説明

外気温センサの故障診断方法及び車両動作制御装置

【課題】イグニッションスイッチがオンとされてから外気温センサの故障の有無を判断するまでの間における外気温センサの検出温度の変化に関わらず、信頼性の高い故障診断を可能とする。
【解決手段】イグニッションスイッチ11がオンとされた直後のエンジン冷却水の水温が所定の温度範囲にあって、且つ、イグニッションスイッチ11がオンとされてから所定の経過時間内において予め定められた走行状態を経、さらに、イグニッションスイッチ11がオンとされてから、予め定められた走行状態が充足されるまでの間における外気温センサ1の検出温度の最小値と最大値との差が所定値を下回っている場合に、外気温センサ1の故障であると判定するものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動作制御に用いられる温度センサの故障診断方法及びその装置に係り、特に、信頼性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車両の電子制御においては、燃料噴射量などが外気温やエンジン冷却水の温度、アクセルの踏み込み等の種々のデータに基づいて適切な値に制御されるようになっており、外気温度センサは、他のセンサと共に重要な構成品である。
このため、このような自動車に設けられたセンサの故障診断が従来から種々提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
従来、自動車に設けられた外気温度センサの故障診断の一つとして、イグニッションスイッチがオンとされた直後の外気温センサによる検出温度と、その後、予め定められた所定の診断条件が成立した際の外気温センサの検出温度との差が所定以上であるか否かを判定することで外気温センサの異常を検出する方法があった。これは、特に、外気温センサが何らかの原因により、外気温度の変化に関わらず出力値がほぼ一定してしまう故障状態を判別するに適したものである。
【0003】
【特許文献1】特開11−351976号公報(第3−6頁、図1−図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来の故障診断方法においては、イグニッションスイッチがオンとされた直後から所定の診断条件が成立するまでの間における外気温センサの出力値の変化は考慮せずに、イグニッションスイッチがオンとされた直後における外気温センサの出力値と、所定の診断条件が成立した際における外気温センサの出力値との差分だけで判断しているため、場合によっては外気温センサが正常であるにも関わらず故障であるとの判定結果を生ずることもある。例えば、イグニッションスイッチがオンとされた後、外気温センサは外気温度の変化に応じて正常に出力信号を出力し、所定の診断条件が成立したと判定された時点で、丁度、その出力値が、イグニッションスイッチのオン直後の出力値との差が故障であると判定される範囲となることも有りるため、上述の従来の故障診断方法にあっては、そのような場合に正常と判定することができず、誤診断を招くという問題があった。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、従来と異なり、イグニッションスイッチがオンとされてから外気温センサの故障の有無を判断するまでの間における外気温センサの検出温度の変化に関わらず、誤診断をすることなく、信頼性の高い故障診断を行うことができる外気温センサの故障診断方法及び車両動作制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る外気温センサの故障診断方法は、
車両に搭載される外気温センサの故障診断方法であって、
イグニッションスイッチがオンとされた直後のエンジン冷却水の水温が所定の温度範囲にあって、且つ、前記イグニッションスイッチがオンとされてから所定の経過時間内において予め定められた走行状態を経、さらに、前記イグニッションスイッチがオンとされてから、前記予め定められた走行状態が充足されるまでの間における前記外気温センサの検出温度の最小値と最大値との差が所定値を下回っている場合に、前記外気温センサの故障であると判定するよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る車両動作制御装置は、
車両の動作制御のためのプログラムが実行される電子制御ユニットを有し、車両の動作制御を可能としてなる車両動作制御装置において、
外気温度を検出する外気温検出手段と、
車輌の走行速度を検出する車速検出手段と、
エンジン冷却水の水温を検出する水温検出手段とを設け、
前記電子制御ユニットは、
イグニッションスイッチがオンとされた直後に前記水温検出手段の検出信号を読み込み、エンジン冷却水の水温が所定の温度範囲にあるか否かを判定する一方、前記イグニッションスイッチがオンとされてから所定の経過時間内において予め定められた走行状態がなされたか否かを、前記外気温検出手段及び車速検出手段の検出信号に基づいて判定し、さらに、前記予め定められた走行状態が充足されるまでの間における前記外気温検出手段の検出温度の最小値と最大値との差が所定値を下回っているか否かを判定し、
前記エンジン冷却水の水温が所定の温度範囲にあると判定され、且つ、前記所定の経過時間内において予め定められた走行状態がなされたと判定され、さらに、前記予め定められた走行状態が充足されるまでの間における前記外気温検出手段の検出温度の最小値と最大値との差が所定値を下回っていると判定された場合に、前記外気温検出手段の故障であると判定するよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、イグニッションスイッチがオンとされてから、外気温検出手段の故障診断を判定する条件が満たされるまでの間における外気温検出手段の検出温度の変化も判断要素とすることにより、従来と異なり、本来は故障状態ではないにも関わらず、センサの故障と誤診断されるようなことが確実に回避でき、信頼性の高い故障診断を行うことができ、ひいては車両動作制御の信頼性向上を図ることができる。
特に、所定の走行状態を経ることによって、外気温検出手段に強制的に温度変化を生じせしめ、それによって外気温検出手段の出力変化の真偽をより確実に判断できるようにしたので、信頼性の高い故障診断ができるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図5を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における車両用制御装置の概略の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
【0009】
車両用制御装置は、電子制御ユニット101を有し、所定のプログラムの実行により、燃料噴射装置102における燃料噴射量、噴射タイミングを制御し、エンジン103を所望の駆動状態とすることができるようになっている。
なお、この図1においては、図示を簡潔にして、理解を容易とするため、エンジン103の動作制御に関する主要部のみを表しており、車両用制御装置の他の構成部分については図示を省略したものとしている。
【0010】
電子制御ユニット101は、マイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)やインターフェイス回路等(図示せず)を具備して構成されたものである。かかる電子制御ユニット101には、上述のような車両の動作制御に必要とされる、外気温センサ1、車速センサ2、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサ3の各検出信号が入力されるようになっている。
また、イグニッションスイッチ11のオン・オフに応じた信号が入力され、後述する制御処理の開始の判断等に供されるようになっている。
【0011】
図2及び図3には、電子制御ユニット101で実行される外気温センサ故障診断処理の手順を示すサブルーチンフローチャートが示されており、以下、同図を参照しつつ、その処理手順について説明する。
最初に、この外気温センサ故障診断の概略を述べれば、この故障診断は、外気温センサ1が、何らかの原因により、その検出値が殆ど変化しないような故障状態(以下、「固着状態」と称する)になったことを検出するためのものである。
しかして、電子制御ユニット101により、イグニッションスイッチ11のオンが検出されて、処理が開始されると、最初に、大気温度(外気温度)の逐次記憶が行われる(図2のステップS100参照)。
ここで、本発明の実施の形態における大気温度の逐次記憶は、この図2に示されたサブルーチン処理が実行される度毎に、外気温センサ1の検出値を電子制御ユニット101に読み込み、電子制御ユニット101の所定の記憶領域に記憶されている外気温の最大値、最小値との比較を行い、比較結果に応じて、最大値、最小値の記憶値の更新、記憶を行ってゆくものである。
【0012】
図4には、かかる大気温度の逐次記憶を、より具体的に説明するための大気温度の変化例を示す特性線図が示されており、以下、同図を参照しつつ本発明の実施の形態における大気温度の逐次記憶についてより具体的に説明する。
まず、図4において、横軸は、図2に示されたサブルーチン処理の開始時からの時間経過を表し、縦軸は、外気温度の変化を表している。
ステップS100が、最初に実行された時点を仮に、図4においてT0とすると、この時、外気温センサ1によって読み込まれた検出温度は、便宜的に最大値で、且つ、最小値として電子制御ユニット101の所定の記憶領域に記憶されることとなる。図4においては、電子制御ユニット101の所定の記憶領域に記憶される最初の最大値、最小値という意味で、「最大値0」、「最小値0」と表記してあり、最大値0=最小値0は、上述のように最大値と最小値が同一であることを意味している。
なお、以下の説明においても同様に、最大値、又は、最小値の後の昇順の数値は、先の最大値0、最小値0を基準として、何回目に更新された最大値、最小値の記憶値であるかを表すものとする。
【0013】
次に、時刻T1において、ステップS100が実行され、外気温センサ1による検出温度が、図4において、最大値1と表記された箇所の温度であるとすると、最大値1と先の最大値0(=最小値0)とが比較され、その結果、最大値1>最大値0であるため、この時の検出温度が直近の最大値0に代えて、最大値1 として電子制御ユニット101の所定の記憶領域に記憶されることとなる。すなわち、換言すれば、最大値の更新がなされることとなる。
なお、この時刻T1で検出された温度は、先の最小値0を越えているので、最小値の記憶値は更新されることなく最小値0のままとされる。
【0014】
次に、時刻T2において、ステップS100が実行され、外気温センサ1による検出温度として、図4において、最小値1と表記された箇所の温度が読み込まれたとする。
読み込み後、この最小値1と、この時点で記憶されている検出温度の最小値である最小値0とが比較される結果、最小値1<最小値0であるので、最小値0に代えて最小値1が電子制御ユニット101の所定の記憶領域に記憶され、最小値の更新がなされることとなる。
【0015】
以下、同様にして外気温センサ1による検出温度が読み込まれる度毎に、記憶されている最小値、最大値との比較がなされ、検出温度が記憶されている最大値を超える場合には、その検出温度が新たな最大値として記憶され、また、検出温度が記憶されている最小値を下回る場合には、その検出温度が新たな最小値として記憶される。このようにして、大気温度逐次記憶がなされることによって、例えば、図4の時刻T4において外気温度の最大値の記憶値は、最大値3であり、最小値の記憶値は、最小値4となる。
【0016】
再び、図2の説明に戻れば、上述のようにステップS100の実行の後は、水温検出が行われることとなる(図2のステップS200参照)。すなわち、水温センサ3の検出値が、電子制御ユニット101に読み込まれ、所定の記憶領域に一時的に記憶される。
次いで、イグニッションスイッチ11がオンとされてからの経過時間の読み込みが行われる(図2のステップS300参照)。すなわち、本発明の実施の形態においては、電子制御ユニット101内において、いわゆる公知・周知の時間計測のためのプログラムの実行によって、イグニッションスイッチ11がオンとされてからの経過時間が逐次計数されるようになっており、その経過時間がステップS300において読み込まれるようになっている。
【0017】
次いで、走行状態検出のサブルーチン処理がなされることとなる(図2のステップS400参照)。
走行状態検出は、次のような観点から行われるもので、車両が所定の走行状態を経たか否かを判定するためのものである。
従来、この種の温度センサの故障診断においては、例えば、イグニッションスイッチがオンとされた直後の温度センサの検出温度と、その後、所定の条件成立後の温度センサの検出温度との差が所定以上無い場合に、温度センサの出力値がある値にほぼ一定した状態となる固着状態であるとして故障と判定していたが、この従来の故障診断の場合、イグニッションスイッチのオン直後から所定の条件成立までの間の温度変化なんら考慮していない。
【0018】
ところが、イグニッションスイッチのオン直後から所定の条件成立まで何らかの温度変化を経た後に、温度センサが固着状態ではないにも関わらず、故障診断の判定の際に、イグニッションスイッチのオン直後における温度との差が所定以上生じない温度に至ることも有り得、上述の従来の故障診断においては、そのような場合に、温度センサが故障状態にないにも関わらず故障と診断されることがある。
【0019】
本願発明者は、かかる従来の故障診断の処理手順や温度センサの特性等を考慮し、鋭意研究の結果、イグニッションスイッチがオンとされた後、後述するようなある種の走行を繰り返すことにより、温度センサに対して十分な温度変化を生じせしめることができ、他の要因、すなわち、先のステップS200におけるエンジン冷却水の温度等と併せて固着状態か否かを判断することで、上述のような従来の誤診断を防止できることを導くに至った。以下に、図3を参照しつつ説明する走行状態検出処理は、かかる観点に基づくものである。
【0020】
以下、図3を参照しつつ具体的に説明すれば、処理が開始されると、最初に、燃料の消費量が所定量QSを越えたか否かが判定される(図3のステップS402参照)。かかる燃料消費量は、外気温センサ1の確実な固着状態を検出のため、ある程度の走行が必要であるという上述した本願発明者の研究結果に基づくもので、具体的な量は、エンジンの規模や車両の規模等に応じてシュミレーションや実験等に基づいて種々適切な値が定められるべきものである。
なお、電子制御ユニット101においては、燃料噴射装置102の動作制御のための所定のプログラムが実行されるようになっており、その動作制御の過程において、燃料消費量が把握されるものとなっているため、ステップS402における燃料消費量は、その情報を流用するようにすると良い。
【0021】
そして、ステップS402において、燃料消費量が所定量QSを越えていると判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS404の処理へ進むこととなる。一方、燃料消費量は、未だ所定量QSを越えていないと判定された場合(NOの場合)には、走行条件は満たされていない、すなわち、走行条件不成立であるとして(図4のステップS416参照)、先の図2に示されたサブルーチンへ戻ることとなる。
【0022】
ステップS404においては、車速が所定高速車速値Vhsを越えたか否かが判定されることとなる。ここで、所定高速車速値Vhsは、車両が一定速度以上の高速走行を経たか否かを判定するための基準であり、具体的な値は、先の燃料消費量の場合と同様、個々の車両の条件によって異なるものであるので、その具体的な条件の下、シュミレーションや実験等に基づいて適正値が設定されるべきものである。なお、車速が所定高速車速値Vhsを越えている間、公知・周知の時間プログラムにより、車速が所定高速車速値Vhsを越えている時間の計数が行われるようになっている。そして、その計数値は、後述する走行条件の成立と判定されるまでの間、この図3に示された一連の処理が繰り返されて、車速が所定高速車速値Vhsを越えて、その時間の計数が行われる度毎の計数値が積算されるようになっている。
【0023】
そして、ステップS404において、車速が所定高速車速値Vhsを越えたと判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS406の処理へ進むこととなる。一方、車速が所定高速車速値Vhsを未だ越えていないと判定された場合(NOの場合)には、既に述べたステップS416の処理へ進むこととなる。
【0024】
ステップS406においては、高速走行時間が所定時間Thsを越えたか否かが判定されることとなる。ここで、高速走行時間は、先にステップS404において説明した車速が所定高速車速値Vhsを越えている時間についてのこの時点までの積算値である。
そして、ステップS406において、高速走行時間が所定時間Thsを越えていると判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS408の処理へ進む一方、高速走行時間が所定時間Thsを越えていないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS404へ戻り、処理が繰り返されることとなる。
【0025】
ステップS408においては、車速が所定低速車速値Vlsを越えたか否かが判定されることとなる。ここで、所定低速車速値Vlsは、車両が一定速度を下回る低速走行を経たか否かを判定するための基準であり、具体的な値は、先の燃料消費量の場合と同様、個々の車両の条件によって異なるものであるので、その具体的な条件の下、シュミレーションや実験等に基づいて適正値が設定されるべきものである。なお、車速が所定低速車速値Vlsを下回っている間、公知・周知の時間プログラムにより、車速が所定低速車速値Vlsが下回っている時間の計数が行われるようになっている。そして、その計数値は、後述する走行条件の成立と判定されるまでの間、この図3に示された一連の処理が繰り返されて、車速が所定低速車速値Vlsを下回り、その時間の計数が行われる度毎の計数値が積算されるようになっている。
【0026】
そして、ステップS408において、車速が所定低速車速値Vlsを越えていないと判定された場合(NOの場合)には、次述するステップS410の処理へ進む一方、車速が所定低速車速値Vlsを越えたと判定された場合(YESの場合)には、既に述べたステップS416の処理へ進むこととなる。
【0027】
ステップS410においては、低速走行時間が所定時間Tlsを越えたか否かが判定されることとなる。ここで、低速走行時間は、先の高速走行時間と同様、車速が所定低速車速値Vlsを下回っている時間についてのこの時点までの積算値である。
そして、ステップS410において、低速走行時間が所定時間Tlsを越えていると判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS412の処理へ進む一方、低速走行時間が所定時間Tlsを越えていないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS408へ戻り、処理が繰り返されることとなる。
【0028】
ステップ412においては、走行パターンの繰り返しが所定基準回数Nを越えてなされたか否かが判定される。
ここで、走行パターンは、所定量Qを越える燃料消費の下、所定高速車速値Vhsを越える高速走行が、所定時間Thsを越える時間行われる一方、所定低速車速値Vlsを下回る低速走行が、所定時間Tlsを越える時間行われる走行形態を意味する。換言すれば、先のステップS402でYESと判定され、S404でYESと判定され、S406でYESと判定され、S408でNOと判定される走行状態を意味する。
【0029】
そして、ステップS412において、このような走行パターンが所定基準回数Nを越えてなされたと判定された場合(YESの場合)には、走行条件が成立したとされ(図3のステップS414参照)、先の図2に示されたサブルーチンへ戻ることとなる。一方、ステップS412において、上述のような走行パターンが未だ所定基準回数Nを越えてなされていないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS404へ戻り、一連の処理が繰り返されることとなる。
なお、所定基準回数Nとして如何なる値が適切であるかは、個々の車両の規模等の諸条件によって異なるものであるので、それぞれの具体的な条件に応じて、シュミレーションや実験等に基づいて適正値が設定されるべきものである。
【0030】
ここで、再び、図2の説明に戻れば、上述のようにステップS400のサブルーチン処理がなされた後は、大気温度の変化が有るか否かの判定が行われることとなる(図2のステップS500参照)。すなわち、電子制御ユニット101に記憶されている先に説明した外気温の最小値及び最大値(図2のステップS100参照)の差が、所定値以上あるか否かが判定されることとなる。そして、この時点における最小値と最大値の記憶値の差が所定値以上あると判定された場合(YESの場合)は、外気温センサ1は正常であるとして、通常処理、すなわち、外気温センサ1の検出値が、車両の種々の動作制御の中で必要とされる動作制御に供されることとなり、一連のサブルーチン処理が終了されることとなる。
【0031】
一方、ステップS500において、最小値と最大値の記憶値の差が所定値以上ないと判定された場合(NOの場合)は、外気温センサ1が故障の疑いがあるとして、固着判定基準が充足されているか否かが判定されることとなる(図2のステップS600)。
すなわち、本発明の実施の形態においては、外気温センサ1が固着状態にあると判定するための基準(固着判定基準)として、先のステップS200で検出されたエンジン冷却水の水温、ステップS300において計測されたイグニッションスイッチ11がオンとされてからの経過時間、及び、先のステップS400で説明した走行状態の大きく三つの要素を用いることとしており、これらの要素による総合判断により固着状態か否かの判定が行われるものとなっている。
【0032】
具体的には、エンジン冷却水の水温が、所定の温度範囲にあり、且つ、イグニッションスイッチ11がオンとされてからの経過時間が所定の経過時間内にあり、さらに、ステップS400の走行条件が成立していると判断された場合に、外気温センサ1は、固着状態にあるとされ(YESの場合)、固着状態であることの乗員への報知がなされ(図2のステップS700参照)、一連のサブルーチン処理が終了する。そして、サブルーチン終了後は、一旦、図示されないメインルーチンへ戻り、他の図示されない処理を経た後、再び、この一連のサブルーチン処理が繰り返されるものとなっている。なお、報知は、特定の態様に限定される必要はなく、警報ランプ等の点灯や、ブザー等の鳴動等適宜選択されるべきものである。
一方、ステップS600において、上述の固着判定基準が満たされていないと判定された場合(NOの場合)には、未だ固着状態と判断するに足りる状態ではないとして、先のステップS100の処理へ戻り、一連の処理が繰り返されることとなる。
【0033】
次に、本発明の実施の形態における外気温センサ故障診断処理の全体的な流れについて、図5を参照しつつ説明することとする。
最初に、図5は、外気温センサ1が固着状態と判定される場合における主要な判断要素の変化例を模式的に示した模式図であり、横軸はいずれも時間の経過を表しており、時間T0は、イグニッションスイッチ11がオンとされた時点である。
【0034】
まず、イグニッションスイッチ11がオンとされた時点において、エンジン冷却水の水温が所定の温度範囲、例えば、a〜b(℃)の範囲(図5(A)参照)にあれば、水温条件は成立することとなる。
イグニッションスイッチ11がオンとされ、車両が徐々に走行速度を増して走行が継続され、燃料消費量が時間の経過と共に増加してゆき、ある時間で所定の燃料消費量QSを越えたとすると(図5(B)参照)、この時点で燃料消費条件は成立することとなる。
【0035】
この後、さらに車両走行が継続され、所定の経過時間(図2のステップS600参照)内である時刻Tαの時点で、走行条件(図3のステップS414参照)が成立したとする(図5(C)参照)。そして、さらに、この時点までの逐次記憶された外気温(図2のステップS100参照)の最小値(f℃)と最大値(g℃)との差が所定の温度差を下回ると(図5(D)参照)、この時点で固着判定基準が充足されたこととなり、外気温センサ1が固着状態にあると判定されることとなる。
【0036】
このように本発明の実施の形態においては、所定の走行状態を経ることによって、外気温センサ1に強制的に温度変化を生じせしめるようにしたので、その出力変化の真偽をより確実に判断できるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態における外気温センサ故障診断処理が適用される車両用制御装置の一構成例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における外気温センサ故障診断処理の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図3】図2に示された外気温センサ故障診断処理において実行される走行状態検出処理の具体的手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図4】図2に示された外気温センサ故障診断処理において実行される大気温度逐次記憶の手順を説明する説明図である。
【図5】本発明の実施の形態における外気温センサ故障診断処理の概略を説明するための主要判断要素の変化を模式的に示した模式図であって、図5(A)は、エンジン冷却水の温度変化の例を模式的に示した模式図、図5(B)は、燃料消費量の例を模式的に示した模式図、図5(C)は、車速の変化例を模式的に示した模式図、図5(D)は、大気温の変化例を模式的に示した模式図である。
【符号の説明】
【0038】
1…外気温センサ
2…車速センサ
3…水温センサ
11…イグニッションスイッチ
101…電子制御ユニット
102…燃料噴射装置
103…エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される外気温センサの故障診断方法であって、
イグニッションスイッチがオンとされた直後のエンジン冷却水の水温が所定の温度範囲にあって、且つ、前記イグニッションスイッチがオンとされてから所定の経過時間内において予め定められた走行状態を経、さらに、前記イグニッションスイッチがオンとされてから、前記予め定められた走行状態が充足されるまでの間における前記外気温センサの検出温度の最小値と最大値との差が所定値を下回っている場合に、前記外気温センサの故障であると判定することを特徴とする外気温センサの故障診断方法。
【請求項2】
所定量以上の燃料が消費された状態にあって、所定の高速車速値を越えて、且つ、所定の高速走行時間を越える高速走行と、所定の低速車速値を下回って、且つ、所定の低速走行時間を越える低速走行が、所定の繰り返し回数を越えて発生した場合に、予め定められた走行状態とすることを特徴とする請求項1記載の外気温センサの故障診断方法。
【請求項3】
イグニッションスイッチがオンとされてから、予め定められた走行状態が充足されるまでの間における外気温センサの検出温度の最小値と最大値は、イグニッションスイッチがオンとされた時点から所定の経過時間内に予め定められた走行状態が充足されるまでの間、所定の間隔で外気温センサの検出温度を得、直近に検出された外気温度との比較を行い、当該直近の外気温度より新たに検出された外気温度が大きい場合に当該新たに検出された外気温度を最大値として記憶する一方、当該直近の外気温度よりも新たに検出された外気温度が小さい場合に当該新たに検出された外気温度を最小値として記憶してゆくことを繰り返して得られたものであることを特徴とする請求項2記載の外気温センサの故障診断方法。
【請求項4】
車両の動作制御のためのプログラムが実行される電子制御ユニットを有し、車両の動作制御を可能としてなる車両動作制御装置における前記電子制御ユニットにおいて実行される外気温センサ故障診断プログラムであって、
イグニッションスイッチがオンとされた直後のエンジン冷却水の水温が所定の温度範囲にあるか否かを判定するステップと、
イグニッションスイッチがオンとされてから所定の経過時間内において予め定められた走行状態を経たか否かを判定するステップと、
前記予め定められた走行状態が充足されるまでの間における外気温センサの検出温度の最小値と最大値との差が所定値を下回っているか否かを判定するステップと、
イグニッションスイッチがオンとされた直後のエンジン冷却水の水温が所定の温度範囲にあると判定され、且つ、イグニッションスイッチがオンとされてから所定の経過時間内において予め定められた走行状態を経たと判定され、さらに、前記予め定められた走行状態が充足されるまでの間における外気温センサの検出温度の最小値と最大値との差が所定値を下回っていると判定された場合に、外気温センサの故障であると判定するステップと、
を具備してなることを特徴とする外気温センサ故障診断プログラム。
【請求項5】
予め定められた走行状態を経たか否かの判定は、
所定量以上の燃料が消費された状態にあって、所定の高速車速値を越えて、且つ、所定の高速走行時間を越える高速走行と、所定の低速車速値を下回って、且つ、所定の低速走行時間を越える低速走行が、所定の繰り返し回数を越えて発生したか否かを判定することを特徴とする請求項4記載の外気温センサ故障診断プログラム。
【請求項6】
イグニッションスイッチがオンとされてから、予め定められた走行状態が充足されるまでの間における外気温センサの検出温度の最小値と最大値は、イグニッションスイッチがオンとされた時点から所定の経過時間内に予め定められた走行状態が充足されるまでの間、所定の間隔で外気温センサの検出温度を得、直近に検出された外気温度との比較を行い、当該直近の外気温度より新たに検出された外気温度が大きい場合に当該新たに検出された外気温度を最大値として記憶する一方、当該直近の外気温度よりも新たに検出された外気温度が小さい場合に当該新たに検出された外気温度を最小値として記憶してゆくことを繰り返して得られものであることを特徴とする請求項5記載の外気温センサ故障診断プログラム。
【請求項7】
車両の動作制御のためのプログラムが実行される電子制御ユニットを有し、車両の動作制御を可能としてなる車両動作制御装置において、
外気温度を検出する外気温検出手段と、
車輌の走行速度を検出する車速検出手段と、
エンジン冷却水の水温を検出する水温検出手段とを設け、
前記電子制御ユニットは、
イグニッションスイッチがオンとされた直後に前記水温検出手段の検出信号を読み込み、エンジン冷却水の水温が所定の温度範囲にあるか否かを判定する一方、前記イグニッションスイッチがオンとされてから所定の経過時間内において予め定められた走行状態がなされたか否かを、前記外気温検出手段及び車速検出手段の検出信号に基づいて判定し、さらに、前記予め定められた走行状態が充足されるまでの間における前記外気温検出手段の検出温度の最小値と最大値との差が所定値を下回っているか否かを判定し、
前記エンジン冷却水の水温が所定の温度範囲にあると判定され、且つ、前記所定の経過時間内において予め定められた走行状態がなされたと判定され、さらに、前記予め定められた走行状態が充足されるまでの間における前記外気温検出手段の検出温度の最小値と最大値との差が所定値を下回っていると判定された場合に、前記外気温検出手段の故障であると判定するよう構成されてなることを特徴とする車両動作制御装置。
【請求項8】
電子制御ユニットは、イグニッションスイッチがオンとされてから所定の経過時間内において、所定量以上の燃料が消費されたか否かを判定し、所定量以上の燃料が消費されたと判定された状態にあって、所定の高速車速値を越えて、且つ、所定の高速走行時間を越える高速走行と、所定の低速車速値を下回って、且つ、所定の低速走行時間を越える低速走行が、所定の繰り返し回数なされたか否かを判定し、所定の繰り返し回数なされたと判定された場合に、予め定められた走行状態がなされたと判定するよう構成されてなることを特徴とする請求項7記載の車両動作制御装置。
【請求項9】
電子制御ユニットは、
イグニッションスイッチがオンとされた時点から所定の経過時間内に予め定められた走行状態が充足されるまでの間、所定の間隔で外気温検出手段の検出信号を読み込み、直近に検出された外気温度との比較を行い、当該直近の外気温度より新たに検出された外気温度が大きい場合に当該新たに検出された外気温度を最大値として記憶する一方、当該直近の外気温度よりも新たに検出された外気温度が小さい場合に当該新たに検出された外気温度を最小値として逐次記憶、更新を繰り返して、イグニッションスイッチがオンとされてから予め定められた走行状態が充足されるまでの間における外気温センサの検出温度の最小値と最大値を得るよう構成されてなることを特徴とする請求項8記載の車両動作制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−101550(P2008−101550A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285247(P2006−285247)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】