説明

抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体

抗MT1−MMPモノクローナル抗体などの抗細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼモノクローナル抗体を例えば該脂質膜構造体の構成成分として含有する含有する脂質膜構造体。細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼ(MT−MMP)が発現した腫瘍細胞及び新生血管などに対して薬効成分及び/又は遺伝子を効率的に送達するためのドラッグデリバリーシステムとして利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、抗細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼモノクローナル抗体を含有する新規な脂質膜構造体に関する。
【背景技術】
マトリックスメタロプロテアーゼ類(MMPs)は、細胞外マトリックス(extracellular matrix:ECM)と基底膜成分のさまざまな構成タンパク質を分解し、細胞外マトリックス代謝に必須であると考えられている亜鉛依存性のエンドペプチダーゼのファミリーである。これらの酵素群は、正常な胚の発生、骨の成長あるいは創傷の治癒など、結合組織の再構成に関連しており、また、アテローム性動脈硬化症、肺気腫、リウマチ性関節炎、癌の浸潤・転移などの各種の病的な過程にも関与することが明らかにされてきている。これまでに、数多くの哺乳類MMPsがcDNAクローニングによりアミノ酸レベルまで解析されている。
例えば、哺乳類MMPsとして、MMP−1(collagenase);MMP−2(gelatinase A);MMP−3(stromelysin−1);MMP−7(matrilysin);MMP−8(neutrophil collagenase);MMP−9(gelatinase B);MMP−10(stromelysin−2);MMP−11(stromelysin−3);MMP−12(macrophage elastase);MMP−13(collagenase−3);MMP−14(MT1−MMP);MMP−15(MT2−MMP);MMP−16(MT3−MMP);MMP−17(MT4−MMP);MMP−19;MMP−20(enamelysin);MMP−24(MT5−MMP);MMP−25(MT6−MMP)などが知られている。これらのMMPsは、1次構造、基質特異性及び細胞分布により、少なくとも4種のサブファミリー:コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、ストロメライシン及び細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼ類(MT−MMPs)に分類されているが、このうちMT−MMPsサブファミリーは、最も新しくMMPsのサブクラスとして報告されたものであり、MMPsに保存された領域に対するディジェネレートプライマーとRT−PCRによって、これまでMT1−MMP,MT2−MMP,MT3−MMP,MT4−MMP,MT5−MMP,MT6−MMPなどが単離同定されている(Sato,H.et al.,Nature,370,61−65(1994);Will,H.et al.,Eur.J.Biochem.,231,602−608(1995);Takino,T.et al.,J.Biol.Chem.,270,23013−23020(1995);Puente X.S.et al.,Cancer Res.,56,944−949(1996);特開2000−270874号公報;Pei,D.,J.Biol.Chem.,274,8925−8932(1999);Kajita,M.et al.,FEBS Lett.,457,353−356(1999))。
MT−MMPsは、多くのMMPsに特徴的なヘモペキシンドメインの後方に、単一の膜貫通領域と短い細胞内テールを持つI型の膜タンパク質である。さらに、これらには、プロペプチドと活性ドメインの間に塩基性アミノ酸の挿入が共通して存在しており、フィウリン(furin)あるいはフィウリン様酵素による切断でこれらの膜タンパク質の活性化がおきる(Pei,D.et al.,J.Biol.Chem.,271,9135−9140(1996);Sato,H.et al.,FEBS Lett.,393,101−104(1996);Cao,J.et al.,J.Biol.Chem.,271,30174−30180(1996))。
細胞が組織内を移動・浸潤・転移する際には、その周りを取り囲む細胞外基質(ECM)の分解が必須のステップである。そのステップに中心的な役割を担っているのがMMPと呼ばれる酵素群であり、なかでも細胞膜表面に発現するMT1−MMPは癌の移動・浸潤・転移及び血管新生においてその役割が重要視されている。MT1−MMPは、細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼ−1(membrane−type 1 matrix metalloproteinase:MT1−MMP)あるいはMMP−14とも呼ばれる酵素(MEROPS ID:M10.014)で、ヒトにおいてはその染色体遺伝子座14q11−q12を占める遺伝子(Mignon,C.et al.,Genomics,28,360−361(1995))の産物であると報告されている。この酵素については、DNAクローニング並びに組換えタンパク質の発現によりその存在が確認されるとともに詳細な構造及び特性が明らかにされている(Sato,H.et al.,Nature,370,61−65(1994);Takino,T.et al.,Gene,155,293−298(1995);特開平7−203961号公報;特開平7−303482号公報;GenBank accession number:D26512)。MT1−MMPは、ヒトの他、イヌ、ヤギ、ウサギ、イノシシ、ネズミなどでもその存在が確認されている。ヒトMT1−MMPのcDNAは、582個のアミノ酸残基をコードし(EMBL accession No.D26512,E09720 &E 10297;SWISS−PROT:P50281)、その構造はシグナルペプチドに続くプロペプチドドメイン、ストロメライシン−3(stromelysin−3)に類似した特異な10個のアミノ酸残基からなる挿入配列(フィウリン(furin)−様酵素認識部位の可能性のある配列)、亜鉛結合サイトの可能性を持つ部位を有するコア酵素ドメイン、ヒンジドメイン、ヘモペキシン様ドメイン、膜貫通(transmembrane:TM)ドメインからなっている。
これまでに、MT1−MMPが同じMMPメンバーであり基底膜分解酵素であるゼラチナーゼA(MMP−2)の潜在型(プロゼラチナーゼA/72kDa IV型コラゲナーゼ:proMMP−2)を活性化すること、及び、MT1−MMP自身もI,II及びIII型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン及びaggrecanなど様々なECM分子を分解することが解明されている。また、MT1−MMPが腫瘍浸潤や転移の過程を促進することも示されている(Seiki,M.,Apmis,107,137−143(1999);Sato,H.et al.,Nature,370,61−65(1994))。さらに、MT1−MMPはproMMP−2(Sato,H.et al.,Nature,370,61−65(1994))やプロコラゲナーゼ−3(proMMP−13)(Knauper,V.et al.,J.Biol.Chem.,271,17124−17131(1996))のような他のMMPsを活性化することも知られている。このように、MT1−MMPの発現は細胞表面での多様なタンパク分解酵素カスケードの開始に関与する可能性があり、MT1−MMPは癌細胞浸潤や転移(Seiki,M.,Apmis,107,137−143(1999);Sato,H.et al.,Nature,370,61−65(1994))だけでなく脈管形成(Hiraoka,N.et al.,Cell 95,365−77(1998);Zhou,Z.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97,4052−4057(2000))や骨格発育(Zhou,Z.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97,4052−4057(2000);Holmbeck,K.et al.,Cell,99,81−92(1999))のような他の生理的プロセスにも関与していることが示されている。このようにMT1−MMPは組織における生理的、病理学的細胞浸潤に対する必要な道具であると考えられる。
一方、従来より、ドラッグデリバリーシステムとしてモノクローナル抗体を含有する脂質膜構造体が種々提案されてきたが、十分に満足すべき性能を有している脂質膜構造体は未だ提供されていない。また、抗細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼモノクローナル抗体を含有する脂質膜構造体は従来知られていなかった。
【発明の開示】
本発明の課題は、抗細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼモノクローナル抗体(以下、本明細書において、細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼを「MT−MMP」、抗細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼモノクローナル抗体を「抗MT−MMPモノクローナル抗体」と略す場合がある)を含有する脂質膜構造体を提供することにある。より具体的には、MT−MMPが発現した腫瘍細胞などに対して薬効成分及び/又は遺伝子を効率的に送達するためのドラッグデリバリーシステムとして、抗MT−MMPモノクローナル抗体を含有する脂質膜構造体を提供することが本発明の課題である。
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、抗MT−MMPモノクローナル抗体を含有する脂質膜構造体を提供することに成功し、この脂質膜構造体が、MT−MMPが発現した腫瘍細胞に効率的に薬効成分及び/又は遺伝子を送達できることを見出した。また、本発明者らは、上記の脂質膜構造体が、腫瘍内部における血管新生先端部位に対しても効率よく薬効成分及び/又は遺伝子を送達できることを見出した。つまり、本発明の脂質膜構造体は、MT−MMPを発現している腫瘍細胞と新生血管を同時にターゲットにし、効率的に薬効成分及び/又は遺伝子を送達できるものである。従来の脂質膜構造体は、腫瘍細胞又は新生血管のどちらか一方のみをターゲットとしているものであり、本発明により、初めて腫瘍細胞と新生血管の両方を同時にターゲットとしうる脂質膜構造体を見出した。従来は、腫瘍がある程度大きくなったような固形癌しかターゲットにできなかったが、本発明の脂質膜構造体によれば、新生血管ができ始めた小さな腫瘍の段階からでも薬効成分及び/又は遺伝子を送達することができ、治療が可能になる。本発明はこれらの知見を基にして完成されたものである。
すなわち、本発明により、抗細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼモノクローナル抗体を含有する脂質膜構造体が提供される。この発明の好ましい態様によれば、該モノクローナル抗体が脂質膜構造体の脂質膜の中、表面、内部、脂質層中、及び/又は脂質層の表面に存在する上記の脂質膜構造体、該モノクローナル抗体を該脂質膜構造体の構成成分として含有する上記の脂質膜構造体、及び該モノクローナル抗体が該脂質膜構造体の膜表面に結合した上記の脂質膜構造体が提供される。
さらに好ましい態様によれば、該モノクローナル抗体が、抗MT1−MMPモノクローナル抗体、抗MT2−MMPモノクローナル抗体、抗MT3−MMPモノクローナル抗体、抗MT4−MMPモノクローナル抗体、抗MT5−MMPモノクローナル抗体、及び抗MT6−MMPモノクローナル抗体から選ばれる1種又は2種以上のモノクローナル抗体である上記の脂質膜構造体;該モノクローナル抗体がヒト型又はマウス型のモノクローナル抗体である上記の脂質膜構造体;該モノクローナル抗体がFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、又はFab’フラグメントである上記の脂質膜構造体;該モノクローナル抗体を脂質膜構造体に結合させるための物質を含有する上記の脂質膜構造体;該モノクローナル抗体を脂質膜構造体に結合させるための物質が抗MT−MMPモノクローナル抗体又はそのフラグメント中のメルカプト基と反応し得る脂質誘導体である上記の脂質膜構造体が提供される。
また、本発明により、リン脂質及び/又はリン脂質誘導体を脂質膜構造体の構成成分として含有する上記の脂質膜構造体;リン脂質及び/又はリン脂質誘導体が、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファリジルコリン、ホスファリジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドホスホリルグリセロールホスファート、1,2−ジミリストイル−1,2−デオキシホスファチジルコリン、プラスマロゲン及びホスファチジン酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上のリン脂質及び/又はリン脂質誘導体である上記の脂質膜構造体;さらにステロール類を脂質膜構造体の構成成分として含有する上記の脂質膜構造体;ステロール類がコレステロール及び/又はコレスタノールである上記の脂質膜構造体が提供される。
さらに、本発明により、血中滞留性機能を有する上記の脂質膜構造体;血中滞留性脂質誘導体を脂質膜構造体の構成成分として含有する上記の脂質膜構造体;血中滞留性脂質誘導体がポリエチレングリコール脂質誘導体又はポリグリセリンリン脂質誘導体である上記の脂質膜構造体;ポリエチレングリコール脂質誘導体が、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−2000}−1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−5000}−1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−750}−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−2000}−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン、及びN−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−5000}−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリエチレングリコール脂質誘導体である上記の脂質膜構造体;温度変化感受性機能を有する上記の脂質膜構造体;温度感受性脂質誘導体を脂質膜構造体中の構成成分として含有する上記の脂質膜構造体;温度感受性脂質誘導体がジパルミトイルホスファチジルコリンである上記の脂質膜構造体;pH感受性機能を有する上記の脂質膜構造体;pH感受性脂質誘導体を脂質膜構造体の構成成分として含有する上記の脂質膜構造体;pH感受性脂質誘導体がジオレオイルホスファチジルエタノールアミンである上記の脂質膜構造体が提供される。
また、腫瘍細胞膜上の細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼと反応する上記の脂質膜構造体;腫瘍細胞がMT−MMP発現細胞である上記の脂質膜構造体;腫瘍細胞が線維肉腫、扁平上皮癌、神経芽細胞腫、乳癌、胃癌、肝細胞癌、膀胱癌、甲状腺腫瘍、尿路上皮癌、グリア芽細胞腫、急性骨髄性白血病、膵管癌、又は前立腺癌の細胞である上記の脂質膜構造体;新生血管の細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼと反応する上記の脂質膜構造体;脂質膜構造体がミセル、エマルション、リポソーム、又はこれらの混合物の形態である上記の脂質膜構造体;水系溶媒分散形態、凍結乾燥形態、噴霧乾燥形態、又は凍結形態のいずれかの形態である上記の脂質膜構造体が本発明により提供される。
別の観点からは、上記の脂質膜構造体と薬効成分及び/又は遺伝子とを含有する医薬組成物が本発明により提供される。この発明の好ましい態様によれば、薬効成分及び/又は遺伝子が、脂質膜構造体の膜中、表面、内部、脂質層中及び/又は脂質層の表面に存在するものである上記の医薬組成物;及び水系溶媒分散形態、凍結乾燥形態、噴霧乾燥形態、又は凍結形態のいずれかの形態である上記の医薬組成物が提供される。
抗細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼモノクローナル抗体から公知の方法により作製した酵素標識モノクローナル抗体と上記の脂質膜構造体の双方が抗原物質に対して起こす競合反応を酵素免疫学的方法により検出することを特徴とする該脂質膜構造体に含有される抗細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼモノクローナル抗体の量を推定する方法が本発明により提供される。
さらに別の観点からは、MT−MMPが関わる種々の疾病、例えば、腫瘍の予防及び/又は治療方法であって、上記の脂質膜構造体と薬効成分及び/又は遺伝子とを含有する医薬組成物をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法;薬効成分及び/又は遺伝子を腫瘍細胞及び/又は新生血管に送達する方法であって、薬効成分及び/又は遺伝子を上記の脂質膜構造体に保持させた形態でヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が本発明により提供される。
【図面の簡単な説明】
第1図は、リコンビナントプロテインAセファロースFFゲルカラムを用いて、抗MT1−MMPモノクローナル抗体(IgG)を含む腹水からIgGをアフィニティー精製した結果を示した図である。
第2図は、精製したIgGをペプシン消化した後のゲル濾過の結果を示した図である。
第3図は、F(ab’)画分を還元処理した後のゲル濾過の結果を示した図である。
第4図は、Fab’画分とマレインイミド基導入抗癌剤(DOX)封入リポソームをマレインイミドモル比が1:1となるように混合し、低温、遮光下20時間反応させた後のゲル濾過の結果を示した図である。
第5図は、Fab’画分とマレインイミド基導入抗癌剤(DOX)封入リポソームをマレインイミドモル比が1:3となるように混合し、低温、遮光下20時間反応させた後のゲル濾過の結果を示した図である。
第6図は、抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソーム及びマレインイミド基導入リポソームの還元SDS−PAGEパターンを示す写真である。リポソームに結合したFab’と予想される大きさのバンドの位置を矢印で示した。レーン1,3,5はFab’−DOX−LP(調製例(10)、▲2▼及び▲3▼)、レーン2,4,6はFab’−LP(調製例▲9▼、▲6▼及び▲7▼)、レーン7はLP−mal、レーン8はDOX−LP−mal、Mは分子量マーカーを示す。
第7図は、各リポソームの細胞増殖抑制作用を示した図である。図左半分は、MT1−MMPの発現細胞であるHT1080細胞を用いた場合、図右半分は、MT1−MMPを発現しないMCF−7細胞を用いた場合の結果である。右表には、Control群のstart(細胞洗浄直後)から24時間の培養の間に増殖した細胞数に対する試験群の細胞増殖抑制率を示した。
第8図は、細胞増殖抑制試験の結果を示した図である。Fab’−DOX−LPの細胞増殖抑制作用の用量依存性を示した。
第9図は、マウス腹膜播種(HT1080)モデルにおける細胞接着試験の模式図である。LP(上図)又はFab’−LP(下図)を腹腔内投与したモデルの腹膜腫瘍の様子を模式化して示した。□の部分、すなわち腫瘍内部から一部と腫瘍表層から2部の割面について写真撮影を行った。
第10図は、抗MT1−MMPモノクローナル抗体(クローン番号222−2D12)結合リポソームおよびF(ab’)2(クローン番号222−2D12)の還元SDS−PAGEパターンを示す写真である。リポソームに結合したFab’と予想される大きさのバンドの位置を矢印で示した。
第11図は、HT1080細胞を用いた細胞増殖抑制試験の結果を示した図である。凡例記載の数値は、各検体のドキソルビシン濃度を表す。
第12図は、第11図と同様に細胞増殖抑制試験の結果を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の脂質膜構造体は、抗MT−MMPモノクローナル抗体を含有することを特徴としている。本発明の脂質膜構造体は、抗MT−MMPモノクローナル抗体以外の成分として、脂質膜構造体を構成する膜構成成分を含んでいる。上記の膜構成成分としては、例えば、リン脂質及び/又はリン脂質誘導体を用いることが好ましい。リン脂質及びリン脂質誘導体としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファリジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドホスホリルグリセロールホスファート、1,2−ジミリストイル−1,2−デオキシホスファチジルコリン、プラスマロゲン、ホスファチジン酸等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらリン脂質における脂肪酸残基は特に限定されないが、例えば、炭素数12〜20の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を挙げることができ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。また、卵黄レシチン、大豆レシチン等の天然物由来のリン脂質を用いることもできる。
本発明の脂質膜構造体は、リン脂質及び/又はリン脂質以外の膜構成成分として、コレステロール、コレスタノール等のステロール類、炭素数8〜22の飽和又は不飽和のアシル基を有する脂肪酸類、α−トコフェロール等の酸化防止剤を含有してもよい。もっとも、膜構成成分はこれらに限定されることはない。
本発明の脂質膜構造体には、例えば、血中滞留性機能、温度変化感受性機能、及びpH感受性機能などのいずれか1つ又は2つ以上の機能を付与することができ、こ(れら)の機能を付加することによって、例えば、薬効成分及び/又は遺伝子を含む脂質膜構造体からなる本発明の医薬組成物の血液中での滞留性を向上させ、肝臓、脾臓などの細網内皮系組織(RETICULOENDOTHELIAL SYSTEM)による捕捉率を低下させることができ、あるいは薬効成分及び/又は遺伝子の放出性を高めることができる。
血中滞留性機能を付与することができる血中滞留性脂質誘導体としては、例えば、グリコフォリン、ガングリオシドGM1、ホスファチジルイノシトール、ガングリオシドGM3、グルクロン酸誘導体、グルタミン酸誘導体、ポリグリセリンリン脂質誘導体、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−2000}−1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−5000}−1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−750}−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−2000}−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−5000}−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン等のポリエチレングリコール誘導体等を挙げることができる。
温度変化感受性機能を付与することができる温度変化感受性脂質誘導体としては、例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン等を挙げることができる。また、pH感受性機能を付与することができるpH感受性脂質誘導体としては、例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン等を挙げることができる。
本発明の脂質膜構造体の形態は特に限定されないが、例えば、脂質膜構造体の膜構成成分であるリン脂質等とともに抗MT−MMPモノクローナル抗体が脂質膜構造体を形成している形態が好ましい。より具体的には、例えば、抗MT−MMPモノクローナル抗体がリン脂質等から構成される脂質膜構造体の脂質膜中、脂質膜表面、脂質膜構造体内部、脂質層中、及び脂質層表面からなる群から選ばれる1以上の部分に存在(結合)している形態を挙げることができる。さらに好ましくは、抗MT−MMPモノクローナル抗体がリン脂質等とともに膜構成成分となって脂質膜構造体を形成した形態、又は抗MT−MMPモノクローナル抗体が脂質膜構造体の脂質膜表面に結合した形態を挙げることができる。
本発明の脂質膜構造体の形態及びその製造方法は特に限定されないが、形態としては、例えば、乾燥した混合物の形態、あるいは水系溶媒に分散された形態又はこれを乾燥させた形態若しくは凍結させた形態等を挙げることができる。以下に、これらの形態の脂質膜構造体を製造する方法を説明するが、本発明の脂質膜構造体の形態及びその製造方法は上記の形態又は下記に説明する製造方法に限定されることはない。
(1)脂質膜構造体の構成成分全てを用いて製造する方法
乾燥した混合物の形態の脂質膜構造体は、例えば、脂質膜構造体の構成成分全てを一旦クロロホルム等の有機溶媒に溶解させ、次いでエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことによって製造することができる。
脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態は、上記の乾燥した混合物を水系溶媒に添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等により乳化することで製造することができる。また、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法などによっても製造することができる。脂質膜構造体の大きさを制御したい場合には、孔径のそろったメンブランフィルター等を用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態としては、一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定型の層状構造物などを挙げることができる。本発明の脂質膜構造体の好ましい形態としてリポソームを挙げることができる。分散した状態の脂質膜構造体の大きさは特に限定されるべきものではないが、例えば、リポソームやエマルションの場合には粒子径が50nmから5μmであり、50nmから400nmが好ましく、50nmから200nmが好ましく、50nmから150nmのものがより好ましい。球状ミセルの場合は、粒子径が5nmから100nmである。ひも状ミセルや不定型の層状構造物の場合は、その1層あたりの厚みが5nmから10nmでこれらが層を形成しているものが好ましい。なお、粒子径は、準弾性光散乱法による重量平抱粒子径を意味するものである。
水系溶媒(分散媒)の組成は特に限定されるべきものではなく、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝化生理食塩液等の緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地などを挙げることができる。これら水系溶媒(分散媒)は脂質膜構造体を安定に分散させることができるが、さらに、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトース等の二糖類、ラフィノース、メレジノース等の三糖類、シクロデキストリン等の多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等の糖アルコールなどの糖(水溶液)や、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3−ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)等を加えてもよい。この水系溶媒(分散媒)に分散した脂質膜構造体を安定に長期間保存するには、凝集などの物理的安定性の面から、水系溶媒(分散媒)中の電解質を極力なくすことが望ましい。また、脂質の化学的安定性の面から、水系溶媒(分散媒)のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0から8.0)に設定することや窒素バブリングにより溶存酸素を除去することが望ましい。
さらに脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態を乾燥・凍結させた形態は、上記の水系溶媒に分散した脂質膜構造体を通常の凍結乾燥や噴霧乾燥による乾燥・凍結方法等により製造することができる。水系溶媒に分散した形態の脂質膜構造体を一旦製造した上でさらに乾燥すると、脂質膜構造体の長期保存が可能となるほか、この乾燥した脂質膜構造体に薬効成分含有水溶液を添加すると、効率よく脂質混合物が水和されるために薬効成分を効率よく脂質膜構造体に保持させることができる長所がある。
凍結乾燥や噴霧乾燥する場合には、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトース等の二糖類、ラフィノース、メレジノース等の三糖類、シクロデキストリン等の多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等の糖アルコールなどの糖(水溶液)を用いると安定に長期間保存することができる。また、凍結する場合には、例えば、前記した糖(水溶液)やグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール(水溶液)をそれぞれ用いると安定に長期間保存することができる。糖と多価アルコールとを組み合わせて用いてもよい。脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態における糖又は多価アルコールの濃度は特に限定されるべきものではないが、脂質膜構造体が水系溶媒に分散した状態において、例えば、糖は、2〜20%(W/V)が好ましく、5〜10%(W/V)がさらに好ましい。また、多価アルコールは、1〜5%(W/V)が好ましく、2〜2.5%(W/V)がさらに好ましい。水系溶媒(分散媒)として、緩衝液を用いる場合には、緩衝剤の濃度が5〜50mMが好ましく、10〜20mMがさらに好ましい。水系溶媒(分散媒)における脂質膜構造体の濃度は特に限定されるべきものではないが、脂質膜構造体における脂質総量の濃度は、0.1mM〜500mMが好ましく、1mM〜100mMがさらに好ましい。
(2)段階的に製造する方法(抗MT−MMPモノクローナル抗体以外の構成成分の一部又は全部を用いて脂質膜構造体を製造した後に、抗MT−MMPモノクローナル抗体を脂質膜構造体の膜表面に結合させる方法)
乾燥した混合物の形態の脂質膜構造体は、抗MT−MMPモノクローナル抗体以外の脂質膜構造体の構成成分の一部又は全部をいったんクロロホルム等の有機溶媒に溶解させ、次いで、抗MT−MMPモノクローナル抗体と、場合により脂質膜構造体の構成成分の残余とを添加した後に、エバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことによって製造することができる。
脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態は、抗MT−MMPモノクローナル抗体以外の構成成分の一部又は全部からなる上記の乾燥した混合物を水系溶媒に添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等により乳化し、次いで、抗MT−MMPモノクローナル抗体と、場合により脂質膜構造体の構成成分の残余とを添加することで製造することができる。また、乳化操作の代わりに、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法などによっても製造することができる。また、得られた脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態のものを通常の方法で、乾燥(凍結乾燥や噴霧乾燥)や凍結することができる。
本発明においては、薬効成分及び/又は遺伝子の送達の効率性から、上記(2)で示した製造方法で製した抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体が好ましい。抗MT−MMPモノクローナル抗体を脂質膜構造体の膜の表面に存在又は結合させる方法としては、公知の方法(STEALTH LIPOSOME,第233−244頁、CRC Press,Inc.発行,Danilo Lasic及びFrank Martin編)又はこれに準じた方法を挙げることができる。例えば、脂質膜構造体の構成成分として、抗MT−MMPモノクローナル抗体(例えば、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント又はFab’フラグメント等)中のメルカプト基と反応し得る脂質誘導体、具体的にはポリ(エチレングリコール)−α−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−ω−マレインイミド、α−[N−(1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォリル−エチル)カルバミル]−ω−{3−[2−(2,5−ジヒドロ−2,5−ジオキソ−1H−ピロール−1−イル)エタンカルボキサミド]プロピル}−ポリ(オキシ−1,2−エタンジル)等のマレインイミド構造を有する脂質誘導体を含有させることで、抗MT−MMPモノクローナル抗体を脂質膜構造体の膜の表面に存在又は結合させることができる。
抗MT−MMP抗体は、所望のMT−MMPの細胞外ドメイン領域及び/又は関連ペプチド断片などを認識可能な単一のモノクローナル抗体、あるいは各種エピトープに対する特異性を持つ2種以上のモノクローナル抗体を含む組成物であってもよい。また、1価抗体又は多価抗体のいずれでもよく、天然型(intact)分子又はそのフラグメント若しくは誘導体を用いてもよい。例えば、F(ab’)、Fab’及びFabといったフラグメントを用いてもよく、少なくとも二つの抗原又はエピトープ(epitope)結合部位を有するキメラ抗体若しくは雑種抗体、又は、例えば、クワドローム(quadrome),トリオーム(triome)などの二重特異性組換え抗体、種間雑種抗体、抗イディオタイプ抗体、さらには化学的に修飾あるいは加工などされてこれらの誘導体と考えられるものを用いることもできる。公知の細胞融合又はハイブリドーマ技術や抗体工学を適用し、合成あるいは半合成技術を使用して得られた抗体、抗体生成の観点から公知である従来技術を適用し、DNA組換え技術を用いて調製される抗体、MT−MMPあるいは標的エピトープに関して中和特性を有する抗体又は結合特性を有する抗体を用いてもよい。
MT−MMPを特異的に認識するモノクローナル抗体は任意の方法により産生することができる。「モノクローナル」とは、実質上均質な抗体の集団であることを意味しており、何らかの特定の方法によりその抗体が産生される必要があると限定的に解釈してはならない。個々のモノクローナル抗体は、自然に生じ得る変異体を僅かな量含む可能性があるが、実質的に同一の抗体の集団を含んでいる。上記のように、本発明で用いられるモノクローナル抗体は、ハイブリッド抗体及びリコンビナント抗体を含むが、それらは、所望の生物活性を有する限り、その由来、イムノグロブリンクラス、サブクラスの種別に関わりなく、可変領域ドメインを定常領域ドメインで置き換えたり(例えば、ヒト化抗体)、あるいは軽鎖を重鎖で置き換えたり、ある種の鎖を別の種の鎖でもって置き換えたり、あるいはヘテロジーニアスなタンパク質と融合することが可能である。このような修飾を施したモノクローナル抗体を本発明で用いることもできる。これらの技術については、例えば、米国特許第4816567号;Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,79−97,Marcel Dekker,Inc.,New York,1987;Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,6851−6855(1984)などに記載されている。
モノクローナル抗体を製造する好適な方法の例としては、ハイブリドーマ法(Kohler,G.and Milstein,C.,Nature,256,495−497(1975));ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbor et al.,Immunology Today,4,72−79(1983);Kozbor,J.Immunol.,133,3001(1984);Brodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,51−63,Marcel Dekker,Inc.,New York(1987);トリオーマ法;EBV−ハイブリドーマ法(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,77−96(1985))(ヒトモノクローナル抗体を産生するための方法);米国特許第4946778号(単鎖抗体の産生のための技術)が挙げられる。抗体に関しては、Biocca,S.et al.,EMBO J,9,101−108(1990);Bird,R.E.et al.,Science,242,423−426(1988);Boss,M.A.et al.,Nucl.Acids Res.,12,3791−3806(1984);Bukovsky,J.et al.,Hybridoma,6,219−228(1987);Daino,M.et al.,Anal.Biochem.,166,223−229(1987);Huston,J.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85,5879−5883(1988);Jones,P.T.et al.,Nature,321,522−525(1986);Langone,J.J.et al.(ed.),″Methods in Enzymology″,Vol.121(Immunochemical Techniques,Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies),Academic Press,New York(1986);Morrison,S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,6851−6855(1984);Oi,V.T.et al.,BioTechniques,4,214−221(1986);Riechmann,L.et al.,Nature,332,323−327(1988);Tramontano,A.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83,6736−6740(1986);Wood,C.et al.,Nature,314,446−449(1985);Nature,314,452−454(1985)あるいはそこで引用された文献(それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる)を挙げることができる。
本発明における抗MT−MMPモノクローナル抗体としては、MT−MMPを特異的に認識できるモノクローナル抗体であればいかなるものを用いてもよい。抗MT−MMPモノクローナル抗体の製造のために用いる抗原としてのMT−MMPとしては、従来、MT1−MMP、MT2−MMP、MT3−MMP、MT4−MMP、MT5−MMP、及びMT6−MMPの6種類が知られているが、抗MT−MMPモノクローナル抗体はこれらのうちの少なくとも1種、好ましくは1種のみを特異的に認識できることが必要である。また、上記の6種類のMT−MMP以外にも、MT−MMPに属する抗原が存在する可能性があるが、そのような抗原を認識できるモノクローナル抗体を用いることもできる。
抗MT−MMPモノクローナル抗体は、ミエローマ細胞を用いての細胞融合技術(Kohler,G.and Milstein,C.Nature,256,495−497(1975)など)を利用して得られたモノクローナル抗体を用いることができる。例えば、MT−MMPsのうちの少なくとも1種、好ましくは特定のMT−MMP又はその抗原決定基を含む断片を抗原として公知の方法で製造された抗MT1−MMPモノクローナル抗体、抗MT2−MMPモノクローナル抗体、抗MT3−MMPモノクローナル抗体、抗MT4−MMPモノクローナル抗体、抗MT5−MMPモノクローナル抗体、及び抗MT6−MMPモノクローナル抗体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の抗体を用いることができる。より好ましくは抗MT1−MMPモノクローナル抗体である。これらの抗体は、市販されているものもあり、容易に入手することができる。また、脂質膜構造体と結合させる抗MT−MMPモノクローナル抗体としては、好ましくは抗MT−MMPモノクローナル抗体のF(ab’)フラグメント、Fab’フラグメント、又はFabフラグメントを用いることができ、より好ましくはFab’フラグメントを用いることができる。また、ヒト化したFab’フラグメントが好ましい。抗MT−MMPモノクローナル抗体の配合量は、脂質膜構造体の脂質総量に対してモル比が1:0.00001〜1:0.25が好ましく、1:0.0001〜1:0.2がより好ましく、1:0.0001〜1:0.01がさらに好ましい。また、脂質膜構造体中にマレインイミド構造を有する脂質誘導体が含まれる場合には、マレインイミド基に対してモル比(抗体:マレインイミド基)が1:0.01〜1:20であることが好ましく、1:0.25〜1:4.5がより好ましく、1:1〜1:3がさらに好ましい。上述の範囲は一例と示したのみであり、必ずしもこの範囲に限定されるべきものではない。
本発明の抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体がその優れた効果を示すには、該脂質膜構造体が凝集しないこと、及び血中滞留性を有することが望ましい。凝集を防止するためには、抗MT−MMPモノクローナル抗体の配合量及び/又は抗MT−MMPモノクローナル抗体を脂質膜構造体の膜の表面に存在又は結合させるための脂質誘導体(例えば、マレインイミド構造を有する脂質誘導体)の含有量を適宜検討すればよい。なお、脂質膜構造体中にマレインイミド構造を有する脂質誘導体を含む場合の当該脂質誘導体の配合量は、上述したとおりである。
抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体と薬効成分及び/又は遺伝子とを含有する本発明の医薬組成物では、抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体に含まれる抗MT−MMPモノクローナル抗体がMT−MMPと特異的かつ選択的に反応する。MT−MMPは、ある種の腫瘍細胞において発現していることが知られており、また、血管新生に関与することが知られている。しかし、MT−MMPが新生血管において発現しているか否かについては、よく分かっていなかった。本発明の医薬組成物をヒト等の動物や実験用細胞に投与すると、薬効成分及び/又は遺伝子を効率的に該腫瘍細胞に送達することができる。MT−MMPが発現している腫瘍細胞としては、例えば、線維肉腫、扁平上皮癌、神経芽細胞腫、乳癌、胃癌、肝細胞癌、膀胱癌、甲状腺腫瘍、尿路上皮癌、グリア芽細胞腫、急性骨髄性白血病、膵管癌及び前立腺癌等の細胞を挙げることができるが、これらの細胞に限定されることはない。また、この医薬組成物をヒト等の動物や実験用細胞に投与すると、腫瘍内部における血管新生先端部位に薬効成分及び/又は遺伝子を効率的に送達することができる。腫瘍内部における血管新生先端部位としては、ruffling edgeの内皮細胞(endothelial cells)などを挙げることができるが、これに限定されることはない。
本発明の医薬組成物は、抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体と薬効成分及び/又は遺伝子を含有するものであるが、その形態は特に限定されることはない。例えば、上記の脂質膜構造体と薬効成分及び/又は遺伝子とが単に混合された形態のほか、上記の脂質膜構造体に薬効成分及び/又は遺伝子が保持された形態でもよい。「保持」とは、薬効成分及び/又は遺伝子が、上記の脂質膜構造体の脂質膜の中、表面、内部、脂質層中、及び/又は脂質層の表面に存在することを意味する。ヒト等の動物に投与することを考慮すると、本発明の医薬組成物は、上記脂質膜構造体に薬効成分及び/又は遺伝子が保持された形態が好ましい。本発明の医薬組成物において、薬効成分及び/又は遺伝子の量は特に限定されず、そ(れら)の薬効を生体(細胞)内で有効に発揮させるのに充分な量であればよい。薬効成分及び/又は遺伝子の種類も特に限定されず、治療及び/又は予防すべき疾患の種類、治療又は予防の目的、脂質膜構造体の形態などにより適宜決定すればよい。
本発明の医薬組成物中に含まれる薬効成分の種類は特に限定されるべきものではないが、例えば、抗腫瘍剤、免疫賦活剤、抗腫瘍効果を有するサイトカイン、造影剤等を挙げることができる。抗腫瘍剤としては、例えば、塩酸イリノテカン、塩酸ノギテカン、エキサテカン、RFS−2000、Lurtotecan、BNP−1350、Bay−383441、PNU−166148、IDEC−132、BN−80915、DB−38、DB−81、DB−90、DB−91、CKD−620、T−0128、ST−1480、ST−1481、DRF−1042、DE−310等のカンプトテシン誘導体、ドセタキセル水和物、パクリタキセル、IND−5109、BMS−184476、BMS−188797、T−3782、TAX−1011、SB−RA−31012、SBT−1514、DJ−927等のタキサン誘導体、イホスファミド、塩酸ニムスチン、カルボコン、シクロホスファミド、ダカルバジン、チオテパ、ブスルファン、メルファラン、ラニムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、6−メルカプトプリンリボシド、エノシタビン、塩酸ゲムシタビン、カルモフール、シタラビン、シタラビンオクホスファート、テガフール、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン、リン酸フルダラビン、アクチノマイシンD、塩酸アクラルビシン、塩酸イダルビシン、塩酸エビルビシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸ブレオマイシン、ジノスタチンスチマラマー、ネオカルチノスタチン、マイトマイシンC、硫酸プレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、エトポシド、酒石酸ビノレルビン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、硫酸ビンブラスチン、塩酸アムルビシン、ゲフィニチブ、エキセメスタン、カペシタビン、TNP−470、TAK−165、KW−2401、KW−2170、KW−2871、KT−5555、KT−8391、TZT−1027、S−3304、CS−682、YM−511、YM−598、TAT−59、TAS−101、TAS−102、TA−106、FK−228、FK−317、E7070、E7389、KRN−700、KRN−5500、J−107088、HMN−214、SM−11355、ZD−0473等を挙げることができ、造影剤としては、例えば、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、アミドトリゾ酸メグルミン、イオキサグル酸、イオキシラン、イオジキサノール、イオラクタム酸ナトリウム、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオパノ酸、イオパミドール、イオプロミド、イオヘキソール、イオベルソール、イオメプロール等を挙げることができる。
また、本発明の医薬組成物中に含まれる遺伝子としては、オリゴヌクレオチド、DNA、又はRNAのいずれでもよく、特に形質転換等のイン・ビトロにおける導入用遺伝子や、イン・ビボで発現することにより作用する遺伝子、例えば、遺伝子治療用遺伝子等を挙げることができる。遺伝子治療用遺伝子としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、酵素、サイトカイン等の生理活性物質をコードする遺伝子等を挙げることができ、これらのうち遺伝子産物が抗腫瘍効果を有する遺伝子が好ましい。
本発明の医薬組成物において、遺伝子を含む場合、細胞へ遺伝子を効率的に導入するために、抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体の構成成分として、遺伝子導入機能を有する化合物を加えることが好ましい。このような化合物としては、O,O’−N−ジドデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド、O,O’−N−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド、O,O’−N−ジヘキサデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド、O,O’−N−ジオクタデセノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジエタノールアミンクロリド、O,O’,O’’−トリデカノイル−N−(ω−トリメチルアンモニオデカノイル)アミノメタンブロミド及びN−[α−トリメチルアンモニオアセチル]−ジドデシル−D−グルタメート、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート、1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド、3−β−[N−(N’,N’,−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール等を挙げることができる。これらの遺伝子導入機能を有する化合物は、脂質膜構造体の膜の中、表面、内部、脂質層中及び/又は脂質層の表面に存在(結合)している形態が好ましい。
本発明の医薬組成物は、脂質膜構造体に薬効成分及び/又は遺伝子を添加することにより製造することができ、MT−MMPが関わる種々の疾病、好ましくは腫瘍や癌の治療及び/又は予防のための医薬組成物として用いることができる。遺伝子を含む場合には、遺伝子導入用キットとしても用いることができる。本発明の医薬組成物の存在形態及びその製造方法は特に限定されず、上記の脂質膜構造体と同様の形態として調製することが可能である。例えば、形態としては、混合乾燥物形態、水系溶媒に分散した形態、さらにこれを乾燥させた形態や凍結させた形態を挙げることができる。
混合乾燥物形態は、例えば、抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体の構成成分と薬効成分及び/又は遺伝子とを一旦クロロホルム等の有機溶媒で溶解させ、次にこれをエバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことにより製造することができる。水系溶媒に分散した形態としては、多重層リポソーム、一枚膜リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定形の層状構造物などを挙げることができるが、特に限定されるべきものではない。混合物としての大きさ(粒子径)や水系溶媒の組成なども特に限定されることはないが、例えばリポソームの場合には50nm〜5μm、50〜400nmが好ましく、50〜200nmが好ましく、50〜150nmのものがより好ましい。球状ミセルの場合は5〜100nm、エマルジョンを形成する場合は50nm〜5μmである。なお、粒子径は、準弾性光散乱法による重量平均粒子径を意味するものである。混合物としての水系溶媒における濃度も特に限定されることはない。なお、脂質膜構造体と薬効成分及び/又は遺伝子とを含む混合物が水系溶媒に分散した形態の製造方法としてはいくつかの方法が知られており、抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体と薬効成分及び/又は遺伝子との混合物の存在様式に応じて、下記のように適当な製造方法を選択することができる。
製造方法1
上述の混合乾燥物に水系溶媒を添加し、さらにホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等による乳化を行い製造する方法である。大きさ(粒子径)を制御する場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。この方法の場合、まず抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体の構成成分と薬効成分及び/又は遺伝子との混合乾燥物を作るために、抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体、薬効成分及び/又は遺伝子を有機溶媒に溶解する必要があるが、薬効成分及び/又は遺伝子と脂質膜構造体の構成成分との相互作用を最大限に利用できる長所がある。すなわち、脂質膜構造体が層状構造を有する場合にも、薬効成分及び/又は遺伝子は多重層の内部にまで入り込むことが可能であり、この製造方法を用いると薬効成分及び/又は遺伝子の脂質膜構造体への保持率を高くできる長所がある。
製造方法2
抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体の構成成分を有機溶媒で一旦溶解後、有機溶媒を留去した乾燥物に、さらに薬効成分及び/又は遺伝子を含む水系溶媒を添加して乳化を行い製造する方法である。大きさ(粒子径)を制御する場合には、さらに孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。有機溶媒には溶解しにくいが、水系溶媒には溶解し得る薬効成分及び/又は遺伝子に適用できる。脂質膜構造体がリポソームの場合、内水相部分にも薬効成分及び/又は遺伝子を保持できる長所がある。
製造方法3
水系溶媒に既に分散したリポソーム、エマルション、ミセル、又は層状構造物などの抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体に、さらに薬効成分及び/又は遺伝子を含む水系溶媒を添加して製造する方法である。対象となる薬効成分及び/又は遺伝子としては、水溶性のものを利用できる。既にでき上がっている脂質膜構造体に外部から薬効成分及び/又は遺伝子を添加する方法であることから、薬効成分及び/又は遺伝子が高分子の場合には、薬効成分及び/又は遺伝子は脂質膜構造体内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に存在(結合)した存在様式をとる可能性がある。脂質膜構造体としてリポソームを用いた場合、この製造方法3を用いると、薬効成分及び/又は遺伝子がリポソーム粒子同士の間に挟まったサンドイッチ構造(一般的には複合体あるいはコンプレックスと呼ばれている。)を形成することが知られている。この製造方法では、脂質膜構造体単独の水分散液をあらかじめ製造するため、乳化時における薬効成分及び/又は遺伝子の分解等を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御もし易い。したがって、製造方法1や製造方法2に比べて比較的容易に製造することができる。
製造方法4
水系溶媒に分散した抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体を製造して乾燥することにより得られた乾燥物に、さらに薬効成分及び/又は遺伝子を含む水系溶媒を添加して製造する方法である。製造方法3と同様に対象となる薬効成分及び/又は遺伝子としては、水溶性のものを利用できる。製造方法3との相違点は、脂質膜構造体と薬効成分及び/又は遺伝子との存在様式にあり、この製造方法4では、水系溶媒に分散した脂質膜構造体を一旦製造した上でさらに乾燥させた乾燥物を製造することから、この段階で脂質膜構造体は脂質膜の断片として固体状態で存在する。この脂質膜の断片を固体状態に存在させるためには、前記したように水系溶媒に、さらに糖(水溶液)、好ましくはショ糖(水溶液)や乳糖(水溶液)を添加した溶媒を用いることが好ましい。ここで、薬効成分及び/又は遺伝子を含む水系溶媒を添加すると、固体状態で存在していた脂質膜の断片は水の侵入とともに速やかに水和し始め、脂質膜構造体を再構築することができる。この時、薬効成分及び/又は遺伝子が脂質膜構造体内部に保持された形態の構造体が製造できる。
製造方法3では、薬効成分及び/又は遺伝子が高分子の場合には、薬効成分及び/又は遺伝子は脂質膜構造体内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に結合した存在様式をとるが、製造方法4はこの点で大きく異なる。すなわち、この製造方法4は、脂質膜構造体単独の分散液をあらかじめ製造するため、乳化時の薬効成分及び/又は遺伝子の分解を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御もし易い。従って、製造方法1や製造方法2に比べて比較的製造が容易である。また、この他に、一旦凍結乾燥又は噴霧乾燥を行うため、製剤(医薬組成物)としての保存安定性を保証し易く、乾燥製剤を薬効成分及び/又は遺伝子の水溶液で再水和しても大きさ(粒子径)を元に戻せること、高分子の薬効成分及び/又は遺伝子であっても、脂質膜構造体内部に薬効成分及び/又は遺伝子を保持させ易いことなどの長所がある。
脂質膜構造体と薬効成分及び/又は遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した形態を製造するための他の方法としては、リポソームを製造する方法としてよく知られた方法、例えば逆相蒸発法などを採用できる。大きさ(粒子径)を制御する場合には、孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。また、上記の脂質膜構造体と薬効成分及び/又は遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに乾燥させる方法としては、凍結乾燥や噴霧乾燥等を挙げることができる。この時の水系溶媒としては、上述の糖(水溶液)、好ましくはショ糖(水溶液)や乳糖(水溶液)を添加した溶媒を用いることが好ましい。脂質膜構造体と薬効成分及び/又は遺伝子との混合物が水系溶媒に分散した分散液をさらに凍結させる方法としては、通常の凍結方法が挙げられるが、この場合の水系溶媒としては、糖(水溶液)や多価アルコール(水溶液)を添加した溶媒を用いるのが好ましい。
製造方法5
上記の製造方法1〜4に準じて、抗MT−MMPモノクローナル抗体以外の脂質膜構造体の構成成分(抗MT−MMPモノクローナル抗体(好ましくは、抗体のFabフラグメント、F(ab’)フラグメント又はFab’フラグメント等)中のメルカプト基と反応し得る脂質誘導体を含む)と薬効成分及び/又は遺伝子とを用いて脂質膜構造体を製造し、次いで、抗MT−MMPモノクローナル抗体を添加することで、抗MT−MMPモノクローナル抗体が脂質膜構造体の膜の表面に存在(結合)する形態の組成物を製造することができる。
製造方法6
上記の製造方法1〜4に準じて、抗MT−MMPモノクローナル抗体、及び抗MT−MMPモノクローナル抗体(好ましくは、抗体のFabフラグメント、F(ab’)フラグメント又はFab’フラグメント等)中のメルカプト基と反応し得る脂質誘導体以外の脂質膜構造体の構成成分と薬効成分及び/又は遺伝子とを用いて脂質膜構造体を製造し、次いで、抗MT−MMPモノクローナル抗体及び抗MT−MMPモノクローナル抗体中のメルカプト基と反応し得る脂質膜誘導体を添加することで、抗MT−MMPモノクローナル抗体が脂質膜構造体の膜の表面に存在(結合)する形態の組成物を製造することができる。
本発明の医薬組成物において配合し得る脂質は、使用する薬効成分及び/又は遺伝子の種類などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、薬効成分を用いる場合には、薬効成分1質量部に対して、総脂質として0.1〜1000質量部が好ましく、0.5〜200質量部がより好ましい。また、遺伝子を用いる場合には、遺伝子1μgに対して、総脂質として1から500nmolが好ましく、10から200nmolがより好ましい。
本発明の脂質膜構造体を含む医薬組成物の投与方法は特に限定されず、経口投与又は非経口投与のいずれも選択可能である。経口投与の剤形としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、カプセル剤、内服液剤等を挙げることができ、非経口投与の剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、点眼剤、軟膏剤、座剤、懸濁剤、パップ剤、ローション剤、エアゾール剤、プラスター剤等を挙げることができる。これらのうち注射剤又は点滴剤が好ましく、投与方法としては、静脈注射、動脈注射、皮下注射、皮内注射などのほか、標的とする細胞や臓器に対しての局所注射を挙げることができる。
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
実施例1:抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームの測定
1.抗体不含リポソームの調製
表1に示す4処方のリポソームを調製した。全ての処方において、リポソームマーカーとして、蛍光脂質(2−(6−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ)ヘキサノイル−1−ヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスフォコリン:NBD−C−HPC)を添加した。
空リポソームの癌細胞への吸着(in vitro)や移行(in vivo)を確認するための抗癌剤(ドキソルビシン:DOX)未封入群(処方1、2)と薬理実験のための抗癌剤封入群(処方3、4)とに分け、各々抗体結合脂質(ポリ(エチレングリコール)−α−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−m−マレインイミド:DSPE−PEG−MAL)を含まない、ネガティブコントロールサンプル(処方1、3)を対照として調製した。
水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、コレステロール(Chol)を秤取し、クロロホルム・メタノール混液(3:1)適当量に溶解させた後、5mg/mlでメタノールに溶解させたNBD−C−HPCを添加した。エバポレーターにより有機溶媒を留去し、更に1時間減圧乾固させた。この脂質乾燥物(リピドフィルム)に、予め65℃に加温しておいた155mM硫酸アンモニウム水溶液(pH5.5)を加え、ボルテックスミキサーにて軽く撹拌した(ナスフラスコから脂質が剥がれる程度まで)。この時点において、蛍光脂質を含めた各脂質濃度は、HSPC 28.2mM、Chol 19.2mM、NBD−C−HPC 0.2mg/mLとなるように調製した。次に、この脂質分散液をホモジナイザーに移して、10strokeホモジナイズした後、種々孔径のポリカーボネートメンブレンフィルターを用いてサイジング(0.2μm×2回、0.1μm×2回、0.05μm×2回)を行い、粒子径100nm前後の空リポソーム分散液を調製した。
この空リポソーム分散液を生理食塩水で5倍希釈し、超遠心用チューブに入れ、65000rpmで1時間遠心分離した後、上清を捨て生理食塩水で希釈前のリポソーム分散液量になるように再懸濁させた。このように外水相を生理食塩水に置換した空リポソーム分散液を、空リポソーム用と薬物封入用との2群に分けた。
次に薬物封入方法を示す。空リポソーム分散液及びDOX溶液(薬物濃度:3.3mg/ml生理食塩水)は、予め65℃に加温しておき、容量比で空リポソーム分散液4に対しDOX溶液6を加えた後(即ち、最終薬物濃度は2.0mg/ml)、1時間65℃でインキュベートした。
空リポソーム群及び薬物封入リポソーム群を各々二分し、一方に対しては、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−2000}−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン(DSPE−PEG)のみを表1に示す膜組成となるよう添加し(処方1、3)、もう一方に対しては、DSPE−PEG及びDSPE−PEG−MALを表1に示す膜組成となるよう添加した(処方2、4)。これらは、各々粉末状態で添加し、10分間65℃でインキュベートした。
2.リポソームの物性の測定
(1)ドキソルビシンのリポソームへの保持率
上記リポソーム分散液(処方3、4)の一部を取ってゲル濾過(セファデックスG−50;移動相は生理食塩水)を行い、ボイドボリュームに溶出したリポソーム分画中のドキソルビシンを蛍光検出器にて定量することにより求めた。各処方の薬物封入率は、ほぼ100%であった。
(2)粒子径
上記リポソーム分散液(処方1〜4)の一部を取って準弾性光散乱(QELS)法にて粒子径を測定した結果、いずれもほぼ100nm前後であった。また、抗体を付加したリポソームについても確認した結果、その粒子径はほぼ100nm前後であった。

以下に、実施例2以降に用いる略語の意味を示す。
Fab’−DOX−LP:抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合抗癌剤封入リポソーム
Fab’−LP:抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソーム
DOX−LP:抗癌剤封入リポソーム(マレインイミド基非導入リポソーム)
LP:リポソーム(マレインイミド基非導入リポソーム)
DOX−LP−mal:マレインイミド基導入抗癌剤封入リポソーム
LP−mal:マレインイミド基導入リポソーム
実施例2:抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームの調製
1)IgGの生産と精製
WO 02/041000 A1記載の方法にしたがって得た抗MT1−MMPモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞を5%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地で培養し、1.0×10個の細胞を得た。細胞を培地で1.0×10個/0.5mlに懸濁し、予め1週間前にプリスタンを腹腔内投与したマウス(Balb/c系、雌、6週令)に腹腔内投与した。7日目及び9日目に10匹のマウスより腹水採取を行い18mlの腹水を得た。
得られた腹水を遠心して、不溶物、沈殿物を取り除き、固形硫酸アンモニウムを40%飽和となるように徐々に添加した。添加後、2時間攪拌を継続した。遠心で沈殿物を回収し、少量の0.5M NaCl含有1.5Mグリシン−NaOH緩衝液(pH8.9)で溶解した。これを透析チューブにとり、0.5M NaCl含有1.5Mグリシン−NaOH緩衝液(pH8.9)に透析した。透析後、遠心で沈殿物を取り除き、体積とA280を測定して含有するタンパク質量を140mg/12.5mlと見積もった。
遠心上清を0.5M NaCl含有1.5Mグリシン−NaOH緩衝液(pH8.9)で平衡化したリコンビナントプロテインAセファロースFFゲルカラム(直径2.5cm×長さ5.9cm)に供し、0.5M NaCl含有1.5Mグリシン−NaOH緩衝液(pH8.9)で洗浄した。カラムを通過した遠心上清、洗浄液を4mlづつ分画し、フラクション番号1から23番までのA280を測定した。A280が0.05以下になったことを確認した後、0.1Mクエン酸緩衝液(pH5.0)で吸着タンパク質の溶出を行った。溶出液は、予め0.5mlの3M Tris−HCl緩衝液(pH7.5)を添加した試験管に4mlづつ分画し、フラクション番号26から41番までのA280を継続して測定した。第1図はIgGのアフィニティー精製の様子を示したものである。IgGとしてフラクション番号29から36番を回収、プールした。得られたIgG画分を透析チューブにとり、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)に透析した。Ultra Filter UK−50を用いて透析画分を濃縮した。濃縮画分のA280測定からIgG画分を62mg/6mlと見積もった。IgG濃度を10mg/mlに調整し、1mlづつに分けて凍結保存した。
2)IgGのFab’断片化
上記1)で精製し、10mg/mlに調整した精製IgGを1mlとり、0.1M NaCl含有0.1M酢酸ソーダ緩衝液(pH4.2)で透析、抗体量の2%(w/w)のペプシンを加え、37℃で20時間消化した。消化物に3M Tris−HCl緩衝液(pH7.5)を0.2ml添加し、反応を停止した。消化物の全量を0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したウルトロゲルAcA44ゲル濾過カラム(直径1.5cm×長さ47cm)に供し、1mlづつ分画しフラクション番号11から30番までのA280を測定した。第2図はF(ab’)画分のゲル濾過の様子を示したものである。F(ab’)画分としてフラクション番号13から18番を回収、プールした。得られたF(ab’)画分をCentricon−30で0.46mlに濃縮した。濃縮画分のA280を測定し、得られたF(ab’)を3.4mgと見積もった。
得られたF(ab’)を0.1Mリン酸緩衝液(pH6.0)で0.9mlに調整し、0.1mlの0.1Mシステアミン塩酸塩を添加(最終濃度0.01M)、37℃で1.5時間還元した。これを5mM EDTA含有PBSで平衡化したウルトロゲルAcA44ゲル濾過カラム(直径1.5cm×長さ47cm)に供し、1mlづつ分画しフラクション番号11から30番までのA280を測定した。第3図はFab’画分のゲル濾過の様子を示したものである。Fab’画分としてフラクション番号19から23番を回収、プールした。得られたFab’画分をCentricon−30で0.56mlに濃縮した。濃縮画分のA280を測定し、得られたFab’を1.5mgと見積もった。
3)抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームの調製(調製例▲1▼〜▲7▼)
上記2)で作製したFab’画分(1.96mg/0.37ml)に表1の処方4のマレインイミド基導入抗癌剤(ドキソルビシン(DOX))封入リポソーム(DOX−LP−mal)(マレインイミド濃度:104nmol/ml)をマレインイミドモル比が1:1となるように0.41ml加えて混合した。低温室で遮光下、20時間反応させた後、Fab’の10倍モル量のN−エチルマレインイミド(0.1M水溶液を4.26μl添加)で未反応のメルカプト基をブロックした。これをPBSで平衡化したセファロースCL−4Bカラム(直径1.5cm×長さ47cm)に供し、2mlづつ分画しフラクション番号11から42番までのA280(タンパク濃度を反映)を、11から20番までのA610(濁度すなわち脂質濃度を反映)を測定した。第4図はこのときのゲル濾過溶出の様子を示したものである。抗MT1−MMP抗体結合抗癌剤封入リポソーム(Fab’−DOX−LP)画分としてフラクション番号13から14番を回収、プールし、Fab’−DOX−LP(調製例▲1▼(DOXを基準に測定した時の希釈率10%)を得た。未反応Fab’は、フラクション番号29から35番に溶出し、リポソーム画分と未反応Fab’画分がゲル濾過にて分離されたことを確認した。
同様な方法で、Fab’−DOX−LP(調製例▲2▼(DOXを基準に測定した時の希釈率9.2%)、調製例▲3▼(DOXを基準に測定した時の希釈率12%)及び調整例▲4▼(DOXを基準に測定した時の希釈率3.9%)を調製した。また、表1の処方2のマレインイミド基導入リポソーム(LP−mal)(マレインイミド濃度:260nmol/ml)より、抗癌剤を封入しない抗MT1−MMP抗体結合リポソーム(Fab’−LP)(調製例▲5▼(HSPCを基準にした時の希釈率3.7%)、調製例▲6▼(HSPCを基準にした時の希釈率4.4%)、及び調製例▲7▼(HSPCを基準にした時の希釈率2.1%)を上記と同様の方法で調製した。
なお、調製例のリポソーム原料からの希釈割合は、前記抗体結合後のゲル濾過時のA610値より算出した抗体結合リポソームとしてプールした画分のA610積算値/ボイド画分のA610積算値に各原料仕込みボリューム/調製例ボリュームを乗じて算出した。また、抗MT1−MMP抗体結合リポソームのリン脂質濃度は、表1の処方2のLP−mal若しくは表1の処方4のDOX−LP−malのリン脂質濃度(リン脂質B−テストワコー(和光純薬工業)にて測定し、DOX単体による測定系への影響分を差し引いた。)に、上記希釈率を乗じて算出した。
また、以後の試験例において抗体を結合しないリポソームとして使用したリポソーム(マレインイミド基非導入リポソーム)(LP)若しくは抗癌剤封入リポソーム(マレインイミド基非導入リポソーム)(DOX−LP)については、上記と同様に表1の処方1若しくは表1の処方3のマレインイミド基非導入リポソームのリン脂質濃度を測定し、対応する抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームのリン脂質濃度に合わせてPBSで希釈し使用した。
実施例3:抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームの調製(調製例▲8▼)
Fab’画分とマレインイミド基導入リポソームのマレインイミドモル比を1:3となるようにした以外は、実施例2と同様の方法で、表1処方4のDOX−LP−mal(マレインイミド濃度:100nmol/ml)よりFab’−DOX−LP(調製例▲8▼(DOXを基準に測定した時の希釈率14%)を得た。第5図はこのときのゲル濾過溶出の様子を示したものである。Fab’−DOX−LP画分はフラクション番号14から15番に溶出し、フラクション番号29から35番に溶出する未反応Fab’量が前記実施例2と比較し減少した。
実施例4:抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームの調製(調製例▲9▼及び(10))
Fab’画分とマレインイミド基導入リポソームのマレインイミドモル比を1:0.25、1:1.6、1:2及び1:4.5とした以外は、実施例2と同様の方法でFab’−LP及びFab’−DOX−LPを得た。表1の処方2のLP−malよりマレインイミドモル比を1:1.6として作製されたFab’−LP(HSPCを基準にした時の希釈率6.0%)を調製例▲9▼、表1の処方4のDOX−LP−malよりマレインイミドモル比を1:2として作製されたFab’−DOX−LP(DOXを基準に測定した時の希釈率21%)を調製例(10)とした。
試験例1:リポソームへの抗MT1−MMPモノクローナル抗体の結合の確認
表1の処方2のLP−mal、表1の処方4のDOX−LP−mal、実施例2及び4にて作製したFab’−DOX−LP(調製例▲2▼、▲3▼及び(10))並びにFab’−LP(調製例▲6▼、▲7▼及び▲9▼)を6xSDS−PAGE Sample buffer(還元)にてリン脂質濃度が約3μg/laneとなるように希釈し、95℃で5分間置いた後、SDS−PAGE(「マルチゲル4/20」、第一化学薬品)に供した。Fab’−DOX−LP又はFab’−LPを供したレーン1〜6には約30kDaのFab’バンドが認められた。一方、LP−mal又はDOX−LP−malを供したレーン7及び8では認められなかった。全ての抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームに抗MT1−MMPモノクローナル抗体が結合していることが確認された(第6図)。
試験例2:抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームのin vitro細胞接合性評価
1)細胞増殖抑制試験
培地:DMEM(SIGMA)に、ペニシリンGカリウム(SIGMA)、硫酸ストレプトマイシン(SIGMA)を各50U/ml、50μg/mlの濃度になるように加え、さらに非働化したウシ胎児血清(Gibco)を10%(v/v)の濃度になるように加えた。subconfluentのヒト繊維肉腫細胞HT1080若しくはヒト乳癌細胞MCF−7を0.5mM EDTA/PBSにて2回洗浄後、少量残した0.5mM EDTA/PBSをなじませ、約5分間静置することにより細胞を剥離した。培地を適当量加え細胞を懸濁後、室温下1000r.p.m、3分間遠心した。上清を吸引後、1〜2mlの培地に懸濁した細胞懸濁液の一部に等量のトリパンブルー溶液を加え染色後、血球計数板にてカウントした。必要な細胞密度となるように培地を加え希釈した。
この細胞懸濁液を96穴マイクロプレートに50μl/well添加し、37℃、COインキュベーターにて約24時間培養し、細胞をプレートに接着させた。一方、DOX−LP(表1処方3)及びFab’−DOX−LP(調製例▲2▼及び▲3▼)を必要なリン脂質濃度となるように培地にて希釈しサンプルとした。このサンプルを先の細胞に50μl/well添加し、さらに1時間培養した。未反応サンプルを除去する目的で、培地を吸引除去後、PBSを200μl/well添加し、細胞を洗浄した。洗浄操作は2回繰り返した。洗浄後直ちに新たな培地を100μl/well添加し、さらに24時間培養し、以下のCell Counting assayを行った。一部のプレート(start値確認用)は、洗浄後の24時間の培養を行わず、培地添加後直ちにCell Counting assayを行った。
Cell Counting assay:「Cell Counting Kit」(和光純薬工業)の添付文書に従い調製しフィルター濾過滅菌したWST−1溶液を10μl/well添加し、攪拌後さらに4時間培養した後、A450を測定した。このA450値は、生細胞数に比例し上昇する。
試験群は、Blank(培地のみ)、Control(細胞に培地を添加)及び各Sample(細胞にDOX−LP又はFab’−DOX−LPを添加)群を設定し、各群n=4にて試験した。各サンプルのリン脂質濃度(Lipid concn.(μg/ml))は、細胞にサンプルを添加した時の濃度を記した。細胞増殖抑制率(Inhibition)は、以下の式に各試験群のA450の平均値を代入して算出した。
Inhbition=1−{(Sample at 24hr−Blank at 24hr)−(Control at start−Blank at start)}/{(Control at 24hr−Blank at 24hr)−(Control at start−Blank at start)}(%)
有意差検定は、バートレットの等分散検定にて各群が等分散であることを確認後、Tukeyタイプ多重比較検定を行い、DOX−LP群とFab’−DOX−LP群間の有意差を検定した。
start値にDOX−LP若しくはFab’−DOX−LPの影響は認められなかった(第7図及び第8図)。
一方、細胞洗浄後24時間培養においては、HT1080細胞の場合、Fab’−DOX−LP群は、DOX−LP群より有意に低い吸光度を示し、抗MT1−MMPモノクローナル抗体を結合させることにより細胞増殖をより強く抑制することが確認され(第7図)、その細胞増殖の抑制作用は用量依存的であった(第8図)。また、MT1−MMPを発現しないMCF−7細胞の場合、抗体結合の有無による顕著な差は認められなかった(第7図及び第8図)。抗MT1−MMPモノクローナル抗体を結合している抗癌剤封入リポソームのみがMT1−MMPを発現しているHT1080細胞の細胞増殖を用量依存的に抑制することが確認された。

2)蛍光抗体法
前記1)の試験と同様に継代した約1.5x10cell/mlのHT1080細胞懸濁液をチェンバースライド(NUNC)に1ml/wellずつ添加し、一晩培養した。培養上清を吸引除去後、チェンバーとスライドを分離し、PBSを満たした洗浄瓶にスライドを入れ、7回タッピングし、非接着細胞を除去した。このスライドを湿潤箱に静置し、LP(表1の処方1を調製例▲7▼のリン脂質濃度に合わせてPBSにて希釈したもの)或いはFab’−LP(調製例▲7▼)を20μl/wellずつ添加し、低温室にて遮光下約1時間反応させた。反応後、未反応のリポソームサンプルを除去するために、PBS洗浄(15回タッピング)を行い、直ちに落射蛍光顕微鏡装置(オリンパス)にて観察し、冷却CCDカメラ(キーエンス)にて撮影した。Fab’−LPをリポソームサンプルとした場合には、ほとんどすべての細胞(主として細胞膜)に強い緑色の蛍光が認められた。一方、同抗体を結合しないLPの場合は蛍光が認められなかった。抗MT1−MMPモノクローナル抗体を結合しているリポソームのみがMT1−MMPを発現しているHT1080細胞の細胞膜上に接合することが確認された。
試験例3:抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームのin vivo細胞接合性評価(腹膜播種モデル)
1)in vivo細胞接着試験
Balb−c nu/nuマウス(メス、6週令)にHT1080細胞を1×10個/マウス腹腔内投与後、14日目にLP(表1の処方1を調製例▲5▼のリン脂質濃度に合わせてPBSにて希釈した)或いはFab’−LP(調製例▲5▼)を50μl/マウス腹腔内投与した。2日後、腹膜腫瘍を摘出し、その割面を蛍光顕微鏡冷却CCDカメラで観察した。腫瘍表層には、LP或いはFab’−LP投与マウスのいずれにおいてもリポソームの接着(蛍光シグナル)を認めた。腫瘍内部においては、Fab’−LP投与マウスのみにおいてリポソームの接着(蛍光シグナル)を認めた(第9図)。
2)in vivo細胞毒性試験
Balb−c nu/nuマウス(メス、6週令)にHT1080細胞を1×10個/マウス腹腔内投与後、21日目にDOX−LP(表1の処方3を調製例▲4▼のリン脂質濃度に合わせてPBSにて希釈した)又はFab’−DOX−LP(調製例▲4▼)を50μl/マウス腹腔内投与した。対照としてリポソームの代わりにPBSを使用した。7日後、腹膜腫瘍を摘出し、その割面を肉眼で観察した。また、その病理像をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色により観察した。HE染色は通常の方法に従い、以下のように行った。ホルマリン固定後パラフィン包埋し、ミクロトームにて薄切した切片をキシレンにて脱パラフィンし(65℃、5分×3系列に浸漬)、アルコール系列にて脱水(100%エタノールに5分×3系列浸漬後、95%エタノールに5分間浸漬)後、2〜5分間ヘマトキシリン液に浸漬、水道水にて5〜10分間水洗し発色後、95%エタノールに5分間浸漬し、10〜30秒間エオジン液に浸漬した。染色後、アルコール系列にて脱水(100%エタノールに5分×3系列浸漬)後、キシレンにて透徹し(5分×3系列浸漬)、マウントし、HE染色標本とした。
腫瘍表層と割面の肉眼所見においては、対照に比べてDOX−LP又はFab’−DOX−LP投与マウスにおいて広く充実性腫瘍の表層に出血壊死部が認められた。またFab’−DOX−LP投与マウスでは、内部にも出血班が点在した。HE染色による各腫瘍の病理像は、対照において血管を伴った充実性、髄様の腫瘍細胞を認めた。DOX−LP投与マウスにおいて表層部に出血性壊死部を認めるが深部腫瘍組織は対照と変わらず健常な腫瘍組織を形成していた。他方、Fab’−DOX−LP投与マウスにおいては、肉眼所見では、DOX−LP投与マウスの腫瘍に比べ、腫瘍表面の凹凸不正が非常に著しく、腫瘍組織そのものが脆かった。さらに病理学的には、表層に続く壊死巣は深部へ広がり、斑状の壊死部が深部腫瘍内に散見された。
試験例4:抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームのin vivo細胞接合性評価(皮下腫瘍モデル)
1)in vivo細胞毒性試験
Balb−c nu/nuマウス(メス、6週令)背部の左右2箇所にHT1080細胞を1×10個/マウス皮下投与後、投与部位(左右2箇所)に腫瘍形成を確認し10日目にDOX−LP(表1処方3を調製例▲8▼のリン脂質濃度に合わせてPBSにて希釈したもの)或いはFab’−DOX−LP(調製例▲8▼)を25μl腫瘍形成部位(右)皮下及び尾静脈投与した。右側の腫瘍は皮下(局所)投与したリポソームの効果が反映された腫瘍、左側の腫瘍が尾静脈(全身)投与したリポソームの効果が反映された腫瘍と仮定した。また、対照として、LP(表1の処方1をPBSにてリン脂質濃度0.46mg/mLに希釈したもの)を使用した。
7日後、皮下腫瘍を摘出し、その割面を肉眼で観察した。また、その病理像及び血管新生をラット由来抗マウスCD31モノクローナル抗体(Pharmingen、Cat.No:557355)を用いた免疫染色(対比染色:ヘマトキシリン染色)により観察した。免疫染色は以下のように行った。クリオスタットにて厚さ8〜10μmの凍結切片を作製した。この凍結切片を冷アセトンにて10分間固定し、PBS洗浄後、0.3% H含有メタノールに浸し、組織内パーオキシダーゼ活性を失活させた。この切片をブロッキング後(0.1% BSA(ウシ血清アルブミン)含有PBSに20分間浸漬)、100倍希釈した抗CD31抗体を滴下し、湿潤箱内で2時間、抗原抗体反応を行った。反応後、PBS洗浄(10分×3回)にて未反応の抗CD31抗体を除去した後、200倍希釈したHRP標識抗ラット抗体(Amersham)を滴下し、湿潤箱内で30分間、抗原抗体反応を行った。反応後、PBS洗浄(10分×2回)にて未反応の2次抗体を除去した後、0.1Mリン酸緩衝液pH6.4に約10分浸漬し、さらに約10〜20分間DAB(3,3’−ジアミノベンチジンテトラヒドロクロライド)発色した。DAB発色後、ヘマトキシリンによる対比染色を行い、マウントし、CD31染色標本とした。
腫瘍割面の肉眼所見においては、LPやDOX−LPに比べ、Fab’−DOX−LPを投与したマウスにおいて腫瘍中心部に潰瘍を認めた。また、その潰瘍は尾静脈投与を反映する腫瘍(左)においても認められたが、皮下投与を反映する腫瘍(右)においてより顕著であった。尾静脈投与を反映する腫瘍の病理所見において、DOX−LPに比べ、Fab’−DOX−LPを投与したマウスにおいて抗MT1−MMPモノクローナル抗体特異的な抗腫瘍効果(中心部壊死)が認められ、CD31染色結果から、腫瘍内新生血管の走行及び形成の乱れが認められた。さらに、DOX−LP尾静脈投与を反映する腫瘍においては血管走行が比較的保たれているのに比べ、Fab’−DOX−LP尾静脈投与を反映する腫瘍においては血管走行が乏しく、Fab’−DOX−LPによる新生血管へのダメージが先行して生じる可能性が示唆された。
実施例5以降に用いる略語の意味を示す。
Fab’(222−1D8)−DOX−LP:抗MT1−MMPモノクローナル抗体(クローン番号222−1D8)結合抗癌剤封入リポソーム
Fab’(222−1D8)−NBD−LP:抗MT1−MMPモノクローナル抗体(クローン番号222−1D8)結合蛍光剤封入リポソーム
Fab’(222−2D12)−NBD−LP:抗MT1−MMPモノクローナル抗体(クローン番号222−2D12)結合蛍光剤封入リポソーム
DOX−LP:抗癌剤封入リポソーム(マレインイミド基非導入リポソーム)
NBD−LP:蛍光剤封入リポソーム(マレインイミド基非導入リポソーム)
DOX−LP−mal:マレインイミド基導入抗癌剤封入リポソーム
NBD−LP−mal:マレインイミド基導入蛍光剤封入リポソーム
実施例5:種々抗体結合率を示す抗MT1−MMPモノクローナル抗体(222−1D8)結合リポソームの調製(調製例▲11▼〜▲16▼)
WO02/041000A1記載の方法に従って得た抗MT1−MMPモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞(クローン番号222−1D8)を用い、実施例2−1)および2)と同様の方法で得たFab’画分(これをaとする)にNBD−C−HPCを添加せず、DSPE−PEGおよびDSPE−PEG−MALを溶液状態で添加した以外は実施例1−1)と同様の方法で得た表2処方5〜10の各種マレインイミド基導入抗癌剤(ドキソルビシン(DOX))封入リポソーム(DOX−LP−mal)(マレインイミド濃度:0、2.6、5.2、26、52、104nmol/ml、PEG−mal/PEG率:0、0.5、1、5、10、20%)(これをbとする)をaとbとがマレインイミドモル比で1:1となるように加えて混合した。

低温室で遮光下、20時間反応させた後、Fab’の10倍モル量のN−エチルマレインイミド(0.1M水溶液を添加)で未反応のチオール基をブロックした。これをPBSで平衡化したセファロースCL−4Bカラム(直径1.5または3.0cm×長さ47cm)に供し、2または8mlづつ分画し、実施例2−3)と同様な方法で、抗MT1−MMPモノクローナル抗体(クローン番号222−1D8)結合抗癌剤封入リポソーム(Fab’(222−1D8)−DOX−LP)画分をボイドボリュームから回収、プールし、Fab’(222−1D8)−DOX−LP(調製例▲11▼〜▲16▼)を得た。一方、未反応Fab’は、フラクション番号29から35番前後に溶出し、リポソーム画分と未反応Fab’画分がゲル濾過にて分離されたことを確認した。
また、リポソームもしくは抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームの脂質濃度は、コレステロールE−テストワコー(和光純薬工業)にて測定したコレステロール濃度を脂質濃度として使用した。なお、DOX単体による測定系への影響は認められず、このコレステロール濃度とHPLCによるDOX濃度との間には良好な相関関係が認められた。したがって、以後の試験例においては、抗体を結合しないリポソームと抗体を結合したリポソーム間で、コレステロール濃度が一定になるようにPBSで希釈し使用した。
実施例6:抗MT1−MMPモノクローナル抗体(222−2D12)結合リポソームの調製(調製例▲17▼)および対照リポソームの調製(調製例▲18▼、▲19▼)
WO02/041000A1記載の方法に従って得たクローン番号222−2D12の抗MT1−MMPモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞を用い実施例2−1)および2)と同様の方法で得たFab’画分を用いたことと、マレインイミド基導入リポソームのマレインイミドモル比を1:3となるようにした以外は、実施例5と同様の方法で、NBD−C−HPCを添加したDOXを封入しない表2処方11のNBD−LP−mal(マレインイミド濃度:130nmol/ml、PEG−mal/PEG率:10%)よりFab’(222−2D12)−NBD−LP(調製例▲17▼)を得た。また、このリポソームの対照例として、クローン番号222−1D8由来のFab’を同じNBD−LP−malに結合させたFab’(222−1D8)−NBD−LP(調製例▲18▼)および表2処方12のNBD−LPをゲル濾過したリポソーム(調製例▲19▼)も同様に調製した。
試験例5:リポソームへの抗MT1−MMP抗体の結合の確認
1)HRP−Fab’との競合による確認
組換え大腸菌より精製したヒトMT1−MMP(150μg/mL)を0.1M Na−P pH7.0にて6000倍に希釈し、充分に攪拌した。これを、96穴プレート枠にセットしたイムノモジュールに100μLずつ加え、プレートシール後、低温室に一晩以上静置し、抗原をコーティングした(aとする)。
実施例5および6で調製した各種リポソーム(調製例▲11▼〜▲19▼)をコレステロール濃度が10μg/mLになるようにPBSで希釈し、0.4%Tween20含有リン酸緩衝液を同容量加え混合後、37℃恒温槽に一晩静置し、界面活性剤処理を行った(bとする)。aを0.1%Tween20含有リン酸緩衝液にて300μL/well、3回洗浄し、10mM IRB(1% BSA、10mM EDTA・2Na、30mM NaHPO・12HO、0.1M NaCl)を300μL/well加え、25℃恒温槽に1時間静置し、ブロッキングした(cとする)。標準曲線用のIgG(222−1D8)をPBSにて100μg/mLに希釈し、さらに0.2%Tween20含有リン酸緩衝液にて順次希釈し、標準曲線系列用溶液(12.5、3.125、0.781、0.195、0.049、0μg/mL)を調製した(dとする)。HRP−Fab’(horse radish peroxidaseを標識した222−1D8由来Fab’)を10mM IRBにて希釈し、0.125μg/mL溶液を調製した(eとする)。bまたはdと、eを容量比1:4にて混合した(fとする)。cをリン酸緩衝液にて300μL/well、3回洗浄後、fを100μL/well(n=2)加え、25℃恒温槽に1時間静置し、抗原抗体反応(競合反応)を行った(gとする)。gを0.1%Tween20含有リン酸緩衝液にて300μL/well、3回洗浄し、TMB(Bio FX Laboratories社)を100μL/well加え、25℃恒温槽に15分間静置し、TMBを基質としたHRPの酵素反応を行った(hとする)。hに1N HSO水溶液を100μL/well加え、反応を停止し直ちにA450を測定した。なお、dにおいて0μg/mLのウェル、aにおいて抗原をコーティングしないウェルを作成、それぞれを対照、ブランクとした。標準曲線系列のA450から、IgG濃度に依存した競合反応であることを確認した(表3)。

このIgG濃度依存競合曲線を標準曲線とし、各抗体リポソームサンプル中のIgG換算量を算出した。Fab’(222−1D8)−DOX−LPもしくはFab’(222−1D8)−NBD−LPをサンプルとした場合の吸光度は、溶媒をサンプルとした場合(対照)、抗体非結合リポソームや222−2D12抗体結合リポソームをサンプルとした場合(非競合検体)と比較し、明らかに低い値を示し、HRP−Fab’の抗原抗体反応が競合された。種々濃度のマレインイミド基をもつリポソームと抗体を結合させ調製した調製例▲11▼〜▲16▼については、マレインイミド濃度に比例して、競合率が上昇した。すなわち、算出した単位コレステロール量あたりのIgG換算量は、使用したDOX−LP−malのマレインイミド濃度にほぼ比例して変動し、種々抗体結合率のFab’(222−1D8)−DOX−LPが得られたことが確認された(表4)。

これより、抗体結合リポソームの抗体結合率をコントロールするためには、抗体結合リポソームの調製時に、リポソームに導入するマレインイミド量を変動させることが有効であることを見出した。
2)SDS−PAGEによる確認
Fab’(222−2D12)−NBD−LP(調製例▲17▼)を6×SDS−PAGE Sample buffer(還元)にてコレステロール濃度が約0.8μg/laneとなるように希釈し、また、クローン番号222−2D12抗体由来のF(ab’)を6×SDS−PAGE Sample buffer(還元)にてタンパク濃度が約1μg/laneとなるように希釈し、いずれも95℃で5分間置いた後、15%SDS−PAGEゲルに供し、CBBで染色した。
レーン1(Fab’(222−2D12)−NBD−LP(調製例▲17▼))、レーン2(222−2D12抗体由来のF(ab’))共に、約30kDaのFab’バンドが認められた。したがって、調製例▲17▼の抗MT1−MMPモノクローナル抗体(クローン番号222−2D12)結合リポソームに抗体が結合していることが確認された(第10図)。
試験例6:抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームのin vitro細胞接合性評価
1)細胞増殖抑制試験
試験例2−1)記載の方法に準じて、HT1080細胞を用いて各種抗体結合リポソームの細胞増殖抑制能を評価した。細胞を96穴プレートに接着後、抗MT1−MMPモノクローナル抗体(クローン番号222−1D8)結合抗癌剤封入リポソーム(Fab’(222−1D8)−DOX−LP)を加え、1時間培養した。培養後細胞を洗浄し、新たな培地を添加し、さらに24時間培養した。細胞洗浄後24時間培養した後に、cell counting assayを行い、生細胞数の指標となるA450をプロットした。各群のmean±S.D.(n=4)を表示した。対照として、Fab’(222−1D8)−DOX−LPの代わりに、培地のみ(対照)もしくは抗体を結合しない抗癌剤封入リポソーム(DOX−LP(調製例▲11▼))、抗癌剤単独(free DOX)を加えた。また、細胞を加えず培地のみを同様に処理した群をブランクとした。なお、試験例2にて阻害率算出などに使用していたstart値は、DOX単体(free DOX)100μg/mlをサンプルとした場合の吸光度と殆ど変わらないことを複数回の試験により確認し、free DOX 100μg/ml群の値をstart値として使用した。このstart値は、第11図および第12図中のA450値0.6付近に表記した。
調製例▲11▼〜▲16▼について試験した結果、PEG−mal/PEG率が1%以下(表2処方6、7)のDOX−LP−malより調製した調製例▲12▼〜▲13▼には、細胞増殖抑制活性は殆ど認められなかった。一方、PEG−mal/PEG率が5%以上のDOX−LP−mal(表2処方8〜10)より調製した調製例▲14▼〜▲16▼には、細胞増殖抑制活性が認められ、その活性は、原料のPEG−mal/PEG率に比例したものであった。すなわち、20%のDOX−LP−mal(表2処方10)より調製した調製例▲16▼は、対照のDOX−LPのおよそ10倍、10%のDOX−LP−mal(表2処方9)より調製した調製例▲15▼は、約6〜9倍、5%のDOX−LP−mal(表2処方8)より調製した調製例▲14▼は、約2倍程度の細胞増殖抑制活性をもつことが示された(第11図、第12図)。表5はDOX濃度25μg/mLにおけるHT1080細胞増殖抑制率(100−[サンプル]/([対照]−[DOX(100μg/mL)])×100、[]内は各群のA450値の平均値)をまとめた表である。

以上の試験例5−1)の結果および試験例6−1)の結果より、抗体結合に使用するマレインイミド導入リポソームのマレインイミド導入率と競合法により得られる抗体結合リポソームの推定抗体結合率と、このHT1080細胞増殖抑制能は、パラレルな関係にあることが示唆された。
これらの実施例および試験例は、種々の抗体結合率を有する抗体結合リポソームの調製例を示したもの、種々の抗体結合率を有する抗体結合リポソームが有する細胞増殖抑制能の評価方法を示したもの、また、リポソームに対する抗体結合量が抗体結合リポソームの細胞増殖抑制能を制御する因子のひとつであることを示したものであって、本願記載の抗体結合リポソームの処方、調製方法、マレインイミド基の数、抗体の種類、抗体結合率、封入する薬剤の種類や濃度などを限定するものではない。
2)蛍光抗体法
試験例2−2)記載の方法に準じて、PLP(periodate−lysine−paraformaldehyde)固定したHT1080細胞を用いて蛍光抗体染色を行った。
調製例▲17▼〜▲19▼をコレステロール濃度が約100μg/mlとなるようにPBSにて希釈した液をサンプルとして試験した。なお、これらの希釈サンプル液の蛍光強度がほぼ等しいことを蛍光吸光度プレートリーダー(パーキンエルマー社、wallac1420マルチラベルカウンター)による蛍光強度測定にて確認した。
Fab’(222−2D12)−NBD−LP(調製例▲17▼)もしくはFab’(222−1D8)−NBD−LP(調製例▲18▼)とHT1080細胞を反応させた場合には、ほとんどすべての細胞(主として細胞膜)に緑色の蛍光が認められた。一方、これらの抗体を結合しないNBD−LP(調製例▲19▼)の場合は蛍光が認められなかった。
抗MT1−MMP抗体を結合しているリポソームのみがMT1−MMPを発現しているHT1080細胞の細胞膜上に接合することが確認され、この接合は抗MT1−MMPモノクローナル抗体222−1D8および222−2D12結合リポソームで同様に認められた。
試験例7:抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームのin vivo細胞接合性評価(皮下腫瘍モデル)
1)in vivoリポソーム取り込み実験
Balb−c nu/nuマウス(メス、7〜8週令)の背部皮下にHT1080を1×10個/マウス移植後14〜21日目に、PBSに希釈したNBD−LP(調製例▲19▼)、Fab’(222−1D8)−NBD−LP(調製例▲18▼)或いはFab’(222−2D12)−NBD−LP(調製例▲17▼)を各15μg(コレステロール量)/200μl/マウス尾静脈投与した。投与2時間後、皮下腫瘍を摘出し、鋭剪にて厚さ約2〜3mmの組織スライスをつくり、PBSにて30分軽く洗浄した後、蛍光顕微鏡冷却CCDカメラで観察した。
Fab’(222−1D8)−NBD−LP(調製例▲18▼)およびFab’(222−2D12)−NBD−LP(調製例▲17▼)投与群では、特に径の小さい(1cm未満)腫瘍の周囲血管(新生血管)付近に、特異的な蛍光シグナルが検出された。一方、抗体の結合していないリポソーム(調製例▲19▼;NBD−LP)では、腫瘍の周囲血管(新生血管)を含めて腫瘍組織における明確な蛍光シグナルは認められなかった。以上の結果より、抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームは、増殖中の腫瘍の周囲血管(新生血管)に有意に集積されることが示された。
試験例8:抗MT1−MMPモノクローナル抗体結合リポソームのステルス性評価
1)in vitro凝集性評価
調製例▲11▼〜▲19▼をコレステロール濃度75μg/mlになるようPBSにて希釈した液40μLと、PBSまたは10%FCS/DMEM培地を60μLとを混合後、室温にて15、30、60分間静置した(調製例▲17▼〜▲19▼については30分のみ)。軽く攪拌した後の吸光度(630nm)を測定し、実体顕微鏡にてリポソームの凝集の有無を観察した。調製例▲11▼〜▲15▼および▲17▼〜▲19▼の吸光度は、混合させる媒体がPBSの場合と10%FCS/DMEMの場合で差が認められず、また、対応する抗体非結合リポソーム(調製例▲11▼および▲19▼)の吸光度との差が認められなかったが、調製例▲16▼と10%FCS/DMEM培地を混合した場合に、凝集に伴う明らかな吸光度の上昇が認められ、顕微鏡観察においても、明らかな凝集像が認められた(表6)。

2)in vivo血中滞留性試験
Balb/cAnNCrj−nuマウス(オス、6〜7週令)に、超遠心機にて濃縮したDOX−LP(調製例▲11▼)またはFab’(222−1D8)−DOX−LP(調製例▲14▼〜▲16▼)を各7.5mg(HPLC測定によるDOX量)/kg尾静脈内投与した。投与2、6、24、48および72時間後、各マウスから血漿を採取し、DOX未変化体としての血漿中濃度をHPLC蛍光検出法にて測定した。表7に、各群の各採血ポイント当たりn=3のマウスから得られた血漿中DOX濃度の平均値を記載した。調製例▲11▼、▲14▼及び▲15▼は、ほぼ同様な血漿中濃度の変動を示したのに対して、調製例▲16▼は、投与後、速やかに血漿中濃度が低下し、その後も調製例▲11▼、▲14▼及び▲15▼の1/10程度の滞留しか認められなかった(表7)。

以上の結果より、in vitro凝集評価試験におけるFCSとの混合後認められる吸光度(630nm)の上昇は、リポソームの凝集を反映したものであり、かつ、この凝集によって、in vivo血中滞留性が明らかに低下することが示唆された。また、FCSとの混合により凝集を示しin vivo血中滞留性が低下した抗体結合リポソームは調製例▲16▼(PEG−mal/PEG率:20%のDOX−LP−malより調製)のみであったことより、多量に抗体を結合したリポソームはステルス性を悪化させることが判明した。これに対し、PEG−mal/PEG率が10%のDOX−LP−malより調製した調製例▲15▼は、ステルス性の悪化が認められず、かつ、試験例6より細胞増殖抑制能も有意に認められることから、調製例▲15▼の処方がより好ましい処方であると示唆された。
これらの実施例および試験例は、種々の抗体および抗体結合率を有する抗体結合リポソームの凝集性の評価方法を示したもの、血中滞留性の評価方法を示したもの、また、リポソームに対する過剰な抗体結合が抗体結合リポソームの性能低下の要因のひとつであることを見出した試験例を示したものであって、本願記載の抗体結合リポソームの処方、調製方法、マレインイミド基の数、抗体の種類、抗体結合率、封入する薬剤の種類や濃度などを限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
本発明の抗MT−MMPモノクローナル抗体含有脂質膜構造体は、薬効成分及び/又は遺伝子を細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼ(MT−MMP)が発現した腫瘍細胞に対して効率的に送達することができ、さらに腫瘍内部における血管新生先端部位に対しても薬効成分及び/又は遺伝子を効率的に送達するドラッグデリバリーシステムとして有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼモノクローナル抗体を含有する脂質膜構造体。
【請求項2】
該モノクローナル抗体が脂質膜構造体の脂質膜の中、表面、内部、脂質層中、及び/又は脂質層の表面に存在する請求の範囲第1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項3】
該モノクローナル抗体を該脂質膜構造体の構成成分として含有する請求の範囲第1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項4】
該モノクローナル抗体が該脂質膜構造体の膜表面に結合した請求の範囲第1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項5】
該モノクローナル抗体が、抗MT1−MMPモノクローナル抗体、抗MT2−MMPモノクローナル抗体、抗MT3−MMPモノクローナル抗体、抗MT4−MMPモノクローナル抗体、抗MT5−MMPモノクローナル抗体、及び抗MT6−MMPモノクローナル抗体から選ばれる1種又は2種以上のモノクローナル抗体である請求の範囲第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項6】
該モノクローナル抗体がヒト型又はマウス型のモノクローナル抗体である請求の範囲第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項7】
該モノクローナル抗体がFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、又はFab’フラグメントである請求の範囲第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項8】
該モノクローナル抗体を脂質膜構造体に結合させるための物質を含有する請求の範囲第1項ないし第7項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項9】
該モノクローナル抗体を脂質膜構造体に結合させるための物質が抗MT−MMPモノクローナル抗体又はそのフラグメント中のメルカプト基と反応し得る脂質誘導体である請求の範囲第8項に記載の脂質膜構造体。
【請求項10】
リン脂質及び/又はリン脂質誘導体を脂質膜構造体の構成成分として含有する請求の範囲第1項ないし第9項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項11】
リン脂質及び/又はリン脂質誘導体が、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファリジルコリン、ホスファリジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドホスホリルグリセロールホスファート、1,2−ジミリストイル−1,2−デオキシホスファチジルコリン、プラスマロゲン、及びホスファチジン酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上のリン脂質及び/又はリン脂質誘導体である請求の範囲第10項に記載の脂質膜構造体。
【請求項12】
さらにステロール類を脂質膜構造体の構成成分として含有する請求の範囲第1項ないし第11項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項13】
ステロール類がコレステロール及び/又はコレスタノールである請求の範囲第12項に記載の脂質膜構造体。
【請求項14】
血中滞留性機能を有する請求の範囲第1項ないし第13項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項15】
血中滞留性脂質誘導体を脂質膜構造体の構成成分として含有する請求の範囲第14項記載の脂質膜構造体。
【請求項16】
血中滞留性脂質誘導体がポリエチレングリコール脂質誘導体又はポリグリセリンリン脂質誘導体である請求の範囲第15項に記載の脂質膜構造体。
【請求項17】
ポリエチレングリコール脂質誘導体が、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−2000}−1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−5000}−1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−750}−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン、N−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−2000}−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミン、及びN−{カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−5000}−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスフォエタノールアミンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリエチレングリコール脂質誘導体である請求の範囲第16項に記載の脂質膜構造体。
【請求項18】
温度変化感受性機能を有する請求の範囲第1項ないし第17項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項19】
温度感受性脂質誘導体を脂質膜構造体中の構成成分として含有する請求の範囲第18項に記載の脂質膜構造体。
【請求項20】
温度感受性脂質誘導体がジパルミトイルホスファチジルコリンである請求の範囲第19項に記載の脂質膜構造体。
【請求項21】
pH感受性機能を有する請求の範囲第1項ないし第20項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項22】
pH感受性脂質誘導体を脂質膜構造体の構成成分として含有する請求の範囲第21項に記載の脂質膜構造体。
【請求項23】
pH感受性脂質誘導体がジオレオイルホスファチジルエタノールアミンである請求の範囲第22項に記載の脂質膜構造体。
【請求項24】
腫瘍細胞膜上の細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼと反応する請求の範囲第1項ないし第23項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項25】
腫瘍細胞がMT−MMP発現細胞である請求の範囲第24項に記載の脂質膜構造体。
【請求項26】
腫瘍細胞が線維肉腫、扁平上皮癌、神経芽細胞腫、乳癌、胃癌、肝細胞癌、膀胱癌、甲状腺腫瘍、尿路上皮癌、グリア芽細胞腫、急性骨髄性白血病、膵管癌、又は前立腺癌の細胞である請求の範囲第24項又は第25項に記載の脂質膜構造体。
【請求項27】
新生血管の細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼと反応する請求の範囲第1項ないし第26項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項28】
脂質膜構造体がミセル、エマルション、リポソーム、又はこれらの混合物の形態である請求の範囲第1項ないし第27項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項29】
水系溶媒分散形態、凍結乾燥形態、噴霧乾燥形態、又は凍結形態のいずれかの形態である請求の範囲第1項ないし第28項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体。
【請求項30】
請求の範囲第1項ないし第29項のいずれか1項に記載の脂質膜構造体と薬効成分及び/又は遺伝子とを含有する医薬組成物。
【請求項31】
薬効成分及び/又は遺伝子が脂質膜構造体の膜中、表面、内部、脂質層中及び/又は脂質層の表面に存在する請求の範囲第30項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
水系溶媒分散形態、凍結乾燥形態、噴霧乾燥形態、又は凍結形態のいずれかの形態である請求の範囲第30項又は第31項に記載の医薬組成物。
【請求項33】
抗細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼモノクローナル抗体から公知の方法により作製した酵素標識モノクローナル抗体と請求の範囲第1項ないし第23項に記載の脂質膜構造体の双方が抗原物質に対して起こす競合反応を酵素免疫学的方法により検出することを特徴とする該脂質膜構造体に含有される抗細胞膜貫通型マトリックスメタロプロテアーゼモノクローナル抗体の量を推定する方法。

【国際公開番号】WO2004/089419
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505273(P2005−505273)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004876
【国際出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(390010205)第一ファインケミカル株式会社 (23)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】