説明

多孔質粒状成形体を用いた調湿材及びその製造方法

【課題】汚泥焼却灰の再資源化を図り、汚泥焼却灰より得られた多孔質粒状成形体自体からの微粉塵の発生を防止するとともに、優れた調湿性能を維持することができる、多孔質粒状成形体を用いた調湿材及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】
汚泥焼却灰の酸処理により得られる多孔質粒状成形体の表面にブチラール樹脂の被膜を設けたことを特徴とする、多孔質粒状成形体を用いた調湿材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質粒状成形体を用いた調湿材及びその製造方法に関し、特に優れた調湿作用を有するとともに、粉塵を発生させない、汚泥焼却灰から得られた多孔質粒状成形体を用いた調湿材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、下水道の普及に伴い下水処理量は年々増加しており、それとともに発生する汚泥量も着実に増加してきている。
かかる増大する汚泥を処理するために、汚泥を減量化(減容化)することが行われており、そのため汚泥を焼却処理したり、汚泥を溶融処理したりすることが実施されている。
特に汚泥の焼却処理が積極的に行われており、それに伴い焼却灰の発生量も増加している。
【0003】
このような現状下では、発生した汚泥や当該汚泥を焼却した焼却灰のほとんどが最終処分場で埋め立て処分されており、処分地の制約が大きい大都市のみならず、新たに下水処理を開始した中小都市においても莫大な埋め立て費用が大きな問題となっている。
そのため、例えば汚泥の焼却灰を加圧成形した後焼成してレンガを製造したり、前記焼却灰を加圧造粒して人造骨材にしたり、また、当該焼却灰を溶融して得られたスラグを路盤材に利用する技術等が提案されているが、その適用には限界がある。
【0004】
また、最近、生活環境の快適性、具体的には快適な居住空間を実現するために住居の気密性が高くなってきている。
特に、押し入れ、クローゼットあるいは倉庫は、もともと通気性に難があり、強制的に外気を導入するような装置が設置されていることも稀であり、そのため、高温・高湿度になりがちな環境を有している。
長期間その高温・高湿度状態が続く、日本特有の梅雨時期には、かかる居住空間の気密性を高めた結果、ダニやカビが発生し、また冬期に屋外と屋内で温度差が生じると結露により、やはりカビ、ダニが発生し、室内の汚れだけでなく、人体に対してもアレルギーを引き起こす等の問題が生じている。
【0005】
従来の吸湿材は一度吸水すると、高温で乾燥し元の吸湿性能を取り戻すタイプも存在してはいるが、その回復性能は十分とは言えず、一般的には、規定水量を吸水すると廃棄処分にして、新品に取り替えているのが現状である。
【0006】
これらの問題を解決すべく、調湿性にすぐれた建材の開発が進められている。
従来、吸放湿性材料、例えば調湿性を有する材料として、木質系の建材を使用することによりこれらの問題を緩和してきたが、近年木材資源の高騰により、かかる木質系建材は非常にコスト高の材料となっており、使用が難しくなっている。
例えば、無機質系建材では、珪藻土、ゾノトライト、トバモライト等を主成分とする吸湿剤も開発されているが、より安価に製造でき、所望する高い調湿性を得ることは難しく、より調湿性の高い材料の開発が望まれている。
【0007】
特開2006−272295号公報には、汚泥焼却灰と酸水溶液との接触により酸処理を行い、ついで中和剤により中和処理を行って得られた多孔質粉体が記載されている。
上記従来の多孔質粉体成形体や調湿材は、微細な孔をその表面に有しているため、表面が脆弱で、押入れ等、荷物の移動に伴う振動により、これらの粉体同士の衝突や振動によって、その表面が容易に破壊したり崩壊したりして、微粉塵を発生してしまう。
従って、これらの多孔質粉体を屋内等に設置すると、かかる微粉塵が飛散し、生活環境的に問題があった。
【0008】
特開2002−361027号公報には、吸着物質からなる粒子を高分子多孔質膜で被覆した除湿材が記載されている。
しかし、使用される吸着物質は、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、珪藻土等であり、廃棄物をリサイクルした材料ではなく、また、当概除湿材が有する除湿性能は十分なものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−272295号公報
【特許文献2】特開2002−361027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、汚泥焼却灰の再資源化を図り、汚泥焼却灰より得られた多孔質粒状成形体自体からの微粉塵の発生を防止するとともに、優れた調湿性能を維持することができる、多孔質粒状成形体を用いた調湿材及びその製造方法を提供することである。
本発明の目的は、さらに、吸湿性能を簡便な方法で回復させて、何度も繰り返して使用することができる、多孔質粒状成形体を用いた調湿材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材は、汚泥焼却灰の酸処理により得られる多孔質粒状成形体の表面にブチラール樹脂の被膜を設けたことを特徴とする、多孔質粒状成形体を用いた調湿材である。
好適には、上記本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材において、前記ブチラール樹脂の被膜は、前記多孔質粒状体成形体100質量部に対して、該ブチラール樹脂が樹脂固体換算で0.5〜2.0質量部の量で形成されていることを特徴とする、多孔質粒状成形体を用いた調湿材である。
さらに好適には、上記本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材において、ブチラール樹脂被膜は、0.040mm〜0.17mmの厚みを有することを特徴とする、多孔質粒状成形体を用いた調湿材である。
【0012】
本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材の製造方法は、汚泥焼却灰を酸処理して酸処理物を成形して多孔質粒状成形体を調製し、該多孔質粒状成形体をブチラール樹脂溶液と接触させて、該多孔質粒状成形体の表面をブチラール樹脂で被覆し、次いで乾燥させることを特徴とする、多孔質粒状成形体を用いた調湿材の製造方法である。
好適には、上記本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材の製造方法において、該多孔質粒状成形体とブチラール樹脂溶液との接触は、ブチラール樹脂溶液を噴霧又はブチラール樹脂溶液に浸漬することにより行うことを特徴とする、多孔質粒状成形体を用いた調湿材の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材は、廃棄物として大量に排出される汚泥焼却灰の有効利用を図ることができるとともに、優れた調湿性能(吸湿性能・放湿性能)を有し、振動等によっても該調湿材から微粉塵の発生を抑制することができ、環境的にも良好な調湿材である。
従って、本発明の調湿材を、押し入れ、クローゼットあるいは倉庫等、もともと通気性に難のある高湿度な室内空間を、快適空間に整え、黴やダニの発生による健康被害を避けることが可能となる。
また更に、天日にさらすこと等の簡便な方法により、容易に吸湿性能を回復することができるため、繰り返して何度も調湿材として使用することができ、経済的にも優れるものである。
本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材の製造方法は、上記本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材を簡便かつ経済的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材及びその製造方法について、以下に詳細に説明する。
本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材は、汚泥焼却灰の酸処理により得られる多孔質粒状成形体の表面にブチラール樹脂の被膜を設けたものである。
本発明において使用する原料汚泥焼却灰としては、下水処理場で発生する汚泥を焼却した汚泥焼却灰の他に、し尿、家庭用雑排水、産業用排水処理等によって発生した汚泥の焼却灰等があげられ、これらは、一般に処理場で含水率60〜90質量%程度まで脱水処理された汚泥を焼却したものであり、これらの焼却灰をいずれも使用でき、1種または混合して用いてもよい。
特に、下水処理場で発生する汚泥量は、前記したように年々下水道の普及とともに増加しているので、本発明の方法は、汚泥の有効な再利用として極めて有用である。
【0015】
また一般に、焼却灰には、高分子凝集剤を使用した汚泥を焼却したものと、石灰系凝集剤を使用した汚泥を焼却したものがあるが、減容化対策から最近では高分子凝集剤を使用したものが多く、本発明においては両者とも利用が可能ではあるが、石灰系凝集剤を使用した場合は石灰が多量に生成されるため、あまり好ましくない。
汚泥焼却灰の形態は、酸添加により十分な溶解反応が行われ、最終的に均質な多孔質粒状体が得られれば特に制限はされず、粉末等の成形されていないものに限らず、ペレット状、板状、錠剤状等に成形されたものでも酸添加による接触処理が可能であり、本発明において使用することができる。
【0016】
汚泥焼却灰に課される酸処理としては、汚泥焼却灰に酸水溶液を添加するか、または酸性ガスと接触させることにより実施される。酸水溶液としては、硫酸水溶液、塩酸水溶液、硝酸水溶液等の鉱酸を用いることが好ましく、これらの硫酸水溶液、塩酸水溶液又は硝酸水溶液としては、市場で入手しうる市販品や、金属精錬工業等から発生する廃硫酸、廃塩酸、廃硝酸等の水溶液も使用することもできる。
使用する酸水溶液の濃度としては、特に限定されないが、0.1〜13規定程度とするのが通常である。
また、汚泥焼却灰に添加される酸水溶液の添加量としては、100%の酸(硫酸、塩酸、硝酸等)に換算して、汚泥焼却灰100質量部に対し、0.5質量部以上、好ましくは4.0〜25質量部添加する。
これは、4.0質量部未満では、溶解反応が十分でないため、得られる多孔質体の調湿性能が劣る場合があり、一方、25質量部を超えて添加すると、乾燥後に表面が固くなり、多孔質化が阻害されて、得られる吸放湿性能が低下する場合があるからである。
また、添加混練時の温度は10〜90℃程度が、反応を促進する面から好ましい。
【0017】
このように、汚泥焼却灰に、酸水溶液を添加して混合又は混練することにより、焼却灰表面が浸漬状態になり、焼却灰中に含有されている酸可溶性成分が溶解除去されて、酸処理物を多孔質化することができる。
焼却灰と酸水溶液との混練時間は、汚泥焼却灰の特性に応じて、任意に設定することができる。
かかる酸処理混練時間を変化させることにより細孔径分布を変化させることが可能である。すなわち、混練時間を長くすることにより、例えば、10nm以下、特に6nm以下の微細な細孔容積を更に増加させることが可能であり、これらの微細な細孔容積が増加するほど、水蒸気の吸放湿性能を高めることができる。
通常、酸水溶液添加後、0.1時間〜10日程度、好ましくは、0.1時間〜1日程度とするのが適当である。
【0018】
次いで、得られた酸処理物を中和処理する。これは、多孔質体とする場合、そのままでは、多孔質体製造設備の耐酸性対策が必要となるからであり、これらの問題は、当該中和処理を行うことにより解決できる。
上記中和処理は、汚泥焼却灰に酸水溶液を添加し接触処理した後、中和剤を添加してpHを5.5〜9.0程度にすることにより行われる。
中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、消石灰、アンモニア、CaCOを主成分とするライムストーン(石灰岩)、コーラルサンド等のアルカリ性の材料を挙げることができ、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、消石灰等が好適である。
また、中和剤の添加量は、処理物がpH5.5〜9.0となるように添加する。
このように、酸処理物に、中和剤を添加して混合又は混練することにより、多孔質体製造設備の耐酸性対策が不必要となり、多孔性が良好な多孔質体を得ることができる。
【0019】
より具体的に、本発明に用いる多孔質体の製造方法の一例について説明する。
汚泥焼却灰と酸水溶液との混合・混練作業、酸処理された汚泥焼却灰(酸処理物)と中和剤との混合・混練作業を、例えば二軸押出し混練機を用いて十分に行う。
特に、酸処理効果の低減を防止し、作業環境を良好に保つためには、混練時に発生する水蒸気および酸性ガスが大気中に拡散することを抑制する必要がある。
汚泥焼却灰は、例えばサークルフィーダーやロータリーフィーダーなどの定量供給機により、二軸押し出し混練機に投入することができる。
また、酸水溶液処理は、上記硫酸水溶液、塩酸水溶液または硝酸水溶液などの酸水溶液を定量ポンプで注入する。
また、中和処理では、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カルシウム又は消石灰のスラリーなどの中和剤を定量ポンプで注入したり、中和剤の粉末を投入したりする方法により実施することができる。
【0020】
また、乾燥方法としては、特に制限はないが、例えば、回転ドラム式乾燥機、パドル式乾燥機、流動層式乾燥機、気流乾燥機、遠心薄膜式乾燥機等を用いた乾燥方法が挙げられ、下水処理場で現状使用している乾燥機を用いた乾燥方法でも十分に対応可能である。また、乾燥温度は、90〜300℃が好ましい。
乾燥後の含水率は、5質量%以下が好ましく、絶乾状態が特に優れた効果を示す。乾燥が不十分では細孔容積が減少すると共に水分の吸放湿性能が低下してしまう。
ここで、含水率は、「下水試験方法(1997年度版)第4章第6節蒸発残留物及び含水率」に準拠して、乾燥前の試料質量と、105〜110℃で2時間乾燥後の試料質量とを測定し、(乾燥前の質量−乾燥後の質量)/(乾燥前の質量)に対する百分率で表される。
【0021】
このようして得られた、汚泥焼却灰を用いた多孔質粒状成形体の表面に、ブチラール樹脂の被膜を設ける。
ブチラール樹脂はポバールとブチルアルデヒドを酸性条件下で反応させて合成して得られた樹脂であり、まず、該ブチラール樹脂の溶液を調製する。
ブチラールを溶解するための溶媒としては、ブチラール樹脂を溶解できるものであれば特に限定されず、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、ベンジルアルコール)、セロソルブ(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン)、アミド(N,N− ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、 N−メチル− 2−ピロリドン)、エーテル(ジオキサン、テトラヒドロフラン)、芳香族(ピリジン)、その他(ジメチルスルホキシド、酢酸)等が例示できる。
但し、エチレングリコール、ジエチレングリコールにはブチラール樹脂は不溶であるため使用することはできない。
【0022】
当該ブチラール樹脂の適用量は、例えば、上記多孔質粒状成形体100質量部に対して、10質量%のブチラール樹脂溶液を適用した場合には、5〜20質量部の該ブチラール樹脂溶液をその表面に適用して、被膜を形成する。
従って、ブチラール樹脂量(固体換算で)としては、前記多孔質粒状成形体100質量部に対して0.5〜2.0質量部となる。
この範囲でブチラール樹脂を、汚泥焼却灰から得られた多孔質粒状成形体に適用することで、迅速かつ高効率で水分を吸湿できるとともに、また放湿も良好に実施され、更には、該成形体自体からの粉塵の発生を抑制することができる。
【0023】
そして、該ブチラール樹脂の被膜の膜厚は、0.040〜0.17mm、好ましくは〜0.15mmであることが望ましい。
かかる範囲の膜厚であると、上記同様に、迅速かつ高効率で水分を吸湿できるとともに、また放湿も良好に実施され、更には、該成形体自体からの粉塵の発生を抑制することができる。
ここで、ブチラール樹脂被膜の厚みは、光学顕微鏡(製品番号:XTP−11、株式会社ニコン製 100倍)で測定したものである。
【0024】
前記汚泥焼却灰から得られた多孔質粒状成形体を、ブチラール樹脂により被覆して該ブチラール樹脂の被膜を設ける方法としては、ブチラール樹脂の溶液を該多孔質粒状成形体に、例えばスプレー等で噴霧塗布する方法や、ミキサー内で該樹脂を添加混合する方法や、当概溶液に多孔質粒状成形体を浸漬する方法等が適用できる。
【0025】
次いで、乾燥して、本発明の調湿材を得るが、乾燥方法としては、特に制限はなく、例えば、回転ドラム式乾燥機、パドル式乾燥機、流動層式乾燥機、気流乾燥機、遠心薄膜式乾燥機等を用いた乾燥方法が挙げられ、また、乾燥温度は、90〜300℃が好ましい。
乾燥後の含水率は、5質量%以下が好ましく、絶乾状態が特に優れた効果を示す。乾燥が不十分では水分の吸放湿性能が低下してしまう。
ここで、含水率は、「下水試験方法(1997年度版)第4章第6節蒸発残留物及び含水率」に準拠して、上記と同様の百分率で表されたものである。
【0026】
このようにして、得られた本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材は、優れた吸湿・放湿性能を有するとともに、該成形体の衝突や接触等によってその表面に機械的な付加が生じたとしても、該多孔質粒状成形体の表面が破壊や崩壊することが抑制されているので、微粉塵が発生せず、清潔な環境が保持できる。
【0027】
更に本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材には、湿度インジケータカード等の吸湿性能の終点、すなわち飽和水量を吸湿した場合を知らせる手段を、例えば、該調湿材を収納した包装体の表面に設けることにより、容易にかつ適切な時期に理解することが可能となり、初期の調湿性能を適確に回復させることが可能となる。
ここで例えば湿度インジケータカードとしては、不可逆タイプ(例:サンアイ(株)MX56789)が好ましいが、可逆タイプでも適用できる。
【0028】
本発明の調湿材は、吸湿量が飽和量に近づいた場合若しくは飽和量に達した場合に、湿度が低い環境、例えば天日にさらすことにより容易に、調湿材を調製した当初と同等の調湿性能、即ち初期吸湿性能を回復させることができ、何度でも繰り返し吸湿・放湿を実施でき、したがって、長期間に亘って調湿材として利用することが可能となる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するがこれらに限定されるものではない。
但し、多孔質粒状成形体は、以下のようにして調製したものを使用した。
多孔質粒状成形体の調製
下水汚泥焼却灰100質量部に対して、4.45Nの塩酸水溶液を50質量部添加し、3分間混練後、水酸化カルシウム粉末(特級試薬、和光純薬製)を5質量%添加してpH8.7まで中和した。
次いで得られた中和物を、半乾式低水分造粒機(「ディスクペレッターf−5」、不二パウダル社製)を用いて、押出成形して、粒状成形体を得た。
該中和成形体の粒度は、Φ3mmで長さ7mmのものを製造した。
得られた粒状成形体を、100℃の気流乾燥機に入れて24時間保持し、乾燥して多孔質粒状成形体を得た。該乾燥後の含水率は0%であった。
【0030】
(実施例1)
まず、ブチラール樹脂溶液を以下のようにして調製した。
ブチラール樹脂(商品名 エスレック BL−1, 積水化学工業株式会社製)を、アルコール溶媒(商品名 アルコゾール 品番MC−1、甘糟化学三号株式会社製、変性アルコールで主成分はエタノール)に溶解させて10質量%ブチラール樹脂溶液を調製した。
次いで、前記多孔質粒状成形体の表面に、かかるブチラール樹脂溶液をスプレーコーティングした。
具体的には、該コーティングは、該多孔質粒状成形体100質量部に対して、前記10質量%ブチラール溶液を17質量部噴霧した。従って、該多孔質粒状成形体には、ブチラール樹脂の固体量で換算して、該多孔質粒状成形体100質量部に対して1.7質量部のブチラール樹脂がその表面を被覆したことになる。
次いで、該ブチラール樹脂被覆多孔質粒状成形体を40℃の乾燥機中に24時間放置して、本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材(1)を得た。
なお、ブチラール樹脂被膜の厚みは0.15mmであった。なお、ブチラール樹脂被膜の厚みは、光学顕微鏡(製品番号:XTP−11、株式会社ニコン製)100倍で測定したものである。
【0031】
(比較例1)
上記で調製した多孔質粒状成形体に他の処理を施すことなく、比較のために、そのまま多孔質粒状成形体を調湿材(2)とした。
【0032】
(比較例2)
ブチラール樹脂溶液の代わりに、特殊ポリビニルアセタール樹脂溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして調湿材(3)を得た。
但し、特殊ポリビニルアセタール樹脂溶液は、以下のようにして調製した。
特殊ポリビニルアセタール樹脂(商品名 エスレックKS−10, 積水化学工業株式会社製)を、アルコール溶媒(商品名 アルコゾール 品番MC−1、甘糟化学三号株式会社製、変性アルコールで主成分はエタノール)に溶解させて10質量%特殊ポリビニルアセタール樹脂溶液を調製した。
なお、特殊ポリビニルアセタール樹脂被膜の厚みは0.13mmであった。なお、特殊ポリビニルアセタール樹脂被膜の厚みは、光学顕微鏡(製品番号:XTP−11、株式会社ニコン製)100倍で測定したものである。
【0033】
(比較例3)
ブチラール樹脂溶液の代わりに、シラン系樹脂溶液(商品名 パセットA, 住友大阪セメント株式会社製:液体)を用いた以外は、実施例1と同様にして調湿材(4)を得た。
なお、シラン系樹脂被膜の厚みは0.10mmであった。なお、シラン系樹脂被膜の厚みは、光学顕微鏡(製品番号:XTP−11、株式会社ニコン製)100倍で測定したものである。
【0034】
(比較例4)
ブチラール樹脂溶液の代わりに、パラフィン系樹脂溶液(商品名 プロキュア,株式会社ノックス製)を用いた以外は、実施例1と同様にして調湿材(5)を得た。
なお、パラフィン系樹脂被膜の厚みは0.20mmであった。
なお、パラフィン系樹脂被膜の厚みは、光学顕微鏡(製品番号:XTP−11、株式会社ニコン製)100倍で測定したものである。
【0035】
(比較例5)
珪藻土(商品名 豊サンド、稚内珪藻土、鈴木産業株式会社製)をそのまま調湿材(6)とした。
【0036】
(比較例6)
多孔質粒状成形体の代わりに、珪藻土(商品名 豊サンド、稚内珪藻土、鈴木産業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして調湿材(7)を得た。
【0037】
(比較例7)
木炭(商品名 チャコキュア、木炭加工品、株式会社森研究所製)をそのまま調湿材(8)とした。
【0038】
(比較例8)
多孔質粒状成形体の代わりに、木炭(商品名 チャコキュア、木炭加工品、株式会社森研究所製)を用いた以外は、実施例1と同様にして調湿材(9)を得た。
【0039】
(試験例)
上記実施例1、比較例1〜8で得られた多孔質粒状成形体を用いた各調湿材を以下の試験に供した。
試験例1
上記実施例1及び比較例1〜8で得られた調湿材(1)〜(9)の吸放湿試験を、次の方法により行った。
シャーレに入れた調湿剤5gを、飽和溶液法により飽和溶液法により相対湿度(RH)を調節したデシケータ内に静置して行った。
具体的には、20℃の恒温室において、このデシケータの底に塩類飽和溶液を入れることにより相対湿度50%の環境を設定し、水分吸着量がほぼ平衡に達する24時間吸湿後の質量(事前調湿:X(g))を測定し、次いで前記平衡状態に達した各試料を、前記と同様に、20℃の恒温室において、このデシケータの底に塩類飽和溶液を入れることにより相対湿度90%の環境を設定し、24時間後の吸湿後の質量(X+α(g))を測定して、吸湿試験を行って、その吸湿量を測定した。
次いで、吸湿試験後の試料を同様に、20℃の恒温室において、相対湿度50%の環境を設定したデシケータに移して、24時間後の放湿後に試料を秤量して(X+α−β(g))、放湿試験を行った。
その結果を表1に示す。
【0040】
但し、表1中の吸湿量(wt%)は、(α/X)×100(wt%)、放湿量(wt%)は(β/X)×100(wt%)である。
また、実施例1及び比較例1〜4の性能維持率は、比較例1の放湿量(wt%)を100として、この比較例1の放湿量(wt%)の値に対する、実施例1及び比較例2〜4の放湿量(wt%)の割合(%)であり、また比較例5〜8の性能維持率は、比較例5の放湿量(wt%)を100として、この比較例5の放湿量(wt%)の値に対する、比較例6〜8の放湿量(wt%)の割合(%)を示す。
【0041】
【表1】



【0042】
表1より、実施例1の調湿材1は、樹脂被覆を有さない比較例1の調湿材1とほぼ同等の調湿作用と有することが明らかとなった。
また、比較例2の調湿材(3)は、ブチラール樹脂を主体とする樹脂コーティングによる実施例1の調湿材より、吸・放湿性能が劣っていることがわかる。
さらに、樹脂被覆材としてブチラール樹脂以外のものを用いた比較例3及び4、又は本発明における汚泥焼却灰の酸処理物である多孔質粒状成形体以外の多孔質体を用いた調湿材である比較例5及び6は、吸・放湿性能が劣っていることがわかる。
また、比較例6や8に対して、樹脂被覆がなされた比較例7や9は、その吸・放湿性能が劣ることが、性能維持率より明らかとなった。
【0043】
試験例2
上記実施例1及び比較例1〜4、比較例6及び8で得られた調湿材(1)〜(5)、(7)及び(9)の発塵試験を、次の方法により行った。
実施例1及び比較例1〜4、比較例6及び8で得られた各調湿材(1)〜(5)、(7)及び(9)を、各約10g(初期質量)計量し、100mlのポリ瓶(商品名:(株)アズワン、I・BOY)に入れて蓋をした。
各ポリ瓶を振とう機(製品番号 MW−YS、宮本理研工業株式会社製)に設置して、200回/分の振とう数で2.5時間振とうした。
その後、各ポリ瓶の中の調湿材を、それぞれ篩目1mmのJIS篩で篩い、篩下の調湿材をそれぞれ計量した。
その結果を表2に示す。
但し、表2中、微粉発生率は以下の式にて求めた値を示す。
微粉発生率(%)=(振とう後の篩下質量/初期質量)×100
【0044】
【表2】

【0045】
表2より、実施例の調湿材(1)は、比較例1の調湿材(2)と比べて、微粉発生率が約1/17に低減されたことが明らかとなった。
また、また、比較例2の調湿材(3)は、ブチラール樹脂を主体とする樹脂コーティングによる実施例1の調湿材(1)より、微粉発生率が大きく、実施例1の調湿材(1)は、微粉化防止に関して優れた性能を示していることがわかる。
さらに、樹脂被覆材としてブチラール樹脂以外のものを用いた比較例3及び4、又は本発明における汚泥焼却灰の酸処理物である多孔質粒状成形体以外の多孔質体を用いた調湿材である比較例6及び8は、本発明のものと比較して、微粉発生率が大きいことがわかる。
従って、本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材は、優れた吸・放湿作用を有するとともに、振動等により微粉塵を発生させることがない、環境に優れたものである。
【0046】
試験例3
実施例1で得られた調湿材(1)の調湿性能の回復試験を、次の方法により行った。
押し入れや倉庫等の狭い空間に、敷設した本発明の調湿材料を、外気下で(天日によって)乾燥させることによって、初期の調湿性能(主に吸湿)を回復することができる。
実施例1の調湿材を、押入れに入れて飽和吸水量を吸湿させた。
実施例1で得られた調湿材の質量(初期質量)を100とすると、押し入れに適用することによって飽和吸水量に達した時の質量は140であった。
次いで、飽和吸水量に達した当概調湿材1を、外気中に(天日)(2日間の平均気温 24.9℃)、午前9時から午後3時までの6時間さらすことを、2日繰り返した。
その結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
表3より、実施例1の調湿材(1)は、外気下で(天日によって)乾燥させることによって、初期の調湿性能を回復することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の多孔質粒状成形体を用いた調湿材は、押し入れ、クローゼット、衣装箱、箪笥、ロッカー用、納戸、家具用あるいは倉庫等に用いることができ、更には床下または天井内にも適用することができる。特に、押し入れ、クローゼットあるいは倉庫等、もともと通気性に難のある高湿度な室内空間に好適に適用することができる。



































【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥焼却灰の酸処理により得られる多孔質粒状成形体の表面にブチラール樹脂の被膜を設けたことを特徴とする、多孔質粒状成形体を用いた調湿材。
【請求項2】
請求項1記載の多孔質粒状成形体を用いた調湿材において、前記ブチラール樹脂の被膜は、前記多孔質粒状体100質量部に対して、該ブチラール樹脂が0.5〜2.0質量部の量で形成されていることを特徴とする、多孔質粒状成形体を用いた調湿材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の多孔質粒状成形体を用いた調湿材において、ブチラール樹脂被膜は、0.040mm〜0.17mmの厚みを有することを特徴とする、多孔質粒状成形体を用いた調湿材。
【請求項4】
汚泥焼却灰を酸処理して酸処理物を成形して多孔質粒状成形体を調製し、該多孔質粒状成形体をブチラール樹脂溶液と接触させて、該多孔質粒状成形体の表面をブチラール樹脂で被覆し、次いで乾燥させることを特徴とする、多孔質粒状成形体を用いた調湿材の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の多孔質粒状成形体を用いた調湿材の製造方法において、該多孔質粒状成形体とブチラール樹脂溶液との接触は、ブチラール樹脂溶液を噴霧又はブチラール樹脂溶液に浸漬することにより行うことを特徴とする、多孔質粒状成形体を用いた調湿材の製造方法。

【公開番号】特開2010−227915(P2010−227915A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81533(P2009−81533)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】