説明

成形装置

【課題】高アスペクト比のナノサイズインプリントを可能にする新規な成形装置を提供する。
【解決手段】下端にモールド14が取り付けられ垂直方向に移動するピストン11と、前記ピストンを内包するシリンダ12と、成形材を設置する下部プレート13と、前記ピストンを特定の水平方向に押圧する摺動性押圧部材を備え、前記ピストンが特定の水平方向に付勢された状態で垂直方向に上下して前記成形材に前記モールドを押圧することを特徴とする。
このような構成によると、成形動作時にシリンダが直線ガイドの役割を果たし、成形時と離型時のピストンの軌跡がずれにくくなり、高アスペクト比のナノサイズインプリントが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の型(モールド)を被加工物に押圧することによって、微細なパターンの転写を行う成形装置に関するものであり、特に、高アスペクト比のナノサイズインプリント技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成形装置(インプリント装置)は樹脂などの被加工物(成形材)の表面に微細なパターンを有する成形部品を形成する装置として知られている。ナノサイズの微細なパターンであっても比較的精度よく成形できるため、磁気記録媒体の微細形状や半導体集積回路の微細パターンなどを形成する技術に適用されている。
【0003】
パターンの微細化に伴って生じるこの装置の問題点として、モールド先端の一部が基板(被加工物)に「片当たり」するために生じる「位置ずれ」や、大荷重をかけた際に弾性バネが変形するために生じる「横ずれ」といった問題があり、モールドと基板との平行度を高精度に保ちつつ、モールドの押し付け動作を行う必要性が指摘されている。その解決手段として、「モールドの押し付け方向がモールドのパターン形成面に対して垂直方向を維持するように制御する」機構、その他の傾斜調整機構を設けることにより、精度を高める方法が開示されている(特許文献1,2)。
【0004】
特に、上記特許文献1は、剛性の高い構造体のメインフレームにZ軸(垂直方向、つまりモールドの移動方向の軸)ガイド及びZ軸駆動部を設置して、Z軸がステージ定盤の上面と垂直になるように調整され、さらに、センサを用いてモールドの姿勢及び位置を制御する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−101201号公報
【特許文献2】特開2003−77867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モールドと基板の平行度が悪いときに生じる他の技術的課題として、高アスペクト比のパターン形成が困難になる、という問題が挙げられる。上述した従来技術を適用すれば、結果としてモールドと基板の平行度を高めることができ、高アスペクト比のインプリントが可能であると考えられる。
【0007】
しかし、ステージの姿勢を調整して平行度を保つようにする構成は非常に複雑な制御が必要であるためコストが増大し、姿勢制御のための準備にも時間を要すると考えられるため、実用性は低下する。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、高アスペクト比のナノサイズインプリントを可能にする新規な成形装置を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る成形装置は、下端にモールドが取り付けられ垂直方向に移動するピストンと、前記ピストンを内包するシリンダと、成形材を設置する下部プレートと、前記ピストンを特定の水平方向に押圧する摺動性押圧部材を備え、前記ピストンが特定の水平方向に付勢された状態で垂直方向に上下して前記成形材に前記モールドを押圧することを特徴とする。
【0010】
このような構成によると、成形動作時にシリンダが直線ガイドの役割を果たし、成形時と離型時のピストンの軌跡がずれにくくなり、高アスペクト比のナノサイズインプリントが可能になる。
【0011】
ここで、摺動性押圧部材とは、水平方向に付勢すると共に垂直方向の摺動性を妨げないようにすることができる部材であり、例えばボールプランジャやローラーなど、弾性部材によってピストンを押圧すると共にピストン側面に接する面積が小さいものが挙げられる。摺動性押圧部材により押圧される特定の水平方向とは、ピストンの断面重心方向であることが好ましい。また、ピストン及びシリンダの形状は、角柱又は円柱状であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る成形装置は、さらに、前記シリンダに真空排気口が設けられ、該シリンダと前記下部プレートで囲まれた成形材設置部の周囲が局所的に真空排気されるように構成されていてもよい。このようにすると、真空状態での成形が可能となり、成形品からの脱ガスによる成形不良等が起こりにくい。また、大がかりな真空機構を用いる必要がないため、製造コストを下げることができる。なお、真空機構を設ける場合、ピストンとシリンダの気密性を高くしておくことが必要である。
【0013】
本発明に係る成形装置は、さらに、前記ピストンの内部にガス流通路が設けられていると共に、前記モールドの裏面に前記ガス流通路と連通する貫通孔が設けられていることを特徴とする。
【0014】
このような構成によると、離型時に貫通孔を介してガス流通路からガスを導入することにより、離型性を高めることができる。特に、アスペクト比の高いパターン形成においては、成形時よりも離型時に不良が生じやすい。このため、ガスの圧力を補助的に利用して離型性を高めることで、アスペクト比の高いパターン形成においても精度よく成形することができる。
【0015】
また、成形材を下部プレートに固定するための試料設置用フレームを設けておくことが好ましい。このフレームにより成形材の端部をネジ等によりしっかりと押さえつけることができ、アスペクト比の高いパターン形成の際にも成形材が動かず、精度よく成形することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、平行度及び垂直度が確保され、モールドを成形材に押し付ける際に生じる摩擦を低減することができる。また、回転や位置ずれを効果的に抑制することができ、高アスペクト比のパターンを形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1の実施形態)
図1及び図2は、本発明に係る成形装置の一例を示す概略構成図であり、図1(a)は、装置全体の構成の概略を示し、図1(b)は、図1(a)におけるA−A線矢視図を示している。図2(a)は、成形時の動作を説明するための説明図、図2(b)は、離型時の動作を説明するための説明図である。
【0018】
図1(a)に示すように、この装置は、ピストン11とこれを内包するシリンダ12(上部シリンダ12a,下部シリンダ12b)と下部プレート13を備えている。これらは、超鋼や炭素鋼などの金属或いはセラミックス等により構成される。なお、上下のシリンダ12a,12bは通常はボルト等によって強固に固定されていて取り外すことができないが、シリンダ12と下部プレート13とは金具(不図示)を操作することで容易に取り外すことができる。さらに、ピストン11の先端部にはモールド(型)14が取り付らけ、下部プレート13側に成形材Sが取り付けらる。また、下部プレート13の下にヒーター(不図示)を設置して成形材Sを加熱してもよい。
【0019】
なお、成形材は、樹脂、金属、ガラス等などを適用することができる。また、ピストン11の上下及び成形圧力の制御はサーボモータや油圧、水圧又は空圧等により行う。またモールドは、金属、ガラス、シリコン等を適用することができる。
【0020】
図2(a)に示すように、ピストン11はシリンダ12(12a,12b)内を垂直方向に移動することができ、成形材Sにモールド14を押し付けることにより、成形材Sの表面にパターンを形成することができる。また、成形材Sが設置されるシリンダ12の内部と下部プレート13で囲まれた空間は小さな真空チャンバーを構成している。すなわち、真空排気口15から排気することにより、真空状態での成形が可能である。
【0021】
このように、下部シリンダ12bに真空排気口15を設けておき、成形を行う部分を局所的な真空状態、いわゆる「囲み真空状態」にすることで、真空状態での成形を可能にし、成形性が向上する。また、ピストン11とシリンダ12のクリアランスを可能な限り小さくすることで、気密性を高くすることができ、シンプルな構造で真空状態にすることができる。この下部シリンダ12bに接続する排気システムを利用して下部プレート13の成形材Sの設置部に真空排気口16を設け、成形材Sを真空チャックで固定してもよい。
【0022】
また、図2(b)に示すように、成形後はシリンダ12と下部プレート13と切り離すことで成形品を容易に取り出すことができる。
【0023】
図1(b)に示すように、シリンダ12aの側面部に設けられた孔20にはボールプランジャ21が取り付けられ、これによりピストン11がシリンダ内でボールプランジャ21に接しているときは常にシリンダ12の内部で矢印Pの方向に押圧される。この成形装置の特徴の一つは、ピストン11が特定の水平方向に付勢された状態で垂直方向に上下する構成を採用した点にある。
【0024】
図3(a)は、ボールプランジャ21がピストン11を特定の水平方向(矢印Pの方向)に押圧している様子を示す原理図である。この図に示すように、押圧方向は矩形断面の重心方向(斜め方向)に押圧することが好ましい。このようにすると、一つの押圧力でx方向又はy方向に押圧した場合、他の水平方向(x方向に付勢した場合はy方向、y方向に付勢した場合はx方向に)ずれるおそれがあるためである。
また、ピストン11にはボールプランジャ21の先端部が安定して接するように、ボールプランジャ21の先端部が確実に接するように、水平断面の形状が矩形ではなく図1(b)、図3(a)のように角柱状の一つの面(11a)が面取りされた形状で構成されている。
【0025】
このような構成によると、成形動作時にシリンダ12が直線ガイドの役割を果たし、成形時と離型時のピストン11の軌跡がずれにくくなる。成形動作時に生じやすいピストンの回転や位置ずれを効果的に抑制することができ、高精度で精密な成形、離型が可能となる。また、ボールプランジャ21の働きにより、ピストン11は水平方向に付勢された状態で垂直方向に移動するにもかかわらず、摺動性が低下しにくい。
【0026】
この装置によると、アスペクト比が少なくとも5以上のような高アスペクト比のパターンを低コストで精度よく形成することができる。
【0027】
なお、ピストン11は垂直方向(上下方向)に移動するため、水平方向への付勢力をなるべく均一にするように、孔20とボールプランジャ21はそれぞれ複数設けることが好ましい。図1の例では3つであるが、特に限定されない。
【0028】
(変形例)
図1の例では、水平方向に付勢すると共に垂直方向の摺動性を妨げないようにするためにボールプランジャ21を用いた例を説明したが、ボールプランジャに代えて、「ローラー」を用いてもよい。
図3(b)は、ローラー22とバネ23を用いて水平方向へ付勢した例を示している。この図に示すようにピストン11を角柱にして角部にローラー22を当接させながらバネ23により矢印Pの方向に付勢しても、ボールプランジャ21を用いた場合と同様の作用を得ることができる。
【0029】
ボールプランジャ21及びローラー22は、弾性部材を用いてピストン11を水平方向に付勢した状態で垂直方向に移動させ、このとき、摺動性が損なわれないようにするための部材(これを本明細書では「摺動性押圧部材」という。)の一例であるということができる。この「摺動性押圧部材」は、ピストン11との接触面積が小さいことが一つの特徴であるが、水平方向への押圧と垂直方向の摺動性を確保する構成であれば他の構成でも特に限定されない。また、当接面に摺動性のよいコーティングを施してもよい。
【0030】
図4(a)乃至(f)は、第1の実施形態のその他の変形例を示す図である。図4(a)(b)、(c)(d)、及び(e)(f)は、いずれも斜視図及び断面図でシリンダ12a及びピストン11の形状とボールプランジャ等により付勢される押圧方向を示した変形例である。
【0031】
(第2の実施形態)−モールドの固定方法−
図5(a)は、モールド14を、真空チャックにより固定した様子を示す断面図であり、いわゆる真空チャックの基本原理を説明するための図である。図5(b)及び(c)は、第2の実施形態における成形性及び離型性を高めたモールドの原理を説明するための図である。
【0032】
図5(a)に示すような形状の、内部にガス流通路30を設けたピストン31において、図の矢印の方向に吸引することにより、モールド14を固定する(真空チャック)。
このような構成により、モールド14を固定することでモールド14の着脱が容易となる。
【0033】
また、図5(b)に示すように、内部にガス流通路30を設けたピストン32に、貫通孔hを設けたモールド34を取り付けてもよい。成形時には成形材Sからのガス抜き等のために排気する一方、離型時にはモールド34の裏面から貫通孔hを介してガスを送り込むことで離型性が向上する。このようにすると、アスペクト比の高いパターンの転写性が特に向上する。
【0034】
なお、このような貫通孔hを設けたモールド34は、金属に限らず、ガラス、シリコンなどによって構成してもよい。貫通孔hの大きさは、適宜設計すればよいが、例えば100μmとする。なお、技術的には30μm程度でも可能である。また、ガスを送り込む際、モールド34がピストン32から外れることを防止するため、図5(b)に示すように、ピストン32の一部にテーパー部Tを設け、モールド34にもこれに嵌合する逆テーパーを設けるなどしておくか、或いはこれに代えて接着剤で固定してもよい。すなわち、モールドがピストンから外れることを防止する構成であれば他の構成でも特に限定されない。但し、接着剤は成形材が傾くなどの問題もあるため、高アスペクト比のパターン形成においては、注意が必要である。
【0035】
さらに、図5(c)に示すように、内部に2種類のガス流通路(30a,30b)を設けたピストン33に、モールド35を真空チャックし、離型時にはモールド35の裏面から貫通孔hを介してガスを送り込むことで離型性が向上する。
【0036】
このようにすると、モールドの着脱も瞬時に行うことができ、かつ、離型性も高いため、実用的である。
【0037】
高アスペクト比のパターン形成においては、離型時に不良が生じやすいが、図5(b)及び(c)によると、ガスの圧力を補助的に利用して離型性を高めることで、アスペクト比の高いパターン形成においても精度よく成形することができる。
【0038】
(第3の実施形態)−成形材の固定方法−
第1の実施形態で示したように、成形材は真空チャックで固定してもよいが、成形材の端部を着実に固定するために、試料設置用フレームを下部プレート上に設置し、そのフレームと下部プレートの間に試料(成形材)を固定してもよい。
【0039】
図6(a)は、試料設置用のフレーム40の平面図を、図6(b)は、試料設置用のフレーム40の正面図をそれぞれ示している。また、図6(c)は、このフレーム40を用いて下部プレート13に試料を取り付けた状態を示す図である。
【0040】
この試料設置用のフレーム40に試料(成形材S)を取り付け、矩形状の四隅をネジ又はボルト等で下部プレート13に締め付けて固定する。このようにすると、成形材Sが確実に固定され、成形性及び離型性が向上する。
【0041】
なお、第2及び第3の実施形態は第1の実施形態と独立して、或いは第1の実施形態に加えて追加的に実施することが可能である。特に、アスペクト比の高いパターンを成形する際には、第1の実施形態に第2及び第3の実施形態を適用することが効果的である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る成形装置は成形動作時に生じるピストンの位置ずれを抑制し、高精度で精密な成形及び離型を行うことができる。また、装置構成が比較的単純であり、安価に構成しうることから、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0043】
11 ピストン
12 シリンダ
13 下部プレート
14 モールド
15、16 真空排気口
20 孔
21 ボールプランジャ
22 ローラー
23 バネ
30 ガス流通路
31、32、33 ピストン
34、35 モールド
40 フレーム
S 成形材
h 貫通孔
T テーパー
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明に係る成形装置の一例を示す概略構成図であり、図1(a)は装置全体の構成の概略を示し、(b)は、(a)におけるA−A線矢視図を示している。
【図2】図2は、本発明に係る成形装置の一例を示す概略構成図であり、(a)は、成形時の動作を説明するための説明図、(b)は、離型時の動作を説明するための説明図である。
【図3】図3(a)は、ボールプランジャ21がピストンを特定の水平方向(矢印Pの方向)に押圧している様子を示す原理図である。図3(b)は、ローラー22とバネ23を用いて水平方向へ付勢した例を示している。
【図4】図4(a)乃至(f)は、第1の実施形態のその他の変形例を示す図である。
【図5】図5(a)は、モールド14を、真空チャックにより固定した様子を示す断面図であり、いわゆる真空チャックの基本原理を説明するための図である。(b)及び(c)は、第2の実施形態における離型性を高めたモールドの原理を説明するための図である。
【図6】図6(a)は、試料設置用フレーム40の平面図を、図6(b)は、試料設置用フレーム40の正面図をそれぞれ示している。また、図6(c)は、このフレーム40を用いて下部プレート13に試料を取り付けた状態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端にモールドが取り付けられ垂直方向に移動するピストンと、前記ピストンを内包するシリンダと、成形材を設置する下部プレートと、前記ピストンを特定の水平方向に押圧する摺動性押圧部材を備え、前記ピストンが特定の水平方向に付勢された状態で垂直方向に上下して前記成形材に前記モールドを押圧することを特徴とする成形装置。
【請求項2】
前記シリンダに真空排気口が設けられ、該シリンダと前記下部プレートで囲まれた成形材設置部の周囲が局所的に真空排気されるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の成形装置。
【請求項3】
前記ピストンの内部にガス流通路が設けられていると共に、前記モールドの裏面に前記ガス流通路と連通する貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の成形装置。
【請求項4】
前記成形材を下部プレートに固定するための試料設置用フレームを備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−253557(P2007−253557A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83792(P2006−83792)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(390002473)TOWA株式会社 (192)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】