説明

姿勢矯正装置

【課題】日常生活において仙腸関節に生じるストレスを緩和するとともに姿勢の偏りを矯正し、腰痛を改善する。
【解決手段】クッション10は、着座者50の体重による荷重を負担する座部12と、一対の上後腸骨棘を結んだ線より身体下側の位置で仙骨42もしくは尾骨44に当たる仙骨当て具22と、座部12と連続し、一対の上後腸骨棘を結んだ線より身体上側の位置で腸骨46に当たる腸骨当て部30を備えている。着座者50が座部12に着座すると、尾骨44を介して外力F1を受けた仙骨42には仙骨起き上がりモーメントM1が作用する。腸骨当て部30から外力F2を受けた腸骨46には腸骨前傾モーメントM2が作用する。これらのモーメントM1、M2の作用により骨盤の姿勢が矯正され、仙腸関節60のストレスが緩和もしくは解消され、腰痛が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日常生活において生じる姿勢の偏りを矯正する姿勢矯正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腰痛を軽減もしくは緩和する装置として、例えば特許文献1乃至3に開示されたものが知られている。これらの装置は、腰痛に良いとされてきた「骨盤(仙骨)を前傾させて腰を伸ばす」ことを実現するための機能を備えたものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−284620号公報
【特許文献2】特開2006−311946号公報
【特許文献3】特開2009−160195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
骨盤は、仙骨とその両側にある2つの寛骨、および尾骨で構成されている。また寛骨は、腸骨、恥骨および坐骨から成り立っている。仙骨と寛骨は、仙骨と腸骨の間の仙腸関節と恥骨結合とで連結されている。特許文献1乃至3に開示された発明においては、骨盤を1つの塊として動くもののように捉えているが、例えば、山嵜勉編「整形外科理学療法の理論と技術」株式会社メジカルビュー社、第1版、p.179には、「単純に腸骨が前傾しているから仙骨も前傾(以下、うなづきという。)するとは限らず、逆に仙骨は後傾(起き上がり)するという様なこともあり得る。つまり骨盤前傾といっても腸骨は前傾、仙骨は後傾(以下、仙骨起き上がりという)あるいはその逆といったように腸骨と仙骨は常に同じ方向に動こうとするとは限らない。むしろ仙骨と腸骨は仙腸関節により分離して動ける構造を有している。」という旨の記載があり、腰痛を考える上で骨盤を分離性のあるものとして捉えることの重要性を示唆している。
【0005】
さらに、I.A.KAPANDJI著、荻島秀男監訳、嶋田智明訳「関節の生理学3身体・脊柱」医歯薬出版株式会社、第1版、p.64-65には、「立位姿勢時、身体の重みは岬角を低めるようにかかってくる。言い換えれば仙骨には仙骨うなづき方向へのモーメントが生じる。一方大腿骨を介した地面からの反作用は腸骨を後傾させるようなモーメントを生じさせる。この腸骨後傾は仙骨うなづきをさらに増強させる。」という旨のことが記載されている。
【0006】
つまり立位姿勢時においては、図5に示すように、身体の重みは仙骨100上端(岬角)へと作用し(図中Pで示す。以下同じ。)、仙骨を前傾させようとする仙骨うなづきのモーメント(N1)を生じさせる。地面からの反作用は大腿骨頭から腸骨104へと伝わり(R)、腸骨後傾のモーメントを生じさせる(N2)。これらのモーメントN1、N2は、PとRが同一直線上にないために仙腸関節102周りに生じる逆方向のモーメントである。この仙骨うなづきモーメントと腸骨後傾モーメントという反対方向の力が常に作用する結果、これらの結合部である仙腸関節には多大なストレスが生じることになり、仙腸関節自体や周囲の靱帯、筋肉などの軟部組織がストレスにより障害され、これが血液循環障害を呈し、最終的には腰痛を引き起こすに至る。
【0007】
全身にある各関節や各軟部組織(関節包・靱帯・筋肉など)は本来体重を上手く分散させ、効率よく活動できるような構造・配置をしている。この分散が破綻してしまい体重が一部に偏ってかかってしまったときに、その機械的ストレスは過大となる。そして組織の障害→血液循環障害→痛みの出現といった流れをたどってしまう。良い姿勢とは偏りがない、効率良く、安定した姿勢であると言える。また良い姿勢とは関節の適合性がよく、軟部組織の柔軟性があり、循環障害が生じていない状態であるとも言える。つまりは偏った姿勢を元の良い姿勢に近付けてあげることができれば、それは人類が理想とする痛みのない身体の獲得につながるのである。
【0008】
このような考察のもと、日常生活では得にくい力を仙腸関節に対して加えることができれば、姿勢の偏りが矯正され、腰痛改善へとつながるのではないかという知見を得た。すなわち図6に示すように、仙骨うなづきモーメントとは逆方向になる仙骨起き上がりモーメントM1を生じさせ、望ましくは腸骨後傾モーメントとは逆方向になる腸骨前傾モーメントM2も生じるようにすれば、仙腸関節がストレスから開放され、腰痛の改善が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するため、本発明の第1の態様は、腸骨に対する仙骨の位置を相対的に変位させることにより、仙骨に起き上がりモーメントを作用させる仙骨起き上がりモーメント付与手段を備えた、姿勢矯正装置を提供する。
仙骨起き上がりモーメントは、日常生活において仙腸関節に多大なストレスを与えている仙骨うなづきモーメントと逆方向のモーメントであり、仙骨下部が身体後側から身体前側に移動する方向に作用するモーメントである。仙骨起き上がりモーメントを作用させることで姿勢の偏りが矯正され、仙腸関節のストレスが緩和もしくは解消されると考えられる。
【0010】
さらに腸骨に対して、日常生活において生じる後傾モーメントとは逆方向に作用する前傾モーメントを付与することで、より大きな姿勢矯正効果が期待できる。
仙骨起き上がりモーメントおよび腸骨前傾モーメントは、一対の上後腸骨棘を結んだ線より身体下側の位置で仙骨に対して外力を付与する手段と、一対の上後腸骨棘を結んだ線より身体上側の位置で腸骨に対して外力を付与する手段により作用させることができる。
仙骨には尾骨が連結しており、尾骨は身体の表面により近い位置にあるので、尾骨に直接的に外力を加えることで仙骨に対して間接的に外力を付与するようにしてもよい。
【0011】
本発明の第2の態様は、着座者の臀部と接触する座部と、腰部と接触する背部を備え、前記座部が、着座者の体重による荷重を負担する第1の弾性体と、前記第1の弾性体より硬質であって、上後腸骨棘より身体下側の位置で仙骨もしくは尾骨に当たる第2の弾性体を含み、前記背部が、前記第1の弾性体と連続する弾性体であって、一対の上後腸骨棘を結んだ線より身体上側の位置で腸骨に当たる第3の弾性体を含む、請求項2に記載の姿勢矯正装置を提供する。
【0012】
着座者の体重を負担する第1の弾性体に比べ、より硬質の第2の弾性体は沈み込み量が相対的に小さいため、一対の上後腸骨棘を結んだ線より身体下側の位置で仙骨に対して外力を付与する手段として機能し、また仙骨起き上がりモーメントを作用させる手段として機能する。第3の弾性体は、第1の弾性体の沈み込みに伴って前傾姿勢に変形することにより、一対の上後腸骨棘を結んだ線より身体上側の位置で腸骨に対して外力を付与する手段として機能し、腸骨前傾モーメントを作用させる手段として機能する。
【0013】
さらには前記座部の厚みが前後両端部に比べて中央部で薄く、前記前後両端の下端が前記中央部の下端よりも下方にあることが好ましい。ここで座部の前後両端とは、着座者が着座したとき身体前側(腹)が向く方向を前、身体後側(背)が向く方向を後とした場合の両端部をいう。
【0014】
この場合、着座者の体重により中央部が下方に大きく撓み、これに連動して背部はさらに前傾姿勢になるため、腸骨により大きな外力を付与することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の姿勢矯正装置は、日常生活では得にくい仙腸関節周りの回転モーメントを作用させることで、日常生活において仙腸関節に生じるストレスを緩和するとともに姿勢の偏りを矯正し、腰痛を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】クッションの構造を示す斜視図
【図2】クッションに着座した様子を示す側面図
【図3】クッションによる腰痛改善効果を説明するための図
【図4】仙骨および腸骨に付与する外力の位置を説明するための図
【図5】腰痛の発生原理を示す骨格図
【図6】腰痛を改善するための仙骨および腸骨の動きを示す骨格図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に示すように、クッション10は全体として座椅子の形状をしており、水平方向に広がる座部12と、座部12の後端14から鉛直上方に延びる背部16を備えている。座部12は略平坦な表面と、略中央が表面側に近づくように湾曲した裏面を有し、前端18と後端14が厚く、その間の中央部20が薄くなるように形成されている。背部16は幅方向の中央において左右2つの部分に分離されている。座部12と背部16は同一の弾性素材で一体成型されたものである。
【0018】
座部12の幅方向の中央に設けられた仙骨当て具22は、座面長方向における略中央から後端方向に延びる細長い形状の弾性体であり、座部12によって弾性的に支持されている。仙骨当て具22は仙骨下部の幅と同じか少し大きい程度の幅を有しており、座部12を構成する弾性体の素材より硬質の弾性体で構成されている。仙骨当て具22の前端24から略中央までは座部12の上に露出し、略中央から後端26までは左右2つの背部16の間に挟まれている。前端24から後端26に向けて上方に湾曲しているが、これは後述する仙骨下部の形状に倣ったものである。仙骨当て具22の上面にはより軟質の素材で構成された緩衝体28が設けられている。なお仙骨当て具22は座部12に対して着脱することができるようになっており、好みの高さや硬さ、形のものに簡単に交換することができる。
【0019】
背部16は座部12とは反対側に膨らむ形に湾曲しており、最上部には座部12側に突き出した形の腸骨当て部30が設けられている。腸骨当て部30も座部12および背部16と同一の素材で一体成型されたものである。
【0020】
クッション10の構成において、座部12は着座者の体重による荷重を負担する第1の弾性体であり、仙骨当て具22は仙骨に当たる第2の弾性体であり、腸骨当て部30は腸骨に当たる第3の弾性体として機能する。クッション10は座部12と背部16に低反発性の発砲ポリウレタンを使用し、仙骨当て具22には発砲ポリエチレンを使用しているが、クッション10の材質はこれらのものに限定されるものではない。
【0021】
次にクッション10の使用方法と使用がもたらす腰痛改善効果について説明する。
クッション10は図2に示すように椅子の座面40などの上に置いて使用する。この以外のものに置いて使用することも可能ではあるが、後述するようにクッション10の機能を最大限に発揮させるためには、表面にあまり凹凸のない略平坦であって、体重が加わっても大きく変形しない程度の剛性を有するものが好ましい。
【0022】
クッション10に着座するときには腰部56に腸骨当て部30が接触するくらいまで深めに座り、仙骨42の下部および仙骨42の下に繋がる尾骨44に仙骨当て具22が当たるようにする。これは着座者50が意識してそのような位置に座るというよりは、着座者50が自然な姿勢で着座したときに仙骨当て具22および腸骨当て部30が適正な位置となるように予め調整しておくことである。座部12には着座者50の体重による荷重が加わり、臀部52から太もも54の形状に合わせて座部12の表面が沈み込む。このとき仙骨当て具22も座部12と一緒に沈み込むのであるが、座部12より硬質の仙骨当て具22は沈み込み量が相対的に小さいため、仙骨42の下部を相対的に押し上げるかたちとなる。これにより仙骨42には図3に示すように外力F1が付与され、仙腸関節60周りの起き上がりモーメントM1が作用する。
【0023】
座部12の沈み込みは、これに連続する背部16の前傾を誘発し、腸骨当て部30が腸骨46に強く当たることになる。これにより腸骨46には外力F2が付与される。この外力F2はクッション10の材質や形状によってその大きさを調整することができる。望ましくは、仙骨42の変位に伴って動いてしまわないように腸骨46を固定するか、腸骨46に対して仙腸関節60周りの前傾モーメントM2を作用させる程度の大きさが理想的である。なお座部12は裏面が略中央で表面側に湾曲しているため、前端側と後端側の2つの支点70、72で支持されている。そのため着座者50の体重による荷重が座部12に加わると、図3に示すように中央部20が下方に向けて大きく撓むようになる(矢印A)。これに連動して背部16はさらに前傾姿勢となり(矢印B)、外力F2が大きくなる。なお、2つの支点70、72を含め座部12の下部は、直接臀部52に触れる上部に比べてより硬質の素材、例えば仙骨当て具22と同じ素材で構成することもできる。このようにすれば、臀部52に不快感を与えることなくクッション10の剛性を高めることができ、座部12の変形が背部16に伝わりやすくなり、腸骨46により効果的に外力F2が付与されるようになる。
【0024】
このようにクッション10は着座するだけで仙骨42に対しては仙骨起き上がりモーメントM1を作用させることができ、腸骨46に対しては後傾しないように固定するか、前傾モーメントM2を作用させることができる。従ってクッション10の使用により、日常生活、特に立位姿勢時に仙腸関節60周りに発生してしまうモーメントとは逆方向のモーメントが作用するようになり、仙骨うなづきおよび腸骨後傾という現象に起因する姿勢の偏りが矯正され、仙腸関節60のストレスが緩和もしくは解消され、腰痛の改善につながる。
【0025】
なおクッション10は本発明の一態様であり、本発明の姿勢矯正装置の態様はこれに限定されるものではない。例えば椅子自体に姿勢矯正装置の構成を組み込むことも可能である。またクッション10では仙骨起き上がりモーメント付与手段および腸骨前傾モーメント付与手段は、クッション10の素材自体が有する弾性と着座者の体重を利用して所期の機能が実現されているが、他にも電気的手段や機械的手段によりこれらの機能を実現するように構成することも可能である。何れの態様においても特に重要なことは、腸骨46に対する仙骨42の位置を相対的に変位させることにより、仙骨42に起き上がりモーメントを作用させることである。
【0026】
仙骨起き上がりモーメントを作用させるためには、図4に示すように、仙骨42に対しては左右一対の上後腸骨棘を結ぶ線80より下方の斜線で示した範囲内で外力F1を付与すればよい。なお仙骨42の下方に繋がる尾骨44に外力を加えることで仙骨42に間接的に外力を付与するようにしてもよい。このとき腸骨46が後傾する方向に動いてしまうと、仙骨42の相対的な変位が実現できなくなるため、腸骨46に対しては線80より上方の斜線で示した範囲内で外力F2を加えることが望ましい場合がある。この外力F2を積極的に与え、腸骨46に前傾モーメントを作用させると、より効果的な姿勢矯正が可能になり、腰痛のさらなる改善につながる。
【符号の説明】
【0027】
10 クッション
12 座部
16 背部
22 仙骨当て具
30 腸骨当て部
42、100 仙骨
44 尾骨
46、104 腸骨
50 着座者
52 臀部
56 腰部
60、102 仙腸関節
80 左右一対の上後腸骨棘を結ぶ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸骨に対する仙骨の位置を相対的に変位させることにより、仙骨に起き上がりモーメントを作用させる仙骨起き上がりモーメント付与手段を備えた、姿勢矯正装置。
【請求項2】
前記仙骨起き上がりモーメント付与手段が、一対の上後腸骨棘を結んだ線より身体上側の位置で腸骨に対して外力を付与する手段と、一対の上後腸骨棘を結んだ線より身体下側の位置で仙骨に対して外力を付与する手段を含む、請求項1に記載の姿勢矯正装置。
【請求項3】
着座者の臀部と接触する座部と、腰部と接触する背部を備え、
前記座部が、着座者の体重による荷重を負担する第1の弾性体と、前記第1の弾性体より硬質であって、一対の上後腸骨棘を結んだ線より身体下側の位置で仙骨もしくは尾骨に当たる第2の弾性体を含み、
前記背部が、前記第1の弾性体と連続する弾性体であって、一対の上後腸骨棘を結んだ線より身体上側の位置で腸骨に当たる第3の弾性体を含む、請求項2に記載の姿勢矯正装置。
【請求項4】
前記第2の弾性体が前記第1の弾性体により弾性的に支持された、請求項3に記載の姿勢矯正装置。
【請求項5】
前記座部の厚みが前後両端部に比べて中央部で薄く、前記前後両端の下端が前記中央部の下端よりも下方にある、請求項3または4に記載の姿勢矯正装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−254878(P2011−254878A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129802(P2010−129802)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【特許番号】特許第4769327号(P4769327)
【特許公報発行日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(510158509)
【Fターム(参考)】