説明

断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造

【課題】 従来にあっては、使用者がロックピン付きライナーを装着するに際し、装着状態において差し込みロックピンが断端から真っ直ぐな状態になっていないと、ロックピンの先端を収容部の差し込み孔に差し込むことが困難となるため使用者がライナーを装着することが非常に面倒であると共に時間が掛かり、また、ソケットに装着できたとしてもその場合は断端に負担が掛かるといった問題があった。
【解決手段】 義肢ソケット3の下部に取付けられたロックピン係止手段4と、該ロックピン係止手段にロック可能に挿入される溝61が形成されると共に上端に吸着板62が形成されたロックピン6と、ライナー1の下部に取付けられ該ライナーが前記義肢ソケット内への挿入途中で前記ロックピンの吸着板と一体となる脱着手段2とより構成した断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断端に装着したライナーを義肢ソケットに装着する際に、ライナーの義肢ソケットへの装着が容易で、かつ、装着時にライナーと断端との間で少々のズレが生じてもライナーと義肢ソケットとの結合を完全な状態とすることが可能な断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から用いられている義肢は、使用者の切断肢をライナーに装着し、該ライナーをソケットに差し込み牽引ベルト等で固定することで歩行が行なえた。ところで、従来において切断肢をソケットに挿入・装着した状態で良好な結合状態を維持するものとして、特開2002−291781号公報に開示された発明がある。
【0003】
この発明は、切断肢をソケットに装着した状態において、ソケット内の空気を排出してソケット内を負圧状態とすることで、ソケットから切断肢が抜け出ないようにしたものである。しかし、この発明にあっては、使用中において断端の外周径が減少した場合に負圧状態に変化が生じ、ソケット内での断端に遊びが生じ、装着の不快感を感じる可能性がある。
【0004】
また、断端にライナーを介してソケットとの結合状態を良好な結合状態に維持するものとして特開平9−164158号公報に開示された発明がある。この発明は、断端に覆い被せたライナーの底面部に環状溝を有する差し込みロックピンを一体的に取付け、一方、ソケットに前記差し込みロックピンが差し込まれる差し込み孔を有する収容部を取付け、該差し込み孔に前記環状溝に入り込むゴムリングを設けたものである。そして、ライナーから突出した長軸の差し込みボルトをソケットの収容部における差し込み孔に挿入することでゴムリングと環状溝との摩擦抵抗によってライナーがソケットから抜け出るのを防止したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−291781号公報
【特許文献2】特開平9−164158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、使用者が前記特許文献1に開示されたライナーを装着するに際し、装着状態において差し込みロックピンが断端から真っ直ぐな状態になっていないと、ライナーをソケットに装着する際に差し込みロックピンの先端を収容部の差し込み孔に差し込むことが困難となるので、使用者がライナーを装着することが非常に面倒であると共に時間が掛かるといった問題があった。
【0007】
また、ロックピンが断端から真っ直ぐな状態になっていない状況で、断端にライナーを装着してライナーのボルトを差し込み孔に装填してしまうと、差し込みロックピンが斜め状態となり断端とソケットとが正しく一体とならないので、長時間歩行すると、断端への負荷が大きくなって痛みや抹消循環障害を発生する可能性があり、従って、切断端のソケットへの装着には細心の注意が必要であるといった問題があった。
【0008】
本発明は前記した問題点を解決せんとするもので、その目的とするところは、ソケット側にロックピン係止手段を設け、該ロックピン係止手段に嵌合固定される吸着板と一体となったロックピン、ライナーの底面部に前記吸着板と脱着可能なマグネット等の脱着手段を取付けたことにより、使用者がライナーを装着することに際してライナー先端に設けられた吸着手段が完全に断端中央に位置している必要がなく、若干のずれがあっても吸着手段によってずれが解消されるので装着が簡単であると共に、ライナーとソケットとを一体化させるための長軸のロックピンがライナーと一体に形成されていないので、ソケットに断端を装着する際に無理な姿勢をとらなくても楽に装着できることが可能となった、断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造を提供せんとするにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造は前記した目的を達成せんとするもので、請求項1の手段は、義肢ソケットの下部に取付けられたロックピン係止手段と、該ロックピン係止手段にロック可能に挿入される溝が形成されると共に上端に吸着板が形成されたロックピンと、ライナーの下部に取付けられ該ライナーが前記義肢ソケット内への挿入途中で前記ロックピンの吸着板と一体となる脱着手段とより構成したことを特徴とする。
【0010】
請求項2の手段は、前記した請求項1において、前記ロックピン係止手段が、ラチェットユニットであることを特徴とする。
【0011】
請求項3の手段は、前記した請求項1において、前記脱着手段が、前記ロックピンの吸着板と磁力によって吸着されるマグネットであることを特徴とする。
【0012】
請求項4の手段は、前記した請求項1において、前記脱着手段が、前記ロックピンの吸着板と吸引力によって吸着される吸盤であることを特徴とする。
【0013】
請求項5の手段は、前記した請求項1において、前記脱着手段が、リング状の溝を有する係合部材を取付け、前記ロックピンの吸着板にOリングを有する取付部材を取付け、前記Oリングと前記溝とを係合することで脱着手段と吸着板とが摩擦力で係合されることを特徴とする。
【0014】
請求項6の手段は、前記した請求項3において、前記脱着手段のマグネットを弾性具を介して取付けて義肢ソケットが傾いてもマグネットをロックピンの吸着板に対して平行状態で吸着されるようにしたことを特徴とする。
【0015】
請求項7の手段は、前記した請求項5において、前記吸着手段の取付部材を弾性具を介して取付けて義肢ソケットが傾いても係合部材をロックピンの吸着板に設けられている取付部材のOリングと水平状態で係合されるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は前記したように、ソケット側にロックピン係止手段を設け、該ロックピン係止手段に嵌合固定される吸着板と一体となったロックピン、ライナーの底面部に前記吸着板と脱着可能な脱着手段を取付けたことにより、使用者がライナーを装着する際に、ライナーとソケットとを一体化させるための長軸のロックピンがライナーと一体に形成されていないので、ソケットに断端を装着する際に無理な姿勢をとらなくても楽に装着できることが可能である。
【0017】
また、ロックピン係止手段をラチェットユニットとしたことにより、ライナーを義肢ソケットに装着する際に、ロックピンは下方への移動時にはスムースに行なわれ、逆に上方への移動はロックされることで歩行時にライナーと義肢ソケットとが分離することがなく安全に歩行することが可能となり、かつ、ライナーを義肢ソケットから抜く操作時にロック解除ピンを操作することで容易にライナーを義肢ソケットから抜くことが可能である。
【0018】
さらに、ロックピンの吸着板と脱着手段とを合体する部材としてマグネット、吸盤あるいはOリングと溝との係合によって行なう構造であることから、構造が簡単でコストの低下を図れると共に故障の恐れも少ないものである。
【0019】
また、脱着手段としてのマグネットやOリングと係合される取付部材を弾性具を介して取付けたことにより、ライナーが傾いた状態で義肢ソケットに装着されてもマグネットや取付部材はロックピンの吸着板に対して平行状態を維持することから、脱着手段と吸着板との一体化が強固に行なわれ、歩行中にライナーが義肢ソケットより抜け出ることがなく安全に歩行することができる等の効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造におけるライナーをソケットに装着する状態の一部断面図である。
【図2】(a)はライナーの下部に取付けられたマグネット式の脱着手段と義肢ソケット側のラチェットボルトとの関係を示す一部断面図、(b)はライナーが傾いた状態で脱着手段のマグネットはラチェットボルトの頭部平坦面と平行状態となっている状態を示す一部断面図である。
【図3】ライナーが義肢ソケットに垂直状態で嵌め込まれた状態の一部断面図である。
【図4】ライナーが義肢ソケットに傾いて嵌め込まれた状態の一部断面図である。
【図5】(a)は装着手段を吸盤とした状態の一部断面図、(b)は装着手段を摩擦抵抗を利用した状態の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造を図面と共に説明する。
1は使用者が義肢Aの断端部A1側から挿入する比較的柔軟な材料によって形成されたライナーにして、図2に示す如く下端部には合成樹脂によって形成された断端部A1を受ける受け体11が形成されると共に該受け体11の裏面側には合成樹脂製の脱着手段2を取付けるためのネジ孔12aを有する固定体12が一体的に形成されている。
【0022】
なお、固定体12にはネジ孔12aが垂直方向に形成されている。また、受け体11の上面側には使用者の断端部A1の形状に一致して形成され、使用者がライナー1に義肢Aを装着した状態で使用者の断端部A1に苦痛を与えないようにするためのシリコンゴム等の弾性部材13が充填されている。
【0023】
前記脱着手段2は、前記ライナー1の前記固定体12のネジ孔12aに螺合される雄ネジ21aが形成されると共に軸長方向の中心に雌ネジ21bが形成されたネジ固定具21と、該固定具21の雌ネジ21bに螺合されるボルト22と、スポンジ等の弾性部材で形成されたリング状の弾性具23と、下面に凹部24aが形成され前記ボルト22を挿通する孔24bが形成されたマグネット24とから構成され、前記ボルト22をマグネット24の凹部24a側から挿入し前記弾性具21を介して前記固定具21の雌ネジ21bに螺合固定して脱着手段2は組み立てられている。なお、24cはボルト22の頭部とマグネット24の凹部24aとの間に介在した弾性部材である。
【0024】
次に、義肢ソケット3の構造について説明するに、義肢ソケット3は前記ライナー1が挿入される比較的硬質の樹脂で形成され、下部の開口外周面が金属製の受け部材31の鍔部31aがライナー製作時にモールド成形によって埋め込まれ一体化されている。また、受け部材31の底面には孔31bが形成されている。
【0025】
前記受け部材31の裏面側にはロックピン係止手段、例えば、公知のラチェットユニットが一体的に取付けられている。以下、ボルト係止手段をラチェットユニット4として説明する。該ラチェットユニット4には公知の義肢機能体5が取付けられている。6はリング状の溝61が長手方向に沿って多数形成されたロックピンにして、上端には円板状の吸着板62が形成されている。なお、ロックピン6は磁性材料で形成されている。
【0026】
前記ラチェットユニット4は、例えば、オットーボック・ジャパン株式会社製のシャトルロック ピラミッド6A20=10であって、前記ロックピン6を挿入するとラチェットユニット4のラチェットユニットによって下方への移動は自在であるが上方への移動はロックピン6の溝61に係合されロックされる構造であり、また、ロック解除ピン41を操作することで前記ロックが解除される構造となっている。
【0027】
次に、前記した構造について使用者がライナー1を断端に装着した後に義肢ソケット3に装着する動作について説明する。
先ず、使用者は下肢断端をライナー1の開口部から断端部A1側に向けて挿入し断端をライナー1に固定する。次いで、ライナー1を義肢ソケット3の開口部から挿入する。この時、予めロックピン6の先端部はラチェットユニット4内に挿入され下方への移動は自由であるが上方への移動はロック状態となっている。
【0028】
ライナー1を義肢ソケット3内に挿入していくと脱着手段2におけるマグネット24がロックピン6の吸着板62に磁気的に吸着され、一体となった状態でさらにロックピン6は下降し、ライナー1が義肢ソケット3に対して密着状態に達した位置で固定状態となる(図3参照)。
【0029】
この密着状態においてライナー1を義肢ソケット3から引き抜こうとしてもマグネット24の強力な磁力によって吸着板62と一体的となっており、かつ、ロックピン3はラチェットユニット4に上方への移動がロックさていることで、引き抜くことができず、従って、歩行時にライナー1が義肢ソケット3から抜け出るのが防止され、安全な状態での歩行が可能となる。なお、強力な磁力をもつ磁石としてはネオジウム磁石が有効である。
【0030】
次に、ライナー1を義肢ソケット3から抜き出すには、ラチェットユニット4のロック解除ピン41を操作すると、ラチェットユニット4のロック片がフリーな状態となるのでロックピン6の溝61との係合が解除され、かつ、ロックピン6はマグネット24に吸着状態であることから、ライナー1を義肢ソケット3から引き抜くことが可能となり、従って、ロックピン6と共にライナー1を引き抜くことができる。
【0031】
ライナー1を義肢ソケット3から引き出した後にマグネット24からロックピン6を取外し、該ロックピン6をラチェットユニット4に差し込んでおくことでロックピン6を紛失するのを防止できる。
【0032】
ところで、ライナー1を義肢ソケット3に装着した状態において図3(b)に示すように傾いて装着した場合には、マグネット24もロックピン6の吸着板62に対して傾いた状態となるが、マグネット24が吸着板62に磁力によって吸着状態となると弾性具23および弾性部材24cが弾性変形することで、マグネット24と吸着板62とは完全密着状態となってマグネット24と吸着板62との吸着力は強力な状態で維持されると共に、断端に負荷がかかることがないので、歩行時にライナー1が義肢ソケット3より抜け出ることもなく、痛みや抹消循環障害を発生することもない(図4参照)。
【0033】
前記した脱着手段2のロックピン6の吸着板62との吸着をマグネット24で行なう場合について説明したが、その他の実施例としては図5(a)に示すように固定体12に吸盤25を取付け、該吸盤25と吸着板62との真空度合いで一体化するようにしてもよい。
【0034】
また、図5(b)に示すようにロックピン6の吸着板62の上面側にOリング62aを取付部材62bを介して取付け、一方、固定体12に前記Oリング62aが係合されるリング状溝を有する取付部材62bに挿入することで、前記Oリング62aと密着状態で係合する係合部材26を取付け、摩擦抵抗によって一体化するようにしてもよい。
【0035】
なお、前記した実施例ではロックピン係止手段としてラチェットユニットを使用した場合について説明したが、ライナー1の下部に設けられた脱着手段2によって吸着された状態のロックピン6がロックピン係止手段に挿入され、かつ、ライナー1が義肢ソケット3内に完全に挿入された位置において、義肢ソケット3の側面側から内部に挿入可能なボルトの先端をロックピン6の溝61に係合することでライナー1と義肢ソケット3とを固定する等のロックピン係止手段などの種々の手段を含むものである。

【符号の説明】
【0036】
1 ライナー
2 段着手段
23 弾性具
24 マグネット
25 吸盤
26 係合部材
3 義肢ソケット
4 ロックピン係止手段(ラチェットユニット)
5 義肢機能体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
義肢ソケットの下部に取付けられたロックピン係止手段と、該ロックピン係止手段にロック可能に挿入される溝が形成されると共に上端に吸着板が形成されたロックピンと、ライナーの下部に取付けられ該ライナーが前記義肢ソケット内への挿入途中で前記ロックピンの吸着板と一体となる脱着手段とより構成したことを特徴とする断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造。
【請求項2】
前記ロックピン係止手段が、ラチェットユニットであることを特徴とする請求項1記載の断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造。
【請求項3】
前記脱着手段が、前記ロックピンの吸着板と磁力によって吸着されるマグネットであることを特徴とする請求項1記載の断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造。
【請求項4】
前記脱着手段が、前記ロックピンの吸着板と吸引力によって吸着される吸盤であることを特徴とする請求項1記載の断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造。
【請求項5】
前記脱着手段が、リング状の溝を有する係合部材を取付け、前記ロックピンの吸着板にOリングを有する取付部材を取付け、前記Oリングと前記溝とを係合することで脱着手段と吸着板とが摩擦力で係合されることを特徴とする請求項1記載の断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造。
【請求項6】
前記脱着手段のマグネットを弾性具を介して取付けて義肢ソケットが傾いてもマグネットをロックピンの吸着板に対して平行状態で吸着されるようにしたことを特徴とする請求項3記載の断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造。
【請求項7】
前記吸着手段の取付部材を弾性具を介して取付けて義肢ソケットが傾いても係合部材をロックピンの吸着板に設けられている取付部材のOリングと水平状態で係合されるようにしたことを特徴とする請求項5記載の断端に装着したライナーの義肢ソケットへの取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−206118(P2011−206118A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74355(P2010−74355)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(390003230)株式会社啓愛義肢材料販売所 (8)
【Fターム(参考)】