昇圧装置、昇圧方法、及び、プログラム
【課題】昇圧後の電圧の電圧値を素早くかつ精度良く目標値に近づけることが出来る昇圧装置、昇圧方法、及び、プログラムを提供する。
【解決手段】制御部150は、交流電圧を昇圧した昇圧後の電圧値が予め設定された目標値になるように、第1〜第3MERS110、120、130それぞれの、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間と、交流電圧のゼロ交差時に対する、第1のオン状態の開始タイミング及び第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる。
【解決手段】制御部150は、交流電圧を昇圧した昇圧後の電圧値が予め設定された目標値になるように、第1〜第3MERS110、120、130それぞれの、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間と、交流電圧のゼロ交差時に対する、第1のオン状態の開始タイミング及び第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧装置、昇圧方法、及び、プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記昇圧装置として、例えば、フルブリッジ型の磁気エネルギー回生スイッチ(MERS:Magnetic Energy Recovery Switch)を用いたものがある(例えば、特許文献1)。このような昇圧装置は、昇圧後の電圧の電圧値を取得し、取得した電圧値と、予め設定された目標値と、を比較し、比較した結果に応じて、MERSの状態を切り替える信号のデューティ比を調整する(フィードバック制御)。これによって、調整後に昇圧された昇圧後の電圧値は、目標値に近づく。このようなフィードバック制御の繰り返しにより、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧値は、徐々に目標値に近づき、目標値又は目標値近傍で安定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4478799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、特許文献1記載の昇圧装置では、デューティ比のみを調整して、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧を変化させている。デューティ比を変化させる変化度が大きいと、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧は大きく変化するので、前記昇圧後の電圧の電圧値を素早く目標値に近づけることができるが、前記昇圧後の電圧値を少し変化させて目標値に近づけることが難しいことがあった。つまり、この場合、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧を細かく変化させることが難しい。一方、デューティ比を変化させる変化度が小さいと、大きい場合とは逆に、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧の変化度が小さいために、前記昇圧後の電圧値を目標値に近づけるのに時間がかかった。
【0005】
このように、特許文献1記載の昇圧装置では、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧値を素早く目標値に近づけることと、前記昇圧後の電圧を細かく変化させて、前記昇圧後の電圧値を精度良く目標値に近づけることを両立することができなかった。
【0006】
本発明は、上記点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、昇圧後の電圧の電圧値を素早くかつ精度良く目標値に近づけることが出来る昇圧装置、昇圧方法、及び、プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかる昇圧装置は、
交流電圧を昇圧する昇圧装置であって、
第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と第2の方向に電流が流れる第2のオン状態とオフの状態であるオフ状態とに切り替わることで、インダクタに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて前記交流電圧を昇圧する双方向スイッチ部と、
前記交流電圧を昇圧するために、前記双方向スイッチ部の、前記第1のオン状態と前記第2のオン状態と前記オフ状態との切り替えを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記切り替えの制御において、前記交流電圧を昇圧した昇圧電圧の電圧値が予め設定された目標値になるように、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記交流電圧のゼロ交差時に対する、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる。
【0008】
前記目的を達成するため、本発明の第2の観点にかかる昇圧方法は、
第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と第2の方向に電流が流れる第2のオン状態とオフの状態であるオフ状態とに切り替わる双方向スイッチ部を用いた交流電圧を昇圧する昇圧方法であって、
インダクタに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて前記交流電圧を昇圧するために、前記双方向スイッチ部の、前記第1のオン状態と前記第2のオン状態と前記オフ状態とを切り替える昇圧ステップを含み、
前記昇圧ステップでは、前記交流電圧を昇圧した昇圧後の電圧値が目標値になるように、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる。
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の第3の観点にかかるプログラムは、
第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と第2の方向に電流が流れる第2のオン状態とオフの状態であるオフ状態とに切り替わる双方向スイッチ部を制御するコンピュータに、
インダクタに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて前記交流電圧を昇圧するために、前記双方向スイッチ部の、前記第1のオン状態と前記第2のオン状態と前記オフ状態とを切り替える昇圧ステップを行わせ、
前記昇圧ステップでは、前記交流電圧を昇圧した昇圧後の電圧値が目標値になるように、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、昇圧後の電圧の電圧値を素早くかつ精度良く目標値に近づけることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る昇圧装置の回路構成を示す図である。
【図2】図1の昇圧装置の第1MERSの回路構成を示す図である。
【図3】図1の昇圧装置のいずれか1つのMERSのスイッチ状態と、このMERSに印加される交流電圧と、の時系列関係を説明するための図である。
【図4】図1の昇圧装置のいずれか1つのMERSのスイッチ状態と、このMERSに印加される交流電圧と、の時系列関係を説明するための図である。
【図5】図1の昇圧装置の制御部が行う昇圧処理の一例のフローチャートである。
【図6】図1の昇圧装置のいずれか1つのMERSに供給される信号と、このMERSに印加される交流電圧と、の時系列関係を説明するための図である。
【図7】図5のフローチャートにおけるデューティ比のPI制御の詳細のフローチャートである。
【図8】図5のフローチャートにおける位相角のPI制御の詳細のフローチャートである。
【図9】図5の昇圧処理の回路シミュレーションの結果であり、昇圧後の電圧値、位相角、デューティ比、絶対値の時間変化の図である。
【図10】本発明の前記一実施形態の変形例の一例の回路構成を示す図である。
【図11】本発明の前記一実施形態のMERSの他の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る昇圧装置を図面を参照して説明する。本発明の一実施形態に係る昇圧装置100は、図1のように、エンジン10、発電機20、冷却システム30、回転数検出器70、ECU(Engine Control Unit)80、及び、エンコーダ90とともに、冷蔵・冷凍庫(冷蔵、及び、冷凍の少なくともいずれか一方の機能を有するもの)を搭載した車両1に搭載されている。
【0013】
エンジン10は、車両の車輪等に機械的に接続された回転軸を有し、回転軸を回転させることによって、車両1の車輪等を回転させ、車両1を走行させる。
【0014】
発電機20は、例えば、永久磁石を備える回転子と、この回転子の周囲に三相交流の各相に対応して配置された複数の発電コイルと、を備える永久磁石方式の誘導発電機である。回転子は、エンジン10の回転軸と機械的に接続され、エンジン10の回転軸の回転に同期して回転する。このような構成では、回転子が回転することによって、発電コイルに電流が流れるので、これによって、発電が行われる。つまり、発電機20は、エンジン10が出力する動力によって発電を行う。
【0015】
なお、発電機20は、発電によって電圧を発生させるが、この電圧は三相交流電圧であり、その各相(U相、V相、W相)の交流電圧の1周期は、例えば、回転子の回転角(本実施形態では、360°)に対応している。各相の交流電圧は、周波数が同じであり、その位相が120°ずつずれている。また、各相の交流電圧の波形の形(理想的には正弦波)は、略同じである。このため、或るタイミングにおける三相交流電圧の各相の交流電圧の位相は、回転子の回転角に基づいて求まる。例えば、回転角が0°のとき、U相の交流電圧の位相が0°だとすると、V相の交流電圧の位相は、−120°、W相の交流電圧の位相は、−240°である。
【0016】
等価回路的に見ると、発電機20は、図1のように、三相交流電源21と、第1インダクタLuと、第2インダクタLvと、第3インダクタLwと、を備える。
【0017】
三相交流電源21は、発電機20のうち、発電と、発電によって発生する三相交流電圧の出力とを行う部分から構成される。三相交流電源21は、三相交流電圧を出力する電圧源である。
【0018】
第1インダクタLuと第2インダクタLvと第3インダクタLwとのそれぞれは、発電機20内部のインダクタンス成分であり、それぞれが三相交流電源21に並列に接続されている。各インダクタLu、Lv、Lwは、それぞれ、三相交流電源21が出力する三相交流電圧の各相に対応し、例えば、発電機20が備える発電コイル等から構成される。第1インダクタLuには、三相交流電圧のU相が出力され、第2インダクタLvには、三相交流電圧のV相が出力され、第3インダクタLwには、三相交流電圧のW相が出力される。
【0019】
回転数検出器70は、エンジン10の回転軸の回転数を検出するためのものであり、エンジン10の回転数に応じた内容の回転数信号(例えば、回転数に応じた周波数のパルス信号)をECU80に供給する。
【0020】
ECU80は、車両1全体の電気的な制御を総合的に行うためのマイクロコントローラである。ECU80は、回転数検出器70から供給される回転数信号に基づいて、エンジン10の回転軸の、所定期間における回転数(つまり、所謂エンジン10、所定期間における回転数)を算出し、算出した回転数を後述の制御部150に供給する。
【0021】
エンコーダ90は、発電機20の回転子の回転角を検出するためのものである。エンコーダ90は、検出した回転角を制御部150に供給する。
【0022】
昇圧装置100は、発電機20と冷却システム30との間に接続される。昇圧装置100は、各インダクタLu、Lw、Lvを利用し、三相交流電源21が出力した三相交流電圧を昇圧する。また、昇圧装置100は、昇圧後の電圧を整流することによって、前記の昇圧後の電圧を直流電圧に変換して出力する。このようにして、昇圧装置100は、発電機20が発電する交流電力について、昇圧を行うとともに、直流電力への変換を行い、変換後の直流電力を冷却システム30に供給する。
【0023】
昇圧装置100は、第1MERS(磁気エネルギー回生スイッチ)110と、第2MERS120と、第3MERS130と、整流器140と、平滑キャパシタCsと、電圧計VMと、制御部150と、を備える。
【0024】
第1MERS110と第2MERS120と第3MERS130とは、接続点N1〜N3を介して互いに接続されている。各MERS110、120、130は、Δ(デルタ)結線を構成している。
【0025】
接続点N1〜N3は、それぞれ、接続点N4〜N6を介して、各インダクタLu、Lw、Lvのいずれかと接続されている。
【0026】
このため、第1MERS110(つまり、接続点N1、N2間)には、U相の交流電圧とV相の交流電圧との差をとった交流電圧(以下、UV交流電圧という。)が印加される。
【0027】
同様にして、第2MERS120(つまり、接続点N2、N3間)には、V相の交流電圧とW相の交流電圧との差をとった交流電圧(以下、VW交流電圧という。)が印加される。
【0028】
同様にして、第3MERS130(つまり、接続点N3、N1間)には、W相の交流電圧とU相の交流電圧との差をとった交流電圧(以下、WU交流電圧という。)が印加される。
【0029】
UV交流電圧、VW交流電圧、WU交流電圧は、それぞれ、各相の交流電圧と周期が同じで、振幅が各相の交流電圧の√3(ルート3)倍である。また、UV交流電圧は、U相の交流電圧に対して60度位相がずれており、VW交流電圧は、V相の交流電圧に対して60度位相がずれており、WU交流電圧は、W相の交流電圧に対して60度位相がずれている。
【0030】
ここで、上記MERSのうち、第1MERS110の回路構成を図2を参照して説明する。
【0031】
第1MERS110は、フルブリッジ型のMERSである。第1MERS110は、第1乃至第4の逆導通型スイッチSW1乃至SW4と、キャパシタCMと、接続点N11乃至N14とを備える。
【0032】
第1の逆導通型スイッチSW1は、等価回路的には、並列に接続された、スイッチ部S1とダイオードD1とから構成されている。第1の逆導通型スイッチSW1は、例えば、Nチャンネル型シリコンMOSFET(MOSFET:Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)等の逆導通型半導体スイッチである。スイッチ部S1は、例えば、Nチャンネル型シリコンMOSFETの自己消弧型素子の部分から構成されており、ダイオードD1は、Nチャンネル型シリコンMOSFETの寄生ダイオードの部分から構成されている。
【0033】
スイッチ部S1は、ゲート(制御端子)G1を備える。ゲートG1には、制御部150からゲート信号、つまり、オン信号又はオフ信号のいずれかが供給される。
【0034】
スイッチ部S1は、ゲートG1にゲート信号のうちのオン信号が供給されるとオンする。スイッチ部S1のオンは、第1の逆導通型スイッチSW1のオンでもある。スイッチ部S1は、オンによって、導通状態になり、ダイオードD1の両端を短絡させる。つまり、第1の逆導通型スイッチSW1は、オン信号が供給されてオンしたときに、導通状態になる。
【0035】
また、スイッチ部S1は、ゲートG1にゲート信号のうちのオフ信号が供給されるとオフする。スイッチ部S1のオフは、第1の逆導通型スイッチSW1のオフでもある。スイッチ部S1は、オフによって、非導通状態になる。つまり、第1の逆導通型スイッチSW1は、オフ信号が供給されてオフしたときに、ダイオードD1として機能する。
【0036】
第2乃至第4の逆導通型スイッチSW2乃至SW4は、それぞれが、第1の逆導通型スイッチSW1と同じ構成を持つ。スイッチ部S2乃至S4のそれぞれは、スイッチ部S1に対応し、ゲートG2乃至G4のそれぞれは、ゲートG1に対応し、ダイオードD2乃至D4のそれぞれは、ダイオードD1に対応する。そして、第2乃至第4の逆導通型スイッチSW2乃至SW4それぞれは、第1の逆導通型スイッチSW1と同様に、ゲート信号のうちのオン信号が供給されることによってオンしたときに導通状態になり、ゲート信号のうちのオフ信号が供給されることによってオフしたときにダイオードD2乃至D4それぞれとして機能する。
【0037】
第1の逆導通型スイッチSW1は、ダイオードD1の、アノードが接続点N11に接続され、カソードが接続点N12に接続される向きで、接続点N11と接続点N12との間に接続されている。
【0038】
第2の逆導通型スイッチSW2は、ダイオードD2の、アノードがN13に接続され、カソードが接続点N11に接続される向きで、接続点N11と接続点N13との間に接続されている。
【0039】
第3の逆導通型スイッチSW3は、ダイオードD3の、アノードが接続点N14に接続され、カソードがN12に接続される向きで、接続点N12と接続点N14との間に接続されている。
【0040】
第4の逆導通型スイッチSW4は、ダイオードD4の、アノードが接続点N13に接続され、カソードが接続点N14に接続される向きで、接続点N13と接続点N14との間に接続されている。
【0041】
キャパシタCMは、接続点N12と接続点N13との間に接続されている。接続点N11と接続点N14とは、それぞれ、外部と接続される。接続点N11は、交流接続端子AC1と接続されている。接続点N14は、交流接続端子AC2と接続されている。交流接続端子AC1は、接続点N1に接続され、交流接続端子AC2は、接続点N2に接続されている。
【0042】
第1MERS110が備える各逆導通型スイッチSW1乃至SW4それぞれのオンとオフとが切り替わることによって、第1MERS110は、第1のオン状態と、第2のオン状態と、オフの状態であるオフ状態と、に切り替わる。この切り替えは、制御部150の制御のもと行われる。つまり、制御部150は、第1MERS110が各状態になるように、各逆導通型スイッチSW1乃至SW4それぞれに、オン信号又はオフ信号を供給する。
【0043】
第1のオン状態とは、第1の方向に電流を流すことが可能な状態である。第1の方向は、本実施形態では、接続点N1(交流接続端子AC1)から接続点N2(交流接続端子AC2)へ向かう方向であって、第1インダクタLuに向かう方向と反対側の方向である。この方向は、U相の交流電圧が正のときに、電流が流れる向きである。本実施形態では、第1のオン状態とは、第1の逆導通型スイッチSW1と第4の逆導通型スイッチSW4とがオフであり、第2の逆導通型スイッチSW2と第3の逆導通型スイッチSW3とがオンの状態をいう。
【0044】
第2のオン状態とは、第1の方向と反対の第2の方向(本実施形態では、接続点N1から接続点N2へ向かう方向であって、第1インダクタLuに向かう方向)に電流を流すことが可能な状態である。この方向は、U相の交流電圧が負のときに、電流が流れる向きである。本実施形態では、第2のオン状態とは、第1の逆導通型スイッチSW1と第4の逆導通型スイッチSW4とがオンであり、第2の逆導通型スイッチSW2と第3の逆導通型スイッチSW3とがオフの状態をいう。
【0045】
オフ状態とは、本実施形態では、各逆導通型スイッチSW1乃至SW4のすべてがオフの状態をいう。オフ状態のとき、第1MERS110には、第1インダクタLuから流れる電流が少量流れるが、この電流は、整流器140に流れる電流よりも大幅に少ない。このため、この少量の電流は無視でき、第1MERS110は、オフ状態のときに非導通状態にあるとも言える。
【0046】
第2MERS120と第3MERS130とは、それぞれ、第1MERS110と同じ回路構成である。つまり、第2MERS120の回路構成及び第3MERS130の回路構成は、図2及び上記説明で説明される。以下では、第1MERS110の各構成要素にそれぞれ対応する第2MERS120の各構成要素の符号は、第1MERS110の場合と同じものを使用する。以下では、第1MERS110の各構成要素にそれぞれ対応する第3MERS130の各構成要素の符号は、第1MERS110と同じものを使用する。
【0047】
なお、第2MERS120では、交流接続端子AC1はN2に接続され、交流接続端子AC2はN3に接続されている。また、第3MERS130では、交流接続端子AC1はN3に接続され、交流接続端子AC2はN1に接続されている。
【0048】
第2MERS120及び第3MERS130も、第1MERS110と同様にして、制御部150の制御のもと、第1のオン状態と、第2のオン状態と、オフ状態と、に切り替わる。第2MERS120では、第1の方向は、端子N2からN3に向かう方向であり、第2インダクタLvに向かう方向と反対の方向であり、さらに、この方向は、V相の交流電圧が正のときに、電流が流れる向きである。第2の方向は、第1の方向と反対の方向である。第3MERS130では、第1の方向は、端子N3からN1に向かう方向であり、第3インダクタLwに向かう方向と反対の方向であり、さらに、この方向は、W相の交流電圧が正のときに、電流が流れる向きである。第2の方向は、第1の方向と反対の方向である。第2MERS120及び第3MERS130も、オフ状態のときに少量の電流が流れるが、オフ状態の第2MERS120及び第3MERS130は、非導通状態にあるとも言える。
【0049】
なお、詳しくは後述するが、各MERS110、120、130が、それぞれ、第1のオン状態と、第2のオン状態と、オフ状態と、にそれぞれのタイミングで切り替わる。これによって、各インダクタLu、Lv、Lwそれぞれは、磁気エネルギーを蓄え、放出する。例えば、第1MERS110が第1のオン状態又は第2のオン状態になっているとき、電流は、第1MERS110を通り、第1インダクタLuに磁気エネルギーが蓄えられる。一方で、その後に第1MERS110がオフ状態になることで、電流の大部分は、整流器140の方に流れ、第1インダクタLuの磁気エネルギーが放出される。この放出によって昇圧が行われる。他のMERS120、130も同様の原理で電圧を昇圧する。このようにして、三相交流電源21が出力する三相交流電圧が昇圧される。なお、各MERS110、120、130それぞれは、制御部150の制御のもと、オフ状態、第1のオン状態、オフ状態、第2のオン状態の順に繰り返し切り替わる。
【0050】
以上、説明したように、図1及び図2のように接続された、第1MERS110と第2MERS120と第3MERS130と第1インダクタLuと第2インダクタLvと第3インダクタLwとは、三相交流電源21が出力する三相交流電圧を昇圧する昇圧回路を構成する。
【0051】
図1の説明に戻り、整流器140は、昇圧回路の後段に配置されている。整流器140には、各インダクタLu、Lv、Lwが並列に接続されるともに、各MERS110、120、130により構成されたΔ結線に、接続点N4乃至N6を介して接続される。
【0052】
前記の昇圧回路で昇圧された電圧は、整流器140に入力される。整流器140は、三相交流用の公知のダイオードブリッジ等を含み、入力される電圧を整流する。整流器140は、出力用の+端子と−端子を含み、整流された直流電圧は、+端子をプラス側、−端子をマイナス側として、+端子と−端子から出力される。
【0053】
平滑キャパシタCsは、整流器140の+端子と−端子とに、接続点N9a及びN9bを介して接続され、整流器140から出力される直流電圧を平滑化する。
【0054】
電圧計VMは、整流器140の直流電圧を計測するためものであり、平滑キャパシタCsの後段に配置され、平滑キャパシタCsと並列に、整流器140の+端子と−端子とに接続点N10a及びN10bを介して接続されている。
【0055】
電圧計VMは、直流電圧の電圧値(つまり、接続点N10aと接続点N10bとの間の電圧値)を検出し、検出した電圧値を表す信号を電圧検出信号として、制御部150に供給する。
【0056】
制御部150は、CPU(Central Processing Unit)151と、RAM(Random Access Memory)152と、ROM(Read Only Memory)153と、入出力部154と、を備える。制御部150は、後述の昇圧処理を行う。この昇圧処理は、後述の昇圧制御処理と、後述の昇圧調整処理と、を含む。
【0057】
CPU151は、ROM153が記憶するプログラムに従って、所定のデータを用いて制御部150が行う後述の昇圧処理を実行する。RAM152は、CPU151のメインメメモリとして機能する。ROM153は、プログラムや、下記の処理で制御部150に使用される各種データを記憶する。CPU151は、下記の処理を、ROM153が記憶するデータを適宜用いて行うものとする。入出力部154は、各種ポートから構成される。制御部150の外部から供給されるデータ(回転数、回転角等)は、入出力部154から入力し、CPU151に供給される。また、CPU151は、下記の処理中において、入手力部154を介して、前記オン信号と前記オフ信号とのいずれかを、各MERSの各逆導通型スイッチのそれぞれに供給する。
【0058】
制御部150は、前記オン信号及び前記オフ信号の供給によって、各MERS110、120、130が備える、各逆導通型スイッチのオンとオフとを制御し、各MERS110、120、130を、独立に、第1のオン状態と第2のオン状態とオフ状態とのいずれかに切り替えて、前記の昇圧回路に昇圧動作を行わせる(昇圧制御処理)。
【0059】
本実施形態では、制御部150は、第1MERS110を制御し、第1MERS110をオフ状態から、UV交流電圧が正の期間中に第1MERS110を一時的に、1回だけ、第1のオン状態にし、UV交流電圧が負の期間中に第1MERS110を一時的に、1回、第2のオン状態にする(図3参照)。制御部150は、UV交流電圧の正負の移り変わりに合わせて、このような制御を繰り返す。
【0060】
同様に、制御部150は、第2MERS120をオフ状態から、VW交流電圧が正の期間中に第2MERS120を一時的に、1回だけ、第1のオン状態にし、VW交流電圧が負の期間中に第2MERS120を一時的、1回だけ、に第2のオン状態にする(図3参照)。制御部150は、VW交流電圧の正負の移り変わりに合わせて、このような制御を繰り返す。
【0061】
同様に、制御部150は、第3MERS130をオフ状態から、WU交流電圧が正の期間中に第3MERS130を一時的に、1回だけ、第1のオン状態にし、WU交流電圧が負の期間中に第3MERS130を一時的、1回だけ、に第2のオン状態にする(図3参照)。制御部150は、WU交流電圧の正負の移り変わりに合わせて、このような制御を繰り返す。
【0062】
制御部150は、現在が、UV交流電圧、VW交流電圧、WU交流電圧それぞれの正負の期間のどの時点であるかを、エンコーダ90から供給される回転角に基づいて特定する。上述のように、UV交流電圧、VW交流電圧、WU交流電圧は、いずれも三相交流電圧の各相のうちの二つの相の交流電圧の差であり、各相の交流電圧の位相は、回転角から求まる。このため、或るタイミングでの回転角から、その或るタイミングがUV交流電圧、VW交流電圧、WU交流電圧の正負の期間のどの時点であるかも分かる。
【0063】
制御部150は、例えば、現在が、UV交流電圧、VW交流電圧、WU交流電圧それぞれの正負の期間のどの時点であるかの特定を、ROM153が予め記憶するテーブル(例えば、回転角とUV交流電圧(又は、VW交流電圧、WU交流電圧)における正負の期間の時点とのテーブル)を参照し、供給される回転角に基づいて行うか、ROM153が予め記憶する算出式に回転角を代入して前記の特定を行う。
【0064】
また、制御部150は、電圧検出信号に基づいて、直流電圧の電圧値を算出する。制御部150は、例えば、電圧検出信号にローパスフィルターをかけて、高周波成分を取り除いた信号から直流電圧の電圧値を算出する。本実施形態では、このようにして、平滑キャパシタCsで平滑された平滑後の直流電圧(昇圧電圧)の電圧値(昇圧後の電圧値)を取得する。
【0065】
制御部150は、取得した電圧値に基づいて、これからの昇圧によって得られる昇圧後の電圧値が、制御部150に予め設定された目標値になるように、各MERS110、120、130それぞれについて、図4のように、第1のオン状態にするタイミング(図4の「切替時」参照)及び期間(第1のオン状態の終期)、第2のオン状態にするタイミング(図4の「切り替え時」参照)及び期間(第2のオン状態の終期)を変化させる(図4参照)。このように、制御部150には、昇圧後の電圧値がフィードバックされ、制御部150は、フィードバックされた電圧値に基づいて、所謂フィードバック制御を行い、昇圧後の電圧値を時系列に沿って徐々に変化させて、目標値に近づける(昇圧調整処理)。本実施形態では、目標値は、後述の電動圧縮機32を駆動するために必要な電圧値等であり、予め任意に決められた値である。そして、目標値は、ROM153が記憶しているものとする。
【0066】
第1のオン状態及び第2のオン状態の期間が長ければ長いほど、昇圧後の電圧値は高くなるが(前記昇圧回路での昇圧の度合いが大きくなるが)、長すぎると、逆に昇圧後の電圧値は低くなる(前記昇圧回路での昇圧の度合いが小さくなる)。また、UV交流電圧、VW交流電圧、WU交流電圧それぞれの、電圧値が負から正へ変化するときのゼロ交差時(図4)を基準とした、第1のオン状態に切り替えるタイミング(図4中の「切替時」)、及び、電圧値が正から負へ変化するときのゼロ交差時(図4)に対する、第2のオン状態に切り替えるタイミング(図4中の「切替時」)が、遅ければ遅いほど、昇圧後の電圧値は高くなるが、遅すぎると、逆に昇圧後の電圧値は低くなる。
【0067】
制御部150は、このようなことが考慮されたプログラムに従って、第1のオン状態にするタイミング及び期間、第2のオン状態にするタイミング及び期間が最適になるように、これらを調整し、時系列的に見て新たに昇圧して順次得られる昇圧後の電圧値を前記の目標値に近づかせる昇圧調整処理を行う。
【0068】
なお、第1のオン状態及び第2のオン状態の期間を変化させる第1の場合と、第1のオン状態にするタイミング及び第2のオン状態にするタイミングを変換させる第2の場合とでは、同じ時間だけ変化させた場合に、第1の場合の方が、昇圧後の電圧値が大きく変化する。このため、制御部150は、昇圧調整処理において、昇圧後の電圧値と前記の目標値との差が所定の閾値以上の場合(つまり、差が大きい場合)には、第1のオン状態及び第2のオン状態の期間を変化させ、昇圧後の電圧値と前記の目標値との差が前記所定の閾値以下の場合(つまり、差が小さい場合)には、第1のオン状態にするタイミング及び第2のオン状態にするタイミングを変化させる。
【0069】
また、制御部150は、ECU80から供給され、取得した回転数が所定の回転数を超えたと判別した場合に、エンジン10が定常運転になったと判別し、この判別の判別結果に応じて、昇圧制御処理を停止する(つまり、昇圧を停止する)。前記所定の回転数は、エンジン10が定常状態になっているときの最低限の回転数であって、ROM153に予め記憶されているものとする。
【0070】
図1の冷却システム30は、インバータ回路INVと、導管31と、電動圧縮機32と、凝縮器33と、膨張弁34と、蒸発器35と、を備える。冷却システム30は、冷蔵・冷凍庫の庫内を冷却する。
【0071】
インバータ回路INVには、昇圧装置100が出力する直流電圧が印加される。インバータ回路INVは、所定のスイッチング素子を含む公知の回路構成からなり、スイッチング素子のオンとオフとの切り替わりによって、印加される直流電圧を三相交流電圧に変換し、変換後の三相交流電圧を電動圧縮機32に出力する。つまり、インバータ回路INVは、昇圧装置100から供給される直流電力を三相交流電力に変換し、電動圧縮機32に供給する。
【0072】
導管31内には、熱を運ぶ冷媒(気体又は液体)が流れる。冷媒は、電動圧縮機32から導管31内を流れ、膨張弁34に到達し、膨張弁34から導管31内を流れ電動圧縮機32に戻る。
【0073】
電動圧縮機32は、導管31の途中に配置され、インバータ回路INVから供給される三相交流電力によって動作する。電動圧縮機32は、前記冷媒を圧縮し、高温高圧にして凝縮器33側へ送り出す。電動圧縮機32としては、容積式や遠心式がある。
【0074】
凝縮器33は、熱交換器である。凝縮器33は、導管31の一部(冷蔵・冷凍庫の庫外に露出した部分)を囲むように配置される。凝縮器33は、電動圧縮機32が高温高圧にして送り出した、導管31内の冷媒を液化させる。凝縮器33は、この液化に伴って冷媒から発せられる熱を冷蔵・冷凍庫の庫外へ放出する。
【0075】
膨張弁34は、導管31の途中に形成され、導管31内を流れる冷媒を急激に膨張させ、冷媒を低温低圧の状態にし、蒸発器35側へ送り出す。
【0076】
蒸発器35は、熱交換器であり、導管31の一部(冷蔵・冷凍庫の庫内に露出した部分)を囲むように配置され、冷蔵・冷凍庫の庫内の熱を吸収して導管内の冷媒を蒸発させる。この熱の吸収によって、冷蔵・冷凍庫の庫内は冷却される。
【0077】
上記で説明した構成では、エンジン10が始動すると回転軸が回転し、発電機20の回転子が回転軸の回転に伴って回転するので、発電機20で発電が行われる。この発電によって、三相交流電源21から三相交流電圧が出力される。制御部150は、昇圧制御処理を行い、三相交流電圧を昇圧する。
【0078】
三相交流電源21から出力された三相交流電圧は、各インダクタLu、Lv、Lw、及び、昇圧制御処理を行う制御部150に制御される各MERS110、120、130から構成される昇圧回路によって昇圧される。昇圧回路によって昇圧された電圧は、整流器140に供給され、整流器140で整流され、その後に平滑キャパシタCsで平滑化され、冷却システム30に出力される。
【0079】
そして、冷却システム30は、冷媒を、平滑後の電圧が印加され電力が供給される電動圧縮機32によって圧縮し、その後、凝縮器33によって液化させ、その後、膨張弁34によって圧縮し、その後、蒸発器35によって蒸発させる。冷却システム30は、このような流れを繰り返すことによって、庫内の熱を冷媒を介して庫外に放出する。これによって、冷蔵・冷凍庫は、その本来の機能を発揮する。
【0080】
一方、ECU80は、回転数測定器70を用いて、エンジン10の回転数を測定し、測定した回転数を制御部150に供給する。制御部150は、供給された回転数が所定の回転数以上であれば、冷却システム30の運転に必要な十分な電圧が発電機20から出力されているとして、昇圧制御処理を停止する。制御部150は、各MERS110、120、130に含まれる各逆導通型スイッチ全てにオフ信号を供給してオフにする。
【0081】
一般に、エンジンスタート時やアイドリング時等のエンジン10の回転数が低いとき、回転子の回転数も低いので発電機20が発生する電圧は低く、また、電圧値も安定していない。一方で、エンジン10の回転数が高くなると、回転子の回転数も高くなり、発電機20が発生する電圧も高く、また、電圧値も安定する。
【0082】
前記で制御部150に供給された回転数が前記所定の回転数以上であれば、発電機20が発生する電圧も高く、また、電圧値も安定しているので、三相交流電源21が出力する電圧を昇圧する必要はない。
【0083】
制御部150は、エンジン10の回転数が所定回数以上である場合に、各MERS110、120、130を停止するので、制御部150の余計な処理負担が軽減される。また、各MERS110、120、130に流れる電流も最小限にできるので、電力の損失も最小限にできる。
【0084】
また、制御部150は、昇圧調整処理を行い、目標値と昇圧後の電圧値との差が大きい場合には、各MERS110、120、130の第1及び第2のオン状態の期間を変化させ、これから昇圧して生成される昇圧後の電圧値を大きく変化させる。また、制御部150は、目標値と電圧値との差が小さい場合には、各MERS110、120、130の第1及び第2のオン状態に切り替えるタイミング(ゼロ交差時を基準としたタイミング)を変化させ、これから昇圧して生成される昇圧後の電圧値を小さく変化させる。
【0085】
このような制御部150の処理によって、例えば、電圧値(実効値)の低い三相交流電圧(例えば、エンジン10始動時の電圧)を昇圧する場合、第1及び第2のオン状態の期間を変化させて、平滑後の直流電圧(昇圧後の電圧)の電圧値を大きく変化させて、目標値に素早くある程度まで近づけ、前記の切り替えるタイミングを変化させて、昇圧後の電圧を細かく変化させて昇圧後の電圧値を目標値に精度良く近づけることができる。これによって、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧を素早くかつ精度良く目標値(目標電圧)に近づけることが出来る。
【0086】
次に、制御部150が行う昇圧処理の一例について、図5を参照して説明する。この処理は、車両1のエンジン10が始動することを契機として開始される。例えば、制御部150は、ECU90から供給される回転数が0より大きくなった場合に、昇圧処理を開始する。制御部150は、ECU90から供給される回転数が0になった場合に、昇圧処理を終了する。なお、下記で使用される、制御部150に設定されている各種初期値、各種設定値、各種所定値等の各種データは、本実施形態では、制御部150のROM153に記録され、制御部150は、ROM153に記録されたデータを下記の処理中に使用する。
【0087】
制御部150は、まず、この昇圧処理において使用される各種変数を初期設定し、昇圧制御処理をスタートする(ステップS101)。
【0088】
初期設定については、具体的には、下記のように変数の初期値が設定されることによって、各種変数が初期設定される。
・カウント値:Ctr=0
・目標値Vtと電圧値との差の絶対値errの目標値Vtに対する割合er(err/Vt)の最小値:min_er=2.0
・デューティ比duty_i:0.0
・位相角angle_i:0.1
【0089】
デューティ比duty_iは、各MERS110、120、130のゲートG2及びゲートG3に供給するオン信号(以下、第1のオン信号、図6参照)についてのデューティ比である第1のデューティ比と、各MERS110、120、130のゲートG1及びゲートG4に供給するオン信号(以下、第2のオン信号、図6参照)についてのデューティ比である第2のデューティ比と、である。つまり、本実施形態では、第1のオン状態の期間と、第2のオン状態の期間と、は同じ期間であり、各MERS110、120、130について同じである。
【0090】
第1のデューティ比は、第1のオン信号の期間/(第1のオン信号の期間+第1のオフ信号の期間)である。第1のオフ信号は、ゲートG2及びゲートG3に供給するオフ信号である。本実施形態では、第1のオン状態の期間が、このデューティ比によって表されている。
【0091】
第2のデューティ比は、第2のオン信号の期間/(第2のオン信号の期間+第2のオフ信号の期間)である。第2のオフ信号は、ゲートG1及びゲートG4に供給するオフ信号である。本実施形態では、第2のオン状態の期間が、このデューティ比によって表されている。
【0092】
位相角angle_iは、第1のオン信号の立ち上がりの位相角である第1の位相角と、第1のオン信号の立ち上がりの位相角である第2の位相角とである(図6参照)。つまり、本実施形態では、第1の位相角と、第2の位相角と、は同じ角度であり、各MERS110、120、130について同じである。
【0093】
第1の位相角は、各MERS110、120、130について、入力電圧(UV交流電圧、VW交流電圧、又はWU交流電圧)の正から負へのゼロ交差時から、第1のオン信号を供給するタイミング(切替時)までの位相角である。本実施形態では、各MERS110、120、130をオフ状態から第1のオン状態に切り替えるタイミング(ここでは、特に、前記ゼロ交差時を基準としたタイミング)が、この位相角によって表されている。
【0094】
第2の位相角は、各MERS110、120、130について、入力電圧の負から正へのゼロ交差時から、第2のオン信号を供給するタイミング(切替時)までの位相角である。本実施形態では、各MERS110、120、130をオフ状態から第1のオン状態に切り替えるタイミング(ここでは、特に、前記ゼロ交差時を基準としたタイミング)が、この位相角によって表されている。
【0095】
また、制御部150は、ステップS101以降、本処理と並行して、各MERS110、120、130それぞれに対して、初期値に設定されているデューティ比duty_iと位相角angle_iとを満たすタイミングで、第1のオン信号、第1のオフ信号、第2のオン信号、第2のオフ信号を供給することを開始する(昇圧制御処理の開始)。つまり、第1のオン信号及び第2のオン信号のデューティ比は、デューティ比duty_iであり、立ち上がりの位相角は、位相角angle_iである。これによって、各MERS110、120、130が、制御部150の制御のもと、第1のオン状態と、第2のオン状態と、オフ状態とに切り替わり(詳しくは、図3等、上記説明を参照)、三相交流電源21が出力する三相交流電圧の昇圧が開始される。なお、デューティ比duty_iの初期値は、0なので、デューティ比duty_iの値が変更されるまでは、実質的に昇圧は行われない。
【0096】
そして、制御部150は、ステップS102以降の処理を開始する。このステップS102以降の処理が、昇圧調整処理に該当する。つまり、制御部150は、昇圧調整処理を開始する。
【0097】
制御部150は、ステップS102において、平滑後の直流電圧の電圧値を取得し(ステップS102)、取得した電圧値と、予め設定されている電圧の目標値(上記参照)Vtとの差の絶対値errの、目標値Vtに対する割合er(=err/Vt)を算出する(ステップS103)。通常、前記の取得した電圧値は、0以上の値になるので、この割合erは1.0以下になる。
【0098】
次に、制御部150は、エンジン10が定常状態であるかの判別を行う(ステップS104)。本実施形態では、制御部150は、ECU80から供給される回転数と前記の所定の回転数との比較によって、この判別を行う。制御部150は、供給された回転数が所定の回転数を超えていれば、エンジン10は定常状態であると判別し(ステップS104;YES)、所定の回転数以下であれば、エンジン10は定常状態でないと判別する(ステップS104;NO)。
【0099】
制御部150は、エンジン20が定常状態であると判別した場合(ステップS104;YES)には、各MERS110、120、130の、全ての逆導通型スイッチへオフ信号を供給し続けることによって、昇圧制御処理を停止する(ステップS106)。これによって、制御部150の余計な処理負担が軽減される。また、各MERS110、120、130に流れる電流も最小限にできるので、電力の損失も最小限にできる。なお、オフ信号は、基本的に電圧が0Vの信号であるので、オフ信号を供給し続けることは、つまり、オン信号の供給の停止でもある。
【0100】
ステップS106の処理において、すでに、各MERS110、120、130がオフになっている場合には、制御部150は、その状態を維持するものとする。
【0101】
制御部150は、エンジン10は定常状態でないと判別した場合(ステップS104;NO)に、カウンタ値Ctrに1をプラスする(ステップS105)。つまり、カウンタ値を1上げる。このカウント値は、処理回数をカウントしたものである。
【0102】
なお、制御部150は、ステップS104でNOと判別したときに、昇圧制御処理を停止している場合には、昇圧制御処理を再開する(オン信号の供給を再開する)。このとき、デューティ比duty_iと位相角angle_iとは、ステップS101のように初期化されてもよいし、停止直前のものであってもよい。
【0103】
次に、制御部150は、カウンタ値Ctrと、予め設定されている設定値Ctr0と、が同じ数値であるかを判別する(ステップS107)。設定値Ctr0は、ここでは、50である。設定値Ctr0は、割合erと、最小値min_erとの比較のタイミングを規定するものである。
【0104】
制御部150は、カウンタ値Ctrと設定値Ctr0とが同じでないと判別した場合(ステップS107;NO)、ステップS111の処理を行う。
【0105】
制御部150は、カウンタ値Ctrと設定値Ctr0とが同じであると判別した場合(ステップS107;YES)、設定値Ctr0を初期値である0に戻す(ステップS108)。これによって、新たなカウントがこれ以降始まる。
【0106】
次に、制御部150は、ステップS103で算出した割合erが、最小値min_er以下であるかを判別する(ステップS109)。なお、上記のように、割合erは、通常1.0以下の値になるので、本処理における最初のステップS109での判別は、通常「YES」になる。
【0107】
制御部150は、割合erが最小値min_er以下であると判別した場合(ステップS109;YES)、最小値min_erを割合erの値にし(ステップS110)、ステップS111の処理を行う。これによって、最小値min_erの値が更新される。このような更新によって、制御部150には、昇圧後の電圧値が目標値Vtに最も近づいたときの割合erが保持される。
【0108】
制御部150は、割合erが最小値min_er以下でないと判別した場合(ステップS109;YES)、ステップS111の処理を行う。
【0109】
制御部150は、ステップS111において、割合erが所定値erl以上、かつ、割合erが最小値min_er以下であるかを判別する(ステップS111)。割合erが最小値min_er以下であるかは、つまり、直近のステップS109で、YESを判別されたかどうかと同じ意味である。
【0110】
ここで、所定値erlは、予め任意に制御部150に設定されている値である。所定値erlは、その後に、デューティ比duty_iを変化させるか位相角angle_iを変化させるかを特定するために規定される値である。
【0111】
なお、割合erが最小値min_er以下でない場合、今回の絶対値が、過去の絶対値の最小値よりも大きくなってしまっているということなので、時系列的に変化する昇圧後の電圧値が目標値Vtに一度近づき、その後に遠ざかっていることになる。このように、割合erが最小値min_er以下であるかの判別は、過去に比べて、現在の昇圧後の電圧値が目標値Vtに最も近づいた値であるかの判別でもある。
【0112】
制御部150は、割合erが所定値erl以上、かつ、割合erが最小値min_er以下である場合(ステップS111;YES)、つまり、現在の絶対値が大きく、かつ、電圧値が過去に比べて最も目標値Vtに近い場合には、デューティ比duty_iを制御して、これから昇圧して得られる昇圧後の電圧値を大きく変化(増加)させる必要があるので、ステップS112に進む。
【0113】
制御部150は、ステップS112において、デューティ比duty_iのPI(Proportional Integral)制御を行い、その後に、ステップS102の処理に戻る。
【0114】
ここで、デューティ比duty_iのPI制御の一例を図7を参照して説明する。なお、制御部150には、デューティ比duty_iの取り得る値の最小値duty_min及び最大値duty_maxが設定されている。上述のように、第1のオン状態及び第2のオン状態の期間が長くなれば、つまり、デューティ比duty_iが大きくなれば昇圧後の電圧値は大きくなるが、デューティ比duty_iが大きすぎると逆に昇圧後の電圧値は下がってしまう。このため、昇圧後の電圧値を目標値Vtに到達させるためには、デューティ比duty_iの取り得る値は限定される。本実施形態では、このようなことが考慮され、好適な最小値duty_min及び最大値duty_maxが設定されているものとする。
【0115】
制御部150は、まず、ステップS102で取得した電圧値と、前記の目標値Vtとを比較し、比較結果に基づいて、現在制御部150が各MERS110、120、130に供給している各信号についての現在のデューティ比duty_iを仮想的に変化させる(ステップS201)。このとき、位相角angle_iは、現在のもので固定されている。制御部150は、PI制御によってデューティ比duty_iを変化させる。前記の電圧値が目標値Vtよりも小さい場合には、昇圧後の電圧値を目標値Vtに近づけるため、現在のデューティ比duty_iを大きくし、前記の電圧値が目標値Vt以上の場合には、現在のデューティ比duty_iを小さくする。なお、ステップS201は、仮想的にデューティ比duty_iを変化させるのみで、実際の第1乃至第2のデューティ比は変化させない。
【0116】
次に制御部150は、仮想的に変化させた後のデューティ比duty_iが最大値duty_max以下であるかを判別する(ステップS202)。デューティ比duty_iが最大値duty_max以下でない場合(ステップS202;NO)、制御部150はデューティ比duty_iを最大値duty_maxの値にして(ステップS203)、ステップS206の処理に進む。制御部150は、デューティ比duty_iが最大値duty_max以下である場合(ステップS202;YES)、ステップS204の処理に進む。
【0117】
制御部150は、ステップS204において、変化させたデューティ比duty_iが最小値duty_min以上であるかを判別する。デューティ比duty_iが最小値duty_min以上でない場合(ステップS204;NO)、制御部150はデューティ比duty_iを最小値duty_minの値にして(ステップS205)、ステップS206の処理に進む。制御部150は、デューティ比duty_iが最小値duty_min以上である場合(ステップS204;YES)、ステップS206の処理に進む。
【0118】
制御部150は、ステップS206において、デューティ比duty_iを新たな設定値duty_i0として、記憶し、制御部150が昇圧制御処理において現在供給している第1のオン信号の第1のデューティ比と、第2のオン信号の第2のデューティ比とを、duty_i0に更新し(ステップS207)、ステップS113の処理を終了する。このとき、位相角angle_iは変化させない。これ以降の昇圧制御処理におけるデューティ比duty_iの値は、このduty_i0の値になる。
【0119】
上記のようなPI制御により、仮想的なデューティ比duty_iが、最小値duty_minよりも小さかったり、最大値duty_maxよりも大きかったりした場合には、デューティ比duty_iが、最小値duty_min又は最大値duty_maxに補正される。このため、制御部150によって、デューティ比duty_iの値は、昇圧に適した範囲の値で制御されるので、好適な昇圧が行われることになる。
【0120】
図5のフローチャートに戻り、制御部150は、割合erが所定値erl以上でないか、あるいは、割合erが最小値min_er以下でない場合(ステップS111;NO)、つまり、現在の絶対値が小さいか、現在の昇圧後の電圧値よりも過去の電圧値の方が目標値Vtに近い場合には、位相角angle_iを制御して、昇圧後の電圧値を小さく変化させる必要があるので、ステップS113に進む。
【0121】
制御部150は、ステップS113において、位相角angle_iのPI制御を行い、その後に、ステップS102の処理に戻る。
【0122】
ここで、位相角angle_iのPI制御の一例を図8を参照して説明する。なお、制御部150には、位相角angle_iの取り得る値の最小値angle_min(ここでは、特に「0」である)及び最大値angle_maxが設定されている。上述のように、第1のオン状態及び第2のオン状態の切り替えタイミングが遅くなれば、つまり、位相角angle_iが大きくなれば昇圧後の電圧値は大きくなるが、位相角angle_iが大きすぎると逆に昇圧後の電圧値は下がってしまう。このため、昇圧後の電圧値を目標値Vtに到達させるためには、位相角angle_iの取り得る値は限定される。本実施形態では、このようなことが考慮され、好適な最小値angle_min及び最大値angle_maxが設定されているものとする。
【0123】
制御部150は、まず、ステップS102で取得した電圧値と、前記の目標値Vtとを比較し、比較結果に基づいて、現在制御部150が各MERS110、120、130に供給している各信号についての位相角angle_iを、仮想的に変化させる(ステップS301)。このとき、デューティ比duty_iは、現在の昇制御処理におけるデューティ比duty_iである。制御部150に、すでにduty_i0が記憶されている場合には、デューティ比duty_iはduty_i0の値になる。制御部150は、PI制御によって位相角angle_iを変化させる。前記の電圧値が目標値Vtよりも小さい場合には、その後の昇圧で得られる昇圧後の電圧値を目標値Vtに近づけるため、現在の位相角angle_iを大きくし、前記の電圧値が目標値Vt以上の場合には、現在の位相角angle_iを小さくする。なお、ステップS301は、仮想的に位相角angle_iを変化させるのみで、実際の第1乃至第2の位相角は変化させない。
【0124】
次に制御部150は、変化させた位相角angle_iが最大値angle_max以下であるかを判別する(ステップS302)。位相角angle_iが最大値angle_max以下でない場合(ステップS302;NO)、上記ステップS112の処理を行う。制御部150は、位相角angle_iが最大値angle_max以下である場合(ステップS302;YES)、ステップS304の処理に進む。
【0125】
制御部150は、ステップ304において、変化させた位相角angle_iが最小値angle_min以上であるかを判別する。位相角angle_iが最小値angle_min以上でない場合(ステップS304;NO)、上記ステップS112(デューティ比のPI制御)の処理を行う。制御部150は、位相角angle_iが最大値angle_max以下である場合(ステップS304;YES)、ステップS306の処理に進む。
【0126】
制御部150は、duty_i0を記憶している場合には、ステップ306において、制御部150が昇圧制御処理において現在供給している第1のオン信号の第1のデューティ比及び第2のオン信号の第2のデューティ比、つまり、デューティ比duty_iを、duty_i0の値に更新し、ステップS113の処理を終了する。これ以降のデューティ比duty_iは、duty_i0の値になる。
【0127】
さらに、制御部150は、ステップ307において、制御部150が昇圧制御処理において現在供給している第1のオン信号の第1の位相角と、第2のオン信号の第2の位相角とを、位相角angle_iに更新し、ステップS113の処理を終了する。これ以降の位相角angle_iの値は、ステップS301で仮想的に変化させた後の位相角angle_iの値になる。
【0128】
上記のようなPI制御により、仮想的な位相角angle_iが、最小値angle_minよりも小さかったり(ステップS304;NO)、最大値angle_maxよりも大きかったり(ステップS302;NO)した場合には、位相角angle_iを変化させることができないので、再度デューティ比duty_iの制御(ステップS112)を行うことが出来る。そして、位相角angle_iは、適切な値の幅で変化することになるので、このため、制御部150によって、好適な昇圧が行われることになる。
【0129】
図1のような回路構成において、上記昇圧処理を行った回路シミュレーションの結果を図9に示す。なお、この回路シミュレーションでは、三相交流電源21から出力される三相交流電圧の電圧値(実効値)を190Vとし、平滑キャパシタCsで平滑化された後の直流電圧の電圧値(昇圧後の電圧値)Vdcの目標値Vtを280Vとして、昇圧処理が行われている。なお、電圧値Vdcは、電圧検出信号にローパスフィルターをかけて、高周波成分を取り除いた信号から算出された値である。図9は、割合er、電圧値Vdc、位相角angle_i、デューティ比duty_iの時間変化を示すグラフであり、横軸の単位は時間である。また、縦軸の単位はグラフの線が何であるかによって異なり、かつ、縦軸の目盛のスケールは、グラフの線が図9に収まるようにそれぞれ適宜のものが採用されている。縦軸の単位は、電圧値Vdcの場合は、(V)であり、その他は無次元である。
【0130】
昇圧処理開始直後の期間Iでは、割合erが所定値erl以上、かつ、割合erが最小値min_er以下であるので(ステップS111;YES)、デューティ比のPI制御(ステップS112)が行われている。そして、期間Iでは、デューティ比duty_iの初期値は0であるので、デューティ比duty_iは、最小値duty_minよりも低い。このため、期間Iでは、デューティ比duty_iが最小値duty_minの値まで急激に上昇している(期間I)。これにともなって、電圧値Vdcも上昇している。なお、電圧Vdcの上昇に応じて、電圧値Vdcと目標値Vtとの差の絶対値である割合erは下がる。
【0131】
期間Iの後の期間IIでは、割合erが所定値erl以上、かつ、割合erが最小値min_er以下であるので(ステップS111;YES)、デューティ比のPI制御(ステップS112)が行われている。そして、期間IIでは、デューティ比duty_iは、最小値duty_min以上、最大値duty_max以下の範囲で上昇している。これにともなって、電圧値Vdcも上昇している。なお、電圧Vdcの上昇に応じて、電圧値Vdcと目標値Vtとの差の絶対値である割合erは下がる。
【0132】
期間IIの後の期間IIIでは、割合erが最小値min_er以下であるが、割合erが所定値erl未満であるので(ステップS111;NO)、位相角angle_iのPI制御(ステップS113)が行われている。そして、期間IIIでは、位相角angle_iは、最小値angle_min以上、最大値angle_max以下の範囲で上昇している。これにともなって、電圧値Vdcも上昇している。なお、電圧Vdcの上昇に応じて、電圧値Vdcと目標値Vtとの差の絶対値である割合erは下がる。
【0133】
期間IIIの後の期間IVでは、割合erが所定値erl以上、かつ、割合erが最小値min_er以下であることのうちの少なくとも一方を満たさないので(ステップS111;NO)、位相角angle_iのPI制御(ステップS113)が行われているが、仮想的なangle_iが最大値angle_maxよりも大きくなっている。このため、位相角angle_iは固定されるが、再度デューティ比のPI制御(ステップS112)が行われている。上記のような処理によって、電圧Vdcのさらに上昇するが、それに応じて、電圧Vdcは、目標値Vtに近づき、割合erは、0に近づき、最終的には、電圧Vdcは、目標値Vt付近を上下し、割合erは、0付近を上下する。
【0134】
上記のような制御によれば、デューティ比duty_iを変化させて、時系列的に変化する昇圧後の電圧の電圧値を大きく変化させて、目標値Vtに素早くある程度まで近づけ、位相角angle_iを変化させて、昇圧後の電圧の電圧値を細かく変化させて昇圧後の電圧値を目標値に精度良く近づけることができる。このように、デューティ比duty_iと位相角angle_iとを強調制御することによって、昇圧後の電圧値を目標値に素早くかつ精度良く近づけることができる。
【0135】
さらに、上記のように、デューティ比duty_iの変動幅と位相角angle_iの変動幅とを制限することによって、時系列的に見て、昇圧後の電圧値が目標値Vtに一度近づいてから遠ざかることが防止されている。
【0136】
本実施形態では、上記のようにして、制御部150は、交流電圧を昇圧した昇圧電圧の電圧値(新たに昇圧されて得られる昇圧電圧の電圧値)が予め設定された目標値になるように、前記昇圧電圧の電圧値を取得し、取得した電圧値に基づいて、第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、交流電圧のゼロ交差時に対する、第1のオン状態の開始タイミング及び第2のオン状態の開始タイミングと、を協調して変化させるので、昇圧後の電圧値を目標値に素早くかつ精度良く近づけることができる。
【0137】
特に、本実施形態では、上記のようにして、制御部150は、昇圧電圧の電圧値と目標値との差の絶対値が所定値より大きい場合に、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間を変化させ、絶対値が所定値より小さい場合はタイミングを変化させるので、昇圧後の電圧値を目標値に素早くかつ精度良く近づけることができる。
【0138】
なお、昇圧装置100は、少なくとも、上記の制御を行う制御部150(制御内容は適宜変更可能である。)を備えればよく、インダクタLu等の各種インダクタを備えても良いし、各MERS110、120、130や、整流器140等を備えなくても良い。
【0139】
本実施形態では、交流電圧が三相交流電圧であったが、交流電圧はこれに限らず、例えば、単相の交流電圧であってもよい。交流電圧が単相である場合の構成を、図10に示す。なお、図10に示す構成の各要素で、上記実施形態に対応する要素については、同じ名称として同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。電源21Bは、発電機20Bのうち、発電と、発電によって発生する単相交流電圧の出力とを行う部分から構成される。インダクタLは、発電機20Bのインダクタンス成分を表すものであり、交流電源21Bに直列に接続されている。第1MERS110は、インダクタLに接続されている。第1MERS110は、第1のオン状態、第2のオン状態、オフ状態に切り替わることによって、インダクタLに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて、昇圧を行う。図10では、第1MERS110への入力電圧がUV交流電圧から交流電源21Bからの単相交流電圧になっているが、制御部150が行う制御は、UV交流電圧を単相交流電圧に置き換えた制御になるだけで、実質的には殆ど変わらないため、制御の詳細は、上記説明に準じたものになる。なお、図10では、エンコーダ90、エンジン10、回転数測定器70、ECU80等が省略されている。
【0140】
また、本実施形態では、双方向スイッチ部の一例として、フルブリッジ型のMERSを用いた場合について説明したが、双方向スイッチ部は、第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と、第2の方向に電流が流れる第2のオン状態と、オフの状態であるオフ状態とに切り替わるスイッチ部であればよい。なお、第1のオン状態とは、例えば、第1の方向のみに電流を流す導通状態であり、第2のオン状態とは、例えば、第1の方向とは反対側の第2の方向のみに電流を流す導通状態であり、オフ状態とは、例えば、双方向スイッチ部の全てのスイッチがオフになる等した非導通状態である。
【0141】
その他の双方向スイッチ部としては、例えば、図11に示すような縦型の所謂ハーフブリッジ型のMERS210がある。なお、図11に示す構成の各要素で、上記実施形態に対応する要素については、同じ名称として同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。MERS210は、第1のオン信号が供給される第1の逆導通型スイッチSW1と、第2のオン信号が供給される第2の逆導通型スイッチSW2と、キャパシタCM1と、キャパシタCM2と、ダイオードD5乃至D6と、を備える。キャパシタCM1と、ダイオードD5とは、直列に接続され、キャパシタCM2と、ダイオードD6とは、直列に接続される。第1の逆導通型スイッチSW1とキャパシタCM1とは、接続点DCPを介して接続され、第1の逆導通型スイッチSW2とキャパシタCM2とは、接続点DCNを介して接続されている。キャパシタCM1と第1の逆導通型スイッチSW1とは、交流接続端子AC1と交流接続端子AC2との間に直列に接続されている。キャパシタCM2と第2の逆導通型スイッチSW2とは、交流接続端子AC1と交流接続端子AC2との間に直列に接続されている。キャパシタCM1及び第1の逆導通型スイッチSW1と、キャパシタCM1及び第2の逆導通型スイッチSW2とは、交流接続端子AC1と交流接続端子AC2との間に並列に接続されている。第1の逆導通型スイッチSW1は、ダイオードD1のアノードが交流接続端子AC1に接続され、カソードがキャパシタCM1に接続される向きで接続されている。第2の逆導通型スイッチSW2は、ダイオードD2のカソードが交流接続端子AC1に接続され、アノードがキャパシタCM2に接続される向きで接続されている。
【0142】
また、本実施形態では、三つの双方向スイッチ部の一例として、各線間にフルブリッジ型のMERSを用いた場合について説明したが、3相フルブリッジ型のMERSを三つの双方向スイッチ部として用いても良い。
【0143】
また、双方向スイッチ部は、MERSからキャパシタを除いたものや、オンとオフとに切り替わることによって、電流の流れる方向を制御する複数のスイッチからなる既知のスイッチ部であってもよい。ただし、この場合は、別途スナバー回路があることが好ましい。
【0144】
また、上記の制御内容は、適宜変更可能である。例えば、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間と、第1のオン状態の期間の開始タイミング及び第2のオン状態の期間の開始タイミングと、を、それぞれ複数回交互に行うようにして、昇圧後の電圧値を目標電圧値に近づけるように変化させてもよい。
【0145】
さらに、例えば、最初に第1のオン状態の期間の開始タイミング及び第2のオン状態の期間の開始タイミングと、を調整してから、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間を調整してもよい。
【0146】
さらに、例えば、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間を、互いに異なる期間としてもよい。また、交流電圧の正から負のゼロ交差時から、第1のオン状態の期間の開始タイミングまでの期間と、交流電圧の負から正のゼロ交差時から第2のオン状態の期間の開始タイミングまでの期間とを互い異なる期間としてもよい。
【0147】
昇圧後の電圧値が制御部150にフィードバックされ、このフォードバックに基づいて、前記期間と前記タイミングとを強調してフィードバック制御することにより(本実施形態の制御はその一例である)、精度の良い制御が行われている。特に、フォードバックされた昇圧後の電圧値と、目標値との差に応じた制御を行ってうことにより(本実施形態の制御はその一例である)、精度の良い制御が行われている。
【0148】
なお、目標値と比較される電圧値(つまり、昇圧電圧の電圧値)は、上記では、平滑後の直流電圧の電圧値であったが、昇圧直後の電圧の電圧値(例えば、実効値)や、整流後平滑前の電圧の電圧値(例えば、所定期間の平均値)等であってもよい。
【0149】
なお、上記実施形態のように、第1のオン状態の期間の開始タイミング及び第2のオン状態の期間の開始タイミングの変動幅を制限し、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間の変動幅を制限することより、より適切な昇圧が行われるが、変動幅の制限の具体的手法は、上記方法には制限されない。
【0150】
また、上記実施形態のように、第1のオン状態の期間の開始タイミング及び第2のオン状態の期間の開始タイミングと、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間とのいずれかを行うかの判別として、電圧値と目標値との差の絶対値と、所定値と、の比較がされているが、電圧値と目標値との差が正の時は、この差と第1の所定値と比較し、電圧値と目標値との差が負の時は、この差と第2の所定値と比較し、前記の判別を行っても良い。上記実施形態では、昇圧電圧の電圧値と目標値との差の絶対値が所定値より大きい場合に、前記の期間を変化させ、前記絶対値が前記所定値より小さい場合は前記のタイミングを変化させるが、昇圧電圧の電圧値と目標値との差の絶対値が所定値より大きい場合や、絶対値が所定値より小さい場合とは、結果的にそうなる場合のことであり、具体的な比較方法は任意である。
【0151】
また、上記実施形態では、平滑キャパシタCsの電圧(平滑後の電圧)をフィードバックして制御されていたが、各部における電流値又は電圧値を制御部150にフィードバックしてもよい。この場合には、制御部150は、前記平滑後の電圧に代えて、フィードバックによって取得する電流値又は電圧値に基づいて、上記処理等を行う。電流値や電圧値の取得は、例えば、上記実施形態と同様に、前記各部に応じて配置された電流計や電圧計を用いて行われる。なお、昇圧後の電圧の電圧値又は昇圧後の電圧に応じて流れる電流の電圧値をフィードバックすることが好ましい。
【0152】
また、上記実施形態では、エンコーダ90によって交流電圧(双方向スイッチ部への入力交流電圧)の位相角(特にゼロ交差点)を検知していた。しかし、負荷電流や負荷電圧あるいは双方向スイッチ部への入力電流又は入力電圧から、前記入力交流電圧の位相角や周期を算出してもよい。つまり、前記の位相角の検知の方法は、適宜の方法で行うことができる。
【0153】
なお、上述のように、位相角による電圧の変化はデューティ比の変化に比べ、制御対象である電圧の変化が少なく、また、PI制御によってゲート信号のオン信号の立ち上がり位相角は適した角度に自動的に調整される。そのため、実際の位相角と算出された位相角とに差異があったとしても、システム全体に致命的な欠陥とはならない。
【0154】
また、インダクタLu等の各種インダクタは、発電機20に接続された外部のインダクタであってもよい。
【0155】
また、上記で説明した各種逆導通型スイッチSW1等は、ダイオードとスイッチング素子とを並列に組み合わせた複数の素子からなってもよいし、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の他の逆導通型半導体スイッチあってもよい。
【0156】
また、本発明は、車両の冷蔵・冷凍庫以外の他の用途にも適用できる。本発明に係る昇圧装置は、交流電圧を昇圧するものであれば、どのような用途にも使用できる。
【0157】
なお、本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態や変形例は、本発明の実施例を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0158】
21 三相交流電源
21B 交流電源
110 第1MERS
120 第2MERS
130 第3MERS
150 制御部
210 MERS
L、Lu、Lv、Lw インダクタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧装置、昇圧方法、及び、プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記昇圧装置として、例えば、フルブリッジ型の磁気エネルギー回生スイッチ(MERS:Magnetic Energy Recovery Switch)を用いたものがある(例えば、特許文献1)。このような昇圧装置は、昇圧後の電圧の電圧値を取得し、取得した電圧値と、予め設定された目標値と、を比較し、比較した結果に応じて、MERSの状態を切り替える信号のデューティ比を調整する(フィードバック制御)。これによって、調整後に昇圧された昇圧後の電圧値は、目標値に近づく。このようなフィードバック制御の繰り返しにより、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧値は、徐々に目標値に近づき、目標値又は目標値近傍で安定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4478799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、特許文献1記載の昇圧装置では、デューティ比のみを調整して、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧を変化させている。デューティ比を変化させる変化度が大きいと、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧は大きく変化するので、前記昇圧後の電圧の電圧値を素早く目標値に近づけることができるが、前記昇圧後の電圧値を少し変化させて目標値に近づけることが難しいことがあった。つまり、この場合、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧を細かく変化させることが難しい。一方、デューティ比を変化させる変化度が小さいと、大きい場合とは逆に、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧の変化度が小さいために、前記昇圧後の電圧値を目標値に近づけるのに時間がかかった。
【0005】
このように、特許文献1記載の昇圧装置では、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧値を素早く目標値に近づけることと、前記昇圧後の電圧を細かく変化させて、前記昇圧後の電圧値を精度良く目標値に近づけることを両立することができなかった。
【0006】
本発明は、上記点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、昇圧後の電圧の電圧値を素早くかつ精度良く目標値に近づけることが出来る昇圧装置、昇圧方法、及び、プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかる昇圧装置は、
交流電圧を昇圧する昇圧装置であって、
第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と第2の方向に電流が流れる第2のオン状態とオフの状態であるオフ状態とに切り替わることで、インダクタに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて前記交流電圧を昇圧する双方向スイッチ部と、
前記交流電圧を昇圧するために、前記双方向スイッチ部の、前記第1のオン状態と前記第2のオン状態と前記オフ状態との切り替えを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記切り替えの制御において、前記交流電圧を昇圧した昇圧電圧の電圧値が予め設定された目標値になるように、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記交流電圧のゼロ交差時に対する、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる。
【0008】
前記目的を達成するため、本発明の第2の観点にかかる昇圧方法は、
第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と第2の方向に電流が流れる第2のオン状態とオフの状態であるオフ状態とに切り替わる双方向スイッチ部を用いた交流電圧を昇圧する昇圧方法であって、
インダクタに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて前記交流電圧を昇圧するために、前記双方向スイッチ部の、前記第1のオン状態と前記第2のオン状態と前記オフ状態とを切り替える昇圧ステップを含み、
前記昇圧ステップでは、前記交流電圧を昇圧した昇圧後の電圧値が目標値になるように、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる。
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の第3の観点にかかるプログラムは、
第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と第2の方向に電流が流れる第2のオン状態とオフの状態であるオフ状態とに切り替わる双方向スイッチ部を制御するコンピュータに、
インダクタに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて前記交流電圧を昇圧するために、前記双方向スイッチ部の、前記第1のオン状態と前記第2のオン状態と前記オフ状態とを切り替える昇圧ステップを行わせ、
前記昇圧ステップでは、前記交流電圧を昇圧した昇圧後の電圧値が目標値になるように、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、昇圧後の電圧の電圧値を素早くかつ精度良く目標値に近づけることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る昇圧装置の回路構成を示す図である。
【図2】図1の昇圧装置の第1MERSの回路構成を示す図である。
【図3】図1の昇圧装置のいずれか1つのMERSのスイッチ状態と、このMERSに印加される交流電圧と、の時系列関係を説明するための図である。
【図4】図1の昇圧装置のいずれか1つのMERSのスイッチ状態と、このMERSに印加される交流電圧と、の時系列関係を説明するための図である。
【図5】図1の昇圧装置の制御部が行う昇圧処理の一例のフローチャートである。
【図6】図1の昇圧装置のいずれか1つのMERSに供給される信号と、このMERSに印加される交流電圧と、の時系列関係を説明するための図である。
【図7】図5のフローチャートにおけるデューティ比のPI制御の詳細のフローチャートである。
【図8】図5のフローチャートにおける位相角のPI制御の詳細のフローチャートである。
【図9】図5の昇圧処理の回路シミュレーションの結果であり、昇圧後の電圧値、位相角、デューティ比、絶対値の時間変化の図である。
【図10】本発明の前記一実施形態の変形例の一例の回路構成を示す図である。
【図11】本発明の前記一実施形態のMERSの他の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る昇圧装置を図面を参照して説明する。本発明の一実施形態に係る昇圧装置100は、図1のように、エンジン10、発電機20、冷却システム30、回転数検出器70、ECU(Engine Control Unit)80、及び、エンコーダ90とともに、冷蔵・冷凍庫(冷蔵、及び、冷凍の少なくともいずれか一方の機能を有するもの)を搭載した車両1に搭載されている。
【0013】
エンジン10は、車両の車輪等に機械的に接続された回転軸を有し、回転軸を回転させることによって、車両1の車輪等を回転させ、車両1を走行させる。
【0014】
発電機20は、例えば、永久磁石を備える回転子と、この回転子の周囲に三相交流の各相に対応して配置された複数の発電コイルと、を備える永久磁石方式の誘導発電機である。回転子は、エンジン10の回転軸と機械的に接続され、エンジン10の回転軸の回転に同期して回転する。このような構成では、回転子が回転することによって、発電コイルに電流が流れるので、これによって、発電が行われる。つまり、発電機20は、エンジン10が出力する動力によって発電を行う。
【0015】
なお、発電機20は、発電によって電圧を発生させるが、この電圧は三相交流電圧であり、その各相(U相、V相、W相)の交流電圧の1周期は、例えば、回転子の回転角(本実施形態では、360°)に対応している。各相の交流電圧は、周波数が同じであり、その位相が120°ずつずれている。また、各相の交流電圧の波形の形(理想的には正弦波)は、略同じである。このため、或るタイミングにおける三相交流電圧の各相の交流電圧の位相は、回転子の回転角に基づいて求まる。例えば、回転角が0°のとき、U相の交流電圧の位相が0°だとすると、V相の交流電圧の位相は、−120°、W相の交流電圧の位相は、−240°である。
【0016】
等価回路的に見ると、発電機20は、図1のように、三相交流電源21と、第1インダクタLuと、第2インダクタLvと、第3インダクタLwと、を備える。
【0017】
三相交流電源21は、発電機20のうち、発電と、発電によって発生する三相交流電圧の出力とを行う部分から構成される。三相交流電源21は、三相交流電圧を出力する電圧源である。
【0018】
第1インダクタLuと第2インダクタLvと第3インダクタLwとのそれぞれは、発電機20内部のインダクタンス成分であり、それぞれが三相交流電源21に並列に接続されている。各インダクタLu、Lv、Lwは、それぞれ、三相交流電源21が出力する三相交流電圧の各相に対応し、例えば、発電機20が備える発電コイル等から構成される。第1インダクタLuには、三相交流電圧のU相が出力され、第2インダクタLvには、三相交流電圧のV相が出力され、第3インダクタLwには、三相交流電圧のW相が出力される。
【0019】
回転数検出器70は、エンジン10の回転軸の回転数を検出するためのものであり、エンジン10の回転数に応じた内容の回転数信号(例えば、回転数に応じた周波数のパルス信号)をECU80に供給する。
【0020】
ECU80は、車両1全体の電気的な制御を総合的に行うためのマイクロコントローラである。ECU80は、回転数検出器70から供給される回転数信号に基づいて、エンジン10の回転軸の、所定期間における回転数(つまり、所謂エンジン10、所定期間における回転数)を算出し、算出した回転数を後述の制御部150に供給する。
【0021】
エンコーダ90は、発電機20の回転子の回転角を検出するためのものである。エンコーダ90は、検出した回転角を制御部150に供給する。
【0022】
昇圧装置100は、発電機20と冷却システム30との間に接続される。昇圧装置100は、各インダクタLu、Lw、Lvを利用し、三相交流電源21が出力した三相交流電圧を昇圧する。また、昇圧装置100は、昇圧後の電圧を整流することによって、前記の昇圧後の電圧を直流電圧に変換して出力する。このようにして、昇圧装置100は、発電機20が発電する交流電力について、昇圧を行うとともに、直流電力への変換を行い、変換後の直流電力を冷却システム30に供給する。
【0023】
昇圧装置100は、第1MERS(磁気エネルギー回生スイッチ)110と、第2MERS120と、第3MERS130と、整流器140と、平滑キャパシタCsと、電圧計VMと、制御部150と、を備える。
【0024】
第1MERS110と第2MERS120と第3MERS130とは、接続点N1〜N3を介して互いに接続されている。各MERS110、120、130は、Δ(デルタ)結線を構成している。
【0025】
接続点N1〜N3は、それぞれ、接続点N4〜N6を介して、各インダクタLu、Lw、Lvのいずれかと接続されている。
【0026】
このため、第1MERS110(つまり、接続点N1、N2間)には、U相の交流電圧とV相の交流電圧との差をとった交流電圧(以下、UV交流電圧という。)が印加される。
【0027】
同様にして、第2MERS120(つまり、接続点N2、N3間)には、V相の交流電圧とW相の交流電圧との差をとった交流電圧(以下、VW交流電圧という。)が印加される。
【0028】
同様にして、第3MERS130(つまり、接続点N3、N1間)には、W相の交流電圧とU相の交流電圧との差をとった交流電圧(以下、WU交流電圧という。)が印加される。
【0029】
UV交流電圧、VW交流電圧、WU交流電圧は、それぞれ、各相の交流電圧と周期が同じで、振幅が各相の交流電圧の√3(ルート3)倍である。また、UV交流電圧は、U相の交流電圧に対して60度位相がずれており、VW交流電圧は、V相の交流電圧に対して60度位相がずれており、WU交流電圧は、W相の交流電圧に対して60度位相がずれている。
【0030】
ここで、上記MERSのうち、第1MERS110の回路構成を図2を参照して説明する。
【0031】
第1MERS110は、フルブリッジ型のMERSである。第1MERS110は、第1乃至第4の逆導通型スイッチSW1乃至SW4と、キャパシタCMと、接続点N11乃至N14とを備える。
【0032】
第1の逆導通型スイッチSW1は、等価回路的には、並列に接続された、スイッチ部S1とダイオードD1とから構成されている。第1の逆導通型スイッチSW1は、例えば、Nチャンネル型シリコンMOSFET(MOSFET:Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)等の逆導通型半導体スイッチである。スイッチ部S1は、例えば、Nチャンネル型シリコンMOSFETの自己消弧型素子の部分から構成されており、ダイオードD1は、Nチャンネル型シリコンMOSFETの寄生ダイオードの部分から構成されている。
【0033】
スイッチ部S1は、ゲート(制御端子)G1を備える。ゲートG1には、制御部150からゲート信号、つまり、オン信号又はオフ信号のいずれかが供給される。
【0034】
スイッチ部S1は、ゲートG1にゲート信号のうちのオン信号が供給されるとオンする。スイッチ部S1のオンは、第1の逆導通型スイッチSW1のオンでもある。スイッチ部S1は、オンによって、導通状態になり、ダイオードD1の両端を短絡させる。つまり、第1の逆導通型スイッチSW1は、オン信号が供給されてオンしたときに、導通状態になる。
【0035】
また、スイッチ部S1は、ゲートG1にゲート信号のうちのオフ信号が供給されるとオフする。スイッチ部S1のオフは、第1の逆導通型スイッチSW1のオフでもある。スイッチ部S1は、オフによって、非導通状態になる。つまり、第1の逆導通型スイッチSW1は、オフ信号が供給されてオフしたときに、ダイオードD1として機能する。
【0036】
第2乃至第4の逆導通型スイッチSW2乃至SW4は、それぞれが、第1の逆導通型スイッチSW1と同じ構成を持つ。スイッチ部S2乃至S4のそれぞれは、スイッチ部S1に対応し、ゲートG2乃至G4のそれぞれは、ゲートG1に対応し、ダイオードD2乃至D4のそれぞれは、ダイオードD1に対応する。そして、第2乃至第4の逆導通型スイッチSW2乃至SW4それぞれは、第1の逆導通型スイッチSW1と同様に、ゲート信号のうちのオン信号が供給されることによってオンしたときに導通状態になり、ゲート信号のうちのオフ信号が供給されることによってオフしたときにダイオードD2乃至D4それぞれとして機能する。
【0037】
第1の逆導通型スイッチSW1は、ダイオードD1の、アノードが接続点N11に接続され、カソードが接続点N12に接続される向きで、接続点N11と接続点N12との間に接続されている。
【0038】
第2の逆導通型スイッチSW2は、ダイオードD2の、アノードがN13に接続され、カソードが接続点N11に接続される向きで、接続点N11と接続点N13との間に接続されている。
【0039】
第3の逆導通型スイッチSW3は、ダイオードD3の、アノードが接続点N14に接続され、カソードがN12に接続される向きで、接続点N12と接続点N14との間に接続されている。
【0040】
第4の逆導通型スイッチSW4は、ダイオードD4の、アノードが接続点N13に接続され、カソードが接続点N14に接続される向きで、接続点N13と接続点N14との間に接続されている。
【0041】
キャパシタCMは、接続点N12と接続点N13との間に接続されている。接続点N11と接続点N14とは、それぞれ、外部と接続される。接続点N11は、交流接続端子AC1と接続されている。接続点N14は、交流接続端子AC2と接続されている。交流接続端子AC1は、接続点N1に接続され、交流接続端子AC2は、接続点N2に接続されている。
【0042】
第1MERS110が備える各逆導通型スイッチSW1乃至SW4それぞれのオンとオフとが切り替わることによって、第1MERS110は、第1のオン状態と、第2のオン状態と、オフの状態であるオフ状態と、に切り替わる。この切り替えは、制御部150の制御のもと行われる。つまり、制御部150は、第1MERS110が各状態になるように、各逆導通型スイッチSW1乃至SW4それぞれに、オン信号又はオフ信号を供給する。
【0043】
第1のオン状態とは、第1の方向に電流を流すことが可能な状態である。第1の方向は、本実施形態では、接続点N1(交流接続端子AC1)から接続点N2(交流接続端子AC2)へ向かう方向であって、第1インダクタLuに向かう方向と反対側の方向である。この方向は、U相の交流電圧が正のときに、電流が流れる向きである。本実施形態では、第1のオン状態とは、第1の逆導通型スイッチSW1と第4の逆導通型スイッチSW4とがオフであり、第2の逆導通型スイッチSW2と第3の逆導通型スイッチSW3とがオンの状態をいう。
【0044】
第2のオン状態とは、第1の方向と反対の第2の方向(本実施形態では、接続点N1から接続点N2へ向かう方向であって、第1インダクタLuに向かう方向)に電流を流すことが可能な状態である。この方向は、U相の交流電圧が負のときに、電流が流れる向きである。本実施形態では、第2のオン状態とは、第1の逆導通型スイッチSW1と第4の逆導通型スイッチSW4とがオンであり、第2の逆導通型スイッチSW2と第3の逆導通型スイッチSW3とがオフの状態をいう。
【0045】
オフ状態とは、本実施形態では、各逆導通型スイッチSW1乃至SW4のすべてがオフの状態をいう。オフ状態のとき、第1MERS110には、第1インダクタLuから流れる電流が少量流れるが、この電流は、整流器140に流れる電流よりも大幅に少ない。このため、この少量の電流は無視でき、第1MERS110は、オフ状態のときに非導通状態にあるとも言える。
【0046】
第2MERS120と第3MERS130とは、それぞれ、第1MERS110と同じ回路構成である。つまり、第2MERS120の回路構成及び第3MERS130の回路構成は、図2及び上記説明で説明される。以下では、第1MERS110の各構成要素にそれぞれ対応する第2MERS120の各構成要素の符号は、第1MERS110の場合と同じものを使用する。以下では、第1MERS110の各構成要素にそれぞれ対応する第3MERS130の各構成要素の符号は、第1MERS110と同じものを使用する。
【0047】
なお、第2MERS120では、交流接続端子AC1はN2に接続され、交流接続端子AC2はN3に接続されている。また、第3MERS130では、交流接続端子AC1はN3に接続され、交流接続端子AC2はN1に接続されている。
【0048】
第2MERS120及び第3MERS130も、第1MERS110と同様にして、制御部150の制御のもと、第1のオン状態と、第2のオン状態と、オフ状態と、に切り替わる。第2MERS120では、第1の方向は、端子N2からN3に向かう方向であり、第2インダクタLvに向かう方向と反対の方向であり、さらに、この方向は、V相の交流電圧が正のときに、電流が流れる向きである。第2の方向は、第1の方向と反対の方向である。第3MERS130では、第1の方向は、端子N3からN1に向かう方向であり、第3インダクタLwに向かう方向と反対の方向であり、さらに、この方向は、W相の交流電圧が正のときに、電流が流れる向きである。第2の方向は、第1の方向と反対の方向である。第2MERS120及び第3MERS130も、オフ状態のときに少量の電流が流れるが、オフ状態の第2MERS120及び第3MERS130は、非導通状態にあるとも言える。
【0049】
なお、詳しくは後述するが、各MERS110、120、130が、それぞれ、第1のオン状態と、第2のオン状態と、オフ状態と、にそれぞれのタイミングで切り替わる。これによって、各インダクタLu、Lv、Lwそれぞれは、磁気エネルギーを蓄え、放出する。例えば、第1MERS110が第1のオン状態又は第2のオン状態になっているとき、電流は、第1MERS110を通り、第1インダクタLuに磁気エネルギーが蓄えられる。一方で、その後に第1MERS110がオフ状態になることで、電流の大部分は、整流器140の方に流れ、第1インダクタLuの磁気エネルギーが放出される。この放出によって昇圧が行われる。他のMERS120、130も同様の原理で電圧を昇圧する。このようにして、三相交流電源21が出力する三相交流電圧が昇圧される。なお、各MERS110、120、130それぞれは、制御部150の制御のもと、オフ状態、第1のオン状態、オフ状態、第2のオン状態の順に繰り返し切り替わる。
【0050】
以上、説明したように、図1及び図2のように接続された、第1MERS110と第2MERS120と第3MERS130と第1インダクタLuと第2インダクタLvと第3インダクタLwとは、三相交流電源21が出力する三相交流電圧を昇圧する昇圧回路を構成する。
【0051】
図1の説明に戻り、整流器140は、昇圧回路の後段に配置されている。整流器140には、各インダクタLu、Lv、Lwが並列に接続されるともに、各MERS110、120、130により構成されたΔ結線に、接続点N4乃至N6を介して接続される。
【0052】
前記の昇圧回路で昇圧された電圧は、整流器140に入力される。整流器140は、三相交流用の公知のダイオードブリッジ等を含み、入力される電圧を整流する。整流器140は、出力用の+端子と−端子を含み、整流された直流電圧は、+端子をプラス側、−端子をマイナス側として、+端子と−端子から出力される。
【0053】
平滑キャパシタCsは、整流器140の+端子と−端子とに、接続点N9a及びN9bを介して接続され、整流器140から出力される直流電圧を平滑化する。
【0054】
電圧計VMは、整流器140の直流電圧を計測するためものであり、平滑キャパシタCsの後段に配置され、平滑キャパシタCsと並列に、整流器140の+端子と−端子とに接続点N10a及びN10bを介して接続されている。
【0055】
電圧計VMは、直流電圧の電圧値(つまり、接続点N10aと接続点N10bとの間の電圧値)を検出し、検出した電圧値を表す信号を電圧検出信号として、制御部150に供給する。
【0056】
制御部150は、CPU(Central Processing Unit)151と、RAM(Random Access Memory)152と、ROM(Read Only Memory)153と、入出力部154と、を備える。制御部150は、後述の昇圧処理を行う。この昇圧処理は、後述の昇圧制御処理と、後述の昇圧調整処理と、を含む。
【0057】
CPU151は、ROM153が記憶するプログラムに従って、所定のデータを用いて制御部150が行う後述の昇圧処理を実行する。RAM152は、CPU151のメインメメモリとして機能する。ROM153は、プログラムや、下記の処理で制御部150に使用される各種データを記憶する。CPU151は、下記の処理を、ROM153が記憶するデータを適宜用いて行うものとする。入出力部154は、各種ポートから構成される。制御部150の外部から供給されるデータ(回転数、回転角等)は、入出力部154から入力し、CPU151に供給される。また、CPU151は、下記の処理中において、入手力部154を介して、前記オン信号と前記オフ信号とのいずれかを、各MERSの各逆導通型スイッチのそれぞれに供給する。
【0058】
制御部150は、前記オン信号及び前記オフ信号の供給によって、各MERS110、120、130が備える、各逆導通型スイッチのオンとオフとを制御し、各MERS110、120、130を、独立に、第1のオン状態と第2のオン状態とオフ状態とのいずれかに切り替えて、前記の昇圧回路に昇圧動作を行わせる(昇圧制御処理)。
【0059】
本実施形態では、制御部150は、第1MERS110を制御し、第1MERS110をオフ状態から、UV交流電圧が正の期間中に第1MERS110を一時的に、1回だけ、第1のオン状態にし、UV交流電圧が負の期間中に第1MERS110を一時的に、1回、第2のオン状態にする(図3参照)。制御部150は、UV交流電圧の正負の移り変わりに合わせて、このような制御を繰り返す。
【0060】
同様に、制御部150は、第2MERS120をオフ状態から、VW交流電圧が正の期間中に第2MERS120を一時的に、1回だけ、第1のオン状態にし、VW交流電圧が負の期間中に第2MERS120を一時的、1回だけ、に第2のオン状態にする(図3参照)。制御部150は、VW交流電圧の正負の移り変わりに合わせて、このような制御を繰り返す。
【0061】
同様に、制御部150は、第3MERS130をオフ状態から、WU交流電圧が正の期間中に第3MERS130を一時的に、1回だけ、第1のオン状態にし、WU交流電圧が負の期間中に第3MERS130を一時的、1回だけ、に第2のオン状態にする(図3参照)。制御部150は、WU交流電圧の正負の移り変わりに合わせて、このような制御を繰り返す。
【0062】
制御部150は、現在が、UV交流電圧、VW交流電圧、WU交流電圧それぞれの正負の期間のどの時点であるかを、エンコーダ90から供給される回転角に基づいて特定する。上述のように、UV交流電圧、VW交流電圧、WU交流電圧は、いずれも三相交流電圧の各相のうちの二つの相の交流電圧の差であり、各相の交流電圧の位相は、回転角から求まる。このため、或るタイミングでの回転角から、その或るタイミングがUV交流電圧、VW交流電圧、WU交流電圧の正負の期間のどの時点であるかも分かる。
【0063】
制御部150は、例えば、現在が、UV交流電圧、VW交流電圧、WU交流電圧それぞれの正負の期間のどの時点であるかの特定を、ROM153が予め記憶するテーブル(例えば、回転角とUV交流電圧(又は、VW交流電圧、WU交流電圧)における正負の期間の時点とのテーブル)を参照し、供給される回転角に基づいて行うか、ROM153が予め記憶する算出式に回転角を代入して前記の特定を行う。
【0064】
また、制御部150は、電圧検出信号に基づいて、直流電圧の電圧値を算出する。制御部150は、例えば、電圧検出信号にローパスフィルターをかけて、高周波成分を取り除いた信号から直流電圧の電圧値を算出する。本実施形態では、このようにして、平滑キャパシタCsで平滑された平滑後の直流電圧(昇圧電圧)の電圧値(昇圧後の電圧値)を取得する。
【0065】
制御部150は、取得した電圧値に基づいて、これからの昇圧によって得られる昇圧後の電圧値が、制御部150に予め設定された目標値になるように、各MERS110、120、130それぞれについて、図4のように、第1のオン状態にするタイミング(図4の「切替時」参照)及び期間(第1のオン状態の終期)、第2のオン状態にするタイミング(図4の「切り替え時」参照)及び期間(第2のオン状態の終期)を変化させる(図4参照)。このように、制御部150には、昇圧後の電圧値がフィードバックされ、制御部150は、フィードバックされた電圧値に基づいて、所謂フィードバック制御を行い、昇圧後の電圧値を時系列に沿って徐々に変化させて、目標値に近づける(昇圧調整処理)。本実施形態では、目標値は、後述の電動圧縮機32を駆動するために必要な電圧値等であり、予め任意に決められた値である。そして、目標値は、ROM153が記憶しているものとする。
【0066】
第1のオン状態及び第2のオン状態の期間が長ければ長いほど、昇圧後の電圧値は高くなるが(前記昇圧回路での昇圧の度合いが大きくなるが)、長すぎると、逆に昇圧後の電圧値は低くなる(前記昇圧回路での昇圧の度合いが小さくなる)。また、UV交流電圧、VW交流電圧、WU交流電圧それぞれの、電圧値が負から正へ変化するときのゼロ交差時(図4)を基準とした、第1のオン状態に切り替えるタイミング(図4中の「切替時」)、及び、電圧値が正から負へ変化するときのゼロ交差時(図4)に対する、第2のオン状態に切り替えるタイミング(図4中の「切替時」)が、遅ければ遅いほど、昇圧後の電圧値は高くなるが、遅すぎると、逆に昇圧後の電圧値は低くなる。
【0067】
制御部150は、このようなことが考慮されたプログラムに従って、第1のオン状態にするタイミング及び期間、第2のオン状態にするタイミング及び期間が最適になるように、これらを調整し、時系列的に見て新たに昇圧して順次得られる昇圧後の電圧値を前記の目標値に近づかせる昇圧調整処理を行う。
【0068】
なお、第1のオン状態及び第2のオン状態の期間を変化させる第1の場合と、第1のオン状態にするタイミング及び第2のオン状態にするタイミングを変換させる第2の場合とでは、同じ時間だけ変化させた場合に、第1の場合の方が、昇圧後の電圧値が大きく変化する。このため、制御部150は、昇圧調整処理において、昇圧後の電圧値と前記の目標値との差が所定の閾値以上の場合(つまり、差が大きい場合)には、第1のオン状態及び第2のオン状態の期間を変化させ、昇圧後の電圧値と前記の目標値との差が前記所定の閾値以下の場合(つまり、差が小さい場合)には、第1のオン状態にするタイミング及び第2のオン状態にするタイミングを変化させる。
【0069】
また、制御部150は、ECU80から供給され、取得した回転数が所定の回転数を超えたと判別した場合に、エンジン10が定常運転になったと判別し、この判別の判別結果に応じて、昇圧制御処理を停止する(つまり、昇圧を停止する)。前記所定の回転数は、エンジン10が定常状態になっているときの最低限の回転数であって、ROM153に予め記憶されているものとする。
【0070】
図1の冷却システム30は、インバータ回路INVと、導管31と、電動圧縮機32と、凝縮器33と、膨張弁34と、蒸発器35と、を備える。冷却システム30は、冷蔵・冷凍庫の庫内を冷却する。
【0071】
インバータ回路INVには、昇圧装置100が出力する直流電圧が印加される。インバータ回路INVは、所定のスイッチング素子を含む公知の回路構成からなり、スイッチング素子のオンとオフとの切り替わりによって、印加される直流電圧を三相交流電圧に変換し、変換後の三相交流電圧を電動圧縮機32に出力する。つまり、インバータ回路INVは、昇圧装置100から供給される直流電力を三相交流電力に変換し、電動圧縮機32に供給する。
【0072】
導管31内には、熱を運ぶ冷媒(気体又は液体)が流れる。冷媒は、電動圧縮機32から導管31内を流れ、膨張弁34に到達し、膨張弁34から導管31内を流れ電動圧縮機32に戻る。
【0073】
電動圧縮機32は、導管31の途中に配置され、インバータ回路INVから供給される三相交流電力によって動作する。電動圧縮機32は、前記冷媒を圧縮し、高温高圧にして凝縮器33側へ送り出す。電動圧縮機32としては、容積式や遠心式がある。
【0074】
凝縮器33は、熱交換器である。凝縮器33は、導管31の一部(冷蔵・冷凍庫の庫外に露出した部分)を囲むように配置される。凝縮器33は、電動圧縮機32が高温高圧にして送り出した、導管31内の冷媒を液化させる。凝縮器33は、この液化に伴って冷媒から発せられる熱を冷蔵・冷凍庫の庫外へ放出する。
【0075】
膨張弁34は、導管31の途中に形成され、導管31内を流れる冷媒を急激に膨張させ、冷媒を低温低圧の状態にし、蒸発器35側へ送り出す。
【0076】
蒸発器35は、熱交換器であり、導管31の一部(冷蔵・冷凍庫の庫内に露出した部分)を囲むように配置され、冷蔵・冷凍庫の庫内の熱を吸収して導管内の冷媒を蒸発させる。この熱の吸収によって、冷蔵・冷凍庫の庫内は冷却される。
【0077】
上記で説明した構成では、エンジン10が始動すると回転軸が回転し、発電機20の回転子が回転軸の回転に伴って回転するので、発電機20で発電が行われる。この発電によって、三相交流電源21から三相交流電圧が出力される。制御部150は、昇圧制御処理を行い、三相交流電圧を昇圧する。
【0078】
三相交流電源21から出力された三相交流電圧は、各インダクタLu、Lv、Lw、及び、昇圧制御処理を行う制御部150に制御される各MERS110、120、130から構成される昇圧回路によって昇圧される。昇圧回路によって昇圧された電圧は、整流器140に供給され、整流器140で整流され、その後に平滑キャパシタCsで平滑化され、冷却システム30に出力される。
【0079】
そして、冷却システム30は、冷媒を、平滑後の電圧が印加され電力が供給される電動圧縮機32によって圧縮し、その後、凝縮器33によって液化させ、その後、膨張弁34によって圧縮し、その後、蒸発器35によって蒸発させる。冷却システム30は、このような流れを繰り返すことによって、庫内の熱を冷媒を介して庫外に放出する。これによって、冷蔵・冷凍庫は、その本来の機能を発揮する。
【0080】
一方、ECU80は、回転数測定器70を用いて、エンジン10の回転数を測定し、測定した回転数を制御部150に供給する。制御部150は、供給された回転数が所定の回転数以上であれば、冷却システム30の運転に必要な十分な電圧が発電機20から出力されているとして、昇圧制御処理を停止する。制御部150は、各MERS110、120、130に含まれる各逆導通型スイッチ全てにオフ信号を供給してオフにする。
【0081】
一般に、エンジンスタート時やアイドリング時等のエンジン10の回転数が低いとき、回転子の回転数も低いので発電機20が発生する電圧は低く、また、電圧値も安定していない。一方で、エンジン10の回転数が高くなると、回転子の回転数も高くなり、発電機20が発生する電圧も高く、また、電圧値も安定する。
【0082】
前記で制御部150に供給された回転数が前記所定の回転数以上であれば、発電機20が発生する電圧も高く、また、電圧値も安定しているので、三相交流電源21が出力する電圧を昇圧する必要はない。
【0083】
制御部150は、エンジン10の回転数が所定回数以上である場合に、各MERS110、120、130を停止するので、制御部150の余計な処理負担が軽減される。また、各MERS110、120、130に流れる電流も最小限にできるので、電力の損失も最小限にできる。
【0084】
また、制御部150は、昇圧調整処理を行い、目標値と昇圧後の電圧値との差が大きい場合には、各MERS110、120、130の第1及び第2のオン状態の期間を変化させ、これから昇圧して生成される昇圧後の電圧値を大きく変化させる。また、制御部150は、目標値と電圧値との差が小さい場合には、各MERS110、120、130の第1及び第2のオン状態に切り替えるタイミング(ゼロ交差時を基準としたタイミング)を変化させ、これから昇圧して生成される昇圧後の電圧値を小さく変化させる。
【0085】
このような制御部150の処理によって、例えば、電圧値(実効値)の低い三相交流電圧(例えば、エンジン10始動時の電圧)を昇圧する場合、第1及び第2のオン状態の期間を変化させて、平滑後の直流電圧(昇圧後の電圧)の電圧値を大きく変化させて、目標値に素早くある程度まで近づけ、前記の切り替えるタイミングを変化させて、昇圧後の電圧を細かく変化させて昇圧後の電圧値を目標値に精度良く近づけることができる。これによって、順次昇圧されて得られる昇圧後の電圧を素早くかつ精度良く目標値(目標電圧)に近づけることが出来る。
【0086】
次に、制御部150が行う昇圧処理の一例について、図5を参照して説明する。この処理は、車両1のエンジン10が始動することを契機として開始される。例えば、制御部150は、ECU90から供給される回転数が0より大きくなった場合に、昇圧処理を開始する。制御部150は、ECU90から供給される回転数が0になった場合に、昇圧処理を終了する。なお、下記で使用される、制御部150に設定されている各種初期値、各種設定値、各種所定値等の各種データは、本実施形態では、制御部150のROM153に記録され、制御部150は、ROM153に記録されたデータを下記の処理中に使用する。
【0087】
制御部150は、まず、この昇圧処理において使用される各種変数を初期設定し、昇圧制御処理をスタートする(ステップS101)。
【0088】
初期設定については、具体的には、下記のように変数の初期値が設定されることによって、各種変数が初期設定される。
・カウント値:Ctr=0
・目標値Vtと電圧値との差の絶対値errの目標値Vtに対する割合er(err/Vt)の最小値:min_er=2.0
・デューティ比duty_i:0.0
・位相角angle_i:0.1
【0089】
デューティ比duty_iは、各MERS110、120、130のゲートG2及びゲートG3に供給するオン信号(以下、第1のオン信号、図6参照)についてのデューティ比である第1のデューティ比と、各MERS110、120、130のゲートG1及びゲートG4に供給するオン信号(以下、第2のオン信号、図6参照)についてのデューティ比である第2のデューティ比と、である。つまり、本実施形態では、第1のオン状態の期間と、第2のオン状態の期間と、は同じ期間であり、各MERS110、120、130について同じである。
【0090】
第1のデューティ比は、第1のオン信号の期間/(第1のオン信号の期間+第1のオフ信号の期間)である。第1のオフ信号は、ゲートG2及びゲートG3に供給するオフ信号である。本実施形態では、第1のオン状態の期間が、このデューティ比によって表されている。
【0091】
第2のデューティ比は、第2のオン信号の期間/(第2のオン信号の期間+第2のオフ信号の期間)である。第2のオフ信号は、ゲートG1及びゲートG4に供給するオフ信号である。本実施形態では、第2のオン状態の期間が、このデューティ比によって表されている。
【0092】
位相角angle_iは、第1のオン信号の立ち上がりの位相角である第1の位相角と、第1のオン信号の立ち上がりの位相角である第2の位相角とである(図6参照)。つまり、本実施形態では、第1の位相角と、第2の位相角と、は同じ角度であり、各MERS110、120、130について同じである。
【0093】
第1の位相角は、各MERS110、120、130について、入力電圧(UV交流電圧、VW交流電圧、又はWU交流電圧)の正から負へのゼロ交差時から、第1のオン信号を供給するタイミング(切替時)までの位相角である。本実施形態では、各MERS110、120、130をオフ状態から第1のオン状態に切り替えるタイミング(ここでは、特に、前記ゼロ交差時を基準としたタイミング)が、この位相角によって表されている。
【0094】
第2の位相角は、各MERS110、120、130について、入力電圧の負から正へのゼロ交差時から、第2のオン信号を供給するタイミング(切替時)までの位相角である。本実施形態では、各MERS110、120、130をオフ状態から第1のオン状態に切り替えるタイミング(ここでは、特に、前記ゼロ交差時を基準としたタイミング)が、この位相角によって表されている。
【0095】
また、制御部150は、ステップS101以降、本処理と並行して、各MERS110、120、130それぞれに対して、初期値に設定されているデューティ比duty_iと位相角angle_iとを満たすタイミングで、第1のオン信号、第1のオフ信号、第2のオン信号、第2のオフ信号を供給することを開始する(昇圧制御処理の開始)。つまり、第1のオン信号及び第2のオン信号のデューティ比は、デューティ比duty_iであり、立ち上がりの位相角は、位相角angle_iである。これによって、各MERS110、120、130が、制御部150の制御のもと、第1のオン状態と、第2のオン状態と、オフ状態とに切り替わり(詳しくは、図3等、上記説明を参照)、三相交流電源21が出力する三相交流電圧の昇圧が開始される。なお、デューティ比duty_iの初期値は、0なので、デューティ比duty_iの値が変更されるまでは、実質的に昇圧は行われない。
【0096】
そして、制御部150は、ステップS102以降の処理を開始する。このステップS102以降の処理が、昇圧調整処理に該当する。つまり、制御部150は、昇圧調整処理を開始する。
【0097】
制御部150は、ステップS102において、平滑後の直流電圧の電圧値を取得し(ステップS102)、取得した電圧値と、予め設定されている電圧の目標値(上記参照)Vtとの差の絶対値errの、目標値Vtに対する割合er(=err/Vt)を算出する(ステップS103)。通常、前記の取得した電圧値は、0以上の値になるので、この割合erは1.0以下になる。
【0098】
次に、制御部150は、エンジン10が定常状態であるかの判別を行う(ステップS104)。本実施形態では、制御部150は、ECU80から供給される回転数と前記の所定の回転数との比較によって、この判別を行う。制御部150は、供給された回転数が所定の回転数を超えていれば、エンジン10は定常状態であると判別し(ステップS104;YES)、所定の回転数以下であれば、エンジン10は定常状態でないと判別する(ステップS104;NO)。
【0099】
制御部150は、エンジン20が定常状態であると判別した場合(ステップS104;YES)には、各MERS110、120、130の、全ての逆導通型スイッチへオフ信号を供給し続けることによって、昇圧制御処理を停止する(ステップS106)。これによって、制御部150の余計な処理負担が軽減される。また、各MERS110、120、130に流れる電流も最小限にできるので、電力の損失も最小限にできる。なお、オフ信号は、基本的に電圧が0Vの信号であるので、オフ信号を供給し続けることは、つまり、オン信号の供給の停止でもある。
【0100】
ステップS106の処理において、すでに、各MERS110、120、130がオフになっている場合には、制御部150は、その状態を維持するものとする。
【0101】
制御部150は、エンジン10は定常状態でないと判別した場合(ステップS104;NO)に、カウンタ値Ctrに1をプラスする(ステップS105)。つまり、カウンタ値を1上げる。このカウント値は、処理回数をカウントしたものである。
【0102】
なお、制御部150は、ステップS104でNOと判別したときに、昇圧制御処理を停止している場合には、昇圧制御処理を再開する(オン信号の供給を再開する)。このとき、デューティ比duty_iと位相角angle_iとは、ステップS101のように初期化されてもよいし、停止直前のものであってもよい。
【0103】
次に、制御部150は、カウンタ値Ctrと、予め設定されている設定値Ctr0と、が同じ数値であるかを判別する(ステップS107)。設定値Ctr0は、ここでは、50である。設定値Ctr0は、割合erと、最小値min_erとの比較のタイミングを規定するものである。
【0104】
制御部150は、カウンタ値Ctrと設定値Ctr0とが同じでないと判別した場合(ステップS107;NO)、ステップS111の処理を行う。
【0105】
制御部150は、カウンタ値Ctrと設定値Ctr0とが同じであると判別した場合(ステップS107;YES)、設定値Ctr0を初期値である0に戻す(ステップS108)。これによって、新たなカウントがこれ以降始まる。
【0106】
次に、制御部150は、ステップS103で算出した割合erが、最小値min_er以下であるかを判別する(ステップS109)。なお、上記のように、割合erは、通常1.0以下の値になるので、本処理における最初のステップS109での判別は、通常「YES」になる。
【0107】
制御部150は、割合erが最小値min_er以下であると判別した場合(ステップS109;YES)、最小値min_erを割合erの値にし(ステップS110)、ステップS111の処理を行う。これによって、最小値min_erの値が更新される。このような更新によって、制御部150には、昇圧後の電圧値が目標値Vtに最も近づいたときの割合erが保持される。
【0108】
制御部150は、割合erが最小値min_er以下でないと判別した場合(ステップS109;YES)、ステップS111の処理を行う。
【0109】
制御部150は、ステップS111において、割合erが所定値erl以上、かつ、割合erが最小値min_er以下であるかを判別する(ステップS111)。割合erが最小値min_er以下であるかは、つまり、直近のステップS109で、YESを判別されたかどうかと同じ意味である。
【0110】
ここで、所定値erlは、予め任意に制御部150に設定されている値である。所定値erlは、その後に、デューティ比duty_iを変化させるか位相角angle_iを変化させるかを特定するために規定される値である。
【0111】
なお、割合erが最小値min_er以下でない場合、今回の絶対値が、過去の絶対値の最小値よりも大きくなってしまっているということなので、時系列的に変化する昇圧後の電圧値が目標値Vtに一度近づき、その後に遠ざかっていることになる。このように、割合erが最小値min_er以下であるかの判別は、過去に比べて、現在の昇圧後の電圧値が目標値Vtに最も近づいた値であるかの判別でもある。
【0112】
制御部150は、割合erが所定値erl以上、かつ、割合erが最小値min_er以下である場合(ステップS111;YES)、つまり、現在の絶対値が大きく、かつ、電圧値が過去に比べて最も目標値Vtに近い場合には、デューティ比duty_iを制御して、これから昇圧して得られる昇圧後の電圧値を大きく変化(増加)させる必要があるので、ステップS112に進む。
【0113】
制御部150は、ステップS112において、デューティ比duty_iのPI(Proportional Integral)制御を行い、その後に、ステップS102の処理に戻る。
【0114】
ここで、デューティ比duty_iのPI制御の一例を図7を参照して説明する。なお、制御部150には、デューティ比duty_iの取り得る値の最小値duty_min及び最大値duty_maxが設定されている。上述のように、第1のオン状態及び第2のオン状態の期間が長くなれば、つまり、デューティ比duty_iが大きくなれば昇圧後の電圧値は大きくなるが、デューティ比duty_iが大きすぎると逆に昇圧後の電圧値は下がってしまう。このため、昇圧後の電圧値を目標値Vtに到達させるためには、デューティ比duty_iの取り得る値は限定される。本実施形態では、このようなことが考慮され、好適な最小値duty_min及び最大値duty_maxが設定されているものとする。
【0115】
制御部150は、まず、ステップS102で取得した電圧値と、前記の目標値Vtとを比較し、比較結果に基づいて、現在制御部150が各MERS110、120、130に供給している各信号についての現在のデューティ比duty_iを仮想的に変化させる(ステップS201)。このとき、位相角angle_iは、現在のもので固定されている。制御部150は、PI制御によってデューティ比duty_iを変化させる。前記の電圧値が目標値Vtよりも小さい場合には、昇圧後の電圧値を目標値Vtに近づけるため、現在のデューティ比duty_iを大きくし、前記の電圧値が目標値Vt以上の場合には、現在のデューティ比duty_iを小さくする。なお、ステップS201は、仮想的にデューティ比duty_iを変化させるのみで、実際の第1乃至第2のデューティ比は変化させない。
【0116】
次に制御部150は、仮想的に変化させた後のデューティ比duty_iが最大値duty_max以下であるかを判別する(ステップS202)。デューティ比duty_iが最大値duty_max以下でない場合(ステップS202;NO)、制御部150はデューティ比duty_iを最大値duty_maxの値にして(ステップS203)、ステップS206の処理に進む。制御部150は、デューティ比duty_iが最大値duty_max以下である場合(ステップS202;YES)、ステップS204の処理に進む。
【0117】
制御部150は、ステップS204において、変化させたデューティ比duty_iが最小値duty_min以上であるかを判別する。デューティ比duty_iが最小値duty_min以上でない場合(ステップS204;NO)、制御部150はデューティ比duty_iを最小値duty_minの値にして(ステップS205)、ステップS206の処理に進む。制御部150は、デューティ比duty_iが最小値duty_min以上である場合(ステップS204;YES)、ステップS206の処理に進む。
【0118】
制御部150は、ステップS206において、デューティ比duty_iを新たな設定値duty_i0として、記憶し、制御部150が昇圧制御処理において現在供給している第1のオン信号の第1のデューティ比と、第2のオン信号の第2のデューティ比とを、duty_i0に更新し(ステップS207)、ステップS113の処理を終了する。このとき、位相角angle_iは変化させない。これ以降の昇圧制御処理におけるデューティ比duty_iの値は、このduty_i0の値になる。
【0119】
上記のようなPI制御により、仮想的なデューティ比duty_iが、最小値duty_minよりも小さかったり、最大値duty_maxよりも大きかったりした場合には、デューティ比duty_iが、最小値duty_min又は最大値duty_maxに補正される。このため、制御部150によって、デューティ比duty_iの値は、昇圧に適した範囲の値で制御されるので、好適な昇圧が行われることになる。
【0120】
図5のフローチャートに戻り、制御部150は、割合erが所定値erl以上でないか、あるいは、割合erが最小値min_er以下でない場合(ステップS111;NO)、つまり、現在の絶対値が小さいか、現在の昇圧後の電圧値よりも過去の電圧値の方が目標値Vtに近い場合には、位相角angle_iを制御して、昇圧後の電圧値を小さく変化させる必要があるので、ステップS113に進む。
【0121】
制御部150は、ステップS113において、位相角angle_iのPI制御を行い、その後に、ステップS102の処理に戻る。
【0122】
ここで、位相角angle_iのPI制御の一例を図8を参照して説明する。なお、制御部150には、位相角angle_iの取り得る値の最小値angle_min(ここでは、特に「0」である)及び最大値angle_maxが設定されている。上述のように、第1のオン状態及び第2のオン状態の切り替えタイミングが遅くなれば、つまり、位相角angle_iが大きくなれば昇圧後の電圧値は大きくなるが、位相角angle_iが大きすぎると逆に昇圧後の電圧値は下がってしまう。このため、昇圧後の電圧値を目標値Vtに到達させるためには、位相角angle_iの取り得る値は限定される。本実施形態では、このようなことが考慮され、好適な最小値angle_min及び最大値angle_maxが設定されているものとする。
【0123】
制御部150は、まず、ステップS102で取得した電圧値と、前記の目標値Vtとを比較し、比較結果に基づいて、現在制御部150が各MERS110、120、130に供給している各信号についての位相角angle_iを、仮想的に変化させる(ステップS301)。このとき、デューティ比duty_iは、現在の昇制御処理におけるデューティ比duty_iである。制御部150に、すでにduty_i0が記憶されている場合には、デューティ比duty_iはduty_i0の値になる。制御部150は、PI制御によって位相角angle_iを変化させる。前記の電圧値が目標値Vtよりも小さい場合には、その後の昇圧で得られる昇圧後の電圧値を目標値Vtに近づけるため、現在の位相角angle_iを大きくし、前記の電圧値が目標値Vt以上の場合には、現在の位相角angle_iを小さくする。なお、ステップS301は、仮想的に位相角angle_iを変化させるのみで、実際の第1乃至第2の位相角は変化させない。
【0124】
次に制御部150は、変化させた位相角angle_iが最大値angle_max以下であるかを判別する(ステップS302)。位相角angle_iが最大値angle_max以下でない場合(ステップS302;NO)、上記ステップS112の処理を行う。制御部150は、位相角angle_iが最大値angle_max以下である場合(ステップS302;YES)、ステップS304の処理に進む。
【0125】
制御部150は、ステップ304において、変化させた位相角angle_iが最小値angle_min以上であるかを判別する。位相角angle_iが最小値angle_min以上でない場合(ステップS304;NO)、上記ステップS112(デューティ比のPI制御)の処理を行う。制御部150は、位相角angle_iが最大値angle_max以下である場合(ステップS304;YES)、ステップS306の処理に進む。
【0126】
制御部150は、duty_i0を記憶している場合には、ステップ306において、制御部150が昇圧制御処理において現在供給している第1のオン信号の第1のデューティ比及び第2のオン信号の第2のデューティ比、つまり、デューティ比duty_iを、duty_i0の値に更新し、ステップS113の処理を終了する。これ以降のデューティ比duty_iは、duty_i0の値になる。
【0127】
さらに、制御部150は、ステップ307において、制御部150が昇圧制御処理において現在供給している第1のオン信号の第1の位相角と、第2のオン信号の第2の位相角とを、位相角angle_iに更新し、ステップS113の処理を終了する。これ以降の位相角angle_iの値は、ステップS301で仮想的に変化させた後の位相角angle_iの値になる。
【0128】
上記のようなPI制御により、仮想的な位相角angle_iが、最小値angle_minよりも小さかったり(ステップS304;NO)、最大値angle_maxよりも大きかったり(ステップS302;NO)した場合には、位相角angle_iを変化させることができないので、再度デューティ比duty_iの制御(ステップS112)を行うことが出来る。そして、位相角angle_iは、適切な値の幅で変化することになるので、このため、制御部150によって、好適な昇圧が行われることになる。
【0129】
図1のような回路構成において、上記昇圧処理を行った回路シミュレーションの結果を図9に示す。なお、この回路シミュレーションでは、三相交流電源21から出力される三相交流電圧の電圧値(実効値)を190Vとし、平滑キャパシタCsで平滑化された後の直流電圧の電圧値(昇圧後の電圧値)Vdcの目標値Vtを280Vとして、昇圧処理が行われている。なお、電圧値Vdcは、電圧検出信号にローパスフィルターをかけて、高周波成分を取り除いた信号から算出された値である。図9は、割合er、電圧値Vdc、位相角angle_i、デューティ比duty_iの時間変化を示すグラフであり、横軸の単位は時間である。また、縦軸の単位はグラフの線が何であるかによって異なり、かつ、縦軸の目盛のスケールは、グラフの線が図9に収まるようにそれぞれ適宜のものが採用されている。縦軸の単位は、電圧値Vdcの場合は、(V)であり、その他は無次元である。
【0130】
昇圧処理開始直後の期間Iでは、割合erが所定値erl以上、かつ、割合erが最小値min_er以下であるので(ステップS111;YES)、デューティ比のPI制御(ステップS112)が行われている。そして、期間Iでは、デューティ比duty_iの初期値は0であるので、デューティ比duty_iは、最小値duty_minよりも低い。このため、期間Iでは、デューティ比duty_iが最小値duty_minの値まで急激に上昇している(期間I)。これにともなって、電圧値Vdcも上昇している。なお、電圧Vdcの上昇に応じて、電圧値Vdcと目標値Vtとの差の絶対値である割合erは下がる。
【0131】
期間Iの後の期間IIでは、割合erが所定値erl以上、かつ、割合erが最小値min_er以下であるので(ステップS111;YES)、デューティ比のPI制御(ステップS112)が行われている。そして、期間IIでは、デューティ比duty_iは、最小値duty_min以上、最大値duty_max以下の範囲で上昇している。これにともなって、電圧値Vdcも上昇している。なお、電圧Vdcの上昇に応じて、電圧値Vdcと目標値Vtとの差の絶対値である割合erは下がる。
【0132】
期間IIの後の期間IIIでは、割合erが最小値min_er以下であるが、割合erが所定値erl未満であるので(ステップS111;NO)、位相角angle_iのPI制御(ステップS113)が行われている。そして、期間IIIでは、位相角angle_iは、最小値angle_min以上、最大値angle_max以下の範囲で上昇している。これにともなって、電圧値Vdcも上昇している。なお、電圧Vdcの上昇に応じて、電圧値Vdcと目標値Vtとの差の絶対値である割合erは下がる。
【0133】
期間IIIの後の期間IVでは、割合erが所定値erl以上、かつ、割合erが最小値min_er以下であることのうちの少なくとも一方を満たさないので(ステップS111;NO)、位相角angle_iのPI制御(ステップS113)が行われているが、仮想的なangle_iが最大値angle_maxよりも大きくなっている。このため、位相角angle_iは固定されるが、再度デューティ比のPI制御(ステップS112)が行われている。上記のような処理によって、電圧Vdcのさらに上昇するが、それに応じて、電圧Vdcは、目標値Vtに近づき、割合erは、0に近づき、最終的には、電圧Vdcは、目標値Vt付近を上下し、割合erは、0付近を上下する。
【0134】
上記のような制御によれば、デューティ比duty_iを変化させて、時系列的に変化する昇圧後の電圧の電圧値を大きく変化させて、目標値Vtに素早くある程度まで近づけ、位相角angle_iを変化させて、昇圧後の電圧の電圧値を細かく変化させて昇圧後の電圧値を目標値に精度良く近づけることができる。このように、デューティ比duty_iと位相角angle_iとを強調制御することによって、昇圧後の電圧値を目標値に素早くかつ精度良く近づけることができる。
【0135】
さらに、上記のように、デューティ比duty_iの変動幅と位相角angle_iの変動幅とを制限することによって、時系列的に見て、昇圧後の電圧値が目標値Vtに一度近づいてから遠ざかることが防止されている。
【0136】
本実施形態では、上記のようにして、制御部150は、交流電圧を昇圧した昇圧電圧の電圧値(新たに昇圧されて得られる昇圧電圧の電圧値)が予め設定された目標値になるように、前記昇圧電圧の電圧値を取得し、取得した電圧値に基づいて、第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、交流電圧のゼロ交差時に対する、第1のオン状態の開始タイミング及び第2のオン状態の開始タイミングと、を協調して変化させるので、昇圧後の電圧値を目標値に素早くかつ精度良く近づけることができる。
【0137】
特に、本実施形態では、上記のようにして、制御部150は、昇圧電圧の電圧値と目標値との差の絶対値が所定値より大きい場合に、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間を変化させ、絶対値が所定値より小さい場合はタイミングを変化させるので、昇圧後の電圧値を目標値に素早くかつ精度良く近づけることができる。
【0138】
なお、昇圧装置100は、少なくとも、上記の制御を行う制御部150(制御内容は適宜変更可能である。)を備えればよく、インダクタLu等の各種インダクタを備えても良いし、各MERS110、120、130や、整流器140等を備えなくても良い。
【0139】
本実施形態では、交流電圧が三相交流電圧であったが、交流電圧はこれに限らず、例えば、単相の交流電圧であってもよい。交流電圧が単相である場合の構成を、図10に示す。なお、図10に示す構成の各要素で、上記実施形態に対応する要素については、同じ名称として同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。電源21Bは、発電機20Bのうち、発電と、発電によって発生する単相交流電圧の出力とを行う部分から構成される。インダクタLは、発電機20Bのインダクタンス成分を表すものであり、交流電源21Bに直列に接続されている。第1MERS110は、インダクタLに接続されている。第1MERS110は、第1のオン状態、第2のオン状態、オフ状態に切り替わることによって、インダクタLに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて、昇圧を行う。図10では、第1MERS110への入力電圧がUV交流電圧から交流電源21Bからの単相交流電圧になっているが、制御部150が行う制御は、UV交流電圧を単相交流電圧に置き換えた制御になるだけで、実質的には殆ど変わらないため、制御の詳細は、上記説明に準じたものになる。なお、図10では、エンコーダ90、エンジン10、回転数測定器70、ECU80等が省略されている。
【0140】
また、本実施形態では、双方向スイッチ部の一例として、フルブリッジ型のMERSを用いた場合について説明したが、双方向スイッチ部は、第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と、第2の方向に電流が流れる第2のオン状態と、オフの状態であるオフ状態とに切り替わるスイッチ部であればよい。なお、第1のオン状態とは、例えば、第1の方向のみに電流を流す導通状態であり、第2のオン状態とは、例えば、第1の方向とは反対側の第2の方向のみに電流を流す導通状態であり、オフ状態とは、例えば、双方向スイッチ部の全てのスイッチがオフになる等した非導通状態である。
【0141】
その他の双方向スイッチ部としては、例えば、図11に示すような縦型の所謂ハーフブリッジ型のMERS210がある。なお、図11に示す構成の各要素で、上記実施形態に対応する要素については、同じ名称として同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。MERS210は、第1のオン信号が供給される第1の逆導通型スイッチSW1と、第2のオン信号が供給される第2の逆導通型スイッチSW2と、キャパシタCM1と、キャパシタCM2と、ダイオードD5乃至D6と、を備える。キャパシタCM1と、ダイオードD5とは、直列に接続され、キャパシタCM2と、ダイオードD6とは、直列に接続される。第1の逆導通型スイッチSW1とキャパシタCM1とは、接続点DCPを介して接続され、第1の逆導通型スイッチSW2とキャパシタCM2とは、接続点DCNを介して接続されている。キャパシタCM1と第1の逆導通型スイッチSW1とは、交流接続端子AC1と交流接続端子AC2との間に直列に接続されている。キャパシタCM2と第2の逆導通型スイッチSW2とは、交流接続端子AC1と交流接続端子AC2との間に直列に接続されている。キャパシタCM1及び第1の逆導通型スイッチSW1と、キャパシタCM1及び第2の逆導通型スイッチSW2とは、交流接続端子AC1と交流接続端子AC2との間に並列に接続されている。第1の逆導通型スイッチSW1は、ダイオードD1のアノードが交流接続端子AC1に接続され、カソードがキャパシタCM1に接続される向きで接続されている。第2の逆導通型スイッチSW2は、ダイオードD2のカソードが交流接続端子AC1に接続され、アノードがキャパシタCM2に接続される向きで接続されている。
【0142】
また、本実施形態では、三つの双方向スイッチ部の一例として、各線間にフルブリッジ型のMERSを用いた場合について説明したが、3相フルブリッジ型のMERSを三つの双方向スイッチ部として用いても良い。
【0143】
また、双方向スイッチ部は、MERSからキャパシタを除いたものや、オンとオフとに切り替わることによって、電流の流れる方向を制御する複数のスイッチからなる既知のスイッチ部であってもよい。ただし、この場合は、別途スナバー回路があることが好ましい。
【0144】
また、上記の制御内容は、適宜変更可能である。例えば、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間と、第1のオン状態の期間の開始タイミング及び第2のオン状態の期間の開始タイミングと、を、それぞれ複数回交互に行うようにして、昇圧後の電圧値を目標電圧値に近づけるように変化させてもよい。
【0145】
さらに、例えば、最初に第1のオン状態の期間の開始タイミング及び第2のオン状態の期間の開始タイミングと、を調整してから、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間を調整してもよい。
【0146】
さらに、例えば、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間を、互いに異なる期間としてもよい。また、交流電圧の正から負のゼロ交差時から、第1のオン状態の期間の開始タイミングまでの期間と、交流電圧の負から正のゼロ交差時から第2のオン状態の期間の開始タイミングまでの期間とを互い異なる期間としてもよい。
【0147】
昇圧後の電圧値が制御部150にフィードバックされ、このフォードバックに基づいて、前記期間と前記タイミングとを強調してフィードバック制御することにより(本実施形態の制御はその一例である)、精度の良い制御が行われている。特に、フォードバックされた昇圧後の電圧値と、目標値との差に応じた制御を行ってうことにより(本実施形態の制御はその一例である)、精度の良い制御が行われている。
【0148】
なお、目標値と比較される電圧値(つまり、昇圧電圧の電圧値)は、上記では、平滑後の直流電圧の電圧値であったが、昇圧直後の電圧の電圧値(例えば、実効値)や、整流後平滑前の電圧の電圧値(例えば、所定期間の平均値)等であってもよい。
【0149】
なお、上記実施形態のように、第1のオン状態の期間の開始タイミング及び第2のオン状態の期間の開始タイミングの変動幅を制限し、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間の変動幅を制限することより、より適切な昇圧が行われるが、変動幅の制限の具体的手法は、上記方法には制限されない。
【0150】
また、上記実施形態のように、第1のオン状態の期間の開始タイミング及び第2のオン状態の期間の開始タイミングと、第1のオン状態の期間及び第2のオン状態の期間とのいずれかを行うかの判別として、電圧値と目標値との差の絶対値と、所定値と、の比較がされているが、電圧値と目標値との差が正の時は、この差と第1の所定値と比較し、電圧値と目標値との差が負の時は、この差と第2の所定値と比較し、前記の判別を行っても良い。上記実施形態では、昇圧電圧の電圧値と目標値との差の絶対値が所定値より大きい場合に、前記の期間を変化させ、前記絶対値が前記所定値より小さい場合は前記のタイミングを変化させるが、昇圧電圧の電圧値と目標値との差の絶対値が所定値より大きい場合や、絶対値が所定値より小さい場合とは、結果的にそうなる場合のことであり、具体的な比較方法は任意である。
【0151】
また、上記実施形態では、平滑キャパシタCsの電圧(平滑後の電圧)をフィードバックして制御されていたが、各部における電流値又は電圧値を制御部150にフィードバックしてもよい。この場合には、制御部150は、前記平滑後の電圧に代えて、フィードバックによって取得する電流値又は電圧値に基づいて、上記処理等を行う。電流値や電圧値の取得は、例えば、上記実施形態と同様に、前記各部に応じて配置された電流計や電圧計を用いて行われる。なお、昇圧後の電圧の電圧値又は昇圧後の電圧に応じて流れる電流の電圧値をフィードバックすることが好ましい。
【0152】
また、上記実施形態では、エンコーダ90によって交流電圧(双方向スイッチ部への入力交流電圧)の位相角(特にゼロ交差点)を検知していた。しかし、負荷電流や負荷電圧あるいは双方向スイッチ部への入力電流又は入力電圧から、前記入力交流電圧の位相角や周期を算出してもよい。つまり、前記の位相角の検知の方法は、適宜の方法で行うことができる。
【0153】
なお、上述のように、位相角による電圧の変化はデューティ比の変化に比べ、制御対象である電圧の変化が少なく、また、PI制御によってゲート信号のオン信号の立ち上がり位相角は適した角度に自動的に調整される。そのため、実際の位相角と算出された位相角とに差異があったとしても、システム全体に致命的な欠陥とはならない。
【0154】
また、インダクタLu等の各種インダクタは、発電機20に接続された外部のインダクタであってもよい。
【0155】
また、上記で説明した各種逆導通型スイッチSW1等は、ダイオードとスイッチング素子とを並列に組み合わせた複数の素子からなってもよいし、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の他の逆導通型半導体スイッチあってもよい。
【0156】
また、本発明は、車両の冷蔵・冷凍庫以外の他の用途にも適用できる。本発明に係る昇圧装置は、交流電圧を昇圧するものであれば、どのような用途にも使用できる。
【0157】
なお、本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態や変形例は、本発明の実施例を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0158】
21 三相交流電源
21B 交流電源
110 第1MERS
120 第2MERS
130 第3MERS
150 制御部
210 MERS
L、Lu、Lv、Lw インダクタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧を昇圧する昇圧装置であって、
第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と第2の方向に電流が流れる第2のオン状態とオフの状態であるオフ状態とに切り替わることで、インダクタに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて前記交流電圧を昇圧する双方向スイッチ部と、
前記交流電圧を昇圧するために、前記双方向スイッチ部の、前記第1のオン状態と前記第2のオン状態と前記オフ状態との切り替えを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記切り替えの制御において、前記交流電圧を昇圧した昇圧電圧の電圧値が予め設定された目標値になるように、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記交流電圧のゼロ交差時に対する、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる、
ことを特徴とする昇圧装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記昇圧電圧の電圧値と前記目標値との差の絶対値が所定値より大きい場合に、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間を変化させ、前記絶対値が前記所定値より小さい場合は前記タイミングを変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の昇圧装置。
【請求項3】
前記交流電圧は、三相交流電圧であり、
前記昇圧装置は、前記三相交流電圧の各相に応じた三つの前記双方向スイッチ部を備え、
前記制御部は、前記三つの双方向スイッチ部それぞれについて、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の昇圧装置。
【請求項4】
前記双方向スイッチ部は、磁気エネルギー回生スイッチである、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の昇圧装置。
【請求項5】
前記磁気エネルギー回生スイッチは、
第1と第2のキャパシタと、第1と第2の逆導通型スイッチと、第1と第2のダイオードと、交流電圧が入出力される第1接点及び第2接点と、を備え、
前記第1と前記第2の逆導通型スイッチは、それぞれ、第1及び第2の端子と制御端子とを備え、前記制御端子にオン信号が入力されると導通状態になって、前記第1の端子から前記第2の端子へ又は前記第2の端子から前記第1の端子への電流を流すことが可能な状態になり、オフ信号が入力されると前記第1の端子から前記第2の端子への電流を遮断し前記第2の端子から前記第1の端子への電流のみを流すことが可能になスイッチであり、
前記第1接点には、前記第1の逆導通型スイッチの前記第2の端子と前記第2の逆導通型スイッチの前記第1の端子とが接続され、前記第1の逆導通型スイッチの前記第1の端子には、前記第1のキャパシタの一端と前記第1のダイオードのカソードとが接続され、前記第2の逆導通型スイッチの前記第2の端子には、前記第2のキャパシタの一端と前記第2のダイオードのアノードとが接続され、前記第2接点には、前記第1のキャパシタの他端と前記第2のキャパシタの他端と、前記第1のダイオードのアノードと前記第2のダイオードのカソードを接続される、縦ハーフブリッジ型の磁気エネルギー回生スイッチであり、
前記制御部は、前記切り替えの制御において、
前記交流電圧を昇圧した昇圧電圧の電圧値が予め設定された目標値になるように、前記第2の逆導通型スイッチの前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記交流電圧のゼロ交差時に対する前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングとを変化させ、かつ、前記第1の逆導通型スイッチをオフ状態に保持する、あるいは、前記第1の逆導通型スイッチの前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記交流電圧のゼロ交差時に対する前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングとを変化させ、かつ、前記第2の逆導通型スイッチをオフ状態に保持する、
ことを特徴とする請求項4に記載の昇圧装置。
【請求項6】
前記磁気エネルギー回生スイッチは、
キャパシタと、第1乃至第4の逆導通型スイッチと、交流電圧が入出力される第1接点及び第2接点と、第3接点と、第4接点と、を備え、
前記第1乃至第4の逆導通型スイッチは、それぞれ、第1及び第2の端子と制御端子と、を備え、前記制御端子にオン信号が入力されると導通状態になって、前記第1の端子から前記第2の端子へ又は前記第2の端子から前記第1の端子への電流を流すことが可能な状態になり、オフ信号が入力されると前記第1の端子から前記第2の端子への電流を遮断し前記第2の端子から前記第1の端子への電流のみを流すことが可能なスイッチ部であり、
前記第1接点には、前記第1の逆導通型スイッチの前記第2の端子と前記第2の逆導通型スイッチの前記第1の端子とが接続され、前記第2接点には、前記第3の逆導通型スイッチの前記第2の端子と前記第4の逆導通型スイッチの前記第1の端子とが接続され、前記第3接点には、前記第1の逆導通型スイッチの前記第1の端子と前記キャパシタの一端と前記第3の逆導通型スイッチの前記第1の端子とが接続され、前記第4接点には、前記第2の逆導通型スイッチの前記第2の端子と前記キャパシタの他端と前記第4の逆導通型スイッチの前記第2の他端とが接続される、フルブリッジ型の磁気エネルギー回生スイッチであり、
前記制御部は、前記切り替えの制御において、
前記交流電圧を昇圧した昇圧電圧の電圧値が予め設定された目標値になるように、前記第2及び前記第3の逆導通型スイッチの前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記交流電圧のゼロ交差時に対する前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングとを変化させ、かつ、前記第1及び前記第4の逆導通型スイッチをオフ状態に保持する、あるいは、前記第1及び前記第4の逆導通型スイッチの前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記交流電圧のゼロ交差時に対する前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングとを変化させ、かつ、前記第2及び前記第3の逆導通型スイッチをオフ状態に保持する、
ことを特料とする請求項4に記載の昇圧装置。
【請求項7】
第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と第2の方向に電流が流れる第2のオン状態とオフの状態であるオフ状態とに切り替わる双方向スイッチ部を用いた交流電圧を昇圧する昇圧方法であって、
インダクタに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて前記交流電圧を昇圧するために、前記双方向スイッチ部の、前記第1のオン状態と前記第2のオン状態と前記オフ状態とを切り替える昇圧ステップを含み、
前記昇圧ステップでは、前記交流電圧を昇圧した昇圧後の電圧値が目標値になるように、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる、
ことを特徴とする昇圧方法。
【請求項8】
第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と第2の方向に電流が流れる第2のオン状態とオフの状態であるオフ状態とに切り替わる双方向スイッチ部を制御するコンピュータに、
インダクタに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて前記交流電圧を昇圧するために、前記双方向スイッチ部の、前記第1のオン状態と前記第2のオン状態と前記オフ状態とを切り替える昇圧ステップを行わせ、
前記昇圧ステップでは、前記交流電圧を昇圧した昇圧後の電圧値が目標値になるように、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる、
ことを特徴とするプログラム。
【請求項1】
交流電圧を昇圧する昇圧装置であって、
第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と第2の方向に電流が流れる第2のオン状態とオフの状態であるオフ状態とに切り替わることで、インダクタに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて前記交流電圧を昇圧する双方向スイッチ部と、
前記交流電圧を昇圧するために、前記双方向スイッチ部の、前記第1のオン状態と前記第2のオン状態と前記オフ状態との切り替えを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記切り替えの制御において、前記交流電圧を昇圧した昇圧電圧の電圧値が予め設定された目標値になるように、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記交流電圧のゼロ交差時に対する、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる、
ことを特徴とする昇圧装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記昇圧電圧の電圧値と前記目標値との差の絶対値が所定値より大きい場合に、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間を変化させ、前記絶対値が前記所定値より小さい場合は前記タイミングを変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の昇圧装置。
【請求項3】
前記交流電圧は、三相交流電圧であり、
前記昇圧装置は、前記三相交流電圧の各相に応じた三つの前記双方向スイッチ部を備え、
前記制御部は、前記三つの双方向スイッチ部それぞれについて、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の昇圧装置。
【請求項4】
前記双方向スイッチ部は、磁気エネルギー回生スイッチである、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の昇圧装置。
【請求項5】
前記磁気エネルギー回生スイッチは、
第1と第2のキャパシタと、第1と第2の逆導通型スイッチと、第1と第2のダイオードと、交流電圧が入出力される第1接点及び第2接点と、を備え、
前記第1と前記第2の逆導通型スイッチは、それぞれ、第1及び第2の端子と制御端子とを備え、前記制御端子にオン信号が入力されると導通状態になって、前記第1の端子から前記第2の端子へ又は前記第2の端子から前記第1の端子への電流を流すことが可能な状態になり、オフ信号が入力されると前記第1の端子から前記第2の端子への電流を遮断し前記第2の端子から前記第1の端子への電流のみを流すことが可能になスイッチであり、
前記第1接点には、前記第1の逆導通型スイッチの前記第2の端子と前記第2の逆導通型スイッチの前記第1の端子とが接続され、前記第1の逆導通型スイッチの前記第1の端子には、前記第1のキャパシタの一端と前記第1のダイオードのカソードとが接続され、前記第2の逆導通型スイッチの前記第2の端子には、前記第2のキャパシタの一端と前記第2のダイオードのアノードとが接続され、前記第2接点には、前記第1のキャパシタの他端と前記第2のキャパシタの他端と、前記第1のダイオードのアノードと前記第2のダイオードのカソードを接続される、縦ハーフブリッジ型の磁気エネルギー回生スイッチであり、
前記制御部は、前記切り替えの制御において、
前記交流電圧を昇圧した昇圧電圧の電圧値が予め設定された目標値になるように、前記第2の逆導通型スイッチの前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記交流電圧のゼロ交差時に対する前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングとを変化させ、かつ、前記第1の逆導通型スイッチをオフ状態に保持する、あるいは、前記第1の逆導通型スイッチの前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記交流電圧のゼロ交差時に対する前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングとを変化させ、かつ、前記第2の逆導通型スイッチをオフ状態に保持する、
ことを特徴とする請求項4に記載の昇圧装置。
【請求項6】
前記磁気エネルギー回生スイッチは、
キャパシタと、第1乃至第4の逆導通型スイッチと、交流電圧が入出力される第1接点及び第2接点と、第3接点と、第4接点と、を備え、
前記第1乃至第4の逆導通型スイッチは、それぞれ、第1及び第2の端子と制御端子と、を備え、前記制御端子にオン信号が入力されると導通状態になって、前記第1の端子から前記第2の端子へ又は前記第2の端子から前記第1の端子への電流を流すことが可能な状態になり、オフ信号が入力されると前記第1の端子から前記第2の端子への電流を遮断し前記第2の端子から前記第1の端子への電流のみを流すことが可能なスイッチ部であり、
前記第1接点には、前記第1の逆導通型スイッチの前記第2の端子と前記第2の逆導通型スイッチの前記第1の端子とが接続され、前記第2接点には、前記第3の逆導通型スイッチの前記第2の端子と前記第4の逆導通型スイッチの前記第1の端子とが接続され、前記第3接点には、前記第1の逆導通型スイッチの前記第1の端子と前記キャパシタの一端と前記第3の逆導通型スイッチの前記第1の端子とが接続され、前記第4接点には、前記第2の逆導通型スイッチの前記第2の端子と前記キャパシタの他端と前記第4の逆導通型スイッチの前記第2の他端とが接続される、フルブリッジ型の磁気エネルギー回生スイッチであり、
前記制御部は、前記切り替えの制御において、
前記交流電圧を昇圧した昇圧電圧の電圧値が予め設定された目標値になるように、前記第2及び前記第3の逆導通型スイッチの前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記交流電圧のゼロ交差時に対する前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングとを変化させ、かつ、前記第1及び前記第4の逆導通型スイッチをオフ状態に保持する、あるいは、前記第1及び前記第4の逆導通型スイッチの前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記交流電圧のゼロ交差時に対する前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングとを変化させ、かつ、前記第2及び前記第3の逆導通型スイッチをオフ状態に保持する、
ことを特料とする請求項4に記載の昇圧装置。
【請求項7】
第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と第2の方向に電流が流れる第2のオン状態とオフの状態であるオフ状態とに切り替わる双方向スイッチ部を用いた交流電圧を昇圧する昇圧方法であって、
インダクタに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて前記交流電圧を昇圧するために、前記双方向スイッチ部の、前記第1のオン状態と前記第2のオン状態と前記オフ状態とを切り替える昇圧ステップを含み、
前記昇圧ステップでは、前記交流電圧を昇圧した昇圧後の電圧値が目標値になるように、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる、
ことを特徴とする昇圧方法。
【請求項8】
第1の方向に電流が流れる第1のオン状態と第2の方向に電流が流れる第2のオン状態とオフの状態であるオフ状態とに切り替わる双方向スイッチ部を制御するコンピュータに、
インダクタに磁気エネルギーを蓄積及び放出させて前記交流電圧を昇圧するために、前記双方向スイッチ部の、前記第1のオン状態と前記第2のオン状態と前記オフ状態とを切り替える昇圧ステップを行わせ、
前記昇圧ステップでは、前記交流電圧を昇圧した昇圧後の電圧値が目標値になるように、前記第1のオン状態の期間及び前記第2のオン状態の期間と、前記第1のオン状態の開始タイミング及び前記第2のオン状態の開始タイミングと、を変化させる、
ことを特徴とするプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−235635(P2012−235635A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103302(P2011−103302)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(507149648)株式会社MERSTech (22)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(507149648)株式会社MERSTech (22)
【Fターム(参考)】
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