説明

既存成形屋根の改修構造及び改修工法

【課題】既存成形屋根の上に断熱材及び防水シートからなる新しい屋根を下地材に連結固定する既存成形屋根の改修構造及び改修工法を提供すること。
【解決手段】既存成形屋根15をそのまま残して断熱材16を敷設し、かつ、断熱材16を鉄骨下地材14に連結固定し、防水シート17を張設して接着し新しい屋根とする。断熱材16の鉄骨下地材14に対する連結固定は、長尺ナット22と、押えプレート23Aとビスねじ24とにより行う。長尺ナット22を、既存成形屋根15より突出したフックボルト11の上端部に螺合固定し、かつ、断熱材16に開けられた貫通孔25に通す。押えプレート23Aは、貫通孔25に合わせて断熱材16の上面に重ねる。ビスねじ24は、押えプレート23Aのねじ通し孔に通し長尺ナット22のねじ孔に螺合し締め付ける。防水シート17は、押えプレート23A及びビスねじ24を隠して張設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存成形屋根をそのまま残し、該既存成形屋根の上に断熱材と防水シートとで新しい屋根として改修する既存成形屋根の改修構造及び改修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
古いスレート系波板の既存成形屋根をそのまま残し、新しく金属系折板よりなる凹凸状の成形屋根を重ねて葺く改修工法が特許文献1〜3に提案されている。また特許文献としては見当たらないが、従来において、図3、図4に示すように、既存成形屋根をそのまま残し、該既存成形屋根の上に断熱材を敷設し、該断熱材を前記既存成形屋根の下地材に連結固定し、かつ、前記断熱材の上に防水シートを張設して接着し、前記断熱材と前記防水シートとで新しい屋根として改修する既存成形屋根の改修工法が行われている。
【0003】
特許文献1の改修工法では、新しい成形屋根の固定は、既存成形屋根の鉄骨下地に対してビス等で固定する必要があるが、この改修工法によれば、タッピンねじを既存成形屋根に貫通させて鉄骨下地にねじ込むことにより新しい成形屋根の鉄骨下地を固定している(特許文献1、図1中の符号20)。
【0004】
特許文献2の改修工法では、新しい成形屋根の固定は、古いスレート系波板を鉄骨下地に固定しているフックボルトの上端ねじ部を利用してクランプ部材とフレーム部材とからなる複合構造のブラケットを設け、さらにこのブラケットに支持させて屋根受けフレームを設け、この屋根受けフレームの上に新しい金属系折板よりなる凹凸状の成形屋根を葺いている。
【0005】
特許文献3の改修工法では、古いスレート系波板を鉄骨下地に固定しているフックボルトの上端ねじ部を利用して通し下地材を設け、この下地材の上に新設屋根(折板金属屋根)を固定している。
【0006】
図3、図4に示す従来の既存成形屋根の改修工法は、まず、図3に示すように、フックボルト11と座金12とナット13により鉄骨下地材14に固定されたスレート系波板の既存成形屋根15をそのまま残し、該既存成形屋根15の上に断熱材16を敷設し、次いで、防水シート17を張設する。防水シート17の張設において、断熱材16と防水シート17と接合することはしない。続いて、図4に示すように、防水シート17に固定金具18を当て、該固定金具18の孔にタッピンねじ19を通し、ドリルによって該タッピンねじ19を断熱材16に対して深くねじ込んでいき、さらに該タッピンねじ19を鉄骨下地材14にねじ込み固定する。これによって、断熱材16と防水シート17とは一定間隔で鉄骨下地材14に固定されることになる。次いで、カバー20を、タッピンねじ19と固定金具(塩化ビニル被覆鋼板)18に被せて防水シート17に接合する。カバー20を防水シート17に接合するために、カバー20として塩化ビニル樹脂製シートを使用する場合は、有機溶剤のテトラヒドロフランをカバー20下面と防水シート17との間に塗布して溶剤溶着する。
【特許文献1】特開2007−154625号公報
【特許文献2】特開2003−003615号公報
【特許文献3】特開2003−193631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3の既存成形屋根の改修工法では、(1)屋根の断熱を行うことはできない、(2)折板金属屋根を葺設するのでコストが高く付く、という問題点がある。
【0008】
他方、特許文献1の既存成形屋根の改修工法と、図3、図4に示す従来の既存成形屋根の改修工法では、ドリルでタッピンねじを打ち込み下地材に固定することが行われる。このため、(1)古いスレート系波板にアスベストが含まれている場合には、タッピンねじで該古いスレート系波板を貫通する時に、アスベストを含んだ粉塵が室内に落下飛散する可能性があり、飛散防止のために、屋根裏に大掛かりな保護対策をしなければならず作業が大変である。また、前記古いスレート系波板がノンアスベストであっても、ドリルでビスを打ち込む際の振動で屋根に付着した埃が落下し、室内の設備等を汚す可能性が大きく、設備等にカバーが必要になり、工事が大掛かりとなり大変である、(2)断熱材上から鉄骨下地に固定金具で断熱材を固定する際に、その下の鉄骨下地を狙ってビスを打ち込むことは、断熱材で見えないだけに、所定の位置からずれる可能性があり、まして、鉄骨下地の幅が小さければなおその危険性が高く、強度に問題をきたす、(3)古いスレート系波板の既存成形屋根をタッピンねじが貫通するので、既存成形屋根は、防水機能を破壊されてしまう、(4)新しい屋根を下地材に連結固定する固定具を次回改修時に再利用できない、という問題点がある。
【0009】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、既存成形屋根をそのまま残し、断熱材と防水シートとで新しい屋根として改修するものであって、断熱材及び防水シートからなる新しい屋根を既存成形屋根の下地材に連結固定できて、既存成形屋根をいじらず、既存成形屋根の防水機能を破壊することなく、粉塵が室内に落下飛散することがなく、改修費が安く付き、新しい屋根を下地材に連結固定する固定具を次回改修時に再利用できる、既存成形屋根の改修構造及び改修工法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、既存成形屋根をそのまま残し、該既存成形屋根の上に断熱材を敷設し、かつ、該断熱材を前記既存成形屋根の下地材に連結固定し、さらに前記断熱材の上に防水シートを張設し、前記断熱材と前記防水シートとで新しい屋根として改修した既存成形屋根の改修構造であって、少なくとも上部及び下部にねじ孔を有し、該ねじ孔の下部を前記既存成形屋根より突出した任意のフックボルトの上端部に対して螺合固定され、前記断熱材に開けられた貫通孔に通され、上端が前記断熱材の上面よりも引っ込んでいる長尺ナットと、ねじ通し孔を有し該ねじ通し孔を前記断熱材の上面に開いた前記貫通孔に合わせて前記断熱材の上面に重ねられた押えプレートと、上方から前記押えプレートのねじ通し孔に通され前記長尺ナットのねじ孔に螺合し締め付けるビスねじと、により前記断熱材の前記下地材に対する連結固定が行われ、前記防水シートが、前記押えプレート及び前記ビスねじを隠して張設され固着された、既存成形屋根の改修構造としたことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記既存成形屋根と前記断熱材との間に、前記フックボルトを避けて敷設され人が載っても実質的に撓まない養生板を備えた、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1叉は2に記載の構成に加え、前記防水シートの固着は、前記押えプレートが前記防水シートの上から誘導加熱されかつ押圧され、前記押えプレートの上面に塗布された前記ホットメルト接着剤により前記防水シートと前記押えプレートとが固着された、ことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1叉は2に記載の構成に加え、前記防水シートの固着は、前記防水シートと前記断熱材との密着面に塗布した接着剤により接着された、ことを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、既存成形屋根をそのまま残し、該既存成形屋根の上に断熱材を敷設し、該断熱材を前記既存成形屋根の下地材に連結固定し、かつ、前記断熱材の上に防水シートを張設して接着し、前記断熱材と前記防水シートとで新しい屋根として改修する既存成形屋根の改修工法であって、前記断熱材と前記防水シートとを設ける前に、少なくとも上部及び下部にねじ孔を有する長尺ナットを前記既存成形屋根より突出した任意のフックボルトの上端部に対して螺合し固定し、次いで、該断熱材を前記既存成形屋根の上に敷設し、かつ、該断熱材に貫通孔を開けて該貫通孔に前記長尺ナットを通し、次いで、中央にねじ通し孔を有し該ねじ通し孔を前記断熱材の上面に開いた前記貫通孔に合わせて前記断熱材の上面に重ねられかつ少なくとも上面にホットメルト樹脂が塗布された押えプレートを前記貫通孔に同心させて該断熱材の上に重ね、ビスねじを押えプレートのねじ通し孔に通して前記長尺ナットに螺合し締め付け、次いで、前記断熱材の上に前記防水シートを張設し、該防水シートの上から前記押えプレートを誘導加熱して該押えプレートの上面に形成されたホットメルト樹脂膜を溶融して該押えプレートの上面と該防水シートとを固着する、既存成形屋根の改修工法としたことを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の構成に加え、前記既存成形屋根の上に、人が載っても実質的に撓まない養生板を前記フックボルトを避けて敷設し、次いで、前記断熱材の敷設を行う、ことを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項5叉は6に記載の構成に加え、前記防水シートの固着は、前記防水シートの上から誘導加熱手段により前記押えプレートを押圧して誘導加熱し、前記押えプレートの上面に塗布した前記ホットメルト接着剤を溶融してから押圧を確保して誘導加熱を停止し冷却することにより前記防水シートと前記押えプレートとを溶着する、ことを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項5叉は6に記載の構成に加え、前記防水シートの固着は、前記防水シートの敷設に際して、前記防水シートと前記断熱材との密着面に接着剤を塗布することにより接着する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1及び請求項5に記載の発明によれば、既存成形屋根をそのまま残し、断熱材と防水シートとで新しい屋根として改修するものであって、断熱材及び防水シートからなる新しい屋根を既存成形屋根の下地材に連結固定できて、既存成形屋根をいじらず、既存成形屋根の防水機能を破壊することなく、粉塵が室内に落下飛散することがなく、改修費が安く付き、新しい屋根面には防水シートの他に何もないので奇麗に仕上がり、さらに、新しい屋根を下地材に連結固定する固定具(長尺ナット等)を次回改修時に再利用できる。
【0018】
請求項2及び請求項6に記載の発明によれば、既存成形屋根の上に、人が載っても実質的に撓まない養生板をフックボルトを避けて敷設するから、フックボルトを利用して長尺ナットを取り付けることが阻害されず、改修工事の施工開始から施工終了後まで、屋根に人が載ることで既存成形屋根、特にスレート屋根を破損する惧れがない。
【0019】
請求項3及び請求項7に記載の発明によれば、防水シートの上から押えプレートを誘導加熱して押えプレートの上面に形成されたホットメルト樹脂膜を溶融して該押えプレートの上面と該防水シートとを固着するので、防水シートの敷設状態の調整が容易に行えると共に、防水シートの敷設固定作業を極めて迅速に行える。
【0020】
請求項4及び請求項8に記載の発明によれば、防水シートの敷設固定作業を極めて強固に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態に係る既存成形屋根の改修構造及び改修工法を図面を参照して説明する。
【0022】
〔実施の形態1〕
まず、既存成形屋根の改修構造について図1を参照して説明する。
【0023】
この実施の形態の既存成形屋根の改修構造は、既存成形屋根15の一例として、スレート系波板よりなる既存成形屋根を示している。既存成形屋根15を防水機能を壊さないために一切孔を開けず、該既存成形屋根15をそのまま残し、まず該既存成形屋根15の上に人が載っても実質的に撓まない養生板26を前記フックボルト11を避けて敷設し、既存成形屋根15より突出した任意のフックボルト11の上端部を利用し、長尺ナット22を螺合し固定し、さらにその上にポリスチレンフォームからなる断熱材16の上に押えプレート23Aを当ててビスねじ24を長尺ナット22に螺合し締め付けることで、該断熱材16を既存成形屋根15の鉄骨下地材14に連結固定し、最後に断熱材16の上に防水シート17を張設し、断熱材16と防水シート17とで新しい屋根として改修する構成である。ここで用いる断熱材16は、ポリエチレンフォームからなる例えば厚さ1〜2mmの絶縁シート(不図示)を上面に積層したものを用いる。なお、断熱材16を敷設した後に絶縁シートを敷設しても良い。
【0024】
図3、図4に示す従来の既存成形屋根の改修構造では、既存成形屋根をそのまま残し、その上に断熱材を敷設し、次に防水シートを張設して、最後に防水シート及び断熱材を下地材に対して連結固定するものであるのに対して、実施の形態1の既存成形屋根の改修構造は、養生板26を敷設すること、長尺ナット22を取り付けること、絶縁シート(不図示)を上面に積層した断熱材16を敷設し鉄骨下地材14に対する連結固定を行うこと、及び最後に防水シート17の張設固定を行うこと、を内容とするものである。
【0025】
養生板26の敷設は、既存成形屋根15がスレート系波板であるときに、新設屋根の改修工事において人が載ることにより、既存成形屋根15が破損するのを回避するために設ける。養生板26は、人が載っても実質的に撓まない強度があれば肉厚や断面構造等に限定はない。資材コストが安いほどよい。この養生板26は、既存成形屋根15に対して完全に敷き詰める必要はなく、また、断熱材16敷設と同時に取り除いてもよい。改修工事後は、この養生板26は、見えないのであるが、人が不用意に載っても、既存成形屋根15が破損しなければ良い。この養生板26は、例えばパンチングメタルであっても良い。
【0026】
断熱材16(絶縁シートも含む)の鉄骨下地材14に対する連結固定は、断熱材16を敷設する前に既存成形屋根15より突出した任意のフックボルト11の上端部を利用し、長尺ナット22を螺合し固定し、そして、断熱材16を敷設し、その後、押えプレート23Aと、ビスねじ24とにより行うものである。断熱材16の上面に積層するポリエチレンフォームからなる絶縁シート(不図示)は、防水シートに含まれる可塑剤等の添加剤がポリスチレンフォームへ移行し該ポリスチレンフォームが変質するのを防止する役目を果たす。最後に防水シート17を張設するので、固定手段を隠蔽する綺麗な外観が確保され、防水シート17に対するビス等により貫通し防水性を破壊する行為は一切行わないから、防水性が完全に確保される。
【0027】
長尺ナット22には、上下に貫通するねじ孔(符号なし)を有する長尺の六角ナットを使用するのが好ましい。長尺ナット22の取り付けには、既存成形屋根15より突出した任意のフックボルト11の上端部を金ブラシで磨いて、該フックボルト11の上端部に対して長尺ナット22を螺合して固定するのが良い。もって、長尺ナット22は、断熱材16の厚さに対応してフックボルト11に長く継ぎ足した状態とされている。長尺ナット22は、断熱材16に開けられた貫通孔25に通されるが、上端が断熱材16の上面よりも引っ込んでいる。フックボルト11のねじ山部が腐食している場合もあるので、長尺ナット22とフックボルト11とは接着剤による固定、ねじ結合+接着剤による連結固定を図るか、或いは長尺ナット22とフックボルト11とを溶接しても良い。さらにさび止めを行う。長尺ナット22は、市販の長尺な六角ナットを使用することが好ましいが、外面が六角形でなく例えば円筒であっても良い。
【0028】
押えプレート23Aは、ステンレス薄板或いは薄肉鋼板等の誘導加熱性金属プレート材をプレス加工で円形に打ち抜きかつ中央にねじ通し孔(符号なし)を開け、ねじ通し孔の周囲を逆三角錐状に窪ませた形状に形成されたプレート本体23aと、該プレート本体23aの上面或いは上下面に塗布されたホットメルト樹脂皮膜(符号なし)と、前記プレート本体23aの下面に重ねられた断熱シート23bとからなる。該押えプレート23Aは、ねじ通し孔を断熱材16の上面に開いた貫通孔25に合わせ、断熱シート23bを断熱材16の上面に重ねられる。
【0029】
ビスねじ24は、皿小ねじが使用され、上方から押えプレート23Aのねじ通し孔に通され長尺ナット22のねじ孔と螺合し締め付けられている。押えプレート23Aは、ビスねじ24の締め付けが強く行われることにより、断熱材16に強く押圧し鉄骨下地材14に固定している。
【0030】
防水シート17は、押えプレート23A及びビスねじ24を隠すように張設される。防水シート17と押えプレート23Aの上面とは接合され、防水シート17は断熱材16に接合されない。上述したように、押えプレート23Aは、ホットメルト樹脂皮膜が被覆されプレート本体23aと、断熱シート23bとからなる構成である。このため、防水シート17の張設後に、防水シート17の上方から誘導加熱されることにより、防水シート17と押えプレート23Aの上面とは接合される。
【0031】
次に、上記構成の既存成形屋根の改修工法を説明する。
この改修工法は、既存成形屋根15をそのまま残し、養生板26を前記フックボルト11を避けて敷設し、該養生板26を足場として作業を続行する。まず、既存成形屋根15より突出した任意のフックボルト11の上端部に対して上下に貫通するねじ孔を有する長尺ナット22を螺合し固定する。次に、上面に絶縁シート(不図示)を積層した断熱材16を敷設位置に合わせて長尺ナット22に強く押し付けることにより、該断熱材16の下面に凹部を形成し、該凹部に合わせてドリルで貫通孔25を設ける。該貫通孔25を有する断熱材16を再度敷設位置に合わせ貫通孔25に前記長尺ナット22を通すようにして、該断熱材16を既存成形屋根15の上に敷設する。次いで、ホットメルト樹脂皮膜が被覆されたプレート本体23aと断熱シート23bとからなる押えプレート23Aを貫通孔25に同心させて断熱材16の上に重ね、ビスねじ24を押えプレート23Aのねじ通し孔に通して長尺ナット22に螺合し強く締め付ける。これによって、押えプレート23Aが断熱材16を既存成形屋根15の上に強く押し付けると共に、長尺ナット22と押えプレート23Aとビスねじ24とによって断熱材16を鉄骨下地材14に連結固定したことになる。次いで、断熱材16の上に防水シート17を張設していき、緊張状態を保って、防水シート17の上方から誘導加熱装置の誘導加熱ヘッドを押えプレート23Aに対峙させ、押えプレート23Aを誘導加熱することによりホットメルト樹脂を溶融させる。そして、押え付け具(不図示)で防水シート17の上から押えプレート23Aを抑えていると、わずかな時間経過すると、ホットメルト樹脂が速やかに冷却し、押えプレート23Aの上面と防水シート17とがホットメルト樹脂で接合される。断熱シート23bは、プレート本体23aが誘導加熱される際に、ポリスチレンフォームからなる断熱材16が溶融し流動してしまうのを防ぐ役目を果たす。
【0032】
上記実施の形態1によれば、断熱材16と防水シート17とで新しい屋根として改修することができる。断熱材16の鉄骨下地材14に対する連結固定は、長尺ナット22と、押えプレート23Aとビスねじ24とにより行うものであり、長尺ナット22を既存成形屋根15より突出した任意のフックボルト11の上端部に対して螺合し固定するものであるから、断熱材16を敷設することが容易であり、断熱材16を鉄骨下地材14に連結固定することが容易である。そして、断熱材16を鉄骨下地材14に連結固定するに際して、既存成形屋根15に孔を開けないので、既存成形屋根15の防水機能を破壊することなく、粉塵が室内に落下飛散することがない。上記実施の形態1によれば、屋根材料及び取り付け工事を含む改修費が金属屋根で改修する場合に比べてはるかに安く付く。次回改修時には、新しい屋根を鉄骨下地材14に連結固定する固定具を再利用できる。
【0033】
〔実施の形態2〕
この実施の形態の既存成形屋根の改修構造は、押えプレート23Bが実施の形態1の押えプレート23Aと相違し、その他の構成は実施の形態1と同一である。押えプレート23Bは、長尺な帯板23a’の下面に断熱シート23b’を積層しフックボルト11に取り付ける長尺ナット22の配列ピッチに等しくボルト通し穴を開けてなる。従って、押えプレート23Aが一定ピッチ毎のポイントで断熱材16を固定しているのに対して、押えプレート23Bは、連続一直線に(又は断続させて)断熱材16を固定する構成である。
【0034】
一通り説明すると、この既存成形屋根の改修構造は、スレート系波板よりなる既存成形屋根15をそのまま残し、該既存成形屋根15の上に養生板26を敷設し、既存成形屋根15より突出した任意のフックボルト11の上端ねじ部に長尺ナット22を取り付け、養生板26の上に、上面にポリエチレンフォームからなる例えば厚さ1〜2mmの絶縁シート(不図示)を積層したポリスチレンフォームの断熱材16と敷設する。次に、長尺な押えプレート23Bを断熱材16の上面の長尺ナット22と対応する位置に置き、ビスねじ24を押えプレート23Bに開けたボルト通し穴に通し長尺ナット22に螺合し締め付けることにより、断熱材16を長尺な押えプレート23Bで押さえ付けた状態で既存成形屋根15の鉄骨下地材14に連結固定状態とし、最後に断熱材16の上に防水シート17を張設する。押えプレート23Bは、ステンレス製の帯板よりプレス加工され下面両縁に着座部を有すると共に、ビスねじ24を通す孔を有し穴の周囲が窪んで下面に着座部を有し、上面前面にホットメルト接着剤が塗布されている。それゆえ、防水シート17の固着は、防水シート17の上から誘導加熱手段(不図示)により押えプレート23Bを押圧して誘導加熱し、押圧を確保してホットメルト接着剤を溶融し、その後、押圧を確保して誘導加熱を停止し冷却することにより防水シート17と押えプレート23Bとを接合する。この接合は接合強度を確保できれば長尺な押えプレート23B対して、部分的でも全長に渡って行ってもよい。
【0035】
この実施の形態の既存成形屋根の改修構造も、実施の形態1と同じで、最後に防水シート17を張設し誘導加熱を利用して防水シート17の上から該防水シート17と押えプレート23Bとのホットメルト接着を行うものであるので、固定手段を隠蔽する綺麗な外観が確保され、防水シート17に対するビス等により貫通し防水性を破壊する行為は一切行わないから、防水性が完全に確保される。
【0036】
〔その他の実施の形態〕
以上、図面を参照して実施の形態1、2を説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない限度で種々の設計変更や工程の変更が可能であり、そのような変更を技術的範囲に含むものである。
【0037】
上記実施の形態1では、既存成形屋根15がスレート系波板である場合を示したが、本発明は、既存成形屋根15よりフックボルト11の上端部が突出している構成であれば、該既存成形屋根15が金属系折板等である場合も技術的範囲に含む。また、鉄骨下地材14は、L型アングル材に限定されず、根太やチャンネル材、Cチャンネル材等の下地材である場合を当然に含むものである。既存成形屋根15がスレート系波板ではなくて、金属系折板であり、人が載っても凹まない十分な強度がある場合には、養生板26は不要である。
【0038】
上記実施の形態1、2では、断熱材16がポリスチレンフォームである場合を示したが、本発明は、断熱材16がウレタンフォーム、あるいはフェノールフォーム等である場合も技術的範囲に含むものである。断熱材16にウレタンフォーム、あるいはフェノールフォームを使用する場合は、防水シート17に含まれる可塑剤等の添加剤の移行・変質の惧れがないので、上記実施の形態1、2で採用する断熱材16の上面に積層する絶縁シートは不要になる。また、断熱材16として、ポリスチレンフォームよりも耐熱性があるウレタンフォーム、フェノールフォームのような架橋樹脂製フォームを使用すると、誘導加熱で防水シート17を押えプレート23Aまたは23Bに接合する場合、誘導加熱の熱により変形しないため下面に設けられる断熱シート23bまたは23b’も必要ではなくなる。
【0039】
上記実施の形態1、2では、誘導加熱を利用して防水シート17の上から該防水シート17と押えプレート23Aまたは23Bとのホットメルト接着を行うことを示したが、防水シート17の固着は、この接着方法に限定されない。他例として、防水シート17の敷設に際して、防水シート17と断熱材16との密着面に接着剤を塗布することにより接着してもよく、本発明は、このような場合を含むものである。接着剤としては、水系接着剤のほか、溶剤系接着剤を選定することができる。溶剤系接着剤としては、例えば、ニトリル系、SBR系等のゴム系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ウレタン系接着剤などの接着剤を用いることができる。
防水シート17と断熱材16とを接着固定する場合は、誘導加熱を行うときに必要とした、押えプレート23Aまたは23B上のホットメルト樹脂層及び断熱シートは不要である。
【0040】
上記実施の形態1では長尺ナット22は、上下に貫通するねじ孔を有しているタイプを示したが、本発明は、少なくとも上部及び下部にねじ孔を有するタイプの長尺ナット、すなわち、上端面及び下端面より所要深さを有するねじ穴が形成されているタイプの長尺ナットを使用する場合も技術的範囲に含む。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施の形態1にかかる既存成形屋根の改修工法を説明するための要部断面図である。
【図2】実施の形態2にかかる既存成形屋根の改修工法を説明するための要部断面図である。
【図3】従来の既存成形屋根の改修工法を説明するための工程途中の状態を要部断面図である。
【図4】図3に続く工程を説明するための要部断面図である。
【符号の説明】
【0042】
11 フックボルト
12 座金
13 ナット
14 鉄骨下地材
15 既存成形屋根
16 養生板(断熱材)
17 防水シート
22 長尺ナット
23A 押えプレート
23B 押えプレート
24 ビスねじ
25 貫通孔
26 養生板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存成形屋根をそのまま残し、該既存成形屋根の上に断熱材を敷設し、かつ、該断熱材を前記既存成形屋根の下地材に連結固定し、さらに前記断熱材の上に防水シートを張設し、前記断熱材と前記防水シートとで新しい屋根として改修した既存成形屋根の改修構造であって、
少なくとも上部及び下部にねじ孔を有し、該ねじ孔の下部を前記既存成形屋根より突出した任意のフックボルトの上端部に対して螺合固定され、前記断熱材に開けられた貫通孔に通され、上端が前記断熱材の上面よりも引っ込んでいる長尺ナットと、
ねじ通し孔を有し該ねじ通し孔を前記断熱材の上面に開いた前記貫通孔に合わせて前記断熱材の上面に重ねられた押えプレートと、
上方から前記押えプレートのねじ通し孔に通され前記長尺ナットのねじ孔に螺合し締め付けるビスねじと、
により前記断熱材の前記下地材に対する連結固定が行われ、
前記防水シートが、前記押えプレート及び前記ビスねじを隠して張設され固着された、
ことを特徴とする既存成形屋根の改修構造。
【請求項2】
前記既存成形屋根と前記断熱材との間に、前記フックボルトを避けて敷設され人が載っても実質的に撓まない養生板を備えた、
ことを特徴とする請求項1に記載の既存成形屋根の改修構造。
【請求項3】
前記防水シートの固着は、前記押えプレートが前記防水シートの上から誘導加熱されかつ押圧され、前記押えプレートの上面に塗布されたホットメルト接着剤により前記防水シートと前記押えプレートとが固着された、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の既存成形屋根の改修構造。
【請求項4】
前記防水シートの固着は、前記防水シートと前記断熱材との密着面に塗布した接着剤により接着された、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の既存成形屋根の改修構造。
【請求項5】
既存成形屋根をそのまま残し、該既存成形屋根の上に断熱材を敷設し、該断熱材を前記既存成形屋根の下地材に連結固定し、かつ、前記断熱材の上に防水シートを張設し、前記断熱材と前記防水シートとで新しい屋根として改修する既存成形屋根の改修工法であって、
前記断熱材と前記防水シートとを設ける前に、少なくとも上部及び下部にねじ孔を有する長尺ナットを前記既存成形屋根より突出した任意のフックボルトの上端部に対して螺合し固定し、
次いで、該断熱材を前記既存成形屋根の上に敷設し、かつ、該断熱材に貫通孔を開けて該貫通孔に前記長尺ナットを通し、
次いで、中央にねじ通し孔を有し該ねじ通し孔を前記断熱材の上面に開いた前記貫通孔に合わせて前記断熱材の上面に重ねられかつ少なくとも上面にホットメルト樹脂が塗布された押えプレートを前記貫通孔に同心させて該断熱材の上に重ね、ビスねじを押えプレートのねじ通し孔に通して前記長尺ナットに螺合し締め付け、
次いで、前記断熱材の上に前記防水シートを張設し、該防水シートの上から前記押えプレートを誘導加熱して該押えプレートの上面に形成されたホットメルト樹脂膜を溶融して該押えプレートの上面と該防水シートとを固着する、
ことを特徴とする既存成形屋根の改修工法。
【請求項6】
前記既存成形屋根の上に、人が載っても実質的に撓まない養生板を前記フックボルトを避けて敷設し、次いで、前記断熱材の敷設を行う、
ことを特徴とする請求項5に記載の既存成形屋根の改修工法。
【請求項7】
前記防水シートの固着は、前記防水シートの上から誘導加熱手段により前記押えプレートを押圧して誘導加熱し、前記押えプレートの上面に塗布した前記ホットメルト接着剤を溶融してから押圧を確保して誘導加熱を停止し冷却することにより前記防水シートと前記押えプレートとを固着する、
ことを特徴とする請求項5叉は6に記載の既存成形屋根の改修工法。
【請求項8】
前記防水シートの固着は、前記防水シートの敷設に際して、前記防水シートと前記断熱材との密着面に接着剤を塗布することにより接着する、
ことを特徴とする請求項5叉は6に記載の既存成形屋根の改修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−97140(P2009−97140A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266625(P2007−266625)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000010010)ロンシール工業株式会社 (84)
【Fターム(参考)】