成分濃度測定方法および装置
【課題】血液グルコース濃度等の成分濃度を高い精度で測定する。
【解決手段】(M−1)個の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・と温度TとからなるM個(Mは2以上の整数)の未知パラメータを有する被測定物に対して、互いに波長が異なるn個(nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数)の光照射手段のうちの1つを用いて光を照射し、周波数シフト(FS)法により測定結果を得る第1の測定ステップ(S1)と、選択し得る2つの光照射手段の全ての組み合わせを用いて被測定物に対して光を照射し、光パワーバランスシフト(OPBS)法により測定結果を得る第2の測定ステップ(S2)と、第1の測定ステップの測定結果と第2の測定ステップの測定結果とから被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定する濃度導出ステップ(S3)とを実行する。
【解決手段】(M−1)個の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・と温度TとからなるM個(Mは2以上の整数)の未知パラメータを有する被測定物に対して、互いに波長が異なるn個(nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数)の光照射手段のうちの1つを用いて光を照射し、周波数シフト(FS)法により測定結果を得る第1の測定ステップ(S1)と、選択し得る2つの光照射手段の全ての組み合わせを用いて被測定物に対して光を照射し、光パワーバランスシフト(OPBS)法により測定結果を得る第2の測定ステップ(S2)と、第1の測定ステップの測定結果と第2の測定ステップの測定結果とから被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定する濃度導出ステップ(S3)とを実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液の血漿中に存在するグルコースの濃度測定、あるいはそれ以外の血漿中に存在する成分の濃度測定にも適用可能な、光音響法による成分濃度測定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病予防のためには、血漿中に存在するグルコース濃度を正確に測定する必要が有る。糖尿病患者の血糖値を連続モニターするための方法として光音響法があり、簡単にまとめると、以下のような特徴がある。
(a)光音響法は、連続的な血液グルコース監視を提供する。
(b)糖尿病患者にとって無痛で、血液サンプルを必要とせず、糖尿病患者に不快感を与えることがない。
(c)他の光学的な技術と比べて、散乱メディアによる効率の悪化がない。
(d)光学と音響学の結合により高感度の特性を得ることができる。
【0003】
光音響法には、パルス(pulse)法と連続波(continuous-wave、以下CWとする)法の二つの方式がある。パルス法には、高感度を得るために高い光パワーを使わなければいけないという欠点があった。一方、CW法には、反射表面のところの特性が変わると信号強度も変わる、すなわち再現性がないという欠点があった。しかし、高い光パワーは人体にとって安全性の面で問題になる可能性があるので、CW法を採用することが好ましい(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。パルス法やCW法では、音響波の振幅が成分濃度と比例することを利用して、成分濃度を定量している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−125542号公報
【特許文献2】特開2008−125543号公報
【特許文献3】特開2008−145262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のパルス法やCW法では、数回にわたる血漿中のグルコース濃度測定中に、グルコース濃度以外の他の血漿中パラメータ(例えば体温や、他の成分の濃度等)も変わる可能性が高いので、グルコース選択性が悪く、正確なグルコース濃度を得ることが難しいという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、血液グルコース濃度等の成分濃度を高い精度で測定することができる成分濃度測定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の成分濃度測定方法は、(M−1)個の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・と温度TとからなるM個(Mは2以上の整数)の未知パラメータを有する被測定物に対して、互いに波長が異なるn個(nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数)の光照射手段のうちの1つの光照射手段を用いて光を照射し、周波数シフト(FS)法により測定結果を得る第1の測定ステップと、前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の全ての組み合わせを用いて前記被測定物に対して光を照射し、光パワーバランスシフト(OPBS)法により測定結果を得る第2の測定ステップと、前記第1の測定ステップの測定結果と前記第2の測定ステップの測定結果とから前記被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定する濃度導出ステップとを備え、前記濃度導出ステップは、前記第1の測定ステップの測定結果をFS(λ1)、前記第2の測定ステップの測定結果をOPBS(λ1,λ2),OPBS(λ1,λ3),OPBS(λ1,λ4),・・・,OPBS(λn−1,λn)としたとき(λ1,λ2,λ3,λ4,・・・,λn−1,λnはn個の光照射手段から放射される光の波長)、前記第1の測定ステップの測定結果を表現する式FS(λ1)=KaCa+KbCb+KcCc+・・・+KtTと、前記第2の測定ステップの測定結果を表現する式OPBS(λ1,λ2)=Qaλ1,λ2Ca+Qbλ1,λ2Cb+Qcλ1,λ2Cc+・・・+Qtλ1,λ2T、OPBS(λ1,λ3)=Qaλ1,λ3Ca+Qbλ1,λ3Cb+Qcλ1,λ3Cc+・・・+Qtλ1,λ3T、OPBS(λ1,λ4)=Qaλ1,λ4Ca+Qbλ1,λ4Cb+Qcλ1,λ4Cc+・・・+Qtλ1,λ4T、・・・OPBS(λn−1,λn)=Qaλn-1,λnCa+Qbλn-1,λnCb+Qcλn-1,λnCc+・・・+Qtλn-1,λnTとからなる連立方程式(Ka,Kb,Kc,・・・,Kt,Qaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λj(i,j=1〜nで、i≠j)は所定の係数)を解くことにより、前記被測定物中の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・を決定することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の成分濃度測定方法の1構成例において、前記第1の測定ステップは、前記被測定物に対して光を照射する第1の光照射ステップと、この第1の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第1の光音響信号検出ステップと、この第1の光音響信号検出ステップで得られた電気信号のうち振幅が最大となる基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定する第1の位相測定ステップと、任意の時間経過後に前記被測定物に対して光を照射する第2の光照射ステップと、この第2の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第2の光音響信号検出ステップと、この第2の光音響信号検出ステップで得られた電気信号のうち前記基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定する第2の位相測定ステップと、この第2の位相測定ステップで測定する位相が前記第1の位相測定ステップで測定した位相と等しくなる測定信号の周波数を探索する周波数探索ステップと、この周波数探索ステップで探索した周波数と前記基準周波数との変化量を、前記第1の測定ステップの測定結果として求める周波数変化導出ステップとを含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の成分濃度測定方法の1構成例において、前記第2の測定ステップは、前記被測定物に対して強度変調光を照射する第3の光照射ステップと、この第3の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第3の光音響信号検出ステップと、この第3の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の振幅が最大となる変調周波数を第1の周波数として測定する第1の周波数測定ステップと、前記振幅が最大のときの電気信号の位相を参照位相として測定する第3の位相測定ステップと、互いに異なる波長の2波の光を前記第1の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させる第4の光照射ステップと、この第4の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第4の光音響信号検出ステップと、この第4の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が0となる第1の変曲点を探索する第4の位相測定ステップと、前記第1の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定する第1の光パワー測定ステップと、任意の時間経過後に前記被測定物に対して強度変調光を照射する第5の光照射ステップと、この第5の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第5の光音響信号検出ステップと、この第5の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が前記参照位相となる変調周波数を第2の周波数として探索する第2の周波数測定ステップと、互いに異なる波長の2波の光を前記第2の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させる第6の光照射ステップと、この第6の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第6の光音響信号検出ステップと、この第6の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が0となる第2の変曲点を探索する第5の位相測定ステップと、前記第2の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定する第2の光パワー測定ステップと、この第2の光パワー測定ステップで測定した光パワーの差と前記第1の光パワー測定ステップで測定した光パワーの差との変化量を、前記第2の測定ステップの測定結果として求める光パワー変化導出ステップとを含み、前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の組み合わせ毎に、前記第3の光照射ステップと前記第3の光音響信号検出ステップと前記第1の周波数測定ステップと前記第3の位相測定ステップと前記第4の光照射ステップと前記第4の光音響信号検出ステップと前記第4の位相測定ステップと前記第1の光パワー測定ステップと前記第5の光照射ステップと前記第5の光音響信号検出ステップと前記第2の周波数測定ステップと前記第6の光照射ステップと前記第6の光音響信号検出ステップと前記第5の位相測定ステップと前記第2の光パワー測定ステップと前記光パワー変化導出ステップとを実施し、前記2つの光照射手段の組み合わせ毎に前記第2の測定ステップの測定結果を得ることを特徴とするものである。
また、本発明の成分濃度測定方法の1構成例において、前記n個の光照射手段におけるnは(n(n−1)/2+1)>Mを満たす整数である。
【0010】
また、本発明の成分濃度測定装置は、(M−1)個の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・と温度TとからなるM個(Mは2以上の整数)の未知パラメータを有する被測定物に対して光を照射する光照射手段と、この光照射によって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する光音響信号検出手段と、前記被測定物に対して、互いに波長が異なるn個(nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数)の前記光照射手段のうちの1つの光照射手段から光を照射させ、周波数シフト(FS)法により前記電気信号に基づいて測定結果を得る第1の測定手段と、前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の全ての組み合わせを用いて前記被測定物に対して光を照射させ、光パワーバランスシフト(OPBS)法により前記電気信号に基づいて測定結果を得る第2の測定手段と、前記第1の測定手段の測定結果と前記第2の測定手段の測定結果とから前記被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定する濃度導出手段とを備え、前記濃度導出手段は、前記第1の測定手段の測定結果をFS(λ1)、前記第2の測定手段の測定結果をOPBS(λ1,λ2),OPBS(λ1,λ3),OPBS(λ1,λ4),・・・,OPBS(λn−1,λn)としたとき(λ1,λ2,λ3,λ4,・・・,λn−1,λnはn個の光照射手段から放射される光の波長)、前記第1の測定手段の測定結果を表現する式FS(λ1)=KaCa+KbCb+KcCc+・・・+KtTと、前記第2の測定手段の測定結果を表現する式OPBS(λ1,λ2)=Qaλ1,λ2Ca+Qbλ1,λ2Cb+Qcλ1,λ2Cc+・・・+Qtλ1,λ2T、OPBS(λ1,λ3)=Qaλ1,λ3Ca+Qbλ1,λ3Cb+Qcλ1,λ3Cc+・・・+Qtλ1,λ3T、OPBS(λ1,λ4)=Qaλ1,λ4Ca+Qbλ1,λ4Cb+Qcλ1,λ4Cc+・・・+Qtλ1,λ4T、・・・OPBS(λn−1,λn)=Qaλn-1,λnCa+Qbλn-1,λnCb+Qcλn-1,λnCc+・・・+Qtλn-1,λnTとからなる連立方程式(Ka,Kb,Kc,・・・,Kt,Qaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λj(i,j=1〜nで、i≠j)は所定の係数)を解くことにより、前記被測定物中の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・を決定することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の成分濃度測定装置の1構成例において、前記第1の測定手段は、前記電気信号に含まれる測定信号の位相を測定する第1の位相測定手段と、任意の時間経過後の前記測定信号の周波数を探索する周波数探索手段と、前記任意の時間経過後の前記測定信号の周波数の変化量を、前記第1の測定手段の測定結果として求める周波数変化導出手段とを備え、前記n個の光照射手段のうちの1つの光照射手段は、第1の時刻において前記被測定物に対して光を照射すると共に、任意の時間経過後に前記被測定物に対して光を照射し、前記第1の位相測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号のうち振幅が最大となる基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定すると共に、前記任意の時間経過後の電気信号のうち前記基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定し、前記周波数探索手段は、前記任意の時間経過後に測定される位相が前記第1の時刻において測定された位相と等しくなる測定信号の周波数を探索し、前記周波数変化導出手段は、前記周波数探索手段が探索した周波数と前記基準周波数との変化量を、前記第1の測定手段の測定結果として求めることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の成分濃度測定装置の1構成例において、前記第2の測定手段は、光パワーを制御する光パワー制御手段と、前記電気信号の周波数を測定する周波数測定手段と、前記電気信号の位相を測定する第2の位相測定手段と、2つの強度変調光の光パワーの差を測定する光パワー測定手段と、任意の時間経過後の光パワーの変化量を、前記第2の測定手段の測定結果として求める光パワー変化導出手段とを備え、前記光照射手段は、第1の時刻において前記被測定物に対して強度変調光を照射し、第2の時刻において互いに異なる波長の2波の光を第1の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、第3の時刻において前記被測定物に対して強度変調光を照射し、第4の時刻において互いに異なる波長の2波の光を第2の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、前記光パワー制御手段は、前記第2、第4の時刻において2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させ、前記周波数測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号の振幅が最大となる変調周波数を前記第1の周波数として測定し、前記第3の時刻において得られた電気信号の位相が参照位相となる変調周波数を前記第2の周波数として探索し、前記第2の位相測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号の振幅が最大のときの電気信号の位相を前記参照位相として測定し、前記第2の時刻において得られた電気信号の位相が0となる第1の変曲点を探索し、前記第4の時刻において得られた電気信号の位相が0となる第2の変曲点を探索し、前記光パワー測定手段は、前記第2の時刻において前記第1の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定し、前記第4の時刻において前記第2の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定し、前記光パワー変化導出手段は、前記第4の時刻において測定された光パワーの差と前記第2の時刻において測定された光パワーの差との変化量を、前記第2の測定手段の測定結果として求め、前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の組み合わせ毎に測定を実施して測定結果を得ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、周波数シフト(FS)法により測定結果を得る第1の測定ステップと、光パワーバランスシフト(OPBS)法により測定結果を得る第2の測定ステップとを実施し、第1の測定ステップの測定結果と第2の測定ステップの測定結果とから被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定することにより、測定対象の選択性を向上させることができ、異なる複数の物質を含む多成分系の被測定物においてグルコース等の測定対象の成分濃度を高い精度で測定することが可能になる。OPBS法では、2つの強度変調光の波長を適宜選択することで、濃度と光パワーとの関係の特性の勾配に異なる物質間で差を生じさせることが可能となる。したがって、特定の測定対象に対するセンサ反応が最大となるように光波長を適宜選択することで、測定対象の選択性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明では、(n(n−1)/2+1)=Mよりも(n(n−1)/2+1)>Mとした方が、連立方程式の計算精度や収束性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】音響センサから出力される測定信号の振幅と血液グルコース濃度との関係を示す図である。
【図2】2つの異なった血液グルコース濃度における測定信号の変化を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置のFS法による測定時の動作を示すフローチャートである。
【図7】異なる波長の2つの光によって音響波が生成される様子を説明する図である。
【図8】被測定物の血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度のときに光パワーを変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図である。
【図9】被測定物の血液グルコース濃度およびアルブミン濃度が変化したときに光パワーを変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置のOPBS法による測定時の動作を示すフローチャートである。
【図11】光パワーバランス−位相特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[発明の原理]
本発明では、血液グルコース濃度を正確に測定するために、光音響信号の振幅が光吸収係数に依存する原理を利用して、光波長によりグルコース選択性が良くなる新しい成分濃度測定方法である光パワーバランスシフト(Optical Power Balance Shift、以下、OPBSと省略)法について最初に説明する。
【0017】
OPBS法は、光波長が異なり位相差がπの2つの光ビームのパワーを増減させながら、光音響信号の振幅が極小な箇所の位相の変曲点を探して、その結果から血液中に溶解している分子濃度を測る方法である。この方法は血漿中のグルコース成分だけではなく、他の血漿成分(アルブミンやコレステロールなど)の検出法として適用を拡大することもできる。
その検出法のコンセプトを説明するために以下に理論式を使う。光音響信号強度Sは次式のように表すことができる。
【0018】
【数1】
【0019】
ここで、Kは定数、βは被測定物の熱膨張係数、vは音速、nはセットアップに依存する実験系パラメータ、Cpは被測定物の比熱、αは被測定物の光吸収係数、Pは光パワーである。
また、2つの差分信号の設定を使った場合、光音響信号強度Sは次式のように表すことができる。
【0020】
【数2】
【0021】
式(2)におけるP1,P2は光パワー、α1,α2はそれぞれ光パワーがP1,P2の光に対する被測定物の光吸収係数である。
課題となるのは、定数K、熱膨張係数β、音速v、比熱Cpといったパラメータが、温度または混合物の濃度に依存するため、光音響信号強度Sをそのまま血液グルコース濃度の算出に使えないことである。このような依存性を抑えるために、特許文献1に開示された測定方法では、一方の波長の信号で規格化(Normalization)を行った。
【0022】
これに対して、OPBS法では、2つの光ビームのうち一方の光ビームのパワー(例えばP1)を変えながら、光音響信号強度Sが最低となる光パワーP1を探す。理論的には、光音響信号強度Sの最低値は0であるが、実験的には、ノイズが存在するため、0にはならない。このときの光音響信号強度Sは1波長の光ビームを用いる場合の光音響信号強度よりもおよそ100倍小さくなる。簡単に説明をするために、ここではノイズを無視して、光音響信号強度Sを0とする。S=0の場合には、次式のように新しい理論式が書ける。
α1P1−α2P2=0 ・・・(3)
【0023】
測定したい成分の濃度が変化した場合、例えば血液グルコース濃度がCgだけ変化し、この濃度変化により光吸収係数α1,α2がそれぞれδα1,δα2だけ変化した場合、式(3)が成立する状態から式(4)の状態に変化する。
(α1+δα1Cg)P1−(α2+δα2Cg)P2≠0 ・・・(4)
【0024】
S=0の状態に戻すために一方の光ビームのパワー(例えばP1)を変えると次式が成立する。
(α1+δα1Cg)(P1+δP1)−(α2+δα2Cg)P2=0 ・・・(5)
式(5)より次式が得られる。
【0025】
【数3】
【0026】
式(5)、式(6)におけるδP1は光パワーP1の変化量である。式(6)より、本発明では、光パワーの変化量δP1と既知の光吸収係数α1,α2および光吸収係数変化量δα1,δα2から血液グルコース濃度を測ることができることが分かる。以上がOPBS法の原理である。
【0027】
ただし、温度やアルブミン濃度など、グルコース以外のすべてのパラメータが、測定の間は一定レベルを維持していると仮定しないと、2波長のOPBS法のみでは、正しいグルコース濃度を測定することができない。しかしながら、連続したグルコース濃度モニタリングにおいては、このような仮定は短時間の間に変容してしまう。そのため、2波長のOPBS法は、波長数を増やすか、または混合した物質に特異なレスポンスを持つほかの方法と組み合わせることが必要となる。そこで、本発明では、成分濃度による音速変化に基づく周波数シフト(Frequency Shift、以下、FSと省略)法をOPBS法と組み合わせる。OPBS法のレスポンスは使用される2つの光波長に依存する。そこで、FS法で信号レスポンスを測定し、さらには、いくつかの光波長のペアを用いてOPBS法の信号レスポンスを測定する。
【0028】
以下、FS法について説明する。図1に、音響センサから出力される測定信号の振幅と血液グルコース濃度との関係を示す。ここでは、人体または人体の一部である被測定物に光を照射したときに、光音響効果によって被測定物から発生する光音響信号を音響センサで検出し、音響センサから出力される電気信号(測定信号)を得ている。図1において、100,101,102,103はそれぞれ測定信号の周波数が479kHz、480kHz、481kHz、482kHzの場合の特性である。
【0029】
従来のように、血液グルコース濃度の測定に、任意の固定された周波数の測定信号を使用する場合では、図1に示すように、血液グルコース濃度の測定感度と、測定信号振幅−血液グルコース濃度特性の直線性とは、測定信号の周波数に強く依存する。すなわち、測定信号の選ばれた周波数によって、音響センサの応答は強く異なる。図1の結果は1つの光波長だけで得た結果であるが、CW法を採用する場合は、いつも同じような現象が現れる。
【0030】
FS法では、測定信号の周波数を調整する手段として、新たに関数発生器(ファンクションジェネレータ)を用いることを特徴とする。この関数発生器は、最高で1MHzの周波数の参照信号を発生し、またmHzオーダーの高い周波数精度を有することが好ましい。
【0031】
次に、時間と共に血液グルコース濃度が変化すると、測定信号は以下のように変化する。図2(A)、図2(B)に、2つの異なった血液グルコース濃度Ow,Ogにおける測定信号の変化を示す。図2(A)、図2(B)において、200は血液グルコース濃度Owの場合の測定信号の特性を示し、201は血液グルコース濃度Ogの場合の測定信号の特性を示している。
【0032】
測定信号の振幅情報に関しては、血液グルコース濃度の変化に応じて振幅のピーク周波数がΔfだけシフトし、また振幅のピーク値がΔVだけシフトする。時間と共に血液グルコース濃度が増加した場合には、ピーク周波数は高周波側へとシフトし、血液グルコース濃度が減少した場合には、ピーク周波数は低周波側へとシフトする。また、Δfは光学波長に依存する。
【0033】
一方、測定信号の位相情報は、血液グルコース濃度の変化に応じて周波数軸に沿ってシフトする。時間の経過と共に血液グルコース濃度が減少した場合には、位相情報は低周波側へとシフトし、血液グルコース濃度が増加した場合には、位相情報は高周波側へとシフトする。
【0034】
このように、グルコース濃度の変化には2つのシフトをもたらす効果がある。すなわち、振幅と位相の両方に現れるX軸(周波数)に沿ってシフトする効果と、振幅だけに現れるY軸(振幅)に沿ってシフトする効果である。振幅情報において2つのシフトを区別することは困難であるが、位相情報は周波数シフトだけを受ける。
そこで、FS法では、測定信号の位相情報に基づいて測定信号の周波数の変化量を求め、この周波数の変化量から血液グルコース濃度の正確な測定を実行する。
【0035】
次に、FS法の測定手順について説明する。まず、最初の測定においては、被測定物にレーザ光を照射し、光音響効果によって被測定物から発生する光音響信号を音響センサで検出する際に、音響センサの広い周波数測定スパン(例えば200−600kHzの範囲)で光音響信号の測定を実施する。
【0036】
光音響信号の多重反射により、音響センサから出力される測定信号の振幅情報には複数のピークが現れる。これらのうちの1つのピークを選択して、この選択したピークの周波数の近くに、関数発生器から発生する参照信号の周波数を決める。このピークの周波数を基準周波数f0と呼ぶ。ここで、重要なパラメータは、基準周波数f0における測定信号の振幅A0と基準周波数f0における測定信号の位相P0である。このとき、測定信号の位相P0を0に設定するために、後述のように被測定物に照射するレーザ光の位相にオフセットを加えることが好ましい。そして、振幅A0と位相P0(P0=0)と周波数f0とを記録しておく。
【0037】
ここで、本当のグルコース濃度値は分からないので、同時に血液グルコース濃度を確認するために標準測定を実行して、基準濃度G0(g/dl)を得る。これで、基準濃度G0(g/dl)で基準周波数f0における振幅A0と位相P0(P0=0)とが得られたことになる。
【0038】
次に、任意の時間経過後の時刻tにおいて基準周波数f0における測定を実施する。測定信号の位相は基準周波数f0において0に設定されたので、時刻tにおいてグルコース濃度がG1(g/dl)に変化すれば、基準周波数f0における測定信号の位相P1は0ではなくなる。ここで、位相P0に対して位相P1が大きい場合は測定信号の周波数を増加すべきことを意味し、位相P0に対して位相P1が小さい場合は測定信号の周波数を減少すべきことを意味している。そこで、時刻tにおける測定信号の位相P1がP0と等しくなるように(ここでは、0になるように)関数発生器で測定周波数を変更する。位相P1がP0と等しくなる周波数をf1とする。そして、周波数f1における測定信号の振幅A1と位相P1(P1=P0=0)とを記録しておく。
【0039】
グルコース濃度の変化に伴う測定信号の周波数変化率Δf/f=(f1−f0)/f0は、グルコース濃度の変化に伴う光音響信号の音速変化率Δv/v=(v(G1)−v(G0))/v(G0)に比例する。ここで、v(G0)はグルコース濃度G0(g/dl)のときの音速、v(G1)はグルコース濃度G1(g/dl)のときの音速である。そして、後述のように測定信号の周波数変化率Δf/fから、血液グルコース濃度を推定することができる。
【0040】
音速を利用して血液グルコース濃度を推定する場合、この推定の過程は共鳴腔の寸法や共鳴モードの影響を受けない。光学波長は、共鳴腔の寸法や共鳴モードと関係するが、何らかの明確な目的があれば、自由に光学波長を選択することもできる。
【0041】
光学波長の選択に関して説明する。音速を利用した血液グルコース濃度の測定は有効な測定法であるが、血しょう成分の変化も音速の変化に通じる可能性が高い。米国特許5119819号(G.H.Thomas et al.,“Method and apparatus for non-invasive monitoring of blood glucose”,1992)に開示された技術では、グルコース以外の血しょう成分濃度はゆっくりと変わるので、グルコース濃度測定の間、他の成分は一定の濃度レベルにあるという仮定をしている。この仮定は短時間の測定では成立する可能性があるが、本発明のように、血液グルコース濃度を連続的にモニターする場合にはドリフト(グルコース濃度変化以外の他の影響によって生じる測定信号の周波数シフト)が発生する可能性が高くなる。本発明では、このドリフトの問題の解決のため、次の2つのアプローチを提案する。
【0042】
(A)ドリフトを修正するために、定期的(数時間毎)に標準的な測定方法で血液グルコース濃度を測定し、血液成分の新しい値に従って成分濃度測定装置を再調整する。
(B)振幅信号を用いるために光学波長を慎重に選択し、血しょう成分を同時に検出する。
【0043】
本発明では、校正測定を定期的に必要とするが、この校正は1日あたり数回以上必要なものではないので、上記の(B)の方法は好ましい。(B)の方法は、米国特許4506543号(A.J.Kamp et al.,“Analysis of salt concentrations”,1985)に開示された技術と類似のものであるが、本発明では、同じ実験データから両方の測定が同時にできる。
【0044】
上述の方法では、P1やP0といった位相情報だけを考慮する。しかしながら、血液グルコース濃度が既知のときの周波数f0における測定信号の振幅A0と、周波数f1における測定信号の振幅A1とを比較すれば、主に光の吸収の変化による信号強度の違いから濃度測定を行うことができる。
【0045】
例えば2個の化合物a,bが混ざり合っている被測定物の場合を考える。化合物a,bは、音速パラメータに影響を与える。しかし、2個の化合物a,bが異なる光吸収比を示す光学波長を選ぶならば、化合物a,bの濃度という2つの未知パラメータを有する2つの方程式が得られる。一方の方程式は、第1の時刻と第2の時刻との間の音速の差の方程式であり、もう1つの方程式は、第1の時刻と第2の時刻との間の信号振幅の差の方程式である。他のすべての化合物を一定濃度であると仮定すれば、化合物a,bの濃度を明確に決定することができる。
【0046】
3個の化合物a,b,cが混ざり合っている被測定物の場合、2つの異なる光学波長を必要とする。位相の測定は、2つの光学波長を用いる場合において1つの方程式だけをもたらすのと同じ結果を与える。しかしながら、3個の化合物a,b,cが異なる光吸収比を示す2つの光学波長を選ぶことで、さらに2つの方程式を得ることができる。
【0047】
このように、n個の光学波長を使用すれば、(n+1)個の化合物の濃度を測定することができる。ただし、この測定は、測定時間が全ての化合物の一定の濃度を保証できるくらい短い場合に限る。
【0048】
次に、グルコース濃度の変化に伴う測定信号の周波数変化が、グルコース濃度の変化に伴う光音響信号の音速変化と関係することについて説明する。被測定物に光を照射したときに音響センサで得られる電気信号には複数のピークが現れるが、このピークは小空間に光音響エネルギーが閉じ込められることによるものである。そして、共鳴モードは複数の反射により形成される。まず、光音響エネルギーが閉じ込められる空間のモデルとして、互いに平行で無限に長い2つの平面を用いる。2つの平面の距離はLである。この単純な条件では、以下の式が成立する。
L=(nλ)/2 ・・・(7)
【0049】
ここで、nは正の整数、λは音響信号の波長である。音響信号の速度をvac、n番目のモードの共振周波数をfとすると、音響信号の波長λは次式で表される。
λ=vac/f ・・・(8)
【0050】
式(7)、式(8)より、次式が得られる。
f=(nvac)/2L ・・・(9)
式(9)より、共振周波数fは、音響信号の速度vacに比例することが分かる。
【0051】
横方向閉じ込めを導入したときは、光音響エネルギーが閉じ込められる空間が円筒空洞の場合のみ共振周波数fjを以下のように表すことができる。
【0052】
【数4】
【0053】
ここで、j=(nmq)であり、n,m,qはそれぞれラジアル(radial)方位、方位(azimuth)、縦モードの番号である。Rは円筒の半径、Lは円筒の長さである。αmnは方程式のn+1番目の根である。
【0054】
【数5】
【0055】
式(11)において、Jmはm次のベッセル関数である。m=n=0のとき、f00qはq番目の縦モードの共振周波数となる。重要な事実は、音響信号の共振周波数fが音響信号の速度vacに線形的に依存することである。つまり、音響信号の速度vacの変化の結果、音響信号の共振周波数fに変化が生じるので、次式の関係が得られる。
Δf/f=Δvac/vac ・・・(12)
【0056】
音響信号の速度vacとグルコース濃度とは、線形関係にある。さらに、音響信号の速度vacの変化と共振周波数fの変化とには式(12)に示した関係があるので、グルコース濃度の変化が音響信号の周波数の変化に線形的につながることが分かる。こうして、FS法では、測定信号の周波数の変化からグルコース濃度を導出する。
【0057】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図3は本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
成分濃度測定装置は、レーザ光を照射する光照射手段となるレーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nと、レーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nを駆動するレーザドライバ2と、レーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nから放射されたレーザ光を導く光ファイバ3−1,3−2,3−3,3−4,・・・,3−nと、レーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nから放射されたレーザ光を合波する光カプラ4と、光カプラ4によって合波されたレーザ光を導く光ファイバ5と、被測定物13(溶媒)を収容するケースである光音響セル6と、レーザ光を透過させるガラス製の光学窓7と、光音響効果によって被測定物13から発生する光音響信号を検出し、音圧に比例した電気信号に変換する光音響信号検出手段となる音響センサ8と、音響センサ8から出力された電気信号を増幅する増幅器9と、参照信号を発生する関数発生器10と、増幅器9の出力信号と関数発生器10から出力された参照信号とを入力として、増幅器9の出力信号から所望の周波数の測定信号を検出するロックインアンプ11と、関数発生器10およびロックインアンプ11を制御すると共に、ロックインアンプ11が検出した測定信号を処理して被測定物13中の測定対象の成分の濃度を決定するコンピュータからなる情報処理装置12とから構成される。
【0058】
レーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nの例としては、例えば分布帰還型半導体レーザ(DFB−LD)等がある。各レーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nから放射される光の波長は互いに異なる。音響センサ8の例としては、マイクロホンがある。
【0059】
図4は情報処理装置12の構成を示すブロック図である。情報処理装置12は、関数発生器10を制御する関数発生器制御部120と、測定信号の振幅を測定する振幅測定部121と、測定信号の位相を測定する位相測定部122と、位相のオフセットを調整する位相オフセット調整部123と、測定信号の振幅と位相と周波数の情報または測定信号の周波数と位相の情報を記録する情報記録部124と、測定信号の周波数シフトを校正する周波数シフト校正部125と、測定信号の周波数の変化率を導出する周波数変化率導出部126と、測定信号の周波数を測定する周波数測定部127と、光パワーを制御する光パワー制御部128と、2つの強度変調光の光パワーの差を測定する光パワー測定部129と、光パワーの変化量を導出する光パワー変化量導出部130と、FS法による測定結果とOPBS法による測定結果とから測定対象の成分濃度を決定する濃度導出部131と、情報記憶のための記憶部132とを有する。関数発生器制御部120は、周波数探索手段を構成している。
【0060】
以下、本実施の形態の成分濃度測定装置の動作について説明する。図5は成分濃度測定装置の動作を示すフローチャートである。
成分濃度測定装置は、最初にFS法による測定を行い(図5ステップS1)、続いてOPBS法による測定を行い(ステップS2)、FS法による測定結果とOPBS法による測定結果とから測定対象の成分濃度を決定する(ステップS3)。
【0061】
以下、FS法による測定について詳細に説明する。図6は成分濃度測定装置のFS法による測定時の動作を示すフローチャートである。FS法では1波長で測定を行うので、レーザダイオードを1個だけ用いる。ここでは、レーザダイオード1−1を用いるものとする。
【0062】
被測定物13は、光音響セル6内に導入される。レーザドライバ2から駆動電流が供給されると、レーザダイオード1−1はレーザ光を放射する。従来のCW法と同様に、レーザダイオード1−1から放射されるレーザ光は連続波である。このレーザ光は、光ファイバ3−1によって導かれ光カプラ4を通過して、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って光音響セル6内の被測定物13に照射される(図6ステップS100)。
【0063】
音響センサ8は、被測定物13から発生する光音響信号を検出し、増幅器9は、音響センサ8から出力された電気信号を増幅する。ロックインアンプ11は、増幅器9の出力に含まれる信号のうち、関数発生器10から出力される参照信号によって決まる周波数の測定信号を検出する。
【0064】
情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数を漸次変化させる周波数掃引を行う(図6ステップS101)。こうして、測定信号の共鳴ピークを探索する。
【0065】
次に、測定信号の振幅のピークを見つけたときに、情報処理装置12の振幅測定部121は、このピークの周波数(基準周波数f0)における測定信号の振幅A0を測定し(図6ステップS103)、位相測定部122は、基準周波数f0における測定信号の位相P0を測定する(ステップS104)。
【0066】
このような測定の前に、情報処理装置12の位相オフセット調整部123は、ロックインアンプ11を通じてレーザドライバ2を制御し、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の位相を変化させ、被測定物13に照射するレーザ光の位相を変化させることにより、測定信号の位相P0を0に設定することが好ましい(図6ステップS102)。
【0067】
情報記録部124は、振幅測定部121が測定した振幅A0と、位相測定部122が測定した位相P0(P0=0)と、ピークの周波数(基準周波数f0)とを記憶部132に記憶させる(図6ステップS105)。
【0068】
次に、ステップS100〜S105の最初の測定から任意の時間経過後の時刻tにおける測定について説明する。最初の測定の場合と同様に、被測定物13にレーザ光を照射する(図6ステップS106)。ここでは、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給する駆動電流の位相をステップS102の場合と同じにすることにより、被測定物13に照射されるレーザ光の位相をステップS102の場合と同じにしている。
【0069】
情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、ロックインアンプ11に基準周波数f0の測定信号を検出させる。情報処理装置12の位相測定部122は、基準周波数f0における測定信号の位相P1を測定する(図6ステップS107)。測定信号の位相P1が位相P0(P0=0)と等しい場合、時刻tにおける血液グルコース濃度は、ステップS100〜S105の最初の測定のときの血液グルコース濃度と同じとなる。
【0070】
一方、測定信号の位相P1が位相P0(P0=0)と異なる場合、情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、測定信号の位相P1がP0と等しくなる(ここでは、位相P1が0になる)測定信号の周波数を探す(図6ステップS108)。位相P1がP0と等しくなる周波数をf1とする。
【0071】
周波数f1を見つけたときに、情報処理装置12の振幅測定部121は、周波数f1における測定信号の振幅A1を測定する(図6ステップS109)。
そして、情報記録部124は、振幅測定部121が測定した振幅A1と、測定信号の位相P1(P1=P0=0)と、周波数f1とを記憶部132に記憶させる(図6ステップS110)。
【0072】
情報処理装置12の周波数変化率導出部126は、測定信号の周波数変化率(f1−f0)/f0×100を算出する(図6ステップS111)。レーザダイオード1−1から放射される光の波長をλ1とし、測定結果である信号レスポンス(周波数変化率導出部126が算出した周波数変化率)をFS(λ1)と表現する。以上で、成分濃度測定装置のFS法による測定時の動作が終了する。
【0073】
FS法による測定では、測定信号の振幅を測定しなくてもよい。ただし、血液グルコース濃度に変化が生じていない場合について、振幅A0と振幅A1とを使うことにより、グルコース濃度変化以外の他の影響によって生じる測定信号の周波数シフトを校正することができる。以下、この周波数シフトの校正について説明する。
【0074】
グルコース濃度変化以外の他の成分が混合している場合において、グルコース濃度変化による測定信号の位相変化を打ち消され、ステップS107において測定信号の位相P1を測定したときに位相P1が位相P0(P0=0)と等しい場合が生じる。この場合は、情報処理装置12の振幅測定部121は、基準周波数f0における測定信号の振幅A1を測定する。測定信号の振幅A1が振幅A0と異なる場合、測定信号の振幅A1からグルコース以外の他の成分、例えば、アルブミンなどの成分を推定することができる。
【0075】
グルコース濃度変化以外の他の成分が混合している場合において、測定信号の位相P1と位相P0(P0=0)とが異なる場合は、情報処理装置12の周波数シフト校正部125は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数を漸次変化させる周波数掃引を行い、基準周波数f0に最も近いピークを探索する。
【0076】
周波数シフト校正部125は、測定信号の振幅のピークを見つけたときに、このピークの周波数を新たな基準周波数f0とする。こうして、基準周波数f0を更新することができ、グルコース濃度変化以外の他の影響によって生じる測定信号の周波数シフトを校正することができる。
【0077】
血液グルコース濃度が変化してしまうと校正ができなくなるので、定期的(例えば数時間毎)にステップS100〜S105の処理を実施して、振幅A0と位相P0と基準周波数f0とを適宜更新すればよい。
【0078】
次に、OPBS法による測定について詳細に説明する。OPBS法では、2つの波長の光を用いた従来技術(特許文献1参照)で定義されるような利点を活用する。互いに異なる波長の2波のレーザ光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調して矩形波ビームを生成し、この矩形波ビームを合波した上で被測定物(例えば、血漿)に照射すると、2つのレーザ光が、それぞれの光吸収係数で被測定物に吸収される。その結果、光音響効果(被測定物で吸収される光学エネルギーが熱エネルギーに変わって、その熱エネルギーによる体積膨張により音響波が発生する効果)によって音響波が生成される(図7)。図7における60はレーザダイオード1−1から放射された矩形波ビームによる光音響信号を示し、61はレーザダイオード1−2から放射された矩形波ビームによる光音響信号を示している。音響波は、2つのレーザ光の各々による2つの信号αP(αは被測定物の光吸収係数、Pは光パワー)の強度の差に比例する。
【0079】
OPBS法では、最初に、既知の参照血液グルコース濃度により参照光音響信号のレベル(信号振幅)を定める。血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度から変化するとき、2つの光による光音響信号の振幅は光波長と光吸収係数によって変わる。2つの光のパワーを変化させ、血液グルコース濃度の変化による光吸収効果とのバランスをとり、光音響信号の振幅を参照血液グルコース濃度のときに定めた参照光音響信号のレベルに戻す。
【0080】
1つの光を被測定物に照射した場合、生成される光音響信号の強度S(信号振幅)は上記の式(1)のように表すことができる。また、互いに異なる波長の2つの光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調して被測定物に照射した場合、生成される光音響信号の強度Sは上記の式(2)のように表すことができる。ただし、上記で説明したとおり、定数K、熱膨張係数β、音速v、比熱Cpといったパラメータが、温度または混合物の濃度に依存するため、光音響信号強度Sをそのまま血液グルコース濃度の算出に使うことはできない。このような依存性を抑えるために、特許文献1に開示された測定方法では、一方の波長の信号で規格化を行った。
【0081】
本実施の形態のOPBS法では、式(2)の(α1P1−α2P2)により光音響信号強度Sを最小にする光パワーP1またはP2を探索する。この光音響信号強度Sの最小値をノイズの範囲内で決定する。実際的には、光パワー出力を変えるために、図3のレーザ電圧を調整する範囲を考慮して2つの波長(λ1、λ2)、2つの光吸収係数(α1、α2)に対して、光パワーを(P1,P2)と決定する。
【0082】
図8は被測定物の血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度0g/dLのときに光パワーP1,P2を変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図である。図8の横軸は光パワーバランス、縦軸は光音響信号の振幅と位相である。図8における70は光音響信号の振幅を示し、71は光音響信号の位相を示している。光パワーバランスは、2つの光のパワーの関係をレーザ電圧で表現しており、2つのレーザ光の各々におけるαPが等しい点を0としている。光パワーバランスが0より小の領域では、光パワーP1よりも光パワーP2の方が低くなり、一方、光パワーバランスが0より大の領域では、光パワーP1よりも光パワーP2の方が高くなっている。
【0083】
図8から明らかなように、光パワーバランスが0の点、すなわち2つのレーザ光の各々におけるαPが等しい点において、光音響信号の振幅は最小値を示し、また光音響信号の位相は変曲点を示す。理論上では、光パワーバランスが0の点における光音響信号の振幅は0であるべきだが、実験的にはノイズを含めた最小値となっており、0にはならない。
【0084】
2つの光のうち一方の光のパワーを変えると、光音響信号の振幅と位相が変わる。光音響信号の振幅は、光パワーバランスが0の点の両側で増大する。つまり、一方の光のパワーが小さくなった場合、2つの信号αPの強度の差が大きくなり、光音響信号の振幅が増大する。また、一方の光のパワーが小さくなった場合、光音響信号の位相は他方の光単独で励振された場合の光音響信号の位相に近づく。すなわち、1つの光のみで励振された状態に近づく。
【0085】
以上をまとめると、2つの光のパワーのうち一方の光パワーP2を低下させるかあるいは光パワーP1を上昇させて、光パワーバランスを0より小にすると、光音響信号の振幅が増大し、位相に関しては2つの位相間で−90度異なる。すなわち、このときの光音響信号の位相は光パワーP1の光単独で励振された場合の光音響信号の位相(すなわち−90度)と同じ位相となる。また、光パワーP2を上昇させるかあるいは光パワーP1を低下させて、光パワーバランスを0より大にすると、光音響信号の振幅が増大し、光音響信号の位相は光パワーP2の光単独で励振された場合の光音響信号の位相(すなわち+90度)と同じ位相となる。
【0086】
ここで、光パワーバランスが0の点では、2つの重要な特徴がある。最初に、2つの波長の光音響信号が±90度位相シフトしているため、光パワーバランスが0の点は、変曲点となる位相0の点と一致する。さらに、変曲点の両側では、光音響信号の位相は正または負の明確な値をとり、位相と光パワーとの関係が線形であるため、位相の測定が早く済み、また測定が簡単であり、正確に測定することが可能であり、位相の正負の値から変曲点0の位置を良い精度で得ることが可能である。これらの2つの特徴から、位相測定で高精度に血液グルコース濃度を測定することができる。
【0087】
ここでは、分かり易い説明を提供するために、位相ではなく、振幅信号に焦点を合わせる。光音響信号の振幅が最小となり、かつ光音響信号の位相の変曲点となる位相ポイントは、2つの光の各々におけるαPが等しい点に位置する。被測定物の血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度0g/dLのときに、この位相ポイントでは上記の式(3)が成立する。
【0088】
実験的にはノイズが存在するために、光音響信号の振幅を0にすることは難しい。しかし、光音響信号の振幅の最小値は、1波長の光を用いる場合の光音響信号の振幅よりも2桁低い値となる。そして、概念的にはノイズレベルを完全に無視できるレベルに光音響信号の振幅を低下させることができる。次に、被測定物の成分濃度を変化させる。例えば、血液グルコース濃度を0からCg[g/dL]だけ変化させる。
【0089】
図9(A)は被測定物の血液グルコース濃度がCg[g/dL]だけ変化したときに光パワーP1,P2を変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図、図9(B)は被測定物のアルブミン濃度が変化したときに光パワーP1,P2を変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図である。図9(A)、図9(B)の横軸は光パワーバランス、縦軸は光音響信号の振幅と位相である。
【0090】
図9(A)における80は血液グルコース濃度が変化したときの光音響信号の振幅を示し、81は血液グルコース濃度が変化したときの光音響信号の位相を示し、82は血液グルコース濃度が変化する前の光音響信号の振幅を示し、83は血液グルコース濃度が変化する前の光音響信号の位相を示している。また、図9(B)における84はアルブミン濃度が変化したときの光音響信号の振幅を示し、85はアルブミン濃度が変化したときの光音響信号の位相を示し、86はアルブミン濃度が変化する前の光音響信号の振幅を示し、87はアルブミン濃度が変化する前の光音響信号の位相を示している。
【0091】
血液グルコース濃度またはアルブミン濃度が変化したとき、αPの変更に従って光音響信号の振幅と位相は変化する。例えば血液グルコース濃度がCgだけ変化し、この濃度変化により光吸収係数α1,α2がそれぞれδα1,δα2だけ変化した場合、上記の式(4)が成立する。成分濃度(血液グルコース濃度、アルブミン濃度など)の検出方法は2つある。光音響信号の振幅が最低となる光パワーバランスを探す方法か、あるいは光音響信号の位相の変曲点の光パワーバランスを探す方法のどちらかである。
【0092】
光パワーバランスが0の点の周辺で、光音響信号の位相と光パワーとの関係は線形に近いため、位相0の位置の正確な評価が可能である。光音響信号の位相を成分濃度変化後の新しい変曲点まで移動させるための光パワー差は、測定により求めることができる。図9(A)、図9(B)の例では、光パワーP2を上昇させるかあるいは光パワーP1を低下させることで、成分濃度変化後の新しい変曲点(光音響信号の振幅80,84が最小となる点)まで位相を移動させることができる。
【0093】
本実施の形態のOPBS法では、光音響信号の位相が0の点を探すために、光パワーを変化させる。より具体的には、光パワーを変化させるために、レーザダイオード1−1,1−2の駆動電圧を変化させる。光音響信号の位相が0の点では、上記の式(5)、式(6)が成立する。式(6)から明らかなように、血液グルコース濃度Cgは、グルコースに特有な新しい光パワーバランスのシフト値δP1と相対的な光吸収係数δα1とδα2から求めることができる。測定したい成分濃度がアルブミン濃度の場合も同様にして求めることができる。なお、光吸収係数α1,α2と光吸収係数変化量δα1,δα2とは、光吸収スペクトル測定から求めることができる。
【0094】
本実施の形態のOPBS法は、非侵襲的に光音響測定に基づく溶液の成分を測るために、効率的な方法である。この測定方法は、2つの光学波長を選ぶことによって1つの特定の合成物に非常に選択的なアプローチを最適化することができる。利用できる多様な光学波長を考慮すれば、異なる溶媒において多くの溶質を検出できることは明らかである。また、対応する光学パワーを調節しパワーバランスを求める方法により、どのような吸収係数(濃度)の違いに対しても測定可能である。
【0095】
光学波長の選択は吸収係数によって制限されない。仮に、α1=2α2ならば、P1=0.5P2と式(3)はいぜん有効である。さらにまた、位相0の変曲点に基づく測定方法は、速く収束して非常に正確な測定を提供する。光音響信号の位相を測定するため、数ポイントの測定点を記憶しておく必要がある。ノイズを完全に無視するならば、パラボラ(2次多項式)が3ポイントの測定データを必要とするのに対し、2ポイントの測定データから線形斜面を決定することは可能である。この観点から、光音響信号の直線的な特性の方が、位相が0の変曲点を早く求めることができる。
【0096】
しかしながら、ノイズと必要な測定精度の依存関係に基づき、測定ポイントの数は抜本的に増加させられるべきである。光音響信号の変化が線形的な挙動であれば、2ポイントの測定データから位相0の位置を非常に正確な精度で得ることができ、小さい範囲の中で位置を検索することができる。一方、光音響信号の変化が放物線状の場合には、二分検索アルゴリズム(二分探索)は最高の方法である。ただし、位相が0の位置を求めるのに要する時間は非常に長くなる。実験的な見解からセンサの反応時間に関連して、測定時間の量的増加を推定することは困難である。しかしながら、光音響信号の位相の線形的な挙動を利用すれば、より早く測定することができ、正確な成分濃度値を提供することができる。
【0097】
次に、OPBS法による測定について更に詳細に説明する。図10は成分濃度測定装置のOPBS法による測定時の動作を示すフローチャートである。
初めに時刻t0の初期状態において参照レベルの決定を行うために、レーザダイオード1−1のみを動作させる。被測定物13は、光音響セル6内に導入される。レーザドライバ2から駆動電流が供給されると、レーザダイオード1−1はレーザ光を放射する。このとき、レーザドライバ2から矩形波の駆動電流が供給されることにより、レーザダイオード1−1は強度変調光を放射する。光の波長は例えば1384nmである。この強度変調光は、光ファイバ3−1によって導かれ光カプラ4を通過して、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って光音響セル6内の被測定物13に照射される(図10ステップS200)。
【0098】
音響センサ8は、被測定物13から発生する光音響信号を検出し、増幅器9は、音響センサ8から出力された電気信号を増幅する。ロックインアンプ11は、増幅器9の出力に含まれる信号のうち、関数発生器10から出力される参照信号によって決まる周波数の測定信号を検出する。
【0099】
情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を漸次変化させると共に、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数(光変調周波数と同一の周波数)を漸次変化させる光変調周波数掃引を行う(図10ステップS201)。こうして、音響共振ピークを探索する。
【0100】
次に、測定信号の最大振幅を見つけたときに、情報処理装置12の周波数測定部127は、この最大振幅時の測定信号の周波数(参照周波数F0)を測定し、位相測定部122は、最大振幅時の測定信号の位相(参照位相P0)を測定する(図10ステップS202)。
情報処理装置12の情報記録部124は、周波数測定部127が測定した参照周波数F0と位相測定部122が測定した参照位相P0とを記憶部132に記憶させる(図10ステップS203)。
【0101】
次に、2つのレーザダイオード1−1,1−2を動作させて、2つの光を合波して測定を行う。レーザドライバ2から駆動電流が供給されると、レーザダイオード1−1,1−2はレーザ光を放射する。このとき、レーザドライバ2は、同一周波数で逆位相の矩形波の駆動電流をレーザダイオード1−1,1−2に供給することにより、レーザダイオード1−1,1−2から放射される光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調する。このとき、レーザダイオード1−1から放射される光の波長は例えば1384nm、レーザダイオード1−2から放射される光の波長は例えば1610nmである。また、2つの光のパワーは同一である。レーザダイオード1−1,1−2から放射された強度変調光は、それぞれ光ファイバ3−1,3−2によって導かれ、光カプラ4によって合波され、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って光音響セル6内の被測定物13に照射される(図10ステップS204)。
【0102】
続いて、情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1,1−2に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を参照周波数F0に設定すると共に、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数を参照周波数F0に設定する。情報処理装置12の光パワー制御部128は、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の大きさを変化させることにより、レーザダイオード1−1から放射される光のパワーを漸次変化させる光パワー掃引を行う(図10ステップS205)。
【0103】
情報処理装置12の位相測定部122は、測定信号の位相の変曲点、すなわち位相が0になる点を探索する(図10ステップS206)。位相の変曲点が見つかったときに、情報処理装置12の光パワー測定部129は、変曲点における2つの光の光パワーの差を測定する(図10ステップS207)。光パワー測定部129は、レーザダイオード1−1に供給される駆動電圧とレーザダイオード1−2に供給される駆動電圧との差である参照駆動電圧差VOPBS0を光パワーの差として測定する。
【0104】
なお、ステップS204の時点における2つの光パワーは同一なので、2つの光のうち一方の光のパワーのみを変化させる場合には、この一方の光についてステップS204時点の初期の光パワーと変曲点における光パワーとの差(駆動電圧差)を求めるようにしてもよい。また、ステップS205における光パワー掃引において、2つのレーザダイオード1−1,1−2から放射される光のパワーを変化させるようにしてもよい。
【0105】
次に、時刻t0から任意の時間経過後の時刻tにおける測定について説明する。初めに、一方のレーザダイオード1−1のみを動作させて、1つの光のみによる測定を行う。レーザダイオード1−1から放射された強度変調光は、光ファイバ3−1によって導かれ光カプラ4を通過して、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って光音響セル6内の被測定物13に照射される(図10ステップS208)。
【0106】
情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を参照周波数F0に設定する。さらに、関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、光変調周波数を参照周波数F0から変化させる。
情報処理装置12の位相測定部122は、測定信号の位相が参照位相P0となる点を探索し、情報処理装置12の周波数測定部127は、この点における周波数F1を測定する。こうして、参照位相P0に対応する周波数F1を探索する(図10ステップS209)。なお、周波数F1は参照周波数F0の近傍に位置する。
【0107】
次に、2つのレーザダイオード1−1,1−2を動作させて、2つの光を合波して測定を行う。レーザドライバ2は、同一周波数で逆位相の矩形波の駆動電流をレーザダイオード1−1,1−2に供給することにより、レーザダイオード1−1,1−2から放射される光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調する。上記と同様に、レーザダイオード1−1から放射される光の波長は例えば1384nm、レーザダイオード1−2から放射される光の波長は例えば1610nmである。また、2つの光のパワーは同一である。レーザダイオード1−1,1−2から放射された強度変調光は、それぞれ光ファイバ3−1,3−2によって導かれ、光カプラ4によって合波され、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って被測定物13に照射される(図10ステップS210)。
【0108】
続いて、情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1,1−2に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を周波数F1に設定すると共に、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数を周波数F1に設定する。情報処理装置12の光パワー制御部128は、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の大きさを変化させることにより、レーザダイオード1−1から放射される光のパワーを漸次変化させる光パワー掃引を行う(図10ステップS211)。
【0109】
情報処理装置12の位相測定部122は、測定信号の位相の変曲点、すなわち位相が0になる点を探索する(図10ステップS212)。位相の変曲点が見つかったときに、情報処理装置12の光パワー測定部129は、変曲点における2つの光の光パワーの差を測定する(図10ステップS213)。光パワー測定部129は、レーザダイオード1−1に供給される駆動電圧とレーザダイオード1−2に供給される駆動電圧との差である駆動電圧差VOPBS1を光パワーの差として測定する。
【0110】
なお、ステップS210の時点における2つの光パワーは同一なので、2つの光のうち一方の光のパワーのみを変化させる場合には、この一方の光についてステップS210時点の初期の光パワーと変曲点における光パワーとの差(駆動電圧差)を求めるようにしてもよい。また、ステップS211における光パワー掃引において、2つのレーザダイオード1−1,1−2から放射される光のパワーを変化させるようにしてもよい。
【0111】
情報処理装置12の記憶部132には、駆動電圧差VOPBS1と参照駆動電圧差VOPBS0との差(VOPBS1―VOPBS0)と、光パワー変化量δPとの関係を示すキャリブレーションデータが予め記憶されている。このようなキャリブレーションデータは、予め実測することにより求めることができる。情報処理装置12の光パワー変化量導出部130は、記憶部132を参照して駆動電圧差(VOPBS1―VOPBS0)に対応する光パワー変化量δPを取得する(図10ステップS214)。レーザダイオード1−1から放射される光の波長をλ1、レーザダイオード1−2から放射される光の波長をλ2とし、測定結果である信号レスポンス(光パワー変化量導出部130が求めた光パワー変化量)をOPBS(λ1,λ2)と表現する。以上で、レーザダイオード1−1,1−2を用いた測定が終了する。
【0112】
次に、ステップS200に戻り、レーザダイオード1−1,1−2とは別の組み合わせのレーザダイオード1−1,1−3を用いてステップS200〜S214の測定を行う。こうして、レーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nの中から選択し得る2つのレーザダイオードの全ての組み合わせについてステップS200〜S214の測定を実施する。例えばレーザダイオード1−3から放射される光の波長をλ3、レーザダイオード1−4から放射される光の波長をλ4とすれば、レーザダイオード1−1,1−3の組み合わせを用いたときの測定結果である信号レスポンス(光パワー変化量導出部130が求めた光パワー変化量)はOPBS(λ1,λ3)と表現され、レーザダイオード1−1,1−4の組み合わせを用いたときの測定結果である信号レスポンスはOPBS(λ1,λ4)と表現される。
【0113】
選択し得る2つのレーザダイオードの全ての組み合わせについてステップS200〜S214の測定が終了した時点で(図10ステップS215においてYES)、成分濃度測定装置のOPBS法による測定時の動作が終了する。
【0114】
本実施の形態のOPBS法では、2つの光を同一周波数で且つ逆位相の信号により強度変調しているが、位相差が180°以外の信号で光を強度変調してもよい。
2つの光を強度変調する信号の位相を手動で変更し、図11に示す光パワーバランス−位相特性を得た。図11の横軸は光パワーバランス、縦軸は光音響信号の位相である。ここでは、波長が1438nmの光と1610nmの光を用いている。光パワーバランスは、1438nmの光を発生するレーザダイオードのレーザ駆動電圧で表現されている。1610nmの光を発生するレーザダイオードのレーザ駆動電圧は1.4Vである。図11における400は2つの光を強度変調するそれぞれの信号の位相差が180°の場合の特性、401は位相差が180.1°の場合の特性、402は位相差が180.3°の場合の特性、403は位相差が180.8°の場合の特性、404は位相差が185.8°の場合の特性、405は位相差が195.8°の場合の特性、406は位相差が178.8°の場合の特性を示している。
【0115】
2つの光を強度変調する信号の位相差が180°の場合、一方のレーザダイオードの駆動電圧を変更した際に光音響信号の位相は−90°のままである。0.51V前後では、信号強度が小さいため、光音響信号の位相雑音の影響で特性に歪みが生じる。直後に光音響信号に180°の位相シフトが急激に生じ、不連続的となる。位相シフト前と同様に雑音による歪みが生じ、光音響信号の位相が90°で安定する領域となる。
【0116】
2つの光を強度変調する信号の位相差が180°前後(180.1°、180.8°、180.3°)の場合では、前述の位相変化の不連続点で光音響信号の位相が連続的に変化している。不連続点の前後の電圧では光音響信号の位相が±90°で安定する領域がある。2つの光を強度変調する信号の位相差が180°でない場合(185.8、195.8)、全電圧で光音響信号の位相の連続的な遷移領域のみで、光音響信号の位相が±90°で安定する領域は無い。このように、信号の位相差を180°から増加させて測定を行ったが、信号の位相差を178.8°へ減少させると対称的な傾向を得た。すなわち、位相90°から位相−90°への位相変化の駆動電圧に対する傾きが逆となる。結論として、正確かつ適切な溶液成分濃度測定には、2つの光を強度変調する信号の位相差が180°±30°程度が可能である。
【0117】
実用的には、2つの光を強度変調する信号の位相差として180°を用いることは光音響信号の位相遷移領域において雑音の影響が大きいため適切ではない。また、光音響信号の位相変化の傾きが急激なため、光音響信号の位相が0の点を決定するために、2分法が唯一のアプローチであり、測定に時間がかかり、収束性も悪い。測定速度を速めるために、線形的な遷移領域が最も適切である。すなわち、光音響信号の位相0点周辺で複数(2、3つ)の測定点から、相対的に位相0の位置を推定する方法である。このような方法では、測定と推定を重ねることで、より確実に測定精度を上げることができる。
【0118】
2つの光を強度変調する信号の位相差が180°に近い場合に、光音響信号の位相0点前後での線形的な遷移領域を得る。比較的、光音響信号の位相変化の傾きが急峻なため、小さい成分濃度範囲でも位相が大きく変化し、適切な測定精度を得ることができる。一方、2つの光を強度変調する信号の位相差が180°から遠ざかるにつれ、光音響信号の位相変化の傾きが緩やかとなる。このような場合には、大きい成分濃度範囲でも、位相遷移領域に位相0点があるため、濃度の定量が可能である。したがって、2つの光を強度変調する信号の位相差は、測定精度やダイナミックレンジを決定するため、所望の濃度範囲によって適宜設定する。
【0119】
2つの光を強度変調する信号の位相差が180°から大きく異なる場合、例えば180°から10°、20°あるいは30°異なっている場合は、光音響信号の位相の線形的な遷移領域が広い測定範囲を利用でき、幅広い濃度範囲の測定にも対応できる。したがって、大きな濃度範囲に対しては、2つの光を強度変調する信号の位相差を例えば190°、200°あるいは210°とすればよい。しかしながら、光音響信号の位相変化の傾きが緩やかとなり、測定精度が低下するため、濃度範囲と測定精度はトレードオフの関係となる。
【0120】
次に、情報処理装置12の濃度導出部131は、FS法による測定結果とOPBS法による測定結果とから測定対象の成分濃度を決定する(図5ステップS3)。
人体組織には多種類の分子がある濃度レベルで存在し、かつ、時間とともに変容している。一つの組成物(ここでは、グルコース)を正確にモニタするには、それゆえ、いくつかの偏在的偏り(それらの変化がグルコース濃度測定に影響を与える組成物やパラメータ)を取り除く必要がある。さらには、ノイズや測定の不確定性などのため、その結果の一貫性や精度を見積もるためには、測定値を得るために必要な測定よりも多くの測定が必要である。
【0121】
2波長によるOPBS法をn波長によるOPBS法に拡張すると、n(n−1)/2の組み合わせを取り得る。また、OPBS法による測定を実施する前に、周波数シフトは評価され、補正されなければならない。しかし、この周波数シフトはFS測定を導くことにもなる。このプロトコルは光波長に依存しないので、どの光波長でも実施可能であり、かつ、一度の実施でよい。FS法は高感度であるが、グルコース選択性が低い。さらに、周波数シフトのレスポンスは波長や音響モードにかかわらず一定となっている。
【0122】
結果として、n個の光波長から、(n(n−1)/2+1)の方程式を得ることができる。ここで、M個(Mは2以上の整数)の未知パラメータ、例えばCa,Cb,Cc,・・・,Tを有するシステムを考える。Ca,Cb,Cc,・・・は被測定物中のある成分の濃度であり、Tは被測定物の温度である。濃度Caの例としては、血液グルコースの濃度がある。濃度Cbの例としてはアルブミンの濃度がある。M個の未知パラメータの中の1つのパラメータに注目したとしても、少なくともM個の方程式を得るためにシステム全体を解析しなければならない。しかしながら、n個のレーザダイオードから(n(n−1)/2+1)の方程式を得ることができるので、nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数である必要がある。
【0123】
一度nを決定すれば、それぞれの波長コンビネーションに対して下記のような方程式を得ることができる。
FS法による測定結果である信号レスポンスFS(λ1)は、次式のように表現できる。
FS(λ1)=KaCa+KbCb+KcCc+・・・+KtT ・・・(13)
ここで、Ka,Kb,Kc,・・・,Ktは比例係数である。
【0124】
OPBS法による測定結果である信号レスポンスOPBS(λ1,λ2),OPBS(λ1,λ3),OPBS(λ1,λ4),・・・,OPBS(λn−1,λn)は、次式のように表現できる。n個のレーザダイオードの中から選択し得る2つのレーザダイオードの全ての組み合わせはn(n−1)/2とおりであるから、OPBS法により得られる信号レスポンスもn(n−1)/2個となる。
OPBS(λ1,λ2)=Qaλ1,λ2Ca+Qbλ1,λ2Cb+Qcλ1,λ2Cc
+・・・+Qtλ1,λ2T
OPBS(λ1,λ3)=Qaλ1,λ3Ca+Qbλ1,λ3Cb+Qcλ1,λ3Cc
+・・・+Qtλ1,λ3T
OPBS(λ1,λ4)=Qaλ1,λ4Ca+Qbλ1,λ4Cb+Qcλ1,λ4Cc
+・・・+Qtλ1,λ4T
・・・
OPBS(λn−1,λn)=Qaλn-1,λnCa+Qbλn-1,λnCb+Qcλn-1,λnCc+・・・+Qtλn-1,λnT ・・・(14)
【0125】
ここで、Qaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λj(i,j=1〜nで、i≠j)は比例係数である。式(13)、式(14)をマトリクスで記述すると、以下のようになる。
【0126】
【数6】
【0127】
中央のマトリクス、すなわち係数マトリクスには係数Ka,Kb,Kc,・・・,KtとQaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λjとが含まれている。この係数Ka,Kb,Kc,・・・,KtとQaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λjの値は、想定されるそれぞれの組成物(グルコースやアルブミン、その他の血液成分等)を一つ一つ評価したキャリブレーション測定で予め実験的に得られている。したがって、情報処理装置12の濃度導出部131は、式(13)、式(14)の連立方程式を解くことにより、M個の未知パラメータCa,Cb,Cc,・・・,Tを決定することができる(図5ステップS3)。
【0128】
係数マトリクスが正方マトリクスであれば、未知パラメータCa,Cb,Cc,・・・,Tについて1つの解が存在する。係数マトリクスの行が列より多ければ複数の解が存在するので、最も確からしいCa,Cb,Cc,・・・,Tを決定するには、いくつかの数学的なプロセスが必要になる。解は一義的には決定できないが、複数の解の中でどれが最適解かはチェックすることができる。不安定性と雑音を考慮すると、(n(n−1)/2+1)=Mである1つ目のアプローチより、(n(n−1)/2+1)>Mである2つ目のアプローチが、より安定であることは疑いようがない。
【0129】
たとえ測定精度が重要であるとしても、無期限に光源の数を増やすことができない場合がある。光源数の増加が装置のコストや大きさ、測定時間などの増加をもたらすためである。論理的には、本実施の形態のアプローチが、未知のパラメータの数で制限されることはない。しかしながら、OPBS法の構成で実施可能なFS法を用いることで、変数の数を減らすことは、実際のシステムを簡素化するのに有用である。
【0130】
また、本実施の形態は、研究室環境での実験により組成物マトリクスを評価することになる。しかしながら、患者の生体での実験では、個人個人で係数が若干変化する。よって、連続測定を始める前にグルコース濃度の開始値をセットするためには、標準的な方法に基づく少なくとも1つの測定値が必要である。本実施の形態による測定結果と標準的な方法による測定結果とを比較することにより、マトリクス係数を患者に合わせることができる。
【0131】
本実施の形態の情報処理装置12は、例えばCPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このようなコンピュータを動作させるためのプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供される。CPUは、読み込んだプログラムを記憶装置に書き込み、このプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、血液グルコース等の成分の濃度を連続モニターする技術に適用することができる。生体の体内に存在するグルコース、血液の血漿中に存在するグルコースの濃度測定、あるいはそれ以外の血漿中に存在する成分の濃度測定にも適用することができる。
【符号の説明】
【0133】
1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−n…レーザダイオード、2…レーザドライバ、3−1,3−2,3−3,3−4,・・・,3−n,5…光ファイバ、4…光カプラ、6…光音響セル、7…光学窓、8…音響センサ、9…増幅器、10…関数発生器、11…ロックインアンプ、12…情報処理装置、13…被測定物、120…関数発生器制御部、121…振幅測定部、122…位相測定部、123…位相オフセット調整部、124…情報記録部、125…周波数シフト校正部、126…周波数変化率導出部、127…周波数測定部、128…光パワー制御部、129…光パワー測定部、130…光パワー変化量導出部、131…濃度導出部、132…記憶部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液の血漿中に存在するグルコースの濃度測定、あるいはそれ以外の血漿中に存在する成分の濃度測定にも適用可能な、光音響法による成分濃度測定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病予防のためには、血漿中に存在するグルコース濃度を正確に測定する必要が有る。糖尿病患者の血糖値を連続モニターするための方法として光音響法があり、簡単にまとめると、以下のような特徴がある。
(a)光音響法は、連続的な血液グルコース監視を提供する。
(b)糖尿病患者にとって無痛で、血液サンプルを必要とせず、糖尿病患者に不快感を与えることがない。
(c)他の光学的な技術と比べて、散乱メディアによる効率の悪化がない。
(d)光学と音響学の結合により高感度の特性を得ることができる。
【0003】
光音響法には、パルス(pulse)法と連続波(continuous-wave、以下CWとする)法の二つの方式がある。パルス法には、高感度を得るために高い光パワーを使わなければいけないという欠点があった。一方、CW法には、反射表面のところの特性が変わると信号強度も変わる、すなわち再現性がないという欠点があった。しかし、高い光パワーは人体にとって安全性の面で問題になる可能性があるので、CW法を採用することが好ましい(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。パルス法やCW法では、音響波の振幅が成分濃度と比例することを利用して、成分濃度を定量している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−125542号公報
【特許文献2】特開2008−125543号公報
【特許文献3】特開2008−145262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のパルス法やCW法では、数回にわたる血漿中のグルコース濃度測定中に、グルコース濃度以外の他の血漿中パラメータ(例えば体温や、他の成分の濃度等)も変わる可能性が高いので、グルコース選択性が悪く、正確なグルコース濃度を得ることが難しいという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、血液グルコース濃度等の成分濃度を高い精度で測定することができる成分濃度測定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の成分濃度測定方法は、(M−1)個の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・と温度TとからなるM個(Mは2以上の整数)の未知パラメータを有する被測定物に対して、互いに波長が異なるn個(nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数)の光照射手段のうちの1つの光照射手段を用いて光を照射し、周波数シフト(FS)法により測定結果を得る第1の測定ステップと、前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の全ての組み合わせを用いて前記被測定物に対して光を照射し、光パワーバランスシフト(OPBS)法により測定結果を得る第2の測定ステップと、前記第1の測定ステップの測定結果と前記第2の測定ステップの測定結果とから前記被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定する濃度導出ステップとを備え、前記濃度導出ステップは、前記第1の測定ステップの測定結果をFS(λ1)、前記第2の測定ステップの測定結果をOPBS(λ1,λ2),OPBS(λ1,λ3),OPBS(λ1,λ4),・・・,OPBS(λn−1,λn)としたとき(λ1,λ2,λ3,λ4,・・・,λn−1,λnはn個の光照射手段から放射される光の波長)、前記第1の測定ステップの測定結果を表現する式FS(λ1)=KaCa+KbCb+KcCc+・・・+KtTと、前記第2の測定ステップの測定結果を表現する式OPBS(λ1,λ2)=Qaλ1,λ2Ca+Qbλ1,λ2Cb+Qcλ1,λ2Cc+・・・+Qtλ1,λ2T、OPBS(λ1,λ3)=Qaλ1,λ3Ca+Qbλ1,λ3Cb+Qcλ1,λ3Cc+・・・+Qtλ1,λ3T、OPBS(λ1,λ4)=Qaλ1,λ4Ca+Qbλ1,λ4Cb+Qcλ1,λ4Cc+・・・+Qtλ1,λ4T、・・・OPBS(λn−1,λn)=Qaλn-1,λnCa+Qbλn-1,λnCb+Qcλn-1,λnCc+・・・+Qtλn-1,λnTとからなる連立方程式(Ka,Kb,Kc,・・・,Kt,Qaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λj(i,j=1〜nで、i≠j)は所定の係数)を解くことにより、前記被測定物中の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・を決定することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の成分濃度測定方法の1構成例において、前記第1の測定ステップは、前記被測定物に対して光を照射する第1の光照射ステップと、この第1の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第1の光音響信号検出ステップと、この第1の光音響信号検出ステップで得られた電気信号のうち振幅が最大となる基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定する第1の位相測定ステップと、任意の時間経過後に前記被測定物に対して光を照射する第2の光照射ステップと、この第2の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第2の光音響信号検出ステップと、この第2の光音響信号検出ステップで得られた電気信号のうち前記基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定する第2の位相測定ステップと、この第2の位相測定ステップで測定する位相が前記第1の位相測定ステップで測定した位相と等しくなる測定信号の周波数を探索する周波数探索ステップと、この周波数探索ステップで探索した周波数と前記基準周波数との変化量を、前記第1の測定ステップの測定結果として求める周波数変化導出ステップとを含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の成分濃度測定方法の1構成例において、前記第2の測定ステップは、前記被測定物に対して強度変調光を照射する第3の光照射ステップと、この第3の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第3の光音響信号検出ステップと、この第3の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の振幅が最大となる変調周波数を第1の周波数として測定する第1の周波数測定ステップと、前記振幅が最大のときの電気信号の位相を参照位相として測定する第3の位相測定ステップと、互いに異なる波長の2波の光を前記第1の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させる第4の光照射ステップと、この第4の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第4の光音響信号検出ステップと、この第4の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が0となる第1の変曲点を探索する第4の位相測定ステップと、前記第1の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定する第1の光パワー測定ステップと、任意の時間経過後に前記被測定物に対して強度変調光を照射する第5の光照射ステップと、この第5の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第5の光音響信号検出ステップと、この第5の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が前記参照位相となる変調周波数を第2の周波数として探索する第2の周波数測定ステップと、互いに異なる波長の2波の光を前記第2の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させる第6の光照射ステップと、この第6の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第6の光音響信号検出ステップと、この第6の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が0となる第2の変曲点を探索する第5の位相測定ステップと、前記第2の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定する第2の光パワー測定ステップと、この第2の光パワー測定ステップで測定した光パワーの差と前記第1の光パワー測定ステップで測定した光パワーの差との変化量を、前記第2の測定ステップの測定結果として求める光パワー変化導出ステップとを含み、前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の組み合わせ毎に、前記第3の光照射ステップと前記第3の光音響信号検出ステップと前記第1の周波数測定ステップと前記第3の位相測定ステップと前記第4の光照射ステップと前記第4の光音響信号検出ステップと前記第4の位相測定ステップと前記第1の光パワー測定ステップと前記第5の光照射ステップと前記第5の光音響信号検出ステップと前記第2の周波数測定ステップと前記第6の光照射ステップと前記第6の光音響信号検出ステップと前記第5の位相測定ステップと前記第2の光パワー測定ステップと前記光パワー変化導出ステップとを実施し、前記2つの光照射手段の組み合わせ毎に前記第2の測定ステップの測定結果を得ることを特徴とするものである。
また、本発明の成分濃度測定方法の1構成例において、前記n個の光照射手段におけるnは(n(n−1)/2+1)>Mを満たす整数である。
【0010】
また、本発明の成分濃度測定装置は、(M−1)個の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・と温度TとからなるM個(Mは2以上の整数)の未知パラメータを有する被測定物に対して光を照射する光照射手段と、この光照射によって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する光音響信号検出手段と、前記被測定物に対して、互いに波長が異なるn個(nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数)の前記光照射手段のうちの1つの光照射手段から光を照射させ、周波数シフト(FS)法により前記電気信号に基づいて測定結果を得る第1の測定手段と、前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の全ての組み合わせを用いて前記被測定物に対して光を照射させ、光パワーバランスシフト(OPBS)法により前記電気信号に基づいて測定結果を得る第2の測定手段と、前記第1の測定手段の測定結果と前記第2の測定手段の測定結果とから前記被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定する濃度導出手段とを備え、前記濃度導出手段は、前記第1の測定手段の測定結果をFS(λ1)、前記第2の測定手段の測定結果をOPBS(λ1,λ2),OPBS(λ1,λ3),OPBS(λ1,λ4),・・・,OPBS(λn−1,λn)としたとき(λ1,λ2,λ3,λ4,・・・,λn−1,λnはn個の光照射手段から放射される光の波長)、前記第1の測定手段の測定結果を表現する式FS(λ1)=KaCa+KbCb+KcCc+・・・+KtTと、前記第2の測定手段の測定結果を表現する式OPBS(λ1,λ2)=Qaλ1,λ2Ca+Qbλ1,λ2Cb+Qcλ1,λ2Cc+・・・+Qtλ1,λ2T、OPBS(λ1,λ3)=Qaλ1,λ3Ca+Qbλ1,λ3Cb+Qcλ1,λ3Cc+・・・+Qtλ1,λ3T、OPBS(λ1,λ4)=Qaλ1,λ4Ca+Qbλ1,λ4Cb+Qcλ1,λ4Cc+・・・+Qtλ1,λ4T、・・・OPBS(λn−1,λn)=Qaλn-1,λnCa+Qbλn-1,λnCb+Qcλn-1,λnCc+・・・+Qtλn-1,λnTとからなる連立方程式(Ka,Kb,Kc,・・・,Kt,Qaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λj(i,j=1〜nで、i≠j)は所定の係数)を解くことにより、前記被測定物中の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・を決定することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の成分濃度測定装置の1構成例において、前記第1の測定手段は、前記電気信号に含まれる測定信号の位相を測定する第1の位相測定手段と、任意の時間経過後の前記測定信号の周波数を探索する周波数探索手段と、前記任意の時間経過後の前記測定信号の周波数の変化量を、前記第1の測定手段の測定結果として求める周波数変化導出手段とを備え、前記n個の光照射手段のうちの1つの光照射手段は、第1の時刻において前記被測定物に対して光を照射すると共に、任意の時間経過後に前記被測定物に対して光を照射し、前記第1の位相測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号のうち振幅が最大となる基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定すると共に、前記任意の時間経過後の電気信号のうち前記基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定し、前記周波数探索手段は、前記任意の時間経過後に測定される位相が前記第1の時刻において測定された位相と等しくなる測定信号の周波数を探索し、前記周波数変化導出手段は、前記周波数探索手段が探索した周波数と前記基準周波数との変化量を、前記第1の測定手段の測定結果として求めることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の成分濃度測定装置の1構成例において、前記第2の測定手段は、光パワーを制御する光パワー制御手段と、前記電気信号の周波数を測定する周波数測定手段と、前記電気信号の位相を測定する第2の位相測定手段と、2つの強度変調光の光パワーの差を測定する光パワー測定手段と、任意の時間経過後の光パワーの変化量を、前記第2の測定手段の測定結果として求める光パワー変化導出手段とを備え、前記光照射手段は、第1の時刻において前記被測定物に対して強度変調光を照射し、第2の時刻において互いに異なる波長の2波の光を第1の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、第3の時刻において前記被測定物に対して強度変調光を照射し、第4の時刻において互いに異なる波長の2波の光を第2の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、前記光パワー制御手段は、前記第2、第4の時刻において2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させ、前記周波数測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号の振幅が最大となる変調周波数を前記第1の周波数として測定し、前記第3の時刻において得られた電気信号の位相が参照位相となる変調周波数を前記第2の周波数として探索し、前記第2の位相測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号の振幅が最大のときの電気信号の位相を前記参照位相として測定し、前記第2の時刻において得られた電気信号の位相が0となる第1の変曲点を探索し、前記第4の時刻において得られた電気信号の位相が0となる第2の変曲点を探索し、前記光パワー測定手段は、前記第2の時刻において前記第1の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定し、前記第4の時刻において前記第2の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定し、前記光パワー変化導出手段は、前記第4の時刻において測定された光パワーの差と前記第2の時刻において測定された光パワーの差との変化量を、前記第2の測定手段の測定結果として求め、前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の組み合わせ毎に測定を実施して測定結果を得ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、周波数シフト(FS)法により測定結果を得る第1の測定ステップと、光パワーバランスシフト(OPBS)法により測定結果を得る第2の測定ステップとを実施し、第1の測定ステップの測定結果と第2の測定ステップの測定結果とから被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定することにより、測定対象の選択性を向上させることができ、異なる複数の物質を含む多成分系の被測定物においてグルコース等の測定対象の成分濃度を高い精度で測定することが可能になる。OPBS法では、2つの強度変調光の波長を適宜選択することで、濃度と光パワーとの関係の特性の勾配に異なる物質間で差を生じさせることが可能となる。したがって、特定の測定対象に対するセンサ反応が最大となるように光波長を適宜選択することで、測定対象の選択性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明では、(n(n−1)/2+1)=Mよりも(n(n−1)/2+1)>Mとした方が、連立方程式の計算精度や収束性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】音響センサから出力される測定信号の振幅と血液グルコース濃度との関係を示す図である。
【図2】2つの異なった血液グルコース濃度における測定信号の変化を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置のFS法による測定時の動作を示すフローチャートである。
【図7】異なる波長の2つの光によって音響波が生成される様子を説明する図である。
【図8】被測定物の血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度のときに光パワーを変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図である。
【図9】被測定物の血液グルコース濃度およびアルブミン濃度が変化したときに光パワーを変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置のOPBS法による測定時の動作を示すフローチャートである。
【図11】光パワーバランス−位相特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[発明の原理]
本発明では、血液グルコース濃度を正確に測定するために、光音響信号の振幅が光吸収係数に依存する原理を利用して、光波長によりグルコース選択性が良くなる新しい成分濃度測定方法である光パワーバランスシフト(Optical Power Balance Shift、以下、OPBSと省略)法について最初に説明する。
【0017】
OPBS法は、光波長が異なり位相差がπの2つの光ビームのパワーを増減させながら、光音響信号の振幅が極小な箇所の位相の変曲点を探して、その結果から血液中に溶解している分子濃度を測る方法である。この方法は血漿中のグルコース成分だけではなく、他の血漿成分(アルブミンやコレステロールなど)の検出法として適用を拡大することもできる。
その検出法のコンセプトを説明するために以下に理論式を使う。光音響信号強度Sは次式のように表すことができる。
【0018】
【数1】
【0019】
ここで、Kは定数、βは被測定物の熱膨張係数、vは音速、nはセットアップに依存する実験系パラメータ、Cpは被測定物の比熱、αは被測定物の光吸収係数、Pは光パワーである。
また、2つの差分信号の設定を使った場合、光音響信号強度Sは次式のように表すことができる。
【0020】
【数2】
【0021】
式(2)におけるP1,P2は光パワー、α1,α2はそれぞれ光パワーがP1,P2の光に対する被測定物の光吸収係数である。
課題となるのは、定数K、熱膨張係数β、音速v、比熱Cpといったパラメータが、温度または混合物の濃度に依存するため、光音響信号強度Sをそのまま血液グルコース濃度の算出に使えないことである。このような依存性を抑えるために、特許文献1に開示された測定方法では、一方の波長の信号で規格化(Normalization)を行った。
【0022】
これに対して、OPBS法では、2つの光ビームのうち一方の光ビームのパワー(例えばP1)を変えながら、光音響信号強度Sが最低となる光パワーP1を探す。理論的には、光音響信号強度Sの最低値は0であるが、実験的には、ノイズが存在するため、0にはならない。このときの光音響信号強度Sは1波長の光ビームを用いる場合の光音響信号強度よりもおよそ100倍小さくなる。簡単に説明をするために、ここではノイズを無視して、光音響信号強度Sを0とする。S=0の場合には、次式のように新しい理論式が書ける。
α1P1−α2P2=0 ・・・(3)
【0023】
測定したい成分の濃度が変化した場合、例えば血液グルコース濃度がCgだけ変化し、この濃度変化により光吸収係数α1,α2がそれぞれδα1,δα2だけ変化した場合、式(3)が成立する状態から式(4)の状態に変化する。
(α1+δα1Cg)P1−(α2+δα2Cg)P2≠0 ・・・(4)
【0024】
S=0の状態に戻すために一方の光ビームのパワー(例えばP1)を変えると次式が成立する。
(α1+δα1Cg)(P1+δP1)−(α2+δα2Cg)P2=0 ・・・(5)
式(5)より次式が得られる。
【0025】
【数3】
【0026】
式(5)、式(6)におけるδP1は光パワーP1の変化量である。式(6)より、本発明では、光パワーの変化量δP1と既知の光吸収係数α1,α2および光吸収係数変化量δα1,δα2から血液グルコース濃度を測ることができることが分かる。以上がOPBS法の原理である。
【0027】
ただし、温度やアルブミン濃度など、グルコース以外のすべてのパラメータが、測定の間は一定レベルを維持していると仮定しないと、2波長のOPBS法のみでは、正しいグルコース濃度を測定することができない。しかしながら、連続したグルコース濃度モニタリングにおいては、このような仮定は短時間の間に変容してしまう。そのため、2波長のOPBS法は、波長数を増やすか、または混合した物質に特異なレスポンスを持つほかの方法と組み合わせることが必要となる。そこで、本発明では、成分濃度による音速変化に基づく周波数シフト(Frequency Shift、以下、FSと省略)法をOPBS法と組み合わせる。OPBS法のレスポンスは使用される2つの光波長に依存する。そこで、FS法で信号レスポンスを測定し、さらには、いくつかの光波長のペアを用いてOPBS法の信号レスポンスを測定する。
【0028】
以下、FS法について説明する。図1に、音響センサから出力される測定信号の振幅と血液グルコース濃度との関係を示す。ここでは、人体または人体の一部である被測定物に光を照射したときに、光音響効果によって被測定物から発生する光音響信号を音響センサで検出し、音響センサから出力される電気信号(測定信号)を得ている。図1において、100,101,102,103はそれぞれ測定信号の周波数が479kHz、480kHz、481kHz、482kHzの場合の特性である。
【0029】
従来のように、血液グルコース濃度の測定に、任意の固定された周波数の測定信号を使用する場合では、図1に示すように、血液グルコース濃度の測定感度と、測定信号振幅−血液グルコース濃度特性の直線性とは、測定信号の周波数に強く依存する。すなわち、測定信号の選ばれた周波数によって、音響センサの応答は強く異なる。図1の結果は1つの光波長だけで得た結果であるが、CW法を採用する場合は、いつも同じような現象が現れる。
【0030】
FS法では、測定信号の周波数を調整する手段として、新たに関数発生器(ファンクションジェネレータ)を用いることを特徴とする。この関数発生器は、最高で1MHzの周波数の参照信号を発生し、またmHzオーダーの高い周波数精度を有することが好ましい。
【0031】
次に、時間と共に血液グルコース濃度が変化すると、測定信号は以下のように変化する。図2(A)、図2(B)に、2つの異なった血液グルコース濃度Ow,Ogにおける測定信号の変化を示す。図2(A)、図2(B)において、200は血液グルコース濃度Owの場合の測定信号の特性を示し、201は血液グルコース濃度Ogの場合の測定信号の特性を示している。
【0032】
測定信号の振幅情報に関しては、血液グルコース濃度の変化に応じて振幅のピーク周波数がΔfだけシフトし、また振幅のピーク値がΔVだけシフトする。時間と共に血液グルコース濃度が増加した場合には、ピーク周波数は高周波側へとシフトし、血液グルコース濃度が減少した場合には、ピーク周波数は低周波側へとシフトする。また、Δfは光学波長に依存する。
【0033】
一方、測定信号の位相情報は、血液グルコース濃度の変化に応じて周波数軸に沿ってシフトする。時間の経過と共に血液グルコース濃度が減少した場合には、位相情報は低周波側へとシフトし、血液グルコース濃度が増加した場合には、位相情報は高周波側へとシフトする。
【0034】
このように、グルコース濃度の変化には2つのシフトをもたらす効果がある。すなわち、振幅と位相の両方に現れるX軸(周波数)に沿ってシフトする効果と、振幅だけに現れるY軸(振幅)に沿ってシフトする効果である。振幅情報において2つのシフトを区別することは困難であるが、位相情報は周波数シフトだけを受ける。
そこで、FS法では、測定信号の位相情報に基づいて測定信号の周波数の変化量を求め、この周波数の変化量から血液グルコース濃度の正確な測定を実行する。
【0035】
次に、FS法の測定手順について説明する。まず、最初の測定においては、被測定物にレーザ光を照射し、光音響効果によって被測定物から発生する光音響信号を音響センサで検出する際に、音響センサの広い周波数測定スパン(例えば200−600kHzの範囲)で光音響信号の測定を実施する。
【0036】
光音響信号の多重反射により、音響センサから出力される測定信号の振幅情報には複数のピークが現れる。これらのうちの1つのピークを選択して、この選択したピークの周波数の近くに、関数発生器から発生する参照信号の周波数を決める。このピークの周波数を基準周波数f0と呼ぶ。ここで、重要なパラメータは、基準周波数f0における測定信号の振幅A0と基準周波数f0における測定信号の位相P0である。このとき、測定信号の位相P0を0に設定するために、後述のように被測定物に照射するレーザ光の位相にオフセットを加えることが好ましい。そして、振幅A0と位相P0(P0=0)と周波数f0とを記録しておく。
【0037】
ここで、本当のグルコース濃度値は分からないので、同時に血液グルコース濃度を確認するために標準測定を実行して、基準濃度G0(g/dl)を得る。これで、基準濃度G0(g/dl)で基準周波数f0における振幅A0と位相P0(P0=0)とが得られたことになる。
【0038】
次に、任意の時間経過後の時刻tにおいて基準周波数f0における測定を実施する。測定信号の位相は基準周波数f0において0に設定されたので、時刻tにおいてグルコース濃度がG1(g/dl)に変化すれば、基準周波数f0における測定信号の位相P1は0ではなくなる。ここで、位相P0に対して位相P1が大きい場合は測定信号の周波数を増加すべきことを意味し、位相P0に対して位相P1が小さい場合は測定信号の周波数を減少すべきことを意味している。そこで、時刻tにおける測定信号の位相P1がP0と等しくなるように(ここでは、0になるように)関数発生器で測定周波数を変更する。位相P1がP0と等しくなる周波数をf1とする。そして、周波数f1における測定信号の振幅A1と位相P1(P1=P0=0)とを記録しておく。
【0039】
グルコース濃度の変化に伴う測定信号の周波数変化率Δf/f=(f1−f0)/f0は、グルコース濃度の変化に伴う光音響信号の音速変化率Δv/v=(v(G1)−v(G0))/v(G0)に比例する。ここで、v(G0)はグルコース濃度G0(g/dl)のときの音速、v(G1)はグルコース濃度G1(g/dl)のときの音速である。そして、後述のように測定信号の周波数変化率Δf/fから、血液グルコース濃度を推定することができる。
【0040】
音速を利用して血液グルコース濃度を推定する場合、この推定の過程は共鳴腔の寸法や共鳴モードの影響を受けない。光学波長は、共鳴腔の寸法や共鳴モードと関係するが、何らかの明確な目的があれば、自由に光学波長を選択することもできる。
【0041】
光学波長の選択に関して説明する。音速を利用した血液グルコース濃度の測定は有効な測定法であるが、血しょう成分の変化も音速の変化に通じる可能性が高い。米国特許5119819号(G.H.Thomas et al.,“Method and apparatus for non-invasive monitoring of blood glucose”,1992)に開示された技術では、グルコース以外の血しょう成分濃度はゆっくりと変わるので、グルコース濃度測定の間、他の成分は一定の濃度レベルにあるという仮定をしている。この仮定は短時間の測定では成立する可能性があるが、本発明のように、血液グルコース濃度を連続的にモニターする場合にはドリフト(グルコース濃度変化以外の他の影響によって生じる測定信号の周波数シフト)が発生する可能性が高くなる。本発明では、このドリフトの問題の解決のため、次の2つのアプローチを提案する。
【0042】
(A)ドリフトを修正するために、定期的(数時間毎)に標準的な測定方法で血液グルコース濃度を測定し、血液成分の新しい値に従って成分濃度測定装置を再調整する。
(B)振幅信号を用いるために光学波長を慎重に選択し、血しょう成分を同時に検出する。
【0043】
本発明では、校正測定を定期的に必要とするが、この校正は1日あたり数回以上必要なものではないので、上記の(B)の方法は好ましい。(B)の方法は、米国特許4506543号(A.J.Kamp et al.,“Analysis of salt concentrations”,1985)に開示された技術と類似のものであるが、本発明では、同じ実験データから両方の測定が同時にできる。
【0044】
上述の方法では、P1やP0といった位相情報だけを考慮する。しかしながら、血液グルコース濃度が既知のときの周波数f0における測定信号の振幅A0と、周波数f1における測定信号の振幅A1とを比較すれば、主に光の吸収の変化による信号強度の違いから濃度測定を行うことができる。
【0045】
例えば2個の化合物a,bが混ざり合っている被測定物の場合を考える。化合物a,bは、音速パラメータに影響を与える。しかし、2個の化合物a,bが異なる光吸収比を示す光学波長を選ぶならば、化合物a,bの濃度という2つの未知パラメータを有する2つの方程式が得られる。一方の方程式は、第1の時刻と第2の時刻との間の音速の差の方程式であり、もう1つの方程式は、第1の時刻と第2の時刻との間の信号振幅の差の方程式である。他のすべての化合物を一定濃度であると仮定すれば、化合物a,bの濃度を明確に決定することができる。
【0046】
3個の化合物a,b,cが混ざり合っている被測定物の場合、2つの異なる光学波長を必要とする。位相の測定は、2つの光学波長を用いる場合において1つの方程式だけをもたらすのと同じ結果を与える。しかしながら、3個の化合物a,b,cが異なる光吸収比を示す2つの光学波長を選ぶことで、さらに2つの方程式を得ることができる。
【0047】
このように、n個の光学波長を使用すれば、(n+1)個の化合物の濃度を測定することができる。ただし、この測定は、測定時間が全ての化合物の一定の濃度を保証できるくらい短い場合に限る。
【0048】
次に、グルコース濃度の変化に伴う測定信号の周波数変化が、グルコース濃度の変化に伴う光音響信号の音速変化と関係することについて説明する。被測定物に光を照射したときに音響センサで得られる電気信号には複数のピークが現れるが、このピークは小空間に光音響エネルギーが閉じ込められることによるものである。そして、共鳴モードは複数の反射により形成される。まず、光音響エネルギーが閉じ込められる空間のモデルとして、互いに平行で無限に長い2つの平面を用いる。2つの平面の距離はLである。この単純な条件では、以下の式が成立する。
L=(nλ)/2 ・・・(7)
【0049】
ここで、nは正の整数、λは音響信号の波長である。音響信号の速度をvac、n番目のモードの共振周波数をfとすると、音響信号の波長λは次式で表される。
λ=vac/f ・・・(8)
【0050】
式(7)、式(8)より、次式が得られる。
f=(nvac)/2L ・・・(9)
式(9)より、共振周波数fは、音響信号の速度vacに比例することが分かる。
【0051】
横方向閉じ込めを導入したときは、光音響エネルギーが閉じ込められる空間が円筒空洞の場合のみ共振周波数fjを以下のように表すことができる。
【0052】
【数4】
【0053】
ここで、j=(nmq)であり、n,m,qはそれぞれラジアル(radial)方位、方位(azimuth)、縦モードの番号である。Rは円筒の半径、Lは円筒の長さである。αmnは方程式のn+1番目の根である。
【0054】
【数5】
【0055】
式(11)において、Jmはm次のベッセル関数である。m=n=0のとき、f00qはq番目の縦モードの共振周波数となる。重要な事実は、音響信号の共振周波数fが音響信号の速度vacに線形的に依存することである。つまり、音響信号の速度vacの変化の結果、音響信号の共振周波数fに変化が生じるので、次式の関係が得られる。
Δf/f=Δvac/vac ・・・(12)
【0056】
音響信号の速度vacとグルコース濃度とは、線形関係にある。さらに、音響信号の速度vacの変化と共振周波数fの変化とには式(12)に示した関係があるので、グルコース濃度の変化が音響信号の周波数の変化に線形的につながることが分かる。こうして、FS法では、測定信号の周波数の変化からグルコース濃度を導出する。
【0057】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図3は本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
成分濃度測定装置は、レーザ光を照射する光照射手段となるレーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nと、レーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nを駆動するレーザドライバ2と、レーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nから放射されたレーザ光を導く光ファイバ3−1,3−2,3−3,3−4,・・・,3−nと、レーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nから放射されたレーザ光を合波する光カプラ4と、光カプラ4によって合波されたレーザ光を導く光ファイバ5と、被測定物13(溶媒)を収容するケースである光音響セル6と、レーザ光を透過させるガラス製の光学窓7と、光音響効果によって被測定物13から発生する光音響信号を検出し、音圧に比例した電気信号に変換する光音響信号検出手段となる音響センサ8と、音響センサ8から出力された電気信号を増幅する増幅器9と、参照信号を発生する関数発生器10と、増幅器9の出力信号と関数発生器10から出力された参照信号とを入力として、増幅器9の出力信号から所望の周波数の測定信号を検出するロックインアンプ11と、関数発生器10およびロックインアンプ11を制御すると共に、ロックインアンプ11が検出した測定信号を処理して被測定物13中の測定対象の成分の濃度を決定するコンピュータからなる情報処理装置12とから構成される。
【0058】
レーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nの例としては、例えば分布帰還型半導体レーザ(DFB−LD)等がある。各レーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nから放射される光の波長は互いに異なる。音響センサ8の例としては、マイクロホンがある。
【0059】
図4は情報処理装置12の構成を示すブロック図である。情報処理装置12は、関数発生器10を制御する関数発生器制御部120と、測定信号の振幅を測定する振幅測定部121と、測定信号の位相を測定する位相測定部122と、位相のオフセットを調整する位相オフセット調整部123と、測定信号の振幅と位相と周波数の情報または測定信号の周波数と位相の情報を記録する情報記録部124と、測定信号の周波数シフトを校正する周波数シフト校正部125と、測定信号の周波数の変化率を導出する周波数変化率導出部126と、測定信号の周波数を測定する周波数測定部127と、光パワーを制御する光パワー制御部128と、2つの強度変調光の光パワーの差を測定する光パワー測定部129と、光パワーの変化量を導出する光パワー変化量導出部130と、FS法による測定結果とOPBS法による測定結果とから測定対象の成分濃度を決定する濃度導出部131と、情報記憶のための記憶部132とを有する。関数発生器制御部120は、周波数探索手段を構成している。
【0060】
以下、本実施の形態の成分濃度測定装置の動作について説明する。図5は成分濃度測定装置の動作を示すフローチャートである。
成分濃度測定装置は、最初にFS法による測定を行い(図5ステップS1)、続いてOPBS法による測定を行い(ステップS2)、FS法による測定結果とOPBS法による測定結果とから測定対象の成分濃度を決定する(ステップS3)。
【0061】
以下、FS法による測定について詳細に説明する。図6は成分濃度測定装置のFS法による測定時の動作を示すフローチャートである。FS法では1波長で測定を行うので、レーザダイオードを1個だけ用いる。ここでは、レーザダイオード1−1を用いるものとする。
【0062】
被測定物13は、光音響セル6内に導入される。レーザドライバ2から駆動電流が供給されると、レーザダイオード1−1はレーザ光を放射する。従来のCW法と同様に、レーザダイオード1−1から放射されるレーザ光は連続波である。このレーザ光は、光ファイバ3−1によって導かれ光カプラ4を通過して、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って光音響セル6内の被測定物13に照射される(図6ステップS100)。
【0063】
音響センサ8は、被測定物13から発生する光音響信号を検出し、増幅器9は、音響センサ8から出力された電気信号を増幅する。ロックインアンプ11は、増幅器9の出力に含まれる信号のうち、関数発生器10から出力される参照信号によって決まる周波数の測定信号を検出する。
【0064】
情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数を漸次変化させる周波数掃引を行う(図6ステップS101)。こうして、測定信号の共鳴ピークを探索する。
【0065】
次に、測定信号の振幅のピークを見つけたときに、情報処理装置12の振幅測定部121は、このピークの周波数(基準周波数f0)における測定信号の振幅A0を測定し(図6ステップS103)、位相測定部122は、基準周波数f0における測定信号の位相P0を測定する(ステップS104)。
【0066】
このような測定の前に、情報処理装置12の位相オフセット調整部123は、ロックインアンプ11を通じてレーザドライバ2を制御し、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の位相を変化させ、被測定物13に照射するレーザ光の位相を変化させることにより、測定信号の位相P0を0に設定することが好ましい(図6ステップS102)。
【0067】
情報記録部124は、振幅測定部121が測定した振幅A0と、位相測定部122が測定した位相P0(P0=0)と、ピークの周波数(基準周波数f0)とを記憶部132に記憶させる(図6ステップS105)。
【0068】
次に、ステップS100〜S105の最初の測定から任意の時間経過後の時刻tにおける測定について説明する。最初の測定の場合と同様に、被測定物13にレーザ光を照射する(図6ステップS106)。ここでは、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給する駆動電流の位相をステップS102の場合と同じにすることにより、被測定物13に照射されるレーザ光の位相をステップS102の場合と同じにしている。
【0069】
情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、ロックインアンプ11に基準周波数f0の測定信号を検出させる。情報処理装置12の位相測定部122は、基準周波数f0における測定信号の位相P1を測定する(図6ステップS107)。測定信号の位相P1が位相P0(P0=0)と等しい場合、時刻tにおける血液グルコース濃度は、ステップS100〜S105の最初の測定のときの血液グルコース濃度と同じとなる。
【0070】
一方、測定信号の位相P1が位相P0(P0=0)と異なる場合、情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、測定信号の位相P1がP0と等しくなる(ここでは、位相P1が0になる)測定信号の周波数を探す(図6ステップS108)。位相P1がP0と等しくなる周波数をf1とする。
【0071】
周波数f1を見つけたときに、情報処理装置12の振幅測定部121は、周波数f1における測定信号の振幅A1を測定する(図6ステップS109)。
そして、情報記録部124は、振幅測定部121が測定した振幅A1と、測定信号の位相P1(P1=P0=0)と、周波数f1とを記憶部132に記憶させる(図6ステップS110)。
【0072】
情報処理装置12の周波数変化率導出部126は、測定信号の周波数変化率(f1−f0)/f0×100を算出する(図6ステップS111)。レーザダイオード1−1から放射される光の波長をλ1とし、測定結果である信号レスポンス(周波数変化率導出部126が算出した周波数変化率)をFS(λ1)と表現する。以上で、成分濃度測定装置のFS法による測定時の動作が終了する。
【0073】
FS法による測定では、測定信号の振幅を測定しなくてもよい。ただし、血液グルコース濃度に変化が生じていない場合について、振幅A0と振幅A1とを使うことにより、グルコース濃度変化以外の他の影響によって生じる測定信号の周波数シフトを校正することができる。以下、この周波数シフトの校正について説明する。
【0074】
グルコース濃度変化以外の他の成分が混合している場合において、グルコース濃度変化による測定信号の位相変化を打ち消され、ステップS107において測定信号の位相P1を測定したときに位相P1が位相P0(P0=0)と等しい場合が生じる。この場合は、情報処理装置12の振幅測定部121は、基準周波数f0における測定信号の振幅A1を測定する。測定信号の振幅A1が振幅A0と異なる場合、測定信号の振幅A1からグルコース以外の他の成分、例えば、アルブミンなどの成分を推定することができる。
【0075】
グルコース濃度変化以外の他の成分が混合している場合において、測定信号の位相P1と位相P0(P0=0)とが異なる場合は、情報処理装置12の周波数シフト校正部125は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数を漸次変化させる周波数掃引を行い、基準周波数f0に最も近いピークを探索する。
【0076】
周波数シフト校正部125は、測定信号の振幅のピークを見つけたときに、このピークの周波数を新たな基準周波数f0とする。こうして、基準周波数f0を更新することができ、グルコース濃度変化以外の他の影響によって生じる測定信号の周波数シフトを校正することができる。
【0077】
血液グルコース濃度が変化してしまうと校正ができなくなるので、定期的(例えば数時間毎)にステップS100〜S105の処理を実施して、振幅A0と位相P0と基準周波数f0とを適宜更新すればよい。
【0078】
次に、OPBS法による測定について詳細に説明する。OPBS法では、2つの波長の光を用いた従来技術(特許文献1参照)で定義されるような利点を活用する。互いに異なる波長の2波のレーザ光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調して矩形波ビームを生成し、この矩形波ビームを合波した上で被測定物(例えば、血漿)に照射すると、2つのレーザ光が、それぞれの光吸収係数で被測定物に吸収される。その結果、光音響効果(被測定物で吸収される光学エネルギーが熱エネルギーに変わって、その熱エネルギーによる体積膨張により音響波が発生する効果)によって音響波が生成される(図7)。図7における60はレーザダイオード1−1から放射された矩形波ビームによる光音響信号を示し、61はレーザダイオード1−2から放射された矩形波ビームによる光音響信号を示している。音響波は、2つのレーザ光の各々による2つの信号αP(αは被測定物の光吸収係数、Pは光パワー)の強度の差に比例する。
【0079】
OPBS法では、最初に、既知の参照血液グルコース濃度により参照光音響信号のレベル(信号振幅)を定める。血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度から変化するとき、2つの光による光音響信号の振幅は光波長と光吸収係数によって変わる。2つの光のパワーを変化させ、血液グルコース濃度の変化による光吸収効果とのバランスをとり、光音響信号の振幅を参照血液グルコース濃度のときに定めた参照光音響信号のレベルに戻す。
【0080】
1つの光を被測定物に照射した場合、生成される光音響信号の強度S(信号振幅)は上記の式(1)のように表すことができる。また、互いに異なる波長の2つの光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調して被測定物に照射した場合、生成される光音響信号の強度Sは上記の式(2)のように表すことができる。ただし、上記で説明したとおり、定数K、熱膨張係数β、音速v、比熱Cpといったパラメータが、温度または混合物の濃度に依存するため、光音響信号強度Sをそのまま血液グルコース濃度の算出に使うことはできない。このような依存性を抑えるために、特許文献1に開示された測定方法では、一方の波長の信号で規格化を行った。
【0081】
本実施の形態のOPBS法では、式(2)の(α1P1−α2P2)により光音響信号強度Sを最小にする光パワーP1またはP2を探索する。この光音響信号強度Sの最小値をノイズの範囲内で決定する。実際的には、光パワー出力を変えるために、図3のレーザ電圧を調整する範囲を考慮して2つの波長(λ1、λ2)、2つの光吸収係数(α1、α2)に対して、光パワーを(P1,P2)と決定する。
【0082】
図8は被測定物の血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度0g/dLのときに光パワーP1,P2を変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図である。図8の横軸は光パワーバランス、縦軸は光音響信号の振幅と位相である。図8における70は光音響信号の振幅を示し、71は光音響信号の位相を示している。光パワーバランスは、2つの光のパワーの関係をレーザ電圧で表現しており、2つのレーザ光の各々におけるαPが等しい点を0としている。光パワーバランスが0より小の領域では、光パワーP1よりも光パワーP2の方が低くなり、一方、光パワーバランスが0より大の領域では、光パワーP1よりも光パワーP2の方が高くなっている。
【0083】
図8から明らかなように、光パワーバランスが0の点、すなわち2つのレーザ光の各々におけるαPが等しい点において、光音響信号の振幅は最小値を示し、また光音響信号の位相は変曲点を示す。理論上では、光パワーバランスが0の点における光音響信号の振幅は0であるべきだが、実験的にはノイズを含めた最小値となっており、0にはならない。
【0084】
2つの光のうち一方の光のパワーを変えると、光音響信号の振幅と位相が変わる。光音響信号の振幅は、光パワーバランスが0の点の両側で増大する。つまり、一方の光のパワーが小さくなった場合、2つの信号αPの強度の差が大きくなり、光音響信号の振幅が増大する。また、一方の光のパワーが小さくなった場合、光音響信号の位相は他方の光単独で励振された場合の光音響信号の位相に近づく。すなわち、1つの光のみで励振された状態に近づく。
【0085】
以上をまとめると、2つの光のパワーのうち一方の光パワーP2を低下させるかあるいは光パワーP1を上昇させて、光パワーバランスを0より小にすると、光音響信号の振幅が増大し、位相に関しては2つの位相間で−90度異なる。すなわち、このときの光音響信号の位相は光パワーP1の光単独で励振された場合の光音響信号の位相(すなわち−90度)と同じ位相となる。また、光パワーP2を上昇させるかあるいは光パワーP1を低下させて、光パワーバランスを0より大にすると、光音響信号の振幅が増大し、光音響信号の位相は光パワーP2の光単独で励振された場合の光音響信号の位相(すなわち+90度)と同じ位相となる。
【0086】
ここで、光パワーバランスが0の点では、2つの重要な特徴がある。最初に、2つの波長の光音響信号が±90度位相シフトしているため、光パワーバランスが0の点は、変曲点となる位相0の点と一致する。さらに、変曲点の両側では、光音響信号の位相は正または負の明確な値をとり、位相と光パワーとの関係が線形であるため、位相の測定が早く済み、また測定が簡単であり、正確に測定することが可能であり、位相の正負の値から変曲点0の位置を良い精度で得ることが可能である。これらの2つの特徴から、位相測定で高精度に血液グルコース濃度を測定することができる。
【0087】
ここでは、分かり易い説明を提供するために、位相ではなく、振幅信号に焦点を合わせる。光音響信号の振幅が最小となり、かつ光音響信号の位相の変曲点となる位相ポイントは、2つの光の各々におけるαPが等しい点に位置する。被測定物の血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度0g/dLのときに、この位相ポイントでは上記の式(3)が成立する。
【0088】
実験的にはノイズが存在するために、光音響信号の振幅を0にすることは難しい。しかし、光音響信号の振幅の最小値は、1波長の光を用いる場合の光音響信号の振幅よりも2桁低い値となる。そして、概念的にはノイズレベルを完全に無視できるレベルに光音響信号の振幅を低下させることができる。次に、被測定物の成分濃度を変化させる。例えば、血液グルコース濃度を0からCg[g/dL]だけ変化させる。
【0089】
図9(A)は被測定物の血液グルコース濃度がCg[g/dL]だけ変化したときに光パワーP1,P2を変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図、図9(B)は被測定物のアルブミン濃度が変化したときに光パワーP1,P2を変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図である。図9(A)、図9(B)の横軸は光パワーバランス、縦軸は光音響信号の振幅と位相である。
【0090】
図9(A)における80は血液グルコース濃度が変化したときの光音響信号の振幅を示し、81は血液グルコース濃度が変化したときの光音響信号の位相を示し、82は血液グルコース濃度が変化する前の光音響信号の振幅を示し、83は血液グルコース濃度が変化する前の光音響信号の位相を示している。また、図9(B)における84はアルブミン濃度が変化したときの光音響信号の振幅を示し、85はアルブミン濃度が変化したときの光音響信号の位相を示し、86はアルブミン濃度が変化する前の光音響信号の振幅を示し、87はアルブミン濃度が変化する前の光音響信号の位相を示している。
【0091】
血液グルコース濃度またはアルブミン濃度が変化したとき、αPの変更に従って光音響信号の振幅と位相は変化する。例えば血液グルコース濃度がCgだけ変化し、この濃度変化により光吸収係数α1,α2がそれぞれδα1,δα2だけ変化した場合、上記の式(4)が成立する。成分濃度(血液グルコース濃度、アルブミン濃度など)の検出方法は2つある。光音響信号の振幅が最低となる光パワーバランスを探す方法か、あるいは光音響信号の位相の変曲点の光パワーバランスを探す方法のどちらかである。
【0092】
光パワーバランスが0の点の周辺で、光音響信号の位相と光パワーとの関係は線形に近いため、位相0の位置の正確な評価が可能である。光音響信号の位相を成分濃度変化後の新しい変曲点まで移動させるための光パワー差は、測定により求めることができる。図9(A)、図9(B)の例では、光パワーP2を上昇させるかあるいは光パワーP1を低下させることで、成分濃度変化後の新しい変曲点(光音響信号の振幅80,84が最小となる点)まで位相を移動させることができる。
【0093】
本実施の形態のOPBS法では、光音響信号の位相が0の点を探すために、光パワーを変化させる。より具体的には、光パワーを変化させるために、レーザダイオード1−1,1−2の駆動電圧を変化させる。光音響信号の位相が0の点では、上記の式(5)、式(6)が成立する。式(6)から明らかなように、血液グルコース濃度Cgは、グルコースに特有な新しい光パワーバランスのシフト値δP1と相対的な光吸収係数δα1とδα2から求めることができる。測定したい成分濃度がアルブミン濃度の場合も同様にして求めることができる。なお、光吸収係数α1,α2と光吸収係数変化量δα1,δα2とは、光吸収スペクトル測定から求めることができる。
【0094】
本実施の形態のOPBS法は、非侵襲的に光音響測定に基づく溶液の成分を測るために、効率的な方法である。この測定方法は、2つの光学波長を選ぶことによって1つの特定の合成物に非常に選択的なアプローチを最適化することができる。利用できる多様な光学波長を考慮すれば、異なる溶媒において多くの溶質を検出できることは明らかである。また、対応する光学パワーを調節しパワーバランスを求める方法により、どのような吸収係数(濃度)の違いに対しても測定可能である。
【0095】
光学波長の選択は吸収係数によって制限されない。仮に、α1=2α2ならば、P1=0.5P2と式(3)はいぜん有効である。さらにまた、位相0の変曲点に基づく測定方法は、速く収束して非常に正確な測定を提供する。光音響信号の位相を測定するため、数ポイントの測定点を記憶しておく必要がある。ノイズを完全に無視するならば、パラボラ(2次多項式)が3ポイントの測定データを必要とするのに対し、2ポイントの測定データから線形斜面を決定することは可能である。この観点から、光音響信号の直線的な特性の方が、位相が0の変曲点を早く求めることができる。
【0096】
しかしながら、ノイズと必要な測定精度の依存関係に基づき、測定ポイントの数は抜本的に増加させられるべきである。光音響信号の変化が線形的な挙動であれば、2ポイントの測定データから位相0の位置を非常に正確な精度で得ることができ、小さい範囲の中で位置を検索することができる。一方、光音響信号の変化が放物線状の場合には、二分検索アルゴリズム(二分探索)は最高の方法である。ただし、位相が0の位置を求めるのに要する時間は非常に長くなる。実験的な見解からセンサの反応時間に関連して、測定時間の量的増加を推定することは困難である。しかしながら、光音響信号の位相の線形的な挙動を利用すれば、より早く測定することができ、正確な成分濃度値を提供することができる。
【0097】
次に、OPBS法による測定について更に詳細に説明する。図10は成分濃度測定装置のOPBS法による測定時の動作を示すフローチャートである。
初めに時刻t0の初期状態において参照レベルの決定を行うために、レーザダイオード1−1のみを動作させる。被測定物13は、光音響セル6内に導入される。レーザドライバ2から駆動電流が供給されると、レーザダイオード1−1はレーザ光を放射する。このとき、レーザドライバ2から矩形波の駆動電流が供給されることにより、レーザダイオード1−1は強度変調光を放射する。光の波長は例えば1384nmである。この強度変調光は、光ファイバ3−1によって導かれ光カプラ4を通過して、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って光音響セル6内の被測定物13に照射される(図10ステップS200)。
【0098】
音響センサ8は、被測定物13から発生する光音響信号を検出し、増幅器9は、音響センサ8から出力された電気信号を増幅する。ロックインアンプ11は、増幅器9の出力に含まれる信号のうち、関数発生器10から出力される参照信号によって決まる周波数の測定信号を検出する。
【0099】
情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を漸次変化させると共に、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数(光変調周波数と同一の周波数)を漸次変化させる光変調周波数掃引を行う(図10ステップS201)。こうして、音響共振ピークを探索する。
【0100】
次に、測定信号の最大振幅を見つけたときに、情報処理装置12の周波数測定部127は、この最大振幅時の測定信号の周波数(参照周波数F0)を測定し、位相測定部122は、最大振幅時の測定信号の位相(参照位相P0)を測定する(図10ステップS202)。
情報処理装置12の情報記録部124は、周波数測定部127が測定した参照周波数F0と位相測定部122が測定した参照位相P0とを記憶部132に記憶させる(図10ステップS203)。
【0101】
次に、2つのレーザダイオード1−1,1−2を動作させて、2つの光を合波して測定を行う。レーザドライバ2から駆動電流が供給されると、レーザダイオード1−1,1−2はレーザ光を放射する。このとき、レーザドライバ2は、同一周波数で逆位相の矩形波の駆動電流をレーザダイオード1−1,1−2に供給することにより、レーザダイオード1−1,1−2から放射される光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調する。このとき、レーザダイオード1−1から放射される光の波長は例えば1384nm、レーザダイオード1−2から放射される光の波長は例えば1610nmである。また、2つの光のパワーは同一である。レーザダイオード1−1,1−2から放射された強度変調光は、それぞれ光ファイバ3−1,3−2によって導かれ、光カプラ4によって合波され、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って光音響セル6内の被測定物13に照射される(図10ステップS204)。
【0102】
続いて、情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1,1−2に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を参照周波数F0に設定すると共に、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数を参照周波数F0に設定する。情報処理装置12の光パワー制御部128は、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の大きさを変化させることにより、レーザダイオード1−1から放射される光のパワーを漸次変化させる光パワー掃引を行う(図10ステップS205)。
【0103】
情報処理装置12の位相測定部122は、測定信号の位相の変曲点、すなわち位相が0になる点を探索する(図10ステップS206)。位相の変曲点が見つかったときに、情報処理装置12の光パワー測定部129は、変曲点における2つの光の光パワーの差を測定する(図10ステップS207)。光パワー測定部129は、レーザダイオード1−1に供給される駆動電圧とレーザダイオード1−2に供給される駆動電圧との差である参照駆動電圧差VOPBS0を光パワーの差として測定する。
【0104】
なお、ステップS204の時点における2つの光パワーは同一なので、2つの光のうち一方の光のパワーのみを変化させる場合には、この一方の光についてステップS204時点の初期の光パワーと変曲点における光パワーとの差(駆動電圧差)を求めるようにしてもよい。また、ステップS205における光パワー掃引において、2つのレーザダイオード1−1,1−2から放射される光のパワーを変化させるようにしてもよい。
【0105】
次に、時刻t0から任意の時間経過後の時刻tにおける測定について説明する。初めに、一方のレーザダイオード1−1のみを動作させて、1つの光のみによる測定を行う。レーザダイオード1−1から放射された強度変調光は、光ファイバ3−1によって導かれ光カプラ4を通過して、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って光音響セル6内の被測定物13に照射される(図10ステップS208)。
【0106】
情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を参照周波数F0に設定する。さらに、関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、光変調周波数を参照周波数F0から変化させる。
情報処理装置12の位相測定部122は、測定信号の位相が参照位相P0となる点を探索し、情報処理装置12の周波数測定部127は、この点における周波数F1を測定する。こうして、参照位相P0に対応する周波数F1を探索する(図10ステップS209)。なお、周波数F1は参照周波数F0の近傍に位置する。
【0107】
次に、2つのレーザダイオード1−1,1−2を動作させて、2つの光を合波して測定を行う。レーザドライバ2は、同一周波数で逆位相の矩形波の駆動電流をレーザダイオード1−1,1−2に供給することにより、レーザダイオード1−1,1−2から放射される光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調する。上記と同様に、レーザダイオード1−1から放射される光の波長は例えば1384nm、レーザダイオード1−2から放射される光の波長は例えば1610nmである。また、2つの光のパワーは同一である。レーザダイオード1−1,1−2から放射された強度変調光は、それぞれ光ファイバ3−1,3−2によって導かれ、光カプラ4によって合波され、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って被測定物13に照射される(図10ステップS210)。
【0108】
続いて、情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1,1−2に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を周波数F1に設定すると共に、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数を周波数F1に設定する。情報処理装置12の光パワー制御部128は、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の大きさを変化させることにより、レーザダイオード1−1から放射される光のパワーを漸次変化させる光パワー掃引を行う(図10ステップS211)。
【0109】
情報処理装置12の位相測定部122は、測定信号の位相の変曲点、すなわち位相が0になる点を探索する(図10ステップS212)。位相の変曲点が見つかったときに、情報処理装置12の光パワー測定部129は、変曲点における2つの光の光パワーの差を測定する(図10ステップS213)。光パワー測定部129は、レーザダイオード1−1に供給される駆動電圧とレーザダイオード1−2に供給される駆動電圧との差である駆動電圧差VOPBS1を光パワーの差として測定する。
【0110】
なお、ステップS210の時点における2つの光パワーは同一なので、2つの光のうち一方の光のパワーのみを変化させる場合には、この一方の光についてステップS210時点の初期の光パワーと変曲点における光パワーとの差(駆動電圧差)を求めるようにしてもよい。また、ステップS211における光パワー掃引において、2つのレーザダイオード1−1,1−2から放射される光のパワーを変化させるようにしてもよい。
【0111】
情報処理装置12の記憶部132には、駆動電圧差VOPBS1と参照駆動電圧差VOPBS0との差(VOPBS1―VOPBS0)と、光パワー変化量δPとの関係を示すキャリブレーションデータが予め記憶されている。このようなキャリブレーションデータは、予め実測することにより求めることができる。情報処理装置12の光パワー変化量導出部130は、記憶部132を参照して駆動電圧差(VOPBS1―VOPBS0)に対応する光パワー変化量δPを取得する(図10ステップS214)。レーザダイオード1−1から放射される光の波長をλ1、レーザダイオード1−2から放射される光の波長をλ2とし、測定結果である信号レスポンス(光パワー変化量導出部130が求めた光パワー変化量)をOPBS(λ1,λ2)と表現する。以上で、レーザダイオード1−1,1−2を用いた測定が終了する。
【0112】
次に、ステップS200に戻り、レーザダイオード1−1,1−2とは別の組み合わせのレーザダイオード1−1,1−3を用いてステップS200〜S214の測定を行う。こうして、レーザダイオード1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nの中から選択し得る2つのレーザダイオードの全ての組み合わせについてステップS200〜S214の測定を実施する。例えばレーザダイオード1−3から放射される光の波長をλ3、レーザダイオード1−4から放射される光の波長をλ4とすれば、レーザダイオード1−1,1−3の組み合わせを用いたときの測定結果である信号レスポンス(光パワー変化量導出部130が求めた光パワー変化量)はOPBS(λ1,λ3)と表現され、レーザダイオード1−1,1−4の組み合わせを用いたときの測定結果である信号レスポンスはOPBS(λ1,λ4)と表現される。
【0113】
選択し得る2つのレーザダイオードの全ての組み合わせについてステップS200〜S214の測定が終了した時点で(図10ステップS215においてYES)、成分濃度測定装置のOPBS法による測定時の動作が終了する。
【0114】
本実施の形態のOPBS法では、2つの光を同一周波数で且つ逆位相の信号により強度変調しているが、位相差が180°以外の信号で光を強度変調してもよい。
2つの光を強度変調する信号の位相を手動で変更し、図11に示す光パワーバランス−位相特性を得た。図11の横軸は光パワーバランス、縦軸は光音響信号の位相である。ここでは、波長が1438nmの光と1610nmの光を用いている。光パワーバランスは、1438nmの光を発生するレーザダイオードのレーザ駆動電圧で表現されている。1610nmの光を発生するレーザダイオードのレーザ駆動電圧は1.4Vである。図11における400は2つの光を強度変調するそれぞれの信号の位相差が180°の場合の特性、401は位相差が180.1°の場合の特性、402は位相差が180.3°の場合の特性、403は位相差が180.8°の場合の特性、404は位相差が185.8°の場合の特性、405は位相差が195.8°の場合の特性、406は位相差が178.8°の場合の特性を示している。
【0115】
2つの光を強度変調する信号の位相差が180°の場合、一方のレーザダイオードの駆動電圧を変更した際に光音響信号の位相は−90°のままである。0.51V前後では、信号強度が小さいため、光音響信号の位相雑音の影響で特性に歪みが生じる。直後に光音響信号に180°の位相シフトが急激に生じ、不連続的となる。位相シフト前と同様に雑音による歪みが生じ、光音響信号の位相が90°で安定する領域となる。
【0116】
2つの光を強度変調する信号の位相差が180°前後(180.1°、180.8°、180.3°)の場合では、前述の位相変化の不連続点で光音響信号の位相が連続的に変化している。不連続点の前後の電圧では光音響信号の位相が±90°で安定する領域がある。2つの光を強度変調する信号の位相差が180°でない場合(185.8、195.8)、全電圧で光音響信号の位相の連続的な遷移領域のみで、光音響信号の位相が±90°で安定する領域は無い。このように、信号の位相差を180°から増加させて測定を行ったが、信号の位相差を178.8°へ減少させると対称的な傾向を得た。すなわち、位相90°から位相−90°への位相変化の駆動電圧に対する傾きが逆となる。結論として、正確かつ適切な溶液成分濃度測定には、2つの光を強度変調する信号の位相差が180°±30°程度が可能である。
【0117】
実用的には、2つの光を強度変調する信号の位相差として180°を用いることは光音響信号の位相遷移領域において雑音の影響が大きいため適切ではない。また、光音響信号の位相変化の傾きが急激なため、光音響信号の位相が0の点を決定するために、2分法が唯一のアプローチであり、測定に時間がかかり、収束性も悪い。測定速度を速めるために、線形的な遷移領域が最も適切である。すなわち、光音響信号の位相0点周辺で複数(2、3つ)の測定点から、相対的に位相0の位置を推定する方法である。このような方法では、測定と推定を重ねることで、より確実に測定精度を上げることができる。
【0118】
2つの光を強度変調する信号の位相差が180°に近い場合に、光音響信号の位相0点前後での線形的な遷移領域を得る。比較的、光音響信号の位相変化の傾きが急峻なため、小さい成分濃度範囲でも位相が大きく変化し、適切な測定精度を得ることができる。一方、2つの光を強度変調する信号の位相差が180°から遠ざかるにつれ、光音響信号の位相変化の傾きが緩やかとなる。このような場合には、大きい成分濃度範囲でも、位相遷移領域に位相0点があるため、濃度の定量が可能である。したがって、2つの光を強度変調する信号の位相差は、測定精度やダイナミックレンジを決定するため、所望の濃度範囲によって適宜設定する。
【0119】
2つの光を強度変調する信号の位相差が180°から大きく異なる場合、例えば180°から10°、20°あるいは30°異なっている場合は、光音響信号の位相の線形的な遷移領域が広い測定範囲を利用でき、幅広い濃度範囲の測定にも対応できる。したがって、大きな濃度範囲に対しては、2つの光を強度変調する信号の位相差を例えば190°、200°あるいは210°とすればよい。しかしながら、光音響信号の位相変化の傾きが緩やかとなり、測定精度が低下するため、濃度範囲と測定精度はトレードオフの関係となる。
【0120】
次に、情報処理装置12の濃度導出部131は、FS法による測定結果とOPBS法による測定結果とから測定対象の成分濃度を決定する(図5ステップS3)。
人体組織には多種類の分子がある濃度レベルで存在し、かつ、時間とともに変容している。一つの組成物(ここでは、グルコース)を正確にモニタするには、それゆえ、いくつかの偏在的偏り(それらの変化がグルコース濃度測定に影響を与える組成物やパラメータ)を取り除く必要がある。さらには、ノイズや測定の不確定性などのため、その結果の一貫性や精度を見積もるためには、測定値を得るために必要な測定よりも多くの測定が必要である。
【0121】
2波長によるOPBS法をn波長によるOPBS法に拡張すると、n(n−1)/2の組み合わせを取り得る。また、OPBS法による測定を実施する前に、周波数シフトは評価され、補正されなければならない。しかし、この周波数シフトはFS測定を導くことにもなる。このプロトコルは光波長に依存しないので、どの光波長でも実施可能であり、かつ、一度の実施でよい。FS法は高感度であるが、グルコース選択性が低い。さらに、周波数シフトのレスポンスは波長や音響モードにかかわらず一定となっている。
【0122】
結果として、n個の光波長から、(n(n−1)/2+1)の方程式を得ることができる。ここで、M個(Mは2以上の整数)の未知パラメータ、例えばCa,Cb,Cc,・・・,Tを有するシステムを考える。Ca,Cb,Cc,・・・は被測定物中のある成分の濃度であり、Tは被測定物の温度である。濃度Caの例としては、血液グルコースの濃度がある。濃度Cbの例としてはアルブミンの濃度がある。M個の未知パラメータの中の1つのパラメータに注目したとしても、少なくともM個の方程式を得るためにシステム全体を解析しなければならない。しかしながら、n個のレーザダイオードから(n(n−1)/2+1)の方程式を得ることができるので、nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数である必要がある。
【0123】
一度nを決定すれば、それぞれの波長コンビネーションに対して下記のような方程式を得ることができる。
FS法による測定結果である信号レスポンスFS(λ1)は、次式のように表現できる。
FS(λ1)=KaCa+KbCb+KcCc+・・・+KtT ・・・(13)
ここで、Ka,Kb,Kc,・・・,Ktは比例係数である。
【0124】
OPBS法による測定結果である信号レスポンスOPBS(λ1,λ2),OPBS(λ1,λ3),OPBS(λ1,λ4),・・・,OPBS(λn−1,λn)は、次式のように表現できる。n個のレーザダイオードの中から選択し得る2つのレーザダイオードの全ての組み合わせはn(n−1)/2とおりであるから、OPBS法により得られる信号レスポンスもn(n−1)/2個となる。
OPBS(λ1,λ2)=Qaλ1,λ2Ca+Qbλ1,λ2Cb+Qcλ1,λ2Cc
+・・・+Qtλ1,λ2T
OPBS(λ1,λ3)=Qaλ1,λ3Ca+Qbλ1,λ3Cb+Qcλ1,λ3Cc
+・・・+Qtλ1,λ3T
OPBS(λ1,λ4)=Qaλ1,λ4Ca+Qbλ1,λ4Cb+Qcλ1,λ4Cc
+・・・+Qtλ1,λ4T
・・・
OPBS(λn−1,λn)=Qaλn-1,λnCa+Qbλn-1,λnCb+Qcλn-1,λnCc+・・・+Qtλn-1,λnT ・・・(14)
【0125】
ここで、Qaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λj(i,j=1〜nで、i≠j)は比例係数である。式(13)、式(14)をマトリクスで記述すると、以下のようになる。
【0126】
【数6】
【0127】
中央のマトリクス、すなわち係数マトリクスには係数Ka,Kb,Kc,・・・,KtとQaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λjとが含まれている。この係数Ka,Kb,Kc,・・・,KtとQaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λjの値は、想定されるそれぞれの組成物(グルコースやアルブミン、その他の血液成分等)を一つ一つ評価したキャリブレーション測定で予め実験的に得られている。したがって、情報処理装置12の濃度導出部131は、式(13)、式(14)の連立方程式を解くことにより、M個の未知パラメータCa,Cb,Cc,・・・,Tを決定することができる(図5ステップS3)。
【0128】
係数マトリクスが正方マトリクスであれば、未知パラメータCa,Cb,Cc,・・・,Tについて1つの解が存在する。係数マトリクスの行が列より多ければ複数の解が存在するので、最も確からしいCa,Cb,Cc,・・・,Tを決定するには、いくつかの数学的なプロセスが必要になる。解は一義的には決定できないが、複数の解の中でどれが最適解かはチェックすることができる。不安定性と雑音を考慮すると、(n(n−1)/2+1)=Mである1つ目のアプローチより、(n(n−1)/2+1)>Mである2つ目のアプローチが、より安定であることは疑いようがない。
【0129】
たとえ測定精度が重要であるとしても、無期限に光源の数を増やすことができない場合がある。光源数の増加が装置のコストや大きさ、測定時間などの増加をもたらすためである。論理的には、本実施の形態のアプローチが、未知のパラメータの数で制限されることはない。しかしながら、OPBS法の構成で実施可能なFS法を用いることで、変数の数を減らすことは、実際のシステムを簡素化するのに有用である。
【0130】
また、本実施の形態は、研究室環境での実験により組成物マトリクスを評価することになる。しかしながら、患者の生体での実験では、個人個人で係数が若干変化する。よって、連続測定を始める前にグルコース濃度の開始値をセットするためには、標準的な方法に基づく少なくとも1つの測定値が必要である。本実施の形態による測定結果と標準的な方法による測定結果とを比較することにより、マトリクス係数を患者に合わせることができる。
【0131】
本実施の形態の情報処理装置12は、例えばCPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このようなコンピュータを動作させるためのプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供される。CPUは、読み込んだプログラムを記憶装置に書き込み、このプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、血液グルコース等の成分の濃度を連続モニターする技術に適用することができる。生体の体内に存在するグルコース、血液の血漿中に存在するグルコースの濃度測定、あるいはそれ以外の血漿中に存在する成分の濃度測定にも適用することができる。
【符号の説明】
【0133】
1−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−n…レーザダイオード、2…レーザドライバ、3−1,3−2,3−3,3−4,・・・,3−n,5…光ファイバ、4…光カプラ、6…光音響セル、7…光学窓、8…音響センサ、9…増幅器、10…関数発生器、11…ロックインアンプ、12…情報処理装置、13…被測定物、120…関数発生器制御部、121…振幅測定部、122…位相測定部、123…位相オフセット調整部、124…情報記録部、125…周波数シフト校正部、126…周波数変化率導出部、127…周波数測定部、128…光パワー制御部、129…光パワー測定部、130…光パワー変化量導出部、131…濃度導出部、132…記憶部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(M−1)個の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・と温度TとからなるM個(Mは2以上の整数)の未知パラメータを有する被測定物に対して、互いに波長が異なるn個(nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数)の光照射手段のうちの1つの光照射手段を用いて光を照射し、周波数シフト(FS)法により測定結果を得る第1の測定ステップと、
前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の全ての組み合わせを用いて前記被測定物に対して光を照射し、光パワーバランスシフト(OPBS)法により測定結果を得る第2の測定ステップと、
前記第1の測定ステップの測定結果と前記第2の測定ステップの測定結果とから前記被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定する濃度導出ステップとを備え、
前記濃度導出ステップは、
前記第1の測定ステップの測定結果をFS(λ1)、前記第2の測定ステップの測定結果をOPBS(λ1,λ2),OPBS(λ1,λ3),OPBS(λ1,λ4),・・・,OPBS(λn−1,λn)としたとき(λ1,λ2,λ3,λ4,・・・,λn−1,λnはn個の光照射手段から放射される光の波長)、
前記第1の測定ステップの測定結果を表現する式
FS(λ1)=KaCa+KbCb+KcCc+・・・+KtTと、
前記第2の測定ステップの測定結果を表現する式
OPBS(λ1,λ2)=Qaλ1,λ2Ca+Qbλ1,λ2Cb+Qcλ1,λ2Cc
+・・・+Qtλ1,λ2T、
OPBS(λ1,λ3)=Qaλ1,λ3Ca+Qbλ1,λ3Cb+Qcλ1,λ3Cc
+・・・+Qtλ1,λ3T、
OPBS(λ1,λ4)=Qaλ1,λ4Ca+Qbλ1,λ4Cb+Qcλ1,λ4Cc
+・・・+Qtλ1,λ4T、
・・・
OPBS(λn−1,λn)=Qaλn-1,λnCa+Qbλn-1,λnCb+Qcλn-1,λnCc+・・・+Qtλn-1,λnT
とからなる連立方程式(Ka,Kb,Kc,・・・,Kt,Qaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λj(i,j=1〜nで、i≠j)は所定の係数)を解くことにより、前記被測定物中の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・を決定することを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の成分濃度測定方法において、
前記第1の測定ステップは、
前記被測定物に対して光を照射する第1の光照射ステップと、
この第1の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第1の光音響信号検出ステップと、
この第1の光音響信号検出ステップで得られた電気信号のうち振幅が最大となる基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定する第1の位相測定ステップと、
任意の時間経過後に前記被測定物に対して光を照射する第2の光照射ステップと、
この第2の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第2の光音響信号検出ステップと、
この第2の光音響信号検出ステップで得られた電気信号のうち前記基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定する第2の位相測定ステップと、
この第2の位相測定ステップで測定する位相が前記第1の位相測定ステップで測定した位相と等しくなる測定信号の周波数を探索する周波数探索ステップと、
この周波数探索ステップで探索した周波数と前記基準周波数との変化量を、前記第1の測定ステップの測定結果として求める周波数変化導出ステップとを含むことを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の成分濃度測定方法において、
前記第2の測定ステップは、
前記被測定物に対して強度変調光を照射する第3の光照射ステップと、
この第3の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第3の光音響信号検出ステップと、
この第3の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の振幅が最大となる変調周波数を第1の周波数として測定する第1の周波数測定ステップと、
前記振幅が最大のときの電気信号の位相を参照位相として測定する第3の位相測定ステップと、
互いに異なる波長の2波の光を前記第1の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させる第4の光照射ステップと、
この第4の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第4の光音響信号検出ステップと、
この第4の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が0となる第1の変曲点を探索する第4の位相測定ステップと、
前記第1の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定する第1の光パワー測定ステップと、
任意の時間経過後に前記被測定物に対して強度変調光を照射する第5の光照射ステップと、
この第5の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第5の光音響信号検出ステップと、
この第5の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が前記参照位相となる変調周波数を第2の周波数として探索する第2の周波数測定ステップと、
互いに異なる波長の2波の光を前記第2の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させる第6の光照射ステップと、
この第6の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第6の光音響信号検出ステップと、
この第6の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が0となる第2の変曲点を探索する第5の位相測定ステップと、
前記第2の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定する第2の光パワー測定ステップと、
この第2の光パワー測定ステップで測定した光パワーの差と前記第1の光パワー測定ステップで測定した光パワーの差との変化量を、前記第2の測定ステップの測定結果として求める光パワー変化導出ステップとを含み、
前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の組み合わせ毎に、前記第3の光照射ステップと前記第3の光音響信号検出ステップと前記第1の周波数測定ステップと前記第3の位相測定ステップと前記第4の光照射ステップと前記第4の光音響信号検出ステップと前記第4の位相測定ステップと前記第1の光パワー測定ステップと前記第5の光照射ステップと前記第5の光音響信号検出ステップと前記第2の周波数測定ステップと前記第6の光照射ステップと前記第6の光音響信号検出ステップと前記第5の位相測定ステップと前記第2の光パワー測定ステップと前記光パワー変化導出ステップとを実施し、前記2つの光照射手段の組み合わせ毎に前記第2の測定ステップの測定結果を得ることを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の成分濃度測定方法において、
前記n個の光照射手段におけるnは(n(n−1)/2+1)>Mを満たす整数であることを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項5】
(M−1)個の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・と温度TとからなるM個(Mは2以上の整数)の未知パラメータを有する被測定物に対して光を照射する光照射手段と、
この光照射によって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する光音響信号検出手段と、
前記被測定物に対して、互いに波長が異なるn個(nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数)の前記光照射手段のうちの1つの光照射手段から光を照射させ、周波数シフト(FS)法により前記電気信号に基づいて測定結果を得る第1の測定手段と、
前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の全ての組み合わせを用いて前記被測定物に対して光を照射させ、光パワーバランスシフト(OPBS)法により前記電気信号に基づいて測定結果を得る第2の測定手段と、
前記第1の測定手段の測定結果と前記第2の測定手段の測定結果とから前記被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定する濃度導出手段とを備え、
前記濃度導出手段は、
前記第1の測定手段の測定結果をFS(λ1)、前記第2の測定手段の測定結果をOPBS(λ1,λ2),OPBS(λ1,λ3),OPBS(λ1,λ4),・・・,OPBS(λn−1,λn)としたとき(λ1,λ2,λ3,λ4,・・・,λn−1,λnはn個の光照射手段から放射される光の波長)、
前記第1の測定手段の測定結果を表現する式
FS(λ1)=KaCa+KbCb+KcCc+・・・+KtTと、
前記第2の測定手段の測定結果を表現する式
OPBS(λ1,λ2)=Qaλ1,λ2Ca+Qbλ1,λ2Cb+Qcλ1,λ2Cc
+・・・+Qtλ1,λ2T、
OPBS(λ1,λ3)=Qaλ1,λ3Ca+Qbλ1,λ3Cb+Qcλ1,λ3Cc
+・・・+Qtλ1,λ3T、
OPBS(λ1,λ4)=Qaλ1,λ4Ca+Qbλ1,λ4Cb+Qcλ1,λ4Cc
+・・・+Qtλ1,λ4T、
・・・
OPBS(λn−1,λn)=Qaλn-1,λnCa+Qbλn-1,λnCb+Qcλn-1,λnCc+・・・+Qtλn-1,λnT
とからなる連立方程式(Ka,Kb,Kc,・・・,Kt,Qaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λj(i,j=1〜nで、i≠j)は所定の係数)を解くことにより、前記被測定物中の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・を決定することを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項6】
請求項5記載の成分濃度測定装置において、
前記第1の測定手段は、
前記電気信号に含まれる測定信号の位相を測定する第1の位相測定手段と、
任意の時間経過後の前記測定信号の周波数を探索する周波数探索手段と、
前記任意の時間経過後の前記測定信号の周波数の変化量を、前記第1の測定手段の測定結果として求める周波数変化導出手段とを備え、
前記n個の光照射手段のうちの1つの光照射手段は、第1の時刻において前記被測定物に対して光を照射すると共に、任意の時間経過後に前記被測定物に対して光を照射し、
前記第1の位相測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号のうち振幅が最大となる基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定すると共に、前記任意の時間経過後の電気信号のうち前記基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定し、
前記周波数探索手段は、前記任意の時間経過後に測定される位相が前記第1の時刻において測定された位相と等しくなる測定信号の周波数を探索し、
前記周波数変化導出手段は、前記周波数探索手段が探索した周波数と前記基準周波数との変化量を、前記第1の測定手段の測定結果として求めることを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の成分濃度測定装置において、
前記第2の測定手段は、
光パワーを制御する光パワー制御手段と、
前記電気信号の周波数を測定する周波数測定手段と、
前記電気信号の位相を測定する第2の位相測定手段と、
2つの強度変調光の光パワーの差を測定する光パワー測定手段と、
任意の時間経過後の光パワーの変化量を、前記第2の測定手段の測定結果として求める光パワー変化導出手段とを備え、
前記光照射手段は、第1の時刻において前記被測定物に対して強度変調光を照射し、第2の時刻において互いに異なる波長の2波の光を第1の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、第3の時刻において前記被測定物に対して強度変調光を照射し、第4の時刻において互いに異なる波長の2波の光を第2の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、
前記光パワー制御手段は、前記第2、第4の時刻において2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させ、
前記周波数測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号の振幅が最大となる変調周波数を前記第1の周波数として測定し、前記第3の時刻において得られた電気信号の位相が参照位相となる変調周波数を前記第2の周波数として探索し、
前記第2の位相測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号の振幅が最大のときの電気信号の位相を前記参照位相として測定し、前記第2の時刻において得られた電気信号の位相が0となる第1の変曲点を探索し、前記第4の時刻において得られた電気信号の位相が0となる第2の変曲点を探索し、
前記光パワー測定手段は、前記第2の時刻において前記第1の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定し、前記第4の時刻において前記第2の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定し、
前記光パワー変化導出手段は、前記第4の時刻において測定された光パワーの差と前記第2の時刻において測定された光パワーの差との変化量を、前記第2の測定手段の測定結果として求め、
前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の組み合わせ毎に測定を実施して測定結果を得ることを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の成分濃度測定装置において、
前記n個の光照射手段におけるnは(n(n−1)/2+1)>Mを満たす整数であることを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項1】
(M−1)個の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・と温度TとからなるM個(Mは2以上の整数)の未知パラメータを有する被測定物に対して、互いに波長が異なるn個(nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数)の光照射手段のうちの1つの光照射手段を用いて光を照射し、周波数シフト(FS)法により測定結果を得る第1の測定ステップと、
前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の全ての組み合わせを用いて前記被測定物に対して光を照射し、光パワーバランスシフト(OPBS)法により測定結果を得る第2の測定ステップと、
前記第1の測定ステップの測定結果と前記第2の測定ステップの測定結果とから前記被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定する濃度導出ステップとを備え、
前記濃度導出ステップは、
前記第1の測定ステップの測定結果をFS(λ1)、前記第2の測定ステップの測定結果をOPBS(λ1,λ2),OPBS(λ1,λ3),OPBS(λ1,λ4),・・・,OPBS(λn−1,λn)としたとき(λ1,λ2,λ3,λ4,・・・,λn−1,λnはn個の光照射手段から放射される光の波長)、
前記第1の測定ステップの測定結果を表現する式
FS(λ1)=KaCa+KbCb+KcCc+・・・+KtTと、
前記第2の測定ステップの測定結果を表現する式
OPBS(λ1,λ2)=Qaλ1,λ2Ca+Qbλ1,λ2Cb+Qcλ1,λ2Cc
+・・・+Qtλ1,λ2T、
OPBS(λ1,λ3)=Qaλ1,λ3Ca+Qbλ1,λ3Cb+Qcλ1,λ3Cc
+・・・+Qtλ1,λ3T、
OPBS(λ1,λ4)=Qaλ1,λ4Ca+Qbλ1,λ4Cb+Qcλ1,λ4Cc
+・・・+Qtλ1,λ4T、
・・・
OPBS(λn−1,λn)=Qaλn-1,λnCa+Qbλn-1,λnCb+Qcλn-1,λnCc+・・・+Qtλn-1,λnT
とからなる連立方程式(Ka,Kb,Kc,・・・,Kt,Qaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λj(i,j=1〜nで、i≠j)は所定の係数)を解くことにより、前記被測定物中の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・を決定することを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の成分濃度測定方法において、
前記第1の測定ステップは、
前記被測定物に対して光を照射する第1の光照射ステップと、
この第1の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第1の光音響信号検出ステップと、
この第1の光音響信号検出ステップで得られた電気信号のうち振幅が最大となる基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定する第1の位相測定ステップと、
任意の時間経過後に前記被測定物に対して光を照射する第2の光照射ステップと、
この第2の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第2の光音響信号検出ステップと、
この第2の光音響信号検出ステップで得られた電気信号のうち前記基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定する第2の位相測定ステップと、
この第2の位相測定ステップで測定する位相が前記第1の位相測定ステップで測定した位相と等しくなる測定信号の周波数を探索する周波数探索ステップと、
この周波数探索ステップで探索した周波数と前記基準周波数との変化量を、前記第1の測定ステップの測定結果として求める周波数変化導出ステップとを含むことを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の成分濃度測定方法において、
前記第2の測定ステップは、
前記被測定物に対して強度変調光を照射する第3の光照射ステップと、
この第3の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第3の光音響信号検出ステップと、
この第3の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の振幅が最大となる変調周波数を第1の周波数として測定する第1の周波数測定ステップと、
前記振幅が最大のときの電気信号の位相を参照位相として測定する第3の位相測定ステップと、
互いに異なる波長の2波の光を前記第1の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させる第4の光照射ステップと、
この第4の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第4の光音響信号検出ステップと、
この第4の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が0となる第1の変曲点を探索する第4の位相測定ステップと、
前記第1の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定する第1の光パワー測定ステップと、
任意の時間経過後に前記被測定物に対して強度変調光を照射する第5の光照射ステップと、
この第5の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第5の光音響信号検出ステップと、
この第5の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が前記参照位相となる変調周波数を第2の周波数として探索する第2の周波数測定ステップと、
互いに異なる波長の2波の光を前記第2の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させる第6の光照射ステップと、
この第6の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第6の光音響信号検出ステップと、
この第6の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が0となる第2の変曲点を探索する第5の位相測定ステップと、
前記第2の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定する第2の光パワー測定ステップと、
この第2の光パワー測定ステップで測定した光パワーの差と前記第1の光パワー測定ステップで測定した光パワーの差との変化量を、前記第2の測定ステップの測定結果として求める光パワー変化導出ステップとを含み、
前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の組み合わせ毎に、前記第3の光照射ステップと前記第3の光音響信号検出ステップと前記第1の周波数測定ステップと前記第3の位相測定ステップと前記第4の光照射ステップと前記第4の光音響信号検出ステップと前記第4の位相測定ステップと前記第1の光パワー測定ステップと前記第5の光照射ステップと前記第5の光音響信号検出ステップと前記第2の周波数測定ステップと前記第6の光照射ステップと前記第6の光音響信号検出ステップと前記第5の位相測定ステップと前記第2の光パワー測定ステップと前記光パワー変化導出ステップとを実施し、前記2つの光照射手段の組み合わせ毎に前記第2の測定ステップの測定結果を得ることを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の成分濃度測定方法において、
前記n個の光照射手段におけるnは(n(n−1)/2+1)>Mを満たす整数であることを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項5】
(M−1)個の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・と温度TとからなるM個(Mは2以上の整数)の未知パラメータを有する被測定物に対して光を照射する光照射手段と、
この光照射によって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する光音響信号検出手段と、
前記被測定物に対して、互いに波長が異なるn個(nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数)の前記光照射手段のうちの1つの光照射手段から光を照射させ、周波数シフト(FS)法により前記電気信号に基づいて測定結果を得る第1の測定手段と、
前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の全ての組み合わせを用いて前記被測定物に対して光を照射させ、光パワーバランスシフト(OPBS)法により前記電気信号に基づいて測定結果を得る第2の測定手段と、
前記第1の測定手段の測定結果と前記第2の測定手段の測定結果とから前記被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定する濃度導出手段とを備え、
前記濃度導出手段は、
前記第1の測定手段の測定結果をFS(λ1)、前記第2の測定手段の測定結果をOPBS(λ1,λ2),OPBS(λ1,λ3),OPBS(λ1,λ4),・・・,OPBS(λn−1,λn)としたとき(λ1,λ2,λ3,λ4,・・・,λn−1,λnはn個の光照射手段から放射される光の波長)、
前記第1の測定手段の測定結果を表現する式
FS(λ1)=KaCa+KbCb+KcCc+・・・+KtTと、
前記第2の測定手段の測定結果を表現する式
OPBS(λ1,λ2)=Qaλ1,λ2Ca+Qbλ1,λ2Cb+Qcλ1,λ2Cc
+・・・+Qtλ1,λ2T、
OPBS(λ1,λ3)=Qaλ1,λ3Ca+Qbλ1,λ3Cb+Qcλ1,λ3Cc
+・・・+Qtλ1,λ3T、
OPBS(λ1,λ4)=Qaλ1,λ4Ca+Qbλ1,λ4Cb+Qcλ1,λ4Cc
+・・・+Qtλ1,λ4T、
・・・
OPBS(λn−1,λn)=Qaλn-1,λnCa+Qbλn-1,λnCb+Qcλn-1,λnCc+・・・+Qtλn-1,λnT
とからなる連立方程式(Ka,Kb,Kc,・・・,Kt,Qaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λj(i,j=1〜nで、i≠j)は所定の係数)を解くことにより、前記被測定物中の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・を決定することを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項6】
請求項5記載の成分濃度測定装置において、
前記第1の測定手段は、
前記電気信号に含まれる測定信号の位相を測定する第1の位相測定手段と、
任意の時間経過後の前記測定信号の周波数を探索する周波数探索手段と、
前記任意の時間経過後の前記測定信号の周波数の変化量を、前記第1の測定手段の測定結果として求める周波数変化導出手段とを備え、
前記n個の光照射手段のうちの1つの光照射手段は、第1の時刻において前記被測定物に対して光を照射すると共に、任意の時間経過後に前記被測定物に対して光を照射し、
前記第1の位相測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号のうち振幅が最大となる基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定すると共に、前記任意の時間経過後の電気信号のうち前記基準周波数の信号を測定信号として、この測定信号の位相を測定し、
前記周波数探索手段は、前記任意の時間経過後に測定される位相が前記第1の時刻において測定された位相と等しくなる測定信号の周波数を探索し、
前記周波数変化導出手段は、前記周波数探索手段が探索した周波数と前記基準周波数との変化量を、前記第1の測定手段の測定結果として求めることを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の成分濃度測定装置において、
前記第2の測定手段は、
光パワーを制御する光パワー制御手段と、
前記電気信号の周波数を測定する周波数測定手段と、
前記電気信号の位相を測定する第2の位相測定手段と、
2つの強度変調光の光パワーの差を測定する光パワー測定手段と、
任意の時間経過後の光パワーの変化量を、前記第2の測定手段の測定結果として求める光パワー変化導出手段とを備え、
前記光照射手段は、第1の時刻において前記被測定物に対して強度変調光を照射し、第2の時刻において互いに異なる波長の2波の光を第1の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、第3の時刻において前記被測定物に対して強度変調光を照射し、第4の時刻において互いに異なる波長の2波の光を第2の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、
前記光パワー制御手段は、前記第2、第4の時刻において2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させ、
前記周波数測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号の振幅が最大となる変調周波数を前記第1の周波数として測定し、前記第3の時刻において得られた電気信号の位相が参照位相となる変調周波数を前記第2の周波数として探索し、
前記第2の位相測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号の振幅が最大のときの電気信号の位相を前記参照位相として測定し、前記第2の時刻において得られた電気信号の位相が0となる第1の変曲点を探索し、前記第4の時刻において得られた電気信号の位相が0となる第2の変曲点を探索し、
前記光パワー測定手段は、前記第2の時刻において前記第1の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定し、前記第4の時刻において前記第2の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定し、
前記光パワー変化導出手段は、前記第4の時刻において測定された光パワーの差と前記第2の時刻において測定された光パワーの差との変化量を、前記第2の測定手段の測定結果として求め、
前記n個の光照射手段の中から選択し得る2つの光照射手段の組み合わせ毎に測定を実施して測定結果を得ることを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の成分濃度測定装置において、
前記n個の光照射手段におけるnは(n(n−1)/2+1)>Mを満たす整数であることを特徴とする成分濃度測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−106874(P2013−106874A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255900(P2011−255900)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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