説明

建物情報処理システムおよび建物情報処理方法

【課題】型枠支保工における各部材の選択と構造計算を簡易に行える構成とした、建物情報処理システムおよび建物情報処理方法の実現を図る。
【解決手段】S1で計算対象部位決定処理のプログラムを開始し、S2で荷重条件の算定を行う。この際に、建物情報モデルからスラブ厚、スラブ寸法、コンクリート種類等の情報を取得する。また、施工計画モデルから積載荷重、衝撃荷重等の情報を取得する。S3で型枠使用部材(せき板、根太、大引、支柱)の選択を行う。この処理では、各部位(せき板、根太、大引、支柱)に使用する材料を様々に組合わせる。S4で支保工間隔の算定を行い、S5で型枠支保工コストの算出(材料コスト、労務コスト)を行う。S6で他条件との比較の有無を判定し、判定結果がNであれば、S3〜S5の結果を最適結果としてS7で出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の型枠支保工における各部材の選択と構造計算を合理的に行える構成とした、建物情報処理システムおよび建物情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RC造の型枠支保工は、構造計算により安全性を確認する必要がある。各種の支保工計算システムが実用化されているが、例えば特許文献1には、型枠支保工計画図を自動的に形成する方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−262256
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたような従来の型枠支保工の構造計算は、荷重条件(躯体寸法、コンクリート種類、施工時積載荷重など)を設計者などが自ら入力する必要がある。また、型枠支保工の仕様(使用材料、配置間隔)を設計者などが自ら設定する必要があるので、処理が煩雑になり時間もかかるという問題があった。さらに、当該計算システムは上記設定条件による合否判定しか行なわないので、合理的な計画を行う際には、型枠支保工の材料や間隔を様々に変更し、変更された条件それぞれについて計算しなければならない、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであって、型枠支保工における各部材の選択と構造計算を合理的に行える建物情報処理システムおよび建物情報処理方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明の建物情報処理システムは、
建物情報モデルの処理手段と、
前記建物の施工計画情報モデルの処理手段と、
型枠支保工検討処理手段と、を備え、
前記型枠支保工検討処理手段は、
前記建物情報モデルの処理手段から取得される当該型枠支保工構成部材の構造情報、および前記施工計画情報モデルの処理手段から取得される当該型枠支保工構成部材に加えられる荷重情報を組み合わせ、
前記各組み合わせについて構造上安全な型枠支保工の間隔を算定し、
前記間隔が算定された各型枠支保工のコストを算出し、その中で最も経済的な選定条件を満たす最適な前記型枠支保工の組み合わせ検討結果を出力することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の建物情報処理システムは、前記型枠支保工検討処理手段の検討結果として、前記型枠支保工の各部材の配置図を出力する出力手段を設けたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の建物情報処理システムは、前記型枠支保工の構成部材は、せき板、根太、大引を含み、これらの各部材の前記構造上安全な間隔を算定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の建物情報処理システムは、前記型枠支保工のコストは、材料コスト、および労務コストを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の建物情報処理方法は、
型枠支保工の計算対象区域を決定する段階と、
建物情報モデルから当該型枠支保工構成部材の構造情報を取得する段階と、
前記建物の施工計画情報モデルから当該型枠支保工構成部材に加えられる荷重情報を取得する段階と、
前記構造情報と荷重情報を組み合わせ、各組み合わせについて構造上安全な型枠支保工の間隔を算定する段階と、
前記間隔が算定された各型枠支保工のコストを算出し、その中で最も経済的な選定条件を満たす最適な前記型枠支保工の組み合わせ検討結果を出力する段階と、
からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、対象区域における合理的な型枠支保工計画が得られ、型枠支保工計画作成に要する時間が短縮される。さらに、材料コストや労務コストなどの型枠支保工コストを自動的に演算し、最も経済的な型枠支保工を選定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の型枠支保工計算においては、建物構成部材の形状、寸法などの情報をデジタル値で処理している。このようなデジタル処理の例を図18〜図20により説明する。図18は、図17で説明する記憶手段14の建物情報記憶部Aに記憶される建物情報の例を示す説明図である。図18(a)はツリー状に設定されたフォルダ構成を示している。「建物」のフォルダの下位に、「床」、「梁」、「柱」の各フォルダが設定されている。「床」、「梁」、「柱」の各フォルダの下位には、「オブジェクト基本データ」、「位置データ」、「形状データ」、「材料データ」、「接合データ」、「工程データ」の各フォルダが設定されている。なお、図18は、建物情報モデルの内部データの例を示すものである。
【0013】
図18(b)は、図18(a)の「オブジェクト基本データ」、「位置データ」、「形状データ」、「材料データ」、「接合データ」、「工程データ」の各フォルダに格納されるデータの例を示す説明図である。これらのデータは、(r)欄の各項目に対応して(s)欄に具体的な特性が設定されている。この例では、オブジェクト基本データとして、構造体名は床スラブ、オブジェクトIDはID、構造形式は在来RCが設定されている。位置データとして、部材座標系はX、Y、Zの3次元ベクトルで設定されている。
【0014】
部材1の材料データとして、材料種類は普通コンクリート、設計基準強度Fc
(N/mm2)、単位体積重量ρ(N/mm3)が入力される。位置データとして、部材1の中心位置X01、Y01、Z01(mm)が設定されている。部材1の形状データとして、寸法1がXe、Ye、Zeの3次元ベクトルで設定されている。工程データとして、部材1の作業日の材令(日)が設定されている。
【0015】
部材2についても、部材1と同様に材料データ、位置データが設定される。部材2の形状データは、寸法1〜寸法12が入力される。例えば、寸法1の欄には、上端筋の径、上端筋のピッチが入力される。接合データの「定着方法」について、例えば定着1では、一端の上端筋が他端の上端筋の上部に載置された状態で接合されるかどうかが設定されている。
【0016】
図19は、デジタル情報で記述される建物情報の例を示す説明図である。この例では、図20に示されているようなS1〜S35の35区画に区分されている床スラブを対象としている。図20は、床に重機が乗り入れた際の建物部材の強度を計算するための図である。図19の(c)欄の構造体名には「床スラブ」が設定されている。(d)欄のオブジェクトIDには適宜のIDを設定されている。(e)欄の構造形式には「在来RC」が設定されている。(f)〜(n)には、部材座標X1〜X3、Y1〜Y3、Z1〜Z3をデジタル値で設定されている。(f)〜(n)欄の0、1は例示である。
【0017】
例えば、図18に示されている部材1がコンクリート、部材2が鉄筋の場合には、部材1の中心座標(X1、Y1、Z1)は、(1,1,1)となり、部材2の中心座標(X2、Y2、Z2)は、(1,1,0)となる。また、部材3が使用されていない場合には、中心座標(X3、Y3、Z3)は、(0,0,0)である。
【0018】
図19には、建物情報の一部である位置データのみがデジタル値で示されているが、以下、図18(b)で説明したような材料データ、形状データ、工程データなども(n)欄に続いてデジタル値で記述される。ここでは、電子データの形式の一例としてデジタル値を用いたが、コンピュータがデータを認識し、プログラム実行時にデータのやり取りができる形式であれば、この表のようなデジタル値にこだわるものではない。すなわち、本発明の実施形態においては、建物情報をすべてデジタル値で記述するものである。本発明は、型枠支保工を対象とするので、図18(a)の建物情報として、後述するように型枠支保工の部材である「せき板」、「根太」、「大引」、「支柱」などが記載される。
【0019】
図1は、本発明の実施形態における、型枠支保工の計算処理手順を示すフローチャートである。図1において、S1で計算対象部位(区域)決定処理のプログラムを開始する。ここで、計算対象部位(区域)とは、処理の対象となる建物の特定のフロア、そのフロアの特定エリアなどに相当する。次に、S2で荷重条件の算定を行う。この際に、建物情報モデルからスラブ厚、スラブ寸法、コンクリート種類等の情報を取得する。また、施工計画モデルから積載荷重、衝撃荷重等の載置荷重の情報を取得する。S3で型枠使用部材(せき板、根太、大引、支柱)の選択を行う。この処理では、各部位(せき板、根太、大引、支柱)に使用する材料の組合わせを1つ選ぶ。
【0020】
S4で型枠支保工間隔の算定を行う。この処理は、前記S2の処理で得られた荷重条件の情報や、S3の処理で得られた型枠使用部材の構造の情報に基づいて、
構造的安全性、合理性から各部材の配置間隔を算出するものである。この処理の詳細は、後述する。S5で型枠支保工コストの算出(材料コスト、労務コスト)を行う。この処理は、部材数量を算出し、労務歩掛をデータベースから取得するものである。S6で他条件との比較の有無を判定し、判定結果がNであれば他条件との比較を行わずにS5の結果を最適結果として、すなわち、最も経済的な型枠支保工のケースと判定してS7の処理に移行する。S3で設定した型枠支保工の組み合わせ以外に、検討していない型枠支保工の組み合わせが存在する場合、再度S3以下のループ処理を繰り返す。このような処理を繰り返すことにより、型枠支保工使用部材(せき板、根太、大引、支柱)を選択し、それぞれの型枠使用部材を組み合わせて型枠支保工間隔を算定し、各組み合わせの型枠支保工コストを算出することができる。最終的に、すべての組み合わせについて、S5までの検討が終了したらS6に進み、その中で最も型枠支保工コストが安いものを選定してS7の処理に移行する。S7の出力処理は、図14、図15に示すような建物情報の図面を出力するものである。判定結果がYであればS3に戻り、S3以下のループ処理を繰り返す。以上の手順を辿ることにより、型枠支保工のコストを最小とするケースを自動的に演算処理することができる。なお、上記の説明では、型枠支保工のコストを最小とする場合について述べたが、S5で算出すべき内容を変更することで、型枠支保工の部材数量、型枠支保工の部材総重量、工期等、他の選定条件を最適とする型枠支保工の組み合わせを自動的に算出することができる。
【0021】
図2は、型枠支保工間隔の算定例を示すフローチャート、図3は図2の処理の説明図である。図2の型枠支保工間隔の算定を示すフローチャートは、図1のS4の処理である「型枠支保工間隔の算定」の具体例を示すものである。なお、後述する図11(a)には、型枠支保工の構造部材である「せき板1」、「根太2」、「大引3」、「支柱4」の配置例が記載されている。図2において、S11で計算条件決定の処理を開始する。この処理は、型枠支保工の設計荷重W(n/m2)、型枠支保工材料、許容たわみを決定するものである。S12でせき板1の最大支持間隔を算定する。この計算は、構造力学の知識から容易に算定し得るものであるが、、図3(a)に示されているように、根太2で支持されるせき板1に設計荷重W(n/m2)が加えられたとして、せき板1の許容応力度(曲げモーメント、せん断)と、せき板1の許容たわみを満足するように、根太2によるせき板1の最大支持間隔Tを算定するものである。
【0022】
S13で根太2の検討を行う。この処理は、図3(b)に示されているように、大引3に支持されている根太2に設計荷重W(n/m2)が加えられたとして根太2の許容応力度(曲げモーメント、せん断)を満たし、根太2の許容たわみを満たす根太間隔と根太スパンYaの条件(条件A)を求める。この計算も、構造力学の知識から容易に算定しうるものである。根太スパンYaは、大引3−3間の間隔に相当する。続いて、根太2によるせき板1の最大支持間隔T以下で条件Aを満たす根太スパンと根太間隔を求める。この条件は、図11(b)において、直線Daより左側かつ曲線Dbの下側の範囲として示されている。根太スパンYaは建物の床の幅以上にはならないため、大引の列数をNa、建物の床の有効幅をWfとすると、Ya=Wf/(Na−1)の関係が成り立っている。建物の床の有効幅とは、柱の中心間の距離から、大引等の設置作業に支障をきたさない程度内側に逃げた距離のことである。したがって、Na=2の場合、床の幅から根太スパンYaが決まり、この場合の最大根太間隔が図11(b)の直線Daまたは曲線Dbの交点として求まる。実際には、柱があるため建物の床幅いっぱいに大引を設置することができず、床の有効幅Wfは建物の床の幅より少しだけ小さく設定される。このようにして、大引列数、根太スパン、根太間隔の組み合わせが求まったら、次に大引き列数を1つ増やし、同様の計算を行うということを繰り返す。なお、大引列数を増やしていくと、根太スパンと根太間隔の組み合わせがDaとの交点として求まる、すなわち根太間隔が根太2によるせき板1の最大支持間隔Tとなるが、その場合、それ以上大引列数Naを増やした計算は行わない。
【0023】
S14で大引3の検討を行う。この処理は、図3(c)に示されているように、支柱4に支持されている大引3に設計荷重W(n/m2)が加えられたとして、大引3の許容応力度(曲げモーメント、せん断)を満たし、大引3の許容たわみを満たす大引間隔(根太スパン)と大引スパンの条件(条件B)を求める。この計算も、構造力学の知識から容易に算定し得るものである。図13(b)では、曲線Haの下側の範囲として示されている。大引間隔(根太スパン)は、先ほど同様床の幅と大引列数Naから決まるので、Na=2から順に大引スパンの最大値を算出する。ここで、S13で打ち切ったNaを超えての計算は行わない。最後に、大引スパン(V)が最大値の時に支柱にかかる軸力が許容軸力以下であるかどうかを確認する。支柱にかかる軸力が許容軸力を下回っていた場合には、S15で、せき板の種類、根太、大引、支柱の種類および間隔についての検討結果を出力する。図3(d)はS15の検討結果の出力例を示しており、型枠支保工の各部位(せき板、根太、大引、支柱)の材料について、種類やサイズなどが表形式で記載されている。
【0024】
図4は、本発明の実施形態を示す説明図である。図4において、施工計画モデル(A)は、型枠支保工計算用荷重として、(1)「自重」、(2)「積載荷重」、(3)「衝撃荷重」を設定する。(1)「自重」では、建物モデルから重量データを取得して施工対象オブジェクトIDを設定する(a)。型枠概算荷重では、初期値として40kg/m2を使用し、型枠仕様決定後に精算する(b)。(2)「積載荷重」では、ポンプ打設などの施工方法、土工などの作業人数、発電機などの設置される作業機械を設定する。(3)「衝撃荷重」は、「積載荷重」と同じ項目(施工方法、作業人数、作業機械)を設定する。これらの(2)「積載荷重」と(3)「衝撃荷重」は、データベースを参照して重量値を取得する(c)。型枠支保工には、これらの(1)「自重」、(2)「積載荷重」、(3)「衝撃荷重」の加算値(載置荷重)が負荷される。
【0025】
図5は、施工計画モデルデータ例を示す説明図である。図5において、横欄の項目欄には、(a)施工計画名、(b)施工計画ID、(c)施工対象オブジェクトID、(d)施工日、(e)施工方法、(f)土工人数、(g)左官人数、(h)合番人数、(i)60φ(ポンプ径)、(j)50φ(ポンプ径)、(k)40φ(ポンプ径)、(l)30φ(ポンプ径)、(m)発電機、(n)インバーターが設定される。
【0026】
(a)施工計画名に対応して、A〜Lで「コンクリート打設計画」が設定される。A〜Lの各「コンクリート打設計画」には、前記(b)施工計画ID〜(n)インバーターの各項目について、それぞれのデータが記載されている。図5の例では、(c)施工対象オブジェクトIDの欄のみが、「srab1001001」〜「srab1001012」で異なる数値が記載されているが、他の項目はすべて同じ数値が記載されている。しかしながら、本発明の実施形態においては、(c)施工対象オブジェクトID欄の番号に応じて、他の項目がそれぞれ異なる数値を設定することもできる。なお、図5においては、図面サイズの関係から、前記A〜Lで設定される横方向の各事項の配列を、上段と下段で(イ)〜(オ)により関連付けている。
【0027】
図6は、型枠使用材料の選択の例を示す説明図である。図6において、横欄には(a)部位、(b)材質、(c)サイズ、(d)断面積、(e)断面2次モーメント、(f)断面係数、(g)ヤング係数を設定する。また、(a)部位に対応させて縦欄には、型枠のA「せき板」、B「根太」、C「大引」、D「支柱」を設定する。例えば、(a)部位がA「せき板」においては、(b)材質として、「合板I類横使い」が記載されており、(c)サイズ
として、厚さが12mm、15mmが記載されている。また、(a)部位がC「大引」においては、(b)材質として、「桟木I類平使い」が記載されており、(c)サイズとして、
50×25、50×27、60×30mmが記載されている。なお、図6においては、(d)断面積、(e)断面2次モーメント、(f)断面係数、(g)ヤング係数、の数値については記載を省略している。
【0028】
本発明の実施形態においては、図6の(a)部位の項目に対応させた、A「せき板」、B「根太」、C「大引」、D「支柱」の各型枠支保工部位に対する(b)材質、(c)サイズ、(d)断面積などのパラメータを適宜選択して組み合わせている。図7は、図6の前記選択されたパラメータの組み合わせ例を示す説明図である。図7において、(a)〜(h)は、前記各型枠支保工部位の組み合わせ例を示しており、横欄には、(x)部位、(y)材料、(z)サイズ、(w)間隔を設定している。
【0029】
例えば、(a)の組み合わせでは、「せき板」は「合板I類横使い」で厚さが「12mm」、「根太」は「単管STK400」を使用し、径×厚さは、「48.6×2.3mm」、間隔は400mm、「大引」は「端太管I類」を使用し、断面サイズは100×100mm、間隔は1200mm、「支柱」は、パイプサポートを使用し、間隔は1200mmである。以下、(b)〜(h)に示されているように、型枠支保工部位(x)の「せき板」、「根太」、「大引」、「支柱」に対応した(y)「材料」、(z)「サイズ」、(w)「間隔」を選定して種々の組み合わせが実現できる。
【0030】
このように、本発明の実施形態においては、図1のフローチャートで説明したように、型枠支保工に加わる荷重が算定されると、「せき板」、「根太」、「大引」、「支柱」の各部位の材料やサイズについての組み合わせを自動的に生成する。そして、生成されたそれぞれの組み合わせについて、構造的に安全な型枠支保工の間隔を算定する。この算定された全ての型枠支保工の間隔に対して型枠支保工のコストを算出するため、勘と経験に頼ることなく、構造的に安全かつ最適な型枠支保工の計画を短時間で策定することができる。
【0031】
図8〜図16は、前記図1、図2のフローチャートで説明した各処理内容の具体例を示す説明図である。以下、図8〜図16の実施形態について説明する。図8は、図1のS2に対応する計算条件決定の例を示す説明図である。図8において、モニタには、柱7、床5により矩形状に区画されて形成される床6の空間(計算対象部位)が表示されている。また、建物情報モデル(a)が表示される。建物情報モデルとして、構造躯体名「床スラブ」、オブジェクトID「12」、構造形式「在来RC」、コンクリート材料「普通コンクリート」、スラブ寸法長辺「5700mm」、スラブ寸法短辺「4700mm」、スラブ厚「200mm」が設定されている。
【0032】
モニタには、さらに、施工計画情報モデル(b)が表示される。施工計画情報モデルとして、施工計画名「コンクリート打設計画」、プロジェクトID「134」、打設方法「ポンプ打ち」、打設人数「土工6、左官4」、使用機器「バイブレーター40φ3台、発電機」が設定される。この建物情報モデル(a)と施工計画情報モデル(b)に基づいて、設計荷重Wを算定する。この例では、鉄筋コンクリート「4800N/m2」、積載荷重「1050N/m2」、衝撃荷重「2400N/m2」、応力計算用荷重「8750N/m2」、たわみ計算用荷重「4800N/m2」、が算定される。
【0033】
図9は、図1のS3の処理に相当し、型枠支保工材料の選択の例を示す説明図である。図9において、モニタには、型枠支保工の部位、材料、サイズが表示される。この例では、型枠支保工の部位である「せき板」、「根太」、「大引」、「支柱」について、それぞれの材料、サイズは、図7(a)で説明したように、算定された積載荷重に対応して選択されたパラメータが表示されている。各部位の材料、サイズは、データベースより取得する。この際に、図6では図示を省略していた応力、たわみ算定用各種係数、断面2次モーメント、断面係数、ヤング係数の情報も取得する。
【0034】
図10は、図1のS4の処理開始前に相当し、型枠支保工間隔の算定(初期設定)の例を示す説明図である。図10において、モニタには、型枠支保工の構成部材が一部表示される。この例では、スラブ四隅への支柱配置、長辺方向の大引配置が表示される。大引3は支柱4に支持されている。ここでは柱7の中心と大引3の中心間の長さを500mm、柱7の中心と支柱4の中心間の長さも500mmとしているが、構造上安全かつ型枠支保工の設置作業に支障をきたさない寸法であれば、この数値に拘るものではない。
【0035】
図11は、図1のS4の処理(型枠支保工間隔の算定)において、図2のS13の処理である根太の検討の例を示す説明図である。図11(a)において、支柱4に大引3が支持され、大引3上に根太2が載置される。根太2の上には、せき板1が配置されている。根太スパンをYa、根太間隔をXaとする。図11(b)は根太間隔と根太スパンとの関係を示す図、図11(c)は、大引列数と根太スパンとの関係を示す図である。
【0036】
図11(c)では、大引列数を「6」に選択した例が示されている。図11(a)では、支柱4と大引3の記載を一部省略して大引3は2列のみ表示されている。
図中に示していないが、建物の床の有効幅は6000mmであり、この場合には、図11(b)に示すように、大引列数が6の場合の根太スパンYbは、1200mmである。図11(b)の特性で、Daはせき板強度の限界、Dbは根太たわみ3mm以下の境界線を示している。本条件の場合、根太の許容応力限界を示す境界は常にDbより上方に位置するため、図中には示していない。根太スパンが1200mmを意味する直線と、直線Daまたは曲線Dbとの交点はDcとなり、対応する根太間隔は400mmである。すなわち、この例では根太間隔として400mmを選択することが合理的な計画となる。
【0037】
図12は、図11(a)の全体の平面視を示す説明図である。図12(a)は、図11(a)に対応する根太スパンYaを示している。また、図12(b)には、前記のように大引列数が6の場合には、根太スパンYbが1200mmであることが示されている。図12(b)では、対象部位の短辺両端を除いた中央部の大引は破線で4列示している。
【0038】
図13は、図1のS4の処理(型枠支保工間隔の算定)において、図2のS14の大引の検討の例を示す説明図である。図13(a)に示されているように、支柱4に大引3が支持され、大引3上に根太2が載置される。根太2の上にはせき板1が配置されている。大引間隔(根太スパン)をZ、大引スパンをVとする。
【0039】
図13(b)は、大引間隔(根太スパン)と大引スパンとの関係を示す図である。Haは大引たわみ3mm以下の境界線を示す特性である。本条件の場合、大引の許容応力限界を示す境界は常にHaより上方に位置するため、図中には示していない。大引間隔(根太スパン)が1200mmを意味する直線と、曲線Haとの交点はHbとなり、対応する大引スパンは1200mmとなる。すなわち大引スパンとして1200mmを選択することが合理的な計画となる。
【0040】
図14は、図2のS15の結果出力に対応し、型枠支保工部材のパラメータを出力する例を示す説明図である。この例では、型枠支保工の各部材(せき板、根太、大引、支柱)の材料、サイズ、間隔が示されている。図14の(a)欄は、(x)欄の「部位」、(y)欄の「材料」、(z)欄の「サイズ」は、図9で説明した内容に対応している。
【0041】
図15は、図2のS15の結果出力に対応し、出力(作図)の例を示す説明図である。この例では、柱7、梁5で区画された対象部位に配置される型枠支保工の部材、すなわち、根太2、大引3、支柱4が記載されている。図15では、根太2は17本、大引3は6列、支柱4は16本となっている。なお、図15に示された型枠支保工の部材の配置図は、モニタ表示の他に、プリンタを接続して適宜の用紙に記録して出力することができる。
【0042】
図16は、型枠支保工の割付の例を示す説明図である。図16(a)は平面図、図16(b)はX―X方向の側面図、図16(c)はY―Y方向の側面図である。前記したように、Zは大引間隔(根太スパン)、Vは大引スパン、Xaは根太間隔である。図15の3面図によれば、型枠支保工の各部材(根太2、大引3、支柱4)の使用個数、配置関係などが視覚により明確に判断できる。
【0043】
図17は、本発明の実施形態における建物情報処理システム11の全体構成を示すブロック図である。図17に示されているように、当該システム11は、コンピュータのハードウェア資源により構成されている。12はキーボードやマウスからなる入力手段、13はCPUからなる処理手段、14は種々のデータやプログラムを記憶する記憶手段、15はモニタやプリンタからなる出力手段である。処理手段13には、建物情報を作成する建物情報処理部3a、施工計画情報を作成する施工計画情報処理部3b、建物情報の図面化と施工計画情報の図面化を行なう図面処理部3c、型枠支保工の各部位の部材選定と間隔算定を行なう構造検討処理部3dが設けられている。この構造検討処理部3dでは、さらに、型枠支保工コストの算出も行う。建物情報処理部3aは、請求項1の建物情報モデルの処理手段に対応する。また、施工計画情報処理部3bは、請求項1の施工計画情報モデルの処理手段に対応する。なお、構造検討処理部3dは、請求項1の型枠支保工検討処理手段に対応する。
【0044】
建物情報は、複数の建物の中から構造検討を行なう建物を特定するために、建物の名称、施工番号などがデジタルデータで記述されている。また、例えば図6に示されているように、型枠支保工の各部位の材質、サイズなどの各データが図18に示されているようなデジタルデータで記述されている。また、施工計画情報は、図5で説明したような施工計画名、施工計画ID、施工対象オブジェクトIDなどのデータがデジタルデータで記述されている。図面は、例えば図14に示されているように、型枠支保工の各部材の配置をコンピュータで描画したものである。
【0045】
記憶手段4には、建物情報を記憶する建物情報記憶部A、施工計画情報を記憶する施工計画情報記憶部B、建物情報と施工計画情報の図面を記憶する図面記憶部C、構造検討ソルバー記憶部D、データベース記憶部Eが設けられている。データベース記憶部Eには、図1で説明したように、型枠支保工コストの算出(材料コスト、労務コスト)を行う際に用いる労務歩掛を記憶している。型枠支保工のせき板、根太、大引、支柱の各部材における材料、サイズなどの特性は、デジタル値で建物情報記憶部Aに記憶される。
【0046】
本発明の建物情報処理システムの特徴は、次のようにまとめることができる。(1)建物情報処理部、施工計画情報処理部、型枠支保工検討処理部、図面処理部から成り、建物情報、施工計画情報を基にして、自動的に合理的な型枠支保工の仕様を決定する。(2)建物情報処理部、施工計画情報処理部から型枠支保工検討に必要な情報を自動的に取得し、従来のような人手の入力による煩雑な処理になるという課題を解決する。(3)型枠支保工処理部では、各部材様々な材料の組み合わせの特性を生成し、各ケースについて最適な特性を選択すると共に、各部材の適正な間隔を算出する。(4)さらに、型枠支保工処理部では、各ケースについて材料コスト、労務コストを算出し、最も経済的なケースを選定する。(5)計算結果は計算書および図面として出力する。(6)このように、合理的な型枠支保工計画が得られ、計画作成に要する時間が短縮される。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明は、型枠支保工における各部材の選択を自動的に行い、デジタル情報の演算で構造計算を簡易に行える構成とした、建物情報処理システムおよび建物情報処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の処理手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図12】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図13】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図14】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図15】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図16】本発明の実施形態を示す
【図17】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図18】本発明の関連技術を示す説明図である。
【図19】本発明の関連技術を示す説明図である。
【図20】本発明の関連技術を示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・せき板、2・・・根太、3・・・大引、4・・・支柱、5・・・梁、6・・・床、7・・・柱、11・・・建物情報処理システム、2・・・入力手段、13・・・処理手段、14・・・記憶手段、15・・・出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物情報モデルの処理手段と、
前記建物の施工計画情報モデルの処理手段と、
型枠支保工検討処理手段と、を備え、
前記型枠支保工検討処理手段は、
前記建物情報モデルの処理手段から取得される当該型枠支保工構成部材の構造情報、および前記施工計画情報モデルの処理手段から取得される当該型枠支保工構成部材に加えられる荷重情報を組み合わせ、
前記各組み合わせについて構造上安全な型枠支保工の間隔を算定し、
前記間隔が算定された各型枠支保工のコストを算出し、その中で最も経済的な
選定条件を満たす最適な前記型枠支保工の組み合わせ検討結果を出力することを特徴とする、建物情報処理システム。
【請求項2】
前記型枠支保工検討処理手段の検討結果として、前記型枠支保工の各部材の配置図を出力する出力手段を設けたことを特徴とする、請求項1に記載の建物情報処理システム。
【請求項3】
前記型枠支保工の構成部材は、せき板、根太、大引を含み、これらの各部材の前記構造上安全な間隔を算定することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の建物情報処理システム。
【請求項4】
前記型枠支保工のコストは、材料コスト、および労務コストを含むことを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の建物情報処理システム。
【請求項5】
型枠支保工の計算対象区域を決定する段階と、
建物情報モデルから当該型枠支保工構成部材の構造情報を取得する段階と、
前記建物の施工計画情報モデルから当該型枠支保工構成部材に加えられる荷重情報を取得する段階と、
前記構造情報と荷重情報を組み合わせ、各組み合わせについて構造上安全な型枠支保工の間隔を算定する段階と、
前記間隔が算定された各型枠支保工のコストを算出し、その中で最も経済的な選定条件を満たす最適な前記型枠支保工の組み合わせ検討結果を出力する段階と、
からなることを特徴とする、建物情報処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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