説明

微細構造転写装置及びスタンパ移送方法

【課題】従来の微細構造転写装置と比較して、スタンパの交換に要する時間を短縮することができると共に、スタンパの転写面に異物が付着するのを防止することができる微細構造転写装置を提供する。
【解決手段】スタンパヘッド23に取り付けられたスタンパ2を被転写体5に押し付けて、前記スタンパ2に形成された微細な凹凸パターンを前記被転写体5の表面に転写する微細構造転写装置1において、前記スタンパヘッド23に対して近接移動可能な移動ステージ31と、この移動ステージ31に設けられたスタンパ保持部32とを備え、前記スタンパ保持部32が、前記スタンパ2の前記凹凸パターンの形成面を粘着保持可能な粘着層35を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタンパ(金型)を被転写体に押し付けて、スタンパに形成された微細な凹凸パターンを被転写体の表面に転写する微細構造転写装置及びスタンパ移送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイス等で必要とされる微細パターンを加工する技術として、フォトリソグラフィ技術が多く用いられてきた。しかしながら、パターンの微細化が進み、要求される加工寸法が露光に用いられる光の波長程度まで小さくなるとフォトリソグラフィ技術での対応が困難となってきた。そのため、これに代わり、荷電粒子線装置の一種である電子線描画装置が用いられるようになった。
【0003】
この電子線を使用したパターン形成は、i線、エキシマレーザ等の光源を使用したパターン形成における一括露光方法と異なり、マスクパターンを直接描画する方法をとる。よって、描画するパターンが多いほど露光(描画)時間が増加し、パターン完成までに時間がかかるという欠点があり、半導体集積回路の集積度が高まるにつれて、パターン形成に必要な時間が増大して、スループットが低下することがある。
【0004】
そこで、電子線描画装置の高速化を図るために各種形状のマスクを組み合わせて、それらに一括して電子ビームを照射することで複雑な形状のパターンを形成する、一括図形照射法の開発が進められている。しかしながら、パターンの微細化が進む一方で、電子線描画装置の大型化や、マスク位置の高精度制御等、装置コストが高くなるという欠点がある。
【0005】
これに対し、高精度なパターン形成を低コストで行うことができるナノインプリント法を応用した微細構造転写技術が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2及び非特許文献1参照)。この微細構造転写技術は、スタンパ(金型)を被転写体に型押しすることで、スタンパ(金型)に形成された微細な凹凸パターンをこの被転写体に転写するものである。
【0006】
ところで、ナノインプリント法を実施する装置(以下、微細構造転写装置と称する)では、例えば、硬化性の樹脂薄膜を所定の基板上に形成したものが被転写体として使用される。そして、被転写体の樹脂薄膜に対して所定回数の転写を行った後のスタンパは、転写精度を維持するために新たなスタンパと交換される。また、スタンパの交換は、転写する凹凸パターンを変更する場合にも行われる。
【0007】
従来、スタンパの交換機構を有する微細構造転写装置が知られている(例えば、特許文献3参照)。この微細構造転写装置は、被転写体(基板)としてのウエハを支持する移動ステージの同一面に、この被転写体とは別のウエハの支持部が設けられている。
この微細構造転写装置によれば、所定のヘッドに取り付けられたスタンパの交換時に、被転写体とは別のウエハに樹脂薄膜が形成される。そして、ヘッドがスタンパをこの樹脂薄膜を接触させた後に、樹脂薄膜が硬化してスタンパを保持するのを待ってからヘッドが元のスタンパを樹脂薄膜に残す一方で、新たなスタンパを装着するようになっている。
また、この特許文献3には、その変形例として、スタンパの転写面(凹凸パターン形成面)が移動ステージと離間して対向するようにこの移動ステージにスタンパを支持する交換機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5259926号明細書
【特許文献2】米国特許第5772905号明細書
【特許文献3】特表2007−504683号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S.Y.Chou et al.,Appl.Phys.Lett.、vol.67,p.3114(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記したスタンパの交換機構のうち、硬化させた樹脂薄膜にスタンパを保持させるものは、(1)交換用のウエハ(基板)を準備する工程、(2)このウエハに樹脂薄膜を形成する工程、(3)スタンパを樹脂薄膜に接触させた後に樹脂薄膜を硬化させる工程、(4)元のスタンパを樹脂薄膜に残したまま、ヘッドをそのスタンパから退避させる工程等を経てから、ヘッドが新たなスタンパを装着することとなる。つまり、このスタンパの交換機構は、スタンパの交換に時間が掛かり過ぎる課題がある。
また、前記したスタンパの交換機構のうち、移動ステージと離間させてスタンパを保持するものは、スタンパの保管中、又はスタンパの保管位置からこのスタンパを再びヘッドに取り付けるまでの移送時に、スタンパの転写面に異物が付着する虞がある。そして、このような異物が付着したスタンパで被転写体に転写を行うと、転写不良が生じたり、スタンパや被転写体が破損したりする虞もある。
【0011】
そこで、本発明の課題は、従来の微細構造転写装置と比較して、スタンパの交換に要する時間を短縮することができると共に、スタンパの転写面に異物が付着するのを防止することができる微細構造転写装置及びスタンパ移送方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決する本発明は、スタンパヘッドに取り付けられたスタンパを被転写体に押し付けて、前記スタンパに形成された微細な凹凸パターンを前記被転写体の表面に転写する微細構造転写装置において、前記スタンパヘッドに対して近接移動可能な移動ステージと、この移動ステージに設けられたスタンパ保持部とを備え、前記スタンパ保持部が、前記スタンパの前記凹凸パターンの形成面を粘着保持可能な粘着層を有することを特徴とする。
【0013】
また前記課題を解決する本発明は、スタンパヘッドに取り付けられたスタンパを被転写体に押し付けて、前記スタンパに形成された微細な凹凸パターンを前記被転写体の表面に転写する微細構造転写装置の前記スタンパを交換する際のスタンパ移送方法であって、
前記スタンパヘッドに近接するようにスタンパ保持部を有する移動ステージを移動させる工程と、前記スタンパ保持部に設けられた、前記スタンパの前記凹凸パターンの形成面を粘着保持可能な粘着層に対して前記スタンパの授受を前記スタンパヘッドに行わせる工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スタンパの交換に要する時間を短縮することができると共に、スタンパの転写面に異物が付着するのを防止することができる微細構造転写装置及びスタンパ移送方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る微細構造転写装置の構成説明図である。
【図2】(a)から(d)は、図1の微細構造転写装置のスタンパ交換時において、スタンパヘッドに取り付けられたスタンパをスタンパ保持部の粘着層に受け渡す工程を示す工程図である。
【図3】(a)から(d)は、図1の微細構造転写装置のスタンパ交換時において、スタンパ保持部に保持されたスタンパをスタンパヘッドで受け取る工程を示す工程図である。
【図4】図1の微細構造転写装置におけるスタンパ移送機構の第1の変形例を示すスタンパ保持部近傍の部分拡大図である。
【図5】図1の微細構造転写装置におけるスタンパ移送機構の第2の変形例を示すスタンパ保持部近傍の部分拡大図である。
【図6】(a)は、図1の微細構造転写装置におけるスタンパ移送機構の第3の変形例を示すスタンパ保持部近傍の部分拡大図、(b)は、(a)の第3の変形例に係るスタンパ移送機構を、スタンパからの被転写体の取り外しに使用する際の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の微細構造転写装置は、スタンパヘッドに取り付けられたスタンパの交換時に、スタンパを移送するスタンパ移送機構が粘着層を有するスタンパ保持部を備えることを主な特徴とする。
以下に、本発明の実施形態に係る微細構造転写装置及びスタンパ移送方法について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
(微細構造転写装置)
構成説明図である図1に示すように、本実施形態に係る微細構造転写装置1は、樹脂塗布機構10と、微細構造転写機構20と、スタンパ移送機構30と、を主に備えている。
【0018】
≪樹脂塗布機構≫
本実施形態での樹脂塗布機構10は、被転写基板6上に硬化性樹脂からなる樹脂薄膜7を形成する機構である。
この樹脂塗布機構10は、スピンドルモータ11と、被転写基板6を支持すると共に被転写基板6にスピンドルモータ11の回転力を伝達するスピンドルチャック12と、高速回転する被転写基板6の表面に硬化性樹脂を供給する樹脂供給ノズル13と、を備えるスピンコート装置で構成されている。
【0019】
被転写基板6としては、表面が平坦で所定の強度と加工性を有するものであれば特に制限はない。被転写基板6の材料としては、例えば、シリコンウエハ、各種金属材料、ガラス、石英、セラミック、プラスチック等が挙げられる。また、被転写基板6は、複数の材料が薄層状に積層されたものも含まれる。被転写基板6の形状としては、特に制限はないが、円板状のもの被転写基板6は、スピンコート装置を使用する場合には特に好ましい。
本実施形態での被転写基板6としては、中心に同心円状の穴(中心孔)を有する円形基板を使用することを想定しているが、本発明で使用する被転写基板6は、その中心孔の有無を問わない。
【0020】
本実施形態での硬化性樹脂としては、光硬化性樹脂の使用を想定しているが、微細構造転写機構20による微細構造(スタンパ2の微細な凹凸パターン)の転写時に採用する樹脂の硬化方法に応じてその種類が適宜に選択される。つまり、樹脂を熱硬化させる場合には、熱硬化性樹脂を使用することができる。ちなみに、光硬化性樹脂は、室温での粘度が低いものが多い点でスピンコート装置に好適に使用される。また、光硬化性樹脂は、硬化時間が比較的に短い点でも好ましい。
なお、本実施形態での樹脂塗布機構10は、前記したスピンコート装置を想定しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ディスペンス法、インクジェット法、スプレー法等のスピンコート法以外の塗工法で被転写基板6に硬化性樹脂を塗布する装置をも使用することができる。
【0021】
以上のような被転写基板6に樹脂薄膜7を形成したものは、特許請求の範囲にいう「被転写体」に相当し、図1中、符号5で示す。しかしながら、本発明はこれに限定されずに、スタンパ2の凹凸パターンを所定の精度で転写できるものであればよく、熱可塑性樹脂からなる被転写体を使用するものであってもよい。この場合には、樹脂塗布機構10及び樹脂を硬化させる硬化手段(例えば、光硬化性樹脂の場合には光源、熱硬化性樹脂の場合にはヒータ)を省略することができる一方で、転写時に「被転写体5」を構成する熱可塑性樹脂をガラス転移温度以上に加熱するヒータを設ける必要がある。
図1中、符号14は、被転写基板6のハンドリングアームであり、このハンドリングアーム14は、樹脂薄膜7を形成するための被転写基板6を樹脂塗布機構10に搬送すると共に、樹脂薄膜7を形成した後の被転写基板6を、微細構造転写機構20に搬送するものである。
【0022】
≪微細構造転写機構≫
本実施形態での微細構造転写機構20は、前記樹脂塗布機構10からハンドリングアーム14によって搬送される樹脂薄膜7付きの被転写基板6(被転写体5)を配置するための転写ステージ21と、スタンパ2を保持するスタンパヘッド23と、を備えている。
ちなみに、図1は、後記するように、三次元的に移動可能なスタンパヘッド23によってスタンパ2が被転写体5に対して押し当てられている様子を示しているが、スタンパ2は、スタンパヘッド23によって、被転写体5から離反させることもできる。
【0023】
本実施形態での転写ステージ21は、この上に配置された被転写体5を支持するものであり、被転写体5との間に介在させる下部緩衝層21aを備えている。本実施形態での下部緩衝層21aは、柔軟性を有する光透過性樹脂で構成されている。この下部緩衝層21aは、被転写体5に対してスタンパ2を押し当てる際に、被転写体5に形成される微細なうねりに対して追従するように変形することでこのうねりを吸収する。そのことで、下部緩衝層21aは、スタンパ2の押圧力を被転写体5の面方向に略均等にすることができる。
【0024】
また、転写ステージ21は、その内部に位置合わせ機構21bが配置されている。この位置合わせ機構21bは、被転写体5にスタンパ2を押し当てる際に、被転写体5に対してスタンパ2を位置合わせするものであり、CCDカメラ、反射式レーザセンサ等で構成されている。ちなみに、この位置合わせ機構21bによる位置合わせは、光透過性の下部緩衝層21aを見通して、被転写基板6の中心孔の内縁を基準に、この被転写基板6とスタンパ2との位置合わせを行うことができるが、被転写体5及びスタンパ2に設けられたアライメントマークを基準にこの位置合わせを行うこともできる。
【0025】
スタンパヘッド23は、図示しない所定の三次元駆動機構に接続されるヘッド本体23aと、このヘッド本体23aの下面(転写ステージ21との対向面)に設けられた上部緩衝層23bと、この上部緩衝層23bを介してヘッド本体23aにスタンパ2を着脱自在に取り付けるスタンパクランプ23cと、を主に備えて構成されている。なお、このスタンパクランプ23cは、特許請求の範囲にいう「スタンパ着脱機構」に相当する。
【0026】
ヘッド本体23aを駆動する三次元駆動機構としては、その構成に特に制限はなく、図示しないが、所定のレール上をボールネジやエアシリンダ、回転モータ、直動モータ等の各種アクチュエータを推力として動作する構造が挙げられる。また、ヘッド本体23aは、スタンパ2を被転写体5に押し当てる際に、所定の加圧推力を発生させるアクチュエータや、水平面内で所定の回転角度にヘッド本体23aを設定するアクチュエータ、スタンパ2を被転写体5に押し当てる際に、スタンパ2と転写ステージ21との平行度を調節するアクチュエータ等を前記した三次元駆動機構とは個別に備えることができる。
【0027】
そして、ヘッド本体23aは、図示しない所定の制御部が前記した位置合わせ機構21bや、この微細構造転写機構20の適所に設けられた図示しないロードセンサ等の出力する検出信号に基づいて、前記した各アクチュエータを制御することで駆動されることとなる。
【0028】
本実施形態での被転写体5に対するスタンパヘッド23によるスタンパ2の加圧推力は、10Nから1kN程度に制御されることが好ましい。ちなみに、スタンパヘッド23による加圧推力の制御としては、具体的には、所定のロードセル(図示省略)によるフィードバック制御のほか、サーボモータ(図示省略)の回転速度によるスタンパヘッド23及び転写ステージ21間の距離の制御、光学的センサ(図示省略)によるスタンパヘッド23及び転写ステージ21間の距離の制御等が挙げられる。また、本実施形態での微細構造転写機構20においては、スタンパヘッド23の移動速度、スタンパ2の被転写体5に対する加圧保持時間等も適宜制御可能である。
なお、ヘッド本体23aは、空気圧や油圧等で駆動するものであってもよい。
【0029】
本実施形態でのヘッド本体23aの内部には、図示しないが、このヘッド本体23aに取り付けたスタンパ2を被転写体5に押し当てた際に、その樹脂薄膜7に紫外線を照射するためのLED、超高圧水銀灯等が配置されている。つまり、この光源から照射される紫外線は、光硬化性樹脂からなる、被転写体5の樹脂薄膜7を硬化させることとなる。中でもLEDからなる光源は、ヘッド本体23aのコンパクト化に寄与する点、及び発熱量が少ない点で好ましい。
なお、樹脂薄膜7を硬化させるための光源は、転写ステージ21内に配置することもできる。
【0030】
上部緩衝層23bは、柔軟性を有する光透過性樹脂で構成されている。この上部緩衝層23bは、被転写体5に対してスタンパ2を押し当てる際に、スタンパ2に形成される微細なうねりに対して追従するように変形することでこのうねりを吸収する。そのことで、上部緩衝層23bは、スタンパ2の押圧力を被転写体5の面方向に略均等にすることができる。
【0031】
スタンパクランプ23cは、スタンパ2の周縁を把持するクランプ装置で構成されている。このクランプ装置は、スタンパヘッド23に取り付けられているスタンパ2を、後記するように、スタンパ移送機構30の粘着層35に受け渡す際には、スタンパ2に対する把持を解除し、スタンパ移送機構30の粘着層35に配置されているスタンパ2を受け取る際には、スタンパ2の周縁を把持するようになっている。
なお、本発明でのスタンパ着脱機構は、このスタンパクランプ23cに限定されるものではなく、例えば、ヘッド本体23aに設けられた吸引孔を介してスタンパ2の背面(転写面の反対面)を真空吸着し、又はその真空吸着を解除することで、スタンパ2をスタンパヘッド23に着脱自在に取り付ける構成であってもよい。
【0032】
スタンパ2は、支持基材3上に、凹凸パターン層4を有する構成となっている。
ちなみに、本実施形態でのスタンパ2は、このスタンパ2を介して前記樹脂薄膜7に紫外線を照射する構成を想定しており、光透過性を有する材料で形成されている。
したがって、本実施形態での支持基材3の材料としては、例えば、ガラス、石英、AlTiC、各種樹脂材料等のように強度と加工性を有し、光硬化性樹脂からなる樹脂薄膜7を硬化させる紫外線を透過するものが好適に使用される。中でも石英やガラスは透明性が高いので好ましい。
【0033】
凹凸パターン層4の形成材料としては、例えば、ガラス、石英等の硬質材料や、透明性樹脂等の軟質(弾性)材料が挙げられる。中でも、軟質(弾性)材料からなる凹凸パターン層4を有するスタンパ2は、被転写基板6上にうねりや異物等が存在した場合に、転写時にこのうねり等に追従するように弾性変形することで、転写不良となる領域を最小限にとどめることができるので好ましい。
【0034】
しかしながら、本発明においては、被転写体として光硬化性樹脂からなる樹脂薄膜7を使用せずに、例えば、前記した熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を被転写体に使用する場合には、スタンパ2は、必ずしも光透過性を有するものに限定されない。したがって、このような場合には、スタンパ2は、例えば、シリコンウエハ、各種金属材料等を使用することもできる。具体的には、Si、SiC、SiN、多結晶Si、Ni、Cr、Cu等の形成材料を使用することができる。
【0035】
凹凸パターン層4の表面に形成される凹凸パターンとしては、例えば、ナノメートルからマイクロメートルのサイズの微細パターンからなるもので、ピラーが規則的に配列したものや、これとは逆にピットが配列されたもの、ラメラ状のもの等の様々なものが挙げられる。
凹凸パターンは、電子線描画法や光リソグラフィ法、熱ナノインプリント法、ナノインプリント法(ナノインプリントリソグラフィを含む)等で形成することができる。
なお、スタンパ2は、原版、又はこの原版の複製(レプリカ)であってもよい。
【0036】
以上のようなスタンパ2の凹凸パターン層4の表面には、硬化した樹脂薄膜7からの離型性を高めるために離型処理が施されることがより好ましい。離型処理の方法としては、例えば、シリコーン系、フッ素系等の離型剤を、凹凸パターン層4上に、数nmの厚さとなるように塗布する方法が挙げられる。
【0037】
≪スタンパ移送機構≫
スタンパ移送機構30は、微細構造転写装置1のスタンパ2の交換時に、例えば、スタンパ2の保管位置とスタンパヘッド23との間で、スタンパ2を移送するものである。
本実施形態でのスタンパ移送機構30は、移動ステージ31と、この移動ステージ31に設けられたスタンパ保持部32とを備えている。
【0038】
移動ステージ31は、前記したスタンパ2の保管位置とスタンパヘッド23との間を移動するように構成されており、これに設けられたスタンパ保持部32を、この区間で移送するものである。この移動ステージ31は、具体的には、移動ステージ31の前記した移動区間に亘って敷設されたレール(図示省略)と、このレールに沿って移動ステージ31を移動させるボールネジ、エアシリンダ、電動モータ等の組み合わせからなる駆動部(図示省略)により駆動し、この駆動動作は、図示しない制御部により制御される。この移動ステージ31のスタンパ2の交換時における動作は、後に詳しく説明する。
【0039】
スタンパ保持部32は、移動ステージ31の上部に取り付けられる保持部本体33と、このスタンパ保持部32上に配置される可撓性基材34と、この可撓性基材34上に積層される粘着層35とを備えている。
【0040】
保持部本体33は、可撓性基材34が取り付けられる上面部を有するものであれば特に制限はない。本実施形態での保持部本体33は、円盤状の板体で形成されている。
【0041】
本実施形態での可撓性基材34は、スタンパ2の凹凸パターン層4の平面形状と略同じ大きさの平面形状を有する薄板体又はフィルムで構成されている。この可撓性基材34の材料としては、所定の厚さで可撓性を有し、湾曲可能であれば特に制限はなく、例えば、金属材料、ガラス、樹脂等が挙げられる。
この可撓性基材34は、保持部本体33の上面に、所定の治具や真空吸着により取り付けることができる。なお、可撓性基材34の真空吸着手段は、保持部本体33内に吸引孔を形成すると共に、この吸引孔の一端を保持部本体33の上面に臨ませる構成とすることができる。
【0042】
粘着層35は、スタンパ2の凹凸パターン層4側の面(凹凸パターンの形成面)を粘着保持可能に構成されている。
前記粘着層は、室温での弾性率が1MPa以下であることが好ましい。
このような粘着層35は、粘着剤を可撓性基材34上に塗工することで形成することができる。
【0043】
粘着層35に使用される粘着剤としては、ポリジメチルシロキサン骨格を有する化合物、(メタ)アクリル酸エステルの重合体、ウレタン構造を有する化合物等からなる粘着性化合物剤を含むものが好ましい。このような粘着剤で形成された粘着層35によれば、後記するように、スタンパ2の交換時に、スタンパ2を粘着保持し、そしてスタンパ2が剥離される工程が繰り返される際に、スタンパ2の凹凸パターンに対する粘着剤の移行が極めて少なく、また、粘着層35の粘着性を良好に維持することができる。
【0044】
(スタンパ移送方法)
次に、微細構造転写装置1におけるスタンパ移送方法について適宜図面を参照しながら説明する。
図2(a)から(d)は、図1の微細構造転写装置のスタンパ交換時において、スタンパヘッドに取り付けられたスタンパをスタンパ保持部の粘着層に受け渡す工程を示す工程図である。図3(a)から(d)は、図1の微細構造転写装置のスタンパ交換時において、スタンパ保持部に保持されたスタンパをスタンパヘッドで受け取る工程を示す工程図である。
【0045】
本実施形態に係る微細構造転写装置1(図1参照)では、スタンパヘッド23に取り付けられたスタンパ2を被転写体5に押し付けて、スタンパ2に形成された微細な凹凸パターンを被転写体5の表面に転写する。そして、被転写体5の樹脂薄膜7に対して所定回数の転写を行った後のスタンパ2は、転写精度を維持するために新たなスタンパ2(図3(a)参照)と交換される。また、スタンパ2の交換は、転写する凹凸パターンを変更する場合にも行われる。
【0046】
図2(a)に示すように、スタンパヘッド23に取り付けられたスタンパ2の交換時において、スタンパ移送機構30の移動ステージ31は、所定の待機位置(図示省略)からスタンパヘッド23の直下まで移動する。
【0047】
次に、図2(b)に示すように、スタンパ2がスタンパ保持部32の粘着層35に接触するまでスタンパヘッド23が三次元駆動機構(図示省略)により下降する。
【0048】
その後、図2(c)に示すように、スタンパクランプ23cが把持していたスタンパ2を解放して上昇することで、粘着層35に粘着保持されたスタンパ2はスタンパ保持部32に残される。
【0049】
そして、移動ステージ31が、図2(d)に示すように、初期の待機位置まで戻ることで、スタンパ2のスタンパ保持部32への受け渡し工程を含むスタンパ移送方法が終了する。なお、初期の待機位置まで戻ったスタンパ保持部32の粘着層35に残されたスタンパ2は、図示しないロボットアームが、粘着層35から剥離すると共に、剥離されたスタンパ2は、図示しないスタンパホルダに戻される。
【0050】
次に、スタンパ保持部32に保持されたスタンパ2をスタンパヘッド23で受け取る工程について説明する。この工程では、スタンパ2の交換時において、元のスタンパ2(図2(d)参照)に代えて新たなスタンパ2がスタンパヘッド23に取り付けられる。
【0051】
この工程では、図3(a)に示すように、まず、待機位置のスタンパ保持部32の粘着層35に対して、図示しないロボットアームが、図示しないスタンパホルダから取り出した新たなスタンパ2を貼り付ける。この際、スタンパ2の凹凸パターン層4(微細な凹凸パターンの形成面)が接触するように貼り付けられる。図3(a)中、符号23は、スタンパヘッドであり、符号31は、移動ステージである。
【0052】
次に、図3(b)に示すように、移動ステージ31が、スタンパヘッド23の直下まで移動する。
【0053】
そして、図3(c)に示すように、スタンパヘッド23が、三次元駆動機構(図示省略)によりスタンパ保持部32の粘着層35に保持されたスタンパ2に接触するまで下降すると共に、スタンパクランプ23cがスタンパ2の周縁を把持する。その後、図示しないが、スタンパヘッド23が、三次元駆動機構(図示省略)により上昇することで、スタンパ2は、スタンパクランプ23cでスタンパヘッド23に取り付けられたまま、スタンパ保持部32の粘着層35から離反する。
【0054】
次いで、図3(d)に示すように、移動ステージ31がスタンパヘッド23の直下から初期の待機位置まで退避することで、スタンパヘッド23のスタンパ2の受け取り工程を含むスタンパ移送方法が終了する。図3(d)中、符号32は、スタンパ保持部であり、符号35は、粘着層である。
【0055】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
従来のスタンパ交換機構を備える微細構造転写装置(例えば、特許文献3参照)においては、前記したように、スタンパを交換するたびに、(1)交換用のウエハ(基板)を準備する工程、(2)このウエハに樹脂薄膜を形成する工程、(3)スタンパを樹脂薄膜に接触させた後に樹脂薄膜を硬化させる工程、(4)元のスタンパを樹脂薄膜に残したまま、ヘッドをそのスタンパから退避させる工程等を経てから、ヘッドが新たなスタンパを装着する。そのため、このスタンパの交換機構は、スタンパの交換に時間が掛かり過ぎる。
【0056】
これに対して、本実施形態に係る微細構造転写装置1は、スタンパ保持部32の粘着層35にスタンパ2を貼り付けて保持させるので、従来の微細構造転写装置の、少なくとも前記(1)から(3)の工程を省略することができる。
したがって、本実施形態によれば、スタンパ2の交換に要する時間を短縮することができるので、微細構造転写装置1による転写物(微細構造体)の生産性を向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態によれば、スタンパ2を移動ステージ31で搬送する際、又はスタンパ2をスタンパ保持部32上で保管する際に、スタンパ2の転写面(凹凸パターンの形成面)は、粘着層35で覆われることになるので、スタンパ2の転写面に異物が付着することが防止される。
【0058】
また、本実施形態によれば、スタンパ2の転写面に対して粘着層35が貼着することでスタンパ2を保持するので、粘着層35からスタンパ2を剥離する際に、粘着層35がスタンパ2の転写面をクリーニングする機能を発揮する。
【0059】
そして、スタンパ2の転写面に対して異物の付着が防止されると共に、スタンパ2の転写面に付着した異物の除去ができるので、このスタンパ2を使用して転写を行う際に、転写不良やスタンパ2の破損を防止することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
次に参照する図4は、図1の微細構造転写装置におけるスタンパ移送機構の第1の変形例を示すスタンパ保持部近傍の部分拡大図である。図5は、図1の微細構造転写装置におけるスタンパ移送機構の第2の変形例を示すスタンパ保持部近傍の部分拡大図である。図6(a)は、図1の微細構造転写装置におけるスタンパ移送機構の第3の変形例を示すスタンパ保持部近傍の部分拡大図、図6(b)は、図6(a)の第3の変形例に係るスタンパ移送機構を、スタンパからの被転写体の取り外しに使用する際の概念図である。
【0061】
図4に示すように、この第1の変形例に係るスタンパ移送機構30においては、移動ステージ31の内部に配置された昇降機構(図示省略)によって上下移動が可能なピストン部材39を備えている。このピストン部材39は、スタンパ保持部32の保持部本体33を上下に貫通するように配置されると共に、その上端が可撓性基材34の下面に当接するようになっている。
【0062】
このスタンパ移送機構30によれば、図3(c)に示すように、スタンパヘッド23のスタンパクランプ23cがスタンパ2を把持した後、スタンパヘッド23が上昇する際に、ピストン部材39が上昇することで可撓性基材34を上方に凸となるように湾曲させる。つまり、凸となった可撓性基材34の周囲では、スタンパ2が粘着層35から剥離されることとなる。
その結果、このスタンパ移送機構30によれば、スタンパヘッド23が上方に移動する際に、粘着層35からのスタンパ2の剥離を容易に行うことができる。
【0063】
また、このように可撓性基材34を湾曲させるスタンパ移送機構30によれば、前記したように、図2(d)に示す粘着層35に貼り付けられたスタンパ2をロボットハンド(図示省略)によって剥離する際においても、粘着層35からのスタンパ2の剥離を容易に行うことができる。図4中、符号23bは、上部緩衝層である。
【0064】
また、前記実施形態でのスタンパ移送機構30(図1参照)においては、スタンパ保持部32が保持部本体33上に可撓性基材34を介して粘着層35を有しているが、可撓性基材34を省略して保持部本体33上に直接、粘着層35を有することができる。
【0065】
前記実施形態でのスタンパ移送機構30(図1参照)においては、スタンパ保持部32が可撓性基材34上に一層の粘着層35のみを備えているが、本発明は複数層の粘着層35を備えるものであってもよい。そして、図5に示すように、第2変形例に係るスタンパ保持部32は、粘着層35と離型剤層36とを交互にそれぞれ複数層積層した積層体を有している。
【0066】
このようなスタンパ移送機構30によれば、最も表層の粘着層35の粘着力が低下した場合や、粘着層35に異物が付着した場合に、最も表層の粘着層35を取り除くことで、下層の新たな粘着層35を露出させることができる。そして、図5に示すように、粘着層35同士の間に離型剤層36を有するものは、表層の粘着層35の剥離を容易に行うことができる。図5中、符号31は、移動ステージであり、符号33は、保持部本体であり、符号34は、可撓性基材である。
【0067】
第3変形例に係るスタンパ移送機構30は、図6(a)に示すように、前記実施形態での円盤状の保持部本体33において、その上面(スタンパ2との対向面)に、保持部本体33の外周と同心円状の周溝37が形成されて構成されたものである。そして、移動ステージ31及び保持部本体33内には、吸引孔38が設けられ、その一端が周溝37の底部に臨んでいる。図6(a)中、符号23は、スタンパヘッドであり、符号23bは、上部緩衝層である。
【0068】
このスタンパ移送機構30によれば、図2(c)に示すように、スタンパクランプ23cが把持していたスタンパ2をスタンパ保持部32の粘着層35に残して、スタンパ保持部32から離反する際に、吸引孔38を介してスタンパ2を真空引きすることで、スタンパ2は、より強固にスタンパ保持部32に保持されることができる。なお、スタンパヘッド23によって、このスタンパ保持部32からスタンパ2を離反させるときは、吸引孔38による真空引きを中止する。
【0069】
また、第3変形例に係るスタンパ移送機構30は、被転写体5の樹脂薄膜7に押し当てて樹脂薄膜7を硬化させた際に、スタンパ2を被転写体5から剥離する場合においても使用することができる。
【0070】
一般に、微細構造転写装置1においては、被転写体5の樹脂薄膜7にスタンパ2を押し当てた状態でこの樹脂薄膜7を硬化させた後に、この樹脂薄膜7からスタンパ2を剥離することで、被転写体5にスタンパ2の凹凸パターンを転写する。この際、スタンパ2は、硬化した樹脂薄膜7に対して接着している場合が多い。一方、被転写体5は、転写ステージ21上に支持されているが、樹脂薄膜7に対する接着力が強いと、スタンパ2は、被転写体5を転写ステージ21から引き離す場合が考えられる。
【0071】
そこで、このような場合に、被転写体5を伴ったスタンパ2を有するスタンパヘッド23の直下に、移動ステージ31を移動させると共に(図2(a)参照)、スタンパヘッド23を下降させると、このスタンパ移送機構30においては、図6(b)に示すように、被転写体5が周溝37を上方から塞ぐように配置される。そして、吸引孔38を真空引きすることで、被転写体5は、スタンパ保持部32に保持されることができる。その後、スタンパヘッド23を上方に移動させることで、スタンパ2は、被転写体5から剥離されることとなる。
【0072】
以上のように、この第3変形例に係るスタンパ移送機構30によれば、吸引孔38を真空引きすることにより、スタンパ保持部32にスタンパ2を強固に保持することができると共に、被転写体5をスタンパ保持部32に保持することもできる。
【実施例】
【0073】
次に、実施例を示しながら本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
この実施例1では、本発明の微細構造転写装置を使用して、ハードディスクのディスク基板上に微細構造を形成した。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、種々の基板上に対する微細構造の形成にも適用することができる。
本実施例では、図1に示す微細構造転写装置1と同様のものを使用した。
【0074】
そして、本実施形態で使用するスタンパ2は次のように作製した。
支持基材3としての合成石英(90mm×120mm×0.7mm)の表面を、300Wの出力で発生させた酸素プラズマで1分間表面処理を行った後、その表面にシランカップリング剤(KBM603)を施した。
【0075】
次に、支持基材3の表面に、カチオン重合性のシロキサン系光硬化性樹脂を滴下した。そして、この光硬化性樹脂を広げるようにNi製のマスター原版を押し付けて、これに照度100mW/cmの超高圧水銀灯により480秒間紫外線を照射することで、光硬化性樹脂を硬化させた。ちなみに、マスター原版の凹凸パターンは、同心円状のラインアンドスペースパターンが90nmピッチで中心孔の周囲から外周縁まで形成されたものである。
【0076】
次いで、支持基材3からマスター原版を剥離することで、支持基材3上の光硬化性樹脂からなる凹凸パターン層4にマスター原版の凹凸パターンが転写されたスタンパ2(レプリカ金型)を得た。
そして、このスタンパ2は、スタンパヘッド23に上部緩衝層23b(厚さ5mmのシリコーン製)を介して配置されると共に、スタンパクランプ23cによってスタンパヘッド23に固定された。
【0077】
次に、被転写体5を作製した。
まず、ハンドリングアーム14を使用して被転写基板6としての2.5インチ(6.35cm)のディスク基板を、樹脂塗布機構10のスピンドルチャック12に取り付けた後、スピンドルモータ11でこの被転写基板6を700rpmの回転速度で回転させながら、この被転写基板6の表面に樹脂供給ノズル13から低粘度の光硬化性樹脂を1mL供給した。なお、この光硬化性樹脂としては、アクリル系モノマ及びポリマ成分、並びにラジカル系光反応開始剤を含む樹脂組成物を使用した。
そして、被転写基板6を5000rpmで60秒間更に回転させて、被転写基板6上に樹脂薄膜7を有する被転写体5を作製した。
【0078】
このような被転写体5は、再びハンドリングアーム14により、微細構造転写機構20まで移送されると共に、位置合わせ機構21bで位置合わせされて転写ステージ21の下部緩衝層21a(厚さ5mmのシリコーン製)上に配置された。
なお、位置合わせ機構21bは、被転写体5としてのディスク基板の中心孔の周縁と、転写ステージ21に設けられた図示しない位置合わせマークとの重なりを撮像するCCDカメラと、この撮像画像に基づいて転写ステージ21を水平面内で移動させるX−Y微小移動機構(図示省略)とで構成されている。このX−Y微小移動機構は、転写ステージ21に搭載されている。
【0079】
次に、この微細構造転写機構20を使用して被転写体5にスタンパ2の凹凸パターンを転写した。
この際、スタンパ2を有するスタンパヘッド23を、被転写体5を配置した転写ステージ21に向けて下降させることで、スタンパ2と被転写体5とを接触させた。なお、本実施例でのスタンパヘッド23の下降は、ステッピングモータ及びボールネジを備える三次元駆動機構によりスタンパ2の位置を制御しながら行った。そして、スタンパ2を被転写体5に対して90Nの推力で10秒間加圧した後、ヘッド本体23a内に設けられたLED光源(図示省略)から樹脂薄膜7に向けて紫外線を60mW/cmで4秒間照射した。その結果、樹脂薄膜7はスタンパ2が押し付けられたまま硬化した。
そして、スタンパヘッド23を三次元駆動機構により上昇させることで、スタンパ2を被転写体5から剥離し、被転写体5に凹凸パターンが転写された微細構造体を得た。
【0080】
次に、スタンパヘッド23に取り付けられているスタンパ2をスタンパ移送機構30により交換した。
スタンパ移送機構30の粘着層35は、ポリジメチルシロキサン骨格を有する化合物からなる粘着剤を含んで構成されている。
【0081】
具体的には、この粘着層35は、可撓性基材34としてのステンレス基板(80mm×110mm×0.2mm)の表面にプライマー処理液を塗布した後、120℃で1分間加熱処理し、その表面に以下の粘着剤を塗布することで形成したものである。なお、プライマー処理液としては、X-40-3501(信越シリコーン社製)5%のnヘキサン:MEK=1:1溶液に0.5%の白金触媒を加えたものを使用した。粘着剤としては、X-40-3229(信越シリコーン社製)とKR-3700(信越シリコーン社製)とを1:1の比率で調合し、白金触媒を0.5%配合したワニスを使用した。粘着層35は、このワニスを厚さが約200μm程度となるように塗布した後、130℃で3分間加熱硬化させたものである。
また、粘着層35が形成された可撓性基材34は、スタンパ保持部32の保持部本体33の上面に真空吸着にて固定した。
【0082】
そして、このようなスタンパ移送機構30を使用して、前記したように、スタンパヘッド23に近接するようにスタンパ保持部32を有する移動ステージ31を移動させる工程と、スタンパ保持部32に設けられた、スタンパ2の凹凸パターンの形成面を粘着保持可能な粘着層35に対してスタンパ2の授受をスタンパヘッド23に行わせる工程を実施することによって(図2(a)から(d)、及び図3(a)から(d)参照)、スタンパ2の交換を行った。
【0083】
本実施例によれば、スタンパ2の交換に要する時間を短縮することができるので、微細構造転写装置1による転写物(微細構造体)の生産性を向上させることができる。
また、本実施例によれば、スタンパ2の転写面(凹凸パターンの形成面)が、粘着層35で覆われることになるので、スタンパ2の転写面に異物が付着することが防止される。
また、本実施例によれば、スタンパ2の転写面に対して粘着層35が貼着することでスタンパ2を保持するので、粘着層35からスタンパ2を剥離する際に、粘着層35がスタンパ2の転写面をクリーニングする機能を発揮する。
その結果、このスタンパ2を使用して転写を行う際に、転写不良やスタンパ2の破損を防止することができる。
【0084】
(実施例2)
実施例2では、可撓性基材34に対する表面処理を、酸素プラズマ(酸素分圧10Pa、出力100W、曝露時間60秒間)による処理に代えた。そして、粘着剤を、(メタ)アクリル酸エステルの重合体からなる粘着剤(コーポニール5440K(日本合成化学製))に代えると共に、粘着剤の塗布膜厚を50μm程度として以外は、実施例1と同様に、可撓性基材34上に粘着層35を積層した。
そして、これらの可撓性基材34及び粘着層35を備えるスタンパ移送機構30にてスタンパ2の交換を実施例1と同様に行った。
このような本実施例によれば、スタンパ2の交換に要する時間を短縮することで、微細構造転写装置1による転写物(微細構造体)の生産性を向上させることができる。
また、本実施例によれば、スタンパ2を使用して転写を行う際に、転写不良やスタンパ2の破損を防止することができる。
【0085】
(実施例3)
実施例3では、粘着剤を、ウレタン構造を有する化合物からなる粘着剤に代えると共に、塗布膜厚を40μmとして、乾燥膜厚を50μmとした以外は、実施例2と同様に、可撓性基材34上に粘着層35を積層した。
そして、これらの可撓性基材34及び粘着層35を備えるスタンパ移送機構30にてスタンパ2の交換を実施例2と同様に行った。
ちなみに、粘着剤は、バインゾールU−250(一方社油脂工業製)100重量部に対して硬化剤(日本ポリウレタン工業社製、コロネートL−45)4.0重量部を混合することで調製した。また、粘着剤の塗布は、バーコーター法にて行い、乾燥は100℃で2分間行った。
このような本実施例によれば、スタンパ2の交換に要する時間を短縮することで、微細構造転写装置1による転写物(微細構造体)の生産性を向上させることができる。
また、本実施例によれば、スタンパ2を使用して転写を行う際に、転写不良やスタンパ2の破損を防止することができる。
【0086】
(実施例4)
実施例4では、図5に示すスタンパ保持部32を作製した。
まず、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)の一方の面に、実施例1と同様のプライマー処理を施した。そして、他方の面に、離型剤(信越シリコーン社製X-70-201S)をスプレー塗布した後、これを乾燥させた。
これとは別に、実施例1と同様の方法で処理をした可撓性基材34上に、実施例1で用いた粘着剤(ポリジメチルシロキサン骨格を有する化合物からなる粘着剤)を塗布することで厚さ50μmの粘着層35を形成した。
【0087】
次いで、この粘着層35に対して、前記したポリエチレンテレフタレートフィルムを、その離型剤を施した側から貼り付けた。このポリエチレンテレフタレートフィルムは図5の離型剤層36に相当する。
そして、このポリエチレンテレフタレートフィルム上に前記した粘着剤を塗布することで粘着層35を更に形成すると共に、この工程を繰り返すことで、図5に示すように、可撓性基材34上に5層の粘着層35と、各粘着層35同士の間のそれぞれに1層ずつ合計で4層のポリエチレンテレフタレートフィルム(離型剤層36)とを有するスタンパ保持部32を作製した。
【0088】
このような本実施例によれば、スタンパ2の交換に要する時間を短縮することで、微細構造転写装置1による転写物(微細構造体)の生産性を向上させることができる。
また、本実施例によれば、スタンパ2を使用して転写を行う際に、転写不良やスタンパ2の破損を防止することができる。
また、本実施例によれば、最も表層の粘着層35の粘着力が低下した場合や、粘着層35に異物が付着した場合に、最も表層の粘着層35を取り除くことで、下層の新たな粘着層35を露出させることができる。そのため、スタンパ保持部32は、良好な粘着性を常に発現することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 微細構造転写装置
2 スタンパ
3 支持基材
4 凹凸パターン層
5 被転写体
6 被転写基板
7 樹脂薄膜
10 樹脂塗布機構
20 微細構造転写機構
21 転写ステージ
21a 下部緩衝層
21b 位置合わせ機構
23 スタンパヘッド
23a ヘッド本体
23b 上部緩衝層
23c スタンパクランプ
30 スタンパ移送機構
31 移動ステージ
32 スタンパ保持部
34 可撓性基材
35 粘着層
36 離型剤層
37 周溝
38 吸引孔
39 ピストン部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタンパヘッドに取り付けられたスタンパを被転写体に押し付けて、前記スタンパに形成された微細な凹凸パターンを前記被転写体の表面に転写する微細構造転写装置において、
前記スタンパヘッドに対して近接移動可能な移動ステージと、この移動ステージに設けられたスタンパ保持部とを備え、
前記スタンパ保持部が、前記スタンパの前記凹凸パターンの形成面を粘着保持可能な粘着層を有することを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微細構造転写装置において、
前記粘着層は、可撓性基材上に積層されると共に、
前記可撓性基材を上方に凸となるように湾曲させる湾曲機構を更に備えることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の微細構造転写装置において、
前記スタンパ保持部が、前記粘着層と離型剤層とを交互にそれぞれ複数層積層した積層体を有していることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の微細構造転写装置において、
前記粘着層が、ポリジメチルシロキサン骨格を有する化合物からなる粘着剤を含んで構成されていることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の微細構造転写装置において、
前記粘着層は、(メタ)アクリル酸エステルの重合体からなる粘着剤を含んで構成されていることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の微細構造転写装置において、
前記粘着層は、ウレタン構造を有する化合物からなる粘着剤を含んで構成されていることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の微細構造転写装置において、
前記粘着層は、室温での弾性率が1MPa以下であることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項8】
スタンパヘッドに取り付けられたスタンパを被転写体に押し付けて、前記スタンパに形成された微細な凹凸パターンを前記被転写体の表面に転写する微細構造転写装置の前記スタンパを交換する際のスタンパ移送方法であって、
前記スタンパヘッドに近接するようにスタンパ保持部を有する移動ステージを移動させる工程と、
前記スタンパ保持部に設けられた、前記スタンパの前記凹凸パターンの形成面を粘着保持可能な粘着層に対して前記スタンパの授受を前記スタンパヘッドに行わせる工程と、
を有することを特徴とするスタンパ移送方法。
【請求項9】
請求項8に記載のスタンパ移送方法において、
前記粘着層は、可撓性基材上に積層されると共に、
前記スタンパヘッドが前記スタンパを前記粘着層から受け取る際に、
前記可撓性基材を上方に凸となるように湾曲させる工程を更に有することを特徴とするスタンパ移送方法。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載のスタンパ移送方法において、
前記スタンパ保持部が、前記粘着層と離型剤層とを交互にそれぞれ複数層積層した積層体を有すると共に、最も表層の前記粘着層を剥離してその下層の前記粘着層を露出させる工程を更に有することを特徴とするスタンパ移送方法。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載のスタンパ移送方法において、
前記粘着層が、ポリジメチルシロキサン骨格を有する化合物からなる粘着剤を含んで構成されていることを特徴とするスタンパ移送方法。
【請求項12】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載のスタンパ移送方法において、
前記粘着層は、(メタ)アクリル酸エステルの重合体からなる粘着剤を含んで構成されていることを特徴とするスタンパ移送方法。
【請求項13】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載のスタンパ移送方法において、
前記粘着層は、ウレタン構造を有する化合物からなる粘着剤を含んで構成されていることを特徴とするスタンパ移送方法。
【請求項14】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載のスタンパ移送方法において、
前記粘着層は、室温での弾性率が1MPa以下であることを特徴とするスタンパ移送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−22807(P2013−22807A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158768(P2011−158768)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】