説明

妊娠期間中に胎児13トリソミーまたは胎児13トリソミーのリスクを診断する方法

本明細書に開示するのは、被検体におけるsFlt-1、VEGFおよびPlGFのレベルを検出することによって、妊娠期間中に胎児13トリソミーまたは胎児13トリソミーのリスクを診断するための方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
一般に、本発明は、妊娠期間中の胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの検出に関する。
【0002】
連邦政府による資金援助を受けた研究に関する申告
本研究は一部、NIH助成金R03DK064255-02号による資金提供を受けた。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
子癇前症は高血圧、浮腫およびタンパク尿を伴う症候群であり、妊娠例の5〜10%にみられ、かなり高い率で母体および胎児の罹病および死亡を引き起こす。子癇前症は世界中で毎年少なくとも200,000件の妊産婦死亡の原因となっている。子癇前症の症状は典型的には妊娠第20週以後に出現し、通常は女性の血圧および尿の定期モニタリングによって検出される。しかし、これらのモニタリング方法は、早期の症候群の診断には有効でない。
【0004】
胎児および胎盤の正しい発達は、いくつかの増殖因子によって媒介される。これらの増殖因子の一つは血管内皮増殖因子(VEGF)である。VEGFは内皮細胞特異的なマイトジェンであり、血管新生誘導因子であり、血管透過性のメディエーターでもある。VEGFはまた、糸球体毛細血管の修復のためにも重要であることが示されている。VEGFはホモ二量体として、多くの異なる組織から得られた内皮細胞で差異を伴って発現される2つの相同な膜貫通性チロシンキナーゼ受容体、すなわちfms様チロシンキナーゼ(Flt-1)およびキナーゼドメイン受容体(KDR)の一方と結合する。Flt-1は胎盤形成に寄与する栄養膜細胞によって高度に発現されるが、KDRはそうではない。胎盤増殖因子(PlGF)はVEGFファミリーのメンバーであり、胎盤発達にも関与する。PlGFは栄養膜細胞層および栄養膜合胞体層によって発現され、内皮細胞の増殖、移動および活性化を誘導することができる。PlGFはホモ二量体としてFlt-1受容体と結合するが、KDR受容体とは結合しない。PlGFおよびVEGFはどちらも、胎盤が発達するために重大な意味を持つ分裂促進活性および血管新生に寄与する。
【0005】
可溶性Flt-1受容体(sFlt-1)は、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを欠く、Flt-1受容体のスプライス変異体である。sFlt-1はVEGFおよびPlGFと高い親和性で結合するが、内皮細胞の有糸分裂誘発を促すことはない。sFlt-1は、VEGFシグナル伝達経路をダウンレギュレートするための「生理的シンク」と考えられている。その結果、sFlt-1レベルの調節は、VEGFおよびPlGFならびにそれぞれのシグナル伝達経路を調整するように働き、これは発達中の胎盤における栄養膜細胞による適切な増殖、移動および血管新生を維持するために重大な意味を持つ。
【0006】
本発明者らは以前に、子癇前症の女性から採取した血清試料中のsFlt-1レベルが上昇していることを見いだしている。sFlt-1はVEGFおよびPlGFと高い親和性で結合し、これらの増殖因子の分裂促進活性および血管新生活性を阻止する。このため、sFlt-1、VEGFおよびPlGFは、子癇前症に対する有用な診断マーカーおよび治療標的となる。本発明者らはまた、尿中の遊離PlGFレベルを、子癇前症もしくは子癇またはそれらに対する素因を検出するための診断ツールとして用いうることも以前に見いだしている。
【0007】
13トリソミーは5,000件の出生のうち約1件に起こる染色体異常であり、100件の自然流産のうち6件の原因である。罹患した新生児は多数の重大な奇形を有する。この異常を有するほとんどの胎児は妊娠の最初の2つの三半期の間に自然流産し、出生前に診断された多くの妊娠例は中絶を受ける。出生前診断は通常、羊水穿刺の後に行われるため、このような中絶は妊娠の比較的後期であり、往々にして外傷性である。13トリソミーの新生児の半数は1カ月以内に死亡し、1年以上生きるのは5〜10%に過ぎない。第2および第3三半期の13トリソミー妊娠例は子癇前症をより発症しやすい。
【0008】
13トリソミーの胎児を有する、または13トリソミーの胎児を有するリスクのある妊娠被検体を、特に妊娠初期に正確に診断する方法に対しては、需要が存在する。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明者らは、13トリソミーの胎児を妊娠している女性では、おそらくは胎盤Flt-1遺伝子の過剰なコピーのために、sFlt-1の血清レベルが上昇していることを見いだしている。本発明者らはまた、13トリソミーの胎児を妊娠している女性では、PlGFのレベルが低下し、sFlt-1/PlGF比のレベルが上昇していることも見いだしている。この流血中の血管新生状態の変化は、これらの患者で観察される子癇前症のリスクの増大の原因である可能性がある。本発明者らは、sFlt-1、PlGFおよびVEGFのレベル、ならびにsFlt-1/PlGF比を、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクのある妊娠女性についてスクリーニングするための診断マーカーとして用いうることを見いだした。本発明の診断方法およびキットは、単独で用いることもでき、または、超音波、羊水穿刺、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)および絨毛採取(CVS)を非限定的に含む、遺伝的欠陥を確かめるための別の方法と組み合わせて用いることもできる。また、本発明の診断方法を、胎児13トリソミー障害についてさらに検査を受けるべき女性を同定するための予備スクリーニングとして用いることもできる。
【0010】
したがって、第1の局面において、本発明は、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する方法であって、被検体からの試料におけるsFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドのレベルを測定する段階を含む方法を特徴とする。本方法は、閾値レベル未満であるsFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドの絶対レベルを決定して、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断するために用いることができる。例えば、2ng/ml体液(例えば、血液、血清または尿)を上回るsFlt-1の血清レベルは、胎児13トリソミーの、または13トリソミーの胎児を有するリスクが高いことの診断指標となる。もう1つの例には、10〜12週で50pg/ml未満、13〜16週で100pg/ml未満、17〜20週で200pg/ml未満、21〜24週、25〜28週、29〜32週または33〜37週で300pg/ml未満、および37〜41週で250pg/ml未満という遊離PlGFの血清値がある。本方法はまた、参照試料と比較したsFlt-1、VEGFまたはPlGFの相対レベルを決定するために用いることもでき、正常参照試料と比較したsFlt-1、VEGFまたはPlGFのレベルの変化(例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれ以上の上昇または低下)によって、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する。この態様において、参照試料と比較した、被検体試料からのsFlt-1のレベルの上昇または遊離VEGFもしくは遊離PlGFポリペプチドのレベルの低下は、胎児13トリソミーの、または13トリソミーの胎児を有するリスクのある被検体の診断指標となる。
【0011】
関連した1つの局面において、本発明は、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する方法であって、被検体からの試料におけるsFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドのうち少なくとも2つのレベルを決定して、sFlt-1、VEGFまたはPlGFのレベル間の関係を測定基準(metric)を用いて算出することによる方法を提供する。望ましくは、測定基準から得られる測定基準値として知られる値を参照と比較し、参照の測定基準値と比べた被検体試料の測定基準値の変化によって、妊娠被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。好ましい態様において、本方法はまた、胎児の体型指数(BMI)、在胎齢(GA)またはその両方を決定し、BMIまたはGAまたはその両方を測定基準に含めることも含む。1つの態様において、測定基準は子癇前症抗血管新生指数(PAAI):[sFlt-1/VEGF+PlGF]であり、PAAIは抗血管新生活性の指標として用いられる。1つの態様において、10を上回る、より好ましくは20を上回るPAAIは、妊娠被検体が13トリソミーの胎児を有すること、またはそれを有するリスクがあることの指標となる。もう1つの態様において、測定基準はsFlt-1/PlGFであり、15を上回るsFlt-1/PlGF比によって、妊娠被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。PAAIおよびsFlt-1/PlGFのいずれに関しても、参照と比べて測定基準値が高いことによって妊娠被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。sFlt-1/PlGF比は、11週〜17週の間に少なくとも2回決定することができる。正常妊娠では、sFlt/PlGF比がこの時期に低下する。この期間にわたる比の上昇、または比の低下の欠如により、妊娠被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。
【0012】
上記の局面の好ましい態様において、sFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドのレベルは、ELISA、好ましくはサンドイッチELISAによって、または蛍光イムノアッセイによって決定される。
【0013】
もう1つの局面において、本発明は、被検体からの試料におけるsFlt-1、VEGFまたはPlGF核酸分子のレベルを測定してそれを参照試料と比較することによって、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する方法であって、レベルの変化(例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上の上昇または低下)によって、妊娠被検体が13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される方法を提供する。核酸分子の検出および定量のための方法は当技術分野で公知であり、例えば、Ausubel et al.(Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience, New York, 2001);Berger and Kimmel(Guide to Molecular Cloning Techniques, 1987, Academic Press, New York);およびSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載されている。
【0014】
もう1つの局面において、本発明は、被検体におけるsFlt-1、VEGFまたはPlGF遺伝子の核酸配列を決定してそれを参照配列と比較することによって、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する方法であって、被検体における遺伝子産物のレベルまたは生物活性を変化させる被検体の核酸配列の変化によって、妊娠被検体が13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される方法を提供する。1つの態様において、変化は核酸配列における多型である。
【0015】
上記の局面のさまざまな態様において、試料は、その中でsFlt-1、VEGFまたはPlGFを通常検出しうる、血液、尿、羊水、血清、血漿または脳脊髄液などの体液である。さらなる態様において、試料は組織または細胞である。非限定的な例には、胎盤組織または胎盤細胞、内皮細胞、白血球および単球が含まれる。上記の局面の好ましい態様において、測定されるsFlt-1ポリペプチドのレベルは、遊離型、結合型または総sFlt-1ポリペプチドのレベルである。さらなる態様において、sFlt-1ポリペプチドには、sFlt-1断片、分解産物または酵素切断産物も含まれうる。上記の局面の他の好ましい態様において、VEGFまたはPlGFのレベルは、遊離VEGFまたは遊離PlGFのレベルである。好ましい態様において、被検体はヒトである。上記の局面の他の態様において、被検体は非ヒト(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌまたはネコ)である。本方法は、妊娠期間中の任意の時期(例えば、第1三半期、第2三半期または第3三半期)に行うことができるが、好ましくは第1三半期の間に、例えば第4、5、6、7、8、9、10、11、12週もしくは13週に、または第2三半期の間に、例えば第14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26週もしくはさらには28週に行われる。
【0016】
上記の局面の他の態様において、測定されるレベルの少なくとも1つは、sFlt-1(遊離型、結合型または総合)のレベルである。さらなる態様において、測定されるsFlt-1のレベルには、sFlt-1分解産物または酵素切断産物のレベルが含まれる。上記の局面の他の態様においては、sFlt-1のレベルを測定する場合に、遊離PlGFのレベルも測定する。さらなる態様においては、BMIまたはGAまたはその両方も測定する。上記の局面のさまざまな態様において、sFlt-1核酸またはポリペプチドのレベルが参照と比べて高いことにより、妊娠被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。上記の局面の他の態様において、遊離VEGFポリペプチドまたはVEGF核酸のレベルが参照と比べて低いことにより、妊娠被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。上記の局面の他の態様において、遊離PlGFポリペプチドまたはPlGF核酸のレベルが参照と比べて低いことにより、妊娠被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。
【0017】
上記の局面のさらなる態様において、諸レベルは2度またはそれ以上の機会に測定され、測定間のレベルに変化があることによって妊娠被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。sFlt-1のレベルが第1の測定から次の測定までに上昇しているならば、または遊離VEGFもしくは遊離PlGFのレベルが第1の測定から次の測定までに低下しているならば、これは胎児13トリソミーであること、または13トリソミーの胎児を有するリスクがあることの診断になると考えられる。第1の機会は望ましくは第1三半期の間であり、第2の機会は第2三半期の間である。
【0018】
もう1つの局面において、本発明は、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する方法であって、被検体からの尿試料における遊離PlGFのレベルを測定する段階を含む方法を特徴とする。本方法は閾値レベル未満である遊離PlGFの絶対レベルを決定するために用いることができ、それによって被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。妊娠中期における遊離PlGFの正常な尿中濃度は約400〜800pg/mlである。好ましい態様においては、400pg/ml未満である、好ましくは300、200、100、50または10pg/ml未満である遊離PlGFのレベルによって、胎児13トリソミーであること、または13トリソミーの胎児を有するリスクがあることが診断される。尿試料におけるクレアチニンのレベルを測定して、遊離PlGFの絶対レベルを、存在するクレアチニンのmg数と比較することもできる。この比により、尿試料による希釈とは無関係に、PlGF濃度の決定が可能となる。本方法はまた、参照試料と比較して遊離PlGFの相対レベルを決定するために用いることもでき、正常参照試料と比較した遊離PlGFのレベルの低下(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上)によって、被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。この場合に、正常参照試料は同じ被検体から採取した以前の試料でもよく、または、妊娠しているが胎児13トリソミーを有しておらず、好ましくはそれが遺伝子検査によって確かめられている、合致する被検体(例えば、在胎齢に関して合致する)から採取した試料でもよい。さらなる好ましい態様において、参照試料はこのような正常参照試料に由来する標準的なレベルまたは数値である。参照用の標準またはレベルは、以下の基準のうち少なくとも1つについて試料被検体と合致する正常被検体に由来する値であってもよい:胎児の在胎齢、母親の年齢、妊娠前の血圧、妊娠中の血圧、母親のBMI、胎児の体重、子癇前症または子癇または13トリソミーの診断歴、および子癇前症または子癇または13トリソミーの家族歴。好ましい態様において、測定は、ELISA、好ましくはサンドイッチELISA、または蛍光イムノアッセイなどの免疫学的アッセイを用いて行われる。
【0019】
好ましい態様において、本方法はまた、被検体からの試料におけるsFlt-1、PlGFおよびVEGFポリペプチドのうち少なくとも1つのレベルを測定する段階を含み、試料は尿、血液、羊水、血清、血漿または脳脊髄液からなる群より選択される体液である。本方法は、絶対レベルを決定するために上記のように単独で用いることもでき、または参照試料におけるsFlt-1、PlGFおよびVEGFのうち少なくとも1つのレベルと比較することもできる。好ましい態様において、参照と比較した、被検体試料からのsFlt-1のレベルの上昇または遊離VEGFもしくは遊離PlGFポリペプチドのレベルの低下によって、被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。好ましい態様において、sFlt-1またはsFlt-1およびPlGFは、尿の遊離PlGFアッセイによって胎児13トリソミーのリスクがあると同定された被検体からの血清試料において測定される。1つの例では、尿の試料中の遊離PlGFのレベルをまず決定し、続いて同じ被検体からの血清試料中のsFlt-1および/または遊離PlGFの測定を行う。sFlt-1/PlGFの比を決定し、尿でのPlGFまたはsflt-1/PlGF比またはその両方を、妊娠被検体が13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断するために用いることができる。
【0020】
望ましくは、本方法はさらに、sFlt-1、VEGFおよびPlGFのうち少なくとも2つのレベル間の関係を測定基準を用いて算出することを含む。本方法は単独で用いることもでき、または測定基準値を参照試料の測定基準値と比較するために用いることもでき、参照試料における測定基準値と比べて被検体試料の測定基準値に変化があることによって、子癇前症もしくは子癇、または子癇前症もしくは子癇を発症する性向が診断される。好ましくは、測定基準はsFlt-1/PlGFまたはPAAIであり、正常参照または同じ被検体からの以前の試料と比較してsFlt-1/PlGFまたはPAAI値が高いことによって、妊娠被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。好ましい態様において、sFlt-1は遊離型、結合型または総sFlt-1であり、PlGFおよびVEGFは遊離PlGFおよび遊離VEGFである。
【0021】
もう1つの局面において、本発明は、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する方法であって、以下の段階を含む方法を特徴とする:
(a)尿の試料を被検体から入手する段階;
(b)試料を、固定化された第1のPlGF結合物質を含む固体支持体と、第1のPlGF結合物質と試料中に存在する遊離PlGFとの結合を可能にするのに十分な時間にわたって接触させる段階;
(c)段階(b)の後の固体支持体を、第2の標識されたPlGF結合物質の調製物と、第2の標識されたPlGF結合物質と第1の固定化されたPlGF結合物質と結合した遊離PlGFとの結合を可能にするのに十分な時間にわたって接触させる段階;
(d)第2の標識されたPlGF結合物質と、遊離PlGFと結合した固定化されたPlGF結合物質との、PlGF結合物質が固定化された位置での結合を観察する段階;
(e)段階(d)で観察された結合を、参照試料を用いて観察された結合と比較する段階であって、参照試料が既知の濃度のPlGFであり;さらに、参照試料を用いて観察された結合と比較した、段階(d)で観察された結合の低下によって、妊娠被検体が13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される段階。
【0022】
もう1つの関連した局面において、本発明は、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する方法であって、以下の段階を含む方法を特徴とする:
(a)尿試料を被検体から入手する段階;
(b)尿試料を、脱水された標識されたPlGF結合物質およびPlGF結合物質と結合する固定化された第2の物質を含む固体支持体と、試料が標識されたPlGF結合物質を再水和し、かつ試料中の遊離PlGFと標識されたPlGF結合物質との結合を可能にするのに十分な時間にわたって接触させる段階であって、標識されたPlGF結合物質と結合した遊離PlGFが固定化された第2の物質に向かって移動しうる(例えば、毛細管移動によって)段階;
(c)遊離PlGF-PlGF結合物質複合体と固定化された第2の物質との結合を、第2の物質が固定化された位置での標識の存在を検出することによって観察する段階;および
(d)段階(c)で観察された結合を参照試料を用いて観察された結合と比較する段階であって、参照試料が10pg/ml〜1ng/mlの範囲にある既知の濃度のPlGFである段階。
【0023】
上記の2つの局面の好ましい態様において、標識は比色標識(例えば、金コロイド)である。さらに好ましい態様において、PlGFと結合する物質は、遊離PlGFと特異的に結合する、抗体もしくは精製されたその断片、化合物、またはペプチドである。PlGF作用物質と結合する作用物質は、望ましくは、抗免疫グロブリン抗体もしくはその断片、プロテインA、またはプロテインGである。1つの態様において、参照試料は既知の正常濃度にあるPlGF試料であり、参照試料と比較した、対照試料における遊離PlGFの減少によって、被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあるとされる。
【0024】
もう1つの局面において、本発明は、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する方法であって、以下の段階を含む方法を特徴とする:
(a)尿試料を被検体から入手する段階;
(b)試料を、検出可能なように標識された固定化されたPlGF結合物質を有する固体支持体と、標識が、遊離PlGFと結合した時と遊離PlGFと結合していない時との間でPlGFを識別しうるような様式で接触させる段階。好ましい標識には蛍光標識が含まれる。膜を、被検体から入手した尿試料に対して、PlGF結合物質と試料中に存在する遊離PlGFとの結合を可能にするのに十分な時間にわたって曝露させる。続いて、遊離PlGFと結合した標識されたPlGF結合物質を測定する。このようなアッセイは、遊離PlGFの相対レベル(例えば、参照の試料または標準またはレベルからのレベルと比較して)を決定するために、または上記のように遊離PlGFの絶対濃度を決定するために用いることができる。結合の測定のために好ましいアッセイには、蛍光イムノアッセイが含まれる。
【0025】
もう1つの局面において、本発明は、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する方法であって、以下の段階を含む方法を特徴とする:
(a)尿試料を被検体から入手する段階;
(b)試料を、固定化された第1のPlGF結合物質を含む固体支持体と、第1のPlGF結合物質と試料中に存在する遊離PlGFとの結合を可能にするのに十分な時間にわたって接触させる段階;
(c)段階(b)の後の固体支持体を、酵素と連結した第2のPlGF結合物質の調製物と、第2のPlGF結合物質と第1の固定化されたPlGF結合物質と結合したPlGFとの結合を可能にするのに十分な時間にわたって接触させる段階;および
(d)段階(c)の酵素に対する基質の調製物を、酵素が基質を検出可能な基質へと変換するのを可能にするのに十分な時間および量で添加する段階;
(e)検出可能な基質のレベルを観察する段階;および
(f)段階(e)で観察されたレベルを参照試料を用いて観察された結合と比較する段階であって、参照試料が既知の濃度のPlGFであり、参照試料と比較した、段階(e)で観察されたレベルの変化によって、妊娠被検体が13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される段階。
【0026】
1つの態様において、参照試料は既知の正常濃度のPlGF試料であり、参照試料と比較した被検体試料における遊離PlGFの減少によって、妊娠被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。
【0027】
上記の方法の任意のものの好ましい態様において、基質は視覚的に、分光測定法によって、または化学発光法によって検出される。さらに好ましい態様において、酵素は西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼまたはアルカリホスファターゼであり、基質はTMB(テトラメチルベンジジン)、Xgal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシドまたは1,2ジオキセタンである。さらに好ましい態様において、参照試料は正常濃度の精製PlGFを有する試料であり、被検体試料が参照試料と比較して低下(10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれ以上)を示すならば、被検体は13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される。本方法の好ましい態様において、PlGF結合物質は、遊離PlGFと特異的に結合する、精製された抗PlGF抗体もしくはその断片、化合物、またはペプチドである。
【0028】
上記の診断方法の任意のものの好ましい態様において、固体支持体は、ディップスティック構造または側方流動フォーマット上に支持されうる膜であり、その例は米国特許第6,660,534号に記載されている。さらに好ましい態様において、被検体は妊娠したヒトまたは妊娠した非ヒト(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌまたはネコ)である。望ましくは、レベルの測定は2度またはそれ以上の機会に行われ、測定間のレベルの変化は子癇前症または子癇の診断指標となる。本方法は、妊娠期間中の任意の時期(例えば、第1三半期、第2三半期または第3三半期)に行うことができるが、第1三半期の間に、例えば第4、5、6、7、8、9、10、11、12週もしくは13週に、または第2三半期の間に、例えば第14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26週もしくはさらには28週に行うことが好ましい。例えば、ポリペプチドのうち1つまたは複数のもののレベルをまず約10、11、12または13週に測定し、続いて約16、17、18、19または20週に再び測定することができる。
【0029】
上記の診断方法の任意のもののさらに好ましい態様において、本方法はまた、α-フェトプロテイン(AFP)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)および非抱合型エストリオールのうち任意の1つ、2つまたは3つの測定も含む。母体血清試料におけるこれらの3種すべてのタンパク質の測定はトリプルスクリーンとして一般に知られており、通常は第15〜22週に行われる(例えば、Graves et al., Am. Fam. Physician 65:915-920 (2002)を参照)。sFlt-1、PlGFもしくはVEGFまたはそれらの任意の組み合わせ、ならびにAFP、hCGおよび非抱合型エストリオールの血清レベルを測定するのには、同じ血清試料を用いることが望ましい。もう1つの例において、尿試料中の遊離PlGFの測定を特徴とする本発明の診断方法は、妊娠早期に行うことができ、PlGFのレベルが胎児13トリソミーであること、または13トリソミーの胎児を有するリスクがあることを示すならば、トリプルスクリーン検査を、sFlt-1またはPlGFまたはその両方に関する血清検査とともに行うことができる。トリプルスクリーンなどの追加的な検査と組み合わせて行う場合、本発明の診断方法を同時に行うこともでき、または互いに1日以内、2日以内、5日以内、1週以内、2週以内、3週以内、5週以内、10週以内、20週以内、最大で30週または35週以内に行うこともできる。
【0030】
もう1つの局面において、本発明は、妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断のためのキットであって、sFlt-1、VEGFもしくはPlGFポリペプチドまたはそれらの任意の組み合わせを検出するために有用な構成要素を含むキットを提供する。好ましい態様において、キットは、VEGF、sFlt-1またはPlGFのうち少なくとも2つを検出する。さらに好ましい態様において、キットは、sFlt-1、VEGFまたはPlGFと、好ましくは遊離VEGFまたは遊離PlGFと特異的に結合する、結合物質(例えば、抗体またはその断片もしくは誘導体、またはペプチドまたは化合物)を含む。キットはまた、免疫学的アッセイ、酵素アッセイおよび比色アッセイからなる群より選択されるアッセイのための構成要素を含むこともできる。上記の局面の他の好ましい態様において、キットがsFlt-1の検出のための構成要素を含む場合には、遊離PlGFの検出のための構成要素も含められる。任意で、キットは試料のsFlt-1/PlGF比を決定するために用いられる。
【0031】
もう1つの局面において、本発明は、妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断のためのキットであって、sFlt-1、VEGFまたはPlGF核酸分子と特異的にハイブリダイズする、sFlt-1、VEGFおよびPlGF核酸分子からなる群より選択される核酸配列もしくはその断片、またはそれらに対して相補的な配列、またはそれらの任意の組み合わせを含むキットを提供する。1つの好ましい態様において、キットは、sFlt-1、VEGFまたはPlGF核酸分子の検出のための、少なくとも1つの核酸プローブ、好ましくは少なくとも2つの核酸プローブを含む。
【0032】
本発明はまた、妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断のためのキットであって、尿試料中の遊離PlGFを検出するための遊離PlGF結合物質、および妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断のためのその使用法に関する説明書を含むキットも提供する。キットはまた、以下から選択されるアッセイのために有用な構成要素を含むこともできる:免疫学的アッセイ(例えば、ELISA)、酵素アッセイまたは比色アッセイ。
【0033】
望ましくは、上記のキットは、上記の診断方法の任意のものを実施するために必要な構成要素の任意のものを含む。例えば、キットが膜を含み、その膜上に遊離PlGF結合物質、または遊離PlGF結合物質と結合する作用物質が固定化されていることが望ましい。膜はディップスティック構造上に支持されていて、ディップスティック構造を試料中に入れることによって試料が膜上に沈着されてもよく、または膜が側方流動カセット内に支持されていて、カセット内の開口部を通って試料が膜上に沈着されてもよい。
【0034】
上記の診断キットの任意のものの好ましい態様において、診断キットは、キット構成要素の意図した使用法に関するラベルまたは説明書、および標準曲線を確立するために用いられる参照試料または精製タンパク質を含む。1つの態様において、診断キットは、妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断における使用法に関するラベル表示がなされているか、またはそれに関する説明書を含む。診断キットはまた、被検体試料のPAAIまたはsFlt-1/PlGFを決定するため、およびPAAIまたはsFlt-1/PlGFを参照試料値と比較するためのキットの使用法に関するラベルまたは説明書を含むこともできる。参照試料値はキットの意図した使用法に依存すると考えられる。例えば、試料を、正常なPAAI参照値、正常なsFlt-1/PlGF比、または正常な遊離PlGF値と比較することができ、PAAI、sFltl-/PlGFの上昇またはPlGF値の低下によって、妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクが診断される。もう1つの好ましい態様において、診断キットは、被検体試料のsFlt-1/PlGF比を決定して、そのsFlt-1/PlGF比を参照試料値と比較するためのキットの使用法に関するラベルまたは説明書を含む。
【0035】
本発明のキットの任意のもののさらなる好ましい態様において、キットはまた、α-フェトプロテイン(AFP)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)および非抱合型エストリオールのうち任意の1つ、2つまたは3つの測定のための構成要素を含むこともできる。母体血清試料におけるこれらの3種すべてのタンパク質の測定はトリプルスクリーンとして一般に知られており、通常は第15〜22週に行われる(例えば、Graves et al., Am. Fam. Physician 65:915-920 (2002)を参照)。
【0036】
本明細書に記載した方法およびキットの任意のものを、胎児13トリソミーもしくは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断のために、または13トリソミーなどの遺伝的異常に関してさらに検査を受けるべき女性を同定するために、用いることができる。
【0037】
もう1つの関連した局面において、本発明は、妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクを診断するためのデバイスであって、被検体からの試料におけるsFlt-1、VEGFおよびPlGFポリペプチドのうち少なくとも1つのレベルを参照試料に対して比較するための構成要素を含み、sFlt-1、VEGFおよびPlGFのうち少なくとも1つのレベルの変化(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上)が、妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断指標となるデバイスを特徴とする。1つの好ましい態様において、デバイスは、sFlt-1、VEGFおよびPlGFポリペプチドの少なくとも2つとしてのレベルを比較するために測定基準を用いるための構成要素を含む。
【0038】
関連した1つの局面において、本発明は、妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクを診断するためのデバイスであって、被検体からの試料におけるsFlt-1、VEGFおよびPlGF核酸分子のうち少なくとも1つのレベルを参照試料に対して比較するための構成要素を含み、sFlt-1、VEGFおよびPlGFのうち少なくとも1つのレベルの変化が、被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクを特徴とする。1つの好ましい態様において、デバイスは、sFlt-1、VEGFおよびPlGF核酸分子のうち少なくとも2つとしてのレベルを比較するために測定基準を用いるための構成要素を含む。
【0039】
本発明において、以下の略語および用語は、以下の通りに定義される。
【0040】
「変化(alteration)」とは、変化(change)(上昇または低下)のことを意味する。変化は、上記のもののような当技術分野で公知の標準的な方法によって検出される遺伝子またはポリペプチドの発現レベルの変化でありうる。本明細書で用いる場合、変化には、発現レベルの10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上の変化が含まれる。「変化」はまた、本発明のポリペプチド(例えば、sFlt-1、VEGFまたはPlGF)のうち任意のものの生物活性の変化(上昇または低下)を示すこともできる。本明細書で用いる場合、変化には、生物活性の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上の変化が含まれる。PlGFまたはVEGFの生物活性の例には、イムノアッセイ、リガンド結合アッセイまたはスキャッチャードプロット分析によって測定されるような受容体との結合、および、BrdU標識、細胞数算定実験、またはDNA合成に関する3H-チミジン取込みなどの定量的アッセイによって測定されるような細胞増殖または移動の誘導が含まれる。sFlt-1に関する生物活性の例には、イムノアッセイ、リガンド結合アッセイまたはスキャッチャードプロット分析によって測定されるようなPlGFおよびVEGFに対する結合が含まれる。ポリペプチドのそれぞれについての生物活性に関するアッセイのそのほかの例は、本明細書に記載されている。
【0041】
「アンチセンス核酸塩基オリゴマー」とは、長さとは無関係に、sFlt-1遺伝子のコード鎖またはmRNAに対して相補的な核酸塩基オリゴマーのことを意味する。「核酸塩基オリゴマー」とは、連鎖基によって連結した、少なくとも8つの核酸塩基、好ましくは少なくとも12個、最も好ましくは少なくとも16個の塩基を有する鎖を含む化合物のことを意味する。この定義に含まれるものには、修飾型および非修飾型のいずれもの天然および非天然のオリゴヌクレオチド、ならびにタンパク質核酸、ロックド核酸およびアラビノ核酸などのオリゴヌクレオチド模倣物がある。参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公報第20030114412号および20030114407号に記載されたものを含め、さまざまな核酸塩基および連鎖基を、本発明の核酸塩基オリゴマー中に用いてよい。また、核酸塩基オリゴマーを翻訳開始部位および終止部位に対してターゲティングさせることもできる。アンチセンス核酸塩基オリゴマーは約8〜30ヌクレオチドを含むことが好ましい。また、アンチセンス核酸塩基オリゴマーが、sFlt-1のmRNAまたはDNAに対して相補的な、少なくとも40、60、85、120個またはそれ以上の連続したヌクレオチドを含むこともでき、完全長mRNAまたは遺伝子の長さであってもよい。
【0042】
「体型指数」とは、体重が健康な範囲に収まっているか否かについて一般的指標を与える、身長および体重の測定値を用いることによって得られる数値のことを意味する。体型指数を決定するために一般に用いられる式は、人のキログラム単位での体重をその人のメートル単位での身長の二乗で除算したもの、すなわち体重(kg)/(身長(m))2である。
【0043】
「化合物」とは、任意の低分子化合物、抗体、核酸分子またはポリペプチドまたはそれらの断片のことを意味する。
【0044】
「発現」とは、当技術分野で公知の標準的な方法による遺伝子またはポリペプチドの検出のことを意味する。例えば、ポリペプチドの発現は多くの場合、ウエスタンブロット法によって検出され、DNAの発現は多くの場合、サザンブロット法またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって検出され、RNAの発現は多くの場合、ノーザンブロット法、PCRまたはRNアーゼ保護アッセイによって検出される。
【0045】
「断片」とは、ポリペプチドまたは核酸分子の一部分のことを意味する。断片は、10、20、30、40、50、60、70、80、90または100、200、300、400、500、600、700、800、900または1000個またはそれ以上のヌクレオチドまたはアミノ酸を含んでよい。断片はまた、核酸分子またはポリペプチドの全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%を含む一部分のことも意味しうる。
【0046】
「在胎齢」とは、母親の最終月経期の最初の日から数えた胎児の齢数についての言及を意味し、通常は週単位で言及される。
【0047】
「子癇前症または子癇の病歴」とは、被検体自身または近縁親族における子癇前症または子癇または妊娠誘発性高血圧の診断歴のことを意味する。
【0048】
「相同な」とは、比較配列の全長にわたって、既知の遺伝子配列またはポリペプチド配列に対して少なくとも30%の相同性、より好ましくは40%、50%、60%、70%、80%、最も好ましくは90%またはそれ以上の相同性を有する、任意の遺伝子配列またはポリペプチド配列のことを意味する。また、「相同な」ポリペプチドは、比較ポリペプチドの少なくとも1つの生物活性も有しうる。ポリペプチドの場合、比較配列の長さは一般に少なくとも6アミノ酸、好ましくは少なくとも10または20アミノ酸、より好ましくは少なくとも25アミノ酸、最も好ましくは50、100、150, 200アミノ酸またはそれ以上であり、最大でポリペプチドの全長であると考えられる。核酸の場合、比較配列の長さは一般に少なくとも18ヌクレオチド、好ましくは少なくとも25または50ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも75ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも100、150、200、250、300ヌクレオチドまたはそれ以上であり、最大で核酸の全長であると考えられる。「相同性」はまた、抗体を作製するために用いたエピトープと、その抗体が標的とするポリペプチドまたはその断片との実質的な類似性のことを指すこともできる。この場合には、相同性は、当のポリペプチドを特異的に認識しうる抗体の作製を誘発するのに十分な類似性のことを指す。
【0049】
「ハイブリダイズする」とは、さまざまなストリンジェンシー条件下で、相補的なポリヌクレオチド配列またはその部分の間で二本鎖分子を形成する対のことを意味する(例えば、Wahl and Berger(1987) Methods Enzymol. 152:399;Kimmel, Methods Enzymol. 152:507, 1987を参照)。例えば、ストリンジェントな塩濃度は通例、約750mM未満のNaClおよび75mM未満のクエン酸三ナトリウム、好ましくは約500mM未満のNaClおよび50mM未満のクエン酸三ナトリウム、最も好ましくは約250mM未満のNaClおよび25mM未満のクエン酸三ナトリウムであると考えられる。低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーションは、有機溶媒、例えばホルムアミドの非存在下で得ることができ、一方、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーションは、少なくとも約35%のホルムアミド、最も好ましくは少なくとも約50%のホルムアミドの存在下で得ることができる。ストリンジェントな温度条件は通例、少なくとも約30℃、より好ましくは少なくとも約37℃、最も好ましくは少なくとも約42℃の温度を含むと考えられる。ハイブリダイゼーション時間、界面活性剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の濃度、および担体DNAを含めるか除外するかといったそのほかのパラメーターを変更することは、当業者に周知である。さまざまな程度のストリンジェンシーを、これらのさまざまな条件を必要に応じて組み合わせることによって実現することができる。1つの好ましい態様において、ハイブリダイゼーションは750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウムおよび1%SDS中にて30℃で行われる。1つのより好ましい態様において、ハイブリダイゼーションは、500mM NaCl、50mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、35%ホルムアミドおよび100μg/mlの変性サケ精子DNA(ssDNA)中にて37℃で行われる。1つの最も好ましい態様において、ハイブリダイゼーションは、250mM NaCl、25mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、50%ホルムアミドおよび200μg/mlのssDNA中にて42℃で行われる。これらの条件に対する有用な変更は当業者には容易に明らかになると考えられる。
【0050】
ほとんどの用途に関しては、ハイブリダイゼーションの後に続く洗浄の段階もストリンジェンシーを変化させると考えられる。洗浄のストリンジェンシー条件は塩濃度および温度によって定義することができる。上記のように、洗浄のストリンジェンシーは、塩濃度を低下させることによって、または温度を上昇させることによって高めることができる。例えば、洗浄段階についてのストリンジェントな塩濃度は、好ましくは、約30mM未満のNaClおよび3mM未満のクエン酸三ナトリウムであり、最も好ましくは約15mM未満のNaClおよび1.5mM未満のクエン酸三ナトリウムであると考えられる。洗浄段階についてのストリンジェントな温度条件は通例、少なくとも約25℃、より好ましくは少なくとも約42℃、最も好ましくは少なくとも約68℃の温度を含むと考えられる。1つの好ましい態様において、洗浄の段階は30mM NaCl、3mMクエン酸三ナトリウムおよび0.1%SDS中にて25℃で行われる。1つのより好ましい態様において、洗浄の段階は15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウムおよび0.1%SDS中にて42℃で行われる。1つの最も好ましい態様において、洗浄の段階は15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウムおよび0.1%SDS中にて68℃で行われる。これらの条件に対するそのほかの変更は当業者には容易に明らかになると考えられる。ハイブリダイゼーションの手法は当業者に周知であり、例えば、Benton and Davis(Science 196:180, 1977);Grunstein and Hogness(Proc. Natl. Acad. Sci., USA 72:3961, 1975);Ausubel et al.(Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience, New York, 2001);Berger and Kimmel(Guide to Molecular Cloning Techniques, 1987, Academic Press, New York);および、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載されている。
【0051】
「子宮内発育遅延(IUGR)」とは、胎児の在胎齢から予想される胎児体重の10パーセント値未満である出生時体重をもたらす症候群のことを意味する。低出生時体重に関する現在の世界保健機構(World Health Organization)の基準は、2,500グラム(5ポンド8オンス)未満の体重、または人種、出産歴および乳児性別ごとにみた米国での在胎齢に対する出生時体重の表(Zhang and Bowes, Obstet. Gynecol. 86:200-208, 1995)による在胎齢に関する10パーセンタイル未満の体重のことである。これらの低体重新生児は「在胎齢の割りに小さい(SGA)」とも呼ばれる。子癇前症はIUGRまたはSGAと関連性があることが知られている病状である。
【0052】
「測定基準(metric)」とは、評価基準のことを意味する。測定基準は、例えば、関心対象のポリペプチドまたは核酸分子のレベルを比較するために用いることができる。例示的な測定基準には、数式またはアルゴリズム、例えば比などが非限定的に含まれる。用いられるべき測定基準は、13トリソミーの胎児を有するかそれを有するリスクのある被検体と正常対照被検体とにおけるsFlt-1、VEGFまたはPlGFのレベルを最もよく識別するものである。用いられる測定基準に応じて、13トリソミーの胎児を有するかそれを有するリスクのある被検体の診断指標は、参照値(例えば、胎児13トリソミーを有していない対照被検体からの)よりも有意に高いこともあれば低いこともある。測定基準にはまた、被検体に関するBMIまたはGAも含まれうる。
【0053】
sFlt-1レベルは一般に、遊離型、結合型(すなわち、増殖因子と結合したもの)または総sFlt-1(結合型+遊離型)の量を測定することによって測定される。VEGFまたはPlGFのレベルは一般に、遊離PlGFまたは遊離VEGF(すなわち、sFlt-1と結合していないもの)の量を測定することによって決定される。1つの例示的な測定基準は[sFlt-1/(VEGF+PlGF)]であり、これは子癇前症抗血管新生指数(PAAI)とも呼ばれる。もう1つの例示的な測定基準はsFlt-1/PlGFである。この例では、sFlt-1およびPlGFを母体血清試料中で検出することが好ましい。
【0054】
「機能的に連結された」とは、遺伝子および調節配列が、適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)が調節配列と結合した時に遺伝子発現が許容されるような様式で連結されていることを意味する。
【0055】
「胎盤増殖因子(PlGF)」とは、GenBankアクセッション番号P49763によって定義されたタンパク質と相同であって、かつPlGF生物活性を有する、哺乳動物増殖因子のことを意味する。PlGFは、VEGFファミリーに属するグリコシル化されたホモ二量体であり、選択的スプライシング機構による2種類の異なるアイソフォームとして認められる。PlGFは胎盤内の細胞栄養芽層および栄養膜合胞体層によって発現され、PlGFの生物活性には内皮細胞、特に栄養膜細胞の増殖、移動および活性化の誘導が含まれる。
【0056】
「多型」とは、病状を発症する素因の指標となる、sFlt-1、PlGFまたはVEGF核酸分子における遺伝的な差異、変異、欠失または付加のことを意味する。このような多型は当業者に公知であり、Parry et al.(Eur. J Immunogenet. 26:321-3, 1999)に記載されている。多型は、sFlt-1遺伝子のプロモーター配列、オープンリーディングフレーム、イントロン配列または非翻訳3'領域に存在しうる。
【0057】
「子癇前症」とは、妊娠または最近の妊娠の影響に起因する、タンパク尿もしくは浮腫もしくはその両方を伴う高血圧、糸球体機能不全、脳浮腫、肝浮腫または凝固異常を特徴とする多臓器障害のことを意味する。子癇前症は一般に、妊娠第20週以後に起こる。子癇前症は一般に以下の症状の何らかの組み合わせとして定義される:(1)妊娠第20週後に収縮期血圧(BP)>140mmHgかつ拡張期BP>90mmHg(一般に4〜168時間を隔てた2度の機会に測定)、(2)新たに発生したタンパク尿(試験紙による尿分析で1+、24時間蓄尿中のタンパク質>300mg、または単回の無作為な尿試料のタンパク質/クレアチニン比>0.3)、および(3)分娩後12週までに高血圧およびタンパク尿が解消。重症の子癇前症は一般に、(1)拡張期BP>110mmHg(一般に4〜168時間を隔てた2度の機会に測定)、または(2)24時間蓄尿でタンパク質が3.5gもしくはそれ以上という測定または試験紙によりタンパク質が少なくとも3+である2つの無作為な尿標本によって特徴づけられるタンパク尿、によって一般に定義される。子癇前症において、高血圧およびタンパク尿は一般に、互いに7日以内に起こる。重症の子癇前症では、重症高血圧、高度のタンパク尿およびHELLP症候群(溶血、肝酵素上昇、血小板数低下)または子癇が同時に起こることもあれば、一度に1つの症状しか起こらないこともある。時には、重症の子癇前症が発作の発生につながることもある。この重症型の症候群は「子癇」と呼ばれる。子癇にはまた、肝臓(例えば、肝細胞障害、門脈周囲壊死)および中枢神経系(例えば、脳浮腫および脳出血)などのいくつかの臓器または組織に対する機能不全または障害も含まれうる。この発作の病因は、脳浮腫および腎臓内の微小血管の限局性攣縮の発生に続発するものと考えられている。
【0058】
「子癇前症抗血管新生指数(PAAI)」とは、抗血管新生活性の指標として用いられる、sFlt-1/VEGF+PlGFという比のことを意味する。10を上回る、より好ましくは20を上回るPAAIは、子癇前症または子癇前症のリスクの指標になると考えられる。
【0059】
「プローブ」とは、相補的配列を含む第2のDNA分子またはRNA分子(「標的」)と塩基対合を行いうる、規定された配列を有する一本鎖DNA分子またはRNA分子のことを意味する。その結果生じるハイブリッドの安定性は、生じる塩基対合の程度に依存する。この安定性は、プローブと標的分子との間の相補性の度合いおよびハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーの度合いといったパラメーターによって影響される。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーの度合いは、温度、塩濃度およびホルムアミドなどの有機分子の濃度といったパラメーターによって影響され、当業者に周知の方法によって決定される。sFlt-1、PlGFまたはVEGF核酸分子と特異的に結合またはハイブリダイズするプローブは、本明細書に記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列に対して、好ましくは、45%を上回る配列同一性、より好ましくは少なくとも55〜75%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも75〜85%の配列同一性、なおいっそうより好ましくは少なくとも85〜99%の配列同一性、最も好ましくは100%の配列同一性を有する。プローブは、当業者に周知の方法によって、放射性または非放射性に、検出可能なように標識することができる。プローブは、核酸シークエンシング、ポリメラーゼ連鎖反応による核酸増幅、一本鎖立体構造多型(SSCP)分析、制限断片多型(RFLP)分析、サザンハイブリダイゼーション、ノーザンハイブリダイゼーション、インサイチューハイブリダイゼーション、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)、および当業者に周知のその他の方法といった、核酸ハイブリダイゼーションを伴う方法のために用いることができる。
【0060】
「タンパク質」または「ポリペプチド」または「ポリペプチド断片」とは、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化またはリン酸化)の如何にかかわらず、天然のポリペプチドもしくはペプチドの全体または部分を構成する、または非天然のポリペプチドもしくはペプチドを構成する、2個を上回るアミノ酸の任意の鎖のことを意味する。
【0061】
「低下させる、または阻害する」とは、前述のアッセイ(「発現」の項を参照)によって検出されるポリペプチドもしくは核酸のレベルの、または前述のアッセイ(「生物活性」の項を参照)によって検出されるポリペプチドの生物活性の、好ましくは10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の全体的な低下を引き起こす能力のことを意味する。
【0062】
「参照試料」とは、比較の目的に用いられる任意の試料、標準またはレベルのことを意味する。「正常参照試料」は、その被検体から採取した以前の試料、正常胎児を有することが判明している妊娠被検体(例えば、羊水穿刺、FISH、CVS、または遺伝的異常を検出するための他の方法によって確認)、妊娠しているが試料を妊娠早期(例えば、第1もしくは第2三半期に、または13トリソミーの検出前に)に採取していた被検体、妊娠しているが13トリソミーの胎児を有しておらず(例えば、羊水穿刺、CVS、または遺伝的異常を検出するための他の方法によって確認)、しかも胎児13トリソミーの病歴のない被検体から採取した試料でありうる。「参照標準またはレベル」とは、参照試料に由来する値または数値のことを意味する。正常参照標準またはレベルは、以下の基準のうち少なくとも1つについて試料被検体と合致する正常被検体に由来する値または数値でありうる:胎児の在胎齢、母親の年齢、妊娠前の母親の血圧、妊娠中の母親の血圧、母親のBMI、胎児の体重、子癇前症または子癇の診断歴、胎児13トリソミーの診断歴、子癇前症または子癇といった妊娠に関連した高血圧性疾患の家族歴。「陽性参照」試料、標準または値とは、13トリソミーの胎児を有することが判明している被検体、または子癇前症を有するか、もしくは子癇前症の既往歴、既存の糖尿病、既存の高血圧、多胎妊娠もしくは奇胎妊娠によって困難になった妊娠というように子癇前症の発症のリスクが高い被検体に由来する、試料または値または数値のことである。それぞれの場合において、参照試料は好ましくは、以下の基準のうち少なくとも1つについて試料被検体と合致する:胎児の在胎齢、母親の年齢、妊娠前の母親の血圧、妊娠中の母親の血圧、母親のBMI、胎児の体重、子癇前症または子癇または胎児13トリソミーの診断歴、および胎児13トリソミーの家族歴。正常参照試料はまた、胎児13トリソミーの診断指標でも13トリソミーの胎児を有するリスクのある妊娠被検体の診断指標でもない正常濃度であることが判明している濃度にある、精製されたポリペプチド(例えば、PlGF、VEGFまたはsFlt-1)でもよい。例えば、正常妊娠中の血清中遊離PlGF濃度は400〜800pg/mlの範囲にあると思われるが、胎児13トリソミーを有する者では、妊娠中期には200pg/ml未満、好ましくは150pg/ml未満と思われる。400pg/ml未満または200pg/ml未満である尿PlGFのレベルは、胎児13トリソミーの、または13トリソミーの胎児を有するリスクのある被検体の指標になると思われる。また、参照試料中の特定のポリペプチドの値に基づいて決定される参照値を用いることもできる。
【0063】
「試料」とは、被検体から入手した組織生検標本、細胞、体液(例えば、血液、血清、血漿、尿、唾液、羊水または脳脊髄液)または他の標本のことを意味する。生物試料は、本発明のポリペプチド、または本発明のポリペプチドをコードする核酸分子、またはその両方を含むことが望ましい。
【0064】
「可溶性Flt-1(sFlt-1)」(sVEGF-R1としても知られる)とは、GenBankアクセッション番号U01134によって定義されたタンパク質と相同であって、かつsFlt-1生物活性を有する、可溶型のFlt-1受容体のことを意味する。sFlt-1ポリペプチドの生物活性は、任意の標準的な方法を用いて、例えば、sFlt-1のVEGFとの結合をアッセイすることによってアッセイしうる。sFlt-1は、Flt-1受容体の膜貫通ドメインおよび細胞質チロシンキナーゼドメインを欠いている。sFlt-1はVEGFおよびPlGFと高い親和性で結合しうるが、増殖または血管新生を誘導させることはできず、したがってFlt-1受容体およびKDR受容体とは機能的に異なる。sFlt-1はまずヒト臍帯内皮細胞から精製され、インビボで栄養膜細胞によって産生されることが後に示された。本明細書で用いる場合、sFlt-1には、任意のsFlt-1ファミリーメンバーまたはアイソフォームが含まれる。さらなる態様において、sFlt-1はまた、Flt-1受容体の酵素切断に起因し、かつsFlt-1生物活性を維持している分解産物または断片のことも意味しうる。1つの例では、胎盤から放出される特定のメタロプロテイナーゼがFlt-1受容体の細胞外ドメインを切断し、Flt-1のN末端ドメインを流血中に放出する可能性がある。
【0065】
「特異的に結合する」とは、本発明のポリペプチドまたは核酸分子を認識して結合するが、本発明のポリペプチドを通常含む試料中、例えば生物試料中の他の分子は実質的に認識も結合もしない、任意の化合物、核酸、ポリペプチド(例えば、抗体)のことを意味する。1つの例において、sFlt-1と特異的に結合する抗体はFlt-1とは結合しない。もう1つの例において、遊離PlGFと特異的に結合する抗体は、結合したPlGFとは結合しない。
【0066】
「被検体」とは、ヒト、またはウシ、ウマ、イヌ、ヒツジもしくはネコなどの非ヒト哺乳動物を非限定的に含む、哺乳動物のことを意味する。この定義に含まれるものには、妊娠中の、分娩後の、および妊娠していない哺乳動物が含まれる。
【0067】
「実質的に同一な」とは、例えば下記の方法を用いて、最適にアラインメントされた場合に、第2の核酸配列またはアミノ酸配列、例えばエンドグリン配列または可溶性エンドグリン配列に対して、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する、核酸配列またはアミノ酸配列のことを意味する。「実質的な同一性」は、完全長配列、エピトープまたは免疫原性ペプチド、機能的ドメイン、コード性および/または調節性配列、エクソン、イントロン、プロモーターおよびゲノム配列といった種々のタイプおよび長さの配列に言及して用いることができる。2つのポリペプチド配列または核酸配列の間の一致度(percent identity)は、当技術分野の技能の範囲内にあるさまざまなやり方で、例えば、Smith Watermanのアラインメント(Smith, T. F. and M. S. Waterman (1981) J. Mol. Biol. 147:195-7);GeneMatcher Plus(商標)に組み入れられている「最良適合(Best Fit)」(Smith and Waterman, Advances in Applied Mathematics, 482-489 (1981))、Schwarz and Dayhof (1979) Atlas of Protein Sequence and Structure, Dayhof, M.O., Ed pp 353-358;BLASTプログラム(Basic Local Alignment Search Tool;(Altschul, S. F., W. Gish, et al.(1990) J. Mol. Biol. 215:403-10)、BLAST-2、BLAST-P、BLAST-N、BLAST-X、WU-BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2、CLUSTALまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウエアなどの一般に利用可能なコンピュータソフトウエアを用いて、決定される。さらに、当業者は、比較される配列の長さ全体にわたって最大限のアラインメントを得るために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するのに適切なパラメーターを決定することができる。一般に、タンパク質の場合には、比較配列の長さは少なくとも6アミノ酸、好ましくは10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150, 200、250、300、350、400または500アミノ酸またはそれ以上であり、最大でタンパク質の全長であると考えられる。核酸の場合には、比較配列の長さは一般に少なくとも18、25、50、100、125、150, 200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、800、900、1000、1100、1200または少なくとも1500ヌクレオチドまたはそれ以上であり、最大で核酸分子の全長であると考えられる。配列同一性を決定する目的でDNA配列をRNA配列と比較する場合には、チミンヌクレオチドはウラシルヌクレオチドと等価であることは認識されている。保存的置換には典型的には、以下の群の内部での置換が含まれる:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。
【0068】
「子癇前症の症状」とは、以下の任意のものを意味する:(1)妊娠第20週後に収縮期血圧(BP)>140mmHgかつ拡張期BP>90mmHg、(2)新たに発生したタンパク尿(試験紙による尿分析で1+、24時間蓄尿中のタンパク質>300mg、または無作為な尿でのタンパク質/クレアチニン比>0.3)、および(3)分娩後12週までに高血圧およびタンパク尿が解消。子癇前症の症状には、腎機能障害および糸球体内皮症または肥大も含まれうる。「子癇の症状」とは、妊娠または最近の妊娠の影響に起因する以下の症状のうち任意のものの発生を意味する:発作、昏睡、血小板減少症、肝浮腫、肺浮腫および脳浮腫。
【0069】
「13トリソミー」とは、第13番染色体のコピーが3つ存在することを特徴とする病状のことを意味する。13トリソミーは、精神発達遅滞ならびに中枢神経系および心臓に対する欠陥を特徴とする症候群をもたらす恐れがある。また、13トリソミーには、第13番染色体の一部分のみ、例えば第13番染色体の短腕または長腕のみの重複を特徴とする病状も含まれうる。これらの部分的な重複は、時に部分的13トリソミーと呼ばれる。
【0070】
「栄養膜」とは、子宮内膜に侵食した胚盤胞を覆う中外胚葉性細胞層のことを意味し、胚はこれを通して母親から栄養分を受ける;この細胞は胎盤の形成に寄与する。
【0071】
「血管内皮増殖因子(VEGF)」とは、米国特許第5,332,671号;第5,240,848号;第5,194,596号;およびCharnock-Jones et al. Biol. Reproduction, 48:1120-1128, 1993)に定義された増殖因子と相同であって、かつVEGF生物活性を有する、哺乳動物増殖因子のことを意味する。VEGFはグリコシル化されたホモ二量体として存在し、少なくとも4種類の異なるまたはスプライシングを受けたアイソフォームを含む。天然のVEGFの生物活性には、血管内皮細胞または臍帯静脈内皮細胞の選択的増殖の促進、および血管新生の誘導が含まれる。本明細書で用いる場合、VEGFには任意のVEGFファミリーメンバーまたはアイソフォーム(例えば、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、VEGF189、VEGF165またはVEGF121)が含まれる。好ましくは、VEGFはVEGF121またはVEGF165アイソフォームであり(Tischer et al., J. Biol. Chem. 266, 11947-11954, 1991;Neufed et al. Cancer Metastasis 15:153-158, 1996)、これは米国特許第6,447,768号;第5,219,739号;および第5,194,596号に記載されており、これらは参照により本明細書に組み入れられる。また、Gille et al.(J Biol. Chem. 276:3222-3230,(2001))に記載されているKDR選択的VEGFおよびFlt選択的VEGFなどの変異型のVEGFも含まれる。本明細書で用いる場合、VEGFには、LeCouter et al.(Science 299:890-893, 2003)に記載されたもののような任意の修飾型のVEGFも含まれる。ヒトVEGFが好ましいが、本発明はヒト型には限定されず、他の動物型のVEGF(例えば、マウス、ラット、イヌまたはニワトリ)も含みうる。
【0072】
「ベクター」とは、その内部にDNAの断片を挿入またはクローニングしうる、プラスミドまたはバクテリオファージに通常由来するDNA分子のことを意味する。組換えベクターは、1つまたは複数の一意的な制限部位を含むと考えられ、クローニングされた配列が複製可能なように規定された宿主または媒体生物中で自律複製を行うことができる。ベクターは、レシピエント細胞内にトランスフェクトされた時にRNAが発現されるように、遺伝子またはコード領域と機能的に連結したプロモーターを含む。
【0073】
本発明のその他の特徴および利点は、その好ましい態様の以下の説明および特許請求の範囲から明らかになると考えられる。
【0074】
詳細な説明
本発明者らは、13トリソミーの胎児を妊娠している女性では、おそらくは胎盤Flt-1遺伝子の過剰なコピーのために、sFlt-1の血清レベルが上昇していることを見いだしている。本発明者らはまた、13トリソミーの胎児を妊娠している女性では、PlGFのレベルが低下し、sFlt-1/PlGF比のレベルが上昇していることも見いだしている。本発明者らの発見と最も直接的な関係にある臨床的な派生結果は、sFlt-1、PlGFおよびVEGFのレベル、ならびにsFlt-1/PlGF比を、妊娠被検体における胎児13トリソミーの尤度を診断するために用いうることである。
【0075】
本発明者らは以前に、子癇前症の女性から採取した血清試料中のsFlt-1レベルが上昇していることを見いだしている。sFlt-1はVEGFおよびPlGFと高い親和性で結合し、これらの増殖因子の分裂促進活性および血管新生活性を阻止する。このため、sFlt-1、VEGFおよびPlGFは、子癇前症および子癇に対して診断マーカーおよび治療標的の両方として有用である。本発明者らはまた、尿中のPlGFレベルを、子癇前症もしくは子癇またはそれらに対する素因を検出するための診断ツールとして用いうることも以前に見いだしている。遊離型のPlGFの平均分子量は約30kDaであり、腎臓によって濾過されて尿中に放出されるには十分な小ささである。PlGFはsFlt-1と複合体を形成するとはるかに大きな分子量となり、このため尿中に放出されなくなる。sFlt-1のレベルが上昇すると、sFlt-1はPlGFと複合体を形成し、それによって、尿中に放出される遊離PlGFのレベルが低下する。その結果として、遊離PlGFレベルに関する尿分析を用いて、子癇前症もしくは子癇を、またはそれらを有するリスクのある患者を診断することができる。これらの発見は、米国特許出願第20040126828号、第20050025762号および第20050170444号、ならびにPCT出願WO2004/008946号およびWO2005/077007号に記載されており、これらのそれぞれはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0076】
Flt-1遺伝子のスプライス変異体であるsFlt-1は、第13番染色体の長腕、特に13q12領域にコードされている。本発明者らは、13トリソミーの胎児を妊娠している女性では、おそらくは胎盤Flt-1遺伝子の過剰なコピーのために、sFlt-1の血清レベルが上昇していることを見いだしている。本発明者らはまた、13トリソミーの胎児を妊娠している女性では、PlGFのレベルが低下し、sFlt-1/PlGF比のレベルが上昇していることも見いだしており、このことは、この流血中の血管新生状態の変化が、これらの患者で観察される子癇前症のリスクの増大の原因である可能性を示唆する。
【0077】
本明細書中に提示する詳細な説明は特にsFlt-1、VEGFまたはPlGFについて言及しているが、当業者には、この詳細な説明が、sFlt-1、VEGFまたはPlGFのファミリーメンバー、アイソフォームおよび/または変異体に対して、ならびにsFlt-1と結合することが示された任意のそのほかの増殖因子に対しても適用されることは明らかであると考えられる。
【0078】
診断法
本発明は、妊娠被検体における胎児トリソミーの、または妊娠被検体が13トリソミーの胎児を有するリスクの検出のための診断アッセイを特徴とする。VEGFまたはPlGF(好ましくは遊離VEGFまたはPlGF)またはsFlt-1ポリペプチドのレベルを、遊離レベルまたは総レベルのいずれかとして、妊娠被検体試料からの試料中で測定し、胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの指標として用いる。
【0079】
妊娠被検体からの試料におけるsFlt-1のレベル上昇およびPlGFまたはVEGFのレベル低下は、13トリソミーの胎児または13トリソミーの胎児を有するリスクの陽性指標と考えられる。例えば、2ng/mlまたはそれ以上のsFlt-1血清値は、13トリソミーの胎児または13トリソミーの胎児を有するリスクの陽性指標と考えられる。sFlt-1ポリペプチドには、完全長sFlt-1、分解産物、選択的スプライシングを受けたsFlt-1のアイソフォーム、sFlt-1の酵素切断産物などが含まれうる。10〜12週で50pg/ml未満、13〜16週で100pg/ml未満、17〜20週で200pg/ml未満、21〜24週、25〜28週、29〜32週または33〜37週で300pg/ml未満、および37〜41週で250pg/ml未満という血清中の遊離PlGF値は、13トリソミーの胎児または13トリソミーの胎児を有するリスクの陽性指標と考えられる。sFlt-1、VEGFまたはPlGF(好ましくは遊離VEGFまたは遊離PlGF)ポリペプチドと特異的に結合する任意の結合物質(例えば、ポリペプチド、抗体または化合物)を、妊娠被検体における13トリソミーの胎児または13トリソミーの胎児を有するリスクの診断のために用いることができる。免疫学的方法(ELISAおよびRIAなど)を含め、このようなポリペプチドの発現の変化を測定するためのさまざまなプロトコールが公知であり、それらは妊娠被検体における13トリソミーの胎児または13トリソミーの胎児を有するリスクを診断するための基盤となる。さらに、正常参照レベルと比べた、sF1t-1、VEGFまたはPlGFのレベルまたはそれらの任意の組み合わせにおける任意の検出可能な変化(例えば、上昇または低下)は、妊娠被検体における13トリソミーの胎児または13トリソミーの胎児を有するリスクの指標となる。sFlt-1を測定することが好ましく、より好ましくは遊離PlGFの測定をこの測定と組み合わせる。さらに好ましい態様においては、体型指数(BMI)および胎児の在胎齢も測定して、診断用の測定基準に含める。
【0080】
尿、血清、血漿、唾液、羊水または脳脊髄液を非限定的に含む任意の体液中のVEGF、PlGFまたはsFlt-1ポリペプチドのレベルを測定するには、標準的な方法を用いることができる。このような方法には、イムノアッセイ、ELISA、「サンドイッチアッセイ」、VEGF、PlGFまたはsFlt-1を標的とする抗体を用いるウエスタンブロット法、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAまたはGイムノアッセイ、および免疫電気泳動アッセイ、ならびにOng et al.(Obstet. Gynecol. 98:608-611, 2001)およびSu et al.(Obstet. Gynecol., 97:898-904, 2001)に記載されたもののような定量的酵素イムノアッセイの手法が含まれる。ELISAアッセイが、VEGF、PlGFまたはsFlt-1のレベルを測定するための好ましい方法である。検出の容易さおよび簡単さならびにその定量性のために、サンドイッチアッセイまたは二重抗体アッセイが特に好ましく、それには数多くの変形物が存在しており、そのすべてを本発明は想定している。例えば、典型的なサンドイッチアッセイでは、抗原(すなわち、sFlt-1、遊離PlGFまたは遊離VEGFポリペプチド)と特異的に結合する非標識抗体を固相、例えばマイクロタイタープレート上に固定化し、検査しようとする試料を添加する。抗体-抗原複合体の形成を可能にする一定のインキュベーション期間の後に、検出可能なシグナルを誘導しうるレポーター遺伝子で標識された第2の抗体を添加し、異なる部位で抗原との結合が起こって抗体-抗原-標識抗体の形成がもたされるのに十分な時間にわたってインキュベーションを継続する。抗原の存在はシグナルの観察によって決定され、既知の量の抗原を含む対照試料との比較によってそれを定量化することもできる。
【0081】
1つの態様においては、タンパク質のうち少なくとも2つを測定し、測定基準を用いて、レベル間の関係が13トリソミーの胎児または13トリソミーの胎児を有するリスクを示すか否かを判定する。測定基準の一例はPAAI(sFlt-1/VEGF+PlGF)であり、これは13トリソミーの胎児を有する、または13トリソミーの胎児を有するリスクのある被検体を同定するために用いることができる。PAAIが10よりも大きい、より好ましくは20よりも大きいならば、被検体は13トリソミーの胎児を有する、または13トリソミーの胎児を有するリスクがあるとして同定される。有用な測定基準のもう1つの例はsFlt-1/PlGF比である。sFlt-1/PlGF比が15よりも大きいならば、被検体は13トリソミーの胎児を有する、または13トリソミーの胎児を有するリスクがあるとして同定される。PAAIまたはsFlt-1/PlGF比が、正常対照試料における比と比較して上昇しているならば(例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上)、妊娠被検体は13トリソミーの胎児を有する、または13トリソミーの胎児を有するリスクがあると判断される。正常対照と比べた、被検体におけるsFlt-1、PlGFまたはVEGFの任意のもののレベルの変化を検出する、事実上あらゆる測定基準を、13トリソミーの胎児を有する、または13トリソミーの胎児を有するリスクのある妊娠被検体の診断指標として用いることができる。
【0082】
sFlt-1、PlGFまたはVEGF核酸配列に由来するオリゴヌクレオチドまたはさらに長い断片を、正常参照被検体試料と比較してこれらの核酸の発現の変化を検出して、妊娠被検体における13トリソミーの胎児または13トリソミーの胎児を有するリスクの存在と相関づけるためのプローブとして用いることができる。このようなプローブは、妊娠被検体における13トリソミーの胎児または13トリソミーの胎児を有するリスクの指標となる、sFlt-1、PlGFまたはVEGF核酸分子における遺伝的差異、変異または多型を有する被検体を同定するために用いることもできる。このような多型は当業者に公知であり、例えば、Parry et al.(Eur. J Immunogenet. 26:321-3, 1999)に記載されている。GenBankデータベース(www.ncbi.nlm.nih.gov)の調査により、Flt-1/sFlt-1の遺伝子およびプロモーター領域内に少なくとも330種の既知の多型が明らかになっている。これらの多型はsFlt-1核酸またはポリペプチドの発現レベルまたは生物活性に影響を及ぼす可能性がある。正常な参照試料と比べた遺伝的差異、変異または多型の検出は、妊娠被検体における13トリソミーの胎児または13トリソミーの胎児を有するリスクの診断指標となりうる。
【0083】
このような遺伝的変化は、sFlt-1遺伝子のプロモーター配列、オープンリーディングフレーム、イントロン配列または非翻訳3'領域に存在しうる。遺伝的変化と関係のある情報を、妊娠被検体における13トリソミーの胎児を有するまたは13トリソミーの胎児を有するリスクがあると被検体を診断するために用いることができる。全体にわたって述べているように、sFlt-1、VEGFおよび/またはPlGFの生物活性のレベルの特定の変化を、妊娠被検体における13トリソミーの胎児の、または13トリソミーの胎児を有するリスクの尤度と相関づけることができる。その結果として、所定の変異を検出した当業者は、続いて、その変異が妊娠被検体における13トリソミーの胎児の原因となるか否かまたはそれを有する尤度を高めるか否かを判定するために、タンパク質の生物活性の1つまたは複数の測定基準をアッセイすることができる。
【0084】
1つの態様において、13トリソミーの胎児を有するまたは13トリソミーの胎児を有するリスクのある被検体は、sFlt-1をコードする核酸の発現レベルの上昇(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上の)、またはPlGFもしくはVEGFをコードする核酸の発現レベルの変化(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上の低下)を示すと考えられる。このような変化を検出するための方法は当技術分野で標準的であり、Ausubelら、前記に記載されている。例えば、ノーザンブロット法、サザンブロット法、PCR、RNアーゼ保護アッセイまたはリアルタイムPCRが、sFlt-1、PlGFまたはVEGFのmRNAレベルを検出するために用いられる。
【0085】
もう1つの態様において、ゲノム配列または密接な関連のある分子を含む、sFlt-1核酸分子を検出しうるPCRプローブとのハイブリダイゼーションを、13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると判定された被検体に由来する核酸配列とハイブリダイズさせるために用いることもできる。それが高度に特異的な領域、例えば5'調節領域から作製されるか、それともより特異性の低い領域、例えば保存モチーフから作製されるかというプローブの特異性、およびハイブリダイゼーションまたは増幅のストリンジェンシー(最大、高い、中程度または低い)によって、プローブが天然の配列、対立遺伝子変異体または他の関連した配列とハイブリダイズするか否かが決定される。ハイブリダイゼーション手法を、sFlt-1、PlGFもしくはVEGF核酸分子における、13トリソミーの胎児または13トリソミーの胎児を有するリスクの指標となる変異を同定するために、またはsFlt-1、PlGFもしくはVEGFポリペプチドをコードする遺伝子の発現レベルをモニターするため(例えば、ノーザン分析により、Ausubelら、前記)に用いることもできる。
【0086】
さらにもう1つの態様において、sFlt-1、VEGFまたはPlGF核酸分子の配列の直接的な分析によって、13トリソミーの胎児を有する、または13トリソミーの胎児を有するリスクがあると妊娠被検体を診断することもできる。
【0087】
1つの態様においては、sFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドまたは核酸のレベルまたはそれらの任意の組み合わせを少なくとも2つの異なる時点で測定し、経時的に正常参照レベルと比較したレベルの変化を、13トリソミーの胎児の、または妊娠被検体が13トリソミーの胎児を有するリスクの指標として用いる。もう1つの態様においては、sFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドまたは核酸のレベルまたはそれらの任意の組み合わせを、参照試料におけるレベルと比較する。
【0088】
また、sFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドのレベルを、それがポリペプチドのレベルの「正常範囲」に収まるか否かを判定するために標準曲線と比較することもできる。この態様では、比較用の精製型または組換え型のポリペプチド(例えば、純度が80%、90%、95%、99%を上回る、または100%)を用いて、ポリペプチドのそれぞれについて標準曲線を確立する。標準曲線を作成し、同じポリペプチドに関して確立された標準曲線との比較によって、被検体試料におけるポリペプチドの濃度を決定する。例えば、標準曲線をsFlt-1に関して確立し、標準曲線と比較した時に2ng/mLを上回るsFlt-1濃度を有する被検体試料は、13トリソミーの胎児または13トリソミーの胎児を有するリスクを示すものと判断される。描かれた標準曲線は、PlGFまたはVEGFとともに、好ましくは遊離PlGFまたはVEGFとともに用いるために一部変更することができる。
【0089】
13トリソミーの胎児を有するまたは13トリソミーの胎児を有するリスクのある被検体の体液中のsFlt-1、VEGFまたはPlGFのレベルは、正常参照におけるsFlt-1、VEGFまたはPlGFのレベルと比べて、10%、20%、30%もしくは40%とわずかに変化(上昇または低下)してもよく、または50%、60%、70%、80%もしくは90%もしくはそれ以上と大きく変化してもよい。
【0090】
1つの態様においては、体液(例えば、血液、尿、血漿、血清、羊水または脳脊髄液)の被検体試料を、妊娠期間中(例えば、第1、第2または第3三半期)に、好ましくは妊娠早期、例えば第1または第2三半期に収集する。もう1つの例において、試料は、妊娠早期に、好ましくは第1または第2三半期に収集された組織または細胞でありうる。非限定的な例には、胎盤組織、胎盤細胞、内皮細胞、および単球などの白血球が含まれる。ヒトでは、例えば、妊娠の第1、第2または第3三半期の間に妊娠女性の肘正中静脈から母体血清試料を収集する。好ましくは、アッセイは、第1三半期の間に、例えば第4、5、6、7、8、9、10、11、12週もしくは13週に、または第2三半期の間に、例えば第14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26週もしくはさらには28週に行われる。このようなアッセイを、第2三半期の終わりまたは第3三半期に、例えば第29、30、32、34、36、37、38、39または40週に行うこともできる。sFlt-1、VEGFまたはPlGFのレベルは妊娠期間中に2度測定することが好ましい。1つの例において、第1の測定は第1三半期、第2の測定は第2三半期の早期である。望ましい態様において、本発明の方法は、13トリソミーの胎児を有するリスクのある妊娠被検体を同定するために用いられる。続いて、これらの被検体を、13トリソミーの確認のために、CVS、FISHまたは羊水穿刺などの追加的な遺伝子検査方法を用いて検査する。超音波をさらなる検査のために用いることもできる。
【0091】
1つの特定の例においては、連続的な血液試料を妊娠期間中に収集し、可溶性sFlt-1のレベルをELISAによって決定する。この手法を用いた1件の研究では、sFlt-1をコードする選択的スプライシングを受けたmRNAが栄養膜細胞によって高度に発現されており、このタンパク質は妊娠女性の血漿中で容易に検出可能であった。sFlt-1のレベルは妊娠第20週〜36週の間に約3倍に上昇することが観察された。後に子癇前症を発症するに至った高リスク女性で有意にレベルが高かったことが観察された(Charnock-Jones et al., J. Soc. Gynecol. Investig. 10(2):230, 2003)。
【0092】
もう1つの例では、これらのポリペプチドのそれぞれに関する血清値を用いて、PAAIまたはsFlt-1/PlGFを決定する。PlGFに関する尿分析によって13トリソミーの胎児を有するリスクがあると同定された女性を、CVS、FISH、羊水穿刺または超音波によってさらに検査することができる。
【0093】
もう1つの例では、体液試料中、好ましくは尿中の遊離PlGFポリペプチドのレベルを測定し、13トリソミーの胎児を有すること、または13トリソミーの胎児を有するリスクがあることの診断指標として用いる。また、尿中のPlGFポリペプチドレベルの測定値を、13トリソミーの胎児を有する潜在的リスクの初期評価として用い、続いて、PlGF測定によって「リスクがある」と判定された女性に、本明細書に記載したものまたは当技術分野で公知のもののような追加的な診断アッセイを受けさせることもできる。1つの例においては、尿試料中の遊離PlGFポリペプチドの測定によって13トリソミーの胎児を有するリスクがあると診断された妊娠被検体を、絨毛採取または羊水穿刺によってさらにモニターする。遊離PlGFを検出するためには、遊離PlGFを特異的に認識する抗体をこれらのアッセイのために用いることが好ましい。このような抗体は、例えば、PlGFのsFlt-1結合ドメインを認識することができる。このような特異抗体の例には、ヒトPlGF ELISAキットに用いられる捕捉抗体(カタログ番号DPG00、R & D Systems, Minneapolis, MN)、モノクローナル抗胎盤増殖因子(クローン37203.111、Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)が含まれる。これらの抗体は、ヒトPlGFタンパク質のN末端領域内の特定の配列を認識する。PlGFに対するsFlt1結合領域はPlGFタンパク質のアミノ酸39〜105の間にあり、PlGFの全長にはPlGFのアイソフォームによって149〜221アミノ酸という幅がある。そのほかの好ましい抗体には、N末端領域(好ましくはPlGFのアミノ酸39〜105の間)を認識し、かつ遊離PlGFとは特異的に結合するがsFlt-1と結合したPlGFとは結合しない、任意の抗体が含まれる。C末端に対して産生された抗体はこの性質を持たないと考えられる。
【0094】
本発明の診断アッセイの任意のものと同じように、PlGFレベルを、正常なことを示すことが判明している絶対レベルと比較することもでき、または相対レベルを決定するために参照試料もしくは値と比較することもできる。参照試料は、羊水穿刺またはCVSによって正常と判明した胎児を有する被検体(好ましくは在胎齢に関して合致する)からの尿試料でありうる。また、絶対レベルを決定するためにPlGFレベルを参照値または標準と比較することもできる。参照値または標準は、比較用の精製型または組換え型のPlGF(例えば、純度が80%、90%、95%、99%を上回る、または100%)に基づいて確立された標準曲線を用いて決定することができる。400pg/ml未満、好ましくは200pg/ml未満、最も好ましくは150pg/ml未満もしくは100pg/ml未満であるPlGFの値、または200pg/mgクレアチニン未満、好ましくは100pg/mgクレアチニン未満であるPlGF/クレアチニン値は、13トリソミーの胎児を有すること、または13トリソミーの胎児を有するリスクがあることの診断指標と考えられる。標準曲線に関しては、10pg/ml〜1ng/mlの範囲にある組換えPlGFを用いることができる。標準曲線を作成するために用いうる組換えタンパク質のその他の例には、PlGFのアミノ末端、好ましくはPlGFタンパク質のアミノ酸39〜105(sFlt-1と結合するPlGFの領域)を含む特定のペプチドが含まれる。または、組換えPlGF/VEGFヘテロ二量体(カタログ番号297-VPとして販売、R & D Systems, MN)を用いることもできる。後者には、このタンパク質を、遊離VEGFの測定においてVEGF標準曲線を作成するためにも用いうるという利点がある。
【0095】
ELISAアッセイは、ポリペプチドのレベルを測定するための好ましい方法である。検出の容易さおよび簡単さならびにその定量性のために、サンドイッチアッセイまたは二重抗体アッセイが特に好ましく、それには数多くの変形物が存在しており、そのすべてを本発明は想定している。例えば、典型的なサンドイッチアッセイでは、ポリペプチド(例えば、PlGF)を認識する非標識抗体を固相、例えばマイクロタイタープレート上に固定化し、検査しようとする試料を添加する。抗体-抗原複合体の形成を可能にする一定のインキュベーション期間の後に、検出可能なシグナルを誘導しうるレポーター遺伝子で標識された第2の抗体を添加し、異なる部位で抗原との結合が起こって抗体-抗原-標識抗体の形成がもたされるのに十分な時間にわたってインキュベーションを継続する。抗原の存在はシグナルの観察によって決定され、既知の量の抗原を含む対照試料との比較によってそれを定量化することもできる。
【0096】
遊離PlGFに関する定量的サンドイッチELISAの1つの例では、固体支持体(例えば、マイクロタイタープレートまたは膜)を、抗遊離PlGF結合物質(例えば、一次抗体)によってプレコーティングする。標準または試料を基質に対して添加すると、遊離PlGFが存在するならば、それは抗体と結合すると考えられる。続いて、同じく遊離PlGFを認識する酵素結合抗体の標準化された調製物を、プレート上に既に固定化されたPlGFを「サンドイッチ」化するために添加する。基質を添加し、酵素および基質を短いインキュベーション期間にわたって反応させる。酵素-基質反応を終了させ、その変化を当技術分野で公知の方法によって(例えば、肉眼で、分光光度計を用いること、または化学発光を測定することによって)測定する。このようなアッセイは、遊離PlGFの相対レベル(例えば、参照用の試料、標準またはレベルにおけるレベルと比較して)を決定するために、または遊離PlGFの絶対レベルを決定するために用いることができる。所望であれば、さまざまな濃度の精製PlGF(例えば、組換え体)の較正用標準のセットを用いて、遊離PlGFの濃度を決定することもできる。較正用標準は試料と同時にアッセイし、例えば、PlGF濃度と対比させて光学密度によって測定した標準曲線を生成するために用いる。続いて、試料中の遊離PlGFの濃度を、例えば、試料の光学密度を標準曲線と比較することによって決定する。正常妊娠期間中の妊娠中期および妊娠後期における遊離PlGFの濃度は、母体の在胎齢に応じて200〜800pg/mln範囲であると考えられる。400pg/ml未満、好ましくは200pg/ml未満である尿中遊離PlGFの任意の値、または150pg/mgクレアチニン未満である尿中遊離PlGFの値により、13トリソミーの胎児を有するまたは13トリソミーの胎児を有するリスクのある妊娠被検体が診断されると考えられる。一般に、ELISAキットによる標準曲線は、10pg/ml〜1ng/mlのPlGFの範囲にわたる濃度で組換えまたは精製PlGFを含むと考えられる。
【0097】
もう1つの例において、尿試料中の遊離PlGFを検出するためのアッセイは、遊離PlGFと結合した場合と遊離PlGFと結合していない場合との間でPlGF結合物質を識別しうる様式で検出可能なように標識された固定化されたPlGF結合物質を有する膜を含む。好ましい標識には蛍光標識が含まれる。膜を試料に対して、PlGF結合物質と試料中に存在する遊離PlGFとの結合を可能にするのに十分な時間にわたって曝露させる。続いて、遊離PlGFと結合した標識されたPlGF結合物質を測定する。このようなアッセイは、遊離PlGFの相対レベル(例えば、参照の試料または標準またはレベルからのレベルと比較して)を決定するために、または上記のように遊離PlGFの絶対濃度を決定するために用いることができる。結合の測定のために好ましいアッセイには、蛍光イムノアッセイが含まれる。
【0098】
もう1つの例において、尿試料中の遊離PlGFを検出するためのアッセイは、脱水され標識された(例えば、比色検出用に)PlGF結合物質(第1の物質)および固定化された抗PlGF結合物質(第2の物質)を有する膜を含む。膜を試料に対して曝露させる。試料は標識されたPlGF結合物質を再水和し、遊離PlGFが試料中に存在するならば、それはPlGF結合物質と結合すると考えられる。PlGF-第1の物質の複合体は毛細管移動によって膜を下方に移動し、固定化された第2の物質と結合すると考えられる。この相互作用によって、第2の物質が固定化されている位置に、比色標識による視認しうる線が生じる。
【0099】
もう1つの例において、尿試料中の遊離PlGFを検出するためのアッセイは、脱水され標識された(例えば、比色検出用に)遊離PlGF結合物質(第1の物質)および固定化された抗PlGF結合物質(第2の物質)を有する膜を含む。膜はまた、同じく膜上に固定化された閾値濃度の精製PlGFも含む。この例では、膜を尿試料に対して曝露させる。試料は標識された第1の物質を再水和し、遊離PlGFが試料中に閾値濃度を上回る濃度で存在するならば、それはPlGF結合物質と結合すると考えられる。PlGF-標識された第1の物質の複合体は、毛細管移動によって膜を下方に移動すると考えられる。第1の物質は試料からのPlGFと既に結合しているため、それは固定化された精製PlGFとは結合せず、この「検査」位置には視認しうる線は出現しないと考えられる。PlGF-第1の物質の複合体は膜をさらに下降し続け、固定化された第2の物質と相互作用すると考えられる。この相互作用によって、抗PlGF結合物質が固定化されている「対照」位置に、比色標識による視認しうる線が生じると考えられる。この例では、視認しうる線が1本のみ出現すると考えられ、これは閾値濃度を上回るPlGF濃度を示すと考えられる。PlGFの濃度が閾値濃度よりも低いならば、標識された第1の物質が固定化されたPlGFと結合し、視認しうる線がこの「検査」部位にも、さらに「対照」部位にも出現すると考えられる。この検査アッセイは、試料中のPlGFのいくつかの濃度を検出することを目的とする多数の検査ラインを含むこともできる。このような段階的アッセイは、米国特許第6,660,534号に記載されている。
【0100】
もう1つの例では、膜を利用する同様のアッセイが用いられるが、それは標準的なサンドイッチELISA法を基にしている。この例において、膜は、酵素と結合した固定化された第1のPlGF結合物質を有する反応区域;PlGFの領域とは結合するが第1のPlGF結合物質によっては結合されない別の固定化されたPlGF結合物質を有する検査区域、および第1のPlGF結合物質を認識する固定化された物質を有する対照区域を含む。検査区域および対照区域のいずれにも、第1の固定化されたPlGF結合物質と結合した酵素に対する検出可能な基質が含まれている。膜を試料に対して曝露させると、試料は毛細管移動によって反応区域へと移動する。PlGFが試料中に存在するならば、それは酵素と結合した第1の固定化されたPlGF結合物質と結合して複合体を形成し、続いてそれが毛管流によって検査区域へと運ばれる。続いて、PlGF-酵素と結合した固定化されたPlGF結合物質の複合体が、第2のPlGF結合物質と結合して、固定化された第2のPlGF結合物質の部位(「検査」区域)に視認しうる線を生じる。残りの第1のPlGF結合物質は毛管流によって運ばれて、第1の結合物質を認識して結合する固定化された物質と結合し、この部位(「対照」区域)に視認しうる線を生じると考えられる。PlGFが試料中に存在しなければ、第2の線のみが対照区域に出現すると考えられる。好ましい態様において、第1および第2のPlGF結合物質は抗体であり、第1の結合物質を認識して結合する作用物質は、第1の抗体の免疫グロブリンを特異的に認識する二次抗免疫グロブリン抗体である。試料が閾値濃度を上回るまたはそれ未満のPlGFを含むか否かを判定するために、検査区域における線の強度を、標準量の精製PlGFタンパク質を用いたアッセイと比較することができる。
【0101】
本明細書に記載したアッセイの任意のものにおいて、正常妊娠血清を追加的な対照として用いることができ、PlGFの活性を測定し、正常妊娠血清で測定されたPlGF活性に対するパーセンテージとして定量化することができる。
【0102】
PlGFを基にした上記の診断アッセイの任意のものの好ましい態様において、PlGF結合物質は好ましくは、遊離PlGFを認識する一次抗体、またはPlGFと相互作用するタンパク質もしくはペプチドである。第2の抗PlGF結合物質は、好ましくは、一次抗体を認識する二次抗体、または一次抗体と結合するタンパク質(例えば、プロテインAまたはプロテインG)、またはPlGFと相互作用するペプチドと特異的に結合する抗体である。PlGF結合物質が酵素で標識される態様において、用いる酵素は、肉眼で検出しうる、および/または分光法によって測定しうる比色反応を触媒することが好ましい。好ましい酵素/基質の組み合わせの非限定的な例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ/TMB、β-ガラクトシダーゼ/XGALおよびアルカリ/ホスファターゼ/1,2ジオキセタンがある。標識されたPlGF結合物質を含む態様に関して、好ましい標識には、比色標識(例えば、金コロイド)、化学発光標識または蛍光標識が含まれる。
【0103】
PlGFに関して上述した診断的ELISAアッセイの任意のものを、一部変更して(例えば、sFlt-1またはVEGFと特異的に結合する抗体を用いる)、血清試料中のsFlt-1またはVEGFの検出のために用いることができる。
【0104】
本明細書に記載のアッセイの任意のものに関して、試料は任意の体液でありうる。PlGFを基にした上記の診断アッセイのためには、尿試料が好ましい。膜は標準的なディップスティック型の形式または側方流動形式にあってよい。ディップスティック型のアッセイは、妊娠の検出(その場合にはホルモンレベルを測定する)または腎疾患の診断におけるクレアチニンもしくはアルブミンの尿中検出といったアッセイに関して当技術分野で公知である。ディップスティック型アッセイのさまざまな形式の例は、米国特許第6,660,534号に記載されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0105】
獣医学診療においては、妊娠期間中の任意の時点でアッセイを行いうるが、妊娠の早期、好ましくは第1または第2三半期に行うことが好ましい。妊娠期間は種によって大きく異なるため、アッセイの時期は獣医によって決定されると考えられるが、一般的にはヒト妊娠期間中のアッセイの時期に対応すると考えられる。
【0106】
本明細書に記載した診断方法は、個別に用いることもでき、または、胎児13トリソミーの、もしくは13トリソミーの胎児を有するリスクのある被検体のより正確な診断のために、本明細書に記載した任意の他の診断方法と組み合わせて用いることもできる。さらに、本明細書に記載した診断方法を、妊娠期間中の異常を検出するために用いられる任意の他の診断方法と組み合わせて用いることもできる。例えば、本診断方法を、α-フェトプロテイン(AFP)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)および非抱合型エストリオールのうち任意の1つ、2つまたは3つのレベルを測定するための方法と組み合わせることができる。母体血清試料におけるこれらの3種すべてのタンパク質の測定はトリプルスクリーンとして一般に知られており、21トリソミーおよび18トリソミーを、または21トリソミーもしくは18トリソミーの胎児を有するリスクを検出するために通常は第15〜22週に行われる(例えば、Graves et al., Am. Fam. Physician 65:915-920 (2002)を参照)。妊娠期間中の異常を検出するために用いられるそのほかのスクリーニング方法も当技術分野で公知であり、本明細書に記載した方法(例えば、羊水穿刺、CVS、FISH、超音波、および、例えばLewis et al., J. Fam. Practice 53 (2004)に記載されているスクリーニング検査)と組み合わせることができる。トリプルスクリーンなどの追加的な検査と組み合わせて行う場合、本発明の診断方法を同時に行うこともでき、または互いに1日以内、2日以内、5日以内、1週以内、2週以内、3週以内、5週以内、10週以内、20週以内、最大で30週以内に行うこともできる。
【0107】
診断キット
本発明はまた、上記の診断アッセイのいずれかを行うために必要な構成要素、および胎児13トリソミーを、または13トリソミーの胎児を有するリスクのある被検体を診断するための構成要素の使用法に関する説明書を含む、診断検査キットも提供する。例えば、診断検査キットは、sFlt-1、遊離VEGFまたは遊離PlGFと特異的に結合するポリペプチド(例えば、抗体)または化合物、および抗体とsFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドとの間の結合を検出するため、より好ましくは評価するために有用な構成要素を含みうる。検出のためには、抗体とsFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドとの結合の後に、基質と結合した標識の量を決定することによって、sFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチド-ポリペプチド(例えば、抗体)または化合物の相互作用を立証しうるように、ポリペプチド(例えば、抗体)もしくは化合物、またはsFlt-1、VEGFもしくはPlGFポリペプチドのいずれかを標識し、抗体またはsFlt-1、VEGFもしくはPlGFポリペプチドのいずれかを基質と結合させる。1つの例において、キットは、遊離PlGF結合物質、および遊離PlGFの存在を検出するための構成要素を含む。従来のELISAまたはサンドイッチELISAは、抗体-基質相互作用を検出するための当技術分野で公知の一般的な方法であり、これを本発明のキットに備えることができる。sFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドは、尿、血清、血漿、唾液、羊水または脳脊髄液を非限定的に含む、事実上あらゆる体液中で検出可能である。正常対照中に存在するレベルのような参照と比べて、sFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドのレベルの変化を判定するキットは、本発明の方法における診断キットとして有用である。また、キットが、sFlt-1、VEGFまたはPlGFのレベルを検出するために用いるアッセイにおける標準物質として、精製タンパク質(例えば、組換え方法を用いて生産されたもの)を含むこともできる。望ましくは、キットは、キットの使用法に関する説明書を含むと考えられる。1つの例において、キットは、妊娠被検体における胎児13トリソミーの、または13トリソミーの胎児を有するリスクのある妊娠被検体の診断のためのキットの使用法に関する説明書を含む。
【0108】
本発明の1つの態様において、このようなキットは、固体支持体(例えば、膜またはマイクロタイタープレート)、第1の物質(例えば、抗原を認識する抗体またはタンパク質)、標準曲線の作成のための精製タンパク質の標準溶液、分析作業の品質検査のための体液(例えば、血清または尿)対照、第2の物質(例えば、検出しようとする抗原における第2のエピトープと反応する第2の抗体、または一次抗体を認識する抗体もしくはタンパク質)が標識または西洋ワサビペルオキシダーゼなどの酵素と結合したものまたは他の様式で標識されたもの、基質溶液、停止溶液、洗浄用緩衝液および取扱説明書を含む。
【0109】
下記の実施例において、本発明者らは、sFlt-1のレベル上昇およびPlGFのレベル低下が妊娠期間中の胎児13トリソミーと関連性があるという本発明者らの発見について述べる。これらの知見は、妊娠被検体における胎児13トリソミーの尤度の診断のための、sFlt-1、PlGFのレベルまたはsFlt-1/PlGF比の測定を含む診断検査の有用性を裏づける。
【0110】
実施例
以下の実施例は本発明を例示することを目的としており、限定的なものとみなされるべきではない。
【0111】
実施例1.13トリソミーの診断/予測指標としてのsFlt-1およびPlGF
本発明者らは、染色体異常(13トリソミー、18トリソミーおよび21トリソミー)のある妊娠例および核型が正常な妊娠例における、sFlt-1およびPlGFの血清中濃度を決定するための研究を行った。この研究で、本発明者らは、13トリソミーの胎児を妊娠している妊娠女性では、流血中sFlt-1が若干高い傾向があり、PlGFレベルは有意に低いが、他のトリソミーについてはそうではないことを示した。本発明者らは、sFlt-1およびPlGFの発現レベルの変化が13トリソミー妊娠例に特異的であることを示している。さらに、sFlt-1/PlGF比も、他のトリソミーと比較して13トリソミー妊娠例で有意に上昇していることが見いだされた。
【0112】
母体血清標本
妊娠初期の胎児奇形スクリーニングプログラムの一部として得られた第1三半期および第2三半期の保管標本を、この研究のために用いた。13トリソミー、18トリソミーまたは21トリソミーを有する妊娠例および核型が正常な例からの母体血清標本を、Foundation for Blood Research(FBR)、Scarborough, Maine, USAの保管血清バンクから入手した。血清標本はすべて、核型が判明する前に収集した。13トリソミー妊娠例から合計17件の血清試料が同定され、それぞれに対して5件ずつの試料を対照の正常核型妊娠例から合致させて用意した。対照標本は、13トリソミー症例のそれぞれに対して、収集場所、出産歴(初産または経産)、母親の年齢(2歳以内になるように)および冷凍庫内にある時間(1カ月以内)について合致させた。17例の13トリソミー症例のうち、6例は第1三半期の試料であって30例の対照とマッチングが行われ、11例は第2三半期の試料であって55例の対照とマッチングが行われた(合計85例の対照)。9症例は初産患者であって45例の対照とマッチングが行われ、一方、8例は経産婦であって40例の対照とマッチングが行われた。さらに、20例の18トリソミー妊娠例および17例の21トリソミー妊娠例からの試料も含めた。この研究はFBRの施設内審査委員会(Institutional Review Board)によって承認された。
【0113】
sFlt-1およびPlGFの血清レベル
sFlt-1および遊離PlGFの血清中濃度の測定は、妊娠の結果に関して盲検化されている者が行った。ヒトsFlt-1および遊離PlGFに関する固相酵素免疫アッセイ(ELISA)は、以前の記載の通り(Levine et al., N. Engl. J. Med. 350:672-683 (2004))に、市販のキット(R&D Systems, MN)を用いて2回ずつ行った。sFlt-1および遊離PlGFに関するアッセイにおける最小検出可能用量は5pg/mlであった。sFlt-1およびPlGFに関する短期変動係数(プレート内およびプレート間の両方)は、2つずつの患者試料の盲検下での多数の測定による評価で、それぞれ18%および8%であった。
【0114】
統計分析
この研究のアウトカム変数(sFlt-1、PlGFおよびsFlt/PlGF比)は、平均±S.E、および範囲付きの中央値(本文中)ならびに中央値付きのボックスおよびウィスカープロット(図面中)として提示されている(Conover, Practical Statistics (1980))。sFlt-1およびPlGFの分布がかなり非対称的であったため、群間比較のためにはノンパラメトリックMann-Whitney検定を適用した。検定はすべて両側検定であり、0.05またはそれ未満のp値を統計的に有意とみなした。分析のためにはSPSSソフトウエアを用いた。
【0115】
結果
この研究に用いた患者の臨床的特徴は、材料と方法の項に記載されている。すべての対照標本およびトリソミー標本において、sFlt-1およびPlGFの血清中濃度を分析した。平均sFlt-1濃度は、正常核型対照標本については810.38±46.04pg/ml、13トリソミー標本については1096.97±160.73pg/ml、18トリソミー標本については516.48±87.24pg/ml、21トリソミー標本については926.18±104.06pg/mlであった(図1A参照)。平均PlGFレベルは、正常核型標本については126.40±9.57pg/ml、13トリソミー標本については85.75±17.42pg/ml、18トリソミー標本については119.41±32.34pg/ml、21トリソミー標本については183.61±20.17pg/mlであった(図1A)。
【0116】
sFlt-1濃度の中央値は、正常核型対照標本については675.4pg/ml(範囲215.2〜2331.9)、13トリソミー標本については780.5pg/ml(範囲255.2〜2134.2)、18トリソミー標本については341.6pg/ml(範囲150.0〜1447.6)、21トリソミー標本については919.9pg/ml(範囲223.4〜1691.3)であった。13トリソミー群におけるsFlt-1濃度の中央値は対照よりも若干高かったが、データは統計学的に有意ではなかった。18トリソミーおよび21トリソミーにおけるsFlt-1濃度も対照と比較して有意な変化はなかった。PlGF濃度の中央値は、正常核型標本については113.3pg/ml(範囲23.5〜454.9)、13トリソミー標本については49.5pg/ml(範囲19.3〜249.6)、18トリソミー標本については56.1pg/ml(範囲21.6〜570.2)、21トリソミー標本については151.6pg/ml(範囲76.1〜350.6)であった。13トリソミー標本におけるPlGFの低下は、対照と比較して統計学的に有意であった(p=0.03)。18トリソミーおよび21トリソミーの標本は、対照と比較してPlGF濃度に有意な低下はみられなかった。これらのデータは、13トリソミーの胎児を妊娠している妊娠女性では、流血中sFlt-1が若干高い傾向があり、PlGFは有意に低いものの、他のトリソミーについてはそうではないことを示唆している。
【0117】
sFlt-1/PlGF比は、流血中の血管新生状態に関していずれかのマーカー単独よりも信頼性の高い指数であり、PEのリスクのより良い予測変量であることが見いだされている(Levine et al., JAMA 293:77-85 (2005))。このため、本発明者らは、標本のすべてに関してsFlt-1/PlGF比を算出した。sFlt-1/PlGF比の中央値は、正常核型対照標本については6.7(範囲0.8〜62.9)、13トリソミー標本については17.0(範囲1.2〜61.3)、18トリソミー標本については4.8(範囲0.9〜53.9)、21トリソミー標本については5.1(範囲1.0〜18.1)であった(図1B)。13トリソミー標本で観察された比の上昇は対照標本と比較して統計学的に高度に有意であり(p=0.003)、一方、他のトリソミーにおいてはsFlt-1/PlGF比に有意な変化はなかった。
【0118】
この研究には第1三半期および第2三半期の標本の混合物が含まれるため、本発明者らは続いて、在胎齢を基にした、13トリソミー症例および対照におけるsFlt-1およびPlGFの変化について調べた。13トリソミー群では第1三半期に収集されたのは6例の標本のみに過ぎなかったが、それにもかかわらず平均sFlt-1/PlGF比は正常核型対照と比較して若干(約23%)上昇していた(19.6に対して15.9)(図2)。sFlt-1/PlGF比は、第2三半期の13トリソミー症例において正常核型対照と比較して有意に上昇していた(9.4に対して5.1、P=0.007)(図2)。これらのデータは、妊娠初期にはこれらの血管新生因子の違いは若干であるものの、後の妊娠期間にはそれらがより明らかになることを示唆している。これらの知見は、子癇前症を合併した妊娠例で、臨床症状に数週間先行して第2三半期および初期第3三半期に認められたsFlt-1およびPlGFの劇的な変化と一致する。
【0119】
結論
本発明者らは以前、流血中の血管新生因子(sFlt-1、遊離PlGFおよび遊離VEGF)の変化が、子癇前症において病原的な役割を果たす可能性があるという仮説を立てた(Maynard, et al., J. Clin. Invest. 111:649-658 (2003))。子癇前症におけるsFlt-1の上昇および遊離PlGFの低下は、臨床的な発病期間中だけでなく、臨床症状の前にも認められている(Levine et al., N. Engl. J. Med. 350:672-683 (2004);Levine et al., JAMA 293:77-85 (2005);Thadhani et al., J. Clin. Endocrinol. Metab. 89:770-775 (2004))。13トリソミーの妊娠を有する女性は、出産歴の如何にかかわらず、子癇前症の頻度が高い(Boyd et al., Lancet 2:425-427 (1987);Boyd et al., Clin. Genet. 47:17-21 (1995))。18トリソミーまたは21トリソミーといった他の染色体異常を有する胎児を妊娠している母親では、子癇前症の頻度は一般的集団と同程度である。Flt-1およびsFlt-1の遺伝子は第13番染色体上にコードされていることから、本発明者らは、13トリソミーの妊娠例では正常核型対照と比較して流血中sFlt-1の基礎レベルが高く、そのために妊娠の進行に伴ってより多くのsFlt-1が産生されるとの仮説を立てた。流血中sFlt-1の上昇には遊離PlGFの低下が伴ってみられるため、本発明者らはさらに、13トリソミー妊娠例では遊離PlGFが減少してsFlt-1/PlGFの比が上昇している可能性があるとの仮説を立てた。この患者対照研究において、本発明者らは、17例の13トリソミー症例を、母親の年齢、妊娠の三半期、出産歴および凍結保存期間に関して注意深く合致させた85例の対照(各症例につき対照5例)と比較した。そのほかの対照は、18トリソミーおよび21トリソミーという他の2種のトリソミーを調べることによって得た。本発明者らは今回、妊娠早期の13トリソミー妊娠例では、正常核型対照と比較して流血中sFlt-1が平均で35%高く、流血中の遊離PlGFが32%低いことを示した。本発明者らはまた、13トリソミー症例では正常核型対照と比較してsFlt-1/PlGF比が実質的に変化していること、およびこの差が第1三半期よりも第2三半期により明らかであることも示した。さらに、sFlt-1/PlGF比は、18トリソミーまたは21トリソミーといった他のトリソミーでは上昇していなかった。さらに、第1および第2三半期の間に13トリソミーの患者で観察されたsFlt-1およびPlGFの変化は、後になって子癇前症を発症した妊娠例で以前に報告されている変化と類似していた(Levine et al., N. Engl. J. Med. 350:672-683 (2004);Levine et al., JAMA 293:77-85 (2005);およびThadhani et al., 前記))。これらのデータは、13トリソミー患者で認められたsFlt-1上昇および遊離PlGF低下が、これらの患者で以前に報告されている子癇前症のリスク増大の一因である可能性を示している。本発明者らは以前に、子癇前症の異常胎盤形成が抗血管新生因子の生成を招き、それが続いて高血圧性症候群を誘発するという仮説を立てた(Maynard et al., J. Clin. Invest. 111:649-58 (2003);Levine et al., (2004)および(2005)、前記)。興味深い結果は、21トリソミーの試料では対照よりもPlGFが有意に高く、それが既発表文献のいくつかとは一致するが(Spencer et al., Prenat. Diagn. 21:718-722 (2001);Su et al., Prenat. Diagn. 22:8-12 (2002))、他の参考文献とは矛盾することである(Debieve et al., Mol. Hum. Reprod. 7:765-770 (2001);Lambert-Messerlian et al., Prenat. Diagn. 24:876-880 (2004))。21トリソミーでのsFlt-1/PlGF比の平均は同等な対照値よりも低かったが、有意には達しなかった(P=0.09)。
【0120】
多胎妊娠、胞状奇胎および三倍体性などのように過剰な栄養膜組織を有するある種の妊娠合併症が子癇前症の素因となることも、かなり以前から知られていた。過剰な胎児遺伝物質を伴う妊娠例が子癇前症に罹病しやすいという事実は、子癇前症に対する胎児ゲノムの寄与を強く示すものである。過剰な胎児遺伝物質を伴う妊娠と子癇前症との間につながりがある可能性を示す以前のデータにより、第13番染色体上にコードされる遺伝子産物が子癇前症の発症において病原的な役割を果たす可能性があるという仮説が導かれた。第13番染色体によってコードされる、第Xおよび第VII凝固因子ならびに4型コラーゲンなどのいくつかの候補因子が、子癇前症において役割を果たすと仮定された;しかし、重要であることが示されたものはなかった(Tuohy et al, Br J Obstet Gynaecol 1992, 99:891-4)。
【0121】
本発明者らによる第13番染色体上のFlt-1/sFtl-1座位の関連性の同定、ならびに本発明者らによる13トリソミーとsFlt-1のより高い母体血清レベルおよび血清遊離PlGF低下とのつながりの発見は、過剰な胎児遺伝物質を伴う妊娠と子癇前症に対する性向との関連について説得力のある説明を与える。
【0122】
以上を要約すると、これらの結果は、13トリソミー妊娠例では、18トリソミーまたは21トリソミーまたは正常核型の妊娠例と比較して流血中sFlt-1が上昇し、遊離PlGFが低下していることを示唆する。本発明者らは以前に、後になって子癇前症を合併した妊娠例で流血中の血管新生タンパク質の同様の変化を観察しているため、13トリソミー患者で認められた子癇前症のリスク増大は血管新生プロフィールの変化と直接的に関係している可能性が高い。
【0123】
その他の態様
以上の説明から、本発明を種々の用法および条件に適合させるために、本発明に種々の変更および修正を加えうることは明らかであると考えられる。このような態様も以下の特許請求の範囲に含まれる。
【0124】
本明細書で言及したすべての特許、特許出願および刊行物は、それぞれの個々の特許、特許出願または刊行物が参照として組み込まれるように明確かつ個別に示されている場合と同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。さらに、米国特許出願第20040126828号、第20050025762号および第20050170444号、ならびにPCT特許出願公報番号WO2004/008946A2号およびWO 2005/077007号は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1A】正常核型対照(n=85)、13トリソミー(n=17)、18トリソミー(n=20)および21トリソミー(n=17)の患者における、血清循環sFlt-1およびPlGFの平均濃度をpg/ml単位で示したグラフである。種々のトリソミー群に関するsFlt-1およびPlGFのレベルを正常核型対照と比較した。13トリソミーを対照と比較したPlGF測定に関するP値は0.032で有意であった;他のすべての比較は有意ではなかった。
【図1B】正常核型対照(n=85)、13トリソミー(n=17)、18トリソミー(n=20)および21トリソミー(n=17)の患者における比sFlt-1/PlGFについての、ウィスカーを伴うボックスプロットである。太い線は中央値を表し、四分位範囲を伴うボックスおよびウィスカーが提示されている。ウィスカーを越える点は外れ値を表す。***は対照との比較でP=0.003を表す。
【図2】第1および第2三半期血清標本のそれぞれでの、正常核型対照(n=30およびn=55)および13トリソミー(n=6およびn=11)における比sFlt-1/PlGFについての、ウィスカーを伴うボックスプロットである。太い線は中央値を表し、四分位範囲を伴うボックスおよびウィスカーが提示されている。ウィスカーを越える点は外れ値を表す。***は13トリソミーと対照との比較でP=0.007を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する方法であって、該被検体からの試料におけるsFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドのうち少なくとも1つのレベルを測定する段階を含む方法。
【請求項2】
試料が血清であり、2ng/ml血清を上回るsFlt-1のレベルによって、被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
試料が血清試料であり、200pg/ml血清未満である遊離PlGFのレベルによって、被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
sFlt-1、VEGFまたはPlGFポリペプチドのうち少なくとも1つのレベルを参照と比較する段階をさらに含み、該参照と比べた妊娠被検体試料における該レベルの変化によって、該被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
参照が被検体から採取された以前の試料である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
参照が正常参照試料または正常参照値である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
参照と比較したsFlt-1レベルの低下またはVEGFもしくはPlGFレベルの上昇によって、被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項4記載の方法。
【請求項8】
VEGFまたはPlGFが遊離VEGFまたは遊離PlGFである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
被検体からの試料におけるsFlt-1、VEGFおよびPlGFポリペプチドのうち少なくとも2つのレベルを測定する段階、ならびにsFlt-1、VEGFまたはPlGFの該レベル間の関係を測定基準(metric)を用いて算出する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
測定基準が子癇前症抗血管新生指数(PAAI):[sFlt-1/VEGF+PlGF]である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
20を上回るPAAI値によって、被検体が13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
測定基準がsFlt-1/PlGFである、請求項9記載の方法。
【請求項13】
15を上回るsFlt-1/PlGF比の値によって、被検体が13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
被検体試料から測定基準を用いて算出された、sFlt-1、VEGFまたはPlGFのレベル間の関係を参照試料と比較する段階をさらに含み、該参照試料と比べた被検体試料における該レベル間の関係の変化によって、該被検体が13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される、請求項9記載の方法。
【請求項15】
測定基準がPAAIまたはsFlt-1/PlGFであり、参照試料における該PAAIまたはsFlt-1/PlGFと比較した被検体試料における該PAAIまたはsFlt-1/PlGFの上昇によって、該被検体が13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると診断される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
測定が免疫学的アッセイを用いて行われる、請求項1または9記載の方法。
【請求項17】
免疫学的アッセイがELISAである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
sFlt-1のレベルが遊離型、結合型または総sFlt-1のレベルである、請求項1または9記載の方法。
【請求項19】
VEGFまたはPlGFのレベルが遊離VEGFまたはPlGFのレベルである、請求項1または9記載の方法。
【請求項20】
13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する方法であって、該被検体からの試料におけるsFlt-1、VEGFまたはPlGF核酸分子のレベルを測定する段階およびそれを参照試料と比較する段階を含み、該レベルの変化によって、該被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される方法。
【請求項21】
sFlt-1、VEGFまたはPlGF核酸分子のレベルを参照と比較する段階をさらに含み、該参照と比べた被検体試料における該レベルの変化によって、該被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項19記載の方法。
【請求項22】
参照が被検体から採取された以前の試料である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
参照が正常参照試料または正常参照値である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
参照試料と比べたsFlt-1核酸のレベルの上昇またはPlGFもしくはVEGF核酸分子のレベルの低下によって、被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項20記載の方法。
【請求項25】
13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると妊娠被検体を診断する方法であって、被検体からの試料におけるsFlt-1、VEGFまたはPlGF遺伝子の核酸配列を決定する段階およびそれを参照配列と比較する段階を含み、該被検体における遺伝子産物の発現レベルを変化させる変化である被検体の核酸配列における変化によって、該被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される方法。
【請求項26】
試料が、その中でsFlt-1、VEGFまたはPlGFを通常検出しうる被検体の体液である、請求項1、9、20または25記載の方法。
【請求項27】
液体が、尿、羊水、血清、血漿または脳脊髄液からなる群より選択される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
試料が細胞である、請求項1、9、20または25記載の方法。
【請求項29】
細胞が、内皮細胞、白血球、単球、および胎盤に由来する細胞からなる群より選択される、請求項28記載の方法。
【請求項30】
試料が組織である、請求項1、9、20または25記載の方法。
【請求項31】
組織が胎盤組織である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
被検体がヒトである、請求項1、9、20または25記載の方法。
【請求項33】
被検体が、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌまたはネコからなる群より選択される非ヒトである、請求項1、9、20または25記載の方法。
【請求項34】
測定されるレベルのうち少なくとも1つがsFlt-1のレベルである、請求項1、9、20または25記載の方法。
【請求項35】
sFlt-1のレベルを測定する場合にPlGFのレベルも測定する、請求項34記載の方法。
【請求項36】
レベルの測定が2度またはそれ以上の機会に行われ、測定間の該レベルの変化によって、被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項1、9または20記載の方法。
【請求項37】
2度またはそれ以上の機会のうち第1のものが第1三半期の間であり、該2度またはそれ以上の機会のうち第2のものが第2三半期の間である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
13トリソミーの胎児を有するまたはそれを有するリスクがあると被検体を診断する方法であって、該被検体からの尿試料における遊離PlGFのレベルを測定する段階を含む方法。
【請求項39】
第2または第3三半期の間に測定された400pg/ml未満の尿試料中の遊離PlGFのレベルによって、被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項38記載の方法。
【請求項40】
尿試料におけるクレアチニンのレベルを測定する段階をさらに含み、該試料におけるクレアチニン1mg当たりの遊離PlGFのレベルが200pg未満であることによって、該被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項38記載の方法。
【請求項41】
被検体からの遊離PlGFのレベルを参照試料からのPlGFのレベルと比較する段階をさらに含み、該参照試料と比較した該被検体からの該遊離PlGFの低下によって、該被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項38記載の方法。
【請求項42】
参照試料が被検体から採取された以前の試料である、請求項41記載の方法。
【請求項43】
被検体試料を第2三半期の間に採取し、参照試料を第1三半期の間に採取する、請求項42記載の方法。
【請求項44】
被検体からの試料におけるsFlt-1、PlGFおよびVEGFポリペプチドのうち少なくとも1つのレベルを測定する段階をさらに含み、該試料が尿、血液、羊水、血清、血漿または脳脊髄液からなる群より選択される体液である、請求項38記載の方法。
【請求項45】
被検体からの血清の試料からのsFlt-1のレベルを測定する、請求項44記載の方法。
【請求項46】
被検体からの血清の試料からのsFlt-1およびPlGFのレベルを測定する、請求項44記載の方法。
【請求項47】
被検体からのsFlt-1、PlGFまたはVEGFポリペプチドのレベルを、参照試料におけるsFlt-1、PlGFまたはVEGFポリペプチドのレベルと比較する段階をさらに含む、請求項44記載の方法。
【請求項48】
参照試料と比較した、被検体試料からのsFlt-1のレベルの上昇またはVEGFもしくはPlGFポリペプチドのレベルの低下によって、該被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項47記載の方法。
【請求項49】
sFlt-1、VEGFおよびPlGFポリペプチドのうち少なくとも2つのレベルを測定する段階、ならびに該レベル間の関係を測定基準を用いて算出する段階を含む、請求項44記載の方法。
【請求項50】
参照試料からのsFlt-1、VEGFおよびPlGFのうち少なくとも2つのレベルを測定する段階、該レベル間の関係を測定基準を用いて算出する段階、ならびに該被検体試料からの測定基準を該参照試料からの測定基準と比較する段階をさらに含み、参照試料と比べた被検体試料における該レベル間の関係の変化によって、該被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項49記載の方法。
【請求項51】
測定基準がsFlt-1/PlGFまたはPAAIである、請求項49記載の方法。
【請求項52】
参照試料と比べた被検体試料からのsFlt-1/PlGFまたはPAAI値の上昇によって、該被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項50記載の方法。
【請求項53】
レベルの測定が2度またはそれ以上の機会に行われ、測定間の該レベルの変化によって、被検体が13トリソミーの胎児を有するまたは有するリスクがあると診断される、請求項44記載の方法。
【請求項54】
2度またはそれ以上の機会のうち第1のものが第1三半期の間であり、該2度またはそれ以上の機会のうち第2のものが第2もしくは第3三半期の間である、請求項53記載の方法。
【請求項55】
妊娠被検体からの試料における、α-フェトプロテイン、ヒト絨毛性ゴナドトロピンおよび非抱合型エストリオールからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルを測定する段階をさらに含む、請求項1、20、25、38、44記載の方法。
【請求項56】
α-フェトプロテイン、ヒト絨毛性ゴナドトロピンおよび非抱合型エストリオールのレベルを測定する段階を含む、請求項55記載の方法。
【請求項57】
妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断のためのキットであって、sFlt-1、VEGFおよびPlGF核酸分子からなる群より選択される核酸配列もしくはそれらに対して相補的な配列、またはそれらの任意の組み合わせ、ならびに妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断のための該キットの使用法に関する説明書を含むキット。
【請求項58】
妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断のためのキットであって、sFlt-1、VEGFもしくはPlGFポリペプチドまたはそれらの任意の組み合わせと特異的に結合する結合物質、および妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断のための該キットの使用法に関する説明書を含むキット。
【請求項59】
sFlt-1を検出する、請求項57または58記載のキット。
【請求項60】
sFlt-1およびPlGFを検出する、請求項59記載のキット。
【請求項61】
妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断のためのキットであって、遊離PlGFポリペプチドを検出するための遊離PlGF結合物質、および妊娠被検体における胎児13トリソミーまたは13トリソミーの胎児を有するリスクの診断のためのその使用法に関する説明書を含むキット。
【請求項62】
免疫学的アッセイ、酵素アッセイ、蛍光偏光アッセイまたは比色アッセイのための構成要素をさらに含む、請求項61記載のキット。
【請求項63】
PlGF結合物質が膜上に固定化されている、請求項61記載のキット。
【請求項64】
膜がディップスティック構造上に支持され、ディップスティック構造を試料中に入れることによって試料が膜上に沈着する、請求項63記載のキット。
【請求項65】
膜が側方流動カセット内に支持され、カセット内の開口部を通って試料が膜上に沈着する、請求項63記載のキット。
【請求項66】
参照試料または参照値をさらに含む、請求項57、58または61記載のキット。
【請求項67】
α-フェトプロテイン、ヒト絨毛性ゴナドトロピンおよび非抱合型エストリオールからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルを測定するための構成要素をさらに含む、請求項58または61記載のキット。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2008−537776(P2008−537776A)
【公表日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503178(P2008−503178)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/010543
【国際公開番号】WO2006/102498
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(507316413)ベス イスラエル デアコネス メディカル センター (4)
【Fターム(参考)】