説明

射出成形用金型および射出成形方法等

【課題】使用する樹脂の種類や金型の種類などに拠らずフローマークの発生を防止することができる射出成形用金型等を提供することを目的とする。
【解決手段】ランナーを通って導入される溶融状態の樹脂材料をキャビティ内へ注入するためのゲートが配設されており、射出成形時、協働してキャビティを形成する固定側金型と可動側金型とからなる射出成形用金型において、キャビティの内壁面には、ゲート径より大きな直径を有し且つ前記キャビティの内壁面と略平行する円周面と前記内壁面と略直行する外周面とからなる凹部が形成されており、そして前記凹部の中に前記ゲートが開口していることを特徴とする、フローマークの発生を防止する射出成形用金型等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローマークの発生を防止する射出成形用金型およびその射出成形方法、若しくは前記金型又は射出成形方法を用いてフローマークの発生を防止した射出成形品に関し、特にキャビティの内壁面には、ゲート径より大きな直径を有し且つ前記キャビティの内壁面と略平行する円周面と前記内壁面と略直行する外周面とからなる凹部を設け、そしてその凹部の中にゲートを開口させることにより、注入後、凹部壁面との接触により形成される半固化状態の樹脂材料からなるスキン層が凹部領域を越えてキャビティ内へ広がるのを防止していることを特徴とする、射出成形用金型及びその金型を用いた射出成形方法、若しくはその射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融状態の樹脂材料を、射出成形用金型の中に形成されるキャビティ内へ注入することにより成形品を成形する射出成形方法において、成形された射出成形品の表面には、注入ゲート近傍にフローマークと呼ばれる縞模様状の不良がよく生じることが知られている。
【0003】
このフローマークは、ゲートから流入した溶融状態にある樹脂材料がランナーやキャビティの壁面と接触することにより、その接触部分が冷却されて流動性の低い半固化状態のスキン層を形成し、そしてそこへ後から流入してくる流動性の高い未だ溶融状態にある樹脂材料に押されて縞模様状のフローマークが生じるものと考えられている。
【0004】
すなわち、樹脂材料は一定の高圧力下でゲートを通過しようとするが、通常、ゲートはそれと繋がるランナーのランナー径に対して極めて断面積の小さい円形状の開口であるため、ゲートでは樹脂材料の進行が阻害され樹脂材料の圧力が更に高くなる。しかしながら、樹脂材料の圧力の上昇は金型内で生じるために解放されず、そのため圧力エネルギーは熱に変換され、圧縮発熱が生ずる。その結果、この急速な発熱がゲートの周囲において樹脂材料の白化現象を起こさせ、そしてフローマークを生じさせるものと考えられている。
【0005】
そこで、射出成形の分野では、従来よりフローマークの発生を防止するために、樹脂材料の注入速度を遅くする、1つの金型に対し樹脂材料の注入するためのゲート数を増やす、樹脂材料を多段的に注入する、樹脂材料の温度を上げる、金型温度を上げるなどの対策が講じられてきた。また、近年では、シミュレーションによりフローマークの発生を予測する方法も開発されている。
【0006】
例えば、特開平11−240051号公報(特許文献1)では、ゲートとキャビティとの間に、実質的に第2のゲートとして機能する連絡部を備えた樹脂溜り部を設け、そして該連絡部を可動側金型に配設されたカットパンチで切断することにより、キャビティ内に形成された樹脂成形品を樹脂溜り部内に形成された樹脂固化物から切り離し、その結果、バリ、白化を生じず、ゲート傷痕もない樹脂成形品を得る技術が提案されている。
【0007】
また、特開平8−336864号公報(特許文献2)および特開平11−105841号公報(特許文献3)では、ペットボトル等に使用されるキャップ等の成形技術に関するものであるが、固定側金型に配設されたゲートに対抗する可動側金型の対抗面に、ゲート径よりも大径の円形凸部を設ける(キャビティの一部を薄肉化する)ことにより、ゲートから噴出した溶融樹脂がキャビティ内で跳ね返ることなくキャビティ内を流動できるようにし、その結果、フローマークの発生を低減したキャップの成形を可能とする技術が提案されている。
【0008】
さらに、特開平7−112458号公報(特許文献4)では、固定側金型と可動側金型との間にランナーおよびゲートが配設された可動ゲート部材を設け、該可動ゲート部材をキャビティに対して摺動させながら樹脂を注入することにより、キャビティ内での樹脂の流動を抑えて配向歪みやフローマーク等の発生を低減した射出成形技術が開示されており、また、特開2008−105260号公報(特許文献5)では、シミュレーションによるフローマーク発生の予測方法が開発されている。
【0009】
しかしながら、実際のフローマークは使用する樹脂材料の性状や流動条件、金型条件などが複雑に影響し合って生じるものであるため、上記のような技術を適用しても、何らかの射出成形条件が変化することにより直ぐにフローマークの発生が再発してしまうという問題があった。また、これらの技術において、使用する金型の構造やキャビティ内での樹脂の流動制御が複雑であり、さらに、使用する樹脂の種類、金型の種類によってはこれらの技術が全く適用することができないという問題もあった。
【特許文献1】特開平11−240051号公報
【特許文献2】特開平8−336864号公報
【特許文献3】特開平11−105841号公報
【特許文献4】特開平7−112458号公報
【特許文献5】特開2008−105260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、射出成形分野において広く適用性があり、かつ使用する樹脂の種類や金型の種類に拠らず、また、樹脂材料の温度や粘度、注入速度など樹脂材料の注入条件や局部的な予備加熱の必要性など金型条件にも殆んど左右されることなくフローマークの発生を防止することができる射出成形用金型およびその射出成形方法、若しくは前記金型又は射出成形方法を用いてフローマークの発生を防止した安価な射出成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここで、フローマークの発生原理について再考してみると、フローマークは、ゲートから流入した溶融状態にある樹脂材料がランナーやキャビティの壁面に触れて半固化状態のスキン層を形成することにより生じるものである。したがって、このようなスキン層の形成は、溶融状態にある樹脂材料を冷却された金型のキャビティ内へ注入し、そして原則として、その冷却された金型の中で溶融樹脂材料を流動させながら固化していかなければならない射出成形プロセスにおいて本質的に避けることができない必須の現象と理解することもできる。
【0012】
そこで、本発明者等は、従来の射出成形技術のように成形品からフローマークの発生を完全に消滅させるのではなく、フローマークの発生を許容しつつも、そのフローマークを発生させる原因となる半固化状態のスキン層の形成を、成形品の外観に殆んど影響を及ぼすことがないような小さな区域であって、且つ設計者が意図する区域内のみに限定するようにコントロールできれば、実質的にフローマークの発生が防止された(換言すれば、成形品の意図しない区域でのフローマークの発生が防止された)射出成形品を成形できると考え、鋭意検討を重ねた。
【0013】
その結果、本発明者等は、キャビティの内壁面にゲート径より大きな直径を有する凹部を設け、その中にゲートを開口させた場合、射出成形された成形品は、キャビティの内壁面の凹部に対応して形成される凸部においてフローマークを生じることがあるが、前記凸部を除く射出成形品の他の外表面にはフローマークを一切発生しないことを見い出した。
【0014】
これは、キャビティの内壁面にゲート径より大きな直径を有する凹部を設け、そしてその凹部の中にゲートを開口させることにより、注入後、凹部円周面等との接触により半固化状態の樹脂材料からなるスキン層が凹部領域内に形成されるが、該スキン層はキャビティの内壁面と直交する凹部外周面により凹部領域を越えてキャビティ内へ広がることができず、また、該スキン層は、注入中、常にその表層が溶融状態にある新たな樹脂材料に曝されることにより一定の厚みをもって定常状態となり、凹部領域を超える体積又は厚みを有するまで成長しないことによるものと推察される。
【0015】
以上の結果、本発明者等は、フローマークの発生場所、発生区域を成形品の外観に実質的に影響を与えることがない特定の狭小区域にコントロールし且つ限定することで、実質的に射出成形品からフローマークの発生を無くする技術を確立し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の1つの局面よれば、ランナーを通って導入される溶融状態の樹脂材料をキャビティ内へ注入するためのゲートが配設されており、射出成形時、協働してキャビティを形成する固定側金型と可動側金型とからなる射出成形用金型において、キャビティの内壁面には、ゲート径より大きな直径を有し且つ前記キャビティの内壁面と略平行する円周面と前記内壁面と略直行する外周面とからなる凹部が形成されており、そして前記凹部の中に前記ゲートが開口していることを特徴とする、フローマークの発生を防止する射出成形用金型が提供される。
【0017】
そして、本発明の他の局面によれば、本発明による上記の射出成形用金型を使用することにより、固定側金型と可動側金型とからなる射出成形用金型のキャビティ内へ、ランナーを通って導入される溶融状態の樹脂材料を、金型に配設されたゲートを介して注入することにより成形品を成形する射出成形方法において、キャビティの内壁面には、ゲート径より大きな直径を有し且つ前記キャビティの内壁面と略平行する円周面と前記内壁面と略直行する外周面とからなる凹部を設け、そして前記凹部の中に前記ゲートを開口させることにより、注入後、凹部壁面との接触により形成される半固化状態の樹脂材料からなるスキン層が前記凹部領域を越えてキャビティ内へ広がるのを防止していることを特徴とする、フローマークの発生を防止する射出成形方法が提供される。
【0018】
さらに、本発明の他の局面によれば、本発明による上記の射出成形用金型または射出成形方法を使用することにより、固定側金型と可動側金型とからなる射出成形用金型のキャビティ内へ、ランナーを通って導入される溶融状態の樹脂材料を、金型に配設されたゲートを介して注入することにより成形される射出成形品において、前記射出成形品の外表面は、金型の前記ゲート開口部に対応する位置において、ゲート径より大きな直径を有し且つキャビティの内壁面と略平行して形成される円周面と前記内壁面と略直行して形成される外周面とからなる凸部を備えていることを特徴とする、フローマークの発生が防止された射出成形品を提供することができる。
【0019】
このように、本発明によれば、キャビティの内壁面のゲート開口部に該ゲート径より大きな直径を有する凹部を設けることにより極めて効果的にフローマークの発生を防止することができるので、金型の改造等が極めて簡単であり、そして安価な射出成形品を提供することができる。
【0020】
また、キャビティの内壁面の凹部に対応して射出成形品の外表面に形成される凸部は、直径15〜16mm、高さ1〜2mm程度の極めて小さな突起物であり、そして従来より成形品をランナーから切り離した後に残るゲート痕と重なる位置に形成されるため、実際には無視し得るほどに小さく、実質的に射出成形品全体の外観に影響を及ぼすものではない。
【0021】
また、本発明における基本的な技術的思想は、射出成形品から完全にフローマークの発生を防止しようとするものではなく、むしろ積極的にフローマークの発生は許容するが、その発生場所は上述のように成形品の外観に影響を及ぼさないゲート痕と重なる狭小区域に限定し且つコントロールしようとするものである。したがって、本発明によれば、樹脂の種類や金型の種類などが変更されることによりフローマークが発生しても、該フローマークの発生場所を成形品の小さな凸部領域内に限定することができるので、実質的には樹脂などの射出成形条件に拠らず広く適用することが可能な射出成形用金型およびその射出成形方法等のフローマーク発生防止技術を提供することができる。
【0022】
本発明では、キャビティの内壁面に形成される凹部は、ゲート径より大きな直径を有し且つ前記キャビティの内壁面と略平行する円周面と前記内壁面と略直行する外周面とから構成されていることが好ましく、そしてその凹部の中ではゲートが開口している。凹部の中のゲート径より大きな直径を有する円周面では、ゲートから流入した溶融状態にある樹脂材料が接触により冷却されて半固化状態のスキン層が形成される。また、キャビティの内壁面と略直行する凹部の中の外周面では、凹部を越えてキャビティ内へ流動しようとするスキン層の流出が阻止される。
【0023】
なお、本発明において、凹部(射出成形品の場合は凸部)を構成する円周面および外周面の配置を厳密な意味の「平行」や「直交」とはせず、キャビティの内壁面に対してそれぞれ略平行および略直交であればよいと規定しているのは、例えば、円周面は平面であってもキャビティの内壁面は平面には限定されず曲面などを含む場合があり、また外周面についても、実際には金型から成形品を離脱するための抜き出しテーパーを設けなければならない場合があることを考慮したからである。したがって、本発明において凹部は、キャビティの内壁面を基準に配設されるので加工が極めて容易であり、且つサイドゲートやサブマリンゲート等の多くの制限ゲートを有する射出成形用金型に適用することができる。
【0024】
樹脂材料を注入後、フローマーク発生の原因となるスキン層が確実に凹部領域を越えてキャビティ内へ広がらないようにするためには、換言すれば、半固化状態にあるスキン層をできるだけ均一に凹部領域内に広げ、そしてその成長をできるだけ早く抑制して定常状態とするためには、凹部円周面の中心(射出成形品の場合は凸部の中心)をゲートの中心軸上に位置するように配設することが有利である。
【0025】
また、寸法的には、凹部円周面(射出成形品の場合は凸部円周面)をゲート径より大きな直径を有するように設定することが重要であると供に、ゲート手前に連結されるランナーのランナー径より大きな直径を有するように設定することが有利であり、そしてより確実でそしてより高い凹部領域からのスキン層流出防止効果が得られる。さらに、凹部の深さ(外周面の高さ又は射出成形品の場合は凸部の高さ)を該凹部に隣接するキャビティ(射出成形品の場合は該成形品)の厚みに対し2分の1以下となるように設定することによっても同様のスキン層流出防止効果を得ることができる。
【0026】
また、ランナーには、通常、ゲートに向けて流路を漸近的に縮径するためのテーパー部が設けられるが、この場合、好ましくはテーパー部のテーパー長を凹部円周面の直径(射出成形品の場合は凸部円周面)より短い長さに、より好ましくは凹部円周面の直径(射出成形品の場合は凸部円周面)に対し2分の1以下の長さに設定することによっても上述の効果が得られ、凹部領域内外でのフローマークの発生を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、キャビティの内壁面にゲート径より大きな直径を有する凹部を設け、そしてその凹部の中にゲートを開口させることにより、注入後、凹部円周面等との接触により形成される半固化状態のスキン層が凹部領域を越えてキャビティ内へ広がることができない射出成形用金型およびその射出成形方法等を提供することができる。
【0028】
その結果、本発明によれば、フローマークの発生場所、発生区域を成形品の外観に実質的に影響を及ぼすことがない特定の狭小区域にコントロールし且つ限定することが可能となり、射出成形分野において広く適用性があり、かつ使用する樹脂の種類や金型の種類に拠らず、また、樹脂材料の温度や粘度、注入速度など樹脂材料の注入条件や局部的な予備加熱の必要性など金型条件にも殆んど左右されることなくフローマークの発生を防止することができる射出成形用金型およびその射出成形方法、若しくは前記金型又は射出成形方法を用いてフローマークの発生を防止した射出成形品を提供することができる。
【0029】
また、本発明により、フローマークの発生が防止された射出成形品の外表面にはキャビティ内壁面のゲート開口部に対応する位置に凸部が形成されるため、ゲートカットの際、成形品を構成する樹脂が過剰に切り取られることを防止でき、薄肉化による成形品の強度低下を防ぐことができる利点がある。このため、本発明による射出成形用金型等は、特にサブマリンゲート(トンネルゲート)方式を採用する射出成形品を成形する場合において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態に係るフローマークの発生を防止することができる射出成形用金型およびその射出成形方法、若しくは前記金型又は射出成形方法を用いてフローマークの発生を防止した安価な射出成形品について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【実施例】
【0031】
図1は、従来の射出成形用金型10をゲート2及びそれに繋がるランナー3の中心軸Xを中心に切り取った断面図であって、ゲート付近での樹脂材料20の流れを模式的に表した図である。
【0032】
射出成形用金型10は固定側金型および可動側金型から構成され(図示せず)、その中には溶融状態の樹脂材料20を供給する通路として、上流側からスプルー4、ランナー3およびゲート2がそれぞれ流体連通の状態で配設されている。ゲート2は、キャビティ5を形成する内壁面6と面一になるようにキャビティ5内へ開口している。したがって、スプルー4から導入された溶融状態の樹脂材料20は、ランナー3を通ってゲート2により絞られた後、金型10の中のキャビティ5内へ注入される。
【0033】
図1を参照して理解されるように、キャビティ5内へ注入する際、溶融状態にある樹脂材料20は、ゲート手前に形成されたランナー3のテーパー部30付近からキャビティの内壁面6のゲート開口部周辺にかけて、金型の壁面に触れて半固化状態のスキン層21を形成する。しかしながら、このスキン層21は半固化状態であるために流動性が悪く、そのためその後に未だ溶融状態にある流動性の高い樹脂材料20が流入してくると、該スキン層21は溶融状態の樹脂材料20に押されて縞模様、すなわちフローマークを形成するものと考えられている。したがって、フローマークは、射出成形品7の外表面であってゲート開口部に対応する位置の周辺部に発生し易い。
【0034】
図2は、本発明の実施例である射出成形用金型1をゲート2及びそれに繋がるランナー3の中心軸Xを中心に切り取った断面図であって、ゲート付近での樹脂材料20の流れを模式的に表した図である。したがって、本発明による実施例1では、図1に示される射出成形用金型10と共通する構成要素については同じ符号を用いて説明する。
【0035】
実施例1は、固定側金型および可動側金型から構成されている射出成形用金型1であって、金型1の中のキャビティ5の内壁面6には、ゲート径r2より大きな直径Rを有し且つキャビティ5の内壁面6と略平行する円周面80と、内壁面6と略直行する外周面81とから構成される凹部8が形成されている。そしてその凹部8の中にゲート2が開口している(図3参照)。
【0036】
また、実施例1の射出成形用金型1では、溶融状態の樹脂材料20を供給するための通路として、上流側からスプルー4、ランナー3およびゲート2がそれぞれ流体連通の状態で配設される。したがって、スプルー4から導入された溶融状態の樹脂材料20は、ランナー3を通ってゲート2により絞られた後、凹部8を介してキャビティ5内へ注入される。
【0037】
このため、実施例1の射出成形用金型1によれば、注入後、溶融状態の樹脂材料20は、凹部円周面80等との接触により凹部領域内に半固化状態のスキン層21を形成するが、スキン層21はキャビティ5の内壁面6と直交する凹部外周面81により凹部領域を越えてキャビティ内へ広がることができず、また、注入中、常にその表層が溶融状態にある新たな樹脂材料20に曝されることにより凹部領域の中で一定の厚みをもって定常状態となる(図2参照)。
【0038】
この結果、実施例1の射出成形用金型1または該金型1を使用した射出成形方法によれば、フローマークの発生場所、発生区域を成形品の外観に実質的に影響を及ぼすことがない凹部領域内にコントロールし且つ限定することができ、そして実質的にフローマークの無い射出成形品7を製造することができる。
【0039】
実際に、実施例1の射出成形用金型1により成形される射出成形品7の凸部9は、直径15〜16mm、高さ1〜2mm程度の極めて小さな突起物であり、そして従来より成形品をランナーから切り離した後に残るゲート痕と重なる位置に形成されるため、実際には無視し得るほどに小さく、実質的に射出成形品全体の外観に影響を及ぼすものではない(図5参照)。
【0040】
次に、樹脂材料20を注入後、フローマーク発生の原因となるスキン層21が確実に凹部領域を越えてキャビティ5内へ広がらないようにするために、換言すれば、半固化状態にあるスキン層21をできるだけ均一に凹部領域内に広げ、そしてその成長をできるだけ早く抑制して定常状態とするために、実施例1の射出成形用金型1では、凹部円周面80の中心(射出成形品7の場合は凸部9の中心)がゲート2の中心軸X上に位置するように配設されている。
【0041】
また、同様の目的で、実施例1の射出成形用金型1では、凹部円周面80(射出成形品7の場合は凸部円周面90、図5参照)の直径Rが、ゲート径r2より大きく且つゲート2の手前に連結されるランナー3のランナー径r3より大きくなるように設定されている。さらに、凹部8の深さD(外周面の高さ又は射出成形品の場合は凸部の高さ)も、該凹部に隣接するキャビティ(射出成形品7の場合は該成形品)の厚みdに対し2分の1以下となるように設定されている(図3参照)。
【0042】
さらに、実施例1の射出成形用金型1では、ゲート2の手前に連結されるランナー部分に該ゲート2に向けて流路を漸近的に縮径するためのテーパー部30が設けられており、該テーパー部30のテーパー長Lを凹部円周面80(射出成形品7の場合は凸部円周面90)の直径Rの約半分の長さとなるように設定することにより、凹部領域内外でのフローマークの発生を効果的に防止している。
【0043】
図4及び5は、実際に射出成形した成形品の外観写真であって、図4は従来の射出成形用金型10(図1参照)又は射出成形方法を用いた場合の射出成形品70の外観を示し、図5は本発明による実施例1の射出成形用金型1(図2参照)又は射出成形方法を用いた場合の射出成形品7の外観を示している。なお、両成形品は、使用する金型以外は同じ条件で射出成形されている。
【0044】
図4より、従来の射出成形用金型10又は射出成形方法を用いた場合の射出成形品70は、金型のゲート痕の周りに多数のフローマークが広範囲に発生していることが判る。
【0045】
一方、これに対して、本発明による実施例1の射出成形用金型1又は射出成形方法を用いた場合の射出成形品7では、キャビティ5の内壁面6の凹部8に対応して形成される凸部9以外の領域において完全にフローマークの発生が防止されていることが判る。また、実際に射出成形品7の外表面に形成される凸部9の形状は、直径15〜16mm、高さ1〜2mm程度の極めて小さな突起物であり、そして従来より成形品をランナーから切り離した後に残るゲート痕と重なる位置に形成されているため、実際には無視し得るほどに小さく、実質的に射出成形品7全体の外観に影響を及ぼすものでないことも判る。
【0046】
以上の結果、本発明によれば、射出成形分野において広く適用性があり、かつ使用する樹脂の種類や金型の種類に拠らず、また、樹脂材料の温度や粘度、注入速度など樹脂材料の注入条件や局部的な予備加熱の必要性など金型条件にも殆んど左右されることなくフローマークの発生を防止することができる射出成形用金型およびその射出成形方法、若しくは前記金型又は射出成形方法を用いてフローマークの発生を防止した安価な射出成形品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】従来の射出成形用金型をゲート等の中心軸を中心に切り取った模式的断面図である。
【図2】本発明による一実施例に係る射出成形用金型をゲート等の中心軸を中心に切り取った模式的断面図である。
【図3】図2に示される模式的断面図のゲート付近を中心び拡大した断面図である。
【図4】従来の金型を用いて射出成形した場合の射出成形品の外観写真である。
【図5】本発明による金型を用いて射出成形した場合の射出成形品の外観写真である。
【符号の説明】
【0048】
1,10 ・・・ 射出成形用金型
2 ・・・・・・・・・ ゲート
3 ・・・・・・・・・ ランナー
4 ・・・・・・・・・ スプルー
5 ・・・・・・・・・ キャビティ
6 ・・・・・・・・・ 内壁面
7,70 ・・・ 射出成形品
8 ・・・・・・・・・ 凹部
9 ・・・・・・・・・ 凸部
20・・・・・・・・・ 溶融状態の樹脂材料
21・・・・・・・・・ スキン層
30・・・・・・・・・ テーパー部
80,90・・・ 円周面
81、91・・・ 外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランナーを通って導入される溶融状態の樹脂材料をキャビティ内へ注入するためのゲートが配設されており、射出成形時、協働してキャビティを形成する固定側金型と可動側金型とからなる射出成形用金型において、
キャビティの内壁面には、ゲート径より大きな直径を有し且つ前記キャビティの内壁面と略平行する円周面と前記内壁面と略直行する外周面とからなる凹部が形成されており、そして前記凹部の中に前記ゲートが開口していることを特徴とする、フローマークの発生を防止する射出成形用金型。
【請求項2】
前記凹部円周面の中心は、ゲートの中心軸上に位置していることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
前記凹部円周面は、ゲート手前に連結されるランナーのランナー径より大きな直径を有することを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項4】
前記凹部は、凹部に隣接するキャビティの厚みに対し2分の1以下の深さを有することを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項5】
前記ランナーは、ゲートに向けて流路を漸近的に縮径するためのテーパー部を備えており、前記テーパー部のテーパー長は、前記凹部円周面の直径より短い長さを有することを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項6】
固定側金型と可動側金型とからなる射出成形用金型のキャビティ内へ、ランナーを通って導入される溶融状態の樹脂材料を、金型に配設されたゲートを介して注入することにより成形品を成形する射出成形方法において、
キャビティの内壁面には、ゲート径より大きな直径を有し且つ前記キャビティの内壁面と略平行する円周面と前記内壁面と略直行する外周面とからなる凹部を設け、そして前記凹部の中に前記ゲートを開口させることにより、注入後、凹部壁面との接触により形成される半固化状態の樹脂材料からなるスキン層が前記凹部領域を越えてキャビティ内へ広がるのを防止していることを特徴とする、フローマークの発生を防止する射出成形方法。
【請求項7】
固定側金型と可動側金型とからなる射出成形用金型のキャビティ内へ、ランナーを通って導入される溶融状態の樹脂材料を、金型に配設されたゲートを介して注入することにより成形される射出成形品において、
前記射出成形品の外表面は、金型の前記ゲート開口部に対応する位置において、ゲート径より大きな直径を有し且つキャビティの内壁面と略平行して形成される円周面と前記内壁面と略直行して形成される外周面とからなる凸部を備えていることを特徴とする、フローマークの発生が防止された射出成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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