説明

斜板型ピストンポンプ・モータ

【課題】各シューが斜板からはみ出すことなく摺動し且つ、小型で斜板の傾転角度を大きくとれる斜板型ピストンモータを提供する。
【解決手段】斜板40の傾転角度が変えられる斜板型ピストンモータ1であって、斜板30の背後から円弧状断面を持って突出する斜板背面ジャーナル部41と、この斜板背面ジャーナル部41を摺動可能に支持する軸受部42とを備え、斜板40が傾転中心軸O40を中心として回動し、この傾転中心軸O40をシリンダブロック4の回転中心軸O5と交差するように配置するとともに、傾転中心軸O40が各シュー22の揺動中心点で決まるシュー揺動中心面に対してシリンダブロック4から遠ざかる方向で且つ、斜板40の背面40bより前記シリンダブロック4に近づく方向にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックの回転に伴ってピストンが斜板に追従するシューを介してシリンダを往復動する斜板型ピストンポンプ・モータの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の斜板型ピストンポンプ・モータにおいて、斜板を傾転可能に支持する手段として、例えば以下のものがある。
【0003】
(1)斜板の背後から円弧状断面を持って突出するハーフログ形の斜板背面ジャーナル部を備え、斜板の背後をこの斜板背面ジャーナル部を介して傾転可能に支持するもの(特許文献1参照)。
【0004】
(2)斜板の背後をボールを介して傾転可能に支持するもの(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−003951号公報
【特許文献2】特開2007−170280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載の斜板型ピストンポンプ・モータにあっては、以下の問題点がある。
【0006】
(1)の斜板を傾転可能に支持する手段として、ハーフログ形の斜板背面ジャーナル部を備える場合、斜板の傾転中心軸を各シューの各ピストンに対する揺動中心軸を含むシュー揺動中心面と一致させているため、斜板背面ジャーナル部が大型化するという問題点がある。
【0007】
(2)の斜板を傾転可能に支持する手段として、ボールを備える場合、斜板の傾転中心軸が各シューの各ピストンに対する揺動中心軸を含むシュー揺動中心面に対して大きく離れるため、斜板の傾転に伴って各シューの軌跡が斜板の摺動面に対してずれる外れ量が大きく、斜板の傾転角度を大きくとると、各シューの斜板との接触面が斜板からはみ出す、または各シューがシャフトに接触するので、斜板の傾転角度を大きくとれない、またはシャフトの太さに大きな制限を受けるといった問題点があった。
【0008】
また、この場合、斜板の背面にボールの一部を埋め込む構造のため、斜板の傾転中心軸を斜板の背面より内側(シリンダブロック側)に配置することは事実上不可能であった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、各シューが斜板からはみ出すことなく摺動し且つ、小型で斜板の傾転角度を大きくとれる斜板型ピストンモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数のシリンダが開口するシリンダブロックと、各シリンダの開口端に対峙しその傾転角度が変えられる斜板と、各シリンダに摺動可能に嵌合するピストンと、このピストンに回動可能に連結されて斜板に追従するシューとを備え、シリンダブロックの回転に伴ってピストンがシリンダを往復動する斜板型ピストンポンプ・モータであって、斜板の背後から円弧状断面を持って突出する斜板背面ジャーナル部と、この斜板背面ジャーナル部を摺動可能に支持する軸受部とを備え、斜板が傾転中心軸を中心として回動し、この傾転中心軸をシリンダブロックの回転中心軸と交差するように配置するとともに、傾転中心軸が各シューの揺動中心点で決まるシュー揺動中心面に対してシリンダブロックから遠ざかる方向で且つ、斜板の背面よりシリンダブロックに近づく方向にあることを特徴とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、斜板背面ジャーナル部の小型化をはかることと、各シューの接触面が斜板からはみ出さないとともに、各シューがシャフトに接触することなく、各シューが斜板上を円滑に摺動することを両立し、小型で斜板の傾転角度を大きくとれる斜板型ピストンポンプ・モータを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1、図2に示すピストンモータ1は、作業車両等に変速機として搭載されるHSTに用いられる。このHSTは可変容量形油圧ピストンポンプと可変容量形油圧ピストンモータ1を組合せたもので、ピストンポンプがエンジンによって回転駆動され、ピストンポンプから吐出する作動油によってピストンモータ1が回転駆動され、このピストンモータ1の出力回転が図示しないミッション、ディファレンシャルギヤ等を介して左右の車輪に伝えられる。
【0014】
図1に示すように、ピストンモータ1は、シリンダブロック4の両側に第一、第二斜板30、40を備える対向式斜板型ピストンポンプ・モータである。なお、この対向式斜板型ピストンポンプ・モータの基本構造は本出願人により特開平2005−105898号公報として既に出願されている。
【0015】
ピストンモータ1は、ケース25とポートブロック50とによりハウジング室24が形成され、このハウジング室24にシリンダブロック4および第一、第二斜板30、40等が収装される。
【0016】
シリンダブロック4にはモータシャフト5が貫通され、このモータシャフト5はその一端が軸受91を介してポートブロック50に回転可能に支持され、その途中が軸受92を介してケース25に回転可能に支持される。
【0017】
シリンダブロック4にはその軸心回りの同一円周上に複数のシリンダ6が一定の間隔を持って形成され、このシリンダ6には両側から第一、第二ピストン8、9がそれぞれ挿入され、これらの間に容積室10が画成される。
【0018】
第一、第二ピストン8、9の一端側はシリンダブロック4の両端面からそれぞれ突出し、第一、第二斜板30、40にシュー21、22を介して支持される。
【0019】
シリンダブロック4が回転すると、第一、第二ピストン8、9は第一、第二斜板30、40との間で互いに反対方向に往復動し、シリンダ6の容積室10を拡縮させる。
【0020】
図2に示すように、各容積室10に作動油を給排する油通路は、ポートブロック50の第一軸受部32に開口する対の軸受ポート39と、第一斜板30に開口する対の斜板ポート16と、斜板プレート60に開口するシリンダ6と同数のバルブポート61と、各シュー21を貫通するシューポート19とによって形成される。
【0021】
ピストンモータ1における作動油の流れは、一方の軸受ポート39→一方の斜板ポート16→バルブポート61→シューポート19→容積室10→シューポート19→バルブポート61→他方の斜板ポート16→他方の軸受ポート39となる。こうして各容積室10に導かれる作動油圧によって第一、第二ピストン8、9がシリンダ6を互いに反対方向に往復動し、シリンダブロック4とモータシャフト5が回転する。
【0022】
シュー21、22を付勢する手段として、複数のスプリング95、96が設けられる。シリンダブロック4には両端面に開口する複数の穴93、94が形成され、この穴93、94にスプリング95、96が入れられる。一方の各スプリング95の付勢力はリテーナホルダ97、リテーナプレート98を介して各シュー21に伝えられ、この付勢力により各シュー21が斜板プレート60に押し付けられる。他方の各スプリング96の付勢力はリテーナホルダ87、リテーナプレート88を介して各シュー22に伝えられ、この付勢力により各シュー22が第二斜板40に押し付けられる。
【0023】
第一、第二斜板30、40は斜板背面ジャーナル部31、41を介して傾転可能に支持され、ピストンモータ1の1回転当たりの押しのけ容積を変えられるようになっている。
【0024】
HSTの作動時、ピストンポンプから吐出される作動油はピストンモータ1に送られて循環し、ピストンモータ1における第一、第二斜板30、40の傾転角度を切換えることにより、ピストンモータ1の1回転当たりの押しのけ容積が変化する。この結果、入力側のポンプシャフトと出力側のモータシャフト5の回転数の比率はピストンポンプとピストンモータ1の押しのけ容積の比に応じて変化する。
【0025】
対向式斜板型ピストンモータ1は最大容量から最小容量までの可変容量比率を従来の非対向式斜板型ピストンポンプ・モータに比べて略2倍にすることが可能となり、HSTの回転速度レンジを大きくすることができる。
【0026】
図1に示すように、ピストンモータ1のポートブロック50には第一斜板30を傾転させるサーボ機構33が設けられる。このサーボ機構33は、ポートブロック50に摺動可能に収装されるサーボレギュレータピストン34を備え、このサーボレギュレータピストン34が作動油圧によって移動することにより、駆動用係合ピン65、スライドメタル66を介して第一斜板30が傾転する。図2に示すように、サーボレギュレータピストン34にはスライドメタル66を摺動可能に係合させる環状の凹部67が形成され、駆動用係合ピン65はスライドメタル66を介して凹部67に係合する。
【0027】
サーボレギュレータピストン34の動きはスライドメタル66、駆動用係合ピン65を介して第一斜板30に伝えられる。
【0028】
ピストンモータ1には第一、第二斜板30、40を互いに連動させる傾転連動機構45が設けられる。この傾転連動機構45はケース25に支持ピン49を介して揺動可能に連結される揺動リンク48と、第二斜板40をこの揺動リンク48の一端に係合させる第二係合ピン53と、第一斜板30をこの揺動リンク48の他端に係合させる第一係合ピン54とを備え、後述するように第一、第二斜板30、40の傾転角度が所定の関係をもって変化するように各部の寸法が設定される。
【0029】
第一係合ピン54は、第一斜板30の側部から突出しており、スライドメタル75を介して揺動リンク48の凹部58に摺動可能に係合する。
【0030】
第二係合ピン53は、第二斜板40の側部から突出しており、スライドメタル62を介して揺動リンク48の凹部55に摺動可能に係合する。
【0031】
支持ピン49、第二係合ピン53、第一係合ピン54、駆動用係合ピン65は、それぞれの中心軸がモータシャフト5の中心軸O5と直交し、かつ第一、第二斜板30、40の傾転中心軸O30、O40と平行に延びるように配置される。
【0032】
図1に示すように、サーボ機構33と傾転連動機構45とを両者の間に第一斜板30が挟まれるように配置し、駆動用係合ピン65と第一係合ピン54は第一斜板30の両側部からそれぞれ反対方向に突出させる。
【0033】
第二斜板40の一方の側部にはサイドプレート46が2本のボルト76、77を介して締結される。このサイドプレート46の先端部から第二係合ピン53が突出して設けられる。第二係合ピン53はサイドプレート46を介して第二斜板40の傾転中心軸O40より第一斜板30側に配置される。サイドプレート46は第二斜板40に対して斜板背面ジャーナル部41と反対側に突出している。
【0034】
サイドプレート46はその基端に各ボルト76、77によって締結されるボス部46b、46cを有する。一方のボス部46bは、その一部が第二斜板40の背面40bから突出して設けられる。
【0035】
ケース25の底部には凹部79が形成され、図2に示すように、第二斜板40が最大に傾転した位置で、サイドプレート46のボス部46bの一部がこの凹部79に係合するようになっている。これにより、サイドプレート46が第二斜板40に取り付けられることにより、第二斜板40の最大傾転角度が削減されず、要求される第二斜板40の最大傾転角度が確保される。
【0036】
第二斜板40の他方の側部にはセンサ軸57が設けられ、このセンサ軸57を介してポテンショメータ59が設けられる。このセンサ軸57は第二斜板40の傾転中心軸O40と同軸上に配置され、ポテンショメータ59は第二斜板40の傾転角度を検出するものである。
【0037】
第二斜板40の側部にはサイドプレート56がビス81を介して締結され、このサイドプレート56にセンサ軸57が設けられる。
【0038】
揺動リンク48は支持ピン49に軸受63を介して揺動可能に支持される。支持ピン49はブラケット82にナット83を介して締結される。ブラケット82は複数のビス84を介してケース25に締結される。
【0039】
揺動リンク48は、支持ピン49から第一斜板30に向けて延びる第一リンク部48aと、支持ピン49から第二斜板40に向けて延びる第二リンク部48bとを有する。第一リンク部48aにスライドメタル75に係合する凹部58が形成され、第二リンク部48bにスライドメタル62に係合する凹部55が形成される。
【0040】
揺動リンク48は、第一リンク部48aの幅が第二リンク部48bの幅より小さく形成され、その小型化がはかられる。
【0041】
サーボ機構33のサーボレギュレータピストン34が移動することにより、第一斜板30が傾転するとともに、第二斜板40が傾転連動機構45を介して第一斜板30に連動して傾転し、ピストンモータ1の容量がサーボレギュレータピストン34のストロークに応じて連続的に変えられる。
【0042】
図2はピストンモータ1が最大容量に切換えられた状態を示し、第一斜板30の傾転角度が最大値(例えば16〜17°)になるとともに、第二斜板40の傾転角度(例えば16〜17°)が最大値になる。
【0043】
ピストンモータ1が最小容量に切換えられた状態では、第一斜板30の傾転角度が0°になり、第二斜板40の傾転角度TH5が0°より大きい最小値(例えば6〜7°)になる。
【0044】
第一斜板30は、斜板背面ジャーナル部31を介して傾転中心軸O30を中心として回動する。この傾転中心軸O30は、シリンダブロック4及びモータシャフト5の中心軸O5と交差するように配置するとともに、各シュー21の各ピストン8に対する揺動中心軸O21を含むシュー揺動中心面上に配置する。これにより、第一斜板30の傾転に伴って各シュー21の軌跡が第一斜板30(斜板プレート60)の摺動面に対してずれる外れ量が最小限に抑えられる。
【0045】
第一斜板30に設けられる一対の斜板背面ジャーナル部31は、第一斜板30の背後から円弧状断面を持ってハーフログ形に突出し、その円柱面状の摺動面がポートブロック50の第一軸受部32に対して軸受メタル38を介して摺動可能に支持される。斜板背面ジャーナル部31は、第一斜板30と一体で形成されるが、これに限らず第一斜板30と別体で形成しても良い。
【0046】
駆動用係合ピン65と第一係合ピン54は、斜板背面ジャーナル部31に形成された各穴に圧入して固定される。これにより、駆動用係合ピン65と第一係合ピン54は、斜板背面ジャーナル部31の側面からそれぞれ突出して設けられる。
【0047】
第二斜板40に設けられる一対の斜板背面ジャーナル部41は、第二斜板40の背後から円弧状断面を持ってハーフログ形に突出し、その円柱面状の摺動面がケース25の第二軸受部42に対して軸受メタル44を介して摺動可能に支持される。
【0048】
第二斜板40は、傾転中心軸O40を中心として回動する。この傾転中心軸O40は、シリンダブロック4の中心軸O5と交差するように配置するとともに、各シュー22の各ピストン9に対する揺動中心軸O22を含むシュー揺動中心面に対して距離Sだけ背後側(シリンダブロック4から遠ざかる方向)にオフセットされ、斜板背面ジャーナル部41の小型化がはかれる。
【0049】
斜板背面ジャーナル部41は、第二斜板40と別体で形成され、2本のノックピン15を介して第二斜板40に固定される。なお、これに限らず、斜板背面ジャーナル部41を第二斜板40と一体で形成しても良い。
【0050】
図3の(a)〜(d)、図4の(e)〜(g)に示すように、第二斜板40は、各シュー21が摺接する摺動面40a、斜板背面ジャーナル部41が取り付けられる背面40bとを有し、摺動面40aが背面40bに対して傾斜して形成される。
【0051】
図3の(d)、図4の(f)に示すように、第二斜板40の中央部には穴40cが形成され、この穴40cをモータシャフト5が挿通する。
【0052】
穴40cに連接して球面状の軸受面40dが形成され、この軸受面40dにリテーナホルダ87が摺接する。
【0053】
図3の(c)、図4の(e)に示すように、第二斜板40の一方の側面にはサイドプレート46に対する取付面40eが形成され、この取付面40eに2本のボルト76、77を介してサイドプレート46が締結される。取付面40eには各ボルト76、77が螺合するネジ穴40f、40gが形成されるとともに、サイドプレート46の位置決めをするノックピン(図示せず)が嵌合する穴40h、40iが形成される。
【0054】
第二斜板40の背面40bから膨出してボス部40kが形成され、このボス部40kにネジ穴40fが形成される。このネジ穴40fに螺合するボルト76を介してサイドプレート46が締結される。
【0055】
ボス部40kはサイドプレート46のボス部46bと共にケース25の底部に形成された凹部79に係合するようになっている。これにより、第二斜板40の最大傾転角度が削減されず、要求される第二斜板40の最大傾転角度が確保される。
【0056】
図3の(a)、(b)に示すように、第二斜板40の他方の側面にはサイドプレート56に対する取付面40mが形成され、この取付面40mには各ボルト81が螺合するネジ穴40n、40pが形成されるとともに、サイドプレート56の位置決めをするノックピン(図示せず)が嵌合する穴40qが形成される。
【0057】
図4の(f)に示すように、第二斜板40の背面40bは平面状に形成され、この背面40bに斜板背面ジャーナル部41が当接する。
【0058】
図3の(b)に示すように、背面40bには穴40r、40s、40t、40uが開口し、これら各穴40r、40s、40t、40uに2対のノックピン15が嵌合する。
【0059】
図5の(a)〜(c)に示すように、斜板背面ジャーナル部41は、第二斜板40の背面40bに当接する当接面41aと、軸受メタル38を介して摺動可能に支持される円柱面状の摺動面41bとを有するハーフログ形に形成される。
【0060】
図5の(a)(c)に示すように、斜板背面ジャーナル部41の当接面41aは、平面状に形成され、第二斜板40の背面40bに隙間なく当接する。
【0061】
図5の(b)(c)に示すように、斜板背面ジャーナル部41の当接面41aには穴41c、41dが開口する。斜板背面ジャーナル部41の各穴41c、41dと第二斜板40の各穴40r、40s、40t、40uとに渡って各ノックピン15が嵌合し、これらのノックピン15を介して第二斜板40に対する斜板背面ジャーナル部41の位置決めが行われる。
【0062】
第二斜板40には、各スプリング96の付勢力と、各シリンダ6に発生する油圧力による各ピストン9の押し付け力とが働くため、第二斜板40は斜板背面ジャーナル部41に押し付けられる。このため、第二斜板40と斜板背面ジャーナル部41とは、各ノックピン15によって背面40b方向について位置決めされることにより、両者の結合状態が維持されるため、各ノックピン15は圧入されることが好ましいが、スキマバメで嵌合されても脱落等の心配はない。
【0063】
図5の(c)は、図5の(b)のC−C線に沿う断面図である。これに示すように、摺動面41bの断面形は第二斜板40の傾転中心軸O40を中心として断面円弧状に湾曲している。
【0064】
摺動面41bは、研磨加工を施し、所定の形状精度と表面粗度が確保される。この研磨加工は、斜板背面ジャーナル部41を図示しない治具を介して傾転中心軸O40を中心に回転させ、摺動面41bを研磨材を摺接させて行われる。
【0065】
第二斜板40の傾転中心軸O40が各シュー22の揺動中心点で決まるシュー揺動中心面と第二斜板40の背面40bの間にある。すなちわ、第二斜板40の傾転中心軸O40がシュー揺動中心面に対してシリンダブロック4から遠ざかる方向にあり且つ、第二斜板40の背面40bよりシリンダブロック4に近い方向にある。これにより、斜板背面ジャーナル部41を含む第二斜板40の小型化をはかれることができ、第二斜板40の傾転に伴って各シュー22の軌跡がと第二斜板40の摺動面40aから外れないように設定できる。
【0066】
第二斜板40の傾転中心軸O40をシュー揺動中心面に対してオフセットすることにより、第二斜板40の傾転に伴って各シュー22の軌跡が第二斜板40の摺動面に対してずれる外れ量が大きくなるが、第二斜板40の傾転中心軸O40をシュー揺動中心面と第二斜板40の背面40bとの間に配置することによって、斜板背面ジャーナル部41の小型化をはかることと、各シュー22の軌跡が第二斜板40の摺動面40aから外れないように設定することの両立が可能である。
【0067】
斜板背面ジャーナル部41を第二斜板40と別体で形成することにより、斜板背面ジャーナル部41を治具を介して傾転中心軸O40を中心に回転させ、摺動面41bを研磨材を摺接させて研磨加工を施すことが可能となり、斜板背面ジャーナル部41の摺動面41bに対する形状精度と表面粗度が確保される。
【0068】
第二斜板40には各スプリング96の付勢力と各シリンダ6に発生する油圧力による各ピストン9の押し付け力とが働くため、第二斜板40は斜板背面ジャーナル部41に押し付けられ、斜板背面ジャーナル部41の各穴41c、41dと第二斜板40の各穴40r、40s、40t、40uとに渡って各ノックピン15が嵌合し、これらのノックピン15を介して第二斜板40に対する斜板背面ジャーナル部41の位置決めが行われることにより、第二斜板40と斜板背面ジャーナル部41との結合状態が維持される。
【0069】
以上のように、本実施形態では、複数のシリンダ6が開口するシリンダブロック4と、各シリンダ6の開口端に対峙するように設けられる斜板40と、各シリンダ6に摺動可能に嵌合するピストン9と、ピストン9に回動可能に連結されシリンダブロック4の回転に伴って斜板40に追従するシュー22とを備え、斜板40の傾転角度が変えられる斜板型ピストンモータ1であって、斜板30の背後から円弧状断面を持って突出する斜板背面ジャーナル部41と、この斜板背面ジャーナル部41を摺動可能に支持する軸受部42とを備え、斜板40が傾転中心軸O40を中心として回動し、この傾転中心軸O40をシリンダブロック4の回転中心軸O5と交差するように配置するとともに、傾転中心軸O40が各シュー22の揺動中心点で決まるシュー揺動中心面に対してシリンダブロック4から遠ざかる方向で且つ、斜板40の背面40bより前記シリンダブロック4に近づく方向にあることを特徴とする。
【0070】
上記構成に基づき、斜板背面ジャーナル部41の小型化をはかることと、各シュー22の斜板30との接触面が斜板30の摺動面30aからはみ出さないとともに、各シュー22がモータシャフト5に接触することなく、円滑に摺動することを両立し、小型で斜板40の傾転角度を大きくとれる斜板型ピストンモータ1を提供できる。
【0071】
本実施形態では、斜板背面ジャーナル部41を斜板40と別体で形成することを特徴とする。
【0072】
上記構成に基づき、斜板背面ジャーナル部41を治具を介して傾転中心軸O40を中心に回転させ、摺動面41bを研磨材を摺接させて研磨加工を施すことが可能となり、斜板背面ジャーナル部41の摺動面41bに対する形状精度と表面粗度が確保される。
【0073】
本実施形態では、斜板背面ジャーナル部41と斜板40に渡って嵌合する複数のノックピン15を設け、これらのノックピン15を介して斜板40に対する斜板背面ジャーナル部41の位置決めをする構成としたことを特徴とする。
【0074】
上記構成に基づき、斜板40には各スプリング96の付勢力と各シリンダ6に発生する油圧力による各ピストン9の押し付け力とが働くため、斜板40は斜板背面ジャーナル部41に押し付けられ、ノックピン15を介して斜板40に対する斜板背面ジャーナル部41の位置決めが行われることにより、斜板40と斜板背面ジャーナル部41との結合状態が維持される。
【0075】
本実施形態では、シリンダブロック4の両側に設けられる第一、第二斜板30、40と、第一、第二斜板30、40の背後から円弧状断面を持って突出する斜板背面ジャーナル部31、41と、シリンダブロック4の回転に伴って第一、第二斜板30、40に追従してシリンダ6を往復動する第一、第二ピストン8、9と、第一、第二斜板30、40の傾転を互いに連動させる傾転連動機構45と、第一斜板30を傾転させるサーボ機構33とを備え、傾転連動機構45は、シリンダブロック4と第一、第二斜板30、40を収容するケース25と、このケース25に支持ピン49を介して揺動可能に連結される揺動リンク48と、この揺動リンク48に対して摺動可能に係合する第一、第二係合ピン54、53とを備え、第一斜板30の斜板背面ジャーナル部31の側部から第一係合ピン54を突出させ、第二斜板40の側部にサイドプレート46を締結し、このサイドプレート46から第二係合ピン53を突出させ、第二斜板40が傾転中心軸O40を中心として回動し、第二斜板40の傾転中心軸O40をシリンダブロック4の回転中心軸O5と交差するように配置するとともに、傾転中心軸O40が各シュー22の揺動中心点で決まるシュー揺動中心面に対してシリンダブロック4から遠ざかる方向で且つ、斜板40の背面40bより前記シリンダブロック4に近づく方向にあることを特徴とする。
【0076】
上記構成に基づき、ケース25内の限られたスペースにサーボ機構33と傾転連動機構45とをコンパクトに収容し、装置の大型化が避けられる。
【0077】
車両の無段変速機として用いられるHSTの場合、加速、減速のチューニングは従来、ピストンポンプの斜板を駆動するサーボレギュレータとピストンモータ1の第一、第二斜板30、40を駆動する各々のサーボレギュレータの計3つで行っていたが、本発明の場合はピストンポンプ用と、ピストンモータ1用のサーボレギュレータの計2つですみ、チューニング工数を減らせる。単一のサーボ機構33を用いて第一、第二斜板30、40の傾転角度を変えられるため、製品の信頼性を高められるとともにコストダウンがはかれる。
【0078】
第一係合ピン54の剛性が十分に確保され、サーボ機構33の駆動力が駆動用係合ピン65を介して第一斜板30に的確に伝えられるとともに、第一斜板30の傾転する動きが第一係合ピン54を介して傾転連動機構45に的確に伝えられる。
【0079】
第二斜板40の側部にサイドプレート46を締結し、このサイドプレート46から第二係合ピン53を突出させることにより、第二斜板40の斜板背面ジャーナル部41の小型化をはかれ、小型の斜板型ピストンモータ1を提供できる。
【0080】
なお、作動油としてオイルの代わりに例えば水溶性代替液等の作動流体を用いても良い。
【0081】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、斜板型油圧ピストンポンプ・モータとして油圧ポンプにも適用でき、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、HSTを構成する油圧モータまたは油圧ポンプをはじめ、種々の斜板型油圧ピストンポンプ・モータに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態を示す油圧モータの横断面図。
【図2】同じく油圧モータの縦断面図。
【図3】同じく斜板の四面図。
【図4】同じく斜板の断面図。
【図5】同じく斜板背面ジャーナル部の二面図及び断面図。
【符号の説明】
【0084】
1 ピストンモータ
4 シリンダブロック
5 シャフト
6 シリンダ
9 ピストン
15 ノックピン
22 シュー
25 ケース
40 斜板
41 斜板背面ジャーナル部
41b 摺動面
42 軸受部
O5 シリンダブロックの中心軸
O22 シューの揺動中心軸
O40 斜板の傾転中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダが開口するシリンダブロックと、
前記各シリンダの開口端に対峙しその傾転角度が変えられる斜板と、
前記各シリンダに摺動可能に嵌合するピストンと、
このピストンに回動可能に連結され前記斜板に追従するシューとを備え、
シリンダブロックの回転に伴って前記ピストンが前記シリンダを往復動する斜板型ピストンポンプ・モータであって、
前記斜板の背後から円弧状断面を持って突出する斜板背面ジャーナル部と、
この斜板背面ジャーナル部を摺動可能に支持する軸受部とを備え、
前記斜板が傾転中心軸を中心として回動し、
この傾転中心軸を前記シリンダブロックの回転中心軸と交差するように配置するとともに、
前記傾転中心軸が前記各シューの揺動中心点で決まるシュー揺動中心面に対して前記シリンダブロックから遠ざかる方向で且つ、前記斜板の背面より前記シリンダブロックに近づく方向にあることを特徴とする斜板型ピストンポンプ・モータ。
【請求項2】
前記斜板背面ジャーナル部を前記斜板と別体で形成することを特徴とする請求項1に記載の斜板型ピストンポンプ・モータ。
【請求項3】
前記斜板背面ジャーナル部と前記斜板に渡って嵌合する複数のノックピンを設け、
これらのノックピンを介して前記斜板に対する前記斜板背面ジャーナル部の位置決めすることを特徴とする請求項2に記載の斜板型ピストンポンプ・モータ。
【請求項4】
前記シリンダブロックの両側に設けられる第一、第二斜板と、
前記第一、第二斜板の背後から円弧状断面を持って突出する斜板背面ジャーナル部と、
前記シリンダブロックの回転に伴って前記第一、第二斜板に追従して前記シリンダを往復動する第一、第二ピストンと、
前記第一、第二斜板の傾転を互いに連動させる傾転連動機構と、
前記第一斜板を傾転させるサーボ機構とを備え、
前記傾転連動機構は、前記シリンダブロックと前記第一、第二斜板を収容するケースと、
このケースに支持ピンを介して揺動可能に連結される揺動リンクと、
この揺動リンクに対して摺動可能に係合する第一、第二係合ピンとを備え、
前記第一斜板の斜板背面ジャーナル部の側部から前記第一係合ピンを突出させ、
前記第二斜板の側部にサイドプレートを締結し、
このサイドプレートから前記第二係合ピンを突出させ、
前記第二斜板が傾転中心軸を中心として回動し、前記第二斜板の傾転中心軸を前記シリンダブロックの回転中心軸と交差するように配置するとともに、
前記傾転中心軸が前記各シューの揺動中心点で決まるシュー揺動中心面に対して前記シリンダブロックから遠ざかる方向で且つ、前記斜板の背面より前記シリンダブロックに近づく方向にあることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の斜板型ピストンポンプ・モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−180119(P2009−180119A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18769(P2008−18769)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】