説明

接着組成物および硬化性感圧接着シートの製造方法

【課題】感圧接着性を有しており、仮止め後、加熱によって完全硬化して、初期および耐サーマルサイクル性が優れた接着性を発揮できる硬化性感圧接着シートが得られる接着組成物の提供。
【解決手段】少なくとも、分子内にエポキシ基を含有する粘着性のアクリル系コポリマー(A)および一般式(1)で表されるポリマー(B)と、その構造中に構成単位I、さらに場合によっては構成単位IIおよび/又はIIIを有するポリマー(D)および/またはゴム変性エポキシ樹脂(C)、あるいは、上記ポリマー(D)とゴム弾性エポキシ樹脂(E)との混合物と、潜在性エポキシ硬化剤(F)とを含有する接着組成物、およびこれを用いた硬化性感圧接着シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感圧接着性を有する硬化性接着シートが得られる接着組成物(以下、単に「接着組成物」という場合がある)に関し、さらに詳しくは、被着体同士を容易に仮止めできる感圧接着性を有しており、仮止め後、加熱によって完全硬化して、初期および耐サーマルサイクル性が優れた接着性を発揮する未硬化の感圧接着性を与える接着層を、剥離性を有するフィルム基材上に形成することで有用な硬化性接着シート(以下、単に「硬化性感圧接着シート」という場合がある)とできる接着組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量、高剛性の性能を有する材料として開発された炭素繊維を強化材とするCFRPなどの繊維強化プラスチック素材は、その性能により飛行機および自動車などの部品として使用されている。上記CFRP素材などを接合するには、従来は二液型エポキシ樹脂接着剤が使用されていた。
【0003】
しかしながら、上記のエポキシ樹脂接着剤は、液状またはペースト状であり、接着加工の際に液ダレなどが生じ易く、貼り付け作業に手間がかかる。また、接着後、完全硬化するまでに時間がかかる。さらに、塗布における粘度を下げるために低分子量エポキシ樹脂や反応性希釈剤が添加されるが、これらの添加は、耐熱性および耐久性を低下させる。
【0004】
また、上記の液状あるいはペースト状接着剤の代わりに、シート状あるいはフィルム状の接着剤形態のものがある。しかし、これらの接着剤形態のものは、中〜高分子量の接着樹脂材料を含有して上記接着剤形態の特性を向上させているが、従来の感圧接着テープのような粘着力、タック、保持力を有していないために仮止めすることができない。
【0005】
上記シート状あるいはフィルム状の接着剤形態のものとして、ある種のフイルム状接着剤(特許文献1、2)が開示されている。しかし、特許文献1に開示のフィルム状接着剤は、大量のシリカを含有しており被着体に仮止め接着させる際に初期接着力が劣るため、ある程度の大きさの圧着力が必要であり、また、構成成分に熱可塑性樹脂を配合しているために接着物の耐熱性が劣るという課題がある。また、特許文献2に開示のフィルム状接着組成物は、タックフリーで、仮止め接着させる際に接着層を60〜80℃程度に加熱溶融して接着させる必要があり、位置合わせ、あるいは再度修正貼りする仮止め性が劣るという課題がある。
【0006】
上述のことから、従来の液状あるいはペースト状接着剤や、シート状あるいはフィルム状の接着剤形態に代わる、被着体同士を感圧にて容易に仮止めができる感圧接着性を有しており、仮止め後、加熱により完全硬化して、初期および耐サーマルサイクル性が優れた接着性を発揮する硬化性感圧接着シートが得られる接着組成物の開発が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−261833号公報
【特許文献2】特開2005−307037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、未硬化の時に感圧接着性を有する接着層が、剥離性のフィルム基材上に形成されてなる硬化性感圧接着シートを得ることができる接着組成物を提供することである。すなわち、該接着組成物は、被着体同士を容易に仮止めができる感圧接着性を有しており、仮止め後、加熱によって完全硬化して、初期及び耐サーマルサイクル性に優れた接着性を発揮するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、少なくとも下記の(A)および(B)、さらに(F)に加えて、(D)および/または(C)、あるいは、該(D)と(E)との混合物、の各々の成分を含有してなる接着組成物が、下記の優れた特性を有することを見出して本発明に至った。すなわち、上記構成を有する接着組成物を、剥離性を有するフィルム基材に塗布することによって、未硬化の感圧接着性を付与した接着層を有する硬化性感圧接着シートが製造でき、さらに、該シートを用いて接着層を被着体に感圧着仮止め後、上記フィルム基材を剥離し、被着体面上の接着層に他方の被着体を貼り付け、さらに熱硬化温度で加熱することによって上記接着層は完全硬化し、その結果、金属やCFRPなどの構造材料の被着体同士を簡単に、しかも初期および耐サーマルサイクル性に優れて強固に接着できることを見出した。
【0010】
上記の目的は、以下の本発明により達成される。すなわち、本発明は、少なくとも、分子内にエポキシ基を含有する粘着性のアクリル系コポリマー(A)および下記一般式(1)で表されるポリマー(B)と、その構造中に下記構成単位I、さらに場合によっては構成単位IIおよび/またはIIIを有するポリマー(D)、および/またはゴム変性エポキシ樹脂(C)、あるいは、上記ポリマー(D)とゴム弾性エポキシ樹脂(E)との混合物と、潜在性エポキシ硬化剤(F)とを含有することを特徴とする接着組成物を提供する。

(上記式中のnは、0、または平均で0.1〜18の数である)
ポリマー(D)を構成する構成単位;

(上記構成単位I、II、およびIIIは、ポリマー(D)の構成単位を表わし、ポリマー(D)中における各構成単位は、構成単位Iが70質量%〜100質量%、構成単位IIが0〜30質量%、構成単位IIIが0〜30質量%である。)
【0011】
また、本発明の好ましい実施形態としては、下記のものが挙げられる。
前記ポリマー(D)が、その構造中に構成単位I、IIおよびIIIを有し、該ポリマー中において、構成単位Iが80質量%〜86質量%、構成単位IIが9質量%〜13質量%、及び構成単位IIIが5質量%〜7質量%であり、かつ、その重量平均分子量が40,000〜140,000であること、
前記ポリマー(D)の配合割合が、前記アクリル系コポリマー(A)と、前記ポリマー(B)との総量(A+B)に対して、(D)/(A+B)=1/100〜30/100(質量比)であること
前記アクリル系コポリマー(A)が、重量平均分子量が30×104〜100×104、エポキシ価が0.05〜0.3eq/kg、かつ、ガラス転移温度が5〜20℃であること、
前記ポリマー(B)の、数平均分子量が340〜5,500で、かつエポキシ当量が180〜2,500g/eqであるポリマーであること、
前記ゴム変性エポキシ樹脂(C)が、NBR変性エポキシ樹脂であること、また、前記ゴム変性エポキシ樹脂(C)のエポキシ当量が、200〜500g/eqであること、
前記ポリマー(B)と前記ゴム変性エポキシ樹脂(C)との配合割合が、C/B=3/10〜10/10(質量比)であること、
前記アクリル系コポリマー(A)と、前記ポリマー(B)と前記ゴム変性エポキシ樹脂(C)の混合物(B+C)との配合割合が、(B+C)/A=150/100〜250/100(質量比)であること、
前記ゴム弾性エポキシ樹脂(E)が、リュプケ式反発弾性率が40〜90%、かつ、その硬化物のガラス転移温度が−60℃〜−20℃であること、
前記ポリマー(D)と前記ゴム弾性エポキシ樹脂(E)との混合物における配合割合が、D/E=30/100〜50/100(質量比)であること、
前記潜在性エポキシ硬化剤(F)が、下記一般式(2)で表される化合物(W)であること、

その初期およびサーマルサイクル引張剪断力が、16MPa以上であること、である。
【0012】
また、本発明は、熱によって硬化する未硬化の接着層が剥離性を有するフィルム基材上に形成されてなる硬化性感圧接着シートの製造方法であって、前記いずれかの接着組成物を、剥離性を有するフィルム基材上に塗布し、接着組成物が熱硬化する温度より低い温度で乾燥させて未硬化の時に感圧接着性を与える接着層を形成することを特徴とする硬化性感圧接着シートの製造方法を提供する。
【0013】
また、硬化性感圧接着シートの製造方法の好ましい実施形態として、さらに、前記未硬化の状態で感圧接着性を与える接着層が、合成繊維、カーボン繊維、およびガラス繊維の不織布または布の芯材から選ばれる少なくとも1種を有してなる硬化性感圧接着シートの製造方法、または、前記接着層が、接着の際に熱硬化して海島構造を形成する硬化性感圧接着シートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下記の従来にない有用な接着組成物を提供することができ、その結果、優れた特性を有する硬化性感圧接着シートが提供される。すなわち、本発明の接着組成物は、接着加工の際に、とくに、金属類、およびCFRPなどの繊維強化プラスチックの被着体に簡単に感圧着仮止めができ、さらに、被着体同士を貼り付けた後、熱硬化温度に加熱することにより完全硬化して、初期およびサーマルサイクル性に優れた接着性を発揮し得る接着層が形成された有用な硬化性感圧接着シートの提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明の硬化性感圧接着シートM1を被着体に接着して熱硬化させた時の接着層の海島構造の状態を電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡写真である。
【図1B】本発明の硬化性感圧接着シートM2を被着体に接着して熱硬化させた時の接着層の海島構造の状態を電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡写真である。
【図1C】本発明の硬化性感圧接着シートM3を被着体に接着して熱硬化させた時の接着層の海島構造の状態を電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡写真である。
【図1D】本発明の硬化性感圧接着シートM4を被着体に接着して熱硬化させた時の接着層の海島構造の状態を電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡写真である。
【図1E】本発明の硬化性感圧接着シートM5を被着体に接着して熱硬化させた時の接着層の海島構造の状態を電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡写真である。
【図1F】本発明の硬化性感圧接着シートM6を被着体に接着して熱硬化させた時の接着層の海島構造の状態を電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡写真である。
【図1G】本発明の硬化性感圧接着シートM7を被着体に接着して熱硬化させた時の接着層の海島構造の状態を電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡写真である。
【図1H】本発明の硬化性感圧接着シートM10を被着体に接着して熱硬化させた時の接着層の海島構造の状態を電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡写真である。
【図1I】比較例の硬化性感圧接着シートN2を被着体に接着して熱硬化させた時の接着層の表面状態を電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。本発明の接着組成物は、少なくとも、分子内にエポキシ基を含有する粘着性のアクリル系コポリマー(A)および前記一般式(1)で表されるポリマー(B)と、ポリマー(D)および/またはゴム変性エポキシ樹脂(C)、あるいは、該ポリマー(D)とゴム弾性エポキシ樹脂(E)との混合物と、さらに潜在性エポキシ硬化剤(F)とが含有されてなることを特徴とする。上記各成分を含有してなる接着組成物を離型処理されたフィルム基材に塗布し、該接着組成物が熱硬化する温度より低い温度で乾燥されることで、形成した接着層に良好な感圧接着性が与えられ、その結果、該接着層を有する硬化性感圧接着シートは、該接着層を被着体に感圧着仮止め後、上記フィルム基材を剥離し残った接着層に他方の被着体を感圧着貼り付け、熱硬化温度範囲で加熱することにより接着層を完全硬化させることで、初期および耐サーマルサイクル性に優れた接着性を発揮する硬化性感圧接着シートとなる。
【0017】
本発明における感圧接着性とは、接着層が無溶剤で常温の雰囲気下で、指圧程度の圧着力で押さえるだけで被着体に接着し、接着層を被着体から引き剥す場合に、実質的にその痕跡を残すことがなく剥離除去できることを意味する。
【0018】
本発明の接着組成物を構成する前記アクリル系コポリマー(A)は、分子内にエポキシ基を含有する粘着性を有するアクリル系共重合体であり、例えば、エチレン系不飽和基を有するエポキシ基化合物とアクリルモノマーおよび該モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体である。上記アクリル系コポリマー(A)は、単独でも2種以上の混合物であっても構わない。
【0019】
上記のエチレン系不飽和基を有するエポキシ基化合物としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキサニルメチルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなど、好ましくはグリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートが挙げられる。
【0020】
また、上記のアクリルモノマーおよび該モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート(「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの双方を意味する)、メチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、アクリロニトリル、酢酸ビニルなど、好ましくはエチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0021】
前記アクリル系コポリマー(A)は、好ましくは上記のアクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマーと、アクリロニトリルと、エチレン系不飽和基を有するエポキシ基化合物とのアクリル系共重合体が挙げられる。上記共重合体としては、例えば、エチルアクリレート/ブチルアクリレート/アクリロニトリル/グリシジル(メタ)アクリレートの共重合体、エチルアクリレート/アクリロニトリル/グリシジル(メタ)アクリレートの共重合体などが挙げられる。上記アクリル系コポリマー(A)は、ナガセケムテックス(株)から[テイサンレジンSG−P3]、[テイサンレジンSG−80H]などの商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0022】
上記アクリル系コポリマー(A)は、好ましくは重量平均分子量が30×104〜100×104、エポキシ価が0.05〜0.3eq/kg、ガラス転移温度が5〜20℃のものが挙げられる。なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミェーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算により求めた値である。またエポキシ価は、1kg当りのエポキシ当量を示した値であり、また、ガラス転移温度はDSC法で求めた値である。アクリル系コポリマー(A)に、上記範囲内の特性を有するものを用いた場合、適度の感圧接着性および硬化後の接着強度を有する、より好ましい硬化性感圧接着シートが得ることができる。
【0023】
次に、本発明の接着組成物を構成する前記ポリマー(B)について説明する。該ポリマー(B)は、下記一般式(1)で表されるビスフェノールA型エポキシレジンである。上記のポリマー(B)は、重合度が0〜18、好ましくは重合度が約0.1〜9である。また、上記ポリマー(B)の数平均分子量は、340〜5,500、好ましくは350〜2,900である。上記ポリマー(B)は、単独でも、2種以上を混合して使用することができる。なお、本発明における数平均分子量は、ゲルパーミェーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算により求めた値である。

(上記式中のnは、0、または平均で0.1〜18の数である)
【0024】
上記のポリマー(B)は、公知の合成方法により製造されたものを使用することができ、例えば、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの縮合反応生成物、あるいは、低分子量エポキシ樹脂とビスフェノールAの付加重合によるポリマーなどが挙げられる。
【0025】
上記ポリマー(B)の好ましいものとしては、数平均分子量が340〜5,500で、かつエポキシ当量が180〜2,500g/eqであるものがよいが、これらの中でも、例えば、下記に挙げるようなものが好適に使用できる。すなわち、数平均分子量が350〜400で、かつエポキシ当量が184〜194g/eqであるポリマー(B1)、数平均分子量850〜950で、かつエポキシ当量が450〜500g/eqであるポリマー(B2)、数平均分子量が1,550〜1,750で、かつエポキシ当量875〜975g/eqであるポリマー(B3)、および数平均分子量が2,700〜3,100で、かつエポキシ当量1,750〜2,200g/eqであるポリマー(B4)などである。また、上記ポリマー(B1)、(B2)、(B3)または(B4)の使用形態は、それぞれ単独でも、これらのポリマーを適宜に組み合わせた混合物であってもよい。より好ましくは、上記ポリマー(B1)を含み、上記ポリマー(B2)、(B3)、および(B4)のいずれかを適宜に組み合わせた混合物とした場合に、耐サーマルサイクル接着性をより向上させることができる。なお、本発明におけるエポキシ当量は、JISK7236に準じた値である。
【0026】
次に、本発明を構成する前記ポリマー(D)および/またはゴム変性エポキシ樹脂(C)について説明する。該ポリマー(D)と、該ゴム変性エポキシ樹脂(C)は、前記のアクリル系コポリマー(A)およびポリマー(B)に対して、各々を単独でも、あるいは、該ポリマー(D)と、該ゴム変性エポキシ樹脂(C)とを適宜に混合して使用することもできる。
【0027】
該ポリマー(D)は、その構造中に、下記に示す構成単位Iを有し、さらに場合によっては、構成単位Iと、下記に示す構成単位IIおよび/または構成単位IIIとを有するポリビニルホルマール系ポリマーである。
ポリマー(D)を構成する構成単位;

【0028】
上記構成単位I、II、およびIIIは、ポリマー(D)の構成単位を表わし、該ポリマー(D)中における各構成単位は、構成単位Iが70質量%〜100質量%、構成単位IIが0〜30質量%、構成単位IIIが0〜30質量%である。上記ポリマー(D)が構成単位I〜IIIの複数を有する場合、これらの構成単位の結合状態に制限はなく、好ましくは各構成単位の分布はランダムがよい。
【0029】
上記ポリマー(D)は、公知の方法で合成ができ、例えば、ポリビニルアルコールとホルマリンの縮合反応、あるいは、ポリ酢酸ビニルからポリビニルアルコールを分離せず連続的にケン化とアセタール化反応して製造する。その重量平均分子量は、30,000〜150,000である。
【0030】
上記ポリマー(D)の好ましいものとしては、その構造中に構成単位I、IIおよびIIIのいずれも有し、該ポリマー中において、構成単位Iを80質量%〜86質量%の範囲で、構成単位IIを9質量%〜13質量%の範囲で、及び構成単位IIIを5質量%〜7質量%の範囲でそれぞれ占め、かつ、その重量平均分子量が40,000〜140,000のものが挙げられる。より好ましくは、ポリマー中に、構成単位Iを80.5質量%〜85.5質量%の範囲で、構成単位IIを9.5質量%〜13.0量%の範囲で、及び構成単位IIIを5質量%〜7質量%の範囲で占め、かつ、その重量平均分子量が44,000〜54,000のものが挙げられる。
【0031】
また、前記ポリマー(D)の配合割合は、好ましくは前記アクリル系コポリマー(A)と、ポリマー(B)との総量(A+B)に対して(D)/(A+B)=1/100〜30/100(質量比)である。上記ポリマー(D)の配合割合が、上記上限を超えると、得られる硬化性感圧接着シートの初期およびサーマルサイクル後の接着性が低下する傾向がある。一方、ポリマー(D)の配合割合が上記下限未満であると、耐サーマルサイクル性を十分に満足する接着性を有する硬化性感圧接着シートが得られない場合がある。
【0032】
また、本発明で用いる前記ゴム変性エポキシ樹脂(C)はゴム化合物とエポキシ樹脂とを反応させた反応生成物を言う。例えば、下記のゴム化合物と、公知のエポキシ化合物またはエポキシ樹脂とを公知の合成方法により適宜の配合比により反応させた反応生成物(プレリアクトした生成物も含む)が挙げられる。上記反応生成物は、単独でも、2種以上を混合して使用することができる。上記ゴム化合物としては、例えば、ブタジエンアクリロニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素添加ニトリルゴム(HNBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、アクリルゴム(ACM)、ブチルゴム(IIR)、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム(AU)などのゴム系重合体が挙げられ、重合体の末端がカルボキシル変性、アミノ変性、あるいはヒドロキシ変性されたゴム系重合体であってもいい。好ましくはNBR系の化合物が用いられる。
【0033】
上記ゴム化合物との反応に使用されるエポキシ化合物またはエポキシ樹脂としては、公知のものが使用することができる。例えば、多官能グリシジルエーテル型エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、脂環族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物などが挙げられる。
【0034】
上記ゴム変性エポキシ樹脂(C)としては、NBR系の化合物と、公知のエポキシ化合物またはエポキシ樹脂とを公知の合成方法により反応させて得られた反応生成物であるNBR変性エポキシ樹脂(ブタジェンアクリロニトリルゴム変性エポキシ樹脂)が好ましく挙げられる。上記接着層の金属およびCFRPに対する硬化後の接着性優れるからである。
【0035】
前記ゴム変性エポキシ樹脂(C)は、好ましくはそのエポキシ当量が200〜500g/eqであるものがよい。上記のNBR変性エポキシ樹脂(C)としては、例えば、(株)ADEKAよりアデカレジンEPR−4030の商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0036】
前記ポリマー(B)とゴム変性エポキシ樹脂(C)との好ましい配合割合は、C/B=3/10〜10/10(質量比)がよい。上記ゴム変性エポキシ樹脂(C)の配合割合が多過ぎると、得られる接着性シートの接着層の被着体であるCFRPに対する硬化後の接着性が低下する傾向があるので好ましくない。一方、上記ゴム変性エポキシ樹脂(C)の配合量が少な過ぎると、上記接着層の金属およびCFRPに対する硬化後の接着性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0037】
また、前記アクリル系コポリマー(A)と前記ポリマー(B)と前記ゴム変性エポキシ樹脂(C)とを配合する場合、好ましくは、前記アクリル系コポリマー(A)と、前記ポリマー(B)と前記ゴム変性エポキシ樹脂(C)との混合物(B+C)との配合割合が、(B+C)/A=150/100〜250/100(質量比)であるのがよい。上記混合物(B+C)の配合割合が上記範囲内であると、上記アクリル系コポリマー(A)との相乗効果により、金属およびCFRPに対してより良好な接着性を発揮する硬化性感圧接着シートが得られる。
【0038】
また、本発明では、前記ポリマー(D)および/またはゴム変性エポキシ樹脂(C)の代わりに、前記ポリマー(D)とゴム弾性エポキシ樹脂(E)との混合物を配合することも好ましい形態である。
【0039】
上記ゴム弾性エポキシ樹脂(E)としては、熱硬化によりリュプケ式反発弾性率が40〜90%、その硬化物のガラス転移温度が−60℃〜−20℃を有するゴム弾性を発揮するエポキシ硬化体を生成するものが好ましい。より好ましくは、リュプケ式反発弾性率が40〜90%、エポキシ当量が400〜700g/eq、凝固点温度が1.1〜10.1℃であり、かつ、その硬化物のガラス転移温度が−50℃〜−30℃であるものが挙げられる。なお、本発明におけるリュプケ式反発弾性率は、JIS K6255に準じた値である。
【0040】
該ゴム弾性エポキシ樹脂(E)としては、例えば、ポリエーテルグリコール、共重合ポリエーテルグリコールなどのポリエーテルグリコール類とエピクロロヒドリンとを公知の方法で反応させた反応生成物などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂類、およびそれらのオリゴマーなどが挙げられる。上記ポリエーテルグリコール類としては、例えば、ネオペンチレンオキサイド、テトラメチレンオキサイドなどのエチレンオキサイドの構成単位を単独で、あるいは両方を有するものが挙げられる。上記ゴム弾性エポキシ樹脂(E)は、例えば、三菱化学(株)から、ゴム弾性エポキシ樹脂jER YL7410の商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0041】
前記ポリマー(D)と前記ゴム弾性エポキシ樹脂(E)との配合割合は、好ましくはD/E=30/100〜50/100(質量比)がよい。上記ポリマー(D)の配合割合が上記上限を超えると、得られる硬化性感圧接着シートの初期およびサーマルサイクル後の接着性が低下する傾向があるので好ましくない。一方、ポリマー(D)の配合割合が上記下限未満であると、上記の充分な接着性が安定して得られない場合がある。
【0042】
次に、本発明の接着組成物を構成する前記潜在性エポキシ硬化剤(F)について説明する。該潜在性エポキシ硬化剤(F)は、得られる硬化性感圧接着シートの未硬化の接着層を、上記エポキシ硬化剤(F)の熱硬化を開始する温度以上に加熱し、とくに、上記エポキシ硬化剤(F)が粉体の場合にはその熱溶融温度以上に加熱することにより、上記接着層を構成するエポキシ基などの官能基と反応して短時間で熱硬化性を発揮する。すなわち、接着組成物、および、該接着組成物を用いて得られる未硬化の接着層の段階では硬化させず、接着加工時に接着層に熱硬化温度をかけることにより熱硬化性を発揮するので、室温で安定して長期保存できる接着組成物、およびこれを用いた硬化性感圧接着シートが得られる。
【0043】
上記潜在性エポキシ硬化剤(F)としては、例えば、アミン類、イミダゾール類、ヒドラジド類、三フッ化ホウ素−アミン錯体、アミンイミド、ポリアミン塩およびこれらの変性物、マイクロカプセル型などの潜在性エポキシ硬化剤が挙げられる。
【0044】
上記潜在性エポキシ硬化剤(F)の好ましいものとして、下記一般式(2)で表される化合物(W)が挙げられる。

【0045】
上記化合物(W)は、とくに、前記コポリマー(A)およびポリマー(B)と、ポリマー(D)および/またはゴム変性エポキシ樹脂(C)、または、該ポリマー(D)とゴム弾性エポキシ樹脂(E)との混合物に配合することによって、下記の優れた効果が得られる。すなわち、このような構成接着組成物とすることで、該組成物によって得られる硬化性感圧接着シートの接着層の感圧接着性の可使時間を、とくに、安定して長時間確保でき、そのため、接着加工の際に上記接着層を加熱することにより、短時間で硬化および固化させ接着性を発揮させることができる。
【0046】
上記の化合物(W)は、本発明の目的を妨げない範囲において、公知の脂肪族ポリアミン系、脂環族ポリアミン系、芳香族ポリアミン系などの重付加型ポリアミン系硬化剤を併用することができる。
【0047】
本発明の接着組成物は、前記アクリル系コポリマー(A)および前記ポリマー(B)と、前記ポリマー(D)および/またはゴム変性エポキシ樹脂(C)、または、該ポリマー(D)と前記ゴム弾性エポキシ樹脂(E)との混合物と、前記潜在性エポキシ硬化剤(F)とを適宜に、好ましくは前記の配合数値内になるよう配合し、均一に混合撹拌して無溶剤の接着組成物に、あるいは、必要に応じて有機溶媒にて適宜の濃度に希釈した接着組成物として調製することができる。
【0048】
上記接着組成物は、必要に応じて本発明の目的を妨げない範囲において、ソルビトールポリグリシジルエーテルなどの多官能の反応性エポキシ希釈剤、その他、シランカップリング剤、フッ素系界面活性剤、軟化剤、体質顔料、光安定剤、酸化防止剤などの添加剤を配合することができる。上記反応性エポキシ希釈剤の配合量が多すぎると、得られる硬化性感圧接着シートの接着性が低下する傾向があるので好ましくない。これらの添加剤の配合量は、好ましくは得られる接着組成物の総量中2〜4質量%である。
【0049】
上記の有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、3−ヘプタノンなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチルなどのエステル類;エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、3−メトキシブタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類など、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0050】
本発明の接着組成物は、好ましくは、該組成物によって形成される接着層の初期およびサーマルサイクル引張剪断力が16MPa以上であるのがよく、70MPa以下が好ましい。上記引張り剪断力が上記範囲未満であると、得られる硬化性感圧接着シートを用いて、航空機、自動車などの構造物を接着した場合に、充分な接着強度が得られない場合がある。また、上記引張り剪断力が上記範囲を超える接着強度は得られにくい。なお、本発明におけるサーマルサイクル引張剪断力は、下記の手順で測定したサーマルサイクル後の引張剪断力の測定値である。すなわち、得られる硬化性感圧接着シートを用いて接着した接着物の測定用試料を、冷熱衝撃試験機を用いて、−40℃で30分間放置と150℃で30分間放置とを1サイクルとして、これを300サイクル繰り返して行うサーマルサイクル試験をJIS C0025に準じて行った後、JIS K6850に準拠して引張試験機にて測定した値である。
【0051】
(硬化性感圧接着シートの製造方法)
次に、本発明により調製された接着組成物を用いて、硬化性感圧接着シートを製造する製造方法について説明する。本発明の硬化性感圧接着シートの製造方法では、本発明の接着組成物を剥離性を有するフィルム基材に塗布し、接着組成物が熱硬化する温度より低い温度で乾燥させて未硬化の感圧接着性を与える接着層を形成することにより、熱によって硬化する未硬化の接着層が剥離性を有するフィルム基材上に形成されてなる硬化性感圧接着シートを製造する。
【0052】
上記の製造方法としては、例えば、剥離性を有するフィルム基材に本発明の接着組成物を用いて、必要に応じて前記の有機溶媒を用いて適宜の濃度に希釈し、グラビアコート、フレキソコート、ロールコート、リバースロールコート、スクリーンコート、エアーナイフコート、キスコート、ダイコート、ナイフコート、ブレードコート、カーテンコート、スロットオリフィス、ロールナイフコート、バーコートなどの公知の塗布方法により20μm〜40μm(塗膜厚み)に塗布し、120℃のオーブンにて3分〜5分間加熱乾燥することで接着層を形成する。この結果、感圧接着性を付与した接着層を有する硬化性感圧接着シートが得られる。該硬化性感圧接着シートは乾燥後にこれを巻き取った形態としてもいいし、乾燥後の感圧接着面に剥離性の基材フィルムをさらにラミネートした形態としてもいい。該巻き取った形態とする場合の基材フィルムは、両面に剥離性を有するものであることが好ましい。
【0053】
上記の剥離性を有するフィルム基材としては、前記接着層と接する面が剥離性を有するものであり、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアレートフィルム、フッ素樹脂フィルム、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルムなどの単体で剥離性を有するプラスチックフィルム、あるいは、これらのプラスチックフィルムに公知の方法で剥離処理を施したものなど、その他、ポリエチレンラミネート紙、ポリプロピレンラミネート紙、グラシン紙、樹脂コート紙、クレーコート紙などの接着層と接する面が剥離処理されたものなどが挙げられる。上記の剥離処理は、上記のフィルム基材にフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、アルキッド系樹脂、アクリル系樹脂など、あるいは、これらの樹脂に離型性を有するシリコン、脂肪酸、ワックス、界面活性剤などの離型剤を適宜に配合したものなどの剥離性を有する剥離層を形成するものである。上記の剥離処理はフィルム基材の片面に行なっても、両面に行なってもいい。
【0054】
また、本発明の硬化性感圧接着シートの製造方法では、好ましくはさらに、前記未硬化の感圧接着性を与える接着層が、合成繊維、カーボン繊維、およびガラス繊維の不織布または布の芯材から選ばれる少なくとも1種を含有している構成とするとよい。すなわち、前記の剥離性を有するフィルム基材に接着組成物を塗布する工程で、塗布層が液状の段階で上記芯材をラミネートし、該芯材に接着組成物を含浸させ加熱乾燥させ接着層を形成する。上記のようにして形成した接着層は、芯材と一体となった接着層となるために、強度がアップした硬化性感圧接着シートが得られる。上記製造例としては、例えば、ラミネーターの第1給紙に離型処理PETフィルムをセットし、また、第2給紙に芯材をセットし、適宜の塗布厚みになる様に調整されたロールナイフコーターを用いて、上記PETフィルム上に本発明の接着組成物を塗布し、ウエットの塗布面に芯材をラミネートして加熱乾燥後、次に剥離処理された別のPETフィルムを上記芯材面にラミネートして本発明の接着組成物が芯材に含浸した硬化性感圧接着シートを得る。
【0055】
上記芯材としては、公知の不織布、または繊維織物(布)が挙げられ、不織布としては、例えば、レーヨン不織布、ポリエステル不織布、ポリプロピレン不織布、ナイロン不織布、ポリウレタン不織布、カーボン不織布、ガラス不織布、および、これらの混紡不織布などが挙げられる。また、繊維織物としては、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタン、セルロース、ガラス、およびカーボン繊維などの単体繊維織物、または混紡の繊維織物が挙げられる。
【0056】
次に、本発明の硬化性感圧接着シートを用いた被着体への接着方法について説明する。本発明の硬化性感圧接着シートの接着層を被着体に圧着仮止めし、剥離性を有するフィルム基材を剥離後、接着層を他方の被着体に貼り付け上記接着層が熱硬化する温度条件下、例えば、180〜200℃にて60分間〜180分間加熱し、上記接着層を完全熱硬化させ接着する。
【0057】
上記接着方法の具体例としては、例えば、接着される被着体に合わせ適宜の寸法にカットされた本発明の硬化性感圧接着シートを指圧にて一方の被着体に圧着仮止めし、次に、剥離性を有するフィルム基材を剥離除去し、その接着層に他方の被着体を指圧着し、プレス機を使用して上記熱硬化条件下にて加熱圧着して硬化させる。
【0058】
前記接着層は、好ましくは、接着の際に熱硬化して海島構造を形成するのがよい。すなわち、接着層中に海島構造を形成することにより、接着後の引張剪断力を向上させ、より強靭化した接着性が得られる。上記海島構造は、上記接着層が加熱硬化進行中に、接着層成分中のエポキシ樹脂の反応による高分子量化とともに海島構造が形成されると推定される。
【0059】
上記海島構造は、図1A〜図1Hに示すように、その島構造の形状や大きさは、とくに限定するものでなく、不定形または円形状のもので、島同士が隣接あるいは独立しているものである。図1A〜図1Hは、本発明の硬化性感圧接着シートの接着層を被着体に接着して熱硬化された接着層に発現した海島構造の状態を示した電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡写真の図である。なお、測定試料片は25×20μmを用いた。
【0060】
上記被着体としては、例えば、マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、ステナイト系ステンレス、オーステナイト−フェライト系ステンレスなどのステンレス鋼;Mg−Al−Zn−Mn系合金、Mg−Zn−Zr系合金、Mg−希土類元素系合金などのマグネシウム合金、アルミ、アルミ合金などの金属類、カーボン繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、繊維強化プラスチック(FRP)、ボロン繊維強化プラスチック(BFRP)などの繊維強化プラスチック類など、好ましくはCFRPが挙げられる。上記強化プラスチックとしては、公知の不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。本発明の感圧接着シートを用いた上記被着体の接着は、上記金属類同士の接着、上記繊維強化プラスチック類同士の接着、あるいは、上記金属類と上記繊維強化プラスチック類との接着、のいずれにも適用することができる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明の接着組成物K1〜K10と比較例の接着組成物L1〜L2を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中に「部」または「%」とあるのは質量基準である。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1〜10](接着組成物K1〜K10)
アクリル系コポリマー(A)と、ポリマー(B)と、ゴム変性エポキシ樹脂(C)と、ポリマー(D)と、ゴム弾性エポキシ樹脂(E)と、化合物(W)と、必要に応じてソルビトールポリグリシジルエーテルまたは有機溶媒とを使用し、各々の成分を表1および表2のように配合し、ホモジナイザーにて充分に均一に混合撹拌を行い、均一な粘調性のある接着組成物K1〜K10を調製した。
【0063】
上記のアクリル系コポリマー(A)、ポリマー(B)、ゴム変性エポキシ樹脂(C)、ポリマー(D)、ゴム弾性エポキシ樹脂(E)、および化合物(W)は下記の通りである。
・アクリル系コポリマー(A):
エポキシ基含有アクリル系共重合体(重量平均分子量85×104、エポキシ価0.21eq/Kg、ガラス転移温度12℃、ナガセケムテックス(株)製、テイサンレジンSG−P3)
・ポリマー(B):
(B1):前記一般式(1)のポリマー(エポキシ当量184〜194g/eq、数平均分子量370、三菱化学(株)製、jER828)
(B2):前記一般式(1)のポリマー(エポキシ当量460〜500g/eq、数平均分子量900、三菱化学(株)製、jER1001)
(B3):前記一般式(1)のポリマー(エポキシ当量875〜975g/eq、数平均分子量1650、三菱化学(株)製、jER1004)
(B4):前記一般式(1)のポリマー(エポキシ当量1,750〜2,200g/eq、数平均分子量2,900、三菱化学(株)製、jER1007)
・ゴム変性エポキシ樹脂(C):
NBR変性エポキシ樹脂((株)ADEKA製、アデカレジンEPR−4030、エポキシ当量380g/eq)
・ポリマー(D):
前記した構成単位I、II、およびIIIを有してなり、該ポリマー中に占める各構成単位は、構成単位Iが80.5質量%〜85.5質量%、構成単位IIが9.5質量%〜13.0質量%、および構成単位IIIが5.0質量%〜6.5質量%であり、かつ、その重量平均分子量が44,000〜54,000であるポリビニルホルマール系ポリマー
・ゴム弾性エポキシ樹脂(E):
リュプケ式反発弾性率が40〜90%であるゴム弾性エポキシ樹脂(エポキシ当量が400〜700g/eq、凝固点温度が1.1〜10.1℃、および、その硬化物のガラス転移温度が−30〜−50℃、三菱化学(株)製、ゴム弾性エポキシ樹脂jER YL7410)
・化合物(W):前記一般式(2)で表される化合物
【0064】
[比較例1](接着組成物L1)
実施例におけるアクリル系コポリマー(A)の代わりに、エポキシ基を含有せずカルボキシル基を含有するアクリル系コポリマー(綜研化学(株)製、SKダインSK2094)を使用し、その他、ポリマー(B1)、ポリマー(B2)、および化合物(W)の各々の成分を、表3のように配合して接着組成物L1を調製した。
【0065】
[比較例2](接着組成物L2)
アクリル系ポリマー(A)、ポリマー(B1)、ポリマー(B2)、および化合物(W)の各々の成分を、表3のように配合して接着組成物L2を調製した。
【0066】

【0067】

【0068】

【0069】
[実施例11〜20](硬化性感圧接着シートM1〜M10)、および[比較例3〜4](硬化性感圧接着シートN1〜N2)
前記実施例および比較例で得られた各々の接着組成物を使用して、前記硬化性感圧接着シートの製造方法により、剥離処理された25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、アプリケーターにて30μmの厚み(乾燥厚み)に塗布し、120℃のオーブンにて3分間加熱乾燥して、感圧接着性の接着層を有する硬化性感圧接着シートM1〜M10、および硬化性感圧接着シートN1〜N2を得た。
【0070】
[実施例21〜25](硬化性感圧接着シートM11〜M15)
前記接着組成物K5、K6、K7、K9、およびK10の各々を使用して、ラミネーターの第1給紙に剥離処理された100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを、また、第2給紙に芯材としてポリアレート不織布((株)クラレ製、ベクルス)を取り付け、予め塗膜乾燥厚みが100μmとなるように調整されたロールナイフコーターで上記PETフィルム上に塗布した。得られた塗布面に上記不織布をラミネートして100℃にて10分間乾燥後、次に、剥離処理された25μmのPETフィルムを上記不織布側にラミネートして、不織布に接着組成物を含浸してなる接着層が形成された硬化性感圧接着シートM11〜M15を得た。
【0071】
[比較例5](硬化性感圧接着シートN3)
接着組成物L1にメチルエチルケトン100部を添加して接着組成物L3とし、実施例21(硬化性感圧接着シートM11)と同様にして硬化性感圧接着シートN3を得た。
【0072】
前記で得られた各々の硬化性感圧接着シートを用いて、ステンレス(SUS)同士、CFRP同士、および、CFRPとSUSとを、それぞれ前記接着方法により接着し、その初期およびサーマルサイクル後の、引張り剪断力、および熱硬化後の接着層の状態(海島構造)を下記の方法で測定および観察をした。評価結果を、表4、表5、表6、および表7に示した。
【0073】
(初期およびサーマルサイクル引張剪断力)
充分にアルコール洗浄されたステンレス(SUS)およびCFRPの試験片を用いて、上記で得た各硬化性感圧接着シートを用い、下記の手順で接着させた。上記試験片の一方の10mm角部分に、前記硬化性感圧接着シートの接着層を指圧にて貼り付け、接着層から剥離性のPETフィルムを剥離後、該接着層に上記試験片の他方を指圧にて貼り付けた。上記で貼り付けた部分に、プレス機で約3kg/cm2の荷重を加え、荷重を加えたまま180℃の送風式オーブンにて1時間加熱し、加熱後放冷して測定用の接着した試料を作成した。
【0074】
[初期引張剪断力]
上記試料をJIS K6850に準拠して、引張試験機にて接着面に対して水平方向へ引張り、室温での引張剪断力を測定した。
【0075】
[サーマルサイクル引張剪断力]
上記測定用試料を、冷熱衝撃試験機を用いて、−40℃で30分間放置と、150℃で30分間放置とを1サイクルとして、これを300サイクル繰り返して行うサーマルサイクル試験をJIS C0025に準じて行った。その後、上記測定用試料をJIS K6850に準拠して引張試験機にて引張剪断力を測定した。
【0076】
(熱硬化後の接着層の海島構造の状態)
上記引張り剪断力の測定において、ステンレス製の試験片の一方に各々の接着層を貼り付け、接着層から剥離性のPETフィルムを剥離後、他の試験片を貼り付けせずに、接着層を180℃の送風式オーブンにて1時間加熱して熱硬化させ、加熱後放冷して観察用の試料を作成した。該試料片(25μm×20μm)の範囲内の状態を電子顕微鏡で観察し、海島構造の有無を確認した。電子顕微鏡で観察された海島構造の状態は、図1A〜図1Iに示すとおり、各々の実施例に相当する海島構造の状態である。表4〜7で、海島構造を有していた場合を○とし、有していない場合を×として示した。
【0077】

【0078】

【0079】

【0080】

【0081】
上記の評価結果より、本発明の接着組成物は、SUSなどの金属被着体およびCFRPなどの強化プラスチックに対して簡単に接着ができ、熱硬化後、初期およびサーマルサイクル後も強固な接着力を発揮する硬化性感圧接着シートが得られる接着組成物であることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の接着組成物は、SUSなどの金属、およびCFRPなどの強化プラスチックなどの被着体に、感圧接着性により容易に位置合わせしながら仮止め接着ができ、被着体同士を貼り合わせ後、加熱することにより接着層が完全硬化して接着性を発揮する有用な硬化性感圧接着シートを得ることができる。このため、従来は困難であった、金属やCFRPなどの強化プラスチックなどの構造材料を使用した航空機、自動車、船舶、車両、建築物、および電気機器などの構造物を接着し得る接着組成物として有効に使用することができるようになるので、将来の広範な利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、分子内にエポキシ基を含有する粘着性のアクリル系コポリマー(A)および下記一般式(1)で表されるポリマー(B)と、その構造中に下記構成単位I、さらに場合によっては構成単位IIおよび/またはIIIを有するポリマー(D)、および/またはゴム変性エポキシ樹脂(C)、あるいは、上記ポリマー(D)とゴム弾性エポキシ樹脂(E)との混合物と、潜在性エポキシ硬化剤(F)とを含有することを特徴とする接着組成物。

(上記式中のnは、0、または平均で0.1〜18の数である)
ポリマー(D)を構成する構成単位;

(上記構成単位I、II、およびIIIは、ポリマー(D)の構成単位を表わし、ポリマー(D)中における各構成単位は、構成単位Iが70質量%〜100質量%、構成単位IIが0〜30質量%、構成単位IIIが0〜30質量%である。)
【請求項2】
前記ポリマー(D)が、その構造中に構成単位I、IIおよびIIIを有し、該ポリマー中において、構成単位Iが80質量%〜86質量%、構成単位IIが9質量%〜13質量%、及び構成単位IIIが5質量%〜7質量%であり、かつ、その重量平均分子量が40,000〜140,000である請求項1に記載の接着組成物。
【請求項3】
前記ポリマー(D)の配合割合が、前記アクリル系コポリマー(A)と、前記ポリマー(B)との総量(A+B)に対して、(D)/(A+B)=1/100〜30/100(質量比)である請求項1または2に記載の接着組成物。
【請求項4】
前記アクリル系コポリマー(A)が、重量平均分子量が30×104〜100×104、エポキシ価が0.05〜0.3eq/kg、かつ、ガラス転移温度が5〜20℃である請求項1〜3のいずれか1項に記載の接着組成物。
【請求項5】
前記ポリマー(B)の、数平均分子量が340〜5,500で、かつエポキシ当量が180〜2,500g/eqである請求項1〜4のいずれか1項に記載の接着組成物。
【請求項6】
前記ゴム変性エポキシ樹脂(C)が、NBR変性エポキシ樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の接着組成物。
【請求項7】
前記ゴム変性エポキシ樹脂(C)のエポキシ当量が、200〜500g/eqである請求項1〜6のいずれか1項に記載の接着組成物。
【請求項8】
前記ポリマー(B)と前記ゴム変性エポキシ樹脂(C)との配合割合が、C/B=3/10〜10/10(質量比)である請求項1、4〜7のいずれか1項に記載の接着組成物。
【請求項9】
前記アクリル系コポリマー(A)と、前記ポリマー(B)と前記ゴム変性エポキシ樹脂(C)の混合物(B+C)との配合割合が、(B+C)/A=150/100〜250/100(質量比)である請求項1、4〜8のいずれか1項に記載の接着組成物。
【請求項10】
前記ゴム弾性エポキシ樹脂(E)が、リュプケ式反発弾性率が40〜90%、かつ、その硬化物のガラス転移温度が−60℃〜−20℃である請求項1に記載の接着組成物。
【請求項11】
前記ポリマー(D)と前記ゴム弾性エポキシ樹脂(E)との混合物における配合割合が、D/E=30/100〜50/100(質量比)である請求項1〜5または10のいずれか1項に記載の接着組成物。
【請求項12】
前記潜在性エポキシ硬化剤(F)が、下記一般式(2)で表される化合物(W)である請求項1〜11のいずれか1項に記載の接着組成物。

【請求項13】
その初期およびサーマルサイクル引張剪断力が、16MPa以上である請求項1〜12のいずれか1項に記載の接着組成物。
【請求項14】
熱によって硬化する未硬化の接着層が剥離性を有するフィルム基材上に形成されてなる硬化性感圧接着シートの製造方法であって、前記請求項1〜13のいずれか1項に記載の接着組成物を、剥離性を有するフィルム基材上に塗布し、接着組成物が熱硬化する温度より低い温度で乾燥させて未硬化の状態で感圧接着性を与える接着層を形成する工程を少なくとも有することを特徴とする硬化性感圧接着シートの製造方法。
【請求項15】
さらに、前記未硬化の状態で感圧接着性を与える接着層が、合成繊維、カーボン繊維、およびガラス繊維の不織布または布の芯材から選ばれる少なくとも1種の芯材を有してなる請求項14に記載の硬化性感圧接着シートの製造方法。
【請求項16】
前記接着層が、接着の際に熱硬化して海島構造を形成する請求項14または15に記載の硬化性感圧接着シートの製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【図1H】
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【図1I】
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【公開番号】特開2011−202158(P2011−202158A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42618(P2011−42618)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】