説明

屋根板取り付け金具

【課題】改修の目的や断熱・音鳴り抑制機能付与の目的で、下葺屋根の上に上葺屋根を取り付けるため金具において、下葺屋根を固定しているボルト部分に対しての固定が高強度で安定して行えるようにする。
【解決手段】上向きの剣先ボルト25と固定具26とによって取り付けられた下葺屋根21の上に固定され、上部に設けられた剣先ボルト45で上葺屋根を取り付ける屋根板取り付け金具11であって、下葺屋根21の頂面21aに接地する一対の接地片56,56を備えるとともに、これら接地片56,56の対向縁に、接地片56,56板同士を近接させたときに固定具26における外周に張り出す鍔状部26dの下に入り込んで、鍔状部26dの下に備えられたパッキン26c部分を締め付ける湾状の挟持縁56aが形成された屋根板取り付け金具11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、上向きのボルトを用いて取り付けられた屋根(下葺屋根)の上に屋根(上葺屋根)を葺成するときに用いられる屋根板取り付け金具に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトを用いて取り付けられた屋根の上に屋根を葺成することは、改修の目的や機能(断熱や音鳴り抑制)付与の目的で行われている。
【0003】
改修の目的で使用される屋根板取り付け金具としては、たとえば下記特許文献1に記載のクランプ金具があった。
【0004】
このクランプ金具は、下葺屋根を取り付けているボルトに取り付ける金具であり、断面箱状で、上部を上葺屋根材の山部に沿う断面形状にするとともに底面部を下葺屋根の山部に沿う断面形状に形成し、この底面部には、端縁に開口する切欠きを有し、この切欠きの長さ方向の中間部分にボルトが入る穴を有している。切欠きは端縁から穴に向けて次第に幅狭となっている。
【0005】
このような形状のクランプ金具は、下葺屋根と、ボルトに螺合したナットの下の座金との間のパッキン部分に強制的に打ち込んで固定し、その後、クランプ金具の上面に対してドリルタッピングネジを用いて上葺屋根を直接取り付ける。
【0006】
しかし、特許文献1のクランプ金具を用いた場合には、クランプ金具を下葺屋根の面方向に沿って叩き込んで固定を行うので、老朽化している下葺屋根やボルト、パッキンを損傷してしまうなどの問題点があった。
このため、下記特許文献2、3に記載の金具が案出された。
【0007】
特許文献2に記載の金具は、下葺屋根を固定しているボルトに嵌合してこれをつかむようにして固定する構成の屋根改修用クランプ具である。このクランプ金具では、ボルトに嵌合するために割り溝を有する筒状のクランプ具を設けるほかに、このクランプ具の嵌合状態を保持するために締め付けるナットも必要であり、製作にコストの掛かるものであった。
【0008】
特許文献3に記載の金具は、下葺屋根を固定しているボルトに対してこれを挟むように固定するクリップと、正面視山形に形成されて上部の内側に上記のクリップを保持する台座とを有するものであり、台座の両下端には下葺屋根の上に安定する足部が形成されている。上葺屋根の取り付けは、台座にドリルタッピングネジを螺合して行う。
【0009】
特許文献3に記載の金具は、特許文献2の金具と異なり、ボルトをつかむようにして固定するだけではなく、足部が荷重を支えるので、特許文献2の金具に比して荷重に強い固定が可能である。
【特許文献1】特許2907422号公報
【特許文献2】特開2001−279876号公報
【特許文献3】特開2001−279874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、下葺屋根を固定しているボルトは、改修せねばならない既設折板と同様に老朽化し、錆びている。つまり、芯部位やナットより下の部分は強度を有するものの、屋根の上に出ているねじ山はボロボロの状態であり、その程度も様々である。このため、特許文献2の金具のように内周面にねじ山を有するクランプ具を嵌合して外側からナットで締め付けても締め付けが利かず、ボルト部分で強固な固定状態を得られない場合がある。特許文献3の金具のようにクリップを用いた場合も同様である。
【0011】
したがって、特許文献2や3の金具の如くボルトをつかむようにして固定しても、安定した固定強度は期待できない。
【0012】
また、たとえ新設の屋根を葺成する場合でボルトが新品であっても、ボルトをつかむようにして固定するだけのものでは、下葺屋根との接触面積が小さく、正圧や負圧によってボルトに掛かる負荷は大きい。
【0013】
さらに、中小型の建物で好適に使用されている、いわゆる「88(ハチハチ)」と称される折板(以下、「88折板」という。)などは剣先ボルトによって取り付けられるが、この88折板を用いて機能性屋根、すなわち断熱や音鳴り抑制が可能な屋根を葺成する金具はこれまでなかった。これは、88折板の高さが88mmであるため、上述のように安定した固定状態を、下葺屋根に近い部分においてコンパクトに得られなかったからであると考えられる。
【0014】
そこで、この発明は、固定に際して下葺屋根やボルトなどを損傷したりすることがなく、容易に固定できる上に、固定時の安定性や強度が良好であり、断熱や音鳴り抑制の機能を付加することもできるような屋根板取り付け金具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そのための手段は、上向きのボルトと該ボルトに螺合される固定具とによって取り付けられた下葺屋根の上に固定され、上部に設けられた固定手段で上葺屋根を取り付ける屋根板取り付け金具であって、上記下葺屋根の頂面に接地する一対の接地板を備えるとともに、これら接地板の対向縁に、接地板同士を近接させたときに上記固定具における外周に張り出す鍔状部の下に入り込んで、鍔状部の下に備えられたパッキン部分を締め付ける湾状の挟持縁が形成された屋根板取り付け金具である。なお、上記頂面とは、下葺屋根における上端部分の面積を有する部分のことを意味し、平面であるか否かは問わない。また頂面は、形状によっては外観上区分できる場合も明確に区分できない場合もある。
【0016】
接地板が下葺屋根の頂面に接触するとともに、接地板の挟持縁が、ボルトにおける老朽化していないパッキン部分を締め付けて、固定がなされる。挟持縁は、先端縁が先鋭となる形状であるとよい。特に、上面側にのみ斜面が形成される形態であるとよい。パッキン部分を不必要に圧縮して、損傷してしまうことを防止できる。
【0017】
上記の一組の接地板は、一つの部材からなるものであるも、別の部材からなるものであるもよい。前者の場合には部品点数の低減を図れ、後者の場合には製造に当たって形態の簡素化を図れる。
【0018】
上記の挟持縁の両側には、挟持縁による挟持が完了したときに互いに当接する当接部が形成されるとよい。当接部の当接により締めすぎを防止して、適正な固定状態を得られる。
【0019】
上記の接地板を有する本体金具には、斜め下方に向けて突出して、接地板が下葺屋根の頂面に接地したときに、頂面の両側から斜めに連続した傾斜面に沿うように接触する脚部が形成されるもよい。接地板が下葺屋根の頂面と傾斜面に接触するので、一層の安定した固定状態を得られる。
【0020】
さらに、上記の固定手段が、接地板を有する本体金具の上部に取り付けられた合成樹脂製の断熱部材に対して、本体金具とは非接触に取り付けられるとよい。断熱部材は本体金具の上部に挟み込むようにして容易に取りつけることができる。
【0021】
この場合、固定手段は、断熱部材内をスライド移動するスライダと、スライダに対して取り付けられた剣先ボルトとを有するものであるとよい。
【0022】
別の手段は、上記の屋根板取り付け金具を用いて構成された屋根である。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、この発明によれば、下葺屋根に対する固定は、下葺屋根の頂面部分において、強制的に打ち込んで固定するのではなく、一対の接地板を近接させて行うので、下葺屋根などを損傷することなく固定できる。しかも、固定を行う部分は、外部に露出していた部分とは異なり、錆びなどがまわった老朽化した部分ではないので、改修する場合であっても、安定した固定状態を得られる。さらに、接地板の接地とボルトに対する挟持とにより固定するので、固定状態は安定したものとなる。
【0024】
また、上述のように下葺屋根の頂面部分の低い位置において固定がなされるので、上部に機能性を有するための構造を得ることができる。このため、断熱や音鳴り抑制の機能を付加することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、屋根板取り付け金具11(以下、「取り付け金具」という。)の斜視図であり、この取り付け金具11は、図2に示したような折板からなる縦葺の下葺屋根21の上に固定され、断熱と音鳴り抑制を図ることのできる屋根22(図3参照)を葺成するために使用するものである。下葺屋根21は、下地材23の上に固定されたタイトフレーム24の剣先ボルト25と、これに螺合される固定具26とで取り付けられる。固定具26は、ナット26aと、ナット26aの下の座金26bと、座金26bの下のパッキン26cとからなり、座金26bの下側部分が、外周に張り出す鍔状部26dである。
【0026】
この例において、取り付け金具11を用いて取り付ける上葺屋根27は、下葺屋根21と同じく縦葺の折板からなるものを示したが、その他の屋根材からなるものであるもよい。また、上記の屋根22は、老朽化した屋根を改修して得るものであるも、すべて新たに葺成するものであるもよい。前者の場合、上記の下葺屋根21が老朽化した既設の屋根である。
【0027】
取り付け金具11は、図4に示したように、上部の上部固定部材31と、下部の本体金具51とからなる。
【0028】
まず、上部固定部材31の構造について説明する。
上部固定部材31は、図5に示したように、合成樹脂製の断熱部材32と、これに一体的に取り付けられる固定手段としてのスライダ41及び剣先ボルト45からなる。
【0029】
断熱部材32は、略直方体形状をなすブロック状で、左右両側面における上側位置には、本体金具51と係合する係合溝33が形成されている。係合溝33は、正面側、すなわち屋根の勾配方向下側が開放され、背面側、すなわち屋根の勾配方向上側が閉塞されている。
【0030】
この係合溝33より上の上部34は正面視等脚台形状に形成されている。この部分は、上葺屋根27の山部の下側に位置する部分である。そして、この上部34の上面から下に向けて長手方向に長い長孔35が形成されている。この長孔35は、上記の剣先ボルト45が移動する孔であり、所望のスライドを実現できる長さに設定されている。
【0031】
この長孔35は、上部34の上面から上下方向の中間部分まで形成される。すなわち、断熱部材32の係合溝33より下の下部36における上下方向の中間部には、長手方向に貫通するスライド溝37が形成されており、長孔35はこのスライド溝37まで形成される。スライド溝37の幅寸法は、長孔35の径よりも大きく設定されている。
【0032】
スライド溝37には、短冊状の金属板からなる上記のスライダ41が保持される。スライダ41は、スライド溝37内をスライド移動するもので、一端42がL字状に折曲されている。スライド溝37に対して保持するには、スライダ41を、他端43側から挿入した後、その他端43をL字状に折曲して抜け止めを図る。
【0033】
スライダ41の中央には、ねじ孔44が形成され、このねじ孔44に、剣先ボルト45が螺合により一体化される。剣先ボルト45は、上側部分にねじを有した剣先部46を有し、この下に円板状の鍔部47を有する。鍔部47の下には、剣先部46よりも大径でねじのない円柱部48を有し、この下端部にスライダ41に対する固定用の雄ねじ49を有する。このような鍔部47付きの剣先ボルト45は、削り出しによって形成することもできるが、穴あきの円板状の部材を圧入して一体化することで得ることもできる。
【0034】
断熱部材32におけるスライド溝37よりも下には、スライド溝37の長さ方向と直交する左右方向に貫通した貫通孔38が形成されている。この貫通孔38は、本体金具51との結合のための結合ボルト71を挿通する部分である。
【0035】
なお、図中39は、左右方向に張り出すストッパであり、断熱部材32を本体金具51に組み付けるときに、位置規制を行う。また、下部36の正面には左右方向に湾曲する曲面36aが形成されている。
【0036】
断熱部材32とスライダ41及び剣先ボルト45の関係について付言すると、スライダ41及び剣先ボルト45は、上葺屋根27を固定するまでのあいだ断熱部材32の長さ方向の中間に位置しているのが望ましい。そのための構成として、図6に示したように、長孔35の内面における両側面に、平面視略直角三角形状をなす2個の規制突起35a,35aが形成される。これらの規制突起35aは、所定位置に配した剣先ボルト45を挟む斜めの位置に配設され、取り付け金具11の輸送中等における不要な移動を規制する一方、上葺屋根27が伸縮するときにかかる負荷による移動は許容する。葺成当初は剣先ボルト45の移動が固い場合であっても、合成樹脂からなる規制突起は、磨耗などの発生により、すぐに円滑なスライドが行われるようになる。
【0037】
このような形態や配置の規制突起35aのほかに他の構造を採用することもできる。たとえば規制突起は板状などであるもよい。また、図7に示したように剣先ボルト45の鍔部47を利用することもできる。すなわち、鍔部47の一部に円形の規制孔47aをあけ、この規制孔47aに挿入される規制突起34aを断熱部材32の上面に形成する。この場合には、取り付け金具の輸送中等における不要な移動を規制する一方、屋根が伸縮するときにかかる負荷によって規制突起34aが折れるように設定する。
【0038】
つぎに、本体金具51の構造について説明する。
本体金具51は、図4に示したように、左右一対の金具担体51a,51aからなる。これら金具担体51aは同一形状で、上部が、上記の上部固定部材31を保持する保持部52であり、下部が、下葺屋根21を固定している剣先ボルト25と固定具26の部分を締め付ける締め付け部55である。
【0039】
保持部52は、正面視逆L字状の側面に沿う側板53と、側板53の上端から曲がって断熱部材32の係合溝33に係合する係合片54とを有する。側板53における断熱部材32の貫通孔38に対向する部位には、角孔53aが形成され、結合ボルト71の挿入に備えている。図中72は、結合ボルト71に螺合するナットである。
【0040】
締め付け部55は、上記の側板53のうちの断熱部材32の下部36より下に延設された部分と、側板53の下端から上記の係合片54と同一方向に曲がった接地板としての接地片56と、側板53の下部において外方に張り出す張り出し部53bと、この張り出し部53bの下端から斜め下方に向けて延設した脚部57とを有する。
【0041】
接地片56は、下葺屋根21の頂面21aに面接触する部分であり、接地片56が頂面21aに接地したときに、接地片56より上側であって断熱部材32の下側の空間に下葺屋根21の剣先ボルト25と固定具26が納まるように、側板53の長さが設定されている。
【0042】
また、接地片56の長さは、各金具担体51aを断熱部材32の左右両面に沿わせて結合ボルト71で結合したときに接地片57同士が当接し合う長さである。
【0043】
この接地片56の幅方向の中間部分には、直線状をなしている両側部分とは異なり、湾状に入り込む平面視略円弧状の挟持縁56aが形成されている。挟持縁56aは、上記のように接地片56同士を近接させたときに下葺屋根21の固定具26における座金26bの下に入り込んで、座金26bの下に備えられたパッキン26cを締め付ける部分である(図10参照)。挟持縁56aは、上面にのみに傾斜面56bを有する先鋭に形成されている。
【0044】
挟持縁56aの両側は、接地片56の長さが上述のように形成されているため、挟持縁56aによる挟持が完了したときに、対向する部分同士で互いに当接する当接部としての当接縁56cである。このような当接縁56cの存在によって締めすぎが防止できて適正な固定状態を得られる。
【0045】
上記の脚部57は、下葺屋根21の頂面21aに載置したときに頂面21aの両側から斜め下に連続する傾斜面21bに沿うように接触する部分であり、接地片56の接地時の安定性の向上を図っている。
【0046】
このように構成された取り付け金具11では、図2に示したように、下葺屋根21の剣先ボルト25と固定具26部分に対して、上から被せるようにして頂面21aに載置する。載置にあたって結合ボルト71を緩めて、本体金具51を構成する各金具担体51aを若干離間しておき、挟持縁56aを固定具26の鍔部26dの下に入り込ませる。
【0047】
そして、結合ボルト71を締めると、図8に示したように各金具担体51a同士は相互に近接し、傾斜面56bを有して先鋭となっている挟持縁56aがパッキン26c部分を挟持する。この挟持によって挟持縁56aは、座金26bの鍔状部26dの下に食い込む。同時に、挟持縁56aを有する接地片56が、下葺屋根21の頂面21aに面で接触する。さらに、脚部57が下葺屋根21の傾斜面21bに面で接触する。
【0048】
このため、剣先ボルト25の基部に近い部分を中心にして多元的な固定が行え、強固な固定が実現できる。剣先ボルト25の基部に近い部分は固定具26によって覆われているので、下葺屋根21が既設の屋根であって改修が必要な場合であっても老朽化はなく、固定状態は強く安定したものとなる。しかも、挟持縁56aは斜面56bを有し、先端縁が先鋭となる形状であるので、パッキン26c部分を不必要に、また乱暴に圧縮して、損傷してしまうことを防止でき、このことによっても、強度の高い固定が可能となる。
【0049】
また、締め付け部55の締め付けを行う結合ボルト71は、取り付け金具11の中でも上側に存在するので、下葺屋根21の山部と山部との間の狭い位置で締め付け作業を行う場合のような窮屈さはなく、締め付け作業が容易である。
【0050】
そして、このように強固に固定された取り付け金具11の上部の上部固定部材31は、結合ボルト71と係合片54及び係合溝33によって本体金具51と強固に一体化している。
【0051】
上葺屋根27は、このような上部固定部材31の剣先ボルト45の剣先部46に対して打ち込んで、固定具77で締め付ければ取り付けが完了する(図8、図9参照)。
【0052】
このようにして取り付けられた上葺屋根27は、熱の作用により伸縮しようとすると、図9に示したように、剣先ボルト45は上葺屋根27の伸縮に伴ってその長さ方向に移動しようとする。この力をスライダ41が受けて、断熱部材32のスライド溝37内での安定したスライド移動により、剣先ボルト45を上向きの姿勢のまま移動させる。また、上葺屋根27と接触している剣先ボルト45は断熱部材32によって本体金具51との接触を断たれているので断熱効果を得ることができるとともに、上述のような剣先ボルト45の移動によって、音鳴り抑制効果を得ることもできる。
【0053】
また、本体金具51が同一形状の2個の金具担体51aからなるので、金具担体51aの形状を簡素にでき、加工コストを抑えることができる。
【0054】
以下、その他の例について説明する。この説明において、先の構成と同一又は同等の部位については同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0055】
図10は、本体金具51を一枚の金属板で形成した取り付け金具11の例である。一枚の金属板からなるので、部品点数の低減を図れる。
【0056】
本体金具51は、図11、図12に示したように、上記の上部固定部材31を保持する保持部52を上部に有し、この保持部52の下に、下葺屋根21に固定する締め付け部55を有している。
【0057】
保持部52は、図13にも示したように、断熱部材31の下部36が嵌合対応する間隔を隔てて配設された左右一対の側板53,53で構成され、側板53の上端には、相対向する方向に曲がって断熱部材32の係合溝33に係合する係合片54が形成されている。また、断熱部材32を組み付けたときに断熱部材32の貫通孔38と対応する部分に角孔53aが形成され、結合ボルト71の挿入に備えている。
【0058】
締め付け部55は、図14にも示したように、上記の側板53を立設する底板58の前後方向の両端から下に延設されている。この締め付け部55は、底板58の左右方向の幅寸法より長く形成され、下葺屋根21を固定している剣先ボルト25と固定具26を収容する空間を底板58の下に形成する垂直片59と、固定時に下葺屋根21の頂面21aに接地する接地板としての接地片56とを有する。垂直片59と接地片56は直角に折曲されており、接地片56は底板58と平行ではなく外側に傾いた状態、すなわち対向する接地片56間に隙間を有するように形成されている。接地片56の長さは、接地片56同士を近接させたとき、つまり底板58との間の部分で変形させて、垂直片59を底板58と直角にし、接地片56を底板58と平行にしたときに互いに当接し合う長さである。
【0059】
また、接地片56の両側部分であって、下葺屋根21の頂面21aに載置したときに頂面21aの両側から斜め下に連続する傾斜面21bに沿うように接触する脚部57が、斜め下に向けて突出するように切り起こしにより形成されている(図11参照)。
【0060】
さらに、上記の垂直片59の両側部分には角孔59aが形成され、締め付け部55の底板58と垂直片59との間の部分を変形して接地片56,56同士を近接させる2本の締め付けボルト75,75を保持している。図中76はナットである。これら締め付けボルト75は、先端側のねじ部75aと基端側の非ねじ部75bを有し、非ねじ部75bの長さは、上記の当接縁56c,56c同士が当接したときにそれ以上の螺合を阻止する長さに設定されている。すなわち、二重に締め過ぎを防止する。
【0061】
このように構成された取り付け金具11では、下葺屋根21の剣先ボルト25と固定具26部分に対して、上から被せるようにして頂面21aに載置し、下端部分の締め付け部55の締め付けボルト75のナット76を締め付ける。一対の接地片56,56が屋根の勾配方向で対向するので、締め付けボルト75は、取り付け金具11のなかでは低い位置にあっても、下葺屋根21の山部と山部との間の狭い位置で締め付け作業を行う場合のような窮屈さはなく、締め付け作業が容易である。
【0062】
締め付けに際しては、締め付け部55の挟持縁56aが固定具26の座金26bの下のパッキン26c部分に当たるようにして行う。すると、図15に示したように、締め付けによって挟持縁56a,56a同士は相互に近接し、傾斜面56bを有して先鋭となっている挟持縁56aがパッキン26c部分を挟持する。この挟持によって挟持縁56aは、座金26bの鍔状部26dの下に食い込む。同時に、挟持縁56aを有する接地片56が、下葺屋根21の頂面21aに面で接触する。さらに、接地片56の下面から突設された脚部57が下葺屋根21の傾斜面21bに面で接触する。
【0063】
このため、上述と同様の作用効果が得られる。
【0064】
図16は、脚部を別部材の添付で構成した例である。
すなわち、本体金具51の金具担体51aからは、上記の張り出し部53bを省略してよりシンプルな形状とし、脚部は側板53の外側面に沿わせる補助金具61に形成している。
【0065】
本体金具51は、2個の金具担体51a,51aからなる。金具担体51aは、上部固定部材31の断熱部材32における係合溝33に係合する係合片54を上端に有し、この係合片54から下に向けて側板53を有する。側板53は断熱部材32の高さにかかわりなく接地片56が設けられるべき位置までの長さである(図17参照)。側板53の下端からは、係合片54と同様に相対向する方向に向けて接地片56が延設され、接地片56の先端からは、金具担体51a,51a同士が互いに近接して固定が完了したときに当接する当接片56dが立設されている。
【0066】
当接片56dには、下葺屋根21を取り付けている剣先ボルト25と固定具26をぬすむぬすみ56eを有するとともに、接地片56には、先の構成と同様の挟持縁56aが形成されている。
【0067】
また、当接片56dと側板53における挟持縁56aの両側部分には、角孔56f,53cが形成され、締め付けボルト75,75が保持されている。
【0068】
補助金具61は、垂直に伸びる垂直片62と、垂直片62の下端から斜め下に向けて延びる脚部63とからなり、垂直片62には、締め付けボルト75を挿通する角孔62aが形成されている。脚部63は、図17に示したように、下葺屋根21の傾斜面21bに沿って面接触するものである。
【0069】
なお、図18に示したように補助金具61を省略することもできる。脚部がなくとも、接地片56が面接触したうえで挟持を行うので、安定した固定状態が得られる。
【0070】
図19は、図1に示した取り付け金具11の金具担体51aにおける側板53の下部に、2本の締め付けボルト75を離間保持して、さらに一層の固定状態の向上を図った例である。
【0071】
図20は、本体金具51の接地片56の上方に、下葺屋根21の剣先ボルト25を挟持する挟持片81を備えた取り付け金具11の例を示す。接地片56のほかに挟持片81を有するので、固定状態のさらなる強化が可能である。
【0072】
本体金具11は、図4に示した上記の本体金具51と同様に、同一形状をなす左右一対の金具担体51aからなる。金具担体51aは、1枚の金属板で形成されている。すなわち、下部の締め付け部55は、図4に示した金具担体51aと同様に1枚の金属板からなる部分であるが、上部の保持部52は、上端の係合片54の先端部分で内側に折り返されて、断熱部材32の下方位置まで二重に形成されている。そして、内側に折り返された部分の下端部は、L字形に折り曲げられ、接地片56と平行に延びる挟持片81が一体に形成されている。
【0073】
図21に示したように、挟持片81の先端縁の幅方向の中間部には、平面視略半円弧状に欠ける挟持縁81aが形成され、その両側には、一対の金具担体51aが結合ボルト71で締め付けられたときに互いに当接する当接縁81bが形成されている。上記の挟持縁81aには、挟持片81の上面側の方が縦断面形状において先鋭となるような傾斜面81cが形成されている。この挟持縁81aの大きさは、下葺屋根21の剣先ボルト25を挟み込むのに必要な大きさである。
【0074】
また、老朽化した屋根を改修する場合には一般に、剣先ボルト25が腐食しているので、挟持縁81aの大きさの設定がむつかしいが、この場合には、図22に示したように、挟持片81の基部に、結合ボルト71による締め付け時に挟持片81が変形しやすくすべく、挟持片81の背面側に隙間を形成する変形許容部82を備えるとよい。なお、剣先ボルト25が腐食しているとはいえ、腐食しているのはねじ山を有する外周面部分であり、芯部分は腐食することなく残っているので、締め付けによる固定は強固に行える。
【0075】
さらに、上記のような挟持片81は、金具担体51aの保持部52側を二重に折り返さなくとも、図23に示したようにして構成できる。すなわち、金具担体51aとは別体の挟持用金具85を、金具担体51aの内側に沿わせて保持すればよい。挟持用金具85は、正面視略L字形をなし、垂直に延びる垂直部86の下端に、上記と同様の挟持片81を有する。垂直部86と挟持片81の間には、図22に示した変形許容部82と同一の目的を有する円弧状部分からなる変形許容部82が形成されている。
【0076】
このように挟持片81が形成された取り付け金具11では、下葺屋根21に対して固定するとき、各金具担体51aの接地片56が固定具26の下に入って締め付けを行うとともに、挟持片81が剣先ボルト25の固定具26より上に突出している部分を挟持する。つまり、上下に離間した2位置において締め付けが行われるので、上からの荷重にも引張りにも強い、安定した強固な固定状態が得られる。
【0077】
この発明の構成と上述の一形態の構成との対応において、
この発明のボルトは、上述の剣先ボルト25に対応し、
以下同様に、
固定手段は、剣先ボルト45に対応し、
接地板は、接地片56に対応し、
当接部は、当接縁56c、当接片56dに対応するも、
この発明は上述の構成のみに限定されるものではなく、その他の形態を採用することもできる。
【0078】
たとえば、上葺屋根を取り付ける固定手段が、馳締めタイプの折板を固定できるものであるもよい。
また、上葺屋根や下葺屋根に用いられる屋根材には88折板以外の折板等を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】屋根板取り付け金具の斜視図。
【図2】屋根板取り付け金具と下葺屋根の斜視図
【図3】屋根の断面図。
【図4】屋根板取り付け金具の分解斜視図。
【図5】上部固定部材の分解斜視図。
【図6】上部固定部材の一部断面平面図。
【図7】他の例に係る上部固定部材の正面図。
【図8】作用状態を示す一部破断正面図。
【図9】作用状態を示す断面図。
【図10】他の例に係る屋根板取り付け金具の斜視図。
【図11】図10の屋根板取り付け金具の使用状態の正面図。
【図12】図10の屋根板取り付け金具の分解斜視図。
【図13】図10の屋根板取り付け金具の正面図。
【図14】図10の屋根板取り付け金具の右側面図。
【図15】図10の屋根板取り付け金具の使用状態の断面図。
【図16】他の例に係る屋根板取り付け金具の斜視図。
【図17】図16の屋根板取り付け金具の使用状態の正面図。
【図18】他の例に係る屋根板取り付け金具の分解斜視図。
【図19】他の例に係る屋根板取り付け金具の斜視図。
【図20】他の例に係る屋根板取り付け金具の一部破断正面図。
【図21】図20の金具担体の斜視図。
【図22】他の例に係る屋根板取り付け金具の一部破断正面図。
【図23】他の例に係る屋根板取り付け金具の一部破断正面図。
【符号の説明】
【0080】
11…屋根板取り付け金具
21…下葺屋根
21a…頂面
21b…傾斜面
22…屋根
25…剣先ボルト
26…固定具
26c…パッキン
26d…鍔状部
27…上葺屋根
31…上部固定部材
32…断熱部材
41…スライダ
45…剣先ボルト
51…本体金具
56…接地片
56a…挟持縁
56b…傾斜面
56c…当接縁
56d…当接片
57,63…脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上向きのボルトと該ボルトに螺合される固定具とによって取り付けられた下葺屋根の上に固定され、上部に設けられた固定手段で上葺屋根を取り付ける屋根板取り付け金具であって、
上記下葺屋根の頂面に接地する一対の接地板を備えるとともに、
これら接地板の対向縁に、接地板同士を近接させたときに上記固定具における外周に張り出す鍔状部の下に入り込んで、鍔状部の下に備えられたパッキン部分を締め付ける湾状の挟持縁が形成された
屋根板取り付け金具。
【請求項2】
前記挟持縁の両側に、挟持縁による挟持が完了したときに互いに当接する当接部が形成された
請求項1に記載の屋根板取り付け金具。
【請求項3】
前記接地板を有する本体金具に、斜め下方に向けて突出して、接地板が下葺屋根の頂面に接地したときに、頂面の両側から斜めに連続した傾斜面に沿うように接触する脚部が形成された
請求項1または請求項2に記載の屋根板取り付け金具。
【請求項4】
前記固定手段が、接地板を有する本体金具の上部に取り付けられた合成樹脂製の断熱部材に対して、本体金具とは非接触に取り付けられた
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の屋根板取り付け金具。
【請求項5】
前記固定手段が、断熱部材内をスライド移動するスライダと、スライダに対して取り付けられた剣先ボルトとを有する
請求項4に記載の屋根板取り付け金具。
【請求項6】
前記請求項1から請求項5のうちのいずれか一項に記載の屋根板取り付け金具を用いて構成された
屋根。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2009−156019(P2009−156019A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158996(P2008−158996)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(390035301)株式会社マルイチ (16)
【Fターム(参考)】