説明

投写レンズおよびこれを用いた投写型表示装置

【課題】携帯性に優れた投写型表示装置に適合可能であり、近距離投影においても画像サイズが大きくなるように広角とされ、高性能な割に少ないレンズ枚数とされた、極めて簡易で安価な投写レンズ、およびこれを用いた投写型表示装置を得る。
【解決手段】拡大側から順に、縮小側が凹面とされた負レンズL、縮小側が凹面とされた負レンズL、正レンズL、縮小側が凸面とされた正レンズL、負レンズL、縮小側が凸面とされた正レンズL、および拡大側が凸面とされた正レンズLからなり、条件式(1)〜(4)を満足する。2.5<β/S<10.0(1)、20<S/OBJ<65(2)、60度<2ω(3)、FH<BH(4):ここで、βは拡大倍率、Sは拡大側画像の最大長さ(インチ)、OBJは拡大側投写距離(m)、2ωは拡大側画角、FHは最も拡大側のレンズ面における最大有効光束高、BHは最も縮小側のレンズ面における最大有効光束高である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型あるいは反射型の液晶表示素子やDMD(デジタル・マイクロミラー・デバイス)等のライトバルブからの表示情報等を拡大投写する投写レンズに関し、特に、いわゆる携帯性に優れたハンディータイプの投写型表示装置に好適な投写レンズおよびこれを用いた投写型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置やDMD表示装置等のライトバルブを用いた投写型表示装置が広く普及しているが、ライトバルブの小型化・高精細化が急激に進み、また、パソコンの普及と相俟って、このような投写型表示装置を用いてプレゼンテーションを行うことの需要も増加しているため、近年、特に、携帯性に優れた小型の投写型表示装置が要求されるようになっている。また、将来は、携帯電話や懐中電灯を扱うような感覚で、投写型表示装置を扱うことも考えられ、そのためには、さらに携帯性を推し進めることが必須である。
【0003】
上記要求に応えうる方策としては、特に、投写光学系の光軸と垂直となる方向、一般には装置筺体の厚み方向に小さくなるように薄型化を図ることが有効であり、そのためには投写レンズにおける全てのレンズの外径を小さくすることが重要となる。
【0004】
装置の携帯性を高めることを目的として、投写レンズのコンパクト化を図った従来技術としては、例えば下記特許文献1、2に記載された投写レンズの如く、縮小側がテレセントリックとされ、また、色合成や、照明光と投写光の分離、等を行うためにレンズバックにある程度のスペースを確保した構成とされたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3508011号公報
【特許文献2】特開2005−84456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載されたものは、画角が50度前後と小さく、近距離で画像サイズが大きくなるように投写することは困難である。
【0007】
また、上記特許文献1、2に記載されたものは、上述したように、縮小側がテレセントリックで、レンズバックをある程度確保した構成とされているが、縮小側のレンズの大型化を抑制し、積極的に小型化を図る対策は講じられておらず、さらに、この縮小側のレンズとともに拡大側のレンズも含め、有効光束に対する積極的な小型化対策も採られていない。
【0008】
また、上記小型化への要求とともに、極めて簡易な構成により大幅なコストの低減を図りたいという要求もあり、上記特許文献1、2に記載されたものでは、このような要求に必ずしも応えたものとはなっていない。
【0009】
さらに、上記携帯性を促進する場合に、ライトバルブのサイズを小型化することも有効であるが、このような観点からの提言は一切なされていない。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、携帯性に優れた投写型表示装置に適合可能であり、近距離投影においても画像サイズが大きくなるように広角とされ、高性能の割に少ないレンズ枚数としうる投写レンズ、およびこれを用いた投写型表示装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る第1の投写レンズは、
縮小側共役位置に表示された画像情報を拡大側共役位置へ投写する投写レンズであって、
拡大側から順に、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第1レンズ、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第2レンズ、正の屈折力を有する第3レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第4レンズ、負の屈折力を有する第5レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第6レンズ、および拡大側が凸面とされた正の屈折力を有する第7レンズにより構成されてなり、
さらに、以下の条件式(1)、(2)、(3)および(4)を満足することを特徴とするものである。
2.5<β/S<10.0・・・・(1)
20<S/OBJ< 65・・・・(2)
60度<2ω・・・・(3)
FH<BH・・・・(4)
ここで、
β:拡大倍率
S:拡大側画像の最大長さ(インチ)
OBJ:拡大側投写距離(m)
2ω:拡大側画角
FH:最も拡大側のレンズ面における最大有効光束高
BH:最も縮小側のレンズ面における最大有効光束高
【0012】
また、本発明に係る第2の投写レンズは、
縮小側共役位置に表示された画像情報を拡大側共役位置へ投写する投写レンズであって、
拡大側から順に、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第1レンズ、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第2レンズ、正の屈折力を有する第3レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第4レンズ、負の屈折力を有する第5レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第6レンズ、および拡大側が凸面とされた正の屈折力を有する第7レンズにより構成されてなるとともに、
最も縮小側に配置された前記第7レンズが、有効光束通過領域を含む非円形形状とされてなり、
さらに、以下の条件式(1)、(2)および(5)を満足することを特徴とするものである。
2.5<β/S<10.0・・・・(1)
20<S/OBJ< 65・・・・(2)
0.8<Bf/f・・・・(5)
ここで、
β:拡大倍率
S:拡大側画像の最大長さ(インチ)
OBJ:拡大側投写距離(m)
Bf:縮小側のバックフォーカス
f:全系焦点距離
【0013】
また、本発明に係る第3の投写レンズは、
縮小側共役位置に表示された画像情報を拡大側共役位置へ投写する投写レンズであって、
拡大側から順に、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第1レンズ、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第2レンズ、正の屈折力を有する第3レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第4レンズ、負の屈折力を有する第5レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第6レンズ、および拡大側が凸面とされた正の屈折力を有する第7レンズにより構成されてなり、
さらに、以下の条件式(1)、(2´)、(3)、(4)および(6)を満足することを特徴とするものである。
2.5<β/S<10.0・・・・(1)
35<S/OBJ<140・・・・(2´)
60度<2ω・・・・(3)
FH<BH・・・・(4)
3.0<S<10.0・・・・(6)
ここで、
β:拡大倍率
S:拡大側画像の最大長さ(インチ)
OBJ:拡大側投写距離(m)
2ω:拡大側画角
FH:最も拡大側のレンズ面における最大有効光束高
BH:最も縮小側のレンズ面における最大有効光束高
【0014】
また、本発明に係る第4の投写レンズは、
縮小側共役位置に表示された画像情報を拡大側共役位置へ投写する投写レンズであって、
拡大側から順に、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第1レンズ、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第2レンズ、正の屈折力を有する第3レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第4レンズ、負の屈折力を有する第5レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第6レンズ、および拡大側が凸面とされた正の屈折力を有する第7レンズにより構成されてなるとともに、
最も縮小側に配置された前記第7レンズが、有効光束通過領域を含む非円形形状とされてなり、
さらに、以下の条件式(1)、(2´)、(5)および(6)を満足することを特徴とするものである。
2.5<β/S<10.0・・・・(1)
35<S/OBJ<140・・・・(2´)
0.8<Bf/f・・・・(5)
3.0<S<10.0・・・・(6)
ここで、
β:拡大倍率
S:拡大側画像の最大長さ(インチ)
OBJ:拡大側投写距離(m)
Bf:縮小側のバックフォーカス
f:全系焦点距離
【0015】
また、前記各投写レンズは、縮小側がテレセントリックであることが好ましい。
【0016】
また、前記第3レンズと前記第4レンズの間に、光束の通過を制限する開口が配された構成とすることが好ましい。
【0017】
また、前記第2レンズが非球面を有していることが好ましい。
【0018】
また、前記第5レンズと前記第6レンズが互いに接合されて接合レンズを構成してなることが好ましい。
【0019】
さらに、前記投写レンズを構成する全てのレンズ要素の、光軸に対して垂直となるレンズ径方向の長さのうち最小部分が15mm以下に設定されていることが好ましい。
【0020】
また、本発明の第1の投写型表示装置は、光源と、複数のライトバルブと、該光源からの光束を該複数のライトバルブへ導く照明光学部と、上記いずれかの投写レンズとを備え、前記光源からの光束を前記複数のライトバルブで各々光変調した後、これら光変調した各光を合成し、前記投写レンズによりスクリーンに投写することを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の第2の投写型表示装置は、光源と、1つのライトバルブと、該光源からの光束を該ライトバルブへ導く照明光学部と、上記いずれかの投写レンズとを備え、前記光源からの光束を前記ライトバルブにより光変調した後、前記投写レンズによりスクリーンに投写することを特徴とするものである。
【0022】
なお、上述した「開口」としては、光束の通過を制限する機能を有していればよく、可変絞りも含まれる。
【0023】
また、上記「非円形形状」とは、光束進行方向から見た各レンズの形状が円形ではないことを意味する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る全ての投写レンズによれば、条件式(1)を満足することにより、装置の大型化を抑制しつつ、照明効率の向上および画面の高精細化を図ることができるとともに、条件式(2)を満足することにより、投写画面サイズ(最大長さ)および投写距離を適切な値とすることができる。
【0025】
また、上記第1および第3の投写レンズによれば、条件式(3)を満足することにより、拡大側の画角を60度より大きなものと規定し、近距離投影であっても画像サイズが大きくなるように構成される。さらに、上記第1および第3の投写レンズによれば、条件式(4)を満足することにより、最も拡大側のレンズ面における最大有効光束高が、最も縮小側のレンズ面における最大有効光束高よりも小さくなるように構成されているため、広角化に伴い拡大側レンズの径が大きくなり過ぎるのを抑制することができる。
【0026】
また、上記第2および上記第4の投写レンズによれば、条件式(5)を満足することにより、縮小側のバックフォーカスを確保しており、これにより、照明光と投影光の分離や、色光の合成等が容易となる。一方、バックフォーカスが長くなるのに応じて、縮小側のテレセントリック性を確保しようとすると、縮小側のレンズ径が大きくなり過ぎてしまう。そこで、最も縮小側に配置された第7レンズを、非円形形状として光束通過に必要な領域以外の所定の領域がカットされた状態とすることにより縮小側のレンズ径が大きくなり過ぎるのを防止するようにしている。
【0027】
また、上記第3および上記第4の投写レンズによれば、特に手持ち可能な超コンパクト化された投写型画像装置に搭載される場合により好適となるように構成されている。これは、特に手持ち可能な超コンパクト化された投写型画像装置に搭載する際に、条件式(2´)を満足することにより投写画面サイズ(最大長さ)および投写距離を適切な値とすることができ、さらに条件式(6)を満足することにより、適切な大きさのライトバルブサイズとすることができる。すなわち、条件式(2´)、(6)を満足することで、ライトバルブのサイズが小さ過ぎず、かつ投写画像が暗くなり過ぎない大きさとすることが可能となる。
【0028】
さらに上記各条件式を7枚のレンズ構成により満足させており、高性能の割に簡易かつコンパクトな系とすることができ、大幅なコストの低減を図ることができる。
【0029】
また、本発明の投写型表示装置は、本発明の投写レンズを用いていることにより、携帯性に優れた簡易で安価な投写型表示装置とすることが可能であり、近距離投影においても画像サイズが十分な大きさとなるように広角とされ、かつ良好な投写性能を有するものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1に係る投写レンズの構成を表す図である。
【図2】本発明の実施例2に係る投写レンズの構成を表す図である。
【図3】本発明の実施例3に係る投写レンズの構成を表す図である。
【図4】実施例1に係る投写レンズの諸収差図である。
【図5】実施例2に係る投写レンズの諸収差図である。
【図6】実施例3に係る投写レンズの諸収差図である。
【図7】本発明の投写型表示装置の主要部の概略構成を表す図である。
【図8】光束進行方向から見たときのレンズの非円形形状の具体例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について上述の図面を用いて説明する。図1は本発明に係る投写レンズを示すものであり、後述する実施例1のレンズ構成図である。なお、図中Zは光軸を表している。
【0032】
本実施形態に係る第1の投写レンズは、縮小側共役位置に表示された画像情報を拡大側共役位置へ投写する投写レンズであって、拡大側から順に、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第1レンズL、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第2レンズL、正の屈折力を有する第3レンズL、開口(可変絞り)3a、3b、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第4レンズL、負の屈折力を有する第5レンズL、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第6レンズL、および拡大側が凸面とされた正の屈折力を有する第7レンズLにより構成されてなり、
さらに、以下の条件式(1)、(2)、(3)および(4)を満足する。
2.5<β/S<10.0・・・・(1)
20<S/OBJ< 65・・・・(2)
60度<2ω・・・・(3)
FH<BH・・・・(4)
ここで、
β:拡大倍率
S:拡大側画像の最大長さ(インチ)
OBJ:拡大側投写距離(m)
2ω:拡大側画角
FH:最も拡大側のレンズ面における最大有効光束高
BH:最も縮小側のレンズ面における最大有効光束高
【0033】
また、本実施形態に係る第2の投写レンズは、上記第1の投写レンズの構成に加えて、最も縮小側に配置された前記第7レンズLが、有効光束通過領域を含む非円形形状とされてなる、との要件を満足し、さらに、上記第1の投写レンズの条件式(3)、(4)に替えて、以下の条件式(5)を満足するものである。
0.8<Bf/f・・・・(5)
ここで、
Bf:縮小側のバックフォーカス
f:全系焦点距離
【0034】
また、本実施形態に係る第3の投写レンズは、上記第1の投写レンズの条件式(2)に替えて、下記条件式(2´)、(6)を満足するものである。
35<S/OBJ<140・・・・(2´)
3.0<S<10.0・・・・(6)
ここで、
S:拡大側画像の最大長さ(インチ)
OBJ:拡大側投写距離(m)
【0035】
また、本実施形態に係る第4の投写レンズは、上記第1の投写レンズの構成に加えて、最も縮小側に配置された前記第7レンズLが、有効光束通過領域を含む非円形形状とされてなる、との要件を満足し、さらに、上記第1の投写レンズの条件式(2)、(3)、(4)に替えて、以下の条件式(2´)、(5)、(6)を満足するものである。
35<S/OBJ<140・・・・(2´)
0.8<Bf/f・・・・(5)
3.0<S<10.0・・・・(6)
ここで、
S:拡大側画像の最大長さ(インチ)
OBJ:拡大側投写距離(m)
Bf:縮小側のバックフォーカス
f:全系焦点距離
【0036】
なお、上記第1および第3の投写レンズにおいては、最も縮小側に配置された前記第7レンズLが、必ずしも有効光束通過領域を含む非円形形状とされていなくてもよい。
【0037】
また、縮小側共役位置に表示された画像情報を拡大側共役位置へ投写する投写レンズにおいて、この投写レンズを構成する全てのレンズ要素の、光軸に対して垂直となるレンズ径方向の長さのうち最小部分が15mm以下に設定されていることがレンズ系のコンパクト化を図る上で好ましい。
【0038】
ここで、上記「レンズ径方向の長さのうち最小部分」の値については、上記「15mm以下」に替えて「12mm以下」とすることが好ましく、「10mm以下」とすることがさらに好ましい。
【0039】
なお、上記「最大長さ」とは、拡大側画像中で最も長い距離を意味するものとし、一般には対角の長さである。
【0040】
なお、図1の投写レンズでは、紙面右側より入射されライトバルブの画像表示面1において画像情報を与えられた光束が、ガラスブロック2aおよびローパスフィルタや赤外線カットフィルタ等の各種フィルタやライトバルブのカバーガラス2bを介して、この投写レンズに入射され、この投写レンズにより紙面左側方向に拡大投写されるようになっている。さらに、レンズ系中に、開口(特に、第3レンズLと第4レンズLとの間に設けることが可能である)3a、3bが配置されている。図1には、1枚の画像表示面1のみを記載しているが、投写型表示装置において、光源からの光束を色分離光学系により3原色光に分離し、各原色光用に3つのライトバルブを配設して、フルカラー画像を表示可能とするものとすることが可能である。また、縮小側はテレセントリックとされていることが望ましい。
【0041】
なお、具体的には、ガラスブロック2aの位置にクロスダイクロイックプリズム等の色合成手段(ガラスブロック)や、照明光と投影光を分離するためのDMD用のプリズムやLCOS用のPBS等を配設することが可能である。
【0042】
なお、1つのライトバルブを用いる場合には、ガラスブロック2a等は省略可能である。
【0043】
また、本実施形態の投写レンズでは、少なくとも1枚の非球面を有することが望ましく、これにより、レンズ枚数を低減しつつ解像力を向上させることができる。特に、第2レンズL(実施例1、2)または、第1レンズL(実施例3)が非球面を有するように構成することが好ましい(これに加え、その他のレンズが非球面を有するようにすることが可能である)。
【0044】
また、本実施形態の投写レンズでは、縮小側から2枚目と3枚目のレンズ(第5レンズLと第6レンズL)を、互いに接合させて、色収差、特に倍率色収差を良好なものとすることが可能である。
【0045】
以下、上記各条件式の技術的意義について説明する。
すなわち、上記条件式(1)の範囲外となると、装置の大型化を抑制しつつ、照明効率の向上および画面の高精細化を図ることが、困難となる。
【0046】
また、上記条件式(2)の範囲外となると、投写画面サイズおよび投写距離を適切な値とすることが困難となる。
【0047】
さらに、上記条件式(2)に替えて、下記条件式(2´´)を満足する構成とすることにより、上記条件式(2)を満足した場合の作用効果をより良好に奏することができる。
30<S/OBJ< 65・・・・(2´´)
【0048】
なお、上記条件式(3)の下限以下となると、近距離投影を行なう場合において、画像サイズを十分な大きさとなるようにすることが困難となる。
【0049】
また、上記条件式(4)が満足されないと、広角化に伴って拡大側レンズの径が大きくなり過ぎるのを抑制することが困難となる。
【0050】
また、上記条件式(5)の下限以下となると、縮小側のバックフォーカスが確保されず、照明光と投影光の分離や、色光の合成等が困難となる。
【0051】
一方、縮小側のテレセントリック性を確保しようとすると、バックフォーカスが長くなるのに応じて縮小側のレンズ径が大きくなり過ぎてしまうので、本実施形態では、最も縮小側に配置されたレンズ等を、有効光束通過領域を含む非円形形状とし、不要なレンズ部分を設けないようにして(いわゆるDカットを施して)、縮小側のレンズ径が大きくなり過ぎるのを防止することが可能としている。
【0052】
また、手持ち可能な超コンパクト化された投写型画像装置に搭載する際に、条件式(2´)が満足されないと、投写画面サイズ(最大長さ)および投写距離を適切な値とすることが難しくなり、さらに条件式(6)が満足されないと、適切な大きさのライトバルブサイズとすることが困難となる。
【0053】
次に、本発明に係る投写型表示装置の実施形態について説明する。図7は本発明の一実施形態に係る投写型表示装置の主要部(照明光学系10)の一例を示す構成図である。
【0054】
図7に示すように上記照明光学系10は、前述したように、ライトバルブとしての透過型液晶パネル11a〜11cと、色分解のためのダイクロイックミラー12,13と、色合成のためのクロスダイクロイックプリズム14と、コンデンサレンズ16a〜16cと、全反射ミラー18a〜18cとを備えている。ダイクロイックミラー12の前段は図示を省略しているが、光源からの白色光は照明光学部を介して、3つの色光光束(G光、B光、R光)にそれぞれ対応する液晶パネル11a〜11cに入射されて光変調され、投写レンズによりスクリーンに投写される。
【0055】
この投写型表示装置は、本発明に係る投写レンズを用いているので、コンパクトなサイズにて、諸収差が良好に補正された高解像な大画面を得ることが可能となっている。
【0056】
また、よりコンパクト化を促進するためには、ライトバルブを単板とし、例えば、RGB各色映像を順次ライトバルブ上に表示させ、これと同期させて、RGB各色LEDよりなる光源から、対応色光を出力させることが好ましい。これにより、上述した、色分解のためのダイクロイックミラー12,13、色合成のためのクロスダイクロイックプリズム14、全反射ミラー18a〜18cなどを省略することが可能となる。
【0057】
また、上記第2および上記第4の投写レンズにおいては、最も縮小側に配置された第7レンズLを、有効光束通過領域を含む非円形形状としているが、本発明の投写レンズとしては、これに加えて、またはこれに替えて、他のレンズ(下記実施例3においては、第7レンズLに加えて第1レンズL)を有効光束通過領域を含む非円形形状としてもよい。
【0058】
なお、非円形形状としては、光束進行方向から見たときのレンズ形状が円とは異なる種々の形状とすることが可能であるが、例えば図8に示すように、光軸方向から見たときのレンズ形状が、円から1つの弓形領域を切り取ったもの(A)、円から対向する2つの弓形領域を切り取ったもの(B)、この(B)の形状からさらに1つの弓形領域を切り取ったもの(C)等とすることができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明に係る投写レンズの具体的な実施例について説明する。なお、各実施例において、互いに同様の作用効果をなす部材については同一の符号を付している。
【実施例1】
【0060】
実施例1に係る投写レンズは、図1に示すとおりであり、拡大側から順に、拡大側に凸面を向けた負のメニスカスレンズからなる第1レンズLと、縮小側に凹面を向けた負のメニスカス形状の両面非球面レンズからなる第2レンズLと、両凸レンズからなる第3レンズLと、開口(または可変絞り)3a、3bと、縮小側に凸面を向けた正のメニスカスレンズからなる第4レンズLと、縮小側に凹面を向けた平凹レンズからなる第5レンズLおよび両凸レンズからなる第6レンズLを接合してなる接合レンズと、両凸レンズからなる第7レンズLを配設してなる。
【0061】
上記第2レンズLの両面の非球面形状は、下記に示す非球面式により規定される。
【0062】
【数1】

【0063】
また、図1には、ライトバルブの画像表示面1、ガラスブロック2aおよびローパスフィルタや赤外線カットフィルタ等の各種フィルタやライトバルブのカバーガラス2bが示されている。
【0064】
実施例1に係る投写レンズの各レンズ面の曲率半径R、軸上面間隔D、各レンズのd線における屈折率Nおよびアッベ数νの値を、表1の上段に示す。また、各非球面を表す非球面係数を、表1の下段に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例1に係る投写レンズは、表4に示すように、各条件式(1)〜(5)、(2´)、(2´´)、を満足している。
【0067】
なお、実施例1において、全系の焦点距離fは6.4、FナンバFno.は3.00、全画角2ωは73.0(度)となるように設定されている。
【実施例2】
【0068】
実施例2に係る投写レンズの構成は、図2に示すとおりであり、上記実施例1と略同様であるが、主として、第2レンズLが両凹形状の両面非球面レンズとされている点、また、第3レンズLが縮小側に凸面を向けた正のメニスカスレンズとされている点、第5レンズLが縮小側に凹面を向けた負のメニスカスレンズとされている点、さらに、第3レンズLと第4レンズLの間に、1つの開口(または可変絞り)3のみが設けられている点において相違している。
【0069】
また、最も縮小側に配置された第7レンズLを、有効光束通過領域を含む非円形形状とし、不要なレンズ部分(図面上方向に位置する部分)L7Aを設けないようにして(いわゆるDカットを施して)、縮小側のレンズ径が大きくなり過ぎるのを防止している。
【0070】
上記第2レンズLの両面の非球面形状は、上記に示す非球面式により規定される。
【0071】
また、図2には、ライトバルブの画像表示面1が示されているが、この画像表示面1と第7レンズLの間には、ガラスブロックが配されていない。
【0072】
実施例2に係る投写レンズの各レンズ面の曲率半径R、軸上面間隔D、各レンズのd線における屈折率Nおよびアッベ数νの値を、表2の上段に示す。また、各非球面を表す非球面係数を、表2の下段に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
実施例2に係る投写レンズは、表4に示すように、各条件式(1)〜(6)、(2´)、(2´´)を満足している。なお、本実施例2の投写レンズは、特に、上記条件式(2´´)、(6)を同時に満足することから、超小型の手持ち可能な投写型表示装置への搭載が可能とされている。
【0075】
なお、実施例2において、全系の焦点距離fは4.8、FナンバFno.は2.50、全画角2ωは86.6(度)となるように設定されている。
【実施例3】
【0076】
実施例3に係る投写レンズの構成は、図3に示すとおりであり、上記実施例1と略同様であるが、主として、第1レンズLが両面非球面レンズからなり、第3レンズLが拡大側に凸面を向けた正のメニスカスレンズとされている点、第5レンズLが両凹レンズとされている点、さらに、開口(または可変絞り)が設けられていない点においても相違している。
【0077】
また、最も縮小側に配置された第7レンズLおよび最も拡大側に配置された第1レンズLを有効光束通過領域を含む非円形形状とし、不要なレンズ部分(前者は図面上下方向に位置する部分L7A、後者は図面下方向に位置する部分L1A)を設けないようにして(いわゆるDカットを施して)、縮小側のレンズ径が大きくなり過ぎるのを防止している。
【0078】
上記第1レンズLの両面の非球面形状は、上記に示す非球面式により規定される。
【0079】
実施例3に係る投写レンズの各レンズ面の曲率半径R、軸上面間隔D、各レンズのd線における屈折率Nおよびアッベ数νの値を、表3の上段に示す。また、各非球面を表す非球面係数を、表3の下段に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
実施例3に係る投写レンズは、表4に示すように、各条件式(1)〜(5)、(2´)、(2´´)を満足している。
【0082】
なお、実施例3において、全系の焦点距離fは6.2、FナンバFno.は3.00、全画角2ωは74.8(度)となるように設定されている。
【0083】
また、図4、5、6は、実施例1、2、3に係る投写レンズの諸収差(球面収差、非点収差、ディストーションおよび倍率色収差)を示す収差図である。これらの収差図において、ωは半画角を示し、球面収差の収差図にはd線、F線およびC線の収差曲線を示し、倍率色収差の収差図にはd線に対するF線(点線:以下同じ)およびC線(2点鎖線:以下同じ)の収差曲線を示している。図4、5、6に示すように、実施例1、2、3に係る投写レンズは、歪曲収差や倍率色収差をはじめ各収差が良好に補正されている。
【0084】
なお、本発明の投写レンズとしては、上記実施例のものに限られるものではなく種々の態様の変更が可能であり、例えば各レンズの曲率半径Rおよびレンズ間隔(もしくはレンズ厚)Dを適宜変更することが可能である。
【0085】
また、本発明の投写型表示装置としても、上記構成のものに限られるものではなく、本発明の投写レンズを備えた種々の装置構成が可能である。ライトバルブとしては、例えば、透過型または反射型の液晶表示素子や、傾きを変えることができる微小な鏡が略平面上に多数形成された微小ミラー素子(例えば、テキサス・インスツルメント社製のデジタルマイクロミラーデバイス)を用いることができる。また、照明光学系としても、ライトバルブの種類に対応した適切な構成を採用することができる。
【0086】
【表4】

【符号の説明】
【0087】
1 画像表示面
2、2a、2b ガラスブロック
3、3a、3b 開口(絞り)
10 照明光学系
11a〜11c 透過型液晶パネル
12、13 ダイクロイックミラー
14 クロスダイクロイックプリズム
16a〜16c コンデンサレンズ
18a〜18c 全反射ミラー
〜L レンズ
〜R19 レンズ面等の曲率半径
〜D18 レンズ面間隔(レンズ厚)
Z 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮小側共役位置に表示された画像情報を拡大側共役位置へ投写する投写レンズであって、
拡大側から順に、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第1レンズ、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第2レンズ、正の屈折力を有する第3レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第4レンズ、負の屈折力を有する第5レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第6レンズ、および拡大側が凸面とされた正の屈折力を有する第7レンズにより構成されてなり、
さらに、以下の条件式(1)、(2)、(3)および(4)を満足することを特徴とする投写レンズ。
2.5<β/S<10.0・・・・(1)
20<S/OBJ< 65・・・・(2)
60度<2ω・・・・(3)
FH<BH・・・・(4)
ここで、
β:拡大倍率
S:拡大側画像の最大長さ(インチ)
OBJ:拡大側投写距離(m)
2ω:拡大側画角
FH:最も拡大側のレンズ面における最大有効光束高
BH:最も縮小側のレンズ面における最大有効光束高
【請求項2】
縮小側共役位置に表示された画像情報を拡大側共役位置へ投写する投写レンズであって、
拡大側から順に、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第1レンズ、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第2レンズ、正の屈折力を有する第3レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第4レンズ、負の屈折力を有する第5レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第6レンズ、および拡大側が凸面とされた正の屈折力を有する第7レンズにより構成されてなるとともに、
最も縮小側に配置された前記第7レンズが、有効光束通過領域を含む非円形形状とされてなり、
さらに、以下の条件式(1)、(2)および(5)を満足することを特徴とする投写レンズ。
2.5<β/S<10.0・・・・(1)
20<S/OBJ< 65・・・・(2)
0.8<Bf/f・・・・(5)
ここで、
β:拡大倍率
S:拡大側画像の最大長さ(インチ)
OBJ:拡大側投写距離(m)
Bf:縮小側のバックフォーカス
f:全系焦点距離
【請求項3】
縮小側共役位置に表示された画像情報を拡大側共役位置へ投写する投写レンズであって、
拡大側から順に、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第1レンズ、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第2レンズ、正の屈折力を有する第3レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第4レンズ、負の屈折力を有する第5レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第6レンズ、および拡大側が凸面とされた正の屈折力を有する第7レンズにより構成されてなり、
さらに、以下の条件式(1)、(2´)、(3)、(4)および(6)を満足することを特徴とする投写レンズ。
2.5<β/S<10.0・・・・(1)
35<S/OBJ<140・・・・(2´)
60度<2ω・・・・(3)
FH<BH・・・・(4)
3.0<S<10.0・・・・(6)
ここで、
β:拡大倍率
S:拡大側画像の最大長さ(インチ)
OBJ:拡大側投写距離(m)
2ω:拡大側画角
FH:最も拡大側のレンズ面における最大有効光束高
BH:最も縮小側のレンズ面における最大有効光束高
【請求項4】
縮小側共役位置に表示された画像情報を拡大側共役位置へ投写する投写レンズであって、
拡大側から順に、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第1レンズ、縮小側が凹面とされた負の屈折力を有する第2レンズ、正の屈折力を有する第3レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第4レンズ、負の屈折力を有する第5レンズ、縮小側が凸面とされた正の屈折力を有する第6レンズ、および拡大側が凸面とされた正の屈折力を有する第7レンズにより構成されてなるとともに、
最も縮小側に配置された前記第7レンズが、有効光束通過領域を含む非円形形状とされてなり、
さらに、以下の条件式(1)、(2´)、(5)および(6)を満足することを特徴とする投写レンズ。
2.5<β/S<10.0・・・・(1)
35<S/OBJ<140・・・・(2´)
0.8<Bf/f・・・・(5)
3.0<S<10.0・・・・(6)
ここで、
β:拡大倍率
S:拡大側画像の最大長さ(インチ)
OBJ:拡大側投写距離(m)
Bf:縮小側のバックフォーカス
f:全系焦点距離
【請求項5】
縮小側がテレセントリックであることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項記載の投写レンズ。
【請求項6】
前記第3レンズと前記第4レンズの間に、光束の通過を制限する開口が配されたことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項記載の投写レンズ。
【請求項7】
前記第2レンズが非球面を有していることを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項記載の投写レンズ。
【請求項8】
前記第5レンズと前記第6レンズが互いに接合されて接合レンズを構成してなることを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか1項記載の投写レンズ。
【請求項9】
前記投写レンズを構成する全てのレンズ要素の、光軸に対して垂直となるレンズ径方向の長さのうち最小部分が15mm以下に設定されていることを特徴とする請求項1〜8のうちいずれか1項記載の投写レンズ。
【請求項10】
光源と、複数のライトバルブと、該光源からの光束を該複数のライトバルブへ導く照明光学部と、請求項1〜9のうちいずれか1項記載の投写レンズとを備え、前記光源からの光束を前記複数のライトバルブで各々光変調した後、これら光変調した各光を合成し、前記投写レンズによりスクリーンに投写することを特徴とする投写型表示装置。
【請求項11】
光源と、1つのライトバルブと、該光源からの光束を該ライトバルブへ導く照明光学部と、請求項1〜9のうちいずれか1項記載の投写レンズとを備え、前記光源からの光束を前記ライトバルブにより光変調した後、前記投写レンズによりスクリーンに投写することを特徴とする投写型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−170045(P2010−170045A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14635(P2009−14635)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】