説明

射出成形機

【課題】透過する光を拡散して輝度むらを防止できるLED照明ハウジングを成形することができ、かつ、LED照明ハウジングが完全に硬化する前に金型を開いた場合でも該LED照明ハウジングが変形する事を防止できる射出成形機を提供する。
【解決手段】LED照明ハウジングを成形する射出成形機1は、断面コ字状に形成された固定金型2と、固定金型2と嵌め合わされる移動金型3と、移動金型3を固定金型2に対して接離させる駆動機構6と、固定金型2と移動金型3とが嵌め合わされた際に構成されるキャビティ12に溶融状態の樹脂を射出する材料供給機構10と、を備えている。また、固定金型2の底面20には、前記LED照明ハウジングの外表面に多面体形状のレンズカット部を形成して該LED照明ハウジングを透過する光を拡散させるために、複数の凹凸21が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED照明ハウジングを成形する射出成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用のランプやインジケータなどには、図9に示すようなLED照明ユニット214が用いられてきた(特許文献1を参照。)。このLED照明ユニット214は、LED16、LED16を搭載した基板17、LED16及び基板17を収容したLED照明ハウジング215(以下、ハウジングと呼ぶ。)等で構成されている。また、図9中の符号18は基板17に接続された電線である。
【0003】
上記ハウジング215は、図6〜8に示す射出成形機201により成形されたものであり、透明の熱可塑性樹脂で構成されている。このハウジング215は、図9に示すように、表面が平らな底壁215aと、底壁215aの周縁から筒状に立設した周壁215bと、周壁215bの端部に設けられたフランジ部215cと、で構成されている。また、LED16は、底壁215a越しに発光する。
【0004】
上記射出成形機201は、図6に示すように、固定金型202と、固定金型202と嵌め合わされる移動金型3と、移動金型3を固定金型202に対して接離させる駆動機構6と、固定金型202と移動金型3とが嵌め合わされた際に構成されるキャビティ212に溶融状態の樹脂を射出する材料供給機構10と、を備えている。また、図6中の符号11は、固定金型202と移動金型3との型合わせ面、即ちパーティングライン、を示している。
【0005】
上記固定金型202は、パーティングライン11から凹状に形成された空洞を有する断面コ字状に形成されている。この固定金型202は、前記空洞の内表面形状が転写されることによりハウジング215の外形を形成する。また、固定金型202の底面220には、材料供給機構10のランナ7と連通したゲート孔が設けられている。
【0006】
上記移動金型3は、パーティングライン11から凸状に形成されたコア部30を備えている。このコア部30は、固定金型202の空洞内に位置付けられてハウジング215の中空となる部分を形成する。
【0007】
上記駆動機構6は、図6に示すように、移動金型3が取り付けられた支持部材4、支持部材4と連結された油圧シリンダ装置、等で構成されている。前記油圧シリンダ装置は、先端に支持部材4が取り付けられた状態で矢印X方向に沿って進退するロッド5を備えている。
【0008】
上記材料供給機構10は、ペレット状の樹脂を加熱して溶融させる加熱シリンダ9、加熱シリンダ9内で溶融された樹脂を射出する射出ノズル8、射出ノズル8から射出された樹脂を複数の金型の各キャビティ212に導くランナ7、等で構成されている。
【0009】
上述した射出成形機201においては、以下のようにしてハウジング215が成形される。まず、図7に示すように、固定金型202と移動金型3とが嵌め合わされて金型が閉じられた状態で、材料供給機構10によりキャビティ212内に溶融状態の樹脂が射出される。続いて、固定金型202と移動金型3とが嵌め合わされた状態のまま所定の時間が置かれることにより、キャビティ212内の樹脂が金型によって冷却されて徐々に硬化する。その後、図8に示すように、移動金型3が固定金型202から離されて金型が開かれ、成形されたハウジング215が取り出される。こうして図9に示すハウジング215が成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−166072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来の射出成形機201は、ハウジング215の成形時において以下に示す問題があった。即ち、ハウジング215は深い筒形状であるので、図8に示すように移動金型3が固定金型202から離れる際、コア部30における先端面30aと底壁215aとの間が真空状態になって底壁215aがコア部30に引っ張られ、底壁215aが変形してしまうことがあるという問題があった。
【0012】
この問題の対策として、キャビティ212内に射出された樹脂の冷却硬化時間を長くすることや、移動金型3が固定金型202から離れる際の金型開き速度を遅くすることが考えられるが、このようにした場合、加工時間の増加や加工費の高騰といった新たな問題が生じてしまう。
【0013】
また、上述したLED照明ユニット214は、光源がLED16であるがゆえに、車両等のインジケータとして使用する際、人が見る位置によって輝度むらが発生するという問題があった。即ち、LED照明ユニット214は、図9中のBで示す範囲から見ると眩しく、その他の位置から見ると暗いという問題があった。
【0014】
したがって、本発明は、透過する光を拡散して輝度むらを防止できるLED照明ハウジングを成形することができ、かつ、LED照明ハウジングが完全に硬化する前に金型を開いた場合でも該LED照明ハウジングが変形する事を防止できる射出成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために請求項1に記載された発明は、断面コ字状に形成された固定金型と、前記固定金型と嵌め合わされる移動金型と、前記移動金型を前記固定金型に対して接離させる駆動機構と、前記固定金型と前記移動金型とが嵌め合わされた際に構成されるキャビティに溶融状態の樹脂を射出する材料供給機構と、を備えたLED照明ハウジングを成形する射出成形機において、前記固定金型の底面に、前記LED照明ハウジングを透過する光を拡散させるために、複数の凹凸が設けられていることを特徴とする射出成形機である。
【0016】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記LED照明ハウジングの外表面に多面体形状のレンズカット部が形成されるように、前記固定金型の底面に前記複数の凹凸が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
請求項3に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記LED照明ハウジングの外表面にシボが形成されるように、前記固定金型の底面に前記複数の凹凸が設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載された発明によれば、前記固定金型の底面に、前記LED照明ハウジングを透過する光を拡散させるために、複数の凹凸が設けられているので、この凹凸によってLED照明ハウジングにおける底壁の外表面に凹凸形状を形成することができ、そのために、底壁を透過するLEDの光を凹凸形状により拡散して輝度むらを防止できるLED照明ハウジングを成形することができる。また、このLED照明ハウジングは、前記凹凸形状が設けられているので内部が透け難く、LEDの消灯時においても見栄えが良い。さらに、本発明によれば、LED照明ハウジングが完全に硬化する前に金型を開いた際、このLED照明ハウジングがアンカー効果により固定金型の底面、即ち凹凸、に貼り付くことから、LED照明ハウジングにおける底壁が固定金型に引っ張られて変形することを防止できる。このことにより、キャビティ内に射出された樹脂の冷却硬化時間を短くすること、及び、移動金型が固定金型から離れる際の金型開き速度を速くすることが可能になり、成形加工費の低減を図ることができる。
【0019】
請求項2に記載された発明によれば、前記LED照明ハウジングの外表面に多面体形状のレンズカット部が形成されるように、前記固定金型の底面に前記複数の凹凸が設けられているので、底壁を透過するLEDの光をレンズカット部により拡散して輝度むらを防止できるLED照明ハウジングを成形することができる。また、このLED照明ハウジングは、前記レンズカット部が設けられているので内部が透け難く、LEDの消灯時においても見栄えが良い。
【0020】
請求項3に記載された発明によれば、前記LED照明ハウジングの外表面にシボが形成されるように、前記固定金型の底面に前記複数の凹凸が設けられているので、底壁を透過するLEDの光をシボにより拡散して輝度むらを防止できるLED照明ハウジングを成形することができる。また、このLED照明ハウジングは、前記シボが設けられているので内部が透け難く、LEDの消灯時においても見栄えが良い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる射出成形機の概略構成図である。
【図2】図1に示された射出成形機のキャビティに溶融状態の樹脂が射出された状態を示す断面図である。
【図3】図2に示された射出成形機の移動金型が固定金型から離れる様子を示す断面図である。
【図4】図1に示された射出成形機により成形されたLED照明ハウジングの斜視図である。
【図5】図4中のA−A線に沿った断面図である。
【図6】従来の射出成形機の概略構成図である。
【図7】図6に示された従来の射出成形機のキャビティに溶融状態の樹脂が射出された状態を示す断面図である。
【図8】従来の射出成形機の問題点を説明するための図であり、図7に示された射出成形機の移動金型が固定金型から離れる様子を示す断面図である。
【図9】図6に示された従来の射出成形機により成形された従来のLED照明ハウジングの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態にかかる射出成形機、及び、該射出成形機により成形されたLED照明ハウジングを図1〜6を用いて説明する。
【0023】
上記LED照明ハウジング15は、車両用のインジケータに用いられるLED照明ユニット14を構成する部品であり、透明の熱可塑性樹脂で構成されている。また、LED照明ユニット14は、図4,5に示すように、前記LED照明ハウジング15、LED照明ハウジング15内に収容された基板17、基板17に搭載されたLED16等で構成されている。また、図4中の符号18は基板17に接続された電線である。
【0024】
上記LED照明ハウジング15は、外表面にレンズカット部19が形成された底壁15aと、底壁15aの周縁から筒状に立設した周壁15bと、周壁15bにおける底壁15aから離れた側の端部に鍔状に設けられたフランジ部15cと、で構成されている。また、「レンズカット部19」とは、多角錐状の突起物が複数個、同一面上に規則的に並べられた多面体形状の部位である。
【0025】
このようなLED照明ハウジング15を備えたLED照明ユニット14は、底壁15aを透過するLED16の光が図5に示すようにレンズカット部19により拡散されることにより、輝度が均一化される。また、このLED照明ユニット14は、レンズカット部19が設けられているのでLED照明ハウジング15の内部が透け難く、LED16の消灯時においても見栄えが良い。
【0026】
続いて、上述したLED照明ハウジング15を成形する射出成形機1について説明する。射出成形機1は、図1に示すように、固定金型2と、固定金型2と嵌め合わされる移動金型3と、移動金型3を固定金型2に対して接離させる駆動機構6と、固定金型2と移動金型3とが嵌め合わされた際に構成されるキャビティ12に溶融状態の樹脂を射出する材料供給機構10と、を備えている。また、図1中の符号11は、固定金型2と移動金型3との型合わせ面、即ちパーティングライン、を示している。
【0027】
上記固定金型2は、パーティングライン11から凹状に形成された空洞を有する断面コ字状に形成されている。この固定金型2は、前記空洞の内表面形状が転写されることによりLED照明ハウジング15の外形を形成する。また、固定金型2の底面20には、材料供給機構10のランナ7と連通したゲート孔が設けられている。
【0028】
さらに、本発明の固定金型2の底面20には、LED照明ハウジング15における底壁15aの外表面に上述したレンズカット部19が形成されるように、複数の凹凸21が設けられている。即ち、本発明の固定金型2の底面20には、LED照明ハウジング15を透過する光を拡散させるために、複数の凹凸21が設けられている。これら複数の凹凸21は、レンズカット部19の形状を反転させた形状に形成されている。
【0029】
上記移動金型3は、パーティングライン11から凸状に形成されたコア部30を備えている。このコア部30は、固定金型2の空洞内に位置付けられてLED照明ハウジング15の中空となる部分を形成する。
【0030】
上記駆動機構6は、図1に示すように、移動金型3が取り付けられた支持部材4、支持部材4と連結された油圧シリンダ装置、等で構成されている。前記油圧シリンダ装置は、先端に支持部材4が取り付けられた状態で矢印X方向に沿って進退するロッド5を備えている。また、本発明の「駆動機構」は、油圧シリンダ装置以外に、モータ等の駆動源を用いた構成であっても良い。
【0031】
上記材料供給機構10は、ペレット状の樹脂を加熱して溶融させる加熱シリンダ9、加熱シリンダ9内で溶融された樹脂を射出する射出ノズル8、射出ノズル8から射出された樹脂を複数の金型の各キャビティ212に導くランナ7、等で構成されている。
【0032】
上述した射出成形機1においては、以下のようにしてLED照明ハウジング215が成形される。
【0033】
まず、図2に示すように、固定金型2と移動金型3とが嵌め合わされて金型が閉じられた状態で、材料供給機構10によりキャビティ12内に溶融状態の樹脂が射出される。続いて、固定金型2と移動金型3とが嵌め合わされた状態のまま所定の時間が置かれることにより、キャビティ12内の樹脂が金型によって冷却されて徐々に硬化する。
【0034】
そして、キャビティ12内の樹脂、即ちLED照明ハウジング15、が完全に硬化する前に、図3に示すように、移動金型3が固定金型2から離されて金型が開かれる。この際、従来の射出成形機においては、コア部30における先端面30aとLED照明ハウジング15における底壁15aとの間が真空状態になって底壁15aがコア部30に引っ張られ、底壁15aが変形するという問題があったが、本発明の射出成形機1においては、固定金型2の底面20に複数の凹凸21が設けられているので、LED照明ハウジング15の底壁15aがアンカー効果により固定金型2の底面20、即ち凹凸21、に貼り付き、該底壁15aがコア部30に引っ張られて変形することが防止される。
【0035】
そして、上述したように移動金型3が固定金型2から離されて金型が開かれた後、固定金型2から成形されたLED照明ハウジング15が取り出される。こうして図4,5に示すLED照明ハウジング15が成形される。
【0036】
このように、本発明の射出成形機1においては、固定金型2の底面20に複数の凹凸21が設けられているので、LED照明ハウジング15における底壁15aの外表面にレンズカット部19を形成できるだけでなく、キャビティ12内に射出された樹脂の冷却硬化時間を短くすること、及び、移動金型3が固定金型2から離れる際の金型開き速度を速くすることが可能になり、成形加工費の低減を図ることができる。
【0037】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態にかかる射出成形機、及び、該射出成形機により成形されたLED照明ハウジングを説明する。
【0038】
前述した第1の実施形態の射出成形機1は、固定金型2の底面20に、LED照明ハウジング15における底壁15aの外表面にレンズカット部19が形成されるように、複数の凹凸21が設けられた構成であったが、本実施形態の射出成形機は、前記固定金型の底面に、前記LED照明ハウジングにおける底壁の外表面に複数のシボが形成されるように、複数の凹凸が設けられている。また、本実施形態の射出成形機は、図示は省略するが、前述した固定金型の「凹凸」以外は、第1の実施形態の射出成形機1と同一の構成である。
【0039】
上述した本実施形態の射出成形機により成形されるLED照明ハウジングは、底壁の外表面にレンズカット部19の代わりに複数のシボが形成されている。このLED照明ハウジングは、図示は省略するが、前述した「シボ」以外は、第1の実施形態のLED照明ハウジング15と同一の構成である。これら複数のシボは、レンズカット部19と同様に、LED照明ハウジングの底壁を透過するLEDの光を拡散させて輝度を均一化する。また、複数のシボは、LED照明ハウジングの内部を透け難くする。
【0040】
また、前記シボを形成する凹凸が設けられた前記固定金型は、移動金型が離れる際、レンズカット部19を形成する凹凸21が設けられた固定金型2と同様に、アンカー効果により、完全に硬化していないLED照明ハウジングの底壁をその底面に貼り付かせて前記底壁の変形を防止する。
【0041】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 射出成形機
2 固定金型
3 移動金型
6 駆動機構
10 材料供給機構
12 キャビティ
15 LED照明ハウジング
19 レンズカット部
20 底面
21 凹凸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面コ字状に形成された固定金型と、前記固定金型と嵌め合わされる移動金型と、前記移動金型を前記固定金型に対して接離させる駆動機構と、前記固定金型と前記移動金型とが嵌め合わされた際に構成されるキャビティに溶融状態の樹脂を射出する材料供給機構と、を備えたLED照明ハウジングを成形する射出成形機において、
前記固定金型の底面に、前記LED照明ハウジングを透過する光を拡散させるために、複数の凹凸が設けられていることを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記LED照明ハウジングの外表面に多面体形状のレンズカット部が形成されるように、前記固定金型の底面に前記複数の凹凸が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記LED照明ハウジングの外表面にシボが形成されるように、前記固定金型の底面に前記複数の凹凸が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−148543(P2012−148543A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10932(P2011−10932)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】