説明

施設園芸用温室

【課題】微細な虫の進入も防止出来る構造の温室を作ることによって殺虫剤を使用する必要が無い野菜、花卉育成設備を実用に供すること。
【解決手段】外気を送風機で温室内に圧入することにより温室内部の空気圧を大気圧より高く保持して、病害虫の進入、汚染を防除すると共に、取込まれる外気に井戸水を噴霧散布することによって害虫の洗浄除去、湿度調整、温度調整等の効果を奏せしむることを特徴とする。これにより、従来の温室に見られる天窓や、側壁の換気窓を廃止し、強制換気を採用して温室内をプラス圧に保ち、且つ空気を多量の井戸水で良く洗浄することにより、微細な虫も洗浄、排除できる構造を採用する。。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラス圧型温室に関し、農薬を用いず、効率良く良質の野菜、花卉を供給する施設園芸技術に関する。
【背景技術】
【0002】
良質なプラスチックフィルムの量産に伴い発展した施設園芸は、四季を問わない野菜供給を可能としたが、他方農薬の多用、化石燃料の価格高騰など切実な問題を抱えている。
切迫した問題を解決するために、オランダやイスラエル等の先進地域で用いられている温室様式を輸入してみる等の取組みが行われているが、解決には至っていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
温室内では天敵不在の条件下害虫や病害が発生しやすい。その結果、農薬に頼ることになりやすい。農薬の使用規制が強化される現今の情勢下で、無農薬で高い生産性を達成するには、病害虫の進入を完全に遮断することが望ましい。即ち無虫、無菌のクリーンルームでの栽培が理想となる。しかし現状では、その維持費、建設費は高価で、低廉であることが必要な野菜類の本格生産には現状では適用困難である。
本発明の目的は、建設費、維持費が低廉で、現状の農業生産現場で使用可能であって、無農薬野菜を廉価、多量に供給することが出来る施設園芸用温室を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するため、請求項1の発明に係る施設園芸用温室は、施設園芸に於て、外気を送風機で温室内に圧入することにより温室内部の空気圧を大気圧より高く保持して、病害虫の進入、汚染を防除すると共に、取込まれる外気に井戸水を噴霧散布することによって害虫の洗浄除去、湿度調整、温度調整等の効果を奏せしむることを特徴とする外気取込み機構を有することを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1の条件を満たす為に使用可能な井戸水の水量が、温室面積1000平方メートル当り1立方メートル毎分以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
クリーンルームの維持費が高額である理由に空調電力が大きいことが挙げられる。クリーンルームには大容量の空調機が不可欠なのである。この支出を避けるため、本発明では空調の熱源として地下水を用いようとする。オランダやイスラエルと異なり、本邦では地下水温が、例えば関東平野では16.5℃乃至17℃と中庸である。この温度は、植物の育成に適していることに着目する。年中変らぬこの水温の地下水を多量に使用出来る条件を満たす地域は河川流域の平野部に充分広く広がっていることに着目してこれを活用しようとその方法を検討した。
検討の結果、汲上げが必要な地下水の水量、熱交換の方式、所要の温室構造とその建設費を低廉な、実施可能な範囲に保持できることが判明した。その結果、現状の農業生産に充分適用可能であることを見いだして本発明が達成出来たのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に於ける温室の構造は本邦や、韓国、中国で広く用いられているハウス構造と全く異なり、また施設園芸の先進地として知られるオランダやイスラエルに於けるハウス構造ともその概念を全く異にする。
本発明に於ける温室の構造はクリーンルーム類似の構造を有する。温室全体は光採り入れ窓で全体がおおわれ、温室全体が気密であるように構成されている。即ち、この温室の開口部は空気採り入れ口、送風機、空気洗浄器が直列に並ぶ空気採り入れ部、と出入り用入口部があるのみである。送風機で採り入れられた空気は温室全体を外部より高い圧力とし、出入り口等の隙間から外部に放出される。即ち、微細な虫も温室内に進入出来ないことを目標として構成されている。
【0007】
温室は、植物が光合成によって炭酸ガスから有機物を合成する場である。炭酸ガスは空気から供給される為に、光合成が行われる日中は充分な換気が必要である。本邦やオランダ等で広く使用されている温室では天窓など、屋根の一部が開いて外気を取入れる構造となっている。また温室の側面を開閉して空気を取入れる機構を持つ温室が通常である。
それら開口部は通常網で覆われ、虫が進入しないようになっている。これら開口部を通じて温度差による煙突効果等により自然に換気が行われる。 換気扇を使用しないことから、自然換気と呼ばれる。これに対して、換気扇を用いる方法は強制換気と呼ばれる。
本発明による温室は換気扇を用いる強制換気である。本発明による温室では屋根や側壁に自然換気用の開口部は存在しない。
【0008】
イスラエルでは、『パッド アンド ファン』と呼ばれる強制換気の方法が一般的である。パッドと呼ばれる部分に水を滴下し、このパッドに空気を通過させることによってパッド中の水を蒸発させる。蒸発の潜熱を用いてパッドを通過する空気の温度を低下させ、且つ空気に水分を与えて植物に適した温度、湿度条件に保持する構造である。日中に外部から温室内に入るとすっと涼しく感じられる。これは、イスラエルが事実上砂漠地帯に位置しているために、外気が乾燥している。湿度を上昇させることが植物の効率の良い育成に必要であるためであると共に、水を蒸発させて温室内の気温を低下させているのである。
このイスラエルの方式を真似し、そのままイスラエルから部品を輸入して静岡県に設置しトマトを栽培したところ、温室内の気温が下がらないだけでなく、水の蒸発によって湿度が高くなってしまうために作物に腐れを生じて失敗に終り、せっかくの設備は撤去されてしまった事例がある。イスラエル形式の温室は日本の気候には適さないのである。
【0009】
本発明による温室では、蒸発させるための少量の水ではなく、大量の地下水を空気に噴霧することによって充分に空気を冷却する。これにより、温室に送入される空気の温度は夏でも25℃以下にまで下げることが実行される。この冷された空気が温室内で太陽光によって加熱され29℃程度まで昇温することにより空気の相対湿度が下がり、温室内の湿度は植物の育成に適切な範囲に維持される。
【0010】
無農薬で栽培したいとの現代的要請からすると、従来の、本邦、オランダやイスラエルでの方法では重大な問題点がある。実は、広く使用されている防虫網では、微細な害虫の進入に対する防御が全く不十分なのである。
即ち、従来の温室構造では、殺虫剤を散布せずに放置すると外形寸法が数百ミクロンの、目に見えない程に小さい害虫が温室内で大繁殖して商品の植物を台無しにするのである。葉ダニやスリップス等の名で知られる、これら長さや巾が1・〜0.3・程度の多種多様な虫が温室では最も実害が大きく、従って防除が必要な害虫なのである。これらの小さい虫は生活のサイクルも短く、卵が生れて成虫に成り、卵を生むまでの1サイクルは、気温が高いと20〜30日程度となる。1サイクルで200個前後の卵を生むのが通常であるから天敵が居ない温室の条件下では爆発的に増殖することになる。
自然換気では、換気量を確保するために換気用開口部の面積が広いことが必要となる。
防虫網の孔径は1〜0.4・だから、これら微細な虫達にとっては網は事実上移動の障害ではないのが現状なのである。
本発明による温室では、換気用空気は強制換気によりろ過された後、多量の地下水で洗浄することにより微細な虫が排除される。強制換気により、温室内はプラス圧に保たれるから、温室壁面などの隙間から温室内に進入することも防がれることとなる。人や物品搬入口からの進入もプラス圧の条件下で、エアシャワー等を用いることで極力排除することが可能になる。
【実施例1】
【0011】
本発明に於ける要点は温室のクリーンルーム仕様を確保する際、換気のために温室内に導入しなければならない多量の外気を水で充分に洗浄して微細な虫の進入を排除すると共に、井戸水による空気の洗浄によって温室内空気の温度と湿度を適正に保持することである。即ち、所要の井戸水を十分に、不足無く使用することが、温室の性能維持に不可欠である。
この際に所要の井戸水の量と、風量等関連する諸量を図1にブロックダイアグラムとして示した。又、本発明に於ける所要の要件を満たす温室の構造と空気の流れを図2に示した。
本実施例では温室内の空気も採り入れた外気と共に洗浄される。微細な虫は、風に流されて移動する傾向がある。この為に、温室内部の空気も洗浄される必要があるのである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に於ける所要の水量、風量及び計画熱収支の説明図である。
【図2】本発明に於ける温室の構造と空気の流れの説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設園芸に於て、外気を送風機で温室内に圧入することにより温室内部の空気圧を大気圧より高く保持して、病害虫の進入、汚染を防除すると共に、取込まれる外気に井戸水を噴霧散布することによって害虫の洗浄除去、湿度調整、温度調整等の効果を奏せしむることを特徴とする外気取込み機構を有する施設園芸用温室。
【請求項2】
請求項1の条件を満たす為に使用可能な井戸水の水量が、温室面積1000平方メートル当り1立方メートル毎分以上であることを特徴とする施設園芸用温室。

【図1】
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【図2】
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