振動型駆動装置
【課題】振動子の振動を安定化させ、電極の擦れによる変形を抑制して導通劣化を回避することができ、高出力化を図ることが可能になる振動型駆動装置を提供する。
【解決手段】圧電素子への交番電圧の印加により振動子の移動体との接触部に生じる運動によって移動体を摩擦駆動する振動型駆動装置であって、
振動子が、第1の弾性体と第2の弾性体とにより構成されると共に、
圧電素子に備えられた第1の電極と、給電基板に備えられた第2の電極とが対向配置され、圧電素子と給電基板とが第1と第2の弾性体とによって挟持された構成を備え、
圧電素子と給電基板との間に、緩衝層が設けられている構成を有する。
【解決手段】圧電素子への交番電圧の印加により振動子の移動体との接触部に生じる運動によって移動体を摩擦駆動する振動型駆動装置であって、
振動子が、第1の弾性体と第2の弾性体とにより構成されると共に、
圧電素子に備えられた第1の電極と、給電基板に備えられた第2の電極とが対向配置され、圧電素子と給電基板とが第1と第2の弾性体とによって挟持された構成を備え、
圧電素子と給電基板との間に、緩衝層が設けられている構成を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動体に駆動振動を励振させることで駆動力を得る振動波モータ等の振動型駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、超音波モータ、圧電モータ、あるいは振動波モータ、等と称される振動型駆動装置が開発され、実用化されている。
このモータは、圧電素子もしくは電歪素子などの電気−機械エネルギー変換素子に交番電圧、電流を印加することにより該素子に高周波振動を発生させて振動エネルギーを連続的な機械運動として取り出すように構成されたモータである。
【0003】
図3に従来の積層型圧電素子を狭持する振動波モータ(棒型振動波モータ)の断面図および振動子の図を示す。
1は回転軸、2はcリング、3はワッシャ、4は軸受け、5は外筒、6はカラー、7は弾性体、8は給電基板、9は圧電素子である。
10は支持部材、11は摺動部材、12はロータ、13は加圧ばね、14は回り止め、15は軸受け、16は回転子、17は振動子である。
このような従来の振動子は金属からなる分割された弾性体7aと圧電素子9、一方の狭持部としての弾性体7bが溶接からなる狭持体として加圧締結され振動子17を構成している。
振動子17はカラー6と支持部材10で外筒5に固定され支持される。振動子17の高周波振動のエネルギーを受けて回転する回転子16が、加圧ばね13の押圧力をうけて振動子17と加圧接触する構造になっている。
回転子16の回転力を取り出す手段として歯車18が備わる回転軸1が、振動子17に対して軸受け4、15に支持され回転自在に保持されており、モータとしての回転出力を得る。cリング2で回転軸1はワッシャ3を介して加圧ばね13の反力を受ける。
回り止め14は回転子16の回転力を回転軸1へ伝達する。
【0004】
このような振動型駆動装置において、特許文献1では、ねじによる回転摩擦力を回避するために圧電素子9と分割された狭持体の間の摩擦を減じるように構成された振動波駆動装置が開示されている。
また、特許文献2では、電極間の導電性を上げる為に導電性粒子からなる接着剤で電極間をつなぐようにした構成の圧電アクチュエータが示されている。
また、特許文献3では、圧電素子表面電極導電性接着剤により電極の大気暴露を防止するために防湿剤を塗布するように構成した圧電アクチュエータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−134858号公報
【特許文献2】特開2007−330036号公報
【特許文献3】特開2010−154632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のものでは、電圧を上げて最高回転数近傍に於いて連続的運転を続けると給電部の導通性が劣化して回転数低下を起こし、ついには停止してしまうという課題を有している。
そのため、図8に示されるモータの印加交番電圧周波数の電圧と回転数の関係のように、原理的には入力する電圧を高くすることで任意の負荷で出力(回転数)を高く維持できるはずのモータを、低い出力でしか使用できないという制約が生じる。
また、図12に示されるように、印加交番電圧周波数を低くしても振動型駆動装置では振動子17の持っている最大値まで回転数が出る。
【0007】
ここで、図6に積層型圧電素子を狭持する振動波モータでの導通劣化に至る過程の初期状態を示し、図7に導通劣化に至った状態を示す。
図6(a)に示すように初期状態では一般的に銀パラジュウムなどを使う圧電素子9の電極51と一般的には圧延・メッキなどで形成された銅箔などを使う電極42を備えた給電基板における基板44は狭持力により接触している。
なお、上記積層型圧電素子を狭持する振動波モータに用いられる給電基板は、例えば図4に示すように構成されたものが用いられる。
この給電基板は、ポリイミドなどからなる基板の上に銅箔による電極30a〜30eが形成され、これらの電極30はそれぞれ電位が異なることからそれを絶縁するために、銅箔部はスリットで分断されている。
【0008】
しかし、図3に示す振動エネルギーを蓄積している振動子17は回転子16が常に接触しているために、回転子16の機械的影響を常に受けることになる。
そのため、時間と共に狭持力が図6(b)に示される電極51の局所部分に集中するため圧電素子9の電極51が給電基板の基板44に設けられた電極42の変形域に達して接触圧が下がってくる。
特に、振動子17の振動振幅が高くなるにつれて回転数速度が高くなる。
回転子16を高速回転させるためには振動子17の運動量を上げる必要がある。よって、振動子17に振動エネルギーを発生させる圧電素子9にも大きな振動が発生する。そのために、圧電素子9の電極51と上記基板44に設けられた電極42の間で電極同士が狭持力と共に強く擦れ摩耗する。
その結果、電極51と電極42の接触力が下がり隙間が空くとスパークが発生する。
導通劣化が進むと最終的には、電極42に酸化絶縁皮膜50を生成して不導通となり、モータは回らなくなってしまう。
【0009】
そして、図7に示すように、銀パラジューム合金の方が銅よりも硬いため、銅側に変形・摩耗が大きく現れる。
この状態で振動を続けることで振動中に電極間に隙間が発生し電気的スパークが発生し周囲の空気と反応して例えば酸化銅絶縁皮膜を生成して導通劣化をおこすことになる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、導通劣化を抑制することができ、高出力化を図ることが可能となる振動型駆動装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の振動型駆動装置は、圧電素子が設けられた弾性体を有する振動子と、前記振動子と接触する移動体と、を備え、
前記圧電素子への交番電圧の印加により前記振動子の前記移動体との接触部に生じる運動によって前記移動体を摩擦駆動する振動型駆動装置であって、
前記振動子が、第1の弾性体と第2の弾性体とにより構成されると共に、
前記圧電素子に備えられた第1の電極と、前記圧電素子に給電する給電基板に備えられた第2の電極とが対向配置され、該圧電素子と該給電基板とが前記第1と第2の弾性体とによって挟持された構成を備え、
前記圧電素子と前記給電基板との間に、緩衝層が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、振動子の振動を安定化させ、電極の擦れによる変形を抑制して導通劣化を回避することができ、高出力化を図ることが可能になる振動型駆動装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態および実施例1の振動型駆動装置における振動子の構成例を説明する図。
【図2】本発明の実施例2における振動型駆動装置の構成例を説明する図。
【図3】本発明および従来例における振動型駆動装置の構成例を説明する図。
【図4】本発明および従来例に用いられる給電基板の外形図。
【図5】本発明の実施例における給電基板の断面図。
【図6】本発明における課題を説明する導通劣化に至る初期状態を示す図。
【図7】本発明における課題を説明する導通劣化に至った状態を示す図。
【図8】本発明におる課題を説明する振動型駆動装置の駆動電圧と回転数の関係図。
【図9】本発明の実施例5におけるエポキシ接着剤による緩衝層と電極との接着プロセスについての構成例について説明する図。
【図10】本発明の実施例3における振動型駆動装置の構成例を説明する図。
【図11】本発明の実施例6における振動型駆動装置の構成例を説明する図。
【図12】本発明におる課題を説明する振動型駆動装置の印加交番駆動電圧周波数と回転数の関係図。
【図13】本発明の実施例における振動型駆動装置の振動子の振動状態について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態における振動型駆動装置の構成例について説明する。
積層型圧電素子を狭持する振動型駆動装置を構成する際に、圧電素子と給電基板との間に緩衝層を設け、振動子の振動を安定化させ、電極の擦れによる変形を抑制するようにしたものである。
本実施形態の振動型駆動装置は、圧電素子が設けられた弾性体を有する振動子と、振動子と接触する移動体と、を備え、圧電素子への交番電圧の印加により振動子の前記移動体との接触部に生じる運動によって移動体を摩擦駆動するように構成されている。
そして、振動子が、第1の弾性体と第2の弾性体とにより構成されると共に、圧電素子に備えられた第1の電極と、圧電素子に給電する給電基板に備えられた第2の電極とが対向配置される。そして、これらの圧電素子と該給電基板とが第1と第2の弾性体とによって挟持された構成を備える。
その際、上記したように圧電素子と給電基板との間に、緩衝層が設けられる。
【0015】
図1に、本実施形態の振動子の構成例を示す。
圧電素子9には第1の電極である電極51が形成され、電極51はスルーホールとなっており内部の電極と繋がっている。この電極51は圧電素子狭持面に僅かに突出している。
また、給電基板における基板44には第2の電極である電極42が形成されている。
本実施形態の振動型駆動装置では、圧電素子と給電基板との間に、緩衝層45が設けられていることによりエネルギーは緩衝材に蓄えられて吸収され、電極が擦れによって痛められることなく図13に示す首振り運動をさせることができる。そのため、従来例のように導通劣化によって電極に酸化絶縁皮膜を生成されることを抑制することが可能となる、
本実施形態においては、圧電素子と給電基板との間に緩衝層を設けるに当たり、基板44と電極42とを囲むように緩衝層45を設ける構成を採ることができる。これにより、図13に示す首振り運動においても電極が擦れによって痛められることを抑制することができる。
また、本実施形態においては、前記緩衝層が絶縁材料からなる緩衝層による構成を採ることができる。これにより隣接する電極の電位が異なる組み合わせにおいても実施が可能になる。
また、本実施形態においては、前記緩衝層がゴムからなる緩衝層による構成を採ることができる。これにより緩衝層の厚さの管理が容易になる。
また、本実施形態においては、圧電素子と給電基板との間に緩衝層を設けるに当たり、電極42における電極44との接触面の反対側に設けるようにした構成を採ることができる。
これにより、弾性体へのエネルギー伝達を阻害することなく伝えることができ、より共振近傍での高回転・高出力領域で安定した駆動が可能となる。
また、本実施形態においては、前記緩衝層がエポキシ系接着剤からなる緩衝層による構成を採ることができる。これにより緩衝層の厚さの管理が容易になる。これにより安価で提供することが可能となる。
また、以上の構成によれば、安定した小型で高出力な振動型駆動装置が実現でき、さまざまな産業機器・コンシューマ製品の小型化、且つ信頼性の高いアクチュエータとして利用することが可能となる。
【実施例】
【0016】
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した振動型駆動装置の構成例について説明する。
本実施例の振動型駆動装置は、図1に示す給電基板と圧電素子の接合部に緩衝層を設けた構成が従来例と異なるだけで、それ以外は図3に示す従来例の振動型駆動装置と基本構成が同じものが用いられる。
図3に示すように、本実施例の振動型駆動装置では弾性体7が宙に浮いた構造になっている。
振動子は従来例と同様に金属からなる弾性体7が圧電素子9と圧電素子9に電圧を供給する給電基板8と振動子17の回転方向を規制する為の支持板10を狭持してねじ・溶着・接着などの締結方法で接合されている。
弾性体7bの回転力を取り出しているのは図中右側の摺動部材11とロータ12からなる回転子16側の振動子の質量であり、対方向(左側)の弾性体7aの質量は宙に浮いている状態である。圧電素子9には電極51が僅かに突出している。
給電基板はポリイミドからなる基板44の上に銅箔からなる電極42がパターニングされている。
本実施例では、電極42と電極51を囲むように緩衝層45が配置されている。これにより、狭持力によって強力に電極42と電極51とが接触するのを防ぐことができる。
【0017】
図13に質量が首振り運動をしている状態を示す。このような運動に対して、本実施例では上記したように電極42と電極51を囲むように緩衝層45が配置されていることから、この緩衝層45により電極を傷めることを防ぐことが可能となる。
本実施例では、給電基板が図5(b)に示すように、基板44がポリイミドで形成され、この基板44に直に電極42を固着して構成される。
更に狭持されない部分は、ポリイミドからなる保護膜40が接着層43で固着され保護している。
【0018】
[実施例2]
実施例2として、実施例1と異なる形態の振動型駆動装置の構成例について説明する。
本実施例の振動型駆動装置は、図1に示す給電基板と圧電素子の接合部に緩衝層を設けた構成が従来例と異なるだけで、それ以外は図3に示す従来例の振動型駆動装置と基本構成が同じものが用いられる。
図2(a)に、本実施例における緩衝層を電極42の電極51の接触する反対面に設けた構成例を示す。また、図2(b)は狭持力が作用した状態で緩衝層が有効である状態を示す図である。
【0019】
また、図5(a)は、本実施例における給電基板の具体例を示す図である。
図5(a)に示すように、基板44がポリイミドで形成される一方、緩衝層45が接着層41で形成され、この接着層41(緩衝層45)により銅箔からなる電極42が固着されている。
このように狭持方向に緩衝層45が介在するが、このように緩衝層45を接着層41で形成して配置しても効果がある。
圧電素子9に狭持されない部分は電極42が異物などで電気的ショートの防止のため、露出しないよう保護膜40で保護している。
本実施例の構成によっても、上記した図13に示す運動に対して、緩衝層45により電極を傷めることを防ぐことが可能となる。
【0020】
[実施例3]
実施例3として、実施例1と異なる形態の振動型駆動装置の構成例について説明する。
本実施例の振動型駆動装置は、図1に示す給電基板と圧電素子の接合部に緩衝層の構成が実施例1と異なるだけで、それ以外は実施例1と同じものが用いられる。
本実施例では、図10に示すように、緩衝層が絶縁物で絶縁されて構成される。これにより電位の異なる電極でも実施が可能となる。
本実施例で用いられる緩衝層を形成する絶縁物としては、ポリイミド系・エポキシ系・絶縁性のある変性シリコーン系などの弾性材料による絶縁物が望ましい。
【0021】
[実施例4]
実施例4として、実施例2における緩衝層をエポキシ接着剤で構成した構成例について説明する。
本実施例では、図9に示すように、緩衝層がエポキシ接着剤で構成される。
このように緩衝層がエポキシ接着剤で構成されることにより、エポキシ系接着剤は熱に強く圧電素子からの発熱に耐えられることから、高出力時の安定性が良好となる。
そのため、印加交番周波数電圧を上げることでより、高出力なモータを構成することが可能となる。
【0022】
[実施例5]
実施例5として、エポキシ接着剤による緩衝層と電極との接着プロセスについての構成例について説明する。
図9(a)は二液硬化型のエポキシ接着剤での接着プロセスを示す図である。
主剤と硬化剤は一定比率で配合されなければならないため、主剤と硬化剤を予め必要量混合する。
次に、振動子、若しくは圧電素子の一方または両方に塗布した後、硬化に必要な時間を放置して完了する。
図9(b)は1液熱硬化エポキシ接着剤での接着プロセスを示す図である。
このプロセスによれば、塗布と硬化の作業で接着プロセスを完了させることができる。
このように接着プロセス作業工数を短くすることができ、安価な製造が可能となる。
【0023】
[実施例6]
実施例6として、実施例1と異なる形態の振動型駆動装置の構成例について説明する。
本実施例の振動型駆動装置は、図1に示す給電基板と圧電素子の接合部の緩衝層としてゴム47が用いられている点が実施例1と異なるだけで、それ以外は実施例1と同じである。
本実施例では、図11に示すように、緩衝層がゴム47で構成される。ゴム47の材質としては、シリコーン系、ブチル系のものが望ましい。
このようなゴムによると、硬度・厚さの寸法管理が容易であり、また、ほど良い圧力で接触圧を制御することが可能となる。
【符号の説明】
【0024】
9:圧電素子
42:電極
44:基板
45:緩衝層
51:電極
【技術分野】
【0001】
本発明は振動体に駆動振動を励振させることで駆動力を得る振動波モータ等の振動型駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、超音波モータ、圧電モータ、あるいは振動波モータ、等と称される振動型駆動装置が開発され、実用化されている。
このモータは、圧電素子もしくは電歪素子などの電気−機械エネルギー変換素子に交番電圧、電流を印加することにより該素子に高周波振動を発生させて振動エネルギーを連続的な機械運動として取り出すように構成されたモータである。
【0003】
図3に従来の積層型圧電素子を狭持する振動波モータ(棒型振動波モータ)の断面図および振動子の図を示す。
1は回転軸、2はcリング、3はワッシャ、4は軸受け、5は外筒、6はカラー、7は弾性体、8は給電基板、9は圧電素子である。
10は支持部材、11は摺動部材、12はロータ、13は加圧ばね、14は回り止め、15は軸受け、16は回転子、17は振動子である。
このような従来の振動子は金属からなる分割された弾性体7aと圧電素子9、一方の狭持部としての弾性体7bが溶接からなる狭持体として加圧締結され振動子17を構成している。
振動子17はカラー6と支持部材10で外筒5に固定され支持される。振動子17の高周波振動のエネルギーを受けて回転する回転子16が、加圧ばね13の押圧力をうけて振動子17と加圧接触する構造になっている。
回転子16の回転力を取り出す手段として歯車18が備わる回転軸1が、振動子17に対して軸受け4、15に支持され回転自在に保持されており、モータとしての回転出力を得る。cリング2で回転軸1はワッシャ3を介して加圧ばね13の反力を受ける。
回り止め14は回転子16の回転力を回転軸1へ伝達する。
【0004】
このような振動型駆動装置において、特許文献1では、ねじによる回転摩擦力を回避するために圧電素子9と分割された狭持体の間の摩擦を減じるように構成された振動波駆動装置が開示されている。
また、特許文献2では、電極間の導電性を上げる為に導電性粒子からなる接着剤で電極間をつなぐようにした構成の圧電アクチュエータが示されている。
また、特許文献3では、圧電素子表面電極導電性接着剤により電極の大気暴露を防止するために防湿剤を塗布するように構成した圧電アクチュエータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−134858号公報
【特許文献2】特開2007−330036号公報
【特許文献3】特開2010−154632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のものでは、電圧を上げて最高回転数近傍に於いて連続的運転を続けると給電部の導通性が劣化して回転数低下を起こし、ついには停止してしまうという課題を有している。
そのため、図8に示されるモータの印加交番電圧周波数の電圧と回転数の関係のように、原理的には入力する電圧を高くすることで任意の負荷で出力(回転数)を高く維持できるはずのモータを、低い出力でしか使用できないという制約が生じる。
また、図12に示されるように、印加交番電圧周波数を低くしても振動型駆動装置では振動子17の持っている最大値まで回転数が出る。
【0007】
ここで、図6に積層型圧電素子を狭持する振動波モータでの導通劣化に至る過程の初期状態を示し、図7に導通劣化に至った状態を示す。
図6(a)に示すように初期状態では一般的に銀パラジュウムなどを使う圧電素子9の電極51と一般的には圧延・メッキなどで形成された銅箔などを使う電極42を備えた給電基板における基板44は狭持力により接触している。
なお、上記積層型圧電素子を狭持する振動波モータに用いられる給電基板は、例えば図4に示すように構成されたものが用いられる。
この給電基板は、ポリイミドなどからなる基板の上に銅箔による電極30a〜30eが形成され、これらの電極30はそれぞれ電位が異なることからそれを絶縁するために、銅箔部はスリットで分断されている。
【0008】
しかし、図3に示す振動エネルギーを蓄積している振動子17は回転子16が常に接触しているために、回転子16の機械的影響を常に受けることになる。
そのため、時間と共に狭持力が図6(b)に示される電極51の局所部分に集中するため圧電素子9の電極51が給電基板の基板44に設けられた電極42の変形域に達して接触圧が下がってくる。
特に、振動子17の振動振幅が高くなるにつれて回転数速度が高くなる。
回転子16を高速回転させるためには振動子17の運動量を上げる必要がある。よって、振動子17に振動エネルギーを発生させる圧電素子9にも大きな振動が発生する。そのために、圧電素子9の電極51と上記基板44に設けられた電極42の間で電極同士が狭持力と共に強く擦れ摩耗する。
その結果、電極51と電極42の接触力が下がり隙間が空くとスパークが発生する。
導通劣化が進むと最終的には、電極42に酸化絶縁皮膜50を生成して不導通となり、モータは回らなくなってしまう。
【0009】
そして、図7に示すように、銀パラジューム合金の方が銅よりも硬いため、銅側に変形・摩耗が大きく現れる。
この状態で振動を続けることで振動中に電極間に隙間が発生し電気的スパークが発生し周囲の空気と反応して例えば酸化銅絶縁皮膜を生成して導通劣化をおこすことになる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、導通劣化を抑制することができ、高出力化を図ることが可能となる振動型駆動装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の振動型駆動装置は、圧電素子が設けられた弾性体を有する振動子と、前記振動子と接触する移動体と、を備え、
前記圧電素子への交番電圧の印加により前記振動子の前記移動体との接触部に生じる運動によって前記移動体を摩擦駆動する振動型駆動装置であって、
前記振動子が、第1の弾性体と第2の弾性体とにより構成されると共に、
前記圧電素子に備えられた第1の電極と、前記圧電素子に給電する給電基板に備えられた第2の電極とが対向配置され、該圧電素子と該給電基板とが前記第1と第2の弾性体とによって挟持された構成を備え、
前記圧電素子と前記給電基板との間に、緩衝層が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、振動子の振動を安定化させ、電極の擦れによる変形を抑制して導通劣化を回避することができ、高出力化を図ることが可能になる振動型駆動装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態および実施例1の振動型駆動装置における振動子の構成例を説明する図。
【図2】本発明の実施例2における振動型駆動装置の構成例を説明する図。
【図3】本発明および従来例における振動型駆動装置の構成例を説明する図。
【図4】本発明および従来例に用いられる給電基板の外形図。
【図5】本発明の実施例における給電基板の断面図。
【図6】本発明における課題を説明する導通劣化に至る初期状態を示す図。
【図7】本発明における課題を説明する導通劣化に至った状態を示す図。
【図8】本発明におる課題を説明する振動型駆動装置の駆動電圧と回転数の関係図。
【図9】本発明の実施例5におけるエポキシ接着剤による緩衝層と電極との接着プロセスについての構成例について説明する図。
【図10】本発明の実施例3における振動型駆動装置の構成例を説明する図。
【図11】本発明の実施例6における振動型駆動装置の構成例を説明する図。
【図12】本発明におる課題を説明する振動型駆動装置の印加交番駆動電圧周波数と回転数の関係図。
【図13】本発明の実施例における振動型駆動装置の振動子の振動状態について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態における振動型駆動装置の構成例について説明する。
積層型圧電素子を狭持する振動型駆動装置を構成する際に、圧電素子と給電基板との間に緩衝層を設け、振動子の振動を安定化させ、電極の擦れによる変形を抑制するようにしたものである。
本実施形態の振動型駆動装置は、圧電素子が設けられた弾性体を有する振動子と、振動子と接触する移動体と、を備え、圧電素子への交番電圧の印加により振動子の前記移動体との接触部に生じる運動によって移動体を摩擦駆動するように構成されている。
そして、振動子が、第1の弾性体と第2の弾性体とにより構成されると共に、圧電素子に備えられた第1の電極と、圧電素子に給電する給電基板に備えられた第2の電極とが対向配置される。そして、これらの圧電素子と該給電基板とが第1と第2の弾性体とによって挟持された構成を備える。
その際、上記したように圧電素子と給電基板との間に、緩衝層が設けられる。
【0015】
図1に、本実施形態の振動子の構成例を示す。
圧電素子9には第1の電極である電極51が形成され、電極51はスルーホールとなっており内部の電極と繋がっている。この電極51は圧電素子狭持面に僅かに突出している。
また、給電基板における基板44には第2の電極である電極42が形成されている。
本実施形態の振動型駆動装置では、圧電素子と給電基板との間に、緩衝層45が設けられていることによりエネルギーは緩衝材に蓄えられて吸収され、電極が擦れによって痛められることなく図13に示す首振り運動をさせることができる。そのため、従来例のように導通劣化によって電極に酸化絶縁皮膜を生成されることを抑制することが可能となる、
本実施形態においては、圧電素子と給電基板との間に緩衝層を設けるに当たり、基板44と電極42とを囲むように緩衝層45を設ける構成を採ることができる。これにより、図13に示す首振り運動においても電極が擦れによって痛められることを抑制することができる。
また、本実施形態においては、前記緩衝層が絶縁材料からなる緩衝層による構成を採ることができる。これにより隣接する電極の電位が異なる組み合わせにおいても実施が可能になる。
また、本実施形態においては、前記緩衝層がゴムからなる緩衝層による構成を採ることができる。これにより緩衝層の厚さの管理が容易になる。
また、本実施形態においては、圧電素子と給電基板との間に緩衝層を設けるに当たり、電極42における電極44との接触面の反対側に設けるようにした構成を採ることができる。
これにより、弾性体へのエネルギー伝達を阻害することなく伝えることができ、より共振近傍での高回転・高出力領域で安定した駆動が可能となる。
また、本実施形態においては、前記緩衝層がエポキシ系接着剤からなる緩衝層による構成を採ることができる。これにより緩衝層の厚さの管理が容易になる。これにより安価で提供することが可能となる。
また、以上の構成によれば、安定した小型で高出力な振動型駆動装置が実現でき、さまざまな産業機器・コンシューマ製品の小型化、且つ信頼性の高いアクチュエータとして利用することが可能となる。
【実施例】
【0016】
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した振動型駆動装置の構成例について説明する。
本実施例の振動型駆動装置は、図1に示す給電基板と圧電素子の接合部に緩衝層を設けた構成が従来例と異なるだけで、それ以外は図3に示す従来例の振動型駆動装置と基本構成が同じものが用いられる。
図3に示すように、本実施例の振動型駆動装置では弾性体7が宙に浮いた構造になっている。
振動子は従来例と同様に金属からなる弾性体7が圧電素子9と圧電素子9に電圧を供給する給電基板8と振動子17の回転方向を規制する為の支持板10を狭持してねじ・溶着・接着などの締結方法で接合されている。
弾性体7bの回転力を取り出しているのは図中右側の摺動部材11とロータ12からなる回転子16側の振動子の質量であり、対方向(左側)の弾性体7aの質量は宙に浮いている状態である。圧電素子9には電極51が僅かに突出している。
給電基板はポリイミドからなる基板44の上に銅箔からなる電極42がパターニングされている。
本実施例では、電極42と電極51を囲むように緩衝層45が配置されている。これにより、狭持力によって強力に電極42と電極51とが接触するのを防ぐことができる。
【0017】
図13に質量が首振り運動をしている状態を示す。このような運動に対して、本実施例では上記したように電極42と電極51を囲むように緩衝層45が配置されていることから、この緩衝層45により電極を傷めることを防ぐことが可能となる。
本実施例では、給電基板が図5(b)に示すように、基板44がポリイミドで形成され、この基板44に直に電極42を固着して構成される。
更に狭持されない部分は、ポリイミドからなる保護膜40が接着層43で固着され保護している。
【0018】
[実施例2]
実施例2として、実施例1と異なる形態の振動型駆動装置の構成例について説明する。
本実施例の振動型駆動装置は、図1に示す給電基板と圧電素子の接合部に緩衝層を設けた構成が従来例と異なるだけで、それ以外は図3に示す従来例の振動型駆動装置と基本構成が同じものが用いられる。
図2(a)に、本実施例における緩衝層を電極42の電極51の接触する反対面に設けた構成例を示す。また、図2(b)は狭持力が作用した状態で緩衝層が有効である状態を示す図である。
【0019】
また、図5(a)は、本実施例における給電基板の具体例を示す図である。
図5(a)に示すように、基板44がポリイミドで形成される一方、緩衝層45が接着層41で形成され、この接着層41(緩衝層45)により銅箔からなる電極42が固着されている。
このように狭持方向に緩衝層45が介在するが、このように緩衝層45を接着層41で形成して配置しても効果がある。
圧電素子9に狭持されない部分は電極42が異物などで電気的ショートの防止のため、露出しないよう保護膜40で保護している。
本実施例の構成によっても、上記した図13に示す運動に対して、緩衝層45により電極を傷めることを防ぐことが可能となる。
【0020】
[実施例3]
実施例3として、実施例1と異なる形態の振動型駆動装置の構成例について説明する。
本実施例の振動型駆動装置は、図1に示す給電基板と圧電素子の接合部に緩衝層の構成が実施例1と異なるだけで、それ以外は実施例1と同じものが用いられる。
本実施例では、図10に示すように、緩衝層が絶縁物で絶縁されて構成される。これにより電位の異なる電極でも実施が可能となる。
本実施例で用いられる緩衝層を形成する絶縁物としては、ポリイミド系・エポキシ系・絶縁性のある変性シリコーン系などの弾性材料による絶縁物が望ましい。
【0021】
[実施例4]
実施例4として、実施例2における緩衝層をエポキシ接着剤で構成した構成例について説明する。
本実施例では、図9に示すように、緩衝層がエポキシ接着剤で構成される。
このように緩衝層がエポキシ接着剤で構成されることにより、エポキシ系接着剤は熱に強く圧電素子からの発熱に耐えられることから、高出力時の安定性が良好となる。
そのため、印加交番周波数電圧を上げることでより、高出力なモータを構成することが可能となる。
【0022】
[実施例5]
実施例5として、エポキシ接着剤による緩衝層と電極との接着プロセスについての構成例について説明する。
図9(a)は二液硬化型のエポキシ接着剤での接着プロセスを示す図である。
主剤と硬化剤は一定比率で配合されなければならないため、主剤と硬化剤を予め必要量混合する。
次に、振動子、若しくは圧電素子の一方または両方に塗布した後、硬化に必要な時間を放置して完了する。
図9(b)は1液熱硬化エポキシ接着剤での接着プロセスを示す図である。
このプロセスによれば、塗布と硬化の作業で接着プロセスを完了させることができる。
このように接着プロセス作業工数を短くすることができ、安価な製造が可能となる。
【0023】
[実施例6]
実施例6として、実施例1と異なる形態の振動型駆動装置の構成例について説明する。
本実施例の振動型駆動装置は、図1に示す給電基板と圧電素子の接合部の緩衝層としてゴム47が用いられている点が実施例1と異なるだけで、それ以外は実施例1と同じである。
本実施例では、図11に示すように、緩衝層がゴム47で構成される。ゴム47の材質としては、シリコーン系、ブチル系のものが望ましい。
このようなゴムによると、硬度・厚さの寸法管理が容易であり、また、ほど良い圧力で接触圧を制御することが可能となる。
【符号の説明】
【0024】
9:圧電素子
42:電極
44:基板
45:緩衝層
51:電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子が設けられた弾性体を有する振動子と、前記振動子と接触する移動体と、を備え、
前記圧電素子への交番電圧の印加により前記振動子の前記移動体との接触部に生じる運動によって前記移動体を摩擦駆動する振動型駆動装置であって、
前記振動子が、第1の弾性体と第2の弾性体とにより構成されると共に、
前記圧電素子に備えられた第1の電極と、前記圧電素子に給電する給電基板に備えられた第2の電極とが対向配置され、該圧電素子と該給電基板とが前記第1と第2の弾性体とによって挟持された構成を備え、
前記圧電素子と前記給電基板との間に、緩衝層が設けられていることを特徴とする振動型駆動装置。
【請求項2】
前記緩衝層が、前記第1の電極と前記第2の電極とを囲むように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の振動型駆動装置。
【請求項3】
前記緩衝層が、絶縁材料からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動型駆動装置。
【請求項4】
前記緩衝層が、ゴムからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動型駆動装置。
【請求項5】
前記緩衝層が、前記第2の電極における前記第1の電極との接触面の反対側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の振動型駆動装置。
【請求項6】
前記緩衝層が、エポキシ系接着剤からなることを特徴とする請求項5に記載の振動型駆動装置。
【請求項1】
圧電素子が設けられた弾性体を有する振動子と、前記振動子と接触する移動体と、を備え、
前記圧電素子への交番電圧の印加により前記振動子の前記移動体との接触部に生じる運動によって前記移動体を摩擦駆動する振動型駆動装置であって、
前記振動子が、第1の弾性体と第2の弾性体とにより構成されると共に、
前記圧電素子に備えられた第1の電極と、前記圧電素子に給電する給電基板に備えられた第2の電極とが対向配置され、該圧電素子と該給電基板とが前記第1と第2の弾性体とによって挟持された構成を備え、
前記圧電素子と前記給電基板との間に、緩衝層が設けられていることを特徴とする振動型駆動装置。
【請求項2】
前記緩衝層が、前記第1の電極と前記第2の電極とを囲むように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の振動型駆動装置。
【請求項3】
前記緩衝層が、絶縁材料からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動型駆動装置。
【請求項4】
前記緩衝層が、ゴムからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動型駆動装置。
【請求項5】
前記緩衝層が、前記第2の電極における前記第1の電極との接触面の反対側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の振動型駆動装置。
【請求項6】
前記緩衝層が、エポキシ系接着剤からなることを特徴とする請求項5に記載の振動型駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−31286(P2013−31286A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165475(P2011−165475)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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