説明

放水路の分離装置

【課題】降水排水、産業排水等に含有する懸濁物質を放水路内で容易に分離するための分離装置。
【解決手段】放水路内に多孔板の下縁部を放水路底部との間に間隔を設けて配設し、その多孔板の下流側の放水路底部に堰板を設け、前記多孔板と堰板との間に可撓性板を間隔を設けて配設する、放水路の分離装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降水排水、産業排水等の油、浮遊物質等の懸濁物質を分離するために設けられた放水路の分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来陸域からの降雨排水、産業排水等は、河川、湖沼、港湾、海洋などに排出されていた。とりわけ港湾の場合、湾奥は背後に大都市を控えた壷の底に当たり、海水交換の少ないところである。ここに河川からの排水が流入することにより、直接的にかつ継続的に懸濁物質となり、港湾の環境汚染が日々加積されているのが現状である。加えて更に多くの船舶の出入航や、積荷のケミカル・重油などの流出事故などにより、さらに大きなリスクを抱えている。大都市港湾は、まさに陸域汚染源が集中的となり、この環境保全が全く為されていない。
【0003】
下水や産業排水などの最末端部の放水路には一般的に懸濁物質を除去するために、オイルフェンスとスクリーンが設けられている。この放水路は、流出する排水量と河川等の水位の変化により放水路内の水位が常に変化する。そして従来のオイルフェンスは放水路内の水位の変化に対応するために、放水路の両壁面にスライドバーを設け、ここにオイルフェンスの両端部に設けられた環状金具をスライドバーに上下動が可能なように設置されていた。
しかしながら、排水量が増大して水速が速くなるとオイルフェンス面に急激に圧力がかかるためにスライド機能が働かず水位の変化に対応できず、オイルフェンスが固定された状態になって水位に追随せず、フェンス効果が機能しない。その結果排水がオイルフェンスの上部を溢流し、かつ膜状フェンスが水流と平衡状態となりフェンス機能が発揮されずに未処理のまま懸濁物質を河川や港湾に排出されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明者は、放水路内の水位が底水位のときでも、また高水位のときにも安定して排水中の懸濁物質を分離できる装置について種々研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、従来のように放水路の水位に変動するオイルフェンス式ではなく、放水路の幅全面に多孔板を設けると共に複数の可撓性板を固定または半固定状態で設置し、流水圧に対して常に反力がかかり、抑制効果によって、油分、浮遊物質等の懸濁物質の上昇(分離)を促進させ、上部静穏域で停滞させる事ができる。
また特に可撓性板の下部を未固定とすることによって、可撓性板の下部が流圧によって後方に湾曲状態に変形することによって、通水断面積を拡大することができ、それによって渦列流を上方方向に発生させることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、流水の水勢で細流化させ泡の発生などで排水中の油分や浮遊物質を分離し易くし、また可撓性板の両側縁部を全部固定または一部固定して設置することによって、流水圧に対して常に反力がかかり、浮遊物質の上昇を促進させ、さらには可撓性板が流圧によって後方に湾曲したような状態に変形するような場合には、通水断面積が拡大され、渦列流を上方方向に発生させることができるので排水中の懸濁物質を効果的に分離することができる。
また、本発明は堰板12の近傍に上下に可動可能な堰板13を設けることによって水量が少なく通常では放水路内の水位が低い場合でも可動可能な堰板13の位置を調整することによって、放水路内の水位を上昇させることができる。
更に、水量が多く流水の水勢が強く流れが速い場合でも、可動可能な堰板13の位置を調節することによって、放水路内の水位が上昇して、オーバーフローさせる事なく、水勢を弱め、可撓性板間に、流れの遅い停滞域が生じ、油分、浮遊物質等の懸濁物質の捕捉効果を促進させる事ができるので本発明の分離装置の機能を充分に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】放水路に設けられた分離装置の平面図
【図2】多孔板の正面図
【図3】多孔板を放水路の側壁面に固定した状態を示すA−A縦断面図
【図4】放水路に多孔板を設置した状態を示す正面図
【図5】可撓性板を放水路の側壁面に固定設置した状態を示す縦断面
【図6】本発明の分離装置の模式化した縦断面図
【図7】可撓性板9の変形に伴う水流の流れを示した状態図
【図8】可撓性板7、8の近傍に生起する水流の流れを示した状態図
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に本発明を、図面を参照しながら説明するが、本発明は以下の説明のみに限定されるものではない。
図1は、本発明の放水路Tの平面図を示すものであり、図2に示す多孔板1を放水路の幅に合わせて多孔板1の両側縁部を放水路側壁面に固定する。多孔板1の固定方法としては図3に示すように、多孔板の側縁部の一方にL字形の留め金具2と、その反対面に平板形の留め金具2´等を設けてサンドイッチ状に挟んで例えばボルトナットのような固定具4で固定し、次いで多孔板1の下縁部と放水路の底部との間に間隔を設けて固定具4のL字形の他の一辺を放水路の側壁面3に固定具5で固定設置する。図4は、排水の流れ方向から見た多孔板1を設置したときの縦断面図である。
この多孔板1の下縁部と放水路の底部との間の間隔は、多孔板1の上流側にゴミや汚泥等の固形物を堆積させないために設けるものであり、最小時水位のときに多孔板1の下縁部が流水中に浸らない様に設けることが望ましい。
また多孔板1の孔6の位置、個数及び大きさは放水路中を流れる排水等の種類によって適宜選択することができる。また多孔板1の材質もゴム板等の可撓性の板を用いることができる。
なおこの多孔板は必ずしも必要ではないが、設置することによって、流水の水勢で細流化させ泡の発生などで排水中の油分や浮遊物質を一層分離し易くすることができる。
【0009】
次に多孔板1の下流側に可撓性板7を設置する。設置方法は、多孔板1と同様にL字形の留め金具2と平板形留め金具2´とで可撓性板7の両側縁部を放水路の側壁面3に固定する。
その際この可撓性板7は図5に示すように両側縁部の下部は固定されておらず上部だけが固定されていることが好ましい。固定する部分は少なくとも放水路の深さ方向(可撓性板の縦方向)に対して可撓性板7の上部から中間位置(可撓性板の長さの1/2)の間を固定することが好ましく、その固定部は水流等を考慮して適宜決定すればよい。
【0010】
さらに図1に示すように可撓性板7の下流側に可撓性板7と同様に順次可撓性板8、可撓性板9、可撓性板10を固定設置する。
図1においては可撓性板を4枚固定設置する場合を示したが、この枚数は排水の種類および流速、水量等を考慮して決定すればよい。さらに上下に可動可能な堰板13の設置よっては、可撓性板を例えば3枚に減らして設置することも可能となる。
また、この可撓性板の縦方向の長さは放水路の最大位水位の高さの1/4〜3/4の長さにすることが好ましい。
任意の枚数設けられた最下流側の可撓性板の下流側にごみ取りスクリーン11を張設する。このごみ取りスクリーン11の下縁部は放水路の底部に位置し、他方上縁部は放水路の最大位水位より高い位置迄張設することが好ましい。
【0011】
ごみ取りスクリーン11の下流側には、放水路Tの底部に一定の水深を保持するために堰板12を設ける。この堰板12の下縁部は放水路の底部に位置し、他方上縁部は放水路の最小位水位を確保する高さにすることが好ましい。
また水量が少なく放水路内の水位が低い場合にも本発明の分離装置の能力を充分に活用する方法として、例えば堰板12の真上の位置に、電動または手動巻上げによる上下に可動可能な堰板13を設けることが好ましい。すなわち水量が少ない時は可動可能な堰板13を下降させて堰板12と可動可能な堰板13との間隔を狭くすることによって分離装置の放水路における水位を上昇させることができるので、放水路内に設けられた可撓性板の機能を最大限利用することができるようになる。さらに可動可能な堰板13を設けた場合、堰板12を省略することもできる。
また前記の可動可能な堰板13の取り付ける位置は堰板12の真上の他、該堰板12の前後(上流側あるいは下流側)のいずれかの位置に設けることもできる。この可動可能な堰板13の取付る場合には、放水路側壁面に可動可能な堰板13用ガイド部を設け、該可動可能な堰板13用ガイド部は、放水路の側壁面3に固定具で固定設置し、流速に影響されることなく可動させることが好ましい。
更に前記の可動可能な堰板13の取付け位置はごみ取りスクリーン11が有る場合、該ごみ取りスクリーン11の上流側の位置で、該ごみ取りスクリーン11に添わせて設けることで、可動可能な堰板13用ガイド部を省略することもできる。
【0012】
可撓性板7、8、9、10の素材としてはゴム板、芯入ゴム板、軟質合成樹脂等が用いられる。例えばゴム板等の場合は中古ベルトゴンベアーを適宜のサイズに整形して使用することができる。可撓性板の厚みも水流等を考慮して0.5~20cmの範囲のものを使用するのが好ましい。また可撓性板の固定部と未固定部の材質を変える、或いは厚みを変えても良い。
【0013】
次に多孔板1および可撓性板7、8、9、10の設置位置について説明する。
図6は、多孔板1および可撓性板の配列位置の一例を示したものであり、以下の配列位置に限定されるものではない。
図6は幅1200mmおよび水深1200mmの放水路を例にとって説明する。
まず多孔板1は幅1200mm、長さ350mmを放水路の水深の中間部から下方に向けて(水深300〜650mmの間)配置し、多孔板1の両側縁部を放水路の側壁面に固定する。次に多孔板1から約750mm下流側に可撓性板(幅1250mm、長さ400mm)7を設ける。この可撓性板7の両縁部を放水路の側壁面に固定する場合、上部の約1/4を固定し、残りの下部の3/4の部分は固定せずに設置する。可撓性板7の設置位置は、可撓性板7の上縁部が最大時水位より突出する状態で設置するのが好ましい。次いで可撓性板7から約750mm下流側に可撓性板(幅1210mm、長さ500mm)8を設ける。この可撓性板8の設置位置は、可撓性板7と同様に可撓性板8の上縁部が最大時水位より突出するように設け、かつその両側縁部も上縁部から約1/5の部位のみ放水路の側壁面に固定し下部の4/5の部分は未固定とする。
【0014】
さらに可撓性板(幅1210mm、長さ300mm)9を可撓性板8から約400mm下流側に設ける。この可撓性板9の設置位置は、可撓性板9の上縁部が通常時水位から約100mm下った位置に配置し、かつ両側縁部も上縁部から約1/3の部位のみ放水路の側壁面に固定する。
次に可撓性板(幅1210mm、長さ400mm)10を可撓性板9から約350mm下流側に上縁部から約1/4の部分を放水路の側壁面に固定して設ける。この可撓性板10の設置位置は、最小時水位の時に可撓性板10の下縁部が水流中に浸るように設ける。
また、可動可能な堰板13を堰板12の真上の位置に取り付けた場合について説明する。該可動可能な堰板(幅1180mm、長さ1200mm)13の下縁部が通常時水位より浸るように設ける事で、通常時排水において、放水路Tの水位を通常時水位より高い水位に上昇させ、油分、浮遊物質等を可撓性板7及び可撓性板8の上流側で停滞させて、捕捉することができる。
【0015】
本発明においては複数の可撓性板の配置方法は種々の方法があるが一般的には、高さ関係において上流側の可撓性板の下縁部と隣接する下流側の可撓性板の上縁部が高さ方向においてラップしている状態に配置するのが好ましい。
そして複数の可撓性板を設置した時に、水流方向(多孔板側)からみて放水路内領域の最小時水位から最大時水位の範囲を可撓性板で遮断された状態になるように設置することが好ましい。
要するに本発明において設けられる可撓性板の縦方向の配設位置は最小時水位から最大時水位の間で多孔板1側からみて複数の可撓性板から構成されている遮蔽面に間隔がないように設けることが好ましい。
また可撓性板も水質、水量、水流の速さ、水位の変化等によって、その枚数及び長さ更に可撓板の両側縁部の放水路の側壁面に固定する上部の長さを適宜選択すればよい。
【0016】
次に図6に示した放水路分離装置による排水の処理方法について説明する。
排水の水量が少ない場合、分離装置の最終部に堰板12が設けられているのでどんなに水量が少なくとも堰板12の高さの水位が確保される。また可動可能な堰板13を設けることによっても水位が確保される。排水が最小水位で流れる場合、流速が遅いため排水中の油分等が分離装置内を通過する間に水面に浮上して流れ、最終の可撓性板10によって塞き止められて集められる。集められた浮遊物は適宜の手段を用いて除去する。
【0017】
また通常の水位の量で排水が流れている場合多孔板1によって水流に乱流が生起し、これによって気泡が排水中にとり込まれ、その気泡に油分等が付着してフロスとして水面上に浮上する。浮上したフロスは可撓性板7の前面および可撓性板8の前面部に集められる。これらのフロスは吸引等の適宜の手段を用いて除去する。
通常時水位になると、ある程度の水速があるので放水路の下方に設けられた可撓性板9、10は下方部が固定されていないので抵抗を受けて下方部が仮想線で示すように湾曲状に曲るようになる。このような状態になると、図7に示すように、可撓性板9の裏面部に渦巻流が発生し、油分等の懸濁物質をフロス化して浮上させることができる。また可撓性板10でも可撓性板9と同様にしてフロス化を促進させることができる。排水中のごみ等は最終に設けられたごみ取りスクリーンにより除去され回収される。
【0018】
最大時水位で排水が流れる場合、可撓性板9、10の作用効果に加え、図8のように可撓性板7の裏面(下流側)部と可撓性8との前面部(上流側)との間に図示するような渦流と逆流が生起し、油分等の懸濁物質をフロス化することができる。
【符号の説明】
【0019】
T・・・・放水路
1・・・・多孔板
2・・・・留め金具
3・・・・側壁面
4・・・・固定具
5・・・・固定具
6・・・・孔
7・・・・可撓性板
11・・・スクリーン
12・・・堰板
13・・・可動可能な堰板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放水路内に複数の可撓性板をそれぞれ間隔を置いて配置し、その可撓性板の両側縁部の全部または上部縁部のみを放水路の側縁面に固定し、かつ可撓性板の下縁部が底部に最も近い可撓性板の下縁部を最小時水位時のときに水流に浸るように設置することを特徴とする放水路の分離装置。
【請求項2】
請求項1の放水路の分離装置において、最前列に設けられた可撓性板の前面に間隔を設けて多孔板を設けることを特徴とする放水路の分離装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−52406(P2012−52406A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98704(P2011−98704)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000229162)日本ソリッド株式会社 (39)
【Fターム(参考)】