説明

屋根用ユニット、屋根及び温室

【課題】海水や地下水などの塩水を淡水化して植物栽培用の温室に潅水として供給する場合に、コンパクトで優れたメンテナンス性が得られるようにすること
【解決手段】底面部が水平で、光透過性の上面部が傾斜している筐体を用い、この筐体内に塩水貯留槽を設けると共に筐体の後面及び前面に夫々塩水供給口及び塩水排出口を形成する。上面部の内面は塩水から蒸発した水蒸気が凝縮して淡水となりその淡水を付着させて前面に案内する役割を持つ。こうして構成されたユニットを多段に配列して屋根を構成し、上段側のユニットから排出された塩水を下段側のユニット内に導くと共に各ユニット内にて太陽光により淡水化を行ってその淡水を回収し、例えば植物栽培用の温室内に自重落下させ潅水として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光のエネルギーにより、塩水を淡水化するための屋根用ユニット、このユニットを複数用いて構成した屋根及びこの屋根を用いた植物栽培用の温室に関する。
【背景技術】
【0002】
海水または塩濃度の高い地下水などの塩水を太陽エネルギーを活用して淡水化し、その淡水を農業用水や植物栽培用の潅水として利用することが検討されている。このような手法により淡水を得ることができれば、塩水資源はあるが淡水資源を持たない地域における農業や、水が汚染されている地域での農業に対して有効であり、また緊急時に必要とされる飲料水を確保できる利点もある。こうした手法を実現するためにハウス栽培を行う温室と淡水化システムとを組み合わせ、塩水をこのシステムに供給して、温室に照射される太陽光により塩水を蒸発させ淡水を製造する技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、温室の床面に水盤を置き、この水盤内の塩水に太陽光を照射して、発生した水蒸気を二重構造の外壁内へと導き、この外壁内において水蒸気を凝縮させて水を得る淡水化装置が記載されている。
【0004】
しかし、このような装置は大型であり、製造された淡水を植物栽培用の温室の灌水をして利用しようとすると、温室とは別個に設置する必要があり、設置面積が大きくなる。また、淡水化装置から植物栽培用の温室へ淡水を供給するためのラインやポンプが必要であり、更にこのポンプを稼働させるための動力が必要である。更にまた、装置の構造が複雑であるため、装置の清掃や修理などのメンテナンスが困難であることに加え、装置の製造や組み立てに時間がかかり、経済的ではない。加えて、この装置はバッチ式であり、塩水が溜め置かれる水盤に所定の頻度で塩水を供給する必要がある。そのため、この水盤には水流が形成されないので、塩水の蒸発によって、塩水に含まれていた不純物が濃縮されて析出するが、この析出物は淡水化の妨げになるので、定期的に除去する必要がある。また、塩水にバクテリアや微生物が繁殖して、衛生的に好ましくないので、定期的にメンテナンスを行わなければならない。更にまた、専用のスペースが必要なことから、大規模化が困難であるという課題もある。
【0005】
【特許文献1】特開平11−207318
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、屋根を太陽光を利用した淡水化システムとして利用することができ、これにより例えば植物栽培用の温室に組み込むことができて、設置面積の増大を抑えることができ、更に熱線を屋根面で遮断することにより、温室内の冷房負荷を軽減することができると共に、メンテナンス性にも優れた屋根用ユニット及びこのユニットを用いた屋根を提供することにある。また他の目的は、この屋根を備えることにより、淡水化システムを備えながら、設置面積の増大化を抑え、簡便な構造の植物栽培用の温室を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の屋根用ユニットは、
複数接続されることにより屋根を形成する屋根用ユニットであって、
上面部が太陽光を透過する材料からなり、当該上面部が傾斜した状態で設置される筐体と、
この筐体内の底部に設けられ、塩水を貯留するための塩水貯留槽と、
前記筐体の壁部に設けられ、前記塩水貯留槽に塩水を供給するための塩水入口と、
前記塩水貯留槽を越流した塩水を前記筐体の外部に排出するための塩水出口と、
前記塩水貯留槽内の塩水から蒸発した水蒸気が凝縮し、前記上面部の内面に沿って流下した淡水を回収して、前記筐体の外部に排出するための淡水回収口と、を備えたことを特徴とする。
前記塩水貯留槽の底面部は、少なくとも厚さ方向の一部が赤外線吸収性の高い材料により構成されていることが好ましい。
また、前記塩水貯留槽の底面部は、少なくとも厚さ方向の一部が前記筐体の上面部よりも赤外線吸収性の高い材料により構成されていることがより好ましい。
前記筐体の上面部の内面は、親水性を備えていることが好ましい。
前記筐体の上面部は、開閉可能に設けられていても良い。
【0008】
本発明の屋根は、
上述の屋根用ユニットを複数用いて順次高さ位置が低くなるように連設してなるユニット群と、
これらユニット群のうち、最上段のユニットの塩水入口に接続された塩水供給路と、
上段側のユニットの塩水出口と下段側のユニットの塩水入口とを互いに接続する接続流路と、
前記ユニット群のうち、最下段のユニットの塩水出口に接続された塩水排出路と、
各ユニットの淡水回収口に接続された淡水回収路と、を備えたことを特徴とする。
各ユニットは梁に着脱自在に取り付けられていることが好ましい。
前記梁は、屋根の上端部から下端部に伸びるように設けられていることが好ましい。
【0009】
本発明の温室は、
上述の屋根が設けられた、植物栽培用の空間を区画して形成するハウス本体と、
前記屋根にて生成された淡水をハウス本体内に案内するための淡水案内路と、を備えたことを特徴とする。
また、本発明の温室は、最下段のユニットにおける塩水出口から排出された塩水を前記塩水供給路に循環させる循環手段を備えていることが好ましい。
【0010】
更に、本発明の温室は、
内部に貯留された水を太陽光によって加温するための加温槽と、
前記塩水供給路の一部を構成し、当該塩水供給路内の塩水と加温された水との間で熱交換を行うために前記加温槽内に設けられた熱交換手段と、を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、淡水化機能を備えたユニットを複数組み合わせて屋根を構成するようにしているため、例えば植物栽培用の温室などの建物に適用することで、設置面積の増大化が抑えられ、コンパクトな淡水化機能付きの建物を構築することができる。また淡水化機能を備えながら、屋根の設置作業が容易でメンテナンス性にも優れ、更にユニットの組み合わせ数を調整することで淡水化機能部分の規模を自由に設定できるなどの効果がある。またこの屋根を用いた植物育成用の温室によれば、上述の効果に加え、屋根で得られた淡水を自重で温室内に案内して灌水として利用できるので、淡水の供給系がコンパクトになり、また例えばその供給系の動力を不要とすることができ、消費電力の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の屋根用ユニット、この屋根用ユニットを用いて構成した屋根及びこの屋根を適用した植物栽培用の温室の各実施の形態について順次説明する。本発明の屋根用ユニット1は、多段に構成されて後述の屋根をなすが、まずこの屋根用ユニット1について、図1を参照して説明する。屋根用ユニット1は、前方側が低くなるように上面部18が傾斜した箱型形状をなし、筐体11、筐体11の内部に左右方向に亘って設けられた隔壁12及び集水壁13を備えている。この上面部18は、風や外力などによって撓んだり振動したりしないような強度を有し、水の接触角が小さくなるように(水が大きな液滴となることを抑えるために)、親水性を備えている。そしてこの例では、上面部18は、筐体11の蓋体を構成し、後縁側を支点として水平軸回りに回動して開閉できるように、図示しない例えば蝶番などによって後面15に回動自在に支持されている。
【0013】
隔壁12は、軟質の材料例えばゴムからなり、筐体11の両側面の間に亘って設けられている。この隔壁12、両側面及び後面15によって区画された領域は、塩水を貯留するための塩水貯留槽19をなしている。また、後面15には、この塩水貯留槽19に塩水を供給するための塩水供給ポートである塩水入口20が設けられており、塩水供給路をなす塩水供給管60を介して例えばサンドフィルターのような濾過装置、あるいは薬品処理などにより極力不純物が除かれた、海水や地下水などの塩水を貯留したタンクからなる塩水源61に接続されている。
【0014】
集水壁13は、筐体11の前面14に対して傾斜すると共に、筐体11の側面に対して傾斜するように設けられており、後述するように、上面部18の内面に沿って流下した淡水が淡水回収口22に向かって流れるように構成されている。即ち、後述するように、上面部18の内面を伝って前面14側に向かって流下してきた淡水は、前面14に達すると、前面14に沿って下方に流れると共に、集水壁13の下端部と前面14とによって傾斜するように形成された流路21内を図1(a)中右側から左側に向けて流れるように構成されている。そして、前面14における流路21の下側(図1(a)中左側)には、この流路21を流れてきた淡水を筐体11の外部に排出して回収するための淡水回収ポートである淡水回収口22が形成されている。尚、この例では、隔壁12は、隔壁12の上端部が上面部18と平行になるように、台形形状となっているが、例えば平行四辺形の形状であっても構わない。
【0015】
この筐体11には、赤外線吸収体であるフィルム23が床面17の下面あるいは上面に全面に亘って貼設されており、筐体11の上方から照射される太陽光に含まれる近赤外線や遠赤外線(以下、「赤外線」という。)を吸収して、それ以外の光(可視光や紫外線)を筐体11の下方に透過できるように構成されている。後述するように、フィルム23が吸収した赤外線によって、筐体11内の塩水が加熱されて、水蒸気となる。
【0016】
隔壁12と集水壁13との間において、筐体11の床面17とフィルム23とには塩水排出ポートである塩水出口24が設けられており、塩水貯留槽19からあふれ出た塩水は、この塩水出口24から、この塩水出口24に接続された排水管24aを介して筐体11の外部に排出される。
【0017】
次に、上述の屋根用ユニット1を連設して構成した屋根について、図2、図3を参照して説明する。図2(a)は、上述の屋根用ユニット1を傾斜方向に例えば5台、水平方向に例えば3台連設した屋根2を表している。同図(b)は、この屋根2の一部を拡大して示している。尚、図3では、簡略化のため屋根用ユニット1を階段状に2段示した。
【0018】
屋根2は、頂部及び下縁に各々水平方向に設けられた水平梁71a、71b、この水平梁71a、71b間を接続するように傾斜して並行状に設けられた複数の傾斜梁71c及びこの水平梁71a、71bを支持するために、この水平梁71a、71bの下方に垂直に設けられた複数の柱71dを備えている。傾斜梁71cは、屋根用ユニット1を保持するためのものであり、屋根用ユニット1を吊り下げることができるように、取り付け部材25a、25bが固定されている。尚、屋根用ユニット1の床面17には、この取り付け部材25a、25bの底面が嵌合できるように、図示しない留め具が付されている。また、傾斜梁71cの傾斜角は、既述の屋根用ユニット1の上面部18の傾斜角とほぼ等しくなるように構成されている。この傾斜梁71cの下面側には、各屋根用ユニット1の淡水回収口22に一端側が接続された淡水回収路をなす淡水回収ホース72が傾斜梁71cに沿うように複数本配置されている。淡水回収ホース72の他端側は、最下段の屋根用ユニット1の下方において合流して、例えば柱71dに沿って下方に伸長している。
【0019】
屋根2の最上部の水平梁71a上には、この水平梁71aに沿うように、塩水供給管60が設けられており、この塩水供給管60からこの例では3台の最上段の屋根用ユニット1の塩水入口20に塩水を供給するためのホース75が接続されている。後述の図5において示すように、図3の塩水供給管60にはバルブ71が介設されており、各屋根用ユニット1に対して一括して塩水の給断を行うことができるようになっている。尚、塩水供給管60及びホース75は、塩水供給路をなすものである。
【0020】
また、互いに隣接する上段の塩水出口24と下段の塩水入口20とが接続流路73を介して接続されており、塩水源61の塩水が最上段の屋根用ユニット1から最下段の屋根用ユニット1に向けて順番に流れていくように構成されている。この最下段の屋根用ユニット1の塩水出口24から排出される塩水は、柱71dに沿って形成された塩水排出路74に接続されて、例えば大部分が屋根用ユニット1に戻され、一部が廃棄されるように構成されている。
このように、複数の屋根用ユニット1が階段状に多段に積層された屋根2が構成される。
【0021】
尚、図3において、寸法A〜C及びEは、例えば屋根用ユニット1の取り外し(メンテナンス)時に作業者が手を入れるためのスペースであり、この屋根2における淡水化に不要なスペースであるため、極力狭めて(例えば5〜10cm程度)、淡水化に必要な寸法Dを大きくとることが望ましい。
【0022】
次に、上述の屋根用ユニット1において塩水から淡水が得られる過程について図4を参照して説明する。図4(a)は、この屋根用ユニット1によって、屋外において例えば塩水が淡水化される時の様子を示している。まず、例えば塩水源61から塩水供給管60及び塩水入口20を介して筐体11内に塩水が供給されると、この塩水は隔壁12によって堰き止められて、塩水貯留槽19内に貯留する。
【0023】
そして、透明体である上面部18、塩水貯留槽19内の塩水及び床面17を介して、筐体11の上方から太陽光がフィルム23に照射される。このフィルム23において、既述のように、赤外線が吸収されて発熱する。この熱によって塩水貯留槽19内の塩水が加熱されて、塩水に含まれる水が蒸発すると、筐体11内が密閉されているため、筐体11内における水蒸気圧が高くなる。
【0024】
一方、床面17に赤外線を吸収するフィルム23を設けて、また上面部18の外面は外気に触れていることから、筐体11内の温度は、床面17側が高く、上面部18側が低くなっている。つまり、塩水貯留槽19内の塩水や床面17は、既述のように、フィルム23からの伝熱によって温度が上昇するが、上面部18付近の温度は、上面部18の上面が外気に曝されているため、外気とほぼ同程度の温度となっている。そのため、床面17側の空気は、暖められて軽くなり(体積が膨張して)、水蒸気と共に上面部18側に向けて上昇する。一方、上面部18側に向けて上昇した空気は、上面部18によって冷やされると、温度の下降に伴って飽和蒸気圧が低下する。
【0025】
そして、床面17側と上面部18側とで所定の温度差が生じて、更に床面17側の水蒸気圧(水の蒸発量)が所定の量以上であった場合には、過飽和となった水蒸気が上面部18の内面側で凝縮して水(以下、「淡水」という)となる。上面部18は、既述のように、前面14に向かって低くなるように傾斜しているので、上面部18の内面において得られた淡水は、上面部18の内面に沿って流下して、前面14に達すると、集水壁13と前面14とによって形成された流路21内をその傾斜に沿って下側に流れていき、淡水回収口22から筐体11の外部に排出される。尚、上面部18側において冷やされた空気は、重くなり(体積が減少して)、床面17側に下降して、再度暖められると共に、水蒸気を含むこととなる。このように、筐体11内では、鉛直方向における空気の循環が起こっている。
【0026】
以上のように、筐体11内において、内部の空気の加熱と冷却とが繰り返されると共に、塩水に含まれる水分が蒸発することによって、塩水から淡水が得られる。この淡水は、例えば農業用水や、飲用水などとして用いられる。
そして、淡水回収口22から回収される淡水の量以上の塩水が塩水源61から塩水貯留槽19に供給されているので、塩水貯留槽19からあふれ出た塩水は、塩水出口24から排出される。
【0027】
次いで、上述の屋根2における塩水の淡水化全体の作用について簡単に説明する。塩水は、バルブ71を開放することによって、塩水源61から塩水供給管60を介して最上段の屋根用ユニット1に供給される。この屋根用ユニット1において、既述のように塩水が淡水化して、淡水が淡水回収口22から淡水回収ホース72に排出される。
【0028】
また、塩水貯留槽19からあふれ出した塩水は、塩水出口24から接続流路73を介して下段の屋根用ユニット1に供給されて、上段の屋根用ユニット1と同様に、塩水が淡水化される。そして、下段の屋根用ユニット1に向かうにつれて、塩水中に含まれる塩分の濃度と温度とが上昇していき、最下段の屋根用ユニット1の塩水出口24から高温度で高濃度の塩水が排出される。尚、後述するように、この最下段の屋根用ユニット1から排出される塩水を、例えばその一部分あるいは全量を塩水供給管60に戻すようにしても良い。
各々の屋根用ユニット1において得られた淡水は、既述の通り、淡水回収ホース72によって、屋根2の下方に集められる。
【0029】
ところで、筐体11の内面に例えば塩水中に溶解していた成分などが析出して付着した場合、清掃する必要があるが、図4(b)に示すように、上面部18がその上端(奥側)を基点として開閉可能となっているので、容易に筐体11内の清掃を行うことができる。更に、塩水貯留槽19内の清掃を行う場合、既述の通り、隔壁12は軟質の材料例えばゴムによって構成されているため、例えば塩水貯留槽19内の析出物を取り除いた後、作業者がこの隔壁12を変形させることで、塩水と共に析出物などを塩水出口24から排出することができる。また、塩水貯留槽19内の清掃時だけでなく、屋根用ユニット1のメンテナンス時などには、重量物である塩水を上記と同様に排出して軽量化することで、屋根用ユニット1を作業者が容易に運搬することができる。
【0030】
上述の実施の形態によれば、塩水から淡水を得るための屋根用ユニット1を階段状に多段に接続して屋根2を構成しているため、塩水を最上段の屋根用ユニット1に汲み上げるだけで、上段の屋根用ユニット1から下段の屋根用ユニット1に塩水を供給する動力が不要になるので、淡水化のための電力を抑えることができる。
【0031】
この屋根用ユニット1は、上述したように、単純な構成であるため、設置、メンテナンスまたは操作が容易であることに加えて、その構成部品も単純であることから、規格化が容易であるので、コストを安く製造できると共に、複数台の屋根用ユニット1を組み合わせて1基の屋根2を構成することができ、更に屋根2の規模を自由に設計できる。そして、後述の植物栽培用の温室などの建物に組み合わせて設けることができるので、設置面積の増大化が抑えられる。
【0032】
また、個々の屋根用ユニット1を例えばメンテナンスのために取り外す場合において、その上段の屋根用ユニット1の塩水出口24とその下段の塩水入口20とを接続することで、残りの屋根用ユニット1だけで塩水の淡水化を行うことができ、屋根用ユニット1の部分的な補修や、構成材料の変更などのための取り外しを容易に行うことができる。また、通常時には、この屋根2を農業用などの用途に使用して、災害などが発生したときなどには、この屋根2を構成する屋根用ユニット1の何台かを緊急時の飲用水生成用として単独で用いることができる。この屋根2を構成する材料が例えば合成樹脂などであるので、軽量であり、運搬、清掃あるいは修理などのメンテナンスが容易である。
【0033】
傾斜梁71c上に屋根用ユニット1を乗せて屋根2を構成するようにしているため、各々の屋根用ユニット1の設置及び取り外しが容易である。この場合、例えば2人の作業者が、既述の傾斜梁71c上を移動して、屋根用ユニット1を持ち上げて、屋根用ユニット1の設置や取り外しなどを容易に行うことができる。
【0034】
また、上段の屋根用ユニット1において塩水の温度が上昇しているため、下段の屋根用ユニット1において、その塩水を蒸発させるための時間が短くなり、塩水の蒸発速度が増加して、淡水を得る速度が向上する。塩水の温度は、下段の屋根用ユニット1に向かうにつれて上昇するため、下段に向かうに従い、淡水化の速度が速まる。
【0035】
更に、このような屋根2を小型の屋根用ユニット1を複数組み合わせて、淡水を各々の屋根用ユニット1において回収するようにしているため、上面部18と床面17との距離を短くして、上下面での空気の循環を速やかに行うようにしているので、淡水が速やかに得られることに加え、屋根用ユニット1における塩水の滞留時間を任意に設定できるので、塩水の温度が十分に上がるように調整でき、速やかに淡水が得られる。また、屋根用ユニット1に塩水を滞留させることにより、塩水を最上段の塩水供給管60に供給する回数と量とを減らすことができるので、塩水を屋根2の上まで供給するための電力を削減できる。
【0036】
また、最下段の屋根用ユニット1の塩水出口24から排出される塩水は、それまでの加熱によって高温になっているため、後述するように、塩水供給管60に一部分あるいは全量を戻すようにしても良い。その場合、各々の塩水貯留槽19に供給される塩水の温度が高くなるので、フィルム23によって塩水を加熱する時間が短縮されて、より速やかに淡水が得られると共に、塩水貯留槽19に塩水の流れを作ることができるので、塩水貯留槽19内の温度の低下を抑えながら、既述の微生物の発生などを抑えることができる。また、後述するように、塩水を予め例えば太陽光の熱などによって加熱することで、更に塩水の蒸発と塩水の淡水化とを速やかに行うことができ、外気温などの影響を抑えることができる。また、バルブ71を閉じることで、屋根2内の塩水の流れを停止させる一方、太陽光から受ける熱が持続することから、塩水の温度上昇と淡水化速度の向上に大きな効果が得られる。
【0037】
この屋根2を構成する屋根用ユニット1として、上面部18及び床面17を太陽光が透過する材料で構成し、更にこの床面17の下方に太陽光を吸収して発熱するフィルム23を貼設した気密に構成された筐体11内に塩水を供給しているので、塩水の蒸留に太陽光を利用でき、電力を使用することなく、あるいは低消費電力で簡便に塩水から淡水を得ることができる。
【0038】
また、上面部18を傾斜させて、その内面において水蒸気を凝縮させ、上面部18の内面に沿って淡水(蒸留水)が流下するようにしているため、淡水を回収するための動力が不要である。また、水蒸気が凝縮して、淡水として回収されるまでの距離(上面部18の内面から流路21まで)が短くなり、更に淡水が触れる部分が親水性を備えているので、上面部18の内面を流下する淡水が大きな液滴となって落下したり、再度蒸発したりすることによる淡水の回収率の低下を抑えることができる。尚、この例では上面部18の全面を親水性の材料で構成したが、例えば通常の樹脂材料からなる上面部18の内面に親水性のコーティングを施すようにしても良い。
【0039】
既述のように、筐体11を概略箱型形状として、更に上面部18を硬質の材料によって構成したことにより、風雨などの外力によって上面部18が撓んだり振動したりすることを抑えることができるので、液滴が筐体11内に落下することによる淡水の回収率の低下が抑えられる。
【0040】
また、塩水貯留槽19からあふれるように塩水を供給しているため、塩水貯留槽19に塩水の流れが生まれ、微生物やバクテリアの発生を抑えることができ、更に塩水が完全に蒸発しないので、塩水が濃縮することによる塩水内の不純物の析出を抑えることができ、メンテナンス(筐体11内部の清掃等)の頻度が抑えられる。
【0041】
屋根用ユニット1の隔壁12は、この例では軟質のゴムを用いたが、例えば合成樹脂を用いて取り外しできるようにしても良い。また、隔壁12は、蒸留を行っている時に塩水貯留槽19内の塩水がなくならないように、更に塩水貯留槽19内の塩水が多くなり重くなりすぎないように適度な高さに設定される。また、隔壁12を設けずに、塩水貯留槽19を後面15、側面及び集水壁13で区画される区域として、更に塩水が集水壁13からあふれて淡水回収口22に流入しないように、屋根用ユニット1の側面であって集水壁13の高さよりも低い位置に塩水出口24を形成するようにしても良い。この場合、筐体11内の淡水化に寄与しない面積(隔壁12と集水壁13との間の面積)を少なく抑えることができる。
前記集水壁13は、上述の例のように設けたが、これに限られず、淡水を集めて淡水回収口22に流入する構成例えば雨樋のような部品を取り付けるようにしても良い。
【0042】
既述のフィルム23は、例えば赤外線吸収ポリカーボネートまたは赤外線吸収塗料を塗布した材料などであっても構わない。また、フィルム23は、赤外線以外の可視光や紫外線を透過できる材料を用いたが、上述のように、屋根用ユニット1を単体で用いる場合あるいはこの屋根2の下方に可視光や紫外線を透過する必要がない場合には、フィルム23が太陽光の全ての光を吸収するように、例えば黒色のシートなどとしても構わない。この場合、太陽光の熱をより多く塩水の加熱に使用できるので、淡水化速度が向上する。この時、床面17をそのような太陽光を吸収する材料で構成することで、フィルム23を貼設しない構成としても良い。更に、この例では筐体11の上面部18を透明の材料としたが、床面17(フィルム23)よりも太陽光(赤外線)を透過する割合が多いのであれば、つまり上面部18の温度が床面17の温度よりも低い状態になるのであれば、多少不透明であっても構わない。
【0043】
上述の例では、塩水という用語を用いたが、この屋根用ユニット1は、塩水例えば海水や不純物が溶解した地下水などの塩水資源はあるが、淡水資源を持たない地域や、水が汚染された地域において、そのような水を淡水化して農業を行う場合に適用しても良い。
【0044】
また、屋根用ユニット1に塩水を供給する代わりに、例えば屋根2の周辺に発電施設や焼却施設などがあり、それらの施設から蒸気が得られる場合、その蒸気を屋根用ユニット1に供給するようにしても良い。この場合には、フィルム23を設置しなくても良い。
【0045】
次いで、上述の屋根2が適用された温室30について、図5〜図7を参照して説明する。図中3は、その内部において植物の育成が行われる領域を区画形成する例えば概略直方体形状のハウス本体であり、その上方には、屋根2が設けられている。この温室30における水の流れの概略を図5に示した。屋根2の上方には、既述の塩水供給管60が設けられており、その上流側には、基端側から塩水源61、加温槽90及び混合槽89が配水管92によって接続されている。塩水源61の前段には、塩水から不純物を除去するための濾過装置を設けても良い。加温槽90は、図6に示すように、上方が開口した筐体91からなり、その内部には水が溜められている。この筐体91内には、例えば熱交換手段をなすフィン92aが配水管92に接続されている。また、筐体91の内面は、太陽光を吸収するように、例えば黒色に塗装されており、筐体91内に溜められた水及びフィン92aを介して、配水管92内を通流する塩水を加熱するように構成されている。
【0046】
図5において、屋根2において得られた淡水は、淡水槽81に蓄えられて、植物の育成に適当な温度例えば20℃〜30℃まで冷却された後、淡水案内路88を介して温室30の壁面の下面に接続された植物育成用淡水供給口84からハウス本体3内に淡水が供給されるように構成されている。植物育成用淡水供給口84に案内された淡水は、ハウス本体3内において、植物栽培用の灌水として供給される。一方、屋根2において最下段の屋根用ユニット1の塩水出口24から排出される高濃度の塩水は、一旦塩水槽85に蓄えられて、必要に応じて不純物が除かれた後、その一部あるいは全量が循環手段をなすポンプ86によって、循環路87を介して塩水供給管60及び/または混合槽89に供給される。この混合槽89は、既述の加温槽90から供給される塩水と塩水槽85から戻される高濃度の塩水を混合して、塩水供給管60にポンプ86aによって塩水を供給するためのバッファをなしており、図示しないセンサによって内部の塩水の水位がモニターされており、その水位が所定の値以下になると、塩水源61から塩水を供給したり、塩水槽85から戻される塩水の量を調整したりするように構成されている。そして、塩水槽85から混合槽89に戻されない高濃度の塩水は、廃棄されることとなる。
【0047】
次に、このハウス本体3の内部の構造について、図7を参照して説明する。ハウス本体3の上方は、既述のように、多数(この例では鉛直方向に5台)の屋根用ユニット1からなる屋根2が両側に対称に2基設けられている。屋根の形状はこのような両屋根式であっても良く、片屋根式でも良い。また、既述のように、外気取り入れ口82には、例えば繊維が編み込まれた構成の多孔質体82aが設けられている。この外気取り入れ口82に対向する位置に、外気取り入れ口82から空気が通流するよう温室30の側壁には排気用の吸引ファン93が設置されている。
【0048】
この温室30内では、多数の植物が育成されており、植物育成用淡水供給口84から供給される淡水をこの植物に行き渡らせるための水路や、過剰な淡水を排出するための排水部などが形成されているが、この図では省略する。
尚、上述の例における温室30と屋根2とには、特に物理的な境界などが設けられていないが、図示の関係上別個の区域として説明した。
【0049】
次に、この温室30において、塩水から淡水を得る方法について説明する。先ず、塩水が塩水源61から配水管92を介して加温槽90内に供給される。既述のように、筐体91が太陽光の熱によって暖められており、この熱によって筐体91内の水が加熱されているので、配水管92を通流する塩水は、この熱によって温められる。そして、配水管92からこの暖められた塩水が混合槽89に供給されて、この混合槽89内の水位がある一定量以下になったときに、塩水が塩水供給管60に供給される。そして、既述のように、屋根2において、太陽光の熱によって淡水が得られる。この淡水は、淡水槽81に溜められて、既述のように冷却される。その後、淡水案内路88から、植物育成用淡水供給口84に淡水が供給される。植物育成用淡水供給口84から温室30に供給された淡水は、既述のように、温室30内の植物を育成するために利用される。また、塩水源61の塩水の一部は配水管92bを介して多孔質体82aに供給され、多孔質体82aを構成する繊維を伝って下方に流れていくので、表面積が大きくなっている。
【0050】
そして、吸引ファン93によって外気が外気取り入れ口82に設けられた多孔質体82aの内部を通流して温室30内に吸い込まれて、吸引ファン93から排気される。この時、温室30の外気温は高温になっているが、多孔質体82a内を通流するので、表面積が増加すると共に、多孔質体82aの繊維を伝って流れる塩水に接触する。この時、高温の外気に触れた塩水の一部が蒸発して、蒸発するときの気化熱によって外気が冷却されるため、外気は湿球温度付近の温度となり、温室30内が冷房される。多孔質体82aを伝って下方に流れた塩水は、その後例えば淡水槽81を冷却するのに利用することができる。
【0051】
また、屋根2の最下段から排出された高濃度に濃縮された塩水は、塩水槽85に溜められて、ポンプ86によってその一部分あるいは全量が、既述のように塩水供給管60及び/または混合槽89に戻されて、屋根用ユニット1や塩水源61の塩水と混合される。塩水が戻されない場合、あるいは一部分が戻される場合には、残りの塩水は、捨てられることとなる。
【0052】
そして、既述のように、温室30の屋根2をなす屋根2は、上方から照射される太陽光に含まれる赤外線を透過せず、それ以外の光を透過するように構成されているので、可視光と紫外線とによって植物が育成される。また、温室30内に赤外線が入り込む量が減少しているため、温室30内の温度の上昇が抑えられる。以上のように、温室30内の植物の育成に必要な環境(淡水、温度及び光)が整えられる。
【0053】
上述の実施の形態によれば、既述の屋根2において説明した効果に加えて、以下の効果が得られる。つまり、光合成に寄与しない赤外線を吸収して、その赤外線を利用して塩水の淡水化を行っているので、植物の育成を阻害することなく、低消費エネルギーで淡水を得ることができ、温室30内の温度の上昇を抑えて植物の育成を行うことができる。
【0054】
また、上述の屋根2は、屋根用ユニット1を複数組み合わせているので、既存のハウスの大きさや形状に合わせて設計して設置できる。そして、塩水を蒸留して淡水を得る屋根2と、この屋根2において淡水化された淡水を用いて植物の育成を行う温室30と、を別個に設けずに、一体化して温室30の上方に設けているため、温室30の設置面積を抑えることができる。そして、屋根2で得られた淡水が自重で温室30内に案内しているので、屋根2から温室30に淡水を供給するための配管、この配管内に淡水を通流させるためのポンプ及びこのポンプを動作させるための電力など低減あるいは削減することができる。
【0055】
更に、多孔質体82aに淡水を供給して、その多孔質体82aを通流した外気を温室30内に導入しているため、高い気温の地域であっても、温室30内の温度を植物の育成に適した気温に下げることができる。
【0056】
また、既述のように、最下段の屋根用ユニット1の塩水出口24から排出される高濃度の塩水の一部あるいは全量を配水管92に戻すように構成しているため、塩水供給管60を通流する塩水の温度を上昇させて、淡水化を速やかに行うことができる。高濃度の塩水は、沸点上昇によって希薄な塩水に比べて蒸発しにくい状態となっているが、配水管92に戻して希釈することで、沸点が下降することから、この点においても、淡水化が速やかに進行することとなる。
【0057】
尚、温室30内において育成する植物が太陽光を必要としない場合には、既述のように、屋根用ユニット1のフィルム23を例えば黒色としても良いし、植物の種類によって、その植物が必要な波長の光が照射されるように、フィルム23の材質などを最適化しても良い。また、この例では加温槽90を用いたが、特に用いなくとも良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の屋根用ユニットの一例を示す概略図である。
【図2】本発明の屋根の一例を示す概略図である。
【図3】上記の屋根の一例を示す縦断面図である。
【図4】上記の屋根用ユニットの動作の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の温室の一例を示す模式図である。
【図6】上記の温室に設置される加温槽の一例である。
【図7】上記の温室の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 屋根用ユニット
2 屋根
3 ハウス本体
19 塩水貯留槽
23 フィルム
30 温室
61 塩水源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数接続されることにより屋根を形成する屋根用ユニットであって、
上面部が太陽光を透過する材料からなり、当該上面部が傾斜した状態で設置される筐体と、
この筐体内の底部に設けられ、塩水を貯留するための塩水貯留槽と、
前記筐体の壁部に設けられ、前記塩水貯留槽に塩水を供給するための塩水入口と、
前記塩水貯留槽を越流した塩水を前記筐体の外部に排出するための塩水出口と、
前記塩水貯留槽内の塩水から蒸発した水蒸気が凝縮し、前記上面部の内面に沿って流下した淡水を回収して、前記筐体の外部に排出するための淡水回収口と、を備えたことを特徴とする屋根用ユニット。
【請求項2】
前記塩水貯留槽の底面部は、少なくとも厚さ方向の一部が赤外線吸収性の高い材料により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の屋根用ユニット。
【請求項3】
前記塩水貯留槽の底面部は、少なくとも厚さ方向の一部が前記筐体の上面部よりも赤外線吸収性の高い材料により構成されていることを特徴とする請求項2に記載の屋根用ユニット。
【請求項4】
前記筐体の上面部の内面は、親水性を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の屋根用ユニット。
【請求項5】
前記筐体の上面部は、開閉可能に設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の屋根用ユニット。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一つに記載の屋根用ユニットを複数用いて順次高さ位置が低くなるように連設してなるユニット群と、
これらユニット群のうち、最上段のユニットの塩水入口に接続された塩水供給路と、
上段側のユニットの塩水出口と下段側のユニットの塩水入口とを互いに接続する接続流路と、
前記ユニット群のうち、最下段のユニットの塩水出口に接続された塩水排出路と、
各ユニットの淡水回収口に接続された淡水回収路と、を備えたことを特徴とする屋根。
【請求項7】
各ユニットは梁に着脱自在に取り付けられていることを特徴とする請求項6に記載の屋根。
【請求項8】
前記梁は、屋根の上端部から下端部に伸びるように設けられていることを特徴とする請求項7に記載の屋根。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれか一つに記載された屋根が設けられた、植物栽培用の空間を区画して形成するハウス本体と、
前記屋根にて生成された淡水をハウス本体内に案内するための淡水案内路と、を備えたことを特徴とする植物栽培用の温室。
【請求項10】
最下段のユニットにおける塩水出口から排出された塩水を前記塩水供給路に循環させる循環手段を備えたことを特徴とする請求項9に記載の温室。
【請求項11】
内部に貯留された水を太陽光によって加温するための加温槽と、
前記塩水供給路の一部を構成し、当該塩水供給路内の塩水と加温された水との間で熱交換を行うために前記加温槽内に設けられた熱交換手段と、を備えたことを特徴とする請求項9または10に記載の温室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−100179(P2008−100179A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285376(P2006−285376)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】