説明

方向探知装置、方向探知装置の検査方法、方向探知装置の調整方法、方向探知装置の制御方法

【課題】センスアンテナの感度が正常であるかを簡易に確認し、方向探知の精度を高める。
【解決手段】本発明の方向探知装置では、少なくともセンスアンテナと、ループアンテナと、位相調整部と、重み付き加算部と、方向変更部と、遮断部と、情報処理部から構成される。遮断部は、重み付き加算部に入力されるループアンテナからの信号を遮断する。情報処理部は、重み付き加算部からの出力がループアンテナからの信号を含んでいるときの当該出力の値(ループ値)を、ループアンテナの指向性の方向に依存した重みが生じないように平均化した値(ループ平均値)を求める。また、重み付き加算部からの出力がセンスアンテナの信号のみのときの出力の値(センス値)を求める。そして、ループ平均値が、センス値よりもあらかじめ定めた値以上大きい場合には、異常信号を出力する異常検出手段も有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センスアンテナとループアンテナを用いて電波の到来方向を検出する方向探知装置、方向探知装置の検査方法、方向探知装置の調整方法、方向探知装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に従来のセンスアンテナとループアンテナを用いて電波の到来方向を検出する方向探知装置の機能構成例を示す。方向探知装置は、センスアンテナ910、2つのループアンテナ921、922、切替スイッチ930、位相調整部940、センス増幅部950、加算部960、増幅部970、AGC(自動利得制御部:Automatic Gain Control)975、出力部980、情報処理部990から構成される。図2は、センスアンテナ910とループアンテナ921、922の感度の指向性を示している。横軸が方向を示しており、縦軸が感度を示している。感度の正負は、位相を示している。図2(A)はセンスアンテナ910の場合である。センスアンテナは無指向であり、全ての方向に対して同じ感度を有する。ループアンテナは、ループ(円)が作る面内の方向からの電波に対して高い感度を有する。図2(B)は、ループアンテナ921の感度を示しており、N方向とS方向からの電波には高い感度を示すが、E方向とW方向からの電波には反応しない。また、N方向とS方向で極性が異なる。図2(C)は、ループアンテナ922の感度を示している。図2(D)は、ループアンテナ921からの出力の極性を反転させた場合の感度である。図2(E)は、ループアンテナ922からの出力の極性を反転させた場合の感度である。極性の反転は、ループアンテナ921または922から伸びている2本の銅線を逆に接続することで容易に実現できる。切替スイッチ930は、ループアンテナ921、922の選択と極性の選択を行うためのスイッチである。このように2つのループアンテナ921と922、および切替スイッチ930を用いることで、ループアンテナ921、922の指向性の方向を90度ずつ異なる4つの方向に切り替えることができる。
【0003】
位相調整部940は、センスアンテナ910からの信号が、ループアンテナ921、922からの信号の位相と一致または180度異なるように調整するための構成部である。センス増幅部950は、センスアンテナ910からの信号を増幅する構成部である。加算部960は、センス増幅部950の出力と切替スイッチ930の出力とを加算する。図3は、センスアンテナ910からの信号の強度(910a)とループアンテナ921からの信号の振幅(921a)が同じ場合の、加算部960からの出力の特性(960a)を示している。この図では、N方向から電波が到来している場合に、センスアンテナ910からの信号とループアンテナ921からの信号の位相が一致している。また、S方向から電波が到来している場合には、センスアンテナ910からの信号とループアンテナ921からの信号の位相は180度異なる。図3(A)は、横軸に方向、縦軸に感度を示した図であり、図3(B)は、各方向に対しての感度を原点からの距離で示している。図4は、センスアンテナ910からの信号の強度(910c)がループアンテナ921からの信号の振幅(921a)よりも大きい場合の、加算部960からの出力の特性(960c)を示している。図5は、センスアンテナ910からの信号の強度(910b)がループアンテナ921からの信号の振幅(921a)よりも小さい場合の、加算部960からの出力の特性(960b)を示している。図5(A)の場合、検波後は位相の情報が失われるため、点線(960b’)で示すような感度として判断される。図5(B)のS方向の小さな丸が、この点線(960b’)に相当する。方向探知装置は、図3(B)、図4(B)のような感度の特性であることを前提に、電波の到来方向を予測する。したがって、図5(B)のような感度の特性では正確な方向が予測できなくなる。前述のように、センスアンテナ910の感度は環境によって影響を受けやすい。そこで、図5のようになることを避けるため、工場出荷時に、センスアンテナ910からの信号の強度が、ループアンテナ921、922からの信号の振幅の2〜3倍になるように、センス増幅部950の増幅率を調整しておく。
【0004】
増幅部970は、加算部960からの出力を増幅する。AGC975は、増幅部970の出力を一定範囲内にするために、増幅率を自動調整する。出力部980は、増幅部970からの出力を映像や音に変換して出力する。情報処理部990は、各構成部を制御する。
図6は、センスアンテナ910とループアンテナ921、922の感度の関係が図3に示す関係の場合の、電波が到来する方向に対する増幅部970の出力のイメージを示している。横軸が時間、縦軸が増幅部970の出力の強度を示している。図6(A)は、N方向から電波が到来する場合のイメージを示している。921aと示している時間は、切替スイッチ930が、図2(B)の感度特性となるようにループアンテナ921を接続している。このときは強い出力が得られる。922aと示している時間は、切替スイッチ930が図2(C)の感度特性となるようにループアンテナ922を接続している。このときはループアンテナ922からの出力はないので、センスアンテナ910からの信号のみによって出力が得られる。921bと示している時間は、切替スイッチ930が、図2(D)の感度特性となるようにループアンテナ921を接続している。このときは弱い出力となる。922bと示している時間は、切替スイッチ930が図2(E)の感度特性となるようにループアンテナ922を接続している。このときはループアンテナ922からの出力はないので、センスアンテナ910からの信号のみによって出力が得られる。図6(B)はE方向から電波が到来する場合、図6(C)はS方向から電波が到来する場合、図6(D)はW方向から電波が到来する場合、図6(E)はNE方向(N方向とE方向の中間)から電波が到来する場合の増幅部970からの出力である。センスアンテナ910とループアンテナ921、922の感度の関係が、図4に示す関係の場合は、図6に示す出力にバイアスを加えた出力が得られる。
【0005】
図7に、センスアンテナ910とループアンテナ921、922の感度の関係が図5に示す関係の場合の、N方向から電波が到来するときの増幅部970の出力のイメージを示す。921bと示している時間は、切替スイッチ930が、図2(D)の感度特性となるようにループアンテナ921を接続している。このときは、位相が反転した出力(961N’)が、検波によって正の値となるため、960N’のような出力となってしまう。これが方向探知の精度を悪くする原因の1つである。前述のように、工場出荷時に、センスアンテナ910からの信号の強度が、ループアンテナ921、922からの信号の振幅の2〜3倍になるように、センス増幅部950の増幅率を調整しておくことで、従来はこの問題を解決しようとしてきた。
【0006】
図8に、AGCが常時動作している場合の、増幅部970の出力のイメージを示す。図8(A)はN方向から電波が到来する場合、図8(B)はNE方向から電波が到来する場合を示している。AGCは、増幅部970の出力が図中の2つの点線内となるように制御しているとする。図8(A)の921aと示している時間は、ループアンテナ921からの信号が大きく、かつ、センスアンテナ910からの信号との和となるため、点線の範囲を超えている。したがって、AGCは増幅部970の増幅率を低くするように動作する。そして、次第に増幅部970からの出力は小さくなる。922aと示している時間は、ループアンテナ922からの信号はなく、センスアンテナ910からの信号のみとなる。このときは、増幅率が低くなった状態が維持される。921bと示している時間は、ループアンテナ921からの信号とセンスアンテナ910からの信号が打ち消しあうため、出力は点線の範囲よりも下となる。したがって、AGCは増幅率を高くする。そして922bと示している時間は、高い増幅率が維持された状態で、センスアンテナ910のみの信号が入力される。922aと示した時間と922bと示した時間は、どちらも加算部960からの出力は同じである。しかし、増幅部970の増幅率が異なるために出力が異なっている。このことも、方向探知の精度を悪くする原因の1つである。
【0007】
また、従来の方向探知装置の問題点として、センスアンテナの感度が環境に大きく左右されることから、センスアンテナからの信号の増幅率と位相シフト量の調整は非常に難しいことが挙げられる。このセンスアンテナの調整を簡単にし、かつ安定な動作を実現する方法が検討されてきた(特許文献1)。しかし、一般的には増幅率は工場出荷時に調整し、現場での取り付け時に位相シフト量の調整のみを行なっていた。
【特許文献1】特開2003−35760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
センスアンテナの感度は環境によって大きく変化するので、使用時に異常が発生しても、検査時に同じ異常が再現するとは限らない。つまり、一時的にセンスアンテナの感度が落ちた場合、図5や図7に示した問題が生じるが、このことを検出することができない。このように、センスアンテナからの信号の増幅率は、工場出荷時に調整されるのみで、センスアンテナの感度が正常であることを、取り付け時や使用時に確認できなかった。
また、ループアンテナからの信号は、電波の到来方向とループアンテナの指向性の方向との関係で大きく変化する。しかし、増幅部970からの出力を一定に保とうとするAGCは、ループアンテナからの信号の変化によっても動作してしまうため、電波到来方向を探知する精度が劣化する原因となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の方向探知装置では、少なくともセンスアンテナと、ループアンテナと、位相調整部と、重み付き加算部と、方向変更部と、遮断部と、情報処理部から構成される。位相調整部は、センスアンテナからの信号とループアンテナからの信号の位相関係を調整する。重み付き加算部は、センスアンテナからの信号とループアンテナからの信号とを、一定の比率(以下、「加算比率」という。)で加算するとともに、増幅する。方向変更部は、ループアンテナの指向性を、あらかじめ定めた方法で変更する。遮断部は、重み付き加算部に入力されるループアンテナからの信号を遮断する。情報処理部は、少なくともループ平均値検出手段とセンス値検出手段を備える。ループ平均値検出手段は、重み付き加算部からの出力がループアンテナからの信号を含んでいるときの当該出力の値(以下、「ループ値」という。)を、ループアンテナの指向性の方向に依存した重みが生じないように平均化した値(以下、「ループ平均値」という。)を求める。センス値検出手段は、重み付き加算部からの出力がセンスアンテナの信号のみのときの出力の値(以下、「センス値」という。)を求める。
【0010】
また、情報処理部は、ループ平均値が、センス値よりもあらかじめ定めた値以上大きい場合には、異常信号を出力する異常検出手段も有する。
さらに、情報処理部は、ループ値の最大値と最小値の差(以下、「ループ値変化量」という。)を求めるループ値変化量検出手段と、ループ値変化量とセンス値との比があらかじめ定めた第1の範囲となり、かつ、ループ平均値とセンス値との差があらかじめ定めた第2の範囲となるように、重み付き加算部に加算比率の変更を指示する重み変更手段も有する。
【0011】
そして、重み付き加算部は、センス値を出力している時のみ、出力があらかじめ定めた範囲内となるように、加算比率は一定のままで増幅率を調整する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、センスアンテナの感度とループアンテナの感度が分かるので、センスアンテナの感度が正常であるかを自動的に測定することができる。したがって、方向探知装置の取り付け時および使用時に、自動的に異常を検出することができる。また、方向探知装置の取り付け時には、検出された感度をフィードバックすることにより、センスアンテナからの信号に対する利得と位相シフト量(遅延量)を容易に調整できる。また、利得と位相シフト量の自動調整も可能となる。さらに、センスアンテナからの信号のみを出力しているときにのみAGCを動作させることで、方向の測定精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態を示すが、同じ機能を有する構成部や同じ処理を行うステップには同じ番号を付し、重複説明を省略する。
[第1実施形態]
方向探知装置の構成例
図9に、本発明の方向探知装置の機能構成例を示す。また、図10に重み付き加算部150と情報処理部170の機能構成例を示す。本発明の方向探知装置は、センスアンテナ910、ループアンテナ921、922、位相調整部130、方向変更部140、重み付き加算部150、遮断部160、情報処理部170、出力部980から構成される。
【0014】
位相調整部130は、センスアンテナ910からの信号とループアンテナ921、922からの信号の位相関係を調整する。また、情報処理部170からの指示に従って、位相を調整する機能を持たせてもよい。
方向変更部140は、ループアンテナ921と922の指向性を、あらかじめ定めた方法で変更する。指向性の向きを変更する方法には、いろいろな方法がある。代表的な例としては、背景技術で説明したが、図1に示した切替スイッチ930を用いる方法がある。図1の例や、図9の例では、2つのループアンテナを用いたが、離散的な複数方向に指向性の方向を変更できれば、ループアンテナの数を2つに限定する必要はないし、ループアンテナ以外のアンテナを用いてもよい。また、ループアンテナを1つだけ用い、物理的に回す方法もある。
【0015】
重み付き加算部150は、センスアンテナ910からの信号とループアンテナ921、922からの信号とを、一定の比率(以下、「加算比率」という。)で加算するとともに、増幅する。重み付き加算部150は、センス増幅手段151、ループ増幅手段152、加算手段153、増幅手段154、AGC155から構成される。図10の構成では、重み付き加算部150はループアンテナ921、922からの信号を増幅するループ増幅手段152を有するが、図1のセンス増幅部950、加算部960、増幅部970、AGC975の組み合わせも、1つの重み付き加算部の構成例である。なお、重み付き加算部150は、情報処理部170からの加算比率の変更の指示に応じて、センス増幅手段151とループ増幅手段152の増幅率を変更し、加算比率を変更できる。
【0016】
さらに、重み付き加算部150のAGC155は、センス値を出力している時(ループアンテナ921、922からの信号が遮断されている時)のみ、増幅手段154の増幅率を変更する。このようにループアンテナ921、922からの信号が含まれているときにはAGC155を動作させず、ループアンテナ921、922からの信号が含まれていない時にのみAGC155を動作させれば、図8で示した問題は生じない。
遮断部160は、重み付き加算部150に入力されるループアンテナ921、922からの信号を遮断する。この実施形態では、遮断部160を独立に記載したが、方向変更部140の一部としてもよい。例えば、方向変更部140を切替スイッチで構成するのであれば、全てのスイッチをOFFの状態にすることで、遮断する方法もある。
【0017】
情報処理部170は、ループ平均値検出手段171、センス値検出手段172、方向変更部制御手段173、制御手段177、結果出力手段179から構成される。ループ平均値検出手段171は、重み付き加算部150からの出力がループアンテナ921、922からの信号を含んでいるときの当該出力の値(以下、「ループ値」という。)を、ループアンテナ921、922の指向性の方向に依存した重みが生じないように平均化した値(以下、「ループ平均値」という。)を求める。ループアンテナ921、922の指向性の方向に依存した重みが生じないように平均化する方法の例としては、図6の921a、922a、921b、922bで示した時間を、すべて同じにした上で、出力値を積分する方法がある。センス値検出手段172は、前記重み付き加算部からの出力がセンスアンテナ910からの信号のみのときの出力の値(以下、「センス値」という。)を求める。方向変更部制御手段173は、方向変更部140と遮断部160を制御し、重み付き加算部150に入力されるループアンテナ921,922からの信号を選択(遮断)する。制御手段177は、情報処理部170内の各構成手段や方向探知装置の各構成部への動作の指示などを行う。結果出力手段179は、ループ平均値とセンス値を、画面または音で出力するための信号を出力する。なお、ディスプレイやスピーカを含めてもよい。なお、方向変更部制御手段173と制御手段177は、図1に示した従来の方向探知装置にも備えられた手段である(図1で図示してはいない)。
【0018】
本発明の第1のポイントは、ループ平均値検出手段171、センス値検出手段172、結果出力手段179を備えることである。図3〜5を用いて説明したが、センスアンテナ910の感度が正常(図3、図4)の時は、ループ平均値=センス値であり、ループ平均値>センス値の場合が異常(図5)である。このことは、図6(正常)と図7(異常)の関係からも分かる。つまり、センスアンテナ910の感度が悪くなりすぎたことは、ループ平均値とセンス値の値を比較することで判断できる。ループ平均値検出手段171、センス値検出手段172、結果出力手段179を備えることにより、取り付け時や保守の時、異常が生じた時に、ループ平均値とセンス値を人が確認できる。したがって、調整が正常か否かの確認や異常点の発見に非常に有効である。
【0019】
情報処理部170は、ループ平均値が、センス値よりもあらかじめ定めた値以上大きい場合には、異常信号を出力する異常検出手段178を備えてもよい。上述のとおり、理論的にはループ平均値>センス値の場合が異常であるが、測定誤差もあるため、誤差を考慮した値をあらかじめ定めた値としておけばよい。この手段を備えれば、センスアンテナ910の感度を常時監視することができる。
また、情報処理部170は、ループ値の最大値と最小値の差(以下、「ループ値変化量」という。)を求めるループ値変化量検出手段174と、ループ値変化量とセンス値との比があらかじめ定めた第1の範囲(背景技術で説明したように、例えば、ループ値変化量:センス値=1:2〜3)となり、かつ、ループ平均値とセンス値との差があらかじめ定めた第2の範囲(前述のように誤差を考慮した値未満)となるように、重み付き加算部150に加算比率の変更を指示する重み変更手段175を備えてもよい。さらに、情報処理部170は、ループ値変化量が最大となるように、位相調整部130にセンスアンテナ910からの信号とループアンテナ921、922からの信号との位相関係の変更を指示する位相変更手段176を備えてもよい。重み変更手段175と位相変更手段176とを備えることによって、本発明の方向探知装置を取り付ける時に、自動的に重み付き加算部150と位相調整部130とを調整することができる。重み付き加算部150の加算比率の調整は、従来は工場でしか行えなかったので、取り付け現場で行えることにより、効率的かつ適切な調整が可能となる。
方向探知装置での処理方法
図11に、ループ平均値とセンス値を出力する場合の処理フローを示す。方向変更部制御手段173は、方向変更部140にループアンテナ921、922の指向性の向きを変更させる(S110)。ループ平均値検出手段171は、重み付き加算部150からの出力をループ値として検出し、記録する(S120)。制御手段177は、あらかじめ定めた全方向にループアンテナ921、922の指向性の方向を変更したのかを確認する(S130)。ステップS130がNoの場合にはステップS110に戻る。ステップS130がYesの場合には、ループ値の平均をループ平均値として計算し、記録する(S140)。なお、ステップS110〜S140は、方向変更部140が等間隔ですべての方向に切り替え、ループ平均値検出手段171が重み付き加算部150からの出力を積分し、記録することで置き換えることもできる。次に、方向変更部制御手段173は、遮断部160にループアンテナ921、922からの信号を遮断させる(S150)。センス値検出手段172は、重み付き加算部150からの出力をセンス値として検出し、記録する(S160)。方向変更部制御手段173は、遮断部160にループアンテナ921、922からの信号をつなぐように指示する(S165)。結果出力手段179は、ループ平均値とセンス値とを出力する(S170)。図11中には点線で図示したが、これらの処理フローを繰り返してもよい。また、電波の状態が安定しないことも考慮し、ステップS110〜S170を定められた回数繰り返し、ループ平均値の平均とセンス値の平均を出力してもよい。
【0020】
図12に、センスアンテナ910の感度が悪くなった場合に異常信号を出力する場合の処理フローを示す。図12の処理フローでは、ステップS110〜S165までは、図11の処理フローと同じである。その後、異常検出手段178は、ループ平均値がセンス値よりもあらかじめ定めた値ε以上大きいかを確認する(S180)。あらかじめ定めた値εは、前述のとおり、測定誤差を考慮して定めればよい。ステップS180がYesの場合には、異常検出手段178は異常信号を出力する(S190)。ステップS180がNoの場合は、ステップS190はスキップする。この処理フローは、センスアンテナ910の感度を監視するために用いられることが多いので、原則は図12中に点線で示したようにステップS110に戻る。
【0021】
図13に、センスアンテナ910からの信号とループアンテナ921、922からの信号の加算の比率(加算比率)を調整する場合の処理フローを示す。以下では図11と異なる部分のみを説明する。ステップS140とステップS150の間に、ループ値変化量検出手段174は、ループ値の最大値と最小値の差を、ループ値変化量として計算し、記録する。ステップS165の後に、重み変更手段175は、ループ値変化量とセンス値の比があらかじめ定めた第1の範囲かつ、ループ平均値とセンス値との差があらかじめ定めた第2の範囲となることを確認する(S210)。前述のように、あらかじめ定めた第1の範囲は、例えば、2≦センス値/ループ値変化量≦3とすればよい。また、あらかじめ定めた第2の範囲は、測定誤差を考慮して定めればよい。ステップS210がYesの場合は、処理は終了する。ステップS210がNoの場合、重み変更手段175は、ステップS210がYesとなる方向に、重み付き加算部150の加算比率の変更を指示する(S220)。重み付き加算部150では、センス増幅手段151とループ増幅手段152の増幅率を調整する(S230)。そして、ステップS110に戻る。このように処理を繰り返すことで、加算比率を自動的に調整することができる。
【0022】
図14に、センスアンテナ910からの信号とループアンテナ921、922からの信号の位相を調整するフローを示す。位相変更手段176は、位相調整部130に位相シフトを指示する(S310)。位相調整部130は、指示にしたがって、センスアンテナ910からの信号の位相をシフトする(S320)。ステップS110〜S130の処理は図11と同じである。ループ値変化量検出手段は、ループ値の最大値と最小値との差をループ値変化量として計算し、記録する(S145)。位相変更手段176は、あらかじめ定めた位相調整範囲の位相シフトを試したのかを確認する(S330)。ステップS330がNoの場合、ステップS310に戻る。ステップS330がYesの場合、位相変更手段176は、ループ値変化量が最大となる位相シフトになるように、位相調整部130に指示する(S340)。位相調整部130は、指示に従って、位相をシフトする(S350)。上記の処理フローでは、あらかじめ定めた位相調整範囲のすべての位相に対してループ値変化量を求めたが、ループ値変化量が大きくなる方向に位相シフトを絞り込んでいく方法もある。このような処理によって、位相シフトを自動的に調整することができる。また、図14の処理を行った後に、継続して図13の処理を行えば、位相調整と加算比率調整の両方を自動で調整できる。
【0023】
図15に、増幅手段154の増幅率を調整する処理フローを示す。方向変更部制御手段173は、遮断部160にループアンテナ921、922からの信号を遮断させる(S150)。制御手段177は、重み付き加算部150にAGC155の動作を指示する(S410)。AGC155が動作し、増幅手段154の増幅率を調整する(S420)。制御手段177は、重み付き加算部150にAGC155の動作停止を指示する(S430)。方向変更部制御手段173は、遮断部160にループアンテナ921、922からの信号をつながせる(S165)。このように、処理することにより、図8を用いて説明したようなAGCによる方向探知精度の低下を避けることができる。なお、図15では、AGCの動作方法を示したが、図11から図13に示した処理フローと組み合わせることもできる。組み合わせる場合は、各図のステップS160と並列または縦列に、ステップS410〜S430を処理すればよい。このように処理することにより、センスアンテナ910の感度を監視しながらAGCを動作させることも可能である。
【0024】
以上のような機能構成と処理フローによって、センスアンテナの感度とループアンテナの感度が分かるので、センスアンテナの感度が正常であるかを判断できる。したがって、方向探知装置の取り付け時および使用時に、自動的に異常を検出することができる。また、方向探知装置の取り付け時には、検出された感度をフィードバックすることにより、センスアンテナからの信号に対する利得と位相シフト量(遅延量)を容易に調整できる。また、利得と位相シフト量の自動調整も可能となる。さらに、センスアンテナからの信号のみを出力しているときにのみAGCを動作させることで、方向の測定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来のセンスアンテナとループアンテナを用いて電波の到来方向を検出する方向探知装置の機能構成例を示す図。
【図2】センスアンテナ910とループアンテナ921、922の感度の指向性を示す図。
【図3】センスアンテナ910からの信号の強度(910a)とループアンテナ921からの信号の振幅(921a)が同じ場合の、加算部960からの出力の特性(960a)を示す図。
【図4】センスアンテナ910からの信号の強度(910c)がループアンテナ921からの信号の振幅(921a)よりも大きい場合の、加算部960からの出力の特性(960c)を示す図。
【図5】センスアンテナ910からの信号の強度(910b)がループアンテナ921からの信号の振幅(921a)よりも小さい場合の、加算部960からの出力の特性(960b)を示す図。
【図6】センスアンテナ910とループアンテナ921、922の感度の関係が図3に示す関係の場合の、電波が到来する方向に対する増幅部970の出力のイメージを示す図。
【図7】センスアンテナ910とループアンテナ921、922の感度の関係が図5に示す関係の場合の、N方向から電波が到来するときの増幅部970の出力のイメージを示す図。
【図8】AGCが常時動作している場合の、増幅部970の出力のイメージを示す図。
【図9】本発明の方向探知装置の機能構成例を示す図。
【図10】重み付き加算部150と情報処理部190の機能構成例を示す図。
【図11】ループ平均値とセンス値を出力する場合の処理フローを示す図。
【図12】センスアンテナ910の感度が悪くなった場合に異常信号を出力する場合の処理フローを示す図。
【図13】センスアンテナ910からの信号とループアンテナ921、922からの信号の加算の比率(加算比率)を調整する場合の処理フローを示す図。
【図14】センスアンテナ910からの信号とループアンテナ921、922からの信号の位相を調整するフローを示す図。
【図15】増幅手段154の増幅率を調整する処理フローを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センスアンテナとループアンテナを用いて電波の到来方向を検出する方向探知装置であって、
センスアンテナからの信号とループアンテナからの信号の位相関係を調整する位相調整部と、
センスアンテナからの信号とループアンテナからの信号とを、一定の比率(以下、「加算比率」という。)で加算するとともに、増幅する重み付き加算部と、
ループアンテナの指向性を、あらかじめ定めた方法で変更する方向変更部と、
前記重み付き加算部に入力されるループアンテナからの信号を遮断する遮断部と、
前記重み付き加算部からの出力がループアンテナからの信号を含んでいるときの当該出力の値(以下、「ループ値」という。)を、ループアンテナの指向性の方向に依存した重みが生じないように平均化した値(以下、「ループ平均値」という。)を求めるループ平均値検出手段と、
前記重み付き加算部からの出力がセンスアンテナの信号のみのときの出力の値(以下、「センス値」という。)を求めるセンス値検出手段と、
その結果を出力する結果出力手段と
を有する情報処理部
を備える方向探知装置。
【請求項2】
請求項1記載の方向探知装置であって、
前記方向変更部は、ループアンテナの指向性を離散的な複数方向に変更し、
前記ループ平均値は、前記離散的な複数方向に対する前記重み付き加算部からの出力を平均化した値である
ことを特徴とする方向探知装置。
【請求項3】
センスアンテナとループアンテナを用いて電波の到来方向を検出する方向探知装置であって、
センスアンテナからの信号とループアンテナからの信号の位相関係を調整する位相調整部と、
センスアンテナからの信号とループアンテナからの信号とを、一定の比率(以下、「加算比率」という。)で加算するとともに、増幅する重み付き加算部と、
ループアンテナの指向性を、互いに90度ずつ異なる4つの方向に切り替える方向変更部と、
前記重み付き加算部に入力されるループアンテナからの信号を遮断する遮断部と、
前記方向変更部がループアンテナの指向性を各方向に設定する時間と前記遮断部が信号を遮断する時間とはすべて同じ時間であり、かつ、前記4つの方向と遮断の5つの状態を周期的に繰り返す方向変更部制御手段と、
前記重み付き加算部からの出力がループアンテナからの信号を含んでいるときの当該出力の値(以下、「ループ値」という。)を、平均化した値(以下、「ループ平均値」という。)を求めるループ平均値検出手段と、
前記重み付き加算部からの出力がセンスアンテナの信号のみのときの出力の値(以下、「センス値」という。)を求めるセンス値検出手段と、
その結果を出力する結果出力手段と
を有する情報処理部
を備える方向探知装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方向探知装置であって、
前記情報処理部が、
前記ループ平均値が、前記センス値よりもあらかじめ定めた値以上大きい場合には、異常信号を出力する異常検出手段も有する
ことを特徴とする方向探知装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方向探知装置であって、
前記情報処理部が、
前記ループ値の最大値と最小値の差(以下、「ループ値変化量」という。)を求めるループ値変化量検出手段と、
前記ループ値変化量と前記センス値との比があらかじめ定めた第1の範囲となり、かつ、前記ループ平均値と前記センス値との差があらかじめ定めた第2の範囲となるように、前記重み付き加算部に前記加算比率の変更を指示する重み変更手段も有し、
前記重み付き加算部は、前記加算比率の変更の指示に応じて前記加算比率を変更できる
ことを特徴とする方向探知装置。
【請求項6】
請求項5記載の方向探知装置であって、
前記情報処理部が、
前記ループ値変化量が最大となるように、前記位相調整部にセンスアンテナからの信号とループアンテナからの信号との位相関係の変更を指示する位相変更手段も有し、
前記位相調整部は、前記位相関係の変更の指示に応じて位相を調整できる
ことを特徴とする方向探知装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方向探知装置であって、
前記重み付き加算部が、
前記センス値を出力している時のみ、
前記出力があらかじめ定めた範囲内となるように、前記加算比率は一定のままで増幅率を調整する
ことを特徴とする方向探知装置。
【請求項8】
センスアンテナとループアンテナを用いて電波の到来方向を検出する方向探知装置であって、
センスアンテナからの信号とループアンテナからの信号の位相関係を調整する位相調整部と、
センスアンテナからの信号とループアンテナからの信号とを、一定の比率で加算するとともに、増幅する重み付き加算部と、
ループアンテナの指向性を、あらかじめ定めた方法で変更する方向変更部と、
前記重み付き加算部に入力されるループアンテナからの信号を遮断する遮断部と、
前記重み付き加算部が、
ループアンテナからの信号が遮断されている時のみ、前記重み付き加算部の出力があらかじめ定めた範囲内となるように、増幅率を調整する
ことを特徴とする方向探知装置。
【請求項9】
センスアンテナとループアンテナを用いて電波の到来方向を検出する方向探知装置の検査方法であって、
重み付き加算部で、センスアンテナからの信号とループアンテナからの信号とを、一定の比率(以下、「加算比率」という。)で加算するとともに、増幅する重み付き加算ステップと、
方向変更部で、ループアンテナの指向性を、あらかじめ定めた方法で変更する方向変更ステップと、
情報処理部で、前記重み付き加算部からの出力がループアンテナからの信号を含んでいるときの当該出力の値(以下、「ループ値」という。)を、ループアンテナの指向性の方向に依存した重みが生じないように平均化した値(以下、「ループ平均値」という。)を求めるループ平均値検出ステップと、
遮断部で、前記重み付き加算部に入力されるループアンテナからの信号を遮断する遮断ステップと、
情報処理部で、前記重み付き加算部からの出力がセンスアンテナの信号のみのときの出力の値(以下、「センス値」という。)を求めるセンス値検出ステップと
を有する方向探知装置の検査方法。
【請求項10】
請求項9記載の方向探知装置の検査方法であって、
前記方向変更ステップでは、ループアンテナの指向性を離散的な複数方向に変更し、
前記ループ平均値は、前記離散的な複数方向に対する前記重み付き加算ステップからの出力を平均化した値である
ことを特徴とする方向探知装置の検査方法。
【請求項11】
センスアンテナとループアンテナを用いて電波の到来方向を検出する方向探知装置の検査方法であって、
重み付き加算部で、センスアンテナからの信号とループアンテナからの信号とを、一定の比率(以下、「加算比率」という。)で加算するとともに、増幅する重み付き加算ステップと、
方向変更部で、ループアンテナの指向性を互いに90度ずつ異なる4つの方向に、各方向に設定する時間が同じ時間になるように切り替える方向変更ステップと、
情報処理部で、前記重み付き加算部からの出力がループアンテナからの信号を含んでいるときの当該出力の値(以下、「ループ値」という。)を、平均化した値(以下、「ループ平均値」という。)を求めるループ平均値検出ステップと、
遮断部で、前記重み付き加算部に入力されるループアンテナからの信号を遮断する遮断ステップと、
情報処理部で、前記重み付き加算部からの出力がセンスアンテナの信号のみのときの出力の値(以下、「センス値」という。)を求めるセンス値検出ステップと
を有する方向探知装置の検査方法。
【請求項12】
請求項9から11のいずれかに記載の方向探知装置の検査方法であって、
情報処理部で、前記ループ平均値が、前記センス値よりもあらかじめ定めた値以上大きい場合には、異常信号を出力する異常信号出力ステップ
も有する方向探知装置の検査方法。
【請求項13】
請求項9から11のいずれかに記載の方向探知装置の検査方法を用いた方向探知装置の調整方法であって、
情報処理部で、前記ループ値の最大値と最小値の差(以下、「ループ値変化量」という。)を求めるループ値変化量検出ステップと、
情報処理部で、前記ループ値変化量と前記センス値との比があらかじめ定めた第1の範囲となり、かつ、前記ループ平均値と前記センス値との差があらかじめ定めた第2の範囲となるように、前記重み付き加算部に前記加算比率の変更を指示する加算比率変更指示ステップと、
重み付き加算部で、前記加算比率の変更の指示に応じて前記加算比率を変更する加算比率変更ステップ
も有する方向探知装置の調整方法。
【請求項14】
請求項13記載の方向探知装置の調整方法であって、
情報処理部で、前記ループ値変化量が最大となるように、前記位相調整部にセンスアンテナからの信号とループアンテナからの信号との位相関係の変更を指示する位相調整指示ステップと、
位相調整部で、センスアンテナからの信号とループアンテナからの信号の位相関係を調整する位相調整ステップ
も有する方向探知装置の調整方法。
【請求項15】
センスアンテナとループアンテナを用いて電波の到来方向を検出する方向探知装置の制御方法であって、
重み付き加算部で、センスアンテナからの信号とループアンテナからの信号とを、一定の比率で加算するとともに、増幅する重み付き加算ステップと、
前記重み付き加算部に入力されるループアンテナからの信号を遮断する遮断ステップと、
前記重み付き加算部で、前記遮断ステップを実行している時のみ、前記重み付き加算部の出力があらかじめ定めた範囲内となるように、増幅率を調整する増幅率調整ステップ
を有する方向探知装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−263851(P2007−263851A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91348(P2006−91348)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000001177)株式会社光電製作所 (32)
【Fターム(参考)】