説明

子実体の発芽誘導栽培方法

【課題】収穫した後の菌床で二回目以降の子実体を発生させるために行われる従来の発芽刺激によって引き起こされる害菌・害虫の発生や菌床の早期劣化などの問題を解決するために、きのこの子実体の発生を菌床の上部に積極的に誘導して菌床の側面及び底面からの子実体の発生を抑制することが可能となる子実体の発芽誘導栽培方法を提供する。
【解決手段】菌床栽培における培養完了後の子実体の発生工程において、菌床1の上部1aに非通気性遮蔽物2を載置して該載置面部分のきのこの菌に窒息刺激を与えつつ一定時間静置した後、前記非通気性遮蔽物2を菌床から取り除く窒息刺激工程を有し、窒息刺激した菌床上部1aに子実体の発生を積極的に誘導して、それ以外の窒息刺激しない側面1b及び底面部位では子実体の発生が抑制されるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は菌床を用いたきのこ栽培方法において、きのこの子実体の発生を菌床の上部へ誘導し、発生を望まない部分である菌床の側面及び底面からの子実体の発生を抑制する栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シイタケ栽培など菌床を用いたきのこの栽培で1つの菌床で複数回収穫する場合、2回目以降の収穫では、菌床上部から比較的発生しやすい特性を持つ上面栽培適合品種(シイタケの品種名:北研600号等)のきのこでは、特別な発芽処理を行わなくても菌床の上面から継続的に子実体を発生させることができるが、それ以外の一般的に使用されているきのこの品種では、初回の収穫が行われた菌床には発芽処理を行わないと次回の子実体の発生を得ることが困難である。
【0003】
そのような発芽処理の従来の一般的な方法は、「反転処理」、「打木処理」、また、特許文献1記載の「パック浸水処理」などの手法があるが、それらはいずれも菌床の移動を伴う処理なので、菌床の移動に時間と手間が掛かる。そして特に、移動によって菌床全体を刺激することになるために本来発生を望まない菌床の側面部分からの子実体の発生が誘発されてしまい、その結果、菌床の側面部分から発生した子実体の数量の分、上面部分からの子実体の発生数量が低下してしまう問題や、菌床の側面部分から発生した子実体は腐敗しやすく、腐敗した子実体は害菌や害虫を誘因・増殖させ、上面部分に発生した正常な子実体に対してもその害菌や害虫の拡散による二次汚染や菌床への雑菌汚染を誘発し、生産性の低下や菌床の使用寿命の低下などが引き起こされるという問題があった。
【0004】
また、下記特許文献2に記載の菌床の上部から子実体を得る上面栽培技術においては、上面栽培適合品種(例えば上記北研600号等)以外の品種を用いた場合には、菌床の側面や底面からの子実体の発生が誘発されることがあり、その場合、菌床の側面部分から発生した子実体によって上記の如き種々の問題が引き起こされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2004−16532号公報
【特許文献2】特許第3087171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の発芽刺激処理方法では、菌床全体への刺激となってしまうため本来発生を望まない菌床の側面部分からの子実体の発生が誘発されて、その結果上記の如く、菌床の上面部分からの子実体の発生数量が低下してしまい、また、菌床の側面部分から発生した子実体の腐敗できのこの品質の低下、生産性の低下、菌床の使用寿命の低下などが引き起こされていた。
そこで、本発明は、初回の子実体を収穫した後の菌床を用いて、その菌床で二回目以降の子実体を発生させるために行われる従来の発芽刺激によって引き起こされる害菌・害虫の発生や菌床の早期劣化などの問題を解決するために、きのこの子実体の発生を菌床の上部に積極的に誘導して菌床の側面及び底面からの子実体の発生を抑制することが可能となるきのこの発芽誘導栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の子実体の発芽誘導栽培方法は、菌床栽培における培養完了後の子実体の発生工程において、菌床の上部に非通気性物体を載置して該載置面部分のきのこの菌に窒息刺激を与えつつ一定時間静置した後、前記非通気性物体を菌床から取り除く窒息刺激工程を有し、窒息刺激した菌床上部に子実体の発生を積極的に誘導して、それ以外の窒息刺激しない側面及び底面部位では子実体の発生が抑制されるようにしたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の発明の窒息刺激工程において、窒息刺激する対象となる菌床が平面上並べた複数の菌床であり、各菌床に対して同時的に非通気性物体を載置して窒息刺激を与えつつ一定時間静置した後、前記非通気性物体を前記複数の菌床から取り除くことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、上記請求項1又は請求項2に記載の発明において、用いる非通気性物体が、非通気性遮蔽物又は含水非通気性被覆物から成ることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、上記請求項1又は請求項2に記載の発明において、用いる非通気性物体が、非通気性遮蔽物と含水非通気性被覆物とを重ね合わせて成ることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、上記請求項1又は請求項2に記載の発明において、用いる非通気性物体が、非通気性遮蔽物層と含水非通気性被覆物層とが一体的に積層された非通気性積層体から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、初回の子実体を収穫した後の菌床を用いて、その菌床で二回目以降の子実体を発生させる培養完了後のきのこの子実体の発生工程において、その菌床の上部に非通気性物体を載置して子実体を発生させたい菌床の上部に範囲を限定して窒息刺激を行うことが可能となる。そして、子実体が菌床の限定された上部に誘導されて発生することで、高品質な子実体を得ることが可能となり、窒息刺激をしなかった菌床の側面及び底面からの子実体の発生が抑制される。
この結果、菌床の側面から発生する子実体の腐敗による害虫の増殖や雑菌の繁殖が防止でき、このことで菌床の使用寿命を引き伸ばして生産性を高めることが可能となる。
また、本発明の窒息刺激工程では菌床の移動を伴うものではないので、従来のような菌床の移動に要する労力はなくなり、その分生産コストの減少など生産効率を高めることが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、前記非通気性物体は、複数の菌床に対して広い非通気性物体を一度に被せることができ、そうすれば複数同時に収穫までの作業を行うことができるので生産性の向上に役立つ。
請求項3、請求項4及び請求項5に記載の発明では、前記非通気性物体として、非通気性遮蔽物、含水非通気性被覆物及び非通気性積層体の中から、使用条件や使用状況などに応じて、最適な前記非通気性物体を選択することが可能となり、またいずれの非通気性物体を使用する場合でも、菌床にそれらを載置するという簡単な作業で窒息刺激工程を行うことが可能である。
【0014】
前記請求項4に記載の含水非通気性被覆物を使用する発明では、被覆物が水を含んで、図4の(ロ)に示すように、水を含ませた重みで菌床の上面の凹み部分に入り込む変形を起こして菌床の上面と含水非通気性被覆物と間に生じる隙間空間Sを減少させ、より確実に窒息刺激を行うことが可能となる。
【0015】
請求項5に記載の非通気性遮蔽物層と含水非通気性被覆物層とが一体的に積層された非通気性積層体を使用する発明では、水を含ませた重みで菌床の上面と含水非通気性被覆物と間に生じる隙間空間Sを減少させ、より確実に窒息刺激を行うことが可能となり、且つ2枚を別々に重ねて行う前記請求項4に記載の発明よりも手間がかからないのでその分労力を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】菌床に(イ)が非通気性遮蔽物を載せる前の状態を示し、(ロ)が含水非通気性被覆物物を載せる前の状態を示す各斜視図である。
【図2】菌床に(ハ)が非通気性遮蔽物と含水非通気性被覆物物とを載せる前の状態を示し、(二)が非通気性積層体を載せる前の状態を示す各斜視図である。
【図3】棚に並べた菌床に非通気性遮蔽物を載せた状態と載せる前の状態を示す斜視図である。
【図4】菌床に(イ)が非通気性遮蔽物を載せた状態を、(ロ)が含水非通気性被覆物を載せた状態を、(ハ)が非通気性積層体を載せた状態を示す要部の各縦断側面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のきのこの発芽誘導栽培方法は、菌床によるきのこの菌床栽培における培養完了後の子実体の発生工程において、図4の(イ)、(ロ)及び(ハ)に示すように、菌床1の上部に非通気性物体(図中の符号2及び3が該当)を載置して該載置面部分に窒息刺激を与えつつ一定時間静置した後、前記非通気性物体を菌床1から取り除く窒息刺激工程を有する。
前記非通気性物体を載置することには、従来の発芽処理とは異なり、菌床1の移動は伴わない。このため、菌床1上面の一部などの部分的に限られた範囲だけに発芽処理を行うことが可能となる。
【0018】
本発明では、図1に示すように、発芽刺激範囲として好ましい部位である菌床上部1aに対してのみ子実体の発芽処理を施して、その発芽刺激した部分に対して発芽を誘導することが可能となり、例えば、菌床上部1aに非通気性物体(図中の符号2及び3が該当)を載置して該載置面部分に窒息刺激を与える場合には、その窒息刺激した菌床上部 1aのみに直立した上質な子実体が多く発生するようになる。
この際、刺激が菌床上部1aに限定され、側面1bや底面には刺激が行われないのでその側面1bなどの部分には発芽が起こり難い。
【0019】
このような本発明に対して、例えば、従来の「打木処理」では、菌床の上を叩いたとしても衝撃が全体に伝わって菌床の全体が刺激されてしまい、このため菌床の側面部分から発生した子実体は湾曲したり、隣接した菌床や隣接した菌床側面に発生した子実体と当たって、変形した品質の劣る子実体が発生するだけではなく、それらの側面に発生した子実体は腐敗しやすいので好ましくない。
【0020】
なお、木材学会誌Vol.49,No.4,P.239−246(2003)に大賀祥治が発表した「担子菌の子実体発生と制御」には3.1.2通風には「栽培キノコは一般的に好気的条件を好むが、子実体発生に伴いCO2の発生が増加し、エチレンの放出がある」と記載れていおり、このことなどから菌床の菌に窒息刺激を与えることについて、担子菌の子実体発生を起因・促進させる外的環境因子の有効な要因の1つであると考えられる。
次に、本発明の栽培方法を以下の実施例で詳しく説明する。
【実施例1】
【0021】
本実施例1はシイタケでの菌床栽培の例である。
シイタケの菌床の培地は広葉樹チップ、オガコに栄養体および水を加えた原料が使用され、通常は直方体のブロック形状で所定のサイズに形成される。
この菌床は殺菌、冷却後、各品種の適正培養温度帯で適正日数培養を行った後、発生温度帯に移して初回の子実体の発生を得て1回目の収穫が行われる。
本発明の発芽誘導栽培方法では、その後、2回以降の子実体の発生を得るために以下の発芽処理を行う。
【0022】
本実施例1では一度収穫が終わって培養完了後の子実体の発生工程の中において窒息刺激工程を有する。
この窒息刺激工程は、図1の(イ)(非通気性遮蔽物2を載置前の状態)及び図4の(イ)(非通気性遮蔽物2を載置前の状態)に示すように、菌床1の上部に非通気性遮蔽物2を載置して該載置面部分に窒息刺激を与え、そして非通気性遮蔽物2で空気を遮断して窒息状態のまま一定時間静置し、そしてその後、前記非通気性遮蔽物2を菌床から取り除く手順で行った。
本実施例1では前記非通気性物体として通気を妨げる機能を有する非通気性遮蔽物2を使用した。
【0023】
前記非通気性遮蔽物2は、外気とを遮断可能な非通気性の遮蔽物であり、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂製シートや、ゴムやシリコン素材の軟質で空気を通さないシート状の非通気性素材の使用が可能である。
本発明の発芽誘導栽培方法では、複数の菌床1の各個にそれぞれ非通気性物体を載置すること、即ち、棚7上に並べた各菌床1の上部に各1枚ずつ非通気性遮蔽物2を置いて、それぞれの菌床1に子実体を得ることが可能であるが、業として効率的な生産する場合は窒息刺激する対象となる菌床を、図3に示すように、棚7などの平面上に複数並べ、それらの菌床1、1、1・・・で同時に多数の菌床1の上部に同時に大きい面積の非通気性遮蔽物2を被せるように載置して一度に多くのきのこの菌への窒息刺激を行ない、同時に多数の菌床での栽培を行うこともできる。
【0024】
そして、菌床1が1個の場合でも、また多数の場合でも、その菌床1の上に非通気性遮蔽物2を載置後、30分から6時間は静置して、この時間で各菌床1の上部の菌糸を一時的に窒息させる。
その後、前記非通気性遮蔽物2を外して窒息状態が解除されると酸素の供給が再開されて菌糸の活性が高まり、適度な散水を与えながら発芽を待つと、前記窒息刺激を受けた上部から子実体が斉一に発生する。
【0025】
菌床1の上部1aに子実体を発生させると、菌床1の側面部位1b及び底面部位からの子実体の発生が抑制され、この結果、菌床1の側面1bには子実体の発生が少なくなり、収量の低下や子実体の腐敗で発生した害虫を誘因増殖しての二次汚染がなくなる。
なお、本発明では菌床1の上部1aから子実体を得る栽培に使用される菌床1を入れる容器は合成樹脂製の袋容器、ビン及び箱などがありいずれも使用が可能である。
【実施例2】
【0026】
本実施例2もシイタケの菌床栽培の場合である。
本実施例2も上記実施例1と同様に菌床の培地はシイタケの場合では広葉樹チップ、オガコに栄養体および水を加えた原料が使用され、通常は直方体のブロック形状で所定のサイズに形成される。
そして、この菌床は殺菌、冷却後、各品種の適正培養温度帯で適正日数培養を行った後、発生温度帯に移して初回の子実体の発生を得てきのこが収穫される。
この初回の収穫をした後、その菌床から2回目以降の子実体の発生を得るために以下の発芽処理を行った。
【0027】
本実施例2では、一度収穫が終わって培養完了後の子実体の発生工程において、図1の(ロ)に示すように、菌床1の上部1aに含水非通気性被覆物3を載置して該載置面部分に窒息刺激を与えつつ一定時間静置した後、前記含水非通気性被覆物3を菌床から取り除いた。
【0028】
本実施例2では、図1の(ロ)に示すように、前記非通気性物体として通気を妨げる機能を有する含水非通気性被覆物3を使用した。
前記含水非通気性被覆物3は、例えば、ウレタン、ナイロン、ポリビニルアルコール等を用いた多孔性素材、あるいは綿等の繊維質素材、または吸水性ポリマー等の吸水性の高い被覆物に水を含ませたものである。
これらの素材は繊維や孔などの空隙に水を含んで濡れた状態となると、その水で通気性を失い非通気性となる。
これらの含水非通気性被覆物3を使用した本発明は、複数の菌床1を載置した上記実施例1と同様な各棚7の上から、並べた複数の菌床の上に被るように前記含水非通気性被覆物3を被覆する。
前記含水非通気性被覆物3は、の上から水を散布して濡らしても良く、また個々に水に濡らした含水非通気性被覆物3を菌床に載置しても良い。
【0029】
そして含水非通気性被覆物3を載置後、30分から6時間は静置する。そしてこの間に含水非通気性被覆物3で覆われた菌床の上部1aの菌糸だけ一時的に窒息させる。
このとき、図4の(ロ)に示すように、被覆物が水を含んで、その水の重みで菌床の上面の凹み部分に入り込む変形を起こして菌床の上面と含水非通気性被覆物と間に生じる隙間空間Sを減少させて窒息を確実に行う。
その後、前記含水非通気性被覆物3を外し、酸素供給を再開させることで窒息させられた菌糸の活性が高まり、適度な散水を与えながら発芽を待つと、子実体が前記窒息刺激を受けた部分から斉一な発生が起こる。
このように菌床の上部1aに子実体を発生させると、菌床1の側面部位1b及び底面部位からの子実体の発生が抑制され、この結果、側面1bには子実体の発生が少なくなり、収量の低下や子実体の腐敗で発生した害虫を誘因増殖しての二次汚染がなくなる。
【実施例3】
【0030】
本実施例3では前記非通気性物体として、図2の(ハ)に示すように、上記実施例1の非通気性被覆物2と上記実施例2の含水非通気性被覆物2を上下に重ねて使用する。
前記非通気性被覆物2は、例えば、外気とを遮断可能なポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂製シート、あるいはゴムやシリコン素材の軟質で空気を通さないシート状の非通気性素材を使用し、また、含水非通気性被覆物3は、例えば、ウレタン、ナイロン、ポリビニルアルコール等を用いた多孔性素材、あるいは綿等の繊維質素材、または吸水性ポリマー等の吸水性の高い被覆物に水を含ませたものを使用する。
そして、初回の収穫が終わって培養完了後の子実体の発生工程において、菌床の上部1aに含水非通気性被覆物3を載置して該載置面部分に窒息刺激を与えつつ30分から6時間静置した後、前記含水非通気性被覆物3を菌床から取り除く。
【0031】
なお、実施例3では、前記非通気性被覆物2と前記含水非通気性被覆物3とはどちらを下側にしても菌床の上部に子実体が発生するが、図4の(ハ)に示すように、前記含水非通気性被覆物3を下側にして載置すると、その水の重みで菌床の上面の凹み部分に入り込む変形を起こして菌床1の上面と含水非通気性被覆物3と間に生じる隙間空間Sを減少させることができる。
またその際、前記含水非通気性被覆物3に含まれる水を菌床の上部1aに供給することができる。
この逆に前記非通気性被覆物2を下側にすると菌床の上部への水の供給をせずに窒息刺激できる。
前記非通気性被覆物2と前記含水非通気性被覆物3を上にするか下にするかは、きのこの品種や性質などを考慮して選択することができる。
【0032】
なお、前記非通気性被覆物2と前記含水非通気性被覆物3とは図2の(ハ)では別々に分離されたものを重ねて使用し、図2の(二)ではあらかじめ前記非通気性被覆物層5と前記含水非通気性被覆物層6の両者が上下に積層された積層体4として使用するものである。
図2の(ハ)の形態では2回に分けて覆うので手間が掛かるが、図2の(二)の含水した非通気性積層体4とした形態では掛けるのが1回で行える点で異なる。
また、前記含水非通気性被覆物層6が上側の場合には散水で含水させることもできる点で、含水前の軽いときに菌床の上への載置を容易に行えるので作業上の利点がある。
【0033】
〔比較実験〕
シイタケ菌床で本発明の上記各実施例の効果を確認するために上記実施例1〜3及び従来の方法である比較例1〜3の比較実験を行った。
その実験結果は下記表1に示す通りである。
この実験では、種菌として北研607号を使用した。そして、常法によって殺菌、冷却、接種し、20℃±1℃で120日間培養した後に栽培袋の上部をカットし、121日目から127日目まで25℃の高温多湿環境下で培養を行った後、栽培袋内に給水し、13℃/23℃の変温管理(12時間サイクル)に設定した空調室で発生管理を行った。
シイタケ菌床の上面栽培での発生中の菌床は、前記各実施例及び各比較例ともそれぞれ異なる発生室に静置して行った。
【0034】
(比較例1)
下記表1中の比較例1は、発芽刺激方法として菌床の上面を1回たたく「打木刺激」を行った場合の実験結果である。
【0035】
(比較例2)
下記表1中の比較例2は、菌床を上下反対にする「反転刺激」を行った場合の実験結果である。
【0036】
(比較例3)
下記表1中の比較例3は、菌床を反転し、水を溜めたフルーツパックに上面のみ浸漬させる上記特許文献2に記載の「パック浸水処理」を1時間行った場合の実験結果である。
【0037】
下記表1中の本発明での発芽処理にでる実施例1〜3では、刺激時間は上記比較例3の「パック浸水処理」と同様に1時間とし、本発明の実施例1では、菌床上部に菌床と外気を遮断する密閉可能な前記非通気性被覆物2を載せ、実施例2では菌床上部に水分を含ませた前記含水非通気性被覆物3を載せ、実施例3では前記非通気性被覆物2と前記含水非通気性被覆物3の双方を菌床上部に載せして窒息刺激を行った。
実験では、初回のきのこを得た後、発芽がおさまったところでそれぞれの発芽刺激を与え、次回の発芽を得て、実験した各例の群毎に1菌床あたりの総発生個数および総発生生重を記録した。
また、菌床は袋に入れて上面を袋から露出させて行い、袋内の菌床側面及び底面で発生したきのこの数を測定した。
試験空間での害虫捕捉数は、市販の棚かけ式の虫捕り粘着シートを用いて付着した虫の個体数を数えて行った。
実験結果をまとめた下記表1は、上記実施例1〜3と上記比較例1〜3の各方法について、発生収量と袋内発生個数および害虫捕捉数についてそれぞれ確認したデータである。
【0038】
【表1】

【0039】
上記表1から、上記実施例1〜3の菌床の上面のみから子実体を得る本発明の栽培方法の場合、総収量(発生生重)が従来の菌床の打木処理や菌床の反転処理による方法(比較例1〜3)の場合では1255g/菌床から1367g/菌床であるのに比較して実施例1〜3では1372g/菌床から1436g/菌床と、いずれの実施例でも増加しているのが確認できる。
そして、菌床側面からの発生(表1中の袋内発生量)が個数で、比較例1〜3では9個から18個であったのに対して、本発明の実施例1〜3では0個から1個と殆ど発生しないほど大幅な減少が確認できた。
またそれに伴って、側面に張った水の中で子実体が腐ることもなくなったため、発生室内の害虫捕捉数が、比較例1〜3では128匹から563匹であったのに対して、本発明の実施例1〜3では33匹から44匹と大幅な減少であった。
【0040】
この比較実験の結果から、二回目以降のきのこの子実体の発生工程において、菌床の上部に非通気性物体を載置して菌床の上部に範囲を限定して窒息刺激を行う窒息刺激工程を有する本発明の上記栽培方法においては、菌床の上部の限定された刺激範囲により多くの高品質な子実体を発生させ、且つその一方で、菌床の側面及び底面からの子実体の発生を抑制させることが可能であることが確認できた。さらに、側面及び底面からの子実体の発生が抑制される結果として、害虫の増殖や雑菌の繁殖が防止されることも確認された。
このため本発明は、菌床への害虫の増殖や雑菌の繁殖が防止されて廃棄される菌床がこれまでよりも少なくなる結果、1個の菌床からこれまで以上の回数の収穫が可能となる。
さらに本発明の窒息刺激工程では、菌床の移動を行わずに単に非通気性物体を載置するという簡単な作業で発芽刺激を行うことができるので、従来の発芽刺激のような各個の菌床移動に要する面倒な労力は削減され、従来よりも生産コストの削減と生産効率を高めることが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
きのこのビン栽培やトロ箱栽培のように、これまで「反転刺激」や「パック浸水処理」などの発芽刺激が不可能な場合でも、子実体を発芽させたい部位に非通気性物体を載せる本発明の窒息刺激の手法を用いることで発芽刺激を行うことが可能となり、二回目以降でも子実体を発生させてきのこを収穫できる可能性がある。
【符号の説明】
【0042】
1 菌床
2 非通気性遮蔽物
3 含水非通気性被覆物
4 非通気性積層体
5 非通気性遮蔽物層
6 含水非通気性被覆物層
7 棚
S 隙間空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌床栽培における培養完了後の子実体の発生工程において、菌床の上部に非通気性物体を載置して該載置面部分のきのこの菌に窒息刺激を与えつつ一定時間静置した後、前記非通気性物体を菌床から取り除く窒息刺激工程を有し、窒息刺激した菌床上部に子実体の発生を積極的に誘導して、それ以外の窒息刺激しない側面及び底面部位では子実体の発生が抑制されるようにしたことを特徴とする子実体の発芽誘導栽培方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発明の窒息刺激工程において、窒息刺激する対象となる菌床が平面上並べた複数の菌床であり、各菌床に対して同時的に非通気性物体を載置して窒息刺激を与えつつ一定時間静置した後、前記非通気性物体を前記複数の菌床から取り除くことを特徴とする子実体の発芽誘導栽培方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の発明において、用いる非通気性物体が、非通気性遮蔽物又は含水非通気性被覆物から成ることを特徴とする子実体の発芽誘導栽培方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の発明において、用いる非通気性物体が、非通気性遮蔽物と含水非通気性被覆物とを重ね合わせて成ることを特徴とする子実体の発芽誘導栽培方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の発明において、用いる非通気性物体が、非通気性遮蔽物層と含水非通気性被覆物層とが一体的に積層された非通気性積層体から成ることを特徴とする子実体の発芽誘導栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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