放電バルブ用アークチューブ
【課題】ピンチシールの際の電極棒・モリブデン箔間の溶接強度に優れ、かつピンチシール部においてクラックが発生しにくい放電バルブ用アークチューブを提供する。
【解決手段】電極棒22の端部とモリブデン箔14との重合部をスポット溶接により接合一体化した電極アッシー20の少なくともモリブデン箔24を含む領域がピンチシール部12に封着されて、放電発光部を構成する密閉ガラス球14内に電極棒22の先端が突出するアークチューブにおいて、モリブデン箔24の電極棒22との接合部の裏側に現れる溶接痕(ナゲット)40の大きさを、反比例関係のあるバルブの寿命と比例関係のある溶接強度の両面から、0.07〜0.25mm2の範囲に特定することで、製造上の歩留まりに優れた長寿命のアークチューブが提供される。
【解決手段】電極棒22の端部とモリブデン箔14との重合部をスポット溶接により接合一体化した電極アッシー20の少なくともモリブデン箔24を含む領域がピンチシール部12に封着されて、放電発光部を構成する密閉ガラス球14内に電極棒22の先端が突出するアークチューブにおいて、モリブデン箔24の電極棒22との接合部の裏側に現れる溶接痕(ナゲット)40の大きさを、反比例関係のあるバルブの寿命と比例関係のある溶接強度の両面から、0.07〜0.25mm2の範囲に特定することで、製造上の歩留まりに優れた長寿命のアークチューブが提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用前照灯の光源として利用される放電バルブに係り、特に、電極棒の端部とモリブデン箔との重合部をスポット溶接により接合一体化した電極アッシーの少なくともモリブデン箔を含む領域がピンチシール部に封着されて、放電発光部を構成する密閉ガラス球内に電極棒の先端が突出する放電バルブ用アークチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の放電バルブ用アークチューブは、電極棒とモリブデン箔を直線状に接続一体化した電極アッシーを封着する一対のピンチシール部と、前記ピンチシール部間に挟まれて、電極が対設され発光物質等を封入した放電発光部である密閉ガラス球とを備えている。
【0003】
電極アッシーは、モリブデン箔と電極棒がスポット溶接により接合一体化されているが、スポット溶接としては、例えば、特許文献1に示す抵抗溶接が知られている。
【0004】
特許文献1では、モリブデン箔と電極棒の重ね合わせ部を一対の溶接用電極で挟み、強く加圧した状態で溶接用電極間に大電流を通すことで、溶接する。
【0005】
特に、スポット溶接の際に、電極棒の角張った端縁部とモリブデン箔が加圧されてモリブデン箔にクラックなどの傷がつき易く、その後、電極アッシーをピンチシール(封着)する際に箔切れを起こし易い。このため、モリブデン箔と電極棒との重ね合わせ部の電極棒端縁部をわずかに余した部位をスポット溶接することで、溶接によりモリブデン箔に傷がつくこと(ピンチシールする際の箔切れ)が抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−159744号公報(段落0009〜段落0011、図1、図2、5参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では、スポット溶接されたモリブデン箔の電極棒との接合部の裏側に、ナゲットと呼ばれる溶接痕が窪み部として現れるが、ピンチシール部では、このナゲット(窪み部)にガラスが喰い込んだ形態となっている。このため、ガラス層のナゲットへの喰い込み部にバルブ(アークチューブ)の点消灯の際の熱応力が集中して、ナゲットの近傍からクラックが発生して、バルブの寿命が短くなるという問題があった。
【0008】
特に、管電圧上昇に有効な水銀を密閉ガラス球内に封入しない水銀フリーアークチューブでは、水銀入りアークチューブに比べて低い管電圧を補うべく、管電流を上げて電力を確保するため、高電流により電極(棒)にかかる負荷も大きいし、電極(棒)が高温となる分、モリブデン箔とガラスの界面に発生する熱応力(熱歪)も大きく、ナゲット近傍のガラス部を起点とするクラックがいっそう発生し易い。
【0009】
そこで、発明者は、次のように考えた。
【0010】
ナゲットの大きさ(縦×横)と、ナゲット近傍を起点とするピンチシール部におけるクラックの発生(バルブの寿命)との間には、何らかの相関関係があるのではないか、また、このナゲットの大きさ(と、スポット溶接部における溶接強度との間にも、何らかの相関関係があるのではないか。そして、ナゲットの大きさとクラックの発生、ナゲットの大きさと溶接強度間にそれぞれ何らかの相関関係がある場合には、これらの相関関係に基づいて、ナゲットの大きさを調整(例えば、溶接圧力や溶接電力で調整)すれば、ピンチシール部におけるクラックの発生を調整できるのではないか。
【0011】
そして発明者は、前記した相関関係について考察した結果、ナゲットの大きさと、スポット溶接部における溶接強度との間には、図8に示すような相関関係(ナゲットの大きさと溶接強度とがほぼ比例する)があり、一方、ナゲットの大きさと、ナゲット近傍を起点とするピンチシール部におけるクラックの発生(バルブの寿命)との間には、図9に示すような相関関係(ナゲットの大きさとバルブ寿命とがほぼ反比例する)があることがわかった。
【0012】
即ち、ナゲットの大きさは、溶接強度との関係では比例し、クラックの発生との関係では反比例することから、ナゲットの大きさを溶接強度とクラックの発生との両面から特定することで、ピンチシールの際の電極棒・モリブデン箔間の溶接強度に優れ、かつピンチシール部においてクラックが発生しにくい放電バルブ用アークチューブが得られると確信し、このたびの出願に至ったものである。
【0013】
本発明は前記従来技術の問題点に鑑みなされたもので、その目的は、ピンチシールの際の電極棒・モリブデン箔間の溶接強度に優れ、かつピンチシール部においてクラックが発生しにくい放電バルブ用アークチューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、請求項1に係る放電バルブ用アークチューブにおいては、電極棒の端部とモリブデン箔との重合部をスポット溶接により接合一体化した電極アッシーの少なくともモリブデン箔を含む領域がピンチシール部に封着されて、放電発光部を構成する密閉ガラス球内に前記電極棒の先端が突出する放電バルブ用アークチューブにおいて、
前記モリブデン箔の電極棒との接合部の裏側に現れる溶接痕の大きさ(縦×横)を0.07mm2〜0.25mm2の範囲に構成した。
【0015】
(作用)スポット溶接としては、抵抗溶接とレーザ溶接があり、抵抗溶接では、モリブデン箔と電極棒の接合面が加圧されつつ溶接されるため、またレーザ溶接では、モリブデン箔と電極棒の接合面がモリブデン箔の裏面側からレーザ光の照射を受けるため、いずれ方式の場合も、スポット溶接により接合一体化された電極アッシーのモリブデン箔における電極棒との接合部の裏側には、ナゲットと呼ばれる溶接痕(窪み部)が形成される(図5参照)。
【0016】
そして、溶接痕の大きさ(抵抗溶接の場合は、1個の溶接痕の大きさ、一方、レーザ溶接の場合は、連続する複数の溶接痕全体の大きさ)が0.07mm2未満では、モリブデン箔と電極棒間の接合面積が小さすぎるため、接合強度(溶接強度)が不足し、電極アッシーをピンチシールする際にモリブデン箔と電極棒とが剥がれて、電極アッシーが通電路として機能しない(アークチューブが点灯しない)。
【0017】
詳しくは、電極アッシーの引張り試験結果では、溶接痕の大きさと、スポット溶接部における溶接強度とは、図8に示すように、ほぼ比例する(溶接痕の大きさが大きいほど、スポット溶接部における溶接強度が高い)。そして、溶接強度が0.5Kgf未満の場合には、ピンチシールの際にモリブデン箔と電極棒が剥がれてしまう。このため、溶接痕の大きさは、0.5Kgf以上の溶接強度が得られる0.07mm2以上であることが望ましい。
【0018】
一方、溶接痕の大きさが0.25mm2を超えると、溶接痕近傍を起点とするクラックがピンチシール部に発生し、この種のアークチューブに求められる寿命が得られない。即ち、モリブデン箔とガラス層間の界面では、溶接痕にガラスが喰い込んだ形態となって、モリブデン箔・ガラス層間の接合強度(密着性)がこの溶接痕位置だけ特に高くなっており、このため、ガラス層の溶接痕への喰い込み部にバルブ(アークチューブ)の点消灯の際に発生する熱応力(熱歪)が集中する。そして、溶接痕の大きさが0.25mm2を超えると、溶接痕近傍を起点とするクラックがガラス層(ピンチシール部)に発生する。
【0019】
詳しくは、所定の発光量未満となるまで点消灯を繰り返す寿命試験では、溶接痕の大きさと、アークチューブの寿命(ピンチシール部におけるクラックの発生)とは、図9に示すように、ほぼ反比例する(溶接痕の大きさが小さいほど、スポット溶接部にクラックが発生しにくい)。
【0020】
そして、この種のアークチューブの寿命としては、一般的には2500時間以上が要求されていることから、溶接痕の大きさは、2500時間以上の寿命が得られる0.25mm2以下であることが望ましい。
【0021】
したがって、ピンチルシール圧に対抗できる電極棒・モリブデン箔間のスポット溶接部の接合強度を確保でき、かつ放電バルブ用アークチューブを長期間使用してもピンチシール部にモリブデン箔・電極棒間の溶接痕近傍を起点とするクラックを発生させないためには、電極棒とモリブデン箔をスポット溶接する際に、モリブデン箔の電極棒との接合部の裏側に現れる溶接痕の大きさを0.07mm2〜0.25mm2の範囲に構成することが望ましい。なお、溶接痕の大きさは、溶接用電極の大きさや溶接電力によって調整できる。
【0022】
請求項2においては、請求項1に記載の放電バルブ用アークチューブにおいて、前記スポット溶接は抵抗溶接で、前記溶接痕(窪み部)の平均深さを15μm以下に構成した。
【0023】
(作用)ピンチシール部では、モリブデン箔の電極棒との接合部の裏側に現れる溶接痕にガラスが喰い込んでいるが、溶接痕が深ければ深いほど、ガラス層の溶接痕への喰い込み部には、バルブ(アークチューブ)点消灯の際に発生する熱応力(熱歪)がよりいっそう集中し、溶接痕近傍を起点とするクラックがガラス層(ピンチシール部)にいっそう発生し易い。このため、アークチューブ点消灯の際に発生する熱応力(熱歪)集中の影響をできるだけ少なくするには、溶接痕の深さは浅いほうが望ましい。
【0024】
また、モリブデン箔の厚さは、一般的には20μmで、抵抗溶接方式によるスポット溶接では、溶接痕(窪み部)の平均深さが15μmを超えると、溶接痕を形成するモリブデンの再結晶層の厚さが5μ未満と薄くなり、特に、モリブデンの再結晶層の電極棒に沿った領域の厚さが非常に薄くなって、電極棒の表面が溶接痕から露出するおそれがあるなど、溶接強度が不足する。このため、電極アッシーをピンチシールする際に、モリブデン箔と電極棒との溶接位置(接合部)でモリブデン箔が変形したり、モリブデン箔に箔切れが生じる。
【0025】
したがって、電極アッシーをピンチシールする際に、モリブデン箔と電極棒との溶接位置でモリブデン箔が変形したり、モリブデン箔に箔切れが生じることのないように、電極棒との溶接部であるモリブデンの再結晶層の厚さを確保するには、窪み部の平均深さを15μm以下にすることが望ましい。
【0026】
請求項3においては、請求項1または2に記載の放電バルブ用アークチューブにおいて、前記電極棒の前記ピンチシール部に封着されている領域にコイルを所定ピッチで巻装するとともに、前記コイルと前記モリブデン箔端部間を最大0.5mm離間させるように配置した。
【0027】
(作用)特に、管電圧上昇に有効な水銀が密閉ガラス球内に封入されていない、水銀フリーアークチューブでは、水銀入りアークチューブに比べて低い管電圧を補うべく、管電流を上げて電力を確保するが、高電流にも十分に耐えうるように、径の大きい電極棒(例えば、水銀入りアークチューブでは電極径0.25mmであるのに対し、水銀フリーアークチューブでは電極径0.30mm)が採用される。このため、アークチューブの点消灯により電極棒とガラス層の界面に発生する熱応力(熱歪)は、水銀入りアークチューブの場合と比べて大きく、電極棒周りに形成される残留圧縮歪層およびこの残留圧縮歪層を取り囲むように周方向や軸方向に延びるクラック(以下、境界クラックという)も大きくなり、それだけ残留圧縮歪層(や境界クラック)外側のガラス層が薄くなって、境界クラックから封入物質のリークにつながる電極クラック(ひび)が発生するおそれがある。
【0028】
即ち、例えば、特開2001−1506,特開2007−134055,特開2006−140135等で説明されているように、電極アッシーのピンチシール後の冷却過程で、電極棒周りのガラス層には電極棒とガラスの線膨張の差に起因した残留圧縮歪層および境界クラックが形成され、残留圧縮歪層や境界クラックは、アークチューブの点消灯に伴ってピンチシール部のガラス層に生じる熱応力を吸収分散して、ガラス層の電極棒との密着面に過大な熱応力が発生することを抑制する上で有効であるが、前記したように残留圧縮歪層および境界クラックが拡大されると、残留圧縮歪層や境界クラック外側の薄くなったガラス層には、封入物質のリークにつながる電極クラックが発生し易い。
【0029】
然るに、請求項3では、電極アッシーのピンチシール後の冷却過程で残留圧縮歪層や境界クラックが形成されるが、電極棒のコイル巻装領域では、ガラス層の隣接コイル間に細かい微小クラックが形成されることで、応力が開放され電極棒周りに形成される残留圧縮歪層の応力も弱まり、境界クラックの拡大が抑制される。
【0030】
また、コイルを隣接コイル間に隙間がないように巻装すると、電極棒と巻装コイルとの間に軸方向に連続する微小隙間が形成されて、放電発光部(密閉ガラス球)内の発光物質等の封入物質がこの微小隙間に侵入し、アークチューブの発光色が変化したり、発光効率が低下するなどの問題が発生するおそれがある。
【0031】
然るに、請求項3では、電極棒にコイルが所定ピッチ(例えば、0.3mmピッチ)で巻装されており、コイル巻装領域では、隣接コイル間ではガラス層が電極棒表面に密着して、コイルと電極棒との間に形成される隙間が軸方向に連続しないため、前記したアークチューブの発光色の変化や発光効率の低下などの問題は発生しない。
【0032】
さらに、巻装コイルは、モリブデン箔の端部から離間して配置されているため、封入物質等がたとえコイルと電極棒間の微小隙間に侵入したとしても、モリブデン箔端部とコイル間に延在するガラス層と電極棒表面との密着面によって、モリブデン箔とガラス層の界面までの侵入は確実に阻止されて、箔浮きの発生にはつながらない。
【0033】
また、図10は、コイル・モリブデン箔端部間の距離とクラックの発生との関係を示し、コイル・モリブデン箔端部間の距離が0.5mmを超えると、電極クラックが発生し、同距離が0.5mm以下では電極クラックが全く発生しないことから、巻装コイルは、モリブデン箔の端部から0.5mmを超えない範囲で離間して配置することが望ましい。即ち、0.5mmを超えて離間すると、その電極棒周りのガラス層にはビードクラックが発生する。水銀フリーアークチューブでは、水銀入りアークチューブに比べ、太い電極棒も用いるため、発生するビードクラックも大きくなり、それだけ電極クラックが発生する可能性も高まる。
【0034】
一方、モリブデン箔端部と巻装コイルの間隔が0になると、コイルを電極棒に外嵌しにくいことに加えて、前記したように、コイルと電極棒間の微小隙間に侵入した封入物質がモリブデン箔とガラス層の界面まで侵入して、箔浮きの発生につながるおそれがあるため、モリブデン箔端部と巻装コイルは、所定値以上(例えば、0.2mm以上)離間させることが望ましい。
【発明の効果】
【0035】
以上の説明から明らかなように、請求項1に係る放電バルブ用アークチューブによれば、ピンチシールの際にモリブデン箔の電極棒との接合部の裏側に現れる溶接痕の大きさを所定の大きさに調整することで、第1には、電極アッシーをピンチルシールする際に、電極棒とモリブデン箔とがスポット溶接部で剥がれたり、変形したりする等の不具合がないので、放電バルブ用アークチューブを製造する上での歩留まりが向上する。
【0036】
第2には、放電バルブ用アークチューブを長期間使用してもピンチシール部にモリブデン箔・電極棒間の溶接痕近傍を起点とするクラックが発生しないので、長寿命の放電バルブ用アークチューブを提供できる。
【0037】
請求項2によれば、モリブデン箔の電極棒との溶接部に十分な厚さのモリブデンの再結晶層が確保されて、電極アッシーをピンチシールする際に、モリブデン箔と電極棒との溶接位置でモリブデン箔が変形したり、モリブデン箔に箔切れが生じるといった不具合がないので、放電バルブ用アークチューブを製造する上での歩留まりがさらにいっそう向上する。
【0038】
請求項3によれば、放電バルブ用水銀フリーアークチューブを長期間使用してもピンチシール部にモリブデン箔・電極棒間の溶接痕近傍を起点とするクラックが発生しないので、長寿命の放電バルブ用水銀フリーアークチューブを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施例である放電バルブ用アークチューブの側断面図(モリブデン箔を水平にして見た断面図)である。
【図2】同放電バルブ用アークチューブの側断面図(モリブデン箔を垂直にして見た断面図)である。
【図3】同電極アッシーの製造方法(電極棒とモリブデン箔の溶接方法)を示す図である。
【図4】電極アッシーの要部(電極棒・モリブデン箔間の溶接部)の側面図である。
【図5】電極アッシーの要部(電極棒・モリブデン箔間の溶接部)の拡大断面図(図4に示す線V−Vに沿う断面図)である。
【図6】電極アッシーの要部平面図である。
【図7】ピンチシール部の電極棒・モリブデン箔間溶接部位置における縦断面図である。
【図8】電極アッシーの強度試験結果を示す図表である。
【図9】放電バルブ用アークチューブの寿命試験結果を示す図表である。
【図10】コイル・モリブデン箔端部間の距離と電極クラックの発生との関係を示す図表である。
【図11】本発明の第2の実施例に係る放電バルブ用アークチューブの要部である電極アッシーの部分拡大側面図である。
【図12】本発明の第3の実施例に係る放電バルブ用アークチューブの要部である電極アッシーの部分拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0041】
図1および図2は本発明の一実施例である放電バルブ用アークチューブの側断面図で、図1はモリブデン箔を水平にして見た同アークチューブの縦断面図、図2はモリブデン箔を垂直にして見た同アークチューブの縦断面図である。図3は同電極アッシーの製造方法(電極棒とモリブデン箔の溶接方法)を示す図、図4は電極アッシーの要部(電極棒・モリブデン箔間の溶接部)の側面図、図5は電極アッシーの要部(電極棒・モリブデン箔間の溶接部)の拡大断面図(図4に示す線V−Vに沿う断面図)、図6は電極アッシーの要部平面図、図7はピンチシール部の電極棒・モリブデン箔間溶接部位置における縦断面図である。
【0042】
図1,2において、放電バルブ用アークチューブは、車両用前照灯の光源バルブとして用いられるもので、長手方向略中央部に放電発光部である密閉ガラス球14が形成されたアークチューブ本体10と、このアークチューブ本体10を筒状(円筒状)に包囲するシュラウドガラス管18とが一体的に形成されている。
【0043】
アークチューブ本体10は、細長円筒形の石英ガラス管を加工して前後1対のピンチシール部12,12によって電極アッシー20を封着することで、ピンチシール部12に挟まれた密閉ガラス球14内には、電極棒22が対設され、始動用希ガスである不活性ガスとともに発光物質である金属ハロゲン化物等が封入されているが、管電圧を高める作用をする緩衝物質としての水銀は封入されていない。即ち、水銀フリーアークチューブとして構成されている。
【0044】
詳しくは、始動用希ガスである不活性ガスは、電極間における放電の発生を容易化すること等を目的として密閉ガラス球14内に封入されており、本実施例ではキセノンガス(Xe)が用いられている。また、金属ハロゲン化物は、発光効率および演色性を高めるために封入されており、本実施例ではヨウ化ナトリウムおよびヨウ化スカンジウムが用いられている。
【0045】
また、水銀は電極への電子の衝突量を減少させて電極の損傷を緩和する緩衝機能を有しているが、水銀フリーとすることにより、この機能が得られなくなるが、本実施例では、緩衝機能を果たす水銀代替物質として、発光物質である金属ハロゲン化物の封入量に比べると僅かではあるが、緩衝用金属ハロゲン化物が封入されている。この緩衝用金属ハロゲン化物としては、例えば、Al、Bi、Cr、Cs、Fe、Ga、In、Li、Mg、Ni、Nd、Sb、Sn、Ti、Tb、Zn等のハロゲン化物のうち1種類または複数種類を用いる。
【0046】
各電極アッシー20は、タングステン製の電極棒22とモリブデン製のリード線26とがモリブデン箔24を介して直線状に接続一体化されており、電極アッシー20の少なくともモリブデン箔24を含む領域、詳しくは、電極アッシー20の電極棒22の一部からリード線26の一部までがピンチシール部12にピンチシール(封着)されている。ピンチシール部12から密閉ガラス球14内に突出する一対の電極棒22の先端部は、放電発光部内において対向電極を構成し、電極間の放電によって上方凸に湾曲するアークが生成される。
【0047】
符号28は、ピンチシール部12にピンチシール(封着)されている電極棒22のモリブデン箔24寄りに巻装されているタングステン製コイルで、後に詳しく説明するが、ピンチシール部12における電極クラック(電極棒22封着位置において発生するクラック)の発生を抑制する上で有効に機能する。
【0048】
アークチューブ本体10の密閉ガラス球14を包囲するシュラウドガラス管18内は、真空または断熱空間を形成する不活性ガスが封入(充填)されている。この不活性ガスの封入圧力(充填圧力)は、0(真空)〜0.9気圧(例えば0.5気圧程度)の負圧に設定されている。
【0049】
シュラウドガラス管18のアークチューブ本体10に対する封着は、シュラウドガラス管18の後端部をアークチューブ本体10に溶着した後、シュラウドガラス管18内に不活性ガスを充填し、その後、シュラウドガラス管18の前端部をアークチューブ本体10に溶着することにより行われる。
【0050】
次に、電極アッシー20の構造を詳しく説明する。
【0051】
電極アッシー20は、図6に拡大して示すように、厚さ20μm、縦横の大きさが1.5mm×7.25mmの矩形状薄片で構成したモリブデン箔24の長手方向端部に、直径0.30mm、長さ8mmの丸棒で構成した電極棒22と、直径0.45mm、長さ43mmの丸棒で構成したリード線26とが直列状態に抵抗スポット溶接されている。
【0052】
符号24aはモリブデン箔24と電極棒22とのスポット溶接部、符号24bはモリブデン箔24とリード線26とのスポット溶接部をそれぞれ示す。
【0053】
スポット溶接部24aは、図5に拡大して示すように、モリブデン箔24における電極棒22との接合部の裏側に形成されたナゲットと呼ばれる溶接痕(窪み部)40で構成されている。
【0054】
ナゲット40は、後に詳しく説明するが、その大きさ(X1・Y1)が0.07mm2〜0.25mm2の範囲で、その平均深さHが15μm以下に構成されて、電極アッシー20をピンチルシールする際に電極棒22とモリブデン箔24とが剥がれることのない接合強度が確保されるとともに、アークチューブを長期間使用してもピンチシール部12にナゲット40の近傍を起点とする電極クラックが発生することのない構造となっている。
【0055】
また、電極棒22のモリブデン箔24寄りには、電極棒22の外径よりも幾分大きい内径(例えば、0.35mm)のコイル23がモリブデン箔24の端部から所定距離(例えば、0.4mm)だけ離間するように外嵌一体化されている。コイル23は、タングステン製で、そのピッチは0.3mmに構成されている。
【0056】
電極アッシー20を製造するには、図3に示すように、まず溶接用下部電極30Aの上にモリブデン箔24の端部を載せ、さらにこのモリブデン箔24の上に電極棒22の端部を載せる。次いで溶接用上部電極30Bを下降させ、上下一対の溶接用電極30A,30Bによって、モリブデン箔24と電極棒22との重合部における電極棒22端縁部から所定距離離間する位置を挟持するとともに、溶接用電極30A,30B間に電流を通し、モリブデン箔24と電極棒22の重合部をスポット溶接する。
【0057】
次いで、電極棒22を溶接する場合と同様に、モリブデン箔24の他端側にリード線26の端縁部をわずかに余してモリブデン箔24とリード線26の重合部所定位置を挟持しスポット溶接する。
【0058】
最後に、電極棒22のモリブデン箔24寄りにコイル23を外嵌一体化する。その際、コイル23の両端の少なくとも一方を電極棒22と溶接しておけば、ピンチシールの際に、電極に対してコイル23が軸方向にずれることはない。
【0059】
なお、モリブデン箔24に対し電極棒22とリード線26を溶接する手順は、リード線26を先に溶接し、その後、電極棒22を溶接するようにするようにしてもよく、或いは両者を同時に溶接するようにしてもよい。
【0060】
図8は、スポット溶接部(電極・モリブデン箔間接合部)を構成するナゲット40の大きさと、スポット溶接部の溶接強度との関係を示す図表である。
【0061】
ナゲット40の大きさが異なる電極アッシーをそれぞれ10本づつ用意して、電極棒とモリブデン箔を軸方向に引っ張る「引張り試験」を行ったところ、図8に示すように、ナゲット40の大きさとスポット溶接部における溶接強度とは、ほぼ比例する(ナゲット40の大きさが大きいほど、スポット溶接部における溶接強度が高い)。
【0062】
そして、ピンチシール圧が0.5Kgfであることから、スポット溶接部における溶接強度としては、ピンチシール圧(0.5Kgf)よりも大きい値であることが望ましい。即ち、溶接強度が0.5Kgf以下の場合には、接合強度(溶接強度)が不足し、電極アッシー20をピンチシールする際にモリブデン箔24と電極棒22とが剥がれて、電極アッシー20が通電路として機能しない(アークチューブが点灯しない)。したがって、電極アッシー20をピンチシールする際にモリブデン箔24と電極棒22とが剥がれないためには、ナゲット40の大きさは、溶接強度が0.5Kgfを超えた値となる0.07mm2以上であることが望ましい。
【0063】
図9は、スポット溶接部を構成するナゲット40の大きさと、箔クラック発生までの時間(アークチューブの寿命)との関係を示す図表である。
【0064】
ナゲット40の大きさが異なる電極アッシーをピンチシールしたアークチューブをそれぞれ10本づつ用意して、アークチューブに通電して点消灯を繰り返し、ピンチシール部に箔クラックが発生するまでの時間を測定する寿命試験を行ったところ、図9に示すように、ナゲット40の大きさ(X1・Y1)と、ナゲット40近傍を起点とするピンチシール部におけるクラックの発生(バルブの寿命)とは、ほぼ反比例する(ナゲット40の大きさが小さいほど、スポット溶接部に箔クラックが発生しにくく、寿命が長い)。
【0065】
特に、ナゲット40の大きさが0.25mm2を超えると、ナゲット40近傍を起点とするクラックがピンチシール部に発生し、この種のアークチューブに求められる寿命が得られない。即ち、モリブデン箔24とガラス層間の界面では、ナゲット40にガラスが喰い込んだ形態となって、モリブデン箔・ガラス層間の接合強度(密着性)がこのナゲット40位置だけ特に高くなっており、このため、ガラス層のナゲット40への喰い込み部にバルブ(アークチューブ)の点消灯の際に発生する熱応力(熱歪)が集中する。そして、ナゲット40の大きさが0.25mm2を超えると、ナゲット40近傍を起点とするクラックがガラス層(ピンチシール部)に発生するものと考えられる。
【0066】
一方、この種のアークチューブの寿命としては、一般的には2500時間以上が要求されていることから、ナゲット40の大きさは、2500時間以上の寿命が得られる0.25mm2以下であることが望ましい。
【0067】
このように、本実施例では、ピンチシール圧に対抗できる電極棒・モリブデン箔間のスポット溶接部の接合強度を確保でき、かつ放電バルブ用アークチューブを長期間使用してもピンチシール部12にモリブデン箔・電極棒間のナゲット40近傍を起点とする箔クラックが発生しないように、ナゲット40の大きさが0.07mm2〜0.25mm2の範囲に構成されている。
【0068】
また、本実施例では、ナゲット40の平均深さHが、以下の理由から、15μm以下に構成されている。
【0069】
まず、ピンチシール部12では、窪み部であるナゲット40にガラスが喰い込んでいるが、ナゲット40が深ければ深いほど、ガラス層のナゲット40への喰い込み部には、放電バルブ(アークチューブ)点消灯の際に発生する熱応力(熱歪)がよりいっそう集中し、ナゲット40近傍を起点とするクラックがガラス層(ピンチシール部)に発生し易い。このため、アークチューブ点消灯の際に発生する熱応力(熱歪)集中の影響をできるだけ少なくするには、ナゲット40の深さH(図5参照)は浅い方が望ましい。
【0070】
また、モリブデン箔24の厚さは、一般的には20μmで、抵抗溶接方式によるスポット溶接では、ナゲット40の平均深さが15μmを超えると、窪み部であるナゲット40を構成するモリブデンの再結晶層の厚さが5μ未満と薄くなり、特に、モリブデンの再結晶層の電極棒22に沿った領域の厚さt(図5参照)が非常に薄くなって、電極棒22の表面がナゲット40から露出するおそれがあるなど、溶接強度が不足する。このため、電極アッシー20をピンチシールする際に、モリブデン箔24と電極棒22との溶接位置でモリブデン箔24が変形したり、モリブデン箔24に箔切れが生じる。
【0071】
然るに、本実施例では、電極棒22との溶接部であるモリブデン24の再結晶層の厚さを十分に確保して、電極アッシー20をピンチシールする際に、モリブデン箔24と電極棒22との溶接位置でモリブデン箔24が変形したり、モリブデン箔2に箔切れが生じることのないように、ナゲット40の深さHが15μm以下に構成されている。
【0072】
また、巻装コイル28は、以下のような理由で、所定ピッチで電極棒22に巻装されるとともに、モリブデン箔24の端部との間隔が最大0.5mm離間するように配置されている。
【0073】
即ち、本実施例では、管電圧上昇に有効な水銀が密閉ガラス球14内に封入されていない水銀フリーアークチューブで、水銀入りアークチューブに比べて低い管電圧を補うべく、管電流を上げて電力を確保するが、高電流にも十分に耐えうるように、径の大きい電極棒22(例えば、水銀入りアークチューブでは電極径0.25mmであるのに対し、水銀フリーアークチューブでは電極径0.30mm)が採用されている。このため、アークチューブの点消灯により電極棒22とガラス層の界面に発生する熱応力(熱歪)は、水銀入りアークチューブの場合と比べて大きく、電極棒22周りに形成される残留圧縮歪層およびこの残留圧縮歪層を取り囲むように周方向や軸方向に延びるクラック(以下、境界クラックという)も大きくなり、それだけ残留圧縮歪層(や境界クラック)外側のガラス層の厚さが薄くなって、境界クラックから封入物質のリークにつながる電極クラック(ひび)が発生するおそれがある。
【0074】
例えば、特開2001−1506,特開2007−134055,特開2006−140135等に説明されているように、電極アッシーのピンチシール後の冷却過程で、電極棒周りのガラス層には電極棒とガラスの線膨張の差に起因した残留圧縮歪層および境界クラックが形成され、残留圧縮歪層や境界クラックは、アークチューブの点消灯に伴ってピンチシール部のガラス層に生じる熱応力を吸収分散して、ガラス層の電極棒との密着面に過大な熱応力が発生することを抑制する上で有効であるが、前記したように残留圧縮歪層および境界クラックが拡大されると、残留圧縮歪層や境界クラック外側の薄くなったガラス層には、封入物質のリークにつながる電極クラックが発生し易い。
【0075】
然るに、本実施例では、図7に示すように、電極アッシーのピンチシール後の冷却過程で、ピンチシール部12における電極棒22の周りには残留圧縮歪層Aや境界クラックBが形成されるが、電極棒22のコイル巻装領域では、微小クラックCが形成されることで、応力が開放され、電極棒22の周りに形成される残留圧縮歪層Aの応力も弱まり、境界クラックCの拡大が抑制される。
【0076】
したがって、径が大きい電極棒22を採用する水銀フリーアークチューブであっても、電極棒22周りに形成されている残留圧縮歪層Aおよび境界クラックBが、アークチューブの点消灯に伴ってピンチシール部12に発生する熱応力を効率よく緩和(吸収)する。換言すれば、電極棒22とガラス層間に繰り返し発生する熱応力は、電極棒22のコイル巻装領域の周りに存在する残留圧縮歪層Aおよび境界クラックBによって吸収緩和されて、残留圧縮歪層A(境界クラックB)外側の十分な厚さのガラス層に伝達されるため、ピンチシール部12において封入物質のリークにつながる電極クラック(電極棒22からピンチシール部の表面に向かって延びるクラック)の発生が抑制される。
【0077】
また、コイル28を隣接コイル間に隙間がないように巻装すると、電極棒22と巻装コイル28との間に軸方向に連続する微小隙間が形成されて、密閉ガラス球14内の発光物質等の封入物質がこの微小隙間に侵入し、アークチューブの発光色が変化したり、発光効率が低下するなどの問題が発生するおそれがある。
【0078】
然るに、本実施例では、電極棒22にコイルが所定ピッチ(例えば、0.3mmピッチ)で巻装されており、コイル巻装領域では、隣接コイル間においてガラスが電極棒22表面に密着して、コイル28と電極棒22との間に形成される隙間が軸方向に連続しないため、前記したアークチューブの発光色の変化や発光効率の低下などの問題は発生しない。
【0079】
さらに、巻装コイル28は、モリブデン箔24の端部から離間して配置されているため、封入物質がたとえコイル28と電極棒22間の微小隙間に侵入したとしても、モリブデン箔24端部とコイル28間に延在するガラス層と電極棒22表面との密着面によって、モリブデン箔24とガラス層の界面までの侵入は確実に阻止されて、箔浮きの発生にはつながらない。
【0080】
図10は、コイル・モリブデン箔端部間の距離Lと電極クラックの発生との関係を示す。
【0081】
この図に示すように、コイル・モリブデン箔端部間の距離Lと電極クラックの発生回数は略比例する。そして、コイル・モリブデン箔端部間の距離Lが0.5mmを超えると、電極クラックが発生し、同距離Lが0.5mm以下では電極クラックが全く発生しないことから、巻装コイル28は、モリブデン箔24の端部から0.5mmを超えない範囲で離間して配置することが望ましい。即ち、0.5mmを超えて離間すると、その電極棒22周りのガラス層にはビードクラックが発生する。水銀フリーアークチューブでは、水銀入りアークチューブに比べ、太い電極棒も用いるため、発生するビードクラックも大きくなり、それだけ電極クラックが発生する可能性も高まる。
【0082】
一方、モリブデン箔24の端部と巻装コイル28の間隔が0になると、コイル28を電極棒22に外嵌しにくいことに加えて、前記したように、コイル28と電極棒22間の微小隙間に侵入した封入物質がモリブデン箔24とガラス層の界面まで侵入して、箔浮きの発生につながるおそれがあるため、モリブデン箔端部と巻装コイル28は、所定値以上(例えば、0.2mm以上)離間させることが望ましい。
【0083】
そこで、本実施例では、巻装コイル28は、電極クラックが発生するおそれのない、モリブデン箔24の端部から0.5mmを超えない範囲、たとえば0.4mmだけ離間して配置されている。
【0084】
図11は、本発明の第2の実施例に係る放電バルブ用アークチューブの要部である電極アッシーの部分拡大側面図である。
【0085】
前記した第1の実施例では、ピンチシール部12に封着されている電極棒22にコイル28が巻装されていたが、この第2の実施例では、電極棒22の外周に、第1の実施例のコイル28と同一ピッチの螺旋溝23が形成されている。
【0086】
螺旋溝23は、第1の実施例のコイル28と同様に、電極アッシーのピンチシール後の冷却過程で、ピンチシール部12の電極棒22周りに形成される残留圧縮歪層や境界クラックが拡大されることを抑制する。
【0087】
即ち、電極棒22の螺旋溝23形成領域では、軸方向に隣接する溝間のガラス層に細かい微小クラックが形成されることで、電極棒22の周りに形成される残留圧縮歪層および境界クラックの拡大が抑制される。
【0088】
図12は、本発明の第3の実施例に係る放電バルブ用アークチューブの要部である電極アッシーの部分拡大平面図である。
【0089】
前記した第1,第2の実施例では、モリブデン箔24と電極棒22の重合部、およびモリブデン箔24とリード線26の重合部がそれぞれ抵抗溶接により接続一体化されていたが、この第3の実施例では、モリブデン箔24と電極棒22の重合部およびモリブデン箔24とリード線26の重合部の、少なくともモリブデン箔24と電極棒22の重合部が、モリブデン箔24の裏面側からレーザ光を照射してスポット溶接するレーザ溶接により、接続一体化されている。なお、モリブデン箔24とリード線26のスポット溶接部については、図示を省略する。
【0090】
レーザ溶接に用いられるレーザ光のスポット径は小さく、モリブデン箔24の電極棒22との接合部の裏側に現れるナゲット40Aの大きさは、抵抗溶接の際に現れるナゲット40の大きさに比べるとかなり小さい。
【0091】
このため、レーザ溶接方式によるスポット溶接では、モリブデン箔24における電極棒22との接合部における溶接強度を確保するために、電極棒22に沿って複数箇所(実施例では3箇所)が溶接され、モリブデン箔24における電極棒22との接合部の裏側には、ナゲット40Aが電極棒22に沿って3箇所形成されている。
【0092】
そして、連続する3個のナゲット40Aの形成領域全体の大きさ(X2・Y2)が0.07mm2〜0.25mm2の範囲に構成されている。
【0093】
即ち、本実施例では、ピンチルシール圧に対抗できる電極棒・モリブデン箔間のスポット溶接部の接合強度を確保でき、かつ放電バルブ用アークチューブを長期間使用してもピンチシール部にモリブデン箔・電極棒間のナゲット40A近傍を起点とする箔クラックが発生しないように、3個のナゲット40Aの形成領域全体の大きさが0.07mm2〜0.25mm2の範囲に構成されている。
【0094】
その他は、前記した第1の実施例と同様であり、同一の符号を付すことで、その重複した説明は省略する。
【符号の説明】
【0095】
12 ピンチシール部
14 放電発光部を構成する密閉ガラス球
20 電極アッシー
22 電極棒
28 コイル
23 螺旋溝
24 モリブデン箔
26 リード線
30A 抵抗溶接機のスポット溶接用下部電極
30B 抵抗溶接機のスポット溶接用上部電極
40 ナゲット(溶接痕である窪み部)
H 窪み部の平均深さ
L コイルとモリブデン箔との離間距離
A 残留圧縮歪層
B 境界クラック
C 微小クラック
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用前照灯の光源として利用される放電バルブに係り、特に、電極棒の端部とモリブデン箔との重合部をスポット溶接により接合一体化した電極アッシーの少なくともモリブデン箔を含む領域がピンチシール部に封着されて、放電発光部を構成する密閉ガラス球内に電極棒の先端が突出する放電バルブ用アークチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の放電バルブ用アークチューブは、電極棒とモリブデン箔を直線状に接続一体化した電極アッシーを封着する一対のピンチシール部と、前記ピンチシール部間に挟まれて、電極が対設され発光物質等を封入した放電発光部である密閉ガラス球とを備えている。
【0003】
電極アッシーは、モリブデン箔と電極棒がスポット溶接により接合一体化されているが、スポット溶接としては、例えば、特許文献1に示す抵抗溶接が知られている。
【0004】
特許文献1では、モリブデン箔と電極棒の重ね合わせ部を一対の溶接用電極で挟み、強く加圧した状態で溶接用電極間に大電流を通すことで、溶接する。
【0005】
特に、スポット溶接の際に、電極棒の角張った端縁部とモリブデン箔が加圧されてモリブデン箔にクラックなどの傷がつき易く、その後、電極アッシーをピンチシール(封着)する際に箔切れを起こし易い。このため、モリブデン箔と電極棒との重ね合わせ部の電極棒端縁部をわずかに余した部位をスポット溶接することで、溶接によりモリブデン箔に傷がつくこと(ピンチシールする際の箔切れ)が抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−159744号公報(段落0009〜段落0011、図1、図2、5参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では、スポット溶接されたモリブデン箔の電極棒との接合部の裏側に、ナゲットと呼ばれる溶接痕が窪み部として現れるが、ピンチシール部では、このナゲット(窪み部)にガラスが喰い込んだ形態となっている。このため、ガラス層のナゲットへの喰い込み部にバルブ(アークチューブ)の点消灯の際の熱応力が集中して、ナゲットの近傍からクラックが発生して、バルブの寿命が短くなるという問題があった。
【0008】
特に、管電圧上昇に有効な水銀を密閉ガラス球内に封入しない水銀フリーアークチューブでは、水銀入りアークチューブに比べて低い管電圧を補うべく、管電流を上げて電力を確保するため、高電流により電極(棒)にかかる負荷も大きいし、電極(棒)が高温となる分、モリブデン箔とガラスの界面に発生する熱応力(熱歪)も大きく、ナゲット近傍のガラス部を起点とするクラックがいっそう発生し易い。
【0009】
そこで、発明者は、次のように考えた。
【0010】
ナゲットの大きさ(縦×横)と、ナゲット近傍を起点とするピンチシール部におけるクラックの発生(バルブの寿命)との間には、何らかの相関関係があるのではないか、また、このナゲットの大きさ(と、スポット溶接部における溶接強度との間にも、何らかの相関関係があるのではないか。そして、ナゲットの大きさとクラックの発生、ナゲットの大きさと溶接強度間にそれぞれ何らかの相関関係がある場合には、これらの相関関係に基づいて、ナゲットの大きさを調整(例えば、溶接圧力や溶接電力で調整)すれば、ピンチシール部におけるクラックの発生を調整できるのではないか。
【0011】
そして発明者は、前記した相関関係について考察した結果、ナゲットの大きさと、スポット溶接部における溶接強度との間には、図8に示すような相関関係(ナゲットの大きさと溶接強度とがほぼ比例する)があり、一方、ナゲットの大きさと、ナゲット近傍を起点とするピンチシール部におけるクラックの発生(バルブの寿命)との間には、図9に示すような相関関係(ナゲットの大きさとバルブ寿命とがほぼ反比例する)があることがわかった。
【0012】
即ち、ナゲットの大きさは、溶接強度との関係では比例し、クラックの発生との関係では反比例することから、ナゲットの大きさを溶接強度とクラックの発生との両面から特定することで、ピンチシールの際の電極棒・モリブデン箔間の溶接強度に優れ、かつピンチシール部においてクラックが発生しにくい放電バルブ用アークチューブが得られると確信し、このたびの出願に至ったものである。
【0013】
本発明は前記従来技術の問題点に鑑みなされたもので、その目的は、ピンチシールの際の電極棒・モリブデン箔間の溶接強度に優れ、かつピンチシール部においてクラックが発生しにくい放電バルブ用アークチューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、請求項1に係る放電バルブ用アークチューブにおいては、電極棒の端部とモリブデン箔との重合部をスポット溶接により接合一体化した電極アッシーの少なくともモリブデン箔を含む領域がピンチシール部に封着されて、放電発光部を構成する密閉ガラス球内に前記電極棒の先端が突出する放電バルブ用アークチューブにおいて、
前記モリブデン箔の電極棒との接合部の裏側に現れる溶接痕の大きさ(縦×横)を0.07mm2〜0.25mm2の範囲に構成した。
【0015】
(作用)スポット溶接としては、抵抗溶接とレーザ溶接があり、抵抗溶接では、モリブデン箔と電極棒の接合面が加圧されつつ溶接されるため、またレーザ溶接では、モリブデン箔と電極棒の接合面がモリブデン箔の裏面側からレーザ光の照射を受けるため、いずれ方式の場合も、スポット溶接により接合一体化された電極アッシーのモリブデン箔における電極棒との接合部の裏側には、ナゲットと呼ばれる溶接痕(窪み部)が形成される(図5参照)。
【0016】
そして、溶接痕の大きさ(抵抗溶接の場合は、1個の溶接痕の大きさ、一方、レーザ溶接の場合は、連続する複数の溶接痕全体の大きさ)が0.07mm2未満では、モリブデン箔と電極棒間の接合面積が小さすぎるため、接合強度(溶接強度)が不足し、電極アッシーをピンチシールする際にモリブデン箔と電極棒とが剥がれて、電極アッシーが通電路として機能しない(アークチューブが点灯しない)。
【0017】
詳しくは、電極アッシーの引張り試験結果では、溶接痕の大きさと、スポット溶接部における溶接強度とは、図8に示すように、ほぼ比例する(溶接痕の大きさが大きいほど、スポット溶接部における溶接強度が高い)。そして、溶接強度が0.5Kgf未満の場合には、ピンチシールの際にモリブデン箔と電極棒が剥がれてしまう。このため、溶接痕の大きさは、0.5Kgf以上の溶接強度が得られる0.07mm2以上であることが望ましい。
【0018】
一方、溶接痕の大きさが0.25mm2を超えると、溶接痕近傍を起点とするクラックがピンチシール部に発生し、この種のアークチューブに求められる寿命が得られない。即ち、モリブデン箔とガラス層間の界面では、溶接痕にガラスが喰い込んだ形態となって、モリブデン箔・ガラス層間の接合強度(密着性)がこの溶接痕位置だけ特に高くなっており、このため、ガラス層の溶接痕への喰い込み部にバルブ(アークチューブ)の点消灯の際に発生する熱応力(熱歪)が集中する。そして、溶接痕の大きさが0.25mm2を超えると、溶接痕近傍を起点とするクラックがガラス層(ピンチシール部)に発生する。
【0019】
詳しくは、所定の発光量未満となるまで点消灯を繰り返す寿命試験では、溶接痕の大きさと、アークチューブの寿命(ピンチシール部におけるクラックの発生)とは、図9に示すように、ほぼ反比例する(溶接痕の大きさが小さいほど、スポット溶接部にクラックが発生しにくい)。
【0020】
そして、この種のアークチューブの寿命としては、一般的には2500時間以上が要求されていることから、溶接痕の大きさは、2500時間以上の寿命が得られる0.25mm2以下であることが望ましい。
【0021】
したがって、ピンチルシール圧に対抗できる電極棒・モリブデン箔間のスポット溶接部の接合強度を確保でき、かつ放電バルブ用アークチューブを長期間使用してもピンチシール部にモリブデン箔・電極棒間の溶接痕近傍を起点とするクラックを発生させないためには、電極棒とモリブデン箔をスポット溶接する際に、モリブデン箔の電極棒との接合部の裏側に現れる溶接痕の大きさを0.07mm2〜0.25mm2の範囲に構成することが望ましい。なお、溶接痕の大きさは、溶接用電極の大きさや溶接電力によって調整できる。
【0022】
請求項2においては、請求項1に記載の放電バルブ用アークチューブにおいて、前記スポット溶接は抵抗溶接で、前記溶接痕(窪み部)の平均深さを15μm以下に構成した。
【0023】
(作用)ピンチシール部では、モリブデン箔の電極棒との接合部の裏側に現れる溶接痕にガラスが喰い込んでいるが、溶接痕が深ければ深いほど、ガラス層の溶接痕への喰い込み部には、バルブ(アークチューブ)点消灯の際に発生する熱応力(熱歪)がよりいっそう集中し、溶接痕近傍を起点とするクラックがガラス層(ピンチシール部)にいっそう発生し易い。このため、アークチューブ点消灯の際に発生する熱応力(熱歪)集中の影響をできるだけ少なくするには、溶接痕の深さは浅いほうが望ましい。
【0024】
また、モリブデン箔の厚さは、一般的には20μmで、抵抗溶接方式によるスポット溶接では、溶接痕(窪み部)の平均深さが15μmを超えると、溶接痕を形成するモリブデンの再結晶層の厚さが5μ未満と薄くなり、特に、モリブデンの再結晶層の電極棒に沿った領域の厚さが非常に薄くなって、電極棒の表面が溶接痕から露出するおそれがあるなど、溶接強度が不足する。このため、電極アッシーをピンチシールする際に、モリブデン箔と電極棒との溶接位置(接合部)でモリブデン箔が変形したり、モリブデン箔に箔切れが生じる。
【0025】
したがって、電極アッシーをピンチシールする際に、モリブデン箔と電極棒との溶接位置でモリブデン箔が変形したり、モリブデン箔に箔切れが生じることのないように、電極棒との溶接部であるモリブデンの再結晶層の厚さを確保するには、窪み部の平均深さを15μm以下にすることが望ましい。
【0026】
請求項3においては、請求項1または2に記載の放電バルブ用アークチューブにおいて、前記電極棒の前記ピンチシール部に封着されている領域にコイルを所定ピッチで巻装するとともに、前記コイルと前記モリブデン箔端部間を最大0.5mm離間させるように配置した。
【0027】
(作用)特に、管電圧上昇に有効な水銀が密閉ガラス球内に封入されていない、水銀フリーアークチューブでは、水銀入りアークチューブに比べて低い管電圧を補うべく、管電流を上げて電力を確保するが、高電流にも十分に耐えうるように、径の大きい電極棒(例えば、水銀入りアークチューブでは電極径0.25mmであるのに対し、水銀フリーアークチューブでは電極径0.30mm)が採用される。このため、アークチューブの点消灯により電極棒とガラス層の界面に発生する熱応力(熱歪)は、水銀入りアークチューブの場合と比べて大きく、電極棒周りに形成される残留圧縮歪層およびこの残留圧縮歪層を取り囲むように周方向や軸方向に延びるクラック(以下、境界クラックという)も大きくなり、それだけ残留圧縮歪層(や境界クラック)外側のガラス層が薄くなって、境界クラックから封入物質のリークにつながる電極クラック(ひび)が発生するおそれがある。
【0028】
即ち、例えば、特開2001−1506,特開2007−134055,特開2006−140135等で説明されているように、電極アッシーのピンチシール後の冷却過程で、電極棒周りのガラス層には電極棒とガラスの線膨張の差に起因した残留圧縮歪層および境界クラックが形成され、残留圧縮歪層や境界クラックは、アークチューブの点消灯に伴ってピンチシール部のガラス層に生じる熱応力を吸収分散して、ガラス層の電極棒との密着面に過大な熱応力が発生することを抑制する上で有効であるが、前記したように残留圧縮歪層および境界クラックが拡大されると、残留圧縮歪層や境界クラック外側の薄くなったガラス層には、封入物質のリークにつながる電極クラックが発生し易い。
【0029】
然るに、請求項3では、電極アッシーのピンチシール後の冷却過程で残留圧縮歪層や境界クラックが形成されるが、電極棒のコイル巻装領域では、ガラス層の隣接コイル間に細かい微小クラックが形成されることで、応力が開放され電極棒周りに形成される残留圧縮歪層の応力も弱まり、境界クラックの拡大が抑制される。
【0030】
また、コイルを隣接コイル間に隙間がないように巻装すると、電極棒と巻装コイルとの間に軸方向に連続する微小隙間が形成されて、放電発光部(密閉ガラス球)内の発光物質等の封入物質がこの微小隙間に侵入し、アークチューブの発光色が変化したり、発光効率が低下するなどの問題が発生するおそれがある。
【0031】
然るに、請求項3では、電極棒にコイルが所定ピッチ(例えば、0.3mmピッチ)で巻装されており、コイル巻装領域では、隣接コイル間ではガラス層が電極棒表面に密着して、コイルと電極棒との間に形成される隙間が軸方向に連続しないため、前記したアークチューブの発光色の変化や発光効率の低下などの問題は発生しない。
【0032】
さらに、巻装コイルは、モリブデン箔の端部から離間して配置されているため、封入物質等がたとえコイルと電極棒間の微小隙間に侵入したとしても、モリブデン箔端部とコイル間に延在するガラス層と電極棒表面との密着面によって、モリブデン箔とガラス層の界面までの侵入は確実に阻止されて、箔浮きの発生にはつながらない。
【0033】
また、図10は、コイル・モリブデン箔端部間の距離とクラックの発生との関係を示し、コイル・モリブデン箔端部間の距離が0.5mmを超えると、電極クラックが発生し、同距離が0.5mm以下では電極クラックが全く発生しないことから、巻装コイルは、モリブデン箔の端部から0.5mmを超えない範囲で離間して配置することが望ましい。即ち、0.5mmを超えて離間すると、その電極棒周りのガラス層にはビードクラックが発生する。水銀フリーアークチューブでは、水銀入りアークチューブに比べ、太い電極棒も用いるため、発生するビードクラックも大きくなり、それだけ電極クラックが発生する可能性も高まる。
【0034】
一方、モリブデン箔端部と巻装コイルの間隔が0になると、コイルを電極棒に外嵌しにくいことに加えて、前記したように、コイルと電極棒間の微小隙間に侵入した封入物質がモリブデン箔とガラス層の界面まで侵入して、箔浮きの発生につながるおそれがあるため、モリブデン箔端部と巻装コイルは、所定値以上(例えば、0.2mm以上)離間させることが望ましい。
【発明の効果】
【0035】
以上の説明から明らかなように、請求項1に係る放電バルブ用アークチューブによれば、ピンチシールの際にモリブデン箔の電極棒との接合部の裏側に現れる溶接痕の大きさを所定の大きさに調整することで、第1には、電極アッシーをピンチルシールする際に、電極棒とモリブデン箔とがスポット溶接部で剥がれたり、変形したりする等の不具合がないので、放電バルブ用アークチューブを製造する上での歩留まりが向上する。
【0036】
第2には、放電バルブ用アークチューブを長期間使用してもピンチシール部にモリブデン箔・電極棒間の溶接痕近傍を起点とするクラックが発生しないので、長寿命の放電バルブ用アークチューブを提供できる。
【0037】
請求項2によれば、モリブデン箔の電極棒との溶接部に十分な厚さのモリブデンの再結晶層が確保されて、電極アッシーをピンチシールする際に、モリブデン箔と電極棒との溶接位置でモリブデン箔が変形したり、モリブデン箔に箔切れが生じるといった不具合がないので、放電バルブ用アークチューブを製造する上での歩留まりがさらにいっそう向上する。
【0038】
請求項3によれば、放電バルブ用水銀フリーアークチューブを長期間使用してもピンチシール部にモリブデン箔・電極棒間の溶接痕近傍を起点とするクラックが発生しないので、長寿命の放電バルブ用水銀フリーアークチューブを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施例である放電バルブ用アークチューブの側断面図(モリブデン箔を水平にして見た断面図)である。
【図2】同放電バルブ用アークチューブの側断面図(モリブデン箔を垂直にして見た断面図)である。
【図3】同電極アッシーの製造方法(電極棒とモリブデン箔の溶接方法)を示す図である。
【図4】電極アッシーの要部(電極棒・モリブデン箔間の溶接部)の側面図である。
【図5】電極アッシーの要部(電極棒・モリブデン箔間の溶接部)の拡大断面図(図4に示す線V−Vに沿う断面図)である。
【図6】電極アッシーの要部平面図である。
【図7】ピンチシール部の電極棒・モリブデン箔間溶接部位置における縦断面図である。
【図8】電極アッシーの強度試験結果を示す図表である。
【図9】放電バルブ用アークチューブの寿命試験結果を示す図表である。
【図10】コイル・モリブデン箔端部間の距離と電極クラックの発生との関係を示す図表である。
【図11】本発明の第2の実施例に係る放電バルブ用アークチューブの要部である電極アッシーの部分拡大側面図である。
【図12】本発明の第3の実施例に係る放電バルブ用アークチューブの要部である電極アッシーの部分拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0041】
図1および図2は本発明の一実施例である放電バルブ用アークチューブの側断面図で、図1はモリブデン箔を水平にして見た同アークチューブの縦断面図、図2はモリブデン箔を垂直にして見た同アークチューブの縦断面図である。図3は同電極アッシーの製造方法(電極棒とモリブデン箔の溶接方法)を示す図、図4は電極アッシーの要部(電極棒・モリブデン箔間の溶接部)の側面図、図5は電極アッシーの要部(電極棒・モリブデン箔間の溶接部)の拡大断面図(図4に示す線V−Vに沿う断面図)、図6は電極アッシーの要部平面図、図7はピンチシール部の電極棒・モリブデン箔間溶接部位置における縦断面図である。
【0042】
図1,2において、放電バルブ用アークチューブは、車両用前照灯の光源バルブとして用いられるもので、長手方向略中央部に放電発光部である密閉ガラス球14が形成されたアークチューブ本体10と、このアークチューブ本体10を筒状(円筒状)に包囲するシュラウドガラス管18とが一体的に形成されている。
【0043】
アークチューブ本体10は、細長円筒形の石英ガラス管を加工して前後1対のピンチシール部12,12によって電極アッシー20を封着することで、ピンチシール部12に挟まれた密閉ガラス球14内には、電極棒22が対設され、始動用希ガスである不活性ガスとともに発光物質である金属ハロゲン化物等が封入されているが、管電圧を高める作用をする緩衝物質としての水銀は封入されていない。即ち、水銀フリーアークチューブとして構成されている。
【0044】
詳しくは、始動用希ガスである不活性ガスは、電極間における放電の発生を容易化すること等を目的として密閉ガラス球14内に封入されており、本実施例ではキセノンガス(Xe)が用いられている。また、金属ハロゲン化物は、発光効率および演色性を高めるために封入されており、本実施例ではヨウ化ナトリウムおよびヨウ化スカンジウムが用いられている。
【0045】
また、水銀は電極への電子の衝突量を減少させて電極の損傷を緩和する緩衝機能を有しているが、水銀フリーとすることにより、この機能が得られなくなるが、本実施例では、緩衝機能を果たす水銀代替物質として、発光物質である金属ハロゲン化物の封入量に比べると僅かではあるが、緩衝用金属ハロゲン化物が封入されている。この緩衝用金属ハロゲン化物としては、例えば、Al、Bi、Cr、Cs、Fe、Ga、In、Li、Mg、Ni、Nd、Sb、Sn、Ti、Tb、Zn等のハロゲン化物のうち1種類または複数種類を用いる。
【0046】
各電極アッシー20は、タングステン製の電極棒22とモリブデン製のリード線26とがモリブデン箔24を介して直線状に接続一体化されており、電極アッシー20の少なくともモリブデン箔24を含む領域、詳しくは、電極アッシー20の電極棒22の一部からリード線26の一部までがピンチシール部12にピンチシール(封着)されている。ピンチシール部12から密閉ガラス球14内に突出する一対の電極棒22の先端部は、放電発光部内において対向電極を構成し、電極間の放電によって上方凸に湾曲するアークが生成される。
【0047】
符号28は、ピンチシール部12にピンチシール(封着)されている電極棒22のモリブデン箔24寄りに巻装されているタングステン製コイルで、後に詳しく説明するが、ピンチシール部12における電極クラック(電極棒22封着位置において発生するクラック)の発生を抑制する上で有効に機能する。
【0048】
アークチューブ本体10の密閉ガラス球14を包囲するシュラウドガラス管18内は、真空または断熱空間を形成する不活性ガスが封入(充填)されている。この不活性ガスの封入圧力(充填圧力)は、0(真空)〜0.9気圧(例えば0.5気圧程度)の負圧に設定されている。
【0049】
シュラウドガラス管18のアークチューブ本体10に対する封着は、シュラウドガラス管18の後端部をアークチューブ本体10に溶着した後、シュラウドガラス管18内に不活性ガスを充填し、その後、シュラウドガラス管18の前端部をアークチューブ本体10に溶着することにより行われる。
【0050】
次に、電極アッシー20の構造を詳しく説明する。
【0051】
電極アッシー20は、図6に拡大して示すように、厚さ20μm、縦横の大きさが1.5mm×7.25mmの矩形状薄片で構成したモリブデン箔24の長手方向端部に、直径0.30mm、長さ8mmの丸棒で構成した電極棒22と、直径0.45mm、長さ43mmの丸棒で構成したリード線26とが直列状態に抵抗スポット溶接されている。
【0052】
符号24aはモリブデン箔24と電極棒22とのスポット溶接部、符号24bはモリブデン箔24とリード線26とのスポット溶接部をそれぞれ示す。
【0053】
スポット溶接部24aは、図5に拡大して示すように、モリブデン箔24における電極棒22との接合部の裏側に形成されたナゲットと呼ばれる溶接痕(窪み部)40で構成されている。
【0054】
ナゲット40は、後に詳しく説明するが、その大きさ(X1・Y1)が0.07mm2〜0.25mm2の範囲で、その平均深さHが15μm以下に構成されて、電極アッシー20をピンチルシールする際に電極棒22とモリブデン箔24とが剥がれることのない接合強度が確保されるとともに、アークチューブを長期間使用してもピンチシール部12にナゲット40の近傍を起点とする電極クラックが発生することのない構造となっている。
【0055】
また、電極棒22のモリブデン箔24寄りには、電極棒22の外径よりも幾分大きい内径(例えば、0.35mm)のコイル23がモリブデン箔24の端部から所定距離(例えば、0.4mm)だけ離間するように外嵌一体化されている。コイル23は、タングステン製で、そのピッチは0.3mmに構成されている。
【0056】
電極アッシー20を製造するには、図3に示すように、まず溶接用下部電極30Aの上にモリブデン箔24の端部を載せ、さらにこのモリブデン箔24の上に電極棒22の端部を載せる。次いで溶接用上部電極30Bを下降させ、上下一対の溶接用電極30A,30Bによって、モリブデン箔24と電極棒22との重合部における電極棒22端縁部から所定距離離間する位置を挟持するとともに、溶接用電極30A,30B間に電流を通し、モリブデン箔24と電極棒22の重合部をスポット溶接する。
【0057】
次いで、電極棒22を溶接する場合と同様に、モリブデン箔24の他端側にリード線26の端縁部をわずかに余してモリブデン箔24とリード線26の重合部所定位置を挟持しスポット溶接する。
【0058】
最後に、電極棒22のモリブデン箔24寄りにコイル23を外嵌一体化する。その際、コイル23の両端の少なくとも一方を電極棒22と溶接しておけば、ピンチシールの際に、電極に対してコイル23が軸方向にずれることはない。
【0059】
なお、モリブデン箔24に対し電極棒22とリード線26を溶接する手順は、リード線26を先に溶接し、その後、電極棒22を溶接するようにするようにしてもよく、或いは両者を同時に溶接するようにしてもよい。
【0060】
図8は、スポット溶接部(電極・モリブデン箔間接合部)を構成するナゲット40の大きさと、スポット溶接部の溶接強度との関係を示す図表である。
【0061】
ナゲット40の大きさが異なる電極アッシーをそれぞれ10本づつ用意して、電極棒とモリブデン箔を軸方向に引っ張る「引張り試験」を行ったところ、図8に示すように、ナゲット40の大きさとスポット溶接部における溶接強度とは、ほぼ比例する(ナゲット40の大きさが大きいほど、スポット溶接部における溶接強度が高い)。
【0062】
そして、ピンチシール圧が0.5Kgfであることから、スポット溶接部における溶接強度としては、ピンチシール圧(0.5Kgf)よりも大きい値であることが望ましい。即ち、溶接強度が0.5Kgf以下の場合には、接合強度(溶接強度)が不足し、電極アッシー20をピンチシールする際にモリブデン箔24と電極棒22とが剥がれて、電極アッシー20が通電路として機能しない(アークチューブが点灯しない)。したがって、電極アッシー20をピンチシールする際にモリブデン箔24と電極棒22とが剥がれないためには、ナゲット40の大きさは、溶接強度が0.5Kgfを超えた値となる0.07mm2以上であることが望ましい。
【0063】
図9は、スポット溶接部を構成するナゲット40の大きさと、箔クラック発生までの時間(アークチューブの寿命)との関係を示す図表である。
【0064】
ナゲット40の大きさが異なる電極アッシーをピンチシールしたアークチューブをそれぞれ10本づつ用意して、アークチューブに通電して点消灯を繰り返し、ピンチシール部に箔クラックが発生するまでの時間を測定する寿命試験を行ったところ、図9に示すように、ナゲット40の大きさ(X1・Y1)と、ナゲット40近傍を起点とするピンチシール部におけるクラックの発生(バルブの寿命)とは、ほぼ反比例する(ナゲット40の大きさが小さいほど、スポット溶接部に箔クラックが発生しにくく、寿命が長い)。
【0065】
特に、ナゲット40の大きさが0.25mm2を超えると、ナゲット40近傍を起点とするクラックがピンチシール部に発生し、この種のアークチューブに求められる寿命が得られない。即ち、モリブデン箔24とガラス層間の界面では、ナゲット40にガラスが喰い込んだ形態となって、モリブデン箔・ガラス層間の接合強度(密着性)がこのナゲット40位置だけ特に高くなっており、このため、ガラス層のナゲット40への喰い込み部にバルブ(アークチューブ)の点消灯の際に発生する熱応力(熱歪)が集中する。そして、ナゲット40の大きさが0.25mm2を超えると、ナゲット40近傍を起点とするクラックがガラス層(ピンチシール部)に発生するものと考えられる。
【0066】
一方、この種のアークチューブの寿命としては、一般的には2500時間以上が要求されていることから、ナゲット40の大きさは、2500時間以上の寿命が得られる0.25mm2以下であることが望ましい。
【0067】
このように、本実施例では、ピンチシール圧に対抗できる電極棒・モリブデン箔間のスポット溶接部の接合強度を確保でき、かつ放電バルブ用アークチューブを長期間使用してもピンチシール部12にモリブデン箔・電極棒間のナゲット40近傍を起点とする箔クラックが発生しないように、ナゲット40の大きさが0.07mm2〜0.25mm2の範囲に構成されている。
【0068】
また、本実施例では、ナゲット40の平均深さHが、以下の理由から、15μm以下に構成されている。
【0069】
まず、ピンチシール部12では、窪み部であるナゲット40にガラスが喰い込んでいるが、ナゲット40が深ければ深いほど、ガラス層のナゲット40への喰い込み部には、放電バルブ(アークチューブ)点消灯の際に発生する熱応力(熱歪)がよりいっそう集中し、ナゲット40近傍を起点とするクラックがガラス層(ピンチシール部)に発生し易い。このため、アークチューブ点消灯の際に発生する熱応力(熱歪)集中の影響をできるだけ少なくするには、ナゲット40の深さH(図5参照)は浅い方が望ましい。
【0070】
また、モリブデン箔24の厚さは、一般的には20μmで、抵抗溶接方式によるスポット溶接では、ナゲット40の平均深さが15μmを超えると、窪み部であるナゲット40を構成するモリブデンの再結晶層の厚さが5μ未満と薄くなり、特に、モリブデンの再結晶層の電極棒22に沿った領域の厚さt(図5参照)が非常に薄くなって、電極棒22の表面がナゲット40から露出するおそれがあるなど、溶接強度が不足する。このため、電極アッシー20をピンチシールする際に、モリブデン箔24と電極棒22との溶接位置でモリブデン箔24が変形したり、モリブデン箔24に箔切れが生じる。
【0071】
然るに、本実施例では、電極棒22との溶接部であるモリブデン24の再結晶層の厚さを十分に確保して、電極アッシー20をピンチシールする際に、モリブデン箔24と電極棒22との溶接位置でモリブデン箔24が変形したり、モリブデン箔2に箔切れが生じることのないように、ナゲット40の深さHが15μm以下に構成されている。
【0072】
また、巻装コイル28は、以下のような理由で、所定ピッチで電極棒22に巻装されるとともに、モリブデン箔24の端部との間隔が最大0.5mm離間するように配置されている。
【0073】
即ち、本実施例では、管電圧上昇に有効な水銀が密閉ガラス球14内に封入されていない水銀フリーアークチューブで、水銀入りアークチューブに比べて低い管電圧を補うべく、管電流を上げて電力を確保するが、高電流にも十分に耐えうるように、径の大きい電極棒22(例えば、水銀入りアークチューブでは電極径0.25mmであるのに対し、水銀フリーアークチューブでは電極径0.30mm)が採用されている。このため、アークチューブの点消灯により電極棒22とガラス層の界面に発生する熱応力(熱歪)は、水銀入りアークチューブの場合と比べて大きく、電極棒22周りに形成される残留圧縮歪層およびこの残留圧縮歪層を取り囲むように周方向や軸方向に延びるクラック(以下、境界クラックという)も大きくなり、それだけ残留圧縮歪層(や境界クラック)外側のガラス層の厚さが薄くなって、境界クラックから封入物質のリークにつながる電極クラック(ひび)が発生するおそれがある。
【0074】
例えば、特開2001−1506,特開2007−134055,特開2006−140135等に説明されているように、電極アッシーのピンチシール後の冷却過程で、電極棒周りのガラス層には電極棒とガラスの線膨張の差に起因した残留圧縮歪層および境界クラックが形成され、残留圧縮歪層や境界クラックは、アークチューブの点消灯に伴ってピンチシール部のガラス層に生じる熱応力を吸収分散して、ガラス層の電極棒との密着面に過大な熱応力が発生することを抑制する上で有効であるが、前記したように残留圧縮歪層および境界クラックが拡大されると、残留圧縮歪層や境界クラック外側の薄くなったガラス層には、封入物質のリークにつながる電極クラックが発生し易い。
【0075】
然るに、本実施例では、図7に示すように、電極アッシーのピンチシール後の冷却過程で、ピンチシール部12における電極棒22の周りには残留圧縮歪層Aや境界クラックBが形成されるが、電極棒22のコイル巻装領域では、微小クラックCが形成されることで、応力が開放され、電極棒22の周りに形成される残留圧縮歪層Aの応力も弱まり、境界クラックCの拡大が抑制される。
【0076】
したがって、径が大きい電極棒22を採用する水銀フリーアークチューブであっても、電極棒22周りに形成されている残留圧縮歪層Aおよび境界クラックBが、アークチューブの点消灯に伴ってピンチシール部12に発生する熱応力を効率よく緩和(吸収)する。換言すれば、電極棒22とガラス層間に繰り返し発生する熱応力は、電極棒22のコイル巻装領域の周りに存在する残留圧縮歪層Aおよび境界クラックBによって吸収緩和されて、残留圧縮歪層A(境界クラックB)外側の十分な厚さのガラス層に伝達されるため、ピンチシール部12において封入物質のリークにつながる電極クラック(電極棒22からピンチシール部の表面に向かって延びるクラック)の発生が抑制される。
【0077】
また、コイル28を隣接コイル間に隙間がないように巻装すると、電極棒22と巻装コイル28との間に軸方向に連続する微小隙間が形成されて、密閉ガラス球14内の発光物質等の封入物質がこの微小隙間に侵入し、アークチューブの発光色が変化したり、発光効率が低下するなどの問題が発生するおそれがある。
【0078】
然るに、本実施例では、電極棒22にコイルが所定ピッチ(例えば、0.3mmピッチ)で巻装されており、コイル巻装領域では、隣接コイル間においてガラスが電極棒22表面に密着して、コイル28と電極棒22との間に形成される隙間が軸方向に連続しないため、前記したアークチューブの発光色の変化や発光効率の低下などの問題は発生しない。
【0079】
さらに、巻装コイル28は、モリブデン箔24の端部から離間して配置されているため、封入物質がたとえコイル28と電極棒22間の微小隙間に侵入したとしても、モリブデン箔24端部とコイル28間に延在するガラス層と電極棒22表面との密着面によって、モリブデン箔24とガラス層の界面までの侵入は確実に阻止されて、箔浮きの発生にはつながらない。
【0080】
図10は、コイル・モリブデン箔端部間の距離Lと電極クラックの発生との関係を示す。
【0081】
この図に示すように、コイル・モリブデン箔端部間の距離Lと電極クラックの発生回数は略比例する。そして、コイル・モリブデン箔端部間の距離Lが0.5mmを超えると、電極クラックが発生し、同距離Lが0.5mm以下では電極クラックが全く発生しないことから、巻装コイル28は、モリブデン箔24の端部から0.5mmを超えない範囲で離間して配置することが望ましい。即ち、0.5mmを超えて離間すると、その電極棒22周りのガラス層にはビードクラックが発生する。水銀フリーアークチューブでは、水銀入りアークチューブに比べ、太い電極棒も用いるため、発生するビードクラックも大きくなり、それだけ電極クラックが発生する可能性も高まる。
【0082】
一方、モリブデン箔24の端部と巻装コイル28の間隔が0になると、コイル28を電極棒22に外嵌しにくいことに加えて、前記したように、コイル28と電極棒22間の微小隙間に侵入した封入物質がモリブデン箔24とガラス層の界面まで侵入して、箔浮きの発生につながるおそれがあるため、モリブデン箔端部と巻装コイル28は、所定値以上(例えば、0.2mm以上)離間させることが望ましい。
【0083】
そこで、本実施例では、巻装コイル28は、電極クラックが発生するおそれのない、モリブデン箔24の端部から0.5mmを超えない範囲、たとえば0.4mmだけ離間して配置されている。
【0084】
図11は、本発明の第2の実施例に係る放電バルブ用アークチューブの要部である電極アッシーの部分拡大側面図である。
【0085】
前記した第1の実施例では、ピンチシール部12に封着されている電極棒22にコイル28が巻装されていたが、この第2の実施例では、電極棒22の外周に、第1の実施例のコイル28と同一ピッチの螺旋溝23が形成されている。
【0086】
螺旋溝23は、第1の実施例のコイル28と同様に、電極アッシーのピンチシール後の冷却過程で、ピンチシール部12の電極棒22周りに形成される残留圧縮歪層や境界クラックが拡大されることを抑制する。
【0087】
即ち、電極棒22の螺旋溝23形成領域では、軸方向に隣接する溝間のガラス層に細かい微小クラックが形成されることで、電極棒22の周りに形成される残留圧縮歪層および境界クラックの拡大が抑制される。
【0088】
図12は、本発明の第3の実施例に係る放電バルブ用アークチューブの要部である電極アッシーの部分拡大平面図である。
【0089】
前記した第1,第2の実施例では、モリブデン箔24と電極棒22の重合部、およびモリブデン箔24とリード線26の重合部がそれぞれ抵抗溶接により接続一体化されていたが、この第3の実施例では、モリブデン箔24と電極棒22の重合部およびモリブデン箔24とリード線26の重合部の、少なくともモリブデン箔24と電極棒22の重合部が、モリブデン箔24の裏面側からレーザ光を照射してスポット溶接するレーザ溶接により、接続一体化されている。なお、モリブデン箔24とリード線26のスポット溶接部については、図示を省略する。
【0090】
レーザ溶接に用いられるレーザ光のスポット径は小さく、モリブデン箔24の電極棒22との接合部の裏側に現れるナゲット40Aの大きさは、抵抗溶接の際に現れるナゲット40の大きさに比べるとかなり小さい。
【0091】
このため、レーザ溶接方式によるスポット溶接では、モリブデン箔24における電極棒22との接合部における溶接強度を確保するために、電極棒22に沿って複数箇所(実施例では3箇所)が溶接され、モリブデン箔24における電極棒22との接合部の裏側には、ナゲット40Aが電極棒22に沿って3箇所形成されている。
【0092】
そして、連続する3個のナゲット40Aの形成領域全体の大きさ(X2・Y2)が0.07mm2〜0.25mm2の範囲に構成されている。
【0093】
即ち、本実施例では、ピンチルシール圧に対抗できる電極棒・モリブデン箔間のスポット溶接部の接合強度を確保でき、かつ放電バルブ用アークチューブを長期間使用してもピンチシール部にモリブデン箔・電極棒間のナゲット40A近傍を起点とする箔クラックが発生しないように、3個のナゲット40Aの形成領域全体の大きさが0.07mm2〜0.25mm2の範囲に構成されている。
【0094】
その他は、前記した第1の実施例と同様であり、同一の符号を付すことで、その重複した説明は省略する。
【符号の説明】
【0095】
12 ピンチシール部
14 放電発光部を構成する密閉ガラス球
20 電極アッシー
22 電極棒
28 コイル
23 螺旋溝
24 モリブデン箔
26 リード線
30A 抵抗溶接機のスポット溶接用下部電極
30B 抵抗溶接機のスポット溶接用上部電極
40 ナゲット(溶接痕である窪み部)
H 窪み部の平均深さ
L コイルとモリブデン箔との離間距離
A 残留圧縮歪層
B 境界クラック
C 微小クラック
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極棒の端部とモリブデン箔との重合部をスポット溶接により接合一体化した電極アッシーの少なくともモリブデン箔を含む領域がピンチシール部に封着されて、放電発光部を構成する密閉ガラス球内に前記電極棒の先端が突出する放電バルブ用アークチューブにおいて、
前記モリブデン箔の電極棒との接合部の裏側に現れる溶接痕の大きさ(縦×横)が0.07mm2〜0.25mm2の範囲に構成されたことを特徴とする放電バルブ用アークチューブ。
【請求項2】
前記スポット溶接は抵抗溶接で、前記窪み部の平均深さが15μm以下に構成されたことを特徴とする放電バルブ用アークチューブ。
【請求項3】
前記電極棒の前記ピンチシール部に封着されている領域には、コイルが所定ピッチで巻装されるとともに、前記コイルと前記モリブデン箔の端部間が最大0.5mm離間するように配置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の放電バルブ用アークチューブ。
【請求項1】
電極棒の端部とモリブデン箔との重合部をスポット溶接により接合一体化した電極アッシーの少なくともモリブデン箔を含む領域がピンチシール部に封着されて、放電発光部を構成する密閉ガラス球内に前記電極棒の先端が突出する放電バルブ用アークチューブにおいて、
前記モリブデン箔の電極棒との接合部の裏側に現れる溶接痕の大きさ(縦×横)が0.07mm2〜0.25mm2の範囲に構成されたことを特徴とする放電バルブ用アークチューブ。
【請求項2】
前記スポット溶接は抵抗溶接で、前記窪み部の平均深さが15μm以下に構成されたことを特徴とする放電バルブ用アークチューブ。
【請求項3】
前記電極棒の前記ピンチシール部に封着されている領域には、コイルが所定ピッチで巻装されるとともに、前記コイルと前記モリブデン箔の端部間が最大0.5mm離間するように配置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の放電バルブ用アークチューブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−84454(P2012−84454A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231066(P2010−231066)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】
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