説明

応力分散版の設置構造

【課題】耐震性を有し、かつ、施工が容易である応力分散版の設置構造を提供する。
【解決手段】略直方体形状を有し、施工現場において並べられることで土木構造物を構成する複数の発泡樹脂ブロック10上にコンクリート床版20が設けられる。コンクリート床版20は、貫通穴20Aを有し、予め成型された状態で施工現場に搬送される。固定具21は、貫通穴20Aを介して発泡樹脂ブロック10に差し込まれ、コンクリート床版20と発泡樹脂ブロック10との間の水平方向のずれを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力分散版の設置構造に関し、特に、施工現場において並べられることで土木構造物を構成する複数の発泡樹脂ブロック上に設けられる応力分散版の設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量な発泡スチロールからなる発泡樹脂ブロックを土木材料として利用する工法が、「EPS(Expanded Poly-Styrol)工法」として従来から知られている。この発泡スチロール材料は、軟弱地盤上に土木構造物を設ける場合に軽量であることのメリットを大きく発揮できる。また、上記材料は、自立性を有するため、擁壁工事や土留工事の工数を大幅に低減することが可能である。結果として、EPS工法によれば、工期の短縮(災害時の早期復旧)や工費の削減などを実現することが可能である。
【0003】
なお、EPS工法に関する従来の技術としては、たとえば、下記の特許文献1,2に記載のものなどが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−33348号公報
【特許文献2】特開2007−308882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EPS工法においては、輪荷重などを分散させるための応力分散版を発泡樹脂ブロック上に設ける必要がある。EPS工法を採用した場合、上述のとおり、工期の短縮や工費の削減などが可能であるが、これらを効果的に実現するためには、上記の応力分散版の設置作業を効率よく行なう必要がある。他方で、土木構造物としての耐震性を確保することも求められる。
【0006】
特許文献1に記載の発明では、コンクリートを現場で打設しているため、災害復旧などの緊急時に求められる工期の短縮に十分に応えることができない。他方、引用文献2に記載の発明では、コンクリート床版を工場で施工(つまり、プレキャスト)することが示されているが、コンクリート床版と発泡樹脂ブロックとの間のズレ止めの構造が具体化されておらず、地震時のズレ防止対策が十分であるか否か、すなわち、耐震性が十分か否かが必ずしも明らかでない。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、耐震性を有し、かつ、施工が容易である応力分散版の設置構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る応力分散版の設置構造は、略直方体形状を有し、施工現場において並べられることで土木構造物を構成する複数の発泡樹脂ブロック上に設けられる応力分散版の設置構造である。当該構造は、貫通穴を有し、予め成型された状態で施工現場に搬送される応力分散版と、貫通穴を介して発泡樹脂ブロックに差し込まれ、応力分散版の主表面に対して略直交する方向に延在する板状部分を有し、応力分散版と発泡樹脂ブロックとの間の水平方向のずれを抑制し、発泡樹脂ブロックから抜けにくくする逆止部分を有する固定具とを備える。固定具における板状部分は、水平方向における第1の方向に延在する第1部分と、該第1部分に対して略直交する方向に延在する第2部分とを含む。
【0009】
また、上記設置構造において、固定具を挿入した後に貫通穴を埋め戻すことにより応力分散版に対して固定具を固定することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐震性を有し、かつ、施工が容易である応力分散版の設置構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】EPS工法による土木構造物の一例を示す図である。
【図2】本発明の1つの実施の形態に係る応力分散版の設置構造を示す図である。
【図3】図2に示す設置構造に含まれる応力分散版に設けられた貫通穴を示す図である。
【図4】図3に示す貫通穴に差し込まれる固定具を示す図である。
【図5】図4に示す固定具の形状の変形例を示す図である。
【図6】図2に示す設置構造における固定具の配置の変形例を示す図である。
【図7】図2に示す設置構造における固定具の配置のさらなる変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0013】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。
【0014】
図1は、本実施の形態に係る応力分散版の設置構造が含まれる土木構造物の一例を示す図である。図1に示すように、この土木構造物は、地盤上に形成された盛土構造であって、発泡樹脂ブロック10と、発泡樹脂ブロック上に設けられたコンクリート床版20と、コンクリート床版20上に設けられた路盤30と、路盤30上に設けられた舗装40とを含む。発泡樹脂ブロック10、コンクリート床版20、路盤30および舗装40の両側には、盛土材50が設けられている。
【0015】
発泡樹脂ブロック10は、各々が直方体形状を有している。発泡体樹脂ブロック10は、発泡スチロールにより形成された軽量の部材であり、各々の部材を人力で持ち運びすることが可能である。発泡樹脂ブロック10は、予め工場にて成型されており、成型された状態で施工現場に搬送される。したがって、施工現場における施工が容易である。
【0016】
上述のとおり、発泡樹脂ブロック10は非常に軽量であるため、図1のような盛土構造を軟弱地盤上に形成する場合に、地盤改良を省略ないし簡略化することが可能である。また、工期を短縮することも可能である。発泡樹脂ブロックは10は、施工現場において複数層にわたって積層される。
【0017】
次に、コンクリート床版20の機能について説明する。図1に示すように、舗装40上に作用した輪荷重は、舗装40および路盤30の厚さに応じて分散した状態で応力分散版20上に達する。コンクリート床版20は、さらに均一化した状態で発泡樹脂ブロック10に荷重を伝える。これにより、発泡樹脂ブロック10の一部分に応力集中が生じることによる発泡樹脂ブロック10の変形が抑制される。
【0018】
EPS工法の大きなメリットの1つとして、工期の短縮が挙げられる。これにより、災害時の早期復旧や、工費の削減などの効果を得ることができる。一方で、コンクリート床版20に所定の強度を持たせるためには、コンクリートの養生等のための期間が必要であり、コンクリートを施工現場で打設した場合は、この養生期間が工期の短縮を妨げることが懸念される。特に、災害復旧時など、緊急を要する場合には、工期の短縮が最優先の課題となることがある。
【0019】
これに対し、本実施の形態では、コンクリート床版20を現場打ちではなく、工場施工のプレキャスト床版とすることにより、現場打ちの場合と比較して更なる工期の短縮を可能としている。しかし、この場合、発泡樹脂ブロック10とコンクリート床版20とが各々別々に載置されるため、地震時にコンクリート床版20が発泡樹脂ブロック10に対して「ずれる」ことが懸念される。
【0020】
このように、耐震性と施工の容易性(工期の短縮等)とを両立可能な構造が求められている。本実施の形態に係る設置構造は、そのような要請に応えたものである。
【0021】
図2は、本実施の形態に係るコンクリート床版20の設置構造を示す図である。図2に示すように、本実施の形態に係るコンクリート床版20は、予め工場にて成型された上で施工現場に運ばれたプレキャスト床版であって、各々貫通穴20Aを有している。そして、貫通穴20Aには、固定具21が各々差し込まれ、発泡樹脂ブロック10に差し込まれた固定具21が貫通穴20の内壁に固定されることにより、発泡樹脂ブロック10とコンクリート床版20とが互いに固定される。
【0022】
図3は、貫通穴20Aの周辺を拡大して示した図である。図3に示すように、貫通穴20Aは、十字状の形状を有している。なお、貫通穴20Aの十字は、長方形形状を有するコンクリート床版20の上面の短辺方向(矢印DR1方向)と長辺方向(矢印DR2方向)とに延びるように形成されている。
【0023】
図4は、貫通穴20Aに差し込まれる固定具21を示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は斜視図を示す。
【0024】
図4を参照して、固定具21は、貫通穴20Aの十字に対応した十字形状を有している。より具体的には、固定具21は、コンクリート床版20の短辺方向に延びる第1平面部分21Aと、コンクリート床版20の長辺方向に延びる第2平面部分21Bとを有する。
【0025】
さらに、固定具21は、発泡樹脂ブロック10に差し込まれた後抜けにくくする鋸状の逆止部分21Cを有する。固定具21は、貫通穴20Aに挿入された後に貫通穴20Aを埋め戻すことによりコンクリート床版20に対して固定される。
【0026】
このような固定具21を設けることにより、地震時にコンクリート床版20に作用する水平力を固定具21を介して発泡樹脂ブロック10に伝達することができる。ここで、コンクリート床版20の短辺方向(矢印DR1方向)の水平力に対しては、矢印DR1に直交する第2平面部分21Bが主として対抗し、コンクリート床版20の長辺方向(矢印DR2方向)の水平力に対しては、矢印DR2方向に直交する第1平面部分21Aが主として対抗する。このように、固定具21が、互いに直交する2方向に延在する平面部分を有することにより、任意の方向の水平力を効率よく発泡樹脂ブロック10に伝達することができる。
【0027】
固定具21の形状は、図4のような十字形状に限定されず、図5に示すようなL字形状であってもよい。さらに、中空の四角筒形状や、卍形状であってもよい。いずれの場合も、固定具21は、コンクリート床版20の短辺方向に延びる第1平面部分21Aと、コンクリート床版20の長辺方向に延びる第2平面部分21Bとを有している。固定具21の外形は、直線のみで形づくられ、曲線部分を有しない。このようにすることで、固定具21がコンクリート床版20に対してすべることを抑制することができる。
【0028】
なお、貫通穴20Aおよび固定具21は、典型的には、図2に示すように千鳥状に配置されるが、たとえば図6に示すように、コンクリート床版20の外周に沿って貫通穴20Aおよび固定具21を配置することも可能であるし、図7に示すように、マトリクス状に貫通穴20Aおよび固定具21を配置することも可能である。さらに、第1平面部分21Aおよび第2平面部分21Bの延在方向は、コンクリート床版20の短辺方向および長辺方向に合わせる必要は必ずしもなく、たとえば、図7の例のように、コンクリート床版20の短辺方向および長辺方向に対して45度回転した十字形状であってもよい。
【0029】
上述した内容について要約すると、以下のようになる。すなわち、本実施の形態は、略直方体形状を有し、施工現場において並べられることで土木構造物を構成する複数の発泡樹脂ブロック10上に設けられるコンクリート床版20の設置構造に係るものである。当該構造は、貫通穴20Aを有し、予め成型された状態で施工現場に搬送される「応力分散版」としてのコンクリート床版20と、貫通穴20Aを介して発泡樹脂ブロック10に差し込まれ、コンクリート床版20の主表面に対して略直交する方向に延在する「板状部分」としての第1および第2平面部分21A,21Bを有し、コンクリート床版20と発泡樹脂ブロック10との間の水平方向のずれを抑制する固定具21とを備える。第1平面部分21Aは、矢印DR1方向に延在し、第2平面部分21Bは、矢印DR1方向に対して直交する矢印DR2方向に延在する。
【0030】
なお、上述したコンクリート床版20に代えて、鋼製版や樹脂版を用いることも可能である。要するに、発泡樹脂部分1よりも硬質の板状のものであれば、厚み等を適宜調整することで、上述した応力分散機能を発揮することは可能である。
【0031】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0032】
10 発泡樹脂ブロック、20 コンクリート床版、20A 貫通穴、21 固定具、21A 第1平面部分、21B 第2平面部分、21C 逆止部分、30 路盤、40 舗装、50 盛土材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略直方体形状を有し、施工現場において並べられることで土木構造物を構成する複数の発泡樹脂ブロック上に設けられる応力分散版の設置構造であって、
貫通穴を有し、予め成型された状態で前記施工現場に搬送される応力分散版と、
前記貫通穴を介して前記発泡樹脂ブロックに差し込まれ、前記応力分散版の主表面に対して略直交する方向に延在する板状部分を有し、前記応力分散版と前記発泡樹脂ブロックとの間の水平方向のずれを抑制し、前記発泡樹脂ブロックから抜けにくくする逆止部分を有する固定具とを備え、
前記板状部分は、水平方向における第1の方向に延在する第1部分と、該第1部分に対して略直交する方向に延在する第2部分とを含む、応力分散版の設置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−17571(P2012−17571A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154113(P2010−154113)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(510187406)株式会社CPC (4)
【Fターム(参考)】