干潟覆砂材料、干潟造成方法、干潟覆砂方法及び干潟覆砂構造
【課題】 アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持するとともに浮遊幼生が着底し易い底質環境を提供可能な干潟覆砂材料、干潟造成方法、覆砂方法及び干潟覆砂構造を提供する。
【解決手段】 この干潟覆砂材料は、人工干潟やアサリ漁場の造成の際に、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂を砂質土に混合することにより、混合後の粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%としたものである。
【解決手段】 この干潟覆砂材料は、人工干潟やアサリ漁場の造成の際に、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂を砂質土に混合することにより、混合後の粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%としたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アサリ資源量増加のための人工干潟またはアサリ漁場の干潟覆砂材料、干潟造成方法、干潟覆砂方法及び干潟覆砂構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アサリのライフサイクル(浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期)の中で、浮遊幼生の着底については、着底場所選択行動(自らの足部で底質条件を確かめて着底場所を選択する行動)を行うことが知られており、特に、粗砂(粒径0.85〜2mm)を好むという報告がある(下記非特許文献1参照)。即ち、非特許文献1によれば、図1(a)のように、粒径0.85〜2mmの粗砂で特に良好な結果が得られている。図1(a)の結果を得るための調査方法をまとめると、図1(b)のようになり、図1(a)の結果はアサリ幼生について7粒径(0.063〜4mm)に区分した着底床で着底個体数を調査して得られたものである。
【0003】
アサリの浮遊幼生は着底した後に、たんぱく質からなる粘性の足糸を伸ばし、この足糸を土粒子等の基質に接着させることによって潮流などで流されることを防いでいると考えられ(図2参照)、また、浮遊幼生から稚貝に成長する過程で負の走光性を示し、隠蔽場所を求める特性があると考えられることから、ある程度大きな粒径の砂を好むものと推定されている。
【0004】
従来の研究事例を参考にして、アサリの生育環境と粒度分布の関係をまとめると図3に示す通りである。図3のように、細粒分(粘土シルト分)含有率40%以上では生育不可能と考えられており、アサリ成貝の生息調査から推定される生育最適環境は、中央粒径D50=0.2〜0.4mm、細粒分含有率20〜30%と考えられている。
【0005】
浮遊幼生の着底については、前述の通り、粗砂(粒径0.85〜2mm)を好むという報告があるが、浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期のライフサイクルに最も適した粗砂分含有率に関する知見は得られていない。
【0006】
アサリは、浮遊幼生から稚貝に成長するまでの過程では、着底適地として粗砂を好むものの、稚貝から成貝に成長するまでの過程では、保水性と摂餌活動のため更に潜砂行動のし易さを求めて粗砂よりも細かい粒径を好み、成長する過程でより生育環境の適地を求めて移動する習性があると考えられている。成貝はほとんど移動性を示さないが、稚貝の時期には移動性が大きく、1ヶ月間で5m程度移動したという報告もある。
【0007】
なお、アサリの成貝と稚貝は、生殖器官の発達によって区別され、一般に、殻長10〜25mmで成熟状態(生殖能力あり)となる。1歳未満、殻長15mm未満を稚貝、1歳以上、殻長15〜20mm以上を成貝と区別する場合もある。
【0008】
図3にアサリが多く生息している天然干潟(東京湾)の粒度分布の一例を併せて示すが、この干潟の粒度分布は生育最適環境の範囲に一致してはいない。この干潟の粒度分布を、アサリの生育により適した粒度分布に改質するための手段として、保水性向上や栄養分補給を目的として細粒分を添加混合するという考えが報告されている。
【0009】
なお、所望の干潟底生生物の生息条件に応じて、砂、細粒分、有機物、バクテリア等の任意の材料を、最適配合でブレンドして、覆砂材料として活用する方法(例えば、下記特許文献1参照)や、所望の干潟底生生物の生息条件に応じて粒度及び強熱減量を調製した覆砂材料を活用する方法(例えば、下記特許文献2参照)が公知である。しかし、特許文献1にはアサリに関する生育最適環境については開示も示唆もなく、また、特許文献2では、所望の干潟底生生物に適した環境を整えるためにアサリと底質との関係を点数化する方法が開示されているが、上述のようなアサリの成長過程における習性を考慮した砂の粒度分布、特に粗砂分については着目していない。
【非特許文献1】「アサリ幼生の着底場選択性と三河湾における分布量」水産工学Vol.29(1) 55〜59頁、1992
【特許文献1】特開2000−314116号公報
【特許文献2】特開2003−184046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アサリの成貝は様々な粒度分布で生息可能であるが、稚貝放流を行わずに再生産のみでアサリ漁場を維持するためには、浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期のライフサイクルに最も適した粒度組成の覆砂材料を用いることが重要と考えられる。ところが、アサリのライフサイクルに最も適した粒度組成についての明確な知見は得られていないのが現状である。
【0011】
また、従来、アサリ漁場整備を目的とした干潟造成においては、アサリ成貝の生息が確認されている周辺海域の底質粒度分布を参考にして、主に、中央粒径(例えばD50=0.2〜0.4mm)や細粒分含有率(例えば含有率20〜30%)に着目して、覆砂材料として用いる海砂や山砂の選定を行っており、粗砂分含有率には着目していない。このため、覆砂材料の粗砂分含有率は20%未満である場合が大半である。この粗砂分含有率20%未満の一般的な干潟は、アサリ成貝の生育環境としては問題ないものと考えられるが、アサリ浮遊幼生の着底促進により、アサリ資源量増加を図る上での最適環境とは言い難いのが現状である。
【0012】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持するとともに浮遊幼生が着底し易い底質環境を提供可能な干潟覆砂材料、干潟造成方法、干潟覆砂方法及び干潟覆砂構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明による干潟覆砂材料は、人工干潟やアサリ漁場の造成の際に、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂を砂質土に混合することにより、混合後の粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%としたことを特徴とする。
【0014】
この干潟覆砂材料によれば、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を砂質土に混合し、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とすることで、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境の造成が可能となる。これにより、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるところ、アサリの浮遊幼生の着底促進を図ることができ、アサリの新規加入群を増加させ、アサリ資源量の増加が実現可能となる。
【0015】
上記混合後の粗砂分含有率を20〜50%としている理由は、アサリが浮遊幼生から稚貝に成長するまでの過程では、着底適地として粗砂を好むものの、稚貝から成貝に成長するまでの過程では、保水性及び摂餌形態のため更に潜砂行動のし易さを求めるため粗砂よりも細かい粒径を好むことから、浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期のライフサイクルに最も適した粒度組成としては、粗砂分含有率が50%を超えるのは好ましくないからであり、20%以上であれば、浮遊幼生の着底に充分であると考えられるからである。
【0016】
本発明の干潟造成方法は、粗砂を砂質土に混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成することを特徴とする。
【0017】
この干潟造成方法によれば、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を砂質土に混合し、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とすることで、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境を造成できる。
【0018】
本発明による別の干潟造成方法は、粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上、及び細粒分含有率40%未満である砂質土に粗砂を混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成することを特徴とする。
【0019】
この干潟造成方法によれば、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を、粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上及び細粒分含有率40%未満の砂質土に混合し、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とすることで、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境を造成できる。
【0020】
本発明による更に別の干潟造成方法は、粗砂分含有率20%未満、細粒分含有率30%未満、粒径2mmの通過質量百分率80〜100%、及び平均粒径D50=0.15〜0.6mmである砂質土に粗砂を混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成することを特徴とする。
【0021】
この干潟造成方法によれば、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を、粗砂分含有率20%未満、細粒分含有率30%未満、粒径2mmの通過質量百分率80〜100%、及び平均粒径D50=0.15〜0.6mmの砂質土に混合し、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とすることで、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境を造成できる。
【0022】
本発明による更に別の干潟造成方法は、粗砂分含有率20%未満、かつ、砂分含有率60%以上、かつ、細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に粗砂を3cm程度以内の層厚に散布することで人工干潟を造成することを特徴とする。
【0023】
この干潟造成方法によれば、一般的にアサリ生息適地と考えられている砂質〜砂泥質干潟が形成されるような静穏な水域では、干潟表層部に粗砂が少ない場合が多く、細砂や中砂が粒度組成の大半を占める場合が多いが、このような粗砂分含有率の小さい砂質土からなる干潟表層部に、粗砂を3cm程度以内の層厚に散布することによって、浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期のライフサイクルに最も適した干潟とすることが可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境となる。
【0024】
上述の各干潟造成方法によれば、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるところ、アサリの浮遊幼生の着底促進を図ることができ、アサリの新規加入群を増加させ、アサリ資源量の増加が実現可能となる干潟を造成できる。
【0025】
本発明による干潟覆砂方法は、粗砂分(粒径0.085〜2mm)含有率20%未満、砂分(粒径0.075〜2mm)含有率60%以上、及び細粒分(粒径0.075mm未満)含有率40%未満の砂質土に砂混合装置を使用して粗砂を混合することで上述の干潟覆砂材料を調製した後に人工干潟の所定の領域に投下することを特徴とする。
【0026】
この干潟覆砂方法によれば、砂質土に砂混合装置を使用して粗砂を混合することで、粗砂分含有率を大きくし、アサリ浮遊幼生の着底に適した底質環境の人工干潟を造成できる。
【0027】
本発明による別の干潟覆砂方法は、粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上、及び細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に、砂散布装置を使用して粗砂を散布することによって前記干潟表層部を上述の干潟覆砂材料に改質することを特徴とする。
【0028】
この干潟覆砂方法によれば、一般的にアサリ生息適地と考えられている砂質〜砂泥質干潟が形成されるような静穏な水域では、干潟表層部に粗砂(粒径0.85〜2mm)が少ない場合が多く、細砂(粒径0.075〜0.25mm)や中砂(粒径0.25〜0.85mm)が粒度組成の大半を占める場合が多いが、このような粗砂分含有率の小さい砂質土からなる干潟表層部に対して、砂散布装置を使用して粗砂を散布することで干潟表層部の粗砂分含有率を大きくし、アサリ浮遊幼生の着底に適した底質環境に改質することが可能となる。
【0029】
上述の各干潟覆砂方法によれば、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるところ、アサリの浮遊幼生の着底促進を図ることができ、アサリの新規加入群を増加させ、アサリ資源量の増加が実現可能となる干潟を造成できる。
【0030】
本発明による二層覆砂形式の干潟覆砂構造は、粗砂分(粒径0.85〜2mm)含有率20%未満、かつ、砂分(粒径0.075〜2mm)含有率60%以上、かつ、細粒分(粒径0.075mm未満)含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部で粗砂を3cm程度以内の層厚に散布することによって構成されることを特徴とする。
【0031】
この二層覆砂形式の干潟覆砂構造によれば、一般的にアサリ生息適地と考えられている砂質〜砂泥質干潟が形成されるような静穏な水域では、干潟表層部に粗砂が少ない場合が多く、細砂や中砂が粒度組成の大半を占める場合が多いが、このような粗砂分含有率の小さい砂質土からなる干潟表層部を、粗砂を3cm程度以内の層厚に散布した干潟覆砂構造に改修することによって、浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期のライフサイクルに最も適した干潟とすることが可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境となる。
【0032】
上記干潟覆砂構造の粗砂の層厚を3cm程度以内としている理由は、アサリの生息深度は、殻長の1〜2倍程度と言われており、干潟表層から稚貝(一般に、殻長15mm未満)の生息深度までの範囲を粗砂とすることで、浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期までの最適環境を整えることが可能であるとともに、粗砂の下に粗砂分含有率の小さい細砂(粒径0.075〜0.25mm)〜中砂(粒径0.25〜0.85mm)主体の砂質土を残すことで、稚貝期〜成貝期までの最適環境を保持することができるからである。
【0033】
本発明による別の干潟覆砂構造は、粗砂分(粒径0.85〜2mm)含有率20%未満、かつ、砂分(粒径0.25〜0.85mm)含有率60%以上、かつ、細粒分(粒径0.25mm未満)含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部で粗砂を複数のエリアに散布し複数の粗砂溜まりを形成することによって構成されることを特徴とする。
【0034】
この干潟覆砂構造によれば、一般的にアサリ生息適地と考えられている砂質〜砂泥質干潟が形成されるような静穏な水域では、干潟表層部に粗砂が少ない場合が多く、細砂や中砂が粒度組成の大半を占める場合が多いが、このような粗砂分含有率の小さい砂質土からなる干潟表層部を、粗砂を散布し複数の粗砂溜まりを有する干潟覆砂構造に改修することによって、浮遊幼生着底期〜稚貝期〜成貝期のライフサイクルに最も適した干潟とすることが可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境となる。
【0035】
上記粗砂溜まりを複数のエリアに点在させた理由は、同一海域に、浮遊幼生期〜稚貝期までの最適環境(粗砂溜まり)と、稚貝期〜成貝期までの最適環境(粗砂分含有率の小さい細砂〜中砂主体の砂質土)を点在させることでアサリが成長する過程で生育環境の適地を求めて移動することが可能となるからである。
【0036】
上記干潟覆砂構造において前記複数の粗砂溜まりが前記干潟表層部の平均潮位以下のエリアに形成されることが好ましい。
【0037】
上述のように平均潮位の沖側の干潟表層部に粗砂溜まりを形成するのは、アサリの稚貝は水温及び塩分耐性が弱く、水温や塩分濃度の変化が大きい干潮域での生残率が低いことから、平均潮位以下の水温や塩分変動の少ない場所にアサリの着底に最適な粒径である粗砂を配置することで着底後の生残率が高くなるからである。
【0038】
上述の各干潟覆砂構造によれば、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるところ、アサリの浮遊幼生の着底促進を図ることができ、アサリの新規加入群を増加させ、アサリ資源量の増加が実現可能となる干潟となる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の干潟覆砂材料、干潟造成方法、干潟覆砂方法及び干潟覆砂構造によれば、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持するとともに浮遊幼生が着底し易い底質環境を提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。
【0041】
〈第1の実施の形態(干潟覆砂材料)〉
【0042】
図4は第1の実施の形態による干潟覆砂材料の粒径加積曲線の例を示す図である。図5は第1の実施の形態の干潟覆砂材料で造成した人工干潟におけるアサリ浮遊幼生着底期(a)、アサリ稚貝期(b)及びアサリ成貝期(c)の効果を概念的に説明するための図である。
【0043】
第1の実施の形態による干潟覆砂材料は、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を、例えば粗砂分(粒径0.85〜2mm)含有率20%未満、かつ、砂分(粒径0.075〜0.85mm)含有率60%以上、かつ、細粒分(粒径0.075mm未満)含有率40%未満の砂質土に混合することによって、混合後の粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とするものである。
【0044】
図4に、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%である第1の実施の形態による干潟覆砂材料の条件を満たす範囲をハッチングによる範囲Aで示す。
【0045】
また、現地土の砂質土の条件としては、例えば、粗粒分(粒径0.075〜75mm)含有率50%以上、かつ、砂分(粒径0.075〜2mm)含有率が礫分(粒径2〜75mm)含有率以上、かつ、細粒分(粒径0.075mm未満)含有率40%であってよいが、かかる砂質土の条件を図4の破線で示す範囲Bで示す。例えば、上記砂質土の範囲B内の図4の粒径加積曲線bである現地土を用いて図4の粒径加積曲線aのような干潟覆砂材料を得ることができる。上記覆砂材料は図4の範囲A内にあり、干潟覆砂材料の条件を満たす。
【0046】
なお、粒径加積曲線とは、土粒子のふるい分け試験による粒度分析で得た結果(粒度分布状態)をある粒径より小さい土粒子の割合の百分率と粒径(対数)で表した曲線をいう。図4の各粒径加積曲線a、bは、地盤工学会基準の「土の粒度試験方法」(JGS 0131-2000)により得たものであり、後述の図6,図7においても同様である。また、図4の下側に示す土の粒度(粒径)の分類は地盤工学会基準によるものであり、図4の右側に粒度分布を求める際のふるい分け基準を示す。
【0047】
本実施の形態の干潟覆砂材料により造成された人工干潟では、粗砂及び現地土と比較すると、アサリの浮遊幼生着底期には図5(a)のように、粗砂、覆砂材料の順で着底個体数が多く、稚貝期には図5(b)のように、粗砂、覆砂材料の順に生残個体数が多いが、成貝期には図5(c)のように、覆砂材料で最も生残個体数が多い。
【0048】
以上のように、本実施の形態の干潟覆砂材料によれば、浮遊幼生が着底し易い環境の人工干潟を造成できるとともに、その人工干潟においてアサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持できる。このため、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるが、アサリ浮遊幼生の着底を促進し、アサリの新規加入群を増加させることができるので、アサリ成貝量の増加によりアサリ資源量の増加を図ることができる。
【0049】
本実施の形態の干潟覆砂材料では、所望の干潟底生生物をアサリに限定し、粗砂分含有率に着目し、更にアサリの着底場所選択行動に着目して粗砂分合有率の小さい覆砂材料に粗砂を混合し、アサリ漁場の適地を造成することができる。
【0050】
〈第2の実施の形態(干潟造成方法)〉
【0051】
図6は第2の実施の形態による干潟造成方法における干潟覆砂材料の粒径加積曲線の例を示す図である。
【0052】
第2の実施の形態による干潟造成方法は、粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上、及び細粒分含有率40%未満である砂質土に粗砂を混合し、その混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成するものである。
【0053】
図6に、第2の実施の形態による干潟造成方法における干潟覆砂材料の条件を満たす範囲をハッチングによる範囲A1で示す。また、現地土の砂質土の上記条件を図6の破線で示す範囲B1で示す。例えば、上記砂質土の範囲B1内の図6の粒径加積曲線b1である現地土を用いて図6の粒径加積曲線a1のような干潟覆砂材料を得ることができる。上記覆砂材料は図6の範囲A1内にあり、干潟覆砂材料の条件を満たす。
【0054】
上述の干潟造成方法によれば、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を、粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上及び細粒分含有率40%未満の砂質土に混合し、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とすることで、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境を造成できる。
【0055】
次に、第2の実施の形態による別の干潟造成方法について図7を参照して説明する。図7は第2の実施の形態による別の干潟造成方法における干潟覆砂材料の粒径加積曲線の例を示す図である。
【0056】
第2の実施の形態による別の干潟造成方法は、粗砂分含有率20%未満、細粒分含有率30%未満、粒径2mmの通過質量百分率80〜100%、及び平均粒径D50=0.15〜0.6mmである砂質土に粗砂を混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成するものである。
【0057】
図7に、第2の実施の形態による別の干潟造成方法における干潟覆砂材料の条件を満たす範囲をハッチングによる範囲A2で示す。また、現地土の砂質土の上記条件を図7の破線で示す範囲B2で示す。例えば、上記砂質土の範囲B2内の図7の粒径加積曲線b2である現地土を用いて図7の粒径加積曲線a2のような干潟覆砂材料を得ることができる。上記覆砂材料は図7の範囲A2内にあり、干潟覆砂材料の条件を満たす。
【0058】
この干潟造成方法によれば、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を、粗砂分含有率20%未満、細粒分含有率30%未満、粒径2mmの通過質量百分率80〜100%、及び平均粒径D50=0.15〜0.6mmの砂質土に混合し、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とすることで、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境を造成できる。
【0059】
また、図16には、同図に示す全国各地の干潟の砂質土(現地土)の粒径加積曲線を示し、併せて図7の干潟覆砂材料の条件を満たす範囲A2及び砂質土の条件を満たす範囲B2を示す。図16から全国各地の干潟の砂質土の粒径加積曲線は図7の砂質土の条件を満たす範囲B2内にほぼ収まることが分かる。
【0060】
以上の第2の実施の形態の各干潟造成方法により造成された干潟では、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるところ、アサリの浮遊幼生の着底促進を図ることができ、アサリの新規加入群を増加させ、アサリ資源量の増加が実現可能となる。なお、上述の各干潟造成方法は、後述の図8または図9の干潟覆砂方法により実行可能である。
【0061】
〈第3の実施の形態(干潟覆砂方法)〉
【0062】
図8は第3の実施の形態による干潟覆砂方法(事前混合方式)を説明するための図である。図9は第3の実施の形態による別の干潟覆砂方法(原位置散布方式)を説明するための図である。
【0063】
図8の干潟覆砂方法は、上述の干潟覆砂材料からなる人工干潟を造成する方法であり、粗砂分(粒径0.85〜2mm)含有率20%未満、かつ、砂分(粒径0.075〜2mm)含有率60%以上、かつ、細粒分(粒径0.075mm未満)含有率40%未満の砂質土に砂混合装置を使用して粗砂(粒径0.85〜2mm)を混合することで上述の干潟覆砂材料を調製した後に、所定の位置に投下する人工干潟覆砂方法である。
【0064】
図8に示すように、台船上において、現地土供給ラインでは、人工干潟造成地域で採取した現地土を土運船で運びバックホウで定量フィーダに送り、粗砂供給ラインでは、粗砂を土運船で運びバックホウで定量フィーダに送り、各定量フィーダからの現地土と粗砂とを粗砂分含有率が20〜50%となるように混練機(砂混合装置)で混合してから、フローテイングコンベアで投入箇所に移動し投入する。
【0065】
以上のように、図8では台船上において現地土供給ラインと粗砂供給ラインと混練機とにより現地土と粗砂とを混合することで得た干潟覆砂材料を、人工干潟の造成位置に移動し投下することにより、人工干潟を造成する。
【0066】
図9の干潟覆砂方法は、上述の干潟覆砂材料を現地で散布することで人工干潟を造成しまたは天然干潟を改質する方法であり、粗砂分含有率20%未満、かつ、砂分含有率60%以上、かつ、細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に砂散布装置を使用して粗砂を散布することで、干潟表層部を上述の覆砂材料に改質したりまたは人工干潟を造成する覆砂方法である。
【0067】
図9に示すように、台船上において、粗砂を土運船で運びバックホウでジェットコンベア(砂散布装置)に供給し、粗砂を原位置(改質対象位置または人工干潟造成位置)に散布する。このように、図9では台船上から粗砂を天然干潟または人工干潟に散布することで、干潟表層部を上述の覆砂材料に改質したりまたは人工干潟を造成する。
【0068】
以上のように、本実施の形態の干潟覆砂方法によれば、浮遊幼生が着底し易い環境の人工干潟を造成でき、または、天然干潟を浮遊幼生が着底し易い環境に改質できるとともに、その干潟においてアサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持できる。このため、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるが、アサリ浮遊幼生の着底を促進し、アサリの新規加入群を増加させることができるので、アサリ成貝量の増加によりアサリ資源量の増加を図ることができる。
【0069】
〈第4の実施の形態(干潟覆砂構造)〉
【0070】
図10は第4の実施の形態による二層覆砂形式の干潟覆砂構造を説明するための断面図である。図11は第4の実施の形態による別の干潟覆砂構造(粗砂溜まりを有する)を説明するための断面図である。図12は図11の干潟覆砂構造(粗砂溜まりを有する)の平面配置例(干潮時)として点在型(a)、直角型(b)、平行型(c)、格子型(d)を説明するための平面図である。図13は第4の実施の形態の干潟覆砂構造を有する干潟におけるアサリ浮遊幼生期(a)、アサリ稚貝期(b)及びアサリ成貝期(c)の効果を概念的に説明するための図である。
【0071】
図10に示す二層覆砂形式の干潟覆砂構造は、粗砂分(粒径0.85〜2mm)含有率20%未満、かつ、砂分(粒径0.075〜2mm)含有率60%以上、かつ、細粒分(粒径0.075mm未満)含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を3cm程度以内の層厚で全面散布することで構成されている。
【0072】
図10の二層覆砂形式の干潟覆砂構造では、殻長約0.25mmの浮遊幼生1が粗砂層Bの表面で粗砂に着底し、稚貝2は殻長約0.25mmから粗砂内で生育し、殻長約15mmに生育するときは粗砂から細砂〜中砂が主体の砂質土へ潜り込み(潜砂)、成貝3は砂質土で生育するようにして、アサリは成長に伴い鉛直移動をする。
【0073】
アサリの生息深度は、殻長の1〜2倍程度と言われており、粗砂の層厚を3cm程度以内とすることで、干潟表層から殻長15mm未満の稚貝2の生息深度までの範囲を粗砂にできるので、浮遊幼生1の着底〜稚貝2の生育までの最適環境を整えることができる。また、粗砂の下に粗砂分含有率の小さい細砂(粒径0.075〜0.25mm)〜中砂(粒径0.25〜0.85mm)主体の砂質土を残すことで、稚貝2の生育〜成貝3の生育までの最適環境を保持できる。
【0074】
なお、図8の干潟覆砂構造を海上施工で仕上げることが困難である場合、予め干潟全面の粗砂厚が3cm程度以内となる所定の土量を計算した上で、その全土量を、例えば、図12に示すような各平面配置で散布し、潮汐、波浪、降雨などの自然の侵食作用を利用して均一に均されるまで時間をおくことで施工できる。
【0075】
次に、図11に示す干潟覆砂構造は、粗砂分含有率20%未満、かつ、砂分含有率60%以上、かつ、細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部でアサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂を複数のエリアに散布することで複数の粗砂溜まりを有するように構成されている。
【0076】
図11の粗砂溜まりを有する干潟覆砂構造では、殻長約0.25mmの浮遊幼生1が粗砂溜まりCで粗砂に着底し、稚貝2は殻長約0.25mmから粗砂溜まりC内で生育し、殻長約15mmに生育するときは粗砂溜まりCから細砂〜中砂が主体の砂質土へ移動し、成貝3は砂質土で生育するようにして、アサリは成長に伴い水平移動をする。
【0077】
粗砂溜まりCを複数のエリアに点在させることで、同一海域に、浮遊幼生1の着底〜稚貝2の生育までの最適環境(粗砂溜まり)と、稚貝2の生育〜成貝3の生育までの最適環境(粗砂分含有率の小さい細砂〜中砂主体の砂質土)とを点在させることができるので、アサリが成長する過程で生育環境の適地を求めて移動できる。
【0078】
なお、図11の粗砂溜まりを有する干潟覆砂構造は、例えば図9の干潟覆砂方法(原位置散布方式)により粗砂を領域を限定して散布することで施工できる。
【0079】
また、図11の干潟覆砂構造における粗砂溜まりは、図12(a)〜(d)のように、平均潮位(M.W.L.)を基準にして高潮位(H.W.L.)の岸側及び低潮位(L.W.L.)の沖側に散布することで、沖側及び岸側の干潟表層部に形成される。
【0080】
粗砂溜まりは平面的に、図12(a)のように点在して配置したり、図12(b)のように岸に対しほぼ直角に配置したり、図12(c)のように岸に対しほぼ平行に配置したり、図12(d)のように格子形状に配置できる。
【0081】
また、図12(a)〜(d)のように、粗砂溜まりは、施工上、干潟全域に様々なパターンで設けることができるが、効果が最も期待できるのは平均潮位以下のエリアに設けることである。即ち、平均潮位(M.W.L.)を基準にして沖側の干潟表層部に粗砂溜まりを形成することで、水温や塩分変動の少ない場所にアサリの浮遊幼生の着底に最適な粒径である粗砂を配置することができ、着底後の生残率が高くなる。
【0082】
本実施の形態の干潟覆砂構造を持つ干潟では、粗砂及び現地土と比較すると、アサリの浮遊幼生期には図13(a)のように、粗砂、本覆砂構造の順で着底個体数が多く、アサリは、稚貝期に図13(b)のように、粗砂、本覆砂構造の順に生残個体数が多いが、成貝期に図13(c)のように、本覆砂構造で最も生残個体数が多い。
【0083】
以上のように、本実施の形態の干潟覆砂構造は、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持できるとともに、浮遊幼生が着底し易い底質環境を保持できる。このため、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるが、アサリ浮遊幼生の着底を促進し、アサリの新規加入群を増加させることができるので、アサリ成貝量の増加によりアサリ資源量の増加を図ることができる。
【0084】
本実施の形態の干潟覆砂構造では、所望の干潟底生生物をアサリに限定し、アサリの着底場所選択行動に着目して、浮遊幼生着底に有効な粗砂を活用することで、アサリのライフサイクルにおいて最適な環境を与えることができる。
【実施例】
【0085】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0086】
本実施例は、実海域で行った実証実験である。即ち、実海域において粒径の異なる干潟覆砂材料を設置し、アサリ浮遊幼生の粒径選択性を明らかにするために実証実験を行った。
【0087】
実験ケースの例1乃至6の各粒径を次の表1に示し、例1乃至6の粒径加積曲線を図14に示す。なお、例6の現地土は、実際にアサリが多く生息している干潟の砂を使用した。
【0088】
【表1】
【0089】
実験結果を図15に示す。図15の実験結果から、覆砂1cm3当りの稚貝の着底数は、例4の粗砂(粒径0.85〜2mm)で最も多く確認されたことから、実海域においても、粗砂(粒径0.85〜2mm)がアサリの浮遊幼生の着底に最適な粒径であると考えられる。また、浮遊幼生の着底に関しては、実際にアサリが多く生息している干潟から採取した砂が最適とは限らないことが判明した。
【0090】
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、粗砂溜まりの平面配置は図12(a)〜(d)の形状に限定されるもではなく、他の平面配置であってもよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】非特許文献1(「アサリ幼生の着底場選択性と三河湾における分布量」柳橋茂昭、水産工学Vol.29(1)、55〜59頁、1992)におけるアサリ幼生についての着底個体数の調査結果を示すグラフ(a)及びアサリ幼生の着底個体数調査を説明するための図(b)である。
【図2】アサリ稚貝が足糸を伸ばし土粒子に貼り付ける様子を概略的に示す図である。
【図3】本発明者らが従来の研究事例を参考にしてまとめた、アサリの生育環境と粒度分布の関係を説明するための図である。
【図4】第1の実施の形態による干潟覆砂材料の粒径加積曲線の例を示す図である。
【図5】第1の実施の形態の干潟覆砂材料で造成した人工干潟におけるアサリ浮遊幼生期(a)、アサリ稚貝期(b)及びアサリ成貝期(c)の効果を説明するための図である。
【図6】第2の実施の形態による干潟造成方法における干潟覆砂材料の粒径加積曲線の例を示す図である。
【図7】第2の実施の形態による別の干潟造成方法における干潟覆砂材料の粒径加積曲線の例を示す図である。
【図8】第3の実施の形態による干潟覆砂方法(事前混合方式)を説明するための図である。
【図9】第3の実施の形態による別の干潟覆砂方法(原位置散布方式)を説明するための図である。
【図10】第4の実施の形態による二層覆砂形式の干潟覆砂構造を説明するための断面図である。
【図11】第4の実施の形態による別の干潟覆砂構造(粗砂溜まりを有する)を説明するための断面図である。
【図12】図11の干潟覆砂構造(粗砂溜まりを有する)の平面配置例(干潮時)として点在型(a)、直角型(b)、平行型(c)、格子型(d)を説明するための平面図である。
【図13】第3の実施の形態の干潟覆砂構造を有する干潟におけるアサリ浮遊幼生期(a)、アサリ稚貝期(b)及びアサリ成貝期(c)の効果を概念的に説明するための図である。
【図14】本実施例における例1乃至6の各粒径加積曲線を示す図である。
【図15】本実施例における実験結果を示す図である。
【図16】全国各地の干潟の砂質土(現地土)の粒径加積曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1 浮遊幼生
2 稚貝
3 成貝
B 粗砂層
C 粗砂溜まり
【技術分野】
【0001】
本発明は、アサリ資源量増加のための人工干潟またはアサリ漁場の干潟覆砂材料、干潟造成方法、干潟覆砂方法及び干潟覆砂構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アサリのライフサイクル(浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期)の中で、浮遊幼生の着底については、着底場所選択行動(自らの足部で底質条件を確かめて着底場所を選択する行動)を行うことが知られており、特に、粗砂(粒径0.85〜2mm)を好むという報告がある(下記非特許文献1参照)。即ち、非特許文献1によれば、図1(a)のように、粒径0.85〜2mmの粗砂で特に良好な結果が得られている。図1(a)の結果を得るための調査方法をまとめると、図1(b)のようになり、図1(a)の結果はアサリ幼生について7粒径(0.063〜4mm)に区分した着底床で着底個体数を調査して得られたものである。
【0003】
アサリの浮遊幼生は着底した後に、たんぱく質からなる粘性の足糸を伸ばし、この足糸を土粒子等の基質に接着させることによって潮流などで流されることを防いでいると考えられ(図2参照)、また、浮遊幼生から稚貝に成長する過程で負の走光性を示し、隠蔽場所を求める特性があると考えられることから、ある程度大きな粒径の砂を好むものと推定されている。
【0004】
従来の研究事例を参考にして、アサリの生育環境と粒度分布の関係をまとめると図3に示す通りである。図3のように、細粒分(粘土シルト分)含有率40%以上では生育不可能と考えられており、アサリ成貝の生息調査から推定される生育最適環境は、中央粒径D50=0.2〜0.4mm、細粒分含有率20〜30%と考えられている。
【0005】
浮遊幼生の着底については、前述の通り、粗砂(粒径0.85〜2mm)を好むという報告があるが、浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期のライフサイクルに最も適した粗砂分含有率に関する知見は得られていない。
【0006】
アサリは、浮遊幼生から稚貝に成長するまでの過程では、着底適地として粗砂を好むものの、稚貝から成貝に成長するまでの過程では、保水性と摂餌活動のため更に潜砂行動のし易さを求めて粗砂よりも細かい粒径を好み、成長する過程でより生育環境の適地を求めて移動する習性があると考えられている。成貝はほとんど移動性を示さないが、稚貝の時期には移動性が大きく、1ヶ月間で5m程度移動したという報告もある。
【0007】
なお、アサリの成貝と稚貝は、生殖器官の発達によって区別され、一般に、殻長10〜25mmで成熟状態(生殖能力あり)となる。1歳未満、殻長15mm未満を稚貝、1歳以上、殻長15〜20mm以上を成貝と区別する場合もある。
【0008】
図3にアサリが多く生息している天然干潟(東京湾)の粒度分布の一例を併せて示すが、この干潟の粒度分布は生育最適環境の範囲に一致してはいない。この干潟の粒度分布を、アサリの生育により適した粒度分布に改質するための手段として、保水性向上や栄養分補給を目的として細粒分を添加混合するという考えが報告されている。
【0009】
なお、所望の干潟底生生物の生息条件に応じて、砂、細粒分、有機物、バクテリア等の任意の材料を、最適配合でブレンドして、覆砂材料として活用する方法(例えば、下記特許文献1参照)や、所望の干潟底生生物の生息条件に応じて粒度及び強熱減量を調製した覆砂材料を活用する方法(例えば、下記特許文献2参照)が公知である。しかし、特許文献1にはアサリに関する生育最適環境については開示も示唆もなく、また、特許文献2では、所望の干潟底生生物に適した環境を整えるためにアサリと底質との関係を点数化する方法が開示されているが、上述のようなアサリの成長過程における習性を考慮した砂の粒度分布、特に粗砂分については着目していない。
【非特許文献1】「アサリ幼生の着底場選択性と三河湾における分布量」水産工学Vol.29(1) 55〜59頁、1992
【特許文献1】特開2000−314116号公報
【特許文献2】特開2003−184046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アサリの成貝は様々な粒度分布で生息可能であるが、稚貝放流を行わずに再生産のみでアサリ漁場を維持するためには、浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期のライフサイクルに最も適した粒度組成の覆砂材料を用いることが重要と考えられる。ところが、アサリのライフサイクルに最も適した粒度組成についての明確な知見は得られていないのが現状である。
【0011】
また、従来、アサリ漁場整備を目的とした干潟造成においては、アサリ成貝の生息が確認されている周辺海域の底質粒度分布を参考にして、主に、中央粒径(例えばD50=0.2〜0.4mm)や細粒分含有率(例えば含有率20〜30%)に着目して、覆砂材料として用いる海砂や山砂の選定を行っており、粗砂分含有率には着目していない。このため、覆砂材料の粗砂分含有率は20%未満である場合が大半である。この粗砂分含有率20%未満の一般的な干潟は、アサリ成貝の生育環境としては問題ないものと考えられるが、アサリ浮遊幼生の着底促進により、アサリ資源量増加を図る上での最適環境とは言い難いのが現状である。
【0012】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持するとともに浮遊幼生が着底し易い底質環境を提供可能な干潟覆砂材料、干潟造成方法、干潟覆砂方法及び干潟覆砂構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明による干潟覆砂材料は、人工干潟やアサリ漁場の造成の際に、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂を砂質土に混合することにより、混合後の粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%としたことを特徴とする。
【0014】
この干潟覆砂材料によれば、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を砂質土に混合し、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とすることで、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境の造成が可能となる。これにより、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるところ、アサリの浮遊幼生の着底促進を図ることができ、アサリの新規加入群を増加させ、アサリ資源量の増加が実現可能となる。
【0015】
上記混合後の粗砂分含有率を20〜50%としている理由は、アサリが浮遊幼生から稚貝に成長するまでの過程では、着底適地として粗砂を好むものの、稚貝から成貝に成長するまでの過程では、保水性及び摂餌形態のため更に潜砂行動のし易さを求めるため粗砂よりも細かい粒径を好むことから、浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期のライフサイクルに最も適した粒度組成としては、粗砂分含有率が50%を超えるのは好ましくないからであり、20%以上であれば、浮遊幼生の着底に充分であると考えられるからである。
【0016】
本発明の干潟造成方法は、粗砂を砂質土に混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成することを特徴とする。
【0017】
この干潟造成方法によれば、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を砂質土に混合し、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とすることで、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境を造成できる。
【0018】
本発明による別の干潟造成方法は、粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上、及び細粒分含有率40%未満である砂質土に粗砂を混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成することを特徴とする。
【0019】
この干潟造成方法によれば、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を、粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上及び細粒分含有率40%未満の砂質土に混合し、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とすることで、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境を造成できる。
【0020】
本発明による更に別の干潟造成方法は、粗砂分含有率20%未満、細粒分含有率30%未満、粒径2mmの通過質量百分率80〜100%、及び平均粒径D50=0.15〜0.6mmである砂質土に粗砂を混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成することを特徴とする。
【0021】
この干潟造成方法によれば、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を、粗砂分含有率20%未満、細粒分含有率30%未満、粒径2mmの通過質量百分率80〜100%、及び平均粒径D50=0.15〜0.6mmの砂質土に混合し、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とすることで、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境を造成できる。
【0022】
本発明による更に別の干潟造成方法は、粗砂分含有率20%未満、かつ、砂分含有率60%以上、かつ、細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に粗砂を3cm程度以内の層厚に散布することで人工干潟を造成することを特徴とする。
【0023】
この干潟造成方法によれば、一般的にアサリ生息適地と考えられている砂質〜砂泥質干潟が形成されるような静穏な水域では、干潟表層部に粗砂が少ない場合が多く、細砂や中砂が粒度組成の大半を占める場合が多いが、このような粗砂分含有率の小さい砂質土からなる干潟表層部に、粗砂を3cm程度以内の層厚に散布することによって、浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期のライフサイクルに最も適した干潟とすることが可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境となる。
【0024】
上述の各干潟造成方法によれば、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるところ、アサリの浮遊幼生の着底促進を図ることができ、アサリの新規加入群を増加させ、アサリ資源量の増加が実現可能となる干潟を造成できる。
【0025】
本発明による干潟覆砂方法は、粗砂分(粒径0.085〜2mm)含有率20%未満、砂分(粒径0.075〜2mm)含有率60%以上、及び細粒分(粒径0.075mm未満)含有率40%未満の砂質土に砂混合装置を使用して粗砂を混合することで上述の干潟覆砂材料を調製した後に人工干潟の所定の領域に投下することを特徴とする。
【0026】
この干潟覆砂方法によれば、砂質土に砂混合装置を使用して粗砂を混合することで、粗砂分含有率を大きくし、アサリ浮遊幼生の着底に適した底質環境の人工干潟を造成できる。
【0027】
本発明による別の干潟覆砂方法は、粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上、及び細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に、砂散布装置を使用して粗砂を散布することによって前記干潟表層部を上述の干潟覆砂材料に改質することを特徴とする。
【0028】
この干潟覆砂方法によれば、一般的にアサリ生息適地と考えられている砂質〜砂泥質干潟が形成されるような静穏な水域では、干潟表層部に粗砂(粒径0.85〜2mm)が少ない場合が多く、細砂(粒径0.075〜0.25mm)や中砂(粒径0.25〜0.85mm)が粒度組成の大半を占める場合が多いが、このような粗砂分含有率の小さい砂質土からなる干潟表層部に対して、砂散布装置を使用して粗砂を散布することで干潟表層部の粗砂分含有率を大きくし、アサリ浮遊幼生の着底に適した底質環境に改質することが可能となる。
【0029】
上述の各干潟覆砂方法によれば、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるところ、アサリの浮遊幼生の着底促進を図ることができ、アサリの新規加入群を増加させ、アサリ資源量の増加が実現可能となる干潟を造成できる。
【0030】
本発明による二層覆砂形式の干潟覆砂構造は、粗砂分(粒径0.85〜2mm)含有率20%未満、かつ、砂分(粒径0.075〜2mm)含有率60%以上、かつ、細粒分(粒径0.075mm未満)含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部で粗砂を3cm程度以内の層厚に散布することによって構成されることを特徴とする。
【0031】
この二層覆砂形式の干潟覆砂構造によれば、一般的にアサリ生息適地と考えられている砂質〜砂泥質干潟が形成されるような静穏な水域では、干潟表層部に粗砂が少ない場合が多く、細砂や中砂が粒度組成の大半を占める場合が多いが、このような粗砂分含有率の小さい砂質土からなる干潟表層部を、粗砂を3cm程度以内の層厚に散布した干潟覆砂構造に改修することによって、浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期のライフサイクルに最も適した干潟とすることが可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境となる。
【0032】
上記干潟覆砂構造の粗砂の層厚を3cm程度以内としている理由は、アサリの生息深度は、殻長の1〜2倍程度と言われており、干潟表層から稚貝(一般に、殻長15mm未満)の生息深度までの範囲を粗砂とすることで、浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期までの最適環境を整えることが可能であるとともに、粗砂の下に粗砂分含有率の小さい細砂(粒径0.075〜0.25mm)〜中砂(粒径0.25〜0.85mm)主体の砂質土を残すことで、稚貝期〜成貝期までの最適環境を保持することができるからである。
【0033】
本発明による別の干潟覆砂構造は、粗砂分(粒径0.85〜2mm)含有率20%未満、かつ、砂分(粒径0.25〜0.85mm)含有率60%以上、かつ、細粒分(粒径0.25mm未満)含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部で粗砂を複数のエリアに散布し複数の粗砂溜まりを形成することによって構成されることを特徴とする。
【0034】
この干潟覆砂構造によれば、一般的にアサリ生息適地と考えられている砂質〜砂泥質干潟が形成されるような静穏な水域では、干潟表層部に粗砂が少ない場合が多く、細砂や中砂が粒度組成の大半を占める場合が多いが、このような粗砂分含有率の小さい砂質土からなる干潟表層部を、粗砂を散布し複数の粗砂溜まりを有する干潟覆砂構造に改修することによって、浮遊幼生着底期〜稚貝期〜成貝期のライフサイクルに最も適した干潟とすることが可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境となる。
【0035】
上記粗砂溜まりを複数のエリアに点在させた理由は、同一海域に、浮遊幼生期〜稚貝期までの最適環境(粗砂溜まり)と、稚貝期〜成貝期までの最適環境(粗砂分含有率の小さい細砂〜中砂主体の砂質土)を点在させることでアサリが成長する過程で生育環境の適地を求めて移動することが可能となるからである。
【0036】
上記干潟覆砂構造において前記複数の粗砂溜まりが前記干潟表層部の平均潮位以下のエリアに形成されることが好ましい。
【0037】
上述のように平均潮位の沖側の干潟表層部に粗砂溜まりを形成するのは、アサリの稚貝は水温及び塩分耐性が弱く、水温や塩分濃度の変化が大きい干潮域での生残率が低いことから、平均潮位以下の水温や塩分変動の少ない場所にアサリの着底に最適な粒径である粗砂を配置することで着底後の生残率が高くなるからである。
【0038】
上述の各干潟覆砂構造によれば、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるところ、アサリの浮遊幼生の着底促進を図ることができ、アサリの新規加入群を増加させ、アサリ資源量の増加が実現可能となる干潟となる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の干潟覆砂材料、干潟造成方法、干潟覆砂方法及び干潟覆砂構造によれば、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持するとともに浮遊幼生が着底し易い底質環境を提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。
【0041】
〈第1の実施の形態(干潟覆砂材料)〉
【0042】
図4は第1の実施の形態による干潟覆砂材料の粒径加積曲線の例を示す図である。図5は第1の実施の形態の干潟覆砂材料で造成した人工干潟におけるアサリ浮遊幼生着底期(a)、アサリ稚貝期(b)及びアサリ成貝期(c)の効果を概念的に説明するための図である。
【0043】
第1の実施の形態による干潟覆砂材料は、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を、例えば粗砂分(粒径0.85〜2mm)含有率20%未満、かつ、砂分(粒径0.075〜0.85mm)含有率60%以上、かつ、細粒分(粒径0.075mm未満)含有率40%未満の砂質土に混合することによって、混合後の粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とするものである。
【0044】
図4に、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%である第1の実施の形態による干潟覆砂材料の条件を満たす範囲をハッチングによる範囲Aで示す。
【0045】
また、現地土の砂質土の条件としては、例えば、粗粒分(粒径0.075〜75mm)含有率50%以上、かつ、砂分(粒径0.075〜2mm)含有率が礫分(粒径2〜75mm)含有率以上、かつ、細粒分(粒径0.075mm未満)含有率40%であってよいが、かかる砂質土の条件を図4の破線で示す範囲Bで示す。例えば、上記砂質土の範囲B内の図4の粒径加積曲線bである現地土を用いて図4の粒径加積曲線aのような干潟覆砂材料を得ることができる。上記覆砂材料は図4の範囲A内にあり、干潟覆砂材料の条件を満たす。
【0046】
なお、粒径加積曲線とは、土粒子のふるい分け試験による粒度分析で得た結果(粒度分布状態)をある粒径より小さい土粒子の割合の百分率と粒径(対数)で表した曲線をいう。図4の各粒径加積曲線a、bは、地盤工学会基準の「土の粒度試験方法」(JGS 0131-2000)により得たものであり、後述の図6,図7においても同様である。また、図4の下側に示す土の粒度(粒径)の分類は地盤工学会基準によるものであり、図4の右側に粒度分布を求める際のふるい分け基準を示す。
【0047】
本実施の形態の干潟覆砂材料により造成された人工干潟では、粗砂及び現地土と比較すると、アサリの浮遊幼生着底期には図5(a)のように、粗砂、覆砂材料の順で着底個体数が多く、稚貝期には図5(b)のように、粗砂、覆砂材料の順に生残個体数が多いが、成貝期には図5(c)のように、覆砂材料で最も生残個体数が多い。
【0048】
以上のように、本実施の形態の干潟覆砂材料によれば、浮遊幼生が着底し易い環境の人工干潟を造成できるとともに、その人工干潟においてアサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持できる。このため、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるが、アサリ浮遊幼生の着底を促進し、アサリの新規加入群を増加させることができるので、アサリ成貝量の増加によりアサリ資源量の増加を図ることができる。
【0049】
本実施の形態の干潟覆砂材料では、所望の干潟底生生物をアサリに限定し、粗砂分含有率に着目し、更にアサリの着底場所選択行動に着目して粗砂分合有率の小さい覆砂材料に粗砂を混合し、アサリ漁場の適地を造成することができる。
【0050】
〈第2の実施の形態(干潟造成方法)〉
【0051】
図6は第2の実施の形態による干潟造成方法における干潟覆砂材料の粒径加積曲線の例を示す図である。
【0052】
第2の実施の形態による干潟造成方法は、粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上、及び細粒分含有率40%未満である砂質土に粗砂を混合し、その混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成するものである。
【0053】
図6に、第2の実施の形態による干潟造成方法における干潟覆砂材料の条件を満たす範囲をハッチングによる範囲A1で示す。また、現地土の砂質土の上記条件を図6の破線で示す範囲B1で示す。例えば、上記砂質土の範囲B1内の図6の粒径加積曲線b1である現地土を用いて図6の粒径加積曲線a1のような干潟覆砂材料を得ることができる。上記覆砂材料は図6の範囲A1内にあり、干潟覆砂材料の条件を満たす。
【0054】
上述の干潟造成方法によれば、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を、粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上及び細粒分含有率40%未満の砂質土に混合し、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とすることで、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境を造成できる。
【0055】
次に、第2の実施の形態による別の干潟造成方法について図7を参照して説明する。図7は第2の実施の形態による別の干潟造成方法における干潟覆砂材料の粒径加積曲線の例を示す図である。
【0056】
第2の実施の形態による別の干潟造成方法は、粗砂分含有率20%未満、細粒分含有率30%未満、粒径2mmの通過質量百分率80〜100%、及び平均粒径D50=0.15〜0.6mmである砂質土に粗砂を混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成するものである。
【0057】
図7に、第2の実施の形態による別の干潟造成方法における干潟覆砂材料の条件を満たす範囲をハッチングによる範囲A2で示す。また、現地土の砂質土の上記条件を図7の破線で示す範囲B2で示す。例えば、上記砂質土の範囲B2内の図7の粒径加積曲線b2である現地土を用いて図7の粒径加積曲線a2のような干潟覆砂材料を得ることができる。上記覆砂材料は図7の範囲A2内にあり、干潟覆砂材料の条件を満たす。
【0058】
この干潟造成方法によれば、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を、粗砂分含有率20%未満、細粒分含有率30%未満、粒径2mmの通過質量百分率80〜100%、及び平均粒径D50=0.15〜0.6mmの砂質土に混合し、混合後の粗砂分含有率20〜50%、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とすることで、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持可能となるとともにアサリの浮遊幼生が着底し易い底質環境を造成できる。
【0059】
また、図16には、同図に示す全国各地の干潟の砂質土(現地土)の粒径加積曲線を示し、併せて図7の干潟覆砂材料の条件を満たす範囲A2及び砂質土の条件を満たす範囲B2を示す。図16から全国各地の干潟の砂質土の粒径加積曲線は図7の砂質土の条件を満たす範囲B2内にほぼ収まることが分かる。
【0060】
以上の第2の実施の形態の各干潟造成方法により造成された干潟では、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるところ、アサリの浮遊幼生の着底促進を図ることができ、アサリの新規加入群を増加させ、アサリ資源量の増加が実現可能となる。なお、上述の各干潟造成方法は、後述の図8または図9の干潟覆砂方法により実行可能である。
【0061】
〈第3の実施の形態(干潟覆砂方法)〉
【0062】
図8は第3の実施の形態による干潟覆砂方法(事前混合方式)を説明するための図である。図9は第3の実施の形態による別の干潟覆砂方法(原位置散布方式)を説明するための図である。
【0063】
図8の干潟覆砂方法は、上述の干潟覆砂材料からなる人工干潟を造成する方法であり、粗砂分(粒径0.85〜2mm)含有率20%未満、かつ、砂分(粒径0.075〜2mm)含有率60%以上、かつ、細粒分(粒径0.075mm未満)含有率40%未満の砂質土に砂混合装置を使用して粗砂(粒径0.85〜2mm)を混合することで上述の干潟覆砂材料を調製した後に、所定の位置に投下する人工干潟覆砂方法である。
【0064】
図8に示すように、台船上において、現地土供給ラインでは、人工干潟造成地域で採取した現地土を土運船で運びバックホウで定量フィーダに送り、粗砂供給ラインでは、粗砂を土運船で運びバックホウで定量フィーダに送り、各定量フィーダからの現地土と粗砂とを粗砂分含有率が20〜50%となるように混練機(砂混合装置)で混合してから、フローテイングコンベアで投入箇所に移動し投入する。
【0065】
以上のように、図8では台船上において現地土供給ラインと粗砂供給ラインと混練機とにより現地土と粗砂とを混合することで得た干潟覆砂材料を、人工干潟の造成位置に移動し投下することにより、人工干潟を造成する。
【0066】
図9の干潟覆砂方法は、上述の干潟覆砂材料を現地で散布することで人工干潟を造成しまたは天然干潟を改質する方法であり、粗砂分含有率20%未満、かつ、砂分含有率60%以上、かつ、細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に砂散布装置を使用して粗砂を散布することで、干潟表層部を上述の覆砂材料に改質したりまたは人工干潟を造成する覆砂方法である。
【0067】
図9に示すように、台船上において、粗砂を土運船で運びバックホウでジェットコンベア(砂散布装置)に供給し、粗砂を原位置(改質対象位置または人工干潟造成位置)に散布する。このように、図9では台船上から粗砂を天然干潟または人工干潟に散布することで、干潟表層部を上述の覆砂材料に改質したりまたは人工干潟を造成する。
【0068】
以上のように、本実施の形態の干潟覆砂方法によれば、浮遊幼生が着底し易い環境の人工干潟を造成でき、または、天然干潟を浮遊幼生が着底し易い環境に改質できるとともに、その干潟においてアサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持できる。このため、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるが、アサリ浮遊幼生の着底を促進し、アサリの新規加入群を増加させることができるので、アサリ成貝量の増加によりアサリ資源量の増加を図ることができる。
【0069】
〈第4の実施の形態(干潟覆砂構造)〉
【0070】
図10は第4の実施の形態による二層覆砂形式の干潟覆砂構造を説明するための断面図である。図11は第4の実施の形態による別の干潟覆砂構造(粗砂溜まりを有する)を説明するための断面図である。図12は図11の干潟覆砂構造(粗砂溜まりを有する)の平面配置例(干潮時)として点在型(a)、直角型(b)、平行型(c)、格子型(d)を説明するための平面図である。図13は第4の実施の形態の干潟覆砂構造を有する干潟におけるアサリ浮遊幼生期(a)、アサリ稚貝期(b)及びアサリ成貝期(c)の効果を概念的に説明するための図である。
【0071】
図10に示す二層覆砂形式の干潟覆砂構造は、粗砂分(粒径0.85〜2mm)含有率20%未満、かつ、砂分(粒径0.075〜2mm)含有率60%以上、かつ、細粒分(粒径0.075mm未満)含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に、アサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂(粒径0.85〜2mm)を3cm程度以内の層厚で全面散布することで構成されている。
【0072】
図10の二層覆砂形式の干潟覆砂構造では、殻長約0.25mmの浮遊幼生1が粗砂層Bの表面で粗砂に着底し、稚貝2は殻長約0.25mmから粗砂内で生育し、殻長約15mmに生育するときは粗砂から細砂〜中砂が主体の砂質土へ潜り込み(潜砂)、成貝3は砂質土で生育するようにして、アサリは成長に伴い鉛直移動をする。
【0073】
アサリの生息深度は、殻長の1〜2倍程度と言われており、粗砂の層厚を3cm程度以内とすることで、干潟表層から殻長15mm未満の稚貝2の生息深度までの範囲を粗砂にできるので、浮遊幼生1の着底〜稚貝2の生育までの最適環境を整えることができる。また、粗砂の下に粗砂分含有率の小さい細砂(粒径0.075〜0.25mm)〜中砂(粒径0.25〜0.85mm)主体の砂質土を残すことで、稚貝2の生育〜成貝3の生育までの最適環境を保持できる。
【0074】
なお、図8の干潟覆砂構造を海上施工で仕上げることが困難である場合、予め干潟全面の粗砂厚が3cm程度以内となる所定の土量を計算した上で、その全土量を、例えば、図12に示すような各平面配置で散布し、潮汐、波浪、降雨などの自然の侵食作用を利用して均一に均されるまで時間をおくことで施工できる。
【0075】
次に、図11に示す干潟覆砂構造は、粗砂分含有率20%未満、かつ、砂分含有率60%以上、かつ、細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部でアサリの浮遊幼生が着底するために最適な粒径である粗砂を複数のエリアに散布することで複数の粗砂溜まりを有するように構成されている。
【0076】
図11の粗砂溜まりを有する干潟覆砂構造では、殻長約0.25mmの浮遊幼生1が粗砂溜まりCで粗砂に着底し、稚貝2は殻長約0.25mmから粗砂溜まりC内で生育し、殻長約15mmに生育するときは粗砂溜まりCから細砂〜中砂が主体の砂質土へ移動し、成貝3は砂質土で生育するようにして、アサリは成長に伴い水平移動をする。
【0077】
粗砂溜まりCを複数のエリアに点在させることで、同一海域に、浮遊幼生1の着底〜稚貝2の生育までの最適環境(粗砂溜まり)と、稚貝2の生育〜成貝3の生育までの最適環境(粗砂分含有率の小さい細砂〜中砂主体の砂質土)とを点在させることができるので、アサリが成長する過程で生育環境の適地を求めて移動できる。
【0078】
なお、図11の粗砂溜まりを有する干潟覆砂構造は、例えば図9の干潟覆砂方法(原位置散布方式)により粗砂を領域を限定して散布することで施工できる。
【0079】
また、図11の干潟覆砂構造における粗砂溜まりは、図12(a)〜(d)のように、平均潮位(M.W.L.)を基準にして高潮位(H.W.L.)の岸側及び低潮位(L.W.L.)の沖側に散布することで、沖側及び岸側の干潟表層部に形成される。
【0080】
粗砂溜まりは平面的に、図12(a)のように点在して配置したり、図12(b)のように岸に対しほぼ直角に配置したり、図12(c)のように岸に対しほぼ平行に配置したり、図12(d)のように格子形状に配置できる。
【0081】
また、図12(a)〜(d)のように、粗砂溜まりは、施工上、干潟全域に様々なパターンで設けることができるが、効果が最も期待できるのは平均潮位以下のエリアに設けることである。即ち、平均潮位(M.W.L.)を基準にして沖側の干潟表層部に粗砂溜まりを形成することで、水温や塩分変動の少ない場所にアサリの浮遊幼生の着底に最適な粒径である粗砂を配置することができ、着底後の生残率が高くなる。
【0082】
本実施の形態の干潟覆砂構造を持つ干潟では、粗砂及び現地土と比較すると、アサリの浮遊幼生期には図13(a)のように、粗砂、本覆砂構造の順で着底個体数が多く、アサリは、稚貝期に図13(b)のように、粗砂、本覆砂構造の順に生残個体数が多いが、成貝期に図13(c)のように、本覆砂構造で最も生残個体数が多い。
【0083】
以上のように、本実施の形態の干潟覆砂構造は、アサリの浮遊幼生期〜着底期〜稚貝期〜成貝期までのライフサイクルにおいて最適な環境を保持できるとともに、浮遊幼生が着底し易い底質環境を保持できる。このため、アサリの持続的な生息のために最も重要なのは新規加入群の形成であるが、アサリ浮遊幼生の着底を促進し、アサリの新規加入群を増加させることができるので、アサリ成貝量の増加によりアサリ資源量の増加を図ることができる。
【0084】
本実施の形態の干潟覆砂構造では、所望の干潟底生生物をアサリに限定し、アサリの着底場所選択行動に着目して、浮遊幼生着底に有効な粗砂を活用することで、アサリのライフサイクルにおいて最適な環境を与えることができる。
【実施例】
【0085】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0086】
本実施例は、実海域で行った実証実験である。即ち、実海域において粒径の異なる干潟覆砂材料を設置し、アサリ浮遊幼生の粒径選択性を明らかにするために実証実験を行った。
【0087】
実験ケースの例1乃至6の各粒径を次の表1に示し、例1乃至6の粒径加積曲線を図14に示す。なお、例6の現地土は、実際にアサリが多く生息している干潟の砂を使用した。
【0088】
【表1】
【0089】
実験結果を図15に示す。図15の実験結果から、覆砂1cm3当りの稚貝の着底数は、例4の粗砂(粒径0.85〜2mm)で最も多く確認されたことから、実海域においても、粗砂(粒径0.85〜2mm)がアサリの浮遊幼生の着底に最適な粒径であると考えられる。また、浮遊幼生の着底に関しては、実際にアサリが多く生息している干潟から採取した砂が最適とは限らないことが判明した。
【0090】
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、粗砂溜まりの平面配置は図12(a)〜(d)の形状に限定されるもではなく、他の平面配置であってもよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】非特許文献1(「アサリ幼生の着底場選択性と三河湾における分布量」柳橋茂昭、水産工学Vol.29(1)、55〜59頁、1992)におけるアサリ幼生についての着底個体数の調査結果を示すグラフ(a)及びアサリ幼生の着底個体数調査を説明するための図(b)である。
【図2】アサリ稚貝が足糸を伸ばし土粒子に貼り付ける様子を概略的に示す図である。
【図3】本発明者らが従来の研究事例を参考にしてまとめた、アサリの生育環境と粒度分布の関係を説明するための図である。
【図4】第1の実施の形態による干潟覆砂材料の粒径加積曲線の例を示す図である。
【図5】第1の実施の形態の干潟覆砂材料で造成した人工干潟におけるアサリ浮遊幼生期(a)、アサリ稚貝期(b)及びアサリ成貝期(c)の効果を説明するための図である。
【図6】第2の実施の形態による干潟造成方法における干潟覆砂材料の粒径加積曲線の例を示す図である。
【図7】第2の実施の形態による別の干潟造成方法における干潟覆砂材料の粒径加積曲線の例を示す図である。
【図8】第3の実施の形態による干潟覆砂方法(事前混合方式)を説明するための図である。
【図9】第3の実施の形態による別の干潟覆砂方法(原位置散布方式)を説明するための図である。
【図10】第4の実施の形態による二層覆砂形式の干潟覆砂構造を説明するための断面図である。
【図11】第4の実施の形態による別の干潟覆砂構造(粗砂溜まりを有する)を説明するための断面図である。
【図12】図11の干潟覆砂構造(粗砂溜まりを有する)の平面配置例(干潮時)として点在型(a)、直角型(b)、平行型(c)、格子型(d)を説明するための平面図である。
【図13】第3の実施の形態の干潟覆砂構造を有する干潟におけるアサリ浮遊幼生期(a)、アサリ稚貝期(b)及びアサリ成貝期(c)の効果を概念的に説明するための図である。
【図14】本実施例における例1乃至6の各粒径加積曲線を示す図である。
【図15】本実施例における実験結果を示す図である。
【図16】全国各地の干潟の砂質土(現地土)の粒径加積曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1 浮遊幼生
2 稚貝
3 成貝
B 粗砂層
C 粗砂溜まり
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗砂を砂質土に混合することにより、混合後の粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%としたことを特徴とする干潟覆砂材料。
【請求項2】
前記干潟覆砂材料はアサリ生育に適する請求項1に記載の干潟覆砂材料。
【請求項3】
粗砂を砂質土に混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成することを特徴とする干潟造成方法。
【請求項4】
粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上、及び細粒分含有率40%未満である砂質土に粗砂を混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成することを特徴とする干潟造成方法。
【請求項5】
粗砂分含有率20%未満、細粒分含有率30%未満、粒径2mmの通過質量百分率80〜100%、及び平均粒径D50=0.15〜0.6mmである砂質土に粗砂を混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成することを特徴とする干潟造成方法。
【請求項6】
粗砂分含有率20%未満、かつ、砂分含有率60%以上、かつ、細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に粗砂を3cm程度以内の層厚に散布することで人工干潟を造成することを特徴とする干潟造成方法。
【請求項7】
前記人工干潟はアサリ生育に適する請求項3乃至6のいずれか1項に記載の干潟造成方法。
【請求項8】
粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上、及び細粒分含有率40%未満の砂質土に砂混合装置を使用して粗砂を混合することで請求項1に記載の干潟覆砂材料を調製した後に人工干潟の所定の領域に投下することを特徴とする干潟覆砂方法。
【請求項9】
粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上、及び細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に、砂散布装置を使用して粗砂を散布することによって前記干潟表層部を請求項1に記載の干潟覆砂材料に改質することを特徴とする干潟覆砂方法。
【請求項10】
前記干潟覆砂方法による干潟はアサリ生育に適する請求項8または9に記載の干潟造成方法。
【請求項11】
粗砂分含有率20%未満、かつ、砂分含有率60%以上、かつ、細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に粗砂を3cm程度以内の層厚に散布することによって構成されることを特徴とする二層覆砂形式の干潟覆砂構造。
【請求項12】
粗砂分含有率20%未満、かつ、砂分含有率60%以上、かつ、細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部で粗砂を複数のエリアに散布し複数の粗砂溜まりを形成することによって構成されることを特徴とする干潟覆砂構造。
【請求項13】
前記複数の粗砂溜まりが前記干潟表層部の平均潮位以下のエリアに形成されたことを特徴とする請求項12に記載の干潟覆砂構造。
【請求項14】
前記干潟覆砂構造による干潟はアサリ生育に適する請求項11,12または13に記載の干潟覆砂構造。
【請求項1】
粗砂を砂質土に混合することにより、混合後の粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%としたことを特徴とする干潟覆砂材料。
【請求項2】
前記干潟覆砂材料はアサリ生育に適する請求項1に記載の干潟覆砂材料。
【請求項3】
粗砂を砂質土に混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成することを特徴とする干潟造成方法。
【請求項4】
粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上、及び細粒分含有率40%未満である砂質土に粗砂を混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成することを特徴とする干潟造成方法。
【請求項5】
粗砂分含有率20%未満、細粒分含有率30%未満、粒径2mmの通過質量百分率80〜100%、及び平均粒径D50=0.15〜0.6mmである砂質土に粗砂を混合することにより、混合後の干潟覆砂材料が粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%となるように人工干潟を造成することを特徴とする干潟造成方法。
【請求項6】
粗砂分含有率20%未満、かつ、砂分含有率60%以上、かつ、細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に粗砂を3cm程度以内の層厚に散布することで人工干潟を造成することを特徴とする干潟造成方法。
【請求項7】
前記人工干潟はアサリ生育に適する請求項3乃至6のいずれか1項に記載の干潟造成方法。
【請求項8】
粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上、及び細粒分含有率40%未満の砂質土に砂混合装置を使用して粗砂を混合することで請求項1に記載の干潟覆砂材料を調製した後に人工干潟の所定の領域に投下することを特徴とする干潟覆砂方法。
【請求項9】
粗砂分含有率20%未満、砂分含有率60%以上、及び細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に、砂散布装置を使用して粗砂を散布することによって前記干潟表層部を請求項1に記載の干潟覆砂材料に改質することを特徴とする干潟覆砂方法。
【請求項10】
前記干潟覆砂方法による干潟はアサリ生育に適する請求項8または9に記載の干潟造成方法。
【請求項11】
粗砂分含有率20%未満、かつ、砂分含有率60%以上、かつ、細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部に粗砂を3cm程度以内の層厚に散布することによって構成されることを特徴とする二層覆砂形式の干潟覆砂構造。
【請求項12】
粗砂分含有率20%未満、かつ、砂分含有率60%以上、かつ、細粒分含有率40%未満の砂質土からなる干潟表層部で粗砂を複数のエリアに散布し複数の粗砂溜まりを形成することによって構成されることを特徴とする干潟覆砂構造。
【請求項13】
前記複数の粗砂溜まりが前記干潟表層部の平均潮位以下のエリアに形成されたことを特徴とする請求項12に記載の干潟覆砂構造。
【請求項14】
前記干潟覆砂構造による干潟はアサリ生育に適する請求項11,12または13に記載の干潟覆砂構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−274690(P2006−274690A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96708(P2005−96708)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]