形状計測装置および形状計測方法
【課題】1つのカメラの視野に入らない計測対象物の裏側の形状まで精度良く計測する装置および方法を提供する。
【解決手段】計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影部と、計測対象物の周囲に配置された少なくとも1つの鏡と、計測対象物および鏡に映る計測対象物の鏡像の画像を撮影する少なくとも1つの撮影部と、計測対象物の画像と鏡像の画像の各々に対して位相解析処理を施して計測対象物の形状を算出するとともに撮影された前記計測対象物の画像と前記鏡像の画像とを合成する解析処理部とを備え、撮影部の各々は、計測対象物の少なくとも一部の領域と該少なくとも一部の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されていることを特徴とする。
【解決手段】計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影部と、計測対象物の周囲に配置された少なくとも1つの鏡と、計測対象物および鏡に映る計測対象物の鏡像の画像を撮影する少なくとも1つの撮影部と、計測対象物の画像と鏡像の画像の各々に対して位相解析処理を施して計測対象物の形状を算出するとともに撮影された前記計測対象物の画像と前記鏡像の画像とを合成する解析処理部とを備え、撮影部の各々は、計測対象物の少なくとも一部の領域と該少なくとも一部の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測対象物の形状を計測する装置および方法に関するものであり、特に、計測対象物の裏側の形状まで精度良く計測する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
格子投影法による非接触形状計測装置、干渉縞解析による非接触応力・ひずみ計測装置や、ディジタルホログラフィによる変位計測装置等では、計測条件を変えて得られた複数の縞画像計測データを合成することによって、より良好な結果を得ることが期待される。
【0003】
しかしながら、従来の縞画像解析方法では、例えば計測条件を変えて得られた複数の縞画像計測データを合成する際に、これらのデータの平均値を結果としていたため、ノイズがある場所では大きな誤差が生じるといった問題や、精度よく計測できた点とノイズがある場所との判断を画素毎に行うことができないといった問題があった。
【0004】
この問題を解決する従来の技術として、特許文献1には、解析する領域を複数の領域にグループ分けして処理を行い、相互の境界部を計算して合成を行う方法が開示されている。しかし、この従来の解析方法では、画素毎に合成することができないという問題があった。
【0005】
単にデータを平均するだけでなく、画素毎に評価値を決定して評価値が高いデータを採用することで良好な結果を得ることが可能になると思われる。画像を評価する従来技術
として、特許文献2には、画像断面の濃淡分布を空間周波数に対する人間の目の感度を表す特性の帯域フィルタに通過させ、その帯域フィルタの出力の濃淡分布から画像品質を表す評価値を算出する方法が開示されている。この従来の画像評価方法では、ディジタル画像の画像品質を評価値で評価し表示できるといった特徴がある。しかし、この従来の画像評価方法は、カメラで撮影したディジタル画像の画像品質の評価にしか用いることが出来ず、縞画像計測において解析した位相データを評価することはできないという問題があった。
【0006】
そこで、特許文献3には、位相シフトされた複数の縞画像データの各々を位相解析して複数の位相分布データを得た後に、複数の位相分布データの各々に関して関連する縞画像データから画素毎に評価値を決定し、複数の位相分布データを画素毎に対応する評価値の高いものを選択することによって精度良く合成することができる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−241930 号明細書
【特許文献2】特開平07−325922号明細書
【特許文献3】特許第3837565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、計測対象物の全表面の形状を測定する要求が存在する。即ち、計測対象物の一部のみではなく、計測対象物の全周囲の形状を計測することが望まれている。
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、計測対象物を一方向から撮影するため、カメラの視野に入らない計測対象物の裏側について形状を測定することができない点に課題を残していた。
【0009】
そこで、本発明の目的は、1つのカメラの視野に入らない計測対象物の裏側の形状まで精度良く計測する装置および形状計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題を解決する手段について鋭意検討した結果、計測対象物の周囲に鏡を配置し、カメラを、計測対象物の画像と鏡に映された鏡像の画像とを同時に撮影可能に配置して、計測対象物および鏡に映された鏡像を撮影することが有効であることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0011】
即ち、本発明の形状計測装置は、計測対象物の形状を計測する装置であって、前記計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影部と、前記計測対象物の周囲に配置された少なくとも1つの鏡と、前記計測対象物および前記鏡に映る前記計測対象物の鏡像を撮影する少なくとも1つの撮影部と、撮影された前記計測対象物および前記鏡像の画像の各々に対して位相解析処理を施して前記計測対象物の形状を算出するとともに撮影された前記計測対象物の画像と前記鏡像の画像とを合成する解析処理部とを備え、前記撮影部の各々は、前記計測対象物の少なくとも一部の領域と該少なくとも一部の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の形状計測装置は、計測対象物の形状を計測する装置であって、前記計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影部と、前記計測対象物の周囲に配置された少なくとも1つの鏡と、前記計測対象物および前記鏡に映る前記計測対象物の鏡像を撮影する少なくとも1つの撮影部とを備え、前記撮影部の各々は、前記計測対象物の少なくとも一部の領域と該少なくとも一部の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されていることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の形状計測装置において、前記鏡の各々に対して迷光防止壁を設けることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の形状計測装置において、2つの鏡と2つの撮影部とを備えることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の形状計測装置において、2つの鏡と1つの撮影部とを備えることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の形状計測方法は、周囲に少なくとも1枚の鏡が配置された計測対象物の形状を計測する方法であって、前記計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影ステップと、前記計測対象物と前記鏡に映る前記計測対象物の鏡像とを同時に撮影する画像撮影ステップと、前記格子模様を所定の大きさだけシフトさせる位相シフトステップと、
撮影された前記実像および前記鏡像の画像の各々に対して位相解析処理を施して前記計測対象物の形状を算出する形状算出ステップとを含み、該形状算出ステップは、前記画像撮影ステップと、前記位相シフトステップとを所定の回数だけ繰り返した後に行うことを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の形状計測方法において、前記位相解析処理は、全空間テーブル化手法に基づいて位相値と空間座標とを関連づけるテーブルを予め画素毎に作成しておき、該テーブルを参照して、位相シフト法により求められた各画素の位相値から空間座標を求めることにより行うことを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の形状計測方法において、撮影された画像の周波数成分の比に応じた評価値に基づいて、前記計測対象物の画像と前記鏡像の画像とを一枚の画像に合成する合成処理ステップを更に含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、計測対象物の周囲に鏡を配置することにより、一度に複数方向から計測対象物の形状を計測することが可能になるため、一方向からの撮影では得られない計測対象物の裏側の形状を測定することができる。
また、複数のカメラにより撮影された画像を合成することにより、計測対象物に金属が含まれる場合や、計測対象物の形状が曲面を有する場合にも、ハレーションの影響を低減して計測対象物の形状を精度良く算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例の形状計測装置の斜視図である。
【図2】本発明の一実施例の形状計測装置の正面図である。
【図3】本発明の一実施例の形状計測装置における構成の詳細を説明する図である。
【図4】本発明の一実施例の形状計測装置の上面図である。
【図5】格子模様が投影された試料およびその鏡像を示す図である。
【図6】迷光防止壁が設けられた鏡を示す図である。
【図7】形状計測のための1次元格子模様が投影された基準面およびその鏡像を示す図である。
【図8】全空間テーブル化手法に用いる2次元格子模様が投影された基準面およびその鏡像を示す図である。
【図9】1台のカメラと1枚の鏡を用いた場合に対する形状計測装置の簡易斜視図である。
【図10】1台のカメラと2枚の鏡を用いた場合に対する形状計測装置の簡易斜視図である。
【図11】(a)輝度分布、および(b)位相分布を示す図である。
【図12】位相シフト量と輝度との関係を示す図である。
【図13】全空間テーブル化手法による形状計測の原理を表す図である。
【図14】ある画素に対する位相値とx、yおよびz座標との対応関係を示す図である。
【図15】(a)再サンプリング前、および(b)再サンプリング後の位相分布データの計測点を示す図である。
【図16】(a)および(b)は、(a)計測結果の平均値を用いる場合、および(b)本発明の合成処理によるz座標分布を示す図であり、(c)は、本発明による各z座標位置におけるz座標分布を示す図である。
【図17】計測対象物である試料およびその表面形状を示す図である。
【図18】(a)〜(d)は、2台のカメラにより撮影された試料の実像および鏡像の画像を示す図であり、(e)は、合成された画像を示す図である。
【図19】(a)〜(d)は、2台のカメラにより撮影された試料の実像および鏡像の画像に対する高さ分布および位相評価値を示す図であり、(e)は、合成された画像に対する高さ分布を示す図である。
【図20】ハレーションが発生した場合の計測対象物の画像である。
【図21】本発明の一実施例による形状計測装置により得られた形状計測結果と、合成された画像を示す図である。
【図22】校正処理における画像を撮影するフローチャートを示す図である。
【図23】校正処理における空間座標テーブルを作成するフローチャートを示す図である。
【図24】本発明の形状計測方法のフローチャートを示す図である。
【図25】本発明の形状計測方法における画像の合成処理のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[形状計測装置]
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
本発明の形状計測装置は、計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影部と、計測対象物の周囲に配置された少なくとも1つの鏡と、計測対象物および鏡に映る計測対象物の鏡像を撮影する少なくとも1つの撮影部と、計測対象物の画像と鏡像の画像の各々に対して位相解析処理を施して計測対象物の形状を算出するとともに撮影された前記計測対象物の画像と前記鏡像の画像とを合成する解析処理部とを備える。ここで、撮影部の各々は、計測対象物の少なくとも一部の領域と該少なくとも一部の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されていることが肝要である。
【0022】
図1は、本発明の一実施例の形状計測装置を示す図である。この形状計測装置100は、z軸用光源1と、z軸用格子ガラス2と、第1のレンズ3と、ピエゾステージ4と、ペルチェ冷却装置5と、第1のカメラ6および第2のカメラ7と、基準点投光用レーザー8と、第1の鏡9および第2の鏡10と、基準平板11と、xy軸用光源12と、xy軸用格子ガラス13と、z軸移動ステージ14と、解析処理部15とを備える。
【0023】
この形状計測装置100において、計測対象物Oは基準平板11上に載置され、該基準平板11の周囲には、計測対象物Oを映す2枚の鏡(第1の鏡9および第2の鏡10)が配置されている。
基準平板11の上方には、計測対象物Oに格子模様を投影する格子模様投影部として、z軸用光源1と、z軸用格子ガラス2と、第1のレンズ3と、ピエゾステージ4が設けられている。ここで、z軸用光源は、その照射方向が−z方向に向けられている。
【0024】
また、撮影部として2台のカメラ(第1のカメラ6および第2のカメラ7)が設けられている。その各々は、y方向から見て、その撮影方向がz軸と45°の角度をなすように下向き(即ち、−z軸方向)に配置されており、かつ、第1のカメラ6および第2のカメラ7は、z方向から見て、撮影方向が互いに直交するように配置されている。ここで、第1のカメラ6および第2のカメラ7の各々は、計測対象物Oにおいて、形状を計測したい所望の領域と、この所望の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されている。
【0025】
一方、基準平板11の下方には、xy軸用格子ガラス13と、xy軸用光源12とが設けられており、更にその下方には、基準平板11に接続され、基準平板11(即ち、基準面11a)をz軸方向に移動させるz軸移動ステージ14が設けられている。これらは、全空間テーブル化手法に基づいて、位相値と空間座標との相関である空間座標テーブルを作成するために使用される。以下、形状計測装置100の各構成要素について説明する。
【0026】
z軸用光源1は、z軸用格子ガラス2を介して、計測対象物Oおよび基準面11a上に格子模様を投影するための光を照射する。この光は、格子模様を安定して投影できれば特に限定されない。例えば、発光ダイオード(Light Emission Diode,LED)を使用することができる。本実施例においては、z軸用光源1は、その照射方向が基準平板11の法線方向と平行になるように配置されているが、計測対象物Oおよび基準面11aに格子模様が投影できれば、配置は特に限定されない。
【0027】
z軸用格子ガラス2は、図2に示すような1次元の格子模様を有しており、z軸用光源1により照射された光を通過させて、1次元の格子模様を計測対象物Oに投影するために用いられる。
【0028】
第1のレンズ3は、z軸用光源1から照射され、z軸用格子ガラス2を通過した光を集光して、計測対象物Oおよび基準面11aに格子模様を投影するように配置する。
【0029】
ピエゾステージ4は、z軸用格子ガラス2に結合されており、z軸格子ガラス2をシフトさせる。これにより、計測対象物Oおよび基準面11aに投影された1次元の格子模様をシフトさせることができる。このピエゾステージ4は、図2に示すような、z軸用格子ガラス2に描かれた1次元の格子模様がシフトするように、即ち、1次元格子模様である所定の間隔で配置された多数の直線が、直線に平行ではない方向にシフトするように、z軸用格子ガラス2に結合させる。
【0030】
これらz軸用光源1と、z軸用格子ガラス2と、第1のレンズ3と、ピエゾステージ4とからなる格子模様投影部は、上記構成に限定されず、計測対象物O上に1次元の格子模様を投影し、格子模様をシフト可能に構成されていればよい。上記構成の代わりに、例えば液晶プロジェクタを用いることもできる。
【0031】
ペルチェ冷却装置5は、基準平板11の上方の装置の最も高い位置にて下向きに設置されており、装置全体が過熱されないように冷却する。
【0032】
第1のカメラ6および第2のカメラ7は、図3に示すように、計測対象物Oおよび基準平板11の周囲に配置された鏡に映された鏡像O’の画像を撮影する。そのために、カメラの各々は、計測対象物Oと鏡に映された鏡像O’の双方を同時に視野に納まり撮影可能となる位置に配置するようにする。本実施例においては、上述のように、第1のカメラ6および第2のカメラ7の各々は、y方向から見て、その撮影方向がz軸と45°の角度をなすように下向き(即ち、−z軸方向)に配置されており、また、第1のカメラ6および第2のカメラ7は、z軸方向から見て、それぞれの撮影方向が互いに直交するように、また、対面する鏡面の法線方向と平行になるように配置されている。しかし、上記の要件、即ち、カメラの各々が、計測対象物Oと鏡に映された鏡像O’の双方を同時に視野に納めて撮影可能となる位置に配置されていれば、カメラの設置位置や撮影方向等は限定されない。
これら第1のカメラ6および第2のカメラ7としては、例えばCMOSカメラやCCDカメラを用いることができる。
【0033】
尚、カメラから見て、図5に示すように、計測対象物Oとその鏡像O’とが完全に分離されている必要はなく、鏡像O’の一部が、計測対象物Oに隠れていても構わない。この場合、隠れていない領域のみが位相解析処理の対象となる。
また、形状を計測したい領域(所望の計測領域)は、必ずしも計測対象物Oの全体とは限らない。その場合には、カメラの各々が、計測対象物Oの所望の計測領域(即ち、計測対象物Oの少なくとも一部の領域)と、鏡に映される所望の計測領域の鏡像とが同時に視野に収まり撮影可能となる位置に配置されていればよい。また、カメラから見て、上記所望の計測領域とその鏡像は、上記所望の計測領域と完全に分離されている必要はなく、鏡像の一部が所望の計測領域に隠れていても構わない。この場合にも、隠れていない領域のみが位相解析処理の対象となる。
【0034】
基準点投光用レーザー8は、基準平板11の上方に設置されており、計測対象物Oまたは基準面11a上の適切な位置にレーザー光を照射し、撮影された計測対象物Oの画像と、鏡に映る鏡像O’の画像とを合成する際に、両画像における同一の位置が特定できるような基準点(目印)を表示する。本実施例においては、レーザー光により基準点を表示するが、これに限定されず、例えば計測対象物O上や基準面11a上の適切な位置に予め基準点をマーキングしておいてもよい。
【0035】
第1の鏡9および第2の鏡10は、基準平板11の周囲に設けられ、計測対象物Oの鏡像O’を映すために設けられている。本実施例においては、図1に示すように、2枚の鏡は、基準面11aに対して直交し、更に互いの鏡面が直交して接するように配置されている。これらの鏡の配置は、上述のように、カメラの各々が、計測対象物Oと鏡に映る計測対象物Oの鏡像とを同時に撮影可能なように配置されていれば、特に限定されない。
図5に、格子模様を基準平板11上に載置された計測対象物O上に投影し、第2の鏡10に鏡像O’が映る様子を示す。これらの鏡を用いて、1台のカメラで計測対象物Oと鏡に映る鏡像を同時に撮影することは、2台のカメラを用いて、計測対象物Oを2つの異なる位置から撮影することと同じである。つまり、1台のカメラを用いるだけで、異なる位置に配置されたカメラ2台による計測結果を得ることができるのである。
また、鏡の設置により、鏡が無い場合には撮影が不可能な部分を撮影することも可能になる。そのため、計測対象物Oの全体が撮影可能となるように鏡を配置することにより、計測対象物Oの全体の形状を測定することも可能になる。
【0036】
ここで、図1に示すように、2枚の鏡を極めて近い位置に接近(または接触)させて配置する場合には、z軸用光源1から光が照射されると、計測対象物Oや第1の鏡9および第2の鏡10により反射や散乱された光が互いに干渉してしまい、形状計測を精度良く行えない場合がある。その場合には、図6に示すように、迷光防止壁16を鏡に設けることにより、形状計測を阻害する光の干渉を抑制することができる。この迷光防止壁16は、上記の干渉を抑制することができれば、大きさや形状、素材等は問わない。
【0037】
基準平板11は、計測対象物Oの形状を計測する際に該計測対象物Oを載置するとともに、全空間テーブル化手法に基づいて位相値と空間座標との相関である空間座標テーブルを作成する際に用いられる基準面11aをその表面に有している。本実施例においては、計測対象物Oの形状計測と、空間座標テーブルの作成とに使用する光源が異なっており、形状計測用の光源(z軸用光源1)は基準平板11の上方に、また、空間座標テーブル作成用の光源(xy軸用光源12)は基準平板11の下方にそれぞれ配置されている。そこで、基準平板11として、50mm×50mmのオパール層ガラスを使用し、基準面11a上に上下方向(即ち、±z軸方向)から格子模様を投影可能となるように構成されている。また、後述する校正の精度を確保するために、基準平板11の表面は、研磨により散乱面となるような加工処理が施されており、得られた散乱面を基準面11aとして上向き(即ち+z方向)に配置されている。
【0038】
図7は、z軸用光源1により、基準面11aの上方からz軸用格子ガラス2を介して1次元格子模様が投影された基準面11aと、第2の鏡10に映った鏡像を示している。また、図8は、xy軸用光源12により、基準面11aの下方からxy軸用格子ガラス13を介して2次元格子模様が投影された基準面11aと、第2の鏡10に映った鏡像を示している。
基準平板11の材料としては、オパール層ガラスに限定されず、基準面11aの上方から形状計測のための1次元格子模様を投影でき、下方から校正のための2次元格子模様を投影できれば、特に限定されない。
【0039】
xy軸用光源12は、図2に示すように、LED点光源12aと、ピンホール板12bと、第2のレンズ12cとを有し、平行光に近い光を照射できるように構成されている。即ち、LED点光源12aから照射された光は、ピンホール板12bの穴を通って点光源となり、レンズ12cにより略平行光となった後に、xy軸用格子ガラス13を通過する。
【0040】
xy軸用格子ガラス13は、全空間テーブル化手法に基づいて、空間座標テーブルを作成する際に用いられ、基準面11aに投影するための2次元の格子模様が描かれている。このxy軸用格子ガラス13は、基準平板11の直下に配置されている。xy軸用格子ガラス13は、図2に示すように、それぞれ1次元の格子模様が描かれた2枚ガラス(x軸ガラス13aおよびy軸ガラス13b)を、それぞれの格子模様が互いに直交するように重ね合わせることにより構成されている。このような構成の代わりに、2次元の格子模様が描かれた1枚の格子ガラスを用いることもできる。
【0041】
z軸移動ステージ14は、基準平板11に結合されており、xy軸用プロジェクタ12の下方に設置されている。このz軸移動ステージ14は、図5に示すように、基準平板11(即ち、基準面11a)をz軸方向に移動させる。本実施例においては、z軸移動ステージ14tとして、0.1μmの精度で位置決めができるフィードバック機能付きの1軸ステージを使用しており、形状計測時における計測対象物Oの高さ(即ち、z座標)調整や、全空間テーブル化手法に基づいて空間座標テーブルを作成する際の基準面11aの高さ調整のために使用される。
【0042】
解析処理部15は、カメラにより撮影された、計測対象物Oの画像および鏡に映る鏡像の画像に対して位相解析処理を施すことにより計測対象物Oの形状を算出する。ここで、位相解析手法は特に限定されないが、本実施例においては、一例として、後述する位相シフト法を用い、また、全空間テーブル化手法に基づいて位相値と空間座標との相関である空間座標テーブルを各画素に対して予め作成して保存しておく。これにより、位相シフト法を用いて画像の各画素の位相値が求まれば、空間座標(x、yおよびz座標)、即ち、計測対象物Oの形状を直ちに求めることができる。
また、本実施例においては、2台のカメラと2枚の鏡を使用することにより、4方向から撮影された複数の画像が得られる。このため、解析処理部15は、得られた計測対象物Oの画像と鏡像O’の画像を合成する。この合成は、撮影された異なるカメラで撮影された画像や鏡像O’の画像を、後述するように、適切に回転または反転処理を施した後に行う。合成方法は特に限定されず、例えば画像データを単純に平均化することにより行うことができ、また本発明において使用する、後述する所定の評価値に基づいて行うこともできる。
また、複数の鏡およびカメラにより、1つのカメラの視野に入らない計測対象物Oの裏側が鏡に映されるため、撮影された画像を組み合わせることにより、計測対象物Oの全周囲の形状を測定することが可能になる。
また、計測対象物が、例えば電子部品であり、金属部分が含まれる場合や、計測対象物が曲面を有する場合に、形状計測のための光を照射するとハレーションが発生する場合があるが、カメラの位置が異なると、ハレーションが発生する位置も異なるため、異なる位置のカメラにより撮影された画像を合成することにより、ハレーションの影響を低減して、計測対象物の形状を精度良く求めることもできる。
【0043】
尚、上記の実施例の形状計測装置100は、撮影部として2台のカメラ(第1のカメラ6および第2のカメラ7)と、2枚の鏡(第1の鏡9および第2の鏡10)とを備えているが、カメラおよび鏡の数は限定されない。例えば、図9に示す形状計測装置200のように、第1の実施例である形状計測装置100における2台のカメラ(第1のカメラ6および第2のカメラ7)の代わりに1台のカメラ(カメラ26)を、2枚の鏡(第1の鏡9および第2の鏡10)の代わりに1枚の鏡(鏡30)をそれぞれ備えるようにし、他の構成は形状計測装置100と同一にすることができる。ここで、形状計測装置100と構成が異なる部分についてのみ、符号が付けられている。
【0044】
また、図10に示す形状計測装置300のように、形状計測装置100における2台のカメラ(第1のカメラ6および第2のカメラ7)の代わりに1台のカメラ(カメラ36)を備えて他の構成は形状計測装置100と同一にし、カメラ36を、計測対象物Oおよび3つの鏡像を同時に撮影可能に構成することもできる。ここで、形状計測装置100と構成が異なる部分についてのみ、符号が付けられている。これにより、1台のカメラにより、異なる方向を向いた4つのカメラから撮影したのと同様の効果を得ることができる。
【0045】
このような形状計測装置100を使用することにより、一度に複数方向から計測対象物の形状を計測することが可能になるため、一方向からの撮影では得られない計測対象物の裏側の形状を測定することができる。
また、複数のカメラにより撮影された画像を合成することにより、計測対象物に金属が含まれる場合や、計測対象物の形状が曲面を有する場合にも、ハレーションの影響を低減して計測対象物の形状を精度良く算出することができる。
【0046】
(位相シフト法)
ここで、本発明において位相解析処理の一例として使用する位相シフト法および全空間テーブル化手法について説明する。まず位相シフト法について説明する。
図11は、格子画像の輝度分布と位相分布の関係を表す図である。図11(a)は、格子の輝度分布を表し、図11(b)は、格子の位相分布をそれぞれ表す。また、図12は、位相シフト量と位相シフトした時の輝度変化の関係を表す図である。
格子や干渉縞の輝度値I(x,y)は、一般に、図12(a)に示すように、空間(x,y)上に余弦波状に分布している。これを式で表すと、式(1)のようになる。
ここで、点(x,y)は、撮影された画像内の一点であり、a(x,y)およびb(x,y)は、それぞれ輝度振幅と背景輝度を表し、θ(x,y)は、格子の位相値を表す。格子が撮影された画像(以下、「格子画像」と称する)の場合、位相は実数全体で表すことができるが、0から2πまでの2π周期の繰り返しと見ることもできる。図11(b)は、θ(x,y)の分布を0から2πまでの繰り返しとして表現したものである。
【0047】
位相シフト法は、格子の位相を1周期分だけ変化させながら複数枚の格子画像を撮影し、得られた複数の画像から位相分布を求める手法である。全ての画素において、輝度は1周期分変化するため、その輝度変化から各点ごとに独立して、即ち、周囲の画素の輝度変化の情報を使わずに位相値を求めることができる。そのため、段差や不連続のある物体の形状計測に有効な手法である。ここでは、最も一般的に用いられている、π/2ずつ位相シフトされた4つの輝度値から位相値を求める場合(即ち、位相シフト回数が4回の場合)を例に、位相シフト法の原理について説明する。
【0048】
式(1)で示した格子の輝度分布の式に、位相シフト量αを追加すると式(2)となる。
図12に、初期位相θをもつ点(画素)における位相シフト量αと輝度変化の関係を示す。初期位相とは、位相シフト量が0の時の格子の位相を意味している。位相シフト量が0からπ/2ずつ変化した場合の輝度をそれぞれI0,I1,I2およびI3とすると、これらは、それぞれ式(3)〜(6)のように表すことができる。尚、以下の式では(x,y)の表記を省略する。
【0049】
これらの式から、以下の式(7)および(8)が得られる。
さらに、式(7)および(8)から、以下の式(9)が導かれ、この関係式より位相値θを求めることができる。即ち、位相シフト量が0、π/2、πおよび3π/2の場合の輝度、I0,I1,I2およびI3が得られれば、この画素に対する位相値θが求まるのである。
【0050】
ここで、位相シフトの回数(即ち、0から2πまでの刻み数)を多くすることにより、カメラのランダムノイズの影響を低減することができる。位相シフト回数をN、位相シフト量が2πk/Nの時の輝度をIkとすると、式(10)が導かれ、この関係式より位相値θを求めることができる。
こうして、位相シフト法により、画像上の各画素における位相値θを求めることができる。
【0051】
(校正方法)
次に、位相シフト法により各画素に対して求められた位相値から、空間座標(x、y、z)、即ち、計測対象物の形状を算出する方法について説明する。
本発明においては、従来技術のように、位相値と空間座標を対応付ける変換式を用い、この変換式に用いられるパラメータを求める方法は使用しない。即ち、本発明においては、投影された格子の位相値と空間座標の対応関係を、カメラの画素毎に予め求めてテーブル化しておく方法を採用し、これを校正(キャリブレーション)と呼ぶ。この校正処理により、計測対象物に投影された格子の位相値が得られれば、従来手法のように変換式を用いた座標の計算をせずに、得られた空間座標テーブルを参照するだけで、計測対象物の表面の空間座標、即ち計測対象物の形状を直ちに求めることができる。
【0052】
(全空間テーブル化手法)
図13は、全空間テーブル化手法(例えば、特開2008−281491号公報参照)による形状計測の原理を表す図である。図13(a)に示すように、z軸方向(高さ方向)に垂直に設置された基準面を、z軸方向に少しずつ平行移動させる。カメラとプロジェクタは、基準面の上方に固定しておく。プロジェクタからは、格子模様が基準面に投影される。この時、投影される格子模様は等間隔である必要は特にない。この投影される格子の位相は、上述の位相シフト法によって容易に算出することができる。
ここで、カメラのある1画素が、図13(b)に示す直線L上の点を撮影しているとする。この画素は、基準面の位置R0,R1,R2,...RNに応じて、それぞれ点P0,P1,P2,...PNを撮影することになる。それぞれの点における位相値θ0,θ1,θ2,...θNは、位相シフト法によって求めることができる。
【0053】
図13(b)に、1画素の撮影ラインLと基準面上の空間座標(x,y,z)との関係を示す。1画素が撮影している各基準面上の点P0,P1,P2,...PNについては、基準面に投影された2次元の格子模様からx座標およびy座標を得て、基準面の位置からz座標を得る。ここで、xおよびy座標については、様々な方法、例えばフーリエ変換格子法により、x方向およびy方向の位相値をそれぞれ求め、更に位相接続を行うことにより、各点におけるx座標およびy座標をそれぞれ得ることができる(例えば、特許第3281918号公報参照)。
【0054】
こうして、各基準面の位置毎に、投影格子の位相値θに対するx座標、y座標およびz座標を画素毎に得られることになる。投影された2次元格子模様の位相値θは、基準面の位置でしか得られないが、基準面の間隔を小さくして、その間を補間することにより、全ての位相値に対する空間座標を精度よく求めることができる。
【0055】
上記の校正手法により、位相値θ0,θ1,θ2,...θNとx座標x0,x1,x2,...xN、y座標y0,y1,y2,...yNおよびz座標z0,z1,z2,...zNの関係が画素毎にそれぞれ得られる。これらの関係を、図14の(a)〜(c)に黒点で示す。
位相値θに対するx,yおよびz座標は、それぞれ滑らかに変化する。位相値θを等間隔に分割し、対応するx,yおよびz座標をそれぞれ補間して求めることにより空間座標テーブルを作成する。格子投影法の場合は、一般的な配置では、位相値と座標の対応関係は滑らかな曲線状になるため、線形補間で十分な精度が期待できるが、もちろん高次の補間を行ってもよい。図14においては、線形補間を行い、黒点間を結んだ直線上の点として空間座標テーブルを作成する。図14においてKで示した区間については、外挿することにより位相値と空間座標との相関を求めることができる。
【0056】
こうして、全空間テーブル化手法に基づいて、位相値θと空間座標(x、yおよびz座標)との相関である空間座標テーブルを作成することができる。また、投影格子の位相接続を行う場合でも、同様の考え方により、位相接続後の位相と空間座標の関係をテーブル化することができる。位相接続を行うことにより、z方向の計測可能範囲を広げることができる。
【0057】
(計測対象物の形状計測)
まず、図13(a)に示すように、基準面R0とRNとの間に計測対象物を設置する。この計測対象物に、校正処理の時と同一の格子模様を投影する。その結果、直線L上を撮影する画素は、計測対象物上の点Pを撮影することになり、その点に投影されている格子模様の位相値θpが、その画素の位相値として得られることになる。
次に、予め作成しておいた空間座標テーブルを参照することにより、得られた位相値θpに対応するx、yおよびz座標を求めることができる。即ち、図14(a)に示すように、得られた位相値θpに対応するx座標xpは、x座標のテーブルを参照するだけで直ちに得られる。同様に、y座標とz座標についても、位相値θpからy座標およびz座標のテーブルを参照することのみにより、直ちに得ることができるのである。
こうして、予め作成しておいた空間座標テーブルを参照することにより、得られた位相値θpから、空間座標を求めることができ、計測対象物の形状を高速に計測することができる。
【0058】
(再サンプリング処理)
上記の形状計測方法により得られた形状計測結果は、カメラの画素が撮影する点の座標分布として求められるため、図15(a)に示すように、xy平面に対して等間隔ではない座標分布として得られる。しかし、異なる位置に配置された複数のカメラにより撮影された画像や、実像の画像と鏡像の画像を合成する際には、図15(b)に示すように、xy平面において等間隔にサンプリングされた点の空間座標を得る必要がある。そのために、以下のような再サンプリング処理を行う。
【0059】
まず、xおよびy座標を知りたい点Psを囲む3つの点Pa、PbおよびPcを探し出す。次に、この3点を通る平面と、サンプリング点Psのxy座標からz方向に垂直に伸ばした直線との交点を再サンプリング点のz座標とする。こうして再サンプリング処理を行うことにより、図15(b)に示すように、xy平面において等間隔にサンプリングされた点の空間座標を得ることができる。
【0060】
また、本発明の一実施例の形状計測装置100においては、z方向から見て2台のカメラの撮影方向が互いに直交するように配置されているため、第1のカメラにより撮影された画像と第2のカメラにより撮影された画像を合成するためには、一方の画像に対して90°だけ回転処理を施す必要があり、また、各々のカメラで撮影された各画像において、鏡像の画像に対しては画像反転処理を施す。第1のカメラと第2のカメラとの間の配置関係が形状計測装置100と異なる場合には、その配置関係に基づいて、画像の回転、および回転処理を適切に行うようにする。
【0061】
(位相評価値に基づく画像合成方法)
複数方向からの形状計測結果に対して、前述の再サンプリング処理や画像反転処理および/または画像回転処理を施した画像の空間座標を基に、画像の合成処理を行う。ここで、画像の合成処理は、画素毎に、高さ情報(z座標)を合成することにより行うことができる。
【0062】
この合成方法は限定されず、例えば画像データを単純に平均して行うこともでき、また、重み付けをして平均することにより行うこともできる。本発明においては、撮影された複数の画像の画像データが、信頼性のあるものか否かを判定する指標となる位相評価値を予め求めておき、得られた位相評価値に基づいて画像の合成を行う。この位相評価値として何を使用するかについても限定されない。本発明においては、各画素における輝度値の変化に対してフーリエ変換を行い、高次周波数のパワースペクトルの総和に対する一次周波数ω1のパワースペクトルの比として定義する。この場合、輝度の振幅が大きい場合(即ち、輝度の変化が大きい場合)に位相評価値は大きくなり、輝度のサチュレーションや輝度の振幅が小さい場合(即ち、輝度の変化が小さい場合)、または、データにランダムノイズが含まれる場合には、位相評価値は小さくなる。そのため、位相評価値は、位相値の信頼性を確認できる値であり、画像合成時には、合成する画像データの取捨選択するための指標として利用することができる。
【0063】
これを踏まえ、画像の合成処理は、画素毎に各方向からの高さ(z方向の位置)情報の平均値を求める処理であるが、前述した位相評価値についても画素毎に参照し、位相評価値が、所定の閾値を下回るデータに関しては、これを平均化する値として用いないことにより、信頼性の低いデータを排除した精度の高い計測結果を得ることができる。
【0064】
本発明においては、位相評価値E(i,j)の計算には、以下の式(11)を用いる。ここで、F(ωn)は、周波数ωnのパワースペクトルの大きさを表し、また、Nは、最も高い周波数に対応する次数を表している。
【0065】
こうして、各画素において、式(11)により求まる位相評価値が所定の閾値を超える画像データのみを合成することにより、信頼性の低いデータを排除した精度の高い合成画像を得ることができる。
【0066】
以下に、上述した合成処理をより具体的に説明する。ここでは、2台のカメラと2枚の鏡とを備える形状計測装置100を用いて計測している。精度確認のため、まず基準面を計測対象物とし、高さ(z座標)を変更しながら、基準面の形状測定を行った。ここで、位相シフト回数は4回とした。
【0067】
図16は、基準面のz軸の位置が500μmにおけるz座標の分布図を示している。ここで、(a)は、4方向(即ち、第1のカメラの実像と鏡像および第2のカメラの実像と鏡像)から撮影された画像の画像データの全てを平均した値を、(b)は、本発明の方法により、位相評価値に基づいて撮影された4枚の画像を合成して得られた結果を示している。これらの図から明らかなように、本発明の合成処理を施すことにより、高さのばらつきが低減されて、計測精度が向上していることが分かる。(c)は、基準面のz軸の各位置における本発明の合成処理を施したz座標分布を示しており、どの位置においても、計測精度が向上していることが分かる。
【0068】
次に、図17に示す、超硬合金からなる計測対象物である試料の形状計測結果について説明する。この試料の表面には、万能投影機(V−12BS型 NO.1300021)およびデジマイクロ(MF−501NO.EO1523)を用いて予め測定された、図17の表に示す段差が存在し、(a)から(f)に進むに従って、約10μmずつ高くなっている。ここで、この段差部の形状計測結果に注目する。尚、校正および計測は、位相シフト回数を16回とし、上述のように連続して5枚の画像を撮影して画像データを平均し、ランダムノイズの影響を低減した。
【0069】
図18は、計測された試料全体の高さ(z座標)分布図を示す図である。また、図19は、図18に示す結果を基に、図18に示す位置jにおけるx方向の位置iと高さ(z座標)分布を示した図である。それぞれの図において、(a)は、第1のカメラの実像の画像、(b)は、第1のカメラの鏡像の画像、(c)は、第2のカメラの実像の画像、(d)は、第2のカメラの鏡像の画像、および(e)は、合成された画像を示している。ここで、合成の際の位相評価値の閾値は15である。
【0070】
この図19(a)〜(d)に示すように、4つの方向から撮影された各画像における高さのばらつきが大きいのに対し、図19(e)に示すように、本発明の画像合成処理により、高さのばらつきが小さくなり、計測精度が向上していることが分かる。
【0071】
図20は、アルミニウムからなる計測対象物Oである試料を撮影して得られた画像である。この図から明らかなように、ハレーションが発生しており、この状態では、この画像のみから計測対象物Oの形状を正確に計測することができない。
【0072】
図21は、2台のカメラおよび2枚の鏡を備える本発明の形状計測装置100により、この試料を4方向から撮影した画像を示している。図21(a)〜(d)は、第1のカメラおよび第2のカメラにより撮影された実像および鏡像の画像とそれぞれの位相評価値とを示しており、図21(e)は、本発明の方法により合成した画像を示している。図21(a)〜(d)の画像から明らかなように、各画像の高さ分布は、ハレーションにより影響を受けてノイズが含まれているが、図21(e)に示した合成された画像においては、ハレーションの影響は大きく低減されていることが分かる。このように、本発明の形状計測装置100により、計測対象物Oが金属からなり、ハレーションが発生する場合にも、計測対象物Oの形状を精度良く計測することができる。
【0073】
[形状計測方法]
次に、本発明の形状計測方法について説明する。本発明の形状計測方法は、位相解析処理において、その一例として全空間テーブル化手法に基づく位相シフト法を使用するが、これに限定されない。全空間テーブル化手法に基づく位相シフト法を使用する場合には、位相値と空間座標との相関である空間座標テーブルを画素毎に予め作成する校正を行い、得られた空間座標テーブルを保存しておく必要がある。そのためには、複数の基準面位置におけるz軸とxy軸の格子投影画像と基準点投光画像を撮影しておく必要がある。まず、校正方法における、格子投影画像と基準点投光画像を撮影する校正方法について説明する。
【0074】
(校正用画像の撮影処理)
図22は、本発明の校正方法における、格子投影画像および基準点投光画像の撮影処理のフローチャートを示している。
まず、z軸移動ステージ14を移動させて、基準面11aを所定の位置に動かす。次に、ピエゾステージ3を所定の位置に移動させることにより、位相シフト回数に応じたシフト量だけz軸用格子ガラス2をシフトさせた後、z軸用光源1であるLEDを点灯させ、第1のカメラ6および第2のカメラ7により、基準面11に投影された格子模様および鏡に映された格子模様の鏡像を撮影する。ここで、画像の撮影は1回だけ行うのではなく、所定の回数、例えば5回行い、画像データの平均をとって新たに画像データとすることにより、カメラのランダムノイズの影響を低減することもできる。撮影が終わった後、z軸用光源1を消灯し、撮影された画像を解析処理部15に保存する。上記のピエゾステージ14の移動から画像の保存までの一連の処理を、予め設定された位相シフト回数に達するまで繰り返し行う。
【0075】
上述のz軸用格子投影画像の撮影に続き、基準面のz座標は変えずに、xy軸用2次元格子画像撮影と基準点画像の撮影を連続して行う。
即ち、まず、xy軸用光源12を点灯させ、第1のカメラ6および第2のカメラ7により、基準面11aに投影された2次元の格子模様および鏡に映された格子模様の鏡像を撮影する。撮影が終わった後、xy軸用光源12を消灯し、撮影された画像を解析処理部15に保存する。
【0076】
同様に、基準点投光用レーザー8を点灯させ、第1のカメラ6および第2のカメラ7により、基準面11aに投光された基準点および鏡に映された基準点の鏡像を撮影する。ここで、校正処理の場合と同様に、画像の撮影は1回だけ行うのではなく、所定の回数、例えば5回行い、画像データの平均をとって新たに画像データとすることにより、カメラのランダムノイズの影響を低減することもできる。撮影が終わった後、基準点投光用レーザー8を消灯し、撮影された画像を解析処理部15に保存する。
【0077】
こうして、基準面11aの1つの位置に対して、校正に必要な画像が得られる。次いで、z軸移動ステージ14により、基準面11aを所定の大きさだけ移動させた後、上記の全ての処理を繰り返す。
以上を、所定の回数(規定された基準面の枚数)だけ繰り返すことにより、校正に必要な画像の撮影処理が完了する。
【0078】
(校正処理)
図23は、図22に示した処理により撮影された画像を用いて校正を行い、空間座標テーブルを作成する処理のフローチャートを示している。
まず、上述した位相シフト法により、図22に示した処理において撮影された位相シフト回数分の撮影画像に対して位相解析を行い、各画素に対する位相値を求める。
次に、xy軸座標の位相解析前に、図23の処理において、基準点投光用レーザー8を点灯した状態で撮影された画像を基に、画像における基準点の位置を探索する。
【0079】
続いて、例えばフーリエ変換格子法により、撮影された2次元格子画像を基に、x軸およびy軸の位相値を求める。
その後、得られたx軸およびy軸の各位相値に対して位相接続を行い、各方向に対して一意の位相に変換される。その際、位相接続の中心点に、探索された基準点を用いる。
上記の全ての処理を、規定の基準面の枚数分だけ繰り返すことにより、全画素に対して、基準面の各位置におけるx、yおよびz方向の位相値を求めることができる。
【0080】
各基準面位置での位相値を求めた後、空間座標(x、yおよびz座標)を算出する。空間座標は、まず、z座標については、各画素において必要なテーブル位置のz軸の位相値が、上述の処理により求められた複数枚の位相のうち、どの位置に存在するかを求め、位相からの距離を基に、指定位置の位相値を算出した後、この位相値と基準面の移動距離とから求めることができる。また、xおよびy座標に関しては、上記の処理により求められた位相値と投影格子の1ピッチの長さから座標値を求めることができる。空間座標を取得する際に、空間内のz軸上のテーブル枚数(要素数)に関しては、予め任意に指定することができる。指定した枚数分の空間座標テーブルを作成して校正処理は完了となる。
こうして、全空間テーブル化手法に基づいて空間座標テーブルが作成される。
【0081】
(形状計測処理)
図24は、計測対象物Oの形状を計測する処理のフローチャートを示している。
まず、計測対象物Oを基準面11a上に載置し、次に、計測対象物Oの高さに応じて、z軸移動ステージ14により基準面11aを任意の位置に移動させる。
続いて、図19に示したz軸用投影格子撮影処理と同様に、ピエゾステージ3を所定の位置に移動させることにより、位相シフト回数に応じたシフト量だけz軸用格子ガラス2をシフトさせた後、z軸用光源1であるLEDを点灯させ、第1のカメラ6および第2のカメラ7により、計測対象物Oに投影された格子模様と鏡に映された鏡像O’を撮影する。撮影が終わったら、z軸用光源1を消灯し、撮影された画像を解析処理部15に保存する。上記のピエゾステージ14の移動から画像の保存までの一連の処理を、予め設定された位相シフト回数に達するまで繰り返し行う。
【0082】
その後、撮影された位相シフト回数分の画像を基に、例えば位相シフト法により位相解析を行い、各画素に対する位相値を求める。ここで、図22および図23に示した処理により作成された空間座標テーブルを参照することにより、求められた位相値から空間座標が得られ、計測対象物Oの形状を求めることができる。こうして、撮影された各画像に対する形状計測処理が完了する。
最後に、複数の形状計測結果に対して図25に示す合成処理を施すことにより、1つの形状計測結果を得ることができる。
【0083】
(合成処理)
複数の画像を合成するためには、各画像で同位置となる一点を探索しておく必要がある。そのため、校正処理の場合と同様に、まず、基準点投光用レーザー8を点灯し、次に基準面11a上に投光された基準点の画像を撮影した後、基準点投光用レーザー8を消灯して撮影した画像を解析処理部15に保存する。
次に、撮影された画像上の基準点を探索する。
続いて、撮影された全ての画像の位相評価値(PEV)を算出する。
その後、撮影された画像が鏡像を撮影したものであるか否かの判定を行い、鏡像である場合には、画像を反転させる画像反転処理を行う。
続いて、撮影された画像が第1のカメラにより撮影されたものであるか否かの判定を行い、第1のカメラにより撮影されたものでない場合には、画像を90°回転させる処理を行う。ここで90°回転させるのは、形状計測装置100においては、第1のカメラおよび第2のカメラを図1および図4に示すように配置したためであり、第1のカメラと第2のカメラとの間の配置関係が形状計測装置100と異なる場合には、その配置関係に基づいて、画像の回転、および回転処理を適切に行うようにする。
【0084】
次に、全ての画像に対して、上述した再サンプリング処理を施し、計測されたxy座標を同一の座標系に再配置する。
最後に、同一の向きおよび同一の座標系に再配置された画像の計測結果に対して、各画像に対して求められた位相評価値が、所定の閾値を下回る場合にはデータを捨て、残されたデータの平均値を算出することにより、合成処理を行う。
【0085】
こうして、本発明の形状計測方法により、一度に複数方向から計測対象物の形状を計測することが可能になるため、一方向からの撮影では得られない計測対象物の裏側の形状を測定することができる。
また、複数のカメラにより撮影された画像を合成することにより、計測対象物に金属が含まれる場合や、計測対象物の形状が曲面を有する場合にも、ハレーションの影響を低減して計測対象物の形状を精度良く算出することができる。
【0086】
以上、具体例を挙げて本発明を詳細に説明してきたが、本発明の特許請求の範囲から逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能であることは当業者に明らかである。例えば、構成することも可能である。従って、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、一度に複数方向から計測対象物の形状を計測することが可能になり、また、ハレーションの影響を低減して、計測対象物の形状を精度良く計測できるため、電子部品の検査、人体計測、医療用計測、及び小型生物の立体観察や立体計測等に有用である。
【符号の説明】
【0088】
1 z軸用光源
2 z軸用格子ガラス
3 第1のレンズ
4 ピエゾステージ
5 ペルチェ冷却装置
6 第1のカメラ
7 第2のカメラ
8 基準点投光用レーザー
9 第1の鏡
10 第2の鏡
11 基準平板
11a 基準面
12 xy軸用光源
12a LED点光源
12b ピンホール板
12c 第2のレンズ
13 xy軸用格子ガラス
13a x軸用格子ガラス
13b y軸用格子ガラス
14 z軸移動ステージ
15 解析処理部
16 迷光防御壁
O 計測対象物
O’ 計測対象物の鏡像
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測対象物の形状を計測する装置および方法に関するものであり、特に、計測対象物の裏側の形状まで精度良く計測する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
格子投影法による非接触形状計測装置、干渉縞解析による非接触応力・ひずみ計測装置や、ディジタルホログラフィによる変位計測装置等では、計測条件を変えて得られた複数の縞画像計測データを合成することによって、より良好な結果を得ることが期待される。
【0003】
しかしながら、従来の縞画像解析方法では、例えば計測条件を変えて得られた複数の縞画像計測データを合成する際に、これらのデータの平均値を結果としていたため、ノイズがある場所では大きな誤差が生じるといった問題や、精度よく計測できた点とノイズがある場所との判断を画素毎に行うことができないといった問題があった。
【0004】
この問題を解決する従来の技術として、特許文献1には、解析する領域を複数の領域にグループ分けして処理を行い、相互の境界部を計算して合成を行う方法が開示されている。しかし、この従来の解析方法では、画素毎に合成することができないという問題があった。
【0005】
単にデータを平均するだけでなく、画素毎に評価値を決定して評価値が高いデータを採用することで良好な結果を得ることが可能になると思われる。画像を評価する従来技術
として、特許文献2には、画像断面の濃淡分布を空間周波数に対する人間の目の感度を表す特性の帯域フィルタに通過させ、その帯域フィルタの出力の濃淡分布から画像品質を表す評価値を算出する方法が開示されている。この従来の画像評価方法では、ディジタル画像の画像品質を評価値で評価し表示できるといった特徴がある。しかし、この従来の画像評価方法は、カメラで撮影したディジタル画像の画像品質の評価にしか用いることが出来ず、縞画像計測において解析した位相データを評価することはできないという問題があった。
【0006】
そこで、特許文献3には、位相シフトされた複数の縞画像データの各々を位相解析して複数の位相分布データを得た後に、複数の位相分布データの各々に関して関連する縞画像データから画素毎に評価値を決定し、複数の位相分布データを画素毎に対応する評価値の高いものを選択することによって精度良く合成することができる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−241930 号明細書
【特許文献2】特開平07−325922号明細書
【特許文献3】特許第3837565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、計測対象物の全表面の形状を測定する要求が存在する。即ち、計測対象物の一部のみではなく、計測対象物の全周囲の形状を計測することが望まれている。
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、計測対象物を一方向から撮影するため、カメラの視野に入らない計測対象物の裏側について形状を測定することができない点に課題を残していた。
【0009】
そこで、本発明の目的は、1つのカメラの視野に入らない計測対象物の裏側の形状まで精度良く計測する装置および形状計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題を解決する手段について鋭意検討した結果、計測対象物の周囲に鏡を配置し、カメラを、計測対象物の画像と鏡に映された鏡像の画像とを同時に撮影可能に配置して、計測対象物および鏡に映された鏡像を撮影することが有効であることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0011】
即ち、本発明の形状計測装置は、計測対象物の形状を計測する装置であって、前記計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影部と、前記計測対象物の周囲に配置された少なくとも1つの鏡と、前記計測対象物および前記鏡に映る前記計測対象物の鏡像を撮影する少なくとも1つの撮影部と、撮影された前記計測対象物および前記鏡像の画像の各々に対して位相解析処理を施して前記計測対象物の形状を算出するとともに撮影された前記計測対象物の画像と前記鏡像の画像とを合成する解析処理部とを備え、前記撮影部の各々は、前記計測対象物の少なくとも一部の領域と該少なくとも一部の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の形状計測装置は、計測対象物の形状を計測する装置であって、前記計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影部と、前記計測対象物の周囲に配置された少なくとも1つの鏡と、前記計測対象物および前記鏡に映る前記計測対象物の鏡像を撮影する少なくとも1つの撮影部とを備え、前記撮影部の各々は、前記計測対象物の少なくとも一部の領域と該少なくとも一部の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されていることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の形状計測装置において、前記鏡の各々に対して迷光防止壁を設けることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の形状計測装置において、2つの鏡と2つの撮影部とを備えることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の形状計測装置において、2つの鏡と1つの撮影部とを備えることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の形状計測方法は、周囲に少なくとも1枚の鏡が配置された計測対象物の形状を計測する方法であって、前記計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影ステップと、前記計測対象物と前記鏡に映る前記計測対象物の鏡像とを同時に撮影する画像撮影ステップと、前記格子模様を所定の大きさだけシフトさせる位相シフトステップと、
撮影された前記実像および前記鏡像の画像の各々に対して位相解析処理を施して前記計測対象物の形状を算出する形状算出ステップとを含み、該形状算出ステップは、前記画像撮影ステップと、前記位相シフトステップとを所定の回数だけ繰り返した後に行うことを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の形状計測方法において、前記位相解析処理は、全空間テーブル化手法に基づいて位相値と空間座標とを関連づけるテーブルを予め画素毎に作成しておき、該テーブルを参照して、位相シフト法により求められた各画素の位相値から空間座標を求めることにより行うことを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の形状計測方法において、撮影された画像の周波数成分の比に応じた評価値に基づいて、前記計測対象物の画像と前記鏡像の画像とを一枚の画像に合成する合成処理ステップを更に含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、計測対象物の周囲に鏡を配置することにより、一度に複数方向から計測対象物の形状を計測することが可能になるため、一方向からの撮影では得られない計測対象物の裏側の形状を測定することができる。
また、複数のカメラにより撮影された画像を合成することにより、計測対象物に金属が含まれる場合や、計測対象物の形状が曲面を有する場合にも、ハレーションの影響を低減して計測対象物の形状を精度良く算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例の形状計測装置の斜視図である。
【図2】本発明の一実施例の形状計測装置の正面図である。
【図3】本発明の一実施例の形状計測装置における構成の詳細を説明する図である。
【図4】本発明の一実施例の形状計測装置の上面図である。
【図5】格子模様が投影された試料およびその鏡像を示す図である。
【図6】迷光防止壁が設けられた鏡を示す図である。
【図7】形状計測のための1次元格子模様が投影された基準面およびその鏡像を示す図である。
【図8】全空間テーブル化手法に用いる2次元格子模様が投影された基準面およびその鏡像を示す図である。
【図9】1台のカメラと1枚の鏡を用いた場合に対する形状計測装置の簡易斜視図である。
【図10】1台のカメラと2枚の鏡を用いた場合に対する形状計測装置の簡易斜視図である。
【図11】(a)輝度分布、および(b)位相分布を示す図である。
【図12】位相シフト量と輝度との関係を示す図である。
【図13】全空間テーブル化手法による形状計測の原理を表す図である。
【図14】ある画素に対する位相値とx、yおよびz座標との対応関係を示す図である。
【図15】(a)再サンプリング前、および(b)再サンプリング後の位相分布データの計測点を示す図である。
【図16】(a)および(b)は、(a)計測結果の平均値を用いる場合、および(b)本発明の合成処理によるz座標分布を示す図であり、(c)は、本発明による各z座標位置におけるz座標分布を示す図である。
【図17】計測対象物である試料およびその表面形状を示す図である。
【図18】(a)〜(d)は、2台のカメラにより撮影された試料の実像および鏡像の画像を示す図であり、(e)は、合成された画像を示す図である。
【図19】(a)〜(d)は、2台のカメラにより撮影された試料の実像および鏡像の画像に対する高さ分布および位相評価値を示す図であり、(e)は、合成された画像に対する高さ分布を示す図である。
【図20】ハレーションが発生した場合の計測対象物の画像である。
【図21】本発明の一実施例による形状計測装置により得られた形状計測結果と、合成された画像を示す図である。
【図22】校正処理における画像を撮影するフローチャートを示す図である。
【図23】校正処理における空間座標テーブルを作成するフローチャートを示す図である。
【図24】本発明の形状計測方法のフローチャートを示す図である。
【図25】本発明の形状計測方法における画像の合成処理のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[形状計測装置]
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
本発明の形状計測装置は、計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影部と、計測対象物の周囲に配置された少なくとも1つの鏡と、計測対象物および鏡に映る計測対象物の鏡像を撮影する少なくとも1つの撮影部と、計測対象物の画像と鏡像の画像の各々に対して位相解析処理を施して計測対象物の形状を算出するとともに撮影された前記計測対象物の画像と前記鏡像の画像とを合成する解析処理部とを備える。ここで、撮影部の各々は、計測対象物の少なくとも一部の領域と該少なくとも一部の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されていることが肝要である。
【0022】
図1は、本発明の一実施例の形状計測装置を示す図である。この形状計測装置100は、z軸用光源1と、z軸用格子ガラス2と、第1のレンズ3と、ピエゾステージ4と、ペルチェ冷却装置5と、第1のカメラ6および第2のカメラ7と、基準点投光用レーザー8と、第1の鏡9および第2の鏡10と、基準平板11と、xy軸用光源12と、xy軸用格子ガラス13と、z軸移動ステージ14と、解析処理部15とを備える。
【0023】
この形状計測装置100において、計測対象物Oは基準平板11上に載置され、該基準平板11の周囲には、計測対象物Oを映す2枚の鏡(第1の鏡9および第2の鏡10)が配置されている。
基準平板11の上方には、計測対象物Oに格子模様を投影する格子模様投影部として、z軸用光源1と、z軸用格子ガラス2と、第1のレンズ3と、ピエゾステージ4が設けられている。ここで、z軸用光源は、その照射方向が−z方向に向けられている。
【0024】
また、撮影部として2台のカメラ(第1のカメラ6および第2のカメラ7)が設けられている。その各々は、y方向から見て、その撮影方向がz軸と45°の角度をなすように下向き(即ち、−z軸方向)に配置されており、かつ、第1のカメラ6および第2のカメラ7は、z方向から見て、撮影方向が互いに直交するように配置されている。ここで、第1のカメラ6および第2のカメラ7の各々は、計測対象物Oにおいて、形状を計測したい所望の領域と、この所望の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されている。
【0025】
一方、基準平板11の下方には、xy軸用格子ガラス13と、xy軸用光源12とが設けられており、更にその下方には、基準平板11に接続され、基準平板11(即ち、基準面11a)をz軸方向に移動させるz軸移動ステージ14が設けられている。これらは、全空間テーブル化手法に基づいて、位相値と空間座標との相関である空間座標テーブルを作成するために使用される。以下、形状計測装置100の各構成要素について説明する。
【0026】
z軸用光源1は、z軸用格子ガラス2を介して、計測対象物Oおよび基準面11a上に格子模様を投影するための光を照射する。この光は、格子模様を安定して投影できれば特に限定されない。例えば、発光ダイオード(Light Emission Diode,LED)を使用することができる。本実施例においては、z軸用光源1は、その照射方向が基準平板11の法線方向と平行になるように配置されているが、計測対象物Oおよび基準面11aに格子模様が投影できれば、配置は特に限定されない。
【0027】
z軸用格子ガラス2は、図2に示すような1次元の格子模様を有しており、z軸用光源1により照射された光を通過させて、1次元の格子模様を計測対象物Oに投影するために用いられる。
【0028】
第1のレンズ3は、z軸用光源1から照射され、z軸用格子ガラス2を通過した光を集光して、計測対象物Oおよび基準面11aに格子模様を投影するように配置する。
【0029】
ピエゾステージ4は、z軸用格子ガラス2に結合されており、z軸格子ガラス2をシフトさせる。これにより、計測対象物Oおよび基準面11aに投影された1次元の格子模様をシフトさせることができる。このピエゾステージ4は、図2に示すような、z軸用格子ガラス2に描かれた1次元の格子模様がシフトするように、即ち、1次元格子模様である所定の間隔で配置された多数の直線が、直線に平行ではない方向にシフトするように、z軸用格子ガラス2に結合させる。
【0030】
これらz軸用光源1と、z軸用格子ガラス2と、第1のレンズ3と、ピエゾステージ4とからなる格子模様投影部は、上記構成に限定されず、計測対象物O上に1次元の格子模様を投影し、格子模様をシフト可能に構成されていればよい。上記構成の代わりに、例えば液晶プロジェクタを用いることもできる。
【0031】
ペルチェ冷却装置5は、基準平板11の上方の装置の最も高い位置にて下向きに設置されており、装置全体が過熱されないように冷却する。
【0032】
第1のカメラ6および第2のカメラ7は、図3に示すように、計測対象物Oおよび基準平板11の周囲に配置された鏡に映された鏡像O’の画像を撮影する。そのために、カメラの各々は、計測対象物Oと鏡に映された鏡像O’の双方を同時に視野に納まり撮影可能となる位置に配置するようにする。本実施例においては、上述のように、第1のカメラ6および第2のカメラ7の各々は、y方向から見て、その撮影方向がz軸と45°の角度をなすように下向き(即ち、−z軸方向)に配置されており、また、第1のカメラ6および第2のカメラ7は、z軸方向から見て、それぞれの撮影方向が互いに直交するように、また、対面する鏡面の法線方向と平行になるように配置されている。しかし、上記の要件、即ち、カメラの各々が、計測対象物Oと鏡に映された鏡像O’の双方を同時に視野に納めて撮影可能となる位置に配置されていれば、カメラの設置位置や撮影方向等は限定されない。
これら第1のカメラ6および第2のカメラ7としては、例えばCMOSカメラやCCDカメラを用いることができる。
【0033】
尚、カメラから見て、図5に示すように、計測対象物Oとその鏡像O’とが完全に分離されている必要はなく、鏡像O’の一部が、計測対象物Oに隠れていても構わない。この場合、隠れていない領域のみが位相解析処理の対象となる。
また、形状を計測したい領域(所望の計測領域)は、必ずしも計測対象物Oの全体とは限らない。その場合には、カメラの各々が、計測対象物Oの所望の計測領域(即ち、計測対象物Oの少なくとも一部の領域)と、鏡に映される所望の計測領域の鏡像とが同時に視野に収まり撮影可能となる位置に配置されていればよい。また、カメラから見て、上記所望の計測領域とその鏡像は、上記所望の計測領域と完全に分離されている必要はなく、鏡像の一部が所望の計測領域に隠れていても構わない。この場合にも、隠れていない領域のみが位相解析処理の対象となる。
【0034】
基準点投光用レーザー8は、基準平板11の上方に設置されており、計測対象物Oまたは基準面11a上の適切な位置にレーザー光を照射し、撮影された計測対象物Oの画像と、鏡に映る鏡像O’の画像とを合成する際に、両画像における同一の位置が特定できるような基準点(目印)を表示する。本実施例においては、レーザー光により基準点を表示するが、これに限定されず、例えば計測対象物O上や基準面11a上の適切な位置に予め基準点をマーキングしておいてもよい。
【0035】
第1の鏡9および第2の鏡10は、基準平板11の周囲に設けられ、計測対象物Oの鏡像O’を映すために設けられている。本実施例においては、図1に示すように、2枚の鏡は、基準面11aに対して直交し、更に互いの鏡面が直交して接するように配置されている。これらの鏡の配置は、上述のように、カメラの各々が、計測対象物Oと鏡に映る計測対象物Oの鏡像とを同時に撮影可能なように配置されていれば、特に限定されない。
図5に、格子模様を基準平板11上に載置された計測対象物O上に投影し、第2の鏡10に鏡像O’が映る様子を示す。これらの鏡を用いて、1台のカメラで計測対象物Oと鏡に映る鏡像を同時に撮影することは、2台のカメラを用いて、計測対象物Oを2つの異なる位置から撮影することと同じである。つまり、1台のカメラを用いるだけで、異なる位置に配置されたカメラ2台による計測結果を得ることができるのである。
また、鏡の設置により、鏡が無い場合には撮影が不可能な部分を撮影することも可能になる。そのため、計測対象物Oの全体が撮影可能となるように鏡を配置することにより、計測対象物Oの全体の形状を測定することも可能になる。
【0036】
ここで、図1に示すように、2枚の鏡を極めて近い位置に接近(または接触)させて配置する場合には、z軸用光源1から光が照射されると、計測対象物Oや第1の鏡9および第2の鏡10により反射や散乱された光が互いに干渉してしまい、形状計測を精度良く行えない場合がある。その場合には、図6に示すように、迷光防止壁16を鏡に設けることにより、形状計測を阻害する光の干渉を抑制することができる。この迷光防止壁16は、上記の干渉を抑制することができれば、大きさや形状、素材等は問わない。
【0037】
基準平板11は、計測対象物Oの形状を計測する際に該計測対象物Oを載置するとともに、全空間テーブル化手法に基づいて位相値と空間座標との相関である空間座標テーブルを作成する際に用いられる基準面11aをその表面に有している。本実施例においては、計測対象物Oの形状計測と、空間座標テーブルの作成とに使用する光源が異なっており、形状計測用の光源(z軸用光源1)は基準平板11の上方に、また、空間座標テーブル作成用の光源(xy軸用光源12)は基準平板11の下方にそれぞれ配置されている。そこで、基準平板11として、50mm×50mmのオパール層ガラスを使用し、基準面11a上に上下方向(即ち、±z軸方向)から格子模様を投影可能となるように構成されている。また、後述する校正の精度を確保するために、基準平板11の表面は、研磨により散乱面となるような加工処理が施されており、得られた散乱面を基準面11aとして上向き(即ち+z方向)に配置されている。
【0038】
図7は、z軸用光源1により、基準面11aの上方からz軸用格子ガラス2を介して1次元格子模様が投影された基準面11aと、第2の鏡10に映った鏡像を示している。また、図8は、xy軸用光源12により、基準面11aの下方からxy軸用格子ガラス13を介して2次元格子模様が投影された基準面11aと、第2の鏡10に映った鏡像を示している。
基準平板11の材料としては、オパール層ガラスに限定されず、基準面11aの上方から形状計測のための1次元格子模様を投影でき、下方から校正のための2次元格子模様を投影できれば、特に限定されない。
【0039】
xy軸用光源12は、図2に示すように、LED点光源12aと、ピンホール板12bと、第2のレンズ12cとを有し、平行光に近い光を照射できるように構成されている。即ち、LED点光源12aから照射された光は、ピンホール板12bの穴を通って点光源となり、レンズ12cにより略平行光となった後に、xy軸用格子ガラス13を通過する。
【0040】
xy軸用格子ガラス13は、全空間テーブル化手法に基づいて、空間座標テーブルを作成する際に用いられ、基準面11aに投影するための2次元の格子模様が描かれている。このxy軸用格子ガラス13は、基準平板11の直下に配置されている。xy軸用格子ガラス13は、図2に示すように、それぞれ1次元の格子模様が描かれた2枚ガラス(x軸ガラス13aおよびy軸ガラス13b)を、それぞれの格子模様が互いに直交するように重ね合わせることにより構成されている。このような構成の代わりに、2次元の格子模様が描かれた1枚の格子ガラスを用いることもできる。
【0041】
z軸移動ステージ14は、基準平板11に結合されており、xy軸用プロジェクタ12の下方に設置されている。このz軸移動ステージ14は、図5に示すように、基準平板11(即ち、基準面11a)をz軸方向に移動させる。本実施例においては、z軸移動ステージ14tとして、0.1μmの精度で位置決めができるフィードバック機能付きの1軸ステージを使用しており、形状計測時における計測対象物Oの高さ(即ち、z座標)調整や、全空間テーブル化手法に基づいて空間座標テーブルを作成する際の基準面11aの高さ調整のために使用される。
【0042】
解析処理部15は、カメラにより撮影された、計測対象物Oの画像および鏡に映る鏡像の画像に対して位相解析処理を施すことにより計測対象物Oの形状を算出する。ここで、位相解析手法は特に限定されないが、本実施例においては、一例として、後述する位相シフト法を用い、また、全空間テーブル化手法に基づいて位相値と空間座標との相関である空間座標テーブルを各画素に対して予め作成して保存しておく。これにより、位相シフト法を用いて画像の各画素の位相値が求まれば、空間座標(x、yおよびz座標)、即ち、計測対象物Oの形状を直ちに求めることができる。
また、本実施例においては、2台のカメラと2枚の鏡を使用することにより、4方向から撮影された複数の画像が得られる。このため、解析処理部15は、得られた計測対象物Oの画像と鏡像O’の画像を合成する。この合成は、撮影された異なるカメラで撮影された画像や鏡像O’の画像を、後述するように、適切に回転または反転処理を施した後に行う。合成方法は特に限定されず、例えば画像データを単純に平均化することにより行うことができ、また本発明において使用する、後述する所定の評価値に基づいて行うこともできる。
また、複数の鏡およびカメラにより、1つのカメラの視野に入らない計測対象物Oの裏側が鏡に映されるため、撮影された画像を組み合わせることにより、計測対象物Oの全周囲の形状を測定することが可能になる。
また、計測対象物が、例えば電子部品であり、金属部分が含まれる場合や、計測対象物が曲面を有する場合に、形状計測のための光を照射するとハレーションが発生する場合があるが、カメラの位置が異なると、ハレーションが発生する位置も異なるため、異なる位置のカメラにより撮影された画像を合成することにより、ハレーションの影響を低減して、計測対象物の形状を精度良く求めることもできる。
【0043】
尚、上記の実施例の形状計測装置100は、撮影部として2台のカメラ(第1のカメラ6および第2のカメラ7)と、2枚の鏡(第1の鏡9および第2の鏡10)とを備えているが、カメラおよび鏡の数は限定されない。例えば、図9に示す形状計測装置200のように、第1の実施例である形状計測装置100における2台のカメラ(第1のカメラ6および第2のカメラ7)の代わりに1台のカメラ(カメラ26)を、2枚の鏡(第1の鏡9および第2の鏡10)の代わりに1枚の鏡(鏡30)をそれぞれ備えるようにし、他の構成は形状計測装置100と同一にすることができる。ここで、形状計測装置100と構成が異なる部分についてのみ、符号が付けられている。
【0044】
また、図10に示す形状計測装置300のように、形状計測装置100における2台のカメラ(第1のカメラ6および第2のカメラ7)の代わりに1台のカメラ(カメラ36)を備えて他の構成は形状計測装置100と同一にし、カメラ36を、計測対象物Oおよび3つの鏡像を同時に撮影可能に構成することもできる。ここで、形状計測装置100と構成が異なる部分についてのみ、符号が付けられている。これにより、1台のカメラにより、異なる方向を向いた4つのカメラから撮影したのと同様の効果を得ることができる。
【0045】
このような形状計測装置100を使用することにより、一度に複数方向から計測対象物の形状を計測することが可能になるため、一方向からの撮影では得られない計測対象物の裏側の形状を測定することができる。
また、複数のカメラにより撮影された画像を合成することにより、計測対象物に金属が含まれる場合や、計測対象物の形状が曲面を有する場合にも、ハレーションの影響を低減して計測対象物の形状を精度良く算出することができる。
【0046】
(位相シフト法)
ここで、本発明において位相解析処理の一例として使用する位相シフト法および全空間テーブル化手法について説明する。まず位相シフト法について説明する。
図11は、格子画像の輝度分布と位相分布の関係を表す図である。図11(a)は、格子の輝度分布を表し、図11(b)は、格子の位相分布をそれぞれ表す。また、図12は、位相シフト量と位相シフトした時の輝度変化の関係を表す図である。
格子や干渉縞の輝度値I(x,y)は、一般に、図12(a)に示すように、空間(x,y)上に余弦波状に分布している。これを式で表すと、式(1)のようになる。
ここで、点(x,y)は、撮影された画像内の一点であり、a(x,y)およびb(x,y)は、それぞれ輝度振幅と背景輝度を表し、θ(x,y)は、格子の位相値を表す。格子が撮影された画像(以下、「格子画像」と称する)の場合、位相は実数全体で表すことができるが、0から2πまでの2π周期の繰り返しと見ることもできる。図11(b)は、θ(x,y)の分布を0から2πまでの繰り返しとして表現したものである。
【0047】
位相シフト法は、格子の位相を1周期分だけ変化させながら複数枚の格子画像を撮影し、得られた複数の画像から位相分布を求める手法である。全ての画素において、輝度は1周期分変化するため、その輝度変化から各点ごとに独立して、即ち、周囲の画素の輝度変化の情報を使わずに位相値を求めることができる。そのため、段差や不連続のある物体の形状計測に有効な手法である。ここでは、最も一般的に用いられている、π/2ずつ位相シフトされた4つの輝度値から位相値を求める場合(即ち、位相シフト回数が4回の場合)を例に、位相シフト法の原理について説明する。
【0048】
式(1)で示した格子の輝度分布の式に、位相シフト量αを追加すると式(2)となる。
図12に、初期位相θをもつ点(画素)における位相シフト量αと輝度変化の関係を示す。初期位相とは、位相シフト量が0の時の格子の位相を意味している。位相シフト量が0からπ/2ずつ変化した場合の輝度をそれぞれI0,I1,I2およびI3とすると、これらは、それぞれ式(3)〜(6)のように表すことができる。尚、以下の式では(x,y)の表記を省略する。
【0049】
これらの式から、以下の式(7)および(8)が得られる。
さらに、式(7)および(8)から、以下の式(9)が導かれ、この関係式より位相値θを求めることができる。即ち、位相シフト量が0、π/2、πおよび3π/2の場合の輝度、I0,I1,I2およびI3が得られれば、この画素に対する位相値θが求まるのである。
【0050】
ここで、位相シフトの回数(即ち、0から2πまでの刻み数)を多くすることにより、カメラのランダムノイズの影響を低減することができる。位相シフト回数をN、位相シフト量が2πk/Nの時の輝度をIkとすると、式(10)が導かれ、この関係式より位相値θを求めることができる。
こうして、位相シフト法により、画像上の各画素における位相値θを求めることができる。
【0051】
(校正方法)
次に、位相シフト法により各画素に対して求められた位相値から、空間座標(x、y、z)、即ち、計測対象物の形状を算出する方法について説明する。
本発明においては、従来技術のように、位相値と空間座標を対応付ける変換式を用い、この変換式に用いられるパラメータを求める方法は使用しない。即ち、本発明においては、投影された格子の位相値と空間座標の対応関係を、カメラの画素毎に予め求めてテーブル化しておく方法を採用し、これを校正(キャリブレーション)と呼ぶ。この校正処理により、計測対象物に投影された格子の位相値が得られれば、従来手法のように変換式を用いた座標の計算をせずに、得られた空間座標テーブルを参照するだけで、計測対象物の表面の空間座標、即ち計測対象物の形状を直ちに求めることができる。
【0052】
(全空間テーブル化手法)
図13は、全空間テーブル化手法(例えば、特開2008−281491号公報参照)による形状計測の原理を表す図である。図13(a)に示すように、z軸方向(高さ方向)に垂直に設置された基準面を、z軸方向に少しずつ平行移動させる。カメラとプロジェクタは、基準面の上方に固定しておく。プロジェクタからは、格子模様が基準面に投影される。この時、投影される格子模様は等間隔である必要は特にない。この投影される格子の位相は、上述の位相シフト法によって容易に算出することができる。
ここで、カメラのある1画素が、図13(b)に示す直線L上の点を撮影しているとする。この画素は、基準面の位置R0,R1,R2,...RNに応じて、それぞれ点P0,P1,P2,...PNを撮影することになる。それぞれの点における位相値θ0,θ1,θ2,...θNは、位相シフト法によって求めることができる。
【0053】
図13(b)に、1画素の撮影ラインLと基準面上の空間座標(x,y,z)との関係を示す。1画素が撮影している各基準面上の点P0,P1,P2,...PNについては、基準面に投影された2次元の格子模様からx座標およびy座標を得て、基準面の位置からz座標を得る。ここで、xおよびy座標については、様々な方法、例えばフーリエ変換格子法により、x方向およびy方向の位相値をそれぞれ求め、更に位相接続を行うことにより、各点におけるx座標およびy座標をそれぞれ得ることができる(例えば、特許第3281918号公報参照)。
【0054】
こうして、各基準面の位置毎に、投影格子の位相値θに対するx座標、y座標およびz座標を画素毎に得られることになる。投影された2次元格子模様の位相値θは、基準面の位置でしか得られないが、基準面の間隔を小さくして、その間を補間することにより、全ての位相値に対する空間座標を精度よく求めることができる。
【0055】
上記の校正手法により、位相値θ0,θ1,θ2,...θNとx座標x0,x1,x2,...xN、y座標y0,y1,y2,...yNおよびz座標z0,z1,z2,...zNの関係が画素毎にそれぞれ得られる。これらの関係を、図14の(a)〜(c)に黒点で示す。
位相値θに対するx,yおよびz座標は、それぞれ滑らかに変化する。位相値θを等間隔に分割し、対応するx,yおよびz座標をそれぞれ補間して求めることにより空間座標テーブルを作成する。格子投影法の場合は、一般的な配置では、位相値と座標の対応関係は滑らかな曲線状になるため、線形補間で十分な精度が期待できるが、もちろん高次の補間を行ってもよい。図14においては、線形補間を行い、黒点間を結んだ直線上の点として空間座標テーブルを作成する。図14においてKで示した区間については、外挿することにより位相値と空間座標との相関を求めることができる。
【0056】
こうして、全空間テーブル化手法に基づいて、位相値θと空間座標(x、yおよびz座標)との相関である空間座標テーブルを作成することができる。また、投影格子の位相接続を行う場合でも、同様の考え方により、位相接続後の位相と空間座標の関係をテーブル化することができる。位相接続を行うことにより、z方向の計測可能範囲を広げることができる。
【0057】
(計測対象物の形状計測)
まず、図13(a)に示すように、基準面R0とRNとの間に計測対象物を設置する。この計測対象物に、校正処理の時と同一の格子模様を投影する。その結果、直線L上を撮影する画素は、計測対象物上の点Pを撮影することになり、その点に投影されている格子模様の位相値θpが、その画素の位相値として得られることになる。
次に、予め作成しておいた空間座標テーブルを参照することにより、得られた位相値θpに対応するx、yおよびz座標を求めることができる。即ち、図14(a)に示すように、得られた位相値θpに対応するx座標xpは、x座標のテーブルを参照するだけで直ちに得られる。同様に、y座標とz座標についても、位相値θpからy座標およびz座標のテーブルを参照することのみにより、直ちに得ることができるのである。
こうして、予め作成しておいた空間座標テーブルを参照することにより、得られた位相値θpから、空間座標を求めることができ、計測対象物の形状を高速に計測することができる。
【0058】
(再サンプリング処理)
上記の形状計測方法により得られた形状計測結果は、カメラの画素が撮影する点の座標分布として求められるため、図15(a)に示すように、xy平面に対して等間隔ではない座標分布として得られる。しかし、異なる位置に配置された複数のカメラにより撮影された画像や、実像の画像と鏡像の画像を合成する際には、図15(b)に示すように、xy平面において等間隔にサンプリングされた点の空間座標を得る必要がある。そのために、以下のような再サンプリング処理を行う。
【0059】
まず、xおよびy座標を知りたい点Psを囲む3つの点Pa、PbおよびPcを探し出す。次に、この3点を通る平面と、サンプリング点Psのxy座標からz方向に垂直に伸ばした直線との交点を再サンプリング点のz座標とする。こうして再サンプリング処理を行うことにより、図15(b)に示すように、xy平面において等間隔にサンプリングされた点の空間座標を得ることができる。
【0060】
また、本発明の一実施例の形状計測装置100においては、z方向から見て2台のカメラの撮影方向が互いに直交するように配置されているため、第1のカメラにより撮影された画像と第2のカメラにより撮影された画像を合成するためには、一方の画像に対して90°だけ回転処理を施す必要があり、また、各々のカメラで撮影された各画像において、鏡像の画像に対しては画像反転処理を施す。第1のカメラと第2のカメラとの間の配置関係が形状計測装置100と異なる場合には、その配置関係に基づいて、画像の回転、および回転処理を適切に行うようにする。
【0061】
(位相評価値に基づく画像合成方法)
複数方向からの形状計測結果に対して、前述の再サンプリング処理や画像反転処理および/または画像回転処理を施した画像の空間座標を基に、画像の合成処理を行う。ここで、画像の合成処理は、画素毎に、高さ情報(z座標)を合成することにより行うことができる。
【0062】
この合成方法は限定されず、例えば画像データを単純に平均して行うこともでき、また、重み付けをして平均することにより行うこともできる。本発明においては、撮影された複数の画像の画像データが、信頼性のあるものか否かを判定する指標となる位相評価値を予め求めておき、得られた位相評価値に基づいて画像の合成を行う。この位相評価値として何を使用するかについても限定されない。本発明においては、各画素における輝度値の変化に対してフーリエ変換を行い、高次周波数のパワースペクトルの総和に対する一次周波数ω1のパワースペクトルの比として定義する。この場合、輝度の振幅が大きい場合(即ち、輝度の変化が大きい場合)に位相評価値は大きくなり、輝度のサチュレーションや輝度の振幅が小さい場合(即ち、輝度の変化が小さい場合)、または、データにランダムノイズが含まれる場合には、位相評価値は小さくなる。そのため、位相評価値は、位相値の信頼性を確認できる値であり、画像合成時には、合成する画像データの取捨選択するための指標として利用することができる。
【0063】
これを踏まえ、画像の合成処理は、画素毎に各方向からの高さ(z方向の位置)情報の平均値を求める処理であるが、前述した位相評価値についても画素毎に参照し、位相評価値が、所定の閾値を下回るデータに関しては、これを平均化する値として用いないことにより、信頼性の低いデータを排除した精度の高い計測結果を得ることができる。
【0064】
本発明においては、位相評価値E(i,j)の計算には、以下の式(11)を用いる。ここで、F(ωn)は、周波数ωnのパワースペクトルの大きさを表し、また、Nは、最も高い周波数に対応する次数を表している。
【0065】
こうして、各画素において、式(11)により求まる位相評価値が所定の閾値を超える画像データのみを合成することにより、信頼性の低いデータを排除した精度の高い合成画像を得ることができる。
【0066】
以下に、上述した合成処理をより具体的に説明する。ここでは、2台のカメラと2枚の鏡とを備える形状計測装置100を用いて計測している。精度確認のため、まず基準面を計測対象物とし、高さ(z座標)を変更しながら、基準面の形状測定を行った。ここで、位相シフト回数は4回とした。
【0067】
図16は、基準面のz軸の位置が500μmにおけるz座標の分布図を示している。ここで、(a)は、4方向(即ち、第1のカメラの実像と鏡像および第2のカメラの実像と鏡像)から撮影された画像の画像データの全てを平均した値を、(b)は、本発明の方法により、位相評価値に基づいて撮影された4枚の画像を合成して得られた結果を示している。これらの図から明らかなように、本発明の合成処理を施すことにより、高さのばらつきが低減されて、計測精度が向上していることが分かる。(c)は、基準面のz軸の各位置における本発明の合成処理を施したz座標分布を示しており、どの位置においても、計測精度が向上していることが分かる。
【0068】
次に、図17に示す、超硬合金からなる計測対象物である試料の形状計測結果について説明する。この試料の表面には、万能投影機(V−12BS型 NO.1300021)およびデジマイクロ(MF−501NO.EO1523)を用いて予め測定された、図17の表に示す段差が存在し、(a)から(f)に進むに従って、約10μmずつ高くなっている。ここで、この段差部の形状計測結果に注目する。尚、校正および計測は、位相シフト回数を16回とし、上述のように連続して5枚の画像を撮影して画像データを平均し、ランダムノイズの影響を低減した。
【0069】
図18は、計測された試料全体の高さ(z座標)分布図を示す図である。また、図19は、図18に示す結果を基に、図18に示す位置jにおけるx方向の位置iと高さ(z座標)分布を示した図である。それぞれの図において、(a)は、第1のカメラの実像の画像、(b)は、第1のカメラの鏡像の画像、(c)は、第2のカメラの実像の画像、(d)は、第2のカメラの鏡像の画像、および(e)は、合成された画像を示している。ここで、合成の際の位相評価値の閾値は15である。
【0070】
この図19(a)〜(d)に示すように、4つの方向から撮影された各画像における高さのばらつきが大きいのに対し、図19(e)に示すように、本発明の画像合成処理により、高さのばらつきが小さくなり、計測精度が向上していることが分かる。
【0071】
図20は、アルミニウムからなる計測対象物Oである試料を撮影して得られた画像である。この図から明らかなように、ハレーションが発生しており、この状態では、この画像のみから計測対象物Oの形状を正確に計測することができない。
【0072】
図21は、2台のカメラおよび2枚の鏡を備える本発明の形状計測装置100により、この試料を4方向から撮影した画像を示している。図21(a)〜(d)は、第1のカメラおよび第2のカメラにより撮影された実像および鏡像の画像とそれぞれの位相評価値とを示しており、図21(e)は、本発明の方法により合成した画像を示している。図21(a)〜(d)の画像から明らかなように、各画像の高さ分布は、ハレーションにより影響を受けてノイズが含まれているが、図21(e)に示した合成された画像においては、ハレーションの影響は大きく低減されていることが分かる。このように、本発明の形状計測装置100により、計測対象物Oが金属からなり、ハレーションが発生する場合にも、計測対象物Oの形状を精度良く計測することができる。
【0073】
[形状計測方法]
次に、本発明の形状計測方法について説明する。本発明の形状計測方法は、位相解析処理において、その一例として全空間テーブル化手法に基づく位相シフト法を使用するが、これに限定されない。全空間テーブル化手法に基づく位相シフト法を使用する場合には、位相値と空間座標との相関である空間座標テーブルを画素毎に予め作成する校正を行い、得られた空間座標テーブルを保存しておく必要がある。そのためには、複数の基準面位置におけるz軸とxy軸の格子投影画像と基準点投光画像を撮影しておく必要がある。まず、校正方法における、格子投影画像と基準点投光画像を撮影する校正方法について説明する。
【0074】
(校正用画像の撮影処理)
図22は、本発明の校正方法における、格子投影画像および基準点投光画像の撮影処理のフローチャートを示している。
まず、z軸移動ステージ14を移動させて、基準面11aを所定の位置に動かす。次に、ピエゾステージ3を所定の位置に移動させることにより、位相シフト回数に応じたシフト量だけz軸用格子ガラス2をシフトさせた後、z軸用光源1であるLEDを点灯させ、第1のカメラ6および第2のカメラ7により、基準面11に投影された格子模様および鏡に映された格子模様の鏡像を撮影する。ここで、画像の撮影は1回だけ行うのではなく、所定の回数、例えば5回行い、画像データの平均をとって新たに画像データとすることにより、カメラのランダムノイズの影響を低減することもできる。撮影が終わった後、z軸用光源1を消灯し、撮影された画像を解析処理部15に保存する。上記のピエゾステージ14の移動から画像の保存までの一連の処理を、予め設定された位相シフト回数に達するまで繰り返し行う。
【0075】
上述のz軸用格子投影画像の撮影に続き、基準面のz座標は変えずに、xy軸用2次元格子画像撮影と基準点画像の撮影を連続して行う。
即ち、まず、xy軸用光源12を点灯させ、第1のカメラ6および第2のカメラ7により、基準面11aに投影された2次元の格子模様および鏡に映された格子模様の鏡像を撮影する。撮影が終わった後、xy軸用光源12を消灯し、撮影された画像を解析処理部15に保存する。
【0076】
同様に、基準点投光用レーザー8を点灯させ、第1のカメラ6および第2のカメラ7により、基準面11aに投光された基準点および鏡に映された基準点の鏡像を撮影する。ここで、校正処理の場合と同様に、画像の撮影は1回だけ行うのではなく、所定の回数、例えば5回行い、画像データの平均をとって新たに画像データとすることにより、カメラのランダムノイズの影響を低減することもできる。撮影が終わった後、基準点投光用レーザー8を消灯し、撮影された画像を解析処理部15に保存する。
【0077】
こうして、基準面11aの1つの位置に対して、校正に必要な画像が得られる。次いで、z軸移動ステージ14により、基準面11aを所定の大きさだけ移動させた後、上記の全ての処理を繰り返す。
以上を、所定の回数(規定された基準面の枚数)だけ繰り返すことにより、校正に必要な画像の撮影処理が完了する。
【0078】
(校正処理)
図23は、図22に示した処理により撮影された画像を用いて校正を行い、空間座標テーブルを作成する処理のフローチャートを示している。
まず、上述した位相シフト法により、図22に示した処理において撮影された位相シフト回数分の撮影画像に対して位相解析を行い、各画素に対する位相値を求める。
次に、xy軸座標の位相解析前に、図23の処理において、基準点投光用レーザー8を点灯した状態で撮影された画像を基に、画像における基準点の位置を探索する。
【0079】
続いて、例えばフーリエ変換格子法により、撮影された2次元格子画像を基に、x軸およびy軸の位相値を求める。
その後、得られたx軸およびy軸の各位相値に対して位相接続を行い、各方向に対して一意の位相に変換される。その際、位相接続の中心点に、探索された基準点を用いる。
上記の全ての処理を、規定の基準面の枚数分だけ繰り返すことにより、全画素に対して、基準面の各位置におけるx、yおよびz方向の位相値を求めることができる。
【0080】
各基準面位置での位相値を求めた後、空間座標(x、yおよびz座標)を算出する。空間座標は、まず、z座標については、各画素において必要なテーブル位置のz軸の位相値が、上述の処理により求められた複数枚の位相のうち、どの位置に存在するかを求め、位相からの距離を基に、指定位置の位相値を算出した後、この位相値と基準面の移動距離とから求めることができる。また、xおよびy座標に関しては、上記の処理により求められた位相値と投影格子の1ピッチの長さから座標値を求めることができる。空間座標を取得する際に、空間内のz軸上のテーブル枚数(要素数)に関しては、予め任意に指定することができる。指定した枚数分の空間座標テーブルを作成して校正処理は完了となる。
こうして、全空間テーブル化手法に基づいて空間座標テーブルが作成される。
【0081】
(形状計測処理)
図24は、計測対象物Oの形状を計測する処理のフローチャートを示している。
まず、計測対象物Oを基準面11a上に載置し、次に、計測対象物Oの高さに応じて、z軸移動ステージ14により基準面11aを任意の位置に移動させる。
続いて、図19に示したz軸用投影格子撮影処理と同様に、ピエゾステージ3を所定の位置に移動させることにより、位相シフト回数に応じたシフト量だけz軸用格子ガラス2をシフトさせた後、z軸用光源1であるLEDを点灯させ、第1のカメラ6および第2のカメラ7により、計測対象物Oに投影された格子模様と鏡に映された鏡像O’を撮影する。撮影が終わったら、z軸用光源1を消灯し、撮影された画像を解析処理部15に保存する。上記のピエゾステージ14の移動から画像の保存までの一連の処理を、予め設定された位相シフト回数に達するまで繰り返し行う。
【0082】
その後、撮影された位相シフト回数分の画像を基に、例えば位相シフト法により位相解析を行い、各画素に対する位相値を求める。ここで、図22および図23に示した処理により作成された空間座標テーブルを参照することにより、求められた位相値から空間座標が得られ、計測対象物Oの形状を求めることができる。こうして、撮影された各画像に対する形状計測処理が完了する。
最後に、複数の形状計測結果に対して図25に示す合成処理を施すことにより、1つの形状計測結果を得ることができる。
【0083】
(合成処理)
複数の画像を合成するためには、各画像で同位置となる一点を探索しておく必要がある。そのため、校正処理の場合と同様に、まず、基準点投光用レーザー8を点灯し、次に基準面11a上に投光された基準点の画像を撮影した後、基準点投光用レーザー8を消灯して撮影した画像を解析処理部15に保存する。
次に、撮影された画像上の基準点を探索する。
続いて、撮影された全ての画像の位相評価値(PEV)を算出する。
その後、撮影された画像が鏡像を撮影したものであるか否かの判定を行い、鏡像である場合には、画像を反転させる画像反転処理を行う。
続いて、撮影された画像が第1のカメラにより撮影されたものであるか否かの判定を行い、第1のカメラにより撮影されたものでない場合には、画像を90°回転させる処理を行う。ここで90°回転させるのは、形状計測装置100においては、第1のカメラおよび第2のカメラを図1および図4に示すように配置したためであり、第1のカメラと第2のカメラとの間の配置関係が形状計測装置100と異なる場合には、その配置関係に基づいて、画像の回転、および回転処理を適切に行うようにする。
【0084】
次に、全ての画像に対して、上述した再サンプリング処理を施し、計測されたxy座標を同一の座標系に再配置する。
最後に、同一の向きおよび同一の座標系に再配置された画像の計測結果に対して、各画像に対して求められた位相評価値が、所定の閾値を下回る場合にはデータを捨て、残されたデータの平均値を算出することにより、合成処理を行う。
【0085】
こうして、本発明の形状計測方法により、一度に複数方向から計測対象物の形状を計測することが可能になるため、一方向からの撮影では得られない計測対象物の裏側の形状を測定することができる。
また、複数のカメラにより撮影された画像を合成することにより、計測対象物に金属が含まれる場合や、計測対象物の形状が曲面を有する場合にも、ハレーションの影響を低減して計測対象物の形状を精度良く算出することができる。
【0086】
以上、具体例を挙げて本発明を詳細に説明してきたが、本発明の特許請求の範囲から逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能であることは当業者に明らかである。例えば、構成することも可能である。従って、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、一度に複数方向から計測対象物の形状を計測することが可能になり、また、ハレーションの影響を低減して、計測対象物の形状を精度良く計測できるため、電子部品の検査、人体計測、医療用計測、及び小型生物の立体観察や立体計測等に有用である。
【符号の説明】
【0088】
1 z軸用光源
2 z軸用格子ガラス
3 第1のレンズ
4 ピエゾステージ
5 ペルチェ冷却装置
6 第1のカメラ
7 第2のカメラ
8 基準点投光用レーザー
9 第1の鏡
10 第2の鏡
11 基準平板
11a 基準面
12 xy軸用光源
12a LED点光源
12b ピンホール板
12c 第2のレンズ
13 xy軸用格子ガラス
13a x軸用格子ガラス
13b y軸用格子ガラス
14 z軸移動ステージ
15 解析処理部
16 迷光防御壁
O 計測対象物
O’ 計測対象物の鏡像
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象物の形状を計測する装置であって、
前記計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影部と、
前記計測対象物の周囲に配置された少なくとも1つの鏡と、
前記計測対象物および前記鏡に映る前記計測対象物の鏡像を撮影する少なくとも1つの撮影部と、
撮影された前記計測対象物および前記鏡像の画像の各々に対して位相解析処理を施して前記計測対象物の形状を算出するとともに撮影された前記計測対象物の画像と前記鏡像の画像とを合成する解析処理部と、
を備え、前記撮影部の各々は、前記計測対象物の少なくとも一部の領域と該少なくとも一部の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されていることを特徴とする形状計測装置。
【請求項2】
計測対象物の形状を計測する装置であって、
前記計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影部と、
前記計測対象物の周囲に配置された少なくとも1つの鏡と、
前記計測対象物および前記鏡に映る前記計測対象物の鏡像を撮影する少なくとも1つの撮影部と、
を備え、前記撮影部の各々は、前記計測対象物の少なくとも一部の領域と該少なくとも一部の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されていることを特徴とする形状計測装置。
【請求項3】
前記鏡の各々に対して迷光防止壁を設けることを特徴とする、請求項1または2に記載の形状計測装置。
【請求項4】
2つの鏡と2つの撮影部とを備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の形状計測装置。
【請求項5】
2つの鏡と1つの撮影部とを備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の形状計測装置。
【請求項6】
周囲に少なくとも1枚の鏡が配置された計測対象物の形状を計測する方法であって、
前記計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影ステップと、
前記計測対象物と前記鏡に映る前記計測対象物の鏡像とを同時に撮影する画像撮影ステップと、
前記格子模様を所定の大きさだけシフトさせる位相シフトステップと、
撮影された前記実像および前記鏡像の画像の各々に対して位相解析処理を施して前記計測対象物の形状を算出する形状算出ステップと、
を含み、該形状算出ステップは、前記画像撮影ステップと、前記位相シフトステップとを所定の回数だけ繰り返した後に行うことを特徴とする形状計測方法。
【請求項7】
前記位相解析処理は、全空間テーブル化手法に基づいて位相値と空間座標とを関連づけるテーブルを予め画素毎に作成しておき、該テーブルを参照して、位相シフト法により求められた各画素の位相値から空間座標を求めることにより行うことを特徴とする、請求項6に記載の形状計測方法。
【請求項8】
撮影された画像の周波数成分の比に応じた評価値に基づいて、前記計測対象物の画像と前記鏡像の画像とを一枚の画像に合成する合成処理ステップを更に含むことを特徴とする、請求項6または7に記載の形状計測方法。
【請求項1】
計測対象物の形状を計測する装置であって、
前記計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影部と、
前記計測対象物の周囲に配置された少なくとも1つの鏡と、
前記計測対象物および前記鏡に映る前記計測対象物の鏡像を撮影する少なくとも1つの撮影部と、
撮影された前記計測対象物および前記鏡像の画像の各々に対して位相解析処理を施して前記計測対象物の形状を算出するとともに撮影された前記計測対象物の画像と前記鏡像の画像とを合成する解析処理部と、
を備え、前記撮影部の各々は、前記計測対象物の少なくとも一部の領域と該少なくとも一部の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されていることを特徴とする形状計測装置。
【請求項2】
計測対象物の形状を計測する装置であって、
前記計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影部と、
前記計測対象物の周囲に配置された少なくとも1つの鏡と、
前記計測対象物および前記鏡に映る前記計測対象物の鏡像を撮影する少なくとも1つの撮影部と、
を備え、前記撮影部の各々は、前記計測対象物の少なくとも一部の領域と該少なくとも一部の領域の鏡像とを同時に撮影可能に配置されていることを特徴とする形状計測装置。
【請求項3】
前記鏡の各々に対して迷光防止壁を設けることを特徴とする、請求項1または2に記載の形状計測装置。
【請求項4】
2つの鏡と2つの撮影部とを備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の形状計測装置。
【請求項5】
2つの鏡と1つの撮影部とを備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の形状計測装置。
【請求項6】
周囲に少なくとも1枚の鏡が配置された計測対象物の形状を計測する方法であって、
前記計測対象物に格子模様を投影する格子模様投影ステップと、
前記計測対象物と前記鏡に映る前記計測対象物の鏡像とを同時に撮影する画像撮影ステップと、
前記格子模様を所定の大きさだけシフトさせる位相シフトステップと、
撮影された前記実像および前記鏡像の画像の各々に対して位相解析処理を施して前記計測対象物の形状を算出する形状算出ステップと、
を含み、該形状算出ステップは、前記画像撮影ステップと、前記位相シフトステップとを所定の回数だけ繰り返した後に行うことを特徴とする形状計測方法。
【請求項7】
前記位相解析処理は、全空間テーブル化手法に基づいて位相値と空間座標とを関連づけるテーブルを予め画素毎に作成しておき、該テーブルを参照して、位相シフト法により求められた各画素の位相値から空間座標を求めることにより行うことを特徴とする、請求項6に記載の形状計測方法。
【請求項8】
撮影された画像の周波数成分の比に応じた評価値に基づいて、前記計測対象物の画像と前記鏡像の画像とを一枚の画像に合成する合成処理ステップを更に含むことを特徴とする、請求項6または7に記載の形状計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2012−127704(P2012−127704A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277516(P2010−277516)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成22年11月20日発行 発行者 日本実験力学会 日本実験力学会講演論文集 NO10−2(2010)第10ページ〜第15ページに発表 2.平成22年11月27日発表 日本実験力学会分科会合同ワークショップ2010で発表したスライド
【出願人】(504145283)国立大学法人 和歌山大学 (62)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成22年11月20日発行 発行者 日本実験力学会 日本実験力学会講演論文集 NO10−2(2010)第10ページ〜第15ページに発表 2.平成22年11月27日発表 日本実験力学会分科会合同ワークショップ2010で発表したスライド
【出願人】(504145283)国立大学法人 和歌山大学 (62)
【Fターム(参考)】
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