説明

曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置

【課題】オイルフェンスの敷設が不要であり、また油回収率の向上を図ることができる曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置を提供する。
【解決手段】油回収機10が、複数の油水流入口12が周方向に間隔をおいて設けられた円胴部13を有する油水分離室11と、油水分離室11に通じる排水管31を備えた強制排水装置30と、油水分離室11の頂部近くに開口する吸油口42を有し、油水分離室11外まで延びる吸油管41とを備えている。集油フロート45が、全体としてほぼU字形をしており、前方に向かって開口する油水流入路57を有するとともに、油水流入路57に続いて油水分離室11との間に油水流入口12に通じる油水導入路58を形成している。集油フロート45は、油回収機10の保持および集油機能を果たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は油回収装置、特に海、湖沼、河川などにおいて船で油回収装置を曳航し、油水から油を分離して回収する曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の油回収装置は、油回収効率を高めるためにオイルフェンスで油を集め、油の濃度を高めて油を回収していた(例えば、特許文献1参照)。このために、油回収場所にあらかじめオイルフェンスを敷設する必要があり、オイルフェンスの運搬、敷設作業などに多くの費用と時間を要していた。また、オイルフェンスの下部から逃げ出す油のために油回収率が低下するという問題もあった。
【特許文献1】特開2002−274486公報、(段落[0021])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は上記問題を解決するものであって、オイルフェンスの敷設が不要であり、また油回収率の向上を図ることができる曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明の曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置は、油水から油を分離して回収する油回収機、および油回収機を保持する集油フロートを備えた曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置であって、前記油回収機が、周方向に間隔をおいて設けられた複数の油水流入口を有する円筒状の油水分離室と、油水分離室に通じる排水管を備えた強制排水装置と、前記油水分離室の頂上部近くに開口する吸油口を有し、油水分離室外まで延びる吸油管とを備え、前記集油フロートが、全体としてほぼU字形をしており、前方に向かって開口する油水流入路を有するとともに、油水流入路に続いて前記油水分離室との間に前記油水流入口に通じる油水導入路を形成していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
この発明の油回収装置では、集油フロートが油回収機の保持と集油機能とを兼ね備えている。したがって、オイルフェンスの敷設が不要となるので、油回収作業時間が短縮され、回収作業自体も簡単となる。また、集油フロートで油水を取り込み、集油フロート内に保持された油回収機の油水分離室に導くので、油回収率を高めることができる。例えば、従来のオイルフェンスを用い油回収装置の油回収率は20%であったが、この発明の油回収装置では40%に向上した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1〜図4は、この発明の実施の一形態を示すもので、図1は曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置(以下、「油回収装置」という)の主要部を模式的に示す斜視図である。図2は図1に示す装置の平面図である。図3は図1に示す主要部を含む装置全体の縦断面図であり、図4はその平面図である。なお、この実施の形態では、油回収装置を搭載する曳航船は双胴船である。
【0007】
油回収装置1は、主として油回収機10、集油フロート45および油回収機保持装置70からなっている。
【0008】
油回収機10は油水分離室11を備えており、油水分離室11は円胴部13の上端に蓋14が取り付けられている。円胴部13の上部と蓋14の内部とが、油溜り16となる。円胴部13は、下端寄りに周方向に120°の間隔をおいた3箇所に、油水流入口12が設けられている。図3に示すように、油回収中、油水流入口12は水面下にあって潜り堰となっている。円胴部13の下端には、環状の分離室底板18が取り付けられている。
【0009】
分離室底板18を貫通する円筒状の内筒20が、油水分離室11の円胴部13と同心に設けられている。円胴部13の内周面と内筒20の外周面との間は環状流路21となっており、内筒20の内側は排水流路22となっている。
【0010】
円胴部13と同心にかつ円胴部13の外側に、蛇腹24が分離室底板18に固定されている。分離室底板18は、前記内筒20の外周面と蛇腹24との間を塞いでいる。蛇腹24の頂部に環状の流入堰25が取り付けられている。円胴部13と蛇腹24、流入堰25との間は、油水流入室26となっている。
【0011】
導水フロート27が、流入堰25に取り付けられている。導水フロート27は環状本体28を有し、環状本体28の上面から上方に突出し周方向に間隔をおいて設けられた3つの突出部29a、29b、29cを備えている。第1突出部29aの中心は集油フロート45の油水流入路57の中心線上にあり、第2突出部29bおよび第3突出部29cは、第1突出部29aから周方向左右に120度の間隔を置いて配置されている。突出部29の上端は流入堰25の上端より高くなっており、隣り合う突出部29の間から油水が前記油水流入室26内に流れ込む。
【0012】
第1突出部29aの先端部に隣接して、導水板85が架台80に固定されている。導水板85は、2枚の板が油水流入路57の入口に向かって狭まるように組み合わされて構成されている。導水板85は、油水流入路57に流入した油水流を整流し、前記油水分離室11の油水流入口12に油水が流入しやすくする。
【0013】
強制排水装置30は、前記内筒20の底部に設けられた環状の内筒底板23の下面に排水管31が、また上面にモータ架台33がそれぞれ固定されている。モータ架台33には排水翼駆動モータ34が取り付けられている。排水翼駆動モータ34の出力軸35に排水翼軸37が連結されている。排水翼軸37の先端部は排水管31の出口まで延びており、支持部材32に支持されている。排水翼軸37の下端寄りに、排水翼38が取り付けられている。
【0014】
油水分離室11には、吸油管41が取り付けられている。吸油管41は油水分離室11の頂部近くから油水分離室11内を通り、油水分離室11の外まで延びている。吸油管41の上端部は油水分離室11の頂部近くで開口しており、漏斗状の吸油口42となっている。吸油管41の出口は、油移送管を介して曳航船上の吸油ポンプ(いずれも図示しない)に接続されている。
【0015】
蓋14の頂部に吸気管43が取り付けられている。吸気管43には、空気吸引ポンプまたはエジェクター(図示しない)が取り付けられている。
【0016】
集油フロート45は、フロート本体46とフロート保持枠60とからなっている。フロート本体46は、相対する左、右のフロートサイド部47a、47bと半円弧状のフロート後部54とから構成されており、全体としてほぼU字形をしている。左右のフロートサイド部47a、47bの前面50の先端から油水流出防止板51が前方に延びており、フロート前面50と油水流出防止板51とで油水流入路57を形成している。油水流入路57はフロート入口から奥に向かうに従って狭まっている。油水流入路57の後方に続く部分は、油水分離室11と左、右のフロートサイド部47a、47bおよびフロート後部54とで形成された油水導入路58となっている。油水導入路58では、左、右のフロートサイド部47a、47bの間隔は後方に向かって広がっている。したがって、油水流入路と油水導入路との境界およびその近傍で、左、右のフロートサイド部47a、47bはそれぞれ内側に向かってV字状に突出した形状となっており、この突出部分は絞り部49a、49bを形成している。この絞り部49a、49bを設けることで、集油効率および集油フロート内側の波立ちを抑えることにより油の回収効率を高めることができる。
【0017】
集油フロート45は、線面積/全重量比を大きくすることにより、航走抵抗および波に対する追従性を良くすることができる。
【0018】
フロート本体46は、フロート保持枠60に取り付けられている。図3および図4に示すように、フロート保持枠60は垂直枠61F、61Rがフロート前部および後部にそれぞれ配置されている。各垂直枠61F、61Rは、上下の水平部材62U、62Lおよび前後の垂直部材63F、63Rからなっている。前部の垂直部材63Fは、左、右フロートサイド部47a、47bの縦溝48内をそれぞれ通っている。図4に示すように各水平部材62U、62Lの両端部にコ字形の案内金具65が固定されている。案内金具65の内面に、シュー66が取り付けられている。
【0019】
フロート本体46上面より上方に突出する越波防止壁86、および下面より下方に突出するスカート87が、それぞれフロート後部54の内周に沿って取り付けられている。越波防止壁86は、高波で油水が集油フロート45を越えて流出するのを防ぐ。スカート87は柔軟な材料、例えばビニールシートなどで作られており、集油フロート45の下方から流出する油水を防ぐ。これらにより、集油フロート45内に集積した油を長時間保持することができ、集油効果が向上する。
【0020】
油回収機保持装置70は、油回収機昇降枠71を備えている。油回収機昇降枠71は、縦部材73と横部材74とからなる上下の水平枠72U、72Lの四隅を垂直部材75で連結して構成されている。上下の水平枠72U、72Lの垂直部材75に沿って、油回収機摺動レール76が固定されている。各垂直部材75の上端寄りに案内金具78が固定されている。案内金具78の内面に、シュー79が設けられている。
【0021】
集油フロート45は、水位または油水分離室11の油水量の変化に応じて、油回収機昇降枠71に対し上下動する。このとき、フロート保持枠60の前記案内金具65のシュー66が前記油回収機摺動レール76面を摺動し、集油フロート45が上下動する。
【0022】
架台80が、下側の前後の水平部材62Lに取り付けられている。架台80は、集油フロート45内で油回収機10を支持している。油回収機10が支持された状態で、油水分離室11の外周面と集油フロート45の内周面との間が、油水導入路58となっている。油回収機10は、図2に示すように油水分離室11の中心Osがフロート後部54の半円弧中心Ofよりやや後方寄りに位置している。これにより、油水導入路58に進入した多くの油水が、油水分離室11とフロート後部54との間に回り込むことができる。
【0023】
曳航船3の舷側4には、垂直方向に延びる油回収機昇降レール83が設けられている。油回収機昇降レール83はコ字形をしており、下端にストッパ84が固定されている。前記油回収機昇降枠71の垂直部材75に設けられた案内金具78のシュー79が油回収機昇降レール83のコ字形内面を摺動し案内されて、油回収機昇降枠71が昇降する。
【0024】
上記のように構成された油回収装置の作用について説明する。油回収装置1は、曳航船3により油が浮遊する油回収場所に運ばれ、油回収機昇降枠71の垂直部材75上端に連結されたワイヤ82を巻き戻して水面に降ろされる。
【0025】
油回収装置1を水面に降ろした状態では油水分離室11内の上部は空気が充満しており、導水フロート28は浮上し、蛇腹24は伸びている。ここで、空気吸引ポンプ(図示しない)を駆動して油水分離室11内の空気を吸引し、油水分離室11内の空気を吸気管43から除去する。この結果、油水分離室11内の水位が上昇し、油水分離室11は沈み、導水フロート28が浮上して蛇腹24が更に伸びる。ついで、排水翼駆動モータ34を駆動して油水分離室11内の水を排出する。この排水により油水流入室26の水位が低下し、導水フロート27が下がり、同時に流入堰25が下がるので、流入堰25を越えて油水が油水流入室26に流入する。油水は油水流入室26から油水流入口12を経て油水分離室11内に流入する。
【0026】
油水が油水分離室11内に流入した状態で、油回収装置1は曳航船で油回収場所内を曳航される。油回収装置1の曳航により、油水が集油フロート45の油水流入路57から油水導入路58に進入する。一部の油水は左右両側の油水流入口12から油水分離室11内に流入し、残りの油水は集油フロート45の後部に回り込み、後部の油水流入口12から油水分離室11内に流入する。
【0027】
前記油水流入口12から油水分離室11に流入した油水は、環状流路21から内筒20を越えて排水流路22を流れる間に、比重差により油が水から分離される。分離された油は油水分離室11内を浮上して油水分離室11の上部および蓋14内に集まり、吸油管41から排出される。水は、強制排水装置30により内筒20から排水管31を経て排出される。
【0028】
この発明は、上記形態に限られるものではない。蛇腹24を、油水流入室26への油水の直接流入を防ぐ周壁としてもよい。この場合、流入堰25および導水フロート27は、油水分離室11と一体となって上下する。また、内筒20を省略してもよい。この場合、強制排水装置30は、分離室底板18に取り付けられる。集油フロート45の水平断面の形状は、図1または図2に示すものに限られるものではない。例えば、V型(図5a参照)、多角形型(図5b参照)、J型(図5c参照)であってもよい。J型の場合、油回収装置1は曳航船の片側の舷側に取り付けられる。導水フロート27の突出部29は、3つに限らず装置の大きさにより2つあるいは4つ以上であってもよい。絞り部49(図5b参照)、導水板85、越波防止壁86またはスカート87は省略してもよい。また、図2に想像線で示すように、油回収機本体10の前方で、油水流入路57内にトリム調整フロート88を設けてもよい。トリム調整フロート88は、前記架台80から延びるアーム(図示しない)に上下位置が調整可能に取り付けられる。トリム調整フロート88の上下位置を調整して、集油フロート45の前後の傾きを調整する。また、曳航船から繰り出された曳航索(図示しない)の後端部を左、右フロートサイド部47a、47bの先端部につなぎ、油回収装置1を曳航索で曳航するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の形態を示すもので、油回収装置の主要部の模式的斜視図である。
【図2】図1に示す油回収装置主要部の平面図である。
【図3】この発明の形態を示すもので、図1に示す主要部を備えた油回収装置の縦断面である。
【図4】図3に示す油回収装置の平面図である。
【図5】集油フロートの他の態様を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 油回収装置 3 曳航船
10 油回収機 11 油水分離室
12 油水流入口 13 円胴部
14 蓋 16 油溜り
18 分離室底板 20 内筒
21 環状流路 22 排水流路
23 内筒底板 24 蛇腹
25 流入堰 26 油水流入室
27 導水フロート 29 導水フロートの突出部
30 強制排水装置 31 排水管
34 排水翼駆動モータ 38 排水翼
41 吸油管 42 吸油口
45 集油フロート 46 フロート本体
47 集油フロートサイド部 49 絞り部
54 集油フロート後部 57 油水流入路
58 油水導入路 60 フロート保持枠
61 垂直枠 65 案内金具
66 シュー 70 油回収機保持装置
71 油回収機昇降枠 72 水平枠
75 垂直部材 76 油回収機摺動レール
78 案内金具 79 シュー
80 架台 82 ワイヤ
83 油回収機昇降レール 85 導水板
86 越波防止壁 87 スカート
88 トリム調整フロート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油水から油を分離して回収する油回収機、および油回収機を保持する集油フロートを備えた曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置であって、
前記油回収機が、複数の油水流入口が周方向に間隔をおいて設けられた円胴部を有する油水分離室と、油水分離室に通じる排水管を備えた強制排水装置と、前記油水分離室の頂部近くに開口する吸油口を有し、油水分離室外まで延びる吸油管とを備え、
前記集油フロートが、全体としてほぼU字形をしており、前方に向かって開口する油水流入路を有するとともに、油水流入路に続いて前記油水分離室との間に前記油水流入口に通じる油水導入路を形成していることを特徴とする曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置。
【請求項2】
前記集油フロートの前部が相対する一対のフロートサイド部からなり、これら各フロートサイド部の、前記油水流入路と油水導入路との境界およびその近傍が内側に突出して絞り部が形成された請求項1記載の曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置。
【請求項3】
前記油回収機が、前記油水分離室と同心に油水分離室の外側に設けられた蛇腹と、蛇腹に取り付けられており、前記油水分離室に対し相対的に昇降可能な環状の流入堰と、前記油水分離室と蛇腹および流入堰との間に形成された油水流入室と、環状本体の上面から上方に突出し周方向に間隔をおいて設けられた複数の突出部を有し、前記流入堰に取り付けられた導入フロートとを備えた請求項1または請求項2記載の曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置。
【請求項4】
前記油回収機が、前記油水分離室内にこれと同心に設けられた内筒を有し、油水分離室内周面と内筒外周面との間に環状流路が形成されるとともに、内筒内が前記配水管に通じる排水流路となった請求項1記載の曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置。
【請求項5】
油回収装置曳航船に昇降可能に取り付けられた油回収機昇降枠を備え、前記集油フロートが油回収機昇降枠に昇降可能に取り付けられた請求項1〜4のいずれか1項に記載の曳航集油フロート搭載型油分濃縮式油回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−25309(P2008−25309A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202239(P2006−202239)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(301010607)国土交通省近畿地方整備局長 (7)
【出願人】(595073649)社団法人日本作業船協会 (6)
【出願人】(000236610)株式会社不動テトラ (136)
【Fターム(参考)】