説明

引抜成形品の製造方法

【課題】割付治具の複数枚とその通糸方法によって、複数本の繊維束の開繊を行うことで、耐振れ性に優れた、軽量の搬送用シャフト製品の製造方法を提供する。
【解決手段】ボビン2から巻きだされた複数本の繊維束に、レジン浴4中で熱硬化性樹脂組成物を含浸させた後、繊維束を均等に割り付けるための割付治具5を介して金型6を通過させながら硬化させる引抜成形品の製造方法であって、割付治具5を複数枚用い、それぞれの割付治具5(5a〜5d)により繊維束が異なる方向から開繊されるように通糸する引抜成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネル等の搬送に用いられる搬送用シャフト等の製造材料となる引抜成形品の製造方法に係り、特に、反りが少なく回転時の搬送用シャフトの振幅が小さい、軽量な引抜成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
引抜成形品は、プリント基板、液晶、シャドーマスク等の電子部品の搬送用装置で用いる搬送用シャフト等に幅広く使われている。搬送用シャフトは、従来、剛性の高い金属を用いることが一般的であったが、装置が大型化するに伴い、今まで以上の軽量化が必要となり、カーボン繊維等の強化繊維を基材としてエポキシ樹脂により成形した中空引抜成形製品が使用されるようになってきている。
【0003】
このような、円筒状中空の搬送用シャフト製品は、搬送用シャフトが回転するときの振れ量が大きいと、プリント基板や液晶パネル等の搬送対象物を真っ直ぐに搬送することができず、さらに、液晶パネル等のガラス基板は破損するおそれがある。
【0004】
近年、パネルサイズの拡大により搬送用シャフトは長尺化の傾向にあり、さらに、生産性向上のため搬送速度を高速化(搬送用シャフトの回転速度の高速化)する傾向にあり、搬送用シャフトの回転時の振れ量が製品の生産効率に与える影響が大きくなってきている。
【0005】
ところで、これまで、ガラス繊維やカーボン繊維引抜に熱硬化性樹脂を含浸硬化した成形製品は、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法で製造されていたが、ハンドレイアップ法は、手作業であるため、また、フィラメントワインディング法は工程が複雑なため、いずれも生産性が劣り成形コストがかかっていた。
【0006】
そのため、複数本のガラス繊維から収束されたガラス繊維束に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、引抜成形をすることで搬送用シャフトを製造する方法が提案され、行われるようになってきた(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、引抜成形品の引張り強度の改善し、搬送を安定して行えるように、補強繊維を金型へ導入する前に、一つの割付治具を通した後、金型の引抜通路の導入口の形状と略相似形を有するダイスに通して、各補強繊維を平行に引き揃えた状態で、金型の引抜通路の軸線に対して略平行に揃えて同引抜通路に導入することで補強繊維の蛇行の程度を小さくする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
なお、光ファイバーのような微細線条体の製造方法ではあるが、複数本の各繊維束を螺旋状に走行させて含浸、収束させることで、FRP細線条体の形状を精度よく得ようとする方法も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−255507号公報
【特許文献2】特開2002−160303号公報
【特許文献3】特開2000−254978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2のような蛇行の程度を小さくした製造方法は、成形品の引張り強度の向上には効果があるものの、搬送用シャフトに求められる回転時の振れ量を少なくするような形状安定性は不十分であった。また、特許文献3のような光ファイバーを螺旋状に走行させた製造方法は、微細線条体のスプリングバックの異方性を解消することを目的としたものであって、搬送用シャフトのような回転時の振れを抑制しようとするものではなかった。
【0011】
このように、搬送用シャフト製品には、これまで課題としてきていた、強度、軽量化等に加えて、反り、ねじれや搬送時の振れ量をこれまで以上に抑制することが大きな課題となっている。
【0012】
そこで、本発明は、複数本の繊維束の不均一性を解消し、耐振れ性に優れた、軽量の搬送用シャフトに適した引抜成形品の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意検討を進めた結果、熱硬化性樹脂組成物を含浸した繊維束を、割付治具を複数枚用い、それに通糸する方法を工夫することで繊維束を開繊させ、これを金型に通過させながら硬化させて引抜成形を行うことで、断面方向に補強繊維が均一に分散しており、回転しても振幅の少ない成形品が得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0014】
すなわち、本発明の引抜成形品の製造方法は、複数本の繊維束に熱硬化性樹脂組成物を含浸させた後、各繊維束を、複数個のガイド孔を有する割付治具のガイド孔にそれぞれ通して金型に案内し、該金型を通過させながら硬化させる引抜成形品の製造方法であって、割付治具を、繊維束の通路に沿って所定の間隔をおいて複数枚配置し、それぞれの各割付治具のガイド孔の側面に押しつけられるように、各繊維束を所定の角度をなして通糸させることを特徴とするものである。
【0015】
ここで使用する割付治具は、繊維束を均等に割り振って、繊維束を均等に金型中へ導くものであり、引抜成形品中に繊維束が偏りなく存在するようにするものである。この割付治具は、その中心から等距離となる円周上に等間隔に複数個のガイド孔を有することが好ましく、本発明においては、この割付治具を複数枚用い、金型に引き入れる前に繊維束の開繊を効率的に行うようにするものである。このとき、最初の割付治具から最後の割付治具までの繊維束の通糸方法として、繊維束が螺旋状に走行するようにすることが好ましい。
【0016】
繊維束を螺旋状に走行させる場合には、熱硬化性樹脂組成物を含浸させた繊維束が、最初の割付治具のガイド孔を通糸した後、次の通糸する割付治具のガイド孔を、そのまま繊維束が真っ直ぐ金型へと引き込まれないように位置をシフトさせる。このようにすると、繊維束は所定の角度をなしてガイド孔を通糸することになり、このとき繊維束はガイド孔の側面に押しつけられることとなる。そして、次の割付治具のガイド孔でも、同様にシフトした位置とすることで、ここでも繊維束はガイド孔の側面に押しつけられ、繊維束が複数の異なる方向から圧力を受けることにより、繊維束が開繊、均一化される。
【0017】
このように複数の異なる方向からの圧力で開繊することにより、不均一性を効率的に解消することができるようになっている。このとき、ある繊維束が通糸するガイド孔として、一つの割付治具のガイド孔から次の割付治具のガイド孔へ、割付治具の中心に対して同一方向に回転するようにずらした位置へシフトさせ、その次の割付治具でも同様にシフトさせていくと、繊維束はあたかも螺旋状に軌跡を描くように割付治具に通糸されて金型内へ引き込まれるようになる。
【0018】
このとき、通糸する繊維束が螺旋状を描くようにするためには、割付治具は、少なくとも3つ用いられ、好ましくは4〜8つ用いて、割付治具を通過するごとに所定の角度がつくように位置をシフトしていき、最初の割付治具から最後の割付治具まで繊維束が通過すると丁度一回転の螺旋状の軌跡を描くようにすることが好ましい。なお、このとき一回転に満たない場合でも、その延長した軌跡が螺旋状であれば、本明細書における螺旋状に含まれる。
【0019】
また、本明細書における螺旋状とは、複数の割付治具の中心を通過する中心軸に対して、その周囲を同方向にねじれながら回転するようにガイドされた繊維束の状態を含む広い意味である。繊維束を螺旋状に導くために、割付治具のガイド孔を螺旋の軌跡上に乗るように配置することが好ましく、さらに割付治具を等間隔で配置したものが最適である。
【0020】
割付治具を等間隔としたとき、繊維束が通糸されるガイド孔が螺旋の軌跡上に乗るには、一つのガイド孔から次のガイド孔へ、同一方向に同角度回転するように全ての割付治具を配置すればよく、このとき、ガイド孔から繊維束が受ける圧力がほぼ等しくなるので、繊維束の均一化についても好ましい結果が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の引抜成形品の製造方法によれば、反りねじれが少なく、耐振れ性に優れた引抜成形品を製造することができ、例えば、搬送用シャフトとして用いたときに極めて信頼性の高い製品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の引抜成形品の製造方法に用いる引抜成形品の製造装置を示した概略構成図である。
【図2】図1の引抜成形品の製造装置における、繊維束の割付治具への通糸方法の一例を示した図である。
【図3】図1に示した金型6の側断面図である。
【図4】図3に示した金型の内子治具62の側面図である。
【図5】図4に示した金型の内子治具62の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における引抜成形品の製造方法は、図1に示した引抜成形品の製造装置により実施され、反り、ねじれが少なく、耐振れ性に優れた引抜成形品を製造することができる。
【0024】
図1は、引抜成形品の製造装置の概略構成図を示したものであり、この引抜成形品の製造装置1は、ボビン2と、ガイドロール3と、レジン浴4と、割付治具5(5a〜5d)と、金型6と、ベルトコンベア7とから構成されている。
【0025】
ボビン2は、回転して繊維束を供給する。巻きだされた複数本の繊維束は、ガイドロール3を通ってレジン浴4中のレジンに浸漬され、熱硬化性樹脂組成物が含浸付着される。
【0026】
熱硬化性樹脂組成物を付着した繊維束は、割付治具5に導かれて金型6内へ引き込まれ、金型6で硬化した成形品をベルトコンベア7により引き抜いて引抜成形品を得る。このとき、割付治具5は、その中心から等距離となる円周上に等間隔に複数個のガイド孔を有するものであり、この割付治具5を介することで金型に繊維束を均等に引き入れるようにすることができる。このようにすると引抜成形品中における繊維束は均等に割り振られることになり、反り、ねじれの少ない搬送用シャフトに適した引抜成形品が得られる。
【0027】
割付治具を用いて金型に繊維束を引き入れること自体は従来から行われていたものであって、何ら新規なものではないが、単に、均等に割り振っただけでは、ボビンから供給される繊維束が十分に開繊されず、この場合、繊維束が特定方向に扁平化していることによる不均一さが、得られる搬送用シャフトの振れを抑制することができない最大の原因であった。
【0028】
そこで、本発明においては、この割付治具5を複数枚用い、それぞれの割付治具により、繊維束が割付治具5のガイド孔を通過する際に割付治具のガイド孔の側面に押しつけられるようにすることで、金型に引き入れる前の繊維束が開繊、均一化されるように通糸するものである。
【0029】
押しつける具体的方法としては、割付治具5のガイド孔に各繊維束を所定の角度をなして通糸するようにすればよく、より具体的には、割付治具5のガイド孔へ引き入れる繊維束の走行路と、ガイド孔から引き出される繊維束との走行路と、のなす角を、所定の角度以上となるようにする方法が挙げられる。このときなす角は、例えば、15°以上とすることができ、25°以上であることが好ましく、45°以上であることがより好ましい。
【0030】
また、このとき、引き入れる繊維束がガイド孔の軸に対しても、所定の角度以上となるように斜めから引き入れられることが好ましい。このガイド孔の軸に対する繊維束の角度は、10°以上とすることが好ましく、20°以上であることがより好ましい。
【0031】
このような構成とすることで、繊維束は割付治具5のガイド孔の側面に押しつけられながら通過し、このときに、繊維束は側面から受ける圧力によって開繊又は均一化されるのである。
【0032】
次に、本発明の引抜成形品の製造における通糸方法について、割付治具の配置と、繊維束の走行路を示した図2を参照しながら、より具体的に説明する。
【0033】
図2は、4枚の割付治具を用いた例であり、繊維束がどのような軌跡を描いて走行しているかを説明するため一本の繊維束のみ表示するようにしている。ここで、図2(a)は割付治具5に通糸した状態を斜めから見たもの、図2(b)は割付治具5を、割付治具5a側から見た透視図である。
【0034】
実際に使用する割付治具は、中心から等距離となるように円周上に等間隔に複数個のガイド孔を設けている。図2では一列しか設けていないが、これを複数列設けても良く、その場合1〜3列であることが好ましい。図2に示すように、1つの繊維束が第1の割付治具5aのガイド孔(0時の位置)を通過し、次に、第2の割付治具5bの時計回りにシフトした位置のガイド孔(3時の位置)を通過し、その後、順次時計回りにシフトしたガイド孔を通過するようにして(割付治具5cでは6時の位置、割付治具5dでは9時の位置)、ガイド孔を通過させる。
【0035】
このようにガイド孔の通過位置を、その直前に通過した割付治具のガイド孔に対応する位置とは異なる位置へシフトさせることによって、炭素繊維束は螺旋状に走行する螺旋状走行路が形成され、最終的に金型6内に引き入れられる。
【0036】
このとき、使用する割付治具の枚数は、シャフト径と繊維束を構成するフィラメント数によって決まるが、3枚以上が好ましく、4枚以上であることがより好ましい。これは反時計回りに行っても同一の効果を得ることができる。
【0037】
この割付治具5は、その厚さが5〜10mmであることが好ましく、材質は繊維束を安定して割付できるものであれば、特に限定されるものではない。また、割付治具5に形成されるガイド孔は、繊維束を構成するフィラメント数によって決まるものではあるが、直径が1〜10mm程度であることが好ましい。この直径が1mmより小さいと作業性が悪くなり、10mmより大きいと繊維束の開繊効果が限定されてしまうため好ましくない。さらに、ボビン側から金型側にかけて徐々に小さくなるように傾斜を設けてガイド孔を形成すると、余分な樹脂を除去し易くなりフィラメントの均一性が向上するため、好ましいものである。
【0038】
また、本発明に使用する繊維束は、引抜成形品の強度を高めることが可能な繊維基材であれば特に限定されるものではないが、長尺の搬送用シャフト製品であって、耐振れ性に加えて、耐撓み性が要求される用途には炭素繊維であることが好ましい。炭素繊維を用いると軽量化にも効果的である。
【0039】
炭素繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられ、PAN系炭素繊維では、東邦テナックス株式会社製のベストファイトHTAシリーズ(商品名)や三菱レイヨン株式会社製のパイロフィル(商品名)、ピッチ系炭素繊維では、日本グラファイト工業株式会社製のGRANOCヤーンのYSH−Aシリーズ、YS−Aシリーズ、XNシリーズ(商品名)や三菱化学産資株式会社製のダイヤリード(商品名)から選択されたものが好適に使用することができる。
【0040】
この繊維基材としては、複数種を混合して用いてもよく、特に高弾性率を特徴とする炭素繊維と高強度を特徴とする炭素繊維との混合物は耐荷重撓み特性も良好で、好ましく使用することができる。また、内側にガラス繊維、外周側に炭素繊維を組み合わせて使用した製品は全て炭素繊維を用いた場合に比べて低コストで製造することができる。
【0041】
この繊維束の含有量は、成形品中の繊維基材の平均質量含有率(質量比率)で、50〜80%とすることが好ましい。50%未満であると成形品の剛性が乏しくなってしまい、80%を越えると繊維強化材に樹脂組成物が含浸していない部分ができ、引抜成形品の物性低下を引き起こしてしまう。
【0042】
引抜成形用の熱硬化性樹脂組成物と繊維束との混合は、繊維束に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、樹脂組成物が繊維束に付着した状態とすることが好ましい。繊維束が引抜成形時の引抜力に耐え得ることが必要であるので、繊維束の構成を、繊維束のロービングを引抜方向に配向させて使用することが好ましい。
【0043】
そして、ここで用いる引抜成形品の製造方法においては、上記した繊維の複数本、例えば100〜500本の繊維糸を収束して得られた繊維束に熱硬化性樹脂組成物ワニスに含浸させ、この繊維強化樹脂組成物を、加熱金型内を通すことによって熱硬化性樹脂組成物を硬化させ、金型形状により外形を整えて引抜き、成形品を形成するものであり、この引抜成形においては、用いる樹脂組成物に応じて、加熱温度及び引抜速度を適宜選択して行うことができる。
【0044】
ここで用いる炭素繊維は、表面にシランカップリング剤によりサイジング処理を行い、耐薬品性を維持するようにすることが好ましく、このサイジング処理を行うサイジング剤としては、アルカリ成分との反応性が低く、マトリックス樹脂に対するぬれ性が良い薬剤が挙げられ、具体的には、メタクリルシランやウレイドシラン等のシランカップリング剤又はそれらの混合品であることが好ましい。
【0045】
次に、本発明に用いる熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂をベース樹脂として用いることができ、ビニルエステル樹脂であることが好ましい。
【0046】
この熱硬化性樹脂組成物としては、例えば、(A)ビニルエステル樹脂と、(B)架橋剤と、(C)低収縮剤と、(D)無機充填材と、(E)離型剤と、(F)有機過酸化物とを必須成分として含有するものが好ましい。
【0047】
本発明に用いる(A)ビニルエステル樹脂は、成形材料として一般に使用されているものであれば特に限定されずに使用することができ、例えば、D−953(大日本インキ工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。このような(A)ビニルエステル樹脂は、(a)酸性分と(b)エポキシ樹脂成分を反応させて得られるものである。
【0048】
ここで(a)酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸等の不飽和一塩基酸が挙げられ、さらに必要に応じてフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸等の二塩基酸を2種類以上混合して使用することもできる。
【0049】
また、(b)エポキシ樹脂成分としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子構造、分子量等に制限されることなく広く用いることができ、具体的には、ビスフェノール型、ノボラック型、ビフェニル型の芳香族基を有するエポキシ樹脂、ポリカルポン酸がグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂、シクロヘキサン誘導体にエポキシ基が縮合した脂環式の基を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独又は2種類以上を混合して使用することができる。さらに、エポキシ樹脂成分としては、これらの他に必要に応じて液状のモノエポキシ樹脂を併用成分として使用することができる。
【0050】
この(A)ビニルエステル樹脂の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に70〜85質量%の範囲であることが好ましい。
【0051】
本発明に用いる(B)架橋剤としては、(A)ビニルエステル樹脂と重合可能な二重結合を有するものであれば使用可能であり、例えば、スチレンモノマー、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートモノマー、メタクリル酸メチル、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。この(B)架橋剤の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に1〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0052】
本発明に用いる(C)低収縮材としては、熱可塑性樹脂であるポリエチレン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ゴム、ポリエチレン等が使用可能であるが、耐薬品性、軽量性、低収縮性の観点からポリエチレン樹脂であることが好ましい。このうちガラス転移点が70〜120℃のポリエチレン樹脂粉末が耐薬品性及び成形収縮率の向上のために特に好ましい。この(C)低収縮材の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に0.5〜1.5質量%の範囲であることが好ましい。
【0053】
本発明に用いる(D)無機充填材としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、ガラスバルーン等の通常用いられているものが挙げられ、特に限定されるものではない。この(D)無機充填材の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に10〜20質量%の範囲であることが好ましい。
【0054】
本発明に用いる(E)離型剤は、成形材料として通常使用される離型剤であればよく、例えば、市販のシリコーンオイルが挙げられ、中でもエポキシ変性シリコーンオイルが好ましい。この(E)離型剤の配合量は熱硬化性樹脂組成物中に0.01〜2質量%であることが好ましい。
【0055】
本発明に用いる(F)有機過酸化物としては、ビニルエステル樹脂の硬化剤として通常用いられる化合物であれば、特に限定されるものではなく、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化イソブチリル等が挙げられる。この(F)有機過酸化物の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に0.1〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0056】
これによって、硬化樹脂組成物を効率的に硬化させることができ、操作性良く成形することができる。このようにして得られた成形品は、低収縮剤を混合することにより、体積収縮が小さく、反り、ねじれ等の物性及び外観にも優れた成形品とすることができる。
【0057】
このビニルエステル樹脂組成物において、低収縮材としてポリエチレンを使用すると、耐薬品性、軽量性及び寸法安定性を満足し、サポート製品としての長期信頼性を満足することができ、低コストで引抜成形品を製造することができる。これは不飽和ポリエステル樹脂をベース樹脂とした場合にも同様のことがいえる。
【0058】
次に、本発明に用いる金型6は、従来用いられている引抜成形に用いられているものであれば特に限定されずに用いることができるものである。このとき、搬送用シャフトに適した引抜成形品を得るためには、図3〜5に示したような成形品の外形を形成する外型61と、冷却媒体が通過可能な中空部分を有する中子治具62とからなる金型であることが好ましいものである。
【0059】
そして、中子治具62は、中子治具本体62aの中空部分に冷却媒体を通過させることによって、加熱された中子治具62の温度を下げ、外型61と温度差を設けて成形品を製造することにより、均等肉厚で高真円度、反りねじれが少なく、軽量性、成形収縮率に優れた引抜成形品を得られるものである。
【0060】
この製造方法において用いる中子治具62は、例えば、中芯となる部分をパイプ状として中空部分が形成された中子を有しており、この中芯部分に、リード64と接続されたヒータ63が挿入できる構造となっている。また、中子治具本体62aには、これとは別に、中子治具62全体を冷却するために、冷却媒体を通過させる中空部分が形成されており、例えば、冷却媒体導入部62bから冷却媒体を引き入れ、この中空部分を通過させながら中子治具本体62aを冷却し、冷却媒体排出部62cより冷却媒体を排出し、これを連続的に行うことで、中芯を含め中子治具62の全体として冷却し、外型61との温度差を生じさせることができるようになっている。なお、このとき、冷却媒体は、中子治具本体62aの中空部分を通過しながら、一旦冷却媒体移送手段62cにより、中子治具本体62aの外部に出て、再度、中子治具本体62aの別の中空部分に引き入れられて、冷却媒体排出部62cへ導かれるようにしても良い。このようにした場合には、冷却媒体移送手段62cにおいて、温められた冷却媒体を再度冷却して、冷却効率を向上させるようにしても良い。このようにすれば中芯の温度を外型61よりも効率的に低温とすることができる。
【0061】
本発明における金型6は、樹脂の硬化により引抜成形品を得るためにヒータ等で加熱制御されている。ここで金型の温度は、70〜170℃であることが好ましい。金型温度が70℃未満であると、繊維強化樹脂組成物が未硬化の状態で引き抜かれやすくなってしまい、170℃を超えると、硬化反応が急激に起こるため成形品にクラックや反りの不良を生じさせる可能性が高くなってしまう。
【0062】
ここで、引抜速度は10〜120cm/分の範囲であることが好ましく、引抜速度が10cm/分未満であると、成形金型中での硬化が早い時点で完了してしまい、引き抜く際の抵抗が大きくなり安定的に連続成形できなくなってしまい、一方、引抜速度が120cm/分を超えると、繊維強化樹脂組成物が未硬化の状態で引き抜かれ易くなってしまう。したがって、引抜時間(金型中を通過する時間)は0.5〜3.0分の範囲内となるようにすることが好ましい。
【0063】
本発明の引抜成形では、繊維強化樹脂組成物を、加熱された金型内に連続的に引き込み、金型内通過中に樹脂を所定の温度に付して硬化させると共に、金型出口から所定の時間で引き抜くものである。この引抜成形方法で用いられる装置は、通常用いられている引抜成形装置であれば、特に限定されずに使用することができる。
【0064】
また、ピッチ系炭素繊維のフィラメントを搬送用シャフトの外周に均一に配置することにより、反りやねじれの少ない搬送用シャフトを得ることができる。炭素繊維を搬送用シャフトの外周に均一に配置するには加熱金型の手前に、割付のための孔を放射状に開けた割付治具を設置することが効果的である。ガイド孔は繊維方向に沿って傾きをつけると、繊維の断裂防止にも効果がある。
【0065】
さらに、割付治具のもう一つの効果は、炭素繊維に含浸された余分な樹脂を除去することを可能とするものであり、これにより加熱金型入口での炭素繊維の蛇行を防止し、ねじれの少ない搬送用シャフトが得られる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ここで、以下に示す実施例及び比較例では、図1の引抜成形品の製造装置を用いて引抜成形を行ったものである。
【0067】
(実施例1)
熱硬化性樹脂成分として、ビニルエステル樹脂(大日本インキ工業株式会社製、商品名:UE3505) 22質量部、スチレンモノマー(日本ユピカ株式会社製、商品名:スチレンモノマー) 0.35質量部、ポリエチレン(住友精化株式会社製、商品名:フローセンUF−1.5) 0.25質量部、硫酸バリウム(堺化学工業株式会社製、商品名:沈降性硫酸バリウム−100) 3.7質量部、有機過酸化物1(日本油脂株式会社製、商品名:パーブチルO) 0.06質量部、有機過酸化物2(日本油脂株式会社製、商品名:パーヘキサHC) 0.35質量部、離型材(小桜商会株式会社製、商品名:INT−1850HT〔有機酸、グリセリド、合成樹脂縮合体〕) 0.35質量部を混練機(ディスパー)にいれ、約20分間混練し、熱硬化性樹脂成形材料を得た。
【0068】
繊維基材として炭素繊維束 HTA−W24K(東邦テナックス株式会社製、商品名;フィラメント収束数 24000本)を96本用意し、これを上記で得られた熱硬化性樹脂成形材料の入った樹脂槽に含浸させた。
【0069】
この樹脂成形材料を含浸させた炭素繊維を、中心から50mm離れた円周上に等間隔に孔径5mmで16個のガイド孔を設けた割付治具4枚を各々100mmの間隔で並べて、図2に示したのと同様に、炭素繊維束が時計回りに90°ずつ回転しながら螺旋状の走行路を形成するように、順番に樹脂成形材料の含浸した炭素繊維束を6本ずつ通して、金型内に引き入れて、連続的に160℃に加熱し、中子付き金型(長さ:800mm、内径20mm)に送り込み十分に硬化させ、20cm/分の速度で引抜いて直径20mmの円柱状の中空引抜成形品を連続的に得て、これを切断装置で1600mmの長さに切断し、炭素繊維の質量比率が70%の引抜成形品を得た。中子治具(長さ:500mm、外形:15mm、設定温度:140℃)は、金型の10cm手前から炭素繊維に接触するように設置した。
【0070】
得られた引抜成形品のVブロック(スパン1500mm)に載せ、中央部にダイヤルゲージをあてて、製品を回転させたときの振れを測定し、その結果を表1に示した。
【0071】
(比較例1)
孔径5mmで縦方向5本×横方向5本の合計25個のガイド孔を設けた割付治具を1枚用意し、この割付治具を実施例1の割付治具5(5a〜5d)に代えて配置したこと、このガイド孔に炭素繊維束を4本ずつ通したこと以外は、実施例1と同様の操作により、引抜成形品を製造した。
【0072】
【表1】

この結果から、本発明の搬送用シャフトの製造方法は、シャフトの振れの低減に効果的であることがわかった。
【符号の説明】
【0073】
1…引抜成形品の製造装置、2…ボビン、3…ガイドロール、4…レジン浴、5(5a〜5d)…割付治具、6…金型、7…ベルトコンベア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の繊維束に熱硬化性樹脂組成物を含浸させた後、前記各繊維束を、複数個のガイド孔を有する割付治具の前記ガイド孔にそれぞれ通して金型に案内し、該金型を通過させながら硬化させる引抜成形品の製造方法であって、
前記割付治具を、前記繊維束の通路に沿って所定の間隔をおいて複数枚配置し、それぞれの前記各割付治具のガイド孔の側面に押しつけられるように、前記各繊維束を所定の角度をなして通糸させることを特徴とする引抜成形品の製造方法。
【請求項2】
複数本の繊維束に熱硬化性樹脂組成物を含浸させた後、前記各繊維束を、円周上にほぼ等間隔で形成された複数個のガイド孔を有する割付治具の前記ガイド孔にそれぞれ通して金型に案内し、該金型を通過させながら硬化させる引抜成形品の製造方法であって、
前記割付治具を、前記繊維束の通路に沿って所定の間隔をおいて複数枚配置するとともに、前記各繊維束を、一つの割付治具のガイド孔から次の割付治具のガイド孔へ通糸する際、各繊維束の通路が螺旋状をなすよう、同一の回転方向にずらしたガイド孔に通糸させることを特徴とする引抜成形品の製造方法。
【請求項3】
前記各割付治具が等間隔に配置されており、前記各繊維束を、一つの割付治具のガイド孔から次の割付治具のガイド孔へ通糸する際、同一の回転方向に同一角度ずらしたガイド孔に通糸させることを特徴とする請求項2記載の引抜成形品の製造方法。
【請求項4】
前記金型が、成形品の外形を形成する外型と、冷却媒体を通過可能な中空部分を有する中子治具と、からなり、前記中子治具を前記外型よりも低温にして成形を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の引抜成形品の製造方法。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂組成物が、(A)ビニルエステル樹脂と、(B)架橋剤と、(C)低収縮剤と、(D)無機充填材と、(E)離型剤と、(F)有機過酸化物と、を必須成分とし、前記(C)低収縮剤が、70〜120℃のガラス転移点を有するポリエチレンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の引抜成形品の製造方法。
【請求項6】
前記繊維束が、炭素繊維であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の引抜成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−253733(P2010−253733A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104409(P2009−104409)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】