説明

撮影装置

【課題】低消費電力で振動アクチュエータの起動性能の劣化を抑制可能な撮影装置を提供する。
【解決手段】撮影装置は、振動を発生する振動子と振動子に接触する固定子とを備え、振動子に複数の周期駆動信号が印加されることにより駆動力を得る振動アクチュエータと、振動アクチュエータの駆動力により移動する移動部の相対位置を検出する位置検出センサと、移動部の絶対位置を求める際の基準となる基準位置を検出する基準位置検出センサと、基準位置の検出動作の際に印加される複数の周期駆動信号の駆動周波数を、撮影の際に印加される複数の周期駆動信号の第1周波数領域よりも低い第2周波数領域の範囲内に設定する駆動信号決定部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動アクチュエータを用いてレンズを駆動する撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性体や高摩擦材に振動子を圧着し、複数の交流電圧を印加することにより振動子に楕円運動を励起して推力を得る振動アクチュエータを備えた撮影装置が知られている。振動アクチュエータは、小型で高トルクかつ高応答性という特徴を有する。しかし、振動子を摩擦材に圧着した状態で使用するため、使用環境や個体差により摩擦力が変化し、速度ムラや起動時の性能の劣化や固着等の問題がある。
【0003】
特許文献1には、振動アクチュエータの動作状態を確認するため、移動しない振動(定在波)を発生させることや、所定量移動させる振動を発生させることで、振動体と摩擦材の固着を防止する方法が開示されている。また特許文献2には、固着状態を回避するため、駆動信号の周波数を高周波側から低周波側にスイープする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11―178367号公報
【特許文献2】特開平11―206156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直進型の振動アクチュエータを備えた撮影装置の場合、固定子(摩擦材)の表面が剥き出しになるため、高湿度環境下での摩擦材の表面に結露や水分子が吸着する場合がある。このため、振動アクチュエータの起動時に摩擦力が低下し、起動性能が劣化するおそれがある また、バッテリーを搭載した撮影装置では消費電力を低減するため、過剰な動作を行うことは望ましくない。
【0006】
そこで本発明は、低消費電力で振動アクチュエータの起動性能の劣化を抑制可能な撮影装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての撮影装置は、振動を発生する振動子と該振動子に接触する固定子とを備え、該振動子に複数の周期駆動信号が印加されることにより駆動力を得る振動アクチュエータと、前記振動アクチュエータの前記駆動力により移動する移動部の相対位置を検出する位置検出センサと、前記移動部の絶対位置を求める際の基準となる基準位置を検出する基準位置検出センサと、前記基準位置の検出動作の際に印加される前記複数の周期駆動信号の駆動周波数を、撮影の際に印加される該複数の周期駆動信号の第1周波数領域よりも低い第2周波数領域の範囲内に設定する駆動信号決定部とを有する。
【0008】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低消費電力で振動アクチュエータの起動性能の劣化を抑制可能な撮影装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1における撮影装置の要部断面図及び制御ブロック図である。
【図2】振動アクチュエータに印加される駆動信号の駆動周波数と振動アクチュエータの駆動速度との関係図である。
【図3】振動アクチュエータの駆動原理の概念図である。
【図4】実施例1において、基準位置の検出動作を示すフローチャートである。
【図5】実施例1において、駆動周波数及び位相差の決定方法を示すフローチャートである。
【図6】実施例2における撮影装置の要部断面図及び制御ブロック図である。
【図7】実施例2において、駆動周波数及び位相差の決定方法を示すフローチャートである。
【図8】実施例2において、駆動周波数及び位相差の決定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【実施例1】
【0012】
まず、本発明の実施例1における撮影装置について説明する。図1は、本実施例における撮影装置の要部断面図及び制御ブロック図を示す。撮影装置100は、レンズの位置決め装置を設けたレンズ駆動装置を備えて構成される。図1において、101は固定鏡筒、102は摩擦材からなる固定子、103は圧電素子等を用いた振動子である。固定子102は、高摩擦係数と摩擦耐久性を兼ね備えた材料(摩擦材)で形成されている。固定子102と振動子103が加圧状態にて互いに接触することで、振動アクチュエータが構成される。このように、振動アクチュエータは、振動を発生する振動子103と振動子103に接触する固定子102とを備える。
【0013】
駆動回路122により振動子103に対して複数の周期的な電気信号(複数の周期駆動信号)が印加されることで、振動子103に楕円運動が励振され、振動子103が駆動される。このように、振動アクチュエータは、振動子103に対して複数の周期駆動信号が印加されることで駆動力を得る。この駆動力により移動部であるレンズ群105は移動する。すなわち、振動アクチュエータは、固定子102と振動子103との間に発生する摩擦力を利用して推力(駆動力)を得ることができる。このため、摩擦を阻害するような水滴等の異物が摩擦面(固定子102の表面)に付着すると、スリップ現象が発生し、振動アクチュエータの起動性能が劣化してしまう。このような水滴等の異物を除去する方法については後述する。なお、固定子102と振動子103との配置関係を逆にしても、同様の振動アクチュエータを構成することが可能である。
【0014】
104はレンズホルダであり、例えばフォーカスレンズや変倍レンズ等のレンズ群105を保持する。またレンズホルダ104は、振動子103に固定されている。106はレンズホルダ104と一体となって形成されたスリーブである。スリーブ106は、保持バー107と係合することで、図1中の矢印方向(左右方向)への直進駆動を可能としている。
【0015】
位置検出センサ109は、振動アクチュエータの駆動力により移動するレンズ群105(移動部)の位置(基準位置に対する相対位置)を検出する。位置検出センサ109としては、例えばレンズホルダ104と一体に構成された移動部に取り付けられた光学式スケールに対して、固定鏡筒101側に配置された発光部と受光部により、光学式スケールに刻まれたパターンを光学的に検出する位置センサがある。また、所定ピッチで着磁された磁気パターンを磁気抵抗素子の変化を検出して位置検出を行うセンサや、High/Lowの繰り返しパターンを異なる位相で複数出力するパルスエンコーダ等がある。
【0016】
108は基準位置検出センサである。基準位置検出センサ108は、レンズ群105の絶対位置を求める際の基準となる基準位置を検出する。基準位置検出センサ108としては、フォトインタラプタ等が挙げられる。レンズホルダ104等の光学レンズと一体となって移動する移動部材に遮光部を設け、固定鏡筒101等の固定部にフォトインタラプタのような基準位置検出センサ108を配置する。この構成によれば、移動部材の移動に応じて遮光部がフォトインタラプタの光路を遮ることで、センサ出力がHighからLowまたはLowからHighに変化する。
【0017】
位置検出センサ109から出力される検出信号は、複数の方形波や正弦波の繰り返し信号である。AD変換器110は、位置検出センサ109から出力される検出信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換する。111は位置演算部であり、位置検出センサ109からAD変換器110を介して得られた信号(デジタル信号)をレンズ位置(レンズ群105の位置)と等価の位置データに変換する信号処理部である。114は基準位置検出回路である。基準位置検出回路114は、例えば、シュミットトリガ機能の付いたバッファ回路等を備え、基準位置検出センサ108の出力信号を検出するための回路である。115は基準位置を演算する基準位置演算部、116は基準位置を記憶するための基準位置記憶部である。これらの各部の詳細な動作については後述する。
【0018】
113はレンズ群105を所望の位置に移動(駆動)するための目標位置を発生する目標位置発生部である。112は位置演算部111で算出した現在のレンズ位置(レンズ群105の現在位置)と目標位置発生部113で生成した目標位置(レンズ群105の目標位置)との差分を演算し、偏差信号を生成する減算器である。減算器112で生成された偏差信号は、位相補償演算部117及びゲイン部118を介して、駆動信号を得るための制御信号に変換される。
【0019】
駆動信号決定部120は、偏差信号から変換されたた制御信号、及び、基準位置の検出動作中であるか否かを判定する基準位置検出動作判定部119の判定結果に基づいて、振動子103を駆動するための複数の駆動信号の周波数及び位相差を決定する。駆動信号発生回路121は、駆動信号決定部120で決定された周波数及び位相の複数の駆動信号を正弦波やパルス信号として生成し、駆動回路122へ送る。駆動信号発生回路121からの出力信号は振動子103を駆動するには不十分な電圧である。このため、駆動回路122で電圧増幅を行い、電圧増幅された複数の駆動信号を振動子103に供給し、振動アクチュエータを駆動する。
【0020】
以上の一連の動作を繰り返すフィードバック制御を行うことで、レンズ群105を目標位置に駆動することが可能となる。このような駆動制御は、主に、制御CPU128の内部で行われる。
【0021】
次に、本実施例における基準位置の検出動作について詳述する。レンズ群105と一体に構成されたレンズホルダ104及びスリーブ106が、振動アクチュエータによって駆動されることにより基準位置検出センサ108を通過すると、基準位置検出センサ108の出力信号が変化する。そして、基準位置検出センサ108の出力が変化した時点での位置検出センサ109から得られるレンズ群105の位置(レンズ位置)を検出する。このレンズ位置を基準位置として設定することで、位置検出センサ109からの出力信号(位置データ)を絶対位置として検出することが可能となる
図4は、基準位置の検出動作を示すフローチャートである。本実施例では、基準位置検出センサ108として、その出力信号がHigh/LowとなるフォトインタラプタやON/OFFスイッチを用いた場合について説明する。図4に示されるフローチャートは、制御CPU128の指示に基づいて実行される。まず、ステップS301において、基準位置検出センサ108の出力信号(High/Low出力)を検出する。続いて、ステップS302において、基準位置検出センサ108の出力信号がHighであるか否かの判定を行う。出力信号がHighの場合にはステップS303に進み、出力信号がLowの場合にはステップS307に進む。
【0022】
出力信号がHighの場合、ステップS303において、HighからLowへの切り換わりエッジを検出するために、正方向(本実施例ではLow方向)に駆動を行う。そしてステップS304において、HighからLowへの切り換わりエッジを検出したか否かの判定を行う。切り換わりエッジが検出されない場合には、この判定を繰り返し行う。一方、切り換わりエッジを検出した場合には、ステップS305に進み、正方向への駆動を停止する。
【0023】
続いて、ステップS306において、位置データを絶対位置化する。例えば、このときの位置演算部111による演算で得られた位置データを基準位置として基準位置記憶部116に記憶する。以降の位置決め制御において、基準位置記憶部116に記憶された基準位置と、逐次得られる位置データとの差分を位置演算部111にて算出することで、レンズ群105の絶対位置を求めることが可能となる。また、エッジを検出した際の位置データを所定の基準位置で置き換えることで、以後得られる位置データをそのまま絶対位置として用いることも可能である。
【0024】
基準位置検出センサ108の出力がLowの場合、ステップS307において、LowからHighへの切り換わりエッジを検出するため、逆方向(本実施例ではHigh方向)に駆動を行う。続いて、ステップS308において、LowからHighへの切り換わりエッジを検出したか否かの判定を行う。切り換わりエッジを検出しない場合には、ステップS308を繰り返し行う。一方、切り換わりエッジを検出した場合には、ステップS309に進み、逆方向に微小駆動を行う。これは、次のステップS303にて、再度正方向に駆動し、HighからLowへの切り換わりエッジを検出するための動作である。このような動作により、基準位置を検出する際には、常にHighからLowへの切り換わりエッジを検出することになるため、逆方向の駆動で生じうる反転ガタやHighとLowとの間の切り換わりエッジの不均等を回避することができる。
【0025】
このように、本実施例では、撮影装置100の起動時に基準位置検出センサ108の検出信号に基づいて振動子103の基準位置を検出し、の後、この基準位置及び位置検出センサ109の検出信号に基づいて振動子103の絶対位置を検出する。
【0026】
ここで、図2及び図3を参照して、振動アクチュエータへ印加される駆動信号について説明する。図2は、振動アクチュエータ(振動子103)に印加される駆動信号の駆動周波数と振動アクチュエータの駆動速度との関係図である。図2において、Ph1、Ph2、Ph3で示される3つの実線は、振動子103に印加される複数の周期駆動信号の駆動周波数frと振動アクチュエータの駆動速度の関係を示す。ここでは、複数の周期駆動信号の位相差Ph1、Ph2、Ph3(0<Ph3<Ph2<Ph1≦90)がそれぞれ異なっている。例えば、Ph1で示される実線は、複数の周期駆動信号の位相差がPh1(例えば90°)である場合に得られた関係である。またPh2で示される実線は、その位相差がPh2(例えば90°未満)である場合に得られた関係であり、Ph3で示される実線は、位相差Ph2より小さい位相差Ph3である場合に得られた関係である。このように、複数の周期駆動信号の位相差を変化させることで、振動アクチュエータの駆動速度を制御することが可能となる。すなわち、位相差を大きくする(90°に近づける)ことで駆動速度を上げることができ、位相差を小さくする(0°に近づける)ことで駆動速度を下げることができる。
【0027】
図2において、fr0は振動子103の共振周波数である。振動アクチュエータは、一般的に、共振周波数fr0よりも高い駆動周波数で制御される。このため、以下の説明においては、駆動周波数frは共振周波数f0よりも高い周波数領域であるということを前提として説明する。同じ駆動速度にて振動アクチュエータを駆動しようとする場合、例えば、位相差Ph1で駆動周波数fr3に設定する第1の方法と、位相差Ph2で駆動周波数fr1に設定する第2の方法がある。図2に示されるように、第1の方法と第2の方法のいずれの場合でも、振動アクチュエータを同じ駆動速度で駆動することができる。
【0028】
ただし、第1の方法では、振動子103の振動振幅を大きくした状態で、駆動速度を制御することが可能である。一方、第2の方法では、振動振幅は第1の方法に比べて小さくなるが、消費電力を第1の方法よりも少なくすることができる。図3を参照して、この原理を簡単に示す。図3は、振動アクチュエータの駆動原理の概念図である。201は振動子であり、点Pでの振動子201の動きが概念的に示されている。点Pの軌跡は、振動子201に印加される複数の周期駆動信号の位相差が90°のときに円を描く。複数の周期駆動信号の位相差を変化させる(位相差を90°より小さくする)と、点Pの軌跡は円から楕円へ変化する。すなわち、複数の周期駆動信号の位相差を変化させると、点Pの縦方向における変位量は変わらずに、横方向(進行方向)における変位量が変わる。
【0029】
また、振動子201に印加される複数の周期駆動信号の駆動周波数を変化させる(共振周波数よりも大きな周波数領域において、駆動周波数を大きくする)と、点Pの円の軌跡は徐々に小さくなる。従って、複数の周期駆動信号の駆動周波数及び位相差を制御することにより、点Pの蹴り出し方向(進行方向と反対方向)の力を制御することができ、駆動速度を変化させることが可能となる。
【0030】
本実施例では、撮影装置による撮影の際(通常動作の際)に用いられる駆動周波数frは、消費電力が比較的小さい周波数領域である第1周波数領域(fr3≦fr≦fr4)の範囲内に設定される。一方、振動アクチュエータの動き出しを阻害する固定子(摩擦材)又は固定子と振動子との接触部に付着した水分やゴミは、共振周波数fr0に近い駆動信号を印加して振動子に大きな振動を与えることにより、蒸発させ、また、振るい落とすことができる。すなわち、固定子等に付着した水分やゴミ等の異物を効果的に除去するには、駆動周波数frを第1周波数領域よりも低い第2周波数領域(fr1≦fr≦fr2)の範囲内に設定することが好ましい。しかしながら、共振周波数fr0に近い第2周波数領域の範囲内での駆動信号を印加すると、振動子の入力インピーダンスが小さくなるため、大きな電流が流れやすく消費電力が増大する。このため、定常的に(撮影等の通常動作の際に)このような駆動信号を振動子に印加することは好ましくない。
【0031】
以下、図5を参照して、本実施例における位置決め動作について詳述する。図5は、本実施例における駆動周波数及び位相差の決定方法を示すフローチャートである。図5に示されるフローチャートは、制御CPU128の指示に基づいて実行される。まずステップS401において、基準位置検出動作判定部119は、図4に示されるような振動子の基準位置の検出動作中であるか否かの検出を行う。基準位置検出動作判定部119は、基準位置の検出動作中であると判定した場合、ステップS402に進む。一方、基準位置の検出動作中ではないと判定した場合、撮影等の通常動作中であると判定し、ステップS403に進む。
【0032】
基準位置の検出動作の際には、ステップS402において、駆動周波数frを、撮影等の通常動作の際に用いる第1周波数領域(fr3≦fr≦fr4)よりも低い第2周波数領域(fr1≦fr≦fr2)の範囲内に設定される。このように駆動信号決定部120は、基準位置の検出動作の際には、撮影等の際に用いられる駆動周波数よりも低い駆動周波数を用いて、すなわちより高い駆動速度で振動アクチュエータを駆動する。一方、撮影等の通常動作の際には、ステップS403において、駆動周波数frを第1周波数領域(fr3≦fr≦fr4)の範囲内に設定する。このように、撮影等の通常動作の際には、消費電力を小さくするため、比較的高い駆動周波数を用いて振動アクチュエータを駆動する。
【0033】
次に、ステップS404において、フィードバック制御における制御量、すなわち図1のブロック図におけるゲイン部118の出力信号が算出され、駆動信号決定部120に入力される。続いてステップS405において、駆動信号決定部120は、ステップS404で算出された制御量(ゲイン部118の出力信号)及び基準位置検出動作判定部119の出力信号に基づいて、適切な駆動周波数を決定する。すなわち駆動信号決定部120は、ステップS402又はステップS403で設定された周波数領域(第1周波数領域又は第2周波数領域)の範囲内で、実際に振動アクチュエータに印加される駆動周波数を決定する。
【0034】
なお、駆動信号決定部120は、駆動周波数だけでなく位相差についても決定するように構成されていることが好ましい。この場合、駆動信号決定部120は、基準位置の検出動作の際における複数の周期駆動信号の位相差を、撮影の際における複数の周期駆動信号の第1位相差とは異なる第2位相差に設定する。駆動速度を上げる必要がある場合には、第2位相差を大きくする(90°に近づける)。一方、駆動速度を下げる必要がある場合には、第2位相差を小さくする(0°に近づける)。
【0035】
また、振動アクチュエータの起動時には、付着した水分等の異物をより効果的に除去するため、第2位相差の複数の周期駆動信号を印加する前に、位相差が0°である定在波(第3位相差の複数の周期駆動信号)を印加することが好ましい。この場合、駆動信号決定部120は、基準位置の検出動作の際に、第2位相差に設定する前に第2位相差より小さい第3位相差に設定する。第3位相差は厳密に0°である必要はなく、少なくとも第2位相差よりも小さい値であればよい。
【0036】
本実施例によれば、振動アクチュエータの起動性を阻害する固定子等に付着した水分やゴミ等の異物は、基準位置の検出動作の際に共振周波数に近い(比較的低い駆動周波数の)駆動信号を印加し、振動子に大きな振動を与えることで効果的に除去することができる。また、このような異物が固着している場合でも、大きな振動を与えることにより接触状態を通常の状態に改善することが可能である。さらに、撮影等の通常動作の際には、駆動周波数を基準位置動作中より高い駆動周波数に設定するため、消費電力を低減することができる。
【実施例2】
【0037】
次に、本発明の実施例2における撮影装置について説明する。図6は、本実施例における撮影装置200の要部断面図及び制御ブロック図である。撮影装置200は、温度センサ及び湿度センサを備え、これらのセンサの出力信号を用いた制御を行う点で、実施例1の撮影装置100と異なる。それ以外の構成は実施例1と同様であるため、それらの説明については省略する。
【0038】
図6において、123は温度センサ、124は湿度センサである。温度センサ123は、例えば、サーミスタや感温抵抗である。湿度センサ124は、例えば、高分子材料を用いたコンデンサやセラミック湿度センサである。温度センサ123及び湿度センサ124は、振動アクチュエータに近い位置に設置することが好ましい。
【0039】
125、126は、それぞれ、温度センサ123及び湿度センサ124が出力するアナログ電圧をデジタル信号に変換するためのAD変換器である。温度センサ123及び湿度センサ124の出力は、温度及び湿度に比例しない場合がある。そのため、温度・湿度演算部127は、温度センサ123及び湿度センサ124の出力が実際の温度及び湿度に比例するように変換処理を行う。駆動信号決定部120は、実施例1の構成に加えて、温度・湿度演算部127の出力信号(温度センサ123及び湿度センサ124の出力信号)に基づいて、駆動周波数frの制御を行う。なお、温度センサ123は温度変動によるレンズ位置の変化を補正するためにも利用できる。以上の処理は、制御CPU128内で実行される。
【0040】
図7は、本実施例における駆動周波数及び位相差の決定方法を示すフローチャートである。図7に示されるフローチャートは、制御CPU128の指示に基づいて実行される。まずステップS501において、基準位置の検出動作中であるか否かの検出を行う。基準位置の検出動作中である場合にはステップS502に進み、基準位置の検出動作でない場合には撮影等の通常動作中であると判断してステップS505に進む。
【0041】
基準位置の検出動作中である場合には、ステップS502において、温度センサ123及び湿度センサ124を用いて撮影装置200の内部の温度及び湿度を検出する。次に、ステップS503において、温度センサ123で検出した温度が所定の温度より大きいか、又は、湿度センサ124で検出した湿度が所定の湿度より大きいか否かを判定する。撮影装置200の内部の湿度が高い場合、振動子又は固定子に水分子が吸着し易く、起動時に摩擦力が低下してスリップしやすい状態となる。また、温度が高い場合でも空気中の水分子の量が相対的に多くなる可能性があるため、湿度が高い場合と同様にスリップしやすい状態となり得る。このため、検出温度が所定の温度より大きいか、又は、検出湿度が所定の湿度より大きい場合には、ステップS504に進み、駆動周波数frを第2周波数領域(fr1≦fr≦fr2)の範囲内に設定し、振動アクチュエータを駆動する。一方、検出温度が所定の温度以下、かつ、検出湿度が所定の湿度以下である場合には、撮影等の通常動作中と同様にステップS505に進み、駆動周波数frを第1周波数領域(fr3≦fr≦fr4)の範囲内に設定し、振動アクチュエータを駆動する。
【0042】
次に、ステップS506において、フィードバック制御における制御量、すなわち図6のブロック図におけるゲイン部118の出力信号が算出され、駆動信号決定部120に入力される。続いてステップS507において、駆動信号決定部120は、ステップS506で算出された制御量(ゲイン部118の出力信号)、基準位置検出動作判定部119の出力信号、及び、温度・湿度演算部127の出力信号に基づいて、適切な駆動周波数を決定する。すなわち駆動信号決定部120は、ステップS504又はステップS505で設定された周波数領域(第1周波数領域又は第2周波数領域)の範囲内で、実際に振動アクチュエータに印加される駆動周波数を決定する。なお、駆動信号決定部120は、駆動周波数だけでなく位相差についても決定するように構成されていることが好ましい。
【0043】
なお本実施例では、温度センサ123及び湿度センサ124の両方を設けている場合について説明したが、これに限定されるものではなく、湿度センサ124のみを設けていてもよい。このとき、駆動信号決定部120は、湿度センサ124により検出された湿度が第1湿度より大きい場合、基準位置の検出動作の際に印加される複数の周期駆動信号の周波数を第2周波数領域の範囲内に設定する。一方、駆動信号決定部120は、湿度が第1湿度以下である場合、駆動周波数を第1周波数領域の範囲内に設定する。
【0044】
本実施例によれば、基準位置の検出動作の際に印加される駆動周波数を温度や湿度に応じて変更することで、振動子や固定子の表面に水滴や水分子が付着しているか否かを推測することができる。このため、不必要に駆動周波数を変更することがなくなり、消費電力の増大を抑制することが可能である。
【0045】
図8は、本実施例において、駆動周波数及び位相差の別の決定方法を示すフローチャートである。図8に示される方法によれば、湿度センサを用いてさらに効果的に起動性能を確保しつつ、消費電力を低減することが可能となる。図8に示されるフローチャートは、制御CPU128の指示に基づいて実行される。まずステップS601において、湿度センサ124を用いて撮影装置200の内部の湿度を検出する。続いて、ステップS602において、検出湿度が閾値1(第1湿度)よりも大きいか否かを判定する。検出湿度が閾値1より大きい場合、ステップS603に進む。一方、検出湿度が閾値1以下の場合、振動子や固定子の表面に水滴や水分子の異物の付着は起動性能に影響しないとして、ステップS605に進む。
【0046】
次に、ステップS603において、検出湿度が閾値2より大きいか否かを判定する。ここで、湿度の閾値2(第2湿度)は、閾値1よりも大きい値(閾値2>閾値1)に設定される。検出湿度が閾値2よりも大きい場合(いわゆる高湿度環境下)では、起動性能は著しく低下していると判断し、ステップS606に進む。一方、閾値1≦検出湿度<閾値2の場合には、ステップS604に進む。
【0047】
ステップS604では、振動子に大きな振動を励起させるために、駆動周波数frを第2周波数領域(fr1≦fr≦fr2)の範囲内で設定し、振動アクチュエータを駆動する。また、ステップS605では、駆動周波数frを撮影等の通常動作の際に利用する第1周波数領域(fr3≦fr≦fr4)の範囲内で設定し、振動アクチュエータを駆動する。
【0048】
また、ステップS606では、駆動周波数fr1にて移動を伴わない駆動信号である定在波を振動子に印加し、振動子と固定子の摩擦熱と振動により固定子の表面等に付着した水分を除去する。その際、磨耗粉などのゴミの除去も同時に行うことができる。その後、ステップ604にて駆動周波数を設定する。
【0049】
次に、ステップS607において、前段のステップS604又はステップS605で設定した周波数領域(第1周波数領域、又は、第2周波数領域)の範囲内の駆動周波数frで基準位置の検出動作を実行する。続いて、ステップS608において、基準位置検出動作後は通常動作となるため、駆動周波数をfr3〜fr4に戻す。但し、ステップ605にてすでに駆動周波数がfr3〜fr4に設定されている場合にはそのままとする。
【0050】
なお、閾値2よりも大きい湿度が検出された場合は、基準位置検出動作時に限らず、定在波を振動子に印加し、振動子と固定子の摩擦熱と振動により固定子の表面等に付着した水分を除去するようにしてもよい。
【0051】
本実施例によれば、湿度に基づいて駆動周波数を選択できるため、消費電力を大幅に増大させることなく、水分やゴミによる振動アクチュエータの起動性能の劣化を抑制することができる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
101 固定鏡筒
102 固定子
103、201 振動子
108 基準位置検出センサ
109 位置検出センサ
120 駆動信号決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動を発生する振動子と該振動子に接触する固定子とを備え、該振動子に複数の周期駆動信号が印加されることにより駆動力を得る振動アクチュエータと、
前記振動アクチュエータの前記駆動力により移動する移動部の相対位置を検出する位置検出センサと、
前記移動部の絶対位置を求める際の基準となる基準位置を検出する基準位置検出センサと、
前記基準位置の検出動作の際に印加される前記複数の周期駆動信号の駆動周波数を、撮影の際に印加される該複数の周期駆動信号の第1周波数領域よりも低い第2周波数領域の範囲内に設定する駆動信号決定部と、を有することを特徴とする撮影装置。
【請求項2】
前記駆動信号決定部は、前記基準位置の検出動作の際における前記複数の周期駆動信号の位相差を、前記撮影の際における該複数の周期駆動信号の第1位相差とは異なる第2位相差に設定することを特徴とする請求項1に記載の撮影装置。
【請求項3】
前記駆動信号決定部は、前記基準位置の検出動作の際に、前記第2位相差に設定する前に前記第2位相差より小さい第3位相差に設定することを特徴とする請求項2に記載の撮影装置。
【請求項4】
前記撮影装置は、更に、湿度を検出する湿度センサを有し、
前記駆動信号決定部は、前記湿度センサにより検出された前記湿度が第1湿度より大きい場合、前記基準位置の検出動作の際に印加される前記複数の周期駆動信号の周波数を前記第2周波数領域の範囲内に設定し、該湿度が該第1湿度以下である場合、該周波数を前記第1周波数領域の範囲内に設定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撮影装置。
【請求項5】
前記駆動信号決定部は、前記湿度センサにより検出された前記湿度が前記第1湿度より大きな第2湿度よりも大きい場合、前記移動部の移動を伴わない周期駆動信号を設定することを特徴とする請求項4に記載の撮影装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−23884(P2012−23884A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160599(P2010−160599)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】