説明

排水中の油分測定方法

【課題】排水中に混入した油分の濃度を高精度で且つ直ちに測定し得る排水中の油分測定方法を提供する。
【解決手段】油分測定方法では、排水中に挿入した採取管(1)により排水を採取し、当該採取管の下流側に付設された油分測定器(3)により油分濃度を測定する。油分測定器(3)として、採取管(1)の壁面に取り付けられた一対の窓部材、各窓部材の外側に配置された発光部および受光部を備え、かつ、各窓部材が採取管の内部に突出した構造の測定器を使用する。そして、採取管(1)に特定の流速で排水を流しながら、受光部で検出された光の強度に基づいて油分濃度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水中の油分測定方法に関するものであり、詳しくは、排水中に混入した微量の油分濃度を光方式の測定器によって検出する排水中の油分測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、オリマルジョン油は、オリノコタールをエマルジョン化した燃料油であり、通常はボイラ用として使用される。オリマルジョン油は、水中に溶け込み易く且つ揮発性ガスを発生しない性質を有しており、環境保全の観点から、排水への漏洩を十分に管理する必要がある。ポンプの軸受け部分やオリマルジョン加熱器の損傷により加熱管から漏洩し、排水に混入した上記のオリマルジョン油の濃度を測定する方法としては、例えば、水中に微粒子状で浮遊しているオリマルジョン油を半透明メッシュベルトに付着させ、オリマルジョン油の付着したベルトを画像処理することにより、オリマルジョン油の濃度を測定する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2003−83838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述の測定方法においては、排水中のオリマルジョン油を半透明メッシュベルトに付着させて検知するため、排水に浮遊するゴミや泥分などの他の不純物の影響を受け易く、高い精度を得られないと言う問題がある。また、測定の都度、メッシュベルトにより試料を作成しなければならないため、排水を常時監視する恒常的なシステムとして採用し難いと言う問題がある。
【0004】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、排水に浮遊するゴミや流れ込んできた泥分などの他の不純物の影響を受けることなく、排水中の油分の濃度を高精度に且つ直ちに測定でき、排水中への油分の混入を連続的に監視し得る排水中の油分測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明では、排水中に放射した光の強度に基づいて油分濃度を測定する光方式の油分測定器を使用して排水中の油分濃度を測定するに当たり、排水中に採取管を挿入して排水を汲み上げ、採取管において検出を行うことにより、水面の浮遊物による測定器の誤動作および測定器への汚れの付着を低減すると共に、油分測定器において、発光部および受光部を保護する窓部材が採取管内部に突出した構造を採用することにより、窓部材への油分の付着を防止し、しかも、採取管において試料である排水を一定流速で流すことにより、測定器の窓部材への油分の付着を防止しつつ、高精度な油分濃度の測定を可能にした。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、排水中に混入した油分の濃度を測定する方法であって、排水中に挿入した採取管により排水を採取し、当該採取管の下流側に付設された油分測定器により油分濃度を測定するに当たり、前記油分測定器として、前記採取管の直径に沿って対向して当該採取管の壁面に取り付けられた一対の窓部材と、一方の前記窓部材の外側に配置され且つ他方の前記窓部材へ向けて光を放射する発光部と、前記他方の窓部材の外側に配置され且つ放射された光を感知する受光部とが備えられ、かつ、前記各窓部材が前記採取管の内部に突出した構造の検知器を使用し、前記採取管に流速0.5〜5m/secで排水を流しながら、前記受光部で検出された光の強度に基づいて油分濃度を測定することを特徴とする排水中の油分測定方法に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る油分測定方法によれば、排水中に採取管を挿入して試料としての排水を採取すると共に、発光部および受光部を保護する各窓部材が採取管内部に突出した特定構造の油分測定器を使用し、しかも、採取管に一定流速で排水を流しながら、排水中に放射した光の強度に基づいて油分濃度を測定するため、水面に浮遊するゴミや泥分などの他の不純物の影響を受けることがなく、測定器の窓部材へ油分が付着することがなく、排水中の油分の濃度を高精度に且つ直ちに測定でき、そして、排水中への油分の混入を長期に渡って連続的に監視することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る排水中の油分測定方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、排水溝に適用した場合の本発明に係る排水中の油分測定方法を示す縦断面図であり、図2は、本発明に適用される光方式の油分測定器の概念を採取管の長さに直交する断面で示す縦断面図である。なお、以下の説明においては、排水中の油分測定方法を「測定方法」と略記する。
【0009】
本発明の測定方法は、排水中に混入した微量の油分(微粒子状の油)の濃度を測定する方法であり、例えば、ボイラーを使用する各種の工場から排出される排水中のオリマルジョン油の検出に適用される。測定場所としては、オリマルジョン移送ポンプの軸受け部分から漏洩した際に漏れ込むオイルセパレータ部分や、オリマルジョン加熱器を通過したドレン水が放流されるオイルセパレータ部分の他、排水貯槽や排水貯留池が挙げられる。本発明は、例えばオリマルジョン油の漏洩管理に適用されるが、その場合の検出すべき油分の濃度(管理濃度)は、油分が漏洩した場合の環境に対する影響を考慮し、オリマルジョン油の場合で通常は500ppm、好ましくは100ppmに設定される。
【0010】
本発明においては、図1に示す様に、例えば工場内に敷設された排水溝(4)の排水中に挿入した採取管(1)により排水を採取し、当該採取管の下流側に付設された油分測定器(3)により油分濃度を測定する。
【0011】
排水中に採取管(1)を直接挿入して試料としての排水を採取する場合、採取管(1)の先端の採取口は、通常、水面から10cm以下、好ましくは20cm以下の深さであって且つ底からの高さが10cm以上の範囲となる様に位置させる。これにより、排水の水面に浮遊しているゴミや流れ込んできた排水溝(4)底部の泥分などの他の不純物が試料に同して採取管(1)に流入するのを低減できる。そして、排水の採取においては、採取管(1)の下流側に接続されたポンプ(2)を使用し、測定すべき排水を採取管(1)に吸引する。
【0012】
排水を採取する場合、採取管(1)における流速は、ポンプ(2)の流量を調節することにより、通常は0.5〜5m/sec、好ましくは1〜3m/secに設定される。採取管(1)における流速を上記の範囲に設定する理由は次の通りである。すなわち、流速が0.5m/sec未満の場合は、後述する油分測定器(3)の窓部材(31)及び(32)の先端に油分が付着し、長期に渡って測定することが出来ない。これに対し、流速を0.5m/sec以上に設定することにより、上記の窓部材(31)及び(32)への油分や汚れの付着を防止することが出来る。一方、流速が5m/secを超えた場合は、管内壁でオリマルジョン粒子が剪断を受け、エマルジョンが壊れることによりタール化するため、流速が小さい場合と同様に、窓部材(31)及び(32)への油分の付着が発生し、測定誤差が大きくなる。
【0013】
本発明においては、上記の採取管(1)の下流側、通常はポンプ(2)の下流側に付設された光方式の油分測定器(3)により排水中の油分をインラインで検出する。上記の油分測定器(3)としては、図2に示す様に、採取管(1)の直径に沿って対向配置され且つ当該採取管の壁面に取り付けられた一対の窓部材(31)、(32)と、一方の窓部材(31)の外側(採取管(1)の外側)に配置され且つ他方の窓部材(32)へ向けて光を放射する発光部(34)と、他方の窓部材(32)の外側(採取管(1)の外側)に配置され且つ放射された光を検出する受光部(35)とが備えられた測定器を使用する。
【0014】
油分測定器(3)において、窓部材(31)及び(32)は、各々、基端部が拡径された2段円筒状の透明なガラス製ブロックから構成され、採取管(1)の周面に対向して設けられた装着穴に対し、シール材を介して気密に取り付けられる。すなわち、油分測定器(3)は、各窓部材(31)及び(32)の先端が採取管(1)の内部に突出した構造を備えている。上記の様な窓部材(31)及び(32)の突出構造により、流水との接触によるクリーニング効果によって窓部材(31)及び(32)先端への油分の付着を防止でき、長期間メンテナンスフリ−で精度良く測定できる。更に、採取管(1)内部に突出する各窓部材(31)及び(32)の先端面は、油分を含む汚れの付着を一層確実に防止するため、凸面状に膨出した形状に形成されるのが好ましい。
【0015】
発光部(34)の光源としては、特に限定されないが、通常はタングステンランプ、ハロゲンランプ、半導体レーザー、LED等の光源が使用される。本発明においては、特に、波長0.8〜2.5μmのいわゆる近赤外線を放射可能な光源が好ましい。発光部(34)として近赤外線領域の光源を使用することにより、窓部材(31)及び(32)に付着する排水中の微量の藻の繁殖を抑制することが出来、長期に亙って測定精度を維持できる。
【0016】
受光部(35)は、受光した光をその強度に応じて電気信号に変換する光−電気変換器から構成される。そして、斯かる光−電気変換器としては、通常、受光した光を光量に応じて電流変換するフォトダイオードが使用される。また、上記の発光部(34)と窓部材(31)の間には、発光部(34)から受光部(35)へより効率的に光を放射するためにレンズ(33)が配置されてもよい。更に、図示しないが、窓部材(32)と受光部(35)の間にも、集光レンズが配置されてもよい。
【0017】
上記の油分測定器(3)においては、発光部(34)から光を窓部材(31)を介して採取管(1)中の排水に放射し、その透過光または散乱光を窓部材(32)を介して受光部(35)で受光する様になされている。そして、受光部(35)において感知された光の強度に基づいて排水中の油分濃度を測定する様になされている。すなわち、排水を透過した透過光の強度、または、排水を透過させる際に生じる散乱光の強度から油分濃度を算出する。
【0018】
例えば、排水の管理において、散乱光を利用する場合、排水中の油分濃度は次の様にして測定される。すなわち、最初に油分測定器(3)の初期調整として装置の校正を行う。油分測定器(3)の校正では、先ず、油分の含まれない水に発光部(34)から所定波長の光を放射し、その散乱光を受光部(35)で受光してその強度を検出する。そして、その場合の油分濃度をゼロとする様に、油分測定器(3)のゼロ調整を行う。次いで、最大限に油分を混入した排水を準備し、これに発光部(34)から上記の光を放射し、その散乱光強度を受光部(35)で検出する。そして、その場合の油分濃度を最大レベルとする様に、油分測定器(3)のスパン調整を行う。次いで、排水を管理する点から、管理上許容される上限濃度の油分を含有する排水を採取管(1)に流し、斯かる排水に上記の光を同様に放射してその散乱強度を検出し、これを油分の濃度の基準値(管理濃度)として設定しておく。
【0019】
実際の測定においては、測定対象の排水を採取管(1)に流し、斯かる排水に発光部(34)から上記の光を放射し、その散乱光の強度を受光部(35)で検出し、油分測定器(3)において散乱光の強度に基づいて油分濃度を計測する。そして、得られた油分濃度を基準値と比較し、測定値が基準値を超えているか否かを判別する。そして、測定値が基準値未満の場合は「油分無し」と判定し、測定値が基準値以上の場合は「油分有り」と判定する。具体的には、上記の受光部(35)で得られた信号、すなわち、散乱光の強度に応じて変換された信号をデータ処理装置に伝送し、データ処理装置において、予め書き込まれたプログラムに基づき、前記の信号をデジタル信号に変換し、得られたデジタル信号を基準値と比較して判別処理する。
【0020】
なお、透過光を利用する場合も、散乱光を利用する場合と同様に校正することにより、透過光の強度に基づいて油分濃度を計測し、基準値と比較して判別処理することにより、上記と同様に排水を管理できる。上記の様な油分測定器(3)による測定では、採取管(1)に流れる排水に光を放射するだけで直ちに油分濃度を測定でき、そして、排水中の油分を連続して監視できる。
【0021】
また、本発明においては、油分の測定に当たり、採取管(1)の検知部分、すなわち、採取管(1)の窓部材(31)及び(32)が取り付けられた部分を通過する排水を40〜80℃に加温することが好ましい。加温方法としては、採取管(1)の窓部材(31)及び(32)よりも上流部にテープ状ヒーターを巻回する方法、油分測定器(3)の上流側に加温槽を設ける方法などが挙げられる。上記の様に検知部分を40℃以上に加温することにより、排水中の油分の粘着性を低減させ、窓部材(31)及び(32)に対する油分の付着を防止できるため、長期間に亙って高精度の測定が出来かつメンテネンスが不要になる。しかも、窓部材(31)及び(32)に付着する藻や微生物の増殖を抑制することが出来る。
【0022】
上記の様に、本発明の測定方法においては、排水中に採取管(1)を挿入して試料としての排水を採取し、発光部(34)及び受光部(35)を保護する各窓部材(31)、(32)が採取管(1)内部に突出した特定構造の油分測定器(3)を使用し、しかも、採取管(1)に一定流速で排水を流しながら、排水中に放射した光によって油分濃度を測定するため、例えば排水溝(4)の水面に浮遊するゴミや泥分などの他の不純物の影響を受けることがなく、油分測定器(3)の窓部材(31)及び(32)へ油分が付着することもない。従って、排水中の油分濃度を高精度に且つ直ちに測定でき、しかも、連続して測定できる。その結果、本発明によれば、排水中への油分の混入を長期に渡って連続的に監視することが出来る。
【0023】
因に、図に示す構造の油分測定器(3)を使用し、採取管(1)に流速0.5m/secで排水を流しながら、散乱光を使用して排水溝(4)における排水中の油分の測定を続けたところ、1月以上に渡って測定性能に異常はなく、排水中の油分を監視できた。これに対し、採取管(1)に流速約0.3m/secで排水を流しながら、上記と同様に油分濃度の測定を行ったところ、油分を含む排水中の汚れが油分測定器(3)の窓部材(31)、(32)に付着し、約1週間で測定誤差が大きくなった。
【0024】
一方、採取管(1)に流速約6m/secで排水を流しながら、上記と同様に油分の測定を行ったところ、流速が小さい場合と同様に、窓部材(31)、(32)への汚れの付着が進行し、約1週間で測定誤差が大きくなった。また、油分測定器(3)の窓部材(31)、(32)をその先端部が採取管(1)の壁面から僅かに後退する状態に採取管(1)に取り付け、採取管(1)に流速0.5m/secで排水を流したところ、排水中の汚れが窓ガラス(33)の表面部分に滞留し、2週間で測定誤差が大きくなった。
【0025】
また、油分測定器(3)において、先端面が凸面状の膨出形状に形成された窓部材(31)及び(32)を採用し、採取管(1)に流速0.5〜5m/secの範囲で排水を流しながら、上記と同様に油分の測定を続けたところ、約5ケ月に渡って連続的に排水中の油分を監視できた。更に、窓部材(31)及び(32)の先端面が凸面状の上記の油分測定器(3)を使用すると共に、40℃に加温して上記と同様の流速で採取管(1)に排水を流しながら測定を続けたところ、1年に渡って連続的に排水中の油分を監視できた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る排水中の油分の測定方法を示す縦断面図である。
【図2】本発明に適用される光方式の油分測定器の概念を採取管の長さに直交する断面で示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 :採取管
2 :ポンプ
3 :油分測定器
31:窓部材
32:窓部材
33:レンズ
34:発光部
35:受光部
4 :排水溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水中に混入した油分の濃度を測定する方法であって、排水中に挿入した採取管により排水を採取し、当該採取管の下流側に付設された油分測定器により油分濃度を測定するに当たり、前記油分測定器として、前記採取管の直径に沿って対向して当該採取管の壁面に取り付けられた一対の窓部材と、一方の前記窓部材の外側に配置され且つ他方の前記窓部材へ向けて光を放射する発光部と、前記他方の窓部材の外側に配置され且つ放射された光を感知する受光部とが備えられ、かつ、前記各窓部材が前記採取管の内部に突出した構造の検知器を使用し、前記採取管に流速0.5〜5m/secで排水を流しながら、前記受光部で検出された光の強度に基づいて油分濃度を測定することを特徴とする排水中の油分測定方法。
【請求項2】
油分測定器の窓部材部分の排水を40〜80℃に加温する請求項1に記載の油分測定方法。
【請求項3】
油分がオリマルジョン油である請求項1又は2に記載の油分測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−303908(P2007−303908A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131219(P2006−131219)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(591063280)鹿島北共同発電株式会社 (3)
【Fターム(参考)】