説明

密封装置及びその製造方法

【課題】摺動に対する耐久性を有効に高めて初期の密封性を長期間維持し得る往復動用の密封装置を提供する。
【解決手段】ゴム状弾性材料からなり、摺動面10がその内部よりも相対的に緻密質で硬質に表面処理された表面処理層1Aからなり、かつ粗面15が形成されている。表面処理層1Aは剥離を生じるようなことはなく、しかも粗面化されているので、緻密質であるにも拘らず潤滑油の濡れ性が向上すると共に、硬質であるために粗面15による微小凹凸の潰れが抑えられてその油保持機能が確保されるので、良好な潤滑油膜によって、摺動負荷を有効に低減して密封装置1の耐久性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に相対的に往復動する二部材間を密封するために使用され、例えば油圧シリンダ、空圧シリンダ等に使用される密封装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧シリンダ等の往復動装置に使用される密封装置として、従来から、例えば図5及び図6に示すようなリップパッキン100が知られている。図5は未装着状態、図6は装着状態を示すものであって、このリップパッキン100は軸心Oを通る平面で切断した断面形状(図示の断面形状)が近似U字形をなすためUパッキンとも呼ばれるゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる環状のシール部材であり、基部101と、その軸方向一端から図5の未装着状態において先端側が小径になる円錐筒状に延びる内周リップ102と、同じく未装着状態において先端側が大径になる円錐筒状に延びる外周リップ103を備え、内周リップ102と外周リップ103の間は断面形状が略U字状の受圧溝104となっている。
【0003】
そしてこのリップパッキン100は、図6に示すように、例えば油圧シリンダ装置におけるピストン110の外周面に形成された環状の装着溝111に内周リップ102及び外周リップ103がシリンダ120の内周空間における高圧側Hを向くように装着され、基部101及び内周リップ102の内周面全面が装着溝111の底面111aに密接され、基部101及び外周リップ103の外周面全面がシリンダ120の内周面120aに摺動可能に密接される。
【0004】
図6に示す装着状態では、リップパッキン100は、高圧側Hから受圧溝104の内面に作用する油圧によって、基部101及び内周リップ102の内周面全面が装着溝111の底面111aに押し付けられると共に、基部101及び外周リップ103の外周面全面がシリンダ120の内周面120aに押し付けられるので、優れたシール性が発揮される(例えば下記の特許文献1参照)。
【0005】
この種のリップパッキン100は、高圧側Hの加圧時には、シリンダ120の内周面120aに対する基部101及び外周リップ103の外周面の摺動負荷が大きくなるので、摩耗が早期に進行して密封性能が損なわれるおそれがある。そこで、このような摺動負荷を低減する方法としては、摺動面に、摩擦係数が著しく低いPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の皮膜でコーティングすると共に、このPTFE皮膜に、潤滑油膜を保持するための粗面を形成することが知られている(例えば下記の特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、PTFE皮膜のコーティング及びその粗面加工による技術では、パッキンの変形量や面圧が比較的低い条件では有効であるが、図6のようにシリンダ120の内周面120aなどに対して全面接触するリップパッキン100では、以下のような問題が指摘される。
【0007】
第一の問題は、コーティングしたPTFE皮膜とゴム状弾性材料は接着されているわけではないため、高圧側Hの圧力上昇時におけるシリンダ120の内周面120aに対する摺動抵抗や、加圧〜除荷によるリップパッキン100(ゴム状弾性材料)の繰返し変形に対してPTFE皮膜が追随できず、剥がれてしまうおそれがあることである。
【0008】
また第二の問題は、潤滑油膜を保持するためのPTFE皮膜の粗面は、予めゴム状弾性材料の表面に金型による成形に際して微小凹凸を形成し、そこにPTFE皮膜をコーティングすることにより形成されたものであるため、粗面による微小凹凸の剛性が小さく、高圧条件では微小凹凸がつぶれてしまい、スクイーズアウトによって潤滑油膜の保持機能が損なわれやすいことである。
【0009】
また第三の問題は、上述のようにPTFE皮膜の粗面は、予めゴム状弾性材料の表面に微小凹凸を形成し、そこにPTFE皮膜をコーティングすることにより形成されたものであるため、ゴム状弾性材料の表面の粗さよりもPTFE皮膜の厚さ分だけ粗さが小さくなってしまい、この点でも十分な潤滑油膜の保持機能が得られにくいことである。
【0010】
また第四の問題は、予めゴム状弾性材料の表面に形成される微小凹凸の形態によっては、コーティングされるPTFE皮膜の付着性が低下し、剥がれやすいことである。
【0011】
一方、PTFE皮膜のコーティングによらず、ゴム状弾性材料の表面を化成処理あるいは空熱処理等の表面処理をして表面を緻密化(硬化)させることにより、摩擦係数を低下させる方法が知られている(例えば下記の特許文献3参照)。この方法によれば、無潤滑環境下では、表面未処理のものでは1.5程度であった摩擦係数を、0.2〜0.25程度まで低下させることができる。
【0012】
しかしこの方法によれば、無潤滑環境下ではゴム状弾性材料の表面を処理しないものとの比較において、潤滑油の濡れ性が悪く、すなわち油をはじきやすく、摺動面に潤滑油膜が介入しにくい状態(境界潤滑状態)になるため、低粘度油の使用や、低速・高圧摺動などにより油膜が薄くなる条件では、表面未処理のものに比較して却って摺動負荷が増大してしまう傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−101349号公報
【特許文献2】特開2009−58051号公報
【特許文献3】特開2004−82171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、摺動に対する耐久性を有効に高めて初期の密封性を長期間維持し得る往復動用の密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る密封装置は、ゴム状弾性材料からなり、相手材との摺動面がその内部よりも相対的に緻密質で硬質に表面処理され、かつ粗面化されたことを特徴とするものである。なお、ゴム状弾性材料とは、ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料のことである。
【0016】
また、請求項2の発明に係る密封装置は、請求項1に記載の構成において、摺動面に、円周方向へ連続して延びる環状凹部が形成されたことを特徴とするものである。
【0017】
また、請求項3の発明に係る密封装置の製造方法は、請求項1の発明に係る密封装置を製造するための方法であって、摺動面が粗面化されたゴム状弾性材料からなる密封装置を金型内で成形する工程と、前記密封装置の表面を緻密化させる表面処理を行う工程からなることを特徴とするものである。
【0018】
また、請求項4の発明に係る密封装置の製造方法は、請求項2の発明に係る密封装置を製造するための方法であって、請求項3の発明に係る密封装置の製造方法において密封装置を金型内で成形する際に、摺動面に円周方向へ連続して延びる環状凹部を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る密封装置及びその製造方法によれば、ゴム状弾性材料からなる摺動面がその内部よりも相対的に緻密質で硬く表面処理されると共に粗面化されたことによって耐摩耗性の向上及び摩擦の低減を図るものであり、表面処理層は低摩擦材料のコーティングによるもののように剥離を生じるようなことはなく、緻密質であるにも拘らず粗面化によって潤滑油の濡れ性が向上すると共に、硬質であるために粗面による微小凹凸の潰れが抑えられてその油保持機能が確保されるので、良好な潤滑油膜が形成されやすく、その結果、摺動負荷を有効に低減して密封装置の耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る密封装置の第一の実施の形態としてのリップパッキンを未装着状態で示すもので、軸心Oの左側にこの軸心Oを通る平面で切断した半断面を示し、軸心Oの右側に側面を示すものである。
【図2】本発明に係る密封装置の第一の実施の形態としてのリップパッキンを、その軸心Oを通る平面で切断して示す装着状態の断面図である。
【図3】図1におけるIII部を拡大して示す模式的な断面図である。
【図4】本発明に係る密封装置の第二の実施の形態を、その一部を拡大して示す模式的な断面図である。
【図5】従来の密封装置の一例を、その軸心Oを通る平面で切断して示す未装着状態の断面図である。
【図6】従来の密封装置の一例を、その軸心Oを通る平面で切断して示す装着状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1〜図3は、本発明に係る密封装置の第一の実施の形態としてのリップパッキン1を示すものである。
【0022】
すなわちこのリップパッキン1は、軸心Oを通る平面で切断した断面形状(図1の左半分に示す断面形状)が近似U字形をなすためUパッキンとも呼ばれるゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる環状のシール部材であって、基部11と、その軸方向一端から先端側が小径になる円錐筒状に延びる内周リップ12と、先端側が大径になる円錐筒状に延びる外周リップ13を備え、内周リップ12と外周リップ13の間は断面形状が略U字状の受圧溝14となっている。
【0023】
このリップパッキン1は、図2に示すように、例えば油圧シリンダ装置におけるピストン2の外周面に形成された環状の装着溝21に内周リップ12及び外周リップ13がシリンダ3の内周空間における高圧側Hを向くように装着され、高圧側Hから受圧溝14の内面に作用する油圧によって、基部11及び内周リップ12の内周面全面が装着溝21の底面21にa密接され、基部11及び外周リップ13の外周面全面がシリンダ3の内周面3aに摺動可能に密接され、これにより優れたシール性を発揮するものである。なお、この例ではシリンダ3が請求項1に記載された「相手材」に相当する。
【0024】
シリンダ3の内周面3aに対するリップパッキン1の摺動面10は、その内部よりも相対的に緻密質で硬質に表面処理され、かつ粗面化されている。詳しくは図3に、図1におけるIII部の断面を拡大して示すように、シリンダ3の内周面3a(図2参照)に摺動可能に密接される基部11及び外周リップ13の摺動面(外周面)10側の表層部には、内層部1Bに比較して相対的に緻密質で硬質の表面処理層1Aが形成されており、その表面の全面に粗面15が形成されている。
【0025】
このため、シリンダ3の内周面3aと摺動するリップパッキン1の摺動面10、言い換えれば基部11及び外周リップ13の表面処理層1Aは、内層部1Bに比較して相対的に緻密質で硬質であることによって低摩擦係数となっていることに加え、粗面15が形成されたことによって、緻密質であるにも拘らず潤滑油の濡れ性が良く、このため良好な潤滑油膜の介入により摺動負荷を有効に低減することができる。
【0026】
また、表面処理層1Aは内層部1Bから連続した組織となっているものであるため、異なる材質のコーティング皮膜のように剥離を生じるようなことはなく、しかも高圧側から受圧溝14の内面に作用する油圧によってシリンダの内周面に押し付けられても、表面処理層1Aは硬質であるために粗面15における微小凹凸の潰れが抑えられ、その良好な油保持機能が確保されるので、リップパッキン1の耐久性を向上することができる。
【0027】
上記構成のリップパッキン1の製造においては、まずリップパッキン成形用金型内に型締めによって画成された成形用キャビティに、未加硫ゴム材料を充填し、加熱・加圧することによって、図1に示す断面形状のリップパッキン1を加硫成形する。このとき、基部11及び外周リップ13の摺動面10の粗面15は、前記成形用キャビティの内面における対応箇所の面に、ショットブラスト等による粗面加工を施しておくことによって形成することができる。
【0028】
上述のようにして成形されたリップパッキン1は、少なくとも外周リップ13の摺動面10(粗面15)を、架橋剤を含む処理液に浸漬することによって表面の架橋度を上げる方法や、プラズマ照射処理、又は放射線照射処理などの方法によって表面硬化処理を行う。これによって、前記粗面15の表層部に、内層部1Bに比較して相対的に緻密質で硬質の表面処理層1Aを所望の厚さで形成することができる。
【0029】
次に図4は、本発明に係る密封装置の第二の実施の形態を、その一部を拡大して示す模式的な断面図である。
【0030】
この第二の実施の形態によるリップパッキン1において第一の実施の形態と異なるところは、表面処理層1Aからなる基部11及び外周リップ13の摺動面10に、粗面15と共に、円周方向へ連続して延びる複数の環状凹部16が形成されたことにある。その他の構成は、第一の実施の形態と同様である。
【0031】
この構成によれば、リップパッキン1の摺動面10に粗面15と共に環状凹部16が形成されているので、一層の高圧条件でも油保持機能が確保され、低摩擦性を維持することができる。
【0032】
また、このリップパッキン1は、リップパッキン成形用金型による成形に際して、予め成形用キャビティの内面のうち、リップパッキン1の摺動面10との対応箇所の面に形成された粗面及び突条によって粗面15と共に環状凹部16を形成し、上述の方法によって表面硬化処理を行うことで製造される。
【符号の説明】
【0033】
1 リップパッキン(密封装置)
1A 表面処理層
1B 内層部
10 摺動面
11 基部
12 内周リップ
13 外周リップ
14 受圧溝
15 粗面
16 環状凹部
2 ピストン
21 装着溝
3 シリンダ(相手材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム状弾性材料からなり、相手材との摺動面がその内部よりも相対的に緻密質で硬質に表面処理され、かつ粗面化されたことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
摺動面に、円周方向へ連続して延びる環状凹部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
請求項1の発明に係る密封装置を製造するための方法であって、摺動面が粗面化されたゴム状弾性材料からなる密封装置を金型内で成形する工程と、前記密封装置の表面を緻密化させる表面処理を行う工程からなることを特徴とする密封装置の製造方法。
【請求項4】
請求項2の発明に係る密封装置を製造するための方法であって、発明に係る密封装置の製造方法において密封装置を金型内で成形する際に、摺動面に円周方向へ連続して延びる環状凹部を形成することを特徴とする請求項3に記載の密封装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−50133(P2013−50133A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187277(P2011−187277)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】