説明

平板状木質系多孔質炭素材料の製造方法及び該製造方法により製造された平板の高機能化方法

【課題】
木材の道管又は仮道管と壁孔からなる細孔網目構造を維持しつつ炭化し、高機能化に最も重要な役割を担う壁孔由来の細孔を含む面を露出させ、露出面或いは溝表面の物理化学的性質を改質した平滑な表面を有する平板状木質系多孔質炭素材料を作製すること、壁孔由来の細孔に機能性物質を導入して高機能性部材を作製すること。
【解決手段】
木材を空気中で高エネルギー密度ビームによって壁孔を含む面を露出させ次いで加熱炭化して該露出面の物理化学的性質を改質した多孔性網目構造の平滑な表面を有する板状或いはシート状木質系多孔質炭素材料を作製する。これにより活性化された壁孔由来の細孔に、機能性物質を導入して高機能性部材を形成する。また、壁孔由来の細孔の流体処理効率を高めるように1個以上の入口と出口を持った、不浸透性の容器内に載置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材、経木あるいは木炭を原料とし、高エネルギー密度ビーム照射、機械的な切断あるいは切削と、加熱炭化の組み合わせにより、木材が持つ細孔構造のうち特に壁孔由来の細孔の形状や密度を改変し、物理化学的特性を高機能化に適したように改質させることを特徴とした、平板状木質系多孔質炭素材料の作製方法および該製造方法により製造された平板の高機能化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹木や竹を含む維管束植物が精緻な細孔構造を持っていることはよく知られている。その構造や組織形成の仕組みについてはたとえば非特許文献1および2に詳述されている。樹木や木質材料、すなわち木材については概略以下のことが記載されている。樹木は広葉樹と針葉樹に分けられる。広葉樹の軸方向(幹の長さ方向)には円筒状の通水組織である道管があり、針葉樹には仮道管がある。放射方向および軸方向には柔細胞がある。軸方向の細胞と放射方向の細胞のとの接触部には管壁があり、水や養分を軸方向に通す壁孔がある。広葉樹の道管は通常直径が約20〜約500μm、長さが約0.1〜約2.5mmで、上下に接する道管要素間にはせん孔という細胞壁の孔を有する。針葉樹の仮道管の長さは一般に約3〜約5mmであるが、樹種による差が大きい。仮道管は体積比で木材の90%以上を占める。植物の水平方向への通水要素は壁孔(pit)と呼ばれる。道管の壁孔あるいは仮道管の壁孔は直径約1〜約10μmの円形、楕円形あるいは角の取れた多角形をしている。その内径はおよそ成長した木材の場合約0.5〜数μmである。
【0003】
木材を加熱し炭化した木炭も木材と同様の細孔構造を維持している。炭化に伴い組成は大きく変化するが基本的な多孔質構造は保存されている。ただし、体積は80%程度に収縮する。組成変化の程度は炭化温度によって異なるが、一般に焼成温度が500℃では炭素含有率は80%以下であり700℃を超えると90%以上になる。木材にはもともとアルカリ金属やアルカリ土類金属をはじめとする金属や酸化物やリン酸化物その他の無機化合物を含んでいるので、焼成温度を上げても100%になることはない。ただし、無酸素状態でこれらの無機化合物を金属に還元しり他の化合物に変換し、蒸散、除去すれば炭素含有率は100%に近づく。処理温度の上昇にともない細孔構造や表面の物理化学特性も変化する。これら木材の炭化に伴う物理化学的特性の変化に関しては非特許文献3および4に記載されている。
【0004】
木材炭化物の機能性を利用したものとしては木炭を用途に合わせて切断・加工した成形物や粉砕した粒状物や微粉化したカーボンブラックと、活性炭が広く知られている。これらはいずれも木材の持つ細孔構造が持つ高い吸着特性を利用している。活性炭は焼成炭化した木材を粉砕し微粉末化したのち、賦活化処理したものであり、細孔表面積が極めて大きいことを特徴としている。用途は主として、水・空気・土壌などの乾燥や浄化に供され、通常対象とされる非吸着物としては水分やアンモニア、アミン、アルデヒド、有機・無機イオン性物質などがある。活性炭は賦活化処理により1μm以下の細孔を新たに形成させ、表面の物理化学特性を活性化することにより、吸着特性を飛躍的に高めることによって、触媒、イオン、有機・無機錯体など活性分子種の担持体として利用され、木炭粉砕物と同様の用途に加えて、化学反応、電池、塗装関連製品などの機能性部材として利用されている。これら木材の炭化物及びその産業的利用技術に関しては非特許文献4に記載されている。
【0005】
木炭を粉砕し高温加熱処理した後、細孔表面の物理化学特性を変化させ高機能化させる可能性も学術的には示唆されているが、切断加工のみで実用に供させる大きさや形状のものは得られていない。たとえば非特許文献3には、木炭片の賦活化処理法が示されているが、SEMなどの形態観察用試料は粉砕した状態の大きさのものしかできなかったと記述されている。
【0006】
木材や木炭をレーザーなどの高エネルギー密度のビームによって切断・加工することも公知であり実施されている。しかし、これらはいずれも材料の形態的な加工性の向上に止まるものであった。この目的にはたとえば非特許文献5に記載されている装置が使われる。
【0007】
特許文献1には針葉樹仮道管の炭素化物からなる中空短繊維状炭素材および針葉樹木炭の作製に関する技術が開示されている。明細書には、8mm×8mm杉材を不活性ガス雰囲気下で3℃/分の昇温速度で650℃まで加熱して炭化し、次に350℃で5時間、気相酸化し、重量を約50%%に減じ、さらにアルカリ水溶液(0.2N、水酸化ナトリウム)に10分間処理し、長さ3mm直径5〜25μm、壁厚0.5〜3μmの中空短繊維状の炭素材を得たこと、壁面には円形の孔が随所に空いていることが記載されている。また、用途としてはガスや金属の吸着剤、電磁シールド材、生体膜担体、断熱材などが例示されている。
【0008】
特許文献2には木粉やブロック状の木炭の細孔構造のうち、仮道管が長手方向に延びる炭化木粉を保液性物質として活物質に添加することによる鉛蓄電池の放電容量と活物質層の強度を高める方法が記載されている。16〜100メッシュの細長い繊維方向に複数の貫通孔(仮道管)が蜂の巣状を形成している細孔網目構造の利用に関するものであり、長手方向の断面積が0.04mm以上の木粉または炭化木粉を用いる。実施例では厚さ0.25mmの杉板を繊維方向(仮道管の長さ方向)1mm、これと直行する方向に0.25mmに切り出した木粉を炭化している。16メッシュ以上の太さになると電池の放電容量を高くできなくなるとしている。
【0009】
特許文献3には極めて脆い木炭を定形状に切断するための木炭切断装置が記載されている。周辺刃先部にダイアモンド粒子を強固に固着した丸形カッターを駆動モータに取り付け、該カッターを回転させながら試料載置台に固定させた木炭片と押圧させて木炭を切断する。木炭は脆いため、木材などを切断する際に一般的に実施される切断方法では木炭が破砕し定形に切断することは困難である課題を解決するとの記述はあるが、切断面の平滑性については一切触れていない。
【0010】
特許文献4には針葉樹を加熱圧縮して所定の密度に調製したのち炭化処理することを特徴とする仮道管や道管のマクロ孔の大きさを調整する方法が記載されている。明細書には針葉樹を130〜230℃で加熱しつつ加圧し、容積を40〜60%になるように圧縮し、次に最高温度を800〜1300℃で炭化する技術が開示されている。しかし、壁孔などメソ細孔に関する記述はない。
【0011】
特許文献5にはレーザーを熱源として用いて炭素薄膜を形成させる技術が記載されている。ガラスなどの耐熱性透明基板の下に木炭を含む炭素粉末や切りくずや廃材の炭化物を密着して配置し、無酸素下に透明基板を通してレーザーをパターン状に照射し、炭素材料を高温に加熱することによって、純炭素のアブレーションを起こさせるプロセスによる、透明基板状に炭素からなる導電性パターンおよび炭素膜を形成させる方法、半導体装置およびその製造方法を開示している。グラフェンなど純炭素からなる導電性炭素薄膜の形成手段であるので実施例を含めて、炭素源としても黒鉛やナノチューブなど純度の高いものについては詳細な記述があるが、木質系炭素の利用に関する具体的な記述はない。また、木質系炭化物の一部の導電化技術を開示したものではない。
【0012】
特許文献6には炭素材料に導電性を付与する方法として、炭素材料の黒鉛化電気抵抗炉、誘導加熱炉、直接通電加熱炉などで酸素遮断下に炭素材料を2000〜3000℃の高温に加熱する方法が記載されている
【0013】
特許文献7には高密度エネルギービームを用いた炭素材料の黒鉛化技術が記載されている。純炭素材料である炭素繊維や炭素繊維織物を高密度エネルギービームで高温に加熱し連続的に黒鉛化する。明細書では高密度エネルギーから炭素繊維材料を守るため黒鉛からなる保護管を通して照射し、特定ゾーンのみを高温雰囲気とすることにより、連続処理を可能にすることを特徴としている。高密度エネルギービームとしては、電子ビーム、レーザー光、プラズマおよびアークをあげている。しかし、高密度エネルギービームを直接炭素材料に照射する技術ではない。
【0014】
特許文献8および9には真空中でダイアモンド膜表面を高エネルギー密度ビームで照射することによってグラファイト化し、表面をパターン状に導電性化する技術が開示されている。
【0015】
木炭粉を機能性材料として利用する際には、樹脂などの結着剤と混練し、紙や不織布などの多孔性支持体に担持させるか、そのまま成形する方法が広く実施されている。木炭の機能性を利用するには混練成形における木炭含有率は高い方がよいが、特許文献10には記載されているように、木炭粉と熱可塑性樹脂との混練成形では木炭含有量は50%程度が限界といわれてきた。特許文献11には、炭の含有率を高める手法として高温、高圧、高せん断力下での混練を特徴とした反応型混練器により、木炭と樹脂とを混練時に破砕・混練した後、成形する作製方法が記述されている。しかし、この方法によっても成形可能な混練物中の木炭含有率は95%が限界であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平7−241461号公報
【特許文献2】特開平6−176761号公報
【特許文献3】特開2002−273688号公報
【特許文献4】特開2004−285127号公報
【特許文献5】特開2010−120819号公報
【特許文献6】特開平6−129778号公報
【特許文献7】特開2002−13031号公報
【特許文献8】特開平3−268477号公報
【特許文献9】特開平5−36847号公報
【特許文献10】特開2009−293006号公報
【特許文献11】特開2011−178877号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】日本木材学会編 「すばらしい木の世界」海青社 2003年
【非特許文献2】福島和彦ほか編 「木質の形成」海青社
【非特許文献3】今村祐嗣「木炭における空隙構造形成の機構」平成13−15年度科学研究費補助研究 成果報告書 2004
【非特許文献4】「炭の製造と利用技術」株式会社エヌ・ティー・エス 2009年
【非特許文献5】株式会社ユー・イー・エス レーザー加工システム総合カタログ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の課題は、木材が有する細孔網目構造と方向性を炭化後も維持し、かつ平滑な表面を持った切断面あるいは溝などを有し、粉砕することなしに賦活化処理でき、細孔内に触媒などの機能性物質の導入など高機能化に適した、成形加工が容易で、実用化し易い、木質系多孔質炭素材料の安価な製造方法、およびこれを利用した機能性部材の提供にある。この課題を達成するには従来技術やその組み合わせでは解決が困難な以下の問題点を同時に解決する手法、技術の開発が必要であった。
【0019】
木炭のみを用いて平滑な表面と精密な寸法精度をもった、板状やシート状物を得る、作製・加工方法は知られていない。木質系炭素材料の多孔性に着目したものとしては活性炭、カーボンブラックや木炭がよく知られている。活性炭は単位重量当たりの表面が極めて大きく、ろ過、吸着特性を利用した材料や触媒などの活性物質の担持材料として広く利用されている。しかし、活性炭やカーボンブラックはそれ自身が粉体であるため使用目的に合わせて形状や大きさを調整することは困難である。また、ろ過などの際に粒子同士の接触により剥落や微粉化が起きるのでその対策が必要となる。用途に適した大きさや形状に成形するには木炭を粉砕後結合剤と混練する。しかし、これらの手法においては、多孔性を最大限に発揮するために結合剤の量を少なくする必要があり、同時に、成形性や加工性を良くするためには結合剤の量を多くする必要があるという、特性を制御する上で相反する問題の解決が内在している。成形可能な結合剤量は通常50%以上必要であり、5%以下にすることは困難であった。加えて混練時に結合剤が木炭粒子や活性炭の加工表面にある細孔を塞いでしまうことも避けられない。結合材量の大幅な低減あるいは不要とする技術は重要課題となっている。
【0020】
本発明の目的である壁孔由来の細孔を利用には、平板形状を維持しつつ、切断面がきれいで網目を構成する細孔の方向が利用に適した方向に配向・整列している必要がある。木炭は硬くてもろいので、精密切断機やチップソーなど機械的手段で切断すると切断面はギザギザになってしまい、道管や仮道管がきれいな開口形状を維持した切断面を有する木炭片を得ることはできない。また、切断の際に生じた変形がそのまま残ったり、削りくずが開口部をふさいでいたりする。木材を切断する量産技術としては細かい目立てのノコギリ刃やこれらと研磨を組み合わせた手段が知られている。しかし、これらの方法では切りくずをなくし、顕微鏡下でも均一で平滑な切断面を得ることは困難である。図1は、木材を精密な機械的切断用具によって切断した場合の切削表面のSEM画像であるが、切断面が引きちぎられ細孔表面を覆っている様子が分かる。これらは切断の際生じたかけらが残っているのではない。
【0021】
木炭は700℃以上の高温で加熱することにより、黒鉛(グラファイト)構造に変化し、それに伴って絶縁体から導電体(10−1〜10−2Ωcm程度)まで導電性が変化することが知られている。硬くて脆い木炭の切断には半導体産業で使用するシリコンウェーハの切断に使用するような高硬度で、鋭利な刃物や研磨剤による研磨が必要である。炭化の過程にある木材成分や炭化物が軟化、溶融するような高温下で作業すればよいが、酸素存在下では酸化、すなわち燃焼が避けられないので、無酸素あるいは酸素を遮断した条件下で切断、加工作業を実施する必要があった。これらの手法は高コストであるばかりでなく、実用的な実施は不適切である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らはこれまでに見出した知見や技術をもとに、木質系多孔質炭素材料の高機能化に最も重要な役割を担うメソ領域の細孔である壁孔に着目し、以下に述べる手段によって壁孔の形状、密度および物理化学的特性を改質、高活性化させ、新規な木質系多孔質炭素材料の作製方法および該材料を利用した高機能化方法を発明するに至った。本発明方法は下記3つのプロセスに分けられる。ただしこれらは代表例であり本発明方法を限定するものではない。その第一は木材を高エネルギー密度ビームで照射し、次いで目的に合わせた温度に加熱、炭化するプロセスである。第二番目は木材を加熱炭化しのち、高エネルギー密度ビームで照射あるいは新規な手法を用いて機械的に切断するプロセスである。第三は経木など従来技術により平滑な平面を持ち、板状あるいはシート状に切り出された木質材料やこれらを積層した材料を新規な方法により炭化するプロセスである。
【0023】
本発明者らは、木材を高エネルギー密度ビームあるいは刃先を高温で熱したカッターナイフやかみそりのような鋭利な刃物で切断して開口部を露出させたのち、木片全体を低酸素あるいは無酸素雰囲気で炭化処理する方法を見出した。この方法で処理した木質系多孔質炭素材料は木材が本来有する細孔構造を維持しつつ高度な平滑面を持っている。図2は、本発明方法による切断面のSEM画像である。この画像から明らかなように本発明方法によれば、切断表面には細孔の流通性を損なう削りくずなど生ずることもなく、開口部を塞ぐこともない。
【0024】
本発明でいう平板状木質系多孔質炭素材料とは、炭化後の形状が平板、板状あるいはシート状であって厚さは約10μm〜10数cm、好ましくは約20μm〜数cmの多孔性木質材料を指す。フレキシブルなシートも含まれる。また、その形状は特に限定されない。すなわち円形や多角形でも良いし不定形でも良い。また、一部であっても平板であることが要求仕様となっている材料として供される場合には、木質系多孔質炭素材料全体が平板である必要はない。
【0025】
本発明でいう平滑度とは平板または膜状多孔性炭素材料を水平に保持した状態で測定したとき、1cmあたりの表面に対する凹凸の程度を示す尺度であり、本発明技術によれば平均値に対して+/−10μmであることが確認されている。図3は本発明方法による表面を活性化した木質系多孔質炭素材料の作製方法を示した図である。また図4は本発明の対象とする仮道管の璧孔のSEM画像である。平滑度は材料全体を通した状態を規定するものではなく、要求される部分だけでよい。
【0026】
本発明でいう高エネルギー密度ビームとは、レーザービーム、電子ビーム、プラズマビーム等があるが、最も実用的なのはレーザービームである。レーザーとしては炭酸ガスレーザー、ヤグレーザー、その他があるが、炭酸ガスレーザーが適している。レーザー出力として20〜80Wが適当であるが、この範囲外でも使用可能である。レーザービームを焦点距離が約1.5〜3インチのレンズで収束した程度のエネルギー密度が好適であるが、この範囲外でも使用可能である。
【0027】
本発明材料はその多孔性と表面特性が高機能化に適している。約500℃以下で低温炭化した絶縁性の木材の炭化物を炭酸ガスレーザービームで走査照射することにより、炭化材料の切断面あるいは切削によって形成された溝や孔の表面をグラファイトと同程度の導電性を持った多孔質炭素材料が得られることを見出した。また、道管あるいは仮道管の開口部が露出した状態になっているので、これらの細孔内部に触媒作用を有する有機、無機、錯体などの化合物導入することにより、触媒担持体や反応場として利用する技術、炭化した細孔内にめっきや蒸着を利用して金属被膜を形成させ導電性を付与するなどの手段による高機能化もしやすい。また、細孔内部にポリシロキサンなどを導入し次いで酸素存在下で高温処理することにより、SiOのみから形成される木質系炭素材料が本来有する細孔構造のレプリカが作製できる。
【0028】
本発明方法によれば、板目面或いは柾目面を有する杉や松の薄経木(厚さ0.2mm前後が一般的)を、酸素濃度を調整した雰囲気下で炭化し、可撓性を有した木質系多孔質炭素材料を作製できる。従来公知の方法では厚さが約1mm以下の木の薄板の炭化物は、通常容易に破損してしまうので、曲げることは困難であった。この手法によれば、任意の大きさと形状と均一な厚さを有する可撓性シート状物が得られる。単一の木質系炭素材料を基板として連続的な加工が容易であるだけでなく、積層構造の部材への加工など量産適性も高い。図5はこのようにして得られた可撓性を有するシート状木質系多孔質炭素材料の写真である。
【0029】
本発明による木質系多孔質炭素材料表面は基本的には疎水性であるので水などの極性溶媒は浸透しにくい。しかし、アルカリや高温・高圧水蒸気、オゾン処理など公知の方法による賦活化処理、あるいは活性剤その他の両親媒性化合物や高分子材料を細孔中に導入することによって細孔表面を親水性にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】

【図1】図1は、木材を従来技術である機械的切断用具によって切断した場合の切削表面のSEM画像である。
【図2】図2は、本発明方法による平板状木質系多孔質炭素材料の断面SEM画像である。
【図3】図3は本発明による平板状木質系多孔質炭素材料の作製手順を示した図である。
【図4】図4は本発明方法の対象とする仮道管の璧孔のSEM画像である。
【図5】図5は本発明方法によって作製されたシート状木質系多孔質炭素材料を直径10mmのアルミニウム製円柱に巻き付けた写真である。
【図6】図6は仮道管由来の細孔構造(A)、および壁孔由来の細孔構造(B)を流体あるいは流動性混合物からなる原料の流路に対して垂直に配置した機能性部材の利用形態図である。
【図7】図7は細孔内部表面が機能化処理された本発明方法による平板材料を道管あるいは仮道管に垂直に設置した反応容器内に組み込んで流体処理に適した機能性部材とした実施形態図である。
【図8】図8は、絶縁性基板上に低温炭化によって絶縁性である板状の木質系多孔質炭素材料をレーザー照射し表面を黒鉛化した複数の溝を形成させた機能性部材化した利用形態を示した図である。
【図9】図9は、本発明方法による平板状木質系多孔質炭素材料の表面を活性化し、その活性を利用して機能性物質やナノ粒子を導入し、高機能化した部材の作製手順を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明方法で得られる板状の木質系多孔質炭素材料は道管(広葉樹)または仮道管(針葉樹)由来の孔径が数μm〜数10μmのマクロ孔と、これと直交し、壁孔由来および炭化処理によって形成される孔径が数μm以下のメソ孔、さらには賦活化処理によって新たに形成される孔径が0.1μm以下のサブメソ孔、ナノメーター領域のミクロ孔からなる。このうち本発明はメソおよびサブメソ領域の細孔の利用を対象とするものである。作製方法は本発明者らが上述したこれまでに得た知見をもとにしているが、メソ孔径およびサブメソ孔を有する壁孔構造の特性強化を目的に改良を重ねた。さらに本発明方法と公知のいわゆるナノテクと組み合わせることによって実用可能な形態の機能性部材の形態の実現が可能となる。
【0032】
本発明材料は板状かつ細孔の配向が整っており、流体あるいは微粒子を含む流体の処理対象とする。したがって材料の設置方向と細孔の配向方向が重要となる。
【0033】
本発明材料の第1の利用形態は平板材料を道管あるいは仮道管に垂直に設置した反応容器内に組み込んで流体処理に適した機能性部材とする。図6はその一例である。平板の底面を解放した状態で流体を上方または下方から供給すれば、流体の主たる流路は孔径の大きい道管あるいは仮道管になる。その一部はこれらの管と直角に開いている壁孔にも流入あるいは拡散していくがその割合は流速や粘性や流体との親和性に依存する。本発明の目的とする木材の壁孔由来のメソ孔を効率的に利用することはできない。しかし、平板の底面に流体に対して不浸透性の膜や板を設置するか、流体の排出口を側面に設けて全体を封入しておけば流体は壁孔由来の細孔中にも浸透する。
【0034】
本発明材料の第2の利用形態は比較的厚い平板材料を容器内に流路に対して平行に載置し、流体は道管あるいは仮道管の配向方向から該材料に導入するように工夫した配置にする形態である。図7はその一例である。この場合には、流体は一度閉鎖容器内に滞留した後、接触する道管あるいは仮道管由来の細孔を通して拡散する。
【0035】
本発明材料の第3の利用形態は、材料を板目あるいは柾目面に平行に切り出し、壁孔由来の細孔の利用を優先的する載置方法である。材料の厚さが数10〜数100μmの範囲、すなわち道管あるいは仮道管は数本から数10本が流体の導入方向に対して直角に配置していることになる。エゾマツから切り出した厚さ約150μmの経木を炭化した材料を水平に設置し上面から疎水性着色溶媒を滴下したところ、ごく短時間に下方に流出した。壁孔由来の細孔が互いに密着している状態では、これらのメソ細孔が形成する毛細管を経由した拡散が容易に進行することを示唆している。
【0036】
本発明方法によって、高エネルギー密度のビームを照射された木質材料の面は炭化されるが導電性になるまでには至らない。しかし照射エネルギー密度を調整することにより、炭化処理前の木質材料に数mm〜数10mmの深さの溝を形成させることはできる。木質材料全体を500℃前後で炭化して全体が絶縁性の炭化物を得たのち、高エネルギー密度のビームを照射すると照射によって形成された溝の部分だけを導電性にできる。このようにして土台となる絶縁体の一部(照射部)のみがパタ−ン状に黒鉛レベルに導電化された木質系多孔質炭素材料が得られる。導電性を付与された部分は電気めっきが可能になるので、金属によって達成するレベルの導電性パターンに変換することも容易にできる。図8は絶縁性基板の上に複数の活性化された溝を形成させた形態を示した図である。
【0037】
高エネルギー密度ビームの照射と低温炭化を組み合わせることにより絶縁性木質系多孔質炭素材料の表面に平行な多数の溝を形成させた部材を作製できる。このような平板状多孔性炭素材料板状部材上の導電性溝の表面を正極または負極材で被覆した後、溝に電解質液を満たし、外部の集電体を接続すれば1次電池あるいは2次電池ができる。酸やアルカリその他の腐食性化合物の影響も受けにくく熱にも強いのでイオン種やイオンキャリアの選択の自由度も大きく広がる。また、導電化した溝の接続方法を変えることにより、容易に直列型としても並列型としても使える。
【0038】
上述した絶縁性基板の上に導電性の溝を形成させた平板状木質系多孔質炭素材料により単純な構造の電気二重層キャパシタ(EDLC)が容易に得られる。基板が多孔性炭素材料なので、極めて単純な構成のキャパシタができる。また上述した電池と同様直列型でも並列型にもできる。
【0039】
本発明方法は網目構造の方向、すなわち壁孔の方向を揃えることができるので、触媒や活性分子を壁厚表面に吸着させることにより化学反応などの反応場とした部材が単一もしくは木質材料上に作製できる。図9は本発明方法による平板状木質系多孔質炭素材料を機能化し、さらに、容器内に組み込んだ高機能性部材の作製手順を示したものである。
【0040】
さらに高密度エネルギービームの照射により壁孔の数を増加させ、同時に壁孔表面にメソ領域の細孔を効率よく形成できることを見出した。被照射面は炭化の過程で収縮が起きる。その過程は木材の樹種や組成、構造など影響因子が多数絡み合っているので複雑で、解明されていないが結果として、多数の凹凸が生成される現象は確認されており、それに伴って表面積も増加する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、木材をレーザーなどの高エネルギー密度ビームによって細孔網目構造の方向性を維持しつつ、切断あるいは切削して溝を形成させ、平滑な表面を持ち、細孔構造のうち特に壁孔を増強、改質した状態の新規な構造を有する木質系多孔質炭素材料の安価で簡便な製造方法およびこれを利用した機能性部材に関するものである。本発明方法によって得られる機能性木質系多孔質炭素材料の基本的な特性、効果については上述した。以下にはこれらの特性を組み合わせることにより可能となる、幅広い機能性部材部材の構成及び作製方法について述べる。本発明技術の産業上の利用分野は広範におよぶが、具合例としては以下のような材料および関連製品の利用分野があげられる。水や空気の浄化、液体や気体中の有害成分の選択的吸着除去など多孔性を直接使用した、ろ過・分離材料、活性物質たとえば触媒を担持させて物質変換の反応場としての利用を目的とした材料、一次電池、二次電池、燃料電池などに必須の構成要素である選択的分離膜や膜電極などの電子材料、細胞や生体成分の分離・精製や細胞培養時の基材や養分供給用隔膜などの医療用材料、部材など極めて多岐の技術分野に及ぶ。これらの目的には、枯渇性の化石資源由来の合成樹脂や天然物から分離精製した高分子を変性改質して多孔質化した膜、あるいは金属、セラミックスなどの無機材料を多孔質化したもの、さらには微粒子化した有機系、無機系あるいはこれらの複合材料を結合剤や改質剤を用いて膜や目的に応じて成形加工した材料が使われていた。本発明方法によればこれらの機能性材料を再生可能資源から作製できる道が拓ける。
【0042】
産業上の応用の第一の例としては大きさの異なる活性表面を持った多孔性平板材料としての利用があげられる。木質材料の有する道管・仮道管によって構成される大孔径網目とその壁孔によって構成される中孔径群およびレーザー照射、焼成、および賦活化処理によって形成される小孔径群を保持した多孔質材料ができる。これら各種細孔の表面は物理化学的な吸着活性を有しているので、これらの細孔に機能性分子や粒子を導入することによって多様な高機能材料を作製することができる。以下に概要をまとめる。
【0043】
高機能化の第一の例としては、化学反応に利用される触媒の導入があげられる。酸化・還元・異性化・切断・カップリングなど目的に応じた触媒を細孔表面に結合させ、気体・液体・溶液・分散液などを導入することにより、細孔構造を反応場とした高機能高効率な反応に利用できる。本発明方法による材料は本質的に炭化物以外の組成は含まないので酸・アルカリその他の腐食性水溶液や有機・無機の溶媒の影響も受けない。また高耐熱性であり炭化度にもよるが、非酸素存在下であれば、1000℃以上の高温にも耐える多孔性部材が得られる。
【0044】
高機能化の第2の例としては、1次電池・2次電池など電池材料への利用があげられる。本発明方法によって作製された密閉容器内に多孔性構造中に電池の構築に必要な各種の活性粒子や電解質溶液、集電体などを組み込むことにより各種の電池を作製することができる。
【0045】
高機能化の第3の例としては、細孔構造への磁性粒子の導入による機能化が考えらえる。レーザー照射によりパターン状に導電性を付与できるので、複雑な形状や微細なユニット構造を多数持ったセンサーなどが作製できる。
【0046】
高機能化の第4の例としては、吸着表面積が大きい特性を利用した水素やメタンなどの吸蔵による燃料電池部材としての応用がある。また、SOx、NOx、亜硫酸ガスなどの流体中からの分離にも利用できる。
【0047】
高機能化の第5の例としては、通常印刷技術を必要とする親水・疎水性パターンの形成やパターン状の流路の形成があげられる。これらは電子材料や医用材料分野で多用されている分析素子、センサー、情報通信用素子などへの応用が考えられる。本来疎水性である木質系炭素材料の表面を賦活化処理によって親水化すれば親和性の強い水などの極性溶媒が浸透しやすくなる。この現象を利用すれば、高エネルギー密度ビームをタパーン状に照射することにより、平板、シート状あるいはフイルム状の木質系炭素材料上に選択的な親水性・疎水性のパターンを作製できることを示している。上述した厚さが薄いシートやフイルム状木質系炭素材料では厚さ方向に貫通するパターン状流路が形成される。もし、表面と裏面との極性を変えれば、流体の流れはパターンの特性に従って平面的な流路を形成することになる。通常親水性・疎水性からなるパターン状流路の形成には機械的な切削加工やマスキング層を介在させてUV光などをパターン状に照射したのちエッチング処理するなどの複雑な処理工程を必要とする。本発明技術を利用すれば極めて単純な操作による実施が可能になる。
【0048】
高機能化の第6の例としては、医療用材料への利用がある。多孔性構造中に抗体、酵素などの生理活性物質や細胞、組織などを吸着させた流路を作製し、血液、血漿その他の体液や輸液などの体外から体内に導入する液体を処理する場を形成させる高機能性部材の構築が可能である。天然物であり本質的に生体への悪影響がないことが確認されている炭素材料のみからなるので、対外での使用だけでなく、体内への留置も可能である。
【実施例1】
【0049】
レーザー加工装置として、株式会社ユー・イー・エス社のバーサレーザー・プラットフォームシリーズのモデルVLS3.60、出力25ワットの炭酸ガスレーザーを使用した。被加工材料として、厚さ14mm、幅25mm、長さ200mmのエゾ松の板を、長さ方向(細胞の方向)と直角方向(幅方向)に走査照射するように、厚さ方向を上下にしてワークテーブルの上に固定し、端部から45mmの位置で、4mm/秒の速度で走査照射して容易に切断することができた。この方法により得られた切断面は、ほぼ全面に渡り開口部が炭化され、細胞が均一に露出された。この切断面のSEM画像を図2に示す。細胞が完全に炭化される深さは0.1mm強かそれ以下である。更に深く炭化するには、切断された部材全体を、低酸素ないし無酸素雰囲気で高温炭化処理を行う必要がある。上記で得られた厚さ14mm、幅25mm、長さ45mmの板を、セラミック製の容器に入れ、蓋をして酸素を遮断し、電気炉で室温から3時間かけてゆっくり温度を上げ、500℃で30分保持したのち、自然放置で室温まで戻した。この炭化処理により、全体が炭化されて元の面積の約65%に収縮したが、セルの形状は相似的に縮小した。上記で得られた厚さ14mm、幅25mm、長さ45mmの板を、低酸素雰囲気の電気炉で室温から4時間かけてゆっくり温度を上げ、750℃で30分保持したのち、自然放置で室温まで戻した。この炭化処理により、全体が炭化されて収縮したが、セルの形状は相似的に約50%に縮小した。得られたものは導電性であった。炭化温度が750℃前後、或いはそれ以上になると、得られる炭化物は導電性になるので、新しい用途に利用できる。
【0050】
(比較例)市販の精密バンドソーで上記エゾ松を切断した場合の切断面のSEM画像を図1に示す。図1から明らかなように、ごく一部には細胞の開口部が整列して露出しているが、切断面の殆どは細胞の切断片(切断残り)で覆われている。この状態で炭化しても、この形状は維持された。
【実施例2】
【0051】
エゾ松の辺材部分から切り出された断面が20×14mmの角材を、出力30Wの炭酸ガスレーザービームで、長さ方向(細胞の方向は長さ方向)と直角に、厚さ1mmの平板に切断した。この平板を酸素遮断雰囲気で300℃で8時間加熱した後、同じ雰囲気で500℃で1時間加熱し、自然放置で室温に戻した。この炭化処理により角材の断面は約16×11mmに、厚さは約0.8mmに収縮していた。この平板を、触媒付与液(奥野製薬工業株式会社製触媒付与剤、OPC−80キャタリストMの45ml/L、OPC−SAL Mの260g/L水溶液)に、減圧下(約10Pa)で約8分間浸漬した後、常圧で30分間水洗し、乾燥した。次いで、前記と同様に減圧下で活性化液(奥野製薬工業株式会社製活性化剤、OPC−555アクセラレータMの100ml/L水溶液)に4分間浸漬後、常圧で30分間水洗した。次に、この平板を奥野製薬工業株式会社製化学メッキ液、OPC−750無電解銅M(OPC−750無電解銅M−Aが100ml/L、OPC−750無電解銅M−Bが100ml/L、OPC−750無電解銅M−Cが2ml/Lの混合液)に浸漬、約6分間よく攪拌しながら多孔性材料の全表面に銅を析出させ、30分間水洗後乾燥した。内部の細胞表面にまで充分に銅がメッキされていた。このようにして得られたものは、仮導管がテラヘルツ波の伝送路としても使用できることが判明した。針葉樹の仮導管以外に、広葉樹や竹の細胞も同様にテラヘルツ波の導波路になり得る。
【実施例3】
【0052】
アガティス材の心材部分から切り出された断面が14×50mm、長さ(軸方向細胞の方向)が150mmの板を、出力30Wの炭酸ガスレーザービームで、長さ方向と直角に、厚さ2mmの平板状に切断した。両方の切断面には細胞(仮道管)の開口部が均一に露出し、年輪は無かった。ほぼ30%の細胞は平板を貫通していた。この平板を酸素遮断雰囲気で300℃で8時間加熱した後、同じ雰囲気で500℃で1時間加熱し、自然放置で室温に戻した。高温炭化処理により、平板の断面寸法、厚さとも約85%に収縮した。かくして得られた厚さ約1.6mmの平板状炭化物は、両面に細胞の炭化物が均一に露出し、約30%の細胞は平板を貫通し、しかも細胞間で液体の通導がないものである。この平板を、イソプロピルアルコールに浸漬して内部にアルコールを浸透させた後、実施例1と同じ触媒付与液に約4分間浸漬した後、4分間水洗し、次いで実施例1と同じ活性化液に4分間浸漬後、4分間水洗、乾燥した。かくして得られたパラジウムのナノ粒子を壁面に吸着した多孔性材料は、フィルター用途、化学メッキ用途、その他の用途のための出発材料として使用できる。
【実施例4】
【0053】
実施例3のパラジウムナノ粒子を有する平板をイソプロピルアルコールに浸漬して内部にアルコールを浸透させた後、実施例2と同じ化学メッキ液に約10分間よく攪拌しながら浸漬、多孔性材料の表面に銅を析出させて導電性多孔性材料を得た。この平板の両面に、酢酸ビニル樹脂の水エマルジョン(酢酸ビニル樹脂55%)を塗布した。乾燥後、両面を粒度800番の研磨シートで研磨し、約0.3mmずつ削り落とした後、酢酸ブチルで樹脂を溶解除去、乾燥した。かくして厚さ方向にのみ導電性を有する約1mm厚の材料を得た。得られた面はハンダ付けが可能であった。得られた平板を、約280℃に加熱されたホットプレートの上に載せ、約0.5mm角のハンダ(融点199℃)を置いたところ、ハンダが溶融して裏面に到達した。ハンダを同じ位置に追加して置くことにより、盛り上がりを形成することできた。
【実施例5】
【0054】
実施例2と同様にして得られた厚さ約1mmの炭化物平板(触媒付与する前のもの)を、界面活性剤を微量含む水酸化第2鉄の飽和水溶液に浸漬し、炭化物細胞の孔の中に水溶液を充満させた後、表面に付着している水酸化第2鉄の水溶液を洗い流す程度に軽く水洗して、界面活性剤を微量含む1Nの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した。炭化物細胞の孔の中で反応が生じ、水酸化鉄が炭化物細胞壁に吸着した。10分間水洗、乾燥後、これを酸素遮断雰囲気で500℃に30分加熱したところ、フェライトが細胞壁に形成された。
【実施例6】
【0055】
実施例2と同様にして得られた厚さ約2mmの炭化物平板(触媒付与する前のもの)を、磁性流体のイソパラフィン分散液に2分間浸漬後、取り出してイソパラフィンで洗浄後、自然乾燥した。磁性流体としては市販品(発売元 株式会社富士コスモサイエンス 磁性流体ふしぎ観察キット)を使用した。この磁性流体は磁性体が炭化水素系溶剤に分散された粘度の大きな流体なので、イソパラフィン系溶剤(エッソIsopar−H)で約100倍(体積比)に希釈したものを使用した。完全に乾燥後、炭化物平板を水に浮かべてマグネットを近づけたところ、平板はマグネットに吸い寄せられたので、細胞壁に磁性体が付着していることが予想できた。炭化物平板を破断し、細胞壁を電子顕微鏡で観察したところ、磁性体の存在が確認された。
【実施例7】
【0056】
実施例2と同様にして得られた厚さ約4mmの炭化物平板(触媒付与する前のもの)を、日産化学工業株式会社製オルガノシリカゾルIPA−ST(イソプロパノール中に粒径10〜20nmのコロイダルシリカが分散されている)に2分間浸漬後、取り出して自然乾燥した。完全に乾燥後、細胞壁を電子顕微鏡で観察したところ、シリカ粒子の存在が確認された。
【実施例8】
【0057】
エゾ松の辺材部分から切り出された断面が45×45mmの角材を通常の木材切断用バンドソーで、長さ方向(細胞の方向は長さ方向)と直角に長さ50mmのブロックに切断した。このブロックを実施例2の炭化処理と同じ条件で炭化した。この炭化処理により角材の断面は約38×38mmに収縮していた。バンドソーによる切断面の炭化後の面状は、ちぎられた細胞の炭化物で覆われ、細胞の開口部は全く露出していない(図1と同様)。そこで、ダイアモンド研磨粒子を含有するブレードを装填したバンドソーで、上記炭化物ブロックの長さ方向の端面から約1.5mmのところで切断除去し、新しい切断面を出した。切断面に付着した切断粉を除去してから顕微鏡で観察したところ、ほぼ均一に細胞の開口部が露出していた。開口部の周囲(細胞壁)はややギザギザで、レーザービームによる切断に比べると平滑度はやや劣る。新しい切断面を端面として約2mm厚の平板を切り出した。この平板を実施例2と同様に、触媒付与処理した後、銅を厚さ約5ミクロンになるように化学メッキした。充分に水洗、乾燥後、得られたものを空気中、約450℃で2時間焼成し、炭化物を除去した。自然放置冷却後、部分的に顆粒を含む茶褐色の粉末状のものが得られた。これを顕微鏡で観察したところ、元の炭化物の多孔性のレプリカであった。
【実施例9】
【0058】
実施例8で得られたのと同じ約2mm厚の炭化物平板の全表面に、実施例3と同様にパラジウム粒子を吸着させた多孔性材料の片面に、酢酸ビニル樹脂の水エマルジョン(酢酸ビニル樹脂55%)を塗布することによってこの面の細胞の開口部に酢酸ビニル樹脂を注入した。この面を粒度800番の研磨シートで、細胞の開口端が均一に露出するまで研磨した後、酢酸ブチルで樹脂を溶解除去、乾燥した。この操作により、研磨面に露出している細胞の開口端にはパラジウム粒子が存在していない状態になった。次に、実施例2と同じ化学メッキ液に浸漬し、細胞の孔が埋まるまで銅を厚くメッキした。メッキ厚は、炭化物細胞の孔が塞がらない程度の厚さにとどめた。充分に水洗後、乾燥した。得られたものを空気中で、400℃乃至450℃で2時間焼成し、細胞壁を構成していた炭化物を気化、消滅させた後室温に戻した。焼成により発生した灰分を3%水酸化ナトリウム水溶液で溶解除去した後、水洗、乾燥して得られたものは、細胞の壁と孔の関係が、元の炭化物平板とネガポジの関係にあった。炭化物細胞の壁は空隙となり、炭化物細胞の孔の部分は銅によって充填された。平板の片方の面(研磨されなかった面)には銅が析出し、析出厚が大きくなるに従い膜状に発展するので、元の炭化物とネガポジの関係にある構造が保たれた。空隙の厚さは非常に小さいので、新しい用途開発に展開できる。銅の化学メッキの代わりに、金、ニッケル等の化学メッキでも良い。
【実施例10】
【0059】
桂材の辺材部分から切り出された断面が30×30mmの角材を、長さ方向(軸方向細胞の方向)と直角に、通常の木材切断用バンドソーで長さ50mmのブロックに切断した。このブロックを、実施例2の炭化処理と同じ条件で炭化した。炭化後の角材の断面は約25×24mmに収縮していた。実施例8と同様に、ダイアモンド研磨粒子を含有するブレードを装填したバンドソーで、上記炭化物ブロックの長さ方向の端面から約1.5mmのところで切断除去した。次いで、この切断面を端面として同様にして切断し約2mm厚の平板状炭化物を切り出した。かくして両面に細胞の開口部がほぼ均一に露出した平板状炭化物が得られた。この炭化物平板をポリシロキサンの有機溶剤液(品川白煉瓦株式会社製 NIC−C5 テトラメトキシシランの加水分解物であるポリシロキサンをキシレンと酢酸ブチルの混合溶剤に溶解したもの)に浸漬した。平板から気泡が盛んに発生するが、気泡の発生が無くなった時点で、平板を取り出し、立てかけ自然乾燥した。完全に乾燥後、空気中で450℃で2時間焼成して炭化物を除去した。得られたものは、やや灰色がかった白色で、もろいものであったが形状は維持されていた。ピンセットで掴むことはできたが、強く掴むと容易に壊れてしまう。顕微鏡で観察したところ、炭化物のレプリカであった。ポリシロキサン溶液を含浸、乾燥したものを、もう一度ポリシロキサン溶液に浸漬、気泡の発生が無くなった時点で取り出し乾燥した。乾燥後、もう一度ポリシロキサン溶液に浸漬した後乾燥した。三度目の含浸処理では気泡の発生は殆ど無かった。完全に乾燥したものを、上記と同様に空気中で450℃で2時間焼成してほぼ白色のシリカからなる多孔性機能材料が得られた。得られたものの構造は、元の炭化物とネガポジの関係になっていた。
【実施例11】
【0060】
赤松の板(厚さ約8mm、幅約50mm、長さ約100mm、細胞の方向は長さ方向)を、酸素遮断雰囲気で徐々に温度を上昇して500℃に30分保持して絶縁性炭化物の平板(厚さ、幅、長さとも約75乃至80%に縮小)を得た。この平板に、長さ方向と幅方向の両方に直交する方向の炭酸ガスレーザービームを長さ方向と直交する方向に毎秒約80mmの速度で走査照射した。板の表面に長さ方向に対して直角な線状の照射痕跡が視認できた。顕微鏡で観測したところ、溝の深さは約0.2mm、溝の幅は約0.3mmであった。レーザー出力は約15W、レンズの焦点距離は1.5インチであった。レーザービーム照射前の炭化物の導電性は10の14乗Ω・cm以上であったが、レーザービーム照射された部分はグラファイト並の導電性であった。
【実施例12】
【0061】
栂材の角材(断面が67mm×67mm、細胞の方向は長さ方向と同じ)を長さ方向と直角に10mmの厚さに木材用バンドソーで切断した。切断面には細胞の開口部は露出していなかった。これを実施例2と同様に炭化し、約50mm角、厚さ約8mmの絶縁性炭化物平板を得た。次いで炭化された切断面の両面を約1mmの厚さに研磨ワイヤーで切除し、炭化された細胞の開口部を両面に露出させた。この開口部が露出した片方の面に、エポキシ系接着剤(チバガイギー社、アラルダイトスタンダード高性能エポキシ系強力接着剤)を約2mmの厚さに塗りつけ、その面を上にして約45℃の温度に保って接着剤の粘度を低下させ、接着剤を細胞の内部に浸透させた。接着剤が硬化後、両面に盛り上がっている接着剤をサンドペーパーで研磨除去した。これを実施例1と同様に炭化処理し、絶縁性炭化物平板を得た。この平板の面に直角方向に、実施例11と同様にレーザービームを走査照射したところ、レーザービーム照射された部分はグラファイト並の導電性になった。上記において、接着剤が硬化後、両面に盛り上がっている接着剤をサンドペーパーで研磨除去せずに、実施例2と同様に炭化処理した。得られた炭化物の両面の栂材炭化物を約0.5mmの厚さで切除し、厚さが約7mmの絶縁性炭化物平板を得た。この平板の面に直角方向に、実施例11と同様にレーザービームを走査照射したところ、レーザービーム照射された部分はグラファイト並の導電性になった。
【実施例13】
【0062】
実施例12で得られたと同じ栂材の絶縁性炭化物を研磨ワイヤーで6mmの厚さに切断し、約50×50×6mmの平板を得た。平板の両面には細胞の開口部が露出している。この平板を、ロータリーポンプで約10Paに保たれた真空容器内で、酢酸ビニル樹脂の水エマルジョン(酢酸ビニル樹脂55重量%、水45重量%)液に浸漬し、絶縁性炭化物の内部から気泡が出なくなるまで放置することにより、絶縁性炭化物の細胞内にエマルジョンを完全に含浸させた。次いで真空容器から取り出し自然乾燥させた。完全に乾燥後、これを実施例2と同様に炭化処理し、絶縁性炭化物平板を得た。この平板に直角方向に、実施例11と同様にレーザービームを走査照射したところ、レーザービーム照射された部分はグラファイト並の導電性になった。
【実施例14】
【0063】
エゾ松の平板(厚さ14mm、幅60mm、長さ100mm、細胞の方向は長さ方向と同じ)を空気中で120℃に2時間保持して充分に乾燥した。次いでこの平板の片面にエポキシ系接着剤(チバガイギー社、アラルダイトスタンダード高性能エポキシ系強力接着剤)を約0.2mmの厚さに塗布し、完全硬化後、実施例2と同様にして炭化した。接着剤が炭化した面に実施例11と同様にしてレーザービームを走査照射したところ、その部分がグラファイト並の導電性になった。実施例13では炭化物の内部に樹脂を含浸させたが、本実施のように内部に含浸させなくてもよいのである。また、絶縁性炭化物平板の片面に市販のうす空色の水性塗料(アトムサポート株式会社、商品名:水性スプレーAうす空、主成分:アクリル樹脂)をスプレー塗布、乾燥した。膜厚は25μであった。この塗布面に、実施例1同様にしてレーザービームを走査照射したところ、照射部分の塗膜は容易に溶融蒸発し、その部分の絶縁性炭化物がグラファイト並の導電性になった。更に、レーザー照射に先立って木質材料或いはその炭化物の片面または両面に熱可塑性あるいは熱硬化性樹脂を形成(溶液/粉末分散液の塗布或いは含浸、スプレー、テープの接着など)により平面性を確保強化し、低温/高温炭化してもよい。
【実施例15】
【0064】
厚さ5.5mm、サイズが100×100mmの市販のMDFから50×50mmのサイズに切り出し、これを実施例の用に炭化した。この炭化物平板は厚さが4.4mm、サイズが43.3mm角に縮小したが、反りは殆ど無く、割れも無かった。この平板に直角に、出力25Wの炭酸ガスレーザービームを焦点距離2インチのレンズで収束して、一点に約0.3秒間照射したところ、孔は途中までしか形成されなかった。3回照射したら孔が貫通した。レーザービーム入射側の貫通孔の直径は約0.4mmであったが、出射側の孔の直径は約0.05mmであった。貫通孔の断面形状はテーパー状であった。1回照射した後、同じ場所になるようにして平板を裏返し、反対面から1回照射したところ、孔が貫通した。このように両面側から照射するのが有利である。貫通孔はグラファイト並の導電性であった。
【実施例16】
【0065】
厚さが10mm、短辺が50mm、長辺が75mmのアガチス材(仮導管の方向は長辺と平行)の中央部に、出力25Wの炭酸ガスレーザービームを焦点距離1.5インチのレンズで収束して、約0.075秒間照射したところ、その部分に貫通孔が形成された。貫通孔の入射側の直径は約0.25mm、出射側の直径は約0.2mmであった。この部材を実施例2と同様に500℃で炭化し、全体が絶縁性の炭化物が得られた。貫通孔は径が元の約80%に縮小した。次いでこの貫通孔に上記レーザーでレンズの焦点距離を2インチに変更し、出力を5Wに低下して約0.1秒間照射した。貫通孔の経はほぼ炭化前の寸法になり、且つ導電性になった。炭
化物にレーザービームにより貫通孔を形成するのは、上述のようにかなり大きなエネルギーのレーザービームが必要であるが、炭化する前の木質材料に予めレーザービームで貫通孔を形成するのは、比較的容易である。貫通孔を形成した後、貫通孔の表面にレーザービームを照射すれば、その部分が導電性になるのである。貫通孔の他に溝についても同様である。
【実施例17】
【0066】
厚さが10mm、短辺が50mm、長辺が75mmのアガチス材(仮導管の方向は長辺と平行)を実施例2と同様に500℃で炭化し、全体が絶縁性の炭化物を得た。この炭化物平板の片面に、研磨微粒子を有するバンドソーで深さ1mm、幅約0.8mmの溝を、ピッチが3mmの碁盤目状に形成した。次いでこれらの碁盤目状の溝に、出力25Wの炭酸ガスレーザービームを焦点距離2インチのレンズで収束して、毎秒38mmの速度で走査照射したところ、全ての溝が導電性になった。
【実施例18】
【0067】
実施例15で得られたと同じMDFの絶縁性炭化物平板(長さ86.4mm、幅43.0mm)の表面に、実施例11のようにレーザービーム照射して10mm間隔で4本の直線状導電性部分を形成した。次いでこの平板を、2本の直線状導電性部分を含むように研磨ワイヤーで切断した(サイズが約20×43.0mm)。この切り出された短冊の2本の導電性直線の両端部約1.5mmの部分に市販の導電性銀ペーストを塗布、乾燥した。この2本の導電性部分の電気抵抗をテスターの棒を銀ペースト部に当てて測定したところ、約1200Ωであった。次に、残っている絶縁性平板から、同様にして2本の導電性直線を含むように上記と同じサイズの短冊を切り出した。一端部に市販の導電性カーボンペーストを約5mmの長さに塗布、乾燥した。他端部から約10mmの部分を導電性直線と直角に研磨ワイヤーで切断した。カーボンペーストは配線との接触を良好にするために塗布したが、必ずしも必要ではない。このカーボンペースト部にニッケル水素電池(出力電圧1.2V)の負極からの配線を接続した。正極からの配線を銅板(陽極)に接続した。銅板と絶縁性炭化物を硫酸銅めっき液(奥野製薬株式会社、TOP硫酸銅めっき液を水で2倍に希釈した液400mlを500mlビーカーに注入)に挿入した。絶縁性炭化物はカーボンペーストが塗布されていない方の端部約10mmの部分がめっき液に水没するように保持した。通電を開始すると約5秒後には目視できる程度に、絶縁性炭化物のレーザービーム照射部のめっき液水没部に銅が析出し始めた。約10秒後に通電を停止し、短冊を取り出して水洗、乾燥後、切断面に析出した銅を顕微鏡で調べたところ、導電性直線部の幅は約0.35mm、導電層の厚さは約0.05mmであった。上記の電気抵抗が1200Ω(長さ40mm)から比抵抗を計算すると、0.045Ω・cmとなり、グラファイト並の比抵抗である。次いで電気めっきを再開し、2分間の通電で、かなり厚く銅が析出した。通電時間の調整により希望の厚さの銅の析出が得られる。実施例15の貫通孔にも同様にして電気メッキすることが可能である。
【実施例19】
【0068】
厚さ約0.17mm、サイズ約150×12mmのエゾ松製薄経木(長辺が仮道管方向)3枚を、厚さ約2.7mm、サイズ約160×120mmのガラス板の上に約2mmの間隔をあけて載せ、その両側に約5mmの距離をあけて同寸法の薄経木を置いた。この両側の薄経木の上に同サイズで厚さが約90μのコピー用紙を載せ、その上から上記と同寸法のガラス板を重ねた。この状態で、空気遮断雰囲気で、室温から約300℃まで一定の速度で約20分上昇させ、その後約6時間300℃に保持した後、自然冷却させた。冷却後ガラス板を取り外して炭化された薄経木を確認したところ、サイズは約128×11mmに収縮していた。次に、ガラス板を元のように重ね、この状態で、約500℃ 空気遮断雰囲気で、室温から約500℃まで毎分230℃の速度で上昇させ、その後約30分500℃に保持した後、自然放置して冷却させた。冷却後ガラス板を取り外して炭化薄経木を観察したところ、ストライプのサイズは約111×10mmに収縮し、厚さは約0.13mmに収縮していた。このストライプ状炭化シートは、長辺方向にはかなり曲げることができた。図5はこうして得られたシート状木質系多孔質炭素材料を、直径が10mmのアルミロッドにスパイラル状に巻きつけた状態の写真である。ストライプの両端を粘着テープ(セロファンテープ)で固定した。
【実施例20】
【0069】
厚さ約0.17mm、サイズ約100×100mmのエゾ松製薄経木を、厚さ約2.3mm、サイズ125mm角の石英ガラス板の上に載せ、その両側に約2.5mmの距離をあけて125×9mmの同じ厚さの薄経木を置いた。この両側の薄経木の上に同サイズで厚さが約90μのコピー用紙を載せ、その上から上記と同寸法の石英ガラス板を重ねた。この状態で、空気遮断雰囲気で、室温から約300℃まで一定の速度で約20分上昇させ、その後約6時間300℃に保持した後、850℃まで毎分230℃の速度で上昇させ、その後30分850℃に保持した後、自然放置して冷却させた。得られた炭化シートは、導電性であり、破損しやすくデリケートな取り扱いが必要であった。この炭化シートの片面に、スチレンブタジエンゴムの25重量%トルエン溶液を、ガラス棒を用いて裏面に溢れない程度に、且つ表面に光沢樹脂膜が形成されない程度に塗布、乾燥した。これにより炭化シートの可撓性が大きくなり、仮導管方向に曲率半径が30mm程度に曲げても折れなくなった。しかも驚くべきことに両面とも導電性が維持されていた。本実施例のように、全面に樹脂を塗布或いは含浸させると、このシートを貫通する液体の移動ができなくなる。そこで全面に塗布するのではなく、例えばスクリーン印刷法により、ドット状或いは碁盤目状に塗布すれば機械的強度が増すと同時に、導電性も維持され、液体の移動も可能になる。更に驚くべきことには後述の実施例22に記載した方法で青色染料溶液を浸透させたところ、染料溶液が下に置かれた濾紙に浸透したのである。上記樹脂溶液の樹脂濃度が25%と比較的に小さかったので、含浸された樹脂溶液が乾燥した際、樹脂分は仮導管壁に固着し、仮導管内に空隙が生じたと推測される。全面に樹脂を塗布或いは含浸させると、このシートを貫通する液体の移動ができなくなる可能性がある。そのような場合は、例えばスクリーン印刷法により、ドット状或いは碁盤目状に塗布すれば機械的強度が増すと同時に、導電性も維持され、液体の移動も可能になる。
【実施例21】
【0070】
ガラス板の上にコピー用紙をのせ、その上に厚さ約0.17mm、サイズ約150×12mmのエゾ松製薄経木(長辺が仮道管方向)を置いた。Tajima製カッターナイフの替刃LCB-30をガスバーナーで赤熱するまで加熱し、その刃先を上記経木の長さ方向と直角に、かつ面に垂直に軽く押し付けたところ、経木は容易に切断された。この時点でカッターナイフは赤熱していなかった。続けて経木の別の場所を同様に切断することができた。この操作を数回繰り返すと、カッターナイフの温度が低下し、軽く押し付けただけでは切断されなかった。経木は厚さが小さく、熱容量が小さいので、このように1回の加熱で何回も切断できたのである。切断面を顕微鏡で観察すると、仮導管が均一に露出しており、レーザービームで切断した面と殆ど変わらなかった。かくして切断された経木を、実施例17と同様に炭化したところ、当然ながら切断面が綺麗に露出した炭化シートが得られた。
【実施例22】
【0071】
実施例19と同じ炭化条件で得られた大サイズの薄経木の炭化物から、面積15mm×15mmの平板を切り出し、濾紙を下に置いた状態で、その上面に青色の疎水性インク(Oil Blueの40mgをイソパラフィン系溶剤(エッソIsopar−H)100mlに溶解したもの)約0.025mlをピペットを用いて滴下した。インクは瞬時に下方に浸透し、濾紙に吸い取られた。インクは滴下された瞬間に炭化シートの表面に広がると同時にシートの内部にも浸透した。炭化シートにインクが楕円形状(長径/短径は約11/4)に広がり、濾紙にはほぼ円形に広がった。インクがシートの表面を伝って広がるのを防止し、シートの内部のみを浸透させるために、ピペットの先端にウレタンチューブ(内径0.9mm、肉厚0.05mm、長さ2mm)を取り付け、ウレタンチューブの先端を炭化シートに押し付けて液がウレタンチューブの外に漏れないようにした。この状態で約0.025mlのインクを供給したところ、炭化シートには長径/短径が約29.6mm/5.3mmの楕円形状に広がり、濾紙には約24mmの円形に広がった。
【0072】
(比較例)実施例19と同じ試料の1片を用い、滴下する液を親水性インク(食用赤色106号の50mgを100mlの水に溶解したもの)を用いて実施例18と同様に0.025mlの染料溶液を滴下した。液滴は拡散浸透せず半球の滴のまま滴下した表面に止まっていた。
【実施例23】
【0073】
長さ50mm、断面が30×30mmのエゾ松を実施例2に準じて作製した木質系多孔質炭素材料から、精密ダイヤモンドブレードを用いて仮導管方向と平行にスライスし、厚さ約0.32mm、面積約24mm×24mmの平板を切り出し、濾紙を下に置いた状態で、その上面に実施例18と同じ青色の疎水性インク約0.03mlを、ウレタンチューブの先端を平板に押し付けた状態で供給した。インクは短時間に下方に浸透し、濾紙に吸い取られた。スライスして切り出した平板の厚さを約1mmにして同様の実験をしたところ、インクが濾紙に到達するのに2分以上要した。厚さが大きくなると壁孔由来の細孔を通って仮導管と直交する方向へのインクの伝達は極端に遅くなった。
【実施例24】
【0074】
実施例22と同じ木質系多孔質炭素材料から厚さ約0.8mm、面積15mm×15mmの平板を切り出し、 実施例10に用いたと同じ試料の1片を 仮道管由来の細孔が露出している両面をシリコン系接着剤(セメダイン社、スーパーX)でシールした試料片を作製した。この試料片を濾紙の上にシールされた面がほぼ鉛直になるように立てた状態でシールされておらず壁孔由来の細孔が露出している上面(0.8mmx15mm)の中央付近に実施例19で用いたと同じ油性インク約0.15mlを、シリンジを用いてゆっくり滴下した。液滴は左右に浸透しつつ、ゆっくりと下方に浸透し、濾紙に吸引された。そのパターンは試料片の断面とほぼ同じであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)木材の高エネルギー密度ビームを照射による切断または切削する工程と加熱炭化工程をこの順で含む工程、
(2)木材が炭化する温度に加熱された鋭利な刃状先端を有する部材の刃或いは直線状のエッジを有する角状体のエッジ部による切断または切削する工程と加熱炭化工程をこの順で含む工程、
(3)木材を加熱炭化後、研磨微粒子を有する機械的切断方法による切断または切削工程を含む工程、
のいずれかの方法によるものであることを特徴とする平板状木質系多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項2】
平板状木質系多孔質炭素材料が、木材の高エネルギー密度ビームを照射による切断または切削する工程と加熱炭化工程をこの順で含む工程からなることを特徴とする請求項1に記載の平板状木質系多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項3】
平板状木質系多孔質炭素材料が、木材を加熱炭化後、研磨微粒子を有する機械的切断方法による切断または切削工程を含む工程により製造されることを特徴とする請求項1に記載の平板状木質系多孔質炭素材料の使用方法。
【請求項4】
平板状木質系多孔質炭素材料が、経木であることを特徴とする請求項1〜3に記載の平板状木質系多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項5】
平板状木質系多孔質炭素材料に、樹脂を含浸させるか、少なくとも一つの面に樹脂膜を設けることを特徴とする請求項1〜4に記載の平板状木質系多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項6】
少なくとも一つの溝あるいは貫通孔が、同一板上に形成されていることを特徴とする請求項1〜5に記載の方法によって製造された平板状木質系多孔質炭素材料の高機能化方法。
【請求項7】
高機能化が導電性の付与であって、少なくとも一つの溝或いは貫通孔が、木質材料に高エネルギー密度のビームにより形成された後、全体を加熱炭化し、ついで該溝或いは貫通孔に高エネルギー密度のビームを照射することにより得られたものであることを特徴とする請求項6に記載の平板状木質系多孔質炭素材料の高機能化方法。
【請求項8】
高機能化が導電性の付与であって、導電性の溝或いは貫通孔が、絶縁性木質系炭素材料基板に機械的手段により溝或いは貫通孔を形成した後、該溝或いは貫通孔に高エネルギー密度のビームを照 射することにより得られたものであることを特徴とする請求項6に記載の平板状木質系多孔質炭素材料の高機能化方法。
【請求項9】
請求項1〜5に記載の製造方法によって製造され、 高機能化が微細孔の内部および/または表面に物質変換促進機能を有する物質、機能性の金属や無機化合物の微粒子やナノ粒子などの少なくとも一種を導入、固定する工程を含むことを特徴とする平板状木質系多孔質炭素材料の高機能化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−103853(P2013−103853A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247893(P2011−247893)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(511275119)
【出願人】(397003079)
【Fターム(参考)】