説明

床パネルの製造方法及び床パネル

【課題】荷重を受けたときの上板と下板とのずれを抑え、床パネル全体の変形量を小さく抑える。
【解決手段】金属製の上板3と、この上板3に対向する側に凹部5を備えた金属製の下板7とを互いに重ね合わせ、上板3のフランジ部25と下板7のフランジ部13とをスポット溶接して溶接部27を形成する。スポット溶接後、上板3のフランジ部25より先端側の縁曲げ部23を折り曲げて下板7のフランジ部13に重ね合わせるようにして縁曲げ加工する。この際、縁曲げ部23が溶接部27を覆うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の上板と、この上板に対向する側に凹部を備えた金属製の下板とを備え、これら上板及び下板を互いに重ね合わせてその外周縁部同士を固定する構造の床パネルの製造方法及び床パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力、電話、データの量の多量化に対応して2重床システムが採用されている。この2重床システムは、例えば、コンクリートスラブなどの床基材の上に多数の支持脚を立設して支持脚により床パネルを支持することにより、床パネルと床基材との間の隙間を配線用空間とし、この配線用空間に電力線、情報線等のケーブルを配線するようにしている。
【0003】
このような2重床システムに使用する床パネルとしては、平板形状の上板と、この上板側に、モルタルなどの充填材を収容する凹部を備える下板とを備え、これら上板及び下板を互いに重ね合わせてその外周縁部を固定している。外周縁部の固定方法としては、上板の外周縁部を下板の外周縁部に重ね合わせるようにして折曲げ締結する縁曲げ加工や、スポット溶接がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−131767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の床パネルでは、上板の外周縁部を下板の外周縁部に対して折曲げ締結するのみであったり、あるいは、折曲げ締結に代えてスポット溶接や加締め継ぎ締結などを実施するのみであることから結合強度が低く、このため、外周縁部が特に大きな荷重を受けたときに、上板と下板とが互いにずれやすく、床パネル全体の変形量が大きくなる。
【0006】
そこで、本発明は、荷重を受けたときの上板と下板とのずれを抑え、床パネル全体の変形量を小さく抑えることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、金属製の上板と、この上板に対向する側に凹部を備えた金属製の下板とを互いに重ね合わせ、前記上板及び下板のそれぞれの外周縁部における互いの重ね合わせ部を溶接固定した後、前記上板の外周縁部における前記下板の外周縁部より突出した突出部位を折り曲げて前記下板の外周縁部の前記溶接固定した部位を覆うようにして重ね合わせて縁曲げ加工することを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の床パネルの製造方法であって、前記上板の外周縁部の突出部位は、前記縁曲げ加工の前に前記下板側に向けて曲げ加工してあり、この曲げ加工した上板の突出部位と、前記下板の外周縁部の先端との間に隙間を設けた状態で、前記重ね合わせ部を溶接固定することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の床パネルの製造方法であって、前記下板は、前記上板と反対側を凹ませることで上板に向けて突出する突起を備え、この突起の先端と前記上板とをスポット溶接にて溶接固定する際に、前記重ね合わせ部を同時にスポット溶接にて溶接固定することを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、金属製の上板と、この上板に対向する側に凹部を備えた金属製の下板とを備え、前記上板及び下板のそれぞれの外周縁部における互いの重ね合わせ部が溶接固定されるとともに、前記上板の外周縁部における前記下板の外周縁部より突出した突出部位が折り曲げられて前記下板の外周縁部の前記溶接固定した部位を覆うようにして重ね合わされて縁曲げ加工されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1または請求項4の発明によれば、縁曲げ加工する部位の上板及び下板の各外周縁部同士を、縁曲げ加工前に溶接固定しているので、外周縁部の結合強度が高まり、荷重を受けたときの上板と下板とのずれを抑えて床パネル全体の変形量を小さく抑えることができ、高品質な床パネルとすることができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、重ね合わせ部を溶接固定する際に、下板の外周縁部が熱変形により膨張して延びたとしても、この延び変形した下板の外周縁部の先端が、曲げ加工した上板の突出部位に干渉するのを回避することができ、溶接部位の強度を確保することができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、外周縁部における重ね合わせ部の溶接作業を、下板の突起と上板との溶接作業と同一工程で行えるので、作業効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態を示す床パネルの斜視図である。
【図2】図1の床パネルの下板側から見た底面図である。
【図3】(a)は図1の床パネルの外周縁部を拡大して示す断面図、(b)は上板のフランジ溶接部と下板のフランジ部とをスポット溶接している状態を示す作用説明図である。
【図4】(a)は図1の床パネルに対して塗装を行っている状態を示す説明図、(b)は、塗装時における床パネルの外周縁部付近の拡大図である。
【図5】上板の外周縁部を縁曲げ加工していない床パネルを持ち上げる動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0016】
図1に斜視図として示す床パネル1は、全体としてほぼ正方形となる平板状の鋼板製の上板3と、この上板3に対向する側に凹部5(図3参照)を備える鋼板製の下板7とを備えている。図2に示すように、下板7も上板3と同様に全体としてほぼ正方形状であって、この下板7は、底板部9と、底板部9の周囲四辺部からほぼ垂直に立ち上がる側壁部11と、側壁部11の底板部9と反対側の端部から底板部9とほぼ平行に外側に向けて延びるフランジ部13とを備えている。
【0017】
上記した下板7のフランジ部13は、周囲四辺部のものが角部(四隅)にて互いに連続しており、この連続したフランジ部13全体の外形が、上板3の外形とほぼ一致している。
【0018】
また、下板7の底板部9には、上板3と反対側を凹ませて窪みとなるディンプル15を形成してあり、このディンプル15に対応して上板3に向けて突出する突起17を複数設けてある。ディンプル15(突起17)は、図2に示すように、底板部7のほぼ全域にわたり、互いに直交する縦方向及び横方向それぞれにおいて一方向かつ等間隔に連続して配列して設けてある。
【0019】
このような下板7はプレス成形によって図3(b)に示す状態となるよう製造してあり、プレス成形した下板7のディンプル15の底部(突起17の先端に対応)と上板3との当接部を、スポット溶接して固定するディンプル溶接部19を設定してある。
【0020】
一方、上板3は、下板7における周囲四辺のフランジ部13の外形とほぼ同形状となるほぼ正方形状の上板本体21と、この上板本体21の角部(四隅)周辺を除く周囲四辺部から、下板7の外周縁部となるフランジ部13より外側に向けて突出する突出部位を折り曲げて縁曲げ加工する縁曲げ部23を備えている。
【0021】
また、上記した下板7のフランジ部13と、このフランジ部13に重ね合わされる上板3の外周縁部となるフランジ部25との間には、スポット溶接による溶接部27を設定してこれらフランジ部13,25相互を溶接固定している。そして、上記した縁曲げ部23は、図3(a)に示すように、溶接部27を覆うようにして下板7のフランジ部13に重ね合わせて縁曲げ加工している。
【0022】
次に、上記した床パネルの製造方法について説明する。図3(b)中で下部に位置している上板3は、縁曲げ加工前には、縁曲げ部23が、プレス加工によってフランジ部25に対してほぼ直角に下板7側に折り曲げてある。このプレス加工した上板3の突出部位である縁曲げ部23の内面23aと、下板7の外周縁部であるフランジ部13の先端との間に隙間29を設けている。
【0023】
この状態で、上板3のフランジ部25と下板7のフランジ部13との互いの重ね合わせ部を溶接固定する。その際、上板3を下板7に対して上下方向下側として電極板31上に載置し、フランジ部13の上から棒状電極33を当接させつつこれら各電極31,33相互間に通電することで、スポット溶接による溶接部27を形成する。
【0024】
この溶接部27は、図1,図2に示すように、周囲四辺部の各辺に沿って複数形成してある。また、この溶接部27は、下板7の底板部9に形成してある複数のディンプル15の縦横それぞれの配列方向に対応して設定してある。すなわち、上記各溶接部27は、複数のディンプル15の配列方向の延長線上に位置している。
【0025】
ここで、ディンプル15と上板3とのスポット溶接作業は、複数のディンプル15の図2中で縦方向あるいは横方向の1列分を同時に行うように、スポット溶接用の複数の電極33を1列に備えた電極保持フレームを用い、この電極保持フレームに対してワークである床パネル1を、前記電極33の配列方向と直交する方向に順次相対移動させて1列ずつ実施する。
【0026】
この際、上記複数のディンプル15の1列分の配列方向の延長線上に位置する例えば図2中で左右両側の外周縁部の重ね合わせ部に対しても同時にスポット溶接を実施する。つまり、この場合、スポット溶接用の電極33は、1列分の複数のディンプル15に対応するものと、左右一対の重ね合わせ部に対応するものとを合わせた数を、電極保持フレームに取り付けておくことになる。
【0027】
すなわち、下板7は、上板3と反対側を凹ませることで上板3に向けて突出する突起17を備え、この突起17の先端と上板3とをスポット溶接にて溶接固定する際に、外周縁部の重ね合わせ部をスポット溶接にて同時に溶接固定することになる。
【0028】
これにより、外周縁部における重ね合わせ部の溶接作業を、下板7の突起15と上板3との溶接作業と同一工程で行えるので、上記重ね合わせ部に対して溶接作業を実施するために別途新たな作業工程を追加する必要がなく、作業効率を高めることができる。
【0029】
なお、上記したように図2中で左右両側の一対の重ね合わせ部と、図2中で左右方向に配列してある1列分の複数のディンプル15とを同時に溶接作業を実施する場合には、図2中で上下両側に位置する他の一対の重ね合わせ部については、該重ね合わせ部のみについて複数個所を同時に実施することになる。
【0030】
また、このとき、上板3における縁曲げ部23の内面23aと、下板7のフランジ部13の先端との間に隙間29を設けているので、フランジ部13,25相互の重ね合わせ部を溶接固定する際に、下板7の外周縁部であるフランジ部13が熱変形により膨張して延びたとしても、この延び変形した下板7の外周縁部の先端が、上板3における縁曲げ部23の内面23aに干渉するのを回避することができ、これにより溶接部27の強度を確保することができる。
【0031】
上記図3(b)のようにして溶接部27を形成した後は、縁曲げ部23を図3(a)のように、下板7のフランジ部13に重ね合わせるように折り曲げて縁曲げ(ヘミング)加工を実施する。この際、折り曲げた縁曲げ部23は、溶接部27を覆う状態とすることで、溶接部27の下板7側への露出を回避することができる。
【0032】
このように、本実施形態では、上板3のフランジ部25と下板7のフランジ部13とをスポット溶接により溶接部27として溶接固定するとともに、上板3の縁曲げ部23を下板7のフランジ部13に重ね合わせるように縁曲げ加工している。
【0033】
このため、上板3と下板7の各外周縁部同士を、単に溶接固定しただけの場合や、単に縁曲げ加工した場合に比較して、外周縁部での結合強度が高まり、荷重を受けたときの上板3と下板7とのずれをより確実に抑えることができて、床パネル1全体の変形量を小さく抑えることができ、高品質な床パネル1とすることができる。
【0034】
また、外周縁部での結合強度が高まることで、上板3や下板7の板厚を薄くすることが可能となり、コスト低下を図ることができるとともに、床パネル1を施工する際に該床パネル1を支持する支持脚の剛性をより低く設定でき、これによってもコスト低下を図ることが可能である。この結果、上記床パネル1を使用したフロアシステム全体のコスト低下及び軽量化を達成することができる。
【0035】
さらに、上記した上板3や下板7の薄板化などでの材料使用量削減により、二酸化炭素の削減にも寄与することができ、また軽量化による輸送コストの削減効果及び、輸送する際の二酸化炭素の削減効果も期待できる。
【0036】
また、外周縁部における結合部での上板3と下板7とがより密着した状態となるので、上板3と下板7との間の凹部5にモルタルを充填したときのモルタルの染み出しを抑えることができ、より高品質な床パネル1とすることができる。
【0037】
また、上板3と下板7とを結合した後の床パネル1に対して塗装を実施する場合には、図4(a)に示すように、床パネル1を吊り下げ具35により外周部の一部位に引っ掛けて吊り下げた状態で、床パネル1の側方に設置してある噴射ノズル37から塗料39を噴射して粉体塗装する。このため、図4(b)に拡大して示すように、縁曲げ部23の先端とフランジ部13との境界部41に対して噴出後の塗料39aがのりやすく、この塗料39aによって、上記充填するときモルタルの染み出し現象をより確実に抑えることができる。
【0038】
本実施形態とは別に、上板3の外周縁部を、縁曲げ部23を設けずに、下板7のフランジ部13と同形状のフランジ部としている場合には、フランジ部相互の境界部が塗料39の噴射方向に対して側方に位置することになるので、塗料39がのりにくく、モルタルの染み出しが発生しやすくなってしまう。
【0039】
モルタルの染み出しが発生すると、赤錆が発生し、赤錆部を部分塗装する必要が生じることになるが、本実施形態では、モルタルの染み出しを抑えているので、赤錆発生も抑制し、赤錆発生による部分塗装という煩雑な作業も廃止することができる。
【0040】
ところで、床パネル1を施工する際には、施工現場において、床パネル1を複数収容してあるパネル収容箱の梱包を解いて1枚ずつ取り出すときに、外周縁部の前記縁曲げ加工した部位に両手の指を掛けて持ち上げる。この際、コンテナ輸送を想定して、パネル下面に滑り止めのゴムを取り付けている。
【0041】
このため、図5に示す比較例の床パネル1Aように、縁曲げ(ヘミング)加工を実施せず、前記図3(b)の状態と同様に、上板3Aの外周側の折り曲げ部23Aを上板本体21Aに対して90度折り曲げただけの場合には、特にゴムによって密着した状態となる床パネル同士を剥がす作業が必要となって指先にかなりの負担がかかり、作業性が極めて悪化するものとなる。なお、図5中の符号7Aは下板である。
【0042】
これに対して、本実施形態では、縁曲げ部23を、図3(b)の状態から図3(a)のように縁曲げ加工しているので、指先にかかる負担を軽減でき、作業性向上に寄与することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 床パネル
3 上板
5 下板の凹部
7 下板
13 下板のフランジ部(下板の外周縁部)
17 下板の突起
23 上板の縁曲げ部(上板の突出部位)
23a 上板の縁曲げ部の内面(上板の突出部位の内面)
25 上板のフランジ部(上板の外周縁部)
27 溶接部
29 下板のフランジ部と上板の縁曲げ部との間の隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の上板と、この上板に対向する側に凹部を備えた金属製の下板とを互いに重ね合わせ、前記上板及び下板のそれぞれの外周縁部における互いの重ね合わせ部を溶接固定した後、前記上板の外周縁部における前記下板の外周縁部より突出した突出部位を折り曲げて前記下板の外周縁部の前記溶接固定した部位を覆うようにして重ね合わせて縁曲げ加工することを特徴とする床パネルの製造方法。
【請求項2】
前記上板の外周縁部の突出部位は、前記縁曲げ加工の前に前記下板側に向けて曲げ加工してあり、この曲げ加工した上板の突出部位と、前記下板の外周縁部の先端との間に隙間を設けた状態で、前記重ね合わせ部を溶接固定することを特徴とする請求項1に記載の床パネルの製造方法。
【請求項3】
前記下板は、前記上板と反対側を凹ませることで上板に向けて突出する突起を備え、この突起の先端と前記上板とをスポット溶接にて溶接固定する際に、前記重ね合わせ部をスポット溶接にて同時に溶接固定することを特徴とする請求項1または2に記載の床パネルの製造方法。
【請求項4】
金属製の上板と、この上板に対向する側に凹部を備えた金属製の下板とを備え、前記上板及び下板のそれぞれの外周縁部における互いの重ね合わせ部が溶接固定されるとともに、前記上板の外周縁部における前記下板の外周縁部より突出した突出部位が折り曲げられて前記下板の外周縁部の前記溶接固定した部位を覆うようにして重ね合わされて縁曲げ加工されていることを特徴とする床パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−255199(P2010−255199A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103087(P2009−103087)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】