説明

工程剥離紙用原紙

【課題】 工程剥離紙に用いた場合に加熱による強度低下が少なく、繰り返して使用が可能な工程剥離紙用原紙を提供すること。
【解決手段】 工程剥離紙に用いる工程剥離紙用原紙であって、パルプを主成分とし、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸を含有し、パルプ100重量部に対し、澱粉を0.3乃至0.8重量部、ポリアクリルアミド樹脂を0.05乃至0.5重量部、熱硬化性樹脂を0.2乃至0.6重量部含有し、且つJIS P−8133による冷水抽出pH値が7.0以上であることを特徴とする工程剥離紙用原紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革製造用の工程剥離紙などに好適な工程剥離紙用原紙に係り、特に高熱条件による処理を経ても強度低下が少なく、工程剥離紙に用いたときに繰り返し使用が可能である工程剥離紙用原紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パルプを主成分とする原紙に、ポリプロピレン樹脂やメチルペンテン系樹脂或いはアクリル系樹脂を塗布して剥離層を設けた工程剥離紙が知られている。工程剥離紙は合成皮革や炭素強化繊維複合材料等の製造に用いられている。このような工程剥離紙の構成の一例が、図1に示されている。なお、同図において各層の割合は実際の厚みと必ずしも比例するものではない。工程剥離紙10の基本的な構成の一例としては、同図(a)の例のように、工程剥離紙用原紙11に剥離層12を設けたものがある。また、同図(b)の例のように、工程剥離紙用原紙11と剥離層12との間に接着力のある中間層13を介在させ、工程剥離紙用原紙11と剥離層12とが良好に接着されるようにしたものもある。また、ブロッキング防止などの目的で、両面に剥離層を設けても良い。
【0003】
合成皮革等に柄等を設ける場合には、工程剥離紙の剥離層に所定の型付け加工を施し、その上から合成皮革の原料となる樹脂を塗工し加熱乾燥させることで、合成皮革の表面にエナメル調、艶消し、ワニ皮風、オーストリッチ風、象皮風などの艶や柄を設けることが出来る。合成皮革の製造方法の一例としては、工程剥離紙の剥離層上にポリウレタン樹脂やポリ塩化ビニル樹脂を塗布し、加熱乾燥させて塗布した樹脂層をゲル化若しくは固化させた後、工程剥離紙から剥離して合成皮革を得る方法がある。このような工程剥離紙を用いた合成皮革の製造方法の一例について、図3,4を参照して説明する。図3には塩ビレザーの製造方法の一例が、図4にはウレタンレザーの製造方法の一例がそれぞれ示されている。
【0004】
図3に示された塩ビレザーの製造工程において、工程剥離紙供給ロール101から繰り出された工程剥離紙は図中左から右に向かって搬送され、先ずはじめに表面にビニルペースト104が塗工されてドライヤ102aにて加熱され、続けて、ビニルペースト104の上に発泡剤入りのビニルペースト104aが塗工され、同様にドライヤ102bにて加熱される。次いで、発泡剤入りビニルペースト104aの上に接着剤105が塗工され、基布供給ロール103より供給された基布と工程剥離紙とが張り合わされた後にドライヤ102cにて加熱される。なお、この基布は完成品において裏地となるものである。次いで、冷却ロール106にて冷却された後に、合成皮革と工程剥離紙とが剥がされ、合成皮革は合成皮革巻取ロール107にて巻き取られ、工程剥離紙は工程剥離紙巻取ロール108にて巻き取られることにより合成皮革製造の過程が終了する。ここで、工程剥離紙巻取ロール108にて回収された工程剥離紙は、工程剥離紙供給ロール101に再度取り付けられて5〜10回程度繰り返し利用される。
【0005】
次に図4に示されたウレタンレザーの製造工程について説明する。基本的な流れは塩ビレザーの場合と同じであり、工程剥離紙供給ロール101より供給された工程剥離紙に、先ずはじめに1液ウレタンペースト110を塗工しドライヤ102dにて加熱する。次いで、接着剤となる2液ウレタンペースト111が1液ウレタンペースト110の上に塗布され、この2液ウレタンペースト111を介して基布供給ロール103より供給された基布と工程剥離紙とが張り合わされ、ドライヤ102eにて加熱される。加熱後に巻取ロール112にて合成皮革を工程剥離紙ごと巻き取り、熟成させてから合成皮革と工程剥離紙とが分離される。分離された工程剥離紙は巻き取られ、工程剥離紙供給ロール101に再度取り付けられて5〜10回程度繰り返し利用される。
【0006】
このように合成皮革の製造工程には加熱乾燥を行う工程があり、工程剥離紙もこの製造工程内で加熱条件下に置かれることとなる。このときの加熱条件は合成皮革となる樹脂種によっても異なるが、特に水系のポリウレタン樹脂やポリ塩化ビニル樹脂を塗布して合成皮革を製造する場合には、180℃〜250℃で数分間の加熱条件に置かれる。そして、合成皮革となる樹脂層を剥離した後に回収された工程剥離紙は新たな合成皮革の製造に5〜10回程度繰り返して使用されるため、前述のような比較的高温の加熱条件に複数回繰り返し置かれることになる。
【0007】
また、図3,図4よりもわかるように、合成皮革の製造工程において工程剥離紙と合成皮革は、複数のローラで幾度も鋭角に折り曲げられたり引っ張られたりしながら搬送されるため、高いテンションがかかることとなる。即ち工程剥離紙は、高温加熱された上でこのようなラインを搬送され、複数回繰り返し利用されるものである。このため、工程剥離紙には、高いテンションがかかっても破断を起こさないように引張強度が要求され、また、工程剥離紙のエッジ部からの破れがないよう引裂強度が要求される。加えて、繰り返しての使用を可能とするためには前述のような熱履歴を受けた場合においてもこれらの強度の低下が少ないことも求められる。従って、基紙となる工程剥離紙用原紙にはこれらの強度を満足した上に熱劣化による強度低下が少ないという性能が求められる。
【0008】
一般的に加熱による紙の強度の低下は、紙中の酸性物質が多いほど顕著となる。従って、酸性紙よりは中性紙の方が加熱による強度の低下は小さく、工程剥離紙用原紙には従来より中性紙が用いられてきた。このような工程剥離紙用原紙として、特開2006−2264号(特許文献1)にはアルキルケテンダイマーでサイズした中性紙である合成皮革製造用エンボス付き離型紙の支持体が開示されている。このような中性紙を用いた工程剥離紙用原紙は、耐熱性に優れ、加熱による引張強度や引裂強度の低下が小さい傾向にある。
【特許文献1】特開2006−2264号(請求項3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら工程剥離紙用原紙を中性紙としただけでは、工程剥離紙として5〜10回程度繰り返し使用されるのに十分な強度を得ることは出来なかった。即ち、中性紙とすることにより加熱による引張強度や引裂強度の低下をある程度抑制する事は可能であるが、それ以外の強度の加熱による低下を抑制するには十分ではなく、工程剥離紙を複数回繰り返して使用すると破れが生じる問題があった。ここでそれ以外の強度とは、パルプ繊維自体の強度が特に影響しやすい強度の事であり、例えばJIS P−8115による耐折強度が挙げられる。
【0010】
紙の強度には、パルプ繊維自体の強度とパルプ繊維同士の結合力とが影響するが、前述の引張強度や引裂強度はパルプ繊維同士の結合力の影響が大きく、工程剥離紙用原紙を中性紙とすることにより、加熱による強度低下はある程度抑制可能である。しかしながら、パルプ繊維自体の強度の影響が大きい耐折強度などについては、工程剥離紙用原紙を中性紙とするだけでは強度低下を十分に抑制することができない。このため、耐折強度などパルプ繊維自体の強度の影響が大きいものが加熱によって低下し、合成皮革を製造する際などの使用工程において、ロールバーなどで幾度も曲げや巻き取りがなされ、折り畳まれるに近い鋭角な曲げ工程に通紙されるなどした際に、複数回繰り返して使用され強度低下した工程剥離紙に破れが生じる問題があった。
【0011】
本発明はこのような問題点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、工程剥離紙に用いた場合に加熱による強度低下が少なく、繰り返して使用が可能な工程剥離紙用原紙を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的とするところは、人体への安全性が高く、環境負荷の少ない工程剥離紙用原紙を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的とするところは、ポリプロピレン樹脂やメチルペンテン系樹脂或いはアクリル系樹脂等を塗布して剥離層を設けた場合に、原紙と剥離層の接着性が良好な工程剥離紙用原紙を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的並びに作用効果については、以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明の工程剥離紙用原紙は、パルプを主成分とし、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸を含有し、パルプ100重量部に対し、澱粉を0.3乃至0.8重量部、ポリアクリルアミド樹脂を0.05乃至0.5重量部、熱硬化性樹脂を0.2乃至0.6重量部含有し、且つJIS P−8133による冷水抽出pH値が7.0以上とするものである。このような構成によれば、加熱による強度低下が少なく、工程剥離紙として繰り返して使用が可能な工程剥離紙用原紙とすることが可能となる。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記熱硬化性樹脂がポリアミドエポキシ樹脂であることが望ましい。このような構成によれば、人体への安全性が高く、環境負荷の少ない工程剥離紙用原紙とすることが可能となる。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記工程剥離紙用原紙の少なくとも一方の面にアクリル系樹脂を含有する塗液が塗布されていることが望ましい。このような構成によれば、ポリプロピレン樹脂やメチルペンテン系樹脂或いはアクリル系樹脂等を塗布して剥離層を設けた場合に、原紙と剥離層の接着性が良好な工程剥離紙用原紙とすることが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る工程剥離紙は、パルプを主成分とし、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸を含有し、パルプ100重量部に対し、澱粉を0.3乃至0.8重量部、ポリアクリルアミド樹脂を0.05乃至0.5重量部、熱硬化性樹脂を0.2乃至0.6重量部含有した工程剥離紙用原紙の少なくとも一方の面に剥離層を設けたものである。このような構成によれば、加熱による強度低下が少なく、工程剥離紙として繰り返して使用が可能な工程剥離紙が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、加熱による強度低下が少なく、工程剥離紙として繰り返して使用が可能な工程剥離紙用原紙を得ることが可能となる。
【0020】
さらに、前記熱硬化性樹脂をポリアミドエポキシ樹脂とすることにより、人体への安全性が高く、環境負荷の少ない工程剥離紙用原紙とすることが可能となる。
【0021】
さらに、前記工程剥離紙用原紙の少なくとも一方の面にアクリル系樹脂を含有する塗液を塗布することにより、ポリプロピレン樹脂やメチルペンテン系樹脂或いはアクリル系樹脂等を塗布して剥離層を設けた場合に、原紙と剥離層の接着性が良好な工程剥離紙用原紙とすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下において、本発明の好適な実施の形態について述べるが、本発明は以下の記述で限定されるものではない。
【0023】
先にも述べたように、工程剥離紙は、工程剥離紙用原紙の表面に樹脂を塗布して剥離層を設けたものであり、合成皮革や炭素強化繊維複合材料等の表面加工に用いるものである。図3,図4に示されるような合成皮革の製造工程について、工程剥離紙に注目した説明図が図2に示されている。同図に沿って説明すると、(a)先ずはじめに工程剥離紙用原紙11の表面に剥離層12が設けられ、(b)続けて剥離層12に所定のエンボス加工が施される。(c)次いで、合成皮革の原料となる原料樹脂21がエンボス加工が施された剥離層12a上に塗布され、(d)続けて原料樹脂21上に接着剤22を介して裏地23が貼り合わされる。次いで、加熱処理が施され、その後に冷却処理を行うことで合成皮革が完成する。(e)合成皮革20と工程剥離紙10とが剥離され、工程剥離紙10は繰り返し合成皮革の製造工程に供される。
【0024】
前述の通り、紙の強度低下は紙中の酸性物質が多いほど顕著となる。例えば酸性紙の定着剤として使用される硫酸アルミニウムは、加水分解により硫酸を生成し、この硫酸が紙を構成するパルプの加水分解を促進したりパルプ繊維同士の結合力を弱めたりするため、紙の強度低下がもたらされる。そしてこのような強度低下は、加熱により大幅に促進される。
【0025】
そこで、紙の強度低下を抑制する為、本発明の工程剥離紙用原紙は、JIS P−8133による冷水抽出pH値が7.0以上の中性紙とする必要があり、pH値が7.5乃至9.0であるとより好ましい。工程剥離紙用原紙を中性紙とすることにより、パルプ繊維同士の結合力の影響が大きい引張強度や引裂強度の低下を抑制することが可能となる。本願においては硫酸アルミニウムを使用しないことが望ましいが、薬品の定着性や操業上の問題から使用が求められる場合には、pH値が7.0以上となることを条件として少量であれば硫酸アルミニウムを使用することも可能である。pH値が7.0に満たないと、紙中に存在する酸性物質により加熱による強度低下が顕著となる。尚、製紙分野ではpH値が6.0以上7.0未満の紙においても中性紙と表現することがあるが、これは硫酸アルミニウムなどの酸性物質を含有する疑似的な中性紙であり、加熱による強度低下を抑制することを目的とする本発明の工程剥離紙用原紙には不適である。
【0026】
先にも述べたように、本発明の工程剥離紙用原紙は、パルプを主成分とし、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸を、乾燥紙力増強剤として澱粉とポリアクリルアミド樹脂を、更に加熱による紙の強度低下の抑制の為に熱硬化性樹脂を含有させたものである。このようなサイズ剤と、乾燥紙力増強剤と、熱硬化性樹脂との組み合わせが加熱による紙の強度低下を抑制する上で重要となる。
【0027】
まずサイズ剤の選定について述べる。サイズ剤はカルボニル基やカルボキシル基を有することが多く、これらは加熱による紙の強度低下に対して良い影響を与えない事が多い。そのため、中性紙としたことにより加熱による強度低下が抑制された場合であっても、本来はサイズ剤は添加しないことが好ましい。しかしながら、工程剥離紙は工程剥離紙用原紙にポリプロピレン樹脂やメチルペンテン系樹脂或いはアクリル系樹脂等を塗布して剥離層が設けられるものであるため、これら剥離層を構成する樹脂の塗工適性を満足する必要がある。よって、工程剥離紙用原紙にはある程度のサイズ性が要求されるため、本発明の工程剥離紙用原紙においてもサイズ剤を用いるものである。
【0028】
前述の通り、本発明の工程剥離紙用原紙はJIS P−8133による冷水抽出pH値が7.0以上である中性紙とする必要があるため、使用できるサイズ剤は中性抄紙に使用されるものに限られる。中性抄紙に使用されるサイズ剤としては、アルキルケテンダイマーやアルケニル無水コハク酸、中性ロジンサイズ剤、アクリル系サイズ剤、石油系樹脂サイズ剤などがある。この中で中性ロジンサイズ剤や石油系樹脂サイズ剤は耐熱性に乏しいものが多く、本発明の目的から使用には適さない。またアクリル系サイズ剤は、耐熱性は良好なものがあるがサイズ効果の発現が他のサイズ剤に比べて低いものが多いため多量に添加しなければならず、その結果パルプ繊維同士の結合力を阻害する要因となり、加熱による紙の強度低下をもたらす虞があるため、同様に使用には適さない。
【0029】
そこで本発明においては、サイズ剤としてはアルキルケテンダイマー及び/又はアルケニル無水コハク酸を用いることとする。アルキルケテンダイマーは耐熱性に優れ、少量の使用でも十分なサイズ性を発現するため加熱による紙の強度低下への影響が少ない。アルケニル無水コハク酸も同様に耐熱性に優れ、アルキルケテンダイマーと比べても遜色なく使用することが可能である。
【0030】
本願で用いるアルキルケテンダイマーとしては特に製造方法などを限定するものではなく、ステアリン酸とパルミチン酸の混合脂肪酸と、塩化チオニルとの反応性生物を、トリエチルアミンで処理したものなど、一般的に製紙用サイズ剤として使用されるアルキルケテンダイマーが使用できる。市販品で例を挙げると、「AD1602(星光PMC株式会社製)」、「AD1604(星光PMC株式会社製)」、「サイズパインK−910(荒川化学工業株式会社製)」、「サイズパインK−287(荒川化学工業株式会社製)」などがある。
【0031】
また、アルケニル無水コハク酸についても特に製造方法などを限定するものではなく、炭素数16の内部オレフィンを無水マレイン酸と共に加熱処理し、エン付加反応によって合成されたものなど、一般的に製紙用サイズ剤として使用されるアルケニル無水コハク酸が使用できる。市販品で例を挙げると、「AS1532(星光PMC株式会社製)」、「AS1524(星光PMC株式会社製)」、「サイズパインSA862(荒川化学工業株式会社製)」、「サイズパインSA864(荒川化学工業株式会社製)」などがある。
【0032】
本発明において、原紙中のアルキルケテンダイマー及び/又はアルケニル無水コハク酸の含有量については特に制限は無いが、工程剥離紙用原紙のステキヒトサイズ度が米坪120g/m2換算で30〜200秒となるよう調整して含有させることが望ましい。一例として、アルキルケテンダイマーはパルプ100重量部に対し0.1〜0.2重量部程度、アルケニル無水コハク酸はパルプ100重量部に対し0.1〜0.3重量部程度の量を用いることで、ステキヒトサイズ度を所定の範囲内に収め易くなるが、勿論この範囲に限定されるわけではない。一般にこれら2種のサイズ剤は少量の添加で十分なサイズ性を発現するものであり、ステキヒトサイズ度を前記範囲となる程度で添加すれば過剰添加による加熱時の紙の強度低下への影響が少ない。ここでサイズ剤の含有量が少なくサイズ性の発現が不十分な場合、工程剥離紙とする際に剥離層の塗工適性が不十分となり、原紙と剥離層との接着性が悪くなる虞がある。逆にサイズ剤の含有量が多すぎる場合には、過剰なサイズ性の付与となるだけではなく加熱による紙の強度低下への影響が懸念され、更には原紙と剥離層の接着性が悪くなる虞がある。
【0033】
先にも述べたように、本発明においては硫酸アルミニウムを極力使用しないことが好ましい。その為、サイズ剤の定着性にやや劣る場合があるが、炭酸カルシウムや珪酸マグネシウムを少量添加することによって定着性を向上させることが可能である。また、乾燥紙力増強剤として用いる澱粉として、特にカチオン化澱粉を用いることによっても定着性を向上させることが可能である。
【0034】
次に、本発明において用いる乾燥紙力増強剤について説明する。乾燥紙力増強剤は、一般的に用いられる用途と同様に紙の強度付与の為に用いるが、本発明においては耐熱性及び前述のサイズ剤や熱硬化性樹脂との相互作用を考慮し、少量の添加でも十分な強度が発現できるように澱粉とポリアクリルアミド樹脂を併用する。乾燥紙力増強剤としては、澱粉、植物ガム系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド樹脂などが一般的に用いられているが、単体で比較的良好に用いることが可能なものは澱粉のみである。植物ガム系樹脂は耐熱性に乏しいこともあり、本発明の目的から使用には適さず、ポリビニルアルコールは、前述のアルキルケテンダイマーやアルケニル無水コハク酸と併用すると工程剥離紙とする際に剥離層と工程剥離紙用原紙との接着性を大きく阻害する要因となるため、こちらも本発明では使用できない。また、ポリアクリルアミド樹脂も耐熱性に劣るものであり、このため単体での使用においては加熱による紙の強度低下に影響する可能性が高い。このようなことから、乾燥紙力増強剤としては澱粉を単体で用いることが考えられるが、単体での使用では使用量が比較的多くなり、その結果、地合の悪化や繊維塊状物の発生の問題が生じる。そこで本発明においては、乾燥紙力増強剤として澱粉とポリアクリルアミド樹脂を併用することとした。これにより、その相互作用によって比較的少量の使用であっても紙の強度を付与でき、工程剥離紙用原紙として必要な強度を十分に満足することが可能である。
【0035】
本願で用いる澱粉としては特に制限するものではなく、カチオン化澱粉、両性澱粉などを用いることが可能であるが、前述のサイズ剤の定着性を向上させることが可能であるカチオン化澱粉を用いることが好ましい。また、ポリアクリルアミド樹脂についても特に制限するものではなく、アニオン性或いは両性のポリアクリルアミド樹脂などを用いることが可能である。
【0036】
本発明においては、パルプ100重量部に対し澱粉を0.3乃至0.8重量部、ポリアクリルアミド樹脂を0.05乃至0.5重量部含有させる。澱粉とポリアクリルアミド樹脂の双方、もしくはいずれか一方の配合量が規定の下限値に満たない場合には、工程剥離紙用原紙としての紙力強度が不十分となる。また、後述する熱硬化性樹脂との反応が不十分となることで加熱による紙の強度低下の抑制も不十分となる。一方、澱粉とポリアクリルアミド樹脂の双方、もしくはいずれか一方の配合量が上限値を超えると、紙力強度を向上させる効果が飽和するのみならず、地合の悪化や繊維塊状物が発生し、工程剥離紙原紙として好適に用いることが出来ない虞がある。尚、地合の悪化は合成皮革などを製造する工程での工程剥離紙の走行不良の原因となり、繊維塊状物の発生は合成皮革などの成型物の外観を損ねる原因となり得る。
【0037】
本願において、工程剥離紙用原紙として必要とされる強度は、引張強度は紙の縦方向で8.5kN/m以上、横方向で6.0kN/m以上を満足することが望ましく、引裂強度は紙の縦方向横方向とも900mN以上であることが望ましい。尚、後述するが、ここで耐熱性に劣るポリアクリルアミド樹脂を使用することによる加熱による紙の強度低下への影響は、熱硬化性樹脂を使用することにより解決される。
【0038】
先にも述べたように、本発明の工程剥離紙用原紙では、加熱による紙の強度低下について、パルプ繊維自体の強度の影響を大きく受ける耐折強度の低下も抑制する必要がある。工程剥離紙の耐折強度としては紙の縦方向及び横方向とも500回以上(ISO耐折回数)が望ましく、工程剥離紙用原紙も同程度の耐折強度が必要とされる。耐折強度はパルプ繊維種の選定や配合などを調整することによって付与するのが一般的であるが、加熱による耐折強度の低下は著しく、パルプ繊維種の選定や配合などの調整のみで加熱後にも工程剥離紙として望ましい耐折強度を維持することは困難である。そこで本発明においては、熱硬化性樹脂を使用することによって加熱時の強度付与を行い、加熱による強度低下を抑制する。熱硬化性樹脂は加熱により硬化するため加熱時にパルプ繊維を補強する作用が期待でき、結果的に耐折強度の低下を抑制することが可能となる。
【0039】
尚、加熱による紙の強度低下において、パルプ繊維自体の強度の影響を大きく受ける紙の強度の評価方法としては、耐折強度の他にゼロスパンでの引張強度を挙げることができる。ゼロスパンでの引張強度とはJIS P−8113に規定する引張特性の試験方法において、通常2個のつかみ具の間隔を180mm±1.0mmとするところを0mmとして測定する方法である。この方法によればパルプ繊維自体の強度の評価を行うことが可能である。しかしながら、耐折強度の方が測定方法としても一般的であり、且つパルプ繊維自体の強度を反映しやすいことから本発明ではここでの評価に耐折強度を用いる。
【0040】
ところで熱硬化性樹脂は紙の強度付与には極めて効果的であるが、熱硬化性樹脂の含有量が多すぎると、十分な加熱を行った場合に紙自体が硬くなりすぎるという問題がある。工程剥離紙は合成皮革を製造する際などの使用工程において、ロールバーなどで幾度も曲げや巻き取りがなされるものであるためある程度のしなやかさが必要となるが、紙自体が硬すぎるとバタツキなどの走行不良を起こして操業上の問題が生じる。従って、熱硬化性樹脂の使用は加熱による紙の強度低下を抑制できる範囲内でなるべく少量であることが好ましいが、少量の使用では加熱による紙の強度低下を十分に抑制することが困難であった。そこで本発明では、前述の乾燥紙力増強剤として用いるポリアクリルアミド樹脂と、熱硬化性樹脂とを併用することによって、熱硬化性樹脂の使用が少量であっても加熱による紙の強度低下を十分に抑制することを可能とした。
【0041】
本願で用いる熱硬化性樹脂としては、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド−尿素樹脂、ポリアミドエポキシ樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は加熱により架橋反応を起こして硬化し、加熱による紙の強度低下を抑制する。この架橋反応は特にアミド基への反応性が高く、前述の乾燥紙力増強剤として用いるポリアクリルアミド樹脂を併用することにより加熱時に十分な架橋反応が生じ、結果として熱硬化性樹脂の使用が少量であっても加熱による紙の強度低下を十分に抑制することが可能となる。更に、前述した耐熱性に劣るポリアクリルアミド樹脂を使用することによる加熱時の紙の強度低下への影響も抑制される。
【0042】
本発明においては、パルプ100重量部に対し熱硬化性樹脂を0.2乃至0.6重量部含有させる。熱硬化性樹脂の含有量が0.2重量部に満たないと、加熱による耐折強度の低下を十分に抑制することができない。一方、熱硬化性樹脂の含有量が0.6重量部より多いと、加熱による耐折強度の低下を抑制する効果が飽和してコスト的に不利となるばかりでなく、紙自体が硬くなりすぎることがある。このため、前述のようなバタツキなどの走行不良を起こして操業上の問題が生じたり、地合の悪化や繊維塊状物が発生して工程剥離紙原紙として好適に用いることが出来ない虞がある。
【0043】
前述した熱硬化性樹脂の内、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂などのホルムアルデヒド縮合物は、耐熱性付与剤としては非常に有効であるが、環境ホルモンの疑いのあるホルムアルデヒドの拡散の問題があり、人体や環境への負荷の懸念がある。そこで本発明においては、人体への安全性が比較的高く、環境負荷の比較的少ないポリアミドエポキシ樹脂を用いることが好ましい。このようなポリアミドエポキシ樹脂としては、ポリアミド樹脂にエピハロヒドリンを作用して得られた分子内にエポキシ基を有するもの、具体的にはエポキシ環の側鎖を有するポリアミドエピクロロヒドリン樹脂やポリアミドアミンエピクロロヒドリン樹脂などが挙げられる。
【0044】
本発明の工程剥離紙用原紙においては、少なくとも一方の面にアクリル系樹脂を含有する塗液が塗布されていることが好ましい。工程剥離紙は、基紙となる工程剥離紙用原紙の表面にポリプロピレン樹脂やメチルペンテン系樹脂或いはアクリル系樹脂を塗布して剥離層を設けるが、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸を使用すると、ロジンサイズ剤やアクリル系サイズ剤を用いた場合に比べて原紙と剥離層との接着性が弱くなる傾向にある。そこで、工程剥離紙用原紙の表面にアクリル系樹脂を塗布することにより原紙と剥離層の接着性を向上させることが可能となる。
【0045】
工程剥離紙用原紙の表面に塗布する樹脂としてはポリビニルアルコールなども一般的であるが、ポリビニルアルコールはアルキルケテンダイマーやアルケニル無水コハク酸と併用すると工程剥離紙とする際に設ける剥離層と工程剥離紙用原紙との接着性を大きく阻害する要因となるため、前述の乾燥紙力増強剤の場合と同様に本発明では使用できない。
【0046】
ここでアクリル系樹脂の塗布量としては特に制限するものではないが、工程剥離紙用原紙の片面あたり0.03〜0.5g/m2の範囲とすることが好ましい。アクリル系樹脂の塗布量が0.03g/m2より少ないと原紙と剥離層の接着性を向上させる効果が不十分でとなる虞があり、一方、アクリル系樹脂の塗布量が0.5g/m2を超えても原紙と剥離層の接着性を向上させる効果は飽和する。また、アクリル系樹脂の塗布方法としては特に制限するものではなく、各種コーティングマシンやサイズプレス装置などを用いることが可能である。
【0047】
本発明の工程剥離紙用原紙において、使用するパルプは特に限定するものではなく、公知の木材パルプを1種又は2種以上適宜選択して使用することができる。例えば、化学パルプのNBKP、LBKP、SCP等、機械パルプのGP、CGP、RGP、TMP等、脱墨パルプ、再生パルプなどであり、工程で発生する損紙を離解したパルプ等を用いても良い。
【0048】
本発明の工程剥離紙用原紙の坪量については、強度や加工適性の面から100〜200g/m2とすることが望ましい。坪量が100g/m2を下回ると、工程剥離紙用原紙として必要な各強度を満足することが難しく、また、工程剥離紙として合成皮革などの製造時に用いた場合にカールやバタツキなどを起こして操業上の問題が生じる虞がある。一方、坪量が200g/m2を超えると、ロールとした際の巻き径が大きくなり作業効率が低下したり、エンボス加工性が悪くなる虞がある。
【0049】
本発明の工程剥離紙用原紙においては、目的とする効果を損なわない範囲で通常抄紙に使用される公知の添加剤を適宜使用することができる。これらの添加剤としては、歩留まり向上剤、染料、顔料、消泡剤、導電剤、等が挙げられる。但し、酸性物質など加熱による紙の強度低下を促進する添加剤の使用については注意が必要であり、極力用いない方が好ましい。
【実施例1】
【0050】
以下に本発明に係る工程剥離紙用原紙の実施例について具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。尚、実施例中の部及び%は、断らない限り乾燥重量部及び重量%を示す。
【0051】
<実施例1>
LBKP70重量部、NBKP30重量部を用い、濾水度を410ml:CSFとした後、水中に分散したパルプ100重量部に対し、炭酸カルシウム(ソフトン2200/備北粉化工業株式会社製)を0.3重量部、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)を0.6重量部、コロイダルシリカを0.1重量部、アルキルケテンダイマー系サイズ剤(AD1602/星光PMC株式会社製)を0.15重量部、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)を0.2重量部、ポリアミドエポキシ樹脂(Sumirez Resin 6615/住友化学工業株式会社製)0.45重量部を添加し、苛性ソーダにてpH値を7.8に調整して抄紙原料を得た。得られた抄紙原料を用い、坪量が120g/m2となるように長網式抄紙機で抄紙し、工程剥離紙用原紙を得た。
【0052】
<実施例2>
実施例1において、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)の配合量を0.3重量部とし、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)の配合量を0.5重量部とした以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0053】
<実施例3>
実施例1において、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)の配合量を0.8重量部とし、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)の配合量を0.05重量部とした以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0054】
<実施例4>
実施例1において、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)の配合量を0.3重量部とし、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)の配合量を0.05重量部とし、ポリアミドエポキシ樹脂(Sumirez Resin 6615/住友化学工業株式会社製)の配合量を0.2重量部とした以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0055】
<実施例5>
実施例1において、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)の配合量を0.8重量部とし、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)の配合量を0.5重量部とし、ポリアミドエポキシ樹脂(Sumirez Resin 6615/住友化学工業株式会社製)の配合量を0.6重量部とした以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0056】
<実施例6>
実施例1において、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)の配合量を0.3重量部とし、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)の配合量を0.05重量部とし、ポリアミドエポキシ樹脂(Sumirez Resin 6615/住友化学工業株式会社製)の配合量を0.2重量部とし、アルキルケテンダイマー系サイズ剤(AD1602/星光PMC株式会社製)をアルケニル無水コハク酸系サイズ剤(サイズパインSA−864/荒川化学工業株式会社製)に変更してこれを0.2重量部配合した以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0057】
<実施例7>
実施例1において、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)の配合量を0.8重量部とし、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)の配合量を0.5重量部とし、ポリアミドエポキシ樹脂(Sumirez Resin 6615/住友化学工業株式会社製)の配合量を0.6重量部とし、アルキルケテンダイマー系サイズ剤(AD1602/星光PMC株式会社製)をアルケニル無水コハク酸系サイズ剤(サイズパインSA−864/荒川化学工業株式会社製)に変更してこれを0.2重量部配合した以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0058】
<実施例8>
実施例1において、ポリアミドエポキシ樹脂(Sumirez Resin 6615/住友化学工業株式会社製)を、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂(Sumirez Resin 8%AC/住友化学工業株式会社製)とした以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0059】
<実施例9>
実施例8において、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)の配合量を0.3重量部とし、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)の配合量を0.05重量部とし、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂(Sumirez Resin 8%AC/住友化学工業株式会社製)の配合量を0.2重量部とした以外は実施例8と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0060】
<実施例10>
実施例8において、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)の配合量を0.8重量部とし、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)の配合量を0.5重量部とし、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂(Sumirez Resin 8%AC/住友化学工業株式会社製)の配合量を0.6重量部とした以外は実施例8と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0061】
<実施例11>
実施例1において、抄紙する際に抄紙機のサイズプレス装置にてアクリル系樹脂(コロパールSE2020/星光PMC株式会社製)を工程剥離紙用原紙に片面あたり0.5g/m2となるよう塗布した以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0062】
<実施例12>
実施例1において、抄紙する際に抄紙機のサイズプレス装置にてアクリル系樹脂(コロパールSE2020/星光PMC株式会社製)を工程剥離紙用原紙に片面あたり0.03g/m2となるよう塗布した以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0063】
<比較例1>
実施例1において、ポリアミドエポキシ樹脂(Sumirez Resin 6615/住友化学工業株式会社製)を配合しなかった以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0064】
<比較例2>
実施例1において、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)を配合せず、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)の配合量を0.5重量部とした以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0065】
<比較例3>
実施例1において、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)の配合量を1.5重量部とし、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)の配合量を0.05重量部とした以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0066】
<比較例4>
実施例1において、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)の配合量を0.8重量部とし、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)を配合しなかった以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0067】
<比較例5>
実施例1において、カチオン化デンプン(SB GUM−POSIT300/Sanguan WongseInd社製)の配合量を0.3重量部とし、ポリアクリルアミド樹脂(ハーマイドEX−300F/ハリマ化成株式会社製)の配合量を0.8重量部とした以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0068】
<比較例6>
実施例1において、ポリアミドエポキシ樹脂(Sumirez Resin 6615/住友化学工業株式会社製)の配合量を0.1重量部とした以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0069】
<比較例7>
実施例1において、ポリアミドエポキシ樹脂(Sumirez Resin 6615/住友化学工業株式会社製)の配合量を1.0重量部とした以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0070】
<比較例8>
実施例1において、アルキルケテンダイマー系サイズ剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして工程剥離紙用原紙を得た。
【0071】
実施例1〜12及び比較例1〜8の工程剥離紙用原紙の配合について、図5に示す。また、実施例1〜12、比較例1〜8で得られた工程剥離紙用原紙についての評価結果を図6に示す。図6に示されている評価方法及び表記は以下の通りである。
【0072】
[引張強度]
JIS P−8113に規定される測定方法に準拠して紙の縦方向(MD方向)及び横方向(CD方向)について測定を実施した。
[引裂強度]
JIS P−8116に規定される測定方法に準拠して紙の縦方向(MD方向)及び横方向(CD方向)について測定を実施した。
[耐折強度]
JIS P−8115に規定される測定方法に準拠して紙の縦方向(MD方向)及び横方向(CD方向)について測定を実施した。図6中の値はISO耐折回数を示す。
[強度残存率]
上記の3項目の物性強度について、各実施例及び比較例で得られた工程剥離紙用原紙を23℃×50%r.h.で調湿して特別な加熱処理を行わずに測定を行ったものを「初期値」、パーフェクトオーブンにて230℃で3分間の加熱処理を行った後に測定を行ったものを「加熱後値」、「加熱後値」/「初期値」=「強度残存率」とした。強度残存率が100%を下回ると加熱により強度が低下したことを意味し、値が小さくなるほど加熱による強度低下が大きいことを示す。
【0073】
[冷水抽出pH値]
JIS P−8133に規定される冷水抽出法により測定した。
[地合・繊維塊]
得られた工程剥離紙用原紙の地合と繊維塊の有無を目視にて確認した。評価は、◎、○、△、×の4段階評価とし、地合が最も良好で繊維塊が無いものを◎、地合が良好で繊維塊が殆どないものを○、地合がやや悪く繊維塊がやや見られるが実用上問題ないものを△、地合が最も悪く繊維塊が目立ち実用上問題のあるものを×、としている。
【0074】
図6から明らかなように実施例1〜12で得られた工程剥離紙用原紙は、工程剥離紙として必要とされる各強度を満足し、加熱による強度低下も比較的小さく、地合・繊維塊についても実用上問題ないものであった。また、実施例1〜7で得られた工程剥離紙用原紙は、ホルムアルデヒドの放散の心配が無いため人体への安全性が高く、環境負荷の少ない工程剥離紙用原紙とすることができた。尚、実施例1〜12及び比較例1〜7で得られた工程剥離紙用原紙のステキヒトサイズ度は何れも100〜120秒の範囲であり、良好なサイズ性を有していた。
【0075】
これに対して、比較例1で得られた工程剥離紙用原紙は、熱硬化性樹脂を配合しなかった為に加熱によりパルプ繊維自体の強度が著しく悪化し、耐折強度の強度残存率が著しく小さくなった。これより工程剥離紙として繰り返しの使用に耐えうる工程剥離紙用原紙を得ることができなかった。
【0076】
また、比較例2で得られた工程剥離紙用原紙は、ポリアクリルアミド樹脂の配合量は上限量であるもの澱粉が配合されなかった為に強度に劣るものとなり、引張強度及び引裂強度が小さくなり、実用に供し得る強度を満たした工程剥離紙用原紙を得ることができなかった。
【0077】
また、比較例3で得られた工程剥離紙用原紙は、ポリアクリルアミド樹脂の配合量は下限量であるもの澱粉の配合量がパルプ100重量部に対し1.0重量部を上回っていたため地合が悪く、繊維塊が目立ち、実用に供し得る工程剥離紙用原紙を得ることができなかった。
【0078】
また、比較例4で得られた工程剥離紙用原紙は、澱粉の配合量は上限量であるもののポリアクリルアミド樹脂が配合されなかった為に強度に劣るものとなり、引張強度及び引裂強度が小さくなり、満足な強度有する工程剥離紙用原紙を得ることができなかった。また、熱硬化性樹脂の硬化が乏しくなる為に耐折強度の強度残存率が著しく小さくなり、工程剥離紙として繰り返しの使用に耐えうる工程剥離紙用原紙を得ることができなかった。
【0079】
また、比較例5で得られた工程剥離紙用原紙は、澱粉の配合量は下限量であるもののポリアクリルアミド樹脂の配合量がパルプ100重量部に対し0.5重量部を上回っていたため地合が悪く繊維塊が目立ち、実用に供し得る工程剥離紙用原紙を得ることができなかった。
【0080】
また、比較例6で得られた工程剥離紙用原紙は、熱硬化性樹脂の配合量がパルプ100重量部に対し0.2重量部を下回っていたため耐折強度の強度残存率が著しく小さくなった。これより工程剥離紙として繰り返しの使用に耐えうる工程剥離紙用原紙を得ることができなかった。
【0081】
また、比較例7で得られた工程剥離紙用原紙は、熱硬化性樹脂の配合量がパルプ100重量部に対し0.6重量部を上回っていたため地合が悪く繊維塊が目立ち、実用に供し得る工程剥離紙用原紙を得ることができなかった。
【0082】
また、比較例8で得られた工程剥離紙用原紙は、ステキヒトサイズ度が30秒を下回ったためサイズ性が低くなり、剥離層形成時に樹脂塗料が紙に染み込みやすくなる。このため、塗工量が比較的増加するなど剥離層の塗工適性に不具合が生じやすくなる。
【0083】
以上より明らかなように、本願の工程剥離紙用原紙においては、澱粉とポリアクリルアミド樹脂の配合量は、パルプ100重量部に対し、澱粉が0.3乃至0.8重量部、ポリアクリルアミド樹脂が0.05乃至0.5重量部の範囲内であれば、双方ともに上限量、もしくは下限量で配合しても、実用に供し得るレベルの工程剥離紙用原紙が得られる。その一方で、いずれかの配合量が下限量を下回った場合には、他方の配合量が上限量であっても十分な強度が得られず、実用に供し得るレベルの工程剥離紙用原紙が得られない。また、いずれかの配合量が上限量を上回った場合には、他方の配合量が下限量であっても地合が悪化し、この場合も実用に供し得るレベルの工程剥離紙用原紙が得られない。
【0084】
また、熱硬化性樹脂については、パルプ100重量部に対し0.2乃至0.6重量部の範囲内であれば、十分な強度を有し、しかも適度なしなやかさを備えた工程剥離紙用原紙が得られる。
【0085】
次に実施例1、実施例11及び実施例12で得られた工程剥離紙用原紙の表面に剥離層を形成し、剥離層と工程剥離紙用原紙の接着性について評価した。剥離層の形成方法は下記の通りである。
[剥離層の形成方法]
工程剥離紙用原紙の表面にメチルペンテン系樹脂(TPX DX820/三井化学株式会社製)を310℃の条件で押出法でコーティングし、厚さ20μmの剥離層を形成した。
【0086】
剥離層と工程剥離紙用原紙を手剥がしにより層間剥離させ、接着性を感応評価したところ、実施例11で得られた工程剥離紙用原紙が最も接着強度が強く、次いで実施例12で得られた工程剥離紙用原紙の接着性が強く、実施例1で得られた工程剥離紙用原紙は最も接着性が弱い結果となった。これより工程剥離紙用原紙の表面にアクリル系樹脂を塗布することにより、剥離層と工程剥離紙用原紙との接着性が向上するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上述べたように、本発明によれば、高熱条件による処理を経ても強度低下が少なく、工程剥離紙として繰り返して使用が可能である、合成皮革製造用の工程剥離紙などに好適な工程剥離紙用原紙を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】工程剥離紙の構成の一例を示す図である。
【図2】合成皮革の製造工程を説明する図である。
【図3】工程剥離紙を用いた合成皮革の製造例(その1)である。
【図4】工程剥離紙を用いた合成皮革の製造例(その2)である。
【図5】実施例及び比較例の配合を示す図表である。
【図6】実施例及び比較例の評価結果を示す図表である。
【符号の説明】
【0089】
10 工程剥離紙
11 工程剥離紙用原紙
12 剥離層
12a エンボス加工が施された剥離層
13 中間層
101 工程剥離紙供給ロール
102a ドライヤ
102b ドライヤ
102c ドライヤ
102d ドライヤ
102e ドライヤ
103 基布供給ロール
104 ビニルペースト
104a 発泡剤入りビニルペースト
105 接着剤
106 冷却ロール
107 合成皮革巻取ロール
108 工程剥離紙巻取ロール
110 1液ウレタンペースト
111 2液ウレタンペースト
112 巻取ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程剥離紙に用いる工程剥離紙用原紙であって、パルプを主成分とし、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸を含有し、パルプ100重量部に対し、澱粉を0.3乃至0.8重量部、ポリアクリルアミド樹脂を0.05乃至0.5重量部、熱硬化性樹脂を0.2乃至0.6重量部含有し、且つJIS P−8133による冷水抽出pH値が7.0以上であることを特徴とする工程剥離紙用原紙。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂がポリアミドエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の工程剥離紙用原紙。
【請求項3】
少なくとも一方の面にアクリル系樹脂を含有する塗液が塗布されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の工程剥離紙用原紙。
【請求項4】
パルプを主成分とし、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸を含有し、パルプ100重量部に対し、澱粉を0.3乃至0.8重量部、ポリアクリルアミド樹脂を0.05乃至0.5重量部、熱硬化性樹脂を0.2乃至0.6重量部含有した工程剥離紙用原紙の少なくとも一方の面に剥離層を設けたことを特徴とする工程剥離紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−291408(P2008−291408A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140877(P2007−140877)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(592175416)紀州製紙株式会社 (23)
【Fターム(参考)】