説明

導電性プレコートアルミニウム合金板

【課題】耐アブレーション性にすぐれ、成形加工が容易にでき、優れた導電性を発揮することができる導電性プレコートアルミニウム合金板を提供すること。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金よりなる基板2と、その片面又は両面に形成された化成皮膜3と、その上に形成された導電性塗膜4とからなる導電性プレコートアルミニウム合金板1である。導電性塗膜4は、ケイ酸塩と、ウレタン樹脂と、コロイダルシリカと、界面活性剤と、ワックスとからなると共に、膜厚Tが0.05μm以上かつ1.0μm以下である。ケイ酸塩は、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種である。ウレタン樹脂は、脂肪族エステル型又は脂肪族エステル−エーテル型で、ガラス転移点が90℃以上かつ150℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器筐体などに用いられるプレコートアルミニウム合金板に関するに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金板の表面を合成樹脂塗料にてコーティングしてなるプレコートアルミニウム合金板は、耐食性に優れ、軽量であり、かつ、成形後に塗装を施す必要がないという優れた特性を有している。そのため、プレコートアルミニウム合金板は、家電製品やOA機器などの電子機器の筐体などの材料として広く用いられている。
【0003】
電子機器は、電磁波を発生する場合が多いため、その電磁波による悪影響を抑制するために、筐体などに使用する部材は導電性であることが求められる。一般的な樹脂をアルミニウム合金板の表面に被覆した場合には、帯電し、様々な電子上のトラブルを引き起こしてしまう。このため、合成樹脂塗料(有機樹脂系塗料)には、導電性を持たせている。
【0004】
近年、部品製造地のグローバル化や、末端ユーザーによるオリジナルの組み合わせ指向にともない、部品の状態で運搬されるケースが増加してきた。これらの製品には、輸送時の振動などによって、とも擦れや包装材との擦れが発生し、表面に擦りきず(アブレーション)が生ずることがある。このような擦りきずは、商品価値を著しく劣化させてしまう。
さらに、装置の高性能化、小型軽量化、人体への安全性がより重視されるようになってきており、電子機器からの電磁波を抑制する要望が強くなってきている。このため、今まで以上に導電性の要求が強くなっている。
【0005】
プレコートアルミニウム合金板としては、例えばZrを含有した樹脂皮膜を有するアルミニウム板が提案されている(特許文献1参照)。
また、コロイダルシリカと水ガラスもしくはポリビニルアルコールの組み合わせを採用した塗膜を有するアルミニウム板が提案されている(特許文献2参照)。
また、ワックスを含むシリカ粒子の乾燥ゲルからなるガラス質の被膜を表面に有する金属板が提案されている(特許文献3及び4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−205730号公報
【特許文献2】特開2009−28991号公報
【特許文献3】特開平8−196989号公報
【特許文献4】特開平9−057188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、Zrを含有した樹脂皮膜は、高い導電性を示すことができるものの、近年におけるさらに高い導電性に対する要求に対応することが困難である。また、コロイダルシリカと水ガラスもしくはポリビニルアルコールの組み合わせを採用した塗膜においては、耐アブレーション性が劣っている。また、ワックスを含むシリカ粒子の乾燥ゲルからなるガラス質の被膜は、良好な耐アブレーション性を示すことができるが、金属板表面がガラス質で覆われるため、屈曲加工等の加工部に割れが生じるおそれがある。そして、割れた部分において腐食が発生し易くなる。また、膜厚を小さくすると造膜し難くなるという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであって、耐アブレーション性にすぐれ、成形加工が容易にでき、優れた導電性を発揮することができる導電性プレコートアルミニウム合金板を提供しようするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、アルミニウム又はアルミニウム合金よりなる基板と、該基板の片面又は両面に形成された化成皮膜と、該化成皮膜上に形成された導電性塗膜とからなり、
上記導電性塗膜は、ケイ酸塩と、ウレタン樹脂と、コロイダルシリカと、界面活性剤と、ワックスとからなると共に、膜厚Tが0.05μm以上かつ1.0μm以下であり、
上記ケイ酸塩は、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種であり、
上記ウレタン樹脂は、脂肪族エステル型又は脂肪族エステル−エーテル型で、ガラス転移点が90℃以上かつ150℃以下であり、
上記コロイダルシリカは、一次粒子径が5nm以上かつ100nm以下であり、
上記界面活性剤は、ウィルフェルミー法で測定した温度25℃における動的表面張力が43.8mN/m以下であり、
上記ワックスは、一次粒子径が0.05μm以上かつ6μm以下であり、環球法による軟化点が113℃以上かつ135℃以下であり、温度25℃における針入度が硬度法で3mm以下であることを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0010】
上記導電性プレコートアルミニウム合金板は、上記化成皮膜上に形成された上記導電性塗膜を有している。そのため、上記導電性プレコートアルミニウム合金版は、耐アブレーション性にすぐれ、成形加工が容易にでき、優れた導電性を発揮することができる
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例における、導電性プレコートアルミニウム合金板の断面構造を示す説明図。
【図2】実施例における、耐アブレーション性の評価方法を示す説明図。
【図3】実施例における、プレス加工機のダイスとしわ押さえとの間に導電性プレコートアルミニウム合金板を狭持して導電性プレコートアルミニウム合金板にパンチを当接させた状態を示す説明図。
【図4】実施例における、プレス加工機により、導電性プレコートアルミニウム合金板をU字状に曲げ加工する様子を示す説明図。
【図5】実施例における、逆U字状に加工され、部分的に凸部が形成された導電性プレコートアルミニウム合金板を示す説明図。
【図6】実施例における、耐アブレーション性の評価結果を示すアルミニウム合金板の摺動部分の写真であって、全くきずが見られない場合の写真を示す説明図(a)、摺動部が薄く変色した場合の写真を示す説明図(b)、摺動部の50%未満に塗膜の剥離が見られた場合の写真を示す説明図(c)、摺動部の50%以上75%未満に塗膜の剥離が見られた場合の写真を示す説明図(d)、摺動部の75%以上に塗膜の剥離が見られた場合の写真を示す説明図(e)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
上記導電性プレコートアルミニウム合金板は、アルミニウム又はアルミニウム合金よりなる基板と、該基板の片面又は両面に形成された化成皮膜と、該化成皮膜上に形成された導電性塗膜とからなる。
上記基板としては、例えば純アルミニウム又は、5000系アルミニウムなどの各種アルミニウム合金などからなる金属板を用いることができる。
【0013】
化成皮膜は、上記基板と上記導電性塗膜との間で両者の密着性を高める皮膜である。例えば、リン酸クロメート、リン酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、又はクロム酸クロメート等からなる化成皮膜を形成することができる。
【0014】
上記導電性塗膜は、ケイ酸塩とウレタン樹脂とコロイダルシリカと界面活性剤とワックスとを含有する。
以下、導電性塗膜を構成する各成分について説明する。
【0015】
(ケイ酸塩)
ケイ酸塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種又は2種以上である。造膜性の観点からはリチウム塩が好ましく、耐食性の観点からはアンモニウム塩が好ましい。
【0016】
ケイ酸塩がケイ酸リチウムである場合には、ケイ酸塩中のSiO2/Li2Oのモル比が3.5〜7.5であることが好ましい(請求項7)。
SiO2/Li2Oのモル比が3.5未満の場合には、ケイ酸の沈殿を生じ易く、造膜が困難になるおそれがある。一方、SiO2/Li2Oのモル比が7.5を超えると、乾燥性が高くなり平滑な塗膜を得ることが困難になるおそれがある。ケイ酸塩中のSiO2/Li2Oのモル比は3.5〜4.5であることがより好ましい。
【0017】
また、ケイ酸塩がケイ酸ナトリウムである場合には、ケイ酸塩中のSiO2/Na2Oのモル比が0.5〜4.0であることが好ましい(請求項8)。
SiO2/Na2Oのモル比が0.5未満の場合には、ケイ酸の沈殿を生じ易く、造膜が困難になるおそれがある。
一方、SiO2/Na2Oのモル比が4.0を超えると、乾燥性が高くなり平滑な塗膜を得ることが困難になるおそれがある。ケイ酸塩中のSiO2/Na2Oのモル比は2.4〜3.9であることがより好ましい。
【0018】
また、ケイ酸塩がケイ酸カリウムである場合には、ケイ酸塩中のSiO2/K2Oのモル比が1.8〜3.7であることが好ましい(請求項9)。
SiO2/K2Oのモル比が1.8未満の場合には、ケイ酸の沈殿を生じ易く、造膜が困難になるおそれがある。一方、SiO2/K2Oのモル比が4.0を超えると、乾燥性が高くなり平滑な塗膜を得ることが困難になるおそれがある。ケイ酸塩中のSiO2/K2Oのモル比は2.7〜3.7であることがより好ましい。
【0019】
また、ケイ酸塩がケイ酸アンモニウムである場合には、ケイ酸塩中のSiO2/NH3のモル比が24〜57であることが好ましい(請求項10)。
SiO2/NH3のモル比が24未満の場合には、ケイ酸の沈殿を生じ易く、造膜が困難になるおそれがある。一方、SiO2/NH3のモル比が57を超えると、乾燥性が高くなり平滑な塗膜を得ることが困難になるおそれがある。ケイ酸塩中のSiO2/NH3のモル比は28〜42であることがより好ましい。
【0020】
(ウレタン樹脂)
ウレタン樹脂は、ガラス転移点が90℃以上かつ150℃以下であることが好ましい。
ガラス転移点が90℃未満の場合には、導電性塗膜の硬度が低下し、プレス加工性が低下するおそれがある。一方、
ガラス転移点が150℃を超える場合には、導電性塗膜の柔軟性が失われ加工性が低下するおそれがある。
ウレタン樹脂のガラス転移点は、分子量およびウレタン樹脂に用いる主骨格を選択することにより、所望の値に調整することができる。
【0021】
また、ウレタン樹脂の種類としては、造膜性の観点から、脂肪族エステル系、もしくはエーテル−エステル系のウレタン樹脂が好ましい。芳香族エステル骨格をもつウレタン樹脂は、ケイ酸塩との親和性が低く、造膜が困難になるため好ましくない。
ウレタン樹脂は、多価イソシアネートと多価アルコールと酸性基等を有する2官能性活性水素含有化合物とを、公知の方法により重合することによって得られる。
【0022】
多価イソシアネートとしては、例えばエチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、4、4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。更にこれらの混合物が使用可能である。
【0023】
また、多価アルコールとしては、公知のポリウレタンエマルション合成原料として知られているものを使用することができる。例えばエチレングリコ一ル、プロピレングリコール、1、4−ブタンジオール、ジエチレングリコ一ル、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリエステルポリオール、ポリエステルポリアミドポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリチオエ一テルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリシロキサンポリオール等を挙げることができる。
【0024】
また、酸性基を有する2官能性活性水素含有化合物としては、従来アニオン性ポリウレタンエマルションの合成原料として知られているものを使用することができる。例えば、2、2−ジメチロールプロパン酸、2、2−ジメチロールブタン酸、リシン、シスチン、3,5−ジアミノ安息香酸等を挙げることができる。
【0025】
ウレタン樹脂の合成方法は特に限定されず、工業的に使用されている方法で合成されたものが使用できる。また、ウレタン樹脂を水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等で中和して使用することができる。
【0026】
脂肪族エステル系ウレタン樹脂の市販品としては、例えばADEKA社製アデカボンタイターHUX−232、HUX−350等があげられる。
脂肪族エステル−エーテル系ウレタン樹脂の市販品としては、ADEKA社製アデカボンタイターHUX−350、HUX−522等があげられる。
【0027】
上記導電性塗膜は、ケイ酸塩の固形分量100質量部に対して、ウレタン樹脂を5質量部以上かつ100質量部以下含有することが好ましい(請求項2)。
この場合には、成形時の塗膜剥離をより一層防止し、加工性をより向上させることができる。また、この場合には、耐アブレーション性をより向上させることができる。
【0028】
(コロイダルシリカ)
コロイダルシリカは、一次粒子径が5nm以上かつ100nm以下である。
一次粒子径が5nm未満の場合には、電気抵抗が大きくなり、コロイダルシリカの添加による導電性の向上効果が小さくなるおそれがある。一方、100nmを超える場合には、導電性塗膜の形成時に均一な厚みで導電性塗膜を形成することが困難になり、部分的に導電性塗膜が形成されない部分が生じたり、導電性塗膜が剥離したりし易くなるおそれがある。また、導電性塗膜の電気抵抗が大きくなり、導電性が低下するおそれがある。
【0029】
凝集前の分散状態にある粒子1個1個を一次粒子というが、上記一次粒子径とはその一次粒子の直径のことである。なお、凝集後の粒子を二次粒子といい、二次粒子の直径を二次粒子径という。
コロイダルシリカの一次粒子径は、コロイダルシリカを乾燥し、BET法(比表面積測定法)を用いて比表面積を求め、重量と密度から逆算することにより求めることができる。具体的には、使用するコロイダルシリカ全量についてBET法により全体の比表面積を求め、その全重量と密度から一次粒子径(平均値)を算出することができる。
【0030】
上記導電性塗膜における上記ケイ酸塩と上記ウレタン樹脂と後述の選択的成分である増粘剤との合計量を100質量部(乾燥重量)としたとき、上記導電性塗膜中のコロイダルシリカの含有量は、1質量部以上かつ60質量部以下であることが好ましい(請求項5)。
この場合には、導電性をより向上させることができる。また、コロイダルシリカを60質量部を超えて添加しても添加効果が飽和する。コロイダルシリカの含有量は、導電性塗膜の乾燥重量を100質量部に対して5質量部以上かつ40質量部以下であることがより好ましい。なお、上記コロイダルシリカの含有量は、上記導電性塗膜におけるケイ酸塩とウレタン樹脂と増粘剤との合計量を100質量部(乾燥重量)としたときの含有量であるが、上記導電性塗膜が選択成分である増粘剤を含有しない場合には、上記導電性塗膜におけるケイ酸塩とウレタン樹脂との合計量を100質量部(乾燥重量)としたときの含有量である。
【0031】
コロイダルシリカとしては、市販品を利用することができる。具体的には、例えば日産化学株式会社製のスノーテックスN、スノーテックスCM、スノーテックス20L、スノーテックスYL、スノーテックスZL等があげられる。
【0032】
(ワックス)
ワックスは、一次粒子径が0.05μm以上かつ6μm以下であることが好ましい。
ワックスの一次粒子系が0.05μm未満の場合には、ワックスの添加効果が得られ難くなるおそれがある。一方、6μmを超える場合には、上記導電性プレコートアルミニウム合金板のプレス成形時にワックスが脱落するおそれがある。より好ましくは、ワックスの一次粒子径は0.5〜3μmがよい。
【0033】
ワックスの一次粒子径は、コールターカウンター法によって測定することができる。ワックスの一次粒子径は、コールターカウンター法によって得られる粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0034】
また、ワックスは、環球法による軟化点が113℃以上かつ135℃以下であることが好ましい。
軟化点が113℃未満のワックスは、導電性塗料の焼付時に溶融してしまうおそれがある。その結果、導電性塗膜の潤滑性不十分になるおそれがある。また、軟化点が135℃を超えるワックスは、導電性塗膜との融着が不十分となり、インナーワックスの脱落が発生し、十分な潤滑性が得られなくなるおそれがある。
ワックスの軟化点は、JIS K 2207(1980年)に規定の方法(環球法)に従って規定することができる。
【0035】
また、ワックスは温度25℃における硬度法による針入度が3mm以下であることが好ましい。針入度が3mmを超えるワックスは、変形しやすく、塗装焼付け後のコイルの巻き取り時に変形してしまい十分な潤滑性が得られなくなるおそれがある。ワックスの温度25℃における硬度法による針入度は1mm以下であることがより好ましい。
ワックスの針入度は、JIS K 2207(1980年)に規定する方法により測定することができる。
【0036】
上記導電性塗膜における上記ケイ酸塩と上記ウレタン樹脂と後述の選択成分である増粘剤との合計量を100質量部(乾燥重量)としたとき、上記導電性塗膜中の上記ワックスの含有量は、0.05質量部以上かつ25質量部以下であることが好ましい(請求項6)。
この場合には、アブレーション性や成形性をより一層向上させることができる。また、油分や水分の接触角を低減させることができる共に、耐指紋性をより向上させることができる。なお、上記ワックスの含有量は、上記導電性塗膜におけるケイ酸塩とウレタン樹脂と増粘剤との合計量を100質量部(乾燥重量)としたときの含有量であるが、上記導電性塗膜が選択成分である増粘剤を含有しない場合には、上記導電性塗膜におけるケイ酸塩とウレタン樹脂との合計量を100質量部(乾燥重量)としたときの含有量である。
【0037】
ワックスとしては、例えばポリエチレン、マイクロクロスタリン等を用いることができる。中でも、ポリエチレンワックスを用いることが好ましい。
【0038】
(界面活性剤)
界面活性剤は、ウィルフェルミー法で測定した温度25℃における動的表面張力が43.8mN/m以下であることが好ましい。
界面活性剤の動的表面張力が43.8mN/mを超える場合には、起泡力が大きくなり塗膜欠陥を発生する可能性がある。
【0039】
界面活性剤としては、例えば塗料中のエマルション構造への影響が少ない高級アルコール、多価アルコールにエチレンオキシドを付加した非イオン界面活性剤、又は多価アルコールのエチレンオキシド付加物におけるエチレンオキシドの一部をプロピレンオキシドに置換した非イオン界面活性剤を用いることができる。
【0040】
市販のポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤として、例えば、日本乳化剤株式会社製のニューコールNT−7、ニューコールNT−9、ニューコール1006、ニューコール1008、ニューコール1525等を挙げることができる。
市販のポリオキシエチレンポリオキシプロピレン型非イオン界面活性剤として、例えば、第一工業製薬社製のノイゲンSDX−60、ノイゲンSDX−70、東邦化学工業株式会社製のネオスコアAS−0349、ぺポールAS−053X、ぺポールAS−054C、トーホーポリオールMEB−142、トーホーポリオールMEB−145、トーホーポリオールMEB−147、ネオソルベントNSG−E、日本乳化剤株式会社製のニューコール2303−Y、ニューコール2303−YM、ニューコール2304−Y、ニューコール2306−Y、ニューコール2308−Y、ニューコール2314−Y、ニューコール2306−HY、ニューコール2308−HY、ニューコール1008−F1、ニューコール1902−Y、ニューコール1308FA(90)、DMH−40などが挙げられる。
【0041】
上記導電性塗膜は、導電塗料を塗布し硬化させてなり、上記導電塗料は、該導電性塗料100質量部に対して上記界面活性剤を0.05質量部以上かつ5質量部以下含有することが好ましい(請求項3)。
含有量が0.05質量部未満の場合には、均一な厚みで塗膜を形成することが困難になるおそれがある。一方、5質量部を超えて添加しても、添加効果が飽和する。
【0042】
(その他)
また、上記導電塗料は、増粘剤を含有することが好ましい。この場合には、塗装性を向上させることができる。
上記増粘剤としては、例えばチキソ性増粘剤を用いることができる。
市販のチキソ性増粘剤としては、例えば日本純薬工業製のレオジック250H、レオジック252L、レオジック835L、レオジック830L、レオジック305H、レオジック306Lなどがある。
【0043】
また、上記増粘剤としては、例えば水溶性アクリルを用いることができる。
市販の水溶性アクリルとしては、例えば日本純薬工業製のジュリマーAT−210、AT−510、AT−613、AC−10L、AC−20Lなどがある。
【0044】
上記導電塗料における上記増粘剤の含有量は、ケイ酸塩の固形分量100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい(請求項4)。
増粘剤が100質量部を超える場合には、上記導電性塗膜の柔軟性が失われ、加工性が低下するおそれがある。上記増粘剤の含有量は50質量部以下であることがより好ましい。上記増粘剤の含有量は0質量部にすることもできる。
【0045】
また、上記導電性塗膜は、膜厚Tが0.05μm以上かつ1.0μm以下であることが好ましい。
膜厚Tが0.05μm未満の場合には、耐指紋性が低下するおそれがある。一方、1.0μmを超える場合には、電気抵抗が大きくなって、導電性が低下するおそれがある。導電性塗膜の膜厚Tは、0.05μm以上かつ0.5μm以下であることがより好ましい。
【0046】
また、上記導電性プレコートアルミニウム合金板においては、針状電極法により上記導電性塗膜の異なる20箇所の表面部位の電気抵抗を測定した際に、10箇所以上の表面部位において電気的導通があり、かつ、上記20箇所の表面部位の電気抵抗の平均値が10Ω以下であることが好ましい(請求項11)。
この場合には、上記導電性プレコートアルミニウム合金板を、導電性を必要とする様々な用途により好適に利用することができる。
【0047】
なお、上記針状電極法とは、φ0.2mmの球面状の針先を有する純銅製の針を、導電性塗膜の表面に載せ、針先が導電性塗膜を貫通することのない荷重を針に付与し、この状態で、脱膜して露出させた基板と針との間を導通させることにより、針先が接触している部分の導電性塗膜の電気抵抗値を測定する方法である。
また、上記異なる20箇所は、A4版の試料の端部から30mm内側において、満遍なくばらつかせた20箇所とする。
【0048】
上記異なる20箇所の表面部位において電気的導通がある部位が10箇所未満の場合には、電磁波シールド性が悪い部分が生じるおそれがある。
また、上記異なる20箇所の表面部位の電気抵抗の平均値が10Ωを超える場合も、電磁波シールド性が悪い部分が生じるおそれがある。
【0049】
上記導電性プレコートアルミニウム合金板は、該導電性プレコートアルミニウム合金板にプレス成形を施して、例えば電気機器用筐体あるいは電子機器用筐体等に好適に用いることができる。
なお、上記電気機器用筐体あるいは電子機器用筐体としては、例えば、パソコン本体、CD−ROM、DVD、PDA等の電子機器の筐体、テレビ等の電気機器の筐体、FDD、MD、MO等の記憶媒体ケースのシャッター部分、その他様々なものがある。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
次に、実施例及び比較例の導電性プレコートアルミニウム合金板について、説明する。
本例においては、後述の表2〜9に示すように38種類のプレコートアルミニウム合金板(試料1〜試料38)を作製し、種々の性能評価試験を実施した。
【0051】
実施例にかかる導電性プレコートアルミニウム合金板の構造を図1に示す。
プレコートアルミニウム合金板1は、アルミニウム合金からなる基板2と、その片面に形成された化成皮膜3と、化成皮膜3上に形成した導電性塗膜4とからなる。
導電性塗膜4は、ケイ酸塩と、ウレタン樹脂と、コロイダルシリカと、界面活性剤と、ワックスとからなり、膜厚Tが0.05μm以上かつ1.0μm以下である。
【0052】
導電性塗膜4において、ケイ酸塩は、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種である。また、ウレタン樹脂は、脂肪族エステル型又は脂肪族エステル−エーテル型で、ガラス転移点が90℃以上かつ150℃以下である。コロイダルシリカは、一次粒子径が5nm以上かつ100nm以下である。界面活性剤は、ウィルフェルミー法で測定した温度25℃における動的表面張力が43.8mN/m以下である。ワックスは、一次粒子径が0.05μm以上かつ6μm以下であり、環球法による軟化点が113℃以上かつ135℃以下であり、温度25℃における針入度が硬度法で3mm以下である。
【0053】
本例において作製する各試料(試料1〜試料38)の導電性プレコートアルミニウム合金板においては、化成皮膜の種類、導電性塗膜を構成するケイ酸塩、ウレタン樹脂、コロイダルシリカ、ワックス、界面活性剤の種類及び配合割合、また、その他の構成を後述の表2〜7に示すように各試料毎に変化させた。
【0054】
各試料の作製にあたっては、まず、アルミニウム合金板からなる基板2として、板厚1.0mmの5052−H34材を準備した。この基材2の表面粗さRaは、Ra=0.3μmである。
次に、この基板2に、化成皮膜3を形成する化成処理を施した。表1に、本例で採用した4種類の化成処理(a〜d)を示す。
化成処理aはリン酸クロメート処理によって、クロム量が20mg/m2となるように反応型クロメート皮膜を形成するものである。具体的には、化成処理液に試料を浸漬する方法により化成処理を行い、その後、約100℃の雰囲気で乾燥させた。
【0055】
化成処理bは、ジルコニウム処理によって、ジルコニウム量が20mg/m2となるように反応型ノンクロメート皮膜を形成するものである。処理方法は上記化成処理aと同様である。
化成処理cは、塗布型クロメート処理によって、クロム量が20mg/m2となるように塗布型クロメート皮膜を形成する物である。具体的には、基板の脱脂処理を行った後、バーコート法により処理剤を塗布し、その後約100℃の雰囲気で乾燥させた。
化成処理dは、塗布型ジルコニウム処理によって、ジルコニウム量が20mg/m2となるように塗布型ノンクロメート皮膜を形成するものである。処理方法は上記化成処理cと同様である。
【0056】
【表1】

【0057】
次に、化成皮膜3の上に、導電性塗料を焼き付けることにより、導電性塗膜4を形成した。
導電性塗料は、ケイ酸塩、ウレタン樹脂、コロイダルシリカ、インナーワックス、界面活性剤、及び増粘剤などの各種成分を、固形分で表2〜7に示す配合割合となるように混合して調整した導電性塗料を、溶媒としてブチルセルソルブと脱イオン水を用いて作製した。このとき、固形分量が5質量%となるように脱イオン水で調整した。
【0058】
ケイ酸塩としては、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、又はケイ酸アンモニウムを用いた。
具体的には、SiO2/Li2Oのモル比が3.6であるケイ酸リチウムとしては、日本化学工業(株)製の「ケイ酸リチウム35」を用いた。SiO2/Li2Oのモル比が7.5であるケイ酸リチウムとしては、日本化学工業(株)製の「ケイ酸リチウム75」を用いた。また、SiO2/Li2Oのモル比が8.5であるケイ酸リチウムとしては、上記モル比が8.5となるように日本化学工業(株)製の「ケイ酸リチウム75」にケイ酸を添加したものを用いた。
【0059】
また、ケイ酸ナトリウムとしては、SiO2/Na2Oのモル比が3.2である日本化学工業(株)製の「J珪酸ソーダ3号」、SiO2/Na2Oのモル比が0.9である日本化学工業(株)製の「メタ珪酸ソーダ・9水塩」、又はSiO2/Na2Oのモル比が0.5である日本化学工業(株)製の「30%液体オルソ」を用いた。
ケイ酸カリウムとしては、SiO2/K2Oのモル比が3.0である日本化学工業(株)製の「A珪酸カリ」を用いた。
また、ケイ酸アンモニウムとしては、SiO2/NH3のモル比が34である日本化学工業(株)製の「シリカドール30B」を用いた。
【0060】
また、ウレタン樹脂としては、ADEKA社製のアデカボンタイターHUX−350(エーテル系ウレタン樹脂、ガラス転移点140℃)、ADEKA社製のアデカボンタイターHUX−232(脂肪族エステル系ウレタン樹脂、ガラス転移点90℃)、ADEKA社製のアデカボンタイターHUX−522(脂肪族エステル系ウレタン樹脂、ガラス転移点150℃)、又はADEKA社製のアデカボンタイターHUX−320(芳香族エステル系ウレタン樹脂、ガラス転移点120℃)を用いた。
【0061】
また、コロイダルシリカとしては、日産化学株式会社製のスノーテックスYL(一次粒子径80nm)、スノーテックスZL(一次粒子径100nm)、スノーテックスMP2040(一次粒子径200nm)、スノーテックスS(一次粒子径8nm)、又はスノーテックスXS(一次粒子径4nm)を用いた。
【0062】
また、ワックスとしては、三井化学(株)製のポリエチレンワックスである「W900」、「W500」、又は「W4005」を用いた。
「W900」は、一次粒子径が0.6μmであり、環球法による軟化点が132℃であり、温度25℃における硬度法による針入度が1mm未満である。
「W500」は、一次粒子径が0.6μmであり、環球法による軟化点が113℃であり、温度25℃における硬度法による針入度が10mmである。
「W4005」は、一次粒子径が0.6μmであり、環球法による軟化点が110℃であり、温度25℃における硬度法による針入度が3mmである。
【0063】
また、界面活性剤としては、動的表面張力(ウィルフェルミー法)が40.3mN/mのポリオキシエチレンポリプロピレン型非イオン界面活性剤である日本乳化剤(株)製の界面活性剤「EOPO−1」、動的表面張力(ウィルフェルミー法)が37.2mN/mのポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤である日本乳化剤(株)製の界面活性剤「EO−1」、又は動的表面張力(ウィルフェルミー法)が46.3mN/mのポリオキシエチレン型非イオン界面活性剤である日本乳化剤(株)製の界面活性剤「EO−2」を用いた。
【0064】
また、増粘剤としては、日本純薬工業(株)性のアクリル樹脂「ジュリマーAT613」を用いた。
【0065】
導電層用塗料の塗装方法としては、上述した様々な方法があるが、本例では、バーコート法により行った。後述の表2〜7に示す構成の導電性塗膜が得られるように配合成分を調整した導電性塗料を化成皮膜上に塗布した。その後、基板の表面温度が約200℃となる雰囲気に40秒保持する焼き付け処理を行って導電性塗料を硬化させた。これにより、化成皮膜3上に、表2〜7に示す構成の導電性塗膜4を形成し、導電性プレコートアルミニウム合金板1を作製した(図1参照)。
【0066】
表2〜7に、各試料の導電性プレコートアルミニウム合金板(試料1〜試料38)について、化成皮膜の種類、ケイ酸塩の種類、ケイ酸塩におけるケイ酸と塩のモル比、ケイ酸塩の添加量(質量部)、ウレタン樹脂の種類、ウレタン樹脂のガラス転移点(℃)、ケイ酸塩100質量部に対するウレタン樹脂の添加量(質量部)、コロイダルシリカの種類、コロイダルシリカの一次粒子径、導電性塗膜におけるケイ酸塩とウレタン樹脂と増粘剤との合計量100質量部(乾燥重量)に対するコロイダルシリカの添加量(質量部)、ワックスの種類、導電性塗膜におけるケイ酸塩とウレタン樹脂と増粘剤との合計量100質量部(乾燥重量)に対するワックスの添加量(質量部)、界面活性剤の種類、導電性塗料100質量部中の界面活性剤の含有量(質量部)、増粘剤の種類、導電性塗料中におけるケイ酸塩100質量部に対する増粘剤の含有量(質量部)、及び導電性塗膜の膜厚(μm)を示す。
【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
【表5】

【0071】
【表6】

【0072】
【表7】

【0073】
また、各試料の導電性プレコートアルミニウム合金板について、耐アブレーション性、導電性、プレス加工性、及び耐指紋性の評価を行った。
【0074】
「耐アブレーション性」
耐アブレーション性は、図2に示す往復摩擦試験により行った。
具体的には、まず、往復摩擦試験機7の押圧治具75の先端にクッション材78を介してラッピングフィルム79を両面テープで貼り付けた。クッション材78は千代田(株)製の「コットンシーガル」を四つ折りにしたものを用い、ラッピングフィルム79としては住友3M社製のラッピングフィルム#4000を用いた。次いで、往復摩擦試験機7のサンプル台70上に各試料の導電性プレコートアルミニウム合金板1を載置して固定した。次に、導電性プレコートアルミニウム合金版1における導電性塗膜を形成した側の面19に、押圧治具75に貼り付けたラッピングフィルム79を当接させた。そして、押圧治具75により導電性プレコートアルミニウム合金版1に荷重1kgを印加した状態で、アルミニウム合金版1が載置されたサンプル台70を水平方向71、72に、10mm幅で速度20mm/sで100回摺動させた。アルミニウム合金版1における摺動部分をスキャナにより24bitカラー、300dpiの条件で読み取り、摺動部分のきず付き程度を下記のように評価した。その結果を表8及び表9に示す。なお、スキャナで読み込んだアルミニウム合金板の摺動部分の写真の一例を図6(a)〜(e)に示す。
図6(a)は耐アブレーション性の評価が下記の5点の場合の例であり、図6(b)は耐アブレーション性の評価が下記の4点の場合の例であり、図6(c)は耐アブレーション性の評価が下記の3点の場合の例であり、図6(d)は耐アブレーション性の評価が下記の2点の場合の例であり、図6(e)は耐アブレーション性の評価が下記の1点の場合の例である。
【0075】
(評価基準)
5点:全くきずが見られない場合
4点:摺動部が薄く変色した場合
3点:摺動部の50%未満に塗膜の剥離が見られた場合
2点:摺動部の50%以上75%未満に塗膜の剥離が見られた場合
1点:摺動部の75%以上に塗膜の剥離が見られた場合
【0076】
「導電性」
導電性は、針状電極法により導電層の異なる20箇所の表面部位の電気抵抗値を測定することにより評価した。針状電極法は、φ0.2mmの球面状の針先を有する純銅製の針を、導電性塗膜の表面に載せ、針先が導電性塗膜を貫通することのない荷重を針に付与し、この状態で、脱膜して露出させた基板と針との間を導通させることにより、針先が接触している部分の導電性塗膜の電気抵抗値を測定する方法である。本例では、針に付与する荷重を一律10gとして行った。20箇所の表面部位のうち電気抵抗値が測定できた部位数と、そのときの平均電気抵抗値を求めた。その結果を表8及び表9に示す。
【0077】
<プレス加工性>
プレス加工性の評価は、図3〜図5に示すように、各試料の導電性プレコートアルミニウム合金板1に、部分的に導電性塗膜形成側に突出する凸部18を形成するプレス加工を行い、加工後の導電性プレコートアルミニウム合金板1の表面のきずの発生状態を観察することにより行った。
具体的には、図3に示すように、各試料の導電性プレコートアルミニウム合金板1をプレス加工機100(エリクセン試験機)のダイス101としわ押さえ102間に荷重F3(F3=3.5kN)をかけて狭持した。ダイス101にはパンチ103(40mm角、R:5mm)が通る穴が設けられている。そして、図4に示すように、導電性プレコートアルミニウム合金板1の導電性塗膜形成面15とは反対側の面16にパンチ103を当接し、パンチ103をダイス101の穴内へ押し上げることにより、導電性プレコートアルミニウム合金板1を導電性塗膜4の形成側に逆U字状に突出させた。加工条件は、押さえ荷重:3.5kN、加工速度:120mm/分、温度:常温とした。加工には、潤滑剤として高精製鉱油を用いた。
このようにして、図5に示すごとく、導電性プレコートアルミニウム合金板1に、部分的に塗膜層形成側に突出する凸部18を形成した。
そして、プレス加工後の導電性プレコートアルミニウム合金板の表面を目視にて観察し、きず付き程度を確認し、下記の評価基準に基づいて評価した。その結果を後述の表8及び表9に示す。
【0078】
(評価基準)
5点:曲げ加工部および金型摺動部の塗膜層にきずが見られない場合
4点:曲げ加工部および金型摺動部の塗膜層に巾0.1mm未満、長さ0.5mm未満のきずが見られるが、巾0.1mm以上、長さ0.5mm以上のきずが見られない場合
3点:曲げ加工部および金型摺動部の塗膜層に巾0.1mm以上0.2mm未満、長さ0.5mm以上1mm未満のきずが見られるが、巾0.2mm以上長さ1mm以上のきずが見られない場合
2点:曲げ加工部および金型摺動部の塗膜に巾0.2mm以上0.3mm未満、長さ1mm以上2mm未満のきずが見られるが、巾0.3mm以上長さ2mm以上のきずが見られない場合
1点:曲げ加工部および金型摺動部の塗膜に巾0.3mm以上、長さ2mm以上のきずが見られた場合
【0079】
「耐指紋性」
耐指紋性は、各試料を50mm×50mmの面積に切り出し、その半分の面積に10mg/dm2の量のワセリンを塗布し、全体をエタノール中に1回漬けて引き上げ、その後、ワセリンの残存面積を目視にて観察した。
評価点は5段階とし、残存無しの場合を5点、1/10未満の割合で残存した場合を4点、1/10以上かつ1/8未満の割合で残存した場合を3点、1/8以上かつ1/4未満の割合で残存した場合を2点、1/4以上残存した場合を1点とした。その結果を後述の表8及び表9に示す。
【0080】
【表8】

【0081】
【表9】

【0082】
表1〜9より知られるごとく、導電性塗膜が、ケイ酸塩と、ウレタン樹脂と、コロイダルシリカと、界面活性剤と、ワックスとからなると共に、膜厚Tが0.05μm以上かつ1.0μm以下であり、ケイ酸塩は、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種であり、ウレタン樹脂は、脂肪族エステル型又は脂肪族エステル−エーテル型で、ガラス転移点が90℃以上かつ150℃以下であり、コロイダルシリカは、一次粒子径が5nm以上かつ100nm以下であり、界面活性剤は、ウィルフェルミー法で測定した温度25℃における動的表面張力が43.8mN/m以下であり、ワックスは、一次粒子径が0.05μm以上かつ6μm以下であり、環球法による軟化点が113℃以上かつ135℃以下であり、温度25℃における針入度が硬度法で3mm以下である導電性プレコートアルミニウム合金板は、耐アブレーション性にすぐれ、成形加工が容易にでき、優れた導電性を発揮することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 導電性プレコートアルミニウム合金板
2 基板
3 化成皮膜
4 導電性塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金よりなる基板と、該基板の片面又は両面に形成された化成皮膜と、該化成皮膜上に形成された導電性塗膜とからなり、
上記導電性塗膜は、ケイ酸塩と、ウレタン樹脂と、コロイダルシリカと、界面活性剤と、ワックスとからなると共に、膜厚Tが0.05μm以上かつ1.0μm以下であり、
上記ケイ酸塩は、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種であり、
上記ウレタン樹脂は、脂肪族エステル型又は脂肪族エステル−エーテル型で、ガラス転移点が90℃以上かつ150℃以下であり、
上記コロイダルシリカは、一次粒子径が5nm以上かつ100nm以下であり、
上記界面活性剤は、ウィルフェルミー法で測定した温度25℃における動的表面張力が43.8mN/m以下であり、
上記ワックスは、一次粒子径が0.05μm以上かつ6μm以下であり、環球法による軟化点が113℃以上かつ135℃以下であり、温度25℃における針入度が硬度法で3mm以下であることを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性プレコートアルミニウム合金板において、上記導電性塗膜は、上記ケイ酸塩の固形分量100質量部に対して、上記ウレタン樹脂を5質量部以上かつ100質量部以下含有することを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性プレコートアルミニウム合金板において、上記導電性塗膜は、導電塗料を塗布し硬化させてなり、上記導電塗料は、該導電性塗料100質量部に対して上記界面活性剤を0.05質量部以上かつ5質量部以下含有することを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性プレコートアルミニウム合金板において、上記導電性塗膜は、導電塗料を塗布し硬化させてなり、上記導電塗料は、ケイ酸塩の固形分量100質量部に対して増粘剤を100質量部以下(0質量部を含む)含有することを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板。
【請求項5】
請求項4に記載の導電性プレコートアルミニウム合金板において、上記導電性塗膜における上記ケイ酸塩と上記ウレタン樹脂と上記増粘剤との合計量を100質量部(乾燥重量)としたとき、上記導電性塗膜中の上記コロイダルシリカの含有量は、1質量部以上かつ60質量部以下であることを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の導電性プレコートアルミニウム合金板において、上記導電性塗膜における上記ケイ酸塩と上記ウレタン樹脂と上記増粘剤との合計量を100質量部(乾燥重量)としたとき、上記導電性塗膜中の上記ワックスの含有量は、0.05質量部以上かつ25質量部以下であることを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性プレコートアルミニウム合金板において、上記ケイ酸塩がケイ酸リチウムであって、上記ケイ酸塩中のSiO2/Li2Oのモル比が3.5〜7.5であることを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性プレコートアルミニウム合金板において、 上記ケイ酸塩がケイ酸ナトリウムであって、上記ケイ酸塩中のSiO2/Na2Oのモル比が0.5〜4.0であることを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性プレコートアルミニウム合金板において、上記ケイ酸塩がケイ酸カリウムであって、上記ケイ酸塩中のSiO2/K2Oのモル比が1.8〜3.7であることを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性プレコートアルミニウム合金板において、上記ケイ酸塩がケイ酸アンモニウムであって、上記ケイ酸塩中のSiO2/NH3のモル比が24〜57であることを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の導電性プレコートアルミニウム合金板において、針状電極法により上記導電性塗膜の異なる20箇所の表面部位の電気抵抗を測定した際に、10箇所以上の表面部位において電気的導通があり、かつ、上記20箇所の表面部位の電気抵抗の平均値が10Ω以下であることを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−56441(P2013−56441A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195237(P2011−195237)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】