説明

微細炭素繊維含有樹脂組成物の製造方法

【課題】 熱可塑性樹脂へ微細炭素繊維を安定した配合比で均一に分散させ、優れた電気伝導性等の物性を発揮する微細炭素繊維含有樹脂組成物を製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
微細炭素繊維と熱可塑性樹脂とを、混練押出機に投入して混錬することにより、熱可塑性樹脂中に微細炭素繊維が分散配合されてなる微細炭素含有樹脂組成物を製造する方法において、前記混練押出機のシリンダー温度が、JIS K 7210に規定される2.16kg荷重下での前記熱可塑性樹脂のメルトフローインデックスが10〜30となる温度であり、かつ前記混練押出機内における前記微細炭素繊維含有樹脂組成物の滞留時間が25〜100秒であり、また、前記混練押出機のスクリューセグメントの微細炭素繊維含有樹脂組成物に対するせん断速度が、10000〜30000/秒である条件下に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂へ微細炭素繊維を安定した配合比で均一に分散させ、優れた電気伝導性等の物性を発揮する微細炭素繊維含有樹脂組成物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、優れた成形加工特性を有し、機械的強度、熱的特性も比較的良好なものであるので、種々の用途に広く用いられている。
【0003】
一方で、一般に、熱可塑性樹脂は、その電気伝導性は低く、これを改良するため、あるいは、機械的強度、熱的強度をより高いものとするために、充填材を配合し、複合材料とすることも従来行われている。
【0004】
例えば、熱可塑性樹脂に配合される導電性充填材としては、カーボンブラック、炭素繊維、金属繊維、金属粉末等が用いられている。
【0005】
しかしながら、上記導電性充填材を熱可塑性樹脂に充填し、高い電気伝導性を付与するためには、例えば、樹脂に対し20質量%程度といった高い充填量が必要であり、この場合熱可塑性樹脂が本来有する機械的特性や成形加工特性が損なわれることとなっていた。
【0006】
近年、カーボンナノチューブに代表される繊維径が0.5〜100nmに細められた微細炭素繊維が開発されており、これら微細炭素繊維は、電気伝導性が高いこと、アスペクト比が大きいこと、単位重量当たりの本数が多いことなどの特性を有することから、従来の導電性充填材に比べて、比較的少ない添加量においても、優れた電気伝導性を付与できることが期待されている。
【0007】
しかしながら、微細炭素繊維は、非常に軽微であり、熱可塑性樹脂に配合、充填することが困難であった。さらに、微細炭素繊維は、凝集しやすいため、熱可塑性樹脂中に均一に分散させるには、高いせん断速度となる押出し条件が必要となる。このため微細炭素繊維が混練時に加わるせん断力により切断されてしまい、所定の電気伝導性が発現しないことがあった。
【0008】
また、特許文献1には、上述したような微細炭素繊維の熱可塑性樹脂中への分散配合の困難性を解決するために、直径3.5〜75nmの微細炭素繊維が互いに絡み合った、平均粒径0.1〜50μmの凝集体を熱可塑性樹脂中へ配合することが開示してある。
【0009】
しかしながら、特許文献1には、このような凝集体の熱可塑性樹脂中への配合、混練条件等としては、特段示されておらず、上述したような混練時に加わるせん断力による微細炭素繊維の切断の問題が残り、また、熱可塑性樹脂中には微細炭素繊維は前記凝集体の状態で分散したものとなるために、微細炭素繊維が本来有する電気的特性等を生かすことができず、部位特異的な電気抵抗の変化や、粗分散領域が弱点となった機械的強度の低下などが生じる虞れが残るものであった。
【特許文献1】特開平7−102112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、微細炭素繊維をその特性を損なうことなく熱可塑性樹脂中に均一に分散させることのできる炭素繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、微細炭素繊維と熱可塑性樹脂を、混練押出機に投入して混練して炭素繊維含有熱可塑性樹脂組成物を製造するにおいて、押出温度をJIS K 7210に規定される2.16kg荷重下での前記熱可塑性樹脂のメルトフローインデックスが特定範囲内となる温度条件に設定し、かつ前記混練押出機内における前記微細炭素繊維含有樹脂組成物の滞留時間、および前記混練押出機のスクリューセグメントの微細炭素繊維含有樹脂組成物に対するせん断速度を適当なものに調整することで、微細炭素繊維がその形状を保持しつつ均一に分散され、電気伝導性等の特性に優れた微細炭素繊維含有樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0012】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、微細炭素繊維と熱可塑性樹脂とを、混練押出機に投入して混錬することにより、熱可塑性樹脂中に微細炭素繊維が分散配合されてなる微細炭素含有樹脂組成物を製造する方法において、前記混練押出機のシリンダー温度が、JIS K 7210に規定される2.16kg荷重下での前記熱可塑性樹脂のメルトフローインデックスが10〜30となる温度であり、かつ前記混練押出機内における前記微細炭素繊維含有樹脂組成物の滞留時間が25〜100秒であり、また、前記混練押出機のスクリューセグメントの微細炭素繊維含有樹脂組成物に対するせん断速度が、10000〜30000/秒であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明はさらに、微細炭素繊維と熱可塑性樹脂とを、単軸又は二軸の攪拌機を用いて予め混合して、予備混合体とした後に、前記混練押出機に投入するものである微細炭素含有樹脂組成物の製造方法を示すものである。
【0014】
本発明はまた、使用される熱可塑性樹脂が、ペレット状またはフレーク状である場合に、予め当該ペレットまたはフレークを粉砕機にて粉砕してから予備混合体を調製するものである微細炭素含有樹脂組成物の製造方法を示すものである。
【0015】
本発明はまた、使用される微細炭素繊維の嵩密度が0.0001〜0.05g/cmであることを特徴とする微細炭素含有樹脂組成物の製造方法を示すものである。
【0016】
本発明はさらに、熱可塑性樹脂が、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリルニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、熱可塑性エラストマーおよびそれらのポリマーアロイからなる群より選ばれてなる少なくとも1種である微細炭素含有樹脂組成物の製造方法を示すものである。
【0017】
本発明はさらに、金属微粒子、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック、炭素繊維、ガラス繊維およびこれらの2種以上の混合物からなる群から選ばれてなるいずれか1つの充填材をさらに配合するものである微細炭素繊維含有樹脂組成物の製造方法を示すものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る微細炭素繊維含有樹脂組成物の製造方法においては、微細炭素繊維をその特性を損なうことなく熱可塑性樹脂中に均一に分散させることのできるため、微細炭素繊維の含有量を少量に抑えながら、優れた導電性を有する樹脂組成物を提供することができ、また所期の導電性を得る上での微細炭素繊維の含有量を低く抑えることができるために、熱可塑性樹脂の本来有する物性を損なうこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施形態に基づき、詳細に説明する。
【0020】
本発明に係る微細炭素繊維含有樹脂組成物の製造方法においては、微細炭素繊維と熱可塑性樹脂を、混練押出機に投入し、混練して炭素繊維含有熱可塑性樹脂組成物を調製する。
【0021】
本発明において使用される混練押出機としては、装置内に単軸もしくは多軸のスクリューセグメントを有してなるものであればよいが、好ましくはスクリューセグメントを2本並列に配置した2軸押出機が望ましい。さらに2軸押出機としては、スクリューセグメントが同方向に回転するもの、異方向に回転するものがありいずれも用いることができるが、同方向に回転するものがより好ましく用いることができる。
【0022】
図1は、本発明の製造方法において用いら得る混練押出機の一実施形態の構造を模式的に示す図面である。図1に示す混練押出機1は、2本のスクリューセグメント2が、スクリューバレル3内に並列して配置された2軸押出機であり、スクリューバレル3の一端部側(スクリュー駆動源6側)には、外部より原料をスクリューバレル内へと供給する原料供給口4が設けられ、一方、スクリューバレル3の他端部側には、スクリューバレル内で混練された製品を外部へと吐出する吐出口5が設けられている。なお、この実施形態においては、前記原料供給口4の上部に、予備混合室7を有しており、予備混合室7には、攪拌機8が備えられており、混練押出機1へと供給される熱可塑性樹脂および微細炭素繊維を予備混合して、スクリュー部へと圧送することができるようになっている。
【0023】
しかして、本発明においては、このような混練押出機に、微細炭素繊維と熱可塑性樹脂を投入し、混練するにおいて、前記混練押出機のシリンダー(スクリューバレル)温度を、JIS K 7210に規定される2.16kg荷重下での前記熱可塑性樹脂のメルトフローインデックス(MFI)が10〜30となる温度、より好ましくは15〜25となる温度に設定して、混練押出を行う。なお、上記MFIは、微細炭素繊維を配合していない、熱可塑性樹脂原料単独(使用される熱可塑性樹脂原料が、例えば、熱可塑性樹脂に加えて、可塑剤、安定化剤等の添加剤を含む樹脂組成物である場合には、当該樹脂組成物)としての値である。
【0024】
これは、MFIが30を超える押出温度領域では、熱可塑性樹脂の溶融粘度が低くなりすぎ微細炭素繊維の熱可塑性樹脂への分散が不均一となり好ましくなく、一方、MFIが10未満となる押出温度領域では、熱可塑性樹脂の溶融粘度が高くなりすぎ微細炭素繊維が混練押出工程中に切断され易くなり好ましくないためである。なお、MFIが10〜30となる実際の温度範囲は、使用する熱可塑性樹脂の種類によって異なってくるが、当該所定範囲のMFI値を得ることのできる温度範囲に設定される限り、熱可塑性樹脂の種類にかかわらず、微細炭素繊維との良好な混練操作が行えるものである。
【0025】
なお、このように押出温度を熱可塑性樹脂の所定のMFIとなる温度に維持するためは、以下に述べるように、押出機のスクリューセグメントの回転速度を適度なものに制御する他、必要に応じて、スクリューバレルの外周に水冷ジャケット等の冷却ジャケット、その他の冷却装置を設けることも可能である。
【0026】
さらに、本発明においては、上記した押出温度条件に加え、前記混練押出機内における前記微細炭素繊維含有樹脂組成物の滞留時間を25〜100秒とし、また、前記混練押出機のスクリューセグメントの微細炭素繊維含有樹脂組成物に対するせん断速度を、10000〜30000/秒に設定する。
【0027】
ここで滞留時間を25〜100秒とするのは、滞留時間が25秒未満では、熱可塑性樹脂中での微細炭素繊維の分布が不均一となり好ましくなく、一方、100秒を超える滞留時間をかけても、熱可塑性樹脂中での微細炭素繊維のより一層の分散向上が図られず、生産効率を低下させるのみならず、滞留時間の増加による微細炭素繊維の損傷の虞れが高まるゆえに、好ましくないためである。
【0028】
さらにせん断速度を、10000〜30000/秒とするのは、10000/秒未満のせん断速度では、熱可塑性樹脂中での微細炭素繊維の分散が不均一となり、好ましくなく、一方30000/秒を超えるせん断速度では、微細炭素繊維が混練押出工程中において切断等の損傷を受けやすくなり、好ましくないためである。
【0029】
本発明に係る製造方法においては、複合化される微細炭素繊維と熱可塑性樹脂とを、混練押出機1の原料供給口4へと投入し、上記所定条件において、混練処理を行うことで、所期の微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂組成物を調製することができるが、望ましくは、微細炭素繊維と熱可塑性樹脂とを混練押出機へと投入するに先立ち、これらを攪拌機において予め混合し、予備混合体としておくことが、混練押出機における分散処理をより良好なものとする上で好ましい。
【0030】
このような予備混合体とする上での、攪拌処理としては、例えば、図1に示すような、混練押出機1の原料供給口4の上部に配置された予備混合室7内において攪拌機8により混合処理し、そのまま混練押出機1のスクリューバレル内へと供給するような連続的な処理であっても、あるいは、別途、攪拌機において予め混合処理して得られた予備混合体を、混練押出機1のスクリューバレル内へと供給するような段階的な処理であってもよく、さらに、これらの両者を併用するようなものであってもよい。
【0031】
また、予備混合体を調製する上での攪拌機としては、過度のせん断力が負荷されない条件にて攪拌混合を行えるものであれば特に限定されず、スクリューないしプロペラ、パドル、リボン等の各種攪拌子を備えた単軸ないしは多軸の回転軸を有する各種の攪拌機を用いることができる。好ましくは、攪拌時に撹拌槽内において静的領域を設けることなく系全体で均一な撹拌を行う上から多軸、代表的には2軸の攪拌機を用いることが望ましい。
【0032】
なお、原料としての熱可塑性樹脂は、粉体としてのみではなく、ペレット状またはフレーク状等といった形状で提供される場合があるが、このような形態の熱可塑性樹脂をそのまま微細炭素繊維と混合ないし混練すると、微細炭素繊維を均一に分散配合することが困難となるので、このような形態、特に、その粒子寸法が3mm角以上である場合には、予め当該ペレットまたはフレークを適当な粉砕機にて、十分に微細、例えば、1mm角未満まで、粉砕してから予備混合体を調製することが望ましい。
【0033】
次に、本発明のカーボンナノ構造体含有熱硬化性樹脂組成物の製造方法において用いられる原料について説明する。
【0034】
本発明において用いられる微細炭素繊維とは、例えば、一枚のグラフェンシートが筒状に丸まってできる直径数nm程度の単層カーボンナノチューブや、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブの端部が円錐状で閉じたカーボンナノホーンなどが例示され、これらの微細炭素繊維は、上記したような種類の単独体とすることも、あるいは、2種以上の混合体とすることも可能である。
【0035】
これらの微細炭素繊維のうち、特に、筒状のグラフェンシートが軸直交断面が多角形状であるカーボンナノチューブを用いることが、本発明の製造方法により得られる微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂組成物において、微細炭素繊維の熱可塑性樹脂中における分散性を高める上から好ましいものである。カーボンナノチューブの軸直交断面が多角形状であることは、微細炭素繊維を製造後に、例えば、2400℃以上の温度にて高温熱処理を施すことに起因するものであるが、この熱処理により、カーボンナノチューブを繊維方向および積層方向の両方において緻密で欠陥の少ないものとし、曲げ剛性を著しく向上させることができる。この結果、曲がりにくく、弾性、すなわち変形後も元の形状に戻ろうとする性質を付与することができるので、絡み合った構造をとり難く熱硬化性樹脂に容易に分散させることができるためである。なお、カーボンナノチューブは単層でもよいが、グラフェンシートが軸直角方向に積層したものの方が、曲げ剛性を向上させる上で好ましいものである。
【0036】
また、微細炭素繊維の外径は、軸方向に沿って変化するものであることが、本発明の製造方法により得られる微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂組成物において、微細炭素繊維の熱可塑性樹脂中における軸方向への移動を防止し、分散の安定性を向上させる上から好ましいものである。
【0037】
また、微細炭素繊維は、ラマン分光分析で測定されるI/I比が0.2以下、より好ましくは0.1以下であるもの、つまりグラフェンシート内の欠陥が少ないカーボンナノチューブを用いることが、本発明の製造方法により得られる微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂組成物において、微細炭素繊維の熱可塑性樹脂組成物中における導電性を向上させる上から好ましいものである。
【0038】
なお、使用時における微細炭素繊維の嵩密度としては、特に限定されるものではないが、0.0001〜0.05g/cm、より好ましくは0.001〜0.02g/cm程度のものを用いることが、熱可塑性樹脂と混練された際に高い分散性を発揮できる上から望ましい。
【0039】
また、本発明の微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、熱可塑性樹脂組成物における微細炭素繊維の配合割合としては、特に限定されるものではなく、また用いる熱可塑性樹脂の種類等によっても左右されるが、組成物全体の0.1〜50質量%より好ましくは0.3〜30質量%であることが望ましい。含有割合が50質量%を超えると得られる樹脂組成物の成形加工性、機械的強度等が低下する虞れがあり、一方、0.1質量%未満では、微細炭素繊維を配合したことにより得られる導電性付与効果が、十分なものとならない虞れがあり、いずれも好ましくないためである。
【0040】
一方、本発明において用いられる熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン−プロピレンコポリマー、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリ乳酸樹脂、ポリスチレン樹脂;アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂;アクリルニトリル−スチレン(AS)樹脂;ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のポリ(メタ)アクリル樹脂;ポリアクリロニトリル樹脂;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等の飽和ポリエステル樹脂;アイオノマー樹脂;ポリカーボネート樹脂;各種ナイロン等のポリアミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂;ポリエーテルサルホン樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリアミドイミド樹脂;熱可塑性ポリイミド樹脂;液晶ポリエステル樹脂;および各種熱可塑性エラストマー、並びにそれらのポリマーアロイなどが挙げられる。本発明においては、これらの熱可塑性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0041】
本発明の微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、熱可塑性樹脂および微細炭素繊維以外に、必要に応じて、例えば、酸化防止剤、熱安定化剤、耐候剤、離型剤及び滑材、顔料、染料といった着色剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃化剤等の通常の熱可塑性樹脂組成物中に配合され得る各種添加剤を含むことができる。これらの添加剤は、微細炭素繊維と混練処理される熱可塑性樹脂原料中に予め配合しておくことも、また、微細炭素繊維との混練処理時において熱可塑性樹脂に添加するものであってもよい。
【0042】
さらに、本発明の微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂組成物には、上述した微細炭素繊維に加えて、その特性を大きく損なわない限度において、他の充填剤を含んでいてもよく、そのような充填剤としては例えば、金属微粒子、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック、炭素繊維、ガラス繊維などが挙げられ、これらを一種または二種以上組み合わせて用いることができる。
【0043】
本発明の製造方法により得られた微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂組成物は、そのまま、あるいはさらに公知の方法で成形して用いることができる。成形方法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形などが挙げられる。また、成形品としては、射出成形品、シート、未延伸フィルム、延伸フィルム、丸棒、異形押出品などの押出成形品などが例示できる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[参考例1] 微細炭素繊維の合成
CVD法によって、トルエンを原料として微細炭素繊維を合成した。
【0046】
触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに380℃に加熱し、生成炉に供給し、1250℃で熱分解して、微細炭素繊維を得た。さらに、合成された微細炭素繊維を窒素中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、さらにその後、アルゴン中で2600℃で高温熱処理した。
【0047】
得られた微細炭素繊維は、繊維径15〜100nm、繊維長さ1〜40μmのものであり、また、その嵩密度は0.0032g/cm、ラマンI/I比値は0.090であった。
【0048】
なお、嵩密度およびラマン分光分析は以下のようにして行った。
【0049】
<嵩密度の測定>
内径70mmで分散板付透明円筒に1g粉体を充填し、圧力0.1Mpa、容量1.3リットルの空気を分散板下部から送り粉体を吹出し、自然沈降させる。5回吹出した時点で沈降後の粉体層の高さを測定する。このとき測定箇所は6箇所とることとし、6箇所の平均を求めた後、嵩密度を算出した。
【0050】
<ラマン分光分析>
堀場ジョバンイボン製LabRam800を用い、アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定した。
【0051】
[実施例1〜6]
熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂粉砕パウダー(日本ジーイープラスチックス株式会社製、レキサンHF1110)と、参考例1で得られた微細炭素繊維とを、(三井鉱山株式会社製、ヘンシェルミキサー)を用いて、表1に示す組成比にて予備混合した。そして、この予備混合物を、スクリュー径35mm、L/D=35の2軸押出機に投入し、表1に示す押出温度、滞留時間、せん断速度にて溶融混練し、樹脂組成物ペレットを得た。
【0052】
なお、使用したポリカーボネート樹脂粉砕パウダーのJIS K 7210に規定される2.16kg荷重下での前記熱可塑性樹脂のメルトフローインデックスは、それぞれ表1に示す通りであった。
【0053】
このようにして調製された樹脂組成物ペレットを、型締力28Tの射出成形機に供給し、成形温度300℃、射出圧力1000kg/cm、金型温度100℃の成形条件にて、50mm×90mm×3mmの平板状成形品を得た。
【0054】
得られた、平板状成形品について、表面抵抗測定器(三菱化学(株)製Hiresta-UP及びLoresta-GP)を用いて、表面抵抗値を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0055】
[比較例1〜6]
表2に示す組成比にて混合する以外は、実施例1〜6と同様にして、ポリカーボネート樹脂粉砕パウダー(日本ジーイープラスチックス株式会社製、レキサンHF1110)と、参考例1で得られた微細炭素繊維とを、予備混合した後、表2に示す条件を用いる以外は、実施例1〜6と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに平板状成形品を作成して、表面抵抗値を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

[実施例7]
熱可塑性樹脂として、ポリカーボネートに代えて、ポリアミド樹脂(東レ株式会社製、アミランCM3007)(実施例7)を用いる以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに平板状成形品を作成して、表面抵抗値を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】は、本発明の微細炭素繊維含有樹脂組成物の製造方法において用いられ得る混練押出機の構成を模式的に示す図面である。
【符号の説明】
【0060】
1 混練押出機
2 スクリューセグメント
3 スクリューバレル
4 原料供給口
5 吐出口
6 スクリュー駆動源
7 予備混合室
8 攪拌機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細炭素繊維と熱可塑性樹脂とを、混練押出機に投入して混錬することにより、熱可塑性樹脂中に微細炭素繊維が分散配合されてなる微細炭素含有樹脂組成物を製造する方法において、前記混練押出機のシリンダー温度が、JIS K 7210に規定される2.16kg荷重下での前記熱可塑性樹脂のメルトフローインデックスが10〜30となる温度であり、かつ前記混練押出機内における前記微細炭素繊維含有樹脂組成物の滞留時間が25〜100秒であり、また、前記混練押出機のスクリューセグメントの微細炭素繊維含有樹脂組成物に対するせん断速度が、10000〜30000/秒であることを特徴とする微細炭素含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
微細炭素繊維と熱可塑性樹脂とを、単軸又は二軸の攪拌機を用いて予め混合して、予備混合体とした後に、前記混練押出機に投入するものである請求項1に記載の微細炭素含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
使用される熱可塑性樹脂が、ペレット状またはフレーク状である場合に、予め当該ペレットまたはフレークを粉砕機にて粉砕してから予備混合体を調製するものである請求項2に記載の微細炭素含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
使用される微細炭素繊維の嵩密度が0.0001〜0.05g/cmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の微細炭素含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリルニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、熱可塑性エラストマーおよびそれらのポリマーアロイからなる群より選ばれてなる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の微細炭素含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
金属微粒子、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック、炭素繊維、ガラス繊維およびこれらの2種以上の混合物からなる群から選ばれてなるいずれか1つの充填材をさらに配合するものである請求項1〜5のいずれか1つに記載の微細炭素繊維含有樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−282842(P2006−282842A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104456(P2005−104456)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【出願人】(504333259)燕化学工業株式会社 (4)
【出願人】(505119140)エスケー興業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】