説明

微生物の多重検出方法

食品に存在する病原性大腸菌O157、リステリアモノサイトゲネス、サルモネラ属菌等の汚染微生物を、1本のPCR反応チューブで複数の標的遺伝子の増幅を行い、それを解析することで、公定法と同等又はそれ以上の高い感度で検出することができる微生物の多重検出方法を提供するものである。
(A)少なくとも、アクロモペプチダーゼ、リゾチーム等の溶菌酵素及び/又はエンテロリシン等の溶菌活性を持つバクテリオシンと界面活性剤とタンパク質変性剤で処理することにより、検出対象微生物のDNAを抽出する工程と、(B)検出対象微生物に特異的なプライマーを混合し、マルチプレックスPCRを行う工程を順次行う。また、上記(A)の検出対象微生物のDNAを抽出する工程の前に、1CFU/100gの微生物が18〜48時間培養後に10CFU/ml以上となる培養条件下、例えば培養後のpHが5.1以上となる培養条件下で培養する工程を設けることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品に存在する病原性大腸菌O157、リステリアモノサイトゲネス、サルモネラ属菌等の微生物を、1本のPCR反応チューブで複数の標的遺伝子の増幅を行い、それを解析することで、公定法と同等又はそれ以上の高い感度で検出することができる微生物の多重検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マルチプレックスPCRを利用する微生物の多重検出方法は、よく知られている。例えば、野菜・果実を対象として病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスの各菌を多重検出する方法(例えば、非特許文献1参照)、食品中の病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌を多重検出する方法(例えば、非特許文献2参照)、牛乳を対象として病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネス、カンピロバクター属菌の各菌を多重検出する方法(例えば、非特許文献3参照)、食品中のサルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスを多重検出する方法(例えば、非特許文献4参照)、食品中の病原性大腸菌O157等の大腸菌を多重検出する方法(例えば、非特許文献5参照)、牛乳を対象として病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスの各菌を多重検出する方法(例えば、非特許文献6参照)などが報告されている。また、マルチプレックスPCR用のプライマーとして、大腸菌の検出用プライマー(例えば、特許文献1参照)、病原性大腸菌O157のO抗原検出用プライマー(例えば、特許文献2参照)も知られている。
【0003】
他方、微生物のDNAを抽出する方法として、結核菌等のマイコバクテリウムに溶菌酵素アクロモペプチダーゼ等を用いる方法(例えば、特許文献3参照)、グラム陰性、陽性菌に溶菌酵素アクロモペプチダーゼ等を用いる方法(例えば、特許文献4参照)、レジオネラ菌にプロテアーゼKやアクロモペプチダーゼ等を用いる方法(例えば、特許文献5参照)、大腸菌などにタンパク変性剤、還元剤、界面活性剤、キレート剤等を用いる方法(例えば、特許文献6参照)などが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−95576号公報
【特許文献2】特開平11−332599号公報
【特許文献3】特開平6−165676号公報
【特許文献4】特表平9−500793号公報
【特許文献5】特開平5−317033号公報
【特許文献6】特開平6−289016号公報
【非特許文献1】Japanese Journal of Food Microbiology, Vol.19, No2, 47-55, 2002
【非特許文献2】Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology, 21, 92-98, 1998
【非特許文献3】Milchwissenschaft, 55 (9), 500-503, 2000
【非特許文献4】Journal of Food Protection, Vol.64, No11, 1744-1750,2001
【非特許文献5】Molecular and Cellular Probes, 13, 291-302, 1999
【非特許文献6】Food Microbiology, 20, 345-350, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1種類の微生物をPCR法によって検出する方法は既に確立されているが、複数の微生物をPCR法で同時に検出する方法は、食品分野で検討されつつあるものの、未だ十分に信頼できる方法は確立されていないというのが現状である。本発明の課題は、食品に存在する病原性大腸菌O157、リステリアモノサイトゲネス、サルモネラ属菌等の汚染微生物を、1本のPCR反応チューブで複数の標的遺伝子の増幅を行い、それを解析することで、公定法と同等又はそれ以上の高い感度で検出することができる微生物の多重検出方法を提供することにある。すなわち、複数の対合プライマーを組み合わせて行うPCR法として知られているマルチプレックスPCRを用いて、病原性大腸菌O157、リステリアモノサイトゲネス、サルモネラ属菌等の汚染微生物を簡便に、かつ高い感度で再現性よく検出することができる微生物の多重検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(培養)
危害の高い病原菌は、食品中で「陰性」(25g中に含まれていないこと)であることが定められており、その検出には、公定法と同等以上の精度が求められる。食品25g中1CFUレベルの微量に汚染した微生物を検出するためには、増菌培養が不可欠である。増菌培養する場合、通常、対象の病原菌ごとに個別に選択性のある培地を使用して培養するが、同時に数種の微生物を検出するために、増菌についても、1種の培地で複数の微生物を同時に増殖させるための検討を行った。なるべく短時間(例えば、24時間以内)で検出できる培養条件を設定するが好ましく、そのためには、特に培地の選択が重要となる。同時に増菌することは、対象微生物同士が同科あるいは同属菌種、または発育特性が似ていれば比較的容易であるが、異種で発育特性が異なる微生物の場合は難しい。例えば、病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスを検出対象とした場合、これら病原菌3菌種中で、サルモネラ、O157に比べて、低温発育性であるリステリアは増殖が遅いという問題があった。
【0007】
そこで、他の細菌が混在した中でも、特にリステリアが十分に増殖できるように、リステリアにとって好ましい栄養源を持つ培地で、炭水化物が少なく、緩衝能が高い培地について検討したところ、培地No.17(トリプトース10g、肉エキス5g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム5g、グルコース0.5g、リン酸ニナトリウム7g、リン酸一カリウム15g/1L中)は、トリプトソーヤブイヨンやBHI(ブレインハートインフュージョン)、BPW(Buffered peptone Water)よりも3種混在中でリステリアの増殖が最も良く、サルモネラとO157もリステリアより増殖が早かった。このことから、3種同時に検出するためには培地No.17が良いと考えられた。
【0008】
(DNA)
PCR反応を行う際、DNAの抽出を行うが、DNAの抽出では溶菌操作が必要となる。グラム陽性細菌の溶解は、より厚くより高密度なペプチドグリカン層が主要細菌細胞壁成分であるため、グラム陰性細菌よりもかなり困難である。今回の技術ではサルモネラ、O157などのグラム陰性菌に加え、リステリアというグラム陽性菌も同時に検出する、という点で困難であった。また、食品からの抽出という点では、食品残渣は多様性なものであり、溶菌法を1種類に特定するのは困難である。特に畜肉などに代表される検体では高タンパク、高脂肪、かつ個体差があるので、溶菌が一定の効率で行われないという、DNA抽出の上での困難性が存在した。さらに検討したところ、トリプトソーヤブイヨン、ミューラーヒントンブロスなど、培養する培地の違いによって、リゾチームだけでは細胞が壊れない(=DNAが抽出できない)リステリアがあった。培養条件は、たとえ同じ培地を使用しても食品の種類が異なったり、損傷程度が異なることで変わってくると考えられる。また、場合によっては、より回復の良い培地を用いる必要性があるため、どのような場合でも細胞が壊れる抽出方法が必要であった。
【0009】
一般的なDNA抽出法として、ボイル法やアルカリ−SDS法が知られているが、ボイル法ではリステリアが高感度に抽出できないことを確認した。SDSは、DNA抽出において使用しやすい界面活性剤として知られているが、強力なPCR阻害剤であるため、抽出に用いた後には、完全に除去しなければならない。未習熟な実験者においても熟練者と同様の効果と結果が得られるようにするためには、SDSのように低濃度の混入でも反応に影響を与える物質は好ましくなく、SDSは熟練者との抽出効率差が現われる原因になりうる危害要因と判断した。また、フェノール、クロロホルムは、危険で人体に有害な有機溶媒であり、この処理を行うことによってDNAの精製度は良くなるが、抽出効率に技術的な個人差が現われることが容易に想像でき、一定の感度が保障できない。また、特別な廃液処理が必要となることから、食品製造現場での検査法には適合しない抽出法であるということもできる。そこで、未習熟・熟練者においても操作が容易であり、かつDNAの抽出効率(言い換えれば検出感度)が一定であることが期待でき、さらに、食品製造現場で実行できる簡便さ・安全さを備えており、畜肉に代表される高タンパクな食品からもDNA抽出が可能な方法を開発する必要性があった。
【0010】
培養液を5μmのフィルターを通すことで大きな食品くずを取り除き、その後溶菌酵素液(アクロモペプチターゼとリゾチームの混合液)を混合し、37℃で1時間処理後、界面活性剤[ツィーン20(Tween20)]とタンパク質変性剤(グアニジンイソチオシアネート)の混合液を加えて完全に菌体を溶解できることがわかった。また、アクロモペプチダーゼの代わりにエンテロリシンのような溶菌活性を持つバクテリオシンを利用しても完全に菌体を溶解できることがわかった。遠心分離により不溶画分を取り除き、アルコール沈殿を行いDNAを抽出した。処理の順番はアクロモペプチターゼがリゾチームより先、もしくは一緒に行い、あるいはエンテロリシンがリゾチームより先、もしくは一緒に行い、その後ツィーン20処理後、グアニジンイソチオシアネート処理、もしくはツィーン20とグアニジンイソチオシアネート処理を一緒に行うことが極めて好ましいことがわかった。ツィーン20は粘性が高く、単独で加えることが難しいため混合添加することが望ましいこともわかった。
【0011】
また、フェノール、クロロホルム処理を行わなくても、アルコール沈殿やDNA抽出液添加量(PCR反応液50μlに対し2μl)によって、PCRで問題なく検出できる程度に可溶化したタンパク質を除くことができた。ツィーン20はPCR反応液にも使われるもので、SDSに比べ阻害が少なく、未習熟な実験者でも扱いが容易であると考えられた。また、もちろん、この抽出法はおのおの単独菌種での抽出においても可能である。さらに、(1)アクロモペプチターゼ単独、(2)リゾチーム単独、(3)エンテロリシン単独、(4)アクロモペプチターゼ処理後グアニジンイソチオシアネート+ツィーン20処理、(5)リゾチーム処理後グアニジンイソチオシアネート+ツィーン20処理、(6)エンテロリシン処理後グアニジンイソチオシアネート+ツィーン20処理、(7)プロテイナーゼK、(8)プロテイナーゼK処理後グアニジンイソチオシアネート+ツィーン20処理、(9)グアニジンイソチオシアネート+ツィーン20処理、(10)グアニジンイソチオシアネート+ツィーン20処理+加熱処理、の各方法についても試みたが、これらいずれの方法も、アクロモペプチターゼとリゾチームで併用処理し、あるいはエンテロリシンとリゾチームで併用処理し、その後ツィーン20とグアニジンイソチオシアネートで処理する前記方法の方が、リステリアの高感度の抽出において優れていた。
【0012】
(PCR反応)
数種の菌を同時に検出する方法としてマルチプレックスPCRを採用した。複数の対合プライマーを組み合わせて行うPCR法であるマルチプレックスPCR法には、互いにプライマーダイマーを生成したり、識別バンドが互いに干渉したり、重複したりすることがなく、融解温度の近い対合プライマーを選定して用いた。プライマーの選択や混合割合により、反応のしやすさ、検出限界に差が出てくることもわかった。マルチプレックスPCRを行う場合には、その後の判定に用いる電気泳動像に3菌種のバンドが同じような濃さで検出するようにプライマーの混合割合を調整する必要がある。3菌種が同じDNA濃度(20pg)のとき、3種菌のバンドが同様の濃さで検出できるよう、調整した。例えば、プライマーとして、配列番号1〜6で示される塩基配列からなるDNAを使用した場合、6種のプライマーの混合割合は、サルモネラ用プライマー各120nM、リステリア用プライマー各100nM、O157用プライマー各80nMが、配列番号5〜10で示される塩基配列からなるDNAを使用した場合、サルモネラ用プライマー各60nM、リステリア用プライマー各60nM、O157用プライマー各240nMが最も理想的な配合量であった。さらに低濃度の混合割合である、サルモネラ用プライマー各30nM、リステリア用プライマー各25nM、O157用プライマー各20nM(配列番号1〜6で示される塩基配列からなるDNA使用時)、あるいは、サルモネラ用プライマー各15nM、リステリア用プライマー各15nM、O157用プライマー各60nM(配列番号5〜10で示される塩基配列からなるDNA使用時)においても検討したが、電気泳動による目視での検出が可能ではあるが困難であったことから、上記濃度が好ましいことがわかった。
【0013】
また、PCR反応では、最終産生量が10−8M程度まで標的遺伝子を増幅できることが知られている。PCR反応では通常1菌種につき200nM程度のプライマーを加えて行うが、多重検出の場合、各菌種についてこのプライマー量を加えることは明らかに過剰であることがわかった。特にマルチプレックス反応の場合、その過剰なプライマーによる生成産物(これは非標的産物を含む)により優位な反応のみが結果として得られる可能性が高い。このため、PCR反応においてプライマー量を制限することで最終産物量を制限することとマルチプレックス反応との関係を考慮した。もちろん、PCR反応にはプライマーダイマーなどを代表とする非増幅産物もプライマーを消費するため、下限の濃度は存在するが、検出器の感度最低限のプライマー濃度を設定することにより、より複数のマルチプレックス反応を成功させる可能性が期待できることもわかった。言い換えれば、プライマーの下限の濃度を検出器の感度に合わせることで、より複数の検出が期待できる。電気泳動や蛍光プローブ法、キャピラリー電気泳動法などによる検出器の限界を考慮した上で、50nM程度以上での反応を行わざるを得ず、3種類の病原菌の検出を確認したが、検出器の感度上昇によってこの濃度を低く設定することができ、より多くの標的を一度に検出できると考えられる。より高感度な増幅産物検出法が実現した際には上記の考えを踏まえた上で最終産物量を制御することにより、より多数のマルチプレックスPCRによる多重同時検出を実現できることもわかった。
【0014】
すなわち本発明は、(1)食品中の2種以上の異なる特性の微生物を、1本のPCR反応チューブで複数の標的遺伝子の増幅を行い、それを解析することで公定法と同等、又はそれ以上の高い感度で検出する方法であって、
(A)少なくとも、溶菌酵素及び/又は溶菌活性を持つバクテリオシンと界面活性剤とタンパク質変性剤とで処理することにより、検出対象微生物のDNAを抽出する工程と、
(B)検出対象微生物に特異的なプライマーを混合し、マルチプレックスPCRを行う工程と
を含むことを特徴とする微生物の多重検出方法や、(2)検出対象微生物のDNAを抽出する工程の前に、1CFU/100gの微生物が24時間培養後に103CFU/ml以上となる培養条件下で培養する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の微生物の多重検出方法や、(3)2種以上の異なる特性の微生物が、リステリアモノサイトゲネスを含むことを特徴とする上記(1)又は(2)記載の微生物の多重検出方法や、(4)特異的なプライマーが、配列番号5及び6に示される塩基配列からなるプライマーであることを特徴とする上記(3)記載の微生物の多重検出方法や、(5)2種以上の異なる特性の微生物が、病原性大腸菌O157を含むことを特徴とする上記(1)又は(2)記載の微生物の多重検出方法や、(6)特異的なプライマーが、配列番号1及び2、又は配列番号7及び8に示される塩基配列からなるプライマーであることを特徴とする請求項5記載の微生物の多重検出方法や、(7)2種以上の異なる特性の微生物が、サルモネラ属菌を含むことを特徴とする上記(1)又は(2)記載の微生物の多重検出方法や、(8)特異的なプライマーが、配列番号3及び4、又は配列番号9及び10に示される塩基配列からなるプライマーであることを特徴とする上記(7)記載の微生物の多重検出方法に関する。
【0015】
また本発明は、(9)培養後のpHが5.1以上となる培養条件下で培養することを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれか記載の微生物の多重検出方法や、(10)グルコース濃度が0.15%以下の培地、及び/又は、リン酸緩衝液の濃度が50mM以上若しくはそれと同等の緩衝能を有する培地で培養することを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれか記載の微生物の多重検出方法や、(11)溶菌酵素及び/又は溶菌活性を持つバクテリオシンを作用させた後、界面活性剤とタンパク質変性剤で処理し、遠心分離により不溶画分を取り除き、アルコール沈殿によりDNAを析出して抽出することを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれか記載の微生物の多重検出方法や、(12)溶菌酵素が、アクロモペプチダーゼ及び/又はリゾチームであることを特徴とする上記(1)〜(11)のいずれか記載の微生物の多重検出方法や、(13)溶菌活性を持つバクテリオシンが、エンテロリシンであることを特徴とする上記(1)〜(12)のいずれか記載の微生物の多重検出方法や、(14)界面活性剤が、ソルビタンモノラウラートのエチレンオキシド縮合物であることを特徴とする上記(1)〜(13)のいずれか記載の微生物の多重検出方法や、(15)タンパク質変性剤が、グアニジンイソチオシアネートであることを特徴とする上記(1)〜(14)のいずれか記載の微生物の多重検出方法や、(16)プライマーとして、配列番号1〜6で示される塩基配列からなるDNAを合計750nM以下の濃度で組み合わせてマルチプレックスPCRを行うことを特徴とする上記(1)〜(15)のいずれか記載の微生物の多重検出方法や、(17)プライマーとして、配列番号5〜10で示される塩基配列からなるDNAを合計750nM以下の濃度で組み合わせてマルチプレックスPCRを行うことを特徴とする上記(1)〜(15)のいずれか記載の微生物の多重検出方法や、(18)食品が、食肉又は食肉加工品であることを特徴とする上記(1)〜(17)のいずれか記載の微生物の多重検出方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、食品に存在する病原性大腸菌O157、リステリアモノサイトゲネス、サルモネラ属菌等の微生物を、1本のPCR反応チューブで複数の標的遺伝子の増幅を行い、それを解析することで公定法と同等又はそれ以上の高い感度で簡便に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の微生物の多重検出方法としては、食肉、食肉加工品、牛乳、野菜等の食品中の2種以上の異なる特性の微生物を、1本のPCR反応チューブで複数の標的遺伝子の増幅を行い、それを解析することで公定法と同等、又はそれ以上の高い感度で検出する方法であって、(A)少なくとも、溶菌酵素及び/又は溶菌活性を持つバクテリオシンと界面活性剤とタンパク質変性剤とで処理することにより、検出対象微生物のDNAを抽出する工程と、(B)検出対象微生物に特異的なプライマーを混合し、マルチプレックスPCRを行う工程とを含む方法であれば特に制限されないが、上記(A)の検出対象微生物のDNAを抽出する工程の前に、1CFU/100gの微生物が24時間培養後に103CFU/ml以上となる培養条件下で培養する工程を含むことが好ましい。また、検出対象の微生物としては、食品の汚染微生物であればどのようなものでもよく、リステリアモノサイトゲネス、病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、カンピロバクター属菌、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌、エルシニア属菌、大腸菌群、セレウス菌、コレラ菌、赤痢菌、ボツリヌス菌などを具体的に例示することができる。また、公定法としては、「食品衛生検査指針」(1990年 社団法人 日本食品衛生協会)に説明されている方法をいい、具体例が実施例9において説明されている。
【0018】
本発明の微生物の多重検出方法によると、食品25g中1CFUレベルの微量に汚染した微生物を検出することが可能となるが、本発明の微生物の多重検出方法においては、食品汚染微生物の培養工程が極めて重要である。食品汚染微生物の増菌培養における培養条件としては、1CFU/100gの微生物が48時間培養後、好ましくは30時間培養後、特に好ましくは24時間培養後、中でも18時間培養後に10CFU/ml以上となる培養条件を挙げることができるが、さらに緩衝能を有する培地を用いて培養後のpHが5.1以上となる培養条件下で培養することや、グルコース濃度が0.15%以下の培地、及び/又は、リン酸緩衝液の濃度が50mM以上若しくはそれと同等の緩衝能を有する培地で培養するのが好ましい。リン酸緩衝液以外の緩衝液としては、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、乳酸緩衝液、酒石酸緩衝液、リンゴ酸緩衝液、トリス緩衝液、MOPS緩衝液、MES緩衝液を挙げることができる。
【0019】
本発明の微生物の多重検出方法においては、培養増殖させた食品汚染微生物からのDNA抽出工程が必須とされる。かかるDNA抽出工程としては、少なくとも、溶菌酵素及び/又は溶菌活性を持つバクテリオシンと界面活性剤とタンパク質変性剤とで処理することにより、検出対象微生物のDNAを抽出する工程であれば特に制限されないが、溶菌酵素及び/又は溶菌活性を持つバクテリオシンを作用させた後、界面活性剤とタンパク質変性剤で処理し、遠心分離により不溶画分を取り除き、アルコール沈殿によりDNAを析出して抽出する方法を好適に例示することができる。上記溶菌酵素としては、アクロモペプチダーゼ、リゾチーム、プロテアーゼK、キトサナーゼ、キチナーゼ、β−1,3−グルカナーゼ、ザイモリアーゼ、セルラーゼ等を挙げることができ、溶菌活性を持つバクテリオシンとしては、エンテロリシン、ヘルベティシンを挙げることができる。これらは1種又は2種以上用いることができるが、中でもアクロモペプチダーゼ、リゾチーム、エンテロリシンやこれらの組合せ、例えば、アクロモペプチダーゼとリゾチームとの併用、エンテロリシンとリゾチームとの併用を好適に例示することができる。上記界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤を挙げることができ、中でも非イオン界面活性剤であるソルビタンモノラウラートのエチレンオキシド縮合物、より具体的には、ツィーン20を好適に挙げることができる。上記タンパク質変性剤としては、グアニジンイソチオシアネート、尿素、塩酸グアニジン、トリクロロ酢酸、SDS、Triton X−100、デオキシコール酸等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上用いることができるが、中でも溶菌効果や取扱い易さの点でグアニジンイソチオシアネートが好ましい。溶菌物からのDNAの抽出・析出は、遠心分離により不溶画分を取り除き、アルコール沈殿を行うなど、公知の方法により行うことができる。
【0020】
本発明の微生物の多重検出方法においては、前記抽出したDNAと、検出対象微生物に特異的なプライマーを混合し、マルチプレックスPCRを行う工程が必須とされる。使用するプライマーとしては、検出対象微生物特異的なプライマーであって、互いにプライマーダイマーを生成したり、識別バンドが互いに干渉したり、重複したりすることがなく、融解温度の近い対合プライマーを選択することが好ましい。また、その後の判定に用いられる電気泳動像に出現するバンドが同じような濃さで検出しうるようにプライマーの混合割合を調整することが好ましい。例えば、病原性大腸菌O157に特異的なプライマーセットとしては、配列番号1及び2、配列番号7及び8、配列番号11及び12、配列番号13及び14などに示される塩基配列からなるDNAが、サルモネラ属菌に特異的なプライマーセットとしては、配列番号3及び4、配列番号9及び10、配列番号15及び16などに示される塩基配列からなるDNAが、リステリアモノサイトゲネスに特異的なプライマーセットとしては、配列番号5及び6、配列番号17及び18、配列番号19及び20などに示される塩基配列からなるDNAを挙げることができ、これらを組み合わせて用いることができるが、中でも配列番号1〜6又は配列番号5〜10で示される塩基配列からなるDNAの組み合わせが最も好ましく、この場合、合計750nM以下の濃度でプライマーを混合することが好ましく、また配列番号1〜6を用いた場合、6種のプライマーの混合割合はサルモネラ用プライマー各120nM、リステリア用プライマー各100nM、O157用プライマー各80nMが、配列番号5〜10を用いた場合、サルモネラ用プライマー各60nM、リステリア用プライマー各60nM、O157用プライマー各240nMが最も好ましい。
【0021】
PCR後の検出法としては、電気泳動法、蛍光プローブ法、キャピラリー電気泳動法、定量PCR法などにより行うこともできる。特に、定量PCRの場合は、プライマーとして配列番号5〜10で示される塩基配列からなるDNAを用い、蛍光プローブに配列番号21〜23で示される塩基配列からなるDNAを用いることにより検出することができる。
【0022】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
(既存培地での同時培養)
病原性大腸菌O157はEscherichia coli O157:H7 ATCC43894、サルモネラ属菌はSalmonella enteritidis IFO3313、リステリアモノサイトゲネスはListeria monocytogenes ATCC49594を用いた。また、肉由来菌には、シュードモナス(Pseudomonas fragi)、シトロバクター(Citrobacter freundii)、ラクトバチルス(Lactobacillus viridescens)、ロイコノストック(Leuconostoc mesenteroides)の4株を用いた。試験培地にはトリプトソーヤブイヨン(TSB;日水製薬社製)、及び、Buffered Peptone Water(BPW;ペプトン10g、塩化ナトリウム5g、リン酸一水素ナトリウム3.5g、リン酸ニ水素カリウム1.5g/1L)の2つの培地を用いた。
【0024】
病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスを各1CFU/100ml、肉由来菌を各10CFU/100mlになるように試験培地に接種した。35℃で培養し、経時的に一般生菌数、O157数、サルモネラ数、リステリア数を計測した。一般生菌数は標準寒天培地(日水製薬社製)を用い、35℃で48時間培養後の総コロニー数、O157数はデソキシコレート寒天培地(日水製薬社製)を用い、35℃で24時間培養後の大腸菌様のコロニー数、サルモネラ数はMLCB寒天培地(日水製薬社製)を用い、35℃で24時間培養後のサルモネラ様のコロニー数、リステリア数はPALCAM寒天培地(Merck社製)を用い、35℃で48時間培養後のリステリア様のコロニー数をそれぞれ測定した。結果を図1に示す。その結果、いずれの培地でも特にリステリアモノサイトゲネスの増殖が弱かった。培養液のpHを測定したところ、pHの低下が認められた。
【実施例2】
【0025】
(培地の緩衝能および糖濃度の影響)
実施例1でリステリアモノサイトゲネスの増殖が弱かったのは培養後の培地のpHが低下したことが原因と考えられたため、各菌の増殖に及ぼす培地の緩衝能および糖濃度の影響を調査した。基本培地(トリプトース10g、肉エキス5g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム5g/1L中)に、リン酸ニナトリウムおよびリン酸一カリウムを加えてリン酸濃度を15mMから200mMまで調整し(pH6.3)、グルコースの濃度を0%から0.25%まで変化させて加えて、試験培地を作製した。実施例1で使用した、病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスを各1CFU/100ml、肉由来菌を各10CFU/mlになるように各試験培地に接種した。35℃で培養し、18、24、30、48時間後の一般生菌数、O157数、サルモネラ数、リステリア数、pHを計測した。結果を表1に示す。
【0026】
その結果、グルコース濃度0.15%以下の培地、またはリン酸濃度50mM以上の培地、または培養後のpHを5.1以上に保持する培地を用いることによって病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスとも18時間以上培養することで10CFU/ml以上(PCRでの検出に必要な菌数)に増殖した。以降の試験には表1のNo.17の培地(トリプトース10g、肉エキス5g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム5g、グルコース0.5g、リン酸ニナトリウム7g、リン酸一カリウム15g/1L中)を選定した。培地成分については、検出の目的とする細菌の存在環境や損傷程度に応じて、トリプトース、肉エキス、酵母エキス以外の窒素源、グルコース以外の炭素源、リン酸以外の緩衝能を持つ物質も有効であり、また、増殖を促進する物質として無機塩類やピルビン酸もしくはピルビン酸塩、ツィーンなどの界面活性剤を添加した方がより好ましかった。
【0027】
【表1】

【実施例3】
【0028】
(DNA抽出方法1)
病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスの各菌をNo.17培地10mlに接種し、35℃で18時間培養した。各培養液をそれぞれ1mlチューブに取り、15,000r.p.mで5分間遠心分離を行い、菌体を回収した。その菌体回収物に溶菌酵素液{20mg/mlのアクロモペプチダーゼ10μlと20mg/mlのリゾチーム10μlとTEバッファー[1mM EDTAを含む10mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液、pH8]180μlの混合液}を加え、37℃で1時間処理後、溶菌剤(ツィーン20を1〜2%添加した4Mグアニジンイソチオシアネート溶液)を300μl加えて完全に菌体を溶解した。この溶液を光学顕微鏡で観察したところ、溶菌が十分に行われていることが確認できた。この溶液を15,000r.p.mで5分間遠心分離し、上澄み400μlを別のチューブに移し、溶液中のDNAをイソプロパノールで沈殿させた後、遠心分離して目的のDNAを得た。また、アクロモペプチダーゼの代わりに、エンテロリシンを用いても、同様に溶菌が十分に行われていることが確認できた。
【実施例4】
【0029】
(DNA抽出方法2)
同様に、病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスの各菌をNo.17培地10mlに接種し、35℃で18時間培養した。各培養液をそれぞれ1mlチューブに取り、15,000r.p.mで5分間遠心分離を行い、菌体を回収した。その菌体回収物に溶菌剤(ツィーン20を1〜2%添加した4Mグアニジンイソチオシアネート溶液)を500μl加え、回収物を溶解した。100℃で10分間加熱し、5分間氷冷した。この溶液を光学顕微鏡で観察したところ、病原性大腸菌O157やサルモネラ属菌は溶菌できていたが、実施例3のDNA抽出方法に比べるとリステリアモノサイトゲネスの溶菌の程度が少し劣っていた。また、リステリアモノサイトゲネスの溶菌を、1)菌体回収物に20mg/mlのアクロモペプチダーゼ10μlとTEバッファー190μlの混合液を加え、37℃で1時間処理した液、2)菌体回収物に20mg/mlのリゾチーム10μlとTEバッファー190μlの混合液を加え、37℃で1時間処理した液、3)菌体回収物にエンテロリシン10μlとTEバッファー190μlの混合液を加え、37℃で1時間処理した液、 4)上記1)液に、溶菌剤(ツィーン20を1〜2%添加した4Mグアニジンイソチオシアネート溶液)を300μl加え混合した液、5)上記2)液に、溶菌剤(ツィーン20を1〜2%添加した4Mグアニジンイソチオシアネート溶液)を300μl加え混合した液、6)上記3)液に、溶菌剤(ツィーン20を1〜2%添加した4Mグアニジンイソチオシアネート溶液)を300μl加え混合した液、7)菌体回収物に20mg/mlのプロテイナーゼK1μlとTEバッファー200μlの混合液を加え、37℃で1時間処理した液、8)上記7)液に、溶菌剤(ツィーン20を1〜2%添加した4Mグアニジンイソチオシアネート溶液)を300μl加え混合した液、9)菌体回収物に溶菌剤(ツィーン20を1〜2%添加した4Mグアニジンイソチオシアネート溶液)500μlを加え混合した液をそれぞれ用いて行い、光学顕微鏡で観察を行ったが、いずれもリステリアモノサイトゲネスの溶菌の程度が実施例3のDNA抽出方法に比べると少し劣っていた。
【実施例5】
【0030】
(PCR反応の条件設定)
実施例3で得たDNA抽出液を用いてPCR反応を行った。PCRは、次のプライマーから、検出対象微生物毎に特異的なプライマーを1セットずつ選択して用いた。
配列番号1:GGC GGA TTA GAC TTC GGC TA
配列番号2:CGT TTT GGC ACT ATT TGC CC
配列番号3:GGG AGT CCA GGT TGA CGG AAA ATT T
配列番号4:GTC ACG GAA GAA GAG AAA TCC GTA CG
配列番号5:CGG AGG TTC CGC AAA AGA TG
配列番号6:CCT CCA GAG TGA TCG ATG TT
配列番号7:ATC ATT GAC GAT TGT AGC ACC
配列番号8:ACA TGA GGA GCA TTA ACT TCG
配列番号9:GGG TCG TTC TAC ATT GAC AG
配列番号10:TTC CCT TTC CAG TAC GCT TC
配列番号11:GTA TTT GGA GAC ATG GGA GC
配列番号12:ACT AAT GAC ACG ATT CGT TCC
配列番号13:CGG ACA GTA GTT ATA CCA C
配列番号14:CTG CTG TCA CAG TGA CAA A
配列番号15:AGC TTT GGT CGT AAA ATA AGG
配列番号16:GAT GCC CAA AGC AGA GAG AT
配列番号17:CAA ACT GCT AAC ACA GCT ACT
配列番号18:GCA CTT GAA TTG CTG TTA TTG
配列番号19:ACC AAT GGG ATC CAC AAG A
配列番号20:GAG CTG AGC TAT GTG CGA T
【0031】
PCR反応液は、10×Buffer5μl、dNTP溶液4μl、UNG0.5μl、AmpliTaq Gold 0.25μl、MgCl 10μl(いずれも、アプライドバイオシステムズジャパン社製)、プライマー、DNA抽出液2μlに滅菌水を加えて合計50μlとした。反応条件は50℃で2分保持後、95℃で10分反応させた後、95℃・20秒、60℃・30秒、72℃・30秒を40回繰り返し、72℃で7分保持後、4℃で保管した。PCR産物は2.5%アガロースゲル電気泳動で確認した。配列番号1〜6で示される塩基配列からなるDNAを組み合わせる場合、プライマーの混合割合は病原性大腸菌O157用プライマー(配列番号1、2)各80nM、サルモネラ属菌用プライマー(配列番号3、4)各120nM、リステリアモノサイトゲネス用プライマー(配列番号5、6)各100nMが最も理想的な配合量であった。例えば、さらに低濃度の混合割合である、病原性大腸菌O157用プライマー各20nM、サルモネラ属菌用プライマー各30nM、リステリアモノサイトゲネス用プライマー各25nMにおいても検討したが、アガロース電気泳動による目視での検出は可能ではあるが多少困難であった。また、配列番号5〜10で示される塩基配列からなるDNAを用いた場合、プライマー混合割合は病原性大腸菌O157用プライマー(配列番号7、8)各240nM、サルモネラ属菌用プライマー(配列番号9、10)各60nM、リステリアモノサイトゲネス用プライマー(配列番号5、6)各60nMが最も理想的な配合量であった。その他の病原性大腸菌O157用プライマー(配列番号11、12もしくは配列番号13、14)、サルモネラ属菌用プライマー(配列番号15、16)、リステリアモノサイトゲネス用プライマー(配列番号17、18又は配列番号19、20)についてもそれぞれ混合割合を調整することにより利用できることがわかった。
【0032】
また、配列番号5〜10の組み合わせでは、それぞれの内部配列に特異的な配列番号21〜23を蛍光色素で標識したプローブを用いることによって、定量PCRもしくはハイブリダイゼーション等による検出手法において検出できることがわかった。
配列番号21:CGG ATG ATT TGT GGC ACG AGA AA
配列番号22:TCT GGC ATT ATC GAT CAG TAC CAG CC
配列番号23:AGT TCA AAT CAT CGA CGG CAA CCT CGG A
【実施例6】
【0033】
(反応特異性の確認)
表2に示した病原性大腸菌O157を4株、サルモネラ属菌4株、リステリアモノサイトゲネス10株、病原性大腸菌O157以外のEscherichia coli4株、リステリアモノサイトゲネス以外のリステリア属4株を用いて特異性の確認を行った。各菌株をトリプトソーヤブイヨン(日水製薬社製)で35℃18時間培養し、方法1として、実施例3記載のDNA抽出のうち、溶菌酵素にアクロモペプチダーゼとリゾチームを用いた抽出法を行い、実施例5記載のPCR反応のうち、配列番号1〜6の組み合わせを用いた方法を行った。また、方法2として、実施例3記載のDNA抽出のうち、溶菌酵素にエンテロリシンとリゾチームを用いた抽出法を行い、実施例5記載のPCR反応のうち、配列番号5〜10の組み合わせを用いた方法を行った。PCR反応の結果を2.5%アガロースゲル電気泳動で確認したところ、病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスでは電気泳動像の所定の位置にバンドが検出し、陽性であることが示された。一方、病原性大腸菌O157以外のEscherichia coli、リステリアモノサイトゲネス以外のリステリア属では、バンドが検出せず、陰性菌であることが示され、特異性に問題がないことを確認した。結果を表2に示した。
【0034】
【表2】

【実施例7】
【0035】
(肉成分混在系での検出限界の確認)
実施例1記載の病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスを用いた。各菌を前記No.17培地10mlに接種し、35℃で18時間培養を行い、菌株培養液を得た。また、鶏もも挽肉25gにNo.17培地225mlを加え、30秒間ストマッカーで粉砕し、35℃で18時間培養した。この時の培養液の一般生菌数は3.1×10CFU/mlであった。鶏もも挽肉の培養液を9mlずつ分注し、これに各菌株培養液の10倍段階希釈液1mlをそれぞれ添加し、各菌株培養液の各希釈系列の肉試料液を作製した。それぞれの試料液を5μmのフィルターを通し大きな食品くずを取り除いた後、方法1として、実施例3記載のDNA抽出のうち、溶菌酵素にアクロモペプチダーゼとリゾチームを用いた抽出法を行い、実施例5記載のPCR反応のうち、配列番号1〜6の組み合わせを用いた方法を行った。また、方法2として、実施例3記載のDNA抽出のうち、溶菌酵素にエンテロリシンとリゾチームを用いた抽出法を行い、実施例5記載のPCR反応のうち、配列番号5〜10の組み合わせを用いた方法を行った。それぞれ2.5%アガロースゲル電気泳動により確認した結果、肉試料液での病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスの検出限界は、いずれも10CFU/mlであることを確認した。代表して方法1の結果の電気泳動図を図2に示した。
【実施例8】
【0036】
(接種した食品からの病原菌の検出)
実施例1記載の病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスを用いた。豚挽肉に各菌株が10CFU/25g、10CFU/25g、1CFU/25g、10−1CFU/25gになるようそれぞれ接種した。接種した豚挽肉25gにNo.17培地を225ml加え、ストマッカーで30秒粉砕し、35℃で24時間培養した。各培養液を5μmのフィルターを通すことで大きな食品くずを取り除いた後、方法1として、実施例3記載のDNA抽出のうち、溶菌酵素にアクロモペプチダーゼとリゾチームを用いた抽出法を行い、実施例5記載のPCR反応のうち、配列番号1〜6の組み合わせを用いた方法を行った。また、方法2として、実施例3記載のDNA抽出のうち、溶菌酵素にエンテロリシンとリゾチームを用いた抽出法を行い、実施例5記載のPCR反応のうち、配列番号5〜10の組み合わせを用いた方法を行った。それぞれ、2.5%アガロースゲル電気泳動により確認した。代表して方法1の結果を図3に示す。その結果、いずれの菌株も1CFU/25g存在すればいずれの方法でも検出できることを確認した。病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスなどの危害の高い病原菌は、食品中で「陰性」(25g中に含まれていないこと)であることが定められており、その検出には、公定法と同等以上の精度が求められる。本多重検出法は、公定法と同等以上の精度があることが確認された。
【実施例9】
【0037】
(公定法と多重検出法との比較試験;市販食品からの病原菌の検出)
鶏肉や鶏肝など、20検体をスーパーから購入し、病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスの検査を多重検出法により行うとともに公定法と比較した。また、公定法は、次の通りに行った。
【0038】
病原性大腸菌O157については、検体25gにノボビオシン加mECブロス(極東製薬工業社製)225mlを加え、ストマッカーで30秒粉砕した後、42℃で18時間培養し、クロモアガーO157培地(関東化学社製)およびマッコンキーソルビトール寒天培地(日水製薬社製)に画線し、35℃で18〜24時間培養した。クロモアガーO157培地で藤色、マッコンキーソルビトール培地で半透明のピンク色を示したものを病原性大腸菌O157擬陽性とし、CLIG寒天培地(極東製薬工業社製)に画線し、35℃で18〜24時間培養した。下層が黄色く、上層がピンクでかつ紫外放射により発光しないものを病原性大腸菌O157擬陽性とし、インドール反応を行い、陽性(赤)のものについて凝集反応を行った。凝集反応は大腸菌O157検出キット「UNI」(Oxoid社製)を用いて行った。凝集反応で疑わしいコロニーをクロモアガーO157培地、マッコンキーソルビトール寒天培地、TSI寒天培地(日水製薬社製)、LIM培地(日水製薬社製)に画線し、35℃で24時間培養した。クロモアガーO157培地で藤色、マッコンキーソルビトール寒天培地で半透明のピンク色、TSI寒天培地で黄色、LIM培地で無変化のものについてPCR反応により病原性大腸菌O157であることを確認した。
【0039】
サルモネラ属菌については、検体25gにEEMブイヨン(日水製薬社製)225mlを加え、ストマッカーで30秒粉砕した。35℃で18時間培養し、セレナイトシスチン基礎培地(日水製薬社製)10mlに1ml加え、43℃で15〜18時間培養した。全体あるいは沈殿が赤色を呈したものについて、1白金耳をMLCB寒天培地(日水製薬社製)に画線し、35℃で24時間培養後、黒色のコロニーを生じたものをサルモネラ属菌擬陽性とし、確認試験として、TSI寒天培地、LIM培地に画線した。35℃、24〜48時間培養し、TSI培地で斜面が赤く高層が黒色で、LIM培地で無変化のものをサルモネラ属菌陽性とした。
【0040】
リステリアモノサイトゲネスについては、検体25gにUVMリステリア選択増菌ブイヨン(Merck社製)225mlを加え、ストマッカーで30秒粉砕した。30℃で48時間培養し、PALCAMリステリア選択寒天培地(Merck社製)に1白金耳画線した。35℃で48時間培養し、リステリア属陽性と判定されたものについて、馬血液寒天培地(日水製薬社製)、標準寒天培地(日水製薬社製)に画線して、35℃、24〜48時間培養した。溶血性が陽性のものについてオキシダーゼ反応、カタラーゼ反応、グラム染色、顕微鏡観察、アピリステリア(日本ビオメリュー社製)を行い、リステリアモノサイトゲネスと同定されたものをリステリアモノサイトゲネス陽性とした。
【0041】
多重検出法については次のように行った。検体25gに、No.17培地を225ml加え、ストマッカーで30秒粉砕し、35℃で24時間培養した。培養液を5μmのフィルターを通すことで大きな食品くずを取り除いた後、方法1として、実施例3記載のDNA抽出のうち、溶菌酵素にアクロモペプチダーゼとリゾチームを用いた抽出法を行い、実施例5記載のPCR反応のうち、配列番号1〜6の組み合わせを用いた方法を行った。また、方法2として、実施例3記載のDNA抽出のうち、溶菌酵素にエンテロリシンとリゾチームを用いた抽出法を行い、実施例5記載のPCR反応のうち、配列番号5〜10の組み合わせを用いた方法を行った。それぞれ、2.5%アガロースゲル電気泳動により確認した。結果を表3に示す。
【0042】
その結果、病原菌が検出した検体は、公定法では病原性大腸菌O157 0検体、サルモネラ属菌 3検体、リステリアモノサイトゲネス 6検体、多重検出法ではいずれの方法でも病原性大腸菌O157 0検体、サルモネラ属菌 3検体、リステリアモノサイトゲネス 8検体であり、公定法で陽性であった検体はいずれも多重検出法で陽性であった。また、公定法で陰性、多重検出法で陽性であったリステリアモノサイトゲネス2検体(表3、検体No.5、15)について、No.17での培養液をPALCAMリステリア選択寒天培地(Merck)に画線培養後、形成したコロニーの同定試験を行ったところ、リステリアモノサイトゲネスであることを確認した。このことから、本多重検出法では公定法に比べて同等以上の精度があることを確認した。
【0043】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】トリプトソーヤブイヨン(TSB)およびBuffered Peptone Water(BPW)培地を用いた35℃培養での病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスおよび一般生菌数の挙動を示す図である。
【図2】病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスの各菌株を接種した肉試料液中(一般生菌数:3.1×10CFU/ml)での各菌株の多重検出法による検出限界を示す電気泳動像の図である。
【0045】
M:分子量マーカー
レーン1〜7は、病原性大腸菌O157接種区(一般生菌数:3.1×10CFU/ml)を示し、O157接種量は次の通り。
1:1.1×10CFU/ml、2:1.1×10CFU/ml、3:1.1×10CFU/ml、4:1.1×10CFU/ml、5:1.1×10CFU/ml、6:1.1×10CFU/ml、7:11CFU/ml
レーン8〜14は、サルモネラ属菌接種区(一般生菌数:3.1×10CFU/ml)を示し、サルモネラ接種量は次の通り。
8:5.0×10CFU/ml、9:5.0×10CFU/ml、10:5.0×10CFU/ml、11:5.0×10CFU/ml、12:5.0×10CFU/ml、13:50CFU/ml、14:5CFU/ml
レーン15〜21は、リステリアモノサイトゲネス接種区(一般生菌数:3.1×10CFU/ml)を示し、リステリア接種量は次の通り。
15:1.1×10CFU/ml、16:1.1×10CFU/ml、17:1.1×10CFU/ml、18:1.1×10CFU/ml、19:1.1×10CFU/ml、20:1.1×10CFU/ml、21:11CFU/ml
【図3】病原性大腸菌O157、サルモネラ属菌、リステリアモノサイトゲネスの各菌株を接種した豚挽肉を用い、多重検出法により各菌株を検出した結果を示す電気泳動像の図である。
【0046】
M:分子量マーカー
レーン1〜4は、リステリアモノサイトゲネス接種区を示し、リステリア接種量は次の通り。
1:16CFU/25g、2:1.6CFU/25g、3:0.16CFU/25g、4:0.02CFU/25g
レーン5〜8は、サルモネラ属菌接種区を示し、サルモネラ属菌接種量は次の通り。
5:110CFU/25g、6:11CFU/25g、7:1.1CFU/25g、8:0.11CFU/25g
レーン9〜12は、病原性大腸菌O157接種区を示し、O157接種量は次の通り。
9:850CFU/25g、10:8.5CFU/25g 、11:8.5CFU/25g 、12:0.85CFU/25g

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品中の2種以上の異なる特性の微生物を、1本のPCR反応チューブで複数の標的遺伝子の増幅を行い、それを解析することで公定法と同等、又はそれ以上の高い感度で検出する方法であって、
(A)少なくとも、溶菌酵素及び/又は溶菌活性を持つバクテリオシンと界面活性剤とタンパク質変性剤とで処理することにより、検出対象微生物のDNAを抽出する工程と、
(B)検出対象微生物に特異的なプライマーを混合し、マルチプレックスPCRを行う工程と
を含むことを特徴とする微生物の多重検出方法。
【請求項2】
検出対象微生物のDNAを抽出する工程の前に、1CFU/100gの微生物が24時間培養後に103CFU/ml以上となる培養条件下で培養する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の微生物の多重検出方法。
【請求項3】
2種以上の異なる特性の微生物が、リステリアモノサイトゲネスを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の微生物の多重検出方法。
【請求項4】
特異的なプライマーが、配列番号5及び6に示される塩基配列からなるプライマーであることを特徴とする請求項3記載の微生物の多重検出方法。
【請求項5】
2種以上の異なる特性の微生物が、病原性大腸菌O157を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の微生物の多重検出方法。
【請求項6】
特異的なプライマーが、配列番号1及び2、又は配列番号7及び8に示される塩基配列からなるプライマーであることを特徴とする請求項5記載の微生物の多重検出方法。
【請求項7】
2種以上の異なる特性の微生物が、サルモネラ属菌を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の微生物の多重検出方法。
【請求項8】
特異的なプライマーが、配列番号3及び4、又は配列番号9及び10に示される塩基配列からなるプライマーであることを特徴とする請求項7記載の微生物の多重検出方法。
【請求項9】
培養後のpHが5.1以上となる培養条件下で培養することを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の微生物の多重検出方法。
【請求項10】
グルコース濃度が0.15%以下の培地、及び/又は、リン酸緩衝液の濃度が50mM以上若しくはそれと同等の緩衝能を有する培地で培養することを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の微生物の多重検出方法。
【請求項11】
溶菌酵素及び/又は溶菌活性を持つバクテリオシンを作用させた後、界面活性剤とタンパク質変性剤で処理し、遠心分離により不溶画分を取り除き、アルコール沈殿によりDNAを析出して抽出することを特徴とする請求項1〜10のいずれか記載の微生物の多重検出方法。
【請求項12】
溶菌酵素が、アクロモペプチダーゼ及び/又はリゾチームであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の微生物の多重検出方法。
【請求項13】
溶菌活性を持つバクテリオシンが、エンテロリシンであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の微生物の多重検出方法。
【請求項14】
界面活性剤が、ソルビタンモノラウラートのエチレンオキシド縮合物であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか記載の微生物の多重検出方法。
【請求項15】
タンパク質変性剤が、グアニジンイソチオシアネートであることを特徴とする請求項1〜14のいずれか記載の微生物の多重検出方法。
【請求項16】
プライマーとして、配列番号1〜6で示される塩基配列からなるDNAを合計750nM以下の濃度で組み合わせてマルチプレックスPCRを行うことを特徴とする請求項1〜15のいずれか記載の微生物の多重検出方法。
【請求項17】
プライマーとして、配列番号5〜10で示される塩基配列からなるDNAを合計750nM以下の濃度で組み合わせてマルチプレックスPCRを行うことを特徴とする請求項1〜15のいずれか記載の微生物の多重検出方法。
【請求項18】
食品が、食肉又は食肉加工品であることを特徴とする請求項1〜17のいずれか記載の微生物の多重検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/064016
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516640(P2005−516640)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019340
【国際出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000113067)プリマハム株式会社 (72)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】