説明

折り畳み式携帯無線端末

【課題】ヒンジ部を導電体で構成しても良好な放射特性を得る。
【解決手段】上側筐体10と下側筐体20とを折り畳み可能に接続するヒンジ部15の近傍にアンテナ155が配置されている。ヒンジ部15は、上側筐体および下側筐体のGND地板102,202同士を電気的に接続する導電体で構成される。上側筐体のGND地板102に対して、そのヒンジ部15から離れた端部側に接続されヒンジ部15側に伸びる、所望周波数で約λ/4の電気長を有する導体板105を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機をはじめとする携帯無線端末、特に折り畳み式の携帯無線端末に関するものである。(本明細書では端末装置を単に端末という。)
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話機は広く普及し、多くの人々にとって必要不可欠なツールとなっている。携帯電話機は種々の機種が販売されているが、その中でも、比較的大サイズの表示画面を採用でき、かつ収納時のサイズを小さくできることから、折り畳み式の携帯電話機の普及度が高い。このような折り畳み式携帯無線端末は、その物理的な構成要素として、大別して、上側筐体と、下側筐体と、両筐体を折り畳み可能に接続するヒンジ部で構成される。
【0003】
図1(a)(b)に、従来の折りたたみ式携帯電話機のアンテナの特性に関連したハードウェア構成を示す。図示のように、折り畳み式携帯無線端末は、上側筐体と下側筐体と、両筐体を機械的に折り畳み可能に接続するヒンジ部と、このヒンジ部近傍に配置されたアンテナとにより構成されている。上側筐体の上側GND地板と下側筐体の下側GND地板とは、図1(a)に示すようにヒンジ導電体で電気的に導通させて接続する場合と、図1(b)に示すようにヒンジ絶縁体で電気的に絶縁して接続する場合とがある。
【0004】
従来、ヒンジ部は図1(b)に示すように、樹脂など電気的絶縁体で構成するのが一般的であった(特許文献1)。その理由は同文献に示されるように、上下筐体が電気的に接続されている場合、上下筐体間で流れる電流が互いに逆向きとなり、放射を打ち消すためである。その結果、後に詳述する図4(a)(b)および図6に示すように、インピーダンス特性が狭帯域化し、放射効率が劣化する。特許文献1に開示の方法に従って、ヒンジ部を絶縁体で構成した場合は、図5、図6に示すように帯域が広帯域化し、良好な放射特性を得ることができる。
【特許文献1】特許第3476138号公報
【特許文献2】特開2002−94311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ヒンジ部は上下筐体を機械的に接続する支点であり、機械的強度が強く要求される。また、端末の小型化、外観に与える影響の観点から、ヒンジ部を極力小型に構成することが望まれる。一般に、絶縁体と比べ、導電体で構成する場合には強度の強い金属を利用できるので、導電体で構成する方が小型化できる。そのため、導電体でヒンジ部を構成したいという要求が強い。
【0006】
また、携帯無線端末は人体近傍で使用されることが多いため、人体近傍で良好なアンテナ特性を実現できることが望ましい。このための手法として例えば、特許文献2に開示される手法があるが、これは折り畳み式の端末に関するものではない。
【0007】
本発明はこのような背景においてなされたものであり、その目的は、ヒンジ部を導電体で構成しても良好な放射特性を得ることができる新規な構造を有する折り畳み式の携帯無線端末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による折り畳み式携帯無線端末は、第1の筐体および第2の筐体と、前記第1の筐体および第2の筐体を機械的に折り畳み可能に接続するとともに、前記第1の筐体および第2の筐体のGND地板同士を電気的に接続するヒンジ部と、このヒンジ部の近傍に配置され、前記第2の筐体に設けられた給電部から給電されるアンテナと、前記第1の筐体のGND地板の前記ヒンジ部から離れた端部側に接続され前記ヒンジ部側に伸びる、所望周波数で約λ/4の電気長を有する導体板とを備えたことを特徴とする。
【0009】
ヒンジ部により第1の筐体および第2の筐体のGND地板同士を電気的に接続することにより、一方の筐体から他方の筐体へ高周波電流が漏洩しても、新たに追加した導体板によりその影響が相殺される。
【0010】
前記導体板と前記第1の筐体のGND地板との接続は、周波数調整用部品を介して行うようにしてもよい。これにより、接続と周波数調整とを同時に実施することができる。このように周波数調整用部品を挿入することで、導体板の物理形状の自由度が上がる。
【0011】
前記導体板は、第1の所望周波数で約λ/4の電気長を有する第1の導電体部分と、第2の所望周波数で約λ/4の電気長を有する第2の導電体部分とを有する構成とすれば、複数の周波数帯を利用する携帯無線端末に適用して好適である。
【0012】
前記導体板には周波数調整用のスリットを設けてもよい。これにより、部品を追加することなく周波数の調整が行える。
【0013】
前記第1の筐体に搭載されたサブ表示部を備える場合には、前記導体板は前記サブ表示部を覆う位置に設置しても、その表示画面を外部に露出するための開口部を形成してサブ表示部を露出させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、所望周波数で約λ/4の電気長を有する導体板を追加することにより、第1の筐体および第2の筐体のGND地板同士を電気的に接続する導電体でヒンジ部を構成しても良好なアンテナ特性を維持することができる。その結果、ヒンジ部を金属等の強度の強い材料で構成することができ、従来の絶縁体で構成したヒンジ部よりも機械的強度を上げることができる。また、同じ機械的強度でもヒンジ部を小型化することができる。さらに、副次的な効果として、人体近傍の実使用状態での特性も適正化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図2(a)(b)に本実施の形態に関する折り畳み式携帯無線端末の主要部の前面および背面の実装例を示す。この端末は、大別して、上側筐体10と、下側筐体20と、両筐体を折り畳み可能(開閉可能)に接続するヒンジ部15により構成される。
【0017】
上側筐体10は、上側基板101の前面側に表示部としての液晶ディスプレイ(LCD)104を有する。その他、図示しないが、イヤレシーバが配置される。カメラを搭載する場合もある。上側基板101の背面側には板状または箔状の導電体である導体板105が配置され、その上方の一辺が上側筐体のGND地板に接地され、上側基板101とほぼ平行にヒンジ部15側へ伸びている。その長さは所望周波数で約λ/4の電気長を有する。導体板105の下方の一辺はアンテナ155の近傍で開放端を構成している。上側筐体10の背面側は通常、背面LCDやカメラ(図示せず)が実装される程度で、比較的スペースに余裕があり、本発明における一構成部品である導体板105を配置するには都合が良い。
【0018】
下側筐体20は、下側基板201の前面側に各種の操作キー等を含むキー操作部104が配置されている。下側基板201の背面側には、スピーカ203、バッテリ205が配置され、また、ヒンジ部15の近傍にはアンテナ(この例では内蔵型)155が配置されている。
【0019】
図3によく現れるように、上側基板101の上側GND地板102と下側基板201の下側GND地板202とはヒンジ部15のヒンジ導体151により相互に電気的に接続されている。ヒンジ導体151はヒンジ部15の構成部材自体であっても、あるいは、ヒンジ部15に付加された部材であってもよい。なお、図のヒンジ部15は模式的に示したものであり、実際には回転軸を中心に両筐体を回転可能に支持する構成を有する。導体板105の上辺は上側GND地板102の上辺で接続部103を介して電気的に接続されている。
【0020】
アンテナ155には下側基板201のRF回路(図示せず)に接続された給電部156から高周波信号が給電される。
【0021】
図4、図5に、従来の2種類の端末と、本実施の形態による携帯無線端末に搭載されたアンテナのインピーダンス特性を表すスミスチャートを示す。図中のマーカ1〜4が使用帯域における測定点を示している。ヒンジ部を導電体で構成した従来例(図4(a))ではマーカ1〜4がスミスチャートの中心から大きく外れ、特性が劣化していることがわかる。これに対して、ヒンジ部を絶縁体で構成した従来例(図4(b))と、本実施の形態ではスミスチャートの中心付近にすべてのマーカが集まり、良好な特性を示していることがわかる。また、図6の放射特性を見ても同様に、ヒンジ部を絶縁体で構成した従来例と、本発明の実施の形態では使用帯域内でどちらも同程度の良好な特性を示しているが、ヒンジ部を導電体で構成した従来の実施の形態では大幅な特性劣化があることが分かる。
【0022】
以上の結果から、本発明によればヒンジ部を導電体で構成しても、ヒンジ部を絶縁体で構成した場合と同等の良好なアンテナ特性が得られることが示された。
【0023】
さらに、本発明による副次的な効果として、人体近傍で使用される通話特性が改善されることが分かった。図7に示すように、人の頭部に対して図示のような座標系を取ったときのXY面(頭部を横断する面)内の放射パターンを、ヒンジ部を絶縁体とした場合の従来例と本発明の実施の形態についてそれぞれ図8、図9に示す。図のグラフの横軸はX軸からの角度φ、縦軸はアンテナ利得(ゲイン)を示している。従来例(図8)ではXY面内での方向によるゲイン差は0.7dB程度であるが、本実施の形態(図9)では3.5dB程度となる。図9から、人体側である−X方向ではゲインが低く、人体と逆側の+X側ではゲインが高くなっている。これより、人体の影響の少ないアンテナであることがわかる。また、人体側への放射が少ないため、人体による電力吸収も軽減される。つまり、図9は、このアンテナがSAR(Specific Absorption Rate)の低いアンテナであることも示している。
【0024】
図10(a)(b)に一般的な折りたたみ式携帯無線端末への本発明を適用した際の他の実装例を示す。図2に示した構成要素と同様の構成要素には同じ参照符号を付してある。前述したように、上側筐体10の背面側にはサブ表示部としての背面LCD106が搭載される場合がある。特に表示部の場合にはその表示画面を外部へ露出する必要がある。そこで、導体板105の、背面LCD106に該当する部分に開口107を設けている。このように導体板105は一部がくりぬかれてもアンテナ特性としては特に差し支えない。
【0025】
図11に本実施の形態における導体板の変形例を示す。図11(a)に示した導体板105bは、そのほぼ全面に亘る切り欠き108を施してほぼU字状に形成したものであり、その上部の両端が上側GND地板に接続されている。図11(b)に示した導体板105cは、周波数調整用のスリット111を形成したものである。図の例では、導体板105cの接地された上辺の近傍で上辺にほぼ平行のスリットを形成している。図11(c)に示した導体板105dでは、スリット111に加えて、開口109を形成している。これらの切り欠き、スリット、開口等は任意に設けて、周波数調整に利用することができる。
【0026】
図12(a)(b)に他の変形例を示す。導体板はその一辺の全範囲で上側GND地板に短絡する例を示したが、より小さい範囲で短絡してもよい。図の例は、導体板105dに対して、上側GND地板に対する接地を、1カ所または2カ所で行うものである。ここでは、インダクタやキャパシタのような周波数調整用部品121を介して接地を行うことにより、接地とともに周波数調整の機能も兼ねている。図12(a)は2個の周波数調整用部品121を用いるのに対し、図12(b)は1個の周波数調整用部品121を用いている。使用する周波数調整用部品121の個数はこれらに限るものではなく、3個以上であってもよい。また、周波数調整用部品121は基板側に設けて基板と導体板105dの間は導電性部材で接続してもよい。図12では導体板105dを例として示したが、この構成は他の導体板についても同様に適用することが可能である。このような周波数調整用部品を挿入することで、導体板の物理形状の自由度が上がる。
【0027】
図13は、本発明のさらに他の変形例を示している。この図に示すように、導体板105eは上側基板101に対してその物理的長さを短くした構成例である。このように導体板は必ずしも上側筐体の最上端部でGND地板に接続される必要はなく、所望周波数で約λ/4の電気的長さ(電気長)を有することが重要である。
【0028】
図14は、本発明の他の実施の形態として、本発明の効果を複数の周波数帯で得るための例を示す。ここでは導体板を複数の周波数帯で約λ/4となるように構成している。すなわち、この導体板105fは、第1の所望周波数で約λ/4の電気長を有する第1の導電体部分Lと、第2の所望周波数で約λ/4の電気長を有する第2の導電体部分Rとを有する。複数の周波数で動作する導体板の構成法は、マルチバンドアンテナなどで開示されている手法を応用することが可能である。
【0029】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、上記で言及した以外にも種々の変形、変更を行うことが可能である。例えば、導電板は上側筐体に実装したが、必ずしもこれに限るものではなく、物理的な制約が許せば下側筐体に配置してもよい。また、導電板は非導電性の筐体ケースの裏側面などへの金属メッキで構成してもよい。あるいは、筐体ケースが導電性の場合には筐体ケース自体を利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来の折りたたみ式携帯電話機のアンテナの特性に関連したハードウェア構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に関する折り畳み式携帯無線端末の主要部の前面および背面の実装例を示す図である。
【図3】図2の上側GND地板と下側GND地板の電気的な接続状態を示す図である。
【図4】従来の2種類の端末に搭載されたアンテナのインピーダンス特性を表すスミスチャートである。
【図5】本発明の実施の形態による携帯無線端末に搭載されたアンテナのインピーダンス特性を表すスミスチャートである。
【図6】従来の2種類の端末と本発明の実施の形態による携帯無線端末に搭載されたアンテナの放射特性を示すグラフである。
【図7】本発明による副次的な効果の説明図である。
【図8】ヒンジ部を絶縁体とした場合の従来例のアンテナ利得を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態についてのアンテナ利得を示すグラフである。
【図10】一般的な折りたたみ式携帯無線端末への本発明を適用した際の他の実装例を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態における導体板の変形例を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態における導体板の他の変形例を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態における導体板のさらも他の変形例を示す図である。
【図14】本発明の効果を複数の周波数帯で得るための例を示す他の実施の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
10…上側筐体、15…ヒンジ部、20…下側筐体、101…上側基板、102…上側GND地板、103…接続部、104…キー操作部、105…導体板、105b,105c,105d,105e,105f…導電板、106…LCD、107,109…開口、111…スリット、121…周波数調整用部品、151…ヒンジ導体、155…アンテナ、156…給電部、201…下側基板、202…下側GND地板、203…スピーカ、205…バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の筐体および第2の筐体と、
前記第1の筐体および第2の筐体を機械的に折り畳み可能に接続するとともに、前記第1の筐体および第2の筐体のGND地板同士を電気的に接続するヒンジ部と、
このヒンジ部の近傍に配置され、前記第2の筐体に設けられた給電部から給電されるアンテナと、
前記第1の筐体のGND地板の前記ヒンジ部から離れた端部側に接続され前記ヒンジ部側に伸びる、所望周波数で約λ/4の電気長を有する導体板と
を備えたことを特徴とする折り畳み式携帯無線端末。
【請求項2】
前記導体板と前記第1の筐体のGND地板との接続は、周波数調整用部品を介して行われることを特徴とする請求項1記載の折り畳み式携帯無線端末。
【請求項3】
前記導体板は、第1の所望周波数で約λ/4の電気長を有する第1の導電体部分と、第2の所望周波数で約λ/4の電気長を有する第2の導電体部分とを有することを特徴とする請求項1記載の折り畳み式携帯無線端末。
【請求項4】
前記導体板は周波数調整用スリットを有することを特徴とする請求項1記載の折り畳み式携帯無線端末。
【請求項5】
前記第1の筐体に搭載されたサブ表示部を備え、
前記導体板は前記サブ表示部を覆うとともに、その表示画面を外部に露出するための開口部を有することを特徴とする請求項1記載の折り畳み式携帯無線端末。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−245870(P2006−245870A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57192(P2005−57192)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(501431073)ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社 (810)
【Fターム(参考)】