説明

工作機械

【課題】 加工領域を狭めることなく、コラム前面側に保護カバー体を設けることができる工作機械を提供する。
【解決手段】 主軸ヘッド8の下部には、機構収納部6の前面側を覆う保護カバー体30が連結され、その下端側には錘39が配置されている。さらに、コラム5には、コラム5の前面側から背面側に向かって設けられた挿通穴50と、コラム5の背面に設けられたカバー部52とが設けられている。そして、保護カバー体30の下端側は、挿通穴50を介してカバー部52内の錘移動通路53内に引き出される。そして、主軸ヘッド8の上下移動に伴って保護カバー体30が移動し、錘39は錘移動通路53内を上下に移動する。このように、錘39が移動するためのスペースをコラム5の背面側に設けることにより、コラム5下部の前面側のスペースを狭めることなく、保護カバー体30を設けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械に関し、詳細には、工作機械の機構部等に切り屑が侵入するのを防止できる工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械であるマシニングセンタは、基台となるベッドと、該ベッド後方から略垂直上方に立設されたコラムとを備えている。そして、このコラムのベッドに対向する前面側の上部には、主軸ヘッドがZ軸方向(上下方向)に移動可能に設けられ、該主軸ヘッドの主軸には加工用の工具が装着される。さらに、ベッド上には、XY軸方向に移動可能なテーブルが設けられ、該テーブル上には被加工物であるワークが着脱可能に固定される。そして、このテーブルと主軸ヘッドの主軸とが互いに対向し、主軸ヘッドが下方に移動するとともに、主軸が回転駆動して工具が回転する。これにより、テーブル上のワークに対して、例えば、「中ぐり」、「フライス削り」、「穴空け」、「切削」等の切削加工を施すことができる。
【0003】
このようなマシニングセンタにおいて、コラム前面には、主軸ヘッドをZ軸方向に移動させるための移動機構がコラムの長手方向に沿って設けられている。そして、その移動機構は主軸ヘッド側に露出された状態となっている。このため、テーブル上から飛散する切り屑が移動機構内に侵入して堆積することがあり、主軸ヘッドがスムーズに移動できなくなることがあった。そこで、例えば、加工ヘッド(主軸ヘッド)の下部とコラム下部との間にシート状の保護カバー体を張設することにより、加工ヘッドのレール部や伝動機構内(移動機構内)に切り屑が侵入して付着するのを防止できる工作機械における保護カバー装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この保護カバー装置の保護カバー体は可撓性を有し、その下端側に設けられ、上方に折り返された折り返し部にはローラ状の錘が配置されている。よって、保護カバー体はコラム前面側に沿って弛みなく張設され、加工ヘッドの移動とともに上下に移動可能となっている。さらに、コラムの前面側には、保護カバー体の下側の前方に配置された金属製の保護板が設けられているので、保護カバー体に切り屑が直接当たって損傷するのを防止することもできる。
【特許文献1】特開2004−106083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の保護カバー装置では、コラム前面側に、保護カバー体の錘が上下に移動するためのスペースを確保しなければならないため、コラム下部の前面側をテーブル側に向かってやや突出させなければならず、コラム下部の前面側のスペースが狭くなるという問題点があった。さらに、ベッド上をXY軸方向に移動するテーブルの(特にY軸方向の)移動範囲を狭めるため、結果的に工作機械の加工領域を狭めてしまう問題点があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、加工領域を狭めることなく、コラム前面側に保護カバー体を設けることができる工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る工作機械は、基台となるベッドと、当該ベッドから略垂直上方に立設されたコラムと、当該コラム上部の前記ベッドに対向する前面側に設けられ、上下方向に往復移動する主軸ヘッドと、当該主軸ヘッドと前記ベッドとの間に配設され、前記コラムの前面側を保護するとともに、可撓性を有する略帯状の保護カバー体とを備えた工作機械であって、前記保護カバー体の下端部には、自身の重量で前記保護カバー体を張設する錘が配置され、前記錘は、前記コラム前面よりも後方側に配置されている。
【0007】
また、請求項2に係る工作機械は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記コラムには、前記保護カバー体が、前記コラムの前面側から背面側に向かって挿通するための挿通穴が設けられ、前記錘は、前記コラムの背面側下方に配置されている。
【0008】
また、請求項3に係る工作機械は、請求項2に記載の発明の構成に加え、前記挿通穴は、前記コラムの前面側から背面側に向かって斜め下方に挿通され、前記挿通穴の背面側には、前記錘を前記挿通穴の延長線上に引き出して配置するための引き出し部が設けられている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る工作機械では、コラム前面側を保護する保護カバー体は、その下端部に配置された錘によって弛みなく張設され、主軸ヘッドの上下移動に伴って上下に移動する。そして、その錘は、コラム前面よりも後方側に配置されているので、コラム前面側の空間が広くなり、工作機械の加工領域を広く設けることができる。
【0010】
また、請求項2に係る工作機械では、請求項1に記載の発明の効果に加え、主軸ヘッドの下方への移動にともない、保護カバー体を挿通穴を介して、コラム前面側から背面側に向かって挿通させることができる。これにより、錘をコラム背面側下方に配置させることができるので、コラム前面側の空間が広くなり、工作機械の加工領域を広く設けることができる。
【0011】
また、請求項3に係る工作機械では、請求項2に記載の発明の効果に加え、挿通穴がコラム前面側から背面側に向かって斜め下方に傾斜しているので、保護カバー体をコラム背面側下方に滑らかに引き込むことができる。さらに、挿通穴の背面側に設けられた引き出し部により、保護カバー体の折り返し部位が少なくなるので、保護カバー体を挿通穴に向かってスムーズに引き出すことができる。また、錘をコラム背面側下方に配置させることができるので、コラム前面側の空間が広くなり、工作機械の加工領域を広く設けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の第1の実施形態であるマシニングセンタ1について、図面に基づいて説明する。図1は、第1の実施形態であるマシニングセンタ1の斜視図であり、図2は、マシニングセンタ1の正面図(主軸ヘッド8:下方位置)であり、図3は、マシニングセンタ1の正面図(主軸ヘッド8:上方位置)であり、図4は、マシニングセンタ1の右側面図(主軸ヘッド8:下方位置)であり、図5は、マシニングセンタ1の右側面図(主軸ヘッド8:上方位置)である。
【0013】
また、以下説明において、図2および図3では、図中左側をマシニングセンタ1の左側とし、図中右側をマシニングセンタ1の右側とする。さらに、図4および図5では、図中左側をマシニングセンタ1の前方側とし、図中右側をマシニングセンタ1の後方側とする。また、マシニングセンタ1のX軸方向とは、マシニングセンタ1の左右方向をいい、Y軸方向とは、マシニングセンタ1の奥行き方向(前後方向)をいい、Z軸方向とは、マシニングセンタ1の上下方向をいうものとする。
【0014】
なお、第1の実施形態であるマシニングセンタ1は、主軸ヘッド8の下部に連結され、主軸ヘッド8の上下移動に伴って移動する保護カバー体30の下端側を、コラム5の背面側に引き出すことにより、コラム5の下部前面側のスペースを狭めず、広い加工領域を保持できるものである。
【0015】
はじめに、マシニングセンタ1の概略構成について説明する。図1に示すマシニングセンタ1は、図示外のワーク(図示外)と工具4とを相対移動させ、ワークに所望の機械加工(例えば、「中ぐり」、「フライス削り」、「穴空け」、「切削」等)を施す工作機械である。マシニングセンタ1は、基台となる鉄製のベッド2と、該ベッド2の上部に設けられ、ワークを加工する機械本体3とから構成されている。さらに、マシニングセンタ1には、マシニングセンタ1の加工プログラムや、加工プログラム等のパラメータの設定入力をおこなうための操作部(図示外)が設けられている。なお、図示しないが、ベッド2の上部に、機械本体3を囲繞して保護するためのスプラッシュカバーを設けてもよい。
【0016】
次に、ベッド2について説明する。図1,図4に示すように、ベッド2は、マシニングセンタ1のY軸方向に対して平行に延設され、その下部の四隅には、高さ調節が可能な脚部2aが各々設けられている。そして、これら4本の脚部2aが、工場などの床面に設置されることにより、マシニングセンタ1が所定場所に設置される。また、ベッド2の後部には、ベッド2の上部に切削液を供給する切削液供給口7が設けられている。さらに、ベッド2上部の後方側の両隅部近傍には、後述するコラム5が載置して固定されるための略直方体状のコラム座部22が各々設けられている。また、図1に示すように、ベッド2の芯部は、軽量化、高強度化および低コスト化のため、所謂、肉抜き成形(リブによる骨組構造)されている。そして、このベッド2の上部に、機械本体3が設けられる。
【0017】
次に、機械本体3について説明する。図1,図2および図4に示すように、機械本体3は、ベッド2の上部後方側に設けられた一対のコラム座部22の上面に載置して固定され、略垂直上方に延設された略直方体状のコラム5と、該コラム5前面の上半分に設けられ、後述するヘッド移動機構(図示外)を収納する略直方体状の機構収納部6と、該機構収納部6の前面側をZ軸方向に移動可能に設けられた主軸ヘッド8と、該主軸ヘッド8の下部に設けられ、工具4が着脱可能に装着される主軸9と、主軸ヘッド8の前方に支持され、複数の工具4を把持するとともに、主軸9に装着された工具4を自動的に交換する工具交換装置10(ATC)と、ベッド2の上部に設けられ、ワークが着脱可能に固定されるとともに、X軸およびY軸方向に移動可能なテーブル15と、マシニングセンタ1の動作の制御をおこなう制御装置(図示外)と、コラム5の背面側に設けられ、前記制御装置を収納する制御箱11とを主体に構成されている。そして、図3,図5に示すように、主軸ヘッド8の下部には、機構収納部6の前面側を覆う保護カバー体30が下方に向かって張設されている。そして、この保護カバー体30は、主軸ヘッド8のZ軸方向への移動にともない、コラム5に設けられた後述するカバー移動通路内を移動するようになっている。以下、機械本体3を構成するこれら各装置について順に説明する。
【0018】
まず、機構収納部6について説明する。図1に示すように、機構収納部6は、前面および底面が開口された略直方体状に形成されている。そして、その前面側の左右両端部近傍には、Z軸方向に平行に延設され、主軸ヘッド8をZ軸方向にガイドする一対のガイドレール41,41が設けられている(図1では、右側のガイドレール41のみ図示)。そして、機構収納部6の内側には、主軸ヘッド8をZ軸方向に移動させるためのヘッド移動機構(図示外)が収納されている。このヘッド移動機構は、Z軸方向に対して平行に延設され、主軸ヘッド8を摺動自在に支持するボールネジ軸(図示外)や、主軸ヘッド8をボールネジ軸に沿って移動させるための昇降モータ等を備えている。そして、ヘッド移動機構の前方には、主軸ヘッド8が上下可能に配置されるが、ヘッド移動機構の、主軸ヘッド8によって隠れる部分以外は主軸9側に露出される。しかし、主軸ヘッド8の下部には、保護カバー体30が連結されているので、ヘッド移動機構の前方にはこの保護カバー体30が配置される。これにより、テーブル15上から飛散する切り屑は保護カバー体30に当たるので、切り屑がヘッド移動機構内に侵入して堆積するのを防ぐことができる。また、図4に示すように、機構収納部6の下部前方側の左右の両角部には、上下に移動する保護カバー体30の裏面に接触して、保護カバー体30をコラム5の後述する挿通穴50内にガイドするためのガイドローラ60,60(図4では、右側のガイドローラ60のみ図示)がブラケット(図示外)によって回動可能に軸支されている。なお、図1に示すコラム5と、機構収納部6とが、「コラム」に相当する。
【0019】
次に、工具交換装置10について説明する。図1,図2に示すように、工具交換装置10は、主軸ヘッド8の前方に設けられている。この工具交換装置10は、正面視略円形状の工具マガジン12と、該工具マガジン12の周縁に沿って列設され、工具4を把持するグリップアーム13と、工具マガジン12を回転駆動させ、所望の工具4を工具交換位置に移動させるマガジンモータ(図示外)とを備えている。さらに、工具マガジン12の後部と、機構収納部6前面の左右両端部との間には、Z軸方向に移動する主軸ヘッド8を介して、一対のマガジン支持片25,25(図1,図4では、左側のマガジン支持片25のみ図示)が渡設されている。こうして、工具交換装置10は、主軸ヘッド8の前方に支持されている。
【0020】
そして、上記構成からなる工具交換装置10の工具交換動作は、制御箱11に収納された制御装置によって制御されている。例えば、機械本体3の操作部が操作されて、制御装置から工具交換装置10に対して工具交換が指示される。すると、主軸9に装着されていた工具4は、工具マガジン12のグリップアーム13によって把持され、工具マガジン12の元の保持位置に移動される。次いで、操作部で選択された工具4を把持し、工具マガジン12の保持位置に保持されたグリップアーム13が、主軸9近傍の工具交換位置に移動するまで、工具マガジン12が回転される。その後、選択された工具4を把持するグリップアーム13が主軸9側に移動して、主軸9に対して選択された工具4を装着する。こうして、工具交換装置10による工具交換動作がおこなわれる。
【0021】
次に、テーブル15について説明する。図1乃至図4に示すように、テーブル15は、ベッド2の上部であって、主軸9の先端側に対向して配設されている。このテーブル15は、サーボモータからなるXモータ(図示外)およびYモータ(図示外)により、マシニングセンタ1のX軸方向およびY軸方向へ移動制御されている。詳細にいうと、テーブル15の下方には、略直方体状の移動体16(図1,図4参照)が設けられている。そして、この移動体16の上部に、X軸方向(左右方向)に沿って延設された一対のX軸送りガイド(図示外)が設けられ、該X軸送りガイド上にテーブル15が移動可能に設けられている。さらに、移動体16は、ベッド2の長手方向に沿って延設された一対のY軸送りガイド上に移動可能に設けられている。したがって、テーブル15は、ベッド2上に設けられたXモータにより、X軸送りガイドに沿ってX軸方向に案内され、同じくベッド2上に設けられたYモータにより、Y軸送りガイドに沿ってY軸方向に案内される。こうして、テーブル15は、X軸方向およびY軸方向に向かって移動可能となっている。
【0022】
さらに、図1,図2に示すように、X軸送りガイドには、テーブル15を中央に挟み込むようにして、テレスコピックカバー18,19が左右に各々覆設されている。さらに、図4に示すように、Y軸送りガイドにも、移動体16を中央に挟み込むようにして、テレスコピックカバー20と、Y軸後ろカバー21(図4参照)とが前後に各々覆設されている。そして、これらカバーのうち、テレスコピックカバー18,19および20は、テーブル15のX軸方向又はY軸方向への移動に伴ってテレスコピックに各方向に伸縮するものである。一方、Y軸後ろカバー21は、一枚の板金からなり、コラム5側へ移動する際にコラム5の下部に設けられたカバー収納部(図示外)に収容される。したがって、テーブル15がX軸方向およびY軸方向のいずれに移動しても、X軸送りガイドおよびY軸送りガイドは、常にテレスコピックカバー18,19,20およびY軸後ろカバー21によって覆われるので、テーブル15や工具等から飛散する切り屑が各レール上に落下して堆積するのを防止できる。また、図示しないが、カバー収納部の前方側端部には、略山型の屋根部がテーブル15側に向かって突設されている。これにより、Y軸後ろカバー21とカバー収納部との隙間が覆われるため、その隙間に切り屑が入り込むのを防止できる。
【0023】
次に、制御装置について説明する。この制御装置は、図1に示す制御箱11に収納されている。この制御装置は、マイクロコンピュータからなるものであり、CPU,ROM,RAM,入力インタフェース,出力インタフェース等を基本に構成されている。そして、制御装置には、図示外のコードが接続され、該コードは、操作部に接続されている。これにより、操作部でなされた入力操作は、制御装置によって処理され、機械本体の各装置に設けられたサーボモータや各種センサ等に指令が出されるようになっている。
【0024】
次に、保護カバー体30について説明する。図3,図4に示すように、保護カバー体30は、機構収納部6の前面を覆ってヘッド移動機構を保護する可撓性を備えたシート体である。そして、保護カバー体30は、主軸ヘッド8の移動にともない上下に移動することができる。図4に示すように、保護カバー体30は、合成樹脂製の略帯状のシート31を基板に備えている。さらに、そのシート31の表面のうち上部側の所定範囲には、短冊状のアルミ板等からなる保護強化板35が鳩目等により一枚ずつ並列して(例えば、9個)固定されている。これにより、工具4でワークを切削加工したときに飛散する切り屑が、合成樹脂のシート31に直接突き刺さるのを防止できる。そして、保護カバー体30は、シート31に複数列設された保護強化板35の互いに隣接する部分でシート31が屈曲可能となるように形成されているので、保護カバー体30の可撓性が保持されている。
【0025】
そして、図3に示すように、上記構成からなる保護カバー体30の一端部(上端部)が、主軸ヘッド8の下面の後方角部近傍に、ブラケット37、ボルト38等を介して連結されている。一方、図4に示すように、保護カバー体30の他端部は、後述する挿通穴50を介して、後述するカバー部52の上部内側面に、ブラケット(図示外)、ボルト70等を介して連結されている。そして、その保護カバー体30の中途部には、袋状に折り返されて上向きに開放する折り返し部34が設けられ、その折り返し部34の内側にローラ状の錘39が回転自在に配置されている。そして、保護カバー体30の錘39は、後述するカバー部52内のコラム背面側下方に配置されている。したがって、保護カバー体30は、錘39の重量によってコラム5背面側下方に向かって常に張設されるので、保護カバー体30は、主軸ヘッド8の上下移動に伴って、コラム5に設けられたカバー移動通路内を移動することができる。
【0026】
次に、本発明の特徴であり、カバー移動通路を設けたコラム5の構造について説明する。図4に示すように、コラム5には、保護カバー体30がコラム5の前面側から背面側に向かって移動するための構造が設けられている。図3,図4に示すように、コラム5の略中段よりもやや下側には、コラム5の前面から背面に向かって略水平に延設され、保護カバー体30をコラム5の前面側から背面側に引き出すための挿通穴50が設けられている。一方、コラム5の背面側には、挿通穴50からコラム5の下部までを覆うカバー部52が設けられている。そして、そのカバー部52の内側には、保護カバー体30の錘39が上下に移動するための錘移動通路53が形成されている。よって、これら挿通穴50と錘移動通路53とで連結された通路が、保護カバー体30が移動するためのカバー移動通路となっている。
【0027】
さらに、図4,図5に示すように、挿通穴50のコラム5前面側の入り口近傍には、保護カバー体30の前面に接触して、保護カバー体30を挿通穴50内にガイドするガイドローラ61が設けられている。また、挿通穴50のコラム5背面側の出口近傍には、保護カバー体30の表面(前面)に接触するとともに、挿通穴50内を挿通された保護カバー体30を下方に折り返し、カバー部52内にガイドするガイドローラ62が設けられている。そして、これらガイドローラ61,62によって、カバー移動通路内を移動するときに生ずる保護カバー体30の摩擦を減少させることにより、保護カバー体30をスムーズに移動させることができる。
【0028】
このように、コラム5が備えるカバー移動通路は、図4,図5に示すように、コラム5の前面側から背面側下方に向かって形成されている。そして、特に錘移動通路53をコラム5の背面側に設けているため、例えば、径の長い錘39を保護カバー体30の折り返し部34に配置した場合でも、コラム5の下部前面側のスペースを狭めることがなく、加工領域を狭めることがない。
【0029】
次に、カバー移動通路内における保護カバー体30の移動動作について説明する。例えば、主軸ヘッド8が上方位置から下方位置に移動した場合、図4に示すように、保護カバー体30の折り返し部34は、錘39の重量によって、錘移動通路53内を下方に引っ張られる。さらに、保護カバー体30の表面又は裏面には、ガイドローラ60,61,62が接触して回動するため、保護カバー体30は弛むことなくスムーズに、コラム5のカバー移動通路内に引き込まれる。また、主軸ヘッド8が下方位置から上方位置に移動した場合は、図5に示すように、保護カバー体30の折り返し部34は上方に引き上げられるので、錘39はカバー部52内の錘移動通路53内を上方に移動する。さらに、保護カバー体30の折り返し部34は、錘39の重量によって、錘移動通路53内を下方に引っ張られるため、保護カバー体30は弛みなく張設された状態に保持される。こうして、保護カバー体30を、機構収納部6の前面側においてを常に弛みなく張設することができる。なお、保護カバー体30の長さは、主軸ヘッド8が最上方位置に移動した時の錘39が挿通穴50内にまで移動しない程度に調整されている。このように、錘39によって、
【0030】
以上説明したように、第1の実施形態であるマシニングセンタ1では、主軸ヘッド8の下部に連結された保護カバー体30を、挿通穴50を介してコラム5の前面側から背面側に引き出している。さらに、コラム5の背面側には、保護カバー体30の下端側に配置された錘39が上下に移動するための錘移動通路53を設けている。これにより、コラム5下部の前方側のスペースを広くすることができる。例えば、テーブル15の可動範囲をコラム5側(所謂、Y軸方向)に拡張することが可能となる。さらに、従来のように、錘39の移動通路をコラム5の前面側に設けた場合、テーブル15のY軸方向への移動範囲を拡張するためには、ベッド2におけるY軸方向の長さを延長しなければならないため、ベッド2が巨大化して重くなったり、材料コストが増加する等の問題があった。しかし、本実施形態のマシニングセンタ1では、上記構成としたことで、ベッド2の長さを延長することなく、テーブル15の可動範囲を拡張することができる。さらに、このマシニングセンタ1の加工領域を狭めることなく、機構収納部6に収納されたヘッド移動機構を保護する保護カバー体30を設けることができる。
【0031】
次に、第2の実施形態のマシニングセンタ100について説明する。図6は、第2の実施形態であるマシニングセンタ100の右側面図(主軸ヘッド800:下方位置)であり、図7は、第2の実施形態であるマシニングセンタ100の右側面図(主軸ヘッド800:上方位置)である。また、図6および図7において、図中左側をマシニングセンタ100の前方側とし、図中右側をマシニングセンタ100の後方側とする。
【0032】
なお、第2の実施形態であるマシニングセンタ100は、第1の実施形態であるマシニングセンタ1の変形例である。そして、マシニングセンタ100では、第1の実施形態のコラム5に設けられたカバー移動通路とは異なり、保護カバー体330を、コラム500の前面側から背面側に向かって斜め下方に向かって移動させるためのカバー移動通路を有する点に特徴を有する。よって、マシニングセンタ100において、第1の実施形態と形態が異なるコラム500の構造以外の部分は、第1の実施形態であるマシニングセンタ1の構成と同じであるため、本実施形態の説明では、カバー移動通路が形成されたコラム500の構造を中心に説明し、それ以外の部分は上記説明を援用するものとする。
【0033】
まず、マシニングセンタ100の構造について概略的に説明する。図6に示すように、マシニングセンタ100は、基台となるベッド200と、該ベッド200の上部に設けられた機械本体300とで構成される。そして、機械本体300は、上記実施形態と同様に、コラム500と、機構収納部600と、主軸ヘッド800と、主軸900と、テーブル150と、工具交換装置110とを主体に備えている。さらに、主軸ヘッド800下部の後方側角部近傍には、第1の実施形態の保護カバー体30と同じ保護カバー体330の一端部(上端部)が連結されている。一方、保護カバー体330の他端部は、後述する挿通穴550の上部内側面に、ブラケット(図示外)、ボルト700等を介して連結されている。そして、その保護カバー体330の中途部には、袋状に折り返されて上向きに開放する折り返し部340が設けられ、その折り返し部340の内側にローラ状の錘390が回転自在に配置されている。また、機構収納部600の下部前方側の左右の両角部には、上下に移動する保護カバー体330の裏面に接触して、保護カバー体330をコラム500の後述する挿通穴550に向かってガイドするためのガイドローラ601(図4では、右側のガイドローラ601のみ図示)がブラケット(図示外)によって回動可能に軸支されている。
【0034】
次に、コラム500の構造について説明する。図6に示すように、コラム500には、保護カバー体330が移動するためのカバー移動通路が設けられる。そして、このカバー移動通路は、コラム500の前面側から背面側に向かって斜め下方に引き出す形状を備えている。図6,図7に示すように、コラム500には、コラム500の略中段よりもやや下側から斜め下方に延設され、保護カバー体330をコラム500の前面側から背面側下部に向かって斜めに引き出すための挿通穴550が設けられている。そして、この挿通穴550のコラム500前面側の入り口近傍には、保護カバー体330の表面(前面)に接触して、保護カバー体330を挿通穴550内にガイドするガイドローラ602が設けられている。このガイドローラ602によって、カバー移動通路内を移動するときに生ずる保護カバー体330の摩擦を減少できるので、カバー移動通路内を保護カバー体330がスムーズに移動することができる。さらに、コラム500の背面側下部には、コラム500の後方側に向かって突出され、挿通穴550の延長線上に沿って設けられたコラム延長部510が設けられている。そして、このコラム延長部510の内側には、挿通穴550の下流側が延長されている。なお、図6に示すコラム延長部510が、「引き出し部」に相当する。
【0035】
したがって、挿通穴550は折れ曲がることなく延長されているので、錘390は、挿通穴550内に配置されている。そして、挿通穴550自体が、保護カバー体330が移動するためのカバー移動通路となる。さらに、挿通穴550は直線状であるので、保護カバー体330を折り曲げることなく、挿通穴550内に直線状に配置できる。これにより、保護カバー体330に接触させるガイドローラの数を減らすことができるので、ガイドローラとの接触による摩擦が減り、挿通穴550内で保護カバー体330をスムーズに移動させることができる(図6,図7参照)。
【0036】
なお、本発明の工作機械は、上記実施形態に限らず、各種の変形が可能なことはいうまでもない。例えば、第1の実施形態の挿通穴50は、コラム5内を略水平に延設して設けたが、コラム5の前面側から背面側に向かって斜め下方に傾斜させてもうけてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の工作機械は、上下方向に移動可能な主軸ヘッドを備えた工作機械に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1の実施形態であるマシニングセンタ1の斜視図である。
【図2】マシニングセンタ1の正面図(主軸ヘッド8:下方位置)である。
【図3】マシニングセンタ1の正面図(主軸ヘッド8:上方位置)である。
【図4】マシニングセンタ1の右側面図(主軸ヘッド8:下方位置)である。
【図5】マシニングセンタ1の右側面図(主軸ヘッド8:上方位置)である。
【図6】第2の実施形態であるマシニングセンタ100の右側面図(主軸ヘッド800:下方位置)である。
【図7】第2の実施形態であるマシニングセンタ100の右側面図(主軸ヘッド800:上方位置)である。
【符号の説明】
【0039】
1 マシニングセンタ
2 ベッド
5 コラム
6 機構収納部
8 主軸ヘッド
30 保護カバー体
39 錘
50 挿通穴
100 マシニングセンタ
200 ベッド
330 保護カバー体
390 錘
500 コラム
550 挿通穴
510 コラム延長部
600 機構収納部
800 主軸ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台となるベッドと、当該ベッドから略垂直上方に立設されたコラムと、当該コラム上部の前記ベッドに対向する前面側に設けられ、上下方向に往復移動する主軸ヘッドと、当該主軸ヘッドと前記ベッドとの間に配設され、前記コラムの前面側を保護するとともに、可撓性を有する略帯状の保護カバー体とを備えた工作機械であって、
前記保護カバー体の下端部には、自身の重量で前記保護カバー体を張設する錘が配置され、
前記錘は、前記コラム前面よりも後方側に配置されていることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記コラムには、前記保護カバー体が、前記コラムの前面側から背面側に向かって挿通するための挿通穴が設けられ、
前記錘は、前記コラムの背面側下方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記挿通穴は、前記コラムの前面側から背面側に向かって斜め下方に挿通され、
前記挿通穴の背面側には、前記錘を前記挿通穴の延長線上に引き出して配置するための引き出し部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−181668(P2006−181668A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376219(P2004−376219)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】