説明

断熱構造

【課題】火災の際に、断熱板内に熱橋となる部材がなく、且つ、断熱板が溶融して空洞化しても、断熱板に積層していたメッシュ材などの壁面部材が落下しない断熱構造を提供する。
【解決手段】躯体1と接着剤層2と断熱板3と接着剤層4と無機質メッシュ材5と外装材6からなる断熱構造において、メッシュ材7の一端を躯体1にビス8で取り付け、断熱板3の上端面或いは下端面に沿わせた上で、他端を断熱板3の接着剤層4側の側面に回り込ませて該接着剤層4に埋設して固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の躯体に断熱板を取り付けた断熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物に断熱性を付与する手段として、建造物の躯体の壁面に発泡樹脂などからなる断熱板を取り付けた構造が一般的に知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図5は、躯体の外壁面に断熱板を取り付けた、いわゆる外張り断熱構造の一例を示す断面模式図である。図中、1はコンクリート壁などの躯体、2は接着剤層、3は断熱板、4は接着剤層、5はメッシュ材、6は外装材、10はビスである。このような構造は、躯体1の外壁面に接着剤層2を介して断熱板3を貼り付け、該断熱板3を貫通するビス10で該断熱板3を躯体1に固定した後、断熱板3の表面をメッシュ材5で覆い、次いで接着剤を塗布し、該接着剤からなる接着剤層4内に上記メッシュ材5を埋め込み、最後に外装材6を接着剤層4によって貼り付ける、或いは、接着剤層4の表面に仕上げモルタルなどを塗布して外装材6を形成してなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−228371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に例示したような断熱構造を備えた建造物において火災が発生した場合、コンクリート壁などからなる躯体1や接着剤層2、4、メッシュ材5、外装材6は通常、高い不燃性を有する材料からなるものの、断熱板3は躯体1や接着剤層2、4、メッシュ材5、外装材6に比べて不燃性に劣るため、断熱板3のみが比較的早い段階で溶融し、断熱板3が占めていた領域が空洞化してしまう。その結果、ビス10のみで躯体1と接着剤層4とメッシュ材5、外装材6からなる壁面部材を支持することになる。しかしながら、軽い断熱板3を固定するためのビス10による固定箇所は多くないため、ビス10のみでは壁面部材を支えきれずに該壁面部材が落下してしまう恐れがある。また、ビス10が金属製である場合には、躯体1と外装材6との間で熱や冷気を他方へ伝える伝熱経路、即ち熱橋(ヒートブリッジ)となってしまうため、火災の際に熱を伝えやすく、燃焼拡大の要因となることや、結露を発生しやすいといった理由から好ましくない。
【0006】
断熱板3を躯体1に固定するための部材としては、合成樹脂製のアンカーなども用いられており、金属製のビス10に比較して熱伝導性が低く、熱橋とならない点では好ましいものの、合成樹脂製のアンカーは、断熱板3と同様に不燃性に劣るため、火災が発生した際には容易に溶融して躯体1と接着剤層4との間が完全に空洞化してしまい、壁面部材が落下してしまう。
【0007】
火災の際、外装材6などの壁面部材の落下はそれ自体が危険であり、また、建造物全体の崩壊を招くことになるため、断熱板3が溶融して空洞化した場合でも、壁面部材が落下しない構造が望まれていた。
【0008】
本発明の課題は、断熱板内に熱橋となる部材がなく、火災の際に断熱板が溶融して空洞化しても、断熱板に積層された外装材などの壁面部材が落下せず、また、結露の発生もない、断熱性に優れた断熱構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の断熱構造は、建造物の躯体と、前記躯体の壁面に取り付けた合成樹脂発泡成形体からなる断熱板と、前記断熱板に接着剤層を介して積層した外装材或いは内装材とを少なくとも備えた断熱構造であって、
前記断熱板の上端面或いは下端面に沿って配置され、一端が前記躯体にビスによって固定され、他端側が、前記断熱板の前記接着剤層側の側面に回り込み、他端側の少なくとも一部が前記接着剤層に埋設して固定された無機質メッシュ材を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の断熱構造は、断熱板を金属製のビスで躯体に固定しないため、断熱板内に熱橋となる部材がなく、火災時の燃焼の拡大を低減し、また、結露の発生を防止することができる。また、断熱板が火災によって溶融した場合であっても、断熱板に積層されていた壁面部材が、一端を躯体に固定されたメッシュ材によって支持されるため、該壁面部材の落下が防止され、建造物全体の崩壊を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の断熱構造の一実施形態の断面模式図である。
【図2】本発明の断熱構造の他の実施形態の断熱板とメッシュ材とを模式的に示す斜視図である。
【図3】図2(c)に例示した断熱板を上下方向に複数枚取り付けた例を示す斜視図と部分側面図である。
【図4】本発明の断熱構造の他の実施形態のメッシュ材の取り付け形態を示す斜視図である。
【図5】従来の断熱構造の一例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成を、実施形態を挙げて説明する。
【0013】
図1は、本発明の断熱構造の好ましい一実施形態である、外貼り断熱構造の断面を模式的に示す図である。図中、1はコンクリート壁などの躯体、2,4は接着剤層、3は断熱板、5,7はメッシュ材、6は外装材、8はビスである。
【0014】
本発明の構成上の特徴は、無機質の材料からなるメッシュ材7を用いて、躯体1と接着剤層4とをつないだことにある。即ち、メッシュ材7は、断熱板3の上端面或いは下端面に沿って配置し、一端が断熱板3の躯体1側の側面に沿って回り込み、ビス8により躯体1に取り付けられている。そして、メッシュ材7の他端側は断熱板3の接着剤層5側の側面に回り込み、接着剤層5に埋設して固定されている。
【0015】
尚、本例では、躯体1の壁面全面に接着剤層2(第2の接着剤層)が形成され、該接着剤層2を介して断熱板3が躯体1に貼付されているため、メッシュ材7の一端がビス8で躯体1に取り付けられた上に該接着剤層2に埋設されることで、より強固にメッシュ材7が躯体1に固定されるため好ましい。また、本発明では、熱橋とならない部材、例えば合成樹脂製アンカーを用いて断熱板3を躯体1に固定しても構わない。合成樹脂製アンカーなどで断熱板3を固定できる場合には、接着剤層2は用いなくてもかまわない。
【0016】
図1に例示したように、本発明の断熱構造は、躯体1と接着剤層4とに固定されたメッシュ材7を備えたことを特徴とするが、メッシュ材7が躯体1に取り付けられている箇所は、躯体1の垂直方向(紙面上下方向)において、二箇所以上が好ましい。これにより、断熱板3が火災の際に溶融し空洞化しても、断熱板3の接着剤層4側の部材、即ち、本例においては接着剤層4、メッシュ材5(第2の無機質メッシュ材)、外装材7からなる壁面部材が、メッシュ材7によって支持され、落下が防止される。
【0017】
図1に例示した実施形態においては、垂直方向に複数枚の断熱板3を並べて取り付ける構造において、各断熱板3の下端側に、該下端を断面がU字状に包み込むようにメッシュ材7が取り付けられているが、本発明では当該構造に限定されない。例えば、メッシュ材7が断熱板3の上端面側を巻き込むように配置されていても良いし、メッシュ材7の躯体1側の端部と、接着剤層4側の端部とが上下逆になっていても良い。図2(a)は、メッシュ材7の躯体1側の端部と、接着剤層4側の端部とが上下逆になっている形態を示す斜視図である。図中、7aはメッシュ材7の躯体1への取り付け端部である。
【0018】
また、本発明において、メッシュ材7は一端が躯体1に取り付けられ、他端側は接着剤層4に回り込んで少なくともその一部が接着剤層4に埋設されていればよい。本発明においては、メッシュ材7の一端は躯体1にビス8によって取り付けられているため、充分な強度が確保されるが、他端側においては、メッシュ材7を接着剤層4に埋設する事で該接着剤層4に固定されるため、接着剤層4に埋設する領域が広い方が強度がより高くなるため好ましい。従って、メッシュ材7の他端側は断熱板3の上下方向全域にわたって該断熱板3の反対側の端面(図1であれば上端面)に回り込み、さらに躯体1側に回り込んで躯体1に取り付けられていても良い。即ち、メッシュ材7が断熱板3の接着剤層4側の側面と上下端面に沿い、両端が躯体1側に回り込んで該両端が躯体1に固定された形態である。また、係る形態においては、垂直方向に複数枚の断熱板3にわたってメッシュ材7が延長されていても良い。係る形態の斜視図を図4に例示する。図4の例では、垂直方向に3枚の断熱板3の側面と、上端の断熱板3の上端面、及び、下端の断熱板3の下端面に沿って長尺のメッシュ材7が配置し、両端部7a,7aがそれぞれ躯体1に沿って配置して躯体1に取り付けられる。
【0019】
さらに、本発明において、メッシュ材7の幅(図1の紙面に直行する方向の長さ)については、断熱板3の幅全幅にわたっていても、一部であっても良い。
【0020】
図2に、図1とは異なる実施形態の、断熱板3とメッシュ材7とを模式的に示す。
【0021】
図2(a)はメッシュ材7が断熱板3の幅全幅にわたり、躯体1に取り付けた一端7aとは反対側の他端が接着剤層4に埋設する形態である。また、図2(b)は断熱板3の幅よりも狭い幅のメッシュ材7を断熱板3の幅方向に複数枚用いた例であり、躯体1に取り付けた一端7aとは反対側の他端は断熱板3の反対側の端面に回り込み、躯体1に取り付けられる端部7aとなる形態である。さらに、図2(c)は断熱板3の接着剤層4側の側面を全てメッシュ材7が覆う形態であるが、躯体1に取り付けた一端7aとは反対側の他端は接着剤層4側の断熱板3の側面の端部に一致している。
【0022】
メッシュ材5は接着剤層4の補強を目的に用いられる部材であるため、図2(c)に示したように断熱板3の接着剤層4側の側面を全てメッシュ材7で覆ってしまうような場合には、メッシュ材5の作用もメッシュ材7が担うことになるため、メッシュ材5を用いる必要はない。しかしながら、隣接する断熱板3の間に生じた段差が接着剤層4に影響する恐れがあるため、係る形態では、隣接する断熱板3の境界を部分的にメッシュ材で覆うことが好ましい。図3(a)は図2(c)のメッシュ材7を用いて上下方向に2枚の断熱板3を取り付けた状態の断熱板3とメッシュ材7を示す斜視図であり、図3(a)に示すように、上下に隣接する断熱板3,3の境界をメッシュ材9が覆っている。図3(b)は図3(a)を矢印A方向から見た部分側面図である。尚、メッシュ材5を用いる場合には、メッシュ材5が隣接する断熱板3の間に生じる段差を覆うため、境界を覆う図3に示すようなメッシュ材9は不要である。
【0023】
次に、本発明の断熱構造の施工方法について説明する。本発明においては、メッシュ材7は施工現場において取り付けても、予め断熱板3に取り付けた状態、即ち図2(a)〜図2(c)の形態で施工現場に持ち込んでも良い。予めメッシュ材7を断熱板3に取り付ける方法は特に限定されないが、少なくとも、熱橋となるような金属製の部材は用いない。また、最終的に接着剤層4によってメッシュ材7は断熱構造内に固定されるため、メッシュ材7の断熱板3への取り付けは、断熱板3を躯体1に貼り付ける際にメッシュ材7が断熱板3から外れない程度の仮止めで構わない。
【0024】
図1の断熱構造の施工方法について説明する。先ず、躯体1に接着剤を塗布して接着剤層2を形成し、下方の断熱板3の上端面にメッシュ材7を載せ、一端を接着剤層2に埋設すると同時にビス8によって躯体1に取り付けた後、該メッシュ材7の上に次の断熱板3を載せてその側面を接着剤層2に貼り付ける。さらに、順次メッシュ材7を取り付けながら断熱板3を接着剤層2を介して躯体1に貼り付けた後、上下に隣接する断熱板3の間から突出するメッシュ材7の他端を上方の断熱板3の側面に沿わせる。次いで断熱板3の壁面をメッシュ材5で覆い、仮止めした後、接着剤を塗布して接着剤層4を形成すると同時にメッシュ材5を該接着剤層4に埋設させる。最後に、外装材6を接着剤層4を介して貼付するか、或いは、塗布により形成する。
【0025】
また、図1の断熱構造を上下逆に、即ち、メッシュ材7が断熱板3の上端面を断面が逆U字型に包み込むように構成する場合には、先にメッシュ材7の一端を躯体1にビス8によって取り付けた後、該メッシュ材7の下方に断熱板3を貼付すればよい。
【0026】
図2(a)や図2(b)の形態を、予めメッシュ材7を断熱板3に取り付けた状態で施工現場に持ち込んで施工する場合、断熱板3の上下にメッシュ材7の取り付け端部7aが突出しているため、躯体1の垂直方向において、断熱板1枚おきに図2(a)や図2(b)のメッシュ材7付きの断熱板3が用いられる。具体的には、躯体1に接着剤層2を形成した後、図2(a)或いは図2(b)のメッシュ材7付きの断熱板3を接着剤層2を介して躯体1に貼り付け、メッシュ材7の取り付け端部7aを躯体1に沿って固定し、次いでメッシュ材7を取り付けていない断熱板3を接着剤層2を介して躯体1に貼り付ける。その後の工程は、上記した図1の断熱構造の施工方法と同様である。
【0027】
また、図2(c)の例のように、断熱板3の上下一方にのみメッシュ材7の取り付け端部7aが突出している場合には、該取り付け端部7aを上方に向けて該断熱板3を接着剤層2を介して躯体1に貼り付け、取り付け端部7aをビス8によって躯体1に取り付ける工程を下方から順に繰り返せばよい。その後、必要に応じてメッシュ材9を取り付け、その後は図1の断熱構造の施工方法と同様である。
【0028】
上記の実施形態においては、外張り断熱構造を例に挙げて説明したが、本発明の断熱構造は、内張り断熱構造にも適用され、各部材の素材は、断熱構造の形態に応じて適宜選択される。例えば、本発明の断熱構造を内張り断熱構造に用いる場合には、図1の外装材6の代わりに内装材を用いる。以下、各部材の具体例について説明する。
【0029】
本発明の断熱構造における躯体1は、例えばコンクリート壁である。
【0030】
また、接着剤層2に用いられる接着剤は不燃性接着剤が好ましく、具体的には酢酸ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂等の再乳化形粉末樹脂とセメントとを混合した樹脂モルタルが好ましく用いられる。ここで、セメントに対する樹脂成分比率は20質量%以下が不燃性の点で好ましい。また、具体的な樹脂モルタルの組成としては、セメント30質量%、細骨材60質量%、エチレン・酢酸ビニル共重合体の再乳化形粉末樹脂6質量%、その他ガラス繊維等の添加剤4質量%からなる樹脂モルタルである。
【0031】
断熱板3は、合成樹脂発泡成形体であって、耐水性や断熱性に優れたものが好ましい。具体的には、例えばポリスチレン系発泡体、ポリエチレン系発泡体、ポリプロピレン系発泡体、ポリウレタン系発泡体、フェノール系発泡体等の独立気泡を有する発泡体が好適である。特に、押し出し発泡ポリスチレン(商品名「スタイロフォーム」:ダウ化工(株)製)は、その高い断熱性及び低い吸水性の点で好適である。
【0032】
メッシュ材5と7と9はいずれも無機質メッシュ材であり、同じ素材であっても、異なる素材であっても良く、具体的には金属メッシュ材、ガラスメッシュ材が好ましく用いられる。尚、金属メッシュ材は細い金属素材から構成されるため、メッシュ材7として用いても実質的に熱橋とはならないため、本発明においても用いることができるが、メッシュ材5、7、9としてはガラスメッシュ材がより好ましく用いられる。
【0033】
接着剤層4に用いられる接着剤は好ましくは不燃性接着剤であり、上記接着剤2と同様の素材が好ましく用いられる。
【0034】
外張り断熱構造の場合の外装材6としては、例えばモルタルタイルなどが挙げられるが、仕上げモルタルを塗布して形成しても良い。また、内張り断熱構造の場合の内装材としては、壁紙やクロスが挙げられる。
【0035】
ビス8としては、特に限定されないが、本発明では係るビス8はメッシュ材7を躯体1に取り付けるために用いられるため、一般に建築現場で用いられている金属製のビスを用いることができる。また、金属製以外であっても、メッシュ材7を躯体1に充分な強度で固定できるものであれば用いることができる。
【符号の説明】
【0036】
1:躯体、2,4:接着剤層、3:断熱板、5,7,9:メッシュ材、7a:取り付け端部、6:外装材、8,10:ビス、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の躯体と、前記躯体の壁面に取り付けた合成樹脂発泡成形体からなる断熱板と、前記断熱板に接着剤層を介して積層した外装材或いは内装材とを少なくとも備えた断熱構造であって、
前記断熱板の上端面或いは下端面に沿って配置され、一端が前記躯体にビスによって固定され、他端側が、前記断熱板の前記接着剤層側の側面に回り込み、他端側の少なくとも一部が前記接着剤層に埋設して固定された無機質メッシュ材を備えたことを特徴とする断熱構造。
【請求項2】
前記接着剤層の全域にわたって第2の無機質メッシュ材が埋め込まれている請求項1に記載の断熱構造。
【請求項3】
前記無機質メッシュ材の他端側が、前記断熱板の前記接着剤層側の側面を全て覆っている請求項1に記載の断熱構造。
【請求項4】
前記断熱板と躯体との間に第2の接着剤層が介在する請求項1〜3のいずれか1項に記載の断熱構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−92555(P2012−92555A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240552(P2010−240552)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000109196)ダウ化工株式会社 (69)
【Fターム(参考)】