説明

振動装置の駆動回路、塵埃除去装置及び振動型アクチュエータにおける振動装置の駆動回路

【課題】電気−機械エネルギー変換素子に印加する交番電圧の高調波成分を低減し、振動体の共振周波数のばらつきや駆動中の変化に対し、該変換素子に印加する交番電圧の変動が小さく、安定した電圧振幅を出力することが可能な振動装置の駆動回路を提供する。
【解決手段】電気−機械エネルギー変換素子により発生させた振動波により対象物を駆動する振動装置の駆動回路であって、該変換素子の固有静電容量と、該変換素子に直列に接続された複数のインダクタと、複数のインダクタの間に一端が接続され、且つ、該変換素子に並列に接続されたキャパシタと、によって構成された電気的な共振回路を備え、電気的な共振回路は、少なくとも第1の周波数と第2の周波数とによる2つの共振周波数を有し、第1の周波数をf1とし、第2の周波数をf2とし、交番電圧の周波数をfdとするとき、次式の関係を満たすことを特徴とする。f1<fd<f2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動装置の駆動回路、塵埃除去装置及び振動型アクチュエータにおける振動装置の駆動回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学機器として、撮像装置では、光学センサの分解能が向上するにつれて、使用中に光学系に付着するゴミ等の塵埃が撮影画像に影響を及ぼすようになってきた。
特に、ビデオカメラ、スチルカメラに用いられる撮像素子の分解能はめざましく向上している。
このため、撮像素子の近くに配置されている赤外線カットフィルタ、光学ローパスフィルタ等の光学部品に、外部からの埃や内部の機械的な摺擦面で生じる磨耗粉等が付着すると、撮像素子面で像のぼけが少ないので、撮影画像に埃が写り込んでしまうことがあった。
また、光学機器として、コピー、ファクシミリ装置等の撮像部は、ラインセンサを走査(スキャン)することで、あるいはラインセンサに近接させた原稿を走査(スキャン)することで、平面原稿を読み取っている。
この場合、ラインセンサへの光線入射部に埃が付着すると、スキャン画像に写り込んでしまう。
原稿を走査して読み取る方式のファクシミリ装置の読み取り部や、自動原稿送り装置からの原稿を搬送中に読み取る、いわゆる流し読み方式の複写機の読み取り部では、1つの埃が原稿送り方向へ連続する線画像となって写り込み、画像の品質を大きく損ねていた。
このような埃を人手によって拭き取ることで、画像品位は回復するが、使用中に付着した埃については撮影後に確認する他、手立てがなかった。
その間に撮影あるいは走査した画像には、塵埃の画像が写り込むので、ソフトウェアによる修正が必要であった。
また、複写機では、画像は同時に紙メディアに出力されるので、その修正には多大な労力を費やしていた。
【0003】
このような問題に対し、特許文献1では、光学部材を備えた振動体に進行波を励起することによって、塵埃を所望の方向に移動させることができる塵埃除去装置が提案されている。
図14(a)は、特許文献1に開示された塵埃除去装置の構成を示す模式図である。
撮像素子503の光入射側に光学部材502を備えた振動体501が設けられている。
電気−機械エネルギー変換素子である圧電素子101a及び101bは、振動体501における面外曲げ振動の節線の並ぶ方向に位置をずらして配置されている。
圧電素子101a及び101bには、各々周波数が同じであり、かつ位相差が90°となる交番電圧を印加する。
印加される交番電圧の周波数は、振動体501の長手方向に沿って面外に変形するm次(mは自然数)の振動モードの共振周波数と(m+1)次の振動モードの共振周波数との間の周波数である。
振動体501には、共振現象の応答を持ったm次の振動モードの振動、及び90°の時間的位相差(m次の面外曲げ振動に対して90°進んだ位相)を持った(m+1)次の振動モードの振動が、同じ振幅かつ同じ振動周期で励起される。
そして、振動体501には、この2つの振動モードの振動が合成された合成振動(進行波)が生成する。この合成振動によって、振動体501の表面の塵埃を所望の方向に移動していく。
【0004】
図14(b)は、上記塵挨除去装置の制御装置を示すものである。
不図示の撮像装置本体からの駆動指令に基づき、コントローラ604からは交番電圧信号のパラメータとなる位相情報、周波数情報、パルス幅情報がパルス発生回路603a及び603bに送られる。
パルス発生回路603から出力されたデジタルの交番電圧信号はスイッチング回路602a及び602bに入力され、電源回路605より供給される電圧に基づいたアナログの交番電圧Viとして出力される。
交番電圧Viは駆動回路601a及び601bに入力されて交番電圧Voとして出力され、振動体501に設けられた圧電素子101a及び101bに各々印加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−207170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来例において、駆動回路601によって入力された交番電圧Viの電圧振幅を所望の電圧まで昇圧し、さらに矩形からSIN波形に変換して、交番電圧Voを出力する。
交番電圧Voには、高調波信号による歪みのないSIN波形で、さらに使用する周波数帯域で一定電圧となることが、振動体501に理想的な進行波又は定在波を励起する上で望まれる。
しかし、従来例における塵挨除去装置の駆動回路は、圧電素子101に印加する交番電圧Voに高調波信号が生じる。
このような高調波信号は、振動体501に励起される振動に影響を与えるため、進行波の乱れによる塵挨除去性能の低下と、振動振幅の増大による光学部材502の破損を招くことになる。
【0007】
また、従来例における塵挨除去装置の駆動回路は、使用する周波数帯域において、圧電素子101に印加する交番電圧Voの振幅変化、即ち、交番電圧Voの周波数特性における傾きが振動体501の共振周波数近傍で大きい。
このため、振動体501の共振周波数が個体差でばらつく場合や、駆動中に変化する場合において、交番電圧Voが大きく変動する。
この交番電圧が必要以上に大きくなると、電流の増加による消費電力の増加や、振動体501に励起される振動振幅の増大による光学部材501の破損を招くことになる。
また、交番電圧が必要とする電圧を下回る場合、振動体501に励起される面外曲げ振動の振動振幅が十分に得られず、塵挨除去性能が低下してしまうことになる。
【0008】
図14(c)は、上記従来例における駆動回路601の構成を示すものである。
図14(c)に示されるように、圧電素子101に直列にインダクタ102を接続することによって、圧電素子101の固有静電容量とインダクタ102とによるLC直列共振回路が形成される。
交番電圧Viの電圧振幅は、LC直列共振回路によって所望の電圧まで昇圧されて、交番電圧Voが出力される。
【0009】
図15は、従来の駆動回路を用いた場合における、交番電圧Voの電圧振幅の周波数特性を示すものである。
横軸に周波数(110kHz〜140kHz)、縦軸に電圧振幅(50V〜350V)を示す。
各プロットは、インダクタ102の値を40μHから90μHまで変えた場合の特性を示している。
図中、f(m)はm次の面外曲げ振動の共振周波数であり、f(m+1)は(m+1)次の面外曲げ振動の共振周波数である。
圧電素子101に印加される交番電圧Voの周波数fdは、f(m)<fd<f(m+1)に設定される。
図より、インダクタ102のインダクタンス値が大きいほど、周波数fd近傍の電圧振幅の変動が大きい事がわかる。
従って、従来はインダクタンス値を小さくして電圧振幅の変動を抑える設計を行う。
しかし、この場合は交番電圧の昇圧率が小さく、さらに高調波信号を増大してしまう。
【0010】
図16は、従来の駆動回路を用いた場合における、インダクタ値に基づく交番電圧Voの電気共振の周波数変化を示すものである。
横軸に周波数(120kHz〜240kHz)、縦軸に電圧振幅(10V〜1MV)を示す。
各プロットは、インダクタ102の値を90μHから40μHまで変えた場合の特性を示している。
図より、インダクタンス値を小さくすると、LC直列共振による電気共振が高域にシフトする。
このため、図に示す高調波周波数域の電圧振幅が大きくなり、入力される交番電圧Viの矩形波に含まれる高調波成分を増大させてしまう。これによって、出力される交番電圧Voは駆動周波数fdの基本波に高調波が重畳される為、出力波形が歪んでしまう。
【0011】
次に、上記高調波について説明する。図17は、従来の駆動回路を用いた場合における、交番電圧Voをフーリエ解析した場合の基本波と3次高調波の電圧振幅の測定データを示すものである。
横軸に交番電圧Viのパルスデューティ比、縦軸に交番電圧Voの電圧振幅を示す。
図17より、3次高調波の電圧振幅は、パルスデューティ比が50%と20%付近でピークを示している。基本波に対する3次高調波の比は、パルスデューティ比が50%の場合は31%、パルスデューティ比が20%の場合は53%である。
パルスデューティ比が20%以下では、基本波に対する3次高調波の比はさらに大きくなる。
この結果は実測データであり、高調波成分は主に3次高調波であったが、パルスデューティ比に基づいて導出される矩形波からSIN波へのフーリエ変換式によると、これ以外に5次、7次といった奇数次の高調波が生じる。
前記フーリエ変換式は、一般的な数式であるので説明は省略する。高調波信号が圧電素子101に印加される事によって、振動体501に励起される振動にも同様に高調波が生じる。
このため、進行波が乱れて、塵挨除去性能の低下と、振動振幅の増大による光学部材502の破損を招いてしまう。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑み、電気−機械エネルギー変換素子に印加する交番電圧の高調波成分を低減し、塵挨の除去性能の向上を図ることができ、
また、使用する周波数帯域での振動体の共振周波数がばらつきや駆動中の変化に対し、電気−機械エネルギー変換素子に印加する交番電圧の変動が小さく、
安定した電圧振幅を出力することが可能となる振動装置の駆動回路、塵埃除去装置及び振動型アクチュエータにおける振動装置の駆動回路の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の振動装置の駆動回路は、電気−機械エネルギー変換素子に交番電圧を印加し、前記電気−機械エネルギー変換素子に接合した弾性体と前記電気−機械エネルギー変換素子とで構成される振動体に振動波を発生させ、該振動波により対象物を駆動する振動装置の駆動回路であって、
前記電気−機械エネルギー変換素子の固有静電容量と、
前記電気−機械エネルギー変換素子に直列に接続された複数のインダクタと、 前記複数のインダクタの間に一端が接続され、且つ、前記電気−機械エネルギー変換素子に並列に接続されたキャパシタと、
によって構成された電気的な共振回路を備え、
前記電気的な共振回路は、少なくとも第1の周波数と第2の周波数とによる2つの共振周波数を有し、
前記第1の周波数をf1とし、前記第2の周波数をf2とし、前記交番電圧の周波数をfdとするとき、次式の関係を満たすことを特徴とする。

f1<fd<f2
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電気−機械エネルギー変換素子に印加する交番電圧の高調波成分を低減し、塵挨の除去性能の向上を図ることができ、
また、使用する周波数帯域での振動体の共振周波数がばらつきや駆動中の変化に対し、電気−機械エネルギー変換素子に印加する交番電圧の変動が小さく、
安定した電圧振幅を出力することが可能となる振動装置の駆動回路、塵埃除去装置及び振動型アクチュエータにおける振動装置の駆動回路を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態1、2における振動装置の駆動回路の構成例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態1における振動装置の駆動回路による塵挨除去装置が装備可能に構成されたデジタル一眼レフカメラの斜視図である。
【図3】本発明の実施形態1における圧電素子に印加される交番電圧の周波数と圧電素子に生じる各振動の振幅と、その電圧波形とを示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態1、2における振動体に励起され、長手方向に沿って面外に変形する10次の面外曲げ振動の変位、11次の面外曲げ振動の変位、および圧電素子の配置を示す図である。
【図5】本発明の実施形態1における回路素子全体のばらつきを考慮した交番電圧Voの周波数特性を示すシミュレーション結果を示す図である。
【図6】本発明の実施形態1と従来の駆動回路における、交番電圧Voの周波数特性を示すシミュレーション結果を示す図である。
【図7】本発明の実施形態1と従来の駆動回路における、交番電圧Voの出力波形を測定した図である。
【図8】本発明の実施形態1と従来の駆動回路における、駆動周波数近傍での交番電圧Voの電圧振幅の周波数特性を示す図である。
【図9】本発明の実施形態1と従来の駆動回路における塵挨除去率を測定した図である。
【図10】本発明の実施形態2における定在波駆動時の圧電素子に印加される交番電圧の周波数と圧電素子に生じる各振動の振幅と、その電圧波形を示すグラフである。
【図11】本発明の実施形態3における進行波型の振動型アクチュエータの制御装置を示した図である。
【図12】本発明の実施形態3における振動型アクチュエータの適用例を示す図である。
【図13】本発明の実施形態3におけるトランスを備えた本発明の駆動回路の構成を示す図である。
【図14】(a)は従来例の塵埃除去装置が装備されたカメラ本体の撮像部の構造を示す斜視図、(b)は従来例の塵挨除去装置の制御装置を示す図、(c)は従来例の駆動回路の構成を示す図である。
【図15】従来例の駆動回路を用いた場合における、交番電圧Voの電圧振幅の周波数特性を示す図である。
【図16】従来例の駆動回路を用いた場合における、インダクタ値に基づく交番電圧Voの電気共振の周波数変化を示す図である。
【図17】従来形の駆動回路を用いた場合における、交番電圧Voをフーリエ解析した場合の基本波と3次高調波の電圧振幅の測定データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施の形態における振動装置の駆動回路の構成例について説明する。
[実施形態1]
実施形態1として、本発明の振動装置の駆動回路を塵挨除去装置に適用し、光学機器であるカメラに搭載した構成例について説明する。
なお、本実形態ではカメラに搭載した構成例について説明するがこれに限定されるものではない。
これ以外にも、ファクシミリ装置、スキャナ、プロジェクタ、複写機、レーザビームプリンタ、インクジェットプリンタ、レンズ、双眼鏡および画像表示装置のいずれかの光学機器に備えられた塵埃除去装置における振動装置の駆動回路に適用が可能である。
本実形態の振動装置の駆動回路は、電気−機械エネルギー変換素子である圧電素子に交番電圧を印加し、該変換素子に接合した弾性体と該変換素子とで構成される振動体に振動波を発生させ、該振動波により対象物を駆動させる際の駆動回路として構成されている。
以下、これらについて更に具体的に図を用いて説明する。
図2(a)は、本実施形態における振動装置の駆動回路による塵挨除去装置が装備可能に構成されたデジタル一眼レフカメラを被写体側より見た正面側斜視図であり、撮影レンズを外した状態を示すものである。
図2(b)はカメラを撮影者側より見た背面側斜視図である。
カメラ本体201内には、不図示の撮影レンズを通過した撮影光束が導かれるミラーボックス202が設けられており、ミラーボックス202内にメインミラー(クイックリターンミラー)203が配設されている。
塵埃除去装置を備えた撮像部は、不図示の撮影レンズを通過した撮影光軸上に設けられている。
メインミラー203は、撮影者がファインダ接眼窓204から被写体像を観察するために撮影光軸に対して45°の角度に保持される状態と、撮像素子の方向へ導くために撮影光束から退避した位置に保持される状態と、を取り得る。
カメラ背面には、塵埃除去装置を駆動するためのクリーニング指示スイッチ205が設けられており、撮影者がクリーニング指示スイッチ205を押すと、塵埃除去装置を駆動するようコントローラに指示する。
【0017】
本実施形態におけるカメラ本体201の撮像部には、前述した図14(a)に示したものと基本的に同じ構成の塵埃除去装置が装備可能に構成されており、塵埃除去装置の構成については図14(a)を用いて説明する。
このカメラ本体201の撮像部では、受光した被写体像を電気信号に変換して画像データを作成するCCDやCMOSセンサ等の受光素子である撮像素子503が設けられている。
また、撮像素子503の表(おもて)面の空間が密封されるように、矩形の板状を有する振動体501が取り付けられる。
振動体501は、矩形の板状を有する光学素子502、及びその両端部に接着によって固着された電気−機械エネルギー変換素子である1対の圧電素子101a、101bから構成される。
本実施形態では、光学部材502はカバーガラス、赤外線カットフィルタ、あるいは、光学ローパスフィルタ等の透過率の高い光学部材で構成されており、撮像素子503には、この光学部材502を透過した光が入射するように構成されている。
ここで、光学部材502の両端部に配置された圧電素子101a、101bの厚み方向(図中、上下方向)の寸法は、振動に対する曲げ変形の発生力が大きくなるように、光学部材502の厚み方向(図中、上下方向)の寸法と同じ値である。
なお、以下の説明において圧電素子101a、101bを特に区別する必要がないときは、単に圧電素子101と称する。
【0018】
本実施形態における塵挨除去装置の制御装置は、駆動回路の具体的構成を除いて、前述した図14(b)に示したものと基本的には同じ構成の制御装置が構成されており、制御装置の基本構成については図14(b)を用いて説明する。
本実施形態において、制御装置コントローラ604から交番電圧信号のパラメータとなる周波数情報、位相情報、パルス幅情報がパルス発生回路603a及び603bに送られる。
パルス発生回路には、例えば一般的なデジタル発振器などが用いられる。
周波数は、振動体501に発生させる2つの面外曲げ振動の共振周波数の中間値近傍に設定され、同じ周波数がパルス発生回路603a及び603bに各々設定される。
位相は、互いに異なる値をパルス発生回路603a及び603bに入力し、出力される各交番電圧信号の位相差が90°となるように設定される。
パルス幅(パルス・デューティ比)は所望の電圧振幅が得られるよう適宜調整され、パルス発生回路603a及び603bに個別に設定される。
【0019】
パルス発生回路603から出力されたデジタルの交番電圧信号はスイッチング回路602a及び602bに入力され、電源回路605より供給される電圧に基づいてアナログの交番電圧Viとして出力される。
電源回路には、一般的な直流電源回路、DC−DCコンバータ回路などが用いられる。また、スイッチング回路には、一般的なHブリッジ回路が用いられる。
交番電圧Viは駆動回路601a及び601bに各々入力されて、電圧振幅が昇圧、且つSIN波形に変換されてから交番電圧Voとして出力される。
交番電圧Voは圧電素子101a及び101bに各々印加され、振動体501に2つの面外曲げ振動が同時に発生する。この合成振動が進行波となり、光学部材502の表面の塵埃を所望の方向に移動させることができる。
【0020】
つぎに、本実施形態の制御装置における駆動周波数の設定について説明する。図3(a)は圧電素子101に印加される交番電圧の周波数と圧電素子101に生じる各振動の振幅を示すグラフである。
図中、f(m)はm次の面外曲げ振動の共振周波数であり、f(m+1)は(m+1)次の面外曲げ振動の共振周波数である。
圧電素子101に印加される交番電圧の周波数fdをf(m)<fd<f(m+1)に設定すると、m次の面外曲げ振動と(m+1)次の面外曲げ振動それぞれの共振現象によって振幅が拡大された、周波数fdの振動が得られる。各振動の時間周期は同じである。
一方、圧電素子101に印加される交番電圧の周波数fdをf(m)より低くするほど(m+1)次の面外曲げ振動の振幅が小さくなり、周波数fdをf(m+1)より高くするほどm次の面外曲げ振動の振幅が小さくなる。
【0021】
図4は、振動体501に励起され、長手方向に沿って面外に変形する10次の面外曲げ振動の変位、11次の面外曲げ振動の変位、および圧電素子101a、101bの配置を示す図である。
横軸は振動体501の長手方向の位置である。縦軸は面外の振動変位である。
図中、10次の面外曲げ振動を第1の振動モードとして波形A(実線)で示し、11次の面外曲げ振動を第2の振動モードとして波形B(破線)で示している。第1の振動モードA及び第2の振動モードBは、振動体501を光学部材502の厚さ方向へ曲げ変形させる面外曲げ振動モードである。
上述した交番電圧Voを圧電素子101a及び101bに各々印加することにより、第1の振動モードA及び第2の振動モードBの振動が、振動体501に同時に発生する。
尚、本実施形態では、塵埃を除去するための最低限必要な振動モードとして、第1の振動モードとして10次の曲げ振動モードを、第2の振動モードとして11次の曲げ振動モードを用いているが、これに限定されるものではない。
ここで、撮像素子503に対応する光学有効部は図中に示す範囲とする。
第1の振動モードAの変形形状は、左端と右端で逆相(位相差180°)となっている。一方、第2の振動モードBの変形形状は、左端と右端で同相(位相差0°)となっている。
つまり、圧電素子101aと圧電素子101bに印加する交番電圧の位相差を180°とすれば第1の振動モードAのみが発生し、逆に位相差を0°とすれば第2の振動モードBのみが発生する。
したがって、位相差を90°とすれば第1の振動モードAと第2の振動モードBを同時に発生させることができ、合成振動による進行波が図中右方向に生じる。
【0022】
図3(b)は、次数の異なる振動モードを同時に励起する際に各圧電素子に印加する交番電圧の例を示す図である。
交番電圧Vo1は圧電素子101aに印加する電圧波形、交番電圧Vo2は圧電素子101bに印加する電圧波形を示す。縦軸は電圧振幅であり、横軸は時間を示す。
交番電圧Vo1及びVo2の周波数は前述のfdで一定であり、各交番電圧の位相差は90°である。但し、各交番電圧の位相は異なっていれば良く、位相差は90°に限定されない。
【0023】
塵埃除去装置では、光学部材502の表面に付着した塵埃は、光学部材502が塵埃を面外に突き上げる時、光学部材502の表面の法線方向の力を受けて弾かれるように移動していく。
つまり、駆動周波数周期の各位相で、振動体501の合成振動変位の速度が正であるとき塵埃は面外に突き上げられ、この位相における合成振動変位の法線方向の力を受け、塵埃は移動していく。
光学部材502の有効部の表面に付着している塵埃に繰り返し振動を与えることで、塵埃を図中右方向に移動させ、除去することが可能である。
【0024】
図1を用いて、本実施形態における本発明の特徴的構成を適用した駆動回路の具体的構成について説明する。
図1(a)は塵埃除去装置に適用可能な駆動回路を示す図である。
駆動回路の構成として、2つのインダクタ102a及び102bが圧電素子101に直列に(つまり電気−機械エネルギー変換素子に直列に)接続されている。さらに、前記2つのインダクタの間に一端が接続され、且つ圧電素子101と並列にキャパシタ103が接続されている。
そして、これらにより電気的な共振回路が構成されている。
ここで、インダクタ102a及び102bとしては、コイル等のインダクタンス素子を用いることができる。
また、キャパシタ103としてはフィルムコンデンサ等の静電容量素子を用いることができる。
ここでの特徴は、インダクタ102a及び102bとキャパシタ103、そして圧電素子101の固有静電容量301aとによる回路の電気的な共振を2つ生成し、これらの電気共振の間に駆動周波数を設定することにある。
【0025】
ここで、圧電素子101の等価回路について図1(b)を用いて説明する。
図1(b)は、圧電素子101を等価回路で表わしたものである。
圧電素子101の等価回路は、振動体501の機械的振動部分のRLC直列回路(自己インダクタンスLmの等価コイル301b、静電容量Cmの等価コンデンサ301c、抵抗値Rmの等価抵抗301d)と、RLC直列回路に並列に接続された圧電素子101の固有静電容量Cdのコンデンサ301aと、により構成される。
【0026】
以下に、図1を用いて、2つのインダクタ102a及び102bとキャパシタ103の設計方法について説明する。
本実施形態では、インダクタ102aは135μH、インダクタ102bは180μH、キャパシタ103は17nFに設定した。
本設計値は、圧電素子101の固有静電容量Cdと、振動体501の共振周波数f(m)及びf(m+1)によって変わるので、これらを定義する。
ここでは、圧電素子101の固有静電容量Cdは10.78nF、f(m)は120kHz、f(m+1)は128kHzとした。
また、駆動周波数fdは123kHzとした。
【0027】
設計の第1ステップとして、キャパシタ103のキャパシタンス値を決定する。
2つのインダクタンス値は予め設定した適当な値を用いて、所望の昇圧率になるようにキャパシタンス値を調整する。
昇圧率の点から、キャパスタンスの値は圧電素子101の固有静電容量Cdと同じ大きさの値、またはそれよりも大きい値にすることが望ましい。
キャパスタンス値が大きいほど、昇圧率は大きい傾向にある。
尚、キャパシタンス値が大きいほど2つのインダクタンス値を小さく設定でき、逆にキャパシタンス値が小さいほど2つのインダクタンス値は大きく設定する必要がある。
例えば、キャパシタ103を28nFに設定すると、インダクタ102aは95μH、インダクタ102bは120μHとなる。
キャパシタンス値を設定すると、第1の共振周波数であるf1と第2の共振周波数であるf2とによる2つの電気的な共振周波数が生じるので、次にこれらの周波数の調整を行う。
【0028】
設計の第2ステップとして、2つのインダクタ102a及び102bのインダクタンス値を決定する。
2つのインダクタは、電気共振f1及びf2の周波数に基づいて調整する。
インダクタ102aのインダクタンス値によってf1を調整することができ、インダクタ102bのインダクタンス値によってf2を調整することができる。
尚、インダクタンス値はインダクタ102aよりインダクタ102bの方を大きくすることによって、f1とf2を所望の周波数に調整することができる。
また、キャパシタ103のキャパシタンス値によって、f1とf2の両方を同一方向にシフトすることもできる。
前記調整方法によって、駆動周波数fdが、次式の関係を満たすように2つのインダクタンス値を決定する。

f1<fd<f2

本実施形態では、f1が72.5kHz、f2が165kHzとなるように設定した。
f1とf2をfdに対して各々50kHz程度の差を設けているのは、インダクタとキャパシタのばらつきによって電気共振の周波数が変動するので、この影響を受けないようにする為である。
さらに、周波数差を大きくしても良いが、昇圧率は低下する傾向にある。
尚、駆動周波数fdに対するf1とf2の周波数差をほぼ均等に設けることで、fd近傍における電圧振幅の変化をなだらかにする事ができる。
【0029】
図5は、本発明の実施形態における、回路素子全体のばらつきを考慮した交番電圧Voの周波数特性を示すシミュレーション結果である。
横軸に周波数(60kHz〜180kHz)、縦軸に電圧振幅(10V〜1MV)を示す。
インダクタ102a及び102bのばらつきは±20%、キャパシタ103のばらつきは±10%、圧電素子の固有静電容量Cdのばらつきは±10%として、モンテカルロ法による一様分布の乱数計算を行った。
図より、f1は設計値に対して±5kHz、f2は±10kHzの変動が生じている。
したがって、交番電圧Voの電圧振幅がこれらの変動の影響を受けないように、fdに対して各々50kHz程度の差を設けた。図より、駆動周波数fd近傍において、交番電圧Voの周波数特性をなだらかにすることが可能となる。
従って、振動体501の共振周波数がばらつく場合や駆動中に変化する場合においても、圧電素子に印加される交番電圧の変動は小さく、安定した電圧振幅が出力される。
【0030】
図6に、本実施形態と従来例の駆動回路における比較例として、交番電圧Voの周波数特性を示すシミュレーション結果を示す。
横軸に周波数(50kHz〜400kHz)、縦軸に電圧振幅(0V〜150V)を示す。
比較のため、図14(c)の従来の駆動回路を用いた場合の結果も併せて示した。
図中、従来例1はインダクタが40μHの場合、従来例2はインダクタが60μHの場合の結果である。
本実施形態の振動体501は2つの面外曲げ振動を用いており、共振周波数fmはf(m)とf(m+1)の2つとなる。
このシミュレーションでは、等価コイル301bの自己インダクタンスLmを0.04H、等価コンデンサ301cの静電容量Cmを44pFとした。
また、f(m)は120kHz、f(m+1)は128kHz、駆動周波数fd=123kHzとした。
本発明の実施形態として、インダクタ102aは135μH、インダクタ102bは180μH、キャパシタ103は17nFに設定した。
図6より、駆動周波数fdの3次高調波周波数である369kHzにおいて、本実施形態では電圧振幅が大幅に低減されている事がわかる。具体的には、従来例1の1/50となった。
【0031】
図7は、本実施形態と従来例の駆動回路における、交番電圧Voの出力波形を測定したものである。横軸は時間、縦軸は電圧振幅を示す。
図7(a)は交番電圧Viのパルスデューティ比を30%に設定した場合の結果であり、従来例1と本実施形態の波形を比較している。
従来例1の波形は3次高調波の影響によって、SIN波形に歪みが生じているが、本実施形態では理想的なSIN波形が得られた。
また、図7(b)は交番電圧Viのパルスデューティ比を10%に設定した場合の結果である。
従来例1の波形は3次高調波の影響によってさらに歪みが増大しているが、本実施形態では理想的なSIN波形を示している。よって、本実施形態における高調波を低減する効果を実験的に確認することができた。
【0032】
図8は、本実施形態と従来例の駆動回路における、駆動周波数近傍での交番電圧Voの電圧振幅の周波数特性を示すものである。
横軸に周波数(100kHz〜150kHz)、縦軸に電圧振幅(0V〜150V)を示す。
図8に示されるように、本実施形態では、fd近傍と、f(m)及びf(m+1)近傍での交番電圧Voの周波数特性をなだらかにすることが可能となる。
つまり、振動体501の共振周波数の変化に対して安定した電圧が印加される。例えば駆動中に共振周波数f(m+1)が時間の経過に伴って低下していく場合、従来例では交番電圧振幅が増大し、駆動電流が上昇してしまうが、本発明ではその変化を低減することが可能となる。
【0033】
従来例のように、fm近傍で交番電圧Voの振幅変化が生じる原因は、振動体501の機械的振動部分の自己インダクタンスLmと静電容量Cmによってインピーダンスの変化が生じているためである。
これに対して、本実施形態では、2つの電気共振の間の周波数を用いることによって、振動体501の機械的振動部分のインピーダンス変化の影響を緩和することができる。よって、結果として交番電圧Voの振幅変化を低減することができるものと考えられる。
【0034】
図9は、本実施形態と従来例の駆動回路において、塵挨の除去率を測定したものである。横軸に駆動回数、縦軸に塵挨除去率を示す。
本実施形態での測定では、実験用の粉体を光学部材の表面に付着させ、所定の休止期間を設けながら断続的に同様の条件で駆動を行い、その駆動回数毎に光学有効部の粉体の除去率を測定したものである。
除去率の目標値は95%以上として、これを除去性能の指標とした。
比較のため、理想的なSIN波形を示すアンプ発振器で駆動した場合と、従来例1で駆動した場合も同様に測定した。図より、従来例1は8回駆動しても除去率は95%に達しなかった。
それに対して、本実施形態では3回駆動で除去率は95%を超えており、アンプ発振器と同様の除去性能を示すことができた。
【0035】
[実施形態2]
実施形態2として、本発明の振動装置の駆動回路を塵挨除去装置に適用した実施形態1とは異なる形態の振動装置の駆動回路の構成例について説明する。
本実施形態の構成は、振動体501に2つの振動モードが交互に励起される点が実施形態1と異なる。
尚、塵挨除去装置の駆動回路は実施形態1と同じであり、制御装置におけるコントローラの周波数情報と位相情報の設定方法に特徴を有している。
図1を用いて、本実施形態の駆動回路を説明する。
図1(a)は第2の実施形態における塵埃除去装置の駆動回路を示す図である。駆動回路の構成として、2つのインダクタ102a及び102bが圧電素子101に直列に(つまり電気−機械エネルギー変換素子に直列に)接続されている。さらに、前記2つのインダクタの間に一端が接続され、且つ圧電素子101と並列にキャパシタ103が接続されている。
ここで、インダクタ102a及び102bとしては、コイル等のインダクタンス素子を用いることができる。
また、キャパシタ103としてはフィルムコンデンサ等の静電容量素子を用いることができる。
本実施形態の特徴は、インダクタ102a及び102bとキャパシタ103、そして圧電素子101の固有静電容量301aとによる回路の電気的な共振を2つ生成し、これらの電気共振の間に駆動周波数を設定することにある。
【0036】
本実施形態では、インダクタ102aは130μH、インダクタ102bは200μH、キャパシタ103は14nFに設定した。
本設計値は、圧電素子101の固有静電容量Cdと、振動体501の共振周波数f(m)及びf(m+1)に基づいて決定した。
圧電素子101の固有静電容量Cdは10.78nF、f(m)は120kHz、f(m+1)は128kHzとした。駆動周波数fdは150kHzから100kHzの領域でスイープするものとして、次式の関係を満たすように、f1とf2を設定した。

f1<fd<f2

ここで、f1とf2は本発明の駆動回路において生成される回路の電気的な共振周波数である。
本実施形態では、f1が72.5kHz、f2が165kHzとなるように、インダクタ102a及び102bとキャパシタ103を各々決定した。
【0037】
図10(a)は、圧電素子に印加される交番電圧の周波数と圧電素子に生じる各振動の振幅を示すグラフである。
ここで、f(m)はm次の面外曲げ振動の共振周波数であり、f(m+1)は(m+1)次の面外曲げ振動の共振周波数である。
図中、f(m)を逆相駆動によって励起される10次の面外曲げ振動モード(第1の定在波よる振動モード)、f(m+1)を同相駆動によって励起される11次の面外曲げ振動モード(第2の定在波による振動モード)とする。
本実施形態では、この2つの振動モードの定在波を交互に励起して、光学部材の表面に付着した塵埃を除去する。
【0038】
図4は、振動体501に励起され、長手方向に沿って面外に変形する10次の面外曲げ振動の変位、11次の面外曲げ振動の変位、および圧電素子101a、101bの配置を示す図である。
横軸は振動体501の長手方向の位置である。縦軸は面外の振動変位である。図中、10次の面外曲げ振動を第1の振動モードとして波形A(実線)で示し、11次の面外曲げ振動を第2の振動モードとして波形B(破線)で示している。
第1の振動モードA及び第2の振動モードBは、振動体501を光学部材502の厚さ方向へ曲げ変形させる面外曲げ振動モードである。第1の振動モードAの変形形状は、左端と右端で逆相(位相差180°)となっている。
一方、第2の振動モードBの変形形状は、左端と右端で同相(位相差0°)となっている。
つまり、圧電素子101aと圧電素子101bに印加する交番電圧の位相差を180°とすれば第1の振動モードAのみが共振状態で励起され、逆に位相差を0°とすれば第2の振動モードBが励起される。
【0039】
図10(b)は、次数の異なる2つの定在波振動を交互に励起する際に各圧電素子に印加する交番電圧の例を示す図である。
制御装置は、図14(b)で説明したものを用いる。交番電圧Vo1は圧電素子101aに印加する電圧波形、交番電圧Vo2は圧電素子101bに印加する電圧波形を示す。縦軸は電圧振幅であり、横軸は時間を示す。
上記2つの振動モードの振動を交互に生成するため、まず、振動体501の10次の曲げ振動モードの固有振動数近傍の周波数を有し、位相差が180°となる交番電圧を圧電素子101a、101bに印加する(逆相駆動)。
このような交番電圧を印加することにより、振動体501に10次の曲げ振動モードが励起される。
所定の時間、10次の曲げ振動モードを励起した後、次に、振動体501の11次の振動モードの固有振動数近傍の周波数を有し、位相差が0°となる交番電圧を圧電素子101a、101bに印加する(同相駆動)。
このような交番電圧を印加することにより、振動体501に11次の曲げ振動モードが励起される。以上の駆動を繰り返すことにより、10次と11次の面外曲げ振動モードの振動が交互に励起される。
上記駆動の際の交番電圧Vo1及びVo2は、同図に示すように、各固有振動数近傍で、高周波側から徐々に低周波側に掃引していくと良い。交番電圧の周波数は、振動体501の固有振動数の近傍とすることで、小さな印加電圧でも大きな振幅を得ることができ、効率が良くすることができる。
【0040】
このように、振動体501に第1の振動モードの振動を生じさせることにより、第1の振動モードの振動の腹位置の光学部材502に付着した塵埃を剥離する機能を有する。
具体的には、第1の振動モードの振動によって、光学部材502に付着した塵埃の付着力以上の加速度が、塵埃に加えられたとき、塵埃は光学部材502から剥離される。
更に、振動体501に第2の振動モードの振動を生じさせることにより、第1の振動モードの振動の節近傍の光学部材502に付着した塵埃を剥離する機能を有する。
次数の異なる定在波を励起しているのは、2つの定在波の節の位置をずらして、光学部材502に振幅が生じない個所を設けないためである。
尚、上記交番電圧を圧電素子101a、101bの一方にのみ印加することで、塵埃除去装置の振動体501に1つの面外曲げ振動の定在波を励起させても良い。
【0041】
[実施形態3]
実施形態3として、本発明の振動装置の駆動回路を振動型アクチュエータに適用した構成例について説明する。
本発明の振動装置の駆動回路は、実施形態1、実施形態2に示した塵挨除去装置以外にも広く適用することができる。例えば、振動型アクチュエータに備えられる振動装置の駆動回路にも適用することができる。
図11は、本発明の振動装置の駆動回路を適用した振動型アクチュエータの制御装置を示したものである。
速度偏差検出器401には、エンコーダ等の速度検出器407で得られた速度信号と、不図示のコントローラからの目標速度と、が入力され、速度偏差信号が出力される。
速度偏差信号はPID補償器402に入力され、制御信号として出力される。PID補償器402から出力された制御信号は、駆動周波数パルス発生器403に入力される。
駆動周波数パルス発生器403から出力された駆動周波数パルス信号は、駆動回路404に入力され、位相が90°異なる2相の交番電圧が出力される。
交番電圧は、位相が90°ずれた2相の交番信号である。
駆動回路404から出力された交番電圧は振動型アクチュエータ405の電気−機械エネルギー変換素子に入力され、振動型アクチュエータ405の移動体は一定速度で回転する。
振動型アクチュエータ405の移動体に連結された被駆動体406(ギヤやスケール、シャフト等)は回転駆動され、前記速度検出器407によって回転速度が検出され、回転速度が常に目標速度に近づくようにフィードバック制御される。 図12は、振動型アクチュエータの適用例を示すものである。
振動型アクチュエータは、発生する振動の種類によって定在波型と進行波型とに分けられる。
まず、本発明の駆動回路を進行波型の振動型アクチュエータに適用した例について説明する。
進行波型の振動型アクチュエータは、振動体が、第1の電気−機械エネルギー変換素子と第2の電気−機械エネルギー変換素子と、この第1及び第2の電気−機械エネルギー変換素子に接合した弾性体とで構成される。
そして、この振動体に、次数の異なる第1の定在波と第2の定在波を同時に発生させるように交番電圧の周波数を設定する。
それと共に、第1及び第2の電気−機械エネルギー変換素子に印加されるそれぞれの交番電圧の位相を異ならせるように構成されている。
【0042】
図12(a)は進行波型の振動型アクチュエータを示す斜視図である。
振動型アクチュエータは、電気−機械エネルギー変換素子である圧電素子101と弾性体801とから成る振動体501と、移動体802と、を備える。
ハウジングに固定された弾性体801は振動振幅を拡大する為の複数の突起部803が設けられており、突起部803は移動体802の駆動部として作用する。移動体802はゴムを介して加圧バネとディスクによって図面下側方向に加圧接触されている。
各部材は円環形状を為している。圧電素子101に2相の交番電圧が印加されると、振動体501に進行波が発生し、振動体501に接触する移動体802は摩擦駆動によって振動体と相対的に回転する。
ハウジングと転がり軸受を介して接続された出力軸は移動体802に固定されており、移動体802の回転に伴って回転する。
【0043】
上記進行波型の振動型アクチュエータを例に、本実施形態の駆動回路について説明する。
図13はトランスを備えた本発明の駆動回路の構成を示すものである。
本振動型アクチュエータは、400Vpp〜500Vppの高電圧の交番信号を圧電素子に印加して駆動する為、一般的にトランスを用いて昇圧する。
例えば、巻線比が10のトランスを用いれば、電源電圧24Vから480Vppの出力が得られる。
駆動回路に入力される交番電圧Viは、トランス701の1次側コイル701aに印加され、トランス701の1次側コイル701aと2次側コイル701bの巻線比に応じて昇圧される。
トランスの2次側コイル701bには、2つのインダクタ102a及び102bが直列に接続され、さらにキャパシタ103が圧電素子101に並列に接続されている。
トランス701の2次側において、交番電圧信号に含まれる高調波が低減され、且つ、駆動周波数近傍で変動の少ない交番電圧Voとなり、圧電素子101に印加される。
ここで、振動体の共振周波数f(m)は45kHz、圧電素子101の固有静電容量は3.5nFとする。
駆動周波数fdは47kHzから50kHzの領域で速度偏差信号に基づき周波数制御される。
【0044】
本実施形態の駆動回路において生成される回路の電気的な共振周波数f1とf2は、

f1<fd<f2

となるようにインダクタ102a及び102bとキャパシタ103は設定される。
本実施形態の駆動回路を用いれば、圧電素子に印加される交番電圧Voの高調波を大幅に低減し、且つ駆動周波数近傍で変動の少ない安定した電圧振幅を得る事ができる。
これによって、高調波周波数に起因した振動型アクチュエータの不要振動や騒音の抑制、さらに駆動効率や制御性能の向上といった効果を得る事ができる。
【0045】
また、定在波型の振動型アクチュエータにも本発明の駆動回路を同様に適用することができる。
定在波型の振動型アクチュエータでは、振動体は第1の電気−機械エネルギー変換素子と第2の電気−機械エネルギー変換素子と、この第1及び第2の電気−機械エネルギー変換素子に接合した弾性体とで構成される。
そして、この振動体に、次数の異なる第1の定在波と第2の定在波を時間的に切替えて発生させるように交番電圧の周波数を設定する。
それと共に、この第1及び第2の電気−機械エネルギー変換素子に印加されるそれぞれの交番電圧の位相差を0°又は180°に設定するように構成されている。
【0046】
図12(b)は、定在波型の振動型アクチュエータの基本的な構成を示す斜視図である。
図に示すように、この振動型アクチュエータの振動子は、矩形の板状に形成された金属材料から成る弾性体801を備え、弾性体801の裏面には圧電素子101が接合されている。
弾性体801の上面の所定位置には、複数の突起部803が設けられている。
この構成によれば、圧電素子101に交番電圧を印加することにより、弾性体801の長辺方向における2次の屈曲振動と、弾性体801の短辺方向における1次の屈曲振動とが同時に発生し、突起部803に楕円運動が励起される。
そして、突起部803に移動体802を加圧接触させることにより、移動体802を突起部803の楕円運動によって直線的に駆動することができるようになっている。つまり、突起部803がこの振動体の駆動部として作用する。
【0047】
図12(c)は、カメラレンズのオートフォーカス駆動などに用いられる、棒状の振動型アクチュエータの分解斜視図である。
振動型アクチュエータは、振動体501と、移動体802と、を備えている。
振動体501には、摩擦材料を兼ねた第1の弾性体801a、電気−機械エネルギー変換素子である圧電素子101への給電用のフレキシブルプリント基板804、第2の弾性体801bが設けられている。
これら部材は、シャフト805の突き当てフランジ部805aとシャフト805下部のネジ部805bに嵌る下ナット806で挟み、加圧締結されている。
移動体802は、接触ばね807がロータ808に接着固定されている。これにより、移動体802は、フランジ809の軸受部によって回転自在に支持された出力ギア810と加圧ばね811によって振動体501の摩擦面812に加圧接触されている。
移動体802の接触ばね807は、下端面が移動体の摩擦面として振動体の第1の弾性体の摩擦面812と当接している。
フレキシブルプリント基板804を介して、不図示の電源から圧電素子101に交番電圧を印加する。
それにより第1の弾性体801aの摩擦面には直交する2方向の1次の曲げ振動が励起され、時間位相π/2を持って重ね合せることによって、摩擦面812に回転楕円運動を生じさせる。
これにより、摩擦面に加圧接触する接触ばね807を振動体501に対して相対移動させる。
【符号の説明】
【0048】
101:圧電素子
102:インダクタL
103:キャパシタC
201:カメラ本体
301a:振動体の固有静電容量Cd
301b:機械的な振動の等価回路定数Lm
301c:機械的な振動の等価回路定数Cm
301d:機械的な振動の等価回路定数Rm

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気−機械エネルギー変換素子に交番電圧を印加し、前記電気−機械エネルギー変換素子に接合した弾性体と前記電気−機械エネルギー変換素子とで構成される振動体に振動波を発生させ、該振動波により対象物を駆動する振動装置の駆動回路であって、
前記電気−機械エネルギー変換素子の固有静電容量と、
前記電気−機械エネルギー変換素子に直列に接続された複数のインダクタと、
前記複数のインダクタの間に一端が接続され、且つ、前記電気−機械エネルギー変換素子に並列に接続されたキャパシタと、
によって構成された電気的な共振回路を備え、
前記電気的な共振回路は、少なくとも第1の共振周波数と第2の共振周波数とによる2つの共振周波数を有し、
前記第1の共振周波数をf1とし、前記第2の共振周波数をf2とし、前記交番電圧の周波数をfdとするとき、次式の関係を満たすことを特徴とする振動装置の駆動回路。

f1<fd<f2
【請求項2】
前記複数のインダクタのインダクタンス値は互いに異なり、前記電気−機械エネルギー変換素子の一端に接続されたインダクタのインダクタンスの値が他のインダクタより大きいことを特徴とする請求項1に記載の振動装置の駆動回路。
【請求項3】
前記キャパシタの値は、前記電気−機械エネルギー変換素子の固有静電容量と同じ大きさの値、またはそれよりも大きい値を有していることを特徴とする請求項1に記載の振動装置の駆動回路。
【請求項4】
前記振動体は、第1の電気−機械エネルギー変換素子と第2の電気−機械エネルギー変換素子と、前記第1及び第2の電気−機械エネルギー変換素子に接合した弾性体とで構成され、
前記振動体に、次数の異なる第1の定在波と第2の定在波を同時に発生させるように前記交番電圧の周波数を設定すると共に、
前記第1及び第2の電気−機械エネルギー変換素子に印加されるそれぞれの前記交番電圧の位相を異ならせることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振動装置の駆動回路。
【請求項5】
前記振動体は第1の電気−機械エネルギー変換素子と第2の電気−機械エネルギー変換素子と、前記第1及び第2の電気−機械エネルギー変換素子に接合した弾性体とで構成され、
前記振動体に、次数の異なる第1の定在波と第2の定在波を時間的に切替えて発生させるように前記交番電圧の周波数を設定する共に、
前記第1及び第2の電気−機械エネルギー変換素子に印加されるそれぞれの前記交番電圧の位相差を0°又は180°に設定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の振動装置の駆動回路。
【請求項6】
前記弾性体は、光を透過する光学部材で構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の振動装置の駆動回路。
【請求項7】
前記対象物が粉体であり、前記振動波により前記粉体を移動させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の振動装置の駆動回路。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の振動装置の駆動回路が、前記振動波により前記対象物である塵埃を移動させて除去する塵埃除去装置における振動装置の駆動回路を構成していることを特徴とする振動装置の駆動回路。
【請求項9】
前記塵埃除去装置における振動装置の駆動回路が、
カメラ、ファクシミリ装置、スキャナ、プロジェクタ、複写機、レーザビームプリンタ、インクジェットプリンタ、レンズ、双眼鏡および画像表示装置のいずれかの光学機器に備えられた塵埃除去装置における振動装置の駆動回路を構成していることを特徴とする振動装置の駆動回路。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の振動装置の駆動回路が、
前記振動波により前記対象物である移動体を前記振動体に対して相対的に移動させる振動型アクチュエータにおける前記振動体の駆動回路を構成していることを特徴とする振動装置の駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−231595(P2012−231595A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98141(P2011−98141)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】