説明

多孔性金属錯体及びその製造方法、並びに多孔性金属錯体を含むガス吸蔵材

【課題】十分なガス吸着性能を有する新規な多孔性金属錯体の提供。
【解決手段】亜鉛原子と下記一般式(1)及び(1)に類する配位子との配位結合によって構成されている金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体。


[上記一般式(1)中、nは1又は2を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性金属錯体及びその製造方法、並びに多孔性金属錯体を含むガス吸蔵材に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性金属錯体は、金属に配位子が配位結合した金属錯体分子の集積化によって得られる構造体であり、集積型金属錯体とも呼ばれている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
この多孔性金属錯体は、ガス吸着用の多孔質材料として知られているゼオライトや活性炭などに比べて、均一なミクロ孔を設計、制御することが可能であると考えられている。このような多孔性金属錯体をガス吸着用又はガス吸蔵用の材料として用いるために、多孔性金属錯体の構造の設計や合成方法に関する研究が精力的に行われている。(例えば、特許文献1及び非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−342249号公報
【非特許文献1】北川進著、「集積型金属錯体−クリスタルエンジニアリングからフロンティアオービタルエンジニアリングへ」、講談社(2001)
【非特許文献2】基礎錯体工学研究会、「新版 錯体化学−基礎と最新の展開」、講談社(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によれば、これまでに様々な構造の集積型金属錯体が報告されているが、その多くは配位子としてテレフタル酸やトリメシン酸といった単純な芳香族カルボン酸を用いたものである。このため、細孔表面に非局在化した正電荷を有する多孔性金属錯体の報告例は非常に少なく、それらのガス吸着特性については全く知られていなかった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、十分なガス吸着性能を有する新規な多孔性金属錯体、及びその製造方法を提供することを目的とする。また、かかる多孔性金属錯体を含み、十分なガス吸蔵量を有するガス吸蔵材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、亜鉛原子と下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される配位子との配位結合によって構成されている金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を提供する。
【0007】
【化1】


[上記一般式(1)中、nは1又は2を示す。]
【0008】
【化2】


[上記一般式(2)中、m、p及びqは、それぞれ独立に1又は2を示す。]
【0009】
このような多孔性金属錯体は、金属錯体の複数が集積されて形成された細孔構造を有しているため、この細孔構造中にガス分子を吸着することができる。したがって、十分なガス吸着性能を有する。
【0010】
本発明において、上記金属錯体が、上記一般式(1)及び上記一般式(2)で表される配位子と異なるカルボン酸を配位子として更に含有することが好ましい。配位子として、上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される配位子に加えて、上記一般式(1)及び上記一般式(2)で表される配位子と異なるカルボン酸を有する金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体は、水素ガス及び二酸化炭素ガスの吸着性能に一層優れる。
【0011】
また、本発明では、亜鉛化合物と上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される陽イオンと水又は有機溶媒の少なくとも一方とを含有する混合液を100℃以上に加熱することにより、亜鉛原子と上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される配位子との配位結合によって構成されている金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る加熱工程を有する多孔性金属錯体の製造方法を提供する。
【0012】
かかる製造方法によって、十分なガス吸着性能を有する多孔性金属錯体を得ることができる。
【0013】
本発明の多孔性金属錯体の製造方法における加熱工程では、上記混合液に上記一般式(1)及び上記一般式(2)で表される陽イオンと異なるカルボン酸を更に含有させ、該混合液を100℃以上に加熱することにより、亜鉛原子と上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される配位子との配位結合及び亜鉛原子と上記カルボン酸との配位結合によって構成されている金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得ることが好ましい。
【0014】
これによって、亜鉛原子に上記一般式(1)又は上記一般式(2)とカルボン酸とが配位結合している金属錯体が複数集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を十分高い収率で得ることができる。
【0015】
本発明ではまた、上述の多孔性金属錯体を含むガス吸蔵材を提供する。
【0016】
かかるガス吸蔵材は、上記の通り十分なガス吸着性能を有する多孔性金属錯体を含んでいるため、優れたガス吸蔵性能を有している。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、十分なガス吸着性能を有する新規な多孔性金属錯体、及びその製造方法を提供することができる。また、かかる多孔性金属錯体を含み、十分なガス吸蔵量を有するガス吸蔵材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の好適な実施形態について、場合により図面を参照しながら以下に説明する。
【0019】
本実施形態に係る多孔性金属錯体は、亜鉛原子と特定の配位子とが配位結合して構成されている金属錯体を含んでおり、この金属錯体が複数集積することによって、細孔構造を有する多孔性金属錯体が形成されている。
【0020】
本実施形態の多孔性金属錯体に含まれる金属錯体は、上記一般式(1)又は(2)で表される配位子を有する。
【0021】
上記一般式(1)で表される配位子の好適な例としては、下記式(3)及び下記式(4)で表される配位子を挙げることができる。これらの配位子が亜鉛原子に配位結合している金属錯体を含む多孔性金属錯体は、ガス吸着性能に一層優れ安定性にも優れている。
【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
上記一般式(2)で表される配位子の好適な例としては、下記式(5)の配位子を挙げることができる。この配位子が亜鉛原子に配位結合している金属錯体を含む多孔性金属錯体は、ガス吸着性能に一層優れ安定性にも優れている。
【0025】
【化5】

【0026】
本実施形態に係る多孔性金属錯体の構造は、例えば、単結晶X線構造解析によって確認することができる。
【0027】
図1は、単結晶X線構造解析による本発明の多孔性金属錯体における結晶構造の一例を示す図である。図2も、単結晶X線構造解析による本発明の多孔性金属錯体における結晶構造の別の例を示す図である。本発明の多孔性金属錯体は、亜鉛原子と上記一般式(1)又は(2)で表される配位子との配位結合により構成される金属錯体が複数集積することによって、図1及び図2に示すような結晶構造を有する多孔性金属錯体が構成されている。
【0028】
図1及び図2に示すような構造を有する多孔性金属錯体は、結晶内部に一次元的に延びる空孔や規則配列した細孔などのチャンネル構造(細孔構造)を有する。この結晶内部空間において、ガス分子を吸着したり脱着したりすることができる。
【0029】
上記のような結晶構造を有する多孔性金属錯体は、細孔構造内にガス分子を包接することにより、その結晶構造が変化し、細孔構造の形状やサイズが変化し得る。このため、ガスの種類に応じてガス分子を最適に包接することができ、単位体積あたりのガス吸着量及びガス吸蔵量を十分大きくすることができる。
【0030】
本実施形態の多孔性金属錯体は、配位子にピリジニウムを含有している。このような配位子を有する金属錯体から構成される多孔性金属錯体は、その細孔表面に非局在化した正電荷を有しているため、優れたガス吸着性能に加えて、優れたガス選択性をも備えている。例えば、上記式(3)に示す配位子を有する金属錯体が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体は、特に、水素及び二酸化炭素の吸着性能に優れている。
【0031】
このような特性を有する多孔性金属錯体は、加圧成型によりペレット化して、ガス吸蔵材として好適に用いることができる。ペレット化の方法は、工業的に一般に知られている方法を用いることできる。ただし、本実施形態の多孔性金属錯体は約400℃以上で熱分解する傾向があるため、加圧成型時の温度が400℃付近にまで上昇する方法は好ましくない。ペレット化の方法のうち、ペレタイザーによりペレット化する方法が好ましい。
【0032】
また、本実施形態の多孔性金属錯体は、ガスの貯蔵用の他、分離濃縮等の為のフィルターとして用いることができる。また、この多孔性金属錯体は、内部に細孔構造を有する多孔質体であるので、ガス吸着膜として好適に用いることができる。
【0033】
本発明の多孔性金属錯体は、上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される配位子に加えて、上記一般式(1)及び上記一般式(2)以外のカルボン酸を配位子として有することが好ましい。亜鉛と上記一般式(1)又は(2)で表される配位子との配位結合に加えて、上記亜鉛と上記一般式(1)及び上記一般式(2)以外のカルボン酸が配位結合した金属錯体が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体は、水素ガス及び二酸化炭素ガスの吸着性能に一層優れている。なお、上記一般式(1)及び上記一般式(2)以外のカルボン酸としては、芳香族にカルボキシル基が共有結合しているものが好ましい。具体的には、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメシン酸、ビフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸が好ましい。
【0034】
次に、本実施形態の多孔性金属錯体の製造方法について以下に詳細に説明する。
【0035】
本実施形態の多孔性金属錯体の製造方法は、亜鉛化合物と上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される陽イオンと水又は有機溶媒の少なくとも一方とを含む混合液を100℃以上に加熱することにより、亜鉛原子と上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される配位子との配位結合によって構成されている金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る加熱工程を有する(便宜上、この製造方法を「製造方法1」という。)。
【0036】
加熱工程では、まず、亜鉛化合物と少なくとも一部が溶媒に溶解して上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される陽イオンを生成する化合物と水又は有機溶媒の少なくとも一方の溶媒とを含む混合液を調整することができる。なお、ここで、任意で上記一般式(1)及び上記一般式(2)以外のカルボン酸をさらに混合してもよい。
【0037】
亜鉛化合物としては、亜鉛原子を含有する無機塩、有機塩などを用いることができる。このうち、溶解度の観点から、硝酸亜鉛を好適に用いることができる。
【0038】
溶解して上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される陽イオンを生成する化合物は、市販品を購入してもよいし、事前に合成することも可能である。なお、製造方法1では、溶媒に溶解して上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される陽イオンを生成する化合物のうち、一般式(1)で表される陽イオンを生成する化合物を用いることが好ましい。
【0039】
上記一般式(1)及び上記一般式(2)以外のカルボン酸としては、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメシン酸、ビフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸などの一般的なカルボン酸を用いることができる。
【0040】
有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、及びN,N−ジエチルホルムアミドを好ましく用いることができる。なお、溶媒として水を用いる場合、上記一般式(1)又は一般式(2)で表される陽イオンを生成する化合物の溶解性が低下する傾向があるため、N,N−ジメチルホルムアミド及びN,N−ジエチルホルムアミドの少なくとも一方を共溶媒として用いることが好ましい。
【0041】
各原料の混合比は、亜鉛化合物に含まれる亜鉛100質量部に対して、上記一般式(1)又は一般式(2)で表される陽イオンを生成する化合物を100〜150質量部、上記の溶媒総量を300〜400質量部とすることが好ましい。これによって、高い収率で多孔性金属錯体を得ることができる。なお、上記一般式(1)及び上記一般式(2)以外のカルボン酸を加える場合、亜鉛化合物に含まれる亜鉛100質量部に対して、該カルボン酸を100〜150質量部とすることが好ましい。
【0042】
混合液は、例えば密閉されていないフラスコを用いた開放系で通常の攪拌装置を用いて攪拌して調製することができる。また、混合液は後述するオートクレーブ中で攪拌して調整することもできる。
【0043】
こうして調製した混合液を100℃以上に加熱して、亜鉛原子と上記一般式(1)又は一般式(2)で表される配位子とが配位結合した金属錯体の複数を集積させることができる。
【0044】
加熱工程における加熱温度は、少なくとも100℃以上に加熱することが必要である。加熱温度の上限は、例えば、用いる溶媒の分解温度とすることができる。有機溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジエチルホルムアミドを用いる場合、これらの分解を抑制するため、加熱温度を180℃未満とすることが好ましい。反応の円滑な進行と溶媒の分解の抑制とを両立する観点から、加熱温度は、120℃〜160℃の範囲とすることがより好ましい。また、加熱は攪拌しながら行なうことが好ましい。これによって、多孔性金属錯体の生成反応を促進することができる。
【0045】
混合液の加熱は、例えば密閉されていないフラスコを用いた開放系で通常の攪拌装置を用いて攪拌しながら行ってもよいが、多孔性金属錯体の収率を向上する観点から、例えばオートクレーブのような密封系で行うことが好ましい。
【0046】
加熱時間は長時間であるほど好ましく、5時間以上、上述の加熱温度で反応させることがより好ましい。これによって、反応を十分に進行させて、本実施形態の多孔性金属錯体を十分に高い収率で得ることができる。
【0047】
なお、本実施形態の多孔性金属錯体の別の製造方法を以下に説明する。
【0048】
この製造方法は、亜鉛化合物と少なくとも一部が溶媒に溶解して上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される陽イオンを生成する化合物と溶媒と塩基性試薬とを混合する混合工程を有する(便宜上、この製造方法を「製造方法2」という。)。なお、製造方法2では、混合工程における各原料の混合を塩基性条件下で行なう必要がある。
【0049】
原料として用いられる亜鉛化合物及び少なくとも一部が溶媒に溶解して上記一般式(1)又は(2)で表される陽イオンを生成する化合物としては、上記製造方法1と同様のものを用いることができる。なお、任意で製造方法1と同様の上記一般式(1)及び上記一般式(2)以外のカルボン酸をさらに混合してもよい。製造方法2では、溶媒に溶解して上記一般式(1)又は上記一般式(2)で表される陽イオンを生成する化合物のうち、一般式(2)で表される陽イオンを生成する化合物を用いることが好ましい。
【0050】
溶媒としては、水、エタノール、メタノール、テトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒を用いることができる。これらは一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。好適な組み合わせとしては、水及びエタノール、水及びメタノール、並びに水及びテトラヒドロフランの組み合わせが挙げられる。このうち、水及びエタノールの組み合わせが最も好ましい。
【0051】
塩基性試薬としては、市販されている一般的な無機水酸化物塩、無機炭酸塩、トリエチルアミンなどのアルキルアミンなどを好ましく使用することができる。これらの塩基性試薬の中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミンがより好ましい。
【0052】
混合工程は、例えば密閉されていないフラスコを用いた開放系で通常の攪拌装置を用い、室温下で攪拌して行なうことができる。攪拌は、反応を十分に進行させて目的とする生成物を得るために、5時間以上行なうことが好ましい。
【0053】
製造方法2では、室温以上に加熱することなく、本実施形態の多孔性金属錯体を得ることができる。製造方法2によれば、特に上記一般式(2)で表される配位子を有する金属錯体を含む多孔性有機金属錯体を高収率で製造することができる。
【0054】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
本発明を、実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
<多孔性金属錯体の合成>
まず、下記反応式(6)及び(7)に示す反応により、多孔性金属錯体を合成するための化合物を調製した。
【0057】
【化6】

【0058】
【化7】

【0059】
具体的には、まず、2,4−ジニトロクロロベンゼン(東京化成工業株式会社製)6.1gとビピリジン(和光純薬工業株式会社製)7.8gとを、200mLのエタノールに混合して溶解し、15時間加熱還流した。析出した粉末を濾取してアセトンで3回(50mL×3回)洗浄し、4(4−ピリジル)−(2,4−ジニトロフェニル)ピリジニウムクロリドを5.6g得た。
【0060】
次に4(4−ピリジル)−(2,4−ジニトロフェニル)ピリジニウムクロリド3.0gを20mLの水に溶解して得られた水溶液を、NHPF(シグマアルドリッチ製)1.8gを60mLの水に溶解して得られた水溶液に、撹拌しながら30分間かけて滴下した。
【0061】
析出した粉末を濾取して150mLの水で洗浄し、4(4−ピリジル)−(2,4−ジニトロフェニル)ピリジニウムヘキサフルオロホスフェート2.9gを得た。(反応式(6))
【0062】
この4(4−ピリジル)−(2,4−ジニトロフェニル)ピリジニウムヘキサフルオロホスフェート0.23gと、4−アミノ安息香酸(関東化学株式会社製)0.01gと、トリエチルアミン0.11mLとを15mLのエタノール水溶液(エタノール濃度:80質量%)に溶解し、90℃で24時間加熱撹拌して反応溶液を得た。この反応溶液が室温に下がるまで放置し、その後、この反応溶液にヘキサフルオロリン酸水溶液(ヘキサフルオロリン酸濃度:60質量%)を固体が析出しなくなるまで滴下した。析出した固体を濾取して、4(4−ピリジル)−(4−カルボキシフェニル)ピリジニウムヘキサフルオロホスフェート0.17gを得た。(反応式(7))
【0063】
上述の合成を複数回繰り返して得られた4(4−ピリジル)−(4−カルボキシフェニル)ピリジニウムヘキサフルオロホスフェート0.75gと、硝酸亜鉛6水和物0.75gと、テレフタル酸0.42gと、N,N−ジメチルホルムアミド50mLとの混合液をテフロン(登録商標)製のるつぼに入れ、このるつぼをステンレスジャケットで密封した。密封したるつぼ中の混合液を120℃で48時間加熱攪拌した後、室温まで冷却し、得られた白色沈殿を濾取することにより、亜鉛原子に上記式(3)で表される配位子が配位結合した金属錯体を含む多孔性金属錯体を約1.0g得た。
【0064】
<単結晶X線構造解析>
市販の単結晶X線構造解析装置(日本ベル株式会社製、商品名:BELSORP18−Plus)を用いて、得られた多孔性金属錯体の単結晶X線構造解析を行った。図1は、単結晶X線構造解析による実施例1で得られた多孔性金属錯体の結晶構造を示す図である。
【0065】
<XRD測定>
市販のX線回折装置(株式会社リガク製、商品名:RINT2000(Ultima))を用いて、得られた多孔性金属錯体のX線回折(XRD)測定を行った。図3は、実施例1で得られた多孔性金属錯体のXRD回折パターンを示すXRDチャートである。
【0066】
<熱重量分析>
市販の熱重量分析装置(マックサイエンス社製、商品名:TG−DTA2000)を用いて、得られた多孔性金属錯体の熱重量(TG)分析を行った。図4は、実施例1で得られた多孔性金属錯体のTGチャートである。
【0067】
<水素吸蔵量の測定>
市販の水素吸蔵量測定装置((株)レスカ製)を用いて、水素吸蔵量を測定した。測定は、得られた多孔性金属錯体をサンプル管に入れ、当該サンプル管を303Kに温度調節された水槽又は液体窒素中に浸した状態で行った。図5は、実施例1で得られた多孔性金属錯体の303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフであり、図6は、実施例1で得られた多孔性金属錯体の77K(液体窒素下)における平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【0068】
<窒素吸着量の測定>
市販の吸着測定装置(日本ベル(株)製、商品名:BELSORP−max)を用いて、窒素吸着量の測定を行った。測定は、得られた多孔性金属錯体をサンプル管に入れ、当該サンプル管を液体窒素中に浸した状態で行った。図7は、実施例1で得られた多孔性金属錯体の平衡圧力と窒素吸着量との関係を示すグラフである。
【0069】
<二酸化炭素吸着量の測定>
市販のガス吸着量測定装置(Quantachrome社製、商品名:Autosorb−1−MP−GS)を用いて、二酸化炭素吸着量の測定を行った。測定は、得られた多孔性金属錯体をサンプル管に入れ、当該サンプル管を木槌で細かく砕いたドライアイスとアセトンからなるシャーベット状の混合物に浸した状態で行った。図8は、実施例1で得られた多孔性金属錯体の相対圧力と二酸化炭素吸着量との関係を示すグラフである。
【0070】
図8に示す二酸化炭素吸着量より求められる、実施例1で得られた多孔性金属錯体の細孔容積は0.19cc/gであった。一方、図5に示す水素吸蔵量の測定結果より、303K、10MPaにおける水素吸蔵量は、0.27質量%であった。これらの結果から、実施例1で得られた多孔性金属錯体の303K、10MPaにおける水素の吸着密度は、0.014g/ccであった。この吸着密度は、一般に知られている多孔質材料に比べて極めて高い数値である。
【0071】
(実施例2)
上述の通り合成した4(4−ピリジル)−(4−カルボキシフェニル)ピリジニウムヘキサフルオロホスフェート0.42gと、硝酸亜鉛6水和物0.40gと、2,6−ナフタレンジカルボン酸0.288gと、N,N−ジメチルホルムアミド50mLとの混合液をテフロン(登録商標)製のるつぼに入れ、このるつぼをステンレスジャケットで密封した。密封したるつぼ中の混合液を120℃で12時間加熱攪拌した後、室温まで冷却し、得られた白色沈殿を濾取して、亜鉛原子と上記式(3)で表される配位子とが配位結合した金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を約0.45g得た。
【0072】
実施例1と同様にして、X線回折(XRD)、熱重量分析、水素吸蔵量、窒素吸着量、二酸化炭素吸着量の測定を行った。図9は、実施例2で得られた多孔性金属錯体のXRD回折パターンを示すXRDチャートである。図10は、実施例2で得られた多孔性金属錯体のTGチャートである。図11は、実施例2で得られた多孔性金属錯体の303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。図12は、実施例2で得られた多孔性金属錯体の77K(液体窒素下)における平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。図13は、実施例2で得られた多孔性金属錯体の平衡圧力と窒素吸着量との関係を示すグラフである。図14は、実施例2で得られた多孔性金属錯体の相対圧力と二酸化炭素吸着量との関係を示すグラフである。
【0073】
図14に示す二酸化炭素吸着量の吸着量より求められる、実施例2で得られた多孔性金属錯体の細孔容積は0.094cc/gであった。一方、図11に示す水素吸蔵量の測定結果より、303K、10MPaにおける水素吸蔵量は、0.21質量%であった。これらの結果から、実施例2で得られた多孔性金属錯体の303K、10MPaにおける水素の吸着密度は、0.022g/ccであった。この吸着密度は、一般に知られている多孔質材料に比べて極めて高い数値である。
【0074】
(実施例3)
まず、実施例1と同様にして、上記反応式(6)によって、4(4−ピリジル)−(2,4−ジニトロフェニル)ピリジニウムヘキサフルオロホスフェートを合成した。そして、下記反応式(8)によって、4(4−ピリジル)−(3,5−ジカルボキシフェニル)ピリジニウムヘキサフルオロホスフェートを合成した。
【0075】
【化8】

【0076】
具体的には、4(4−ピリジル)−(2,4−ジニトロフェニル)ピリジニウムヘキサフルオロホスフェート0.23gと、5−アミノイソフタル酸(関東化学工業株式会社製)0.10gとトリエチルアミン(和光純薬工業株式会社製)0.11mLとを、エタノール水溶液(エタノール濃度:80質量%)15mLに溶解させて、90℃で24時間加熱撹拌し、反応溶液を得た。反応溶液を室温に下がるまで放置し、その後、当該反応溶液にヘキサフルオロリン酸水溶液(ヘキサフルオロリン酸濃度:60質量%)を固体が析出しなくなるまで滴下した。析出した固体を濾取して4(4−ピリジル)−(3,5−ジカルボキシフェニル)ピリジニウムヘキサフルオロホスフェート0.18gを得た。(反応式(8))
【0077】
上述の合成を複数回繰り返して得られた4(4−ピリジル)−(3,5−ジカルボキシフェニル)ピリジニウムヘキサフルオロホスフェート0.46gと、硝酸亜鉛6水和物0.40gと、N,N−ジメチルホルムアミド25mLと、水25mLとの混合液をテフロン(登録商標)製のるつぼに入れ、このるつぼをステンレスジャケットで密封した。
【0078】
るつぼ中の混合液を室温で2時間攪拌した後、120℃で48時間加熱攪拌して室温まで冷却し、得られた白色沈殿を濾取して、亜鉛原子と上記式(4)で表される配位子とが配位結合した金属錯体を含む多孔性金属錯体0.30gを得た。
【0079】
実施例1と同様にして、単結晶X線構造解析、X線回折(XRD)、熱重量分析、窒素吸着量の測定を行った。図2は、単結晶X線構造解析による実施例3で得られた多孔性金属錯体の結晶構造を示す図である。図15は、実施例3で得られた多孔性金属錯体のXRD回折パターンを示すXRDチャートである。図16は、実施例3で得られた多孔性金属錯体のTGチャートである、図17は、実施例3で得られた多孔性金属錯体の平衡圧力と窒素吸着量との関係を示すグラフである。
【0080】
(実施例4)
まず、下記反応式(9)によって、多孔性金属錯体を合成するための化合物(Z)を調製した。
【0081】
【化9】

【0082】
具体的には、3−ピリジンカルボン酸(和光純薬工業株式会社製)0.37g及び1,3,5−トリス(ブロモメチル)ベンゼン(シグマアルドリッチ製)0.36gを、3mLのN,N−ジメチルホルムアミドに加え、120℃で5時間加熱還流させて反応液を得た。得られた反応液を室温まで冷却し、沈殿物を濾取して、化合物(Z)を0.70g得た。
【0083】
この化合物(Z)73mgと、トリエチルアミン40mgと、水2.5mLと、エタノール2.5mLとの混合液を、硝酸亜鉛6水和物0.11gと、水2.5mLと、エタノール2.5mLとの混合液に、室温下で約10分間かけて滴下した。生じた沈殿物を濾取して、亜鉛原子と上記式(5)の配位子とが配位結合した金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体15mgを得た。
【0084】
実施例1と同様にして、X線回折(XRD)及び77K(液体窒素下)における水素吸蔵量の測定を行った。図18は、実施例4で得られた多孔性金属錯体のXRD回折パターンを示すXRDチャートである。図19は、実施例4で得られた多孔性金属錯体の77K(液体窒素下)における平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】単結晶X線構造解析による本発明の多孔性金属錯体における結晶構造の一例を示す図である。
【図2】単結晶X線構造解析による本発明の多孔性金属錯体における結晶構造の別の例を示す図である。
【図3】実施例1で得られた多孔性金属錯体のXRD回折パターンを示すXRDチャートである。
【図4】実施例1で得られた多孔性金属錯体のTGチャートである。
【図5】実施例1で得られた多孔性金属錯体の303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図6】実施例1で得られた多孔性金属錯体の77K(液体窒素下)における平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図7】実施例1で得られた多孔性金属錯体の平衡圧力と窒素吸着量との関係を示すグラフである。
【図8】実施例1で得られた多孔性金属錯体の相対圧力と二酸化炭素吸着量との関係を示すグラフである。
【図9】実施例2で得られた多孔性金属錯体のXRD回折パターンを示すXRDチャートである。
【図10】実施例2で得られた多孔性金属錯体のTGチャートである。
【図11】実施例2で得られた多孔性金属錯体の303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図12】実施例2で得られた多孔性金属錯体の77K(液体窒素下)における平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図13】実施例2で得られた多孔性金属錯体の平衡圧力と窒素吸着量との関係を示すグラフである。
【図14】実施例2で得られた多孔性金属錯体の相対圧力と二酸化炭素吸着量との関係を示すグラフである。
【図15】実施例3で得られた多孔性金属錯体のXRD回折パターンを示すXRDチャートである。
【図16】実施例3で得られた多孔性金属錯体のTGチャートである。
【図17】実施例3で得られた多孔性金属錯体の平衡圧力と窒素吸着量との関係を示すグラフである。
【図18】実施例4で得られた多孔性金属錯体のXRD回折パターンを示すXRDチャートである。
【図19】実施例4で得られた多孔性金属錯体の77K(液体窒素下)における平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛原子と下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される配位子との配位結合によって構成されている金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体。
【化1】


[上記一般式(1)中、nは1又は2を示す。]
【化2】


[上記一般式(2)中、m、p及びqは、それぞれ独立に1又は2を示す。]
【請求項2】
前記金属錯体は、前記一般式(1)及び前記一般式(2)で表される配位子と異なるカルボン酸を配位子として更に含有する請求項1記載の多孔性金属錯体。
【請求項3】
亜鉛化合物と下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される陽イオンと水又は有機溶媒の少なくとも一方とを含有する混合液を100℃以上に加熱することにより、亜鉛原子と下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される配位子との配位結合によって構成されている金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る加熱工程を有する多孔性金属錯体の製造方法。
【化3】


[上記一般式(1)中、nは1又は2を示す。]
【化4】


[上記一般式(2)中、m、p及びqは、それぞれ独立に1又は2を示す。]
【請求項4】
前記加熱工程において、前記混合液に前記一般式(1)及び前記一般式(2)で表される陽イオンと異なるカルボン酸を更に含有させ、該混合液を100℃以上に加熱することにより、前記亜鉛原子と前記一般式(1)又は前記一般式(2)で表される配位子との配位結合及び前記亜鉛原子と前記カルボン酸との配位結合によって構成されている金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る請求項3記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の多孔性金属錯体を含むガス吸蔵材。

【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−96723(P2009−96723A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267004(P2007−267004)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】