説明

弾性舗装体の再生処理方法

【課題】ウレタンバインダーを用いた弾性舗装体の容易なリサイクルを可能にする弾性舗装体の再生処理方法を提供する。
【解決手段】ゴムと、骨材と、ウレタンバインダーとを含有する弾性舗装体の再生処理方法である。弾性舗装体に対し、シュードザイマ属(Pseudozyma sp.)に属する酵母であるBS−UE5株(FERM P−20243)を添加して、ウレタンバインダーの微生物分解を行う分解工程を含む。分解工程は、少なくとも60日間行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性舗装体の再生処理方法(以下、単に「再生処理方法」とも称する)に関し、詳しくは、バインダーとしてウレタン樹脂を用いた弾性舗装体の再生処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、交通騒音の低減を図るための低騒音舗装として、大粒径の骨材を用いて舗装内部に空隙を設けた、多孔質の排水性舗装が存在する。また、加硫ゴムを粉末またはチップ状にして利用し、ウレタンやエポキシ等の硬化性樹脂をバインダーとして使用した低騒音弾性舗装が知られている。
【0003】
このうちゴムチップを用いた弾性舗装は、ゴムチップの有する弾力性により歩行時の衝撃吸収性や転倒時の安全性といった優れた効果を奏するとともに、内部に空隙を有することから、排水性および通気性に加えて吸音性にも優れ、そのためタイヤと路面内で発生する騒音の低減にも有効であるため、都市部での交通騒音低減のための機能性弾性舗装材として注目されている。
【0004】
中でも、ウレタンバインダーを用いた弾性舗装材料に関しては、例えば、特許文献1に、マテリアルリサイクル推進を目的とする技術として、熱硬化性樹脂成形物の破砕物とゴムチップとを所定の混合比率で混合し、ウレタン樹脂をバインダーとしてブロック状または板状に成形してなる舗装材が提案されている。また、特許文献2には、ゴム、プラスチック等の軽量の廃棄物を適宜サイズに粉砕したものを骨材とし、この骨材とウレタン樹脂等のバインダーを混合してなる組成物を硬化して作製した舗装ブロックが開示されている。
【特許文献1】特開2002−322602号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2000−34702号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、熱硬化性樹脂であるウレタンバインダーを用いた弾性舗装は、施工した舗装をリサイクルする場合に、アスファルトなどのように加熱等により再利用を図ることができないという問題があった。すなわち、舗装分野においては、ほとんどの舗装を再生骨材として再度舗装に戻すことが可能であるが、かかるウレタンを用いた弾性舗装については2次リサイクルができないことが大きな問題となっていた。
【0006】
そこで本発明の目的は、ウレタンバインダーを用いた弾性舗装体の容易なリサイクルを可能にする弾性舗装体の再生処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、ウレタンバインダーを用いた弾性舗装体を、ウレタンを分解する作用を有する菌を用いて処理することで、かかる弾性舗装体のリサイクルを容易にすることができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の弾性舗装体の再生処理方法は、ゴムと、骨材と、ウレタンバインダーとを含有する弾性舗装体の処理方法であって、弾性舗装体に対し、シュードザイマ属(Pseudozyma sp.)に属する酵母であるBS−UE5株(FERM P−20243)を添加して、前記ウレタンバインダーの微生物分解を行う分解工程を含むことを特徴とするものである。
【0009】
本発明は、前記ウレタンバインダーとしてエステル系ウレタンバインダーを用いた場合に特に好適であり、前記分解工程は、好適には、少なくとも60日間行う。また、本発明においては、前記分解工程後に、得られた弾性舗装体を破砕する粉砕工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記構成としたことにより、従来はリサイクルが困難であったウレタンバインダーを用いた弾性舗装体を、リサイクル容易な状態にすることができる弾性舗装体の再生処理方法を実現することが可能となった。かかる再生処理方法により処理された弾性舗装体は、軽量土や透水材などとして土木分野に適用できる他、弾性舗装体の再生骨材として好適に用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明の弾性舗装体の再生処理方法は、ゴムと、骨材と、ウレタンバインダーとを含有する弾性舗装体に適用されるものであり、弾性舗装体に対し特定の菌を添加することにより、弾性舗装体中のウレタンバインダーの微生物分解を行う分解工程を含む点に特徴を有する。
【0012】
かかる分解工程により弾性舗装体からはバインダー成分が失われるため、ゴムや骨材間の結合が弱くなる。そのため、分解工程後に、得られた弾性舗装体を破砕機等により破砕して、容易に所望の寸法に小径化し、リサイクルに供することが可能となる。かかる処理後の弾性舗装体の用途としては、土木分野への適用(軽量土、透水材等)の他、弾性舗装体の再生骨材などが挙げられ、これら用途にもよるが、例えば、平均粒径1〜7mm程度に破砕した状態で好適に使用することができる。
【0013】
本発明に用いるウレタンバインダーを分解可能な菌としては、シュードザイマ属(Pseudozyma sp.)に属する酵母であるBS−UE5株(FERM P−20243)を用いる。このBS−UE5株はポリウレタンを唯一の炭素源として分解可能な菌であり、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、FERM P−20243株として2004年10月8日に寄託されている。BS−UE5株は、無機塩の液体培養地中でポリウレタンを資化しながら増殖し、無機塩としては窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどを含むものが挙げられる。
【0014】
菌株の同定は、BS−UE5株が酵母であるため、28SrDNA D1/D2領域の遺伝子の比較に基づいて行った。以下に、その方法を詳述する。
菌株をPotato Dextrose Agar(PDA)培地(Becton Dickinson MD,USA)に植菌し、25℃で7日間培養し、Fast prep FP120(Qbiogene Illkirch Cedex,France)Fast DNA kit(Qbiogene Illkirch Cedex,France)を用いてゲノム分離を行った。このゲノムをテンプレートとして、282rDNAフラグメントのPCR増幅を行った。PCR増幅は、下記のNL1およびNL4(O’Donnell,1993)を用いて行った。
PCRプライマー 方向性 塩基配列
NL1 Forward 5’-GCATATCAATAAGCGGAGGAAAAG-3’
NL4 Reverse 5’-GGTCCGTGTTTCAAGACGG-3’
【0015】
得られたDNAフラグメントをQIAquick PCR Purification KiL(QIAGEN Hilden,Germany)を用いて精製し、サイクルシーケンス反応に供した。サイクルシーケンス反応はABI PRISM Big Dye Terminator Kit(Applied Biosystems,CA,USA)と下記のNL1、NL2、NL3、NL4(O’Donnell,1993)を用いて行った。
シーケンスプライマー 方向性 塩基配列
NL1 Forward 5’-GCATATCAATAAGCGGAGGAAAAG-3’
NL2 Forward 5’-CTCTCTTTTCAAAGTTCTTTTCATCT-3’
NL3 Reverse 5’-AGATGAAAAGAACTTTGAAAAGAGAG-3’
NL4 Reverse 5’-GGTCCGTGTTTCAAGACGG-3’
【0016】
反応生成物 DyeEx2.0 Spin Kit(QIAGEN,Hilden,Germany)を用いて精製し、塩基配列の解読を行い、Auto Asseembler(Applied Biosystems,CA,USA)を用いて各シーケンス断片を結合し、目的塩基配列を得た。類似の塩基配列を国際DNAデータベースから解析するため、BLASTによる相同性検索を行い、BS−UE5株をPseudozyma sp.と同定した。
【0017】
本発明の再生処理方法においては、上記BS−UE5株を用いて弾性舗装体中のウレタンバインダーの分解を行う点のみが重要であり、それ以外の具体的処理条件等については特に制限されるものはない。
【0018】
本発明を適用し得る弾性舗装体は、少なくともゴムと、骨材と、ウレタンバインダーとを含有するものであり、ゴム、骨材およびその他の添加剤については、いかなるものが含まれていてもよく、本発明においては特に制限されない。ウレタンバインダーとして用いるポリウレタンとしてはエステル系およびエーテル系のものがあるが、本発明に係る上記BS−UE5株は、特にエステル系のウレタンバインダーの分解効率に優れる。エステル系のポリウレタンの具体例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、ノルボルネン・ジイソシアネート(NBDI)などのイソシアネートとポリジエチレンアジペートなどのアジペート系ポリオールの付加重合物が挙げられる。
【0019】
また、上記BS−UE5株によるウレタンバインダーの微生物分解は、少なくとも60日間、特には100〜400日程度行うことが好ましい。この期間が短すぎるとウレタンバインダーの分解が不十分で、その後のリサイクル処理をスムーズに行いにくくなる。一方、あまり長期間行っても、それ以上の効果は得られない。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
(実施例)
ゴム(粒径2〜5mm)と、骨材としての混合珪砂(平均粒径1mm)と、ウレタンバインダーとを、これらの体積比45:15:20に対し空隙率20となるよう混合し、混合機中に投入して、常温で5分間攪拌し、これを型枠に充填して2〜3日養生することにより、弾性舗装体サンプルを作製した。ウレタンバインダーとしては、主剤RB−08および硬化剤Hex−2(いずれも日本ポリウレタン工業(株)製)を、重量比95/5で配合して用いた。
【0021】
シリコーン栓付ガラス容器内に下記表1に示す組成の培地を準備して、上記サンプルを50mm角に切って投入し、オートクレーブ内で90℃で滅菌処理した。その後、上記ウレタンバインダーと同様のポリウレタンを唯一の炭素源として前培養したBS−UE5株の菌液を加え、1年間30℃50rpmで振とう培養した。
【0022】
【表1】

【0023】
培養後、121℃でオートクレーブ滅菌して、サンプルを取り出した。取り出したサンプルをアセトンで数回洗浄後、純水で数回洗浄し、十分に乾燥した。
【0024】
(比較例)
比較例としては、実施例と同様にして作製した新しい弾性舗装体サンプルを用いた。
【0025】
実施例および比較例の各サンプルを破砕機で破砕して、破砕のしやすさを比較した。その結果、実施例のサンプルは容易に破砕されたのに対し、比較例のサンプルは、破砕機による破砕が困難であった。
【0026】
次いで、実施例のサンプルを1〜5mm程度に破砕して、これを再生骨材として用いることにより、新たな弾性舗装体サンプルの作製を試みた。新規ゴム(平均粒径2〜5mm)/骨材(混合珪砂,平均粒径1mm)/ウレタンバインダー(主剤RB−08/硬化剤Hex−2(いずれも日本ポリウレタン工業(株)製)=(重量比)95/5)/再生骨材/空隙=35/10/20/15/20(体積比)にて前述と同様に弾性舗装体サンプルの作製を試みたところ、作業性等の問題なく、サンプルを作製することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムと、骨材と、ウレタンバインダーとを含有する弾性舗装体の再生処理方法であって、弾性舗装体に対し、シュードザイマ属(Pseudozyma sp.)に属する酵母であるBS−UE5株(FERM P−20243)を添加して、前記ウレタンバインダーの微生物分解を行う分解工程を含むことを特徴とする弾性舗装体の再生処理方法。
【請求項2】
前記ウレタンバインダーがエステル系ウレタンバインダーである請求項1記載の再生処理方法。
【請求項3】
前記分解工程を、少なくとも60日間行う請求項1または2記載の再生処理方法。
【請求項4】
前記分解工程後に、得られた弾性舗装体を破砕する粉砕工程を含む請求項1〜3のうちいずれか一項記載の再生処理方法。

【公開番号】特開2008−732(P2008−732A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175432(P2006−175432)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】