説明

屋根改修工法及び構造物

【課題】既設屋根上への仮設の屋根の構築が不要となる屋根改修工法及び構造物を得る。
【解決手段】建物10の既設屋根16の改修工法において、まず、既設屋根16の上方に仮設構台18上で構築した新設屋根20を配置する。続いて、新設屋根20が配置された後で新設屋根20の下側の既設屋根16を解体する。このように、新設屋根20を配置した後で既設屋根16を解体することにより、既設屋根16の解体現場が新設屋根20で保護されるので、既設屋根16上に仮設の屋根を別途構築する必要が無くなる。また、既設屋根16改修時の仮設部材の費用を低減でき工期も短縮できる。さらに、既設屋根16の解体作業が天候の影響を受けにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根改修工法及び構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の構造物の改築施工法は、既設の構造物の周囲に基礎を設け、既設の構造物を覆って新しい構造物を構築すると共に、新しい構造物の内部で既設の構造物を解体している。
【0003】
しかし、特許文献1の改築施工法は、既設の構造物全体を解体しており、既設の構造物の躯体を残しつつ屋根のみを改築する場合には適用できない。
【0004】
特許文献2の屋根のトラベリング工法は、屋根の構築場所の両端に仮設構台を設け、それぞれの仮設構台で屋根を構築している。そして、構築された各屋根を互いに反力をとりながら中央(構築場所)へ向けて移動させると共に、中央で仮設のテントルーフを設けて各屋根を連結している。なお、トラベリング工法とは、大空間構造物の大架構組立てにおいて、様々な制約によりクレーンが架構の全面をカバーできない場合などに、架構をいくつかのブロックに分割して組立てながら順次移動していく工法である。
【0005】
しかし、特許文献2の屋根のトラベリング工法は、既設の屋根を解体する場合の新設屋根の構築工法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2583462号公報
【特許文献2】特開平8−13620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、既設屋根上での仮設の屋根の構築が不要となる屋根改修工法及び構造物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る屋根改修工法は、既設屋根の上方を覆う新設屋根を配置する新設屋根配置工程と、前記新設屋根が配置された後で前記既設屋根を解体する既設屋根解体工程と、を有する。この構成によれば、新設屋根を配置した後で既設屋根を解体することにより既設屋根の解体現場が新設屋根で保護されるので、既設屋根上に仮設の屋根を構築する必要が無くなる。このため、屋根改修時の仮設部材の費用を低減でき、工期も短縮できる。さらに、既設屋根の解体作業が天候の影響を受けにくくなる。
【0009】
本発明の請求項2に係る屋根改修工法は、前記新設屋根配置工程は、前記新設屋根を構築する新設屋根構築工程と、前記新設屋根を構築した場所から前記新設屋根を配置する配置場所までの前記新設屋根の移動路を設置する移動路設置工程と、構築された前記新設屋根を前記移動路を通じて移動させ前記配置場所に配置する新設屋根移動配置工程と、前記新設屋根を前記配置場所に設置する新設屋根設置工程と、を有する。
【0010】
上記構成によれば、新設屋根を構築し、構築された新設屋根を移動路を通じて設置現場の各配置場所に移動させてから設置するので、揚重機が使用できない現場でも新設屋根を設置することができる。また、例えば、新築屋根の設置現場と異なる場所にある仮設構台で新設屋根を構築することで、昼間に作業を行うことができ、工期短縮が可能となる。
【0011】
本発明の請求項3に係る屋根改修工法は、前記新設屋根は、前記移動路上で移動方向を変えながら移動される。この構成によれば、仮設構台から設置現場まで一直線に移動路を設けることができない場合でも、新設屋根を設置現場まで移動することができる。
【0012】
本発明の請求項4に係る屋根改修工法は、前記移動路上に太陽エネルギーを利用する機能部材を設置する機能部材設置工程を有する。この構成によれば、構造物に太陽光パネル等の太陽エネルギーを利用する機能部材を設置するときに移動路を構造物の躯体として利用するので、移動路の解体作業が不要になると共に躯体の新設が不要となり、施工効率を上げることができる。
【0013】
本発明の請求項5に係る屋根改修工法は、前記既設屋根解体工程は、前記既設屋根の下側に移動可能な吊り足場を取り付ける足場取付工程と、前記吊り足場の上で前記既設屋根を解体する解体工程と、を有する。この構成によれば、既設屋根の下側で足場が移動可能となっているので、足場の取り付け及び移動が容易となる。
【0014】
本発明の請求項6に係る構造物は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の屋根改修工法で構築された前記新設屋根と、前記新設屋根が上部に設置された躯体と、を有する。この構成によれば、既設屋根上に仮設の屋根を構築する必要が無くなる。このため、屋根改修時の仮設部材の費用を低減でき、工期も短縮できる。さらに、既設屋根の解体作業が天候の影響を受けにくくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記構成としたので、既設屋根上での仮設の屋根の構築が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る既設屋根の改修が行われる建物の全体図である。
【図2】(a)本発明の第1実施形態に係る建物の立面図である。(b)本発明の第1実施形態に係る建物の平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る新設屋根の移動側から見た建物の構成図である。
【図4】(a)本発明の第1実施形態に係る新設屋根の移動方向から見た建物の部分構成図である。(b)本発明の第1実施形態に係る新設屋根の移動方向と直交する方向から見た建物の部分構成図である。
【図5】(a)、(b)本発明の第1実施形態に係る移動路上の新設屋根の移動手段を示す部分図である。
【図6】(a)〜(c)本発明の第1実施形態に係る屋根改修工法による新設屋根の移動工程及び設置工程を示す工程図である。
【図7】(a)、(b)本発明の第1実施形態に係る屋根改修工法による新設屋根の設置後の既設屋根の解体工程を示す説明図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る既設屋根の改修が行われる建物の平面図である。
【図9】(a)〜(c)本発明の第2実施形態に係る屋根改修工法による新設屋根の移動工程及び設置工程を示す工程図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る既設屋根の改修が行われる建物の平面図である。
【図11】(a)〜(c)本発明の第3実施形態に係る屋根改修工法による新設屋根の移動工程及び設置工程を示す工程図である。
【図12】本発明の第4実施形態に係る既設屋根の改修が行われた建物の平面図である。
【図13】(a)〜(c)本発明の第4実施形態に係る屋根改修工法による新設屋根及び太陽光パネルの移動工程及び設置工程を示す工程図である。
【図14】(a)〜(c)本発明の第5実施形態に係る既設屋根の改修工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の屋根改修工法の第1実施形態を図面に基づき説明する。図1に示すように、地盤11上には第1実施形態の建物10が構築されている。建物10は、平面視にて一方向(矢印E方向)に長い矩形状となっており、上部に屋根部12が設けられている。なお、以後の説明では、建物10を平面視したときの上方向を矢印N方向(北側)、下方向を矢印S方向(南側)、右方向を矢印E方向(東側)、左方向を矢印W方向(西側)とする。
【0018】
屋根部12の中央には、複数のトップライト14が、矢印E方向に沿って間隔をあけると共に南側を向けて配設され、建物10内に採光可能となっている。また、屋根部12におけるトップライト14よりも南側には、改修が行われる設置現場の一例としての既設屋根16が矢印E方向に沿って延設されている。さらに、屋根部12における既設屋根16の西側には、後述する新設屋根20を構築するための仮設構台18が設けられている。
【0019】
仮設構台18上には、新設屋根20を構築するための施工足場26が設けられており、地盤11上から仮設構台18までには、昇降階段25が設けられている。なお、新設屋根20を仮設構台18から既設屋根16の上側まで移動させるときには、仮設構台18から既設屋根16まで矢印E方向に沿って、複数(本実施形態では4本)の仮設レール28が架設されるようになっている。本実施形態では、仮設レール28としてI形鋼を用いている。
【0020】
図2(a)に示すように、建物10よりも西側で且つ仮設構台18の西側の区域は、資材の搬入等が行われる工事ヤードS1とされており、工事ヤードS1内には揚重機22が設置されている。揚重機22は、鉛直方向に立設された支持部22Aと、支持部22Aから水平方向に延設された延設部22Bとを有しており、延設部22Bは仮設構台18の上方に配置されている。これにより、揚重機22により工事ヤードS1内の資材(例えばH形鋼等)が仮設構台18に揚げられるようになっている。また、建物10よりも東側には、既設建物24が構築されている。なお、揚重機22はいわゆるタワークレーンであるが、揚重機22に換えて移動式のラフタークレーンを用いてもよい。
【0021】
図2(b)に示すように、建物10を平面視したときの建物10の周囲には、工事ヤードS1よりも南側の区域である南ヤードS2と、工事ヤードS1よりも北側の区域である北ヤードS3とが設定されている。ここで、本実施形態では、南ヤードS2及び北ヤードS3が、人、車等の往来があり工事禁止区域に設定されているものとする。このため、揚重機22は、建物10よりも西側の工事ヤードS1内のみが設置可能区域とされている。
【0022】
このように、揚重機22は、南ヤードS2、北ヤードS3、及び既設建物24を避けて工事ヤードS1に設置されているため、支持部22Aを回転中心Oとした半径Rの範囲しか延設部22Bが移動できず、既設屋根16全体での施工をカバーすることができない。よって、既設屋根16を改修するときには、図1に示すように、仮設レール28を用いて仮設構台18から既設屋根16の上側まで新設屋根20を移動させる。
【0023】
一方、図3には、新設屋根20の移動側(東側)から見た建物10の構成が示されている。建物10は、図示しない基礎上に立設された複数の柱32と、柱32に対して矢印N、S方向に架設された大梁34と、大梁34に対して矢印E、W方向(図1参照)に架設された小梁36とを有している。
【0024】
ここで、天井(既設屋根16)から鉄製の棒材38が吊下げられており、棒材38の下端部には矢印E、W方向(図1参照)にレール42が設けられている。そして、レール42から鉄製の吊材44が吊下げられており、吊材44の下端部には、既設屋根16の解体に用いる吊足場30A、30Bが固定されている。このようにして、吊足場30A、30Bは、吊材44で吊下げられ、矢印E、W方向に移動可能となっている。なお、大梁34の下側には、後述するパネル部材49が設けられるようになっている。
【0025】
図4(a)、(b)に示すように、既設屋根16は、断面が波形状の折板屋根であり、大梁34上に設けられた複数の支持部材35で支持されている。そして、既設屋根16上に新設屋根20を設置する前の段階では、既設屋根16に上下方向に貫通した複数の貫通孔16Aが形成されるようになっている。貫通孔16Aは、小梁36に沿って配置されており、小梁36上には、貫通孔16Aに挿通された複数の束材37が立設される。また、複数の束材37の上部には、前述の仮設レール28が架設されている。ここで、束材37の上面及び仮設レール28の上面は高さが揃えられている。
【0026】
一方、新設屋根20は、既設屋根16上への配置時に束材37上に載置され新設屋根20全体の重量を受ける梁となる補強鉄骨52と、補強鉄骨52上に固定された格子状のフレーム材46と、フレーム材46の各格子に1枚ずつ固定され光を透過する採光パネル48とで構成されている。フレーム材46は、西側へ傾斜した第1パネル48Aと、東側へ傾斜した第2パネル48Bとが連結され、矢印N、S方向(図4(a)参照)に見て山型となっている。なお、図4(a)、(b)は、既設屋根16上に新設屋根20を移動させた後、後述するローラーユニット50(図5(a)、(b)参照)を取り外して束材37上に補強鉄骨52を配置した状態を表している。ここで、新設屋根20の移動手段として、ローラーユニット50に代えて、テフロン(登録商標)で構成された支承材を用いてもよい。また、仮設レール28は、上面にステンレス板を貼り付けたものであってもよい。
【0027】
次に、新設屋根20の移動手段について説明する。
【0028】
図5(a)に示すように、新設屋根20の移動時には、新設屋根20の下部にローラーユニット50が取り付けられる。ローラーユニット50は、補強鉄骨52の上面に配置される上板54と、補強鉄骨52の下面に配置される下板55とを有している。上板54及び下板55の両端部には貫通孔(図示省略)が形成されており、この貫通孔に上下方向を軸方向としてシャフト56、57が挿通されるようになっている。ここで、貫通孔にシャフト56、57を挿通してからシャフト56、57の上、下端部をナット53で締結することにより、上板54及び下板55が補強鉄骨52に固定される。また、下板55の下面には、下側へ向けて2枚の対向するフランジ55Aが突設されている。そして、フランジ55Aには、仮設レール28の上面28Aに接触して矢印E方向(又は矢印W方向)に回動するローラー58が回動可能に設けられている。
【0029】
一方、図5(b)に示すように、仮設レール28の上面28Aには、新設屋根20を移動させるためのジャッキ62が固定されている。ジャッキ62は、ワイヤー63の一方の端部が接続されており、図示しない電源で駆動され矢印E方向にワイヤー63を引くようになっている。また、ワイヤー63の他方の端部は、補強鉄骨52(図5(a)参照)に取り付けられている。これにより、ジャッキ62を動作させると、新設屋根20が矢印E方向に移動することになる。なお、ワイヤー63の長さは既設屋根16の幅よりも短いため、ジャッキ62は、仮設レール28上の固定位置を複数箇所変えながら用いられる。
【0030】
次に、本発明の第1実施形態の作用について説明する。
【0031】
図6(a)に示すように、建物10の既設屋根16(2点鎖線で表示)に隣接する西側の区域に鉄骨及びコンクリートを用いて仮設構台18を構築する。仮設構台18の高さは既設屋根16の上面とほぼ同じ高さとなるように揃えられている。続いて、仮設構台18から既設屋根16の上面まで複数の仮設レール28を敷いてボルトで固定する。
【0032】
続いて、仮設構台18上で新設屋根20を構築する。そして、仮設構台18の仮設レール28上にローラーユニット50(図5(a)参照)を配置すると共にローラーユニット50上に新設屋根20を配置し、新設屋根20の底部にローラーユニット50を取り付ける。また、仮設レール28上にジャッキ62(図5(b)参照)を固定する。なお、ジャッキ62は、新設屋根20を牽引可能な位置に固定されるが、図6(a)、(b)では仮設レール28上のジャッキ62の図示を省略している。
【0033】
続いて、図6(b)に示すように、ジャッキ62(図5(b)参照)による新設屋根20の牽引、ジャッキ62の取外し、仮設レール28上へのジャッキ62の固定、及び新設屋根20の牽引という工程を複数回繰り返して新設屋根20を移動すると共に、既設屋根16の東側端部上に新設屋根20を配置する。
【0034】
続いて、図4(a)に示すように、新設屋根20の配置後、既設屋根16に複数の貫通孔16Aを形成して、束材37を小梁36上に立設する。なお、貫通孔16Aを形成するとき、上方を新設屋根20で覆うことにより、新設屋根20の設置作業への風雨の影響が抑えられる。
【0035】
続いて、図7(a)に示すように、束材37上に補強鉄骨52をボルト(又は溶接)で固定して既設屋根16上に新設屋根20を設置すると共に、小梁36の下方側に吊足場30を移動可能に取り付ける。続いて、図7(b)に示すように、吊足場30において新設屋根20の下側の既設屋根16及び支持部材35の解体作業を行う。そして、建物10における既設屋根16及び支持部材35が解体された部位に、前述のパネル部材49(図3参照)を天井として設置すると共に、パネル部材49から新設屋根20までの側壁(図示省略)を構築する。なお、パネル部材49を設置する場所以外の天井についても、天井内の設備(例えばダクト)の設置や仕上げ工事を行う。
【0036】
続いて、図6(b)、(c)に示すように、次の新設屋根20を仮設構台18上で構築すると共に同様の手順で矢印E方向に移動し、複数の新設屋根20を既設屋根16上に順次設置する。そして、吊足場30を新設屋根20の移動方向(矢印E方向)とは反対側の矢印W方向に順次移動すると共に、新設屋根20の下方側の既設屋根16の解体作業を行う。このようにして、既設屋根16上への各新設屋根20の設置が終了した後、仮設レール28を撤去して、建物10における屋根部12の改修が終了する。
【0037】
ここで、上記工法によれば、新設屋根20を既設屋根16上に配置した後で既設屋根16を解体するため、既設屋根16上に仮設屋根を構築する必要が無い。このため、屋根改修時の仮設屋根の設置、撤去の費用を低減できると共に仮設工期も短縮できる。さらに、既設屋根16の解体現場(吊足場30)が新設屋根20で保護されるので、既設屋根16の解体作業が風雨等の天候の影響を受けにくくなる。
【0038】
また、上記工法によれば、設置現場である既設屋根16と異なる場所にある仮設構台18で新設屋根20を構築し、新設屋根20を仮設レール28上で移動させてから各配置場所に設置するので、本実施形態のように揚重機22(図1参照)が使用できない設置現場でも新設屋根20を設置することができる。また、設置現場と異なる場所にある仮設構台18で新設屋根20を構築するので、新設屋根20の構築作業が既設屋根16の下側における歩行者の往来等に影響を与えない。このため、新設屋根20の構築作業を昼間に行うことができ、既設屋根16の改修の工期短縮が可能となる。
【0039】
さらに、上記工法によれば、既設屋根16の解体工程において、既設屋根16の下側に移動可能な吊足場30を取り付け、この吊足場30を移動させながら既設屋根16を解体するので、解体作業の足場の取り付け及び移動が容易となる。
【0040】
次に、本発明の屋根改修工法の第2実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0041】
図8には、第2実施形態の建物70の平面図が示されている。建物70は、第1実施形態の建物10(図2(b)参照)と同様の場所にトップライト14及び既設屋根16が設けられているが、工事ヤードS1が南側ではなく北側に設定されており、仮設構台18が屋根部12の北西の隅に設けられている点が建物10と異なっている。また、工事ヤードS1内には揚重機22が設置されている。
【0042】
ここで、図9(a)に示すように、建物70は、仮設構台18から既設屋根16まで直線状に仮設レール28を設置できない。よって、既設屋根16を改修するときには、矢印S方向に沿った補助仮設レール72と仮設レール28とを用いて、仮設構台18から既設屋根16の上側まで新設屋根20を移動させる。
【0043】
補助仮設レール72は、仮設構台18から矢印S方向に向かって仮設レール28と交差する位置(交差位置P)まで延設されるものであり、補助仮設レール72の上面の高さと仮設レール28の上面の高さは同じ高さに揃えられる。これにより、新設屋根20は、補助仮設レール72から仮設レール28への移動が容易となっている。
【0044】
次に、第2実施形態の作用について説明する。
【0045】
図9(a)に示すように、建物70の屋根部12における北西の隅に鉄骨及びコンクリートを用いて仮設構台18を構築する。仮設構台18の高さは既設屋根16の上面とほぼ同じ高さとなるように揃えられている。続いて、仮設構台18から交差位置Pまで複数の補助仮設レール72を敷くと共に、交差位置Pから既設屋根16の上面まで複数の仮設レール28を敷いてそれぞれボルトで固定する。
【0046】
続いて、仮設構台18上で新設屋根20を構築する。そして、仮設構台18の補助仮設レール72上にローラーユニット50(図5(a)参照)を配置すると共にローラーユニット50上に新設屋根20を配置し、新設屋根20の底部にローラーユニット50を取り付ける。また、交差位置Pにおいて、補助仮設レール72上にジャッキ62(図5(b)参照)を固定する。なお、ジャッキ62の図示は省略している。
【0047】
続いて、図9(b)に示すように、ジャッキ62(図5(b)参照)を用いて新設屋根20を矢印S方向に牽引し、新設屋根20を交差位置Pまで移動する。そして、交差位置Pにおいて、新設屋根20をジャッキアップすると共にローラーユニット50(図5(a)参照)の取り付け方向を矢印E方向に変更する。さらに、仮設レール28上にジャッキ62を固定する。
【0048】
続いて、ジャッキ62による新設屋根20の矢印E方向への牽引、ジャッキ62の取外し、仮設レール28上へのジャッキ62の固定、及び新設屋根20の矢印E方向への牽引という工程を複数回繰り返して新設屋根20を移動すると共に、既設屋根16の東側端部上に新設屋根20を配置する。
【0049】
続いて、図4(a)に示すように、新設屋根20の配置後、既設屋根16に複数の貫通孔16Aを形成して、束材37を小梁36上に立設する。なお、貫通孔16Aを形成するとき、上方を新設屋根20で覆うことにより、新設屋根20の設置作業への風雨の影響が抑えられる。
【0050】
続いて、図7(a)に示すように、束材37上に補強鉄骨52をボルトで固定して既設屋根16上に新設屋根20を設置すると共に、小梁36の下方側に吊足場30を移動可能に取り付ける。続いて、図7(b)に示すように、吊足場30において新設屋根20の下側の既設屋根16及び支持部材35の解体作業を行う。そして、建物70(図8参照)における既設屋根16及び支持部材35が解体された部位に、前述のパネル部材49(図3参照)を天井として設置すると共に、パネル部材49から新設屋根20までの側壁(図示省略)を構築する。
【0051】
続いて、図9(b)、(c)に示すように、次の新設屋根20を仮設構台18上で構築すると共に同様の手順で矢印S方向及び矢印E方向に移動し、複数の新設屋根20を既設屋根16上に順次設置する。そして、吊足場30(図7(a)参照)を新設屋根20の移動方向(矢印E方向)とは反対側の矢印W方向に順次移動すると共に、新設屋根20の下方側の既設屋根16の解体作業を行う。このようにして、既設屋根16上への各新設屋根20の設置が終了した後、仮設レール28及び補助仮設レール72を撤去して、建物70における屋根部12の改修が終了する。
【0052】
このように、上記工法によれば、新設屋根20の移動経路が、矢印S方向に延設された補助仮設レール72と、矢印E方向に延設された仮設レール28とで構成されており、新設屋根20は、補助仮設レール72及び仮設レール28上で方向を変えながら移動される。このため、第1実施形態の建物10(図1参照)の屋根改修工法の作用に加えて、さらに、仮設構台18から既設屋根16まで直線状の仮設レール28を設けることができない場合でも、新設屋根20を既設屋根16まで移動することができる。
【0053】
次に、本発明の屋根改修工法の第3実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1、第2実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1、第2実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0054】
図10には、第3実施形態の建物80の平面図が示されている。建物80は、第1実施形態の建物10(図2(b)参照)と同様に屋根部12にトップライト14及び既設屋根16が設けられているが、屋根部12における既設屋根16よりも西側に仮設構台18が設けられ、既設屋根16よりも東側に仮設構台82が設けられた構成となっている。また、建物80は、第1実施形態の既設建物24が無く、代わりに建物80よりも東側に工事ヤードS4が設定されている。そして、工事ヤードS1内には揚重機22が設置され、工事ヤードS4内には揚重機22と同じ構成の揚重機84が設置されている。
【0055】
次に、第3実施形態の作用について説明する。
【0056】
図11(a)に示すように、建物80の屋根部12における既設屋根16の西側と東側に鉄骨及びコンクリートを用いて仮設構台18、82を構築する。仮設構台18、82の高さは既設屋根16の上面とほぼ同じ高さとなるように揃えられている。続いて、仮設構台18から既設屋根16の上面を通って仮設構台82まで複数の仮設レール28を敷いてそれぞれボルトで固定する。
【0057】
続いて、仮設構台18、82上でそれぞれ新設屋根20を構築する。そして、仮設構台18の仮設レール28上にローラーユニット50(図5(a)参照)を配置すると共にローラーユニット50上に新設屋根20を配置し、新設屋根20の底部にローラーユニット50を取り付ける。同様にして、仮設構台82上の新設屋根20の底部にローラーユニット50を取り付ける。また、2台のジャッキ62(図5(b)参照)を仮設レール28上でそれぞれ矢印W方向、矢印E方向に向けて固定する。なお、ジャッキ62の図示は省略している。
【0058】
続いて、図11(b)に示すように、ジャッキ62(図5(b)参照)を用いて仮設構台18上の新設屋根20を矢印E方向に牽引すると共に、仮設構台82上の新設屋根20を矢印W方向に牽引する。そして、仮設レール28の中央に2つの新設屋根20を並べて配置する。
【0059】
続いて、図4(a)に示すように、各新設屋根20の配置後、既設屋根16に複数の貫通孔16Aを形成して、束材37を小梁36上に立設する。なお、貫通孔16Aを形成するとき、上方を新設屋根20で覆うことにより、新設屋根20の設置作業への風雨の影響が抑えられる。
【0060】
続いて、図7(a)に示すように、束材37上に補強鉄骨52をボルトで固定して既設屋根16上に各新設屋根20を設置すると共に、小梁36の下方側に吊足場30を移動可能に取り付ける。続いて、図7(b)に示すように、吊足場30において新設屋根20の下側の既設屋根16及び支持部材35の解体作業を行う。そして、建物80(図10参照)における既設屋根16及び支持部材35が解体された部位に、前述のパネル部材49(図3参照)を天井として設置すると共に、パネル部材49から新設屋根20までの側壁(図示省略)を構築する。
【0061】
続いて、図11(b)、(c)に示すように、次の新設屋根20を仮設構台18、82上で構築すると共に同様の手順で矢印E方向又は矢印W方向に移動し、複数の新設屋根20を既設屋根16上に順次設置する。そして、吊足場30(図7(a)参照)を新設屋根20の移動方向とは反対方向に順次移動すると共に、新設屋根20の下方側の既設屋根16の解体作業を行う。このようにして、既設屋根16上への各新設屋根20の設置が終了した後、仮設レール28を撤去して、建物70における屋根部12の改修が終了する。この工法によれば、仮設構台18、82上で複数の新設屋根20を同時期に構築できるので、工期を短縮することができる。
【0062】
次に、本発明の屋根改修工法の第4実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1〜第3実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1〜第3実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0063】
図12には、第4実施形態の建物90の平面図が示されている。建物90は、第1実施形態の建物10(図2(b)参照)と基本的に同様であるが、既設屋根16が設けられている領域に新設屋根20と、機能部材の一例としての太陽光パネル29とが交互に設けられている点が異なっている。太陽光パネル29は、太陽(光)エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池(図示省略)が複数設けられた構成となっており、太陽光パネル29で集められた電気エネルギーは建物90内の各部で利用されるようになっている。
【0064】
次に、第4実施形態の作用について説明する。
【0065】
図13(a)に示すように、建物90の屋根部12における既設屋根16の西側に鉄骨及びコンクリートを用いて仮設構台18を構築する。仮設構台18の高さは既設屋根16の上面とほぼ同じ高さとなるように揃えられている。続いて、仮設構台18から既設屋根16の上面まで複数の仮設レール28を敷いてそれぞれボルトで固定する。
【0066】
続いて、仮設構台18上で新設屋根20を構築する。そして、仮設構台18の仮設レール28上にローラーユニット50(図5(a)参照)を配置すると共にローラーユニット50上に新設屋根20を配置し、新設屋根20の底部にローラーユニット50を取り付ける。また、ジャッキ62(図5(b)参照)を仮設レール28上に固定する。なお、ジャッキ62の図示は省略している。
【0067】
続いて、図13(b)に示すように、ジャッキ62(図5(b)参照)を用いて仮設構台18上の新設屋根20を矢印E方向に牽引する。そして、図4(a)に示すように、新設屋根20の配置後、既設屋根16に複数の貫通孔16Aを形成して、束材37を小梁36上に立設する。なお、貫通孔16Aを形成するとき、上方を新設屋根20で覆うことにより、新設屋根20の設置作業への風雨の影響が抑えられる。
【0068】
続いて、図7(a)に示すように、束材37上に補強鉄骨52をボルトで固定して既設屋根16上に新設屋根20を設置すると共に、小梁36の下方側に吊足場30を移動可能に取り付ける。続いて、図7(b)に示すように、吊足場30において新設屋根20の下側の既設屋根16及び支持部材35の解体作業を行う。そして、建物90(図12参照)における既設屋根16及び支持部材35が解体された部位に、前述のパネル部材49(図3参照)を天井として設置すると共に、パネル部材49から新設屋根20までの側壁(図示省略)を構築する。
【0069】
続いて、図13(b)、(c)に示すように、新設屋根20と同様の手順により、仮設構台18から既設屋根16上まで太陽光パネル29を矢印E方向に移動して、予め決めた位置にボルトで固定して設置する。ここで、仮設レール28のうち、太陽光パネル29の下側に敷かれている部分は、太陽光パネル29を支持するための躯体として用いられるため、そのまま撤去せずに設置しておく。
【0070】
続いて、新設屋根20、太陽光パネル29の順番で、新設屋根20及び太陽光パネル29を既設屋根16上に順次設置し、新設屋根20の下側のみ既設屋根16の解体作業を行う。このようにして、既設屋根16上への各新設屋根20及び太陽光パネル29の設置が終了した後、新設屋根20の下側にある仮設レール28を撤去して、建物90における屋根部12の改修が終了する。この工法によれば、仮設レール28を太陽光パネル29の躯体として利用するので、太陽光パネル29の設置場所での仮設レール28の解体作業(撤去)が不要になると共に、太陽光パネル29用の躯体を別途新設する必要がなくなり、建物90の施工効率を上げることができる。
【0071】
次に、本発明の屋根改修工法の第5実施形態を図面に基づき説明する。
【0072】
図14(a)には、第5実施形態の建物100の模式図(縦断面図)が示されている。建物100は、図示しない基礎上に立設された複数の柱104と、複数の柱104に架設された梁102とを有している。また、梁102上には、コンクリートで形成された既設屋根106が設けられている。なお、第5実施形態では、揚重機(図示省略)が既設屋根106全体で作業可能となるように設けられており、既設屋根106上に新設屋根103を設置する場合について説明する。
【0073】
新設屋根103は、新設屋根20(図3参照)と同様に山形のトップライトであり、採光可能となっている。また、新設屋根103は、束材105を介して梁102に固定されるようになっている。
【0074】
次に、第5実施形態の作用について説明する。
【0075】
図14(a)に示すように、建物100の既設屋根106において、揚重機(図示省略)を用いて予め決められた場所に新設屋根103を配置する。なお、この時点では、新設屋根103は図示しない支持部材により既設屋根106上で支持されており、束材105は設けられていない。
【0076】
続いて、新設屋根103の下側で既設屋根106に貫通孔(図示省略)を形成し、この貫通孔を通して梁102上に束材105を設置する。なお、この貫通孔の形成作業時は、既設屋根106上に新設屋根103が配置されているため、作業が風雨などの天候に影響されるのを防ぐことができる。そして、新設屋根103を束材105上にボルトで固定して設置した後、図示しない支持部材を撤去する。
【0077】
続いて、図14(b)に示すように、既設屋根106の下側に吊足場108を移動可能に設け、吊足場108上で既設屋根106に採光用の複数の貫通孔106Aを形成する。これにより、建物100の内部に新設屋根103を通して光が入射するようになる。
【0078】
続いて、図14(b)、(c)に示すように、同様の手順により、先に設置した新設屋根103の隣に新たな新設屋根103を設置し、既設屋根106に貫通孔106Bを形成する。このように、揚重機(図示省略)で対応可能なに既設屋根106がある場合は、新設屋根103を移動させなくてもよい。
【0079】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0080】
新設屋根20の移動手段として、前述のように、ローラーユニット50に代えて、テフロン(登録商標)で構成された支承材を用いてもよい。また、仮設レール28、補助仮設レール72は、上面にステンレス板を貼り付けたものであってもよい。さらに、新設屋根20の移動方向は、矢印E方向、矢印S方向に限らず、既設屋根106の設置場所に応じて、矢印N方向、矢印W方向であってもよい。
【0081】
また、新設屋根20は、1つずつ移動させるだけでなく、複数の新設屋根20を仮設構台18側で構築すると共に接合してまとめて移動させたり、あるいは、新設屋根20を1つずつ構築しては移動させるというように、順次送り出す工法を用いてもよい。既設屋根16の解体は、新設屋根20が完全に固定された設置状態、新設屋根20が既設屋根16の上側を覆って配置された配置状態のいずれの状態で行ってもよい。
【0082】
新設屋根20としては、トップライトに限らず、例えば、既設屋根16の高さが低いときに用いる高さが高い屋根であってもよい。また、束材37の設置位置は、大梁34と小梁36の交点でもよい。さらに、第2、第3実施形態の屋根改修工法で太陽光パネル29を設置してもよい。
【符号の説明】
【0083】
10 建物(構造物)
16 既設屋根
18 仮設構台
20 新設屋根
28 仮設レール(移動路)
29 太陽光パネル(機能部材)
30 吊足場(吊り足場)
32 柱(躯体)
34 大梁(躯体)
36 小梁(躯体)
72 補助仮設レール(移動路)
82 仮設構台
103 新設屋根
106 既設屋根
108 吊足場(吊り足場)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設屋根の上方を覆う新設屋根を配置する新設屋根配置工程と、
前記新設屋根が配置された後で前記既設屋根を解体する既設屋根解体工程と、
を有する屋根改修工法。
【請求項2】
前記新設屋根配置工程は、
前記新設屋根を構築する新設屋根構築工程と、
前記新設屋根を構築した場所から前記新設屋根を配置する配置場所までの前記新設屋根の移動路を設置する移動路設置工程と、
構築された前記新設屋根を前記移動路を通じて移動させ前記配置場所に配置する新設屋根移動配置工程と、
前記新設屋根を前記配置場所に設置する新設屋根設置工程と、
を有する請求項1に記載の屋根改修工法。
【請求項3】
前記新設屋根は、前記移動路上で移動方向を変えながら移動される請求項2に記載の屋根改修工法。
【請求項4】
前記移動路上に太陽エネルギーを利用する機能部材を設置する機能部材設置工程を有する請求項2又は請求項3に記載の屋根改修工法。
【請求項5】
前記既設屋根解体工程は、
前記既設屋根の下側に移動可能な吊り足場を取り付ける足場取付工程と、
前記吊り足場の上で前記既設屋根を解体する解体工程と、
を有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の屋根改修工法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の屋根改修工法で構築された前記新設屋根と、
前記新設屋根が上部に設置された躯体と、
を有する構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−52512(P2011−52512A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205165(P2009−205165)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】