説明

多層回転成形品の配管用継手及びその製造方法並びに配管用継手と多層回転成形品の溶着方法

【課題】接着性良く取り付けることができ、かつ多層回転成形品が有する多層による特性を損なうことなく、取り付けることができる多層回転成形品の配管用継手及びその製造方法及びその溶着方法を得る。
【解決手段】多層回転成形品が、内側の第1の樹脂層と、外側の第2の樹脂層と、第1の樹脂層と第2の樹脂層との間の混合樹脂層とを備え、配管用継手6が、第1の樹脂層と同系統の樹脂から成形された筒状の内側樹脂層1と、第2の樹脂層と同系統の樹脂から成形され、内側樹脂層を覆う外側樹脂層2とを備え、多層回転成形品の孔部周辺の第2の樹脂層と溶着させるフランジ部3が外側樹脂層2に形成されており、多層回転成形品の孔部に嵌められる筒状部4が、内側樹脂層1と外側樹脂層2とから形成されており、孔部の第1の樹脂層と接する筒状部4の部分4aが、内側樹脂層1のみから形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転成形法により成形された多層回転成形品の孔部に溶着して取り付ける配管用継手及びその製造方法並びに配管用継手と多層回転成形品の溶着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中空成形品を製造する方法として、回転成形法が知られている。回転成形法は、粉末状の熱可塑性樹脂を、回転する金型内で熱可塑性樹脂の融点以上に加熱して溶融させ、溶融した樹脂を金型内の壁面に付着させ樹脂層を形成し、その後冷却硬化させて成形する方法である。
【0003】
回転成形法は、大型の中空成形品を成形する方法として適している。例えば、工場等において、多量の水または液体等を収容するタンク等を成形する方法として適している。
【0004】
回転成形法においては、成形時の熱安定性や粉砕した樹脂が得られやすいという観点から、多くの場合、ポリエチレン系樹脂が用いられている。しかしながら、成形品の用途によっては、ポリエチレン系樹脂では、剛性や耐温水性、さらには、ガスバリヤ性などが不十分な場合がある。ポリプロピレン系樹脂は、剛性や耐熱性等においてポリエチレン系樹脂よりも優れているため、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂を多層成形することにより、これらの樹脂のそれぞれの長所を活かし、かつ短所を補うことが考えられる。
【0005】
しかしながら、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂は、接着性が良くないため、これらを積層して成形すると、層間が剥離してしまうという問題を生じる。
【0006】
上記の問題を解消する方法として、本出願人は、特許文献1において、ポリエチレン系樹脂層とポリプロピレン系樹脂層の間に、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との混合物から形成された混合樹脂層を設ける回転成形法を提案している。このような方法により、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とを良好な接着強度で接着させて、多層成形品を製造することができる。
【0007】
一方、このような多層成形品をタンク等として用いる場合、タンク内の液体等を取り出すため、壁部に配管等を取り付けることが必要となる。このような配管等を取り付ける方法として、熱可塑性樹脂からなる継手をタンクに溶着して取り付ける方法が知られている(特許文献2など)。
【0008】
しかしながら、継手を溶着によって多層成形品に取り付ける場合、多層成形品の外側表面に継手が溶着されるので、継手を多層成形品の外側樹脂層と同系統の樹脂から形成する必要がある。例えば、多層成形品の内側をポリプロピレン系樹脂から形成し、外側をポリエチレン系樹脂から形成する場合、継手はポリエチレン系樹脂から形成する必要がある。しかしながら、多層成形品内の液体等を配管を介して外部に送り出す際、液体等が継手の内部と接触する。上記の場合、継手の内部はポリエチレン系樹脂から形成されているので、これらの液体等に対し耐久性が不十分となる。
【0009】
継手を、多層成形品の内側樹脂と同系統のポリプロピレン系樹脂から形成する場合、上述のように、多層成形品の外側がポリエチレン系樹脂から形成されているので、良好な接着強度で継手を溶着することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−238704号公報
【特許文献2】特開平7−243562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、溶着により多層回転成形品に取り付ける配管用継手であって、接着性良く取り付けることができ、かつ多層回転成形品が有する多層による特性を損なうことなく取り付けることができる多層回転成形品の配管用継手及びその製造方法並びに配管用継手と多層回転成形品の溶着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の配管用継手は、多層回転成形品の孔部に溶着して取り付けられる配管用継手であって、多層回転成形品が、内側に配置され、第1の樹脂の粉末から成形された第1の樹脂層と、外側に配置され、第2の樹脂の粉末から成形された第2の樹脂層と、第1の樹脂層と第2の樹脂層との間にこれらの層と接して配置され、第1の樹脂の粉末と第2の樹脂の粉末とを混合した粉末から成形された混合樹脂層とを備え、配管用継手が、第1の樹脂と同系統の樹脂から成形された筒状の内側樹脂層と、第2の樹脂と同系統の樹脂から成形され、内側樹脂層を覆う外側樹脂層とを備え、多層回転成形品の孔部周辺の第2の樹脂層と溶着させるフランジ部が外側樹脂層に形成されており、多層回転成形品の孔部に嵌められる筒状部が、内側樹脂層と外側樹脂層とから形成されており、孔部の第1の樹脂層と接する筒状部の部分が、内側樹脂層のみから形成されていることを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、多層回転成形品の第2の樹脂層と溶着させるフランジ部が、第2の樹脂と同系統の樹脂から成形された外側樹脂層であるので、接着性良く溶着によって配管用継手を多層回転成形品に取り付けることができる。また、本発明の配管用継手は、第1の樹脂と同系統の樹脂から成形された内側樹脂層と、第2の樹脂と同系統の樹脂から成形された外側樹脂層から形成されるものであるので、多層回転成形品が有する多層による特性を損なうことなく取り付けることができる。
【0014】
さらに、多層回転成形品の孔部の第1の樹脂層と接する配管用継手の筒状部の部分が、第1の樹脂と同系統の樹脂から成形された内側樹脂層のみから形成されているので、孔部において第1の樹脂層と内側樹脂層とを良好な接着性で溶着させることができる。
【0015】
本発明においては、第1の樹脂層及び内側樹脂層を、例えばポリプロピレン系樹脂から形成し、第2の樹脂層及び外側樹脂層を、例えばポリエチレン系樹脂から形成することができる。
【0016】
本発明においては、内側樹脂層の外周部に、外側に向かって延びる凸部が形成されており、外側樹脂層の内周部に、この凸部が嵌まる凹部が形成されていることが好ましい。このように内側樹脂層の凸部と、外側樹脂層の凹部が嵌まり合うことにより、内側樹脂層と外側樹脂層とを位置決めすることができ、外側樹脂層と内側樹脂層の位置がずれないように固定することができる。
【0017】
本発明の製造方法は、上記本発明の配管用継手を製造することができる方法であり、内側樹脂層を成形する工程と、内側樹脂層を金型内に配置し、内側樹脂層の周囲に外側樹脂層の樹脂を射出して外側樹脂層を成形する工程とを備えることを特徴としている。
【0018】
本発明の製造方法によれば、本発明の配管用継手を効率良く製造することができる。
【0019】
本発明の溶着方法は、上記本発明の配管用継手を多層回転成形品の孔部に溶着する方法であって、溶着させる際第2の樹脂層と接するフランジ部の先端面を加熱するための第1の加熱面と、筒状部の外周面を加熱するための第2の加熱面とを有する第1の加熱手段で、フランジ部の先端面及び筒状部の外周面を加熱する工程と、孔部の周辺の第2の樹脂層を加熱するための第3の加熱面と、孔部内の内周面を加熱するための第4の加熱面とを有する第2の加熱手段で、孔部の周辺の第2の樹脂層及び孔部内の内周面を加熱する工程と、加熱したフランジ部の先端面と加熱した孔部の周辺の第2の樹脂層とを当接させるとともに、加熱した筒状部の外周面と加熱した孔部内の内周面とを当接させてそれぞれを溶着させることにより、配管用継手を多層回転成形品の孔部に溶着させる工程とを備え、第1の加熱手段で筒状部の外周面を加熱するため筒状部の外周面の周囲に第2の加熱面を配置した際、内側樹脂層のみから形成された筒状部の先端部よりも、内側樹脂層と外側樹脂層から形成された筒状部の基部において、第2の加熱面との間で、より大きな隙間が形成されるように、第2の加熱面が設けられていることを特徴としている。
【0020】
本発明の溶着方法によれば、配管用継手を高い接着強度で多層回転成形品に溶着させることができる。
【0021】
本発明の溶着方法においては、第2の加熱手段で孔部内の内周面を加熱するため孔部内に第4の加熱面を配置した際、孔部内の第2の樹脂層の部分よりも、孔部内の第1の樹脂層の部分において、第4の加熱面との間で、より大きな隙間が形成されるように、第4の加熱面が設けられていることが好ましい。これにより、配管用継手をより高い接着強度で多層回転成形品に溶着させることができる。
【0022】
また、本発明の溶着方法においては、第1の加熱手段と第2の加熱手段とが一体的に設けられたヒーターを用いて、フランジ部の先端面及び筒状部の外周面と、孔部の周辺の第2の樹脂層及び孔部内の内周面とを同時に加熱することが好ましい。これにより、効率良く配管用継手を多層回転成形品に溶着させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の配管用継手を用いることにより、多層回転成形品に接着性良く溶着によって取り付けることができ、かつ多層回転成形品が有する多層による特性を損なうことなく取り付けることができる。
【0024】
本発明の製造方法によれば、上記本発明の配管用継手を効率良く製造することができる。
【0025】
本発明の溶着方法によれば、上記本発明の配管用継手を多層回転成形品に高い接着強度で溶着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に従う一実施形態の配管用継手を示す断面図。
【図2】本発明に従う一実施形態における多層回転成形品であるタンクの孔部近傍の壁部を示す断面図。
【図3】本発明に従う一実施形態における配管用継手を、タンクの孔部の周囲に溶着させるため、配管用継手のフランジ部及びタンクの孔部周辺をヒーターによって加熱している状態を示す断面図。
【図4】本発明に従う一実施形態における配管用継手をタンクの孔部周辺に溶着により取り付けた状態を示す断面図。
【図5】本発明に従う一実施形態の配管用継手を示す斜視図。
【図6】本発明に従う一実施形態の配管用継手を金型内で成形するときの状態を示すための断面図。
【図7】比較例における配管用継手の先端部の取り付け状態を示す拡大断面図。
【図8】多層回転成形品における混合樹脂層の状態を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図9】図3に示す実施形態における筒状部の近傍を拡大して示す図。
【図10】図3に示す実施形態における孔部の近傍を拡大して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体的な実施形態により説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
図1は、本発明に従う一実施形態の配管用継手を示す断面図である。
【0029】
図1に示すように、配管用継手6は、筒状の内側樹脂層1と、内側樹脂層1を覆う外側樹脂層2とから構成されている。内側樹脂層1は、筒状の形状を有しており、内側には貫通孔1bが形成されている。
【0030】
内側樹脂層1を覆う外側樹脂層2の一方端近傍には、フランジ部3が形成されている。フランジ部3は、多層回転成形品の孔部周辺の外表面と接し、外表面に溶着される部分である。
【0031】
外側樹脂層2の他方端には、配管を取り付けるための台座部5が設けられている。台座部5には、配管を接続する際に用いるボルト等を通すための孔2aが形成されている。
【0032】
図5は、配管用継手6を示す斜視図である。図1及び図5に示すように、外側樹脂層2の円筒部2fと台座部5との間には、補強のためのリブ2bが形成されている。
【0033】
配管用継手6の先端部には、回転成形品の孔部に嵌められる筒状部4が形成されている。筒状部4は、内側樹脂層1と外側樹脂層2から形成されており、筒状部4の先端部4aは、内側樹脂層1のみから形成されている。
【0034】
内側樹脂層1の外周部には、外側に向かって延びる凸部1cが形成されている。また、外側樹脂層2の内周部には、内側樹脂層1の凸部1cが嵌まる凹部2cが形成されている。凸部1cは、内側樹脂層1の外周部に沿って環状になるように形成されており、外側樹脂層2の凹部2cも、この環状の凸部1cが嵌まるように内周部に沿って環状に形成されている。
【0035】
フランジ部3が形成されている部分においても、内側樹脂層1の外周部に、外側に向かって延びる環状の凸部1dが形成されている。また、この環状の凸部1dが嵌まるように、外側樹脂層2に環状の凹部2dが形成されている。
【0036】
また、台座部5が形成されている部分においても、内側樹脂層1に環状の凸部1eが形成されており、この環状の凸部1eが嵌まるように、外側樹脂層2に環状の凹部2eが形成されている。
【0037】
内側樹脂層1の凸部1c、1d及び1eが、外側樹脂層2の凹部2c、2d及び2eとそれぞれ嵌まり合うことにより、内側樹脂層1と外側樹脂層2が互いに位置決めされ、内側樹脂層1と外側樹脂層2の位置がずれないように、互いに固定することができる。
【0038】
図2は、本発明に従う一実施形態において、図1に示す配管用継手を取り付ける多層回転成形品であるタンクの孔部近傍の壁部を示す断面図である。タンク10は、回転成形法により成形された多層回転成形品である。タンク10の内側は、第1の樹脂粉末から成形された第1の樹脂層11が設けられている。タンク10の外側には、第2の樹脂の粉末から成形された第2の樹脂層12が設けられている。第1の樹脂層11と第2の樹脂層12の間には、第1の樹脂の粉末と第2の樹脂の粉末とを混合した粉末から成形された混合樹脂層13が設けられている。
【0039】
第1の樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂を用いることができる。また、第2の樹脂としては、ポリエチレン系樹脂を用いることができる。タンク内側の第1の樹脂層11を、ポリプロピレン系樹脂から形成することにより、タンクの耐熱性、耐温水性、ガスバリヤ性などを高めることができる。従って、比較的高い温度の液体を貯蔵するタンクとして用いることができる。
【0040】
混合樹脂層13は、第1の樹脂の粉末と、第2の樹脂の粉末とを混合した粉末から成形することができる。混合樹脂層を形成するのに用いる第1の樹脂の粉末は、第1の樹脂層11の樹脂と同系統の粉末であればよく、必ずしも同じ樹脂を用いる必要はない。また、混合樹脂層13を形成するのに用いる第2の樹脂の粉末も、第2の樹脂層12の樹脂と同系統のものであればよく、必ずしも同じ樹脂でなくともよい。
【0041】
第1の樹脂層11と、第2の樹脂層12の間に、混合樹脂層13を設けることにより、第1の樹脂層11と第2の樹脂層12の層間の接着強度を著しく高めることができる。これは、混合樹脂層13に、第1の樹脂と第2の樹脂が混在しており、混合樹脂層13を回転成形法により成形する際、第1の樹脂と第2の樹脂とがお互いに絡み合った構造となり、混合樹脂層13において、いわゆるアンカー効果が発揮されるためであると思われる。
【0042】
混合樹脂層13における第1の樹脂と第2の樹脂の混合割合は、重量比で10:90〜90:10の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは20:80〜80:20の範囲であり、さらに好ましくは30:70〜70:30の範囲内である。
【0043】
混合樹脂層13の厚みは、0.5mm以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜5.0mmの範囲内である。第1の樹脂層11の厚みは、好ましくは0.5〜15.0mmの範囲内であり、さらに好ましくは1.0〜10.0mmの範囲内である。また、第2の樹脂層12の厚みは、0.5〜20.0mmの範囲内であり、さらに好ましくは3.0〜10.0mmの範囲内である。
【0044】
第1の樹脂として、ポリプロピレン系樹脂を用い、第2の樹脂としてポリエチレン系樹脂を用いる場合について説明する。
【0045】
混合樹脂層13に用いるポリエチレン系樹脂としては、混合樹脂層13に用いるポリプロピレン系樹脂との融点の差が大きな樹脂を用いることが好ましい。これにより、高い接着強度が得られる。ポリエチレン系樹脂の融点は、ポリプロピレン系樹脂の融点との差が20℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは25℃以上である。混合樹脂層13におけるポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との融点の差の上限値は、特に限定されるものではないが、一般に入手可能な汎用のポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の場合、以下でそれらの融点の差は70℃ある。混合樹脂層におけるポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の融点の差は、通常25℃〜65℃の範囲内で、好ましい範囲は35℃〜65℃である。
【0046】
ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の融点は、例えば日本工業規格(JIS)K7121(示差走査熱量測定)に従い測定することができる。
【0047】
多層回転成形品において用いるポリエチレン系樹脂としては、密度が903〜964kg/cm3であるものが好ましく用いられ、さらには903〜945kg/cm3のものが好ましく用いられる。密度が903kg/cm3未満であると剛性が不足し、964kg/cm3を超えると衝撃強度が不足する場合がある。密度は、例えば日本工業規格(JIS)K7112に従い測定することができる。
【0048】
また、ポリエチレン系樹脂の製造方法としては、特に制限されるものではなく、高圧ラジカル重合法、メタロセン触媒やチーグラー触媒などの公知の触媒を用いた中低圧重合法などで製造されたものを用いることができる。また、エチレンと、炭素原子数3〜20のα−オレフィンとの共重合体を用いることができる。
【0049】
多層回転成形品において用いるポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、0.3〜20g/10分の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは2〜7g/10分の範囲である。メルトフローレートが0.3g/10分未満であると、外観不良となる場合があり、20g/10分を超えると製品の厚みに偏りが生じる場合がある。なお、メルトフローレートは、例えば日本工業規格(JIS)K7210(190℃、荷重2.16kg)に従い測定することができる。
【0050】
多層回転成形品において用いるポリエチレン系樹脂の融点は、98〜135℃の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、115〜130℃の範囲内である。融点が115℃未満であると、剛性不足となる場合があり、融点が130℃を超えると、変形が大きくなる場合がある。
【0051】
多層回転成形品において用いるポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレン及び/または炭素原子数4〜20のα−オレフィンとの共重合体を用いることができる。α−オレフィンとして具体的には、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。中でも、エチレン及び炭素原子数4〜10のα−オレフィンが好ましく、特には、エチレン、1−ブテンが好ましい。
【0052】
プロピレンと他の炭素原子数4〜20のα−オレフィンとの共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれでもよい。また、ポリプロピレン系樹脂の耐衝撃性を改良する目的で、50%以下の添加量で他のポリマーをブレンドして使用することもできる。ブレンドに用いる樹脂としては、エチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとの共重合体、プロピレンと炭素数4〜10のα−オレフィンとの共重合体、エチレンとプロピレンと炭素数4〜10のα−オレフィンとの3元共重合体などが例示される。
【0053】
プロピレン系樹脂の製造に用いる触媒は、特に限定されるものではないが、立体規則性を有する公知のメタロセン触媒やチーグラー触媒などを使用することができる。
【0054】
重合反応は、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの不活性炭化水素や液化α−オレフィン等の溶剤の存在下、あるいは不存在下に行うことができる。重合は、連続式またはバッチ式の反応で行ってもよく、その条件は通常用いられる条件を採用することができる。さらに重合反応は一段で行ってもよく、二段以上の多段で行ってもよい。
【0055】
また、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は1〜40g/10分の範囲であることが好ましく、特に好ましくは5〜15g/10分の範囲である。メルトフローレートが1g/10分未満であると外観不良となる場合があり、40g/10分を超えると製品の厚みに偏りが生じるなどの問題が生じる。メルトフローレートは、日本工業規格(JIS)K7210(230℃、荷重2.16kg)に従い測定することができる。
【0056】
多層回転成形品において用いるポリプロピレン系樹脂の融点は、130〜165℃の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、140〜163℃の範囲内である。融点が140℃未満であると剛性不足となる場合があり、融点が163℃を超えると、衝撃強度が不足する場合がある。
【0057】
上記のポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂は、第2の樹脂層12に用いるポリエチレン系樹脂及び第1の樹脂層11に用いるポリプロピレン系樹脂としても用いることができる。
【0058】
本実施形態におけるタンク10においては、図2に示すように、配管用継手を取り付けるための孔部14が形成されている。孔部14は、回転成形によりタンク10を成形した後、タンク10の壁部に切削加工等を施すことにより形成することができる。
【0059】
図1に示す配管用継手6の筒状部4をタンク10の壁部の孔部14に挿入し、孔部14周辺の第2の樹脂層12と配管用継手6のフランジ部3とを溶着することにより、配管用継手6をタンク10の壁部に取り付けることができる。
【0060】
上記のように、第1の樹脂としてポリプロピレン系樹脂を用い、第2の樹脂としてポリエチレン系樹脂を用いる場合、配管用継手6の内側樹脂層1は、第1の樹脂層11のポリプロピレン系樹脂と同系統の樹脂から形成する。一般には、同系統の樹脂として、ポリプロピレン系樹脂を用いる。しかしながら、第1の樹脂層11を形成する樹脂と必ずしも同一の樹脂である必要はなく、第1の樹脂層11の樹脂と溶着し得る樹脂であればよい。従って、グレード等の異なるポリプロピレン系樹脂であってもよい。
【0061】
内側樹脂層1を、例えば射出成形によって成形する場合、射出成形に適したポリプロピレン系樹脂を用いることができる。このようなポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)としては、0.1〜70g/10分の範囲であることが好ましく、特に好ましくは、3〜30g/10分の範囲である。また、このようなポリプロピレン系樹脂の融点としては、130〜170℃の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは140〜165℃の範囲内である。
【0062】
外側樹脂層2は、第2の樹脂層12を形成するポリエチレン系樹脂と同系統の樹脂から形成される。従って、第2の樹脂層12の樹脂と溶着し得る樹脂であればよい。一般には、同系統の樹脂としてポリエチレン系樹脂を用いる。しかしながら、第2の樹脂層12を形成する樹脂と同じ樹脂である必要はなく、グレードの異なるポリエチレン系樹脂であってもよい。
【0063】
外側樹脂層2を、例えば射出成形によって成形する場合、射出成形に適した樹脂を用いることができる。このような樹脂として用いることができるポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)としては、0.05〜75g/10分の範囲であることが好ましく、特に好ましくは2〜40g/10分の範囲である。また、融点としては、90〜150℃の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは120〜140℃の範囲内である。
【0064】
図6は、図1に示す配管用継手を金型内で成形するときの状態を示す断面図である。
【0065】
内側樹脂層1を、予め金型等を用いて、例えばポリプロピレン系樹脂を射出成形等することにより成形する。成形した内側樹脂層1の貫通孔1bを、中央金型31の円柱状部31aに挿入する。次に、上金型33を上方から下方に移動させるとともに、下金型34を下方から上方に移動させて、中央金型31の基部31bに、上金型33の一方端部33b及び下金型34の一方端部34bを嵌め合わせ、図6に示すような状態に中央金型31、上金型33及び下金型34を組み合わせる。
【0066】
次に、図6に示すように組み合わせた状態で、上金型33の他方端部33a及び下金型34の他方端部34aと接するように、蓋金型32を配置し、図6に示すような状態とする。上記のようにして、中央金型31、上金型33、下金型34、及び蓋金型32を組み合わせる。金型内に形成された空間35内に、蓋金型32に形成された貫通孔(図示しない)より、例えばポリエチレン系樹脂を射出することにより、内側樹脂層1の周りに、外側樹脂層2を形成する。
【0067】
図6に示すように、内側樹脂層1と蓋金型32の間に隙間35aが形成されており、この部分に、射出したポリエチレン系樹脂が侵入し、内側樹脂層1を覆うので、射出成型後、内側樹脂層1が露出するまで、この部分を切削加工等により取り除く。また、孔2aを切削加工等により外側樹脂層2に形成する。
【0068】
以上のようにして、内側樹脂層1の周りに、外側樹脂層2を形成し、配管用継手6を製造することができる。
【0069】
図3は、図1に示す配管用継手6を、図2に示すタンク10の孔部14の周囲に溶着するため、配管用継手6のフランジ部3及びタンク10の孔部14の周辺をヒーター20によって加熱する状態を示す断面図である。
【0070】
図3に示すように、タンク10の孔部14と配管用継手6の間に、ヒーター20を配置する。ヒーター20は、配管用継手6のフランジ部3の表面を加熱するための第1の加熱部21と、タンク10の孔部14の周辺の第2の樹脂層12の表面を加熱するための第2の加熱部22を備えている。第1の加熱部21が、本発明の溶着方法における第1の加熱手段となり、第2の加熱部22が、第2の加熱手段となる。
【0071】
第1の加熱部21には、フランジ部3の先端面と接し、フランジ部3の先端面を加熱するための第1の加熱面21aと、フランジ部3から突き出た筒状部4の外周面を加熱するための第2の加熱面21bが形成されている。第2の加熱面21bは、筒状部4を嵌め入れることができる凹部21dの側壁として形成されている。
【0072】
第2の加熱部22には、タンク10の孔部14の周辺の第2の樹脂層12の表面と接し、第2の樹脂層12の表面を加熱するための第3の加熱面22aが形成されている。また、第2の加熱部22には、孔部14に嵌まる凸部22dが形成されている。凸部22dには、孔部14の内周面を加熱するための第4の加熱面22bが形成されている。
【0073】
図3に示すように、第1の加熱部21の第2の加熱面21bと、筒状部4の外周面との間には、隙間21cが形成されている。筒状部4の外周面は、先端部4aと基部4bでほぼ同じ径を有しており、フランジ部3の先端面に対し垂直方向に形成されている。これに対し、第2の加熱面21bは、筒状部4の基部4bに近づくにつれて凹部21dの内径が広がるようにテーパー状に形成されている。このため、筒状部4の先端部4aよりも、筒状部4の基部4bにおいて、隙間21cがより大きくなるように形成されている。本発明においては、筒状部4の先端部4aよりも、基部4bにおいて、第2の加熱面21bとの間で、隙間21cがより大きくなるように形成されていることが好ましい。この構成に基づく作用効果については、後述する。
【0074】
第2の加熱部22の凸部22dは、先端に向かって径が細くなるようにテーパー状に形成されている。これに対し、孔部14は、第1の樹脂層11及び第2の樹脂層12において、ほぼ同様の径になるように形成されており、その内周面は厚み方向に略直線状に延びるように形成されている。このため、第4の加熱面22bと、孔部14の内周面との間には、隙間22cが形成されている。凸部22dは先端に向かって径が小さくなるようにテーパー状に形成されているので、隙間22cは、孔部14内の第2の樹脂層12の部分よりも、孔部14内の第1の樹脂層11の部分において、第4の加熱面22bとの間で、より大きな隙間となるように形成されている。この構成に基づく作用効果については、後述する。
【0075】
上記のようにヒーター20を配置し、第1の加熱部21により、フランジ部3及び筒状部4の表面をそれぞれの樹脂の融点より高くなるように加熱する。例えば、150〜240℃の範囲内の温度となるように加熱する。同様に、第2の加熱部22により、孔部14の周辺の第2の樹脂層12の表面を、第2の樹脂層12の樹脂の融点より高くなるように加熱する。例えば、150〜240℃の範囲内の温度となるように加熱する。
【0076】
以上のようにして、配管用継手6のフランジ部3及び筒状部4の表面並びにタンク10の孔部14周辺の第2の樹脂層12の表面を加熱した後、ヒーター20を取り除き、タンク10の孔部14に、配管用継手6の筒状部4が嵌まるように配管用継手6をタンク10の第2の樹脂層12に押し付けて溶着させる。
【0077】
図4は、本実施形態における配管用継手6を、タンク10の孔部14の周辺に溶着によって取り付けた状態を示す断面図である。図4に示すように、配管用継手6のフランジ部3は、タンク10の第2の樹脂層12と同系統のポリエチレン系樹脂から形成されているので、溶着によりフランジ部3が第2の樹脂層12と一体化している。また、配管用継手6の先端の筒状部4における外側樹脂層2の部分も、第2の樹脂層12と同系統のポリエチレン系樹脂から形成されているので、溶着により一体化している。
【0078】
本発明において、筒状部4の先端部4aは、内側樹脂層1のみから形成されている。従って、本実施形態において、先端部4aは、ポリプロピレン系樹脂から形成されている。この先端部4aは、配管用継手6をタンク10に押し付けた際、タンク10の内側の第1の樹脂層11と接する。第1の樹脂層11は、先端部4aと同系統の樹脂から形成されており、本実施形態においては、共にポリプロピレン系樹脂から形成されている。このため、第1の樹脂層11と配管用継手6の先端部4aが良好な接着状態で溶着される。
【0079】
筒状部4の先端部4aの長さ、すなわち配管用継手6の筒状部4を、タンク10の孔部14内に配置した際、第1の樹脂層11と接する内側樹脂層1のみから形成された部分の長さは、筒状部4の先端部4aと第1の樹脂層11とが溶着し得る長さであればよく、適宜調整することができる。一般には、第1の樹脂層11の厚みと同程度の長さにすることが好ましい。
【0080】
以下、本発明の効果を説明するため、比較例について説明する。
【0081】
比較として、配管用継手6の筒状部4の先端部4aが、先端部4a以外の部分と同様に、内側樹脂層1の周りに外側樹脂層2が設けられた構造を有するものを作製し、上記と同様にして、配管用継手6をタンク10の孔部14の周辺に溶着により取り付けた。配管用継手6のフランジ部3及び筒状部4の外側樹脂層を、タンク10の第2の樹脂層12に一体化して取り付けることができ、配管用継手6をタンク10に高い接着強度で取り付けることができた。しかしながら、タンク10内に温水を入れ、長時間経過した後、配管用継手6のタンク10への取り付け強度を測定したところ、取り付け強度の低下が認められた。この原因について考察したところ、以下のようなメカニズムで、温水がタンク10の内側から混合樹脂層13内に浸入し、これによって配管用継手6の取り付け強度の低下がもたらされていることがわかった。
【0082】
図7は、上記比較例における配管用継手6の先端部4aの取り付け状態を示す拡大断面図である。
【0083】
図7に示すように、この比較例においては、先端部4aが内側樹脂層1と外側樹脂層2から構成されているため、タンク10の内側のポリプロピレン系樹脂からなる第1の樹脂層11と、ポリエチレン系樹脂からなる外側樹脂層2が接する界面Aの部分が存在する。第1の樹脂層11と外側樹脂層2が接する界面Aの部分においては、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂の接着であるので、十分な接着性が得られない。このため、界面Aの部分から、タンク10内の液体が浸入し、浸入した液体が、混合樹脂層13内に浸透したものと思われる。
【0084】
図8は、混合樹脂層13を示す走査型電子顕微鏡写真である。図8に示すように、混合樹脂層13においては、ポリエチレン系樹脂と、ポリプロピレン系樹脂が絡み合った状態となっている。また、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の間には、隙間が形成されている。これは、回転成形法で混合樹脂層13を形成する際、ポリエチレン系樹脂の粉末及びポリプロピレン系樹脂の粉末がある程度溶融しながらも、完全に混じり合うことはなく、絡み合った状態で存在しており、冷却される際にそれぞれの樹脂が収縮するため、ポリエチレン系樹脂相とポリプロピレン系樹脂相の界面において、隙間が形成されるものと思われる。図7に示す界面Aから浸入した液体は、このような混合樹脂層13内の隙間内を浸透していき、液体に対し耐久性の劣るポリエチレン系樹脂と接するため、ポリエチレン系樹脂が劣化し、このため、配管用継手6の接着強度すなわち取り付け強度が低下したものと思われる。
【0085】
これに対し、本発明に従う本実施形態では、筒状部4の先端部4aを内側樹脂層1のみから形成しているので、タンク10の第1の樹脂層11と接着性良く先端部4aを溶着させることができる。このため、タンク10内の液体が混合樹脂層13に浸入することはない。従って、温水を用いた上記の耐久試験においても、配管用継手の取り付け強度の低下は認められなかった。
【0086】
以上のように、本発明に従い、配管用継手を、第1の樹脂と同系統の樹脂から形成された内側樹脂層と、第2の樹脂と同系統の樹脂から形成された外側樹脂層から形成し、多層回転成形品の孔部に嵌められる筒状部の先端部を内側樹脂層のみから形成することにより、多層回転成形品の内部に収納した液体等が多層回転成形品の混合樹脂層に浸入するのを防止することができ、長期間の耐久性を持たせて配管用継手を多層回転成形品に接着性良く取り付けることができる。
【0087】
以下、図3に示す筒状部4の外周面と第2の加熱面21bとの間に形成される隙間21cによる作用効果について説明する。上述のように、筒状部4の外周面は、先端部4aと基部4bにおいてほぼ同様の径となるように形成されており、先端部4aと基部4bの間で外周面は垂直方向に延びるように形成されている。これに対し、第2の加熱面21bは、先端部4aから基部4bに近づくにつれて、広がるようにテーパー状に形成されている。このため、隙間21cは、先端部4aよりも基部4bにおいて、より大きくなるように形成されている。
【0088】
図9は、隙間21cの近傍を拡大して示す拡大断面図である。図9に示すように、筒状部4の先端部4aにおいては、隙間21cが小さくなっており、基部4bに近づくにつれて大きくなっている。
【0089】
図10は、第2の加熱部22の凸部22dの第4の加熱面22bと、孔部14の内周面との間に形成される隙間22cを拡大して示す断面図である。凸部22dは先端に近づくにつれて細くなるようにテーパー状に形成されているので、第4の加熱面22bは傾斜している。孔部14は、外側の第2の樹脂層12と内側の第1の樹脂層11においてほぼ径が同じになるように形成されている。このため、隙間22cは、第2の樹脂層12から第1の樹脂層11に近づくにつれて大きくなるように形成されている。
【0090】
図3に示すように、ヒーター20として、第1の加熱部21の凹部21dの下方端の直径dが56mm、上方端の直径dが60mmであり、第2の加熱部22の凸部22dの先端部の直径dが56mm、基部の直径dが60mmであるものを用いた。孔部14は、直径(内径)が60mmとなるように形成した。この孔部14は、図3に示すように、第1の樹脂層11と第2の樹脂層12における直径(内径)が60mmとなるように形成した。従って、孔部14の内周面は傾斜せず垂直方向に延びている。
【0091】
また、配管用継手6としては、筒状部4の先端部4a及び基部4bにおける径がどちらも56mmであるもの(実施例1)と、先端部4aの直径が56mmであり、基部4bの直径が60mmであるもの(実施例2)の2種類を作製し、上記のようにしてタンク10の孔部14に溶着により取り付けた。実施例1の配管用継手の筒状部4は、図3に示すように先端部4a及び基部4bが同じ直径であり、円筒状である。実施例2の筒状部4は、先端部4aの直径より基部4bの直径が大きくなっており、第1の加熱部21の凹部21dの形状に対応するテーパー形状に形成されている。
【0092】
配管用継手6を、タンク10の孔部14に溶着させ、図4に示すような状態で溶着させた後、図4に示す矢印B方向に、配管用継手6を引き上げ、引き抜き強度(接着強度)を評価した。強度測定の試験器としては、インテスク社製「万能材料試験器2010型」を用い、試験速度を20mm/分とし、測定対象の試料数を7として、接着強度を評価した。
【0093】
その結果、上記実施例1のものについては接着強度が15.7KNであり、上記実施例2のものについては10.6KNであった。従って、実施例1の方が、実施例2に比べ、高い接着強度を示した。これは、実施例2においては、筒状部4の外周面が、第1の加熱部21の第2の加熱面21bと同様に傾斜したテーパー形に形成されており、隙間21cがほとんど形成されないため、第1の加熱部21で筒状部4の外周面を加熱する際、先端部4aで溶融したポリプロピレン系樹脂が、筒状部4の外周面と第2の加熱面21bの間を通り、フランジ部3と第1の加熱面21aとの間の領域まで侵入し、フランジ部3の表面にポリプロピレン系樹脂が付着するためと思われる。このようにして付着したポリプロピレン系樹脂は、タンク10の孔部14に溶着する際、フランジ部3と第2の樹脂層12の間に介在し、接着強度を低下させるものと思われる。
【0094】
上記実施例1のように、筒状部4と第2の加熱面21bとの間に隙間21cを形成することにより、筒状部4の先端部4aで溶融したポリプロピレン系樹脂は、隙間21cの領域内にとどまるため、フランジ部3と第1の加熱面21aの間にポリプロピレン系樹脂が侵入するのを防止することができる。このため、実施例1においては、ポリプロピレン系樹脂が介在することなく加熱溶融したフランジ部3を、タンク10の孔部14の周囲の第2の樹脂層12と溶着することができ、高い接着強度が得られたものと思われる。
【0095】
従って、筒状部4の先端部4aよりも、筒状部4の基部4bにおいて、第2の加熱面21bとの間で、より大きな隙間が形成されるように、第2の加熱面21bを設けることにより、より高い接着強度で配管用継手6をタンク10の孔部14に溶着させることができる。
【0096】
筒状部4の基部4bにおける隙間は、先端部4aにおける隙間よりも大きければよいが、好ましくは、先端部4aにおける隙間よりも、1mm〜5mm程度、径方向において大きな隙間であることが好ましい。実施例1においては、2mmとなっている。
【0097】
図9に示すように、隙間21cは、先端部4aよりも基部4bにおいて大きくなるように形成されているので、第1の加熱部21で加熱する際、基部4bは先端部4aに比べ、加熱される度合いが若干低くなる。
【0098】
しかしながら、図10に示すように、第2の加熱部22においては第1の樹脂層11よりも、第2の樹脂層12において隙間22cが小さくなっているので、第2の樹脂層12が十分に加熱される。このため、筒状部4を孔部14に嵌め入れて溶着する際、筒状部4の基部4bが、十分に加熱された第2の樹脂層12と接され、筒状部4の基部4bにおける不十分な加熱を補うことができる。このため、筒状部4の基部4bと、第2の樹脂層12とを良好な接着状態で溶着させることができる。
【0099】
同様に、孔部14の第1の樹脂層11は、第4の加熱面22bからやや離れているため、加熱状態が不十分となる場合があるが、筒状部4の先端部4aが第1の加熱部21により十分に加熱されているので、筒状部4の先端部4aと第1の樹脂層11とを良好な接着状態で溶着させることができる。
【0100】
以上のように、本発明の溶着方法によれば、高い接着強度で配管用継手を多層回転成形品の孔部に溶着させることができる。
【0101】
上述のように、本発明によれば、配管用継手が、内側樹脂層と外側樹脂層から形成されているので、それぞれの樹脂の長所を活かし、かつ短所を補うことができる。
【0102】
本実施形態のように、多層回転成形品として、内側の第1の樹脂層としてポリプロピレン系樹脂層を配置し、外側の第2の樹脂層としてポリエチレン系樹脂層を配置することにより、ポリプロピレン系樹脂層は耐熱性に優れており、ポリエチレン系樹脂層はポリプロピレン系樹脂層に比べ耐衝撃性に優れているので、耐熱性及び耐衝撃性が共に優れた多層回転成形品とすることができる。
【0103】
同様に、配管用継手の内側樹脂層としてポリプロピレン系樹脂層を配置し、外側樹脂層としてポリエチレン系樹脂層を配置することにより、耐熱性及び耐衝撃性が共に優れた配管用継手とすることができる。従って、このような配管用継手を多層回転成形品に取り付けることにより、耐熱性及び耐衝撃性が共に優れた配管用継手を備えた多層回転成形品とすることができる。
【0104】
上記実施形態においては、第1の樹脂層及び内側樹脂層として、ポリプロピレン系樹脂を用い、第2の樹脂層及び外側樹脂層として、ポリエチレン系樹脂を用いているが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、第1の樹脂層及び内側樹脂層にポリエチレン系樹脂を用い、第2の樹脂層及び外側樹脂層にポリプロピレン系樹脂を用いてもよい。ポリエチレン系樹脂は、耐薬品性に優れているので、このような構成にすることにより、耐薬品性に優れ、かつ曲げ強度などの剛性に優れた配管用継手を備えた多層回転成形品にすることができる。
【0105】
また、本発明において、第1の樹脂層及び内側樹脂層並びに第2の樹脂層及び外側樹脂層に用いる樹脂は、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂に限定されるものではない。
【0106】
また、本発明において、多層回転成形品は、第1の樹脂層、混合樹脂層、及び第2の樹脂層の少なくとも3層を備えるものであればよく、4層以上の構造を有していてもよい。例えば、第1の樹脂層/混合樹脂層/第2の樹脂層/混合樹脂層/第1の樹脂層や、第2の樹脂層/混合樹脂層/第1の樹脂層/混合樹脂層/第2の樹脂層のような多層構造のものであってもよい。
【0107】
上記と同様に、配管用継手も、外側樹脂層と内側樹脂層の2層構造のものに限定されるものではなく、3層以上の構造のものであってもよい。
【符号の説明】
【0108】
1…内側樹脂層
1b…貫通孔
1c,1d,1e…凸部
2…外側樹脂層
2a…孔
2b…リブ
2c,2d,2e…凹部
2f…円筒部
3…フランジ部
4…筒状部
4a…筒状部の先端部
4b…筒状部の基部
5…台座部
6…配管用継手
10…タンク
11…第1の樹脂層
12…第2の樹脂層
13…混合樹脂層
14…孔部
20…ヒーター
21…第1の加熱部
21a…第1の加熱面
21b…第2の加熱面
21c…隙間
21d…凹部
22…第2の加熱部
22a…第3の加熱面
22b…第4の加熱面
22c…隙間
22d…凸部
31…中央金型
31a…中央金型の円柱状部
31b…中央金型の基部
32…蓋金型
33…上金型
33a,33b…上金型の端部
34…下金型
34a,34b…下金型の端部
35…金型内の空間
35a…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層回転成形品の孔部に溶着して取り付けられる配管用継手であって、
前記多層回転成形品が、
内側に配置され、第1の樹脂の粉末から成形された第1の樹脂層と、
外側に配置され、第2の樹脂の粉末から成形された第2の樹脂層と、
前記第1の樹脂層と前記第2の樹脂層との間にこれらの層と接して配置され、前記第1の樹脂の粉末と前記第2の樹脂の粉末とを混合した粉末から成形された混合樹脂層とを備え、
前記配管用継手が、
前記第1の樹脂と同系統の樹脂から成形された筒状の内側樹脂層と、
前記第2の樹脂と同系統の樹脂から成形され、前記内側樹脂層を覆う外側樹脂層とを備え、
前記多層回転成形品の前記孔部周辺の前記第2の樹脂層と溶着させるフランジ部が前記外側樹脂層に形成されており、前記多層回転成形品の前記孔部に嵌められる筒状部が、前記内側樹脂層と前記外側樹脂層とから形成されており、前記孔部の前記第1の樹脂層と接する前記筒状部の部分が、前記内側樹脂層のみから形成されていることを特徴とする多層回転成形品の配管用継手。
【請求項2】
前記第1の樹脂層及び内側樹脂層がポリプロピレン系樹脂から形成され、前記第2の樹脂層及び外側樹脂層がポリエチレン系樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の多層回転成形品の配管用継手。
【請求項3】
前記内側樹脂層の外周部に外側に向かって延びる凸部が形成されており、前記外側樹脂層の内周部に前記凸部が嵌まる凹部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の多層回転成形品の配管用継手。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の配管用継手を製造する方法であって、
前記内側樹脂層を成形する工程と、
前記内側樹脂層を金型内に配置し、前記内側樹脂層の周囲に前記外側樹脂層の樹脂を射出して前記外側樹脂層を成形する工程とを備えることを特徴とする多層回転成形品の配管用継手の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の配管用継手を前記多層回転成形品の前記孔部に溶着する方法であって、
溶着させる際前記第2の樹脂層と接する前記フランジ部の先端面を加熱するための第1の加熱面と、前記筒状部の外周面を加熱するための第2の加熱面とを有する第1の加熱手段で、前記フランジ部の先端面及び前記筒状部の外周面を加熱する工程と、
前記孔部の周辺の前記第2の樹脂層を加熱するための第3の加熱面と、前記孔部内の内周面を加熱するための第4の加熱面とを有する第2の加熱手段で、前記孔部の周辺の前記第2の樹脂層及び前記孔部内の内周面を加熱する工程と、
加熱した前記フランジ部の先端面と加熱した前記孔部の周辺の前記第2の樹脂層とを当接させるとともに、加熱した前記筒状部の外周面と加熱した前記孔部内の内周面とを当接させてそれぞれを溶着させることにより、前記配管用継手を前記多層回転成形品の前記孔部に溶着させる工程とを備え、
前記第1の加熱手段で前記筒状部の外周面を加熱するため前記筒状部の外周面の周囲に前記第2の加熱面を配置した際、前記内側樹脂層のみから形成された前記筒状部の先端部よりも、前記内側樹脂層と前記外側樹脂層から形成された前記筒状部の基部において、前記第2の加熱面との間で、より大きな隙間が形成されるように、前記第2の加熱面が設けられていることを特徴とする配管用継手と多層回転成形品の溶着方法。
【請求項6】
前記第2の加熱手段で前記孔部内の内周面を加熱するため前記孔部内に前記第4の加熱面を配置した際、前記孔部内の前記第2の樹脂層の部分よりも、前記孔部内の前記第1の樹脂層の部分において、前記第4の加熱面との間で、より大きな隙間が形成されるように、前記第4の加熱面が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の配管用継手と多層回転成形品の溶着方法。
【請求項7】
前記第1の加熱手段と前記第2の加熱手段とが一体的に設けられたヒーターを用いて、前記フランジ部の先端面及び前記筒状部の外周面と、前記孔部の周辺の前記第2の樹脂層及び前記孔部内の内周面とを同時に加熱することを特徴とする請求項5に記載の配管用継手と多層回転成形品の溶着方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−231913(P2011−231913A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105393(P2010−105393)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(506117840)スイコー株式会社 (5)
【Fターム(参考)】