。
【0018】
上記工程(a)において、酢酸菌ゲノム中の標的遺伝子は、単一の遺伝子であっても隣接する2以上の遺伝子であってもよく、該標的遺伝子を欠損させるために選択される「該標的遺伝子又はその一部」は、該標的遺伝子を欠損させるために十分な長さを有していれば特に制限されず、また、前記標的遺伝子を欠損させるために選択される「該標的遺伝子又はその一部を挟む2領域の相同配列」は、それぞれ酢酸菌において効率良く相同組換えが起こりうる長さであればよく、例えば長さ100bp〜10000bp、好ましくは長さ500bp〜1500bp、より好ましくは1000〜1300bpである。また、前記2領域の相同配列(DNA断片)を調製する方法としては、染色体DNAからのショットガンクローニング、化学合成法や、酢酸菌ゲノム中の相同配列を鋳型としたPCR法等を例示することができる。前記2領域の相同配列(DNA断片)は、PCR等により合成後それぞれを任意のクローニング用ベクターに挿入してクローニング用大腸菌等により増幅させ、配列シークエンシングにより塩基配列を確認した後に制限酵素で切り出すことにより調製してもよい。また、前記2領域の相同配列を、タンデムに連結した配列を含むDNA断片を調製する方法は、公知の方法を用いて行うことができるが、具体的には前記2領域の相同配列の連結部位が、前記2領域のいずれかに含まれる制限酵素認識配列になるように設計し、制限酵素処理とDNAリガーゼを用いたライゲーションを行うことで、効率よく前記DNA断片を調製することができる。
【0019】
上記工程(b)において、環状化DNAを調製する方法は、公知のどのような調製方法を用いてもよく、具体的には前記ベクターの5’末端及び前記DNA断片3’末端、並びに、前記ベクターの3’末端及び前記DNA断片5’末端を、それぞれ相補的な粘着末端が生じるように選択された制限酵素により切断して混合し、DNAリガーゼによりライゲーション反応を行った後に任意のクローニング用大腸菌により増幅させる方法を用いることができる。なお、前記2領域の相同配列の連結及び環状化は、順次行っても同時に行ってもよい。
【0020】
上記工程(b)において、薬剤耐性遺伝子及びマーカー遺伝子を有し、且つ酢酸菌の複製起点を有さないベクターは、さらに大腸菌の複製起点を含んでいてもよく、PCR法又は任意のクローニング用大腸菌等を用いて増幅させることができる。前記ベクターは酢酸菌の複製起点を有さないため、酢酸菌に導入しても増幅されることはないが、相同組換えによって酢酸菌ゲノムに組み込まれた場合には、酢酸菌ゲノムとともに複製することができる。また、前記薬剤耐性遺伝子としては、酢酸菌が耐性を有さない薬剤に対する耐性遺伝子であれば特に制限されず、カナマイシン耐性遺伝子を好適に例示することができる。また、マーカー遺伝子としては、酢酸菌に該遺伝子を導入しても該酢酸菌の増殖を妨げず、且つマーカー遺伝子の導入の有無が容易に検出できるものであればよく、具体的にはβ−グルクロニダーゼ遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子等を挙げることができ、特にβ−グルクロニダーゼ遺伝子を好適に例示することができる。
【0021】
上記工程(c)において、前記環状化DNAを、前記標的遺伝子を有する酢酸菌に導入する方法としては、公知の酢酸菌形質転換方法であれば特に制限されず、具体的には供与菌(大腸菌)から受容菌(酢酸菌)へのプラスミドの移行を補助する役割を有するtra遺伝子の発現プラスミドpRK2013を保持する大腸菌と、工程(b)で作製した環状化DNAを保持した大腸菌、及び、前記標的遺伝子を有する酢酸菌とを混合する方法を好適に例示することができる(Inoue, T. et al. Efficient introduction of vector plasmids into acetic acid bacteria. J. Ferment. Technol. 63, 1-4(1985)参考)。さらに、上記工程(d)において、前記環状化DNAを導入した酢酸菌を、前記ベクターに含まれる薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を含む公知の酢酸菌用平板培地で25〜35℃で1〜5日間、好ましくは30℃で2日間培養することで、一部の酢酸菌において前記環状化DNAに含まれる2ヶ所の相同配列のうち一方で相同組換えが生じ、その結果前記環状化DNAが染色体DNAに挿入された酢酸菌株(一次組換え体)のみが選択される(図2参照)。
【0022】
上記工程(d)で選択された薬剤耐性が付与された酢酸菌には、酢酸菌ゲノム中に2対の相同配列が含まれている。したがって、上記工程(e)において、上記工程(d)で選択された酢酸菌を、前記薬剤を含まない公知の酢酸菌用液体培地で25〜35℃で12〜72時間、好ましくは30℃で24時間振盪培養することにより、酢酸菌ゲノム中に前記環状化DNAを含む酢酸菌だけでなく、酢酸菌ゲノム中の2対の相同配列のうち1対で相同組換えが生じ、上記薬剤耐性遺伝子及び上記マーカー遺伝子が環状化DNAの形で酢酸菌ゲノムから脱落した酢酸菌(二次組換え体)も増殖することができる(図3参照)。なお、前記2対の相同配列のうち、上記工程(c)において環状化DNAが酢酸菌ゲノムに導入される際に相同組換えを起こした相同配列と同一の対で相同組換えが生じた場合は、酢酸菌ゲノムは環状化DNA導入前と同一の配列を有するが、他方の対で相同組換えが起こる場合、上記標的遺伝子とそれを挟む相同配列は、上記工程(a)で調製したDNA断片と置換され、該標的遺伝子が欠損した酢酸菌が得られる。その後、前記マーカー遺伝子による選択に供するために、前記薬剤を含まない公知の酢酸菌用平板培地に播種し、シングルコロニーを形成させてもよい。
【0023】
上記工程(f)において、前記薬剤を含まない培地で得られたコロニーのうち、マーカー遺伝子が脱落したものを選択する方法は、上記環状DNAに含まれるマーカー遺伝子によって決定される。具体的には、マーカー遺伝子としてβ−グルクロニダーゼ遺伝子を選択した場合、工程(e)においてX−グルクロニドを含む酢酸菌用平板培地を用いることにより、β−グルクロニダーゼ遺伝子がゲノム中に含まれる酢酸菌は青色、β−グルクロニダーゼ遺伝子がゲノムから脱落した酢酸菌は白色のコロニーを形成するために、目視により選別することができる。また、マーカー遺伝子として蛍光タンパク質遺伝子を用いた場合には、工程(e)で形成したコロニーに、該蛍光タンパク質の励起波長の光を照射した場合に、蛍光を発しないコロニーを選別することにより、マーカー遺伝子が脱落したものを選択することができる。さらに、選別されたコロニーが前記薬剤を含む培地では生育しないことを確認することにより、二次組換え体の二次選抜を行うこともできる。
【0024】
上記工程(f)により選択されたコロニーは、前記環状化DNAの酢酸菌ゲノムへの挿入と脱落が同一の相同配列で行われたことにより、酢酸菌ゲノムに変化を生じなかった酢酸菌、及び、前記環状化DNAの酢酸菌ゲノムへの挿入と脱落がそれぞれ異なる相同配列で行われたことにより、上記標的遺伝子が欠損した酢酸菌が、ほぼ同数ずつであると期待される。
【0025】
上記工程(f)で得られたコロニーのうち、目的の遺伝子欠損酢酸菌株を選別する方法は、公知の方法であれば特に制限されず、具体的には目的の表現型を有しているか否か、標的遺伝子産物を発現しているか否か、等により選別することができる。また、上記工程(g)により、公知のPCR法を用いて前記2領域を含む配列を増幅させ、増幅核酸断片の長さを比較することにより、目的の遺伝子欠損を判定しても良い。
【0026】
本発明の遺伝子欠損酢酸菌株の作製方法においては、欠損させるDNA配列は欠損させたい遺伝子の全長であっても一部であってもよい。欠損させたい遺伝子の一部を欠損させる場合には、翻訳の読み枠が合うようにDNA配列を欠損させても、翻訳の読み枠が合わなくなるようにDNA配列を欠損させてもよい。例えば、遺伝子の特定の部位以降のアミノ酸配列を破壊する場合は「翻訳の読み枠が合わなくなるように」DNA配列を欠損させても「翻訳の読み枠が合うように」DNA配列を欠損させてもよいが、遺伝子内の一部のアミノ酸配列を欠損させる場合は「翻訳の読み枠が合うように」DNA配列を欠損させる必要がある。
【0027】
本発明に特徴的な点は、従来の手法では酢酸菌ゲノム中に挿入されてしまうマーカー遺伝子を挿入せずに、遺伝子欠損株を作製できる点である。
【0028】
従来の手法では、遺伝子欠損株の選抜に用いられたマーカー遺伝子がそのまま酢酸菌ゲノム中に残存するため、二遺伝子以上の欠損株作製のためには欠損させたい遺伝子数と同数のマーカー遺伝子が必要であった。しかしながら、本発明においてマーカー遺伝子は遺伝子欠損株作製後に該遺伝子欠損株から脱落するため、複数遺伝子の欠損株を単一のマーカー遺伝子で行うことができる。したがって、本発明は多重遺伝子欠損株の作製に特に適している。
【0029】
以下実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はかかる実施例により制限されるものではない。
【実施例1】
【0030】
グルコノバクター・オキシダンスATCC621H株のmotB1遺伝子欠損株の作製
【0031】
1.PCRクローニング(pSU18_ΔmotB1_upとpJ200 の構築)
酢酸菌グルコノバクター・オキシダンスATCC621H由来のDNAを鋳型として、1×HerculaseDNAポリメラーゼ(Stratagene社製)を用いたPCR反応を行った。用いたプライマーの配列を以下に示す。
A.ΔmotB1_up_Eco(+)(5'-cggaattcaaaccgcgcgccgctcttc-3';配列番号1)
B.ΔmotB1_up_Mro(−)(5'-tttccggagcttctttgccgttctgg-3';配列番号2)
C.Go_motAB1_1(+)(5'-ggaattcccaagcgttcttaaacc-3';配列番号3)
D.Go_motAB1_2(−)(5'-gctctagagagacaggcacagtgctc-3';配列番号4)
pSU18_ΔmotB1_up構築用としてはフォワードプライマーとしてA、リバースプライマーとしてBを、pJ200構築用としてはフォワードプライマーとしてC、リバースプライマーとしてDをそれぞれ用いた。PCR反応に先立って、全てのプライマーは、ポリヌクレオチドキナーゼ(東洋紡社製)を用いて5’−リン酸化した。方法は同社の推奨プロトコールに従った。
【0032】
PCR反応は、94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、68℃で3分間の伸長反応を15サイクル行った。その後、さらに68℃で5分間の伸長反応を行った。また、PCR反応液は以下の通りに調製した。
(反応液組成)
1×Herculase 用反応液(Stratagene社製)、1×HerculaseDNAポリメラーゼ(Stratagene社製)、1ng/μl染色体DNA、250μM dNTP、320nMフォワードプライマー、320nMリバースプライマー
【0033】
PCR反応後、PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、目的のPCR産物を精製した。
【0034】
次いで、pSU18(Bartolome, B., Y. Jubete, E. Martinez, and F. de la Cruz. 1991. Construction and properties of a family of pACYC184-derived cloning vectors compatible with pBR322 and its derivatives. Gene. 102:75-78)を制限酵素SmaI(東洋紡社製)で消化後、Antarctic Phosphatase(NEB社製)で脱リン酸化した。脱リン酸化の方法は同社の推奨プロトコールに従った。その後、SmaIで消化したpSU18と前記精製したpSU18_ΔmotB1_up作製用PCR産物、及び、SmaIで消化したpSU18と前記精製したpJ200作製用PCR産物とを、それぞれモル比で1:5となるように混合し、Ligation Highキット(東洋紡社製)を用いて同社の推奨プロトコールに従って連結した(図1A)。
【0035】
連結したDNA断片を用いて、大腸菌DH5α株をInoueらの方法(Inoue, H., H. Nojima, and H. Okayama. 1990. High efficiency transformation of Escherichia coli with plasmids. Gene. 96:23-28)に従って形質転換し、25μg/mlクロラムフェニコール、10μg/ml X−galを含むLB寒天培地(0.5%酵母エキス、1%ポリペプトン、0.5%NaCl、1.2%寒天)に播種し、30℃で一晩培養した。
【0036】
生育したコロニーをLB液体培地(0.5%酵母エキス、1%ポリペプトン、0.5%NaCl)で30℃、一晩培養し、アルカリSDS法によりプラスミドを抽出した。pSU18_ΔmotB1_up作製の場合、プラスミドDNAを制限酵素EcoRI(東洋紡社製)とMroI(東洋紡社製)で消化して2.0kbのDNA断片を生じるものをpSU18_ΔmotB1_upとし、挿入配列の塩基配列を決定し、変異が入っていないことを確認した。pJ200作製の場合、プラスミドDNAを制限酵素MroIとXbaI(東洋紡社製)で消化して1.1kbのDNA断片を生じるものをpJ200とし、挿入配列の塩基配列を決定し、変異が入っていないことを確認した。
【0037】
2.pΔmotB1の構築
pK18mobGII(Katzen, F., A. Becker, M.V. Ielmini, C.G. Oddo, and L. Ielpi. 1999. New mobilizable vectors suitable for gene replacement in gram-negative bacteria and their use in mapping of the 3' end of the Xanthomonas campestris pv. campestris gum operon. Appl Environ Microbiol. 65:278-282)を制限酵素EcoRIとXbaIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、5.9kbのDNA断片を精製した。pSU18_ΔmotB1_upを制限酵素EcoRIとMroIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、1.0kbのDNA断片を精製した。pJ200を制限酵素MroIとXbaIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、1.1kbのDNA断片を精製した。得られた5.9kb、1.0kb、1.1kbのDNA断片を、モル比が1:5:5になるように混合し、Ligation Highキットを用いて上記と同様に連結した(図1A)。
【0038】
連結したDNA断片を用いて、大腸菌DH5α株をInoueらの方法に従って形質転換し、50μg/mlカナマイシン、10μg/ml X−galを含むLB寒天培地に播種し、30℃で一晩培養した。
【0039】
生育したコロニーをLB液体培地で30℃、一晩培養し、アルカリSDS法によりプラスミドを抽出した。プラスミドDNAを制限酵素EcoRIとXbaIで消化して2.1kbのDNA断片を生じるものをpΔmotB1とし、該pΔmotB1を保持した大腸菌DH5α株を酢酸菌の一次組換え体の作製に用いた(図1B)。
【0040】
3.酢酸菌の一次組換え体の作製
上記pΔmotB1を保持した大腸菌DH5α株、及び、プラスミドpRK2013を保持した大腸菌HB101株を、それぞれ50μg/mlのカナマイシンを含むLB液体培地で30℃、一晩前培養した。前培養液を終濃度1%になるように50μg/mlのカナマイシンを含むLB液体培地に継代植菌し、30℃で9.5時間培養した。一方、酢酸菌グルコノバクター・オキシダンスATCC621H株を、YPGD液体培地(0.5%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、0.5%グリセロール、0.5%グルコース)で30℃、一晩前培養した。前培養液を終濃度1%になるようにYPGD液体培地に継代植菌し、30℃で9.5時間培養した。3つの培養液それぞれから1ml分取し、室温で8000rpm、2分間遠心分離して沈殿させた菌体を、100μlの培地で再懸濁した。
【0041】
この3つの細胞懸濁液を10μlずつ混合した。0.3%CaCO3を含むYPGD寒天培地(0.5%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、0.5%グリセロール、0.5%グルコース、1.2%寒天)に、マイクロピペッターを用いて菌混合液を5μlずつ乗せ、30℃で一晩培養した。培養した菌体を0.1%(v/v)酢酸と50μg/mlのカナマイシンとを含むYPGD寒天培地に広げ、30℃で二晩培養した。生じたコロニーをもう一度,0.1%(v/v)酢酸と50μg/mlのカナマイシンとを含むYPGD寒天培地に広げ、30℃でさらに二晩培養することで二次選抜とし、ここで生じたコロニーを一次組み換え体とした(図2)。
【0042】
4.酢酸菌の二次組換え体の作製
上記酢酸菌の一次組み換え体を、2mlYPGD液体培地に植菌し、30℃で24時間振盪培養した後に、生育を確認して新たな2mlYPGD液体培地に終濃度0.1%となるように植菌した。30℃、24時間振盪培養後、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で10−5希釈し、0.3%CaCO3及び20μg/ml X−グルクロニドを含むYPGD寒天培地に100μlずつスプレッドした。2日間30℃で培養し、コロニーがある程度大きくなったら4℃に移し、青白の色の区別が付くまで約1週間保存した。その後、β−グルクロニダーゼ活性がないと期待できる白色コロニーを爪楊枝で拾い、0.3%CaCO3及び50μg/mlカナマイシンを含むYPGD寒天培地に植菌し、さらに同じ爪楊枝で0.3%CaCO3のみを含むYPGD寒天培地に植菌した。その結果、0.3%CaCO3及び50μg/mlカナマイシンを含むYPGD寒天培地では生育せず、0.3%CaCO3のみを含むYPGD寒天培地では生育する株、すなわちβ−グルクロニダーゼ陰性かつカナマイシン感受性を示す株を二次組み換え体とした(図3)。
【0043】
5.酢酸菌の二次組換え体のPCRによる確認
酢酸菌の二次組換え体をYPGD液体培地で30℃、一晩振盪培養し、染色体DNAを調製した。得られた染色体DNAを鋳型、フォワードプライマーとして上記C、リバースプライマーとして上記Dをそれぞれ用い、1×Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)を用いたPCR反応を、同社の推奨プロトコールに従って行った。PCR反応は、94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の伸長反応を25サイクル行った。その後、さらに72℃で10分間の伸長反応を行った。また、PCR反応液は以下の通りに調製した。
(反応液組成)
1×Taq用反応液(東洋紡社製)、1×Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)、1ng/μl染色体DNA、250μM dNTP、320nMフォワードプライマー、320nMリバースプライマー
【0044】
PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、2.0kbのDNA断片が得られた株を野生型、1.2kbのDNA断片が得られた株を酢酸菌ΔmotB1株とした(図4)。
【実施例2】
【0045】
グルコノバクター・オキシダンスATCC621H株のmotB2遺伝子欠損株の作製
【0046】
1.PCRクローニング(pSU18_ΔmotB2_upとpSU18_ΔmotB2_downの構築)
酢酸菌グルコノバクター・オキシダンスATCC621H由来のDNAを鋳型として、1×HerculaseDNAポリメラーゼ(Stratagene社製)を用いたPCR反応を行った。用いたプライマーの配列を以下に示す。
E.Go_motAB1_2(+)(5'-cccaagcttgtcatcgagagacaaatcccac-3';配列番号5)
F.ΔmotB2_up_Mro(−)(5'-tttccggacagggcgtccacatagcc-3';配列番号6)
G.ΔmotB2_down_Mro(+)(5'-tttccggatttgccgactaccagcctc-3';配列番号7)
H.ΔmotB2_down_Xba(−)(5'-gctctagatggcggcgttgatatagc-3';配列番号8)
pSU18_ΔmotB2_up構築用としてはフォワードプライマーとしてE、リバースプライマーとしてFを、pSU18_ΔmotB2_down構築用としてはフォワードプライマーとしてG、リバースプライマーとしてHをそれぞれ用いた。PCR反応に先立って、全てのプライマーは、ポリヌクレオチドキナーゼ(東洋紡社製)を用いて5’−リン酸化した。方法は同社の推奨プロトコールに従った。
【0047】
PCR反応は、94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、68℃で1分間の伸長反応を15サイクル行った。その後、さらに68℃で5分間の伸長反応を行った。また、PCR反応液は以下の通りに調製した。
(反応液組成)
1×Herculase 用反応液(Stratagene社製)、1×HerculaseDNAポリメラーゼ(Stratagene社製)、1ng/μl染色体DNA、250μM dNTP、320nMフォワードプライマー、320nMリバースプライマー
【0048】
PCR反応後、PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、目的のPCR産物を精製した。
【0049】
次いで、pSU18を制限酵素SmaIで消化後、Antarctic Phosphatase(NEB社製)で脱リン酸化した。脱リン酸化の方法は同社の推奨プロトコールに従った。その後、SmaIで消化したpSU18と前記精製したpSU18_ΔmotB2_up作製用PCR産物、及び、SmaIで消化したpSU18と前記精製したpSU18_ΔmotB2_down作製用PCR産物とを、それぞれモル比で1:5となるように混合し、LigationHighキット(東洋紡社製)を用いて同社の推奨プロトコールに従って連結した(図5A)。
【0050】
連結したDNA断片を用いて、大腸菌DH5α株をInoueらの方法に従って形質転換し、25μg/mlクロラムフェニコール、10μg/ml X−galを含むLB寒天培地に播種し、30℃で一晩培養した。
【0051】
生育したコロニーをLB液体培地で30℃、一晩培養し、アルカリSDS法によりプラスミドを抽出した。pSU18_ΔmotB2_up作製の場合、プラスミドDNAを制限酵素HindIII(東洋紡社製)とMroIで消化して1.3kbのDNA断片を生じるものをpSU18_ΔmotB2_upとし、挿入配列の塩基配列を決定し、変異が入っていないことを確認した。pSU18_ΔmotB2_down作製の場合、プラスミドDNAを制限酵素MroIとXbaIで消化して1.0kbのDNA断片を生じるものをpSU18_ΔmotB2_downとし、挿入配列の塩基配列を決定し、変異が入っていないことを確認した。
【0052】
2.pΔmotB2の構築
pK18mobGIIを制限酵素HindIIIとXbaIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、5.9kbのDNA断片を精製した。pSU18_ΔmotB2_upを制限酵素HindIIIとMroIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、1.3kbのDNA断片を精製した。pSU18_ΔmotB2_downを制限酵素MroIとXbaIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、1.0kbのDNA断片を精製した。得られた5.9kb、1.3kb、1.0kbのDNA断片を、モル比が1:5:5になるように混合し、Ligation Highキットを用いて上記と同様に連結した(図5A)。
【0053】
連結したDNA断片を用いて、大腸菌DH5α株をInoueらの方法に従って形質転換し、50μg/mlカナマイシン、10μg/ml X−galを含むLB寒天培地に播種し、30℃で一晩培養した。
【0054】
生育したコロニーをLB液体培地で30℃、一晩培養し、アルカリSDS法によりプラスミドを抽出した。プラスミドDNAを制限酵素HindIIIとXbaIで消化して2.3kbのDNA断片を生じるものをpΔmotB2とし、該pΔmotB2を保持した大腸菌DH5α株を酢酸菌の一次組換え体の作製に用いた(図5B)。
【0055】
3.酢酸菌の一次組換え体の作製
上記pΔmotB2を保持した大腸菌DH5α株、及び、プラスミドpRK2013を保持した大腸菌HB101株を、それぞれ50μg/mlのカナマイシンを含むLB液体培地で30℃、一晩前培養した。前培養液を終濃度1%になるように50μg/mlのカナマイシンを含むLB液体培地に継代植菌し、30℃で9.5時間培養した。一方、酢酸菌グルコノバクター・オキシダンスATCC621H株を、YPGD液体培地で30℃、一晩前培養した。前培養液を終濃度1%になるようにYPGD液体培地に継代植菌し、30℃で9.5時間培養した。3つの培養液それぞれから1ml分取し、室温で8000rpm、2分間遠心分離して沈殿させた菌体を、100μlの培地で再懸濁した。
【0056】
この3つの細胞懸濁液を10μlずつ混合した。0.3%CaCO3を含むYPGD寒天培地に、マイクロピペッターを用いて菌混合液を5μlずつ乗せ、30℃で一晩培養した。培養した菌体を0.1%(v/v)酢酸と50μg/mlのカナマイシンとを含むYPGD寒天培地に広げ、30℃で二晩培養した。生じたコロニーをもう一度,0.1%(v/v)酢酸と50μg/mlのカナマイシンとを含むYPGD寒天培地に広げ、30℃でさらに二晩培養することで二次選抜とし、ここで生じたコロニーを一次組み換え体とした。
【0057】
4.酢酸菌の二次組換え体の作製
上記酢酸菌の一次組み換え体を、2mlYPGD液体培地に植菌し、30℃で24時間振盪培養した後に、生育を確認して新たな2mlYPGD液体培地に終濃度0.1%となるように植菌した。30℃、24時間振盪培養後、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で10−5希釈し、0.3%CaCO3及び20μg/ml X−グルクロニドを含むYPGD寒天培地に100μlずつスプレッドした。2日間30℃で培養し、コロニーがある程度大きくなったら4℃に移し、青白の色の区別が付くまで約1週間保存した。その後、β−グルクロニダーゼ活性がないと期待できる白色コロニーを爪楊枝で拾い、0.3%CaCO3及び50μg/mlカナマイシンを含むYPGD寒天培地に植菌し、さらに同じ爪楊枝で0.3%CaCO3のみを含むYPGD寒天培地に植菌した。その結果、0.3%CaCO3及び50μg/mlカナマイシンを含むYPGD寒天培地では生育せず、0.3%CaCO3のみを含むYPGD寒天培地では生育する株、すなわちβ−グルクロニダーゼ陰性かつカナマイシン感受性を示す株を二次組み換え体とした。
【0058】
5.酢酸菌の二次組換え体のPCRによる確認
酢酸菌の二次組換え体をYPGD液体培地で30℃、一晩振盪培養し、染色体DNAを調製した。得られた染色体DNAを鋳型、フォワードプライマーとして上記E、リバースプライマーとしてI.Go_motAB2−4(−)(5'-gctctagattatcgcagaaatgtcagtag-3';配列番号9)をそれぞれ用い、1×Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)を用いたPCR反応を、同社の推奨プロトコールに従って行った。PCR反応は、94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の伸長反応を25サイクル行った。その後、さらに72℃で10分間の伸長反応を行った。また、PCR反応液は以下の通りに調製した。
(反応液組成)
1×Taq用反応液(東洋紡社製)、1×Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)、1ng/μl染色体DNA、250μM dNTP、320nMフォワードプライマー、320nMリバースプライマー
【0059】
PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、2.3kbのDNA断片が得られた株を野生型、1.5kbのDNA断片が得られた株を酢酸菌ΔmotB2株とした(図6)。
【実施例3】
【0060】
アセトバクター・パスチュリアヌスSKU1108株のaldH遺伝子欠損株の作製
【0061】
1.PCRクローニング(pTK1とpTK2の構築)
酢酸菌アセトバクター・パスチュリアヌスSKU1108由来のDNAを鋳型として、1×HerculaseDNAポリメラーゼ(Stratagene社製)を用いたPCR反応を行った。用いたプライマーの配列を以下に示す。
A.1108−Hin−aldF(+)(5'-aagcttgtgcacgccattgcgcattac-3';配列番号10)
B.1108−aldH−Eco(−)(5'-gaattccatggccgtaagcagaaaac-3';配列番号11)
C.1108−aldG−2923(+)(5'-tgcgtgatgatctggaccag-3';配列番号12)
D.1108−aldH−3−Bam(−)(5'-ggatccagagcattctttgctc-3';配列番号13)
pTK1構築用としてはフォワードプライマーとしてA、リバースプライマーとしてBを、pTK2構築用としてはフォワードプライマーとしてC、リバースプライマーとしてDをそれぞれ用いた。PCR反応に先立って、全てのプライマーは、ポリヌクレオチドキナーゼ(東洋紡)を用いて5’−リン酸化した。方法は同社の推奨プロトコールに従った。
【0062】
PCR反応は、94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、68℃で3分間の伸長反応を15サイクル行った。その後、さらに68℃で5分間の伸長反応を行った。また、PCR反応液は以下の通りに調製した。
(反応液組成)
1×Herculase 用反応液(Stratagene社製)、1×HerculaseDNAポリメラーゼ(Stratagene社製)、1ng/μl染色体DNA、250μM dNTP、320nMフォワードプライマー、320nMリバースプライマー
【0063】
PCR反応後、PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、目的のPCR産物を精製した。
【0064】
次いで、pT7Blue(Novagen社製)を制限酵素EcoRVI(東洋紡社製)で消化後、Antarctic Phosphatase(NEB社製)で脱リン酸化した。脱リン酸化の方法は同社の推奨プロトコールに従った。その後、EcoRVIで消化したpT7Blueと前記精製したpTK1作製用PCR産物、及び、EcoRVIで消化したpT7Blueと前記精製したpTK2作製用PCR産物とを、それぞれモル比で1:5となるように混合し、Ligation Highキット(東洋紡社製)を用いて同社の推奨プロトコールに従って連結した(図7A)。
【0065】
連結したDNA断片を用いて、大腸菌DH5α株をInoueらの方法に従って形質転換し、50μg/mlアンピシリン、10μg/ml X−galを含むLB寒天培地に播種し、30℃で一晩培養した。
【0066】
生育したコロニーをLB液体培地で30℃、一晩培養し、アルカリSDS法によりプラスミドを抽出した。pTK1作製の場合、プラスミドDNAを制限酵素EcoRIとHindIIIで消化して1.1kbのDNA断片を生じるものをpTK1とし、挿入配列の塩基配列を決定し、変異が入っていないことを確認した。pTK2作製の場合、プラスミドDNAを制限酵素EcoRIとBamHI(東洋紡)で消化して1.1kbのDNA断片を生じるものをpTK2とし、挿入配列の塩基配列を決定し、変異が入っていないことを確認した。
【0067】
2.pTK8の構築
pK18mobGIIを制限酵素HindIIIとBamHIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、5.9kbのDNA断片を精製した。pTK1を制限酵素EcoRIとHindIIIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、1.1kbのDNA断片を精製した。pTK2を制限酵素EcoRIとBamHIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、1.1kbのDNA断片を精製した。得られた5.9kb、1.1kb、1.1kbのDNA断片を、モル比が1:5:5になるように混合し、Ligation Highキットを用いて上記と同様に連結した(図7A)。
【0068】
連結したDNA断片を用いて、大腸菌DH5α株をInoueらの方法に従って形質転換し、50μg/mlカナマイシン、10μg/ml X−galを含むLB寒天培地に播種し、30℃で一晩培養した。
【0069】
生育したコロニーをLB液体培地で30℃、一晩培養し、アルカリSDS法によりプラスミドを抽出した。プラスミドDNAを制限酵素HindIIIとBamHIで消化したときに2.2kbのDNA断片を生じ、EcoRIで消化したときに1.1kbのDNA断片を生じるものをpTK8とし、該pTK8を保持した大腸菌DH5α株を酢酸菌の一次組換え体の作製に用いた(図7B)。
【0070】
3.酢酸菌の一次組換え体の作製
上記pTK8を保持した大腸菌DH5α株、及び、プラスミドpRK2013を保持した大腸菌HB101株を、それぞれ50μg/mlのカナマイシンを含むLB液体培地で30℃、一晩前培養した。前培養液を終濃度1%になるように50μg/mlのカナマイシンを含むLB液体培地に継代植菌し、30℃で9.5時間培養した。一方、酢酸菌アセトバクター・パスチュリアヌスSKU1108株を、P’液体培地(1.0%酵母エキス、1.0%ポリペプトン、2.0%グリセロール、0.5%グルコース)で30℃、一晩前培養した。前培養液を終濃度1%になるようにP’液体培地に継代植菌し、30℃で9.5時間培養した。3つの培養液それぞれから1ml分取し、室温で8000rpm、2分間遠心分離して沈殿させた菌体を、100μlの培地で再懸濁した。
【0071】
この3つの細胞懸濁液を10μlずつ混合した。0.3%CaCO3を含むP’寒天培地(1.0%酵母エキス、1.0%ポリペプトン、2.0%グリセロール、0.5%グルコース、1.2%寒天)に、マイクロピペッターを用いて菌混合液を5μlずつ乗せ、30℃で一晩培養した。培養した菌体を0.1%(v/v)酢酸と50μg/mlのカナマイシンとを含むP’寒天培地に広げ、30℃で二晩培養した。生じたコロニーをもう一度,0.1%(v/v)酢酸と50μg/mlのカナマイシンとを含むP’寒天培地に広げ、30℃でさらに二晩培養することで二次選抜とし、ここで生じたコロニーを一次組み換え体とした。
【0072】
4.酢酸菌の二次組換え体の作製
上記酢酸菌の一次組み換え体を、2mlP’液体培地に植菌し、30℃で24時間振盪培養した後に、生育を確認して新たな2mlP’液体培地に終濃度0.1%となるように植菌した。30℃、24時間振盪培養後、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で10−5希釈し、0.3%CaCO3及び40μg/ml X−グルクロニドを含むP’寒天培地に100μlずつスプレッドし、青白の色の区別が付くまで30℃で5日間培養した。その後、β−グルクロニダーゼ活性がないと期待できる白色コロニーを爪楊枝で拾い、0.3%CaCO3及び50μg/mlカナマイシンを含むP’寒天培地に植菌し、さらに同じ爪楊枝で0.3%CaCO3のみを含むP’寒天培地に植菌した。その結果、0.3%CaCO3及び50μg/mlカナマイシンを含むP’寒天培地では生育せず、0.3%CaCO3のみを含むP’寒天培地では生育する株、すなわちβ−グルクロニダーゼ陰性かつカナマイシン感受性を示す株を二次組み換え体とした。
【0073】
5.酢酸菌の二次組換え体のPCRによる確認
酢酸菌の二次組換え体をP’液体培地で30℃、一晩振盪培養し、染色体DNAを調製した。得られた染色体DNAを鋳型、フォワードプライマーとして上記K、リバースプライマーとしてE.1108−aldH−3−Xba(−)(5'-tctagatcccaagttcctgcgtg-3' ;配列番号14)をそれぞれ用い、1×Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)を用いたPCR反応を、同社の推奨プロトコールに従って行った。PCR反応は、94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の伸長反応を25サイクル行った。その後、さらに72℃で10分間の伸長反応を行った。また、PCR反応液は以下の通りに調製した。
(反応液組成)
1×Taq用反応液(東洋紡社製)、1×Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)、1ng/μl染色体DNA、250μM dNTP、320nMフォワードプライマー、320nMリバースプライマー
【0074】
PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、3.0kbのDNA断片が得られた株を野生型、0.9kbのDNA断片が得られた株をアセトバクター・パスチュリアヌスSKU1108ΔaldH株とした(図8)。
【0075】
以上の結果から、本発明を用いることで外来DNAを挿入しない酢酸菌の遺伝子欠損株を高効率で取得できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明により、従来は外来DNAを残すことでしかなされていなかった酢酸菌の遺伝子破壊が、外来DNAを残さずにできるようになった。本手法を用いて作製した酢酸菌は遺伝子組換え体ではないために、消費者イメージを損なうことなしに食品や食品添加物の作製に用いることができる。また、従来は多重遺伝子変異体作製のためには欠損させたい遺伝子数と同数のマーカー遺伝子が必要だったが、本手法を用いることで単一のマーカー遺伝子のみで多重遺伝子変異体を作製できるようになるため、任意の数の遺伝子を欠損させることが可能になる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、外来DNAがゲノムに挿入されていない遺伝子欠損酢酸菌株の作製方法、詳しくは、標的遺伝子を欠損させるために選択された任意の2領域の相同配列をタンデムに連結した配列、薬剤耐性遺伝子、及びマーカー遺伝子を有する環状化DNAを酢酸菌に導入し、相同組換えを生じさせることにより、外来DNAを挿入しない酢酸菌の遺伝子欠損株及び多重遺伝子欠損株を、高効率で取得することを目的とした外来DNAがゲノムに挿入されていない遺伝子欠損酢酸菌株の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸菌は、食酢製造に広く利用されている微生物であり、特にアセトバクター属及びグルコンアセトバクター属に属する酢酸菌が工業的な食酢製造に用いられている。また、グルコノバクター属に属する酢酸菌は、食酢製造だけでなく、ビタミンCの製造、D−アラビトールからのD−キシルロース及びキシリトールの製造等、食品製造に広く用いられている、産業上有用な微生物である。
【0003】
酢酸菌からさらに優良な菌株の育種を行うためには、特定の遺伝子を欠損させることが一つの有効な手段である。例えば、特開2008−206413号公報には、酢酸菌において、クォーラムセンシンングに関わる遺伝子としてアシルホモセリンラクトン合成酵素遺伝子を見い出し、該遺伝子に薬剤耐性遺伝子を挿入することで遺伝子を欠損或いは機能低下させ、高酢酸濃度の食酢を効率良く製造できる酢酸菌を作製したことが開示されている。
【0004】
また、酢酸菌の遺伝子欠損法としては、薬剤耐性遺伝子及びマーカー遺伝子を保持したベクターを酢酸菌に導入し、相同組換えにより薬剤耐性遺伝子を標的遺伝子中に導入することで標的遺伝子を破壊する手法が広く用いられている。この手法は、前記薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を含む培地で酢酸菌を培養することで、遺伝子欠損株を効率良く取得できる。一方で、この手法では、外来DNAが酢酸菌のゲノムDNA中に挿入されるため、得られた遺伝子欠損株は遺伝子組換え体に該当し、食品製造への利用が制限されるという問題点がある。
【0005】
前記問題点を解決するため、特開2010−57406号公報には、外来遺伝子を導入しない遺伝子欠損細菌株の作製方法が開示されている。しかしながら、前記手法は、遺伝子欠損細菌株の選抜方法が、個々のコロニーに対するNested-PCR法のみであり、選抜の効率が非常に悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−206413号公報
【特許文献2】特開2010−57406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
背景技術で述べた通り、従来の酢酸菌遺伝子欠損法には、(i)外来遺伝子が酢酸菌のゲノムDNA中に挿入されるため、遺伝子組換え体として判断されること;及び、(ii)外来遺伝子を挿入しない遺伝子欠損細菌株の作製方法においては、遺伝子欠損株の簡便な選抜方法が存在しないこと、という問題点が存在する。本発明の課題は、酢酸菌のゲノムDNAに外来DNAを挿入することなしに作製された遺伝子欠損酢酸菌株を、より高効率で取得できる遺伝子欠損酢酸菌株作製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、酢酸菌DNA中の、標的遺伝子を欠損させるために選択された任意の2点の相同配列をタンデムに連結した配列を有するDNA断片を、薬剤耐性遺伝子、マーカー遺伝子を含み、酢酸菌の菌体内では複製されないベクターに挿入することにより、環状化DNAを作製した。前記環状化DNAを酢酸菌に導入し、前記薬剤耐性遺伝子に対応した薬剤を含む培地で培養することにより、酢酸菌のゲノムDNAと環状化DNAとの間で相同組換えが起こり、環状化DNA全長が酢酸菌のゲノムDNAに挿入された酢酸菌株が得られる。さらに、前記環状化DNA全長が酢酸菌のゲノムDNAに挿入された酢酸菌株を、前記薬剤を含まない平板培地で培養した。本発明者らは、環状化DNAに由来する配列を含む酢酸菌DNA内で、再度相同組換えが起こった結果、標的遺伝子が環状化DNAと共に脱落した酢酸菌株を、前記平板培養で生じたコロニーのうち、マーカー遺伝子を欠損した酢酸菌株を選択することで高効率に選抜できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は(1)以下のステップ(a)〜(f)を備えたことを特徴とする外来DNAがゲノムに挿入されていない遺伝子欠損酢酸菌株の作製方法に関する。
(a)酢酸菌ゲノム中の標的遺伝子を欠損させるために、該標的遺伝子又はその一部を挟む2領域の相同配列を、タンデムに連結した配列を含むDNA断片を調製するステップ;
(b)前記DNA断片を、薬剤耐性遺伝子及びマーカー遺伝子を有し、且つ酢酸菌の複製起点を有さないベクターに導入し、環状化DNAを調製するステップ;
(c)前記環状化DNAを、前記標的遺伝子を有する酢酸菌に導入するステップ;
(d)前記環状化DNAを導入した酢酸菌のうち、相同組換えにより環状化DNA全長が酢酸菌ゲノムに組み込まれた酢酸菌を、前記薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤が含まれる培地で培養することにより選択するステップ;
(e)工程(d)で選択された薬剤耐性が付与された酢酸菌を、前記薬剤を含まない培地で培養するステップ;
(f)前記薬剤を含まない培地で得られたコロニーのうち、マーカー遺伝子が脱落したものを選択するステップ;
【0010】
また、本発明は、(2)工程(f)の後に、さらに以下の工程(g)を備えたことを特徴とする上記(1)に記載の作製方法に関する。
(g)PCRによって標的遺伝子欠損を確認するステップ;
【0011】
さらに、本発明は、(3)酢酸菌が、グルコノバクター属又はアセトバクター属に属することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の作製方法や、(4)マーカー遺伝子が、β−グルクロニダーゼ遺伝子であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の作製方法や、(5)薬剤耐性遺伝子が、カナマイシン耐性遺伝子であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の作製方法や、(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法を、異なる標的遺伝子について複数回繰り返すことにより、2以上の遺伝子を欠損させることを特徴とする酢酸菌多重遺伝子欠損株の作製方法や、(7)上記(6)に記載の方法によって作製されることを特徴とする多重遺伝子欠損酢酸菌株に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遺伝子欠損酢酸菌株作製法によると、高効率で、外来DNAを挿入することなしに遺伝子欠損酢酸菌株を取得できる。本発明を用いて作製された遺伝子欠損酢酸菌株は、遺伝子組換え体に該当しないため、前記菌株は非遺伝子組換え体として、高付加価値の食品製造に用いることができる。
【0013】
また、従来技術に基づく、外来DNAが挿入されない遺伝子欠損細菌株作製法(特開2010−57406号公報)は、遺伝子欠損株の選抜効率が極度に低いため、複数の遺伝子を欠損させるのは困難であるのに対し、本発明は、複数の遺伝子を欠損させる際に優れた手法である。すなわち、従来の外来DNAを標的遺伝子に挿入する方法では、異なる選択方法を有するマーカー遺伝子を、欠損させたい遺伝子数と同数必要としたのに対し、本発明では外来DNAは酢酸菌のゲノムDNA中には残らないため、単一のマーカー遺伝子により複数の遺伝子を欠損させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】pSU18_ΔmotB1_up、pJ200、及びpΔmotB1の作製手順を示した図である。
【図1B】pΔmotB1を制限酵素EcoRIとXbaIで消化し、アガロースゲル電気泳動に供した図である。2.1kbのバンドが生じたプラスミドをpΔmotB1とした。
【図2】酢酸菌の一次組換えの様子を示した図である。
【図3】酢酸菌の二次組換えの様子を示した図である。
【図4】PCRによる酢酸菌の二次組換え体の確認方法を示した図である。
【図5A】pSU18_ΔmotB2_up、pSU18_ΔmotB2_down、及びpΔmotB2の作製手順を示した図である。
【図5B】pΔmotB2を制限酵素HindIIIとXbaIで消化し、アガロースゲル電気泳動に供した図である。2.3kbのバンドが生じたプラスミドをpΔmotB2とした。
【図6】PCRによる酢酸菌の二次組換え体の確認方法を示した図である。
【図7A】pTK1、pTK2、及びpTK8の作製手順を示した図である。
【図7B】pTK8を制限酵素HindIIIとBamHI、又は、EcoRI単独で消化し、アガロースゲル電気泳動に供した図である。HindIIIとBamHIで消化したときに2.2kb、EcoRIで消化したときに1.1kbのバンドが生じたプラスミドをpTK8とした。
【図8】PCRによる酢酸菌の二次組換え体の確認方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の外来DNAがゲノムに挿入されていない遺伝子欠損酢酸菌株の作製方法としては、酢酸菌ゲノム中の標的遺伝子を欠損させるために、該標的遺伝子又はその一部を挟む2領域の相同配列を、タンデムに連結した配列を含むDNA断片を調製する工程(a);前記DNA断片を、薬剤耐性遺伝子及びマーカー遺伝子を有し、且つ酢酸菌の複製起点を有さないベクターに導入し、環状化DNAを調製する工程(b);前記環状化DNAを、前記標的遺伝子を有する酢酸菌に導入する工程(c);前記環状化DNAを導入した酢酸菌のうち、相同組換えにより環状化DNA全長が酢酸菌ゲノムに組み込まれた酢酸菌を、前記薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤が含まれる培地で培養することにより選択する工程(d);工程(d)で選択された薬剤耐性が付与された酢酸菌を、前記薬剤を含まない培地で培養する工程(e);前記薬剤を含まない培地で得られたコロニーのうち、マーカー遺伝子が脱落したものを選択する工程(f);を備えていれば特に制限されない。また、工程(f)の後に、さらにPCRによって標的遺伝子欠損を確認する工程(g)を含んでいても良い。
【0016】
本発明で用いられる酢酸菌としては、エタノールを酸化して酢酸を生産する細菌であれば特に制限されないが、具体的にはアセトバクター属、アシディフィリウム属、アシディスフェラ属、アシドセラ属、アシドモナス属、アサイア属、クラウロコッカス属、グルコンアセトバクター属、グルコノバクター属、コザキア属、ムリコッカス属、パラクラウロコッカス属、ロドピラ属、ロゼオコッカス属、ルブリテピダ属、ステラ属、テイココッカス属、ザヴァルジニア属等に属する酢酸菌を挙げることができ、好ましくはアセトバクター属及びグルコノバクター属に属する酢酸菌、さらに好ましくはアセトバクター・パスチュリアヌスSKU1108株及びグルコノバクター・オキシダンスATCC621H株を例示することができる。
【0017】
本発明において外来DNAとは、ある生物には本来含まれないDNA配列を有するDNA断片をいい、外部から導入されるDNAであっても、前記生物に含まれる配列を有するDNAであれば、外来DNAとはしない。したがって、本発明によって作製された外来DNAがゲノムに挿入されていない遺伝子欠損酢酸菌株は、遺伝子組換え体には該当しない。
【0018】
上記工程(a)において、酢酸菌ゲノム中の標的遺伝子は、単一の遺伝子であっても隣接する2以上の遺伝子であってもよく、該標的遺伝子を欠損させるために選択される「該標的遺伝子又はその一部」は、該標的遺伝子を欠損させるために十分な長さを有していれば特に制限されず、また、前記標的遺伝子を欠損させるために選択される「該標的遺伝子又はその一部を挟む2領域の相同配列」は、それぞれ酢酸菌において効率良く相同組換えが起こりうる長さであればよく、例えば長さ100bp〜10000bp、好ましくは長さ500bp〜1500bp、より好ましくは1000〜1300bpである。また、前記2領域の相同配列(DNA断片)を調製する方法としては、染色体DNAからのショットガンクローニング、化学合成法や、酢酸菌ゲノム中の相同配列を鋳型としたPCR法等を例示することができる。前記2領域の相同配列(DNA断片)は、PCR等により合成後それぞれを任意のクローニング用ベクターに挿入してクローニング用大腸菌等により増幅させ、配列シークエンシングにより塩基配列を確認した後に制限酵素で切り出すことにより調製してもよい。また、前記2領域の相同配列を、タンデムに連結した配列を含むDNA断片を調製する方法は、公知の方法を用いて行うことができるが、具体的には前記2領域の相同配列の連結部位が、前記2領域のいずれかに含まれる制限酵素認識配列になるように設計し、制限酵素処理とDNAリガーゼを用いたライゲーションを行うことで、効率よく前記DNA断片を調製することができる。
【0019】
上記工程(b)において、環状化DNAを調製する方法は、公知のどのような調製方法を用いてもよく、具体的には前記ベクターの5’末端及び前記DNA断片3’末端、並びに、前記ベクターの3’末端及び前記DNA断片5’末端を、それぞれ相補的な粘着末端が生じるように選択された制限酵素により切断して混合し、DNAリガーゼによりライゲーション反応を行った後に任意のクローニング用大腸菌により増幅させる方法を用いることができる。なお、前記2領域の相同配列の連結及び環状化は、順次行っても同時に行ってもよい。
【0020】
上記工程(b)において、薬剤耐性遺伝子及びマーカー遺伝子を有し、且つ酢酸菌の複製起点を有さないベクターは、さらに大腸菌の複製起点を含んでいてもよく、PCR法又は任意のクローニング用大腸菌等を用いて増幅させることができる。前記ベクターは酢酸菌の複製起点を有さないため、酢酸菌に導入しても増幅されることはないが、相同組換えによって酢酸菌ゲノムに組み込まれた場合には、酢酸菌ゲノムとともに複製することができる。また、前記薬剤耐性遺伝子としては、酢酸菌が耐性を有さない薬剤に対する耐性遺伝子であれば特に制限されず、カナマイシン耐性遺伝子を好適に例示することができる。また、マーカー遺伝子としては、酢酸菌に該遺伝子を導入しても該酢酸菌の増殖を妨げず、且つマーカー遺伝子の導入の有無が容易に検出できるものであればよく、具体的にはβ−グルクロニダーゼ遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子等を挙げることができ、特にβ−グルクロニダーゼ遺伝子を好適に例示することができる。
【0021】
上記工程(c)において、前記環状化DNAを、前記標的遺伝子を有する酢酸菌に導入する方法としては、公知の酢酸菌形質転換方法であれば特に制限されず、具体的には供与菌(大腸菌)から受容菌(酢酸菌)へのプラスミドの移行を補助する役割を有するtra遺伝子の発現プラスミドpRK2013を保持する大腸菌と、工程(b)で作製した環状化DNAを保持した大腸菌、及び、前記標的遺伝子を有する酢酸菌とを混合する方法を好適に例示することができる(Inoue, T. et al. Efficient introduction of vector plasmids into acetic acid bacteria. J. Ferment. Technol. 63, 1-4(1985)参考)。さらに、上記工程(d)において、前記環状化DNAを導入した酢酸菌を、前記ベクターに含まれる薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を含む公知の酢酸菌用平板培地で25〜35℃で1〜5日間、好ましくは30℃で2日間培養することで、一部の酢酸菌において前記環状化DNAに含まれる2ヶ所の相同配列のうち一方で相同組換えが生じ、その結果前記環状化DNAが染色体DNAに挿入された酢酸菌株(一次組換え体)のみが選択される(図2参照)。
【0022】
上記工程(d)で選択された薬剤耐性が付与された酢酸菌には、酢酸菌ゲノム中に2対の相同配列が含まれている。したがって、上記工程(e)において、上記工程(d)で選択された酢酸菌を、前記薬剤を含まない公知の酢酸菌用液体培地で25〜35℃で12〜72時間、好ましくは30℃で24時間振盪培養することにより、酢酸菌ゲノム中に前記環状化DNAを含む酢酸菌だけでなく、酢酸菌ゲノム中の2対の相同配列のうち1対で相同組換えが生じ、上記薬剤耐性遺伝子及び上記マーカー遺伝子が環状化DNAの形で酢酸菌ゲノムから脱落した酢酸菌(二次組換え体)も増殖することができる(図3参照)。なお、前記2対の相同配列のうち、上記工程(c)において環状化DNAが酢酸菌ゲノムに導入される際に相同組換えを起こした相同配列と同一の対で相同組換えが生じた場合は、酢酸菌ゲノムは環状化DNA導入前と同一の配列を有するが、他方の対で相同組換えが起こる場合、上記標的遺伝子とそれを挟む相同配列は、上記工程(a)で調製したDNA断片と置換され、該標的遺伝子が欠損した酢酸菌が得られる。その後、前記マーカー遺伝子による選択に供するために、前記薬剤を含まない公知の酢酸菌用平板培地に播種し、シングルコロニーを形成させてもよい。
【0023】
上記工程(f)において、前記薬剤を含まない培地で得られたコロニーのうち、マーカー遺伝子が脱落したものを選択する方法は、上記環状DNAに含まれるマーカー遺伝子によって決定される。具体的には、マーカー遺伝子としてβ−グルクロニダーゼ遺伝子を選択した場合、工程(e)においてX−グルクロニドを含む酢酸菌用平板培地を用いることにより、β−グルクロニダーゼ遺伝子がゲノム中に含まれる酢酸菌は青色、β−グルクロニダーゼ遺伝子がゲノムから脱落した酢酸菌は白色のコロニーを形成するために、目視により選別することができる。また、マーカー遺伝子として蛍光タンパク質遺伝子を用いた場合には、工程(e)で形成したコロニーに、該蛍光タンパク質の励起波長の光を照射した場合に、蛍光を発しないコロニーを選別することにより、マーカー遺伝子が脱落したものを選択することができる。さらに、選別されたコロニーが前記薬剤を含む培地では生育しないことを確認することにより、二次組換え体の二次選抜を行うこともできる。
【0024】
上記工程(f)により選択されたコロニーは、前記環状化DNAの酢酸菌ゲノムへの挿入と脱落が同一の相同配列で行われたことにより、酢酸菌ゲノムに変化を生じなかった酢酸菌、及び、前記環状化DNAの酢酸菌ゲノムへの挿入と脱落がそれぞれ異なる相同配列で行われたことにより、上記標的遺伝子が欠損した酢酸菌が、ほぼ同数ずつであると期待される。
【0025】
上記工程(f)で得られたコロニーのうち、目的の遺伝子欠損酢酸菌株を選別する方法は、公知の方法であれば特に制限されず、具体的には目的の表現型を有しているか否か、標的遺伝子産物を発現しているか否か、等により選別することができる。また、上記工程(g)により、公知のPCR法を用いて前記2領域を含む配列を増幅させ、増幅核酸断片の長さを比較することにより、目的の遺伝子欠損を判定しても良い。
【0026】
本発明の遺伝子欠損酢酸菌株の作製方法においては、欠損させるDNA配列は欠損させたい遺伝子の全長であっても一部であってもよい。欠損させたい遺伝子の一部を欠損させる場合には、翻訳の読み枠が合うようにDNA配列を欠損させても、翻訳の読み枠が合わなくなるようにDNA配列を欠損させてもよい。例えば、遺伝子の特定の部位以降のアミノ酸配列を破壊する場合は「翻訳の読み枠が合わなくなるように」DNA配列を欠損させても「翻訳の読み枠が合うように」DNA配列を欠損させてもよいが、遺伝子内の一部のアミノ酸配列を欠損させる場合は「翻訳の読み枠が合うように」DNA配列を欠損させる必要がある。
【0027】
本発明に特徴的な点は、従来の手法では酢酸菌ゲノム中に挿入されてしまうマーカー遺伝子を挿入せずに、遺伝子欠損株を作製できる点である。
【0028】
従来の手法では、遺伝子欠損株の選抜に用いられたマーカー遺伝子がそのまま酢酸菌ゲノム中に残存するため、二遺伝子以上の欠損株作製のためには欠損させたい遺伝子数と同数のマーカー遺伝子が必要であった。しかしながら、本発明においてマーカー遺伝子は遺伝子欠損株作製後に該遺伝子欠損株から脱落するため、複数遺伝子の欠損株を単一のマーカー遺伝子で行うことができる。したがって、本発明は多重遺伝子欠損株の作製に特に適している。
【0029】
以下実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はかかる実施例により制限されるものではない。
【実施例1】
【0030】
グルコノバクター・オキシダンスATCC621H株のmotB1遺伝子欠損株の作製
【0031】
1.PCRクローニング(pSU18_ΔmotB1_upとpJ200 の構築)
酢酸菌グルコノバクター・オキシダンスATCC621H由来のDNAを鋳型として、1×HerculaseDNAポリメラーゼ(Stratagene社製)を用いたPCR反応を行った。用いたプライマーの配列を以下に示す。
A.ΔmotB1_up_Eco(+)(5'-cggaattcaaaccgcgcgccgctcttc-3';配列番号1)
B.ΔmotB1_up_Mro(−)(5'-tttccggagcttctttgccgttctgg-3';配列番号2)
C.Go_motAB1_1(+)(5'-ggaattcccaagcgttcttaaacc-3';配列番号3)
D.Go_motAB1_2(−)(5'-gctctagagagacaggcacagtgctc-3';配列番号4)
pSU18_ΔmotB1_up構築用としてはフォワードプライマーとしてA、リバースプライマーとしてBを、pJ200構築用としてはフォワードプライマーとしてC、リバースプライマーとしてDをそれぞれ用いた。PCR反応に先立って、全てのプライマーは、ポリヌクレオチドキナーゼ(東洋紡社製)を用いて5’−リン酸化した。方法は同社の推奨プロトコールに従った。
【0032】
PCR反応は、94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、68℃で3分間の伸長反応を15サイクル行った。その後、さらに68℃で5分間の伸長反応を行った。また、PCR反応液は以下の通りに調製した。
(反応液組成)
1×Herculase 用反応液(Stratagene社製)、1×HerculaseDNAポリメラーゼ(Stratagene社製)、1ng/μl染色体DNA、250μM dNTP、320nMフォワードプライマー、320nMリバースプライマー
【0033】
PCR反応後、PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、目的のPCR産物を精製した。
【0034】
次いで、pSU18(Bartolome, B., Y. Jubete, E. Martinez, and F. de la Cruz. 1991. Construction and properties of a family of pACYC184-derived cloning vectors compatible with pBR322 and its derivatives. Gene. 102:75-78)を制限酵素SmaI(東洋紡社製)で消化後、Antarctic Phosphatase(NEB社製)で脱リン酸化した。脱リン酸化の方法は同社の推奨プロトコールに従った。その後、SmaIで消化したpSU18と前記精製したpSU18_ΔmotB1_up作製用PCR産物、及び、SmaIで消化したpSU18と前記精製したpJ200作製用PCR産物とを、それぞれモル比で1:5となるように混合し、Ligation Highキット(東洋紡社製)を用いて同社の推奨プロトコールに従って連結した(図1A)。
【0035】
連結したDNA断片を用いて、大腸菌DH5α株をInoueらの方法(Inoue, H., H. Nojima, and H. Okayama. 1990. High efficiency transformation of Escherichia coli with plasmids. Gene. 96:23-28)に従って形質転換し、25μg/mlクロラムフェニコール、10μg/ml X−galを含むLB寒天培地(0.5%酵母エキス、1%ポリペプトン、0.5%NaCl、1.2%寒天)に播種し、30℃で一晩培養した。
【0036】
生育したコロニーをLB液体培地(0.5%酵母エキス、1%ポリペプトン、0.5%NaCl)で30℃、一晩培養し、アルカリSDS法によりプラスミドを抽出した。pSU18_ΔmotB1_up作製の場合、プラスミドDNAを制限酵素EcoRI(東洋紡社製)とMroI(東洋紡社製)で消化して2.0kbのDNA断片を生じるものをpSU18_ΔmotB1_upとし、挿入配列の塩基配列を決定し、変異が入っていないことを確認した。pJ200作製の場合、プラスミドDNAを制限酵素MroIとXbaI(東洋紡社製)で消化して1.1kbのDNA断片を生じるものをpJ200とし、挿入配列の塩基配列を決定し、変異が入っていないことを確認した。
【0037】
2.pΔmotB1の構築
pK18mobGII(Katzen, F., A. Becker, M.V. Ielmini, C.G. Oddo, and L. Ielpi. 1999. New mobilizable vectors suitable for gene replacement in gram-negative bacteria and their use in mapping of the 3' end of the Xanthomonas campestris pv. campestris gum operon. Appl Environ Microbiol. 65:278-282)を制限酵素EcoRIとXbaIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、5.9kbのDNA断片を精製した。pSU18_ΔmotB1_upを制限酵素EcoRIとMroIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、1.0kbのDNA断片を精製した。pJ200を制限酵素MroIとXbaIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、1.1kbのDNA断片を精製した。得られた5.9kb、1.0kb、1.1kbのDNA断片を、モル比が1:5:5になるように混合し、Ligation Highキットを用いて上記と同様に連結した(図1A)。
【0038】
連結したDNA断片を用いて、大腸菌DH5α株をInoueらの方法に従って形質転換し、50μg/mlカナマイシン、10μg/ml X−galを含むLB寒天培地に播種し、30℃で一晩培養した。
【0039】
生育したコロニーをLB液体培地で30℃、一晩培養し、アルカリSDS法によりプラスミドを抽出した。プラスミドDNAを制限酵素EcoRIとXbaIで消化して2.1kbのDNA断片を生じるものをpΔmotB1とし、該pΔmotB1を保持した大腸菌DH5α株を酢酸菌の一次組換え体の作製に用いた(図1B)。
【0040】
3.酢酸菌の一次組換え体の作製
上記pΔmotB1を保持した大腸菌DH5α株、及び、プラスミドpRK2013を保持した大腸菌HB101株を、それぞれ50μg/mlのカナマイシンを含むLB液体培地で30℃、一晩前培養した。前培養液を終濃度1%になるように50μg/mlのカナマイシンを含むLB液体培地に継代植菌し、30℃で9.5時間培養した。一方、酢酸菌グルコノバクター・オキシダンスATCC621H株を、YPGD液体培地(0.5%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、0.5%グリセロール、0.5%グルコース)で30℃、一晩前培養した。前培養液を終濃度1%になるようにYPGD液体培地に継代植菌し、30℃で9.5時間培養した。3つの培養液それぞれから1ml分取し、室温で8000rpm、2分間遠心分離して沈殿させた菌体を、100μlの培地で再懸濁した。
【0041】
この3つの細胞懸濁液を10μlずつ混合した。0.3%CaCO3を含むYPGD寒天培地(0.5%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、0.5%グリセロール、0.5%グルコース、1.2%寒天)に、マイクロピペッターを用いて菌混合液を5μlずつ乗せ、30℃で一晩培養した。培養した菌体を0.1%(v/v)酢酸と50μg/mlのカナマイシンとを含むYPGD寒天培地に広げ、30℃で二晩培養した。生じたコロニーをもう一度,0.1%(v/v)酢酸と50μg/mlのカナマイシンとを含むYPGD寒天培地に広げ、30℃でさらに二晩培養することで二次選抜とし、ここで生じたコロニーを一次組み換え体とした(図2)。
【0042】
4.酢酸菌の二次組換え体の作製
上記酢酸菌の一次組み換え体を、2mlYPGD液体培地に植菌し、30℃で24時間振盪培養した後に、生育を確認して新たな2mlYPGD液体培地に終濃度0.1%となるように植菌した。30℃、24時間振盪培養後、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で10−5希釈し、0.3%CaCO3及び20μg/ml X−グルクロニドを含むYPGD寒天培地に100μlずつスプレッドした。2日間30℃で培養し、コロニーがある程度大きくなったら4℃に移し、青白の色の区別が付くまで約1週間保存した。その後、β−グルクロニダーゼ活性がないと期待できる白色コロニーを爪楊枝で拾い、0.3%CaCO3及び50μg/mlカナマイシンを含むYPGD寒天培地に植菌し、さらに同じ爪楊枝で0.3%CaCO3のみを含むYPGD寒天培地に植菌した。その結果、0.3%CaCO3及び50μg/mlカナマイシンを含むYPGD寒天培地では生育せず、0.3%CaCO3のみを含むYPGD寒天培地では生育する株、すなわちβ−グルクロニダーゼ陰性かつカナマイシン感受性を示す株を二次組み換え体とした(図3)。
【0043】
5.酢酸菌の二次組換え体のPCRによる確認
酢酸菌の二次組換え体をYPGD液体培地で30℃、一晩振盪培養し、染色体DNAを調製した。得られた染色体DNAを鋳型、フォワードプライマーとして上記C、リバースプライマーとして上記Dをそれぞれ用い、1×Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)を用いたPCR反応を、同社の推奨プロトコールに従って行った。PCR反応は、94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の伸長反応を25サイクル行った。その後、さらに72℃で10分間の伸長反応を行った。また、PCR反応液は以下の通りに調製した。
(反応液組成)
1×Taq用反応液(東洋紡社製)、1×Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)、1ng/μl染色体DNA、250μM dNTP、320nMフォワードプライマー、320nMリバースプライマー
【0044】
PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、2.0kbのDNA断片が得られた株を野生型、1.2kbのDNA断片が得られた株を酢酸菌ΔmotB1株とした(図4)。
【実施例2】
【0045】
グルコノバクター・オキシダンスATCC621H株のmotB2遺伝子欠損株の作製
【0046】
1.PCRクローニング(pSU18_ΔmotB2_upとpSU18_ΔmotB2_downの構築)
酢酸菌グルコノバクター・オキシダンスATCC621H由来のDNAを鋳型として、1×HerculaseDNAポリメラーゼ(Stratagene社製)を用いたPCR反応を行った。用いたプライマーの配列を以下に示す。
E.Go_motAB1_2(+)(5'-cccaagcttgtcatcgagagacaaatcccac-3';配列番号5)
F.ΔmotB2_up_Mro(−)(5'-tttccggacagggcgtccacatagcc-3';配列番号6)
G.ΔmotB2_down_Mro(+)(5'-tttccggatttgccgactaccagcctc-3';配列番号7)
H.ΔmotB2_down_Xba(−)(5'-gctctagatggcggcgttgatatagc-3';配列番号8)
pSU18_ΔmotB2_up構築用としてはフォワードプライマーとしてE、リバースプライマーとしてFを、pSU18_ΔmotB2_down構築用としてはフォワードプライマーとしてG、リバースプライマーとしてHをそれぞれ用いた。PCR反応に先立って、全てのプライマーは、ポリヌクレオチドキナーゼ(東洋紡社製)を用いて5’−リン酸化した。方法は同社の推奨プロトコールに従った。
【0047】
PCR反応は、94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、68℃で1分間の伸長反応を15サイクル行った。その後、さらに68℃で5分間の伸長反応を行った。また、PCR反応液は以下の通りに調製した。
(反応液組成)
1×Herculase 用反応液(Stratagene社製)、1×HerculaseDNAポリメラーゼ(Stratagene社製)、1ng/μl染色体DNA、250μM dNTP、320nMフォワードプライマー、320nMリバースプライマー
【0048】
PCR反応後、PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、目的のPCR産物を精製した。
【0049】
次いで、pSU18を制限酵素SmaIで消化後、Antarctic Phosphatase(NEB社製)で脱リン酸化した。脱リン酸化の方法は同社の推奨プロトコールに従った。その後、SmaIで消化したpSU18と前記精製したpSU18_ΔmotB2_up作製用PCR産物、及び、SmaIで消化したpSU18と前記精製したpSU18_ΔmotB2_down作製用PCR産物とを、それぞれモル比で1:5となるように混合し、LigationHighキット(東洋紡社製)を用いて同社の推奨プロトコールに従って連結した(図5A)。
【0050】
連結したDNA断片を用いて、大腸菌DH5α株をInoueらの方法に従って形質転換し、25μg/mlクロラムフェニコール、10μg/ml X−galを含むLB寒天培地に播種し、30℃で一晩培養した。
【0051】
生育したコロニーをLB液体培地で30℃、一晩培養し、アルカリSDS法によりプラスミドを抽出した。pSU18_ΔmotB2_up作製の場合、プラスミドDNAを制限酵素HindIII(東洋紡社製)とMroIで消化して1.3kbのDNA断片を生じるものをpSU18_ΔmotB2_upとし、挿入配列の塩基配列を決定し、変異が入っていないことを確認した。pSU18_ΔmotB2_down作製の場合、プラスミドDNAを制限酵素MroIとXbaIで消化して1.0kbのDNA断片を生じるものをpSU18_ΔmotB2_downとし、挿入配列の塩基配列を決定し、変異が入っていないことを確認した。
【0052】
2.pΔmotB2の構築
pK18mobGIIを制限酵素HindIIIとXbaIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、5.9kbのDNA断片を精製した。pSU18_ΔmotB2_upを制限酵素HindIIIとMroIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、1.3kbのDNA断片を精製した。pSU18_ΔmotB2_downを制限酵素MroIとXbaIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、1.0kbのDNA断片を精製した。得られた5.9kb、1.3kb、1.0kbのDNA断片を、モル比が1:5:5になるように混合し、Ligation Highキットを用いて上記と同様に連結した(図5A)。
【0053】
連結したDNA断片を用いて、大腸菌DH5α株をInoueらの方法に従って形質転換し、50μg/mlカナマイシン、10μg/ml X−galを含むLB寒天培地に播種し、30℃で一晩培養した。
【0054】
生育したコロニーをLB液体培地で30℃、一晩培養し、アルカリSDS法によりプラスミドを抽出した。プラスミドDNAを制限酵素HindIIIとXbaIで消化して2.3kbのDNA断片を生じるものをpΔmotB2とし、該pΔmotB2を保持した大腸菌DH5α株を酢酸菌の一次組換え体の作製に用いた(図5B)。
【0055】
3.酢酸菌の一次組換え体の作製
上記pΔmotB2を保持した大腸菌DH5α株、及び、プラスミドpRK2013を保持した大腸菌HB101株を、それぞれ50μg/mlのカナマイシンを含むLB液体培地で30℃、一晩前培養した。前培養液を終濃度1%になるように50μg/mlのカナマイシンを含むLB液体培地に継代植菌し、30℃で9.5時間培養した。一方、酢酸菌グルコノバクター・オキシダンスATCC621H株を、YPGD液体培地で30℃、一晩前培養した。前培養液を終濃度1%になるようにYPGD液体培地に継代植菌し、30℃で9.5時間培養した。3つの培養液それぞれから1ml分取し、室温で8000rpm、2分間遠心分離して沈殿させた菌体を、100μlの培地で再懸濁した。
【0056】
この3つの細胞懸濁液を10μlずつ混合した。0.3%CaCO3を含むYPGD寒天培地に、マイクロピペッターを用いて菌混合液を5μlずつ乗せ、30℃で一晩培養した。培養した菌体を0.1%(v/v)酢酸と50μg/mlのカナマイシンとを含むYPGD寒天培地に広げ、30℃で二晩培養した。生じたコロニーをもう一度,0.1%(v/v)酢酸と50μg/mlのカナマイシンとを含むYPGD寒天培地に広げ、30℃でさらに二晩培養することで二次選抜とし、ここで生じたコロニーを一次組み換え体とした。
【0057】
4.酢酸菌の二次組換え体の作製
上記酢酸菌の一次組み換え体を、2mlYPGD液体培地に植菌し、30℃で24時間振盪培養した後に、生育を確認して新たな2mlYPGD液体培地に終濃度0.1%となるように植菌した。30℃、24時間振盪培養後、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で10−5希釈し、0.3%CaCO3及び20μg/ml X−グルクロニドを含むYPGD寒天培地に100μlずつスプレッドした。2日間30℃で培養し、コロニーがある程度大きくなったら4℃に移し、青白の色の区別が付くまで約1週間保存した。その後、β−グルクロニダーゼ活性がないと期待できる白色コロニーを爪楊枝で拾い、0.3%CaCO3及び50μg/mlカナマイシンを含むYPGD寒天培地に植菌し、さらに同じ爪楊枝で0.3%CaCO3のみを含むYPGD寒天培地に植菌した。その結果、0.3%CaCO3及び50μg/mlカナマイシンを含むYPGD寒天培地では生育せず、0.3%CaCO3のみを含むYPGD寒天培地では生育する株、すなわちβ−グルクロニダーゼ陰性かつカナマイシン感受性を示す株を二次組み換え体とした。
【0058】
5.酢酸菌の二次組換え体のPCRによる確認
酢酸菌の二次組換え体をYPGD液体培地で30℃、一晩振盪培養し、染色体DNAを調製した。得られた染色体DNAを鋳型、フォワードプライマーとして上記E、リバースプライマーとしてI.Go_motAB2−4(−)(5'-gctctagattatcgcagaaatgtcagtag-3';配列番号9)をそれぞれ用い、1×Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)を用いたPCR反応を、同社の推奨プロトコールに従って行った。PCR反応は、94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の伸長反応を25サイクル行った。その後、さらに72℃で10分間の伸長反応を行った。また、PCR反応液は以下の通りに調製した。
(反応液組成)
1×Taq用反応液(東洋紡社製)、1×Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)、1ng/μl染色体DNA、250μM dNTP、320nMフォワードプライマー、320nMリバースプライマー
【0059】
PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、2.3kbのDNA断片が得られた株を野生型、1.5kbのDNA断片が得られた株を酢酸菌ΔmotB2株とした(図6)。
【実施例3】
【0060】
アセトバクター・パスチュリアヌスSKU1108株のaldH遺伝子欠損株の作製
【0061】
1.PCRクローニング(pTK1とpTK2の構築)
酢酸菌アセトバクター・パスチュリアヌスSKU1108由来のDNAを鋳型として、1×HerculaseDNAポリメラーゼ(Stratagene社製)を用いたPCR反応を行った。用いたプライマーの配列を以下に示す。
A.1108−Hin−aldF(+)(5'-aagcttgtgcacgccattgcgcattac-3';配列番号10)
B.1108−aldH−Eco(−)(5'-gaattccatggccgtaagcagaaaac-3';配列番号11)
C.1108−aldG−2923(+)(5'-tgcgtgatgatctggaccag-3';配列番号12)
D.1108−aldH−3−Bam(−)(5'-ggatccagagcattctttgctc-3';配列番号13)
pTK1構築用としてはフォワードプライマーとしてA、リバースプライマーとしてBを、pTK2構築用としてはフォワードプライマーとしてC、リバースプライマーとしてDをそれぞれ用いた。PCR反応に先立って、全てのプライマーは、ポリヌクレオチドキナーゼ(東洋紡)を用いて5’−リン酸化した。方法は同社の推奨プロトコールに従った。
【0062】
PCR反応は、94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、68℃で3分間の伸長反応を15サイクル行った。その後、さらに68℃で5分間の伸長反応を行った。また、PCR反応液は以下の通りに調製した。
(反応液組成)
1×Herculase 用反応液(Stratagene社製)、1×HerculaseDNAポリメラーゼ(Stratagene社製)、1ng/μl染色体DNA、250μM dNTP、320nMフォワードプライマー、320nMリバースプライマー
【0063】
PCR反応後、PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、目的のPCR産物を精製した。
【0064】
次いで、pT7Blue(Novagen社製)を制限酵素EcoRVI(東洋紡社製)で消化後、Antarctic Phosphatase(NEB社製)で脱リン酸化した。脱リン酸化の方法は同社の推奨プロトコールに従った。その後、EcoRVIで消化したpT7Blueと前記精製したpTK1作製用PCR産物、及び、EcoRVIで消化したpT7Blueと前記精製したpTK2作製用PCR産物とを、それぞれモル比で1:5となるように混合し、Ligation Highキット(東洋紡社製)を用いて同社の推奨プロトコールに従って連結した(図7A)。
【0065】
連結したDNA断片を用いて、大腸菌DH5α株をInoueらの方法に従って形質転換し、50μg/mlアンピシリン、10μg/ml X−galを含むLB寒天培地に播種し、30℃で一晩培養した。
【0066】
生育したコロニーをLB液体培地で30℃、一晩培養し、アルカリSDS法によりプラスミドを抽出した。pTK1作製の場合、プラスミドDNAを制限酵素EcoRIとHindIIIで消化して1.1kbのDNA断片を生じるものをpTK1とし、挿入配列の塩基配列を決定し、変異が入っていないことを確認した。pTK2作製の場合、プラスミドDNAを制限酵素EcoRIとBamHI(東洋紡)で消化して1.1kbのDNA断片を生じるものをpTK2とし、挿入配列の塩基配列を決定し、変異が入っていないことを確認した。
【0067】
2.pTK8の構築
pK18mobGIIを制限酵素HindIIIとBamHIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、5.9kbのDNA断片を精製した。pTK1を制限酵素EcoRIとHindIIIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、1.1kbのDNA断片を精製した。pTK2を制限酵素EcoRIとBamHIで消化後にアガロースゲル電気泳動で分離し、1.1kbのDNA断片を精製した。得られた5.9kb、1.1kb、1.1kbのDNA断片を、モル比が1:5:5になるように混合し、Ligation Highキットを用いて上記と同様に連結した(図7A)。
【0068】
連結したDNA断片を用いて、大腸菌DH5α株をInoueらの方法に従って形質転換し、50μg/mlカナマイシン、10μg/ml X−galを含むLB寒天培地に播種し、30℃で一晩培養した。
【0069】
生育したコロニーをLB液体培地で30℃、一晩培養し、アルカリSDS法によりプラスミドを抽出した。プラスミドDNAを制限酵素HindIIIとBamHIで消化したときに2.2kbのDNA断片を生じ、EcoRIで消化したときに1.1kbのDNA断片を生じるものをpTK8とし、該pTK8を保持した大腸菌DH5α株を酢酸菌の一次組換え体の作製に用いた(図7B)。
【0070】
3.酢酸菌の一次組換え体の作製
上記pTK8を保持した大腸菌DH5α株、及び、プラスミドpRK2013を保持した大腸菌HB101株を、それぞれ50μg/mlのカナマイシンを含むLB液体培地で30℃、一晩前培養した。前培養液を終濃度1%になるように50μg/mlのカナマイシンを含むLB液体培地に継代植菌し、30℃で9.5時間培養した。一方、酢酸菌アセトバクター・パスチュリアヌスSKU1108株を、P’液体培地(1.0%酵母エキス、1.0%ポリペプトン、2.0%グリセロール、0.5%グルコース)で30℃、一晩前培養した。前培養液を終濃度1%になるようにP’液体培地に継代植菌し、30℃で9.5時間培養した。3つの培養液それぞれから1ml分取し、室温で8000rpm、2分間遠心分離して沈殿させた菌体を、100μlの培地で再懸濁した。
【0071】
この3つの細胞懸濁液を10μlずつ混合した。0.3%CaCO3を含むP’寒天培地(1.0%酵母エキス、1.0%ポリペプトン、2.0%グリセロール、0.5%グルコース、1.2%寒天)に、マイクロピペッターを用いて菌混合液を5μlずつ乗せ、30℃で一晩培養した。培養した菌体を0.1%(v/v)酢酸と50μg/mlのカナマイシンとを含むP’寒天培地に広げ、30℃で二晩培養した。生じたコロニーをもう一度,0.1%(v/v)酢酸と50μg/mlのカナマイシンとを含むP’寒天培地に広げ、30℃でさらに二晩培養することで二次選抜とし、ここで生じたコロニーを一次組み換え体とした。
【0072】
4.酢酸菌の二次組換え体の作製
上記酢酸菌の一次組み換え体を、2mlP’液体培地に植菌し、30℃で24時間振盪培養した後に、生育を確認して新たな2mlP’液体培地に終濃度0.1%となるように植菌した。30℃、24時間振盪培養後、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)で10−5希釈し、0.3%CaCO3及び40μg/ml X−グルクロニドを含むP’寒天培地に100μlずつスプレッドし、青白の色の区別が付くまで30℃で5日間培養した。その後、β−グルクロニダーゼ活性がないと期待できる白色コロニーを爪楊枝で拾い、0.3%CaCO3及び50μg/mlカナマイシンを含むP’寒天培地に植菌し、さらに同じ爪楊枝で0.3%CaCO3のみを含むP’寒天培地に植菌した。その結果、0.3%CaCO3及び50μg/mlカナマイシンを含むP’寒天培地では生育せず、0.3%CaCO3のみを含むP’寒天培地では生育する株、すなわちβ−グルクロニダーゼ陰性かつカナマイシン感受性を示す株を二次組み換え体とした。
【0073】
5.酢酸菌の二次組換え体のPCRによる確認
酢酸菌の二次組換え体をP’液体培地で30℃、一晩振盪培養し、染色体DNAを調製した。得られた染色体DNAを鋳型、フォワードプライマーとして上記K、リバースプライマーとしてE.1108−aldH−3−Xba(−)(5'-tctagatcccaagttcctgcgtg-3' ;配列番号14)をそれぞれ用い、1×Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)を用いたPCR反応を、同社の推奨プロトコールに従って行った。PCR反応は、94℃で2分間の初期変性を行い、その後、94℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の伸長反応を25サイクル行った。その後、さらに72℃で10分間の伸長反応を行った。また、PCR反応液は以下の通りに調製した。
(反応液組成)
1×Taq用反応液(東洋紡社製)、1×Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)、1ng/μl染色体DNA、250μM dNTP、320nMフォワードプライマー、320nMリバースプライマー
【0074】
PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、3.0kbのDNA断片が得られた株を野生型、0.9kbのDNA断片が得られた株をアセトバクター・パスチュリアヌスSKU1108ΔaldH株とした(図8)。
【0075】
以上の結果から、本発明を用いることで外来DNAを挿入しない酢酸菌の遺伝子欠損株を高効率で取得できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明により、従来は外来DNAを残すことでしかなされていなかった酢酸菌の遺伝子破壊が、外来DNAを残さずにできるようになった。本手法を用いて作製した酢酸菌は遺伝子組換え体ではないために、消費者イメージを損なうことなしに食品や食品添加物の作製に用いることができる。また、従来は多重遺伝子変異体作製のためには欠損させたい遺伝子数と同数のマーカー遺伝子が必要だったが、本手法を用いることで単一のマーカー遺伝子のみで多重遺伝子変異体を作製できるようになるため、任意の数の遺伝子を欠損させることが可能になる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ(a)〜(f)を備えたことを特徴とする外来DNAがゲノムに挿入されていない遺伝子欠損酢酸菌株の作製方法。
(a)酢酸菌ゲノム中の標的遺伝子を欠損させるために、該標的遺伝子又はその一部を挟む2領域の相同配列を、タンデムに連結した配列を含むDNA断片を調製するステップ;
(b)前記DNA断片を、薬剤耐性遺伝子及びマーカー遺伝子を有し、且つ酢酸菌の複製起点を有さないベクターに導入し、環状化DNAを調製するステップ;
(c)前記環状化DNAを、前記標的遺伝子を有する酢酸菌に導入するステップ;
(d)前記環状化DNAを導入した酢酸菌のうち、相同組換えにより環状化DNA全長が酢酸菌ゲノムに組み込まれた酢酸菌を、前記薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤が含まれる培地で培養することにより選択するステップ;
(e)工程(d)で選択された薬剤耐性が付与された酢酸菌を、前記薬剤を含まない培地で培養するステップ;
(f)前記薬剤を含まない培地で得られたコロニーのうち、マーカー遺伝子が脱落したものを選択するステップ;
【請求項2】
工程(f)の後に、さらに以下の工程(g)を備えたことを特徴とする請求項1に記載の作製方法。
(g)PCRによって標的遺伝子欠損を確認するステップ;
【請求項3】
酢酸菌が、グルコノバクター属又はアセトバクター属に属することを特徴とする請求項1又は2に記載の作製方法。
【請求項4】
マーカー遺伝子が、β−グルクロニダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の作製方法。
【請求項5】
薬剤耐性遺伝子が、カナマイシン耐性遺伝子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の作製方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法を、異なる標的遺伝子について複数回繰り返すことにより、2以上の遺伝子を欠損させることを特徴とする酢酸菌多重遺伝子欠損株の作製方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法によって作製されることを特徴とする多重遺伝子欠損酢酸菌株。
【請求項1】
以下のステップ(a)〜(f)を備えたことを特徴とする外来DNAがゲノムに挿入されていない遺伝子欠損酢酸菌株の作製方法。
(a)酢酸菌ゲノム中の標的遺伝子を欠損させるために、該標的遺伝子又はその一部を挟む2領域の相同配列を、タンデムに連結した配列を含むDNA断片を調製するステップ;
(b)前記DNA断片を、薬剤耐性遺伝子及びマーカー遺伝子を有し、且つ酢酸菌の複製起点を有さないベクターに導入し、環状化DNAを調製するステップ;
(c)前記環状化DNAを、前記標的遺伝子を有する酢酸菌に導入するステップ;
(d)前記環状化DNAを導入した酢酸菌のうち、相同組換えにより環状化DNA全長が酢酸菌ゲノムに組み込まれた酢酸菌を、前記薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤が含まれる培地で培養することにより選択するステップ;
(e)工程(d)で選択された薬剤耐性が付与された酢酸菌を、前記薬剤を含まない培地で培養するステップ;
(f)前記薬剤を含まない培地で得られたコロニーのうち、マーカー遺伝子が脱落したものを選択するステップ;
【請求項2】
工程(f)の後に、さらに以下の工程(g)を備えたことを特徴とする請求項1に記載の作製方法。
(g)PCRによって標的遺伝子欠損を確認するステップ;
【請求項3】
酢酸菌が、グルコノバクター属又はアセトバクター属に属することを特徴とする請求項1又は2に記載の作製方法。
【請求項4】
マーカー遺伝子が、β−グルクロニダーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の作製方法。
【請求項5】
薬剤耐性遺伝子が、カナマイシン耐性遺伝子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の作製方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法を、異なる標的遺伝子について複数回繰り返すことにより、2以上の遺伝子を欠損させることを特徴とする酢酸菌多重遺伝子欠損株の作製方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法によって作製されることを特徴とする多重遺伝子欠損酢酸菌株。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【公開番号】特開2012−125164(P2012−125164A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277477(P2010−277477)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
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